●不運な男 「貴方達に頼みたい事がある」 ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に真白イヴは何時もと同じ調子で切り出した。 「仕事みたいだな」 「そう。……今度の任務はある男性から『アーティファクト』を回収する事。 分かっているとは思うけど、放っておくとフェーズが進行して大変な事になるから……」 破界器(アーティファクト)は異世界の侵食因子の影響を受け、エリューション化した物品の総称である。 無機物そのものが意志を持ち独立して動くエリューションゴーレムの場合とは異なり、通常『それそのもの』が自発的に何かを起こす事は無いがフェイトを持たない人間に扱われる場合、エリューション特性を喪失しないアーティファクトは結果的にはボトム・チャンネルの崩壊を引き起こす一因となってしまうのだ。 「……普通に扱うには危ない品も多いしな」 無論、溜息交じりにリベリスタが言った一言も理由である。 強大な魔力で奇跡を容易に引き起こすアーティファクトは時に社会のバランスさえ脅かし得る。 使い手の善悪もさる事ながらその力は普通に人間社会に野放しに出来る範囲には無い。 「どんな品なんだ?」 「……凄く、運が良くなるミサンガ」 「何だ、それ……」 「言葉通りの意味よ。本当に運が良くなる。信じられない位の幸運が使い手に現れ続ける――」 言ったイヴは端末を操作してメインモニターに一人の男の映像を映し出した。 ――ははははは! まった、勝ちだ―― モニターの中で一人の青年が高笑いを上げている。 映像の背景は滲んでいて、ディティールが薄い事からそれはフォーチュナが見た光景である事が分かる。 「彼がその人。名前は大貫信二。今年で二十一歳の浪人生でギャンブルが好き。 調査に拠れば家族構成は両親と妹、受験の為に地方から東京に出たみたいね」 中肉中背にしてこれといって特徴のない青年である。 第一印象からモノを言うならば些か幸の薄い感じがする――と言うか意志が強くなさそうにも見える。 調子に乗り易く、小心で、その癖僻みっぽく神経質――と。イヴの評価は中々辛辣だった。 尤も、浪人生の身の上でギャンブルに精を出す位なのだからその見立ても外れては居ないだろうが。 「アーティファクト『フォルトゥーナ』を手に入れてから、彼はあらゆるギャンブルで連戦連勝。 道を歩けばお金を拾い、好きな女の子と上手くいって――模試をやれば勘だけでA判定。絶好調ね」 淡々と言うイヴの表情は殆ど変わっていない。 「……でも、なんだろ?」 しかし、その口調からやや暗いモノを感じ取ったリベリスタはその一言で先を促した。 強力過ぎるアーティファクトは大概の場合、同じ位に強烈な副作用を伴う事が多い。 誰か一人の――大貫信二の、いや。それに関わる多数の人間の『運命』さえ変えてしまう『幸運(フォルトゥーナ)』が『唯の善意の塊』と考えるリベリスタは居ない。 「……『フォルトゥーナ』はね。陽炎みたいなもの」 「何だそれ」 「その人の持ってる『幸運の最大値』を前借してるだけに過ぎないの。 人生で起きる幸運を――大貫信二はたった二週間で使い切ろうとしてる。 その先の彼の人生がどうなるかは……私なら考えたくない」 空調の効いたブリーフィングルームは快適だが外は汗ばむ陽気である。 真夏だというのにリベリスタは身体の芯がぞっとする感覚を覚えていた。 言葉にすれば容易いそれは突き詰めて考えれば最大に近い恐怖でもある。 二十そこそこにして残りの人生を『消化試合』にしてしまう、その『不運』は言葉にし難い。 「任務は――『フォルトゥーナ』の回収か」 「それか、破壊」 イヴは小さく頷いた。 「大貫信二は『フォルトゥーナ』の力を信じ切ってる。 肌身離さずそれを身に着けている筈だから盗みだす事は不可能。 同時に彼には『フォルトゥーナ』の魔力が働いている筈だから、簡単に取り上げる事も難しい」 「だろうな。と、なると……」 難題である。無論、唯の人間である大貫を傷付ける事は出来れば避けたい所。 「方法は幾つかあると思う。 一つは貴方達が『神秘』の存在を大貫信二に認めさせ、『フォルトゥーナ』の危険性を自覚させる事。 もう一つは力づくで『フォルトゥーナ』を何とかする、方法」 「おいおい」 大貫が激しく現状に満足している以上、総ゆる説得には上手い言葉とプランが必要になるだろう。 リベリスタそれぞれが様々なアプローチを試みてみるのも一つの手だが…… いざ、力技に出るとしても身に着けたミサンガだけを破壊するのは言うに及ばない難しさである。 「この仕事、少し厄介かも知れないけど。お願い出来る――?」 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||||||||||||||||
■難易度:EASY | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
●幻日I ギラギラと照り付ける太陽が眼窩の街をうだるような夏色に染めている。 地球から一億五千万キロも離れた巨大な熱の塊は宇宙的規模から見れば実にささやかな『距離』の差で世界を如何様にも染め変える。 仮に壮大な意味で運命を考えるならば、この地球は遍く生物にとって信じ難い程の――天文学的な数字(タイトロープ)の上の奇跡と言える。 煮えそうなアスファルトの照り返す熱も、痛い位の直射日光も、人間の適応出来る狭い範囲に収まっているのだから恨み節を向けるのも失礼か―― 「……暑いの……」 ――とは、言え。 浪漫に身を浸しても完全な現実逃避にはちと遠い。 「これなら、冬の方が良かったの……」 げんなりした口調でそう続けたのは『冬服』に身を包んだ『鋼鉄妖怪』佐野倉 円(BNE001347)だった。 「非常識だとは思っていたけれど……」 「……本当にすごいですね」 『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)の言葉を『小さき聖女』天野 唯(BNE000354)が繋ぐ。 「ううむ、科学の進歩は日進月歩なのだよ……」 『カチカチ山の誘毒少女』遠野 うさ子(BNE000863)が頷き、仲間が倣う。 遠くに入道雲が見える。 蝉の音は忙しなく鼓膜に触り続けている。 「テストとは言え……」 『魔女』高原 恵梨香(BNE000234)は柳眉を寄せ、空を眺めた。 肌を突き刺すような日光も、肺の中を満たす熱い空気も、肌を伝い落ちる汗の感触も、仮想空間の出来事とは思えない。 それは『実戦経験』を積める証明とも言えるのだが。 「……いえ、本当の任務だと思うべきね」 「うむ。世の運命すら容易く操ろうとは、厄介な代物じゃのう。この――ほ、ほるとーな? ……持ち主が乱用するのは仕方あるまい。当人の知る術の無いところであるし」 『鬼出電入の式神』龍泉寺 式鬼(BNE001364)は横文字が苦手である。 リベリスタ達の為すべきはアーティファクト『フォルトゥーナ』を大貫信二なる浪人生から奪取する事である。 そのミサンガは使用者の幸運を『前借』する事で凄まじい効力を発生させると言う。 「まぁ、早々にとっ捕まえて手首ごと吹っ飛ばして終わり――」 「――おいおいっ! そりゃあんまりだぜ!?」 物騒な事を言う『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)を『スーパーストロベリー』苺野原 ジョー(BNE000275)が遮った。 「血相変えるでない。強引が過ぎては退屈だからの。 折角の機会、せめても楽しまねばのぅ。それが胡蝶乃夢(カソウクウカン)であろうとも……」 少女の言葉に強面は「ならいいんだけどよ」と安堵した。 リベリスタの主義信条は様々。任務では無いが、ジョーは信二を救いたいと強く考えていた。 「心を入れ替えるのなら助けてあげてもいいわよね。 一度プロト・アークが解決している事件だもの。よりスマートに解決したいものだわ」 「ああ!」 恵梨香の言葉にジョーは力強く頷いた。 光の中に幻(かげ)が踊る。 二度訪れた夏の日は、遠い幻想の陽炎に揺れていた。 ●奇妙な男 「よう、最近羽振りがいいみたいじゃねぇか」 馴れ馴れしく纏わりつく奇妙な男の存在に信二は露骨に迷惑そうな顔をした。 「出玉も御機嫌、アンタも御機嫌って訳だ」 信二の隣にどっかと座った彼は自分の台に注目するのもそこそこに身を乗り出すようにして快調なリーチを回し続ける信二の機体を覗き込んでいる。 「何時もこんななのかい?」 「はぁ、まぁ……」 ジョーの言うのは足元にうず高く積まれたドル箱の物語る信二の快調ぶりである。 「あの、もうちょっと……」 「あぁ?」 何かを言いかかった信二にジョーはわざとらしい大声を出して聞き返した。 「……いえ、何でも……」 信二はもう何も言えない。 (今日は厄日だ……) 始まりはここに来る道すがらの出来事だった。 迷子の少女を助けたはいいが彼女から聞かされた『呪いのミサンガ』の話は有り難くなかった。 聞けば聞くほど身につまされる所もあり、加えて…… (気のせいだとは思うけど……冗談きついぜ) ――お兄さんは、私みたいにならないでね―― 信二はその言葉に加えて別れ際の彼女が煙のように姿を消したように見えたのが気に掛かっていた。 言われてみれば隣に立っているにも関わらず、やたらに気配の感じられない少女だったのである。 これは気配遮断や透明化を駆使したうさ子の仕業である。 彼女は持ち前の能力を生かして芝居っ気たっぷりに信二を脅してみせたのだ。 「兄ちゃん、玉借りるぜ」 「……」 積まれたドル箱を豪快に一つ持っていくジョーに信二は何とも言えず憮然とした顔をした。 ジョーはふてぶてしい態度とは裏腹に内心だけで彼に謝る。 (悪ぃな) 彼の目が湛える感情を厚いサングラスは隠して見せない。 先陣のうさ子を始め、仲間達は様々な手段で信二に『フォルトゥーナ』を手放させる算段を練っている。 その一方でジョーの考えたのは『大貫信二の幸運の浪費を抑える事』であった。 このジョー、強面に似合わずすこぶるいい奴なのである。 (ただ黙って見てるワケにゃいかねーだろ? 今、あんたにゃ迷惑かも知れねぇが…… 分不相応な破界器に振り回されて破滅していく姿なんて悲劇としか言いようがねぇよな? 俺はこういう救いのねぇ話を聞くと、こう、胃の辺りがキューッと微妙に苦しくなっちまう性質なんだよ) ジョーの想いが通じた訳では無かろうが不意に信二は未だに大当たりを続ける席を立った。 取り敢えずこれでこのパチンコ店での『蛇口』は締められたという訳だ。 「……もういいのかい?」 「……ええ。良ければ台、どうぞ」 『フォルトゥーナ』があれば幾らでも大当たりを引く事は出来るのだから未練も無いという事だろう。 信二からはジョーを厄介払いしたいという様子がありありと伺えた。 「おっ、ちょっと待てよ。あんた面白いからな、もうちょっと付き合わせてもらうぜ!」 歪む信二の顔に構わず、心優しいヲタ……ヤンキーは彼の後を追う―― ●天運 信二の遭遇した奇妙な相手はジョーのみでは無かった。 何とか彼を巻いた信二は行きつけの雀荘へと逃げ込んだ。 ジョーにとっては作戦通りである。雀荘では唯が信二へのアプローチをかける事が決まっていた。. (意外と何とかなるものですね……) 入店を得意の幻影で何とか誤魔化した唯は『フォルトゥーナを得て以来の初めての不運』から何とか逃れた信二と同じ卓を囲う事に成功していた。 店内に人影は疎らである。これは唯の結界による効果もあるのだが、それも奏功していたと言えるだろう。 「……さっきは息を切らせてどうしましたか?」 「いや、変なのに絡まれてね。最近は調子良かったんだけど」 配牌を進めながら唯は信二と言葉をかわす。 唯の姿はやはり警戒感を削ぐのか信二の様子はジョーの時に比べてリラックスしている感がある。 しかし、それも唯が次の言葉を発するまでの話であった。 「そのミサンガを拾ってから――ですよね」 信二の顔がぎょっとしたようなものに変わる。 その表情の変化を見極めてから唯はゆっくりと言葉を続けた。 「それは良いものではありません。それが与えるのは偽りの幸運。 絶対的な幸運を約束するミサンガが、効力を失いつつある…… 先程の出来事も影響が無いとは言えないのでは? この勝負で私がそれを証明したいと思います」 『フォルトゥーナ』を向こうに回しても唯の口調には自信が溢れていた。 そのからくりは彼女が幻影をもって配牌を『変えてみせる』事が出来るからである。 「で、出来るもんならやってみろ」 親は、信二。 唯はこの操作も考えていたが、注目される賽を幻影で操作するのは危険が過ぎた。 怪しまれれば先の上がりも調べられかねない。それは見えない相手の牌も然りである。 (しかし、問題ありません。ルールはさっき本で覚えました) 冷静な唯は先の展開を考えていた。 (国士無双十三面待ちならば逃れる事は不可能でしょう) ……しかし、結果としてこの勝負はその唯の付け焼き刃こそが仇となった。 「和了だ」 「え!?」 牌の出揃った途端、やぶからぼうの一言には流石の唯もぎょっとした。 「俺の強運は尽きねーよ」 げに恐ろしきはフォルトゥーナ。 倒された信二の十四牌は、想定し切れぬ天和の姿。九連宝燈はやり過ぎだ…… ●内包量 信二とて馬鹿では無い。尋常ならざるフォルトゥーナと怪しい周囲の因果関係は既に察していた。 しかし幸運は麻薬のようなものだ。信二が簡単にそれを手放す気にならないのは必然と言える。 幸運が齎す富は素直に受け入れよ。但し手放す時は渋るべからず。 偉人はそう言ったけれど、大貫くんは恐らく、渋るでしょう。 勇の者に運は味方す。されど彼を担ぐは偽りの運なのだから―― 唯から逃れるように競馬場を訪れた信二を待っていたのはそれを想定していたこじりだった。 「私は、馬が好きで見に来ただけよ」 口の上手いこじりである。首尾良く一緒になり競争する馬達を眺めながら呟いた。 「でも、『これ』は私が当ててるのではないわ。貴方、最近ツイてるでしょう?」 全て的中した馬券をひらひらと振ってこじり。彼女の投票した馬券は全て信二に乗ったものであった。 「またか」という顔をして訝しむ信二をこじりは「聞きなさい」と制した。 こじりの独特の威圧感に圧されてか、信二は黙って言葉を待つ。 「あなたは運命をどんなものと考えるかしら? 例えば運に量が存在すると仮定して、私は当然個人で内包量が違うと思っているの」 「……」 「同じ見えない物なら、体力だって使えば落ちるでしょう? 私は運もそうだと思うのだけれど」 こじりは二つの言葉のアクセントを『私は』に置いた。 「貴方の幸運は明らかに異常なのに尽きない。 貴方の運命に働き掛ける『もの』が無償ならばそれは幸せだけれど。 その運は何処から来たのかしら。本当に善意なのしから。……どれ程使ったのかしらね? あの一着の馬とあなたが運命を消費する速度、どちらの方が速いのかしら」 無言の信二の手にこじりは自身の手を重ねた。 信二の手首には確かな存在感を示すミサンガが嵌められている。 「あげるわ。貴方の運だもの」 当たった馬券を彼の手に渡しこじりは悪戯っぽく言葉を付け足した。 「中々楽しかったわ。……そのミサンガ、素敵ね」 ●岐路 長い影法師が伸びていた。 「それにしても東京とは落ち着かぬ街じゃのう。 人も物も、誰も彼もが、時計の針のようじゃ。生きた心地がせぬわい」 長い黒髪の少女は姿勢良く赤い着物を纏い、頭には鬼の面を引っ掛けている。 「長い生(みち)、急ぎ過ぎるは又愚か。そうは思えぬか?」 風変わりな日本人形のような式鬼は路地の先に立つ信二の姿を見据えていた。 結界に包まれたこの場は既に舞台。 「私の占いは良く当たるのよ」 占い師のような扮装をした魔女――恵梨香は大人さえたじろがせる威風を込めて言葉を紡いだ。 「それが呪いのミサンガって話、あながち嘘じゃないわよ」 「あ、あんたらは……」 混乱する信二を囲むような形で次々と現れた面々の中には彼にとって知った顔が幾つもあった。 「やっほー、お兄さん♪」 「又会ったな」 「母様が言っていました。言っても判らない男は、一発殴って正気に戻せと」 「ええ、見届けてはあげるわよ?」 うさ子、ジョー、唯、こじり…… やや手痛かった唯がちょっぴり過激なのは御愛嬌。 「くそ! 訳が分からねぇ! やっぱ皆ぐるだったのか……!」 「ダメ浪人、そのまま一生分の運を使い果たすつもりかぇ?」 身構える信二に瑠琵は呆れたように言葉を投げた。 「愚か者。それは幸運の前借装置じゃ。ミサンガは切れて願いを叶えるものじゃろうに」 目を細めた瑠琵からは凄みが感じられた。姿形からは想像もつかぬ何かが在る事は常人にさえ明白だ。 「酷い事を言ってはいけないの!」 辛辣極まる瑠琵の言葉に応えたのは信二ではなく円だった。 「この人は平凡な社会的敗者候補生なの。特別どうという事も無い人物なの。普通のダメ人間なの」 言葉に詰まる信二に向き直った円はそのジメっとした表情を精一杯に明るくして、 「人生は結局プラマイゼロという話なの。 平均的落伍者である信二さんにはきっと平均的落伍者なりの幸せが訪れるの」 そんな風にエールを投げる。 「誰が渡すかよ!」 「火に油を注いだ気がするんだけど……」 「……の、ようじゃな」 信二の激昂を見て恵梨香、式鬼。 円の言葉は信二を焚きつける結果となったのだ。 ……とは言え信二に後一押しが必要なのは誰もが感じている共通の認識だった。言ってしまえばこれは呼び水に丁度良い。 「仕方ないわね……!」 恵梨香の杖の先から光の矢が迸る。これは威嚇。 「……っ!?」 信二は明らかな動揺を見せたが、本番はここからだ。 「どーん!」 「その前借、どれ程持つものか……ちと試してやるのじゃ♪」 一般人にも全力で――そう言わんばかりの円が雷気を放ちながら信二へ向かう。 同時に凄絶に笑む瑠琵の符が宙空で鴉となり彼に襲い掛からんとする。 ――が、しかし。 「!?」 円の目の前に突然電柱が倒れ込んでくる。 咄嗟に繰り出された一撃で彼女は電柱を砕くも攻撃は不発。 同時にその残骸が遮蔽となり式符・鴉も阻まれる。 「……な、なんだよ、これ。お前等……!」 この異常な事態には混乱していた信二も状況を思い知った。 「おー。こうなるのだね」 うさ子が驚き、 「今のが運命の消耗よ」 こじりが端的に言う。 「繰り返した先にあるのは――枯渇。話は聞いたでしょう?」 信二は思わずへたり込んだ。 彼の心はとっくに神秘の存在を認めていた。 この些か乱暴な面々が真実を語り、一応は自分の身を案じてくれているという事実にも気付いていた。 「……努力次第で使った幸運も回復するわよ。多分」 「は、ははははは……」 恵梨香の慰めに力無い笑いを零した信二は右手のミサンガを外して、こじりの手の上に置いた。 「あの時のお返しかしら?」 ●幻日II かくして事件は二度目の終わりを迎えた。 信二の諦念は命惜しさもあったろうが、リベリスタ達が手を尽くしたのもあっての事。 あれを変に受け取れば「俺は無敵だ」等と考える可能性もあったのだから当然である。 「フォルトゥーナ……俺達に会えたのも『幸運』か」 面々はジョーの言葉に合点する。 現実と見違えるような幻日、その時間が閉じていく。 「此度の件は過去の事件の再現か。本当はこの先……いや、止めておこう」 黄昏時の景色を眺め、遅い帳が降りる前の空を眺めて式鬼は謳うように呟いた。 ――其も此れも、真夏(なつ)に滲んだ陽炎か。手を伸ばせども届かざる、全ては遠き無為なるぞ。 |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
捻くれたシナリオを作った所、特殊な相談形式と相俟ってプレイングの場所や時系列が見事にばらばら。 自業自得と言うより最初からそうなる想定はあったので慌てません。 クールにココア等を啜りつつ独立シーン連打で全体の流れを作るという手法に出たのですが…… その時、YAMIDEITEIは重要な事を忘れていたのでした。そう、自身の書き過ぎ症候群の事を…… 最初に終わった時の字数は8264。圧縮は2264。ほぼ6000でお届けします★ あ、使いたいプレイング一杯ありました。主に激しく酷いヤツとか。 使ってあまつさえプレイング評価に乗せてこれがPBWの可能性だ、BNEは自由(キリッ)とか言おうかと最後まで悩みましたが自重しました。 我慢の出来る子・YAMIDEITEI。 |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
非常にバランスの取れた良いプレイングです。 バランスが取れていた分、若干他との兼ね合い等も含めて圧縮の割を食った部分はありますが、やるべき事をきちんと抑えている上、行動方針や心情、キャラクターカラー等が非常に明瞭に捉えやすく表現されています。 プレイングにおいて『分かり易い』というのは実は軽視されがちですが非常に重要な事だと思います。 ストーリーテラーにきちんと意図の伝わりやすいプレイングをかける事はやはり大切です。 このプレイングはリプレイを華麗にゲームメイクする司令塔(バランサー)といった感じでしょうか。 そしてもう一つ、この司令塔は抜群の得点力を持っていたのです。 それはキャラクターをキャラクターとして最も強く表現出来る方法です。 ラストの台詞は幾らか弄って歌っぽく。 『気の利いた台詞』という武器はシャドーストライカーのように彼女に美味しい所をさらわせたのでした。 最後に一言。ロリ最高や! |