●β 「かの発明王エジソンの前に無理難題とも思える困難が横たわらなかっただろうか?」 「……」 物事は何事も段階を経て進んでいくものである。 果て無き帝国の始まりも、人類史に赫々とした成果を残す文化の隆盛も。 複雑極まりない未知と構造の解明も、伏魔殿の如き此の世の暗部も、その解体も。 困難な問題の解決とはほぼ例外なく何らかのプロセスを踏み、多数の試行と錯誤の先にその未来を見出すべきものである。 「かのライト兄弟に大空を舞わせたのは飽くなき情熱と、才能と、時―― ――そう、全てを与えた運命では無かっただろうか」 「……………」 アーク本部下層、人間サイズのカプセル機体の並ぶラボで四十半ばも過ぎたおっさんと向かい合う。 まだしも白衣の美人等出てくるのならば救いもあろうが、そんなもの最初から求められる筈も無い。 リベリスタは如何にもやれやれといった調子で溜息を吐き、何度目か知らない熱弁をぶつ『研究開発室長』真白智親(ID:nBNE000501)の顔を見た。 「で?」 「……と、いう訳だ」 「どういう訳だ」 リベリスタの切り返しは早い。同じ室長の肩書きを持つ『戦略司令室長』時村沙織(ID:nBNE000500)に比べれば、この男は婉曲な言い回しを多用する方では無い。どちらかと言えば質実剛健に用件をずばずばと告げてくる彼がどうにも要領を得ない前置きから話を始める時点でリベリスタが一種の警戒感を抱くのは当然の結果であるとも言えた。 そもそも人付き合いのいい加減な不精でラボを根城にしている智親が直接リベリスタを呼び出す事自体がレア・ケースである。 「今日はいい天気だな」 「で、何の用なんだよ」 「いやね、まぁ、何だ。そうだ、コーヒーでも呑まねぇか?」 「要らねぇよ。……てか何日前のコーヒーだ、その呑みかけは」 「……」 「……………」 交錯する視線が何とも言えない緊張感を孕んでいた。 四十半ばも過ぎたおっさんと見つめ以下略ではあるが、目を逸らしたら負けという気もしないでも無い。 「……あー、こほん。あめんぼあかいなあいうえお」 そして長いのか短いのか何とも言えない奇妙な時間が過ぎた後、智親は降参とばかりに目を逸らし、小さく肩を竦めて漸く用件を切り出してきた。 「今回、お前達を呼びつけたのは俺の研究に協力して貰う為だ」 「協力……?」 いい加減な変人という人物評価が大体正しく当て嵌まる真白智親ではあるが、そのキャラクターと俄かには一致しない天才性は相当のものである。 沙織に『神の目』と言わしめたカレイド・システムと最も効率的に組み上げられたアクセス・ファンタズムを見ればその能力には疑う余地がまるで無い。 その天才が専門科学にも何にも精通していない唯のリベリスタに協力を、とは…… 「……何に使う気だ、お前」 リベリスタは早晩『その』可能性に思い当たり、智親に幾らかの疑いを乗せた視線を向けた。 虹彩認証のクリアを示す電子音が立ち、入り口の自動ドアが開いたのは、智親が尚も何かを言おうとしたその時だった。 「……おお、援軍到着だ。待ち侘びたぜ、沙織!」 「都合のいい時だけアテにするんじゃねぇよ」 何時に無く愛想のいい智親に沙織はすげなく苦笑を返した。 「集まってるな、お前等」 「……で、何の用なんだ」 いい加減うんざりした感のあるリベリスタが疲れた顔で聞き返すと沙織は一層苦笑の色を深めて「まあまあ」と宥める調子で言葉を続けた。 「お前達にはこのアーク研究開発室が開発を進めている『VTS』の試用に付き合って貰いたい」 「VTS?」 そう言えば何日か前にこの智親がそんな単語を出していた気がする。 彼の発言はその時のリベリスタからすれば――『良く分からない要求』でしか無かったのだが。 「ヴァーチャル・トレーニング・システム。 つまり、お前達リベリスタの能力をシステムで数値化し、仮想空間に投影する事を目的とした装置だ。 コイツが実用化されればアークの戦力を底上げするサポートツールとしての貢献が見込めるだろうな」 「……良い事じゃないか?」 「ああ、良い事だ。少なくとも訓練方面、戦闘力のシミュレータとしては一定の役に立つだろう。 ま、色々と問題は多い。開発はこれからといった所だがね」 ようやく要領を得た説明――沙織の言葉に頷いたリベリスタは僅かに首を傾げた。 「何であんなに歯切れが悪いんだ」 「――試用は試用だからって所かな」 「今度はお前達か」 場に現れたのは訳知り顔の三人目、四人目である。 入り口付近の壁に寄りかかるようにして言葉を発したのは『駆ける黒猫』将門伸暁(ID:nBNE000006)、その彼の足元で何時ものうさぎを抱いている『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はじーっとリベリスタの顔を見つめていた。 「VTSの稼動は今回が初めてなのさ。ま、『アーク自慢の天才』の仕事だから? 『多分大丈夫』だと思うがね。『恐らく』、『きっと』、『お前達なら』」 伸暁の言葉は何処かからかうような色を覗かせていた。 確かに初めての実験と聞くと何処か胡散臭いイメージになるのは当然である。 付け加えて嘘の上手くなさそうな智親がああいう態度を取ったお陰でその不安感は倍増に煽られている。 「道無き道さえ突き進む正義の味方。ロックだね」 「……そもそも、そのVTSで何をするんだ?」 「……プロト・アークの再現……」 短い言葉で答えたのはイヴの方だった。 「VTSの稼動実験はアークに新しく集まったリベリスタ達の戦闘力の把握と訓練を兼ねる事になったの。 みんなにはプロト・アーク……つまり、みんなが合流する前のアークね。梅子とか鉄平とかオルクス・パラストとかが解決した事件を『もう一度解決して貰う』事になる。 つまり、これが訓練ね。実際、本番と変わらない実戦経験が積めるはず。智親は変だけど結構すごい」 「成る程」 幼女の説明が一番明瞭だというのはどうなのか―― そんな感想を胸の中だけに仕舞い、リベリスタは頷いた。 システムの仕組みは全くもって不明、まさに現代のオーパーツとも言える代物ではあるが、アークに居るとそれは慣れる。 未だ完成していないVTSの試用には若干の不安があるのも確かだろうが、大きな問題があるならば他の三人は兎も角このイヴはこういう説明をしないだろう、とも読めた。 「……?」 幼女マジエンジェル。 そんなエンジェルはリベリスタの視線に少しだけ首を傾いで説明を続けた。 「今回の試用でみんなは過去の私や伸暁から『依頼』を受ける事になる。 出来事は過去の追体験だけど、この先に起きる事件そのものでもある――」 アークの目的は日本のリベリスタ勢力を復権させ、外国の世話にならない防衛網を構築する事にある。 状況は徐々に進展し、そろそろ大詰めを迎えようとしている。より実戦に近付いた今回の提案はまさに迫った『その時』を予告しているのだろう。 「――勿論、参加するかしないかは自分で決めていい。出来れば協力して貰いたいけど……」 イヴはちらりと父の方に視線を投げて言葉を継いだ。 「智親が胡散臭いのは良く分かる。だから、参加するかどうかは自分で決めて」 リベリスタの視界の隅に微妙な顔をした智親が引っ掛かる。 フォローに期待した娘は事のほかすげなく、父親の悲哀は言うに及ばない部分であった。 「やれやれ……」 リベリスタは小さな溜息を吐く。 確かにこれから来る任務に向けて今回の訓練は助けになるかも知れないが、はてさて―― ●参加者向け情報● βシナリオは通常のシナリオコンテンツのプレイと同じように『オープニング』が用意され、『最大600字のプレイング』をかける事で参加する事が可能です。 所定の募集期間の後、プレイングは各ストーリーテラーに送付され、各ストーリーテラーはそのプレイングに従って『リプレイ』を作成します。 今回のβシナリオは概ね通常のシナリオコンテンツのプレイと同じとなりますが、一部にβシナリオ特有のルールがあります。 βシナリオのルールを下にまとめますのでご参加の前に一読をお願いします。
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