●天上に立つ獣 甲高く、耳障りな金属音をたてて観音開きの扉が開いていく。その動きは重く緩慢で、まるで部外者の侵入を拒むかのようだ。 少しずつ開いていく扉の隙間から流れ込む風が、頬を撫でる。そしてようやく開ききった扉の向こうに広がるのは、無限に広がる夜空と数多の星。 さらには、目を焼くほどに明るく輝く、満月。 だが、それらにみとれている場合ではない。なぜなら、目の前には『主』がいるから。 ――低く、唸り声が聞こえる。 ここは聖域。何人たりとも、それを侵すことは許されない。 それでもなお踏み入る無礼者に待つのは、最悪の結末。 ――風が、吹き荒れる。 月光を浴びつつ、静かにその身を起こしたのは金色の毛並みを持つ巨大な狼。 逞しい四肢は力強く地を駆けるためだけに。一点の曇りもない爪は己が敵を屠るためだけに。青く澄んだ双眸はすでに敵を捉えて放さない。 そして、その巨躯を大きく反らせ、白い鋭牙を剥きだし月下に吼えた大狼は、月光よりも禍々しく美しい光を全身から放つ。 長く長く続くその遠吠えが、夜天に突き刺さった。 ●天へ至る道 「……始めましょうか」 アーク本部、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達の前に立つのはフォーチュナである真白イヴ。 彼女は今を生きながらにして過去を、さらには未来をも視ることができる。戦闘力はなくとも、その存在は戦場に向かうリベリスタ達にとって大切なものだ。 「今から、私が視た事を伝えるわ。今回貴方達に倒してほしいのは……巨大な狼よ」 彼女は自身が視たものを淡々と、しかし、まるで実際に体験したかのように語り始める。 リベリスタ達は彼女からもたらされる情報を聞き逃すまいと、真剣な表情で耳を傾けた。 今回彼らが向かうのは、とある地方都市にそびえたつ地上46階の高さを誇る超高層ビル、その屋上ヘリポートである。 この超高層ビルは元々、地方都市発展の要、いわゆるシンボルタワーとして建設されたものだった。 しかし、所々の事情から完成後も人が入らず、放置され続けて十数年が経とうとしている。 ゆえに、シンボルタワーとしての期待を背負って作られたはずのそれは、今や巨大な負の遺産の象徴として静かに佇んでいた。 ちなみに、ヘリポート自体は数台の照明で明るく照らされ、落下防止用の高いフェンスに囲まれている。 「数年前までは多少、人の手が入っていたみたいだけれど、 今では忘れられて……いえ、周囲が忘れようとしていると言った方が正しいのかしらね」 手元の資料を確認しながらイヴが言葉を紡ぐ。 彼女の口調や立ち振る舞いが、13歳の少女らしくない事に思わず苦笑する者もいたが、 「次は、敵のエリューションについて」 それを意に介さない様子で、イヴは緑と赤のオッドアイを皆に向ける。 「外見は金色の狼よ。ただし体長は4m程で、とても大きいわ。フェーズは2で戦士級。 ……種別はエリューションエレメント」 「エレメント……? ビーストじゃなくて?」 リベリスタ達から疑問の声が上がる。 「ええ。今回の敵はエレメント。エリューション化した現象は恐らく、光よ」 「そんなものまでエリューションになるのか……」 驚きの声に頷きで返し、イヴは説明を続ける。 攻撃方法は巨体そのものを武器とした体当たり。当たり所が悪ければ吹き飛ばされるだろう。そして、四肢に備わっている鋭い爪を用いた切り裂き攻撃。 「さらに一つだけ、特殊な攻撃があるの」 それは上空に向かって遠吠えをすると同時に、全身を輝かせることで周囲にいる者全員にダメージを与え、場合によっては混乱状態に陥らせるというもの。 「混乱すると敵味方の区別がつかなくなるから、気をつけてね。 ――敵の情報はそれだけ。見かけよりは強くないけど、油断しないで」 資料ファイルを静かに閉じると彼女はそう締めくくった。 必要な情報を得たリベリスタ達がイヴに礼を述べて立ち去ろうとする。 「あ、最後に一つだけ……」 その時、彼女の唇が小さく動く。 「ん? 何か、言い忘れたことが?」 一人のリベリスタが彼女に問いかける。こく、と一つ頷き、イヴは言葉を続けた。 「頑張ってね」 一瞬の間を置いて、すぐにリベリスタ達の顔に微笑みが浮かぶ。 「ああ、任せてくれ。きっちりかたをつけて――」 「このビル、エレベータに電気が通ってないから」 ――――今なんと申したかこの子。 「……屋上まで階段で行けと?」 「……頑張ってね」 微笑みを顔に張り付けたまま凍り付くリベリスタ達を前にして、真白イヴは再度、そう繰り返した。 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:力水 | ||||||||||||||||||
■難易度:NORMAL | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
●天へ至る者達。 時刻は深夜。点滅する信号機が人気のない道路を微かに照らす。開発の波に乗りきれず、時代に置いていかれたその地方都市にはどこか全てを諦めた倦怠感さえ漂っている。 月光に照らされた件の超高層ビルは生物が全て死に絶えたかのような静けさの中、街を見下ろし嘲笑うかのようにそびえ立っていた。 だが、今夜はそこに異なる存在がある。 階段を駆け上がる複数の息づかい。力強い、命の鼓動。まるで、それは天へ至らんとするかのようにも見える。だが、彼らは知っているだろうか。 ――曰く、天へ至ろうとする者には、神罰が下るということを。 しかし彼らは止まらない。もし神が邪魔をするならそれさえも打倒する、とばかりに。 甲高く、耳障りな音をたてて屋上への扉が開く。それと同時になだれ込んできたのは、 「……っ、ぜぇ……これは……何の罰ゲームだ……っ!」 「……流石に、この階段ダッシュは疲れたね~」 息を切らせながら悪態を吐く、『深闇を歩む者』鷹司・魁斗(BNE001460)と、身体の火照りを冷ますように戦闘服の胸元を手で扇ぐ、『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)の二人。 「……いけないわね、血が躍るわ」 『河原で踊る』黒原・あきら(BNE001541)も優雅に屋上へと降り立つ。冷静に見える外観とは裏腹に、彼女の心は戦闘への期待に高ぶっているようだ。 『24時間機動戦士』逆瀬川・慎也(BNE001618)は過去の鍛練を思い出しつつ、 「つかれたから全力出せないなんて、だっせー言い訳できるか!」 そう自分に言い聞かせるように、息を切らせながらも気合いを入れ直す。 次々と到着する仲間達。だが、そこにいるのはリベリスタ達だけではない。 「これが、エリューション・エレメントでござるか……!」 『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034) が驚きの声をあげる先に鎮座していたのは、真白イヴから聞き及んでいた金色の巨大な狼。 自分の聖域を侵しつつあるリベリスタ達に向けられる青く澄んだ双眸は、険しいものへと変わりつつある。 「体長4mの狼……もし友好的だったら、もふっとしてみたかったわね」 『春招鬼』東雲 未明(BNE000340)がそう淡い期待を寄せたが、狼は静かに身を起こし低く唸り声を上げ、獲物を狩る体勢へと入っている。 「いい月ね。でも、悠長なことを言ってる場合じゃないみたい」 『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)がブラックコードを手に、狼へと構える。 その瞬間、狼が威嚇の咆吼をあげる。月の光と照明に照らされた金色の毛並みを持つ巨体が、放たれた矢のようにリベリスタ達に突撃を開始する。 「……来い」 反射的にレイピアの切っ先を狼に向け、バックラーを構えた『捜翼の蜥蜴』司馬 鷲祐(BNE000288)が静かに、しかし力強く呟いた。 ●狩るか、狩られるか。 リベリスタ達に割って入るような形で突撃してきた狼に対し、彼らは素早く自分が戦いやすい位置へと移動する。 「……さて、肩慣らしと行こうか」 まず行動を開始したのは鷲祐。彼は他に並び立つ者のいない速さを持っていたが、さらにギアを上げることにより、その速さは絶対的なものとなる。 同じく虎鐵もグレートソードを軽々と振るい、 「それじゃあ油断せずにいくでござるよ! ギアを上げるでござる」 そう言うと同時に、身体の反応速度を上昇させる。 「くそ、疲れた……って言ってられる状況でも……ねーか。そらよっ!」 狼の巨体を絡め取るように、魁斗の全身から気で紡がれた糸が放たれる。麻痺を与えるまでには至らなかったが、突撃後に体勢を調えていた狼には確実に傷を負わせる。 絡みついた気糸を振りほどき、唸り声を上げながら狼が魁斗へと研ぎ澄まされた爪を振るうも、魁斗は難なくそれを回避する。 苛立ちを剥き出しにして狼が続けざまに攻撃を行おうとしたその時、ヘリポートを檻のように囲むフェンスが大きな音をたてた。 反射的に音のした方へ頭を向けた狼の脇腹が、大きく抉るように引き裂かれる。あきらがフェンスを踏み台にしてソードエアリアルで後方から突撃したのだ。 腹部から血を吹き出し、苦悶の声をあげる狼。黒髪と黒いゴシック服を風になびかせ、あきらが着地する。 「ふふ……見つめるだけでときめいてしまうわ」 あきらはグレートソードに付いた血を振るい落とし、次の攻撃へ移るために狼と距離を取る。しかし、狼とてやられてばかりではいられない。血を滴り落としながらも、巨体の側面で押し込むように体当たりを繰り出す。 「っ!!」 回避が間に合わず武器を構えて防御はしたものの、あきらの小柄な体は与えられた衝撃をそのままにフェンスへと吹き飛ばされる。激突の予感にあきらは思わず身を固くしたが、 ふよん。 「え?」 背に感じるのは柔らかい感触。振り返ったあきらが見たのは少女の屈託のない笑顔だった。 「んっ、と。あきらちゃん、大丈夫?」 「あ……ええ、ありがとう斬乃さん」 仲間のカバーの準備をしていた斬乃が、吹き飛ばされたあきらを受け止めたのだ。 「そこまで。これ以上は行かせないわよ!」 「俺だから、できることがある!」 さらに、未明と慎也が彼女達を守るように狼との間に走って割って入る。そんな二人を一瞥して狼は再び巨体をひねり、身体のばねを利用して吹き飛ばしにかかる。 しかしそれを許す程、彼らは愚かではない。慎也はライトシールドを構え、しっかりと地面を踏みしめて狼の体当たりを受け止める。クロスイージスの強固な防御能力がなせる技だ。 「骨を断たせて肉を切り……東雲さん!」 「まかせて!」 未明が狼に向かって駆けだし、その勢いを殺さずに武器に乗せて渾身の一撃を狼に放つ。彼女の一撃は凄まじく、自身の数倍はあるだろう狼の巨体を吹き飛ばすまでに至った。 踏みとどまろうと狼が食い込ませた爪によって、ヘリポートが数メートルに渡って無残に抉られる。 「慎也ちゃん、未明ちゃん、ナーイスっ! さーあ全力全開、ぶった斬るよ!」 吹き飛ばされて体勢を崩したままの狼に、斬乃が嵐の如く突撃する。そして繰り出されるのは大上段からのギガクラッシュ。 電撃を纏った捨て身の斬撃が狼へと放たれ、先程の未明の攻撃に見劣りしない強烈な一撃が狼の巨体に叩き込まれる。斬乃自身にも反動は来るが、彼女はそれを気にも留めない。 さらに、後方ではウーニャが集中により攻撃の精度を上げていた。 「あらあら、これじゃ賭けにもならないかしらね?」 そう独りごちる彼女の手には、一枚のカードが作り出されている。 「ライアークラウン!」 破滅を予告する道化のカードが、過たず狼へと投げつけられる。 斬乃の攻撃から立ち直ったばかりの狼にカードが突き刺さり、道化の不吉な笑い声が辺りに木霊する。不吉な運命からは逃れられてしまったが、魔力によるダメージが確実に狼の体力を奪う。 続けざまに、虎鐵のオーララッシュが狼へ炸裂する。 「そりゃあ! ぶった切るでござる!!」 たまらず、狼が爪で薙ぎ払おうとするも、身体速度を上げた彼に手負いで追いつけるはずもなく、爪はむなしく宙を切る。 すでに狼の身体はリベリスタ達の攻撃であちこちが赤く染まり、金色の毛並みは見る影もない。 「脚には自信があるんでな……ん?」 虎鐵に続いて攻撃を行い、狼から少し離れた場所でレイピアを構え直していた鷲祐が異変に気付く。狼が静かにその頭をもたげたのだ。 「もしや……!」 同じく異変に気付いた虎鐵の目付きが一層険しいものになる。 狼の青い眼が、大きな月を救いを求めるかのようにじっと見つめる。そして四肢を地に突き立て白い鋭牙を剥き出し、狼は月下に力強く吼えた。 咆哮にかき消されながらも、魁斗、虎鐵の声が飛ぶ。その声に応じて、また自身で警戒をしていた者は咄嗟に身構え、防御や回避に移る。 直後、狼の巨体が金色の光を放つ。そして自らの力を誇示するかのように増していく輝きが、すべてを飲み込んだ。 ●月下に吼えるは。 少しずつ、光が収まっていく。全力防御の体勢をとっていた未明は警戒を解かずにそっと目を開けた。 自分の名前、年齢、家の住所、飼ってる猫の名前は……。 「……うん、大丈夫みたいね」 自らを確認する。装備からは少し焦げ付いたような匂いがするが問題ない。ここに来た目的も鮮明だ。そう、それは……。 「っ!?」 思考が一気にクリアになる。倒すべき敵の姿を探そうと顔を上げた瞬間、目の前に立つ金色の姿に、未明は思わず息をのんだ。月光が人を狂わせるというのも、今ならば頷ける。 ――美しくも禍々しい光が、そこにある。 柔らかな光が目に焼き付く。光を一つに固めることができれば、このようになるのだろうか。それはまさに、光のエリューションエレメントと呼ぶにふさわしい姿だった。 光の回避に成功した魁斗とあきらもその姿に目を奪われ、言葉を失う。 戦いに、終わりが近づいていた。 あの瞬間、ウーニャは見ていた。すべてを覆い尽くす光を遮るように、鷲祐が飛び込んできたのを。そして、自分をかばったことを。 「大丈夫か?」 防御の体勢を解き、振り返った男が声をかけてくる。 「……そっか。私ひとりじゃなかったんだ」 地面に座り込み、そう呟くように言葉を紡ぐウーニャに鷲祐は不意を突かれたような表情を見せたが、 「ああ、そうだ。俺たちは一人じゃない」 だからこそ、俺たちはこうして集っている。そう口には出さなかったが、代わりにウーニャに手を伸ばす。超えよう、あの大狼を。俺たちならやれる。 立ちあがった二人の瞳には、強い力が宿っている。 ウーニャが周囲を見渡すと慎也と斬乃の姿が見えた。二人とも無事のようだ。 狼の光から斬乃をかばった慎也は少し傷を負っていたが、斬乃が彼の手をひくようにしてこちらに走ってくる。 「行こう。終わらせるために」 鷲祐の言葉に三人は力強く頷き、剣戟の音が鳴り響く戦場へと舞い戻る。 鷲祐や慎也達四人が合流する少し前、狼との決着を付ける戦いは魁斗を初めとする四人によってすでに始まっていた。しかし。 「観念するでござる、狼!」 「確かにオレはオオカミのビーストハーフだけどよ……ってあぶねぇ!」 咄嗟に飛び退いた魁斗の鼻先を剣撃が掠める。魁斗の目の前に立っているのは、剣呑な空気を纏った虎鐵。その目は魁斗を敵だと認識している。先程狼が放った光によって、混乱したままなのだ。 「魁斗さん! 虎鐵さんはまだ……?」 本物の狼から繰り出される攻撃をなんとかさばきつつ、飛び下がってきたあきらが魁斗と背中合わせに立つ。 呼吸を落ち着かせつつ、ああ、と魁斗が答える。 現在、混乱したままの虎鐵の相手を魁斗が、狼の相手をあきらと未明が行っている。他の仲間達の安否も確認したいが、この状況ではそれすら難しい。 とりあえず、他のヤツらが来るまで持ちこたえるしかねぇ。 そう、あきらに伝えようとした魁斗の視界の隅に映ったのは、狼と対峙している未明の姿。オーララッシュと吸血を使い分けてなんとか抵抗しているが、そこかしこに生傷を作っている。 魁斗の顔に焦りが生まれる。その時、未明の一瞬の隙を突き、狼の豪腕が研ぎ澄まされた爪をもって振り下ろされた。 「チッ! 手間かけさせるんじゃねーよっ」 思わず悪態を吐きながらも、魁斗が未明のもとへ駆けた。奪い取るように未明の体を抱え、転がる。 「っ……東雲っ!」 粉砕音を背後に聞きつつ、魁斗は未明の安否を確認する。息を荒げて、声を出すことなく数度頷く未明。 そして、未明の様子を見て苦々しい表情を浮かべていた魁斗が振り返らざるを得なかったのは、魁斗の背後を未明が驚愕の目で見たためだ。 そこには、静かに剣を振り上げる虎鐵の姿。少し離れたところからあきらの悲鳴に近い声も聞こえる。 「こいつは……」 マジでやべぇか。 魁斗が口角を歪ませ笑みを浮かべる。それが何を示すのか、魁斗が自身に問おうとした時、邪気を祓うかのように神々しい光が戦場を駆け抜けた。 「――む? 拙者は一体……」 剣を振り上げた姿のまま、虎鐵が正気を取り戻す。 「ったく……おせぇんだよ」 光を放ったのは慎也だ。さらに光の向こうに見えるのは、頼もしい仲間達の姿。 魁斗の笑みは、いつしか勝利を確信したそれに変わっていた。 ピースは、揃った。 「――アクセルッ」 反応速度を上げ、十分に集中を行った鷲祐の幻影が狼を翻弄し、弱点を確実に斬りつける。 「躾のなってない奴には、お仕置きが必要だな」 魁斗から放たれた漆黒のオーラが狼の頭部を穿ち、たたらを踏ませる。その一撃はまさに致命傷と呼ぶにふさわしいものだ。 「このまま押し切るでござるよ!」 先程の借りを返すとばかりに、オーラを纏った虎鐵のグレートソードが三連続の斬撃を狼に刻み込む。 さらにはウーニャが、あきらが、未明が、斬乃が、慎也が。それぞれの持ち得る力全てをぶつけていく。狼の禍々しい輝きも、もはや彼らにとって障害ではない。声を掛け合い、連携し、乗り越えていく。 「……そろそろ、終わりにしようじゃねーか」 魁斗の言葉が合図となり、力が放たれる。八つの奔流が一つに融け合い、光の獣を包み込む。 狼のか細い遠吠えが、夜天に吸い込まれた。 ●天へ帰る者、地へ帰る者 ゆっくりと、雪のように散りながら、光の粒が天へ登っていく。力尽きる寸前、切なげに月へ吼えた狼は何を思っていたのだろう。 眼下の街に目をやると、そこには光がいくつか灯っている。 「光は光に戻る、か」 あきらが呟く。今は、未明の提案で休憩がてら月や星を見ている。 戦場跡では仲間達が健闘を讃え合っていた。傷だらけの体を武器に預けて休んでいたり、帰りの階段の事を考えてぐったりしている者もいたが、皆、笑顔だ。感謝の言葉を述べている者や、帰った後の一服を楽しみにしている者もいる。 こうして語り合えることも、勝利によって得られるモノの一つなのだろう。 風が頬を撫でる。すべては、これからだ。 さあ……帰りましょうか。 |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
この度はβシナリオ『摩天狼』へのご参加、そしてここまでお読みいただきありがとうございます。あとがきのスペースをいただきましたので裏話的なものを一つ。このシナリオのOPを提出した後、数年前に書いた身内用シナリオOPを発掘したのですが、敵は違うもののなんと舞台設定が今回のOPとほぼ同じ。どんだけ高い所好きなんだ……。 |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
プレイングが戦闘、心情など各項目に分けて書かれていて、わかりやすかった点に良い印象を受けました。また、様々な状況に対応できるように行動が細かく書かれていた点や、プレイングがキャラクター口調で書かれていたため、キャラクターのイメージが具体的に掴みやすかったという点も良かったと思います。 |