【日ノ丸事変】古都奪還作戦
●七星剣直系隔者団体ヒノマル陸軍総帥・暴力坂乱暴
「野郎ども、戦争だオラァ!」
叫ぶ彼の背景で、京都のビル群が一斉に爆発した。
悲鳴のように軋む京都ビルがゆっくりと倒れゆく。彼は両手を広げて振り返り、ギラギラと笑った。
彼こそが七星剣幹部がひとり。戦争のために戦争をする強襲隔者組織ヒノマル陸軍の総帥。
「暴力坂・乱暴(ぼうりょくざか・らんぼう)殿――城の制圧は完了いたしました。次の命令を」
「おうよ!」
破壊されていく町と逃げ惑う人々。ほんの数十分のうちに地獄と化した京都の絶景を眺め、暴力坂は吠えた。
「命令だ。人を山ほど巻き込んで暴れに暴れろ! 建物という建物をぶっ壊せ! 覚者でも非覚者でも見つけ次第ぶっ飛ばせ! 抵抗してくれりゃあごちそうサマだ! シンプルに言えばなぁ――戦争をしろ!」
なぜ。かのように京都の町が破壊され、人々が脅かされているのか。
その理由を語るべく、数十分ほど時間を遡ろう。
●黎明壊滅作戦
京都。ここは覚者組織『黎明』の拠点とされている。
ヒノマル陸軍総帥の暴力坂乱暴はその話を受けて組織壊滅作戦を開始。
淀・一一(よど・かずひと)、高槻・二二(たかつき・ふたじ)、伏見・四四(しよ)、御牧・五五(みまき・いつご)等々……連絡のつく大将格メンバーを引き連れて京都へ上陸した。
黎明の覚者が京都の町へバラバラに溶け込んでいることを知った彼らは当初捜索作戦を提案したが、暴力坂の『モグラ叩きなんぞ面倒くせぇ! 土ごと吹っ飛ばせ!』の一声で町ごと破壊してあぶり出す作戦へとシフトした。
実力行使と強襲作戦は彼らの得意分野である。豊富な戦力と常識外れの破壊活動によって町はみるみる制圧されていった。
かくして暴力坂は実力のある大将メンバーを京都各地へ派遣して独自の破壊活動をとらせ、自分はいくつかの大将メンバーと共に黎明拠点の大本命と見られる建物の制圧に乗り出したのだった。
京都には歴史上無数の城が建ち、その内いくつかは補修を重ねて現存している。
そんな城の一つが、黎明の大型拠点として機能していた。
いや、既に拠点としての機能は失われている。砦としても、今や破られた後である。
「門が破られた、退け!」
無数の砲撃に倒れる仲間たちを背に、覚者たちが屋内へと駆け込んでいく。
それを追いたてるように、無数の軍靴がけたたましく床を踏み散らかした。
「くそっ、こいつら何人いやがるんだ! 上だ、上へ逃げろ!」
機関銃を掃射しながら覚者が後退するが、彼の弾幕はライオットシールドの波にはねのけられていく。
「おらおらどうした! 俺様の鉄壁兵団が恐いのか!? 恐ろしいか!? 生き延びたければ戦え! 死ぬまで戦え!」
淀大将がひときわ巨大なシールドを翳して突撃。 部下の兵隊たちも波の如く迫り、あわれ覚者は小銃の集中砲火によって食い散らかされていった。
彼の犠牲をうけて二階へ逃げる覚者たち。
だが翼を生やした兵隊たちが二階の窓からロケット弾を打ち込み、逃げ延びようとした彼らを焼き払っていく。両手にライフルを担いで屋内へ飛び込む高槻大将。彼の視界の隅で、満身創痍で更に上の階へ逃げ延びる覚者を見つけた。
「……」
しかし追撃をはかることなく、立ち止まった。
「大将、追わなくてよろしいのですか」
「よい。ここはいずれくる敵のための守りとする。各員迎撃準備」
一方で三階へ逃げ延びた覚者たちは、ヘリの音に耳を押さえた。
ロープや因子技能を駆使して強引に突入してくる一団。その先頭には軍刀を両手に構えた女。伏見大将の姿があった。
「よぉくぞここまで、なんつってな! さらし首にしてやんぜ!」
慌てて抜刀した覚者だが、刀は腕ごと切断された。更に足、更に腰、ついには首を切断され、ばらばらに崩れ落ちる。
それを確認して、伏見は納刀。周囲の部下を見回した。
「これで全部かァ?」
「いえ、御牧隊から送心がありました。最上階に女子供が隠れていると」
「うっし。そっち奴らに任せとけや。俺らは俺らで守りを固めようぜ」
かくして、最上階。
頭部が無数のカメラやアンテナに覆われた御牧大将が畳の上に正座している。
彼の部下たちが因子技能の限りを尽くして巧みに隠れていた子供や女性たちを引っ張り出し、拘束して転がした。
「送受信班透視班ジャミング班配置完了。暴力坂さま……この者らはいかがしましょう」
「ぶっ殺せ。と言いたいとこだが……もうちっと様子を見るかな」
開け放った窓から外を見る暴力坂乱暴。彼は見て分かるほどに老いた男である。反面肉体は引き締まり、眼光はぎらついている。今では無い、ずっと昔の戦争を見ているような目だ。
暴力坂は髭を撫でた。
「黎明は実力者揃いってぇのは嘘くせぇな。温存されてるだけかもしれねぇが……こうなってくるとやり甲斐がねえ。もっと派手にぶっ壊して、そこらじゅうに宣伝してやらねえと。『こちらは町を壊して女子供を泣かせる極悪非道の糞野郎でございます』ってなもんだ。その方がよっぽど面白ぇ。町に放ってる連中にも連絡しろ。目に付くでかいビルを片っ端から爆破させとけ。この町がヤベェって一目でわかるようにな」
「御意」
御牧大将は拘束した女子供の覚者たちを部屋の中央に集め、監視体制を敷き直した。
「ようし」
暴力坂は腕組みし、爆破準備完了の知らせを待つ。が、知らせがくるまでは数分となかった。部下も似たようなことを考えていたらしい。
愉快そうに笑い、爆破の号令を出す。
「野郎ども、戦争だオラァ!」
叫ぶ彼の背景で、京都のビル群が一斉に爆発した。
●古都奪還作戦
多くの夢見が知覚した京都での大規模破壊作戦は、瞬く間にF.i.V.E内の噂となった。
今会議室に集められている多くの覚者たちも、とにかく戦闘ができると聞いて沸き立つ者や人々が危機に晒されているので助けなくてはと意気込む者、ただ野次馬をしにきただけの者など様々だが、皆『ヒノマル陸軍』という言葉には若干の聞き覚えがあった。
過去の作戦においてF.i.V.Eとぶつかった七星剣の直系隔者組織である。
それが大規模な破壊活動を起こしたと聞けば、F.i.V.Eが動かぬわけにはいくまい。
久方 相馬(nCL2000004)や久方 真由美(nCL2000003)たちがディスプレイに表示した資料の説明をはじめる。口調は普段のそれとは違い、緊張感の強いものだった。
「皆さんも知っているとおり、『ヒノマル陸軍』が京都の町へ大規模に展開し、破壊活動を起こしています。目的は『黎明』という覚者組織の壊滅ですが、京都の町へばらばらに溶け込んでいる彼らを探すより破壊してあぶり出した方が早いと判断したのでしょう。既に多くの覚者が窮地に立たされ、非覚者の一般市民も命の危機に晒されようとしています。警察やAAAも出動していますが、彼らがこの時点で割けるリソースはあまり多くありません。避難誘導や救急搬送が精一杯でしょう。なので……」
緊張がより強まる。それは覚者たちとて同じことだ。
「これよりF.i.V.Eは大規模作戦を開始します。京都の町へ一斉介入し、市民と覚者の救出、およびヒノマル陸軍の排除を行なってください」
資料が覚者たちに配られていく。
相馬は自らの資料を強く握りしめた。
「今彼らを助けられるのは、俺たちだけだ!」
「野郎ども、戦争だオラァ!」
叫ぶ彼の背景で、京都のビル群が一斉に爆発した。
悲鳴のように軋む京都ビルがゆっくりと倒れゆく。彼は両手を広げて振り返り、ギラギラと笑った。
彼こそが七星剣幹部がひとり。戦争のために戦争をする強襲隔者組織ヒノマル陸軍の総帥。
「暴力坂・乱暴(ぼうりょくざか・らんぼう)殿――城の制圧は完了いたしました。次の命令を」
「おうよ!」
破壊されていく町と逃げ惑う人々。ほんの数十分のうちに地獄と化した京都の絶景を眺め、暴力坂は吠えた。
「命令だ。人を山ほど巻き込んで暴れに暴れろ! 建物という建物をぶっ壊せ! 覚者でも非覚者でも見つけ次第ぶっ飛ばせ! 抵抗してくれりゃあごちそうサマだ! シンプルに言えばなぁ――戦争をしろ!」
なぜ。かのように京都の町が破壊され、人々が脅かされているのか。
その理由を語るべく、数十分ほど時間を遡ろう。
●黎明壊滅作戦
京都。ここは覚者組織『黎明』の拠点とされている。
ヒノマル陸軍総帥の暴力坂乱暴はその話を受けて組織壊滅作戦を開始。
淀・一一(よど・かずひと)、高槻・二二(たかつき・ふたじ)、伏見・四四(しよ)、御牧・五五(みまき・いつご)等々……連絡のつく大将格メンバーを引き連れて京都へ上陸した。
黎明の覚者が京都の町へバラバラに溶け込んでいることを知った彼らは当初捜索作戦を提案したが、暴力坂の『モグラ叩きなんぞ面倒くせぇ! 土ごと吹っ飛ばせ!』の一声で町ごと破壊してあぶり出す作戦へとシフトした。
実力行使と強襲作戦は彼らの得意分野である。豊富な戦力と常識外れの破壊活動によって町はみるみる制圧されていった。
かくして暴力坂は実力のある大将メンバーを京都各地へ派遣して独自の破壊活動をとらせ、自分はいくつかの大将メンバーと共に黎明拠点の大本命と見られる建物の制圧に乗り出したのだった。
京都には歴史上無数の城が建ち、その内いくつかは補修を重ねて現存している。
そんな城の一つが、黎明の大型拠点として機能していた。
いや、既に拠点としての機能は失われている。砦としても、今や破られた後である。
「門が破られた、退け!」
無数の砲撃に倒れる仲間たちを背に、覚者たちが屋内へと駆け込んでいく。
それを追いたてるように、無数の軍靴がけたたましく床を踏み散らかした。
「くそっ、こいつら何人いやがるんだ! 上だ、上へ逃げろ!」
機関銃を掃射しながら覚者が後退するが、彼の弾幕はライオットシールドの波にはねのけられていく。
「おらおらどうした! 俺様の鉄壁兵団が恐いのか!? 恐ろしいか!? 生き延びたければ戦え! 死ぬまで戦え!」
淀大将がひときわ巨大なシールドを翳して突撃。 部下の兵隊たちも波の如く迫り、あわれ覚者は小銃の集中砲火によって食い散らかされていった。
彼の犠牲をうけて二階へ逃げる覚者たち。
だが翼を生やした兵隊たちが二階の窓からロケット弾を打ち込み、逃げ延びようとした彼らを焼き払っていく。両手にライフルを担いで屋内へ飛び込む高槻大将。彼の視界の隅で、満身創痍で更に上の階へ逃げ延びる覚者を見つけた。
「……」
しかし追撃をはかることなく、立ち止まった。
「大将、追わなくてよろしいのですか」
「よい。ここはいずれくる敵のための守りとする。各員迎撃準備」
一方で三階へ逃げ延びた覚者たちは、ヘリの音に耳を押さえた。
ロープや因子技能を駆使して強引に突入してくる一団。その先頭には軍刀を両手に構えた女。伏見大将の姿があった。
「よぉくぞここまで、なんつってな! さらし首にしてやんぜ!」
慌てて抜刀した覚者だが、刀は腕ごと切断された。更に足、更に腰、ついには首を切断され、ばらばらに崩れ落ちる。
それを確認して、伏見は納刀。周囲の部下を見回した。
「これで全部かァ?」
「いえ、御牧隊から送心がありました。最上階に女子供が隠れていると」
「うっし。そっち奴らに任せとけや。俺らは俺らで守りを固めようぜ」
かくして、最上階。
頭部が無数のカメラやアンテナに覆われた御牧大将が畳の上に正座している。
彼の部下たちが因子技能の限りを尽くして巧みに隠れていた子供や女性たちを引っ張り出し、拘束して転がした。
「送受信班透視班ジャミング班配置完了。暴力坂さま……この者らはいかがしましょう」
「ぶっ殺せ。と言いたいとこだが……もうちっと様子を見るかな」
開け放った窓から外を見る暴力坂乱暴。彼は見て分かるほどに老いた男である。反面肉体は引き締まり、眼光はぎらついている。今では無い、ずっと昔の戦争を見ているような目だ。
暴力坂は髭を撫でた。
「黎明は実力者揃いってぇのは嘘くせぇな。温存されてるだけかもしれねぇが……こうなってくるとやり甲斐がねえ。もっと派手にぶっ壊して、そこらじゅうに宣伝してやらねえと。『こちらは町を壊して女子供を泣かせる極悪非道の糞野郎でございます』ってなもんだ。その方がよっぽど面白ぇ。町に放ってる連中にも連絡しろ。目に付くでかいビルを片っ端から爆破させとけ。この町がヤベェって一目でわかるようにな」
「御意」
御牧大将は拘束した女子供の覚者たちを部屋の中央に集め、監視体制を敷き直した。
「ようし」
暴力坂は腕組みし、爆破準備完了の知らせを待つ。が、知らせがくるまでは数分となかった。部下も似たようなことを考えていたらしい。
愉快そうに笑い、爆破の号令を出す。
「野郎ども、戦争だオラァ!」
叫ぶ彼の背景で、京都のビル群が一斉に爆発した。
●古都奪還作戦
多くの夢見が知覚した京都での大規模破壊作戦は、瞬く間にF.i.V.E内の噂となった。
今会議室に集められている多くの覚者たちも、とにかく戦闘ができると聞いて沸き立つ者や人々が危機に晒されているので助けなくてはと意気込む者、ただ野次馬をしにきただけの者など様々だが、皆『ヒノマル陸軍』という言葉には若干の聞き覚えがあった。
過去の作戦においてF.i.V.Eとぶつかった七星剣の直系隔者組織である。
それが大規模な破壊活動を起こしたと聞けば、F.i.V.Eが動かぬわけにはいくまい。
久方 相馬(nCL2000004)や久方 真由美(nCL2000003)たちがディスプレイに表示した資料の説明をはじめる。口調は普段のそれとは違い、緊張感の強いものだった。
「皆さんも知っているとおり、『ヒノマル陸軍』が京都の町へ大規模に展開し、破壊活動を起こしています。目的は『黎明』という覚者組織の壊滅ですが、京都の町へばらばらに溶け込んでいる彼らを探すより破壊してあぶり出した方が早いと判断したのでしょう。既に多くの覚者が窮地に立たされ、非覚者の一般市民も命の危機に晒されようとしています。警察やAAAも出動していますが、彼らがこの時点で割けるリソースはあまり多くありません。避難誘導や救急搬送が精一杯でしょう。なので……」
緊張がより強まる。それは覚者たちとて同じことだ。
「これよりF.i.V.Eは大規模作戦を開始します。京都の町へ一斉介入し、市民と覚者の救出、およびヒノマル陸軍の排除を行なってください」
資料が覚者たちに配られていく。
相馬は自らの資料を強く握りしめた。
「今彼らを助けられるのは、俺たちだけだ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.大型拠点の奪還
2.市民の救出
3.なし
2.市民の救出
3.なし
・【拠点奪還】
ヒノマル陸軍によって制圧された大型拠点を奪還そます。これに成功すれば暴力坂以下ヒノマル陸軍は撤退し、京都を守り切ることができるでしょう。
敵は以下のチーム。
防御の硬い第一班。城の周囲に展開して覚者の侵入を阻みます。
飛行能力のある第二班。空への迎撃や屋内への追撃をはかります。
攻撃力の高い第四班。屋内を進む覚者を阻む強力な戦力です。
索敵能力の高い第五班。透視、送心、ジャミングを備えたチームです。
また、第五班のいる最上階エリアまで到達した段階で暴力坂は撤退を考えます。
暴力坂は戦う価値のある相手がいないと剣を抜きません。仮に戦うとしても圧倒的に格上なので、本作戦で倒すことはできないでしょう。
他、大将格のメンバーも格上の隔者です。倒しきるなら相当のリソースを割かなければなりません。
性質上、電撃的な『ここは任せて先に行け作戦』を推奨します。
・【市民救出】
避難誘導や救急搬送は既に大勢のプロフェッショナルによって行なわれいます。
しかし崩れゆくビルに取り残された人々や、ヒノマル陸軍の隔者によって無差別に襲われている人々を救出します。
中には致命的な怪我を負っている人や、その場で医療知識を必要とする人々もいるでしょう。
また、道路はがれきが多く車両が通行できません。動けない負傷者がいる場合は背負って安全地帯まで運ぶ必要が出てくるでしょう。
この場で活動しているヒノマル陸軍は第三班ですが、大将だった加賀三三がロストしたため一部の兵士が個々の判断で破壊活動を行なっている状況です。実力はF.i.V.E覚者とおよそ同等。ビル等の爆破処理を担当していました。
・【自由行動】
奪還も救出もどっちでもいけるけど迷っている。そういう場合はこちらを選択して下さい。人数の足りなそうな所に仲間が連れて行ってくれます。
また、どちらにも入っていないが個人的にどうしてもやりたいことがある場合もこちらを選択してください。コトによっては不可能判定となる場合もあるのでご注意ください。
●プレイングの特殊判定
今回のシナリオは戦闘状況やその際の敵スペックが不明瞭なため、特殊な判定ルールを採用します。
参加したPCはその場に応じて適切なポジションに自動でつき、指定したスキルのうち相応しいものを自動選択して使用します。回復スキルに関しても同様の判定をとります。(最低限の戦闘プレイング例は『纏霧か召雷で戦闘』となります)
この上で、戦闘スタイルや気概や執念といった部分で乱数の上方補正がかかります。
また、【拠点奪還】と【市民救出】はそれぞれ相互関係にあり、奪還が早いほど救出は楽になり、救出が万全であるほど奪還時に戦闘不能になった味方の撤退が楽になります。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
●投票
この依頼では新興組織『黎明』を仲間に招くか招かないかの投票を行います。
EXプレイングにて、『はい』か『いいえ』のどちらかでお答え下さい。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
8日
8日
参加費
50LP
50LP
参加人数
165/∞
165/∞
公開日
2015年10月30日
2015年10月30日
■メイン参加者 165人■

●ヒノマル陸軍第一班、鉄壁兵団
古都中央部に存在する三階建て半の城は度重なる改修工事の末、観光資源とは全く別の側面を持つようになった。
都が妖被害にあった際に逃げ込むための覚者戦闘用砦として機能するその城は便宜上『黄昏城』と呼ばれている。それが今敵軍に占拠され、都の攻略拠点にされているのだが……。
「淀様、送心兵から伝達! 武装した集団がこちらに迫っているとのことです。武装の種類からして覚者かと」
「フン、『黎明』の雑魚どもが拠点を取り返しに来たか」
岩のように硬い甲冑に覆われた恐ろしく大柄な男が、食いちぎっていた丸焼き鶏を投げ捨てた。彼こそ本日の第一班を任されたヒノマル陸軍大将格、淀・一一である。
「でかした中将。それで何人だ。十人か、二十人か? なんなら新兵たちの練習相手にしても……」
「……ゃくにんです」
「ぬ?」
色黒でサングラスをかけた部下が、緊張気味に言い直した。
「約百人です」
「嘘をつくな馬鹿め!」
「嘘じゃありませんよ、ほらそこに!」
二人同時に振り向くと、そこには。
「ヒノマル陸軍!」
見渡す限りの軍勢の中から、秋津洲 いのり(CL2000268)が天空へと杖を掲げた。
「力無い人々を傷付けるその所行、恥を知りなさい! この力は救いを待つ人々の、力無き人々のためのもの。心を入れ替えなさいませ!」
瞠目する淀。よく響く声で叫び返した。
「この都にこんな勢力が残っているものか! 『黎明』の者か、それとも周辺諸勢の協力者か!」
「名乗る名は、ありません!」
いのりは杖を水平に回すと、喉がかれるほどに叫びを上げた。
「突撃!」
「ええい、押し返せ! 一人も城に入れるな!」
いのりの放った霧と、淀の部下たちが放った霧が混ざり合う。
その中を、空閑 浜匙(CL2000841)とターニャ・S・ハイヌベレ(CL2001103)が突っ切っていく。
「こういうケダモノなごろつきは大嫌いデース!」
「おれも、こいつらが無茶苦茶言ってることはわかる! だから遠慮はいらないよな!」
浜匙が護符を握り込むと、天空に広い暗雲が発生した。
降り注ぐ雷。ジグザグに駆け抜け、正面の兵士に殴りかかるターニャ。
とはいえ敵兵とて雑魚では無い。
「壱式防衛陣形、構えぃ!」
「「壱式防衛陣形!」」
隙間無く整列したライオットシールドの盾兵たちが雷とターニャの打撃を防御。
その後ろにぴたりとついた回復兵らが彼らの体力を減ったそばから回復していく。
人数分以上のブロック効果だ。数を揃えたとて簡単には突破できない。
盾兵の後ろから姿を現わすサングラスの巨漢。
「俺は第一班中将、長島! 鉄壁兵団を簡単に抜けられると思うなよ! 弐式防衛陣形!」
長島が叫ぶや否や、盾兵たちの間から槍兵が飛び出して一斉に突きを放ってくる。ターニャたちはまるで津波のような猛攻に突き飛ばされた。
下がってきた仲間をキャッチする結城 美剣(CL2000708)と離宮院・さよ(CL2000870)。
「強い……」
「急いで回復を!」
癒しの滴で回復をはかるさよ。一方で美剣は清廉香を発動。突き飛ばされて足止めを食らう仲間たちを支援し始めた。
しかし焦りは深い。
「鉄壁の守りと牽制攻撃。こちらを倒すのではなくあくまで足止めを狙った戦法。このまでは」
「拠点攻略に時間がかかりすぎれば、当然敵の撤収までの時間が長引きます。その分町の人たちへの危険が……」
そんな中、田場 義高(CL2001151)がぎらりと目を光らせた。
「よく見ろ、俺にはちゃんと見えてるぜ。糸みてぇに細いが、突破口ってやつがな!」
義高はダッシュを開始。戦闘よりも駆け抜けることのみを優先した彼の走りは、敵兵が入れ替わる一瞬の隙や個人練度のズレから生じる僅かな隙をジグザグに繋いでみせた。
そうして鉄壁兵団の向こう側へと到達してみせた義高は、どこからともなく斧を取り出して握り込んだ。
半歩退く淀。
「鉄壁のブロックを突破したのか! 貴様……どこの長だ!?」
「店長さ。香り豊かなフラワーカフェのな」
スキンヘッドをなで上げて繰り出す義高の斧を、淀は両腕ガードで受け止める。さすがは大将、ダメージがまるで通っている気がしない。どころか、淀の放つ衝撃で義高は吹き飛ばされそうになっていた。
「しかし貴様一人が突破したところでどうなる。他の連中があの複雑なルートを覚えていられるはずが……」
「そんなぴんちにミラノさんじょう!」
弱りかけた義高の後ろからぴょこんと飛び出すククル ミラノ(CL2001142)。樹の雫が注ぎ込まれ、復調する義高。
ピンクの耳とツインテールを上下にばっさばっさ振るミラノに、淀はもう半歩退いた。
「さっきのルートはちゃんと覚えて、皆に伝えたよ!」
「なん、だと……!?」
見れば、鉄壁兵団の強固なブロックはその力を半減させ、今や混戦状態に陥っていた。
義高の見いだした突破口はその一瞬だけのものだが、要領さえ分かってしまえば亀裂に食い込む波が如く食い破ることも可能なのだ。
足止めを目的としている以上、淀は半分負けたようなものである。
長島中将がトンファーを手に叫んだ。
「参式防衛陣形! 少しでも多く敵を潰せ!」
「そうはいくかよ!」
天楼院・聖華(CL2000348)はかついだグレネードランチャーで長島中将もろとも爆破した。
「俺は人々を傷付けるやつとニンジンが大っ嫌いなんだよ! これ以上街を傷付けるなら全員まとめてぶっ飛ばしてやる!」
聖華の四方からシールドで押し込もうとしてくる盾兵。しかし聖華は引き抜いた小太刀で回転斬り。盾兵たちを切り払う。
そうして出来た隙間を、滑るように駆け抜ける美錠 紅(CL2000176)。
「あたしは人間を守りたい。町に住むあたしたちの隣人だから守りたい。そのために――!」
「ぐっ!」
繰り出した紅のブレードを、長島中将はトンファーで受け止めた。
「誇りを喪った連中をぶちのめす!」
紅はブレードをスライド。二本の剣に分解すると、長島中将の腹へと突き刺した。
「くらえ!」
注意がそれた所で切り払い。長島中将を含めた槍兵たちを一斉に吹き飛ばす。
が、そこは中将。長島中将は必死のガードでこらえた。
「知ったことか。お前たちの理由など――ぐお!?」
見得を切ろうとした長島中将の顔面に。
「ゆいねきーっく!」
迷家・唯音(CL2001093)のドロップキックが直撃した。
あっけなく蹴倒される長島中将。
「ヒノマル陸軍をほっとけば、おとーさんやおかーさんやがっくんが傷つくかもしれない。そんなの、絶対やだ!」
「お、俺だってこの作戦が失敗したら左遷される! そんなの絶対嫌だ!」
命を削って立ち上がった長島中将が、唯音にトンファーパンチを繰り出した。対抗してステッキパンチを繰り出す唯音。
「家族やお友達や、仲間を守る!」
「家族や役職や、部下を守る!」
正面から衝突する二人のパンチ。
大人の事情と子供のワガママがぶつかり合った瞬間である。
そんな戦いを制することができるのは、子供のような大人と相場が決まっている。
「オラァ! 天の名を持ち地をかけグワァ舌噛んだ!」
口からセルフで血を吐きながら椎野 天(CL2000864)がショルダータックルで突っ込んできた。
脇腹に直撃し、突き飛ばされる長島中将。
「左遷されてもいいじゃねーの。コンビニバイトも楽しいもんだぜ」
「独り身風情が!」
「うるせえこの野郎!」
天は両腕を硬化させ、長島中将とがっぷりと組み合った。
ギラリとサングラスを光らせる中島中将。
同じくサングラスを光らせる天……と見せかけて。
「よっしゃ今のうちに行け!」
「しまった!」
組み合った長島中将の頭上をすり抜けるように、十夜 七重(CL2000513)と十夜 八重(CL2000122)が飛行状態で越えていく。
ちらりと七重を見やる八重。
「安全第一でお願いしますね兄様。でないと赤ちゃんみたいにおくるみしちゃいますよ」
「やってもいいが、いやよくないが、できれば後にしてくれ。まずはこいつらを蹴散らす!」
七重は急降下すると、槍兵たちを螺旋回転斬りで切断していく。
周囲から取り囲もうとする槍兵たちには、八重が頭上からエアブリット空襲をしかけるという案配だ。
着地し、大きな太刀を担ぐように構え、周囲をにらむ七重。
「女子供を人質にとるような輩、いずれ俺たちの……いや、妹の生活を脅かすだろう。その驚異、削がせて貰う!」
七重は周囲から繰り出される槍の先端を、素早い回転で払いのけ、右へ左へと切り捨てていった。とはいえ多勢に無勢。七重の腹や胸に槍が突き刺さる。
槍の基本は囲んで刺して動きを封じるというもの。
これはまずいかと歯噛みした七重のすぐ脇を、八重が低空飛行で駆け抜けていく。
駆け抜けつつ空圧弾を乱射。
槍兵を押しのけつつ、七重を空へと浚い上げた。
「もう兄様。怪我したら泣いちゃいますよ。おくるみします?」
「泣くくらいなら笑ってくれ」
七重は八重の腕から逃れて飛行を再開すると、槍兵たちに衝撃波を乱射していく。
そんな二人の前に、壁が現われた。
否、飛び上がった淀大将が掴みかかったのだ。
「そこまでだ、見知らぬ覚者どもよ!」
飛行状態にあるというのに、凄まじいパワーで引き下ろされ、地面に叩き付けられる二人。
周囲の盾兵が群がり、彼らを取り囲んだ。
「その実力で我ら鉄壁兵団に挑んだ威勢は褒めてやろう。だが貴様らが倒せるのはせめて中将格。大将格の俺様の前では、傷を負わせるだけでも難しいというもの!」
両腕を掲げて立ちはだかる淀大将。
それはまさに壁。物理的にも精神的にも突破することの出来ない鉄壁である。
動物同士の戦闘ならいざしらず、覚者戦闘は強弱の差が大きく開けば数を揃えても倒すことはできない。攻撃がまるで通らず打ち払われてしまうからだ。
魂を削って戦闘力をブーストすれば大将クラスに重傷を負わせる程度のことはできるかもしれないが、今は少なくともその時では無い。
七重はここまでかと呟き、八重を庇うように構える。
と、そこへ。
「倒そうなどとは思っとらんよ」
天空から何かが降ってきた。
二つの影で構成されたそれは、十一 零(CL2000001)と檜山 樹香(CL2000141)である。
樹香は薙刀を使って兵たちを一斉に薙ぎ払い、零は印を結んで雷をまき散らした。
「追い払うのが目的じゃ。倒せずとも足止めはできる」
「いわゆる攻城戦というやつだね。そしてここは入口。突破されれば、そっちの負けになる」
「ぐ、ぬぬ……!」
十字の目をギラリと光らせる零。そして、淀大将以外の兵に向けて掌底を放った。
触れたそばから激しいスパークがおこり、兵がまとめて散らされていく。散らされた兵に、薙刀を舞うように振り回して牽制攻撃をしかける樹香。
これでも戦闘集団ヒノマル陸軍の兵である。戦闘力ならはF.i.V.E覚者と同じかやや劣る程度。雑魚ですらこのレベルなのだから、簡単には倒せないだろう。しかしはねのけるだけなら、力を合わせることで可能になるのだ。
戦闘力だけでは計れない、作戦による勝利がそこにはある。
「フン、貴様らの作戦など、力ずくで潰してくれるわ!」
拳を打ち合わせて襲いかかる淀大将。
が、そんな彼に七十里・夏南(CL2000006)が飛びかかった。
上空からの直滑降。さらに白銀の斧を重力込みで叩き付けてである。
地面がはじけ、周囲の兵たちが吹き飛んでいく。
ガード姿勢でしのいだ淀大将に、七十里・神無(CL2000028)が食らいつく。
またもガードでしのぐ淀大将。
夏南は眼鏡を親指と中指で直すと、戦闘姿勢の神無と共に淀大将を挟み込んだ。
「こんなに壊してこんなに殺して……綺麗にするにも時間と人手がかかるのよ。神無、殺して食べていいわよ」
「硬くて美味しくなさそう。でもなんだか」
神無は怪しく目を光らせると、淀大将へ猛烈に斬りかかった。
「みんな楽しそう! 帰りにコンビニ寄っていこ! 美味しいお菓子をみつけたから!」
「ぐ、ぐうう……!」
防御を重ね、耐えしのぐ淀大将。
先程『実力差が開きすぎると倒せない』と述べたが、これは勝てないという意味では無い。
強い側も、こうして猛攻をしかけられては身動きがとれなくなっていくのだ。
時間切れによる負けや、スタミナ切れの負け、そして防衛戦突破による負けもあり得る。
「おのれ、雑魚が!」
「雑魚じゃ、ありません!」
ガードを解いて殴りかかる淀大将。しかし、彼の拳は割り込んだ鋼・境子(CL2000318)によって防がれた。
周囲の土がえぐれて飛び、ウェーブのかかった境子の髪が余った衝撃で強くなびく。
淀大将は怒りに血管を浮かせ、絶え間なく境子を殴り続ける。
「貴様は弱者だ! 力ない弱者! 何も出来ない弱者なのだ! 大人しく力に屈服すればいいものを!」
「確かに今は弱いかもしれません。けれど私はできることをします。できると思った時に、できると思ったことを、今のように!」
ガードを解いて、ストレートパンチ。
手の甲に浮かんだ模様が光り輝き、淀大将の拳を一瞬だけ反らした。
それによってバランスを僅かに崩す淀大将。
その隙を、逃さぬ彼らではない。
殴りつけられて倒される境子の頭上を、佐々山・深雪(CL2000667)が飛び越えた。
同時に境子の脇を抜け、鯨塚 百(CL2000332)が淀大将の脇腹に拳を押し当てた。
「ぶちぬいてやる!」
百のバンカーバスターが作動。杭が叩き込まれ、淀大将の防御を貫いた。
更に、深雪の空中回し蹴りが顔面へ炸裂。淀大将は激しい地響きをたてて仰向けに倒れた。
防御自慢の大将が直撃をくらったことで、部下たちの間に焦りが走る。
長島中将に至っては天たちともみ合いながら絶叫した。
「淀大将! そ、そんなばかなぁぁぁぁ!?」
彼をよそに、深雪と百は淀大将を物理的に押さえ込みにかかる。両腕をくい打ちや組み付きによって固定するのだ。
「さ、今のうちに!」
「ここはオイラたちが支えるから、絶対生きて帰ってこいよ! こいつら追い払って、街を取り戻そうぜ!」
「ありがとう。必ず次につなげてみせるわ」
秋ノ宮 たまき(CL2000849)が眼鏡を外して覚醒。淀大将の腹の上を踏みつけながら駆け抜けた。
彼女だけでは無い。この先を目指すべく戦力を温存していた仲間たちが、一斉に城内へと突入していったのだ。
「お、おのれ……!」
固定された腕を無理矢理解除し、百たちを放り投げる淀大将。
「こうなれば、貴様らの首だけでも持ち帰ってやる!」
「淀大将、それです! 少しでも貢献して、点数を稼ぐんです!」
トンファーをぐるぐる回して周囲をにらむ長島中将。
深雪はにっこり笑って身構えた。
「簡単にやられたりしないよ。これからの人生、もっと楽しまなきゃいけないからねっ」
●市街地救出作戦、エリアA
京都の危機はヒノマル陸軍を撤退させるだけで解決するものではない。
今も街は破壊され、人々は無差別な殺戮におびえている。
そんな町を、そして人々を守るためF.i.V.E覚者たちは京都各地へと散らばった。
拠点奪還作戦ほどでないにしろ、その数は凄まじいものだった。
そうとも知らず、ヒノマル陸軍第三班遊撃部隊所属、安濃津少将と久居少将は数人の部下を引き連れ京都の土産屋通りを端から順に放火して回っていた。
「兄弟、なんだって俺らはこんな退屈な破壊作業なんてせにゃあならんのだ。解体屋じゃあないんだぜ?」
「文句を言うな。加賀先生が妖刀探しに出て以来行方知らずなんだ。本陣に加われる体勢じゃねえ」
「しかし噂じゃあ城に大軍勢が押しかけたそうじゃねえか」
「それでも任務をこなすまでよ、っと。人がいやがるな」
旅行に来ていた学生たちが土産屋の一角で固まっていた。
「学生かぁ? なんだってこんな所に」
「兄弟、10月って言やあ修学旅行の季節だ。それでだろう」
「不幸なこったな。旅行先のカツアゲに合うどころか戦争に巻き込まれるたぁ」
おびえる学生たちに、火炎放射器を向ける。
「悪いが命令なんでな。無残に焼け死――む!?」
トリガーを引こうとした所で、安濃津少将は放射器を別の方向に放り投げた。
彼を中心に雷が走り、周囲の兵隊が一斉に転倒する。空中で爆発し、粉塵をまき巻き上げる。
「戦争ねえ。暴れたいから暴れる連中にはその言葉ももったいないよ」
「誰だ!」
身構える久居少将。
「私が誰かだと? 教える義理は無いな」
粉塵の中から現われる赤い髪。
赤い鱗。
赤い尾。
夜明けの色をした薙刀。
「強いて言うなら、そう――私が法だ、黙して従え」
現われたのは、七墜 昨良(CL2000077)であった。
「『黎明』の覚者か? だが一人で何が出来る」
「一人じゃあ、ないんですなあこれが」
店の屋根の上から現われるチェスター・M・ヘンドリクス(CL2000339)。
兵隊の一人へと飛びかかり、一発で殴り倒した。
ゆらりと、そしてどこか憂鬱そうに立ち上がるチェスター。丸めた背中をそのままに、昨良のいる方向を指さした。
「さて学生の皆さん。お帰りはあちらですぜ」
うなずき、走って行く学生たち。
「学生ってのは素直でいいですなあ」
薄笑いで言うチェスターのこめかみに、久居少将が拳銃を突きつけた。
「貴様、こんなことをしてただで済むと思って――」
「それはこっちの台詞だ!」
瞬間、風が吹き抜けた。
南へ走った風はすぐさま東へ抜け、さらには北へ、さらには西へ、四方を駆け抜けた風は御白 小唄(CL2001173)の姿を取ってブレーキ。髪と獣の尾が靡いて流れる。
次の瞬間、子供たちの背中を撃とうとしていた兵士たちは一斉にバラバラの方向に吹き飛び、血を吹いて転がった。
「みんな誰一人、罪の無い一般市民なんだぞ! なんでこんな酷いことになるんだよ! そんなに大事なことなのかよ! 理由が、ちっとも分からない!」
「お前が知ったことか!」
拳銃を連射。小唄は低姿勢をとってジグザグに走りそれを回避。アスファルトの地面が立て続けに火花を散らす。
「これ以上弱い人たちに手を出すなぁ!」
頬をかする弾丸。亀裂が走り血が漏れるが気にすること無く、小唄は獣のように飛びかかり、顔面を殴りつけた。
ぐらつく身体に、チェスターが素早く回し蹴り。
身体が浮いたところへ、昨良がスピンアタックを叩き込んだ。
自身の身体を中心にして長い尾を振り回し、その先端にある薙刀に遠心力を乗せて切断するという技である。
常人ならば即死。久居少将といえど瀕死は免れない。
「兄弟! てめぇら調子にのるんじゃねえ!」
腰から軍刀を抜いた安濃津少将が素早く回転斬りを放ち、衝撃波によって小唄たちを薙ぎ払った。
「こうなったらてめぇらから殺してやる!」
バランスを崩した小唄へ大上段から斬りつけ――る寸前、張 麗虎(CL2000806)の剣がそれを阻んだ。
麗虎は強制的に刀を跳ね上げ、ダッシュによって急速接近した湊・瑠衣(CL2000790)がスピンキックで安濃津少将をはねのけた。
「これ以上の狼藉はさせません!」
「野蛮な人たち。覚者どうしが戦って、沢山の人を傷付けて、それで何になるというの。力の使い方を間違ってるんじゃないの」
「この期に及んでお説教か? 俺が……ん? そこのお前、見たことがあるぞ」
瑠衣の顔を見て安濃津少将はニヤリと笑った。
「黙りなさい」
「そうだイレブンだ! 集落を焼き払ったときに襲いかかってきた連中だな!」
「だまれ」
「あの時は傑作だった! 俺たちを襲うかと思えば現地の覚者を集団リンチして」
「――!」
目を大きく見開く瑠衣。掴みかかろうとした彼女を、麗虎が掴んで止めた。
「一緒に戦いましょう。二人なら、心強いわ」
「……」
瑠衣は大きく息を吐いて、そして頷いた。
「二人だけやないでー」
振り向くと、善哉 鼓虎(CL2000771)と賀茂 たまき(CL2000994)が立っていた。
「助太刀や。いくでたまきちゃん、一緒やったら心強いで!」
「うん、がんばりましょう鼓虎ちゃん!」
二人は言うやいなや安濃津少将へ突撃。
両サイドから挟むように回り込むと、たまきは強固な拳で殴りつけ、鼓虎は半月回し蹴りで頭を狙う。
鼓虎の蹴りを腕で受け、払いのけるように刀を繰り出す安濃津少将。
対して鼓虎とたまきは素早く場所を入れ替えた。たまきはリュックサックから掛け軸のようなものを引っ張りだし一瞬で展開。エネルギーシールドにして刀を打ち弾いた。
刀が弾かれた一瞬、それだけの隙だが充分だ。
瑠衣は素早く飛び込み、襟首を掴んで足を払い、相手を大きく転倒させる。
「マーシャルアーツ!?」
こうなればもはやサンドバッグも同然。麗虎がすれ違いざまに彼の胴体を激しく切り裂き、鼓虎の拳が正確にボディを捉える。
「これでしまいや」
鼓虎が拳を振り抜くと、安濃津少将は吹き飛び、土産屋の棚を破壊して転がった。
ふいいと息をつく鼓虎。
「一丁上がり。飴ちゃんいる?」
「いや……それどころではなさそうです」
麗虎に言われて振り向くと、ぼろぼろの久居少将がいた。
少女の髪を掴んで引っ張り、首にナイフを押し当てている。
「ハ、ハハ、これで形勢逆転……だな……。動くなよ。下手に手を出せばこのガキの首が落ちるぜ」
「ぐ……」
「武器を置いて下がれ! 早くしろ!」
ナイフを押し込む。血が噴き出し、少女が声にならない悲鳴をあげた。
その悲鳴を、正しく聞き取った者が居た。
久居少将の後方から何者かの空圧弾が発射され彼の頭部を貫通。久居少将は膝から崩れ落ち、今度こそ動かなくなった。
「この攻撃は……」
久居少将の死亡を確認して、成瀬 漸(CL2001194)は立ち上がった。
「遅れて悪い。チーム『GMF』、到着した。さっきの学生たちの避難は完了したよ。三島さん、彼女を」
「分かってるわ」
三島 椿(CL2000061)は脱力して倒れかけた少女を抱えると、首の傷を術式によって治癒した。
「傷は塞いだわ。けど失血とショックが酷いみたい」
「大丈夫だ、私が抱えていく」
漸は少女を抱きかかえると、きびすを返した。
向こうから成瀬 翔(CL2000063)が駆け寄ってくる。
「じーちゃん! 仲間との連絡がついたぜ! 瓦礫に囲まれてる人たちがいるみたいなんだ、オレたちも早く行こう!」
翔は鼓虎たちに気づくと手招きした。
「仲間と送心で連絡をとってんだ。ここはもう大丈夫だって伝えとく。人手が居る場所あるみたいだから、一緒に行こう」
「じゃあ、私は一足先に行くわね」
目的地が明確に分かっているのだろう。椿は翼を広げて空に舞い上がると、まっすぐに飛んでいった。
●ヒノマル陸軍第二班、飛行戦隊
覚者戦闘において、地面を走るタイプの陣形はうまく利用できないことがある。
というのも、一部の覚者は自力で飛行する能力を有しているからだ。
それは空襲戦力を獲得した人類が弓と刀で戦っていた頃の城を捨てた理由と似ている。
しかし屋内戦闘。それも上階を目指すタイプのものとなれば、飛行覚者ならではの戦法が適用できるのだ。
「戦争ごっこなら地獄でやりなさい!」
たまきは城の外壁を走りながらエアブリットを連射。
対してロケットランチャーを担いだ翼人の女が波打つような飛行でそれを回避。
「中将、桑名と申します。ところで、ここは既に地獄では?」
桑名中将がたまきめがけてロケット弾を発射。
破壊される外壁から飛び退き、たまきは舞うように飛行を開始。相手の下を抜けるように滑空しながら乱射。飛来する水礫をランチャーで打ち払う桑名中将。
「その程度の実力で私に対抗するおつもりですか?」
「道連れにしてでもね。最後にはその羽もいでやるんだから、覚悟なさい!」
たまきはそう言うと、術式を乱射しながら桑名中将に体当たりをしかけた。
先刻破壊された外壁を更に破壊して屋内へもつれ込む二人。
畳の床を激しく削りながらもたまきをはねのける桑名中将に、霧島 有祈(CL2001140)とアイオーン・サリク(CL2000220)が襲いかかる。
二人の攻撃をランチャーで受け止めるが、アイオーンは更に押し込んだ。
「軍人として戦争を否定しないが、市民を巻き込めば恨みの火種が燃え上がるぞ!」
言いながらも彼の剣は燃え上がり、桑名中将の前髪を焼こうとする。
「知ったことではありません」
桑名中将はアイオーンと有祈を蹴り飛ばすと、素早く起き上がった。
そこへ襲いかかる是枝 真(CL2001105)と百道 千景(CL2000008)――だが、屋外から投入された大量のグレネードを察して咄嗟に防御。
「ひえー、大変なことになってるよ」
「……」
千景は祝詞を手短かに唱えると、外の敵めがけてエアブリットを放った。
追撃にと火炎放射器片手に突っ込んでくる敵に地烈を繰り出す真。
炎と斬撃が交差する。
が、敵兵はすぐに後退。火炎放射で牽制しながら距離を取り始めた。
「うわ、倒しづらいな……ずっとこうだもん」
牽制射撃は行なってくる割に手を伸ばすと引いていくというやり方に千景たちは攻めあぐねていた。
無視して上に行こうにも攻撃が激しくて進むことができない。
かといって倒そうとすれば回避行動をとられて決定打を与えられない。
こちらの攻撃で簡単に死ぬくらいの雑魚だらけなら切り払ってすすむこともできたが、これでは上へ進む前に温存戦力が潰されてしまう。
第四班を死ぬ気でなんとかできるとしても、第五班や暴力坂相手に手も足も出せずに悠々逃げられるという状況はできれば避けたいのだ。
「つまり、余が彼らを完璧に押さえ込めなければ先へは進めないわけだな。いいだろう」
由比 久永(CL2000540)は赤い翼を広げると、火ノ鳥が羽ばたくが如く二本の帯を引いて飛んだ。
牽制に放たれた火炎放射を羽扇をあおぐことで払いのける。
屋外へと舞い上がると、眼下には破壊されゆく街が見えた。
「このような所業、さすがの余も許せぬぞ。激おこというやつだ。制裁を下す」
掲げた羽扇に応えてか、雷が敵兵を襲う。
桑名中将は銀の翼をもつ高槻大将へ目配せをした。
「敵も一筋縄ではなさそうです。戦法を変えますか?」
「変えなくてよい。菰野、お前の隊で襲撃せよ」
「イエッサ!」
金髪の女が翼を鋭角にして突撃。久永に体当たりをかけると、たまきの時のように屋内へと強制的に押し込んだ。
「ヘイ、ソニア!」
天に翳す左腕。まるでそれに応えるように装剣された小銃が握られる。
その音を鋭敏に聞き取った久永は下手に防御することなく高速離脱。
剣が畳に突き刺さり、周囲の床ごと強烈にえぐり取る。
「よく避けましたネ。ワタシはホーカー、菰野ホーカー。栄えある中将デス! ホーカー隊、栄誉のためにワタシに続け!」
途端、装剣小銃を構えた翼人たちが一斉に屋内へ飛び込んでくる。
「この刃、栄誉のために!」
「なんの!」
銃を乱射しながらの突撃に、神祈 天光(CL2001118)が抜刀。
水流を帯びた刀で弾を次々に弾くと、それを水平に構えた。
「拙者の刃は守るための刃。争いは好まぬでござるが、人々を泣かせる無秩序な破壊など絶対に許さないでござる」
そんな彼の背後から激しい雷がほとばしる。
「ふふ、いけませんね神祈君。地に満ちる悲鳴に悲鳴に悲鳴……美しく心地よいハーモニーではありませんか!」
腕を広げて笑うエヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)。
「さあ、この下らぬ戦争を楽しもうではありませんか」
「エヌ殿……」
天光は『この人これでも正義側の人間なんだよな』といった言葉を飲み込んだ。
知ってか知らずかついっと指さす菰野中将。
「その人正義側の人間なんデスか?」
「今はそれを言わないでほしいでござる」
「何でもいいデス! さあ死ね、栄誉のために!」
銃剣によって繰り出される突きを、天光はスウェーで回避。回り込みから流れるように斬撃を繰り出すが、菰野中将はそれを反転させた銃剣で防御。天光の背中に大量の銃口が向けられる。
「背中の守りが甘いですよ神祈君」
立ちはだかるエヌ。彼が手を翳すと、周囲が術式の霧に覆われた。
集中的に放たれた銃撃がそれていく。
だがすべてとはいかない。かわしきれなかった銃撃に、天光とエヌは宙を舞うことになった。
肉体組織が蜂の巣のごとく穴だらけになっていく――と思いきや、破壊されるそばから肉体が修復された。
遅れて駆けつけた野武 七雅(CL2001141)の癒しの霧によるものである。
「あわわわっ、テレビでしか見たこと無いよこんなの! だいじょうぶ? いたくない?」
「死ぬほど痛いでござるが……助かったでござる!」
空中で身を翻して着地する天光。
エヌはちゃっかりと彼を盾にするような位置に回り込んでいた。七雅と目が合う。
「みんながこまってて、かなしんですから、なつねがんばるの」
「ええ、いい心がけです。頑張りましょうね」
「……」
恐らく意味が逆に伝わっているんだろうなと思ったが口には出さない天光である。
「その人絶対逆の意味に伝わってマスね?」
「貴様なぜそうずけずけとものを言う!」
「ホワイ?」
肩をすくめる菰野中将。そんなやりとりをよそに、七雅は継続的に癒しの霧を展開していった。
「あんまり氣力ないから、続かないかもしれないけど……」
「安心して、ちゃんと填気を用意してあるわ。遠慮無く回復に専念してね」
環 大和(CL2000477)が七雅の肩をぽんと叩いた。
「美しい都で争いを始めるなんて……」
と同時に、膝に保持していた術式カードを一斉展開。自らの氣力で発光させると、七雅の頭上で輪を描くように周回させた。
天使の輪を手に入れたかのような光景にぱっと顔を明るくする七雅。
ふと横を見ると、エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)の頭上にも同じ輪が現われていた。
「相手は火力で牽制してきているのよね? なら、私たちの回復術が役に立つはずよ」
腕を掲げるエメレンツィア。真っ赤なドレスに纏うように、水の因子が螺旋状に腕へまとわりついていく。水は熱を帯びたように霧となって膨らみ、仲間たちの肉体を修復していく。
「この京都の地を戦場に選ぶなんて。この地にどれだけ貴重なものがあると思っているの」
「貴重? ジンジャブッカク、ですか? そんなもの――」
笑い飛ばそうとした菰野中将を前に、エメレンツィアはがつんと足を踏みならした。思わず言葉を詰まらせる菰野中将。
「どれだけ、多くの人の命が喪われると、思っているのよ!」
「そ、そんなの、栄誉のまえにはささいなことデス!」
菰野中将は反射的に飛び退くと、小銃を乱射した。
手を繋ぐエメレンツィアと七雅。
「思い知らせてやりましょう」
「がんばるの」
銃撃に対して張られるカウンターヒールが、菰野中将の攻撃を無力化していく。
循環するカードビットの一つをつまみ、大和は不敵に笑った。
「近づくことを恐れて飛び上がり、対立することを恐れて銃を乱射する。あなた今、負け犬みたいよ」
「なっ……!」
菰野中将は顔を真っ赤にして歯噛みした。
大和たちとヒノマル陸軍では戦力的に決して負けていない。どころか、お互い死ぬまで殺し合ったら確実にヒノマル陸軍が生き残るだろう。
ヒノマル陸軍はそろいもそろって腕自慢。兵術にも優れた戦争屋たちである。
菰野中将も隊を任された時から腕には自信があったし、兵隊の扱いにも慣れていた。襲撃作戦に失敗したことは無い。
無いが、今初めて、失敗の二文字が脳裏をよぎった。
「ば、馬鹿にするなァー!」
体中に術式を展開し、突撃する菰野中将。
――の、真横に、リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が併走状態で急接近していた。
「チョット、そんな悪いことは私が許しませんヨー!」
相手の銃と腕を掴み、ねじり落とすように地面に押しつける。
「命を軽視する人にはオシオキしちゃいマース!」
そして零距離から波動弾を発射。
菰野中将を貫いた弾は彼女に続いて攻撃をしかけようとしていた襲撃隊をも貫いて屋外へと飛び出していった。
「かはっ!」
何か言おうとした菰野中将だが、喉から出たのは血だけだ。
反撃にとリーネを掴もうと腕を伸ばすも、襟首を天明 両慈(CL2000603)に掴まれ、引きはがされる。
「そこまでだ。コレを壊されると面倒なんでな」
「両慈ー、私をモノ扱いするのやめてくれませんかー?」
「黙っていろ」
両慈は手のひらからスパークを放つと、菰野中将にたっぷりと浴びせてやった。
びくびくとけいれんしてから脱力する菰野中将。
そろそろトドメをさそうかと二撃目を構えたその時、無数のロケット弾が投入された。
菰野中将を手放し、カウンターヒールを展開しながら飛び退く。
代わりに七海・昶(CL2000521)が飛び込み、自らに回復をかけることで爆炎を振り払った。
ロケットランチャーを手に立ちはだかる桑名中将。
菰野中将を部下によって撤退させると、ランチャーをトンファーのように構えた。
「同僚が迷惑をかけましたね。彼女はどうも拘りすぎるきらいがあるので」
「別にいーよ。でも京都の街で暴れるのはやめてほしーな。ここイイところじゃん。壊さないでほしいなあ」
「それは聞けない相談です。破壊せよとの命令ですので」
「別に、聞いてくれるとは思ってないよ!」
身構える昶。その左右に、小石・ころん(CL2000993)と梶浦 恵(CL2000944)が立ち並ぶ。
ころんは身体をお菓子の魔女へ、恵は煤汚れた白衣をはたいた。
「ころんも、ここはイイところだって思うの。『かわいい』がたくさんあるから」
握っていた手を開くころん。そこには京都の土産屋で売られていた細工があった。しかし無残に壊れている。
「ころんの『かわいい』をめちゃくちゃにしたこと、絶対許さないの」
言うや否や、少女姿の彼女が映った写真を扇状に広げ、凄まじい速度で投擲した。
ジグザグ飛行でかわしながら急接近してくる桑名中将。
後ろでは援護射撃をかけようとしていた兵たちが撃墜されて落ちていく。
その間ころんのそばまで接近した桑名中将はランチャーを直接叩き付けてきた。
巨大なキャンディケインで受け止めるころん。
だが相手の衝撃たるや凄まじく、ころんは防御姿勢のまま吹き飛ばされた。
「小石さん!」
恵が至近距離から手を翳し、スパークを発射。
他の兵たちが電撃に巻き込まれる中、桑名中将は高速飛行で恵の背後へ回り込んできた。
コンマ五秒でロケットランチャーの発射準備を整え、発射姿勢へ。
トリガーを引く、その直前、キャンディケインのフック部分が首にかかった。
「踏みにじられたサラダみたいにぐちゃぐちゃになってしまえなの!」
「ぐ――!」
照準が上へ向く。放たれたロケット弾が頭上で炸裂し、爆風によって三人はそれぞれ吹き飛ばされた。
恵は飛ばされ、めちゃくちゃになった畳を転がりながらも冷静に術式を構築。受け身のように床を叩き、召雷を発動させた。
「中将――ぐわ!?」
援護に入ろうとしていた兵たちが恵の雷に弾かれて後退する。
「飛行状態にあれば戦闘能力は下がるはず。それでもここまで差が付くということは……元々相手の方が上手ということでしょう」
起き上がり、白衣をバサリと翻す恵。眼鏡のつるを指でつまんだ。
小声以下の声でつぶやく。
「それにしても早すぎる」
ここからは小声以下の更に以下。ほとんど脳内での独り言である。
恵が見たところ、F.i.V.Eの組織的行動はある程度の一貫性と結束力のあるものだ。そんな組織が秘密裏に活動したところで露見するのは時間の問題だ。
目撃者全ての殺処分や永久記憶処理は方針に反するものだし、何よりコストが足らない。
そこまで考えて、いずれはAAAに代わる国営覚者組織になる未来も考えていたが……『それにしても早すぎる』である。
拠点を置いている京都が狙われたのは、恵の見たところ偶然ではない。
この近くに何らかの大規模組織があると仮定して動いている。小規模組織を捜索するのに町ごと破壊するヒノマル陸軍にそんな知恵があるとは思えないので、恐らく誰か……誰かが裏から糸を引いている。
ここで下手な動きをすれば致命的な情報が漏れるかもしれない。大学が破壊されるだとか、神具庫や職人が奪われるだとか、昨今奇跡的に大量確保した夢見を拉致されるだとか……。なんなら資金源(スポンサー)を順番に潰して資源を枯渇させるなんてこともできるかもしれない。恵が敵のボスの立場でF.i.V.Eの知識が詳細に手に入ったなら、できることは山ほどある。
潰すどころか利用して邪魔な組織を消すことだってできるだろう。
「注意しなくては……」
「なにをぶつぶつと言っているんですか」
「いいえ、なにも」
改めて観察してみると、高槻大将率いる第二班は随分数が減っている。第一班と比べて襲撃に対する防御を薄くしていたせいで撤退する兵も多いのだろう。菰野中将がいい例だ。
「どうでしょう。ここは退いて、私たちを上へ行かせてみるというのは」
「ご冗談を」
「当然です」
ロケットランチャーを放つ桑名中将。雷を放つ恵。
「中将にばかり戦わせるな。一気呵成に責め立てろ、相手は弱っている」
そこへ、高槻大将率いる飛行爆撃チームが突入してきた。距離を置いて牽制ばかりしていた連中が本格的な攻撃にでたとなれば注意も必要……だが。
「誰が弱ってるって、ええ?」
四月一日 四月二日(CL2000588)と赤祢 維摩(CL2000884)がハンドポケットのまま立ち塞がった。
顎を上げて見下す姿勢をとる四月二日。一方で顎を引いてにらむ姿勢をとる維摩。
二人は全身からとてつもないスパークを放つと、飛び込んできた高槻大将たちへと浴びせかけた。
「阿呆の後始末など面倒臭い。もう帰っていいか」
「えー、そういうなよお。世のため人のためだぜ? 技も沢山試せるし? ほら眉間に寄りっぱなしの皺ゆるめてさあ」
「先にお前で試してもいいんだぞ垂れ目。そのツタのような髪の毛が少しはまっすぐになるだろう」
「えー? 何か言ったあ!? 常時キメ顔の赤祢くぅん!?」
「常時ふやけ顔のお前に言われたくないな!」
二人はハンドポケットのままにらみ合い、額をがつんとぶつけ合っていた。
攻撃しようかどうか迷う兵たち。
「ハハ、内輪もめか。統率のとれていない組織はこれだからな。今のうちにやってしま――」
「「うるせえ!」」
全く同時に横目でにらみ、先程よりも更に激しいスパークを放つ二人。
兵たちはそれによってはじき飛ばされ、屋外へと放り出される。
残ったのは高槻大将だけだった。
「暴力に慣れると、油断にも慣れてしまうものだな。これが慢心か」
「邪魔するな鬱陶しい。そしてお前も俺と同じことを言うな、気持ち悪い」
「うわーそれ俺が言おうと思ったんですけどー」
四月二日と維摩は互いににらみ合いながら高槻大将へと襲いかかった。
上段下段に全く同時に雷を纏った蹴りを繰り出す。
高槻大将は身体が水平になるようにジャンプし、二人の顎に二丁の小銃をそれぞれ突きつけた。
「俺は慢心しない」
「「――!?」」
回避。ではない。維摩と四月二日はお互いを突き飛ばして射撃をかわし、地面を転がった。
だがそんな回避行動を先読みしていたかのように、高槻大将は彼らの足下にグレネードを転がした。
スタングレネードだ。激しい光と音にくらむ二人。
銃口が改めて二人へ向く。
弾がオートで放たれる。
心臓部を直撃した弾は彼らの体内に残り、常人であれば即死するような衝撃に襲われる。
しかし。彼らの身体には弾は残らず。どころか心臓も無事だった。
「まにあった、のよ」
鼎 飛鳥(CL2000093)が肩で粗い息をしながら、青く光るステッキを振りかざしていた。
「ごめんね。ここまで来るのに時間かかっちゃった。でもまだまだ先は遠いのよ。こんなところでへこたれてちゃ勝てないのよ!」
ぐっとガッツポーズをしてみせる飛鳥。
高槻大将の攻撃を彼女一人でしのいだ、というわけではない。小学生がてらに日々の電車通勤に耐える頑張り屋とはいえそこまでスペック外れのことはできない。
屋外からふわりと入ってきたファル・ラリス(CL2000151)の協力があったからだ。
ファルは両手を開いて、手前に翳した。
「わたしは許すよ」
「……?」
不思議なことを言うファルに、高槻大将はゆだんなく振り返った。ファルは続ける。
「暴力による制圧、支配。いいよ、許すよ。力があるなら使いたいもんね。大きなことをしなくちゃ」
言いながら、ファルは半歩ずつゆっくりと部屋の中に入ってくる。
「戦争したいんだね。それは楽しかったり、苦しみから逃げられたりするのかな。明らかに道理の通らないことだったり、法律に反したことでも、そうしなくちゃならない人はいるよね。わたしたちだってそう。だから許すよ」
高槻大将との距離が5メートルまで狭まった。
歩みが止まる。
「一方で、黎明の彼らや京都の民はあなたたちを排除することを望んでるんだ。わたしはどちらの望みも尊いと思うし、叶ったところを見たいよ。わたしは……」
不気味なほどの笑顔で首を傾げる。
「この戦場のすべてを許すよ」
「ややっこしいわね、とにかくそいつらキックするって話でしょ」
やや遅れてこの階へやってくる弓削 山吹(CL2001121)。
「戦争戦争って、私は連中の絵空事に付き合いたくないよ。大けがじゃ済まさないからね、覚悟しなさいよ」
山吹は広げた指をぱきぱきと鳴らしながら握り込んだ。
「命張る覚悟、してないなんて言わせないからね」
「無論。来い」
二丁小銃を構える高槻大将。
そんな彼に、飛鳥と山吹は同時に突撃した。
飛鳥が水礫を乱射。それを右へ左へかわす高槻大将に、山吹は至近距離まで迫った。
握った拳に炎を込めて、思い切り殴りつける。
が、高槻大将は彼女の背後に回り込んでいた。小銃のストックを叩き込み、飛鳥には銃撃を浴びせてくる。
「命張る覚悟か。逆に聞くが、お前は死ぬつもりで来ているのか」
「そんなのしてるわけ」
「だろうな」
高槻大将は小銃から一時的に手を離し、振り向きガードでストックを受け止めていた山吹を背負い投げた。
地面へ大の字に倒れた山吹の喉元に銃口を押しつける。
と同時に、飛鳥たちにも銃口を向けた。
「自分たちは死なない。自分たちは弾に当たらない。相手は愚かで精神が脆弱。自分たちは幸運の女神に愛されあらゆる奇策は成功し人々に愛されるに決まっている」
「なに、それ」
「慢心だ。お前たちは慢心している。『命をかければなんでも願いが叶うだろう』と考えている」
語っている間にも、飛鳥はじりじりと間合いを整えていた。山吹も反撃の備えを充分にしている。
「先に行っておくが、多くの願いは叶わない。この世界は、特攻兵器に乗り込んだ新兵がクレー射撃の的のごとく無駄死にする世界だ。あれに乗せるのは熟練の兵士であるべきだった。そうすれば然るべき戦果を上げられた! 数十人の命を引き替えに数億人を救えた! 彼らは命の使いどころを間違えたのだ! あれは私が乗るべきだった……!」
目を見開く高槻大将。
僅かに起こった手の震えを、山吹は見逃さなかった。
足を振り上げ高槻大将の腕をホールド。胸に銃口を押し当て、ダメージを独り占めした。
と同時に自らを炎に包み、高槻大将もろとも焼き焦がす。
「高槻大将!」
慌てた様子の桑名中将が飛びかかってくる。
「そこなのよ!」
狙い澄ましたように飛鳥が氷の杭を発射。高槻大将と桑名中将をまとめて貫き、空へと消えていく。
「ぐ――」
「わかるよ。やり直したかったんだね」
ファルが、高槻大将の傷口に手を当てた。
「七十年を全部無駄にしても、七億人を全部犠牲にしても、やり直したかったんだね。私は、許すよ」
「……」
「高槻大将、これ以上は……!」
桑名中将に抱え上げられる高槻大将。
「俺は平気だ。だが、ぬかったな。彼らへの攻撃に集中していたせいで――」
「ええ、私たちの部隊がほぼ無傷で上階へ進行できました。感謝します、皆さん」
明智 之光(CL2000542)は中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、薄く笑った。
「後は任せてください」
「がんばるのよっ」
飛鳥のガッツポーズに、之光は頷いた。
「では、ここは任せます」
そして上階へと駆けていく之光。作戦上、彼らの勝利と言って過言では無い。
高槻大将は小銃を構え直した。
「まだ私も未熟、若輩ということか。だが、せめてお前たちだけでもここに足止めする!」
「いいよ。それも、許すよ」
ファルは笑顔で、彼に応えた。
●市街地救出作戦、エリアB
四条通から外れた住宅地にいくつかの家族が集まって身を隠していた。
碁盤目のように整備されたのは遠い過去のこととはいえ、住宅が密集した京都の小道は複雑に入り組んでいる。
既に救助隊は周辺地域から続々と到着し、AAAまでもが救助活動に奔走してはいえるが、こうも入り組み、しかも景観ごと破壊され行き止まりだらけになった町は迷路そのもの。住宅地の救助は困難を極めている。
「外、大丈夫?」
「ああ……」
おびえる娘の声に応えて父親はカーテンを僅かに開くが、上空を通過するヒノマル陸軍のヘリを見て反射的にカーテンを閉じてしまった。
「……だめだ。外は隔者だらけだ。外に出たら何をされるか」
頭を抱えてうずくまる父親。
そんな彼の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。人の声ではない。猫の、それも彼の飼っている猫の声である。
もしやと思って窓の外を覗いてみると、猫を撫でる風祭・雷鳥(CL2000909)と目が合った。
窓をコンコンと叩く雷鳥。
「待たせたね。助けに来たよ」
迷路と化した住宅地を、雷鳥は走っていた。
ハル・マッキントッシュ(CL2000504)と新田・恵梨香(CL2000015)、それに百千万億 康孝(CL2001150)を連れている。
ハルが透視と感情探査をして恵梨香ががれきの上を器用に移動し、人が通れる程度まで康孝が開けた隙間を通っていく。その繰り返しだ。
だが中でも一番有効に動いていたのは雷鳥である。
「京都には思ったよりネコがいるもんだね」
ネコは家につくというが、野良猫は町につく。あらゆる細道を熟知し、あらゆる人間事情を把握しているとさえ言われる彼らから得られる情報は、こと災害時の人命救助という点において最高のパフォーマンスを発揮した。
勿論その辺の野良猫を掴み上げて情報を吐けと命令したところで応えてはくれないだろう。
雷鳥の人柄あっての取引。いや、助け合いである。
「これでも母親やっててね、ああいう連中みると子供がおびえるから消えてくんねーかなって思っちゃうわけ。それに私、一回逃げちゃったからさ」
そう野良猫に語りかけながら、その野良猫に教わった抜け道を這いずる雷鳥。
がれきにふさがれていた少女を見つけ、仲間に合図を送った。
「こっちに女の子がいる。怪我してみるたいだ。誰か来れるかい?」
「任せて、今そっちに行くんよ」
茨田・凜(CL2000438)はがれきの間を抜けると、のそばへ近づいた。
どうやら怪我をしているのは足のようだが、こういうときの術式能力である。凜は少女を治癒してその場から連れ出した。
「がれきが崩れる、早くこっから離れろ!」
百目鬼 燈(CL2001196)が手を振り、近くで怪我をした一般市民を抱えて走り出す。
そんなさなかに。
「おっと、そうそう人助けばっかりされちゃ困るんですよ。山ほど人が死んでぶっ壊れて、全国のアニメ放送が半年止まるくらいの大惨事になってもらわないとね」
小銃を担いだ若者が建物の上から現われた。年頃からして高校生だろうか。燈たちへと狙いを定めて発砲してくる。
間に割り込み銃弾を弾く谷崎・結唯(CL2000305)。
「これはただの虐殺だ。戦争の意味をはき違えるな、たわけどもが」
「何が違うんですか? 人殺して壊すのが戦争でしょ?」
追加の射撃を加えてくるが、結唯はあえてそれを無視。
代わりに鐡之蔵 禊(CL2000029)が飛び出した。
「こいつは任せて!」
禊はがれきと壁をフリーランニングの要領で駆け抜けると、素早く若者のそばまで接近した。
巫女服の袖を翻し、炎の足刀を繰り出す。
若者は転がるようにそれをかわした。
「あぶねえ! 邪魔すんなよ、ハイスコアだったのに!」
「何が――!」
禊は頭に血が上るのをなんとかこらえた。禊とて若者だ。日本が七十年かけて忘れ、無条件に悪いこととしてフタをした戦争のなんたるかを知らない。
現代にとって戦争なんていうものはアニメやテレビゲームの中にあるもので、相手を殺すゲームくらいにしか見えていない。
戦争。賭博。麻薬に性行。そして暴力。意味を知らなければ、子供は遊びにしてしまう。
禊と彼の違いがあるとすれば、今まさに泣いている子供が見えているか否かだ。
「そんな気持ちで平和を壊そうとするなら、十天がひとり鐡之蔵禊がおしをきをするよ!」
建物と小道が所狭しと並ぶ京都市ではあるが、広くて平らな場所もそれなりに存在している。
中でも大通りに面した公園めいた場所に、大量のジープや装甲バスが駐車されている。
その様子を、光邑 研吾(CL2000032)と光邑 リサ(CL2000053)は物陰から観察していた。
「こりゃあいかんな。兵隊だらけで近づけん」
「弱い兵隊が一人で見張りでもしているならと思ったけれど、これでは流石に大変ね……」
二人は別にヒノマル陸軍の足をつぶしに来たわけでは無い。別にやりたいことがあったのだが、どうやらこの場へ出て行くのは自殺行為のようだ。
仲間があと六人、欲を言えば十人ほど欲しいところだが、今は人命救助が優先される。諦めるほかなさそうだ。
そこへ黒桐 夕樹(CL2000163)が通りかかった。
「何やってるの。こっちは別に襲わなくていいよ」
「大丈夫、それは分かってるわ。人手が必要なところはある?」
「それなら……」
夕樹は頭に手を当てた。仲間からの送心を受けているのだ。
「この先で銀行が襲われてる。行こうか」
「火事場泥棒で銀行強盗とはなあ」
「いや」
あきれ顔の研吾に、夕樹はため息交じりに言った。
「銀行ごと焼き払うんだって」
一方銀行前。火炎瓶をジャグリングのようにして弄びながら、ヒノマル陸軍の男が銀行の建物へ次々に火炎瓶を投擲していた。
「ほらほら、頑張らないと燃えちゃうぞー。ハッハー!」
飛んできた火炎瓶が建物に入らないように蹴りつけて破壊する陽渡・守夜(CL2000528)。
爆炎が彼を包むが、耐えられない炎ではない。
「中にはまだ人がいます。どなたか救助を!」
「お任せですよー!」
筍 治子(CL2000135)は眼鏡を外し、銀行へむけて機関銃を向けた。
ぎょっとする守夜をよそに、ロックのかかった扉を無理矢理破壊。
「ハローハローこんにちわー! お元気ですか私は元気ー!」
扉を無駄に蹴り飛ばし、店内へ突入。
酷いやけどを負った人を掴み上げると、回復術式の混ざった水をペットボトルで無理矢理ぶっかけた。
「命は奪うより救う方がずっといいですねー! 敵さんはそう思いますか思いませんかそっかー私は自分の価値観しか認めませーん! イエー!」
テンションのおかしい治子に気圧された銀行員たちではあるが、どうやら敵ではないと察したようで外へと逃げ出していく。
外では男が火炎瓶を手に顔をしかめていた。
「なーんだ。人質いなくなっちゃったか。じゃああんたら殺したら撤収でいいよね」
次々に火炎瓶を投擲してくる。
それを守夜は空中でキャッチ。身体の回転を乗せて相手へと投げ返す。
「援護を!」
「今すぐ!」
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は本を開くと、暴風とは全く逆の方向にページをめくった。まるでその空間だけ別のエネルギーが動いているかのようにめくれていくページから、次々に火炎弾が発生。
「良い子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――イオ・ブルチャーレ!」
クリスマスの魔女のごとく手を翳すと、ラーラの周囲に生まれた炎が男へと殺到する。
そこへ、後から駆けつけた夕樹たちが衝撃弾を追加射撃。
男は炎に包まれ、笑いながら死んでいった。
炎に汚れた町を、ラーラは帽子を押さえて見回した。
「私にできることは限られていますが……できるだけのことを」
●ヒノマル陸軍第四班、超獣兵団
仲間たちが第二班の注意を引いていたおかげで、之光たちは第四班の守る階へと進むことが出来た。
「最上階の第五班と交戦状態に入った時点で彼らは撤退を考えるとのこと……ということは、ここは作戦達成におけるボーダーラインということになりますか」
「まっ、そうなるねえ」
伏見・四四。軍刀二刀流の女獣憑にして、第四班の大将である。
ここぞとばかりに前へ出る間宮 公子(CL2001002)。
「あーっはっはっは! あたし様が直々に来てやったわよ下郎ども! 何突っ立ってんのよ、とっとと道を空けて非礼を詫びて腹を切って死になさい! まあ今は機嫌がいいから? どうしてもっていうなら直々に介錯してあげてもいいわよ! あたし様ったらなんて博愛主義! 褒め称えるのを許可するわよ!」
「いいぜ、行きな」
彼女は刀を鞘に収めたまま、顎で最上階への階段を指し示した。
切腹はともかく、まさか道を空けるとすら思っていなかった公子は言葉に詰まった。
黙ったまま三歩下がって之光を前に出す。
「あたし様の代わりを勤める栄誉をくれてやるわ」
「……」
「ほら、ゴールはあそこだよ」
行けと言われて素直に行く之光ではない。
力を持つとすべからく傲慢さを生むのが人間ではあるが、之光はその点において徹底して冷静だ。F.i.V.Eの覚者と戦うだけでも苦労するのに、それ以上の実力者がごろごろいるであろうヒノマル陸軍と正面からぶつかるのは難しい。
それが前後からの挟み撃ちともなれば尚のこと。
「どうした? 俺らの間を通っていくのが恐いのかい? 臆病だなぁオイ」
わざと上階へのルートを開き、嘲るように笑う伏見大将。
「ンだとぉ!?」
その様子に対してシンプルにキレて襲いかかろうとする仲間もいたが、之光はそれを腕で制した。
どんな世界でも、己の弱さを自覚している者はあなどれない。之光も恐らくその一人である。
「挑発は戦争の基本です。落ち着いてください。それより……私たちをわざわざ最上階へ誘ったことに意味があるはず。さしずめ、二人の大将で挟み撃ちにする作戦でしょう。私たちは現状60人程度。そこへ中将複数に大将二人、更に暴力坂まで加わったら恐らく太刀打ちできません。……と、言ったところでしょうか?」
挑発を返すように言う之光。伏見大将は首を傾げた。
「察しがいいじゃねえか。じゃあ意趣返しに……そうだな、テメェら夢見囲ってんだろ。それも複数」
「……どうでしょうね」
「囲ってなきゃおかしいんだよ。俺らの防衛配置は完璧なんだ。クッソ強い連中でもない限り破れねえ。お前らの実力でここまでたどり着く時点でもうおかしいんだよ。俺らはいわば保険。強襲作戦を終えたら後は将棋でも指して遊んでりゃよかったんだ。それでも来ちまったってこたぁ……こっちの防衛に対してカウンターブレイクをかけたとしか思えねえ」
「……」
ここでみすみす情報を漏らす之光ではない。
黙って刀を抜いた。
「チッ、カマかけにも応じねえってか。やっぱ人間、コレしかねえわな。どうせ今の全力で俺らにぶつかってくるんだろ? 運良くゴールに行けたらいいなぁオイ」
「いや、行かせて貰うよ?」
会話をばっさりと遮る形で、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が加わってきた。
周囲に愛想を振りまきながら前へ出る。
「やあ、良い民と悪い民のみんな、余だよ」
「どういうつもりです」
「いや、そのまま。挟み撃ちにしてくれるんでしょ? じゃあ余たち、階段挟んで戦えばいいだけじゃない。相手はあんなこと言ってるけど、ここでのろのろ戦ってる間に上から敵が下りてきたら普通にアウトだよ?」
言われてみればという顔でこめかみを押さえる之光。
「確かに。私たちの役目はここで敵を押さえること。彼らが合流してしまったら、私たちの負けということですね」
「そういうこと」
プリンスを先頭に最上階へ進んでいく仲間たち。
伏見大将はそれを一通り見送った後で、わざと階段が戦闘の中心になるような位置取りに兵を配置した。
意図をさっしてため息をつく之光。
「……あなた、さてはスリルを出すために私たちを利用しましたね」
「ハッ、当然。人間目的達成のためにはアタマつかわねえと」
「使い方が、いや、頭がおかしいですよ。全く」
「褒め言葉だぜ。おら、全部隊――」
そこで、ここぞとばかりに公子が再び前へ。
「「突撃!」」
両軍勢の配置は階段を挟んだ両端。相手に余裕が生まれれば最上階へ流れてしまう。全力でぶつかっていかなくてはならない状況だ。
だがそれこそ互いが望むところ。
「第四班斬込隊長、伊勢亀山中将。推して参ります!」
両拳にナックルガードを嵌めた伊勢亀山中将が隊を率いて突撃してくる。
「迎え撃て、俺の筋肉!」
巻島・務(CL2000929)は全身の筋肉を漲らせると、伊勢亀山中将めがけてタックルをしかけた。
隣の脇森・楓(CL2000322)に視線を送る。
「ここはこの筋肉に任せて先にいけ!」
「いや、ここで戦うぜ? あっ、奥の連中とやれってことか?」
「フ……言ってみたかった」
「わかる!」
楓は親指を立て敵陣の奥へと飛び込んでいった。
狙うは同格。剣を武器にした斬込隊の兵士だ。
「俺だっていつ死ぬかわかんねえんだ、今を楽しまなきゃなあ!」
適当な兵士を見繕ってラリアット。
相手を巻き込んで壁を破壊。隣の小部屋に転がり込むと、兵士を相手に挑発のポーズをとった。
「つーわけでタイマンはろうぜ」
「望む所よ!」
鋭い突きを繰り出してくる兵士。トンファー使いの楓には相性が悪いが、バックステップで距離をとって深緑鞭を放った。兵士は切り払って踏み込み、回転斬りを繰り出してくる。
待ってましたとばかりにトンファーで防御――した途端、楓の腕が破裂した。
瞬間的に仕込まれた因子の種が炸裂したのだ。腕が文字通りはじけて飛ぶ。
が、構わない。
楓はフリーの腕を引き絞り、兵士めがけて全力で叩き込んだ。
「そうそう、倒れちゃやれねーぜ!」
拳の直撃を食らって吹き飛ぶ兵士。足下に兵士が転がってきたころで伊勢亀山中将は舌打ちした。
「遊びが過ぎます」
「えへへー、でもね、スリルを感じると、人間に戻れるって気がするんだー。とってもいいことだよ」
御影・きせき(CL2001110)が不気味な笑顔と共に刀を抜く。
努と挟む形だ。
伊勢亀山中将は刀を手に彼らを油断なく観察した。
「そこです!」
「む……!」
務はクロスアームでそれを防御。しかし相手の斬撃は凄まじく、彼の両腕ごと切り裂き、刃は肩組織を破壊して内側に達する。
「もろいものです、人間というのは」
「そうかな?」
不敵に笑う務。不審に思って刀を引こうとするが、びくともしない。
務の肩にある筋肉、そして切断されて短くなった腕で刀身を完全固定しているのだ。
「筋肉は人を動かす力。人間とは本来強固なもの。誇らしき俺の筋肉よ、今こそ無敵の盾となれ」
「小癪な――!」
「よそ見したらダメだよ!」
横合いから斬りかかってくるきせき。
片手首を切断された伊勢亀山中将は、歯を食いしばってきせきの顔面をもう一方の手でわしづかみにした。
「本能的ながら見事な太刀筋。しかしこの伊勢亀山、握力だけで相手を破壊してみせます!」
「いたっ……」
手を掴んで解こうとするが、これもびくともしない。
そんな中、ゲイル・レオンハート(CL2000415)が飛び込んできた。
ゲイルの放った因子の糸が務の手首に巻き付き強制止血。どころか、巻き付いた部分から腕を再生させた。
「筋肉が戻った!」
「まだやれる筈だ。行け」
「応!」
務は再び相手をホールド。
その隙をついて、星野 宇宙人(CL2000772)と天王山・朱(CL2001211)が同時に飛びかかった。
それぞれ剣と薙刀に炎を宿し、Xラインで斬り付ける。
「泣いてる子供がいたわ。子供を探す親もいた。動かない恋人にすがりつく女性も見た。こんな地獄みたいな光景をつくって、アンタたちなにがしたいのよ!」
第二の太刀で伊勢亀山中将を水平に切りつける朱。
その横顔を見て、宇宙人は一瞬悲しい顔をした。
「女の子(天使)を泣かせるやつは許せねえ」
宇宙人は腕に炎を宿し、伊勢上野中将の顔面を殴りつけた。
吹き飛んでいく伊勢上野中将。
宇宙人は白いハンカチを出して朱に差し出した。
「拭きなよ」
「いえ、泣いてなんて……」
「心の涙さ。女の子は、泣いてちゃいけない。そんな世界は俺が許さない」
黙ってハンカチを受け取る朱。
宇宙人はにっこりと笑った。
「俺は星野宇宙人。ソラトって呼んでよ」
一方。階段付近では激しい攻防が繰り広げられていた。
いや、今回の場合は攻と防があまりにハッキリ分かれすぎているだろうか。
「神戸、オマエラ、タタキツブス!」
頭に麻袋を被った巨漢が、郵便ポストを叩き付けてきた。
柄の長い四角型で、正しくは郵便差出箱九号ポスト。それを両手それぞれに持ってドラムのごとく高速で叩き付けてくるとあらば、並の覚者ならペーストにされてしまうだろう。
だがしかし。
「ぬううううううおおおおおおおおおおお! 心、頭、滅、却!」
藤城・巌(CL2000073)は空を割るが如き怒声をあげながら打撃をガードしていた。
「ちょっと、うるさすぎ! 倒されるまえに私の鼓膜が破れるわよ!」
盾をかざしつつ片目を瞑る信道 聖子(CL2000593)。
神戸中将はこの二人を絶え間なく殴っているのだが、未だ二人をペーストにすることはできていない。
なぜなら。
「押されてる、回復を急いで」
「やってるわよ!」
天王山・朱(CL2001211)と和歌那 若草(CL2000121)が必死に癒しの滴を生成、投与、また生成を続けているからだ。
二人を回復の要とみた神戸中将が襲いかかり、そうはさせまいと聖子と巌が立ちはだかっている構図である。
とはいえ永遠にこのまま耐えられるものではない。
なぜならば。
「そろそろ氣力が限界だな。氣力切れになったらどうする」
「どうするって言われても……」
大人しく叩きつぶされてやるわけにはいかない。
なんとか氣力を補充できれば……と思ったところで、彼らの氣力が急速に回復しはじめた。
なぜ、ならば!
「待たせたね。もう、大丈夫だよ」
永倉 祝(CL2000103)が美しい白髪を靡かせ、二人の肩に手を添えたからである。
より正確に述べるなら、彼女の手から伝達したエネルギーが彼らに注入されたからだ。
「七星剣。見えない組織を潰そうとしているみたいだけれど、それは恐いからだ。いつか羽ばたく鳥の羽をもぐようなもの。私は、そんな鳥を守りたい」
一度目を閉じ、意志を込めて開いた。
「だから、頑張ろう。援護するよ」
「助かる!」
秋人はセーブしていた氣力を開放し、周囲一帯に回復術式を展開した。
その隙に余裕が出た若草が、聖子の肩越しに剣を突き出す。
水の礫を巻き付けた剣が、神戸中将の目に突き刺さった。
聞き取れない叫び声をあげて目を押さえる神戸中将。
「勝機!」
巌はガードを解いて正拳突きの構えをとると、全身に因子の力を漲らせ、正面から拳を叩き込んだ。
「はあああああああああああああっ、勢破(セイハァ)!」
その衝撃たるや凄まじく、神戸中将が階段にめり込む形で転倒した。
「敵を定めて民間人を犠牲にして敵対組織を潰して終わりって、何が戦争よ! いたずらに虐殺して、破壊して、冗談じゃないわ!」
「私も、こんなこと許せるわけないじゃない」
剣を抜き、大上段に構える聖子。そして若草。
「覚者の力の使い方、見せてやるんだから!」
大上段から繰り出された二人の剣は、神戸中将が翳したポストを切断し、彼の身体をも切り裂いた。
第四班とその対抗部隊は完全な混戦状態に陥っていた。
防御力とブロック技術によって敵を阻むことを目的とした淀部隊、火力による牽制で階下へ押しとどめることを目的とした高槻部隊。これらも強力な隔者で構成された集団だ。それゆえ今も激戦を繰り広げ、F.i.V.Eの中には撤退する者も多く出てきている。
だがそうした部隊とは趣を異とするのが第四班伏見部隊。
戦いたいがために頭を使うという異色の部隊に、総合戦闘力で劣るF.i.V.Eはどうしても振り回されていた。
「しかし、力を合わせれば壊せない壁は無い」
阿久津 亮平(CL2000328)はジャケットのファスナーを一番上まで上げ、フードを被り尚した。
「チーム『モルト』、これより防衛行動に入る。総員、伏見部隊を誰一人として最上階へ行かせるな!」
「りょーかい! それじゃあ派手に!」
工藤・奏空(CL2000955)は二本指を頭上へ翳し、術式を発動。頭上に大きな暗雲を生み出した。
同じく亮平も印を結び暗雲を形成。二つの雲は合わさり、膨らみ、襲いかからんとする兵たちへと食らいついた。
対する伏見部隊は味方を盾にして突撃。
「強行突破を謀るつもりか。そうはさせん」
志賀 行成(CL2000352)は薙刀を取り出すと、鋭い突きを繰り出した。螺旋状に走った衝撃が盾にした兵士もろとも貫いていく。
更に薙刀を返して鐺を押し当て、衝撃波を追加で流し込んだ。
まるで巨大な丸太で突き飛ばされたかのように吹き飛んでいく兵士。
とはいえ相手も多勢。行成の左右を抜けていく。
軍刀によって繰り出される斬撃を、和泉・鷲哉(CL2001115)と三島 柾(CL2001148)が滑り込んで受け止めた。
「少しは太刀打ちできるといいけどっ!」
「今だ誘輔!」
柾のアイコンタクトを受け、風祭・誘輔(CL2001092)は手袋……もとい手首を取り外した。バズーカ砲と化した腕にロケット弾を装填。くわえ煙草のまま突きだす。
「避けろよ先輩! まとめて消し炭にしてやるよ!」
「うお!?」
慌てて飛び退く柾たち。
「巻き込まれたらどうする!」
「いや避けるだろ。記者ってのは危機に敏感なもんだぜ。足で稼いで腕で撮る職業ってな」
「記者なのユースケさんだけじゃない?」
「思えば不思議なチームだ。記者にIT社長にサテンに大学生に中二病とは」
「俺のこと中二病って呼ぶのやめてくれません?」
「いやアリじゃない? 喫茶店の常連客がマスターと一緒に野球するカンジでしょ?」
「そんなカンジでたまるか」
「でも相談だって店でやってたし」
「――って、雑談してる場合か!」
行成が防御の構えで叫んだ。
既に三人ほどの刀を薙刀によるリーチ保持でなんとかしのいでいる有様である。
「こっちが手一杯だ、手を貸してくれ鷲哉」
「はいはい。それじゃあ背中、守らせてもらうぜ」
鷲哉は行成の背後に回ると、炎を宿した手刀で敵兵を切り払った。
「お、意外と行けるな。この調子で早く大将落とさないとな!」
鷲哉は全力を込め、敵兵に向けて手刀を繰り出した。
が、その手刀は空を切り、どころか手首もろとも空中へ飛んでいった。
「なっ――」
瞠目して振り返る行成。
そんな彼の胸を、軍刀が背中から貫いた。
刀は、伏見大将のものである。
「誰を早く落とすってェ? 格の違いを思い知れや!」
刺さった刀を抜く要領で蹴飛ばされる行成。
それを受け止め、回復しながら奏空は顔を引きつらせた。
「や、やばいですよこれ。大将ってそんなに強いんですか!?」
「残念ながら……過去俺たちが倒せたのは中将クラスまでだ。大将クラスは、夢見の話でも倒すことは難しいと言われている」
「また大変なポジションを任されたな」
柾はガード姿勢で伏見大将へと接近した。
繰り出される刀をボクシングのスウェーと上半身の動作で回避しにかかるが、流石に格上相手に回避しっぱなしと言うわけにはいかない。むしろ、直撃を受けていることのほうが多い。
「一分も持たないぞ、やれるか」
「やるしかねーだろ!」
誘輔が飛び込み、地面に向けてバズーカ砲を叩き付ける。
タイミングを合わせて飛び退く柾。
追撃をかけようとした伏見大将の目の前で、畳が勢いよく立ち上がった。
切断される畳。
その裏から急接近する亮平。
「チーム『モルト』、総員――」
眼前で全力の召雷を発動。
スパークを防御した伏見大将に対して、亮平は勢いよくきびすを返した。負傷した鷲哉を抱えて走る。
「一旦退くぞ!」
潔く撤退した亮平たち。残された伏見大将は残念そうに刀を下ろした。
「ンだよ。久々に骨のある連中だと思ったのに、死ぬまでやらねえのかよ」
「オマエのために死にはしないさ」
「アァ?」
振り向くと、葦原 赤貴(CL2001019)が亮平たちがはねのけていた兵をバックアタックで次々と切り伏せていた。
複雑な文様の入った重々しい剣だが、まるで木の枝のごとく軽々と振り回し、拳法のような構えをとる。
「で、今度はテメェが相手になってくれんのかよ」
「何でも思い通りにできると思うな。オレは数を削らせてもらう」
赤貴は伏見大将から距離をとると、後ろから襲いかかってくる敵兵に振り向き斬りを叩き込んだ。
「待てよオラ、俺から逃げられると――」
「できるさ、ゴッドが来た!」
手のひらを突き出し、間に滑り込む御堂 轟斗(CL2000034)。
「そのパワーがユーたちの恐れのあらわれか? ストレングス強きものはサイレントに燃ゆるもの。ここはゴッドたちがお相手しよう! カモン、ヒーロー、アンド、エンジェル!」
「……」
あまりのテンションに、伏見大将は会話のリズムを見失った。
世の中で一番恐ろしいのは何を考えているか分からない奴だと言われるが、何を言っているのか分からない奴はそれ以上に恐ろしい。
伏見大将はそれを本能的に察して身構えた。
「すみません、こういう人なんです……」
「変な男だろう? はっはっは!」
横から瑠璃垣 悠(CL2000866)と多々良 宗助(CL2000711)が現われる。
悠は手袋を外し、エネルギーシールドを展開。
宗助も腕を鉄槌化し、防御の構えで翳した。
「でも仲間がいるってのはいいもんだ。俺たちの連携プレイ、今から見せてやる!」
「ハッ、できるもんならなァ!」
両手に持った軍刀で同時に斬りかかってくる伏見大将。対して悠と宗助はシールドと鉄槌でガード。二人の間を抜けた轟斗が手のひらに炎を宿した。
「醒よ、ゴッドの炎! 今ジャスティスの為、フレンド達と共にエビルを討つ!」
腹に押し当てられた手のひらから膨大なエネルギーが噴出し、伏見大将は吹き飛ばされた。
否、空中で器用に身を翻して天井に着地。二本の軍刀を翼の如く振り、周囲にエネルギーの渦を生み出す。
「これは……!」
「耐えるのだエンジェル! それともマイエンジェルになるか!?」
「今、その話は……っ」
「油断するな、来るぞ!」
全力でガードする悠と宗助。そんな二人が、一瞬にして吹き飛ばされた。
「エンジェル! ヒーロー! おのれ――ラヴのないパワーなどストレングスにあらず!」
轟斗は伏見大将へ飛びかかり、ダイビングパンチを叩き込む。
直撃。
対。
直撃。
伏見大将の顔面を殴りつけた轟斗の腕は、次の瞬間肩口から切断され、その場に崩れ落ちた。
「ばかな、ゴッドのアームが……!?」
「すげぇ拳じゃねえか、殺しちまうのが残念だぜ!」
第二の刃が首へと迫る。
が、しかし。
「うおおおおおおおおおおお!」
地面を殴りつけた宗助に連動し、足下が急速に隆起。伏見大将はその場から跳ね飛ばされ、空中に飛び上がった悠によって蹴り飛ばされた。
部屋中央へ強制的に戻され、地面を転がる伏見大将。
「伏見様!」
「手ぇ出すな!」
軍刀を翳して中将たちを牽制する伏見大将。
そうして円形に開いたフィールドに、酒々井 数多(CL2000149)と橘 誠二郎(CL2000665)が立ち入った。
「やれやれ、派手にやってくれましたね」
「蛮行もここまでよ」
刀を抜き、鞘を投げ捨てる数多。
誠二郎は杖を取り出しくるくると回転させ始める。
中央で軍刀二本を広げるように構え、視線を走らせる伏見大将。
彼女を中心に、数多と誠二郎はゆっくりと周回を開始。
天井の板が急に壊れ、落下してきたその瞬間、三人は同時に動き出した。
「櫻花真影流酒々井数多。往きます!」
「橘流杖術橘誠二郎。推して参ります!」
「暴力坂流乱闘術伏見四四。かかって来やがれ!」
数多の刀と伏見大将の刀が激突、更に誠二郎の杖と刀が激突。
力は拮抗するかに見えたが、伏見大将の放ったエネルギーウェイブが二人を無理矢理はねのける。
ゲイルや若草たちが駆けつけ、二人をキャッチアンドスロー。ゲイルの術糸で組んだ網を足場にして、数多はジグザグに跳躍。伏見大将の首を狙って切りつける。
一方で誠二郎は倒された振りをしてさりげなく深緑鞭を展開。杖と連結させると、伏見大将の足場を丸ごとたたき壊した。
バランスを崩す伏見大将。首へ迫った刀をはじき飛ばし、続けて繰り出された誠二郎の打撃を蹴り飛ばす。
が、崩れたバランスうが戻ることは無い。
なぜなら、床や天井どころでなく、城が丸ごと崩壊したからだ。
●市街地救出作戦、エリアC
通称黄昏城崩壊に拠点奪還部隊が沸く頃。遠く離れた京大病院はヒノマル陸軍の軍勢に取り囲まれていた。
「病院の医者たちは全て押さえました。続けて電気供給をとめます。雲出中将、本当にいいんですね?」
「……まだ分かってないんですか」
軍服に白衣を纏った雲出中将は、ポケットに手を入れて陰鬱そうな顔をした。
「覚者といえど人間。医療施設や道路、そしてライフラインを経てば活動ができなくなるものです。それに、派手な破壊をすれば勝手に病院へ人が集まる。沢山殺せて一石二鳥。精神的に活動不能に陥る敵が増えて一石三鳥。ついでに医療品と設備を現地利用できて一石四鳥。戦争というのはいわば集団個体の殺し合いです。暴力坂様は馬鹿なフリをして実はよく分かっている。目立つ順に破壊をして一般市民を混乱させれば、主導権を握れますからね……」
「……」
この上司は語り出すと長い。部下の男は説明の途中で別の部下に命令を出した。
そして、入院患者が大量にいるであろう病棟の窓から明かりが消えた。
一方こちらは病院内。
ここがヒノマル陸軍に占拠されたと知ったF.i.V.E覚者たちが少数精鋭で侵入し、院内を移動していた。
「明かりが」
「どうやら暗視をセットしてきて正解だったみたいっすね」
凍傷宮・ニコ(CL2000425)は暗くなった廊下の先頭を歩きながら、周囲の様子をうかがった。
「ここの看護婦は優秀っすね。電動設備が必要な患者を真っ先に保護してる。恐らく人力で同等の状態を維持しているんでしょう……っと、ストップす」
後ろから続く葛葉・あかり(CL2000714)を止めた。
「廊下の先に兵隊が。数は三人……武装は小銃っすね」
「どれどれー」
あかりは角から廊下を覗いた。
超視力があるぶん暗闇で動くものを察知できる。暗視を効かせたニコほどではないにしろ、充分に活動できるだろう。とはいえ相手も馬鹿ではないので、同様の準備はしているはずだ。
「近づく前に撃たれるかもー。かがり、やれる?」
「纏霧と召雷併せから飛び込んで突っ切る、でええね」
銃の安全装置を解除し、札を取り出す。
「それで、突っ切ったらどっちに行く?」
「右だよっ」
即答するあかりに、ニコが頭をかいた。
「そっちは多分行き止まりだと思うんすけど……」
「いや、あかりちゃんが占うならきっとそっちが正解や。信じてみ!」
言いつつ、かがりは廊下へ飛び出した。
それに気づいて銃口を向けるが、あかりが放った霧で照準がブレる。同時に放たれた雷術式に防御するその隙をついて、ニコは他の仲間たちをつれて走り出した。
「今っす!」
「あーもーなんでワタシまでこっち来ちゃったのよ。名を売るチャンスだったのに!」
ニコが兵隊をすれ違い際に切りつけるのをよそに、那須川・夏実(CL2000197)は兵隊たちの間をダッシュで抜ける。
「で、ほんとに右でいいの!? 行き止まりなんでしょ!?」
「そう言われたもんっすから」
「いい加減ねえ――ってうわ!」
曲がったすぐ先が行き止まり、だったが。
そこには地面にへたりこんだ老人がいた。
「す、すみません、足が……」
「コラしっかりしなさい!」
夏実は躊躇無く自分の服を引き裂くと、癒やしの滴をしみこまて足の傷口に巻き付けた。
「治癒ついでに殺菌消毒! これでよし! いくわよ!」
「貴様、止まれ!」
早くも霧に対応した兵隊たちが射撃を加えてくる……が、空中に浮かんだ無数の紙人形が全ての弾丸を遮った。
破壊されて落ちていく紙人形。
その中心に立つ九段 笹雪(CL2000517)。
後ろを駆け抜けていくあかりたちに小声で言った。
「先の通路を左に行って。怪我してる人がいる。あたしは後から行くから、これを」
そう言って救急箱を投げ渡しつつ、笹雪はかんざしを振り込んだ。
「いけ」
彼女のポケットから次々に発進した紙人形が兵隊たちに雷の弾を爆撃していく。
遠ざかる足尾をと聞きながら、笹雪は次の術式を組み始めた。
「いくら覚者のイメージアップをしても、こういう人たちが台無しにするんだから……もう!」
多くの入院患者は広い部屋にまとめられていた。迷うこと無くそこまでたどり着いた躑躅森 総一郎(CL2000878)は、目の前の光景に一瞬だけ身をすくめた。
運良く外科手術中の患者は居なかったようだが、今からでもそれが必要な人々であふれていたのだ。
総一郎の脳裏にかつての惨劇がフラッシュバックする。
「あの、あなた方は……」
白衣を纏った総一郎のいかにもな格好に、看護婦の一人が駆け寄ってくる。
気を取り直し、眼鏡を両手でしっかりと直した。
「医者です。この場に他に医者は?」
「いえ、外の兵隊に連れて行かれてしまってここには私たちしか……」
病院という医療に近い場所にありながら、最も医者を必要とする場所になってしまうとは。
総一郎は周囲の仲間たちに目配せした。
ここに集まっている仲間は医療知識に優れた者ばかりだ。
「今からこの場の皆さんに術式による強制外科治療を行ないます。止血や栄養の投与、必要な人には対ショック処置を。銃撃を受けた人には弾丸の取り出しを先に。指崎さん、手伝って頂けますか」
指崎 心琴(CL2001195)は強く頷いた。
「先生に教えて貰ったばっかりだけど、頭には入ってる! 最初は回復を手伝えばいいんだよな! 一人でも多くの人を助ける!」
その意気ですと言って、総一郎は回復術式を部屋中に展開し始める。
心琴は仲間を連れて重傷者へと駆け寄っていった。
同じように怪我した大人のそばへ寄る阿僧祇 ミズゼリ(CL2001067)。
慣れた手つきで処置を施すと、包帯をぐるぐると巻き付けていった。
「ここを抜けたら、別の医療施設へ行ったほウガいいですね」
そう語りながらはたと顔を上げる。
「どうしました?」
心琴と同じように治療の手伝いをしていた離宮院・太郎丸(CL2000131)が振り返った。
「嫌な予感がします」
「もしかして……」
太郎丸は別の仲間に特殊ジェスチャーを送った。送心が一番よかったが、ヒノマル陸軍がここを取り囲む際にジャミングをかけているせいで妨害されているのだ。
改めてミズゼリへと向く太郎丸。
「適切なスキルを持っている人が居ました。こっちはボクがなんとかします」
「……」
こくりと頷くミズゼリ。
太郎丸は九 絢雨(CL2001155)と八重霞 頼蔵(CL2000693)を連れて病室を飛び出していった。
太郎丸が察したのは、病院を占拠する際にどこかの病室に閉じこもってしまった患者の存在である。
彼を先導する形で階段を駆け上がる絢雨。
火の付いていない煙草をくわえたまま、周囲に意識を向ける。
「熱の気配すんな」
「電気も通っていない今熱源があるとすれば……」
頼蔵はちらりと外を見た。
「人間か。数は分かるか?」
「サーモグラフィーじゃないんだ。そこまで分からん。温度も数字で知るわけじゃないからな、人間じゃないかもしれんぞ。つけっぱなしのガスコンロかも」
「状況的にそれはない」
「だろうな」
目的地までは一切迷うことが無かった。
先程の部屋に皆が迷うこと無くたどり着けたのも、絢雨が熱感知で場所を察知していたからだ。
「失礼、入らせて貰うぞ」
扉を開ける。部屋の奥で少女が毛布を被って震えていた。
「だ、だれ」
「煙草屋だよ」
「探偵だ」
「な、なんでっ? わ、私に何を……!」
「説明している時間はない」
頼蔵は足早に近づくと、魔眼を発動させた。
「私たちは味方だ。助けに来た。それをふまえてついてくるんだ。いいな?」
「は、はい……」
催眠状態にはいって大人しくなった少女の手を引き、太郎丸を見る。
太郎丸は窓の外の誰かへジェスチャーを送っていた。
「何をしている?」
「いえ、どうやら……そろそろ包囲も解けるようです」
●市街地救出作戦、エリアC・アウトサイド
雲出中将率いるヒノマル陸軍第三班遊撃隊。病院を囲む兵は城に配置されている兵よりは練度が低いが、なにしろ数が多すぎる。
「突入するには、少々戦力不足ですわね……」
四条・理央(CL2000070)と藤 咲(CL2000280)は病院内からのジェスチャーを受けて院内の安全を確認していた。
考え無しに戦闘をしかけて敗退するよりは、戦力を整えてから確実に攻め落としたい。
それは理央も同じなようだが、それだけに悔しい思いも強まっていた。
「仲間がこっちに向かってるみたい。だからもう少し待とう」
「そう、ですわね。ならそれまで情報交換と参りましょうか?」
「……」
眼鏡に光を反射させる理央。
咲は小声で言った。
「『黎明』の覚者とみられる死体がありませんでした。一つたりとも」
破壊活動の大きさゆえに死体は無数にあって、それを一つ一つ調べていくわけにもいかなかったが、咲は独自にそれらの死体を調査していた。
正直に言って覚者と非覚者の死体の違いは明確な身体部位変化くらいしかないが、それを踏まえても明確に覚者だとわかる死体は一つも無かった。
負傷したと思われる現地覚者も目撃したがどれも服装や特徴がバラバラで、『黎明』のメンバーであることを示すシグナルアイテムのようなものも持っていないようだ。
「土着の組織にはよくあること、なんじゃない?」
「そこについては、交霊術で色々と調べていたのでは?」
「……ひとつだけ」
理央は少しばかり周囲を確認してから、耳打ちした。
「『奪われた』と、言っていたよ」
結果として、病院前には十人のF.i.V.E覚者が集結した。
数としてはまだ足りないが、これ以上待っているわけにもいかない。
「お姉ちゃん……」
袖を引く菊坂 結鹿(CL2000432)を向日葵 御菓子(CL2000429)が優しくなだめた。
「とにかく、できる限り沢山の人を助けたい。手伝ってくれる?」
「ん」
結鹿は強く頷き、刀を引き出した。
「お姉ちゃんは人を守って。私はお姉ちゃんを守る」
「よっしゃ、準備ええよ。ぱーっと行ってぱーっとやっつけて、みんな助けてダッシュで逃げる!」
ぱちんと自分の頬を叩く焔陰 凛(CL2000119)。
抜刀すると、ヒノマル陸軍へと突撃した。
「お前ら、あたしに出会ったことを後悔させたるで! 怒りの炎で死に晒せ!」
こちらに対応して振り返った兵士を二人まとめて切り裂きながら中将へと突進。
雲出中将はくるりと振り返ると、ハンドポケットのままエネルギーシールドを展開。刀を空中で受け止めた。
「そろそろ来る頃だと思いました……いえ、嘘です。来ないと思いました。臆病者の『黎明』の皆さん。街が好きに壊される気分はどうですか?」
「おめでたいですね」
どうやらこちらがF.i.V.Eであることはおろか『黎明』とは別の勢力であることも把握していないらしい。
氷門・有為(CL2000042)は周囲の兵隊を切りつけながら病院へと駆け抜けていく。
「でも、今は人命救助が優先です。あなたたちは後回しにさせてもらいますよ」
「ああ……それは言われると思っていました。嘘ではありません」
雲出中将はそう言うと、ポケットから手を出した。その手には、スイッチが握られている。
ボタンは二つ。
一つを押すと、ちかくにあったコンテナが開き、なかからいびつな物体が姿を現わした。
「九六式二十四糎榴弾砲というんですが、知っていますか? 勿論現代技術で大幅に改装されているので威力は段違いですが……平たく言うと、建物ごと人を殺す兵器です」
「な――」
いち早く飛行して病院に駆け込みたいと考えていた指崎 まこと(CL2000087)は、空中で停止した。
「どういうつもりなの」
「どういうもなにも。あの中へ入ろうとしたら建物ごと殺しますよ、というつもりです。どうしますか? アクション映画の主人公のように僕からこのスイッチを横取りしますか? 別のスイッチで撃つだけですが」
「こいつら最悪ですね! 人の血流れてるんですか!」
威嚇の構えで唸る猫屋敷 真央(CL2000247)。
「僕の任務は病院攻略とそれに関わる精神攻撃です。ここで黙って見ていてください。『私たちは人質をとられたので無力です』と宣伝してくれると助かります」
そうこうしている間に、真央やまことたちに銃口が向けられる。もちろんただのポーズだ。本当の脅しは病院に向いた重砲が担っている。
「……」
笑顔のまま目を大きく見開くキリエ・E・トロープス(CL2000372)。
何も言わないが、このまま放っておくと彼らに襲いかかりそうだ。
だが彼女は彼女なりに、人命救助を優先したいらしい。
そんな中で、渡慶次・駆(CL2000350)が笑いながら前へ出た。
でっぷりとした彼の体躯は、一歩進むたびに変容し、やがて引き締まった長髪の男へと変貌した。
「舐めんな。俺らは一番ヤベェ仕事を仲間に任せてんだ。俺らが……いや? 『俺』が命張らねえわけにはいかねえよ」
「命? たった一つの命をはった所で何ができますか」
「できるさ」
真央たちに目配せする駆。
「行け。ここは、俺に任せろ」
「でもっ」
「行きましょう」
反論しようとした真央の腕を、キリエが引いた。
「あのひと、命をかみさまに捧げようとしています」
「――!」
そう言われて、ようやく気づいた。
駆が『魂』を燃やしていたことに。
「さあ、カミサマの与えたもうたこの力、あるべきよう、そのように」
キリエは牽制するように炎を放ちながら、病院へと走り出した。
「ここが命の使いどころだ。見てな」
駆はどこからともなく剣を出現させると、雲出中将めがけて飛びかかった。
間に割り込む無数の兵隊。
「馬鹿ですか!」
雲出中将は思わずスイッチを押し込み、病院めがけて砲撃が始まった。
七十年前のフォルムだが性能は現代兵器のそれだ。空中で破裂し拡散した大量の爆弾が病院へと降り注ぐ――が、それが全て空中で爆発。駆を背後から強く照らした。
「ばかな! こんなこと一介の覚者ができるはずが……!」
「できるつってんだろうが!」
群がった兵士たちをたった一刀で振り払う。
花火のように吹き飛ばされていく兵を見て、雲出中将は咄嗟にエネルギーフィールドを形成した。
そのフィールドを素手で貫き、首を掴む駆。
駆の視界の端ではまことや真央たちが病院へ駆け込んでいくのが見えた。飛行能力や悪路走行能力を備えた仲間たちだ。きっと病院に取り残された患者たちを助け出してくれるだろう。連れ出されたという医者たちも釣れて、きっとみんな助けてくれる。それだけの能力を、彼らはもっている。
ゆえに駆が今やるべきことは。
「今死に行く人々を救う。お前らが山ほど人を殺すなら、俺が山ほど守ればいいだけだ」
「ぐっ、離せ!」
もがく雲出中将だが、能力を激しくブーストした駆の腕力から逃れるすべなどない。
「お前の大好きな大砲だぞ、おらあ!」
駆はその場で大きく回転をはじめ、ハンマー投げの要領で雲出中将を『投擲』した。
雲出中将は大砲に衝突。謎のエネルギー爆発によって大破させた。
「く、くそ……どうせ相手は一人だ、やれ!」
拳銃を抜いて乱射する雲出中将。部下たちもそれぞれ小銃を構え、駆へと一斉砲火を仕掛ける。
だがそんなものが今の彼をとめられるだろうか?
例えるなら走行中の自動車に雨粒を当てるようなもの。
「邪魔だ」
ラグビーでいうところの突撃姿勢でダッシュ。弾丸が四方八方にはじき飛ばされ、兵たちはボーリングのピンのごとく吹き飛ばされていく。
そして最後には、雲出中将へと激突した。
先程かれを走行中の自動車に例えたが、今の状態がまさにそれだ。
壁際に立ち、全速力の自動車に激突された人間がどうなるかなど……。
「あ、ぐ、うう……こ、殺さ、ないで……」
「殺しはしねえ。だが知っておけ。お前が一発銃を撃つたびに子供が泣く。当たれば傷つき、血が流れる。子供が涙や血を流したとき、俺はお前を挽き潰す」
恐怖と痛みで気絶した雲出中将を片手で持ち上げ、その場に投げ捨てる駆。
「偉そうなご託をいくら並べても、お前に命をかけるだけの度胸は無かった。お前はただ、戦争遊びがしたかっただけだ。法の裁きを受けて社会へ帰れ」
そして駆は、うつ伏せに倒れて気絶した。
●ヒノマル陸軍第五班、送心兵と御牧五五
時系列を遡る。プリンスたちが第四班対応部隊の活躍によって最上階へ到達してすぐの頃。
「やあ、余だよ。テロへの構えはおさないかけない喋らないって、ああ喋っちゃった。どうしようかツム姫ー」
全身からスパークを放ちながらいい加減な見栄をきるプリンスの後ろから麻弓 紡(CL2000623)がちらりと顔を出した。
「麻弓紡、遅ればせながら」
完全に隙だらけのプリンスをフォローするように、紡は四方八方へスリングショットを放っている。
今この場が拠点奪還作戦の大詰めとも言える黄昏城最上階であることを忘れさせるような、それはそれはマイペースな振る舞いである。
「あれ、今余のことみてる民いない? 造幣しとく?」
「みてる民だらけです。いいからもう造幣しまくって下さい!」
「はい造幣ー!」
背後から飛びかかってきたヒノマル陸軍の兵めがけてプリンススマイルの刻まれたハンマーを叩き込むプリンス。
そんな様子を、榊原 時雨(CL2000418)は他人を見る目で眺めていた。
「ま、ええか。榊原流長柄術師範代、榊原時雨。うちが成長するための糧になってもらおか!」
薙刀をぐるぐると振り回し、身構える時雨。
相手も同じように薙刀を振り回し、上段に構えた。
「ヒノマル陸軍、中将。竹原。お相手仕るであります」
「ご丁寧にどうも!」
時雨は強く踏み込みつつ下段斬り。と見せかけて薙刀を棒高跳びの要領でついて跳躍。相手の頭上を越えつつ深緑鞭を竹原中将の首に巻き付けた。
「死地は経験の宝庫、勉強させてもらうで!」
首を締めて落とせたかと思いきや竹原中将は冷静につるを切断。
反転すると今度は中断に構えて見せた。
「確かに、勉強が必要な練度でありますな」
「この……」
「あらあら、中将クラスじゃ一対一は無理よん!」
竹原中将の背後から素早く接近する魂行 輪廻(CL2000534)。鞭をしならせると、まるで鞭自体がひとつの生物であるかのように繰り出した。
変幻自在にして高速。速さ故に人をも斬ると言われる鞭術の本領である。
竹原中将はそれを薙刀の柄で防ぎつつ、時雨と同じだけの距離を取って構え直す。いちいち構えに戻るあたり、かなり保守的なタイプと見える。
「先に言っておくであります」
鞭のリーチと薙刀のリーチ。じりじりと互いに間合いを奪い合いながらすり足を続ける三人。
「自分は本隊のジャミング担当であります。今も全力でジャミングをかけている最中で……あまり戦闘は得意ではないであります。あなたもどうやら、送心で抵抗をしているクチでありますな」
「あら、そう見えるかしらん?」
輪廻の狙いは相手が口に出す作戦行動を仲間に伝えることだったが、最上階へ侵入された今となってもなお彼らはジャミング合戦を続けているようだった。
ちなみに、今現在F.i.V.E側は劣勢。ヒノマル陸軍にのみ送心を許している状況である。
「それなら、貴様を倒せば送心網は解放されるということじゃな」
竹原中将の背後。つまり三人がかりで囲むような位置取りで夜司が刀を構えた。
「この夜司、老いたとて引けはとらん。京は亡き妻、朝路と過ごした思い出の地……土足で汚す下郎めら、天誅を下す!」
輪廻や時雨のタイミングに合わせて斬りかかる夜司。
それらを素早い身こなしで弾く竹原中将だが、いかんせん戦力不足だったようだ。
時雨が薙刀を上から押さえつけ、輪廻が鞭を身体にまき付け、背後に回った夜司が派手に切り裂く。
「はやり戦闘は分が悪いであります。……これにて!」
竹原中将はよろめき、薙刀をその場に捨てた。襖を開いて奥へ走り、後ろ手に閉じる。
「待てい!」
襖を開いて飛び込む夜司――の首に、くるりと糸が巻き付けられた。
糸は一瞬にして首を締め上げ、天井に吊るされる。見上げると、竹原中将が天井へ上下逆さにぶら下がっていた。直前で咄嗟に気づいて指を挟み込まなければ首は切断されていたかも知れない。
「だまし討ちとは、卑怯な――!」
「卑怯卑劣が戦争の常であります」
更に締め上げようとした所で、糸が切断された。
冷泉 椿姫(CL2000364)の斬撃によるものである。
椿姫は落ちてきた夜司を抱えて下がると、拳銃によって威嚇射撃。
襖の奥に隠れていた兵たちがそれをかわして転がった。
「奇襲に備えてください。どこから誰が出てくるか、わかったものではありません」
「そうらしいな。相手は透視を常備している。視界が遮られている分こちらは不利かもしれん」
寺田 護(CL2001171)が周囲を改めて確認した。
城の最上階ということもあって豪華な襖や畳部屋。壺や鎧といった調度品が並んでいるが、それらが一種のパーティションの役割を果たしている。ムキになって破壊しにかかればそれが隙となり、不用意に動き回ればそれもまた隙になる。
部屋も細かく区切られ、天井の板も取り外しが容易に見える。
最上階まで敵が責めてきた際に迎撃するための造りというわけだ。
「百年以上前に誰かが考えた設計思想がこんなところで牙を剥くとは……」
「ビビってんじゃねえ。ここで進まなきゃあみすみす敵を逃がしちまう!」
護はそう言うと、両腕に雷を巻き付けて地面を叩いた。
波打つ雷が襖を突き破り、向こう側にいる兵たちに襲いかかる。が、倒れた兵の向こう側からロケットランチャーを構えた兵たちが現われた。
中央でピンクのツインテール少女がウィンクする。
「はじめまして。送信チームのリーダー、中将の田丸ちゃんです! ごめんあそばせ!」
「――!」
急いでカウンターヒールをかける護。
飛来したロケット弾が爆発し、彼らは思いきり吹き飛ばされた。
そんな彼らと入れ違いに突撃していく時任・千陽(CL2000014)と皇 凛(CL2000078)。
「罪なき民間人を恐怖に陥れ戦争を起こすことの何が軍か! 皇少佐、犬山准尉、行きましょう。彼らを追い出すのが俺たちの役目です!」
「うむ、京の町を返してもらおうか。参るぞ!」
千陽は盾を翳して拳銃を乱射。
その後ろから凛はグレネードランチャーを素早く連射していく。
「犬山准尉」
「やだやだめんどくさーい! 戦争ごっこなんてほっときたーい! 暴走族のお遊びじゃんやだやだー」
犬山・鏡香(CL2000478)はわめきながらも剣を抜き、田丸中将へと突撃する。
「でもショーサがいうならしょうがないなー!」
「あらやだコワーイ!」
田丸中将は軍刀を抜いて鏡香の斬撃を打ち払った。
剣に毒が塗られていたのか、田丸中将の脇を跳ねて不安な色の滴が飛んでいく。
自分の頬に手を当てて笑う田丸中将。
「ワタシたちがごっこあそびの暴走族だったなんて田丸ちゃん知らなかったー、いやーんごめんなさーい! 改心して今日から政治家めざしまーす! 平和主義をかかげて二度と戦争しない国にしまーす! よかったでちゅねーボクー?」
「はぁ? 何上から言ってるの?」
剣をぐいぐいと押す鏡香だが、不思議と相手を押し込むことは出来なかった。顔を左右非対称に歪めて笑う田丸中将。
「こんなもん遊びに決まってんだろガキ。ほんとの戦争がこんなモンで済むか。こちとら適当に壊してトンズラするご予定だよ。どうせお前らも国内で刃物振り回して正義ごっこしてるだけなんだから、せいぜいこのカッコカワイイ田丸ちゃんの悪口でも言って気張らししとけよ。ほらほら」
「挑発に乗ってはいけませんよ」
間からすり抜ける形で銃撃を加える千陽。田丸中将は機敏なバックステップをかけながら弾丸を弾き、周囲の部下に射撃命令を出した。
またも一斉に放たれるロケット弾。
三人は爆発に晒される……が、実際に爆発に晒されたのは千陽だけだった。
焼けただれた身体をそのままに、後ろへと振り返る。
「ご無事ですか少佐!」
彼の背後に凛はいなかった。
「一つ教えて置いてやろう」
脇の襖を開き、凛が現われた。
「――やば!」
田丸中将へ急接近すると、ランチャーを後頭部へと叩き付ける。
「私は本来、近接戦闘を得意とする」
「ショーサ強い!」
ここぞとばかりにトドメをさそうとする鏡香だが、田丸中将は抵抗するどころかさっさとその場から撤退した。
「こんなもんでいっか。それじゃあ皆、後のことはよろしくね!」
追いかけようとするも、一斉にナイフを抜いた兵隊たちに阻まれる。
終始つまはじきにされた形になった鏡香は、目をほんの僅かに見開いた。
「じゃあ代わりに、キミたちから殺してあげるね」
一方その頃。
坂上 懐良(CL2000523)たちは『黎明』のメンバーの救出に動いていた。
どこから襲ってくるかも分からない敵を警戒しつつ、懐良は進む。
「城に閉じこもり守りに入った時点でヒノマル陸軍の敗北は決まったようなもの。だ、戦略的にはどうか」
「戦略?」
懐良を守る形で先頭を歩いていた岩倉・盾護(CL2000549)がちらりと彼を見る。
「戦争とは政治の延長戦だ。目的を達するための手段にすぎない。オレらがこうして動いている時点で、あちらさんの戦略目的は達していそうだな……」
「と言うことは、派手な破壊活動に走ったのは我々を動かすための挑発行為だった、と見るのが正しいかもしれませんな」
盾護とは逆に背後を警戒しつつ進んでいた新田・成(CL2000538)が、杖から刀をすらりと抜いた。
彼の目的は『黎明』メンバーの救出ではなく、ヒノマル陸軍の送信担当を潰すことだ。
一緒に前後を警戒しているのは、たまたま同じ場所にいたからにすぎない。
「今後に備えて、味方になりそうな戦力は確保しておきたいな。『黎明』もそのひとつだ」
「どうだかな……オレはちょっと疑問だぜ。完全に信用できると分かるまでは歓迎できそうにないな」
トンファーを握って進む奥州 一悟(CL2000076)。
「今回のことで何かの判断材料が得られるかもしれねえ」
そこまで話した所で、小さな声がした。
「そこにいるんですか? もし味方でしたら、助けてくださいっ」
アイコンタクトをとる一悟と盾護。
そっと襖を開けると、後ろ手に縛られて横たわるツインテールの少女がいた。
「あの、皆さん、戦争おじさんの仲間じゃないですよね……?」
「そう見えるか?」
「い、いえ……」
苦笑する少女。
「優しそうな人だな、って」
「なんだそりゃ」
照れたように笑う一悟。
「ま、いいか。縄ほどいてやるからちょっと後ろ向きな」
「え、それはちょっと」
「なんだよ、向けなきゃ縄切れないだろ」
「でも……その……スカート、めくれてて……」
顔を赤らめた少女を見て、一悟は助けを求めるように盾護を見た。盾護は無表情に目をそらす。
「何をやってるんだお前たちは。スカートぐらいで。目を瞑るから、少しじっとしていろ」
懐良は頭をかいて二人をどけた。
後ろに回って縄に刀を当てる。
「あ、ありがとうございます。お礼と言ってはなんですけど、私のもってる秘密、特別に教えますね」
「おっ?」
思ったより簡単に喋ったな、と思いつつ眉を上げる一悟。
「あのですね、私……」
途端、後ろの襖が勢いよく開かれ、アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)が飛び込んできた。
「皆さん伏せて、囲まれています!」
一斉に振り向く盾護たち。
手に握ったスイッチを押し込む少女……もとい田丸中将。
「もう遅いんだよチェリーボーイどもが!」
「てめっ……!」
突然のことである。
左右の襖がはじけ飛び、機関銃を構えた兵隊が一斉射撃をしかける。
「教授! この――解身(リリース)!」
高速覚醒した犬童 アキラ(CL2000698)が成を突き飛ばし、フィンガーバルカンを乱射。
田丸中将はその場に低く伏せつつ抜刀。
振り込まれた刀を成は杖でガードし、彼を狙った機関銃射撃を盾護が庇った。
自身を刀で防御しようとする懐良。が、刀身は田丸中将にがっちりと固定されていた。
「しま――ぐあ!?」
弾丸の雨に晒される懐良。
アーレスは彼を抱えると、機関銃兵たちに拳銃を連射。弾と弾が大量に入り乱れる中、一悟は地面すれすれの位置をスライディング。機関銃兵に足払いをかけると、まず一人をたたき伏せた。
防御を続けていた盾護が膝を突く。そんな彼がこれ以上ダメージを受けないようにとかっさらう桂木・日那乃(CL2000941)。
彼女の回復を受けながら、盾護は離れた場所へと離脱。
「ごろつきどもめ、貴様らがおかした者たちの声を聞き、そして味わえ! 絶対応報の一撃だ!」
一方でアーレスとアキラは残りの機関銃兵に集中砲火を浴びせて撃破。
その途中でアキラはアーマーの各所から火花を散らして倒れた。
彼女を抱えつつ、天井から落ちてきた兵隊を切り払う成。
一方の田丸中将は深追いせずに素早くその場から離脱していた。
嵐のような数十秒が過ぎ去り、辺りには大量の空薬莢とめちゃくちゃになった部屋が残った。
戦闘不能になった兵たちはさっさと撤退したらしい。
あんまり人間慣れしていると『戦闘不能=気絶』だと思いがちだが、充分に動けるケースも多いのだ。こちらが戦闘不能になった際の撤退状況がまさにそれである。
「ひ、酷いダメージを……うけたな……」
ため息に混じって血を吐く懐良。
「彼女がとらえられていた『黎明』じゃないとすれば、『黎明』の女子供というのは一体どこに……」
「ここです」
アーレスは畳を引っぺがして見せた。
その下に拘束して詰め込まれた『黎明』の覚者たちが横たわっていた。
日那乃が優しく抱えおこし、回復術式をかけていく。
「なりすましの罠を全く警戒していなかったからな……ぬかった」
「いえ、ジャミングにリソースを割いていて発見が遅れた私も……」
それぞれ額に手を当てる懐良とアーレス。
アキラはどしりと腰を下ろして瞑目した。
「だがこのエリアの送心兵を撃退できた」
「敵の送心網を絶ったことで、味方はかなり有利になったでしょう。あながち悪いことばかりではありませんよ」
「だな。よし、まずはこの子らを安全な所まで避難させよう」
一悟たちは力を合わせて彼女たちを抱え、安全な場所まで移動を始めた。
さて、先程の戦いのどさくさに紛れて姿をくらましていた竹原中将だが、まだ最上階に残っていた。
「田丸中将はチームごと撤退したでありますか。では、自分もそろそろ撤退するであります。京都潜在勢力の計測と把握は済みましたし、情報も提出済み。あとは自分の命を持ち帰るだけでありますな」
「誰の命を持ち帰るって?」
背後から声がした。
がっしりと腕を腰に回し、首にナイフが回る。
竹原中将の背後にぴったりと身体をつけたのは、春野 桜(CL2000257)だった。
「許さない。誰一人逃がさない。ねえ死んでよ!」
要求は既に実行に変わっている。
竹原中将の首筋を乱暴に切り裂く桜。
吹き上がった血が天井や床を染めていく。
それでも足らないとばかりに、桜はナイフをめちゃくちゃに身体へ突き刺していく。
「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェ!」
毒の塗られたナイフだからだろうか。反論も抵抗もする暇無く、竹原中将は絶命していた。
それでもまたナイフを刺し続ける桜の肩を、何者かが掴んで止める。
天城 聖(CL2001170)の手だ。
それすら殺して振り払おうとした桜のナイフを、水蓮寺 静護(CL2000471)の刀が受け止めた。
「もうよせ、死んでいる」
「誰が死んだら許すって言ったの? もっとでしょう?」
「意味分かんないよ。わざわざ殺さなくっていいんだよ。情報だって得られるかもしれなかったし……」
聖の説明に納得した様子は無かったが、桜は死体からは興味を無くしたようで手を離した。
「もういいわ。別のを殺してくるから」
ふらふらとどこかへ行く桜。
聖はため息をついてそれを見送った。
「セーゴ、これでお城は攻略完了なワケ?」
「かもしれんな。第五班の大将と暴力坂が見当たらないが、僕たちがここへ到達した時点で撤退したのかもしれん」
「そっか。ふーん……あっ」
聖は何気なく振り返り、錫杖を突きだし、静護めがけて召雷の術式をぶっ放した。
「うおお!?」
咄嗟に仰向けに転がる静護。
「ぎゃん!?」
そんな彼の視界の端で、壁板の向こうから転がり出た御牧大将が映った。
頭部が無数のカメラやアンテナに覆われた付喪覚者である。いくらなんでも見た目でわかった。
「ンッンー、私の隠蔽術を見破るとはなかなかやりますねェ」
眼鏡だかカメラレンズだか分からないものをくいくいと上げる御牧大将。
聖は不敵に笑った。
笑って、何か言うのかなと思ったが何も言わずに三秒が経過した。
「聖……」
のっそりと起き上がる静護。
「さては君、僕に不意打ちをしかけてからかおうとしなかったか?」
「ちがうし! セーゴが敵の邪魔になる位置にいたから悪いんだからね!」
「ンッンー、夫婦げんかはそのくらいにして頂けませんかねェ」
「ちがうし! くらえ!」
空圧弾をぶっ放す聖。
今度ばかりはさすがに普通にかわす静護。かわしついでに水の術式を組み上げ、御牧大将へと発射した。
二つの術式弾を上半身を残像が残るほどの速度でよける御牧大将。
「ンッンー、強力な攻撃ですが私を倒せるほどでは」
「ぎゃん!?」
御牧大将の後ろから稲葉 アリス(CL2000100)が転がり出てきた。
黙って振り返る御牧大将。
アリスはむくりと起き上がると、とりまカワイイポーズをとってみせた。
「怪盗ラビットナイト、参上ぴょん!」
「君、作戦開始時から全く見ないと思ったらそんな所に隠れていたのか」
「私の背後をとるとは、やりますね……」
「でもあたしは自分の命がなにより大事だからここで失礼するぴょん☆ これは餞別ぴょん!」
アリスはそう言うと、てやーと言って城の窓から飛び立っていった。
飛行能力のない彼女がどうやって無事にここから離脱するのかは、正直誰にも分からない。
静護と聖の手に彼女の餞別と思しきエネルギーカードが残されていたので、一応支援はして帰ったということらしい。
気を取り直して。
静護は刀をすらりと抜き、御牧大将へと構えた。
聖も錫杖をばちばちとスパークさせて身構える。
「さて、どうする。やるか」
「ンッンー。気づいていないようですから、教えて差し上げましょう」
御牧大将はまたレンズをくいくいやると、半歩下がった。
緊張が走る。
「私は」
ギラリと光るレンズ。
床を踏みしめる静護。
汗を浮かべる聖。
「戦闘は苦手なのです! ということでさらば!」
御牧大将は言い捨てるやいなやきびすを返してアリスと同じ場所から飛び立っていった。
勿論飛行能力のない彼がどうやって無事にここから離脱するのかはわからない。
後から聞こえる『ぎゃあああああああ!?』という悲鳴から察するにノープランで墜落したものと思われる。
「逃げた」
「逃げたな」
しゃきんと刀を納める静護。
そこへ。
「あら、誰か忘れてるんじゃないかしら」
明後日の方向から声がして、二人は思わず構え尚した。
「ヒノマル陸軍新大将の、この私……」
窓から這い入る形で、シャロン・ステイシー(CL2000736)が現われた。
「シャロン大将をね!」
「……」
「……」
しゃきんと刀を納める静護。
聖は彼の肩をぽんと叩いてやった。
「今日は、その、うん、ちゃんと連携とれてたよ。すごい戦ったよ。帰りなに食べる?」
「いらない……」
すたすたと帰って行く静護たち。
シャロンはその様子を、とりあえず見送っておくことにした。
余談になるが、シャロンは別にヒノマル陸軍に入隊したわけでも大将クラスに任命されたわけでもない。試しにその辺の兵隊に『仲間になりたいんだけど』と問いかけたらその場で殺されかけた。単独行動中で仲間も居なかったので魂使って半個小隊を全滅させて来た。
逆に敵が戦闘中に仲間になりたいとか言ってきたら多分殺すと思うので、当然といえば当然である。
いま来ているヒノマル陸軍らしき服も、勝手にそれらしい服を盗んで城へやってきただけである。
「んー……じゃ、あたしも帰ろうかしらね」
きびすを返して帰ろうとするシャロン。
だがふと、違和感を感じて立ち止まった。
まだ大将や中将たちが戦っているこの状況で、暴力坂だけが逃げた?
「もしかして……」
ある推察を立てた、その途端。
城が爆発した。
●市街地救出作戦、エリアD
場面は変わって、ある大通り。
ジャックされたバスが大通りを走っていく。
ヒノマル陸軍少将のひとり松坂は、三人の部下と共に乗客を脅しながらバスを占拠している。
彼の拳銃は今まさに運転手のこめかみに押しつけられ、ブレーキを踏むことを許さなかった。
「少将。このバスはどうします」
「決まってるだろ。爆弾山ほど積み込んでデカい建物にドカンだ」
「ヒッ――」
おびえすくんだ運転手がハンドルから手を離し、恐慌状態になって叫んだ。
「もう嫌だ、死にたくない! 助けて、助けてください!」
「チッ、臆病モンが」
松坂少将は運転手を引っ張り上げると、部下に運転を代わらせた。乗車扉を開き、運転手を持ち上げる。
「な、なにを」
「死にたくないんだろ? じゃあ、下りていいぜ」
松坂少将は走行中のバスから運転手を放り投げた。
運転手は暴風に晒され、地面と空をそれぞれスローモーションで眺め――。
「させません!」
空を高速で飛行してきた守衛野 鈴鳴(CL2000222)にキャッチされた。
「うっ、うわ!」
急に空へとさらわれて運転手は慌てたが、鈴鳴から薫る不思議な雰囲気に恐慌状態はたちまち和らいでいった。
「大丈夫です、必ず助けますから」
「で、でもバスの乗客が、爆弾で」
「そちらも、かならず」
鈴鳴は運転手を適当な場所に下ろすと、空へと舞い上がって頭に手を当てた。
『運転手さんは救出しました。バスに爆弾が積まれているとのこと』
『了解。ジアさんの話通りでしたね』
七海 灯(CL2000579)は高いビルの上から状況を確認していた。奇しくもバスが爆弾を積んで突っ込む予定のビルだったが、彼女にとっては些細なことである。
自分だけが助かろうなどと思っていたなら、最初からここへは来ない。
『月歌さん、南条さん、神幌さん。バスに飛び移れますか』
『やってみせましょう!』
月歌 浅葱(CL2000915)は街灯の上に立ち、長いマフラーを靡かせていた。
硝煙の混ざった風に腕組みをしてみせる。
「天が知る地が知る人知れずっ……月歌浅葱、行きます!」
街灯からダイブ。下を通りかかったバスの天井に着地して前転。衝撃を殺しにかかるがいかんせん走行中のバスである。そのまま車体後方までバランスを崩して転がっていった。
転落しそうになった所でバス最後部につかまり、振り子のように窓ガラスを突き破って車内へ侵入する。
「なっ!?」
振り向く松坂少将。浅葱はすぐ近くの敵兵を殴り倒した。
「怪我している人はいませんか! いますね! 鈴鳴さんお願いします!」
「その前に敵の排除でしょ」
ふと横を見ると、バスと併走する形で鈴鳴が飛行していた。彼女の持った旗をポール代わりにしてぶら下がる南条 棄々(CL2000459)。
浅葱とは別パターンの振り子運動で窓を突き破ると、敵兵を蹴り倒す。どこからともなく駆動中のチェーンソーを取り出し、敵兵の胸に押しつけた。
「こんな有様にしてくれちゃって。あんたたち、ほんっと胸くそ悪いわね。反吐が出そうよ」
「ナイスヘイト。そんじゃあ死んどけ」
棄々の後頭部に松坂少将の銃が突きつけられ――た途端、いつのまにか座席に座っていた神幌 まきり(CL2000465)が彼の銃を蹴り上げた。
驚いて椅子から転げ落ちそうになった近くの少年を抱きかかえ、深緑鞭を展開。松坂少将の顔面を打って払いのける。
「これ以上、無辜の命を傷付けさせはしません!」
「テメェ……アクション俳優かよ。まあいい、まとめて吹っ飛ばしてやる。おいスピード上げろ!」
運転中の部下に振り返る……が、部下はそこには居なかった。
代わりに、運転席側の窓に伊弉冉 紅玉(CL2000690)がぶら下がっていた。
車外の窓に、上下逆さに、足だけでバランスをとるようにしてだ。
どうやら部下は引っ張り出されて今頃道路でのびているらしい。
窓を割って侵入する紅玉。
「なんだよテメェ、テメェら。さてはここの組織じゃねえな。何モンだ!」
「正義だ」
鉄塊そのものといったような剣をどこからともなく取り出し、叩き込んでくる紅玉。
「くそ、付き合ってられるかよ!」
松坂少将はガードして後退すると、空いたままの乗車ドアから飛び出して撤退した。
深追いはしない。
「さて諸君、正義をなそうではないか」
車の運転はよくわからんがブレーキ踏めばとまるだろ、とばかりに操作。
無事にとまったバスから乗客を降ろし始める。
怪我したらしい少年を抱えて下りてくるまきり。
「腕を銃で撃たれています。かすり傷ですが……」
「うん、みせて……」
駆け寄った明石 ミュエル(CL2000172)が回復術式を混ぜた水ボトルを傷口に注ぎかける。
「痛かったよね。少しでも、早く治るように、ね……」
少年にほほえみかけるミュエル。
そこへ、激しい銃声が響いた。
「チョーシ乗ってんじゃねえぞテメェらぁ!」
撤退したはずの松坂少将である。
早くも先程とは別の銃を調達してきたらしい。
ミュエルは応戦しようかどうか迷ったが、清衣 冥(CL2000373)と結城 華多那(CL2000706)が素早く間に割り込んだ。
「調子乗ってんはあんただろうが。おいミュエル、皆を連れて安全圏まで」
「うん、気をつけて、ね……」
一般市民を連れて撤退していくミュエルたち。冥は肉体を大人化させると、鋭く身構える。
「ほんと大和魂とはほど遠いのね。相手になるわ!」
早速華多那はエネミースキャンを発動。彼がスキャンに集中している間に冥は全身に暴雨を巻き付け、空圧弾を連射した。
対して松坂少将は横っ飛びに交わして銃撃。
銃弾は華多那に迫ったが、それをジア・朱汰院(CL2000340)が代わりに受けた。
「ジア、お前っ」
「心配ねえ。それより相手のことは」
「分かった」
「要約すると?」
「火力を上げて術式で殴れ」
「オーケー! 苦手分野!」
腕を振り上げるジア。
そこへ、けが人を安全な場所まで運び終えた円 善司(CL2000727)が駆けつけてきた。
「火力を上げるなら任せとけ!」
善司はすかさ術式を展開。周囲の空気を劇的に変えていく。
「さ、俺にかっこいいとこ見せてくれよ」
「オーケーオーケー、要するにこうだな!」
ジアは今まで言われたことを一旦忘れて、松坂少将へ拳を振り上げて突撃した。そこに術式らしいものはない。まったくない。
松坂少将は銃を乱射。弾丸が何発も直撃するが、そのたびに冥たちが回復術式を飛ばした。
「おっおまえ馬鹿なのか!」
「テメェほどじゃねえ!」
無理矢理接近し、無理矢理拳を叩き付けるジア。
「虐殺に破壊にご苦労なこったな戦争屋ども。隠れて食い散らかす鼠とテメェらの違いを馬鹿なアタシに教えてくれよ」
ジアの戦い方はびっくりするほどシンプルだった。
殴る。
蹴る。
そして殴る。
敵の銃撃だの術式破壊だのは知ったことでは無い。
暴力による圧倒。
人類どころか生物の本能として、松坂少将は恐怖した。
恐怖し。
逃避し。
そして暴走した。
「く、くく、くくく来るなああああああああああああ!」
銃をやたらに撃ちつくし、弾切れした銃を投げつける。
そんなものが、ジアに通用するわけがなかった。
壁際に追い詰められ、へたりこむ松坂少将。
こんなものか。ジアが興味を失いかけた、その時。
「ア、アア――」
恐怖のあまり大きく口を開けた松坂少将が、そのままいびつに変形した。
人間の形を保ったままめちゃくちゃに歪み、膨らみ、周囲の物体をこそぎとりながら立ち上がる。
コンクリートや鉄板を大量に吸収した彼の姿は、もはや松坂少将のものではない。
「なんだ?」
「まずい……破綻者化しやがった」
顔を引きつらせる善司。
「コココ、コロスコワスコロスコワスコココココココ……!」
言語能力までも失い始めた破綻者は近くの電柱を引っこ抜くと、無差別に地面へ叩き付けた。
アスファルト道路が砕けて割れて舞い上がる。
善司たちはたちまち吹き飛ばされ、向かいのビルへと叩き付けられた。
かろうじて打撃を免れたジアを見つけ、呼びかける華多那。
「離れろジア、そいつはやべえ! 俺たちが十人がかりんでもまだ難しいレベルの」
「オーケー」
ジアは笑って、そして自らの『魂』を爆発させた。
「こいつはアタシの得意分野だ!」
「やっぱり話聞かねえなこいつ!」
身を乗り出す華多那たちをよそに、ジアは破綻者へ突撃。
叩き付けられた電柱を頭突きでへし折り、両手で掴んで投げつけてきた自動車を拳ではねのける。回転して飛んでいった車が近くのビルの二階へ突っ込んで止まる。
「ハハハ! 最初からそうすりゃいいんだよ! 戦争だなんだと面倒くせぇこと抜かしやがって!」
直接叩き込まれた拳を、拳でたたきつぶす。
破綻者の腕がへし折れ、骨が折れてはみ出した。
「素直に暴れたいですって言えよ、オラ!」
シンプルな蹴りを繰り出すジア。
それだけで破綻者の両足がまとめてへし折られ、その場に崩れ落ちた。
髪の毛を掴んで持ち上げる。
「聞いてるかオイ。日本語忘れちまったのか? まあいいや」
ジアは笑って、拳を振り上げた。
「拳ってのは万国共通の言語らしいぜ」
シンプルに繰り出した拳が破綻者の頭を吹き飛ばし、爆砕した。
●ヒノマル陸軍総帥・暴力坂乱暴
さて。
京都を襲った未曾有の隔者被害はF.i.V.Eの覚者たちの勇敢な活躍によって最小限の被害に収まった。
ムーンブリッジ攻防戦。大河内山護送車防衛戦。繁華街脱出戦、同じく市民防衛戦。バー襲撃戦。補給庫襲撃戦。陸上競技場覚者救出戦。公民館爆破阻止作戦。対一番ケ瀬戦。暁救出作戦。そして各地の一般市民救出作戦に、黄昏城奪還作戦。
覚者組織『黎明』では太刀打ちできなかった様々な事件は損害の大小はあれど最小限の被害に留まったと言えるだろう。
喪われたものも報われ、壊されたものも直され、町はかつての活気を取り戻すに違いない。
これでおしまい!
作戦終了!
――とは、ならぬ。
コンビニの自動ドアが開き、一人の男が外へ出た。
後ろへ払った黒髪に黒いあごひげ。真冬だというのに素肌に軍服めいたジャケットを一枚羽織ったきりの、歳深そうな老男性だ。
彼はビニール袋からあずきのアイスバーを取り出し、袋を破いてかじりつく。
それを口にくわえたまま、ポケットから煙草ケースサイズの物体を取り出した。
先端に赤いスイッチのついた何かの起動装置だ。
歩きながらそれを押し。だらりとぶらさげて歩いて行く。
アイスバーをひと囓りしてから立ち止まり。後ろをふりかえった。
黄昏城がそこにある。
男は箱に視線を下ろし、スイッチをひたすら連打した。
再び振り返るが黄昏城はそのままだ。
男は叫び声をあげて箱を地面に叩き付ける。
途端、城が光を放って爆発した。
さすがに驚いて振り返る。
そして、満足そうにアイスバーをもうひと囓りして歩き出した。
「待てよ、逃がさねえ」
行く手を阻む、諏訪 刀嗣(CL2000002)。
刀を肩に担いで立ち止まる。
同じく蘇我島 恭司(CL2001015)。かたわらに覚醒状態の柳 燐花(CL2000695)を立たせて、煙草をくわえた。
「暴力坂乱暴さんだよね」
言われて、男はアイスバーを下ろした。
「誰だそりゃあ? 俺はどこにでもいるコンビニ帰りのあずきバー大好きじいさんじゃよ」
「真冬の外で肌ジャケしてアイス食ってるじいさんがどこにでもいてたまるかい」
刀嗣たちとは反対側の道へ現われ、覚醒する緒形 逝(CL2000156)。
ゆらりとその横へ、八百万 円(CL2000681)が殆ど刃の死んだ刀剣を引きずって止まった。
「しらばっくれても無駄。ちゃんと顔は押さえてあるんだよ~」
大きな鎌を手に、六道 瑠璃(CL2000092)が側面を塞ぐように立つ。その反対側には神城 アニス(CL2000023)が立ち塞がる。丁度取り囲んだ形だ。
鎌を握り込む瑠璃。
「何が戦争だ。この街には沢山の人たちが生きてきたんだよ。お前には血を流す意味や命の大切さが分からないのか!」
「そう怒鳴るな。俺が悪かったよ……。俺らの負けだ。お前らがどこの誰かは知らんが、ヒノマル陸軍はお前らに完敗だ。今頃全軍まとめて撤退してる頃だろ。俺も今から帰りだ。通してくれや」
脇を避けて通ろうとする暴力坂を、アニスが腕を広げて留めた。
「どうしてこんなことをするのですか。破壊からは何も生みはしないのに!」
「……」
暴力坂は心底苦々しい顔をして黙った。
黙ったままではよくないと思ったのか、アイスバーをもうひと囓りする。
がりがりと噛み砕きながら言った。
「どうしてってそりゃあ、世界征服のために決まってんだろ」
「……はあ?」
言っている意味がわからず、思わず首を傾げるアニス。
瑠璃も同じような反応だ。
「馬鹿か、国外に出たらたちまち一般人だぞ。それとも知らないのか?」
「お前こそだぞオイ。国内に今どれだけの兵器があると思ってんだ。現存する兵器の数、それを作れる職人の数。ハッキリ言って史上最大だぜ。でもってそれを規制するはずの国政は未曾有の危機に何十年も麻痺しっぱなしだ。俺ぁ思ったね、これは戦争のチャンスだ」
円が、刀剣を握る力を強くした。
彼女を代弁するように語る緒形 逝(CL2000156)。
「なんだあんた、大三次世界大戦でもする気かい」
「する気だねぇ。中国アメリカロシアにヨーロッパ、オーストラリアにグリーンランド。全部制圧して日本の都道府県にしちまおうぜ。妖に脅かされない土地に住もうつって国民を扇動してよお、妖騒ぎもアメリカや中国の陰謀ってことにしてプロパガンダをぶちあげてよ。もう一回やったら日本は勝てるぜえ、戦争」
すでに棒だけになったアイスバーを咥えて笑う暴力坂。
燐花は退きそうになった気持ちを無理矢理おさえた。
「狂ってる」
写真データの入ったカード媒体を彼に投げ渡す恭司。
「あんた最低だな。そんなことのために街一つ壊したのか。僕はあんたを絶対に認めない」「知るか。お話し合いで仲良しこよしなんざ冗談じゃねえ。なんだテメェ戦争イヤイヤ病かぁ? 朝鮮人にいいように洗脳されやがって」
「そんなこたぁどうでもいいんだよ」
これ以上会話を待っていられない。そんな様子で、刀嗣は暴力坂へ向かって歩き出す。
「お話し合いで仲良しこよし? 俺も同じだ平和主義なんざクソ食らえだ。俺が興味あんのはてめぇだオッサン、一番強ぇやつにしか興味がねえ。俺はテメェを斬って上に行く!」
歩みは途中から走りへ変わり、走りはすぐに風を追い越すほどに加速した。
「テメェの首を取る!」
振り込まれた刀嗣の刀。その軌道の下をくぐるようにすり抜けていく暴力坂。
「やめとけ。俺とお前じゃ実力が違いすぎる」
素早く距離をとった逝とは対照的に、瑠璃がエネルギー噴射をかけて突撃。
「強いからなんだ。お前も同じ人間のはずだ!」
突撃の勢いはそのままに、身体ごと回転させて鎌を振り込む瑠璃。
暴力坂はそれをローキックで弾いてかわした。
完全に背後をとった位置から恭司が空圧弾を放ち。
弾と同じ速度で燐花が急接近。
「一撃でもたたき込めれば」
「……そこです!」
回避行動をとろうとした暴力坂。その動きを先読みしたアニスが、絶対に避けられない角度から空圧弾を発射した。
燐花のクナイが暴力坂の鼻先を僅かに切り、空圧弾が心臓部めがけて迫る。
好機。刀嗣は刀を突き込み、瑠璃は鎌を振り込み、円は満を持して頭上から飛びかかる。
「うお――!」
刀が、鎌が、空圧弾にクナイに牙に、彼らのありとあらゆる攻撃が暴力坂に直撃した。
その結果。
「……やったか!」
身を乗り出した瑠璃。その肩を、逝が押さえた。
「あれ見なよ」
顎で示されるままに目をこらす。
そこには、暴力坂乱暴がいた。
ただし。
肩に掛かってなお長い黒髪に、きっちりと剃られた髭。鋭い眼はそのままに、すらりと伸びた背筋からは圧倒的な覇気が漏れ出ていた。
それより、なにより。
「あんた随分若返ったねえ。見た目、三十台くらい?」
「そう見えるか」
「暴力坂乱暴、覚醒状態……つまり、今までのは」
こめかみをおさえる燐花。恭司は燐花を庇うように前へ出た。
「聞いたことはある。戦闘技術を磨き上げた達人は覚者に匹敵する戦闘力に達することがあるらしいけど……ちょっとそれはズルいんじゃない?」
「こちとらお前らが力だなんだと騒ぐ何十年も前からやってんだ。お前らだってそのうちこうなる。年期の差だろぉ――な!」
勢いよく地面を踏み込む暴力坂。
それだけれその場にいた全員が吹き飛ばされた。
壁に叩き付けられ、昏倒しそうになるのをこらえる円。
「お、オリジナルスキル?」
「少しも理解できません。でも、噂に聞いたことはあります。人生の体現として振るわれるオリジナルスキルは他人が盗む(ラーニング)ことができないと……あくまで、噂ですが」
「うるせえ後にしろ!」
暴力坂は再び地面を踏みつけ、アニスたちを周囲のコンクリート壁やガードレールごと吹き飛ばした。
これでようやく帰れる。
暴力坂はアイスバーの棒を咥えたまま、撤収用の車両がとめてある場所へときびすを返した。
「ちょっと待ったぁ!」
そのタイミングを、まさか待っていたわけではあるまいに。
鹿ノ島・遥(CL2000227)は手のひらを広げて彼の後ろへと登場した。
振り返る暴力坂。
「オッサン、刀を抜かなかったな。わかるぜ、格上過ぎて相手にならないんだろ。でも……だからワクワクがとまらないんだ。認めさせたくてしょうがねえ! 名乗るぜ!」
遥を中心に、七人の覚者がずらりと並ぶ。
「まず俺、鹿ノ島遥!」
「一色・満月(CL2000044)……ようやく会えたな七星剣幹部。アンタを俺は待っていた」
「鳴神 零(CL2000669)。殺して殺して殺しまくれるこういう日、待ってたの」
「一色 ひなた(CL2000317)と申します。この身の限り、あらがいましょう」
「九鬼 菊(CL2000999)です。若輩者ですが、遅れはとりませんよ」
「水瀬 冬佳(CL2000762)。騒乱を生む力、見させて頂きます」
「風織 紡(CL2000764)! 一対多でぼこられる恐怖、味わってみねーですか?」
「「我ら!」」
全員、その身にあった剣(拳)を翳し、暴力坂へと突きつけた。
「「――十天!」」
名乗りを終えた所で、暴力坂は暫く黙った。
黙って、一人一人の顔を見てから、小さく首を傾げる。
「七人しかいねえぞ」
「ほんとだ!?」
慌てて振り返る零。冬佳が申し訳なさそうに目をそらした。
「ええと、先程の燐花さんたちも十天で、まだ到着していませんが祇澄さんという方も……」
「面倒くせえな! ちゃんと十人揃えて来いよ!」
「揃えて来てるんだよ! たまたま今揃ってないんだよ!」
「面倒くせえのはこっちですよ。とっととぶっ殺すです!」
紡は会話そのものをぶった切ると、暴力坂に正面から突きを繰り出す。
ばっちりのタイミングで反対側へ回り込み、鎌を繰り出す菊。
暴力坂はジャンプからの旋風脚で二人をはねのけたが、頭上には上下逆さになった零が高速連斬を繰り出し、側面に回り込んだひなたは空圧弾を連射。
冬佳と満月が斬撃の勢いを溜めている間に遥が飛び込み、拳を繰り出す。
暴力坂は何発かを腕と足で弾くと、その余波で切断された交通標識をひっつかんで振り回した。
はねのけられる遥と零。が、その隙をついて冬佳と満月の同時交差乱れ斬りが炸裂。
道路標識でガードする暴力坂だが気づいた頃にはポールの長さが三十センチにまで切断されていた。
が、未だ一刀として入らない。実力差か。これほどか。
そう考えた瞬間、彼らの力が突然ふくれあがった。
まるで魂を燃やし、それを十個に分けたような……。
「これはまさか……!」
振り向くと、新田・茂良(CL2000146)が謎の光を放って浮遊していた。
『魂』を昇華させ、彼らに力を分け与えているのだ。
「使徒エル・モ・ラーラ、ここに推参!」
「天使シャロン・ステイシー、ここに見参」
その斜め下の辺りにシャロンが勝手に混ざっていた。
「あたし魂使ったんだけどやりすぎちゃって、まだ余ってるけど、いる?」
「そんな作りすぎたシチューみたいに」
「エル・モ・ラーラの加護によって、なにかと腕を切られる民は無傷で保護されています。さあ僕の加護を追加で受けたい人はこの壺にペイ!」
「そんな途中から有料になるアダルトサイトみたいに」
「いいのか!? 魂の使い道ほんとにそれでいいのか二人とも!?」
「なんでもいいからとっととぶちかますんですよぉ!」
ひなた、菊、冬佳、紡、零、遥、満月。彼らの剣(拳)が一つとなり、まばゆい輝きをもって暴力坂へと叩き込まれる。
「や――べえ!」
暴力坂は思わず腰にてを伸ばし、そこには無かった刀を抜いた。
全力抜刀である。
光は斬撃と相殺し、天空へとはじけて消える。
「抜かせた! 刀を……」
暴力坂は抜刀姿勢のまま唇を噛んだ。
「命かけてまで抗おうってか。認めるしかなさそうだな……エル・モ・ラーラ」
「あれ、十天は?」
「トータルするとさっきの連中も同じくらいには強かった。しかしまあ、抜いたからにはやっとかねえと……」
突きの構えをとる暴力坂。
防御の構えをとる遥たち。
「暴力坂乱闘流一式」
くる、と思ったが、それどころではなかった。
なぜなら暴力坂の背後に巨大な戦車の幻影が現われたからだ。
「四十七粍戦車砲!」
「ちょ――!」
防御などまるで意味を成さなかった。
地面、壁、周囲の建物、空気。そのすべてをまるごと吹き飛ばしたのだ。
彼らが跡形も無く消滅しなかったのは茂良とシャロンが彼らを保護して遠くへ急いで撤退したからに他ならない。
かくして現場には暴力坂以外の何も残らなかった。
などと。
そんな終わりは許さないのがF.i.V.E。そして彼女たちである。
「暴力坂。ここで止めねばならんじゃろ」
吹き飛ばされた空間を、まるで針のように貫いて、深緋・恋呪郎(CL2000237)が突っ込んできた。
炎のような剣をますすぐに、暴力坂へと突き立てる。
「この力! てめぇまさか――」
「死んだ者に次は無い。良くも悪くもな」
恋呪郎からは膨大なエネルギーが噴出していた。それは他ならぬ彼女の『魂』を燃料にしたものだ。
本来命をかけて使うもの。
使えば死ぬもの。
しかし本人が強く望んだ時、必ずそれに応えるもの。
「首をおいていけ。獲物もだ。さすれば用はないでな」
剣を引き抜き、蹴りつける。
暴力坂は激しく吹き飛ばされ大通りへと転がり出た。
この期に及んで突っ込んでくるような自動車はない。来るとすれば恋呪郎のみである。
地面と大気をえぐり取りながら豪速で突撃。暴力坂は刀を翳して防御するが、その場に押し留まることはできない。両足はアスファルトをえぐって削り、古めかしくも大きな神社の門を突き破る形で止まった。
恋呪郎は過去に一度、同じように力を発揮したことがある。その時は暴力とはまた違うものだったが、魂は確かに不可能を可能にした。
「一気呵成に押し切る」
恋呪郎は暴力坂の首根っこを掴むと、勢いよく上空へと投げた。
紙飛行機を投げるのとは分けが違う。暴力坂は空気を穿ちビルの中央部へ激突。壁を破って内部へ転がり込むが、休む暇も無く恋呪郎が飛び込んできた。
下から? 前から? どちらでもない。上から、天空からである。
剣を突き刺すように繰り出した彼女の急降下突撃はビルの天井と床を何枚も破壊し、地面へと叩き付ける。それでも足らぬとばかりに剣を振り上げ、おもむろに叩き付けた。
破壊が重なったビルが崩れていく中、一階の地面にクレーターを広げていく。
幾度目の斬撃になるだろうか。
暴力坂はそれを、にやりと笑って受け止めた。
「死ぬ覚悟で殺しに来たか。悪くねえガッツだ」
膝蹴りが入る。
それだけで、恋呪郎は天空へと打ち上げられた。
瞬間移動でもしたのかという程の速度で眼前へ迫る暴力坂。
「だが悪いな、これじゃあ殺されてやれねえ」
刀を逆さにして恋呪郎へ叩き付ける。
恋呪郎はビルを三棟突き破って飛び、大きな神社の屋根を破って屋内へと転がり込んだ。
仏像の首が砕けて落ちる。が、それは今は無視だ。
ミサイルよろしく突っ込んでくる暴力坂を、剣のフルスイングで迎え撃つ。
乱暴に叩き付けてきた暴力坂の剣とぶつかり、相殺。いや、打ち負けたのは恋呪郎の方だ。
地面が激しくえぐれ、恋呪郎は全身の肉体組織が一瞬完全崩壊しかけた。
それを奇跡的に強制修復する。
「てめぇ、まだ他人が魂を使った所をあまり見てねえな。今後のためだ、覚えて伝えて絶対に間違わせるな。いいな!?」
剣をぶつけ合いながら叫ぶ暴力坂。
「魂は!」
凄まじいパワーで剣を叩き込んでくる。
恋呪郎の身体が押される。
「必ず応える奇跡の力!」
更に強い力で叩き込んでくる。
剣がへし折れたが、奇跡的に強制修復。
「されど全ての覚者に与えられたがゆえに!」
更に更に強い力で叩き込んでくる。
これ以上は無理だ。
だが、恋呪郎は引かなかった。
「そのブーストには、限界がある!」
今度こそ、恋呪郎は吹き飛ばされた。
仏像を木っ端みじんに破壊しながら神社を抜け、樹木豊かな山へと突っ込んだ。
大量の樹木に埋もれるように寝転がる恋呪郎。
目の前には当然のように暴力坂が立っている。
「因子を得たばかりの覚者を百人集めて、一人ずつ特攻させると考えろ。何人目で俺が倒せると思う。倒せねえよ。それができるんなら、今頃俺がやってる。俺の活動に邪魔そうな奴は今頃全部消し炭になってるだろうぜ。しかしそうはならねえ。世の中そううまくいかねえもんだよな」
トドメをさすかと思われたが、それ以上踏み込んでくることはなかった。
「しかしまあ、命を賭けてまで俺を倒そうってガッツは、やっぱり認めざるをえねえ。お前みたいな奴がここで死んじまうのが惜しいぜ……」
きびすを返し、立ち去ろうとする暴力坂。
そんな彼に、恋呪郎は言った。
「いや、死なんよ」
「……なんだと?」
恋呪郎は立ち上がった。
「儂はまだ死なん。魂を賭けたのも、これで二度目じゃ」
その言葉を聞いて、暴力坂は破顔した。
「参った! ガッツがあるわけだぜ! 俺も似たようなことをやったもんだ。こんな所で出会えるとは思わなかったが……」
本来。魂とは一人に一つ。使えば必ず死ぬ力である。
それ故多くの覚者はそのチャンスを持っていながら、使うこと無く死んでいくと言われている。
だがまれに。魂を複数持つ者が居る。
そして不思議なことに。そんな覚者ばかりが、F.i.V.Eには集まっていた。
とはいえ恋呪郎ほど遠慮無く魂を駆ける猛者は希少中の希少だが。
「おいお前、俺の軍に入らんか。素の力を鍛えていきゃあ、一年もすりゃあ大将格にはなるだろう。強え奴ともやり合えるぜ。ゆくゆくは楽しい戦争の毎日だ」
「冗談じゃろう。女が力に靡くか」
「ハッ、違いねえや!」
暴力坂は笑って、今度こそきびすを返した。
「今度は魂なんてごまかし抜きで、素のままやろうぜ。何なら非覚醒状態で殴り合ってもいい」
「それも冗談ではないわ」
恋呪郎は反論するが、身体の力は入らないようだ。
「遊びには付き合わん。今すぐ倒せないならもう一発――」
「ストップストップ!」
手を叩いて、橡・槐(CL2000732)が割り込んだ。
車いすの少女である。この山の中に。しかもそこら中が障害物だらけの場所に、なぜ車いすの少女が平然と存在しているのかは、この際説明を省く。
槐は恋呪郎の首根っこを掴んで膝に乗っけると、手を振って椅子をくるりと返した。
「なんだテメェ」
「なんだとは失敬な。どこにでもいるか弱い車いす少女でしょうに」
「車いす少女が山ん中に現われてたまるか」
「まあいいじゃあないですか、ねえ。私はこのコを回収しにきただけですから。回収したら帰りますよ。ほら無害無害」
半笑いで両手をひらひらさせる槐。
突っ込みどころは山ほどあるが、そこは面倒くさがる暴力坂である。
「ああ、わかったわかった。つれてけつれてけ」
手をぱたぱたさせて背を向けた。
「……」
今なら背中に一刺しできそうだが、槐は『お言葉にあまえて』と言って立ち去った。
さて。
いくらなんでももう終わりだろう。
映画ならスタッフロールが流れきり、観客がいたなら全て席を立った頃だ。
暴力坂もそのつもりで帰路につき、撤収用の車両が止まっている場所までやってきたが……。
「暴力坂。さあ、私と戦いなさい!」
「得意面してやってる戦争とかいう遊びを食い散らかして、ガキの喧嘩にしてあげたいの」
神室・祇澄(CL2000017)と華神 悠乃(CL2000231)が、『魂』をカチカチに燃やして立ちはだかっていた。
両手で顔を覆う暴力坂。
「勘弁してくれ……」
「しません」
「喧嘩するのに理由はいらないでしょ」
「もう俺の負けでいいよ」
「よくありません」
「魂かけて勝ちに来てんだ。そっちの価値観なんて知ったことか」
二人は夜に沈もうという京都の街で、嫌がる暴力坂に無理矢理襲いかかった。
それがどのくらい無理矢理で。
どのくらいに滅茶苦茶で。
そして途方も無いものだったのか。
今から全身全霊をかけてお届けしたい。
まず最初に起こったのは、京都の山を巨大な光の柱が覆ったことだった。
祇澄と悠乃を中心に、茂良、シャロン、駆、ジア、そして恋呪郎によって生み出された強制的な奇跡の光である。
光は分裂し、細い柱となり、柱は次々に『彼ら』をその場に呼び出した。
世界がまだ知らない、小さな光の戦士たち。
その数実に165人。
彼らが一斉に暴力坂へと襲いかかった。
行成の薙刀回転斬りと悠乃の回転蹴りを暴力坂が防御したと同時に赤貴と駆の剣が暴力坂の両脇に滑り込み釣り上げた所へ上空を通過した祝と若草が雷撃と水圧撃を乱射し燐花と祇澄が手刀を叩き込み華多那とジアの蹴りが加わり宙へ浮いた暴力坂に高速飛行したミュエルとひなたがクロスアタックを加え更に久永と日那乃が螺旋しながら術式を乱射。
反撃に『戦車砲』を繰り出す暴力坂だが槐と盾護がそれぞれ巨大なシールドを展開し更にゲイルが術式糸の網を展開し砲撃をガード。天空から大声と共に降ってきた巌と遥がダブルダブルハンマーで暴力坂を叩き落とし聖子と紅玉が左右から同時に剣をフルスイングして再び空中へ。暴力坂は神社の屋根を眼下に見つつ急接近してきた悠乃と祇澄の左右からの超高速パンチラッシュを高速回転でしのぐが楓とまきりが一緒になって放った重螺旋術式縄が絡まり神社の屋根へと共生フィッシングされていき待ち構えていた棄々のダブルチェーンソーと真央のダブルネコパンチが物理法則を無視して連続ヒットし受け身をとろうと屋根を転がる暴力坂に努と浅葱がストレートなダッシュパンチを同時に直撃させて屋根から転げ落とした。
着した暴力坂を待っていたのは巨大な魔方陣を紙人形で覆った上にカードビットで囲んで更にトランプカードと包帯で覆った中に無理矢理プロマイド混ぜ込んだものだった。
ラーラといのりと笹雪と大和とアリスとミズゼリとこころと『ここに混ぜんな』と言いながら煙草を投げた絢雨が全力の魔術を一斉放出。そこへきせきとアイオーンと真が三角交差斬りを叩き込みそうしている間にあかりとかがりが陰陽術式を形成しその上からたまきが風呂敷のごとく大きな陰陽図で術式を展開し更に翔がデジタル陰陽術式を起動した上でトドメとばかりに理央が陰陽術を込めた斬撃を叩き込む
血を吐きながらも術式を物理で破ったが燈と頼蔵と一悟、轟斗とターニャと守夜、そして宇宙人と朱に囲まれ、せーので最大加熱した斬撃を叩き込まれる。
例のスタンピングアタックで全員吹き飛ばしたが高らかに演奏を始めた御菓子と旗をテクニカルに振り回す鈴鳴とあと盛大に胸を張る公子を背景に夜司と奏空が急接近。更に静護と刀嗣と天光が急接近し、五人で一斉に一切隙のない高速連斬を繰り出した。
刀を巨大な鉄塊のような物体に変えて振り回す暴力坂。
それでも食らいついてきた瑠衣と千陽が左右から挟み込むような軍隊格闘蹴りを叩き込み、回転しながら飛びかかった小唄と悠乃の蹴りが追撃。
ポージングして電撃を放つプリンスと高笑いするエヌ、そしてツインテールをぴょこぴょこやるククルの上を放物線を描いて飛ぶ暴力坂へ鏡香が斬りかかり之光が斬りかかり麗虎が斬りかかり駆と恋呪郎が強烈に斬りかかる。
全身の傷を強制修復した暴力坂へ急速に凛が殴りかかり逝が殴りかかり輪廻が殴りかかりジアが思い切り殴りかかる。
路上に放置されたバスをぶち抜き吹き飛ぶ暴力坂を待っていたのは上等なスーツや着物に身を包んだ漸と成、そして研吾である。
彼らの斬撃を受けて回転、雷鳥とリサ、更に瑞貴の斬撃を受けてさらに回転。空中で制動をとろうとしたところへ維摩と四月二日のダブルキックが炸裂。広い陸上競技場へと転がり込んだ。
待ってましたとばかりに整列するハルとアーレス、そして月乃と結唯、更にアキラと誘輔が加わって一斉銃撃。
刀で弾いてエネルギーウェイブを放つがキリエとエレメンツィアとファルが即座にカウンターヒールを繰り出しその中を懐良と数多が突撃。刀を同時に突き刺し桜と零が殺しにかかり恵が雷を叩き込んだ。
もう充分だと思ったろうか? まだ半分である。
秋人と太郎丸の放った霧に総一郎と七雅の回復術式が混ざり霧を突き抜けるように天と百がショルダータックルをぶち込んでいく。ガードする暴力坂だがまことと宗助のタックルが加わり更に深雪と円の追撃が加わったことで徐々に押され、高所に陣取った恭司と夕樹と八重と夏南、更に聖とリーネとたまきと千景の空圧弾が集中砲火される。
おこった土煙は暴力坂の『戦車砲』で地面ごと吹き飛ばされたが天空から降ってきた誠二郎と灯と心琴が杖とトンファーで打撃を繰り出し滑り込んだ神無とアニスが斬撃を繰り出しそれぞれの隙間を狙った飛鳥と椿姫が薄氷を発射。
それぞれの直撃をくらった暴力坂に亮平が術式展開。そこへかぶせるように零が雷術を付与し昨良と護、浜匙がエネルギーを加えて巨大な雷を落とした。
風を纏って飛びかかる冥。水を纏って飛びかかる凜。炎を纏って飛びかかる柾。三人の攻撃が螺旋状に混ざり合って暴力坂へ集中する。
スタンピングアタックのエネルギーで相殺をかけようとするが七重と満月と紅のトライアングルアタックが加わり相殺失敗。追撃とばかりに斬り込んだ聖華と凛と時雨の斬撃が入り、暴力坂は全身から血を吹き出すことになった。
それも自力で修復させると、今度こそスタンピングアタック。更に戦車砲を放って薙ぎ払う。付き合ってられるかとばかりに住宅街へ走るが小道から飛び出した恵梨香と康孝がハンドガンで銃撃し紡が特殊スリングショットで高所から射撃。
同じく高所から飛び降りた有為と義高が斧を叩き付けそれを刀でガード。銃撃は刺さるがままだ。
流石に対応が難しくなってきた。ニコと結鹿、そして瑠璃と菊が小道から飛び出して次々に斬撃を入れ。 最後の禊のスピンキックで暴力坂は民家へと叩き込まれる。
追撃はしない。屋内から戦車砲が放たれるからだ。境子と悠は全力でガードし、その後ろに組み付いたさよと美剣、治子に椿、夏実や有祈といった面々が必死に治癒。どうあっても足りない分は善司と両慈が補填した。
反撃に雷を放った咲をきっかけにして紡が飛び込み斬撃。冬佳が逆方向から斬撃。
二人を掴んで投げ放とうとしたところで昶と鼓虎が掴みかかって一瞬だけ動きを固定。鷲哉の炎撃、チェスターのストレートパンチ、唯音が炎を纏わせたステッキでバットスイングを叩き込み、暴力坂を転がした。
そこへシャロンと茂良が光を放ち駆と恋呪郎が交差斬撃。ジアが頭突きを入れ、トドメに祇澄と悠乃のダブルパンチが炸裂した。
吹き飛び、ごろごろと転がる暴力坂。
「どう、ですか……!」
祇澄たちはもはや動くだけで限界のようで、荒い息をしていた。立っているだけでやっとの者も多い。
「いや……めちゃくちゃだろ……どっから沸いてくるんだよこの人数がよ……」
暴力坂は大の字に寝転がったまま深く息を吐いた。
立ち上がり、全身をはたく。
その時には彼は老人の姿に戻っていた。
「もう戦うのはムリだ。ったく、どういう結束力なんだお前ら。いくらなんでもスタミナがもたん」
ぱちん、と暴力坂は両手を顔の前で合わせた。
「改めて言わせて貰うが、今回は俺らの負けだ。次にやるときゃあお前ら更に強くなって襲ってくること前提に、ガチの軍勢を揃えとくぜ。そうなりゃわざわざ街一つぶっ壊す必要もねえや。……ところで」
顔を上げ、集まった百人以上の覚者たちを見渡す。
「お前らオイ、絶対何かの組織だろ。なんて名前だよ」
「……んー」
暫く考えた後、祇澄は前髪の間からウィンクした。
「ヒミツです」
この後、ヒノマル陸軍はまとめて京都から撤退した。
市民の多くは救出され、結果的に『黎明』も救うことができた。だが問題は山積みだ。『黎明』との接し方や、壊れた京都の修復や、正体こそ知られなかったものの確実に存在を察知されたF.i.V.Eの行く末などなど……。
とはいえ。
京都の街に再びの平和が訪れたことは、間違いないようである。
古都中央部に存在する三階建て半の城は度重なる改修工事の末、観光資源とは全く別の側面を持つようになった。
都が妖被害にあった際に逃げ込むための覚者戦闘用砦として機能するその城は便宜上『黄昏城』と呼ばれている。それが今敵軍に占拠され、都の攻略拠点にされているのだが……。
「淀様、送心兵から伝達! 武装した集団がこちらに迫っているとのことです。武装の種類からして覚者かと」
「フン、『黎明』の雑魚どもが拠点を取り返しに来たか」
岩のように硬い甲冑に覆われた恐ろしく大柄な男が、食いちぎっていた丸焼き鶏を投げ捨てた。彼こそ本日の第一班を任されたヒノマル陸軍大将格、淀・一一である。
「でかした中将。それで何人だ。十人か、二十人か? なんなら新兵たちの練習相手にしても……」
「……ゃくにんです」
「ぬ?」
色黒でサングラスをかけた部下が、緊張気味に言い直した。
「約百人です」
「嘘をつくな馬鹿め!」
「嘘じゃありませんよ、ほらそこに!」
二人同時に振り向くと、そこには。
「ヒノマル陸軍!」
見渡す限りの軍勢の中から、秋津洲 いのり(CL2000268)が天空へと杖を掲げた。
「力無い人々を傷付けるその所行、恥を知りなさい! この力は救いを待つ人々の、力無き人々のためのもの。心を入れ替えなさいませ!」
瞠目する淀。よく響く声で叫び返した。
「この都にこんな勢力が残っているものか! 『黎明』の者か、それとも周辺諸勢の協力者か!」
「名乗る名は、ありません!」
いのりは杖を水平に回すと、喉がかれるほどに叫びを上げた。
「突撃!」
「ええい、押し返せ! 一人も城に入れるな!」
いのりの放った霧と、淀の部下たちが放った霧が混ざり合う。
その中を、空閑 浜匙(CL2000841)とターニャ・S・ハイヌベレ(CL2001103)が突っ切っていく。
「こういうケダモノなごろつきは大嫌いデース!」
「おれも、こいつらが無茶苦茶言ってることはわかる! だから遠慮はいらないよな!」
浜匙が護符を握り込むと、天空に広い暗雲が発生した。
降り注ぐ雷。ジグザグに駆け抜け、正面の兵士に殴りかかるターニャ。
とはいえ敵兵とて雑魚では無い。
「壱式防衛陣形、構えぃ!」
「「壱式防衛陣形!」」
隙間無く整列したライオットシールドの盾兵たちが雷とターニャの打撃を防御。
その後ろにぴたりとついた回復兵らが彼らの体力を減ったそばから回復していく。
人数分以上のブロック効果だ。数を揃えたとて簡単には突破できない。
盾兵の後ろから姿を現わすサングラスの巨漢。
「俺は第一班中将、長島! 鉄壁兵団を簡単に抜けられると思うなよ! 弐式防衛陣形!」
長島が叫ぶや否や、盾兵たちの間から槍兵が飛び出して一斉に突きを放ってくる。ターニャたちはまるで津波のような猛攻に突き飛ばされた。
下がってきた仲間をキャッチする結城 美剣(CL2000708)と離宮院・さよ(CL2000870)。
「強い……」
「急いで回復を!」
癒しの滴で回復をはかるさよ。一方で美剣は清廉香を発動。突き飛ばされて足止めを食らう仲間たちを支援し始めた。
しかし焦りは深い。
「鉄壁の守りと牽制攻撃。こちらを倒すのではなくあくまで足止めを狙った戦法。このまでは」
「拠点攻略に時間がかかりすぎれば、当然敵の撤収までの時間が長引きます。その分町の人たちへの危険が……」
そんな中、田場 義高(CL2001151)がぎらりと目を光らせた。
「よく見ろ、俺にはちゃんと見えてるぜ。糸みてぇに細いが、突破口ってやつがな!」
義高はダッシュを開始。戦闘よりも駆け抜けることのみを優先した彼の走りは、敵兵が入れ替わる一瞬の隙や個人練度のズレから生じる僅かな隙をジグザグに繋いでみせた。
そうして鉄壁兵団の向こう側へと到達してみせた義高は、どこからともなく斧を取り出して握り込んだ。
半歩退く淀。
「鉄壁のブロックを突破したのか! 貴様……どこの長だ!?」
「店長さ。香り豊かなフラワーカフェのな」
スキンヘッドをなで上げて繰り出す義高の斧を、淀は両腕ガードで受け止める。さすがは大将、ダメージがまるで通っている気がしない。どころか、淀の放つ衝撃で義高は吹き飛ばされそうになっていた。
「しかし貴様一人が突破したところでどうなる。他の連中があの複雑なルートを覚えていられるはずが……」
「そんなぴんちにミラノさんじょう!」
弱りかけた義高の後ろからぴょこんと飛び出すククル ミラノ(CL2001142)。樹の雫が注ぎ込まれ、復調する義高。
ピンクの耳とツインテールを上下にばっさばっさ振るミラノに、淀はもう半歩退いた。
「さっきのルートはちゃんと覚えて、皆に伝えたよ!」
「なん、だと……!?」
見れば、鉄壁兵団の強固なブロックはその力を半減させ、今や混戦状態に陥っていた。
義高の見いだした突破口はその一瞬だけのものだが、要領さえ分かってしまえば亀裂に食い込む波が如く食い破ることも可能なのだ。
足止めを目的としている以上、淀は半分負けたようなものである。
長島中将がトンファーを手に叫んだ。
「参式防衛陣形! 少しでも多く敵を潰せ!」
「そうはいくかよ!」
天楼院・聖華(CL2000348)はかついだグレネードランチャーで長島中将もろとも爆破した。
「俺は人々を傷付けるやつとニンジンが大っ嫌いなんだよ! これ以上街を傷付けるなら全員まとめてぶっ飛ばしてやる!」
聖華の四方からシールドで押し込もうとしてくる盾兵。しかし聖華は引き抜いた小太刀で回転斬り。盾兵たちを切り払う。
そうして出来た隙間を、滑るように駆け抜ける美錠 紅(CL2000176)。
「あたしは人間を守りたい。町に住むあたしたちの隣人だから守りたい。そのために――!」
「ぐっ!」
繰り出した紅のブレードを、長島中将はトンファーで受け止めた。
「誇りを喪った連中をぶちのめす!」
紅はブレードをスライド。二本の剣に分解すると、長島中将の腹へと突き刺した。
「くらえ!」
注意がそれた所で切り払い。長島中将を含めた槍兵たちを一斉に吹き飛ばす。
が、そこは中将。長島中将は必死のガードでこらえた。
「知ったことか。お前たちの理由など――ぐお!?」
見得を切ろうとした長島中将の顔面に。
「ゆいねきーっく!」
迷家・唯音(CL2001093)のドロップキックが直撃した。
あっけなく蹴倒される長島中将。
「ヒノマル陸軍をほっとけば、おとーさんやおかーさんやがっくんが傷つくかもしれない。そんなの、絶対やだ!」
「お、俺だってこの作戦が失敗したら左遷される! そんなの絶対嫌だ!」
命を削って立ち上がった長島中将が、唯音にトンファーパンチを繰り出した。対抗してステッキパンチを繰り出す唯音。
「家族やお友達や、仲間を守る!」
「家族や役職や、部下を守る!」
正面から衝突する二人のパンチ。
大人の事情と子供のワガママがぶつかり合った瞬間である。
そんな戦いを制することができるのは、子供のような大人と相場が決まっている。
「オラァ! 天の名を持ち地をかけグワァ舌噛んだ!」
口からセルフで血を吐きながら椎野 天(CL2000864)がショルダータックルで突っ込んできた。
脇腹に直撃し、突き飛ばされる長島中将。
「左遷されてもいいじゃねーの。コンビニバイトも楽しいもんだぜ」
「独り身風情が!」
「うるせえこの野郎!」
天は両腕を硬化させ、長島中将とがっぷりと組み合った。
ギラリとサングラスを光らせる中島中将。
同じくサングラスを光らせる天……と見せかけて。
「よっしゃ今のうちに行け!」
「しまった!」
組み合った長島中将の頭上をすり抜けるように、十夜 七重(CL2000513)と十夜 八重(CL2000122)が飛行状態で越えていく。
ちらりと七重を見やる八重。
「安全第一でお願いしますね兄様。でないと赤ちゃんみたいにおくるみしちゃいますよ」
「やってもいいが、いやよくないが、できれば後にしてくれ。まずはこいつらを蹴散らす!」
七重は急降下すると、槍兵たちを螺旋回転斬りで切断していく。
周囲から取り囲もうとする槍兵たちには、八重が頭上からエアブリット空襲をしかけるという案配だ。
着地し、大きな太刀を担ぐように構え、周囲をにらむ七重。
「女子供を人質にとるような輩、いずれ俺たちの……いや、妹の生活を脅かすだろう。その驚異、削がせて貰う!」
七重は周囲から繰り出される槍の先端を、素早い回転で払いのけ、右へ左へと切り捨てていった。とはいえ多勢に無勢。七重の腹や胸に槍が突き刺さる。
槍の基本は囲んで刺して動きを封じるというもの。
これはまずいかと歯噛みした七重のすぐ脇を、八重が低空飛行で駆け抜けていく。
駆け抜けつつ空圧弾を乱射。
槍兵を押しのけつつ、七重を空へと浚い上げた。
「もう兄様。怪我したら泣いちゃいますよ。おくるみします?」
「泣くくらいなら笑ってくれ」
七重は八重の腕から逃れて飛行を再開すると、槍兵たちに衝撃波を乱射していく。
そんな二人の前に、壁が現われた。
否、飛び上がった淀大将が掴みかかったのだ。
「そこまでだ、見知らぬ覚者どもよ!」
飛行状態にあるというのに、凄まじいパワーで引き下ろされ、地面に叩き付けられる二人。
周囲の盾兵が群がり、彼らを取り囲んだ。
「その実力で我ら鉄壁兵団に挑んだ威勢は褒めてやろう。だが貴様らが倒せるのはせめて中将格。大将格の俺様の前では、傷を負わせるだけでも難しいというもの!」
両腕を掲げて立ちはだかる淀大将。
それはまさに壁。物理的にも精神的にも突破することの出来ない鉄壁である。
動物同士の戦闘ならいざしらず、覚者戦闘は強弱の差が大きく開けば数を揃えても倒すことはできない。攻撃がまるで通らず打ち払われてしまうからだ。
魂を削って戦闘力をブーストすれば大将クラスに重傷を負わせる程度のことはできるかもしれないが、今は少なくともその時では無い。
七重はここまでかと呟き、八重を庇うように構える。
と、そこへ。
「倒そうなどとは思っとらんよ」
天空から何かが降ってきた。
二つの影で構成されたそれは、十一 零(CL2000001)と檜山 樹香(CL2000141)である。
樹香は薙刀を使って兵たちを一斉に薙ぎ払い、零は印を結んで雷をまき散らした。
「追い払うのが目的じゃ。倒せずとも足止めはできる」
「いわゆる攻城戦というやつだね。そしてここは入口。突破されれば、そっちの負けになる」
「ぐ、ぬぬ……!」
十字の目をギラリと光らせる零。そして、淀大将以外の兵に向けて掌底を放った。
触れたそばから激しいスパークがおこり、兵がまとめて散らされていく。散らされた兵に、薙刀を舞うように振り回して牽制攻撃をしかける樹香。
これでも戦闘集団ヒノマル陸軍の兵である。戦闘力ならはF.i.V.E覚者と同じかやや劣る程度。雑魚ですらこのレベルなのだから、簡単には倒せないだろう。しかしはねのけるだけなら、力を合わせることで可能になるのだ。
戦闘力だけでは計れない、作戦による勝利がそこにはある。
「フン、貴様らの作戦など、力ずくで潰してくれるわ!」
拳を打ち合わせて襲いかかる淀大将。
が、そんな彼に七十里・夏南(CL2000006)が飛びかかった。
上空からの直滑降。さらに白銀の斧を重力込みで叩き付けてである。
地面がはじけ、周囲の兵たちが吹き飛んでいく。
ガード姿勢でしのいだ淀大将に、七十里・神無(CL2000028)が食らいつく。
またもガードでしのぐ淀大将。
夏南は眼鏡を親指と中指で直すと、戦闘姿勢の神無と共に淀大将を挟み込んだ。
「こんなに壊してこんなに殺して……綺麗にするにも時間と人手がかかるのよ。神無、殺して食べていいわよ」
「硬くて美味しくなさそう。でもなんだか」
神無は怪しく目を光らせると、淀大将へ猛烈に斬りかかった。
「みんな楽しそう! 帰りにコンビニ寄っていこ! 美味しいお菓子をみつけたから!」
「ぐ、ぐうう……!」
防御を重ね、耐えしのぐ淀大将。
先程『実力差が開きすぎると倒せない』と述べたが、これは勝てないという意味では無い。
強い側も、こうして猛攻をしかけられては身動きがとれなくなっていくのだ。
時間切れによる負けや、スタミナ切れの負け、そして防衛戦突破による負けもあり得る。
「おのれ、雑魚が!」
「雑魚じゃ、ありません!」
ガードを解いて殴りかかる淀大将。しかし、彼の拳は割り込んだ鋼・境子(CL2000318)によって防がれた。
周囲の土がえぐれて飛び、ウェーブのかかった境子の髪が余った衝撃で強くなびく。
淀大将は怒りに血管を浮かせ、絶え間なく境子を殴り続ける。
「貴様は弱者だ! 力ない弱者! 何も出来ない弱者なのだ! 大人しく力に屈服すればいいものを!」
「確かに今は弱いかもしれません。けれど私はできることをします。できると思った時に、できると思ったことを、今のように!」
ガードを解いて、ストレートパンチ。
手の甲に浮かんだ模様が光り輝き、淀大将の拳を一瞬だけ反らした。
それによってバランスを僅かに崩す淀大将。
その隙を、逃さぬ彼らではない。
殴りつけられて倒される境子の頭上を、佐々山・深雪(CL2000667)が飛び越えた。
同時に境子の脇を抜け、鯨塚 百(CL2000332)が淀大将の脇腹に拳を押し当てた。
「ぶちぬいてやる!」
百のバンカーバスターが作動。杭が叩き込まれ、淀大将の防御を貫いた。
更に、深雪の空中回し蹴りが顔面へ炸裂。淀大将は激しい地響きをたてて仰向けに倒れた。
防御自慢の大将が直撃をくらったことで、部下たちの間に焦りが走る。
長島中将に至っては天たちともみ合いながら絶叫した。
「淀大将! そ、そんなばかなぁぁぁぁ!?」
彼をよそに、深雪と百は淀大将を物理的に押さえ込みにかかる。両腕をくい打ちや組み付きによって固定するのだ。
「さ、今のうちに!」
「ここはオイラたちが支えるから、絶対生きて帰ってこいよ! こいつら追い払って、街を取り戻そうぜ!」
「ありがとう。必ず次につなげてみせるわ」
秋ノ宮 たまき(CL2000849)が眼鏡を外して覚醒。淀大将の腹の上を踏みつけながら駆け抜けた。
彼女だけでは無い。この先を目指すべく戦力を温存していた仲間たちが、一斉に城内へと突入していったのだ。
「お、おのれ……!」
固定された腕を無理矢理解除し、百たちを放り投げる淀大将。
「こうなれば、貴様らの首だけでも持ち帰ってやる!」
「淀大将、それです! 少しでも貢献して、点数を稼ぐんです!」
トンファーをぐるぐる回して周囲をにらむ長島中将。
深雪はにっこり笑って身構えた。
「簡単にやられたりしないよ。これからの人生、もっと楽しまなきゃいけないからねっ」
●市街地救出作戦、エリアA
京都の危機はヒノマル陸軍を撤退させるだけで解決するものではない。
今も街は破壊され、人々は無差別な殺戮におびえている。
そんな町を、そして人々を守るためF.i.V.E覚者たちは京都各地へと散らばった。
拠点奪還作戦ほどでないにしろ、その数は凄まじいものだった。
そうとも知らず、ヒノマル陸軍第三班遊撃部隊所属、安濃津少将と久居少将は数人の部下を引き連れ京都の土産屋通りを端から順に放火して回っていた。
「兄弟、なんだって俺らはこんな退屈な破壊作業なんてせにゃあならんのだ。解体屋じゃあないんだぜ?」
「文句を言うな。加賀先生が妖刀探しに出て以来行方知らずなんだ。本陣に加われる体勢じゃねえ」
「しかし噂じゃあ城に大軍勢が押しかけたそうじゃねえか」
「それでも任務をこなすまでよ、っと。人がいやがるな」
旅行に来ていた学生たちが土産屋の一角で固まっていた。
「学生かぁ? なんだってこんな所に」
「兄弟、10月って言やあ修学旅行の季節だ。それでだろう」
「不幸なこったな。旅行先のカツアゲに合うどころか戦争に巻き込まれるたぁ」
おびえる学生たちに、火炎放射器を向ける。
「悪いが命令なんでな。無残に焼け死――む!?」
トリガーを引こうとした所で、安濃津少将は放射器を別の方向に放り投げた。
彼を中心に雷が走り、周囲の兵隊が一斉に転倒する。空中で爆発し、粉塵をまき巻き上げる。
「戦争ねえ。暴れたいから暴れる連中にはその言葉ももったいないよ」
「誰だ!」
身構える久居少将。
「私が誰かだと? 教える義理は無いな」
粉塵の中から現われる赤い髪。
赤い鱗。
赤い尾。
夜明けの色をした薙刀。
「強いて言うなら、そう――私が法だ、黙して従え」
現われたのは、七墜 昨良(CL2000077)であった。
「『黎明』の覚者か? だが一人で何が出来る」
「一人じゃあ、ないんですなあこれが」
店の屋根の上から現われるチェスター・M・ヘンドリクス(CL2000339)。
兵隊の一人へと飛びかかり、一発で殴り倒した。
ゆらりと、そしてどこか憂鬱そうに立ち上がるチェスター。丸めた背中をそのままに、昨良のいる方向を指さした。
「さて学生の皆さん。お帰りはあちらですぜ」
うなずき、走って行く学生たち。
「学生ってのは素直でいいですなあ」
薄笑いで言うチェスターのこめかみに、久居少将が拳銃を突きつけた。
「貴様、こんなことをしてただで済むと思って――」
「それはこっちの台詞だ!」
瞬間、風が吹き抜けた。
南へ走った風はすぐさま東へ抜け、さらには北へ、さらには西へ、四方を駆け抜けた風は御白 小唄(CL2001173)の姿を取ってブレーキ。髪と獣の尾が靡いて流れる。
次の瞬間、子供たちの背中を撃とうとしていた兵士たちは一斉にバラバラの方向に吹き飛び、血を吹いて転がった。
「みんな誰一人、罪の無い一般市民なんだぞ! なんでこんな酷いことになるんだよ! そんなに大事なことなのかよ! 理由が、ちっとも分からない!」
「お前が知ったことか!」
拳銃を連射。小唄は低姿勢をとってジグザグに走りそれを回避。アスファルトの地面が立て続けに火花を散らす。
「これ以上弱い人たちに手を出すなぁ!」
頬をかする弾丸。亀裂が走り血が漏れるが気にすること無く、小唄は獣のように飛びかかり、顔面を殴りつけた。
ぐらつく身体に、チェスターが素早く回し蹴り。
身体が浮いたところへ、昨良がスピンアタックを叩き込んだ。
自身の身体を中心にして長い尾を振り回し、その先端にある薙刀に遠心力を乗せて切断するという技である。
常人ならば即死。久居少将といえど瀕死は免れない。
「兄弟! てめぇら調子にのるんじゃねえ!」
腰から軍刀を抜いた安濃津少将が素早く回転斬りを放ち、衝撃波によって小唄たちを薙ぎ払った。
「こうなったらてめぇらから殺してやる!」
バランスを崩した小唄へ大上段から斬りつけ――る寸前、張 麗虎(CL2000806)の剣がそれを阻んだ。
麗虎は強制的に刀を跳ね上げ、ダッシュによって急速接近した湊・瑠衣(CL2000790)がスピンキックで安濃津少将をはねのけた。
「これ以上の狼藉はさせません!」
「野蛮な人たち。覚者どうしが戦って、沢山の人を傷付けて、それで何になるというの。力の使い方を間違ってるんじゃないの」
「この期に及んでお説教か? 俺が……ん? そこのお前、見たことがあるぞ」
瑠衣の顔を見て安濃津少将はニヤリと笑った。
「黙りなさい」
「そうだイレブンだ! 集落を焼き払ったときに襲いかかってきた連中だな!」
「だまれ」
「あの時は傑作だった! 俺たちを襲うかと思えば現地の覚者を集団リンチして」
「――!」
目を大きく見開く瑠衣。掴みかかろうとした彼女を、麗虎が掴んで止めた。
「一緒に戦いましょう。二人なら、心強いわ」
「……」
瑠衣は大きく息を吐いて、そして頷いた。
「二人だけやないでー」
振り向くと、善哉 鼓虎(CL2000771)と賀茂 たまき(CL2000994)が立っていた。
「助太刀や。いくでたまきちゃん、一緒やったら心強いで!」
「うん、がんばりましょう鼓虎ちゃん!」
二人は言うやいなや安濃津少将へ突撃。
両サイドから挟むように回り込むと、たまきは強固な拳で殴りつけ、鼓虎は半月回し蹴りで頭を狙う。
鼓虎の蹴りを腕で受け、払いのけるように刀を繰り出す安濃津少将。
対して鼓虎とたまきは素早く場所を入れ替えた。たまきはリュックサックから掛け軸のようなものを引っ張りだし一瞬で展開。エネルギーシールドにして刀を打ち弾いた。
刀が弾かれた一瞬、それだけの隙だが充分だ。
瑠衣は素早く飛び込み、襟首を掴んで足を払い、相手を大きく転倒させる。
「マーシャルアーツ!?」
こうなればもはやサンドバッグも同然。麗虎がすれ違いざまに彼の胴体を激しく切り裂き、鼓虎の拳が正確にボディを捉える。
「これでしまいや」
鼓虎が拳を振り抜くと、安濃津少将は吹き飛び、土産屋の棚を破壊して転がった。
ふいいと息をつく鼓虎。
「一丁上がり。飴ちゃんいる?」
「いや……それどころではなさそうです」
麗虎に言われて振り向くと、ぼろぼろの久居少将がいた。
少女の髪を掴んで引っ張り、首にナイフを押し当てている。
「ハ、ハハ、これで形勢逆転……だな……。動くなよ。下手に手を出せばこのガキの首が落ちるぜ」
「ぐ……」
「武器を置いて下がれ! 早くしろ!」
ナイフを押し込む。血が噴き出し、少女が声にならない悲鳴をあげた。
その悲鳴を、正しく聞き取った者が居た。
久居少将の後方から何者かの空圧弾が発射され彼の頭部を貫通。久居少将は膝から崩れ落ち、今度こそ動かなくなった。
「この攻撃は……」
久居少将の死亡を確認して、成瀬 漸(CL2001194)は立ち上がった。
「遅れて悪い。チーム『GMF』、到着した。さっきの学生たちの避難は完了したよ。三島さん、彼女を」
「分かってるわ」
三島 椿(CL2000061)は脱力して倒れかけた少女を抱えると、首の傷を術式によって治癒した。
「傷は塞いだわ。けど失血とショックが酷いみたい」
「大丈夫だ、私が抱えていく」
漸は少女を抱きかかえると、きびすを返した。
向こうから成瀬 翔(CL2000063)が駆け寄ってくる。
「じーちゃん! 仲間との連絡がついたぜ! 瓦礫に囲まれてる人たちがいるみたいなんだ、オレたちも早く行こう!」
翔は鼓虎たちに気づくと手招きした。
「仲間と送心で連絡をとってんだ。ここはもう大丈夫だって伝えとく。人手が居る場所あるみたいだから、一緒に行こう」
「じゃあ、私は一足先に行くわね」
目的地が明確に分かっているのだろう。椿は翼を広げて空に舞い上がると、まっすぐに飛んでいった。
●ヒノマル陸軍第二班、飛行戦隊
覚者戦闘において、地面を走るタイプの陣形はうまく利用できないことがある。
というのも、一部の覚者は自力で飛行する能力を有しているからだ。
それは空襲戦力を獲得した人類が弓と刀で戦っていた頃の城を捨てた理由と似ている。
しかし屋内戦闘。それも上階を目指すタイプのものとなれば、飛行覚者ならではの戦法が適用できるのだ。
「戦争ごっこなら地獄でやりなさい!」
たまきは城の外壁を走りながらエアブリットを連射。
対してロケットランチャーを担いだ翼人の女が波打つような飛行でそれを回避。
「中将、桑名と申します。ところで、ここは既に地獄では?」
桑名中将がたまきめがけてロケット弾を発射。
破壊される外壁から飛び退き、たまきは舞うように飛行を開始。相手の下を抜けるように滑空しながら乱射。飛来する水礫をランチャーで打ち払う桑名中将。
「その程度の実力で私に対抗するおつもりですか?」
「道連れにしてでもね。最後にはその羽もいでやるんだから、覚悟なさい!」
たまきはそう言うと、術式を乱射しながら桑名中将に体当たりをしかけた。
先刻破壊された外壁を更に破壊して屋内へもつれ込む二人。
畳の床を激しく削りながらもたまきをはねのける桑名中将に、霧島 有祈(CL2001140)とアイオーン・サリク(CL2000220)が襲いかかる。
二人の攻撃をランチャーで受け止めるが、アイオーンは更に押し込んだ。
「軍人として戦争を否定しないが、市民を巻き込めば恨みの火種が燃え上がるぞ!」
言いながらも彼の剣は燃え上がり、桑名中将の前髪を焼こうとする。
「知ったことではありません」
桑名中将はアイオーンと有祈を蹴り飛ばすと、素早く起き上がった。
そこへ襲いかかる是枝 真(CL2001105)と百道 千景(CL2000008)――だが、屋外から投入された大量のグレネードを察して咄嗟に防御。
「ひえー、大変なことになってるよ」
「……」
千景は祝詞を手短かに唱えると、外の敵めがけてエアブリットを放った。
追撃にと火炎放射器片手に突っ込んでくる敵に地烈を繰り出す真。
炎と斬撃が交差する。
が、敵兵はすぐに後退。火炎放射で牽制しながら距離を取り始めた。
「うわ、倒しづらいな……ずっとこうだもん」
牽制射撃は行なってくる割に手を伸ばすと引いていくというやり方に千景たちは攻めあぐねていた。
無視して上に行こうにも攻撃が激しくて進むことができない。
かといって倒そうとすれば回避行動をとられて決定打を与えられない。
こちらの攻撃で簡単に死ぬくらいの雑魚だらけなら切り払ってすすむこともできたが、これでは上へ進む前に温存戦力が潰されてしまう。
第四班を死ぬ気でなんとかできるとしても、第五班や暴力坂相手に手も足も出せずに悠々逃げられるという状況はできれば避けたいのだ。
「つまり、余が彼らを完璧に押さえ込めなければ先へは進めないわけだな。いいだろう」
由比 久永(CL2000540)は赤い翼を広げると、火ノ鳥が羽ばたくが如く二本の帯を引いて飛んだ。
牽制に放たれた火炎放射を羽扇をあおぐことで払いのける。
屋外へと舞い上がると、眼下には破壊されゆく街が見えた。
「このような所業、さすがの余も許せぬぞ。激おこというやつだ。制裁を下す」
掲げた羽扇に応えてか、雷が敵兵を襲う。
桑名中将は銀の翼をもつ高槻大将へ目配せをした。
「敵も一筋縄ではなさそうです。戦法を変えますか?」
「変えなくてよい。菰野、お前の隊で襲撃せよ」
「イエッサ!」
金髪の女が翼を鋭角にして突撃。久永に体当たりをかけると、たまきの時のように屋内へと強制的に押し込んだ。
「ヘイ、ソニア!」
天に翳す左腕。まるでそれに応えるように装剣された小銃が握られる。
その音を鋭敏に聞き取った久永は下手に防御することなく高速離脱。
剣が畳に突き刺さり、周囲の床ごと強烈にえぐり取る。
「よく避けましたネ。ワタシはホーカー、菰野ホーカー。栄えある中将デス! ホーカー隊、栄誉のためにワタシに続け!」
途端、装剣小銃を構えた翼人たちが一斉に屋内へ飛び込んでくる。
「この刃、栄誉のために!」
「なんの!」
銃を乱射しながらの突撃に、神祈 天光(CL2001118)が抜刀。
水流を帯びた刀で弾を次々に弾くと、それを水平に構えた。
「拙者の刃は守るための刃。争いは好まぬでござるが、人々を泣かせる無秩序な破壊など絶対に許さないでござる」
そんな彼の背後から激しい雷がほとばしる。
「ふふ、いけませんね神祈君。地に満ちる悲鳴に悲鳴に悲鳴……美しく心地よいハーモニーではありませんか!」
腕を広げて笑うエヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)。
「さあ、この下らぬ戦争を楽しもうではありませんか」
「エヌ殿……」
天光は『この人これでも正義側の人間なんだよな』といった言葉を飲み込んだ。
知ってか知らずかついっと指さす菰野中将。
「その人正義側の人間なんデスか?」
「今はそれを言わないでほしいでござる」
「何でもいいデス! さあ死ね、栄誉のために!」
銃剣によって繰り出される突きを、天光はスウェーで回避。回り込みから流れるように斬撃を繰り出すが、菰野中将はそれを反転させた銃剣で防御。天光の背中に大量の銃口が向けられる。
「背中の守りが甘いですよ神祈君」
立ちはだかるエヌ。彼が手を翳すと、周囲が術式の霧に覆われた。
集中的に放たれた銃撃がそれていく。
だがすべてとはいかない。かわしきれなかった銃撃に、天光とエヌは宙を舞うことになった。
肉体組織が蜂の巣のごとく穴だらけになっていく――と思いきや、破壊されるそばから肉体が修復された。
遅れて駆けつけた野武 七雅(CL2001141)の癒しの霧によるものである。
「あわわわっ、テレビでしか見たこと無いよこんなの! だいじょうぶ? いたくない?」
「死ぬほど痛いでござるが……助かったでござる!」
空中で身を翻して着地する天光。
エヌはちゃっかりと彼を盾にするような位置に回り込んでいた。七雅と目が合う。
「みんながこまってて、かなしんですから、なつねがんばるの」
「ええ、いい心がけです。頑張りましょうね」
「……」
恐らく意味が逆に伝わっているんだろうなと思ったが口には出さない天光である。
「その人絶対逆の意味に伝わってマスね?」
「貴様なぜそうずけずけとものを言う!」
「ホワイ?」
肩をすくめる菰野中将。そんなやりとりをよそに、七雅は継続的に癒しの霧を展開していった。
「あんまり氣力ないから、続かないかもしれないけど……」
「安心して、ちゃんと填気を用意してあるわ。遠慮無く回復に専念してね」
環 大和(CL2000477)が七雅の肩をぽんと叩いた。
「美しい都で争いを始めるなんて……」
と同時に、膝に保持していた術式カードを一斉展開。自らの氣力で発光させると、七雅の頭上で輪を描くように周回させた。
天使の輪を手に入れたかのような光景にぱっと顔を明るくする七雅。
ふと横を見ると、エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)の頭上にも同じ輪が現われていた。
「相手は火力で牽制してきているのよね? なら、私たちの回復術が役に立つはずよ」
腕を掲げるエメレンツィア。真っ赤なドレスに纏うように、水の因子が螺旋状に腕へまとわりついていく。水は熱を帯びたように霧となって膨らみ、仲間たちの肉体を修復していく。
「この京都の地を戦場に選ぶなんて。この地にどれだけ貴重なものがあると思っているの」
「貴重? ジンジャブッカク、ですか? そんなもの――」
笑い飛ばそうとした菰野中将を前に、エメレンツィアはがつんと足を踏みならした。思わず言葉を詰まらせる菰野中将。
「どれだけ、多くの人の命が喪われると、思っているのよ!」
「そ、そんなの、栄誉のまえにはささいなことデス!」
菰野中将は反射的に飛び退くと、小銃を乱射した。
手を繋ぐエメレンツィアと七雅。
「思い知らせてやりましょう」
「がんばるの」
銃撃に対して張られるカウンターヒールが、菰野中将の攻撃を無力化していく。
循環するカードビットの一つをつまみ、大和は不敵に笑った。
「近づくことを恐れて飛び上がり、対立することを恐れて銃を乱射する。あなた今、負け犬みたいよ」
「なっ……!」
菰野中将は顔を真っ赤にして歯噛みした。
大和たちとヒノマル陸軍では戦力的に決して負けていない。どころか、お互い死ぬまで殺し合ったら確実にヒノマル陸軍が生き残るだろう。
ヒノマル陸軍はそろいもそろって腕自慢。兵術にも優れた戦争屋たちである。
菰野中将も隊を任された時から腕には自信があったし、兵隊の扱いにも慣れていた。襲撃作戦に失敗したことは無い。
無いが、今初めて、失敗の二文字が脳裏をよぎった。
「ば、馬鹿にするなァー!」
体中に術式を展開し、突撃する菰野中将。
――の、真横に、リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が併走状態で急接近していた。
「チョット、そんな悪いことは私が許しませんヨー!」
相手の銃と腕を掴み、ねじり落とすように地面に押しつける。
「命を軽視する人にはオシオキしちゃいマース!」
そして零距離から波動弾を発射。
菰野中将を貫いた弾は彼女に続いて攻撃をしかけようとしていた襲撃隊をも貫いて屋外へと飛び出していった。
「かはっ!」
何か言おうとした菰野中将だが、喉から出たのは血だけだ。
反撃にとリーネを掴もうと腕を伸ばすも、襟首を天明 両慈(CL2000603)に掴まれ、引きはがされる。
「そこまでだ。コレを壊されると面倒なんでな」
「両慈ー、私をモノ扱いするのやめてくれませんかー?」
「黙っていろ」
両慈は手のひらからスパークを放つと、菰野中将にたっぷりと浴びせてやった。
びくびくとけいれんしてから脱力する菰野中将。
そろそろトドメをさそうかと二撃目を構えたその時、無数のロケット弾が投入された。
菰野中将を手放し、カウンターヒールを展開しながら飛び退く。
代わりに七海・昶(CL2000521)が飛び込み、自らに回復をかけることで爆炎を振り払った。
ロケットランチャーを手に立ちはだかる桑名中将。
菰野中将を部下によって撤退させると、ランチャーをトンファーのように構えた。
「同僚が迷惑をかけましたね。彼女はどうも拘りすぎるきらいがあるので」
「別にいーよ。でも京都の街で暴れるのはやめてほしーな。ここイイところじゃん。壊さないでほしいなあ」
「それは聞けない相談です。破壊せよとの命令ですので」
「別に、聞いてくれるとは思ってないよ!」
身構える昶。その左右に、小石・ころん(CL2000993)と梶浦 恵(CL2000944)が立ち並ぶ。
ころんは身体をお菓子の魔女へ、恵は煤汚れた白衣をはたいた。
「ころんも、ここはイイところだって思うの。『かわいい』がたくさんあるから」
握っていた手を開くころん。そこには京都の土産屋で売られていた細工があった。しかし無残に壊れている。
「ころんの『かわいい』をめちゃくちゃにしたこと、絶対許さないの」
言うや否や、少女姿の彼女が映った写真を扇状に広げ、凄まじい速度で投擲した。
ジグザグ飛行でかわしながら急接近してくる桑名中将。
後ろでは援護射撃をかけようとしていた兵たちが撃墜されて落ちていく。
その間ころんのそばまで接近した桑名中将はランチャーを直接叩き付けてきた。
巨大なキャンディケインで受け止めるころん。
だが相手の衝撃たるや凄まじく、ころんは防御姿勢のまま吹き飛ばされた。
「小石さん!」
恵が至近距離から手を翳し、スパークを発射。
他の兵たちが電撃に巻き込まれる中、桑名中将は高速飛行で恵の背後へ回り込んできた。
コンマ五秒でロケットランチャーの発射準備を整え、発射姿勢へ。
トリガーを引く、その直前、キャンディケインのフック部分が首にかかった。
「踏みにじられたサラダみたいにぐちゃぐちゃになってしまえなの!」
「ぐ――!」
照準が上へ向く。放たれたロケット弾が頭上で炸裂し、爆風によって三人はそれぞれ吹き飛ばされた。
恵は飛ばされ、めちゃくちゃになった畳を転がりながらも冷静に術式を構築。受け身のように床を叩き、召雷を発動させた。
「中将――ぐわ!?」
援護に入ろうとしていた兵たちが恵の雷に弾かれて後退する。
「飛行状態にあれば戦闘能力は下がるはず。それでもここまで差が付くということは……元々相手の方が上手ということでしょう」
起き上がり、白衣をバサリと翻す恵。眼鏡のつるを指でつまんだ。
小声以下の声でつぶやく。
「それにしても早すぎる」
ここからは小声以下の更に以下。ほとんど脳内での独り言である。
恵が見たところ、F.i.V.Eの組織的行動はある程度の一貫性と結束力のあるものだ。そんな組織が秘密裏に活動したところで露見するのは時間の問題だ。
目撃者全ての殺処分や永久記憶処理は方針に反するものだし、何よりコストが足らない。
そこまで考えて、いずれはAAAに代わる国営覚者組織になる未来も考えていたが……『それにしても早すぎる』である。
拠点を置いている京都が狙われたのは、恵の見たところ偶然ではない。
この近くに何らかの大規模組織があると仮定して動いている。小規模組織を捜索するのに町ごと破壊するヒノマル陸軍にそんな知恵があるとは思えないので、恐らく誰か……誰かが裏から糸を引いている。
ここで下手な動きをすれば致命的な情報が漏れるかもしれない。大学が破壊されるだとか、神具庫や職人が奪われるだとか、昨今奇跡的に大量確保した夢見を拉致されるだとか……。なんなら資金源(スポンサー)を順番に潰して資源を枯渇させるなんてこともできるかもしれない。恵が敵のボスの立場でF.i.V.Eの知識が詳細に手に入ったなら、できることは山ほどある。
潰すどころか利用して邪魔な組織を消すことだってできるだろう。
「注意しなくては……」
「なにをぶつぶつと言っているんですか」
「いいえ、なにも」
改めて観察してみると、高槻大将率いる第二班は随分数が減っている。第一班と比べて襲撃に対する防御を薄くしていたせいで撤退する兵も多いのだろう。菰野中将がいい例だ。
「どうでしょう。ここは退いて、私たちを上へ行かせてみるというのは」
「ご冗談を」
「当然です」
ロケットランチャーを放つ桑名中将。雷を放つ恵。
「中将にばかり戦わせるな。一気呵成に責め立てろ、相手は弱っている」
そこへ、高槻大将率いる飛行爆撃チームが突入してきた。距離を置いて牽制ばかりしていた連中が本格的な攻撃にでたとなれば注意も必要……だが。
「誰が弱ってるって、ええ?」
四月一日 四月二日(CL2000588)と赤祢 維摩(CL2000884)がハンドポケットのまま立ち塞がった。
顎を上げて見下す姿勢をとる四月二日。一方で顎を引いてにらむ姿勢をとる維摩。
二人は全身からとてつもないスパークを放つと、飛び込んできた高槻大将たちへと浴びせかけた。
「阿呆の後始末など面倒臭い。もう帰っていいか」
「えー、そういうなよお。世のため人のためだぜ? 技も沢山試せるし? ほら眉間に寄りっぱなしの皺ゆるめてさあ」
「先にお前で試してもいいんだぞ垂れ目。そのツタのような髪の毛が少しはまっすぐになるだろう」
「えー? 何か言ったあ!? 常時キメ顔の赤祢くぅん!?」
「常時ふやけ顔のお前に言われたくないな!」
二人はハンドポケットのままにらみ合い、額をがつんとぶつけ合っていた。
攻撃しようかどうか迷う兵たち。
「ハハ、内輪もめか。統率のとれていない組織はこれだからな。今のうちにやってしま――」
「「うるせえ!」」
全く同時に横目でにらみ、先程よりも更に激しいスパークを放つ二人。
兵たちはそれによってはじき飛ばされ、屋外へと放り出される。
残ったのは高槻大将だけだった。
「暴力に慣れると、油断にも慣れてしまうものだな。これが慢心か」
「邪魔するな鬱陶しい。そしてお前も俺と同じことを言うな、気持ち悪い」
「うわーそれ俺が言おうと思ったんですけどー」
四月二日と維摩は互いににらみ合いながら高槻大将へと襲いかかった。
上段下段に全く同時に雷を纏った蹴りを繰り出す。
高槻大将は身体が水平になるようにジャンプし、二人の顎に二丁の小銃をそれぞれ突きつけた。
「俺は慢心しない」
「「――!?」」
回避。ではない。維摩と四月二日はお互いを突き飛ばして射撃をかわし、地面を転がった。
だがそんな回避行動を先読みしていたかのように、高槻大将は彼らの足下にグレネードを転がした。
スタングレネードだ。激しい光と音にくらむ二人。
銃口が改めて二人へ向く。
弾がオートで放たれる。
心臓部を直撃した弾は彼らの体内に残り、常人であれば即死するような衝撃に襲われる。
しかし。彼らの身体には弾は残らず。どころか心臓も無事だった。
「まにあった、のよ」
鼎 飛鳥(CL2000093)が肩で粗い息をしながら、青く光るステッキを振りかざしていた。
「ごめんね。ここまで来るのに時間かかっちゃった。でもまだまだ先は遠いのよ。こんなところでへこたれてちゃ勝てないのよ!」
ぐっとガッツポーズをしてみせる飛鳥。
高槻大将の攻撃を彼女一人でしのいだ、というわけではない。小学生がてらに日々の電車通勤に耐える頑張り屋とはいえそこまでスペック外れのことはできない。
屋外からふわりと入ってきたファル・ラリス(CL2000151)の協力があったからだ。
ファルは両手を開いて、手前に翳した。
「わたしは許すよ」
「……?」
不思議なことを言うファルに、高槻大将はゆだんなく振り返った。ファルは続ける。
「暴力による制圧、支配。いいよ、許すよ。力があるなら使いたいもんね。大きなことをしなくちゃ」
言いながら、ファルは半歩ずつゆっくりと部屋の中に入ってくる。
「戦争したいんだね。それは楽しかったり、苦しみから逃げられたりするのかな。明らかに道理の通らないことだったり、法律に反したことでも、そうしなくちゃならない人はいるよね。わたしたちだってそう。だから許すよ」
高槻大将との距離が5メートルまで狭まった。
歩みが止まる。
「一方で、黎明の彼らや京都の民はあなたたちを排除することを望んでるんだ。わたしはどちらの望みも尊いと思うし、叶ったところを見たいよ。わたしは……」
不気味なほどの笑顔で首を傾げる。
「この戦場のすべてを許すよ」
「ややっこしいわね、とにかくそいつらキックするって話でしょ」
やや遅れてこの階へやってくる弓削 山吹(CL2001121)。
「戦争戦争って、私は連中の絵空事に付き合いたくないよ。大けがじゃ済まさないからね、覚悟しなさいよ」
山吹は広げた指をぱきぱきと鳴らしながら握り込んだ。
「命張る覚悟、してないなんて言わせないからね」
「無論。来い」
二丁小銃を構える高槻大将。
そんな彼に、飛鳥と山吹は同時に突撃した。
飛鳥が水礫を乱射。それを右へ左へかわす高槻大将に、山吹は至近距離まで迫った。
握った拳に炎を込めて、思い切り殴りつける。
が、高槻大将は彼女の背後に回り込んでいた。小銃のストックを叩き込み、飛鳥には銃撃を浴びせてくる。
「命張る覚悟か。逆に聞くが、お前は死ぬつもりで来ているのか」
「そんなのしてるわけ」
「だろうな」
高槻大将は小銃から一時的に手を離し、振り向きガードでストックを受け止めていた山吹を背負い投げた。
地面へ大の字に倒れた山吹の喉元に銃口を押しつける。
と同時に、飛鳥たちにも銃口を向けた。
「自分たちは死なない。自分たちは弾に当たらない。相手は愚かで精神が脆弱。自分たちは幸運の女神に愛されあらゆる奇策は成功し人々に愛されるに決まっている」
「なに、それ」
「慢心だ。お前たちは慢心している。『命をかければなんでも願いが叶うだろう』と考えている」
語っている間にも、飛鳥はじりじりと間合いを整えていた。山吹も反撃の備えを充分にしている。
「先に行っておくが、多くの願いは叶わない。この世界は、特攻兵器に乗り込んだ新兵がクレー射撃の的のごとく無駄死にする世界だ。あれに乗せるのは熟練の兵士であるべきだった。そうすれば然るべき戦果を上げられた! 数十人の命を引き替えに数億人を救えた! 彼らは命の使いどころを間違えたのだ! あれは私が乗るべきだった……!」
目を見開く高槻大将。
僅かに起こった手の震えを、山吹は見逃さなかった。
足を振り上げ高槻大将の腕をホールド。胸に銃口を押し当て、ダメージを独り占めした。
と同時に自らを炎に包み、高槻大将もろとも焼き焦がす。
「高槻大将!」
慌てた様子の桑名中将が飛びかかってくる。
「そこなのよ!」
狙い澄ましたように飛鳥が氷の杭を発射。高槻大将と桑名中将をまとめて貫き、空へと消えていく。
「ぐ――」
「わかるよ。やり直したかったんだね」
ファルが、高槻大将の傷口に手を当てた。
「七十年を全部無駄にしても、七億人を全部犠牲にしても、やり直したかったんだね。私は、許すよ」
「……」
「高槻大将、これ以上は……!」
桑名中将に抱え上げられる高槻大将。
「俺は平気だ。だが、ぬかったな。彼らへの攻撃に集中していたせいで――」
「ええ、私たちの部隊がほぼ無傷で上階へ進行できました。感謝します、皆さん」
明智 之光(CL2000542)は中指で眼鏡のブリッジを押し上げ、薄く笑った。
「後は任せてください」
「がんばるのよっ」
飛鳥のガッツポーズに、之光は頷いた。
「では、ここは任せます」
そして上階へと駆けていく之光。作戦上、彼らの勝利と言って過言では無い。
高槻大将は小銃を構え直した。
「まだ私も未熟、若輩ということか。だが、せめてお前たちだけでもここに足止めする!」
「いいよ。それも、許すよ」
ファルは笑顔で、彼に応えた。
●市街地救出作戦、エリアB
四条通から外れた住宅地にいくつかの家族が集まって身を隠していた。
碁盤目のように整備されたのは遠い過去のこととはいえ、住宅が密集した京都の小道は複雑に入り組んでいる。
既に救助隊は周辺地域から続々と到着し、AAAまでもが救助活動に奔走してはいえるが、こうも入り組み、しかも景観ごと破壊され行き止まりだらけになった町は迷路そのもの。住宅地の救助は困難を極めている。
「外、大丈夫?」
「ああ……」
おびえる娘の声に応えて父親はカーテンを僅かに開くが、上空を通過するヒノマル陸軍のヘリを見て反射的にカーテンを閉じてしまった。
「……だめだ。外は隔者だらけだ。外に出たら何をされるか」
頭を抱えてうずくまる父親。
そんな彼の耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。人の声ではない。猫の、それも彼の飼っている猫の声である。
もしやと思って窓の外を覗いてみると、猫を撫でる風祭・雷鳥(CL2000909)と目が合った。
窓をコンコンと叩く雷鳥。
「待たせたね。助けに来たよ」
迷路と化した住宅地を、雷鳥は走っていた。
ハル・マッキントッシュ(CL2000504)と新田・恵梨香(CL2000015)、それに百千万億 康孝(CL2001150)を連れている。
ハルが透視と感情探査をして恵梨香ががれきの上を器用に移動し、人が通れる程度まで康孝が開けた隙間を通っていく。その繰り返しだ。
だが中でも一番有効に動いていたのは雷鳥である。
「京都には思ったよりネコがいるもんだね」
ネコは家につくというが、野良猫は町につく。あらゆる細道を熟知し、あらゆる人間事情を把握しているとさえ言われる彼らから得られる情報は、こと災害時の人命救助という点において最高のパフォーマンスを発揮した。
勿論その辺の野良猫を掴み上げて情報を吐けと命令したところで応えてはくれないだろう。
雷鳥の人柄あっての取引。いや、助け合いである。
「これでも母親やっててね、ああいう連中みると子供がおびえるから消えてくんねーかなって思っちゃうわけ。それに私、一回逃げちゃったからさ」
そう野良猫に語りかけながら、その野良猫に教わった抜け道を這いずる雷鳥。
がれきにふさがれていた少女を見つけ、仲間に合図を送った。
「こっちに女の子がいる。怪我してみるたいだ。誰か来れるかい?」
「任せて、今そっちに行くんよ」
茨田・凜(CL2000438)はがれきの間を抜けると、のそばへ近づいた。
どうやら怪我をしているのは足のようだが、こういうときの術式能力である。凜は少女を治癒してその場から連れ出した。
「がれきが崩れる、早くこっから離れろ!」
百目鬼 燈(CL2001196)が手を振り、近くで怪我をした一般市民を抱えて走り出す。
そんなさなかに。
「おっと、そうそう人助けばっかりされちゃ困るんですよ。山ほど人が死んでぶっ壊れて、全国のアニメ放送が半年止まるくらいの大惨事になってもらわないとね」
小銃を担いだ若者が建物の上から現われた。年頃からして高校生だろうか。燈たちへと狙いを定めて発砲してくる。
間に割り込み銃弾を弾く谷崎・結唯(CL2000305)。
「これはただの虐殺だ。戦争の意味をはき違えるな、たわけどもが」
「何が違うんですか? 人殺して壊すのが戦争でしょ?」
追加の射撃を加えてくるが、結唯はあえてそれを無視。
代わりに鐡之蔵 禊(CL2000029)が飛び出した。
「こいつは任せて!」
禊はがれきと壁をフリーランニングの要領で駆け抜けると、素早く若者のそばまで接近した。
巫女服の袖を翻し、炎の足刀を繰り出す。
若者は転がるようにそれをかわした。
「あぶねえ! 邪魔すんなよ、ハイスコアだったのに!」
「何が――!」
禊は頭に血が上るのをなんとかこらえた。禊とて若者だ。日本が七十年かけて忘れ、無条件に悪いこととしてフタをした戦争のなんたるかを知らない。
現代にとって戦争なんていうものはアニメやテレビゲームの中にあるもので、相手を殺すゲームくらいにしか見えていない。
戦争。賭博。麻薬に性行。そして暴力。意味を知らなければ、子供は遊びにしてしまう。
禊と彼の違いがあるとすれば、今まさに泣いている子供が見えているか否かだ。
「そんな気持ちで平和を壊そうとするなら、十天がひとり鐡之蔵禊がおしをきをするよ!」
建物と小道が所狭しと並ぶ京都市ではあるが、広くて平らな場所もそれなりに存在している。
中でも大通りに面した公園めいた場所に、大量のジープや装甲バスが駐車されている。
その様子を、光邑 研吾(CL2000032)と光邑 リサ(CL2000053)は物陰から観察していた。
「こりゃあいかんな。兵隊だらけで近づけん」
「弱い兵隊が一人で見張りでもしているならと思ったけれど、これでは流石に大変ね……」
二人は別にヒノマル陸軍の足をつぶしに来たわけでは無い。別にやりたいことがあったのだが、どうやらこの場へ出て行くのは自殺行為のようだ。
仲間があと六人、欲を言えば十人ほど欲しいところだが、今は人命救助が優先される。諦めるほかなさそうだ。
そこへ黒桐 夕樹(CL2000163)が通りかかった。
「何やってるの。こっちは別に襲わなくていいよ」
「大丈夫、それは分かってるわ。人手が必要なところはある?」
「それなら……」
夕樹は頭に手を当てた。仲間からの送心を受けているのだ。
「この先で銀行が襲われてる。行こうか」
「火事場泥棒で銀行強盗とはなあ」
「いや」
あきれ顔の研吾に、夕樹はため息交じりに言った。
「銀行ごと焼き払うんだって」
一方銀行前。火炎瓶をジャグリングのようにして弄びながら、ヒノマル陸軍の男が銀行の建物へ次々に火炎瓶を投擲していた。
「ほらほら、頑張らないと燃えちゃうぞー。ハッハー!」
飛んできた火炎瓶が建物に入らないように蹴りつけて破壊する陽渡・守夜(CL2000528)。
爆炎が彼を包むが、耐えられない炎ではない。
「中にはまだ人がいます。どなたか救助を!」
「お任せですよー!」
筍 治子(CL2000135)は眼鏡を外し、銀行へむけて機関銃を向けた。
ぎょっとする守夜をよそに、ロックのかかった扉を無理矢理破壊。
「ハローハローこんにちわー! お元気ですか私は元気ー!」
扉を無駄に蹴り飛ばし、店内へ突入。
酷いやけどを負った人を掴み上げると、回復術式の混ざった水をペットボトルで無理矢理ぶっかけた。
「命は奪うより救う方がずっといいですねー! 敵さんはそう思いますか思いませんかそっかー私は自分の価値観しか認めませーん! イエー!」
テンションのおかしい治子に気圧された銀行員たちではあるが、どうやら敵ではないと察したようで外へと逃げ出していく。
外では男が火炎瓶を手に顔をしかめていた。
「なーんだ。人質いなくなっちゃったか。じゃああんたら殺したら撤収でいいよね」
次々に火炎瓶を投擲してくる。
それを守夜は空中でキャッチ。身体の回転を乗せて相手へと投げ返す。
「援護を!」
「今すぐ!」
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は本を開くと、暴風とは全く逆の方向にページをめくった。まるでその空間だけ別のエネルギーが動いているかのようにめくれていくページから、次々に火炎弾が発生。
「良い子には甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――イオ・ブルチャーレ!」
クリスマスの魔女のごとく手を翳すと、ラーラの周囲に生まれた炎が男へと殺到する。
そこへ、後から駆けつけた夕樹たちが衝撃弾を追加射撃。
男は炎に包まれ、笑いながら死んでいった。
炎に汚れた町を、ラーラは帽子を押さえて見回した。
「私にできることは限られていますが……できるだけのことを」
●ヒノマル陸軍第四班、超獣兵団
仲間たちが第二班の注意を引いていたおかげで、之光たちは第四班の守る階へと進むことが出来た。
「最上階の第五班と交戦状態に入った時点で彼らは撤退を考えるとのこと……ということは、ここは作戦達成におけるボーダーラインということになりますか」
「まっ、そうなるねえ」
伏見・四四。軍刀二刀流の女獣憑にして、第四班の大将である。
ここぞとばかりに前へ出る間宮 公子(CL2001002)。
「あーっはっはっは! あたし様が直々に来てやったわよ下郎ども! 何突っ立ってんのよ、とっとと道を空けて非礼を詫びて腹を切って死になさい! まあ今は機嫌がいいから? どうしてもっていうなら直々に介錯してあげてもいいわよ! あたし様ったらなんて博愛主義! 褒め称えるのを許可するわよ!」
「いいぜ、行きな」
彼女は刀を鞘に収めたまま、顎で最上階への階段を指し示した。
切腹はともかく、まさか道を空けるとすら思っていなかった公子は言葉に詰まった。
黙ったまま三歩下がって之光を前に出す。
「あたし様の代わりを勤める栄誉をくれてやるわ」
「……」
「ほら、ゴールはあそこだよ」
行けと言われて素直に行く之光ではない。
力を持つとすべからく傲慢さを生むのが人間ではあるが、之光はその点において徹底して冷静だ。F.i.V.Eの覚者と戦うだけでも苦労するのに、それ以上の実力者がごろごろいるであろうヒノマル陸軍と正面からぶつかるのは難しい。
それが前後からの挟み撃ちともなれば尚のこと。
「どうした? 俺らの間を通っていくのが恐いのかい? 臆病だなぁオイ」
わざと上階へのルートを開き、嘲るように笑う伏見大将。
「ンだとぉ!?」
その様子に対してシンプルにキレて襲いかかろうとする仲間もいたが、之光はそれを腕で制した。
どんな世界でも、己の弱さを自覚している者はあなどれない。之光も恐らくその一人である。
「挑発は戦争の基本です。落ち着いてください。それより……私たちをわざわざ最上階へ誘ったことに意味があるはず。さしずめ、二人の大将で挟み撃ちにする作戦でしょう。私たちは現状60人程度。そこへ中将複数に大将二人、更に暴力坂まで加わったら恐らく太刀打ちできません。……と、言ったところでしょうか?」
挑発を返すように言う之光。伏見大将は首を傾げた。
「察しがいいじゃねえか。じゃあ意趣返しに……そうだな、テメェら夢見囲ってんだろ。それも複数」
「……どうでしょうね」
「囲ってなきゃおかしいんだよ。俺らの防衛配置は完璧なんだ。クッソ強い連中でもない限り破れねえ。お前らの実力でここまでたどり着く時点でもうおかしいんだよ。俺らはいわば保険。強襲作戦を終えたら後は将棋でも指して遊んでりゃよかったんだ。それでも来ちまったってこたぁ……こっちの防衛に対してカウンターブレイクをかけたとしか思えねえ」
「……」
ここでみすみす情報を漏らす之光ではない。
黙って刀を抜いた。
「チッ、カマかけにも応じねえってか。やっぱ人間、コレしかねえわな。どうせ今の全力で俺らにぶつかってくるんだろ? 運良くゴールに行けたらいいなぁオイ」
「いや、行かせて貰うよ?」
会話をばっさりと遮る形で、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が加わってきた。
周囲に愛想を振りまきながら前へ出る。
「やあ、良い民と悪い民のみんな、余だよ」
「どういうつもりです」
「いや、そのまま。挟み撃ちにしてくれるんでしょ? じゃあ余たち、階段挟んで戦えばいいだけじゃない。相手はあんなこと言ってるけど、ここでのろのろ戦ってる間に上から敵が下りてきたら普通にアウトだよ?」
言われてみればという顔でこめかみを押さえる之光。
「確かに。私たちの役目はここで敵を押さえること。彼らが合流してしまったら、私たちの負けということですね」
「そういうこと」
プリンスを先頭に最上階へ進んでいく仲間たち。
伏見大将はそれを一通り見送った後で、わざと階段が戦闘の中心になるような位置取りに兵を配置した。
意図をさっしてため息をつく之光。
「……あなた、さてはスリルを出すために私たちを利用しましたね」
「ハッ、当然。人間目的達成のためにはアタマつかわねえと」
「使い方が、いや、頭がおかしいですよ。全く」
「褒め言葉だぜ。おら、全部隊――」
そこで、ここぞとばかりに公子が再び前へ。
「「突撃!」」
両軍勢の配置は階段を挟んだ両端。相手に余裕が生まれれば最上階へ流れてしまう。全力でぶつかっていかなくてはならない状況だ。
だがそれこそ互いが望むところ。
「第四班斬込隊長、伊勢亀山中将。推して参ります!」
両拳にナックルガードを嵌めた伊勢亀山中将が隊を率いて突撃してくる。
「迎え撃て、俺の筋肉!」
巻島・務(CL2000929)は全身の筋肉を漲らせると、伊勢亀山中将めがけてタックルをしかけた。
隣の脇森・楓(CL2000322)に視線を送る。
「ここはこの筋肉に任せて先にいけ!」
「いや、ここで戦うぜ? あっ、奥の連中とやれってことか?」
「フ……言ってみたかった」
「わかる!」
楓は親指を立て敵陣の奥へと飛び込んでいった。
狙うは同格。剣を武器にした斬込隊の兵士だ。
「俺だっていつ死ぬかわかんねえんだ、今を楽しまなきゃなあ!」
適当な兵士を見繕ってラリアット。
相手を巻き込んで壁を破壊。隣の小部屋に転がり込むと、兵士を相手に挑発のポーズをとった。
「つーわけでタイマンはろうぜ」
「望む所よ!」
鋭い突きを繰り出してくる兵士。トンファー使いの楓には相性が悪いが、バックステップで距離をとって深緑鞭を放った。兵士は切り払って踏み込み、回転斬りを繰り出してくる。
待ってましたとばかりにトンファーで防御――した途端、楓の腕が破裂した。
瞬間的に仕込まれた因子の種が炸裂したのだ。腕が文字通りはじけて飛ぶ。
が、構わない。
楓はフリーの腕を引き絞り、兵士めがけて全力で叩き込んだ。
「そうそう、倒れちゃやれねーぜ!」
拳の直撃を食らって吹き飛ぶ兵士。足下に兵士が転がってきたころで伊勢亀山中将は舌打ちした。
「遊びが過ぎます」
「えへへー、でもね、スリルを感じると、人間に戻れるって気がするんだー。とってもいいことだよ」
御影・きせき(CL2001110)が不気味な笑顔と共に刀を抜く。
努と挟む形だ。
伊勢亀山中将は刀を手に彼らを油断なく観察した。
「そこです!」
「む……!」
務はクロスアームでそれを防御。しかし相手の斬撃は凄まじく、彼の両腕ごと切り裂き、刃は肩組織を破壊して内側に達する。
「もろいものです、人間というのは」
「そうかな?」
不敵に笑う務。不審に思って刀を引こうとするが、びくともしない。
務の肩にある筋肉、そして切断されて短くなった腕で刀身を完全固定しているのだ。
「筋肉は人を動かす力。人間とは本来強固なもの。誇らしき俺の筋肉よ、今こそ無敵の盾となれ」
「小癪な――!」
「よそ見したらダメだよ!」
横合いから斬りかかってくるきせき。
片手首を切断された伊勢亀山中将は、歯を食いしばってきせきの顔面をもう一方の手でわしづかみにした。
「本能的ながら見事な太刀筋。しかしこの伊勢亀山、握力だけで相手を破壊してみせます!」
「いたっ……」
手を掴んで解こうとするが、これもびくともしない。
そんな中、ゲイル・レオンハート(CL2000415)が飛び込んできた。
ゲイルの放った因子の糸が務の手首に巻き付き強制止血。どころか、巻き付いた部分から腕を再生させた。
「筋肉が戻った!」
「まだやれる筈だ。行け」
「応!」
務は再び相手をホールド。
その隙をついて、星野 宇宙人(CL2000772)と天王山・朱(CL2001211)が同時に飛びかかった。
それぞれ剣と薙刀に炎を宿し、Xラインで斬り付ける。
「泣いてる子供がいたわ。子供を探す親もいた。動かない恋人にすがりつく女性も見た。こんな地獄みたいな光景をつくって、アンタたちなにがしたいのよ!」
第二の太刀で伊勢亀山中将を水平に切りつける朱。
その横顔を見て、宇宙人は一瞬悲しい顔をした。
「女の子(天使)を泣かせるやつは許せねえ」
宇宙人は腕に炎を宿し、伊勢上野中将の顔面を殴りつけた。
吹き飛んでいく伊勢上野中将。
宇宙人は白いハンカチを出して朱に差し出した。
「拭きなよ」
「いえ、泣いてなんて……」
「心の涙さ。女の子は、泣いてちゃいけない。そんな世界は俺が許さない」
黙ってハンカチを受け取る朱。
宇宙人はにっこりと笑った。
「俺は星野宇宙人。ソラトって呼んでよ」
一方。階段付近では激しい攻防が繰り広げられていた。
いや、今回の場合は攻と防があまりにハッキリ分かれすぎているだろうか。
「神戸、オマエラ、タタキツブス!」
頭に麻袋を被った巨漢が、郵便ポストを叩き付けてきた。
柄の長い四角型で、正しくは郵便差出箱九号ポスト。それを両手それぞれに持ってドラムのごとく高速で叩き付けてくるとあらば、並の覚者ならペーストにされてしまうだろう。
だがしかし。
「ぬううううううおおおおおおおおおおお! 心、頭、滅、却!」
藤城・巌(CL2000073)は空を割るが如き怒声をあげながら打撃をガードしていた。
「ちょっと、うるさすぎ! 倒されるまえに私の鼓膜が破れるわよ!」
盾をかざしつつ片目を瞑る信道 聖子(CL2000593)。
神戸中将はこの二人を絶え間なく殴っているのだが、未だ二人をペーストにすることはできていない。
なぜなら。
「押されてる、回復を急いで」
「やってるわよ!」
天王山・朱(CL2001211)と和歌那 若草(CL2000121)が必死に癒しの滴を生成、投与、また生成を続けているからだ。
二人を回復の要とみた神戸中将が襲いかかり、そうはさせまいと聖子と巌が立ちはだかっている構図である。
とはいえ永遠にこのまま耐えられるものではない。
なぜならば。
「そろそろ氣力が限界だな。氣力切れになったらどうする」
「どうするって言われても……」
大人しく叩きつぶされてやるわけにはいかない。
なんとか氣力を補充できれば……と思ったところで、彼らの氣力が急速に回復しはじめた。
なぜ、ならば!
「待たせたね。もう、大丈夫だよ」
永倉 祝(CL2000103)が美しい白髪を靡かせ、二人の肩に手を添えたからである。
より正確に述べるなら、彼女の手から伝達したエネルギーが彼らに注入されたからだ。
「七星剣。見えない組織を潰そうとしているみたいだけれど、それは恐いからだ。いつか羽ばたく鳥の羽をもぐようなもの。私は、そんな鳥を守りたい」
一度目を閉じ、意志を込めて開いた。
「だから、頑張ろう。援護するよ」
「助かる!」
秋人はセーブしていた氣力を開放し、周囲一帯に回復術式を展開した。
その隙に余裕が出た若草が、聖子の肩越しに剣を突き出す。
水の礫を巻き付けた剣が、神戸中将の目に突き刺さった。
聞き取れない叫び声をあげて目を押さえる神戸中将。
「勝機!」
巌はガードを解いて正拳突きの構えをとると、全身に因子の力を漲らせ、正面から拳を叩き込んだ。
「はあああああああああああああっ、勢破(セイハァ)!」
その衝撃たるや凄まじく、神戸中将が階段にめり込む形で転倒した。
「敵を定めて民間人を犠牲にして敵対組織を潰して終わりって、何が戦争よ! いたずらに虐殺して、破壊して、冗談じゃないわ!」
「私も、こんなこと許せるわけないじゃない」
剣を抜き、大上段に構える聖子。そして若草。
「覚者の力の使い方、見せてやるんだから!」
大上段から繰り出された二人の剣は、神戸中将が翳したポストを切断し、彼の身体をも切り裂いた。
第四班とその対抗部隊は完全な混戦状態に陥っていた。
防御力とブロック技術によって敵を阻むことを目的とした淀部隊、火力による牽制で階下へ押しとどめることを目的とした高槻部隊。これらも強力な隔者で構成された集団だ。それゆえ今も激戦を繰り広げ、F.i.V.Eの中には撤退する者も多く出てきている。
だがそうした部隊とは趣を異とするのが第四班伏見部隊。
戦いたいがために頭を使うという異色の部隊に、総合戦闘力で劣るF.i.V.Eはどうしても振り回されていた。
「しかし、力を合わせれば壊せない壁は無い」
阿久津 亮平(CL2000328)はジャケットのファスナーを一番上まで上げ、フードを被り尚した。
「チーム『モルト』、これより防衛行動に入る。総員、伏見部隊を誰一人として最上階へ行かせるな!」
「りょーかい! それじゃあ派手に!」
工藤・奏空(CL2000955)は二本指を頭上へ翳し、術式を発動。頭上に大きな暗雲を生み出した。
同じく亮平も印を結び暗雲を形成。二つの雲は合わさり、膨らみ、襲いかからんとする兵たちへと食らいついた。
対する伏見部隊は味方を盾にして突撃。
「強行突破を謀るつもりか。そうはさせん」
志賀 行成(CL2000352)は薙刀を取り出すと、鋭い突きを繰り出した。螺旋状に走った衝撃が盾にした兵士もろとも貫いていく。
更に薙刀を返して鐺を押し当て、衝撃波を追加で流し込んだ。
まるで巨大な丸太で突き飛ばされたかのように吹き飛んでいく兵士。
とはいえ相手も多勢。行成の左右を抜けていく。
軍刀によって繰り出される斬撃を、和泉・鷲哉(CL2001115)と三島 柾(CL2001148)が滑り込んで受け止めた。
「少しは太刀打ちできるといいけどっ!」
「今だ誘輔!」
柾のアイコンタクトを受け、風祭・誘輔(CL2001092)は手袋……もとい手首を取り外した。バズーカ砲と化した腕にロケット弾を装填。くわえ煙草のまま突きだす。
「避けろよ先輩! まとめて消し炭にしてやるよ!」
「うお!?」
慌てて飛び退く柾たち。
「巻き込まれたらどうする!」
「いや避けるだろ。記者ってのは危機に敏感なもんだぜ。足で稼いで腕で撮る職業ってな」
「記者なのユースケさんだけじゃない?」
「思えば不思議なチームだ。記者にIT社長にサテンに大学生に中二病とは」
「俺のこと中二病って呼ぶのやめてくれません?」
「いやアリじゃない? 喫茶店の常連客がマスターと一緒に野球するカンジでしょ?」
「そんなカンジでたまるか」
「でも相談だって店でやってたし」
「――って、雑談してる場合か!」
行成が防御の構えで叫んだ。
既に三人ほどの刀を薙刀によるリーチ保持でなんとかしのいでいる有様である。
「こっちが手一杯だ、手を貸してくれ鷲哉」
「はいはい。それじゃあ背中、守らせてもらうぜ」
鷲哉は行成の背後に回ると、炎を宿した手刀で敵兵を切り払った。
「お、意外と行けるな。この調子で早く大将落とさないとな!」
鷲哉は全力を込め、敵兵に向けて手刀を繰り出した。
が、その手刀は空を切り、どころか手首もろとも空中へ飛んでいった。
「なっ――」
瞠目して振り返る行成。
そんな彼の胸を、軍刀が背中から貫いた。
刀は、伏見大将のものである。
「誰を早く落とすってェ? 格の違いを思い知れや!」
刺さった刀を抜く要領で蹴飛ばされる行成。
それを受け止め、回復しながら奏空は顔を引きつらせた。
「や、やばいですよこれ。大将ってそんなに強いんですか!?」
「残念ながら……過去俺たちが倒せたのは中将クラスまでだ。大将クラスは、夢見の話でも倒すことは難しいと言われている」
「また大変なポジションを任されたな」
柾はガード姿勢で伏見大将へと接近した。
繰り出される刀をボクシングのスウェーと上半身の動作で回避しにかかるが、流石に格上相手に回避しっぱなしと言うわけにはいかない。むしろ、直撃を受けていることのほうが多い。
「一分も持たないぞ、やれるか」
「やるしかねーだろ!」
誘輔が飛び込み、地面に向けてバズーカ砲を叩き付ける。
タイミングを合わせて飛び退く柾。
追撃をかけようとした伏見大将の目の前で、畳が勢いよく立ち上がった。
切断される畳。
その裏から急接近する亮平。
「チーム『モルト』、総員――」
眼前で全力の召雷を発動。
スパークを防御した伏見大将に対して、亮平は勢いよくきびすを返した。負傷した鷲哉を抱えて走る。
「一旦退くぞ!」
潔く撤退した亮平たち。残された伏見大将は残念そうに刀を下ろした。
「ンだよ。久々に骨のある連中だと思ったのに、死ぬまでやらねえのかよ」
「オマエのために死にはしないさ」
「アァ?」
振り向くと、葦原 赤貴(CL2001019)が亮平たちがはねのけていた兵をバックアタックで次々と切り伏せていた。
複雑な文様の入った重々しい剣だが、まるで木の枝のごとく軽々と振り回し、拳法のような構えをとる。
「で、今度はテメェが相手になってくれんのかよ」
「何でも思い通りにできると思うな。オレは数を削らせてもらう」
赤貴は伏見大将から距離をとると、後ろから襲いかかってくる敵兵に振り向き斬りを叩き込んだ。
「待てよオラ、俺から逃げられると――」
「できるさ、ゴッドが来た!」
手のひらを突き出し、間に滑り込む御堂 轟斗(CL2000034)。
「そのパワーがユーたちの恐れのあらわれか? ストレングス強きものはサイレントに燃ゆるもの。ここはゴッドたちがお相手しよう! カモン、ヒーロー、アンド、エンジェル!」
「……」
あまりのテンションに、伏見大将は会話のリズムを見失った。
世の中で一番恐ろしいのは何を考えているか分からない奴だと言われるが、何を言っているのか分からない奴はそれ以上に恐ろしい。
伏見大将はそれを本能的に察して身構えた。
「すみません、こういう人なんです……」
「変な男だろう? はっはっは!」
横から瑠璃垣 悠(CL2000866)と多々良 宗助(CL2000711)が現われる。
悠は手袋を外し、エネルギーシールドを展開。
宗助も腕を鉄槌化し、防御の構えで翳した。
「でも仲間がいるってのはいいもんだ。俺たちの連携プレイ、今から見せてやる!」
「ハッ、できるもんならなァ!」
両手に持った軍刀で同時に斬りかかってくる伏見大将。対して悠と宗助はシールドと鉄槌でガード。二人の間を抜けた轟斗が手のひらに炎を宿した。
「醒よ、ゴッドの炎! 今ジャスティスの為、フレンド達と共にエビルを討つ!」
腹に押し当てられた手のひらから膨大なエネルギーが噴出し、伏見大将は吹き飛ばされた。
否、空中で器用に身を翻して天井に着地。二本の軍刀を翼の如く振り、周囲にエネルギーの渦を生み出す。
「これは……!」
「耐えるのだエンジェル! それともマイエンジェルになるか!?」
「今、その話は……っ」
「油断するな、来るぞ!」
全力でガードする悠と宗助。そんな二人が、一瞬にして吹き飛ばされた。
「エンジェル! ヒーロー! おのれ――ラヴのないパワーなどストレングスにあらず!」
轟斗は伏見大将へ飛びかかり、ダイビングパンチを叩き込む。
直撃。
対。
直撃。
伏見大将の顔面を殴りつけた轟斗の腕は、次の瞬間肩口から切断され、その場に崩れ落ちた。
「ばかな、ゴッドのアームが……!?」
「すげぇ拳じゃねえか、殺しちまうのが残念だぜ!」
第二の刃が首へと迫る。
が、しかし。
「うおおおおおおおおおおお!」
地面を殴りつけた宗助に連動し、足下が急速に隆起。伏見大将はその場から跳ね飛ばされ、空中に飛び上がった悠によって蹴り飛ばされた。
部屋中央へ強制的に戻され、地面を転がる伏見大将。
「伏見様!」
「手ぇ出すな!」
軍刀を翳して中将たちを牽制する伏見大将。
そうして円形に開いたフィールドに、酒々井 数多(CL2000149)と橘 誠二郎(CL2000665)が立ち入った。
「やれやれ、派手にやってくれましたね」
「蛮行もここまでよ」
刀を抜き、鞘を投げ捨てる数多。
誠二郎は杖を取り出しくるくると回転させ始める。
中央で軍刀二本を広げるように構え、視線を走らせる伏見大将。
彼女を中心に、数多と誠二郎はゆっくりと周回を開始。
天井の板が急に壊れ、落下してきたその瞬間、三人は同時に動き出した。
「櫻花真影流酒々井数多。往きます!」
「橘流杖術橘誠二郎。推して参ります!」
「暴力坂流乱闘術伏見四四。かかって来やがれ!」
数多の刀と伏見大将の刀が激突、更に誠二郎の杖と刀が激突。
力は拮抗するかに見えたが、伏見大将の放ったエネルギーウェイブが二人を無理矢理はねのける。
ゲイルや若草たちが駆けつけ、二人をキャッチアンドスロー。ゲイルの術糸で組んだ網を足場にして、数多はジグザグに跳躍。伏見大将の首を狙って切りつける。
一方で誠二郎は倒された振りをしてさりげなく深緑鞭を展開。杖と連結させると、伏見大将の足場を丸ごとたたき壊した。
バランスを崩す伏見大将。首へ迫った刀をはじき飛ばし、続けて繰り出された誠二郎の打撃を蹴り飛ばす。
が、崩れたバランスうが戻ることは無い。
なぜなら、床や天井どころでなく、城が丸ごと崩壊したからだ。
●市街地救出作戦、エリアC
通称黄昏城崩壊に拠点奪還部隊が沸く頃。遠く離れた京大病院はヒノマル陸軍の軍勢に取り囲まれていた。
「病院の医者たちは全て押さえました。続けて電気供給をとめます。雲出中将、本当にいいんですね?」
「……まだ分かってないんですか」
軍服に白衣を纏った雲出中将は、ポケットに手を入れて陰鬱そうな顔をした。
「覚者といえど人間。医療施設や道路、そしてライフラインを経てば活動ができなくなるものです。それに、派手な破壊をすれば勝手に病院へ人が集まる。沢山殺せて一石二鳥。精神的に活動不能に陥る敵が増えて一石三鳥。ついでに医療品と設備を現地利用できて一石四鳥。戦争というのはいわば集団個体の殺し合いです。暴力坂様は馬鹿なフリをして実はよく分かっている。目立つ順に破壊をして一般市民を混乱させれば、主導権を握れますからね……」
「……」
この上司は語り出すと長い。部下の男は説明の途中で別の部下に命令を出した。
そして、入院患者が大量にいるであろう病棟の窓から明かりが消えた。
一方こちらは病院内。
ここがヒノマル陸軍に占拠されたと知ったF.i.V.E覚者たちが少数精鋭で侵入し、院内を移動していた。
「明かりが」
「どうやら暗視をセットしてきて正解だったみたいっすね」
凍傷宮・ニコ(CL2000425)は暗くなった廊下の先頭を歩きながら、周囲の様子をうかがった。
「ここの看護婦は優秀っすね。電動設備が必要な患者を真っ先に保護してる。恐らく人力で同等の状態を維持しているんでしょう……っと、ストップす」
後ろから続く葛葉・あかり(CL2000714)を止めた。
「廊下の先に兵隊が。数は三人……武装は小銃っすね」
「どれどれー」
あかりは角から廊下を覗いた。
超視力があるぶん暗闇で動くものを察知できる。暗視を効かせたニコほどではないにしろ、充分に活動できるだろう。とはいえ相手も馬鹿ではないので、同様の準備はしているはずだ。
「近づく前に撃たれるかもー。かがり、やれる?」
「纏霧と召雷併せから飛び込んで突っ切る、でええね」
銃の安全装置を解除し、札を取り出す。
「それで、突っ切ったらどっちに行く?」
「右だよっ」
即答するあかりに、ニコが頭をかいた。
「そっちは多分行き止まりだと思うんすけど……」
「いや、あかりちゃんが占うならきっとそっちが正解や。信じてみ!」
言いつつ、かがりは廊下へ飛び出した。
それに気づいて銃口を向けるが、あかりが放った霧で照準がブレる。同時に放たれた雷術式に防御するその隙をついて、ニコは他の仲間たちをつれて走り出した。
「今っす!」
「あーもーなんでワタシまでこっち来ちゃったのよ。名を売るチャンスだったのに!」
ニコが兵隊をすれ違い際に切りつけるのをよそに、那須川・夏実(CL2000197)は兵隊たちの間をダッシュで抜ける。
「で、ほんとに右でいいの!? 行き止まりなんでしょ!?」
「そう言われたもんっすから」
「いい加減ねえ――ってうわ!」
曲がったすぐ先が行き止まり、だったが。
そこには地面にへたりこんだ老人がいた。
「す、すみません、足が……」
「コラしっかりしなさい!」
夏実は躊躇無く自分の服を引き裂くと、癒やしの滴をしみこまて足の傷口に巻き付けた。
「治癒ついでに殺菌消毒! これでよし! いくわよ!」
「貴様、止まれ!」
早くも霧に対応した兵隊たちが射撃を加えてくる……が、空中に浮かんだ無数の紙人形が全ての弾丸を遮った。
破壊されて落ちていく紙人形。
その中心に立つ九段 笹雪(CL2000517)。
後ろを駆け抜けていくあかりたちに小声で言った。
「先の通路を左に行って。怪我してる人がいる。あたしは後から行くから、これを」
そう言って救急箱を投げ渡しつつ、笹雪はかんざしを振り込んだ。
「いけ」
彼女のポケットから次々に発進した紙人形が兵隊たちに雷の弾を爆撃していく。
遠ざかる足尾をと聞きながら、笹雪は次の術式を組み始めた。
「いくら覚者のイメージアップをしても、こういう人たちが台無しにするんだから……もう!」
多くの入院患者は広い部屋にまとめられていた。迷うこと無くそこまでたどり着いた躑躅森 総一郎(CL2000878)は、目の前の光景に一瞬だけ身をすくめた。
運良く外科手術中の患者は居なかったようだが、今からでもそれが必要な人々であふれていたのだ。
総一郎の脳裏にかつての惨劇がフラッシュバックする。
「あの、あなた方は……」
白衣を纏った総一郎のいかにもな格好に、看護婦の一人が駆け寄ってくる。
気を取り直し、眼鏡を両手でしっかりと直した。
「医者です。この場に他に医者は?」
「いえ、外の兵隊に連れて行かれてしまってここには私たちしか……」
病院という医療に近い場所にありながら、最も医者を必要とする場所になってしまうとは。
総一郎は周囲の仲間たちに目配せした。
ここに集まっている仲間は医療知識に優れた者ばかりだ。
「今からこの場の皆さんに術式による強制外科治療を行ないます。止血や栄養の投与、必要な人には対ショック処置を。銃撃を受けた人には弾丸の取り出しを先に。指崎さん、手伝って頂けますか」
指崎 心琴(CL2001195)は強く頷いた。
「先生に教えて貰ったばっかりだけど、頭には入ってる! 最初は回復を手伝えばいいんだよな! 一人でも多くの人を助ける!」
その意気ですと言って、総一郎は回復術式を部屋中に展開し始める。
心琴は仲間を連れて重傷者へと駆け寄っていった。
同じように怪我した大人のそばへ寄る阿僧祇 ミズゼリ(CL2001067)。
慣れた手つきで処置を施すと、包帯をぐるぐると巻き付けていった。
「ここを抜けたら、別の医療施設へ行ったほウガいいですね」
そう語りながらはたと顔を上げる。
「どうしました?」
心琴と同じように治療の手伝いをしていた離宮院・太郎丸(CL2000131)が振り返った。
「嫌な予感がします」
「もしかして……」
太郎丸は別の仲間に特殊ジェスチャーを送った。送心が一番よかったが、ヒノマル陸軍がここを取り囲む際にジャミングをかけているせいで妨害されているのだ。
改めてミズゼリへと向く太郎丸。
「適切なスキルを持っている人が居ました。こっちはボクがなんとかします」
「……」
こくりと頷くミズゼリ。
太郎丸は九 絢雨(CL2001155)と八重霞 頼蔵(CL2000693)を連れて病室を飛び出していった。
太郎丸が察したのは、病院を占拠する際にどこかの病室に閉じこもってしまった患者の存在である。
彼を先導する形で階段を駆け上がる絢雨。
火の付いていない煙草をくわえたまま、周囲に意識を向ける。
「熱の気配すんな」
「電気も通っていない今熱源があるとすれば……」
頼蔵はちらりと外を見た。
「人間か。数は分かるか?」
「サーモグラフィーじゃないんだ。そこまで分からん。温度も数字で知るわけじゃないからな、人間じゃないかもしれんぞ。つけっぱなしのガスコンロかも」
「状況的にそれはない」
「だろうな」
目的地までは一切迷うことが無かった。
先程の部屋に皆が迷うこと無くたどり着けたのも、絢雨が熱感知で場所を察知していたからだ。
「失礼、入らせて貰うぞ」
扉を開ける。部屋の奥で少女が毛布を被って震えていた。
「だ、だれ」
「煙草屋だよ」
「探偵だ」
「な、なんでっ? わ、私に何を……!」
「説明している時間はない」
頼蔵は足早に近づくと、魔眼を発動させた。
「私たちは味方だ。助けに来た。それをふまえてついてくるんだ。いいな?」
「は、はい……」
催眠状態にはいって大人しくなった少女の手を引き、太郎丸を見る。
太郎丸は窓の外の誰かへジェスチャーを送っていた。
「何をしている?」
「いえ、どうやら……そろそろ包囲も解けるようです」
●市街地救出作戦、エリアC・アウトサイド
雲出中将率いるヒノマル陸軍第三班遊撃隊。病院を囲む兵は城に配置されている兵よりは練度が低いが、なにしろ数が多すぎる。
「突入するには、少々戦力不足ですわね……」
四条・理央(CL2000070)と藤 咲(CL2000280)は病院内からのジェスチャーを受けて院内の安全を確認していた。
考え無しに戦闘をしかけて敗退するよりは、戦力を整えてから確実に攻め落としたい。
それは理央も同じなようだが、それだけに悔しい思いも強まっていた。
「仲間がこっちに向かってるみたい。だからもう少し待とう」
「そう、ですわね。ならそれまで情報交換と参りましょうか?」
「……」
眼鏡に光を反射させる理央。
咲は小声で言った。
「『黎明』の覚者とみられる死体がありませんでした。一つたりとも」
破壊活動の大きさゆえに死体は無数にあって、それを一つ一つ調べていくわけにもいかなかったが、咲は独自にそれらの死体を調査していた。
正直に言って覚者と非覚者の死体の違いは明確な身体部位変化くらいしかないが、それを踏まえても明確に覚者だとわかる死体は一つも無かった。
負傷したと思われる現地覚者も目撃したがどれも服装や特徴がバラバラで、『黎明』のメンバーであることを示すシグナルアイテムのようなものも持っていないようだ。
「土着の組織にはよくあること、なんじゃない?」
「そこについては、交霊術で色々と調べていたのでは?」
「……ひとつだけ」
理央は少しばかり周囲を確認してから、耳打ちした。
「『奪われた』と、言っていたよ」
結果として、病院前には十人のF.i.V.E覚者が集結した。
数としてはまだ足りないが、これ以上待っているわけにもいかない。
「お姉ちゃん……」
袖を引く菊坂 結鹿(CL2000432)を向日葵 御菓子(CL2000429)が優しくなだめた。
「とにかく、できる限り沢山の人を助けたい。手伝ってくれる?」
「ん」
結鹿は強く頷き、刀を引き出した。
「お姉ちゃんは人を守って。私はお姉ちゃんを守る」
「よっしゃ、準備ええよ。ぱーっと行ってぱーっとやっつけて、みんな助けてダッシュで逃げる!」
ぱちんと自分の頬を叩く焔陰 凛(CL2000119)。
抜刀すると、ヒノマル陸軍へと突撃した。
「お前ら、あたしに出会ったことを後悔させたるで! 怒りの炎で死に晒せ!」
こちらに対応して振り返った兵士を二人まとめて切り裂きながら中将へと突進。
雲出中将はくるりと振り返ると、ハンドポケットのままエネルギーシールドを展開。刀を空中で受け止めた。
「そろそろ来る頃だと思いました……いえ、嘘です。来ないと思いました。臆病者の『黎明』の皆さん。街が好きに壊される気分はどうですか?」
「おめでたいですね」
どうやらこちらがF.i.V.Eであることはおろか『黎明』とは別の勢力であることも把握していないらしい。
氷門・有為(CL2000042)は周囲の兵隊を切りつけながら病院へと駆け抜けていく。
「でも、今は人命救助が優先です。あなたたちは後回しにさせてもらいますよ」
「ああ……それは言われると思っていました。嘘ではありません」
雲出中将はそう言うと、ポケットから手を出した。その手には、スイッチが握られている。
ボタンは二つ。
一つを押すと、ちかくにあったコンテナが開き、なかからいびつな物体が姿を現わした。
「九六式二十四糎榴弾砲というんですが、知っていますか? 勿論現代技術で大幅に改装されているので威力は段違いですが……平たく言うと、建物ごと人を殺す兵器です」
「な――」
いち早く飛行して病院に駆け込みたいと考えていた指崎 まこと(CL2000087)は、空中で停止した。
「どういうつもりなの」
「どういうもなにも。あの中へ入ろうとしたら建物ごと殺しますよ、というつもりです。どうしますか? アクション映画の主人公のように僕からこのスイッチを横取りしますか? 別のスイッチで撃つだけですが」
「こいつら最悪ですね! 人の血流れてるんですか!」
威嚇の構えで唸る猫屋敷 真央(CL2000247)。
「僕の任務は病院攻略とそれに関わる精神攻撃です。ここで黙って見ていてください。『私たちは人質をとられたので無力です』と宣伝してくれると助かります」
そうこうしている間に、真央やまことたちに銃口が向けられる。もちろんただのポーズだ。本当の脅しは病院に向いた重砲が担っている。
「……」
笑顔のまま目を大きく見開くキリエ・E・トロープス(CL2000372)。
何も言わないが、このまま放っておくと彼らに襲いかかりそうだ。
だが彼女は彼女なりに、人命救助を優先したいらしい。
そんな中で、渡慶次・駆(CL2000350)が笑いながら前へ出た。
でっぷりとした彼の体躯は、一歩進むたびに変容し、やがて引き締まった長髪の男へと変貌した。
「舐めんな。俺らは一番ヤベェ仕事を仲間に任せてんだ。俺らが……いや? 『俺』が命張らねえわけにはいかねえよ」
「命? たった一つの命をはった所で何ができますか」
「できるさ」
真央たちに目配せする駆。
「行け。ここは、俺に任せろ」
「でもっ」
「行きましょう」
反論しようとした真央の腕を、キリエが引いた。
「あのひと、命をかみさまに捧げようとしています」
「――!」
そう言われて、ようやく気づいた。
駆が『魂』を燃やしていたことに。
「さあ、カミサマの与えたもうたこの力、あるべきよう、そのように」
キリエは牽制するように炎を放ちながら、病院へと走り出した。
「ここが命の使いどころだ。見てな」
駆はどこからともなく剣を出現させると、雲出中将めがけて飛びかかった。
間に割り込む無数の兵隊。
「馬鹿ですか!」
雲出中将は思わずスイッチを押し込み、病院めがけて砲撃が始まった。
七十年前のフォルムだが性能は現代兵器のそれだ。空中で破裂し拡散した大量の爆弾が病院へと降り注ぐ――が、それが全て空中で爆発。駆を背後から強く照らした。
「ばかな! こんなこと一介の覚者ができるはずが……!」
「できるつってんだろうが!」
群がった兵士たちをたった一刀で振り払う。
花火のように吹き飛ばされていく兵を見て、雲出中将は咄嗟にエネルギーフィールドを形成した。
そのフィールドを素手で貫き、首を掴む駆。
駆の視界の端ではまことや真央たちが病院へ駆け込んでいくのが見えた。飛行能力や悪路走行能力を備えた仲間たちだ。きっと病院に取り残された患者たちを助け出してくれるだろう。連れ出されたという医者たちも釣れて、きっとみんな助けてくれる。それだけの能力を、彼らはもっている。
ゆえに駆が今やるべきことは。
「今死に行く人々を救う。お前らが山ほど人を殺すなら、俺が山ほど守ればいいだけだ」
「ぐっ、離せ!」
もがく雲出中将だが、能力を激しくブーストした駆の腕力から逃れるすべなどない。
「お前の大好きな大砲だぞ、おらあ!」
駆はその場で大きく回転をはじめ、ハンマー投げの要領で雲出中将を『投擲』した。
雲出中将は大砲に衝突。謎のエネルギー爆発によって大破させた。
「く、くそ……どうせ相手は一人だ、やれ!」
拳銃を抜いて乱射する雲出中将。部下たちもそれぞれ小銃を構え、駆へと一斉砲火を仕掛ける。
だがそんなものが今の彼をとめられるだろうか?
例えるなら走行中の自動車に雨粒を当てるようなもの。
「邪魔だ」
ラグビーでいうところの突撃姿勢でダッシュ。弾丸が四方八方にはじき飛ばされ、兵たちはボーリングのピンのごとく吹き飛ばされていく。
そして最後には、雲出中将へと激突した。
先程かれを走行中の自動車に例えたが、今の状態がまさにそれだ。
壁際に立ち、全速力の自動車に激突された人間がどうなるかなど……。
「あ、ぐ、うう……こ、殺さ、ないで……」
「殺しはしねえ。だが知っておけ。お前が一発銃を撃つたびに子供が泣く。当たれば傷つき、血が流れる。子供が涙や血を流したとき、俺はお前を挽き潰す」
恐怖と痛みで気絶した雲出中将を片手で持ち上げ、その場に投げ捨てる駆。
「偉そうなご託をいくら並べても、お前に命をかけるだけの度胸は無かった。お前はただ、戦争遊びがしたかっただけだ。法の裁きを受けて社会へ帰れ」
そして駆は、うつ伏せに倒れて気絶した。
●ヒノマル陸軍第五班、送心兵と御牧五五
時系列を遡る。プリンスたちが第四班対応部隊の活躍によって最上階へ到達してすぐの頃。
「やあ、余だよ。テロへの構えはおさないかけない喋らないって、ああ喋っちゃった。どうしようかツム姫ー」
全身からスパークを放ちながらいい加減な見栄をきるプリンスの後ろから麻弓 紡(CL2000623)がちらりと顔を出した。
「麻弓紡、遅ればせながら」
完全に隙だらけのプリンスをフォローするように、紡は四方八方へスリングショットを放っている。
今この場が拠点奪還作戦の大詰めとも言える黄昏城最上階であることを忘れさせるような、それはそれはマイペースな振る舞いである。
「あれ、今余のことみてる民いない? 造幣しとく?」
「みてる民だらけです。いいからもう造幣しまくって下さい!」
「はい造幣ー!」
背後から飛びかかってきたヒノマル陸軍の兵めがけてプリンススマイルの刻まれたハンマーを叩き込むプリンス。
そんな様子を、榊原 時雨(CL2000418)は他人を見る目で眺めていた。
「ま、ええか。榊原流長柄術師範代、榊原時雨。うちが成長するための糧になってもらおか!」
薙刀をぐるぐると振り回し、身構える時雨。
相手も同じように薙刀を振り回し、上段に構えた。
「ヒノマル陸軍、中将。竹原。お相手仕るであります」
「ご丁寧にどうも!」
時雨は強く踏み込みつつ下段斬り。と見せかけて薙刀を棒高跳びの要領でついて跳躍。相手の頭上を越えつつ深緑鞭を竹原中将の首に巻き付けた。
「死地は経験の宝庫、勉強させてもらうで!」
首を締めて落とせたかと思いきや竹原中将は冷静につるを切断。
反転すると今度は中断に構えて見せた。
「確かに、勉強が必要な練度でありますな」
「この……」
「あらあら、中将クラスじゃ一対一は無理よん!」
竹原中将の背後から素早く接近する魂行 輪廻(CL2000534)。鞭をしならせると、まるで鞭自体がひとつの生物であるかのように繰り出した。
変幻自在にして高速。速さ故に人をも斬ると言われる鞭術の本領である。
竹原中将はそれを薙刀の柄で防ぎつつ、時雨と同じだけの距離を取って構え直す。いちいち構えに戻るあたり、かなり保守的なタイプと見える。
「先に言っておくであります」
鞭のリーチと薙刀のリーチ。じりじりと互いに間合いを奪い合いながらすり足を続ける三人。
「自分は本隊のジャミング担当であります。今も全力でジャミングをかけている最中で……あまり戦闘は得意ではないであります。あなたもどうやら、送心で抵抗をしているクチでありますな」
「あら、そう見えるかしらん?」
輪廻の狙いは相手が口に出す作戦行動を仲間に伝えることだったが、最上階へ侵入された今となってもなお彼らはジャミング合戦を続けているようだった。
ちなみに、今現在F.i.V.E側は劣勢。ヒノマル陸軍にのみ送心を許している状況である。
「それなら、貴様を倒せば送心網は解放されるということじゃな」
竹原中将の背後。つまり三人がかりで囲むような位置取りで夜司が刀を構えた。
「この夜司、老いたとて引けはとらん。京は亡き妻、朝路と過ごした思い出の地……土足で汚す下郎めら、天誅を下す!」
輪廻や時雨のタイミングに合わせて斬りかかる夜司。
それらを素早い身こなしで弾く竹原中将だが、いかんせん戦力不足だったようだ。
時雨が薙刀を上から押さえつけ、輪廻が鞭を身体にまき付け、背後に回った夜司が派手に切り裂く。
「はやり戦闘は分が悪いであります。……これにて!」
竹原中将はよろめき、薙刀をその場に捨てた。襖を開いて奥へ走り、後ろ手に閉じる。
「待てい!」
襖を開いて飛び込む夜司――の首に、くるりと糸が巻き付けられた。
糸は一瞬にして首を締め上げ、天井に吊るされる。見上げると、竹原中将が天井へ上下逆さにぶら下がっていた。直前で咄嗟に気づいて指を挟み込まなければ首は切断されていたかも知れない。
「だまし討ちとは、卑怯な――!」
「卑怯卑劣が戦争の常であります」
更に締め上げようとした所で、糸が切断された。
冷泉 椿姫(CL2000364)の斬撃によるものである。
椿姫は落ちてきた夜司を抱えて下がると、拳銃によって威嚇射撃。
襖の奥に隠れていた兵たちがそれをかわして転がった。
「奇襲に備えてください。どこから誰が出てくるか、わかったものではありません」
「そうらしいな。相手は透視を常備している。視界が遮られている分こちらは不利かもしれん」
寺田 護(CL2001171)が周囲を改めて確認した。
城の最上階ということもあって豪華な襖や畳部屋。壺や鎧といった調度品が並んでいるが、それらが一種のパーティションの役割を果たしている。ムキになって破壊しにかかればそれが隙となり、不用意に動き回ればそれもまた隙になる。
部屋も細かく区切られ、天井の板も取り外しが容易に見える。
最上階まで敵が責めてきた際に迎撃するための造りというわけだ。
「百年以上前に誰かが考えた設計思想がこんなところで牙を剥くとは……」
「ビビってんじゃねえ。ここで進まなきゃあみすみす敵を逃がしちまう!」
護はそう言うと、両腕に雷を巻き付けて地面を叩いた。
波打つ雷が襖を突き破り、向こう側にいる兵たちに襲いかかる。が、倒れた兵の向こう側からロケットランチャーを構えた兵たちが現われた。
中央でピンクのツインテール少女がウィンクする。
「はじめまして。送信チームのリーダー、中将の田丸ちゃんです! ごめんあそばせ!」
「――!」
急いでカウンターヒールをかける護。
飛来したロケット弾が爆発し、彼らは思いきり吹き飛ばされた。
そんな彼らと入れ違いに突撃していく時任・千陽(CL2000014)と皇 凛(CL2000078)。
「罪なき民間人を恐怖に陥れ戦争を起こすことの何が軍か! 皇少佐、犬山准尉、行きましょう。彼らを追い出すのが俺たちの役目です!」
「うむ、京の町を返してもらおうか。参るぞ!」
千陽は盾を翳して拳銃を乱射。
その後ろから凛はグレネードランチャーを素早く連射していく。
「犬山准尉」
「やだやだめんどくさーい! 戦争ごっこなんてほっときたーい! 暴走族のお遊びじゃんやだやだー」
犬山・鏡香(CL2000478)はわめきながらも剣を抜き、田丸中将へと突撃する。
「でもショーサがいうならしょうがないなー!」
「あらやだコワーイ!」
田丸中将は軍刀を抜いて鏡香の斬撃を打ち払った。
剣に毒が塗られていたのか、田丸中将の脇を跳ねて不安な色の滴が飛んでいく。
自分の頬に手を当てて笑う田丸中将。
「ワタシたちがごっこあそびの暴走族だったなんて田丸ちゃん知らなかったー、いやーんごめんなさーい! 改心して今日から政治家めざしまーす! 平和主義をかかげて二度と戦争しない国にしまーす! よかったでちゅねーボクー?」
「はぁ? 何上から言ってるの?」
剣をぐいぐいと押す鏡香だが、不思議と相手を押し込むことは出来なかった。顔を左右非対称に歪めて笑う田丸中将。
「こんなもん遊びに決まってんだろガキ。ほんとの戦争がこんなモンで済むか。こちとら適当に壊してトンズラするご予定だよ。どうせお前らも国内で刃物振り回して正義ごっこしてるだけなんだから、せいぜいこのカッコカワイイ田丸ちゃんの悪口でも言って気張らししとけよ。ほらほら」
「挑発に乗ってはいけませんよ」
間からすり抜ける形で銃撃を加える千陽。田丸中将は機敏なバックステップをかけながら弾丸を弾き、周囲の部下に射撃命令を出した。
またも一斉に放たれるロケット弾。
三人は爆発に晒される……が、実際に爆発に晒されたのは千陽だけだった。
焼けただれた身体をそのままに、後ろへと振り返る。
「ご無事ですか少佐!」
彼の背後に凛はいなかった。
「一つ教えて置いてやろう」
脇の襖を開き、凛が現われた。
「――やば!」
田丸中将へ急接近すると、ランチャーを後頭部へと叩き付ける。
「私は本来、近接戦闘を得意とする」
「ショーサ強い!」
ここぞとばかりにトドメをさそうとする鏡香だが、田丸中将は抵抗するどころかさっさとその場から撤退した。
「こんなもんでいっか。それじゃあ皆、後のことはよろしくね!」
追いかけようとするも、一斉にナイフを抜いた兵隊たちに阻まれる。
終始つまはじきにされた形になった鏡香は、目をほんの僅かに見開いた。
「じゃあ代わりに、キミたちから殺してあげるね」
一方その頃。
坂上 懐良(CL2000523)たちは『黎明』のメンバーの救出に動いていた。
どこから襲ってくるかも分からない敵を警戒しつつ、懐良は進む。
「城に閉じこもり守りに入った時点でヒノマル陸軍の敗北は決まったようなもの。だ、戦略的にはどうか」
「戦略?」
懐良を守る形で先頭を歩いていた岩倉・盾護(CL2000549)がちらりと彼を見る。
「戦争とは政治の延長戦だ。目的を達するための手段にすぎない。オレらがこうして動いている時点で、あちらさんの戦略目的は達していそうだな……」
「と言うことは、派手な破壊活動に走ったのは我々を動かすための挑発行為だった、と見るのが正しいかもしれませんな」
盾護とは逆に背後を警戒しつつ進んでいた新田・成(CL2000538)が、杖から刀をすらりと抜いた。
彼の目的は『黎明』メンバーの救出ではなく、ヒノマル陸軍の送信担当を潰すことだ。
一緒に前後を警戒しているのは、たまたま同じ場所にいたからにすぎない。
「今後に備えて、味方になりそうな戦力は確保しておきたいな。『黎明』もそのひとつだ」
「どうだかな……オレはちょっと疑問だぜ。完全に信用できると分かるまでは歓迎できそうにないな」
トンファーを握って進む奥州 一悟(CL2000076)。
「今回のことで何かの判断材料が得られるかもしれねえ」
そこまで話した所で、小さな声がした。
「そこにいるんですか? もし味方でしたら、助けてくださいっ」
アイコンタクトをとる一悟と盾護。
そっと襖を開けると、後ろ手に縛られて横たわるツインテールの少女がいた。
「あの、皆さん、戦争おじさんの仲間じゃないですよね……?」
「そう見えるか?」
「い、いえ……」
苦笑する少女。
「優しそうな人だな、って」
「なんだそりゃ」
照れたように笑う一悟。
「ま、いいか。縄ほどいてやるからちょっと後ろ向きな」
「え、それはちょっと」
「なんだよ、向けなきゃ縄切れないだろ」
「でも……その……スカート、めくれてて……」
顔を赤らめた少女を見て、一悟は助けを求めるように盾護を見た。盾護は無表情に目をそらす。
「何をやってるんだお前たちは。スカートぐらいで。目を瞑るから、少しじっとしていろ」
懐良は頭をかいて二人をどけた。
後ろに回って縄に刀を当てる。
「あ、ありがとうございます。お礼と言ってはなんですけど、私のもってる秘密、特別に教えますね」
「おっ?」
思ったより簡単に喋ったな、と思いつつ眉を上げる一悟。
「あのですね、私……」
途端、後ろの襖が勢いよく開かれ、アーレス・ラス・ヴァイス(CL2000217)が飛び込んできた。
「皆さん伏せて、囲まれています!」
一斉に振り向く盾護たち。
手に握ったスイッチを押し込む少女……もとい田丸中将。
「もう遅いんだよチェリーボーイどもが!」
「てめっ……!」
突然のことである。
左右の襖がはじけ飛び、機関銃を構えた兵隊が一斉射撃をしかける。
「教授! この――解身(リリース)!」
高速覚醒した犬童 アキラ(CL2000698)が成を突き飛ばし、フィンガーバルカンを乱射。
田丸中将はその場に低く伏せつつ抜刀。
振り込まれた刀を成は杖でガードし、彼を狙った機関銃射撃を盾護が庇った。
自身を刀で防御しようとする懐良。が、刀身は田丸中将にがっちりと固定されていた。
「しま――ぐあ!?」
弾丸の雨に晒される懐良。
アーレスは彼を抱えると、機関銃兵たちに拳銃を連射。弾と弾が大量に入り乱れる中、一悟は地面すれすれの位置をスライディング。機関銃兵に足払いをかけると、まず一人をたたき伏せた。
防御を続けていた盾護が膝を突く。そんな彼がこれ以上ダメージを受けないようにとかっさらう桂木・日那乃(CL2000941)。
彼女の回復を受けながら、盾護は離れた場所へと離脱。
「ごろつきどもめ、貴様らがおかした者たちの声を聞き、そして味わえ! 絶対応報の一撃だ!」
一方でアーレスとアキラは残りの機関銃兵に集中砲火を浴びせて撃破。
その途中でアキラはアーマーの各所から火花を散らして倒れた。
彼女を抱えつつ、天井から落ちてきた兵隊を切り払う成。
一方の田丸中将は深追いせずに素早くその場から離脱していた。
嵐のような数十秒が過ぎ去り、辺りには大量の空薬莢とめちゃくちゃになった部屋が残った。
戦闘不能になった兵たちはさっさと撤退したらしい。
あんまり人間慣れしていると『戦闘不能=気絶』だと思いがちだが、充分に動けるケースも多いのだ。こちらが戦闘不能になった際の撤退状況がまさにそれである。
「ひ、酷いダメージを……うけたな……」
ため息に混じって血を吐く懐良。
「彼女がとらえられていた『黎明』じゃないとすれば、『黎明』の女子供というのは一体どこに……」
「ここです」
アーレスは畳を引っぺがして見せた。
その下に拘束して詰め込まれた『黎明』の覚者たちが横たわっていた。
日那乃が優しく抱えおこし、回復術式をかけていく。
「なりすましの罠を全く警戒していなかったからな……ぬかった」
「いえ、ジャミングにリソースを割いていて発見が遅れた私も……」
それぞれ額に手を当てる懐良とアーレス。
アキラはどしりと腰を下ろして瞑目した。
「だがこのエリアの送心兵を撃退できた」
「敵の送心網を絶ったことで、味方はかなり有利になったでしょう。あながち悪いことばかりではありませんよ」
「だな。よし、まずはこの子らを安全な所まで避難させよう」
一悟たちは力を合わせて彼女たちを抱え、安全な場所まで移動を始めた。
さて、先程の戦いのどさくさに紛れて姿をくらましていた竹原中将だが、まだ最上階に残っていた。
「田丸中将はチームごと撤退したでありますか。では、自分もそろそろ撤退するであります。京都潜在勢力の計測と把握は済みましたし、情報も提出済み。あとは自分の命を持ち帰るだけでありますな」
「誰の命を持ち帰るって?」
背後から声がした。
がっしりと腕を腰に回し、首にナイフが回る。
竹原中将の背後にぴったりと身体をつけたのは、春野 桜(CL2000257)だった。
「許さない。誰一人逃がさない。ねえ死んでよ!」
要求は既に実行に変わっている。
竹原中将の首筋を乱暴に切り裂く桜。
吹き上がった血が天井や床を染めていく。
それでも足らないとばかりに、桜はナイフをめちゃくちゃに身体へ突き刺していく。
「死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェ!」
毒の塗られたナイフだからだろうか。反論も抵抗もする暇無く、竹原中将は絶命していた。
それでもまたナイフを刺し続ける桜の肩を、何者かが掴んで止める。
天城 聖(CL2001170)の手だ。
それすら殺して振り払おうとした桜のナイフを、水蓮寺 静護(CL2000471)の刀が受け止めた。
「もうよせ、死んでいる」
「誰が死んだら許すって言ったの? もっとでしょう?」
「意味分かんないよ。わざわざ殺さなくっていいんだよ。情報だって得られるかもしれなかったし……」
聖の説明に納得した様子は無かったが、桜は死体からは興味を無くしたようで手を離した。
「もういいわ。別のを殺してくるから」
ふらふらとどこかへ行く桜。
聖はため息をついてそれを見送った。
「セーゴ、これでお城は攻略完了なワケ?」
「かもしれんな。第五班の大将と暴力坂が見当たらないが、僕たちがここへ到達した時点で撤退したのかもしれん」
「そっか。ふーん……あっ」
聖は何気なく振り返り、錫杖を突きだし、静護めがけて召雷の術式をぶっ放した。
「うおお!?」
咄嗟に仰向けに転がる静護。
「ぎゃん!?」
そんな彼の視界の端で、壁板の向こうから転がり出た御牧大将が映った。
頭部が無数のカメラやアンテナに覆われた付喪覚者である。いくらなんでも見た目でわかった。
「ンッンー、私の隠蔽術を見破るとはなかなかやりますねェ」
眼鏡だかカメラレンズだか分からないものをくいくいと上げる御牧大将。
聖は不敵に笑った。
笑って、何か言うのかなと思ったが何も言わずに三秒が経過した。
「聖……」
のっそりと起き上がる静護。
「さては君、僕に不意打ちをしかけてからかおうとしなかったか?」
「ちがうし! セーゴが敵の邪魔になる位置にいたから悪いんだからね!」
「ンッンー、夫婦げんかはそのくらいにして頂けませんかねェ」
「ちがうし! くらえ!」
空圧弾をぶっ放す聖。
今度ばかりはさすがに普通にかわす静護。かわしついでに水の術式を組み上げ、御牧大将へと発射した。
二つの術式弾を上半身を残像が残るほどの速度でよける御牧大将。
「ンッンー、強力な攻撃ですが私を倒せるほどでは」
「ぎゃん!?」
御牧大将の後ろから稲葉 アリス(CL2000100)が転がり出てきた。
黙って振り返る御牧大将。
アリスはむくりと起き上がると、とりまカワイイポーズをとってみせた。
「怪盗ラビットナイト、参上ぴょん!」
「君、作戦開始時から全く見ないと思ったらそんな所に隠れていたのか」
「私の背後をとるとは、やりますね……」
「でもあたしは自分の命がなにより大事だからここで失礼するぴょん☆ これは餞別ぴょん!」
アリスはそう言うと、てやーと言って城の窓から飛び立っていった。
飛行能力のない彼女がどうやって無事にここから離脱するのかは、正直誰にも分からない。
静護と聖の手に彼女の餞別と思しきエネルギーカードが残されていたので、一応支援はして帰ったということらしい。
気を取り直して。
静護は刀をすらりと抜き、御牧大将へと構えた。
聖も錫杖をばちばちとスパークさせて身構える。
「さて、どうする。やるか」
「ンッンー。気づいていないようですから、教えて差し上げましょう」
御牧大将はまたレンズをくいくいやると、半歩下がった。
緊張が走る。
「私は」
ギラリと光るレンズ。
床を踏みしめる静護。
汗を浮かべる聖。
「戦闘は苦手なのです! ということでさらば!」
御牧大将は言い捨てるやいなやきびすを返してアリスと同じ場所から飛び立っていった。
勿論飛行能力のない彼がどうやって無事にここから離脱するのかはわからない。
後から聞こえる『ぎゃあああああああ!?』という悲鳴から察するにノープランで墜落したものと思われる。
「逃げた」
「逃げたな」
しゃきんと刀を納める静護。
そこへ。
「あら、誰か忘れてるんじゃないかしら」
明後日の方向から声がして、二人は思わず構え尚した。
「ヒノマル陸軍新大将の、この私……」
窓から這い入る形で、シャロン・ステイシー(CL2000736)が現われた。
「シャロン大将をね!」
「……」
「……」
しゃきんと刀を納める静護。
聖は彼の肩をぽんと叩いてやった。
「今日は、その、うん、ちゃんと連携とれてたよ。すごい戦ったよ。帰りなに食べる?」
「いらない……」
すたすたと帰って行く静護たち。
シャロンはその様子を、とりあえず見送っておくことにした。
余談になるが、シャロンは別にヒノマル陸軍に入隊したわけでも大将クラスに任命されたわけでもない。試しにその辺の兵隊に『仲間になりたいんだけど』と問いかけたらその場で殺されかけた。単独行動中で仲間も居なかったので魂使って半個小隊を全滅させて来た。
逆に敵が戦闘中に仲間になりたいとか言ってきたら多分殺すと思うので、当然といえば当然である。
いま来ているヒノマル陸軍らしき服も、勝手にそれらしい服を盗んで城へやってきただけである。
「んー……じゃ、あたしも帰ろうかしらね」
きびすを返して帰ろうとするシャロン。
だがふと、違和感を感じて立ち止まった。
まだ大将や中将たちが戦っているこの状況で、暴力坂だけが逃げた?
「もしかして……」
ある推察を立てた、その途端。
城が爆発した。
●市街地救出作戦、エリアD
場面は変わって、ある大通り。
ジャックされたバスが大通りを走っていく。
ヒノマル陸軍少将のひとり松坂は、三人の部下と共に乗客を脅しながらバスを占拠している。
彼の拳銃は今まさに運転手のこめかみに押しつけられ、ブレーキを踏むことを許さなかった。
「少将。このバスはどうします」
「決まってるだろ。爆弾山ほど積み込んでデカい建物にドカンだ」
「ヒッ――」
おびえすくんだ運転手がハンドルから手を離し、恐慌状態になって叫んだ。
「もう嫌だ、死にたくない! 助けて、助けてください!」
「チッ、臆病モンが」
松坂少将は運転手を引っ張り上げると、部下に運転を代わらせた。乗車扉を開き、運転手を持ち上げる。
「な、なにを」
「死にたくないんだろ? じゃあ、下りていいぜ」
松坂少将は走行中のバスから運転手を放り投げた。
運転手は暴風に晒され、地面と空をそれぞれスローモーションで眺め――。
「させません!」
空を高速で飛行してきた守衛野 鈴鳴(CL2000222)にキャッチされた。
「うっ、うわ!」
急に空へとさらわれて運転手は慌てたが、鈴鳴から薫る不思議な雰囲気に恐慌状態はたちまち和らいでいった。
「大丈夫です、必ず助けますから」
「で、でもバスの乗客が、爆弾で」
「そちらも、かならず」
鈴鳴は運転手を適当な場所に下ろすと、空へと舞い上がって頭に手を当てた。
『運転手さんは救出しました。バスに爆弾が積まれているとのこと』
『了解。ジアさんの話通りでしたね』
七海 灯(CL2000579)は高いビルの上から状況を確認していた。奇しくもバスが爆弾を積んで突っ込む予定のビルだったが、彼女にとっては些細なことである。
自分だけが助かろうなどと思っていたなら、最初からここへは来ない。
『月歌さん、南条さん、神幌さん。バスに飛び移れますか』
『やってみせましょう!』
月歌 浅葱(CL2000915)は街灯の上に立ち、長いマフラーを靡かせていた。
硝煙の混ざった風に腕組みをしてみせる。
「天が知る地が知る人知れずっ……月歌浅葱、行きます!」
街灯からダイブ。下を通りかかったバスの天井に着地して前転。衝撃を殺しにかかるがいかんせん走行中のバスである。そのまま車体後方までバランスを崩して転がっていった。
転落しそうになった所でバス最後部につかまり、振り子のように窓ガラスを突き破って車内へ侵入する。
「なっ!?」
振り向く松坂少将。浅葱はすぐ近くの敵兵を殴り倒した。
「怪我している人はいませんか! いますね! 鈴鳴さんお願いします!」
「その前に敵の排除でしょ」
ふと横を見ると、バスと併走する形で鈴鳴が飛行していた。彼女の持った旗をポール代わりにしてぶら下がる南条 棄々(CL2000459)。
浅葱とは別パターンの振り子運動で窓を突き破ると、敵兵を蹴り倒す。どこからともなく駆動中のチェーンソーを取り出し、敵兵の胸に押しつけた。
「こんな有様にしてくれちゃって。あんたたち、ほんっと胸くそ悪いわね。反吐が出そうよ」
「ナイスヘイト。そんじゃあ死んどけ」
棄々の後頭部に松坂少将の銃が突きつけられ――た途端、いつのまにか座席に座っていた神幌 まきり(CL2000465)が彼の銃を蹴り上げた。
驚いて椅子から転げ落ちそうになった近くの少年を抱きかかえ、深緑鞭を展開。松坂少将の顔面を打って払いのける。
「これ以上、無辜の命を傷付けさせはしません!」
「テメェ……アクション俳優かよ。まあいい、まとめて吹っ飛ばしてやる。おいスピード上げろ!」
運転中の部下に振り返る……が、部下はそこには居なかった。
代わりに、運転席側の窓に伊弉冉 紅玉(CL2000690)がぶら下がっていた。
車外の窓に、上下逆さに、足だけでバランスをとるようにしてだ。
どうやら部下は引っ張り出されて今頃道路でのびているらしい。
窓を割って侵入する紅玉。
「なんだよテメェ、テメェら。さてはここの組織じゃねえな。何モンだ!」
「正義だ」
鉄塊そのものといったような剣をどこからともなく取り出し、叩き込んでくる紅玉。
「くそ、付き合ってられるかよ!」
松坂少将はガードして後退すると、空いたままの乗車ドアから飛び出して撤退した。
深追いはしない。
「さて諸君、正義をなそうではないか」
車の運転はよくわからんがブレーキ踏めばとまるだろ、とばかりに操作。
無事にとまったバスから乗客を降ろし始める。
怪我したらしい少年を抱えて下りてくるまきり。
「腕を銃で撃たれています。かすり傷ですが……」
「うん、みせて……」
駆け寄った明石 ミュエル(CL2000172)が回復術式を混ぜた水ボトルを傷口に注ぎかける。
「痛かったよね。少しでも、早く治るように、ね……」
少年にほほえみかけるミュエル。
そこへ、激しい銃声が響いた。
「チョーシ乗ってんじゃねえぞテメェらぁ!」
撤退したはずの松坂少将である。
早くも先程とは別の銃を調達してきたらしい。
ミュエルは応戦しようかどうか迷ったが、清衣 冥(CL2000373)と結城 華多那(CL2000706)が素早く間に割り込んだ。
「調子乗ってんはあんただろうが。おいミュエル、皆を連れて安全圏まで」
「うん、気をつけて、ね……」
一般市民を連れて撤退していくミュエルたち。冥は肉体を大人化させると、鋭く身構える。
「ほんと大和魂とはほど遠いのね。相手になるわ!」
早速華多那はエネミースキャンを発動。彼がスキャンに集中している間に冥は全身に暴雨を巻き付け、空圧弾を連射した。
対して松坂少将は横っ飛びに交わして銃撃。
銃弾は華多那に迫ったが、それをジア・朱汰院(CL2000340)が代わりに受けた。
「ジア、お前っ」
「心配ねえ。それより相手のことは」
「分かった」
「要約すると?」
「火力を上げて術式で殴れ」
「オーケー! 苦手分野!」
腕を振り上げるジア。
そこへ、けが人を安全な場所まで運び終えた円 善司(CL2000727)が駆けつけてきた。
「火力を上げるなら任せとけ!」
善司はすかさ術式を展開。周囲の空気を劇的に変えていく。
「さ、俺にかっこいいとこ見せてくれよ」
「オーケーオーケー、要するにこうだな!」
ジアは今まで言われたことを一旦忘れて、松坂少将へ拳を振り上げて突撃した。そこに術式らしいものはない。まったくない。
松坂少将は銃を乱射。弾丸が何発も直撃するが、そのたびに冥たちが回復術式を飛ばした。
「おっおまえ馬鹿なのか!」
「テメェほどじゃねえ!」
無理矢理接近し、無理矢理拳を叩き付けるジア。
「虐殺に破壊にご苦労なこったな戦争屋ども。隠れて食い散らかす鼠とテメェらの違いを馬鹿なアタシに教えてくれよ」
ジアの戦い方はびっくりするほどシンプルだった。
殴る。
蹴る。
そして殴る。
敵の銃撃だの術式破壊だのは知ったことでは無い。
暴力による圧倒。
人類どころか生物の本能として、松坂少将は恐怖した。
恐怖し。
逃避し。
そして暴走した。
「く、くく、くくく来るなああああああああああああ!」
銃をやたらに撃ちつくし、弾切れした銃を投げつける。
そんなものが、ジアに通用するわけがなかった。
壁際に追い詰められ、へたりこむ松坂少将。
こんなものか。ジアが興味を失いかけた、その時。
「ア、アア――」
恐怖のあまり大きく口を開けた松坂少将が、そのままいびつに変形した。
人間の形を保ったままめちゃくちゃに歪み、膨らみ、周囲の物体をこそぎとりながら立ち上がる。
コンクリートや鉄板を大量に吸収した彼の姿は、もはや松坂少将のものではない。
「なんだ?」
「まずい……破綻者化しやがった」
顔を引きつらせる善司。
「コココ、コロスコワスコロスコワスコココココココ……!」
言語能力までも失い始めた破綻者は近くの電柱を引っこ抜くと、無差別に地面へ叩き付けた。
アスファルト道路が砕けて割れて舞い上がる。
善司たちはたちまち吹き飛ばされ、向かいのビルへと叩き付けられた。
かろうじて打撃を免れたジアを見つけ、呼びかける華多那。
「離れろジア、そいつはやべえ! 俺たちが十人がかりんでもまだ難しいレベルの」
「オーケー」
ジアは笑って、そして自らの『魂』を爆発させた。
「こいつはアタシの得意分野だ!」
「やっぱり話聞かねえなこいつ!」
身を乗り出す華多那たちをよそに、ジアは破綻者へ突撃。
叩き付けられた電柱を頭突きでへし折り、両手で掴んで投げつけてきた自動車を拳ではねのける。回転して飛んでいった車が近くのビルの二階へ突っ込んで止まる。
「ハハハ! 最初からそうすりゃいいんだよ! 戦争だなんだと面倒くせぇこと抜かしやがって!」
直接叩き込まれた拳を、拳でたたきつぶす。
破綻者の腕がへし折れ、骨が折れてはみ出した。
「素直に暴れたいですって言えよ、オラ!」
シンプルな蹴りを繰り出すジア。
それだけで破綻者の両足がまとめてへし折られ、その場に崩れ落ちた。
髪の毛を掴んで持ち上げる。
「聞いてるかオイ。日本語忘れちまったのか? まあいいや」
ジアは笑って、拳を振り上げた。
「拳ってのは万国共通の言語らしいぜ」
シンプルに繰り出した拳が破綻者の頭を吹き飛ばし、爆砕した。
●ヒノマル陸軍総帥・暴力坂乱暴
さて。
京都を襲った未曾有の隔者被害はF.i.V.Eの覚者たちの勇敢な活躍によって最小限の被害に収まった。
ムーンブリッジ攻防戦。大河内山護送車防衛戦。繁華街脱出戦、同じく市民防衛戦。バー襲撃戦。補給庫襲撃戦。陸上競技場覚者救出戦。公民館爆破阻止作戦。対一番ケ瀬戦。暁救出作戦。そして各地の一般市民救出作戦に、黄昏城奪還作戦。
覚者組織『黎明』では太刀打ちできなかった様々な事件は損害の大小はあれど最小限の被害に留まったと言えるだろう。
喪われたものも報われ、壊されたものも直され、町はかつての活気を取り戻すに違いない。
これでおしまい!
作戦終了!
――とは、ならぬ。
コンビニの自動ドアが開き、一人の男が外へ出た。
後ろへ払った黒髪に黒いあごひげ。真冬だというのに素肌に軍服めいたジャケットを一枚羽織ったきりの、歳深そうな老男性だ。
彼はビニール袋からあずきのアイスバーを取り出し、袋を破いてかじりつく。
それを口にくわえたまま、ポケットから煙草ケースサイズの物体を取り出した。
先端に赤いスイッチのついた何かの起動装置だ。
歩きながらそれを押し。だらりとぶらさげて歩いて行く。
アイスバーをひと囓りしてから立ち止まり。後ろをふりかえった。
黄昏城がそこにある。
男は箱に視線を下ろし、スイッチをひたすら連打した。
再び振り返るが黄昏城はそのままだ。
男は叫び声をあげて箱を地面に叩き付ける。
途端、城が光を放って爆発した。
さすがに驚いて振り返る。
そして、満足そうにアイスバーをもうひと囓りして歩き出した。
「待てよ、逃がさねえ」
行く手を阻む、諏訪 刀嗣(CL2000002)。
刀を肩に担いで立ち止まる。
同じく蘇我島 恭司(CL2001015)。かたわらに覚醒状態の柳 燐花(CL2000695)を立たせて、煙草をくわえた。
「暴力坂乱暴さんだよね」
言われて、男はアイスバーを下ろした。
「誰だそりゃあ? 俺はどこにでもいるコンビニ帰りのあずきバー大好きじいさんじゃよ」
「真冬の外で肌ジャケしてアイス食ってるじいさんがどこにでもいてたまるかい」
刀嗣たちとは反対側の道へ現われ、覚醒する緒形 逝(CL2000156)。
ゆらりとその横へ、八百万 円(CL2000681)が殆ど刃の死んだ刀剣を引きずって止まった。
「しらばっくれても無駄。ちゃんと顔は押さえてあるんだよ~」
大きな鎌を手に、六道 瑠璃(CL2000092)が側面を塞ぐように立つ。その反対側には神城 アニス(CL2000023)が立ち塞がる。丁度取り囲んだ形だ。
鎌を握り込む瑠璃。
「何が戦争だ。この街には沢山の人たちが生きてきたんだよ。お前には血を流す意味や命の大切さが分からないのか!」
「そう怒鳴るな。俺が悪かったよ……。俺らの負けだ。お前らがどこの誰かは知らんが、ヒノマル陸軍はお前らに完敗だ。今頃全軍まとめて撤退してる頃だろ。俺も今から帰りだ。通してくれや」
脇を避けて通ろうとする暴力坂を、アニスが腕を広げて留めた。
「どうしてこんなことをするのですか。破壊からは何も生みはしないのに!」
「……」
暴力坂は心底苦々しい顔をして黙った。
黙ったままではよくないと思ったのか、アイスバーをもうひと囓りする。
がりがりと噛み砕きながら言った。
「どうしてってそりゃあ、世界征服のために決まってんだろ」
「……はあ?」
言っている意味がわからず、思わず首を傾げるアニス。
瑠璃も同じような反応だ。
「馬鹿か、国外に出たらたちまち一般人だぞ。それとも知らないのか?」
「お前こそだぞオイ。国内に今どれだけの兵器があると思ってんだ。現存する兵器の数、それを作れる職人の数。ハッキリ言って史上最大だぜ。でもってそれを規制するはずの国政は未曾有の危機に何十年も麻痺しっぱなしだ。俺ぁ思ったね、これは戦争のチャンスだ」
円が、刀剣を握る力を強くした。
彼女を代弁するように語る緒形 逝(CL2000156)。
「なんだあんた、大三次世界大戦でもする気かい」
「する気だねぇ。中国アメリカロシアにヨーロッパ、オーストラリアにグリーンランド。全部制圧して日本の都道府県にしちまおうぜ。妖に脅かされない土地に住もうつって国民を扇動してよお、妖騒ぎもアメリカや中国の陰謀ってことにしてプロパガンダをぶちあげてよ。もう一回やったら日本は勝てるぜえ、戦争」
すでに棒だけになったアイスバーを咥えて笑う暴力坂。
燐花は退きそうになった気持ちを無理矢理おさえた。
「狂ってる」
写真データの入ったカード媒体を彼に投げ渡す恭司。
「あんた最低だな。そんなことのために街一つ壊したのか。僕はあんたを絶対に認めない」「知るか。お話し合いで仲良しこよしなんざ冗談じゃねえ。なんだテメェ戦争イヤイヤ病かぁ? 朝鮮人にいいように洗脳されやがって」
「そんなこたぁどうでもいいんだよ」
これ以上会話を待っていられない。そんな様子で、刀嗣は暴力坂へ向かって歩き出す。
「お話し合いで仲良しこよし? 俺も同じだ平和主義なんざクソ食らえだ。俺が興味あんのはてめぇだオッサン、一番強ぇやつにしか興味がねえ。俺はテメェを斬って上に行く!」
歩みは途中から走りへ変わり、走りはすぐに風を追い越すほどに加速した。
「テメェの首を取る!」
振り込まれた刀嗣の刀。その軌道の下をくぐるようにすり抜けていく暴力坂。
「やめとけ。俺とお前じゃ実力が違いすぎる」
素早く距離をとった逝とは対照的に、瑠璃がエネルギー噴射をかけて突撃。
「強いからなんだ。お前も同じ人間のはずだ!」
突撃の勢いはそのままに、身体ごと回転させて鎌を振り込む瑠璃。
暴力坂はそれをローキックで弾いてかわした。
完全に背後をとった位置から恭司が空圧弾を放ち。
弾と同じ速度で燐花が急接近。
「一撃でもたたき込めれば」
「……そこです!」
回避行動をとろうとした暴力坂。その動きを先読みしたアニスが、絶対に避けられない角度から空圧弾を発射した。
燐花のクナイが暴力坂の鼻先を僅かに切り、空圧弾が心臓部めがけて迫る。
好機。刀嗣は刀を突き込み、瑠璃は鎌を振り込み、円は満を持して頭上から飛びかかる。
「うお――!」
刀が、鎌が、空圧弾にクナイに牙に、彼らのありとあらゆる攻撃が暴力坂に直撃した。
その結果。
「……やったか!」
身を乗り出した瑠璃。その肩を、逝が押さえた。
「あれ見なよ」
顎で示されるままに目をこらす。
そこには、暴力坂乱暴がいた。
ただし。
肩に掛かってなお長い黒髪に、きっちりと剃られた髭。鋭い眼はそのままに、すらりと伸びた背筋からは圧倒的な覇気が漏れ出ていた。
それより、なにより。
「あんた随分若返ったねえ。見た目、三十台くらい?」
「そう見えるか」
「暴力坂乱暴、覚醒状態……つまり、今までのは」
こめかみをおさえる燐花。恭司は燐花を庇うように前へ出た。
「聞いたことはある。戦闘技術を磨き上げた達人は覚者に匹敵する戦闘力に達することがあるらしいけど……ちょっとそれはズルいんじゃない?」
「こちとらお前らが力だなんだと騒ぐ何十年も前からやってんだ。お前らだってそのうちこうなる。年期の差だろぉ――な!」
勢いよく地面を踏み込む暴力坂。
それだけれその場にいた全員が吹き飛ばされた。
壁に叩き付けられ、昏倒しそうになるのをこらえる円。
「お、オリジナルスキル?」
「少しも理解できません。でも、噂に聞いたことはあります。人生の体現として振るわれるオリジナルスキルは他人が盗む(ラーニング)ことができないと……あくまで、噂ですが」
「うるせえ後にしろ!」
暴力坂は再び地面を踏みつけ、アニスたちを周囲のコンクリート壁やガードレールごと吹き飛ばした。
これでようやく帰れる。
暴力坂はアイスバーの棒を咥えたまま、撤収用の車両がとめてある場所へときびすを返した。
「ちょっと待ったぁ!」
そのタイミングを、まさか待っていたわけではあるまいに。
鹿ノ島・遥(CL2000227)は手のひらを広げて彼の後ろへと登場した。
振り返る暴力坂。
「オッサン、刀を抜かなかったな。わかるぜ、格上過ぎて相手にならないんだろ。でも……だからワクワクがとまらないんだ。認めさせたくてしょうがねえ! 名乗るぜ!」
遥を中心に、七人の覚者がずらりと並ぶ。
「まず俺、鹿ノ島遥!」
「一色・満月(CL2000044)……ようやく会えたな七星剣幹部。アンタを俺は待っていた」
「鳴神 零(CL2000669)。殺して殺して殺しまくれるこういう日、待ってたの」
「一色 ひなた(CL2000317)と申します。この身の限り、あらがいましょう」
「九鬼 菊(CL2000999)です。若輩者ですが、遅れはとりませんよ」
「水瀬 冬佳(CL2000762)。騒乱を生む力、見させて頂きます」
「風織 紡(CL2000764)! 一対多でぼこられる恐怖、味わってみねーですか?」
「「我ら!」」
全員、その身にあった剣(拳)を翳し、暴力坂へと突きつけた。
「「――十天!」」
名乗りを終えた所で、暴力坂は暫く黙った。
黙って、一人一人の顔を見てから、小さく首を傾げる。
「七人しかいねえぞ」
「ほんとだ!?」
慌てて振り返る零。冬佳が申し訳なさそうに目をそらした。
「ええと、先程の燐花さんたちも十天で、まだ到着していませんが祇澄さんという方も……」
「面倒くせえな! ちゃんと十人揃えて来いよ!」
「揃えて来てるんだよ! たまたま今揃ってないんだよ!」
「面倒くせえのはこっちですよ。とっととぶっ殺すです!」
紡は会話そのものをぶった切ると、暴力坂に正面から突きを繰り出す。
ばっちりのタイミングで反対側へ回り込み、鎌を繰り出す菊。
暴力坂はジャンプからの旋風脚で二人をはねのけたが、頭上には上下逆さになった零が高速連斬を繰り出し、側面に回り込んだひなたは空圧弾を連射。
冬佳と満月が斬撃の勢いを溜めている間に遥が飛び込み、拳を繰り出す。
暴力坂は何発かを腕と足で弾くと、その余波で切断された交通標識をひっつかんで振り回した。
はねのけられる遥と零。が、その隙をついて冬佳と満月の同時交差乱れ斬りが炸裂。
道路標識でガードする暴力坂だが気づいた頃にはポールの長さが三十センチにまで切断されていた。
が、未だ一刀として入らない。実力差か。これほどか。
そう考えた瞬間、彼らの力が突然ふくれあがった。
まるで魂を燃やし、それを十個に分けたような……。
「これはまさか……!」
振り向くと、新田・茂良(CL2000146)が謎の光を放って浮遊していた。
『魂』を昇華させ、彼らに力を分け与えているのだ。
「使徒エル・モ・ラーラ、ここに推参!」
「天使シャロン・ステイシー、ここに見参」
その斜め下の辺りにシャロンが勝手に混ざっていた。
「あたし魂使ったんだけどやりすぎちゃって、まだ余ってるけど、いる?」
「そんな作りすぎたシチューみたいに」
「エル・モ・ラーラの加護によって、なにかと腕を切られる民は無傷で保護されています。さあ僕の加護を追加で受けたい人はこの壺にペイ!」
「そんな途中から有料になるアダルトサイトみたいに」
「いいのか!? 魂の使い道ほんとにそれでいいのか二人とも!?」
「なんでもいいからとっととぶちかますんですよぉ!」
ひなた、菊、冬佳、紡、零、遥、満月。彼らの剣(拳)が一つとなり、まばゆい輝きをもって暴力坂へと叩き込まれる。
「や――べえ!」
暴力坂は思わず腰にてを伸ばし、そこには無かった刀を抜いた。
全力抜刀である。
光は斬撃と相殺し、天空へとはじけて消える。
「抜かせた! 刀を……」
暴力坂は抜刀姿勢のまま唇を噛んだ。
「命かけてまで抗おうってか。認めるしかなさそうだな……エル・モ・ラーラ」
「あれ、十天は?」
「トータルするとさっきの連中も同じくらいには強かった。しかしまあ、抜いたからにはやっとかねえと……」
突きの構えをとる暴力坂。
防御の構えをとる遥たち。
「暴力坂乱闘流一式」
くる、と思ったが、それどころではなかった。
なぜなら暴力坂の背後に巨大な戦車の幻影が現われたからだ。
「四十七粍戦車砲!」
「ちょ――!」
防御などまるで意味を成さなかった。
地面、壁、周囲の建物、空気。そのすべてをまるごと吹き飛ばしたのだ。
彼らが跡形も無く消滅しなかったのは茂良とシャロンが彼らを保護して遠くへ急いで撤退したからに他ならない。
かくして現場には暴力坂以外の何も残らなかった。
などと。
そんな終わりは許さないのがF.i.V.E。そして彼女たちである。
「暴力坂。ここで止めねばならんじゃろ」
吹き飛ばされた空間を、まるで針のように貫いて、深緋・恋呪郎(CL2000237)が突っ込んできた。
炎のような剣をますすぐに、暴力坂へと突き立てる。
「この力! てめぇまさか――」
「死んだ者に次は無い。良くも悪くもな」
恋呪郎からは膨大なエネルギーが噴出していた。それは他ならぬ彼女の『魂』を燃料にしたものだ。
本来命をかけて使うもの。
使えば死ぬもの。
しかし本人が強く望んだ時、必ずそれに応えるもの。
「首をおいていけ。獲物もだ。さすれば用はないでな」
剣を引き抜き、蹴りつける。
暴力坂は激しく吹き飛ばされ大通りへと転がり出た。
この期に及んで突っ込んでくるような自動車はない。来るとすれば恋呪郎のみである。
地面と大気をえぐり取りながら豪速で突撃。暴力坂は刀を翳して防御するが、その場に押し留まることはできない。両足はアスファルトをえぐって削り、古めかしくも大きな神社の門を突き破る形で止まった。
恋呪郎は過去に一度、同じように力を発揮したことがある。その時は暴力とはまた違うものだったが、魂は確かに不可能を可能にした。
「一気呵成に押し切る」
恋呪郎は暴力坂の首根っこを掴むと、勢いよく上空へと投げた。
紙飛行機を投げるのとは分けが違う。暴力坂は空気を穿ちビルの中央部へ激突。壁を破って内部へ転がり込むが、休む暇も無く恋呪郎が飛び込んできた。
下から? 前から? どちらでもない。上から、天空からである。
剣を突き刺すように繰り出した彼女の急降下突撃はビルの天井と床を何枚も破壊し、地面へと叩き付ける。それでも足らぬとばかりに剣を振り上げ、おもむろに叩き付けた。
破壊が重なったビルが崩れていく中、一階の地面にクレーターを広げていく。
幾度目の斬撃になるだろうか。
暴力坂はそれを、にやりと笑って受け止めた。
「死ぬ覚悟で殺しに来たか。悪くねえガッツだ」
膝蹴りが入る。
それだけで、恋呪郎は天空へと打ち上げられた。
瞬間移動でもしたのかという程の速度で眼前へ迫る暴力坂。
「だが悪いな、これじゃあ殺されてやれねえ」
刀を逆さにして恋呪郎へ叩き付ける。
恋呪郎はビルを三棟突き破って飛び、大きな神社の屋根を破って屋内へと転がり込んだ。
仏像の首が砕けて落ちる。が、それは今は無視だ。
ミサイルよろしく突っ込んでくる暴力坂を、剣のフルスイングで迎え撃つ。
乱暴に叩き付けてきた暴力坂の剣とぶつかり、相殺。いや、打ち負けたのは恋呪郎の方だ。
地面が激しくえぐれ、恋呪郎は全身の肉体組織が一瞬完全崩壊しかけた。
それを奇跡的に強制修復する。
「てめぇ、まだ他人が魂を使った所をあまり見てねえな。今後のためだ、覚えて伝えて絶対に間違わせるな。いいな!?」
剣をぶつけ合いながら叫ぶ暴力坂。
「魂は!」
凄まじいパワーで剣を叩き込んでくる。
恋呪郎の身体が押される。
「必ず応える奇跡の力!」
更に強い力で叩き込んでくる。
剣がへし折れたが、奇跡的に強制修復。
「されど全ての覚者に与えられたがゆえに!」
更に更に強い力で叩き込んでくる。
これ以上は無理だ。
だが、恋呪郎は引かなかった。
「そのブーストには、限界がある!」
今度こそ、恋呪郎は吹き飛ばされた。
仏像を木っ端みじんに破壊しながら神社を抜け、樹木豊かな山へと突っ込んだ。
大量の樹木に埋もれるように寝転がる恋呪郎。
目の前には当然のように暴力坂が立っている。
「因子を得たばかりの覚者を百人集めて、一人ずつ特攻させると考えろ。何人目で俺が倒せると思う。倒せねえよ。それができるんなら、今頃俺がやってる。俺の活動に邪魔そうな奴は今頃全部消し炭になってるだろうぜ。しかしそうはならねえ。世の中そううまくいかねえもんだよな」
トドメをさすかと思われたが、それ以上踏み込んでくることはなかった。
「しかしまあ、命を賭けてまで俺を倒そうってガッツは、やっぱり認めざるをえねえ。お前みたいな奴がここで死んじまうのが惜しいぜ……」
きびすを返し、立ち去ろうとする暴力坂。
そんな彼に、恋呪郎は言った。
「いや、死なんよ」
「……なんだと?」
恋呪郎は立ち上がった。
「儂はまだ死なん。魂を賭けたのも、これで二度目じゃ」
その言葉を聞いて、暴力坂は破顔した。
「参った! ガッツがあるわけだぜ! 俺も似たようなことをやったもんだ。こんな所で出会えるとは思わなかったが……」
本来。魂とは一人に一つ。使えば必ず死ぬ力である。
それ故多くの覚者はそのチャンスを持っていながら、使うこと無く死んでいくと言われている。
だがまれに。魂を複数持つ者が居る。
そして不思議なことに。そんな覚者ばかりが、F.i.V.Eには集まっていた。
とはいえ恋呪郎ほど遠慮無く魂を駆ける猛者は希少中の希少だが。
「おいお前、俺の軍に入らんか。素の力を鍛えていきゃあ、一年もすりゃあ大将格にはなるだろう。強え奴ともやり合えるぜ。ゆくゆくは楽しい戦争の毎日だ」
「冗談じゃろう。女が力に靡くか」
「ハッ、違いねえや!」
暴力坂は笑って、今度こそきびすを返した。
「今度は魂なんてごまかし抜きで、素のままやろうぜ。何なら非覚醒状態で殴り合ってもいい」
「それも冗談ではないわ」
恋呪郎は反論するが、身体の力は入らないようだ。
「遊びには付き合わん。今すぐ倒せないならもう一発――」
「ストップストップ!」
手を叩いて、橡・槐(CL2000732)が割り込んだ。
車いすの少女である。この山の中に。しかもそこら中が障害物だらけの場所に、なぜ車いすの少女が平然と存在しているのかは、この際説明を省く。
槐は恋呪郎の首根っこを掴んで膝に乗っけると、手を振って椅子をくるりと返した。
「なんだテメェ」
「なんだとは失敬な。どこにでもいるか弱い車いす少女でしょうに」
「車いす少女が山ん中に現われてたまるか」
「まあいいじゃあないですか、ねえ。私はこのコを回収しにきただけですから。回収したら帰りますよ。ほら無害無害」
半笑いで両手をひらひらさせる槐。
突っ込みどころは山ほどあるが、そこは面倒くさがる暴力坂である。
「ああ、わかったわかった。つれてけつれてけ」
手をぱたぱたさせて背を向けた。
「……」
今なら背中に一刺しできそうだが、槐は『お言葉にあまえて』と言って立ち去った。
さて。
いくらなんでももう終わりだろう。
映画ならスタッフロールが流れきり、観客がいたなら全て席を立った頃だ。
暴力坂もそのつもりで帰路につき、撤収用の車両が止まっている場所までやってきたが……。
「暴力坂。さあ、私と戦いなさい!」
「得意面してやってる戦争とかいう遊びを食い散らかして、ガキの喧嘩にしてあげたいの」
神室・祇澄(CL2000017)と華神 悠乃(CL2000231)が、『魂』をカチカチに燃やして立ちはだかっていた。
両手で顔を覆う暴力坂。
「勘弁してくれ……」
「しません」
「喧嘩するのに理由はいらないでしょ」
「もう俺の負けでいいよ」
「よくありません」
「魂かけて勝ちに来てんだ。そっちの価値観なんて知ったことか」
二人は夜に沈もうという京都の街で、嫌がる暴力坂に無理矢理襲いかかった。
それがどのくらい無理矢理で。
どのくらいに滅茶苦茶で。
そして途方も無いものだったのか。
今から全身全霊をかけてお届けしたい。
まず最初に起こったのは、京都の山を巨大な光の柱が覆ったことだった。
祇澄と悠乃を中心に、茂良、シャロン、駆、ジア、そして恋呪郎によって生み出された強制的な奇跡の光である。
光は分裂し、細い柱となり、柱は次々に『彼ら』をその場に呼び出した。
世界がまだ知らない、小さな光の戦士たち。
その数実に165人。
彼らが一斉に暴力坂へと襲いかかった。
行成の薙刀回転斬りと悠乃の回転蹴りを暴力坂が防御したと同時に赤貴と駆の剣が暴力坂の両脇に滑り込み釣り上げた所へ上空を通過した祝と若草が雷撃と水圧撃を乱射し燐花と祇澄が手刀を叩き込み華多那とジアの蹴りが加わり宙へ浮いた暴力坂に高速飛行したミュエルとひなたがクロスアタックを加え更に久永と日那乃が螺旋しながら術式を乱射。
反撃に『戦車砲』を繰り出す暴力坂だが槐と盾護がそれぞれ巨大なシールドを展開し更にゲイルが術式糸の網を展開し砲撃をガード。天空から大声と共に降ってきた巌と遥がダブルダブルハンマーで暴力坂を叩き落とし聖子と紅玉が左右から同時に剣をフルスイングして再び空中へ。暴力坂は神社の屋根を眼下に見つつ急接近してきた悠乃と祇澄の左右からの超高速パンチラッシュを高速回転でしのぐが楓とまきりが一緒になって放った重螺旋術式縄が絡まり神社の屋根へと共生フィッシングされていき待ち構えていた棄々のダブルチェーンソーと真央のダブルネコパンチが物理法則を無視して連続ヒットし受け身をとろうと屋根を転がる暴力坂に努と浅葱がストレートなダッシュパンチを同時に直撃させて屋根から転げ落とした。
着した暴力坂を待っていたのは巨大な魔方陣を紙人形で覆った上にカードビットで囲んで更にトランプカードと包帯で覆った中に無理矢理プロマイド混ぜ込んだものだった。
ラーラといのりと笹雪と大和とアリスとミズゼリとこころと『ここに混ぜんな』と言いながら煙草を投げた絢雨が全力の魔術を一斉放出。そこへきせきとアイオーンと真が三角交差斬りを叩き込みそうしている間にあかりとかがりが陰陽術式を形成しその上からたまきが風呂敷のごとく大きな陰陽図で術式を展開し更に翔がデジタル陰陽術式を起動した上でトドメとばかりに理央が陰陽術を込めた斬撃を叩き込む
血を吐きながらも術式を物理で破ったが燈と頼蔵と一悟、轟斗とターニャと守夜、そして宇宙人と朱に囲まれ、せーので最大加熱した斬撃を叩き込まれる。
例のスタンピングアタックで全員吹き飛ばしたが高らかに演奏を始めた御菓子と旗をテクニカルに振り回す鈴鳴とあと盛大に胸を張る公子を背景に夜司と奏空が急接近。更に静護と刀嗣と天光が急接近し、五人で一斉に一切隙のない高速連斬を繰り出した。
刀を巨大な鉄塊のような物体に変えて振り回す暴力坂。
それでも食らいついてきた瑠衣と千陽が左右から挟み込むような軍隊格闘蹴りを叩き込み、回転しながら飛びかかった小唄と悠乃の蹴りが追撃。
ポージングして電撃を放つプリンスと高笑いするエヌ、そしてツインテールをぴょこぴょこやるククルの上を放物線を描いて飛ぶ暴力坂へ鏡香が斬りかかり之光が斬りかかり麗虎が斬りかかり駆と恋呪郎が強烈に斬りかかる。
全身の傷を強制修復した暴力坂へ急速に凛が殴りかかり逝が殴りかかり輪廻が殴りかかりジアが思い切り殴りかかる。
路上に放置されたバスをぶち抜き吹き飛ぶ暴力坂を待っていたのは上等なスーツや着物に身を包んだ漸と成、そして研吾である。
彼らの斬撃を受けて回転、雷鳥とリサ、更に瑞貴の斬撃を受けてさらに回転。空中で制動をとろうとしたところへ維摩と四月二日のダブルキックが炸裂。広い陸上競技場へと転がり込んだ。
待ってましたとばかりに整列するハルとアーレス、そして月乃と結唯、更にアキラと誘輔が加わって一斉銃撃。
刀で弾いてエネルギーウェイブを放つがキリエとエレメンツィアとファルが即座にカウンターヒールを繰り出しその中を懐良と数多が突撃。刀を同時に突き刺し桜と零が殺しにかかり恵が雷を叩き込んだ。
もう充分だと思ったろうか? まだ半分である。
秋人と太郎丸の放った霧に総一郎と七雅の回復術式が混ざり霧を突き抜けるように天と百がショルダータックルをぶち込んでいく。ガードする暴力坂だがまことと宗助のタックルが加わり更に深雪と円の追撃が加わったことで徐々に押され、高所に陣取った恭司と夕樹と八重と夏南、更に聖とリーネとたまきと千景の空圧弾が集中砲火される。
おこった土煙は暴力坂の『戦車砲』で地面ごと吹き飛ばされたが天空から降ってきた誠二郎と灯と心琴が杖とトンファーで打撃を繰り出し滑り込んだ神無とアニスが斬撃を繰り出しそれぞれの隙間を狙った飛鳥と椿姫が薄氷を発射。
それぞれの直撃をくらった暴力坂に亮平が術式展開。そこへかぶせるように零が雷術を付与し昨良と護、浜匙がエネルギーを加えて巨大な雷を落とした。
風を纏って飛びかかる冥。水を纏って飛びかかる凜。炎を纏って飛びかかる柾。三人の攻撃が螺旋状に混ざり合って暴力坂へ集中する。
スタンピングアタックのエネルギーで相殺をかけようとするが七重と満月と紅のトライアングルアタックが加わり相殺失敗。追撃とばかりに斬り込んだ聖華と凛と時雨の斬撃が入り、暴力坂は全身から血を吹き出すことになった。
それも自力で修復させると、今度こそスタンピングアタック。更に戦車砲を放って薙ぎ払う。付き合ってられるかとばかりに住宅街へ走るが小道から飛び出した恵梨香と康孝がハンドガンで銃撃し紡が特殊スリングショットで高所から射撃。
同じく高所から飛び降りた有為と義高が斧を叩き付けそれを刀でガード。銃撃は刺さるがままだ。
流石に対応が難しくなってきた。ニコと結鹿、そして瑠璃と菊が小道から飛び出して次々に斬撃を入れ。 最後の禊のスピンキックで暴力坂は民家へと叩き込まれる。
追撃はしない。屋内から戦車砲が放たれるからだ。境子と悠は全力でガードし、その後ろに組み付いたさよと美剣、治子に椿、夏実や有祈といった面々が必死に治癒。どうあっても足りない分は善司と両慈が補填した。
反撃に雷を放った咲をきっかけにして紡が飛び込み斬撃。冬佳が逆方向から斬撃。
二人を掴んで投げ放とうとしたところで昶と鼓虎が掴みかかって一瞬だけ動きを固定。鷲哉の炎撃、チェスターのストレートパンチ、唯音が炎を纏わせたステッキでバットスイングを叩き込み、暴力坂を転がした。
そこへシャロンと茂良が光を放ち駆と恋呪郎が交差斬撃。ジアが頭突きを入れ、トドメに祇澄と悠乃のダブルパンチが炸裂した。
吹き飛び、ごろごろと転がる暴力坂。
「どう、ですか……!」
祇澄たちはもはや動くだけで限界のようで、荒い息をしていた。立っているだけでやっとの者も多い。
「いや……めちゃくちゃだろ……どっから沸いてくるんだよこの人数がよ……」
暴力坂は大の字に寝転がったまま深く息を吐いた。
立ち上がり、全身をはたく。
その時には彼は老人の姿に戻っていた。
「もう戦うのはムリだ。ったく、どういう結束力なんだお前ら。いくらなんでもスタミナがもたん」
ぱちん、と暴力坂は両手を顔の前で合わせた。
「改めて言わせて貰うが、今回は俺らの負けだ。次にやるときゃあお前ら更に強くなって襲ってくること前提に、ガチの軍勢を揃えとくぜ。そうなりゃわざわざ街一つぶっ壊す必要もねえや。……ところで」
顔を上げ、集まった百人以上の覚者たちを見渡す。
「お前らオイ、絶対何かの組織だろ。なんて名前だよ」
「……んー」
暫く考えた後、祇澄は前髪の間からウィンクした。
「ヒミツです」
この後、ヒノマル陸軍はまとめて京都から撤退した。
市民の多くは救出され、結果的に『黎明』も救うことができた。だが問題は山積みだ。『黎明』との接し方や、壊れた京都の修復や、正体こそ知られなかったものの確実に存在を察知されたF.i.V.Eの行く末などなど……。
とはいえ。
京都の街に再びの平和が訪れたことは、間違いないようである。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
お疲れ様でした。皆さんの活躍によりヒノマル陸軍は全員撤退。京都の街に平和が戻りました。
一つの戦場で複数の魂使用があった事でFiVEでは魂について新たな調査が行われているようです。
一つの戦場で複数の魂使用があった事でFiVEでは魂について新たな調査が行われているようです。
