●なまえは 『も。』。 それは、とある異世界の生物である。 大きさは子猫程度。まん丸でぷにぷにした身体を持ち、飛び跳ねて移動する。手足や鼻、口はなくつぶらな瞳が2つ付いている。 人を襲うものの、個々の害は小さく、怪我人がでるほどでもない。 が、その習性に問題がある。 発生してしばらくすると、際限なしに仲間を呼び寄せ続けるのである。 塵も積もればなんとやら。数十も集まれば、その質量だけでも被害が生じ始める。 そして百匹集まると―――合体するのだ。 合体した『も。』は全長数十メートルにも及ぶ巨体を持つ『キングも。』に進化する。 最早、居るだけで驚異。動けば被害は鰻登り。 なんとしても、合体する前に殲滅しなければならない相手なのである。 ●ぷにぷにしているらしい 「『も。』が出てくることがわかったの。だから、すぐに倒しに行ってね。場所は――」 うさぎのぬいぐるみを抱きしめながら、真白イヴは淡々と告げる。 発生予定は17時間後、郊外のリゾート地であるという。 数は6匹。キング化するまでにはかなりの余裕があると見ていいだろう。 個体ごとは弱小と言ってもいい相手である。今から現地に向かえば問題はあるまい。 それに、仕事だけで行くには少々勿体無い場所でもある。 「終わったら遊んできてもいいよ。でも、仕事はちゃんと終わらせてからね」 ぬいぐるみに顔をうずめ、彼女は布地と綿に息を吐きかけた。 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||||||||||||||||
■難易度:EASY | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
●砂利を踏みしめるような音の後に壮大なBGM ぽぽぽぽぽぽんっ。 小気味良い音をたてて、それらはそこに出現した。 まんまるの体躯。目や鼻、口はなく、つぶらな瞳が二つ付いている。弾力があるのか、砂浜を跳ねて移動している。赤や青と六匹の色はそれぞれ違い、逆に言えば個性らしきものはそれしかない。 明らかにこの世界の生物ではないものだ。もしも一般人に見つかれば、たちまち写真がインターネット上に流され、一時のニュースになるだろう。CGだ合成だと言われ、すぐに沈下するのだろうが。 無論、異世界のものである。ひと目で凶暴でないと分かる外見であり、そのとおりではあるのだが、問題は凶暴性とは別のところにあるものだ。 それを放置してはならない。ともすれば愛らしいとも思える外見に、生存を許してはならない。発見の、討伐の、殲滅の遅れたそれらが起こした災害は、過去に間違いなく存在するのだから。 しかし、今回についていえば危惧する必要もないだろう。なぜなら、ここにはもう彼らがいる。 「つまるところ、ただ単純に討伐すればいいのよね? このへんな生物を」 如何にもがっかりだ、という声色で『絶対零度の舞姫』アイカ・セルシウス(BNE001503)は出現したそれらを眺めた。戦いに楽しみを見出す彼女にとって、この程度の相手では満足などできはしないのだろう。 「なに、面倒なことがない依頼は、楽でいい……」 『エッジ・ウォーカー』柘植 浅葱(BNE001684)にとってすれば、単なる害虫駆除に過ぎない。そもそも、主な目的は仕事の後の行楽である。早々に終わらせて、気持ちを遊びに傾けてしまいたいものだ。 「任務が終わったら、寛がせてもらいましょう。何もせずに帰るだなんて、勿体無い」 そういうものの、『消失者』阿野 弐升(BNE001158)の意識は異界の生物に向いている。先に仕事をと、彼のプロ意識に寄るものだろう。 「あれが『も。』か。『も。』、なんと心踊る響きか」 語感が気に入ったのか。も、も、と口ずさむ『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。アザーバイドの外見が気に入ったのか、にやける顔を抑えようと必死である。 そして、ここにもその見た目に魅了された者が一人。 「あんっ。こんなにもぷるぷるだなんて!」 『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)は『も。』の出現と同時に結界を展開させる。アークによる人払いは済んでいるが、念には念を入れるに越したことはない。 「このハオー様の伝説を刻む時がついにやってきた……」 仁王立ちで腕を組み、『も。』らを睨みつける『中二病大明神』世紀末・ハオー・伝説(BNE000301)。彼からは眼前のぷにぷに共とはまた違う、異世界の匂いがする。 「ハハッ、やっぱり最初の敵はスライムじゃないとね!」 息子の片目に隠れた妖怪親父ばりに特徴的な高音で笑うは『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)。『も。』はなかなかに愛嬌のある敵だ。しかし、驚異となる前に倒してしまわねばならない。 「とても、眠い、の」 『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は寝ぼけ眼で周囲を見渡す。花より寝床。彼女の場合、戦闘よりも行楽よりも、睡眠が上位に来てしまうのだ。 「貴方達が、一緒に、参加する方……氷雨那雪……よろしく、なの……」 さて。 長々と、堅苦しい文面で誠に申し訳ない。 ぶっちゃけ、これはスライム叩きだ。ゴブリン狩りだ。棒切れを竹槍に持ち帰る前の小事に過ぎない。 宿賃程もする草を食いながらであれば、はたまたえらく青い瓶の液体を口にしながらであれば、諸君ら一人でもなんら問題のない相手に過ぎない。 しかし、冒険の第一歩とは得てしてこういうものだ。群れの長を仕留める偉業も。雑兵との戦から始めるものだ。 ならばこれも楽しく行こう。物語を加速させ、禍福をおりまぜた輝かしくもどす黒い未来にむけて、はじめの一歩を。 それこそ、舞い落ちる木の葉を掴みながら。 ●武器屋付近にて村人のセリフに「わかっとるわ」と胸中で突っ込んだ思い出 定石。 『も。』がこちらに気づくと同時、前衛は疾く、疾く走る者と、一歩前へ踏み出し構えるものに別れる。後衛は直ちに詠唱を開始。今の自分を、仲間を最大限へと底上げする。 前衛攻撃、中衛防御、後衛支援及び攻撃と、パーティ戦における理想的な陣形と言えるだろう。全員が連携を念頭に置きながらも、個々の能力を発揮させる。 「お手並み拝見させてもらうわ……期待は、してないけど」 接敵より先に、アイカの剛脚が風を切る。裂き貫く為に生み出された不可視の刃が、緑色のぷにぷにに命中する。 緑色、半分になった。 「弱っ!?」 誰ともなしに誰かが叫ぶ。この生き物。耐久性もへったくれもないのである。 「三千世界にあまねく精霊たちよ! 我が元に集え! 我が名は中二病大明神・世紀末ハオー伝説!」 いや、ある意味凄い。 当然ながら、全て彼の妄想である。この辺に特殊な精霊は居ないし、彼に集める能力はないし、っていうか自分で中二病って言っちゃったよ。 それでもその猛々しい肉体を強ばらせ、ともすれば小さくも見えるその手の剣を力強く叩きつける。 「これが選ばれし者の力か……宇宙の塵となれ! ギャラクシーインフェルノ!!」 ヘビースマッシュです。 半分になった緑色に、唐竹割りが突き刺さる。白刃は柔らかいまんまるを切り裂き、二分割を四分の十字へと止めを刺した。 赤い塵となって、緑色が消滅する。 まずは一匹。繰り返すが、これはスライム叩きである。 「もっ。!!!」 突然の大声に、驚いた仲間たちが振り返る。 「い、いや、なんでもない。気合の声だ、うん」 いけないいけない。あまりの可愛さに声を出してしまった。 色とりどりのぷにぷにでまんまる、つぶらな瞳で見上げては、怒ったり驚いたりと感情豊かに動き回っている。 かわいい。話しに聞くキングは、きっともっと可愛いのだろう。しかし悲しきかな、辛きかな。これ、敵なのよね。 「お前たちが大きくなると困るのでな……」 印を組み、守護結界を発動。リベリスタ達を光の防壁が包みこむ。ただでさえダメージを与えようもないぷにぷに共が、ちくりともさせられなくなった瞬間である。あれ、詰んでね? そして防壁に阻まれ、体当たりをしても弾き返されては転がる『も。』を、式神の鴉がつついていく。ちくちく、ちくちくちくと。痛がって涙目になる『も。』。 「か……かわいそう。い、いや、こんな苦しみを超えて強くなるんだ!」 拳を握り締め、決死の思いで自分に言い聞かせた。 コンセントレーション。 脳の伝達処理を飛躍的に向上させることで、集中力を引き上げるプロアデプトの秘技である。 弐升、浅葱、那雪の三名は、戦闘が始まると同時にこの秘技を用い、己にブーストをかけていた。 そして一斉に放たれる気糸の精密射撃。それぞれが申し合わせたかのように同じ個体、紫色のそれへと突き刺さる。 「その方が効率的だから」 戦闘において、極めてロジカルに思考し、行動することを得意とするプロアデプト。その計算されつくした展開の前には、単なる異界の野生生物など敵ではないのだ。 いや、別に誰からしても『も。』は敵ではないのだけれど。 「これでは作業だな。退屈してきた……」 ただ撃つだけの流れ作業に飽きだした浅葱は、気糸の射出を止め、走りだす。 「やっぱり、直接殴る方が性に合いますね」 弐升もそれに続く。前衛としての役割遂行も可能なプロアデプトならではの行動だろう。 浅葱に鷲掴みにされ、持ち上げられる紫色。爪が食い込み、痛みにもがく。ドクン、と鼓動のような攻撃音。みるみるうちに『も。』の目から精気が失われていく。血を吸う鬼の一撃が、灰は塵にと掻き消した。 ターン進行。『も。』の攻撃。 仲間をやられた赤色のぷにぷにが、接敵したヴァンパイアへと突撃する……したかった。 精確無比の気線。極細の一糸が、赤い個体を貫く。 勢いをそがれ、虚しくぽてんと落ちるそれを、弐升の連打が迎撃する。四散し、赤霧となっては砂混じりの虚空に消えていった。 「大丈夫か?」 あくまで後衛として構えていた那雪の射撃が、浅葱の窮地(?)を救ったのだ。 振り向き、自分を助けた少女に向けて薄く笑う吸血鬼。どう見ても面白い獲物を見つけたぞという顔だが、これ、ありがとうのサインである。 魔弾の射手。美月の放つ光陰が、近くにいた『も。』の一部を削ぎ落した。 「ぬっ? 意外と難しいな……」 中心を打ちぬきたかった美月だが、外してしまったようだ。それを見た『も。』が、仕返しとばかりに近づいてくる。 「ちょ、近付くな! 来るな、来るな、やだぁ! く、来るなぁ!!」 涙目でクロスを振り回すネズミの少女。どうやら、このぷにぷにが恐ろしいようで。 「こ、怖いわけじゃないからね!? でも来るなぁ!」 あたふたする美月を守るため、ステイシーが『も。』の前に立ちふさがる。 「一口サイズに切り刻んで、美味しくしてあげるわぁ♪」 重音。 振り下ろされた剣戟が、身を減らした青いそれを両断する。反撃の意志もむなしく、異界の珍獣は消滅した。 あと、一匹。 ●おや? 『も。』のようすが……? ぽんっ。 小気味良い音。でもこれ今一番聞きたくない。 残るアザーバイトは黄色だけである。そう、黄色が二匹。 ……二匹? ぽぽんっ。 いいえ、四匹。 「はじま……った?」 増殖。増殖。一は二へ。二は四へ。目指すは百匹。高みは王へ。 ぞくりと、嫌なものが背筋を駆け上る。リベリスタとしての本能が告げるのだ。恐ろしいことが起きると。 「た、たおせえええええええええっ!!」 殺到する。殴りつける、斬りつける。倒せ倒せ倒せ倒せ。 疾く速く、増えるよりも早く、弾けるような音に危機感を感じながら。 幸いにして、開始数は少ない。ねずみ算に増えたとしても、こちらの殲滅速度がそれを上回っている。 渾身の一撃。それは誰が放ったものだったのか。 最後の一匹が増える素振りを見せた刹那、可愛くも恐ろしい黄色のぷにぷにを必殺のそれが元の世界へと送り返した。一瞬の静寂、安堵の吐息。 戦闘終了、お疲れさまでした。 さあ、遊んで帰ろうか。 ●勇気がある者を略して勇者と呼ぶのなら 「辛く苦しい戦いだった……」 可愛らしい『も。』に対し、涙を飲んで戦った勝利の余韻に浸りながら、雷音は空を見上げた。ああ見よ、まるで自分の功績を祝福するかのように、あの高き空にも父の顔が浮かんでみえるではないか。(ご存命です。) しかし、倒しきったのだから遊ぶ時間である。せっかくだ、誰かに声をかけてみようかと、楽しみと期待に寒さも忘れ、獅子名の少女はあたりを見渡した。 そう、寒いのだ。冬だもの。この寒気の中、まさか海に入ろうなどと、それは無謀に過ぎない。 「ハハッ、そう言われたら逆に挑戦したくなるよね!」 罰ゲームをふられてモノマネに逃げたやつがよくやる顎を突き出したものではない方のような高音で、美月は誰かに買い言葉を返した。 ばさりと、服を脱ぎ捨てる。その下に現れる水着。どうやら衣服の下に着ていたらしい。 「寒ッ……あ、いやなんでもないよ? ハハッ、なぁに、リベリスタの僕には楽勝さ!」 意気揚々と海へダッシュしていく美月。たとえ訓練や健康のための寒中水泳と言えど、準備運動すらせずに泳ぎ始めれば、 「……ッキャー!!? お、お、思いのほか冷たッ、痛ッ、ちょ、寧ろ痛い!?」 こうなるわけで。 「ああ、素敵な好き者がいますね。大丈夫なんでしょうか、アレ」 言いながら、携帯電話のカメラ機能で何枚も写真を撮る弐枡。そりゃあこの寒さで泳いでいる猛者がいれば、記録に残したくもなるだろう。 「嗚呼嗚呼突っ込んでいったわねぇ、なにしてるのかしらん?」 その光景を、近くのレストランで窓辺の席からステイシーが見ていた。潮風は、金属でできた彼女の肌には良い影響を与えない。早々にこの場所へ避難していたのだ。 「それはそれで、錆びる感覚がたまらないのだけどぉん♪」 その正面の席では、浅葱がウェイターに持参の包みを手渡し、何かを伝えている。 「実は、良い茶葉を持ってきたんだ。君たちの分もなくはないのだが、どうだろう?」 「あら、いいわねぇん。でもぉ……二人分でいいわぁん。そっと、静かにねぇん♪」 唇に人差し指をあてたステイシーが眼を移したもう一席。そこでは、どこから持ってきたのか、一枚の毛布にくるまった那雪が可愛らしい寝息を立てていた。戦闘の最中はあれほど強く張り巡らせていた意識も、平時には眠気で保つことができないようだ。 「確かに、睡眠の邪魔をするわけにもいかんな。しかし……あれ、溺れてないか?」 ぴきーん。 「つ、つった! 足つったたたたたたたた痛い超痛いギャバ!? ガベボボボボ……」 地上に出た海老のようにきっかいな動きでしばらくの間もがいていた美月だったが、ほどなくして動きに力がなくなり、ぴくりともしなくなる。完璧な溺死体のポーズで、波に攫われていった。 「ウォークインクローゼット!」 ぐったりとした美月を抱え上げ、美しいバタフライのフォームで筋骨隆々の男が水面から顔を出した。 「インザシー! ファイティングスピリット!」 失神した濡れ鼠と同じく、寒中水泳へと洒落込んでいたハオーである。弾ける水飛沫。吹き付ける風。だがしかし、彼はこの極寒の地獄で肌に汗すら浮かべている。これが心頭滅却のなせる業なのか、思い込みとはかくも激しいものなのか。 美月を肩に担いだまま、岸に戻ると、ハオーは明後日の方向に向けてニヤリと笑い、大きなくしゃみをした。 あ、風邪ひいた。 「この季節の風は、身に凍みるわね……」 勇ましくも夏の格好で突貫した二名と違い、アイカは正しくコートを身に纏い、一人海風に当たっていた。細波の音に思うのは、過去の強敵か、未だ見ぬ先に住む猛者か。 「……そろそろ戻らないと、風邪ひきそうね」 冬の海に背を向け、ホテルへと歩き出す。その先で、土産物選びに悩む雷音と弐枡の姿が見えた。 了。 |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
モデルは四つひっつけて消すアレだったりします。 |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
組み立てた物語の中で勝手に動き回ってくれたので、非常に書きやすく、また楽しませていただきました。 どうにも、私は積極的に自分らしく動いていただければ筆がのりやすいようで。 今後も、このキャラクターを貫いていただければと存じます。 追伸。これ本当に怒られないんだろうな? |