●忍び寄る白い影 とある日本海側の都市ではこの時期、毎年のように大雪が降りつづけている。 しかし今年はそれだけではなかった。夜に雪山に入っていった人が次々に姿を消していたのだ。 多くは地元の人間で、遭難にしては少し奇妙である。 失踪した子どもを探していた父親は、気がつくと周りがすっかり暗くなっていることに気がついた。 時間を忘れて探し回っていたようだ。 「なんだ、これは」 森の中に広がる空間に、雪だるまが輪のように並べられていた。 子ども達がこんな所まで来て遊ぶのだろうか。 父親は雪だるまの数を数えた。結構な数がある。 「いや、待て。これは、失踪した人数と一緒だ。一体どういう……」 その時、背後に大きな白い影が近付いて来ていることに彼は気づかなかった……。 ●アーク本部 「雪の精霊、と聞いてどんなイメージを浮かべる?」 アーク本部に呼び出された面々は、真白イヴが最初に発した言葉に戸惑った。 「え…? 雪女とか、きれいな女性のイメージかな?」 「そう…残念ながら今回の敵は少し違ったイメージね。ずばり『雪だるま』」 少しどころか、だいぶ違うようだが。 「今回の敵は巨大な雪だるまの姿をしたエリューションエレメント。フェーズは2。雪山に迷い込んだ人々を凍らせて雪だるまにしているの」 姿は滑稽だが恐ろしい敵のようだ。 「凍ってしまったら、死んでしまうのでは…?」 「それは今のところ大丈夫。雪だるまは凍らせた人たちを保存食にしているらしくて、倒せば元通りになるはず」 ならば、一刻も早く救出に行かなければならない。 「まって、いま敵の説明をするから」 イヴは端末を操作して画面にエリューションエレメントの情報を映した。 「基本の大きさはだいたい人の2倍くらい。攻撃方法は転がって突進と吹雪を発生させて攻撃してくる。吹雪は当たると稀に凍ってしまうことがあるから注意が必要ね……」 「『基本の大きさ』とはどういう事だ?」 イヴの言葉には、引っかかるところがあった。 「ああ、大事なことを忘れていた。雪だるまは雪原で転がるとすこしずつ大きくなるの。そのぶん攻撃の威力も上がるから、気をつけてね」 どうやら意外と厄介な敵のようである。あまり時間をとられていると、危険かもしれない。 「森の外の道路まで来れば雪はないから、そこまで雪だるまをおびき寄せたほうがいいかもしれない」 たしかにそうすれば、雪だるまが大きくなる心配はない。 「エリューションを倒せば、捕まった人々も助かる……だからお願い、必ずみんなを助けて」 画面を冷静に説明していたイヴだが、そのとき皆を見て助けを求める表情は歳相応の少女のものにも思えた。 「ああ、もちろん」 リベリスタたちが頷くのを見たイヴは、少しだけ嬉しそうにしていた。 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:青猫格子 | ||||||||||||||||||
■難易度:NORMAL | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
●雪山入り口 人里離れた雪山。視界はほとんど白といってよい。 その白い世界が夕日に照らされて、幻想的な風景を作り上げていた。山の生物は皆眠っているのだろうか、ひたすら静かな世界であった。 「うおお~、寒い! 寒いぜっ! ほんとに寒い」 その静寂を打ち砕いたのは『愛娘の騎士になりたい・・・』黒川 智(BNE000108)。 彼ほど騒ぎ立てることはなかったが、一緒に来ていた『甘くて苦い毒林檎』エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)も同じ気分であった。 「ほんとに、リアルな雪山……」 風に乱れる髪を掻き揚げながら、辺りを見回す。 彼らは今、雪山の入り口に立っていた。目の前には白い森が広がっている。そして後方には人里と山とを隔てる道路が通っていた。 「そうだ、彼様に雪山は危険な場所なのだ。さらにエリューションなどがいるならなおさらだ。一刻も早く排除しなければならない」 冬山登山用装備で身を固めていた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は寒そうにしていたエレーナと『銀風』セフィリア・ロスヴァイセ(BNE001535)に魔法瓶で持ってきていた熱湯を差し出した。 「ありがとうございます」 セフィリアはウラジミールから湯気の立つコップを受け取り、微笑んだ。寒い雪山で暖かい湯が身にしみる。 「……さて、いつまでも寒がっているわけにはいかない」 『永久なる咎人』カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)が立ち上がった。こうしている間にも、時間は進み、木々の影が長くなっていた。 「目的の雪だるまを探さないといけない」 「そうだ!」 エレーナの言葉に、『難攻不落の四月馬鹿』エイプリル・フール(BNE001676)がうなずいた。そして鞄から何かを取り出して皆に渡す。 「このあたりの地図を用意してきた。これを参考に探そう」 「ありがたいが、エイプリルさんの分がないようじゃが……」 『若年寄』草薙 健一郎(BNE001695)がたずねる。 「私は方向音痴だから、皆に任せた!」 「はあ……」 健一郎がなんだか納得のいかないような顔をしていると、『護人見習い』佳倉守 祥司(BNE001263)が切り出した。 「まあ、誰にでも得手不得手はあるものですからね。それでは雪だるまを探しに行きましょう」 「なるべく皆で離ればなれにならないように、一緒に行動しないとな」 カインの言うとおりだった。これから次第に暗くなり、森での単独行動は危険である。 皆はなるべく互いを見失わないように気をつけながら、森へ踏み入れていくのだった。 ●雪だるまの森 森の中は相変わらず静かで、健一郎達のスパイクシューズがザクザクと雪を踏みしだく音が響くばかりである。 健一郎、ウラジミール、智、祥司達の後ろをセフィリア、エレーナ、カインらが付いていく。最高尾はエイプリルだった。 「すごい雪」 小柄なカインは付いていくのに精一杯の様子だ。 「埋もれるんじゃないぞ、カイン殿」 後方のエイプリルが声をかける。 「わ、わかってるよ、もう……」 カインは不服そうに答えるが、振り向かない。その間に前の集団に置いていかれないように注意し続けていたからだ。 「あれ……もしかして、ゆきだま?」 エレーナが前方にある木の根元を指した。 「いや、あれは岩に雪が積もっているだけのようじゃ」 健一郎が慎重に確認してから答える。 「それより、向こうが怪しいぞ」 ウラジミールが別方向を指し示した。その先で森の木々が途絶え、雪の積もった土地が広がっていた。 「みなさん、あちらへ行ってみましょう」 祥司が呼びかける。 森を抜けると、すっかり日は落ちて暗くなっていることに皆は気がついた。空には月が昇っている。 「見てください、雪だるまが! あっちにも!」 セフィリアが辺りを見回して声を上げた。 広場を囲むように、大人より少し大きいくらいの雪だるまが立ち並んでいた。 「こいつらは、エリューションエレメントに捕まった人達か」 智は雪だるまの一つに近づいてさわってみるが、氷のように硬くて中に人がいるかどうかはわからなかった。 「うーん、壊したら中の人も無事ですまなさそうだな……」 「なるほど。やっぱり親玉を倒さないと、だめってこと」 カインがブロードソードを構える。その剣の先は彼らが通ってきた森のちょうど反対側であり、さらに鬱蒼とした木々に覆われた森だった。 ずしり……ずしり…… 「なに、この音?」 セフィリアが身構えた。カインの視線の先の森から、何かが近づいて来ていることは皆わかった。 「ここはやっぱりあれしか考えられないだろう、あれ」 智がガンレットを見せるように拳を構える。体内の機械が敵を察知してざわめいているようだった。 「……もうすぐ、くる」 エレーナの言葉の直後、森の奥から大きな影が飛び出してきた。 ●森の中の戦い それは広場に並ぶものよりさらに大きな雪だるまであった。 姿形は何の変哲もない雪だるまである。大きな玉が二つくっついた身体をしており、顔に当たる部分に黒い石で簡易な眉、目、口が描かれている。 しかし「それ」は我々の知っている雪だるまでないことは明らかだった。なぜならものすごい勢いで転がって、ウラジミール達に突進してきたからである。 「真正面から来たな! だがこのオレが止めてやる!」 智はそういって突進してくる雪だるまの前に立ちはだかった。 「くらえええっ!!」 勢いよく蹴りだした右足から斬撃が発生し、雪だるまを真っ二つにすべく斬りかかる。 ガギィン! と鈍い音がして巨大な雪だるまがはじかれた。 「む、手応えはあったが……」 雪だるまは少し勢いを落としはしたが、まだ動きは止まらない。 「油断できませんね」 祥司は身を構え、戦気を高める為に集中した。体内のオーラが溢れてくるのが感じられた。 「とりあえず……ひきつけなくては」 エレーナがスタッフをかざすと、その先から気糸が撃ち出され、雪だるまの頭部を貫いた。 ずず……ず……。 「止まったか……?」 ウラジミールが身構えながらつぶやいた。彼の正面より数メートル先で雪だるまは急速に速度を落としていた。 「そこまでだ!」 すこし距離を置いていたエイプリルがメイジスタッフを標的に掲げ呪文を詠唱した。爆発するような音がして雪だるまが炎に包まれた。 「これで一気に、溶けてくれればいいが……」 ず……ずずっ……。 しかし、炎に包まれた敵は完全に停止してはいなかった。しばらくすると炎の収まった雪だるまは体を傾けて軌道を変え、今度はエレーナに向かってスピードを上げて突進してきた。 「おいで、ゆきだまさん……」 エレーナは手招きしつつ、広場の外へと駆け出す。無論雪だるまを道路へ誘い出すためだ。 「やはり簡単に倒れてはくれないな」 エイプリルが仕方なさそうに後を追いかけた。 「ワシらも急ごう」 健一郎の言葉で、カイン達も急いでエレーナの後を追うことにした。 ●道路へ急げ エレーナは雪だるまが追いかけてくることを確認しつつ、森の外へと向かって走っていた。 ごろごろ……。 「少し、大きくなったかも……」 様子を見ている間にも、雪だるまは猛然と突進してくる。 「……っ!!」 「エレーナさん! 大丈夫ですか!」 雪だるまにぶつかって転倒したエレーナを、後から追いかけてきた祥司が抱え起こした。 「大丈夫。かすり傷だから……」 大したダメージではなかったようで、エレーナはすぐに起きあがった。 ずずずっ……。 雪だるまは再び軌道を変え、エレーナへ再度体当たりをかけようとしていた。 「く、来るなら来なさい」 祥司がエレーナの盾にならんと立ち上がったそのとき。 銀色の風のような幻影が見えた。いや、それは決して幻ではなかった。直後雪だるまの体に斬撃が走ったのだ。 「セフィリアさん!」 影の正体はセフィリアだった。雪だるまを斬りつけた彼女はそのまま素早く後退し、祥司達の傍らに立つ。 「ご覧なさい、銀風の力を!」 その間に仲間達も駆けつけてきた。 「さて……道路まで後少しじゃ」 今度は健一郎が気糸で雪だるまの注意を引く。 雪だるまは怒るようにその場で数度跳ねて、健一郎に飛びかかってきた。 しかしその体は最初に現れた頃より崩れかかってきていた。幾分か勢いも弱くなってきているようだ。 「急げ!」 ウラジミール達は健一郎をかばうようにしながら、道路へ向かって走った。 森の出口はすぐに見えてきた。 カイン達が道路に出てすぐに、雪だるまも飛び出してきた。 「来たな!」 エイプリルは健一郎達と顔を見合わせ、森への入り口をふさぐように立つ。雪だるまが戻らないようにするために。 道路に着地した雪だるまは上半身を動かして辺りを見回すような動作をした後、顔らしき部分から吹雪をとばしてきた。 「危ない!」 カイン達は素早くこれを避ける。吹雪は道路のガードレールに当たり、その部分だけ凍り付いた。 「まったく、もう十分寒いというのに……これ以上寒くするなっ!」 カインはそのまま雪だるまに飛びかかり、振りあげたブロードソードを敵の頭にたたきつけた。 雪だるまがよろめいたところをウラジミールは見逃さなかった。すぐに駆けつけて同じく剣で雪だるまに斬りかかる。 「……くっ!」 雪だるまはウラジミールに抵抗しようと、その場で回転し始めた。その力で剣を押し返そうとしたのだ。 「おっと、あまり動くでないぞ」 健一郎が今度は気糸を雪だるまの周囲に展開し、敵を絡めて拘束する。抵抗していた雪だるまは回転が止まり、ウラジミールの剣で道路の反対側に吹き飛ばされた。 「かかったな! これで止めだ!」 エイプリルと祥司が顔を見合わせる。エイプリルはスタッフをかざして呪文を唱え、祥司は気合いを込めた蹴りで斬撃を繰り出した。 斬撃で雪だるまは真っ二つになり、続いてエイプリルの放った魔力弾で破片は粉々になった。 うおーん……。 終始無言であった雪だるまであったが、最後の瞬間、怨念のような声が聞こえた気がした。 「怨むでない。元から住む世界が違ったのじゃ……」 健一郎が溶けて朽ちていく雪だるまに、小さな声でつぶやいた。 ●雪山と雪だるま その後、ウラジミール達が雪だるまの群生していた広場に戻ると、雪だるまの姿はなくなっていた。代わりに捕まっていたと思われる人達がその場に倒れていた。全員意識はなかったが生命に別状はない様子だった。 「とりあえず、道路の付近まで運びましょう。あそこからなら、迷わず人里へ帰れますから」 祥司の言葉に皆同意して、何往復かして全員を森の外へ運んだ。しばらくすれば意識を取り戻すだろう。 「あ~、よく動いた! おかげで暑いか寒いか分からなくなってきたぜ」 智がひと仕事終わった後、大きく伸びをした。 皆が笑っている間に、セフィリアはエレーナが疲れた表情をしていることに気が付いた。 「大丈夫ですか?」 「ええ……かなりリアルで、頭が疲れたけど……」 「そういえば、ここって仮想空間だったんですよね」 すっかり忘れていた。 「仮想でもすっかり冷えてしまいましたよ。帰ったらお風呂に入りたいです……」 祥司が寒そうにしながら言う。再び皆で笑い合った。 「よし、一件落着だな!」 そろそろエイプリル達が帰る時間になっていた。 「あれ……ゆきだまさん……?」 帰る際に、エレーナが道端に小さな雪だるまがあることに気が付いた。 「なに……いや、これは本物の雪だるまだな」 険しい顔をしていたウラジミールの表情が一瞬、和らいだ。 「やはり、雪だるまはこういうものであってほしいですね」 セフィリアの言うとおりだった。人を食う雪だるまなど、あってはならない。それはただの怪物だから。 そして怪物は倒され、雪山の入り口に、小さな雪だるまだけが残り続けていた。 |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
この度は、βシナリオにご参加いただきありがとうございました。青猫格子です。 今回はたくさんのプレイングの中から8人選ぶという特殊な形式のため、心苦しいですが全てのプレイングを採用することは出来ませんでした。 登場できなかった方のプレイングでも惹かれるものが幾つもあったのですが、レギュレーションの都合ということでご了承下さい。 さて雪だるまは無事に倒すことができました。いかがでしたでしょうか。 大きい雪だるまもいいですが、小さいのも可愛くていいですよね。小さければ、動いても怖くありませんし。むしろ可愛いですし。 そんな感じです。楽しんでいただければ幸いです。 |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)さんのような寡黙なキャラクターというのは割と動かしにくい部分もあると思うのですが、彼は今回上手い具合に特色を出せているのではないかと感じました。雪山に行くにしても準備を厳重に行う点などは、人柄が現れていますね。 こんな風に、キャラクターの性格と行動が上手く結びついているとSTはそのキャラクターを捉えやすいので描写しやすくなると思います。人によると思いますが。 逆にギャップのある行動というのもインパクトがあると思いますが、なかなかバランスが難しいのではないかと思います。 |