何故それが生まれたか。 答えは何処にも存在しない。 不条理な結果だけが其処には残される。 水が高きから低きへと流れるように、其の世界からの扉は不意にある人間の心の奥底へと現れた。 人の心が歪んでいたのか、扉の向こうが歪んでいたのか、今となっては知る由もないが、2つが交じり合い、生まれ出でしは名状し難き姿をしていた。 生れ落ちた怪物は、自分が何かも判らぬままに、まずは心を失い動かなくなったかつての人間の肉を食べた。 少し大きくなった怪物は、次の獲物を求めて動き出す。 見つけた獲物は悲鳴を上げて逃げ出した。怪物は少し考え、良く伸びる腕を作って捕まえた。 泣き喚く獲物は、前に食べた肉とは違い、一杯叫んで面白かった。 だからゆっくり溶かして食べてみた。 嗚呼、楽しい。嗚呼、美味しい。 もっと、食べたい。 何故こんなものが、生まれたのか。 ●端末に届いた一通のメール(デコード済み) タイトル:緊急を要する依頼です 送信者:真白イヴ 本文:山奥の洋館にエリューションが発生しました。ターゲットは人を捕食し成長するタイプの模様。 至急指定のメンバーと合流し、現場へと向かって下さい。 ターゲットに関しての情報は添付したファイルを参照して下さい。 添付ファイルに記された情報。 1、処理対象は触手が生えた酸性のスライムの状エリューション。 2、触手で捕まえた獲物を体内に取り込み消化吸収して体積を増やす。 3、経験により知能を成長させる。速やかに処理をされたし。 なお処理対象が洋館の何処に潜んでいるかは不明です。 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:らると | ||||||||||||||||||
■難易度:NORMAL | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
●不意の前哨戦 ふと気がつけば、リベリスタ達は其処に居た。 何処までも澄んだ星空に、身を切る様に冷たい山の空気。そして人の来訪を厭うかの如く、暗く、深い、闇の中に、其の洋館は建っていた。 リベリスタ達にとっては幸いな事に、館からは所々明かりが見える。 金に物を言わせて配線を此処まで通したか、もしくは発電機を自前で備えていたのかまでは判らないが、光は彼等にとって大きな助けになる。 仲間達を見回し、「はふぅー」と仲間達の緊張を解すかの様な明るい笑みを向けた『てけとーれでぃ』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)が、洋館の扉に手を伸ばす。 ここで一つ言うべきだろう。アナスタシアに、そして彼女を含むリベリスタ達に油断があった訳では決してなかった。 彼女達は、館に隠れ潜むエリューションを見つけ出して退治する心算でこの館を訪れた。 しかし、その見つけるべき対象が、訪れた餌の気配に誘い出され、既にドアの向こうまでやって来ている等は、……想像の埒外であっても責められる要素は全く無いだろう。 高性能過ぎる耳を持つ兎少女、『雪暮れ兎』卜部冬路(BNE000992)が最初に其の表現し難い音に気付いたのは、アナスタシアの手がドアノブを握る寸前だった。 冬路が警告の声あげ、アナスタシアの肩……を掴むには身長が足りなかった為、腰にしがみ付いてドアから引き離そうとした次の瞬間、ドアを突き破った触手の群れが、2人をドアごと館の中に引きずり込む。 もし冬路一人なら人並み外れた反射速度で触手から逃れる事も出来ただろうが、不意を付かれたアナスタシアを抱えて逃げるには、冬路の体格は小さすぎる。 纏わり付く触手から滲み出る酸に、2人の体が焼け爛れていく。 仮想空間とは思えぬ程のリアルな……否、仮想空間だからだろうか? 慣れる事の無い、純粋で、激しい痛みが脳を焦がし、冬路の口から涙混じりの叫びが漏れる。 だがエリューションの猛攻も、リベリスタ達の計算外も此処までだった。 音も無く飛び上がった『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)のハイアンドロウにより、アナスタシア達を捕らえる為に伸ばされていた触手が、爆発音と共に中ほどから千切れ飛ぶ。 次いで弾け飛んだ触手から噴出す酸の前には、『飄飄踉踉』繁森 虎太郎(BNE000542)が立ちはだかり、其の精悍かつ強靭な肉体をもって仲間達を庇う。 字は『夜翔け鳩』、そして苗字には犬、最後に名前はうさぎ、其の実態は狸のビーストハーフである犬束うさぎと、同じくトラのビーストハーフである虎太郎は、獣人特有の反射神経により虚を突かれることなく攫われた二人の後を追って来たのだ。 そして破れた扉を潜り、ショートボウを油断なくエリューションに向ける一条・C・ウルスラ(BNE000884)、癒しの符を手に傷付いた仲間達へと駆け寄る『Rouge&Noir』有坂 詩乃(BNE001280)と、最後に奇襲など無かったかの様に、貫禄すら感じる落ち着いた態度でエリューションを見据える『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)。 合計『7人』のリベリスタ達が揃い、詩乃の傷癒術で傷を癒して貰った冬路が、 「ふふん、まんまと誘い出されよったな。さ、作戦通りよ!」 目尻の涙を拭って大見得を切る。 リベリスタ達にとってエリューションの行動が想定外だったのと同じ様に、リベリスタ達が単なる餌となる獲物ではなく、己を滅ぼしうる強力な力を持った存在である事は、エリューションにとっての大きな計算違いだったのだ。 リベリスタとエリューション、同じく理の外、界の外より力を得た者達の激しい争いは……、だが期待に反して起こらなかった。 無論リベリスタ達がエリューションを見逃した訳ではない。 ウルスラはスターライトシュートでエリューションを打ち抜こうとし、アナスタシアもその両腕に炎の力を宿して先ほどの痛みを倍返しにしようとしていた。 しかし其のどちらもが届く前に、まるで魔法の様にエリューションの体がするすると縮み、そして煙の様に消えてしまったのだ。 後に残されたのは、床に開いた拳大の穴。 リベリスタ達の強さと脅威を学習したエリューションの取った手は、床を溶かして床下の換気スペースへの逃亡だった。 まともに7人を相手せずに、館に潜み、分断し、奇襲する。それがエリューションの選択。 悪意に満ちた館の探索が、今漸く始まろうとしている。 ●探索 負傷者の手当てを済ませ、一息ついたリベリスタ達は少し躊躇いは覚えたものの、やはり少人数のグループに別れての探索を選択した。 勿論彼等とて、それがエリューションの狙いである事は承知してはいるのだが、エリューションが一度逃げを選択した以上、大人数で行動していては姿を見せる事はないだろうと判断した為だ。 仮に人数を分ける事無くエリューションとの我慢比べを選択した場合、ほぼ確実に時間は彼等の敵に回るだろう。万一次のフェーズに移行されでもすれば、其れこそ取り返しの付かない事態となってしまう。 一つ目のグループは、地下室や主人の部屋を重点的に調べる虎太郎、ウルスラ、アラストールの3人。残る四人は2手に別れて2階の客室や寝室を左右の端から順番に探索していくことになる。 そして犬束うさぎの提案により、各グループに一人は不意打ちに対応出来るビーストハーフを混ぜる編成となっていた。 暗視能力と優れた反応速度を持ち、ついでに頑丈と便利な虎太郎を先頭に、コツコツと音の響く石段を、一歩ずつ下って行く3人。 「おばけなんて出ない。おばけなんて出ない」 カチカチと奥歯を鳴らしながら、小声で自分に言い聞かせるウルスラ。 地下室への階段には灯りが設置されておらず、持ち込んだ懐中電灯の光が頼りなのだが、一箇所しか照らせぬ光だとそれ以外の闇が余計に濃く感じられ、どうしても其の闇の向こうに何かの気配を感じてしまう。 そんなウルスラの手を、不意に小さな手が掴む。驚きに思わず息を飲んだウルスラの手を握るのは、 「ふむ、そう怯えずとも大丈夫でしょう」 私達も居ますから、と声をかけるアラストールだ。アラストールの凛とした表情はどこか冷たさすら感じるが、けれど握る其の手はまるでウルスラを気遣うかの様に暖かい。 「……若いってのは良いね」 微笑ましい若者二人の様子に、ふと口寂しさを覚える虎太郎。だが禁煙中の彼は愛用の煙管を咥えるだけで我慢し、漸く見えた地下室のドアに手を伸ばした。 さて鬼が出るか蛇が出るか。 一方、客室探索の片割れであるアナスタシアと冬路のペアは合体していた。 先程の痛い経験を活かし、不意打ちを感知、そして反応する事の出来る冬路をアナスタシアの背に搭載する事によってエリューションの奇襲に対応しようと言う、進化したアナスタシア。まさにアナスタシアMk-IIである。 と言う冗談はさて置き、まだ恐怖の残る冬路を背負う事で、少しでも安心させようと考えたのだ。 「はふぅん、やっぱりこっちはハズレかねぃ」 客室の様子を探り、ため息を漏らすアナスタシア。エリューションが居るならば捕食対象の一番居そうな客室が怪しいだろう踏んでいたのだが、入り口での遭遇戦を考えると、恐らく既に館の中に他の人間はもう残っていなかったのだろう。 どうしようか? と二人が顔を見合わせた時、館内に犬束うさぎの大声が響いた。 ●2度目の遭遇、そして8人目 エリューションと遭遇したのが、詩乃と犬束うさぎのペアであったのは少々皮肉気である。 詩乃はエリューションの退治よりも、寧ろ救える人が居るのなら救いたい。もしかしたら隠れて助けを待っているかも知れない人を探すと言う、退治よりも救助を優先していたからだ。 二人が開いた扉の先は、大きな寝室であった。すぐには部屋に入らず、天井や床などの目に付く場所にエリューションの影が無いかを確認する二人。 だが其の頭上の天井が酸で溶かされ、小さな穴が開いた事に、二人は未だ気付いていない。 さて、ここで最後の8人目『八咫烏』長谷川 又一(BNE001799)の話になる。 又一は洋館前に飛ばされてからこの方、ずっと気配遮断を使用し、物陰に潜んで仲間達を見守っていた。 何事も無くエリューションが倒されるのならばずっとこのまま隠れ続けて、仲間達にも知られずに終わる心算で居た。 何故なら敵が1体のみとは限らないから、どんな不慮の事態に陥り敵を逃すか知れないから、今正に起きようとしている奇襲の様に、仲間に犠牲が出かねない事態が起こる可能性がほんの僅かでもあったから。 鬼手は最後まで伏せておいてこそ、鬼手となる。 彼は気配を殺し闇に潜み続けた。だが彼が姿を現した時、彼は自分が重大な思い違いをしていたことを思い知る。 最初にその奇襲に反応したのは、やはり人外の反応速度を持つ犬束うさぎであった。咄嗟に構えたうさぎは、詩乃に警告を飛ばす。 エリューションの狙いは詩乃だ。反応が一瞬遅れた詩乃に襲い掛かるエリューション。 しかしうさぎは動けなかった。何故なら、彼女達に向かって『不意に気配を現した見知らぬ男』が駆け込んで来ているからだ。 自分を警戒して動きを止めてしまったうさぎを見、又一は己が犯した失策を知る。 仲間達にまで存在を隠していたのは確実にやりすぎだったのだ。 もしうさぎが彼の存在を知っていたならば、又一の存在はエリューションに対して正に鬼手として機能したかも知れない。 だがそれをフイにしてしまったのは、他ならぬ又一自身のミスだった。 寝室へと転がり込む様に逃げ、何とかエリューションの落下から逃れた詩乃ではあったが、完全に避け切れた訳ではなく身に纏っていた制服や黒いストッキングが酸によって一部が溶かされ、身動きする度にちらりと覗く下着が酷く扇情的だ。 だからと言う訳ではないだろうが、……いや、もしかすれば其れも原因だったのかも知れない。兎に角、エリューションの狙いは完全に詩乃へと向けられていた。 しかしエリューションの攻撃が詩乃の肌へと届く事は無かった。もがく様にびくびくと震えるエリューションの体に幾重にも絡まる細い気糸は、目の前の男への対応よりも詩乃を救う事を優先したうさぎと、己が失策は己の手で濯がんとする又一の二人の体から放たれたギャロッププレイだ。 「すまねぇ」 小さく短い又一の謝罪。うさぎには其の謝罪と先程のエリューションに対しての行動で充分だったのだろう。無表情のままうさぎは一つ頷き、そして二人は同時にエリューションに向かって跳躍する。 二人の猛攻を避ける為に窓を突き破ったエリューション、そして舞台は外へと移る。 いつの間にか、空からは雪が降っていた。 ●決戦 ちらつく雪を撒き散らす犬束うさぎのハイアンドロウの爆風。声にならぬ叫びを上げるエリューションを、又一から伸びた黒いオーラが貫いた。 「シノギ屋又一、死活打崩候」 掌の付け根を左右逆に合わせる独特の構えを取るうさぎの隣に、又一が並ぶ。 二人の攻撃が終わっても、だがリベリスタ達の攻撃はまだ終わっては居なかった。 「それにしても、ホント……何度見ても凄まじく吸血したくない姿をしてるねぃ、この子っ」 場違いに明るい声が響き、真空の刃が放たれる。そして斬風脚を放ったアナスタシアの背から飛び出し、一気に肉薄した冬路のオーラスラッシュの連撃が、斬風脚で抉れた痕を更に大きく削り取る。 うねりうねりと反撃の為に伸ばされた触手も、飛来した光弾、ウルスラの放ったスターライトシュートに潰される。 「……ふむ、どうやら間に合ったようですね」 ウルスラの隣から進み出るのは、剣を片手に堂に入った構えを取るアラストールだ。 「随分冷えるな、こんな夜は熱燗に限る」 軽口を叩く虎太郎は、既に何時でも仲間達を庇える位置へと移動済みである。 そして最後に、 「もう誰も傷付けさせない。皆はボクが守ってみせる」 剥ぎ取ったカーテンを体に巻き付け、その肌を覆い隠し、印を結んだ詩乃の守護結界が仲間達に防御の加護を与えた。 山の冷気に動きを鈍らせたエリューションと、勢揃いした8人のリベリスタ達。 其の戦いに決着には、それから然程の時を必要とはしなかった。 ――Mission Complete!―― |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
書いてて楽しかったです。普通の探索だけだと単調になりがちかなとも考えたのですが、色んな個性をちりばめて貰えてましたね。 あと面白い失敗もありましたしね。美味しかったですよ。 真面目に取り組んでいただける中にも、一寸した隙があるってのは大好きでした。 参加してくださった方々、有難う御座います。コンゴトモヨロシク。 |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
可愛かったです。プレイングが、ですが。 作戦が特に秀でて居るとかではなく、自分のキャラの特徴を良く捉えてそれをSTに伝えようと努力しているプレイングであると感じました。 余談の内容も、良い感じで程好く隙を作って下さったので嬉しく思いました。 優れていると言うよりも好みであると言った側面もありますが、私はこのプレイングを評価対象に選びます。 |