「敵は、”音”ね」 アーク本部内のブリーフィングルームの1室に集められたリベリスタ達。 彼らを前に、真白イヴがアーク秘蔵のアーティファクト『万華鏡(カレイド・システム)』を使い得た予知を伝える。 「音……ということは、敵のエリューションは”E・エレメント”ですか?」 仲間からの問いに、イヴはうなずき返した。 異界の影響を受け、革醒(覚醒)した存在『エリューション』。 世界を崩界から守るために、自分達が戦う存在のひとつ。 その中でも特に、現象や事象が変異したエリューションを指して『E・エレメント』と呼んでいる。 「そう。音が変異したエレメント――能力は恐らく、2つ」 指を1本立て瞳を閉じると、万華鏡で見た情景を思い出すように語り続ける。 「ひとつは、音による攻撃。 広範囲に響く音の波は、目に見えないから回避が難しい。特に強烈な音波にさらされたら混乱させられてしまう」 狭い場所で戦闘をすると、音が周囲に反響してさらに威力が上がってしまうだろう。 だから、今回の戦闘はエレメントの予想移動経路にある公園を封鎖してもらうので、そこで行って、とも付け加えた。 そしてもうひとつ、とさらに一本指を立てる。 「こっちは防御能力……というか身体構成に関する特性。 身体が音そのものだから――物理攻撃も神秘攻撃も一切受け付けないみたい」 「攻撃が効かないなんて……そんな無茶苦茶な!?」 「たしかに無茶苦茶。でも、対抗策がないわけじゃない」 敵の能力の内容に声を上げる年若いリベリスタに、静かに返すイヴ。 「対抗策は簡単。目には目を、歯には歯を……音には音を、ね」 音には音、という言葉の意味をいまいち捉えきれず、頭にハテナマークを浮かべるリベリスタ達に、つまり……とイヴは説明を続ける。 「相手の音の身体に対して、攻撃と同時にこちらも音を叩きつければいいの。そうすれば、瞬間的に身体組成をかき乱して無効化できないようにできる、はず……」 それは、つまり? 「攻撃の瞬間、叫ぶの。声の限り、力の限り、暑苦しいくらいの熱血で。叫びながら攻撃すれば――きっと攻撃が効く」 魂の篭った心からの、腹の底からの大きな叫びでないと効果は望めない。 もちろん、距離が開いていては叫びの効果は半減、無効化も解除できないだろう。 「難しい相手だとは思う。けど、決して勝てない相手ではないはず。 ――みんなの熱い叫びで崩界を食い止めてきてくれる?」 ![]() |
■シナリオの詳細■ | ||||||||||||||||||
■ストーリーテラー:仁科ゆう | ||||||||||||||||||
■難易度:EASY | ■シナリオタイプ:通常 | ■シナリオ納品日:2011年2月8日 | ||||||||||||||||
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■参加人数8人 | ||||||||||||||||||
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■プレイング | ||||||||||||||||||
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■リプレイ | ||||||||||||||||||
●夕闇迫る公園にて! 「わーたーしーの! さーけーびーを! お! き! き! くださーい!!」 人気のない公園のど真ん中で、朗々と歌うように声をあげているのは『藍晶石の吸血姫』 藍苺・白雪・マリエンバート(BNE001005)。 そんな彼女に、こら、といった表情で声をかける『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 「敵の性質上、喉涸らしたら一巻の終わりなのよ。声を無駄遣いしないように」 うがいはちゃんとした? と喉のケアはちゃんやらないと、とさらに続けながらレモンのはちみつ漬けやのど飴をいそいそと全員に配っていく。 差し出されたレモンを受け取り、のど飴は持参してきています、と飴を懐から取り出してみせる。 「藍晶石の侯女の名にかけて、負けられません」 カヤナイト・フュルスティン、という聞きなれない言葉に頭を捻りながらも無駄に対抗心を燃やしに燃やしているのが『トリ頭』鳩山・恵(BNE001451)。 「叫びならば、例えどのような相手であろうと負ける気はしないのである!!」 ぐぐっと力が入ったのか、頭のとさかがぐぐっと迫力をます。 「何故ならば、私は鳴き叫ぶのが仕事の鶏なのである!!」 コケコッ!! と本能的な鳴き声を上げる恵はおいておくとして。 「とにかく熱く明るく叫ぶ……なんてワタシ向きの依頼! ひゃっほう!」 テンションがあがって叫ぶ『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)に応じる『純粋渇闘』十凪・創太(BNE000002)もテンションが高い。 「だよな!? 真っすぐ行ってぶっ飛ばす。 叫びながら殴れるとか最高の条件じゃねえか!」 その様子を横目に、少し悩む『狂瀾怒涛のキャンパスライフ』 鷹槻 二三七(BNE001615)。 「目には目を、音には音を、ね。理には適ってるんだけれども……何を叫ぼうかしら」 「……言っておくけど私は叫びませんからね」 意見を求められる前にそう告げるアンナ。 「攻撃するとき叫ぶとか、私には一番縁の遠い行動な気がするけど。……なんとなく、前のめりな人しか集まらない感じがして心配ね」 「それにしても、エリューションって色々な種類がいるのね」 二三七の言葉にさらに疑問の声が重なる。 「音の体、どんな姿をしてるんだろね?」 『黄金の林檎姫』笠原・るえる(BNE000250)がなんとなくもらした声に、一同首を捻るばかり。 そういえば、特にどんな姿かは聞いてなかったっけ……いや、ぶっとばすには変わりないんだし、とあーだこーだと話がはじまる。 話はどんな叫びをしようかというところまで進み、時刻はフォーチュナから告げられた出現予定時刻の10分前。 ●出現! 音エリューション! 「封鎖されてるはずだから、一般人を巻き込む心配はしなくていいのかな」 るえるは思い出したようにつぶやくと、すぐに意識を術に集中させる「念のため、公園を中心に結界を展開しておくね」と。 これで気兼ねなく闘える、腕をならす明菜。 「バーチャルの訓練といえども、感覚を掴むためには全力で挑まないとね!」 「訓練とはいえ油断はしたくないわ」 そうね、と続ける二三七。 7人がそれぞれの位置や攻撃のタイミングの再確認をしていると…… ひとつの影が、公園の中に姿を現した。 「 この辺りにカラオケがあるって聞いてきたわよう!」 見た目は中々に颯爽とした神父服の男性――だが、中身は非常に残念に仕上がりを見せる彼は『ファルチェス』花城 知恵(BNE000492)。 「えっ!? ないの? え? え?」 仲間達の微妙な表情で何かを悟ったのか、彼は叫ぶ。 「もうなんでもいいわ!! 叫ばさせてくれればいいのよオルァー!」 その叫びを聞いたわけでもないだろうが、今度こそ本当に大きく、そして凶悪な気配を感じてリベリスタ達は一斉に振り向く! 姿をあらわした音のエリューション。 それは煙よりは薄く、しかし霞よりは濃い。 人の形をしたゆらめく”何か”だった。 「神話の世界では『常世の長鳴き鳥』と呼ばれ、天の岩戸も開いたと言われるこの鶏の本領、今こそ発揮させていただくのである!! コケコッ!!」 「来たわね。それじゃあ……はじめましょうか」 高らかに叫びを上げる恵をその場に残し、二三七は羽織っていたコートを脱ぎ捨てると音エリューションに鋭い視線を投げる。 「いざ相対すると……ちょっと怖いものがあるわ」 「覚醒してから初の実戦、がんばーるよー!」 拳をぐー! と振り上げた、るえるの横を走り抜ける影。 「っしゃ!行くぜえええええ!」 創太が獲物を手に、一気に間合いを詰めていく。 「真っ向からテメェのその下らねぇバリア打ち砕いてぶん殴って吹っ飛ばしてやるよ!」 こら! 正面からいってどうする! とか混乱させてくるって言われたでしょ! とかモロモロ飛んできた仲間の声を、信じてる、問題ねぇ、の一言で返す創太に、恵が高らかに叫び返した。 「力の限り鳴き叫んで、敵のエリューションに格の違いという物を見せ付けてやるのである!! コケッ!!」 ●絶・叫! 最初の一撃は、二三七がしかけた。 無言で、音エリューションの体に剣を突き入れる。 鋭い一閃。 だが帰ってきたのは、重低音の効いたスピーカーの前に手をかざした時のような、そんな感触だけだった。 「あらら? やっぱり叫ばないとダメね」 あらためて、事前の情報が正しかったことを確認すると、一歩距離を置いて防御体制に移る。 創太はというと、仲間達と逆位置を取るように動いている分、最初に動き出したがまだ攻撃に移れていない。 「音に対して音を……イヴちゃんも凄い事考え付くわよねぇ。いいわよ、丁度ストレス発散したかったもの」 カラオケでマイクを握ったOLが如く、知恵は剣を振り上げる。 「「最近信者が全然献金してくれなくてまずしすぎてヤバイのよ! 水しか飲めなくなりそうだわ!」」 叫びと同時に、血管が切れそうなほど大声で叫びながらブロードソードを叩きつけた。 手に帰ってきたのは、水面に手を叩きつけたような感触。 効果があったのかどうかはその手応えからはわからないが、命中の瞬間、僅かにゆらぎが大きくなった。 全員が注視する。「効いてるの?」「わかんないけど、でもこのままいくしか!」。確信はないが、しかしフォt-チュナの言葉を信じるしかない。 「とにかく叫んで叫んで叫び倒してやるのである!!」 恵の言葉どおり、リベリスタ達はそれぞれが、心の赴くままに叫びに叫ぶ! 「林檎大好きーーっ!」 「貴殿の叫びと、この鳩山の叫び、どっちが熱いか勝負なのである!! コーケコッコー!!!」 「”夜叉公主”紫鶴の娘、藍苺が執行する! 光の矢よ、彼方の者を貫き給え!」 次々と公園に響く叫び声。とついでのように攻撃音。それぞれが独特の手応えを感じていた。 だがしかし、最後の一矢、前衛の後ろから放たれた藍苺のマジックアローだけは距離があいていたせいか効果が出なかった。 もう一歩。前に出なければ効果が見込めなかったのだろう。そう判断し、さらに少し距離を詰める藍苺。 そこに創太が激走して現れる。 「喧嘩出来る回数が減った分! 全部テメェにぶつけてやるよ!」 大回りしてきた創太は、叫びながらハードブレイクを叩きつけた! ●超・音・波! 音エリューションの体が、大きくゆらぎを見せる。 煙のような体が一瞬膨らんだように見えた瞬間、ビリビリと衝撃を感じると同時に体中に痛みが走る。 音速の衝撃波に体を叩かれ、8人がほぼ同時に苦悶の声をあげた。 「いっ……てぇ。これが敵の攻撃かよ」 「音だけってのが厄介ね、ホント!」 まだ動けはするが特にダメージが大きかった数人に向きなおり、藍苺はクロスを手に朗々と詠唱する。 「”ザフィーアフュルスト”アルフレートが二の娘、藍苺が命ずる! 癒しの風で此方を包め!」 先ほどの衝撃波とは違う、優しい微風が駆け抜けると、すぅっと痛みが引いていく。 同様に、アンナの詠唱が産んだ微風がさらに一人、仲間の傷を癒す。 その様子を明奈は仲間の混乱時に備えて、二三七と同じく一歩引いた位置で見守っていた、が。 「……でも、叫びたいよね!」 二三七にアンナ、それに藍苺が後ろからのサポートに回ってくれているのを確認し、ニッと笑顔を見せると前線に突貫していく。 「おりゃあああああ! ふっとべえええ!」 無駄に大ジャンプからの大上段の攻撃をぶちかました。 「この間タイムセールで思いっきりおばさんに蹴られて打撲しちゃったのよ! 傷になったらどうしてくれるのぉ!?」 「林檎は美味しいくて、健康にもいいんだよーーー!」 「理不尽な蹂躙が一番大嫌ぇなんだよ! 言ってもわかりやしねーだろうけどな!」 「花椒と唐辛子いっぱいの麻婆豆腐!」 もはや何がなんだかわからない叫び声がこだましまくる戦場。 思い思いの感情を込めて叫び続けるリベリスタ達の前で、再びその姿をゆらがせる音エリューション。 るえるはぐっと身構える。 (「敵の音の攻撃、音で減じさせたりできないかな……目には目を、音には音を、だもんね!」) 「もう、うるっさーーいっ! 黙ってるといいよー!」 無音の衝撃波にかき消される、るえるの叫びは届かなかった。 そして全員が、再び襲ってきた衝撃波と苦痛に声を漏らしていたが、一人だけ…… というか、1羽(?)だけ、違った意味で身をくねらせて叫びを上げている者がいた。 「コケコッコー!!! 私は……私は食べられないのであるー!!!」 そう恵である。 彼はくねくねと体をくねらせ、恥ずかしがるように首をふる。 「鶏肉をみるような目で見ちゃイヤなのであるー!!!」 誰もそんな目でみていたりしないのだが、本人は食われる寸前の絶望に身をくねらせている。 「わーん、しっかりしてーっ」 心配の声を上げながら、しっかりちゃっかり距離を取る、るえる。 「後ろ気を付けてってちょっとー! 聞こえてるっ!?」 混乱した恵が後ろから近づくのをアンナが仲間へと注意する。 「……ってみんな大声出してるから別に攻撃してるワケじゃないのにこっちも叫びっぱなしじゃない! 騙されたっ!?」 誰も騙してはいないが一人ショックを受けているアンナ。 代わって二三七が恵へと近づいていく。 「任せて、これくらいリカバーできるわ!」 あばれる恵を抑えるようにして、ブレイクフィアーで混乱を取り除く。 「惑わせようとしたって、話は全部聞いているの!」 ハッ! と正気に戻った恵。 キョロキョロ周りを見回し、コホンとひとつ咳払いをして音エリューションに叫ぶ。 「貴殿の叫びと、この鳩山の叫び、どっちが熱いか勝負なのである!! コーケコッコー!!!」 調子の良い鶏の叫びに、被せて叫ぶ明奈。 「みんな頑張って行こうぜー! だーいじょうぶ、リベリスタは負けないんだから!」 ●大・勝・利! 「ガラムマサラが効いた魚のカレー!」 「うおおおおおおおおお!」 「ええい、これでエリューション退治できるなら、後は野となれ山となれっ!!」 「覚悟はいいか! 俺の渾身の一撃! とくとその身に刻みやがれ!」 「………分かってるわよ、どうせ皆可愛いシスターとかそんなものの方がいいんでしょう?!」 「鶏の熱い叫び、しかとその身に受けるがいいのである!!」 「形も可愛いよねー! プリティーーー!」 だんだん、だんだんと煙のような霞のような音エリューションの体が小さくなっていく。 バリエーション豊かな叫びにかき消されるように、小さく、薄く。 「ちょ、ちょっと! 創太さん、あなた狙われそうだから回避をしてって!」 「回避? 知るか! とにかく吹っ飛ばす!」 「可愛い神父じゃ駄目なの!? ええ?! 可愛くない? うっせー黙んなさい!!」 「チーズたっぷりのハラペーニョ・ポッパー! どれも捨て難いわー!」 「うひひひひひひ!」 「林檎好き加減なら、誰にも負けない自信あるもんねっ」 「実はー! 私はー!! 上司の事が大好きなんですがー!! 怖くて告白できないんですー!!」 注意を促すアンナに回復は任せたとに突っ込む創太がいたり、どさくさにまぎれて告白する藍苺がいたりするが、関係ない。 次の攻撃が来る前に、とにかく思いつくままに叫びに叫び倒す! 熱い魂の叫びの前に、体を削られていった音エリューション……やがて最後の時がきた。 「わたしの半分は林檎でできている、と言っても過言ではないよっ」 燃え盛る炎を纏い、まるで林檎のように赤く染まったガントレットに撃ち抜かれ、エリューションは霞が空気に消えていくように、その体はあっけなく音もなく消滅した。 ●ナイスシャウトでした! 「終わったの? ……想像以上に疲れたわ」 敵の気配が完全に消えたのを感じ取り、二三七が戦闘態勢を解く。 「我々の高貴なる魂の完全勝利なのである!!」 「そう、林檎への愛が産んだ勝利だね!」 「……っふう、叫んだ叫んだ。全員大丈夫かー?」 恵とるえるの微妙にずれた勝利宣言を横に、創太は「面倒くせぇな」といいつつ周囲の状況の確認を開始していた。 最後まで騙されたとしぶっていたアンナも、今はレモンのはちみつ漬けを配りながら、「あれだけ叫んだのだからちゃんと喉のケアはしておいてね」と委員長気質を遺憾なく発揮している。 「だよな、叫びすぎた後は喉のケア重要だよな! カラオケ行ったときとかもそうだし」 同じように明奈は自身も持ってきていたのど飴を配り一人納得したようにうんうん頷いていた。 顔を赤くしたり青くしたりしている藍苺は「……見られていたらどうしましょ」と夢中で叫んだ内容を思い出しているようだ。 「ちょっとダケ楽しかったわよ? そうねぇ、この後二次会でもどうかしらぁ?」 「思いっきり叫んだらお腹がすいたわね」 くねっと戦闘中の地声とは違う妙に高めの声で誘うもさらっと二三七にスルーされた知恵は悲しみのシャウトが響き渡らせた。 おしまい。 |
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■シナリオの結果 | ||||||||||||||||||
結果:成功 重傷:なし 死亡:なし |
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■あとがき | ||||||||||||||||||
なし |
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■プレイング評価 | ||||||||||||||||||
個性的かつオリジナリティ溢れる独自性に優れたシャウトでした! だけでは何なので 少し真面目に補足させていただくと シナリオに沿った行動と、叫びのパターンが複数用意されていたので、 やりたいことが良くわかる、キャラクターを動かしやすい内容だと感じました。 また叫んでいる言葉もキャラクター性をしっかり絡めて前面に押し出した内容で、 コメディチックなシナリオをしっかりキャラクターが楽しんでいるようなプレイングだったと思います。 |