●『Be my friend』 人間社会には、存在してはいけない、とされるモノがある。 それは、何も化け物の類には限らない。 社会規範という名前のルールで縛られた、あってはならないモノ。 例えば、真夜中に一人で歩く子供。 その日、女が帰宅の途についたのは、実に終電ぎりぎりの時間だった。そんな時間までかかる仕事を押し付けた上司に盛大な罵声を浴びせながら、街灯だけが頼りの夜道を足早に歩く。 疲れからか、伏し目がちに歩いていた彼女の視界に、突然影が伸びた。顔を上げれば、自分ですら不安に駆られる人気のない夜道を、ふらふらと歩く少年。小さな電球が、ささやかに彼を照らす。 「ボク、こんなところでどうしたの?」 年の頃は十にも満たないくらいか、深夜まで塾通いをするには、まだ早い年の頃だと思えた。疲れきった彼女だが、子供を放置して帰ることは、身についた常識が許さない。 「だめじゃない、こんな時間に一人でいちゃ。塾帰りかな?」 「ううん、ともだちを探してるんだ」 ――だから、目の前に現れた非常識を、最期まで理解することは出来なかった。 「お姉さん、僕のともだちになってくれる?」 街灯の電球が、ぱりんと爆ぜた。 少年の瞳が、闇の中で猫の目のように輝く。途端、強張る身体。足が、動かない。 「な、なに? なんなの!?」 「……ともだちに、なってほしいだけ、なんだよ」 驚愕の声をあげる女。その様子に、少年は失望の溜息を漏らす。やっぱりお姉さんも、僕の友達にはなってくれないんだね、と。 「残念だけど、じゃあ、いいや。――バイバイ」 緑色に輝く少年の瞳が、ゆっくりと明滅する。艶やかな宝石にも似たその瞬きに、彼女は自らの意識が『吸われて』いくのを感じた。 ●『万華鏡』 「エリューションが現れるわ」 救いようがない化け物よ。その言葉ほどには感情を含まない声で、真白イヴは集ったリベリスタたちに告げた。それでも、この天才フォーチュナの託宣が過去形ではなかったことに、幾人かは安堵の色を見せる。 「私は、救いようがない、と言ったわ。革醒したのは、八才の男の子。もう、フェイズ2に達している」 だが、いっそ冷徹にすら響くイヴの声は、そんなハッピーエンドを許さない。現れたのはノーフェイス、すなわちエリューション化した人間。――犠牲者は、もう出ているのだ。 「それなりには強力な相手よ。タフになっただけで、身体的な攻撃能力は八才児そのままだけど。注意すべきは、その目」 緑色に輝くその瞳は、神話に言う魔眼のようなものか。その輝きは精神の力を削り取り、身体の自由を奪う。 「……ううん、きっとそれだけじゃない。よく『視え』なかったけれど、他にも、その目は何か特別なチカラを持ってる。注意してね」 この少年は、フェイズ1のエリューションアンデッドを取り巻きのように連れている。数は三体、おそらくは犠牲者の成れの果てだろう。注意すべきはその爪がもたらす腐敗の毒だけだが、油断は禁物だ。 「動く死体。その子にとって、ともだちと言えるのは『それ』だけ。仲間がいるということは、無限の力の源になるわ。同時に、自分からそれを奪い去るものに対しては、力を振り絞って敵意を向けてくるでしょうね」 革醒の力がもたらす希望と絶望。ああ、それはリベリスタたちの多くが抱く連帯感と同じものだというのに。 「何故そうなってしまったかは知らない。何がしたいのかもわからない。けれど、放っておけば大変なことになる」 だからお願い、倒してきて。十三才の少女は躊躇いなくリベリスタたちへと希う。 「もう、この子に本当のともだちは作れないんだから」 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:弓月可染 | ||||||||||||||||||
■難易度:NORMAL | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
● 肌を刺すほどに冷たい風が、突然、奇妙に生ぬるい感覚へと変わった。 「VTSって、ゲームみたいとか思ってた」 アークの天才が用意した仮想世界。それは現代の魔法、極限までリアリティを追求したゲーム機とは比較にならない空間だ。だが、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が発した言葉は、そういう意味ではない。そんな不謹慎な話じゃないんだね、と彼女は続ける。 「これから世界を守っていこうっていうのに、小さな子一人も救えないんだね、わたしたちは」 笑ったり怒ったり、ころころと表情を変えていたウェスティア。だが、この戦場に降り立った途端に、珍しく表情を曇らせる。 「ええ、過去の話だと判っていても……」 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が応じようとして、口ごもる。変えることができない過去の話だからこそ、余計に胸を刺すのだと気づいたからだ。 (現実とそっくりの仮想世界というのも、いいことばかりではありませんね) 溜息をつくカルナ。守るための力を手に入れたのに、手が届かない。それはこの少女には、どうにもやりきれないもので。 彼らの眼前に、未だ『敵』の姿はない。しかし、彼らにはわかる。ぞくりと背筋に走る感覚が、気配だけを強烈に伝えている。 「――これは、訓練」 『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)は自らへと言い聞かせていた。訓練だから死なない――いや、そんな生温い内容ではない。 「手は抜かないし、命も賭ける。訓練で出来ない事は、実戦ではもっと……できない」 漏れるのは、ただただ自分を追い込む気迫。鋼の両手がぐっと握り締められる。たおやかな容姿に似合わぬ強い怒りが、彼女を滾らせていく。 (一人だけで時を過ごすのは、とても辛いこと) いま一人、眼鏡をかけた少女がいる。いや、少女と見まがうほどにしとやかな少年か。『蝶葬彼岸』月代 氷澄(BNE001671)。左右の輝きは違えども青みを帯びた瞳が、今は眼鏡越しに沈んだ心を映している。 (けれど、こんなことをしてまで、得たかったのですか……) 『彼』は間違っている。けれど、追想といえども、叶うなら戦わずに終わりたい。しかし、その願いは許されないとも知っていた。 「わぁ、たくさんいるね」 突如かけられた声。はっ、と全員がその方向を向く。そこには、リベリスタたちの誰よりも幼い、小柄な少年が居た。 「お兄さんたち、ボク、『ともだち』を探してるんだ」 少年の背後には生気なく歩く三人の大人。暗い中では良く見えないが、既にその身体は腐りかけているのだろう。 「そいつらが、お前の友達かよ」 ぎり、と音がした。『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)の砕けんばかりに鳴らした歯軋りが、夜の通りに響く。 「ソイツらは意思の無いゾンビだぜ。友達面して、そんな奴らを囲って」 静は吼える。訓練だとかエリューションだとか、そんなことは意識になかった。ただ、悔しかったのだ。 「お前、それで本当に楽しいのかよ!」 「でも、大切な『ともだち』なんだ」 少年は微笑む。そんな笑顔を睨みつける静。憎いのは少年ではない。少年を、ここまで歪ませてしまったもの――。 「僕、シュウト。ね、お兄さんたちも、僕の『ともだち』になってよ」 その言葉に飛び出そうとする静を、肩に置かれた手が押さえた。 「うん、友達は良いものだよね。欲しいって気持ちはよく分かるよ」 年若いリベリスタたちの親といっても通じる年代の二人の男が、前に進み出る。 「けど、方法は選ぶべきだったね」 その一人、『ラプソディダンサー』出田 与作(BNE001111)は、へらりと笑みを浮かべてシュウトに呼びかける。細い目からは本心を読み取ることは難しいが――。 「それを許すことは、おじさんたちには出来ないんだ」 そう諭す与作に、シュウトは不満げな顔。じゃあ、いいよ。おじさんたちも、『みんな』みたいにするから。 「……そうか。じゃあ、おじさんは、君を止めなきゃいけないな。ごめんね」 その表情は、変わらず曖昧な笑みを浮かべたまま。内心はあらわにせず、与作は手にした刺突剣を構える。 「ふふ、患者を看るのは医師の務めですからな」 その隣に並び立つ黒衣の男、『Dr.Friedhof』ニコラス・D・ワイスマン(BNE001666)はうっそりと笑う。 「この試みも、その対象となった彼も、実に興味深い」 「――観察かよ、お前」 爽やかとは言いがたい笑みを浮かべるニコラスへ、『夕闇を歩む吸血鬼』五条・武(BNE000507)が低い声を浴びせる。この銀髪の男には、得体の知れない何かを感じる。治ったはずの傷跡が、じくじくと痛むような何かを。 「こうなっちゃ、もう救いようが無ェよ。なら、さっさと最後の救いを与えねェとな」 口元からのぞく牙。ニコラスへと挑むような一瞥を与えたかと思うと、武はシュウトたちへと踊りかかる。 「やれやれ、あれが若さというものですな。――さて、彼を悪夢という病から救ってあげますか」 武に続く少年たちを見やり、ニコラスもまた、黒衣を翻して歩き出す。その目には、名状しがたい光が宿っていた。 ● 「お前に本当の友達ってやつを教えてやる。命がけで遊んでやるさ!」 先陣を切った静が、戦場を照らすマグライトをばら撒きながら突入する。道を塞ぐのは、薄汚れた格好をした老人の死体。 「さあ、そこをどけ!」 シュウトを守るかの如く立ちふさがるアンデッドへと、静は手にした大剣を袈裟に振るった。闘気とも呼ぶべきエネルギーを込めた剛刃が、朽ちた身体を跳ね飛ばして道をこじ開ける。 「さあ、燃えちゃえ!」 轟音。その老人が、突如爆ぜた炎に包まれた。ウェスティアの喚んだ魔炎が、渦を巻いて立ち上り、いま一人のアンデッドを巻き込んで腐肉を焼く。 「イヴちゃんはもう救えないって言ってた、けど」 私はシュウト君を救ってあげたい、と黒翼の少女は思う。例え、それが最後の一瞬を与えるだけのことなのだとしても。杖を握る手に汗が滲む。 リベリスタたちの攻撃が、三体のアンデッドに次々と突き刺さった。見かけよりもタフな『動く死体』を減らすことを彼らは優先したのだ。だが、シュウトたちも黙って倒されてくれるわけではない。 「『ともだち』に手を出すなっ!」 「う、動けない、なんて……」 甲高い声が響く。ぎらり、シュウトの瞳が輝き――緑の視線が朱子を捕らえた。それは精神の呪縛。機械の身体すら動かせないことに、彼女は驚きを隠せない。たちまち殺到するアンデッドたち。ハーフリムの眼鏡が折れ飛んだ。 「くっ、けど……毒なんて、燃え尽きて私には届かない。効かないよ」 爪から流れ込む毒は、朱子には通じない。だが、痛みまで感じないわけではないのだ。荒い息をつきつつ、それでも彼女は強がってみせる。 「ただいま癒します。お任せください」 そんな彼女を、涼やかなそよ風が包む。カルナの声とともに吹いたその微風が、朱子の痛みを和らげていく。 (せめて、このくらいは) 望んで戦いに身を投じたといえど、カルナはあまり荒事が得意なほうではない。むしろ嫌悪感すら感じるのだ。それでも彼女は、今のように誰かを支えることが出来ると信じ、戦場に立ち続ける。 「よォクソガキ、友達を探してんなら俺と遊ぼうぜェ!」 限界まで身体機能を加速させ、仲間が開いてくれたシュウトへの道を走る武。あえて強気に挑発を並べ、手にした紐を少年へと放つ。 「ほらほらァ、縄跳び遊びだ……ってなんだァ!?」 だが、彼の顔は驚愕の色に染まる。確かに目の前にはシュウトがいたはずだ。だが一瞬の後に全身を縛られているのは、先にウェスティアが焼いた老人の死体。 「『ともだち』が、守ってくれるんだ」 シュウトのどこか不安げな声に、武は苛立った舌打ちを鳴らす。そこに飛び込んでくる与作の姿。 「なるほど、身代わりになってくれるんだね」 どこか感心した声色。遠く離れていても喚んでしまうのであれば、まずはそのガードを剥いでいかなければならない。 (友達想いというには、身勝手な気もするけどね) 幻影のようにつかみどころのない動き。与作の緩急を利かせた剣先が、アンデッドに強烈な斬撃を見舞い――その首を貫く。ずるり、と崩れ落ちる死体。 そして。 「よくも……よくも、僕の『ともだち』を!」 怒りを込めて少年が放った光線が、与作の脇腹を貫いた。 「与作さん、下がってください!」 「……なに、もう少しの辛抱さ」 守護結界を展開していた氷澄が顔色を変え、陰陽の符を与作へと飛ばして貼り付ける。。 (僕も一人になってしまったから) 友達が欲しいのはよくわかる。もしもゆっくりと話をすることが出来たなら――そこまで考えて、力なく頭を振る氷澄。僕はリベリスタで、彼は倒すべきエリューション。それは揺るがないのだから。 「剣なんて、使うのは初めてだけど」 万全でないが傷を癒した朱子が、大剣を叩きつけるように振るい、シュウトと女のアンデッドを切り離す。巨大な得物を扱いこなすだけの膂力があるからか、始めてという割には彼女の剣さばきは堂に入っていた。 「ほほう、なるほど、なるほど」 軽やかに立ち回りながら敵を切り裂いていたニコラスは、シュウトの反応を見てにんまりと笑う。盾として扱ってはいても、失うのは惜しいらしい、と。 「しかし、死は万物に与えられた神聖なる権利なのです。それを邪魔するというのも無粋ですな」 ニコラスの手から伸びた黒いオーラが、女性のアンデッドを一撃。それで、動く死体がただの死体へと還っていく。少年の放つ報復をまともに浴びながら、しかしこの吸血鬼は余裕を崩さない。 「少々血を抜きすぎました。出来れば生者の血の方が好みですが……、贅沢は言えますまい」 ● 三度目の報復は朱子が受けた。深手ではあったが、治らない傷ではない。何より、少年を守る壁を全て排除できたのは重要だ。 (どうして、こんな風になっちゃったんだろう) 革醒の影響がなくとも、人の『目』の力は想像する以上に大きい。歪んだ視線を浴び続けて育てば、人の心はどんどん荒んでいく。ウェスティアはそこまで思考を進め――ふと視線が合ったシュウトの瞳に、ありったけの笑顔を映した。 「私は怒らないよ。怯えないよ。けど」 ごめんね。少女の唇が、そう動いた。視線を逸らさぬまま、ウェスティアは光の矢でシュウトを射抜く。 「おっとォ、余所見してンなよ。ディープなのブッかましてやっからよォ!」 傷の回復もそこそこに。同情と恐怖とを強気の仮面で押し隠し、武が突き立てるのは鋭い牙。 (こいつは、俺達の姿かもな) リベリスタたちと堕ちたエリューションは紙一重。その恐怖こそが彼を突き動かす根源なのだ。凶暴に振舞うことで自分の感情から顔を背け、傷口から滴る血を舐め取って精気を吸い上げる。 「仲良く一つになろうぜェ。お前ェの血の味、お前ェの顔、お前ェの目。全部、覚えててやるからさァ――」 「何をそれほどまでに恐れているのです」 威勢のいい声が、冷や水を掛けられたように止まる。シュウトを突き放した武が、再び舌打ちをした。その視線の先には、黒衣のニコラス。 「人は失えばこそ、得るものもあるのです。そして逆もまた然り」 過剰なほどに自らの闇を恐れる武だからこそ、この医者が持つ闇を感じ取ったのかもしれない。魂の救済も医師の務め、そう紳士然として言うニコラスは、しかしあまりに戦いに陶酔して見える。 「最後だけは友達と一緒に送ってあげましょう」 安らかに永眠されたし。少年を切り刻む彼の口角は、僅かに上がっていた。 「僕は、『ともだち』が欲しいだけ、なんだよ」 緑の瞳が明滅し、少年の見つめる先に立つカルナが、ぐらり、膝をつく。 (吸われ……る?) 力が抜けていく感覚。視界が暗くなって――だが、翼の聖女は必死に耐える。立たなければ。立って、この哀れな少年が主の御許にたどり着けるよう、手を貸さねば。 「今更であっても、どうか、おさなごに神の恩寵を」 傷を省みずに紡がれるカルナの祈りが、魔力の弾と化してシュウトを抉った。胸に満ちる痛みをかろうじて振り払い、目を逸らすまいと彼女は前を向き続ける。 「私の腕は鉄で出来てるから……君の手を握ることも、頭を撫でることも出来る」 淡々と朱子は語りかける。その後に続く、それでも、という接続詞。 「それでも、もうあなたと私は、本当の友達にはなれないんだ」 大剣を握る鋼の腕に光り輝くオーラを纏い、彼女は躊躇わずに振り抜いた。加速する質量が、二度三度とシュウトを狙う。肉が裂け血が流れ、だが彼のタフさは倒れることを許さない。 「――助けられなくてごめんね」 何人もが繰り返した言葉を、朱子もまた唇に乗せる。 「貴方の願いが成就することは、もうありません」 氷澄が宙に放った符が小さな渦に包まれ、一瞬の後には闇夜に溶ける鴉となる。四方に舞ったつむじ風が、艶やかな黒髪を弄った。 「害するのみの存在となったからには、僕たちが貴方を倒します!」 カァ、と一声。真っ直ぐに飛び掛った鴉の嘴が、シュウトの肩を裂く。僅かに逸れてかすっただけでも、一つ一つの攻撃を当てていくことで、シュウトの動きは確実に鈍くなっていた。 「ねぇ、おじさん」 緑の瞳が瞬き、与作から気力という気力を吸い取っていく。その苦痛すらも曖昧な笑みの中に隠して、なんだい、と彼は答えを返した。 「おじさんたちは、『ともだち』と一緒に、僕も殺すんだね」 「……っ」 堕ちたノーフェイスの思考は、フィクサードのそれとは大きく違う。友達が欲しいという欲望にのみ従うシュウト。その彼がはじめて口にした、諦念。 (は、はは、泣いてもサマにはならないか) 自分とニコラスを除けば、リベリスタたちは年若い者ばかり。この任務は、少々酷に過ぎるというものだろう。 「……オジさんにも、仕事があるんだ。皆、自分に出来ることを必死でするしかないんだよ」 目にも留まらぬ突きの連打。これで倒れてくれ、と願う。俺のような年寄りが手を汚すべきなんだ。だが、少年はふらふらと立ち上がる。その身体は、もう襤褸屑のようだというのに。 「こんな……っ。こんな事件が起こる、元凶を――」 耐えるかのように。腕で目を乱暴に擦った。静の茶の瞳が、充血して赤に染まる。握り締めた大剣。身体を軸にして回転するように、勢いをつけて得物を振るう。 「元凶を、一日も早く潰してやる!」 絶叫。ニット帽が脱げて耳が飛び出すのも構わず、静は剣を振りぬいた。遠心力を伴って薙ぎ払う刃が、限界を迎えていた少年を捉える。ごきり、という破砕音。大きく腹を割かれたシュウトが、バウンドして跳ね、それきり動かなくなる。 「ちくしょおぉぉ!」 訓練と知っていた。それでも、胸を焼くこの激情を止める方法を、彼は――彼らは叫ぶほかに知らなかったのだ。 |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
ご参加ありがとうございました。 個別の部分では有効なもの・そうでないものの別はありましたが、総じて皆さん良いプレイングだったと思います。 優劣がつけづらいプレイングばかりでしたので、選抜にあたっては、老若男女や性格、ジョブなどがばらけるように考慮しました。ですので、選抜されなかったプレイングが悪いわけではありません。応募の中からランダムに八人選んでも成功していたレベルです。 楽しんでいただけたら幸いです。また、本稼動後の本部にてお会いしましょう。 |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
自分を表現するための心情と、成功させるための行動のバランスがきちんと取れたプレイングでした。 敵の能力の推測を基に、自分がどう動くのか、集団戦の中で仲間たちにどう貢献できるのか、整理できているのが素晴らしかったと思います。 |