ヒノマル戦争最終決戦! 五麟市金沢市攻防戦!
ヒノマル戦争最終決戦! 五麟市金沢市攻防戦!


●ヒノマル陸軍 VS ファイヴ
「みんな、ヒノマル陸軍との戦争期間もついに終わりを告げ、決戦の時がやってきた。
 戦いを通じて芽生えた感情や人間関係、各地から駆けつけた協力団体。
 その全ての是非が、今決まる。
 勝利の暁にはファイヴが『七星剣幹部撃破』という前代未聞の偉業を達成することになるだろう。
 細かいことはこの際抜きだ。皆――頼んだぞ!」

 ファイヴとヒノマル陸軍の最終決戦は互いの拠点を同時に攻撃しあう攻防戦によって行なわれます。
 よって当決戦に参加するメンバーを『ファイヴ防衛』『ヒノマル侵攻』の二つに分けて展開します。
 分けた先でも更に細分化が成されるので、それぞれの解説をご覧ください。
 以下はファイヴの夢見たちから集めた事前情報です。

■ファイブ防衛■
 これまでの活躍により五麟市周辺の道路や湾岸を事前制圧したため、主な戦場はこの辺りとなります。
 念のため市内からは一般市民を避難させているので人的被害については心配いりません。
 戦場は主に以下の『三つ』となります。

・若狭湾
 広く視界の通ったエリアです。
 海上での戦闘のため、希望者にモーターボートが支給されます。
 ヒノマル陸軍は同様のボートの他、古妖の力を借りた海上戦闘部隊を組織しています。水上での戦闘や、ボートの運転に役立つ技能スキルがあるとよいでしょう。
 主要敵:第一覚醒隊(忍日)、水芭忍軍
 味方NPC:イルカさんチーム(希望者はイルカ古妖に乗れます)、ファイヴ村(資金提供)、ムラキヨグループ(資金提供)

・南丹バリケード
 ヒノマル陸軍が京都縦貫自動車道を通って攻め込んでくるので、これを迎撃します。
 敵軍無限に沸いてくる小豆衆(歩兵)の他、そうそう壊れない古妖戦車や古妖バイクを使用しています。特に二覚隊は騎乗戦闘のエキスパートで知られています。
 純粋な戦闘力が要求される他、超長距離からの砲撃に対抗する手段があるとなおよしです。
 主要敵:第二覚醒隊(久米)、タサブロウ小豆衆
 味方NPC:???

・琵琶湖フィールド
 先の戦争にて不思議な力で凍り付いた琵琶湖を歩いて(もしくは飛行して)進軍してきます。
 歩兵は三覚隊と残虐大帝が無限に召喚するザコ兵です。
 ヒノマル天狗が率いる古妖隊は古妖だけで構成されており、覚者の常識から外れた攻撃を仕掛けることもあります。
 主要敵:第三覚醒隊(八幡)、残虐帝国(残虐大帝)、古妖隊(風車)
 味方NPC:五行戦隊カクセイジャー

■ヒノマル侵攻■
 自己申告により、石川県金沢市にある大学および周辺施設がヒノマル陸軍の本拠地であると判明しました。
 豊富に蓄えられた兵器、入り組んだ地形、それらを知り尽くした兵士たちによって守られています。
 侵攻ルートは三つあるので、その全てを使ったファイヴ必殺物量ゾンビ作戦からのココは任せて先へ行け作戦で確実に攻め落とします。
 よってメンバーをルートとボスの計『四つ』に分けます。

・森ルート
 森林に覆われたルートです。視界が通りづらいため回り込まれやすい構造になっています。防御と回復を固めていきましょう。四覚隊は雑兵の扱いに長けた健御率いる大量の覚者非覚者混合チームです。
 また『禍ツ神』地獄刃鉄が単独で動き回っているので、こいつを足止めする必要もあります。
 主要敵:第四覚醒隊(健御)、地獄刃鉄
 味方NPC:九条蓮華、絹笠、鎬次郎、柄司

・正面ルート
 開けた道路をまっすぐに進み、正面から中央施設の陥落を目指します。
 相手も正面戦闘に長けた五覚隊が守っており、主要メンバーをはじめ全員が正面からぶつかってきます。
 主要敵:第五覚醒隊(威徳)、統合研究所(アルファ)
 味方NPC:???

・学生村ルート
 大学の寮が集まったエリアですが、改築や増築が重なり非常に入り組んだ作りになっています。
 頻繁に戦闘するためゆっくり道順を考える時間がなく、出てきた敵を倒しながら試行錯誤することになるでしょう。特に六覚隊は集中力を乱すのが得意な連中です。
 主要敵:第六覚醒隊(大黒)と愉快な仲間たち
 味方NPC:???

・暴力坂
 暴力坂乱暴は最深部で敵の到来を待っています。
 ですが、ヒノマルの精鋭からの連戦はまず無理なくらいのバケモノなので、対暴力坂用に味方戦力を温存する必要があります。
 よって(絶対無理とは言いませんが)暴力坂に挑む方は他ルートでの戦闘をできるだけ控えてください。
 フルパワーの暴力坂乱暴は十人がかりでタコ殴りにしても普通に叩きつぶされるほどの強敵です。
 特に攻撃力が高く、武装によって自然治癒力と体力を底上げしています。
 このときセットしているオリジナルスキル『暴式戦車砲』は【減速】つきの全体物理攻撃とのことです。


■シナリオ詳細
種別:決戦
難易度:決戦
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.ファイヴ本拠地を陥落させない
2.ヒノマル陸軍本拠地を陥落させる
3.暴力坂乱暴を倒す
 こちらはシーズンシナリオ<ヒノマル戦争>の最後を締めくくる決戦シナリオです。
 以下のプレイングガイドと注意事項をお読みになり、ご参加ください。

●参戦エリア
 キャラクターの参戦するエリアを選択して、プレイング冒頭に記載してください。
 『例:ファイブ防衛・若狭湾』
 記載されていない場合や不具合があった場合にはランダムなエリアに配置されます。

●解明度補正とTPO判定(※当シナリオ固有の判定システムです)
 皆さんは戦争期間中、主要敵との戦闘の中でエネミースキャンをはじめとする様々な形で敵のスペックを観察してきました。
 その情報は共有され、『解明度補正』として各種ダイスロールに補正がつきます。
 また戦う敵ごとに全てのアクションを書くことは不可能なので、『TPO判定』を加えます。
 これはアクションにメインで使用したいスキルを書くことでその中から適切なスキルを自動選択して戦うものです。
 回復スキル選択にも適用され、複数のスキルを状況に応じて使い分けます。
 隊列や攻撃対象も自動選択されるので戦闘アルゴリズムをプレイングから大幅に省くことができます。
(例:『豪炎撃、地烈、オリジナルスキル、第六感、ハイバランサーを使用』で事足ります)

●同行設定
 他のキャラクターと同行したい場合は当該キャラクターのフルネームをIDつきで記載してください。
 書き漏らしていた場合や、参戦エリアが異なっていた場合にははぐれることがあります。
 『例:文鳥 つらら(nCL2000051)』

●戦闘不能と撤退
 キャラクターは任意のタイミングで自主撤退ができます。
 戦闘不能になった場合でも、自力で撤退できるものとして判定するので、命数減少を避けたい場合などは『○○の状態で撤退します』とプレイングに記載してください。
 記載のない場合は自動的に戦闘不能になるまで戦います。

●魂使用
 決戦シナリオでは魂を使用できます。
 万一の事故を避けるため、今回に関してはプレイングにも『魂使用』と記載して頂けると安全にご使用頂けます。
 (うっかり魂使用状態のまま普通のプレイングを書いた場合、そのまま使用されて戻ってこない恐れがあります)
 できればどのように使えたら嬉しいかも記載して頂けると、より美味しくご使用頂けます。

●軽傷と重傷、監視について
 激戦が予想されるため、場合によってはシステム上の重軽傷判定をおう可能性や、魂の使い切りや命数過剰減少による死亡、(滅多にないですが)一発死や監視判定の危険もありますので、特殊なプレイングにはくれぐれもご注意ください。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
(3モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
91/∞
公開日
2017年02月02日

■メイン参加者 91人■

『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『隔者狩りの復讐鬼』
飛騨・沙織(CL2001262)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『水の祝福』
神城 アニス(CL2000023)
『行く先知らず』
酒々井・千歳(CL2000407)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『田中と書いてシャイニングと読む』
ゆかり・シャイニング(CL2001288)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『アイティオトミア』
氷門・有為(CL2000042)
『ストレートダッシュ』
斎 義弘(CL2001487)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『願いの花』
田中 倖(CL2001407)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『夢想に至る剣』
華神 刹那(CL2001250)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『天からの贈り物』
新堂・明日香(CL2001534)
『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『淡雪の歌姫』
鈴駆・ありす(CL2001269)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)
『大魔道士(自称)』
天羽・テュール(CL2001432)
『突撃巫女』
神室・祇澄(CL2000017)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『『恋路の守護者』』
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)
『風に舞う花』
風織 紡(CL2000764)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)
『感情探究の道化師』
葛野 泰葉(CL2001242)
『悪食娘「グラトニー」』
獅子神・玲(CL2001261)
『清純派の可能性を秘めしもの』
神々楽 黄泉(CL2001332)

●インタビュー:赤坂・仁(CL2000426)
 ファイヴという組織には不思議な結束があるように思う。
 主婦や学生やカフェ店員……およそ戦闘に関わる筈の無い人々が最前線に立ち、命がけの任務に従事している。
 それぞれが別々の目で別々の未来を見ているにもかかわらず、誰もが力を合わせて戦おうとしていた。
 戦車の砲弾が飛び交う場にあってすら、彼らは学生であり主婦でありカフェ店員のまま、同時に戦士だったように思う。
 そういう意味では、自分も同じだったのかもしれない。
 ただの警備員でありながら、同時に……。

●超長距離砲撃
 横転した自動車の影に隠れ、仁は小銃を天に向けて構えた。
 頭上を越えた砲弾が高速道路脇の建物に直撃し、爆発したように砕け散っていく。
 障害物ごしに銃にオプションしたグレネードランチャーを発射。すぐさま飛び出して銃を乱射した。
 爆発と弾幕に、小銃と装甲服で武装した小豆衆たちが次々に倒れていく。
「今だ、走れ!」
 仁に促され、障害物から飛び出す百目木 縁(CL2001271)。
 しかし彼の狙いは進撃ではなく防衛。つまり飛来する放談への防御だった。
「古妖を戦争の道具に使って欲しくないな……」
 戦車から放たれた砲弾に対し、拒絶するように両手を突き出した。
 第三の目が開き、呼応するように地面から一枚の石壁がせり上がる。
 砲弾が命中し、縁もろとも吹き飛んだ。
 それを後ろからキャッチする斎 義弘(CL2001487)。
「ここは岐路だ。望んで進んだのか進まされたのかはともかく、勝って更に先に行くとしようぜ」
 縁は頷き、義弘もまた頷いた。
 砲撃に紛れて攻め寄せてくる小豆衆に火柱を放ち、義弘は前進した。
 同じく小豆衆をなぎ倒しながら突き進む縁。
 二人に上月・里桜(CL2001274)からの送受心が届いた。
『前方30メートルに戦車が集まっています。回り込みを試していますが単独では近づけそうにありません。合流できますか?』
「分かった、お互い合流して弾幕を突破しよう」
 そうしている間に、二人を砲撃の嵐が襲った。
 戦車を端的に言い表わすなら移動する大砲である。本来人間が生身で対抗するような兵器ではない。まして生身で殴り飛ばせるようなものではなかったが、しかし。
「こんなもん!」
 割り込んだ天乃 カナタ(CL2001451)が、飛来する砲弾を直接殴ってたたき落とした。
「正直、ヒノマルとは直接対峙した事も無いし、この間の抗争の時の事だって、よく知らない」
 彼の拳には魂の輝きがあった。
 脅威と見なした戦車たちが周囲を取り囲んで集中砲火をしかける。
 上がる爆煙。
 舞い散るコンクリート。
 その中を進む、カナタ。
「けどさ、その時にたくさん孤児が出たのは知ってるし、覚えてる。それが俺の中では許せない。覚者だって、死んだ奴は生き返らない。今回のは戦争ごっこっつっても負けたらどうなる? ヒノマルの傘下にでもなれってのか? ふざけんな!」
 正面から来る砲弾に、自らの拳から放った空圧を叩き付ける。
 空中で拉げた砲弾がそれて明後日の方向へと飛んでいく。
「砲弾を直接相殺しているのか?」
「いくら撃っても無駄だ。俺の力はトップレベルの奴には程遠いけど、魂ってやつを使えばこのくらいはできるんだ!」
「チャンスだ……!」
 義弘は合流した里桜たちと共に、カナタの開いたラインを突き進んだ。
 機銃射撃をしかけてくる戦車に対してカウンターヒールを仕掛ける里桜。
「目標まで5メートル。戦車を直接破壊できますか?」
「やるしかないだろ」
 戦車に組み付いた義弘と縁が術式のパワーを流し込み、装甲をめりめりとへこませていく。
 中身の小豆衆ごと潰れていく戦車。
 一方で、カナタは彼らの上を飛び越して別の戦車を殴りつけた。
 拳から生み出した氷の槍が戦車を貫き、爆発させていく。
「凄まじいな。魂を使うとここまで違うのか」
「ですが、戦車の砲撃を心配する必要は無くなりましたね」
 ひしゃげた戦車とカナタを盾にしながら、里桜たちは更に奥へと進軍していった。

●インタビュー:三島 椿(CL2000061)
 この戦争をどう思うか、って言われても困るわね……。
 私は私に出来ることをやってきたし、私らしくやってきたつもりよ。
 その延長上にヒノマル陸軍っていう相手がいただけって言い方もできるわね。
 皆、究極的には自分のために戦っていたし、自分の好きなことを守るために戦っていた気がするわ。
 あの戦争も、もしかしたらその延長上にあっただけなのかもしれないわね。

●無限の兵士
 古妖タサブロウは恐ろしい敵だ。
 古くより人類の戦ごとに関わり、氏神のひとつに数えられる彼の特技。それは小豆を人間に化かすという術である。
 いわばそれは大量に運送でき食料や燃料のいらない軍隊である。
 武装は別途用意しなければならない分有限といえば有限だが、倒したそばから仲間の武器を拾ってリトライしてくる無限の兵隊に椿たちは苦戦していた。さながら、ペルシア戦争におけるアタナトイである。
 弓に無数の矢をつがえ、拡散させて放つ。水の竜へと変わった矢が小豆衆たちを洗い流した。
「タサブロウを直接叩ければいいんだけど……」
 向こうは安全圏から只管兵隊を生産し続けている。恐らくタサブロウを叩く頃にはこの戦争そのものが終わっているだろう。
 南条 棄々(CL2000459)がダブルチェーンソーをクロスさせ、敵の銃弾の中を駆け抜ける。
「関わり合いにならなかったから放っておきたいけど、制圧されちゃうのも胸くそ悪いわ」
 小豆衆を胴体部分で切断。煙をふいて小豆に戻る小豆衆。
 横合いから戦斧で殴りかかってくる小豆衆を、神幌 まきり(CL2000465)がナイフで切り裂き、ワンドを突きつけることで種子弾を乱射した。
「所属する組織が無くなるのはいやですか?」
「そうじゃなくて、ほら、可愛いお店とか潰されたくないもの」
「ああ……」
 日本がどうとか、平和がどうとか、ましてや戦争理論がどうのこうのという話は重すぎる。
 しかし……。
「私も、この街の皆さんを守るためとあれば……お力添えさせて頂きます」
 彼女たちを取り囲む小豆衆。
 小銃による集中砲火を、まきりと棄々は散開することで回避した。
「皆さんをこんな所で死なせることはできません。できる限りのことはしますから、生き延びてください!」
「言われなくてもそうするつもりよ」
「その意気や、よし!」
 なんかどっかで見たことある金髪ポニテ女が騎士鎧を纏って現われた。椿がどちら様かしらと思っていると、女は剣を抜いて敵軍へと立ちはだかる。
「五麟学園騎士道同好会(部員数一名)部長、騎士道マリア……及びもふもふクラブ、見参!」
「もふもふ!?」
 棄々が目の色を変えて振り返った。
 ピンク色のもふもふヒツジが『んめー!』と言いながら胸(?)を張った。
「そちらが無限の兵力で来るならば、こちらは無限の回復力で対抗するまで!」
『しゅるまで!』
 宙に浮かぶ土鍋や卵がなんかしらんけどふわふわとした空気で棄々たちの体力を底上げしていく。
「なんか、ヤれる気がしてきたわ」
「奇遇ですね、私もです」
 棄々たちはギラリと目を光らせると、小豆衆たちへと飛びかかった。

●インタビュー:皐月 奈南(CL2001483)
 ナナンはねえ、久米ちゃんたちとお友達になれるって思ったよぉ!
 約束をちゃんと守ってくれたし、握手だってできたからねぇ。
 でも、それを分かってるのって、ちゃんとナナンたちが戦ったからなのかな。
 知らなかったら、ただの悪い人だって思ったままだったのかなぁ……?

●第二覚醒隊、久米ヒサシ
 風を切って走るバイク。
 恐るべき安定性で小銃による射撃を加えてくるバイカーに、葦原 赤貴(CL2001019)は青銅の剣を翳すことでガード。
 回り込んだ別のバイカーが背後から打ち込んでくるが、赤貴の背後を固めたリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)がダブルシールドでガードした。
「個人感情は抜きにしても、組んでいて効率的ではあるな」
「フフフ、任せてクダサイ!」
「それにしても、敵の数がうっとうしい……」
 赤貴はぎろりと自分たちを囲む敵兵たちをにらみ付けた。
 第二覚醒隊だけなら今のメンバーで押し返せたかもしれないが、ここに古妖兵器や小豆衆が加わることで防衛ラインを延々維持し続ける地獄に晒されていた。
「一気になぎ払えればいいんだが」
 赤貴は剣を強く握り込んだ。
 沙門群雲。草薙の剣の複製品とも言われるその剣は、まさに薙ぎ払うことに長けていた。
 炎を纏い、円形に振り回す。炎が辺り一面を覆い、バイカーたちを薙ぎ払っていく。
 炎の中をリーネと共に駆け抜けると、正面から巨大な戦車が現われた。
 再び防御姿勢をとるリーネ。
 そこへ巨大な砲弾が飛来する――が、リーネに接触する直前で止まった。
 具体的には側面からの膝蹴りによって強制的に止められた。
 砲弾がひしゃげ、すっとんでいく。
 膝蹴りを打ち込んだのは、パンクな巫女服に身を包んだ女だった。更に言うなれば九美上 ココノ(nCL2000152)であった。
「クソ面倒な話になりそうだったんで、この争いにはノータッチでいるつもりだったんですけど……」
「……」
「まあ、『お世話様』なんで」
 ピッと先を指さすココノ。赤貴は視線だけで彼女と会話した。
「今の人、なんデス?」
「……仲間だ」
 赤貴はそう言って、戦車の脇を抜けていく。
 抜けながら、赤貴は戦車を切りつけた。
「数は減らす。キツめの攻撃だけ頼む。みんなを守るんだろう?」
「言ってくれマスネ。攻撃はお任せシマスヨ!」
 飛来する砲弾をキャッチするリーネ。ずりずりと押し込まれるが、歯を食いしばって笑った。
「アア、なんだか……見えていた星が消えたような気分デスヨ。とっても、清々しい気分です」

 防衛ラインは長く長く伸びていた。
 長距離砲撃をしのぐ第一防衛ライン。
 それを抜けた無数の小豆衆をしのぐ第二防衛ライン。
 その更に奥まで侵入した第二覚醒隊のヘッドチームを迎撃する最終防衛ライン。
 全てのラインで激戦が続いている。
「久米ちゃんがほっしい、花いちもんめだよぉー!」
 ホッケースティックを握り込んだ奈南は、正面からバイクで突っ込んでくる久米にフルスイングで対抗した。
 スイングを受けてバイクから放り出される久米。
 ワイヤーを付近の道路標識に引っかけて体勢を保持すると、奈南めがけて小銃で射撃。
 対する奈南は防御術式と自己回復でもって射撃を我慢して、じりじりと歩を下げていく。
 すれ違うように、突き進んでいく明石 ミュエル(CL2000172)。
 基本の自然治癒力に二段階の補助を加えたミュエルは、久米の放つ毒性の弾幕は通用しない。
 そのことを察したのか、久米はニヤリと笑った。
「やっぱり来たか、少女」
「少女、って……」
 もうすぐ二十歳なのにと思いつつ、小さく首を振る。今はぶつかる時だ。お話なら、後でゆっくりできる。
 ミュエルの放った毒性の霧は、久米の装着したボディースーツに浄化されていく。肩についた小型空気清浄機のようなものが毒性を中和しているのだ。
「お互い、強みは活かせないようだが?」
「だから……コレしかない、よね」
 ステッキを両手でしっかり握り、格闘の構えをとる。
 久米は地面に降り立ち、銃剣を格闘の構えで握った。
「一芸達者でプロはつとまらん。行くぜ、少女!」
 久米、ミュエル、奈南はそれぞれ同時に大地を蹴り、それぞれの武器をぶつけ合った。

●インタビュー:鈴駆・ありす(CL2001269)
 最初は許せないって思ったわ。他者をいじめて強がって、何様なのって。
 次はなんでこんなことをって思ったわね。ヒノマルなんかに協力してどういうつもりなのって。
 けど三度目になったら、なんでかしら……嫌いじゃ無いって思えてきたわ。
 もう嫌になるくらい焼き尽くしてやったのに、まだ立ち上がるのって。そこまでして、私たちに勝ちたい気持ちはなんだろうって。
 四度目は、そうね……。
 ちょっとだけ、分かった気がしたわ。

●水芭忍軍
 水面を割り、渦を巻いて飛び上がる七海 灯(CL2000579)。
 彼女を左右から挟むように、そして水面を滑るように走るダイバースーツの二人組。
 鋸鮫、蛸壺。彼らはゴーグル越しに灯を強くにらみ付けた。
「相棒のためにも、俺はあんたに勝たなきゃならねえ!」
「戦争がどうたらじゃねえ、こいつは男の意地ってやつよ!」
 前後からの襲撃に、灯は全身をカッと輝かせた。
 まるで炎を纏うかのように輝いた彼女は残像を残しながら二人に分裂。
 それぞれが鎖分銅と鎌を繰り出し、襲いかかる二人を迎撃した。
 側面から浴びせられる無数の飛びクナイ。
 電流を帯びたそれを、灯は鎖を放つことで打ち払う。
 さらには頭上へ飛び上がった敵の銃撃を素手で掴み取った。手のひらについたやけどが一瞬にして修復される。
「ここから先へは行かせません。私が沈むまで、おつきあい願います」
「こいつ、今まで戦った時と明らかに違ぇ……!」
 舌打ちする鋸鮫たち――の頭上から、光の雨が降り注ぐ。
「えっと、七海さん! 大丈夫!?」
 飛行能力で駆けつけた宮神 羽琉(CL2001381)は、灯を囲むダイバースーツの水芭忍軍に『ひい』と言ってブレーキをかけた。
「うわあ忍者! なんで軍隊に忍者!?」
「そんな今更」
「お下がりください」
 羽琉めがけて投擲された円盤手裏剣を、ボートで割り込んだ新田・成(CL2000538)が仕込み杖でガードした。ちらりと羽琉を見る。
「霧を」
「あ……うんっ!」
 急いで迷霧を展開していく羽琉。
 成は小さく頷くと、改めて水芭忍軍へと向き直った。
「それでは、決着と参りましょう」
「余裕出してられんのも今のうちだぜ!」
「センセイの道を、ボクたちで切り開いてみせる!」
 着ぐるみのようなずんぐりしたアーマーを纏った車鯛がボートに着地。
 成へと組み付いていく。
 こちらの人数に対して水芭忍軍が数で押している。他のメンバーがヒノマル陸軍本隊の対応に追われているからだ。
 取り囲み、押し潰さんとする水芭忍軍。
 しかし成は、表情を変えること無く彼らの攻撃を受け止めた。
「存分におやりなさい。若者の全力を受け止めるのも、大人の仕事ですから」

「いくわよ、水芭ハヤテ!」
「いくぞ、鈴駆ありす!」
 水手裏剣と炎の矢が交差し、ありすとハヤテの首筋ギリギリを抜けていく。
 ハヤテは水上でバク転をかけて回避。
 ありすは跨がったイルカさんのクイックカーブで回避する。
「アンタ前に、アタシの炎を見て暴虐的とか何とか言ってくれたわよね。言わせてもらうけど、アタシの炎は大切なものを護るための炎! 攻め滅ぼすための炎じゃない!」
「なにが違う!」
「口で分からないなら、こうよ!」
 ありすは立てた二本指から炎の剣を生み出した。
 燃え上がり、長く伸びた剣。
 眼前の全てを薙ぎ払うかの如く。横一文字に振り切った。

●インタビュー:栗落花 渚(CL2001360)
 色んな人と戦ったし、立ち向かってきたつもりだよ。
 その間に、色んな人に助けられたり、逆に助けたりしてきた。
 戦争って言葉はやっぱり受け入れられないけど、私たちがやってきたこと自体は、誇れるつもりだよ。
 自信を持って、ちゃんとやったって言えると思う。

●第一覚醒隊、忍日シノブ
 ファイヴの水上防衛拠点が置かれた若狭湾。
 ここを突破すべく、ヒノマル陸軍の本隊が軍用ボートによる侵攻をしかけていた。
 防衛にあたるのは大型船舶から次々に発進するファイヴ覚者たちである。
 ファイヴ村やムラキヨグループから提供された船舶とその技術は戦闘に支障の無いボートの多くを保証する。さらにはイルカ古妖によるサポートもあって、覚者たちは思い思いの方法で迎撃にあたっていた。
「や、八重紅さん。おもたない?」
 そんな中で、飛行する十夜 八重(CL2000122)にゆりかごのように抱かれた椿 那由多(CL2001442)はわたわたと足を動かしていた。
「自分で歩けますよ! 八重さん!」
「ふふ、緊張して隙だらけなんですから」
 八重は微笑んで、仲間のボートへ那由多を下ろした。服をくいくいと整える那由多。
「おそばで守りますから。ね?」
「……コホン」
 咳払いを一つ。加えて小声で礼を言うと、那由多は八重に蒼炎の導をかけた。
 さっきまで感じていた足の震えは、不思議とない。
「八重さん」
「さ、行きましょうか」
 八重は飛び上がると、ボートから銃撃を仕掛けてくる敵兵へと小太刀を抜いた。
「ふふ、おいたはいけませんよ?」

 第一覚醒隊。高い個人戦闘力をもつ忍日シノブを隊長とした覚者部隊。アーミー色の強いヒノマル陸軍らしく多くの兵は軍服と銃器を装備していたが、拠点防衛戦に出ていたメインチームは籠手やら足袋やらアームブレードやらといった古くさい装備で身を固めていた。
 しかし戦闘力は折り紙付き。古妖船幽霊の非常識な運転技術で底上げされた彼らの戦力は、少数でファイヴの防衛力を圧倒しかけていた。
「五麟学園の保健委員、渚参上!」
 栗落花 渚(CL2001360)は腕章を翳すと、けが人を抱えてイルカさんに飛び乗った。
 更に、周囲で傷ついた仲間たちへ向けて光のヒヨドリを飛ばしていく。
「ヒヨドリさん、お願い、みんなを助けて!」
 ファイヴからエントリーした覚者は約11人。AAAやフリーの協力者が支援に来ているとはいえ、ヒノマル陸軍の兵力を押し返すのは並大抵のことではなかった。
「――天吼砲(ハウリング・カノン)」
 波に乗って飛び上がり、ボート上の敵へと跳び蹴りを叩き込む……と見せかけて、接触時に機械化した足裏から零距離砲撃を叩き込む氷門・有為(CL2000042)。
 吹き飛ばされてボートから転げ落ちた相手をよそに、後方回転をかけながらボート上に着地。
 背後から仕掛けられたアームブレードによる豪炎撃を後ろ回し蹴りで迎撃した。
「正直、横殴りがあると思っていたのですが……思いの外『まっとう』な戦争になりましたね」
「まっとう……」
 彼女の周りを飛びながら、支援攻撃を繰り返す大辻・想良(CL2001476)。
 想良の舞いにぐらついた黒装束の女に、海から飛び出した神々楽 黄泉(CL2001332)が襲いかかった。
「ちーれつーぅ」
 棍棒を振りかざし、勢いよく叩き付ける。
 ボートの表面がべこんとへこみ、女は慌てた様子で飛び退いた。
 めりこんだ棍棒を引っこ抜く黄泉。
「誰も死なない、なら、全力勝負、望むところ。私、もっと強くなりたい」
 鎖を張って黄泉の打撃をガードする女。
 黄泉はそのままずいずいと相手を押すように踏み込んでいった。
「ひたすら強く。そして、皆、守るの」
「そりゃあ立派だぁ」
 どこからか声がして、声がしたと思ったら視界がぐるんと三回転していた。
 黄泉は、超高速の足払いからの水平チョップからの裏拳というコンボを受けて高速回転しながら海に突っ込んでいたのだ。
 ハッと気づいて相手を蹴り込む有為。その足首を跳ね上げ、掌底でもってボートの外へと放り出す。
 水上でブレーキをかける有為。
「動きが良すぎる。彼が、リーダーですか」
「顔なじみのような気がしたがぁ……まあいいかぁ」
 すっくと背筋を伸ばす狐面の男。彼こそがヒノマル陸軍第一覚醒隊長、忍日シノブである。
 水面を破り、水の渦そのものを巻き込んで背後から殴りかかる黄泉。
 忍日はそれをガードすると、一本背負いで足下へ叩き付けた。
「敵に回ると厄介だなぁ、タフで」
「――ッ!」
 背後から飛び込む風織 紡(CL2000764)。急所めがけて繰り出された剣を、忍日はまるで後ろに目があるかのような動きで蹴り上げた。
 鋭すぎる蹴りに剣が回転して飛んでいく。
 紡は気にせずナイフを取り出し胸めがけて突き込む。
 バックステップで回避――した途端、紡のナイフがバネ仕掛けによって発射され忍日の胸へと突き刺さった。
「どいつから死にますか。ぶっ殺してやります!」
「フゥム、新顔ぉ……」
 自らの顎を撫でる忍日。
 刺さったナイフは筒状の特殊構造ゆえ露出部からあふれんばかりに血が漏れ出ているが、『むしろ抜かない方がいい』ということを忍日は察しているようだった。そして、心臓部にナイフが刺さっているにも関わらずまるで姿勢が崩れない。
 回転して落ちてきた剣を取り、再び斬りかかる紡――の首に回し蹴りが炸裂した。
 鳴ってはいけないおとが首からして、紡の身体ががくんと崩れる。
 が、倒れない。足をずんと地に着け、目には魂の輝きがあった。
「ほぉ……」
「まだまだ、ですよ。死にてえやつはどいつですか」
 首が不自然に傾いたまま、紡は剣を鋭く構える。
 忍日は手刀を構え、周囲の敵味方に気を飛ばした。それだけで思わずボートから吹き飛ばされる黄泉たち。紡だけはびくともしない。
「全員離れてろォ。巻き添えをくうぞォ」
「無駄口叩いてんじゃねーですよ!」
 顔面へ容赦なく繰り出される連続突き。
 それを忍日は手刀でギリギリはねのけていく。
 紡の戦闘力は今や、ヒノマル陸軍屈指の個体戦闘力をもつ忍日と互角がそれ以上であった。

●インタビュー:風織 紡(CL2000764)
 おかしな言い方になるかもしれませんが、私はこの戦争が終わることに名残惜しさを感じておりました。
 争い事態は、きっとない方が良いのでしょうけれど、多くの方が言われるほど『悪いこと』が起きていたようには思えなかったのです。
 とはいえ、あらゆるものに終わりは来るもの。
 怠惰に引き延ばすより、潔い決着を望むのもまた……。

●古妖部隊と残虐帝国
 琵琶湖防衛ラインは乱戦の極みにあった。
 ヒノマル陸軍側の強力部隊であるところの残虐帝国が無限に古妖の兵隊を呼び出し、防衛支援に当たっていたAAAの戦闘員たちも撤退していった。
 さらには風車率いるヒノマル古妖部隊、本隊の第三覚醒隊の猛攻に対して耐えるので精一杯だ。
 個体戦闘力はともかく、数の暴力を前に二十人前後のファイヴ側勢力はたちまちに取り囲まれ、すりつぶされるかのような戦いを強いられていた。
 残虐帝国、第三覚醒、そして古妖隊。いずれの戦力も戦争準備期間中に大きく潰しておけなかった結果が、決戦という場で響いているのだ。
「落ち着いてください。ザコ兵ならばほぼ無力化できる筈です。肉盾戦法にだけ注意して、主要な敵を叩いてください」
 夢はバフとデバフを駆使して、残虐大帝の呼び出すザコ兵の無力化に専念していた。
 戦場全体の人数が多ければ多いほど、彼女の有用性は上がっていく。
 それは一丸となって敵軍に挑む仲間たちへの補助としても働いていた。
 新堂・明日香(CL2001534)もまたその一人だ。
 黒かった目に青い光を宿し、銀色の頭髪をなびかせて、霊力の弓を形成させた。
「こういうのは初めてだけど……精一杯やるからね。頑張ろう、雪ちゃん!」
 守護使役からはき出された霊力の矢を握り、雷に変えて山鳴りに放つ。
 弱体化した無数のザコ兵たちが矢に貫かれかすみのように消えていった。
 消えたザコ兵の穴を即座に埋めるように別のザコ兵が割り込んでくる。
 目も口も顔の凹凸すらもない妖怪の群れに、香月 凜音(CL2000495)は僅かばかりの不快感を示した。
 このザコという名前の妖怪は人間たちのもつ負の感情が寄り集まってできた古妖だという。この中に紛れているヤツアタリやサカウラミといったちょっとばかし強い古妖もその一つだ。その『いかにも』さに凜音は眉を動かしたのだ。
「俺にとっちゃヒノマルはどうでもいいが、騒動がこれで終わるなら、戦うだけさ」
「そうだぞ、二人とも。ファイヴもみんなも守るために、戦うぞ!」
 剣を構えた天堂・フィオナ(CL2001421)が、凜音たちを庇うように前へ出た。
 殴りかかってくるサカウラミやヤツアタリを剣で受け、青い炎を燃え上がらせる。
 炎の先端が揺らぎ、フィオナは少し前の言葉を幻聴した。
「……そんなことない。あの時じゃ無いんだ。皆で戦ってるんだ!」
 剣を振り、敵勢を薙ぎ払う。
「回復は厚めにかけるが、二人とも無理するんじゃねーぞ」
 凜音の問いかけに明日香は元気よく頷いたが、フィオナはまるで聞こえていないように敵陣に飛び込んでいく。
 二人は顔を見合わせ、フィオナを助けるように後を追いかけた。

 癖のあるヒノマル陸軍勢力の中核を成していたのは第三覚醒隊の隊長と非覚者兵たちだったが、主力になっていたのはなんといってもヒノマル天狗率いる古妖部隊だった。
「風車! 絶対に負けないよ、全力でかかってこい! ついでにアンタの戦闘技術ももらっていく!」
「笑わせるな、貴様たちのような短絡的な子供たちに、伝説上の技が使えてたまるものか!」
 凍った地面を殴りつけ、インパクトによって高く跳躍する御白 小唄(CL2001173)。
 ツバメのような鋭い飛行と刀さばきで対抗するヒノマル天狗・風車。
 決して浅くない彼らの因縁が、この場においても絡み合っていた。
「貴様らはいつもそうだ! なぜ暴力坂総帥の思想を拒む! 戦争の何が悪い!」
「人が沢山死ぬことのなにがいいんだ!」
 小唄の蹴りと風車の刀がぶつかり合い、エネルギーの反発を起こしていく。
「この米国教育の犬め! 死なねばわからんか!」
「そうやって人を馬鹿にして……!」
 むろん、戦っているのはヒノマル天狗ばかりではない。
 その周囲にはスレンダーマンや口裂け女、テケテケや次元男といった都市伝説存在がわらわらと展開し、非常識きわまりない戦闘を繰り広げていた。
 そんな軍勢を前に、天明 美月(CL2001244)はぬらりと刀を抜いた。
「私に出来る事は、お兄様が全力出せる様に、帰る場所を守り、憂いを無くす事。覚者としての私はまだまだ未熟でございましょうが、無限に湧き出る風情の無い雑兵を一歩兵として切り捨てるくらいは出来ましょう……」
 襲い来る上半身だけの妖怪を切り捨て、返す刀で提灯の化け物をたたき落とす。
「お兄様の邪魔をする者は、私が許しません!」
 頭だけが巨大な人々が一斉に群がってきたが、美月はそれを流れるように振り払った。
「琵琶湖はあすかたちが守り抜くのよ!」
 ぴょんと飛び上がった鼎 飛鳥(CL2000093)が、魔法のステッキで空中に渦を描いた。
 描かれた渦から絵本に書いたような水のドラゴンが現われ、空から強襲する天狗たちへと襲いかかっていく。
 それでも収まることの無い軍勢。
 だがそれは、空から降ってきた無数の槍によって押し止められた。
「これは……」
 空を見上げる小唄や風車。
 輝く太陽の中に重なるように舞い降りてきた、無数の妖怪たちを目視した。
「スネカ天狗総勢22名、推参!」
『がしゃ、どくろ……すい、さん』
 巨大な骨の妖怪がしゃどくろ、山妖怪スネカ天狗。どちらもヒノマルの従軍計画からファイヴによって救われた妖怪たちである。
 彼らはその物量にものをいわせ、妖怪だらけの古妖隊を押し返し始めた。
「むう、小癪な……」
 だがそんな中を、悠然と浮遊して突き進む存在があった。
「愚かなり、人類よ。我が力の前にひれ伏すのだ」
 残虐帝国の長、残虐大帝である。

●インタビュー:賀茂 たまき(CL2000994)
 長い長い戦いの中で、私たちは沢山の力をつけてきました。
 新しい術、新しい技に新しい武器……。
 けれど、一番大きく育ったのは、絆の力だったんじゃないでしょうか。
 どんなに苦しい戦いでも、信じるものがあればがんばれます。
 あの戦いだって、私たちは……。

●残虐大帝と第三覚醒隊
「受けよ、暗黒の雷を!」
 腕を振り上げる残虐大帝。
 真っ黒な雷が広がり、たまきやカクセイジャーたちは小爆発を起こして吹き飛ばされた。
 凍った地面を転がるたまき。
 そんな彼女を支えるように、三島 柾(CL2001148)と成瀬 翔(CL2000063)が割り込んでいく。
 翼を広げた麻弓 紡(CL2000623)と守衛野 鈴鳴(CL2000222)が、月のステッキと戦旗をクロスさせた。
 魔導書の封印を解いたラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が、魔方陣を描きながら指をさす。
「ヒノマル陸軍の正義は分かりました。でも、それは私たちの守りたいものとは違います!」
 対抗するように、残虐大帝の周囲に第三覚醒隊の八幡ヤハチと精鋭チームが展開した。
 といっても、第三覚醒隊はそのほとんどが非覚者戦闘員で構成されたチームである。アクセイジャーとファイヴが結託したゴールデンチームに対抗できるのは八幡たち数人に他ならない。
 紡が翔にそっと囁きかけた。
「格好いいところ見せてよ、ボクのヒーロー。期待してるから」
「やめろよ照れるぜ。それに、ヒーローは俺一人じゃあない」
「ああ、ここに居るみんながヒーローだ」
 翔に小突かれて、柾はファイティングポーズをとった。
「うむ!」
 カクセイジャーたちに肩車されて胸を張る幼女。その名も残酷大将軍、もといざーちゃん。
「言ってやれい、我らの名を!」
「「五行戦隊カクセイジャー、アンドファイヴ!」」
 ポージングと共に爆発を起こし、翔たちはエネルギーを再び満タンにした。
 戦旗を振り、踊り始める鈴鳴。
「お互い話し合うことができるのに、戦いという手段をとることがとても残念です」
 鈴鳴の旗が空を泳ぐたび、仲間の力が満たされていく。
「皆さんに危険が及ばないように、戦いをやめてわかり合えるように、ここを守り切って見せます!」
「おお、高尚高尚……」
 目元を何かのバイザーで隠した八幡は、弓に矢をつがえて呟いた。
「ジブンはその意見に半分賛成、半分反対ですなあ。人は確かにわかり合えるでしょうが、言葉はあまりにすれ違いすぎまする」
 放った矢が無数に分裂し、鈴鳴たちに襲いかかる。
 対して紡が空で架空のステップを踏むことでヒールフィールドを展開。鈴鳴の舞いと併せて屋にカウンターヒールを打ち込んでいく。
「わかり合った俺たちの力、見せてやろうぜ! カクセイパッド!」
「はい――煌炎の書!」
 翔とラーラが合同で魔方陣と陰陽陣を展開。
 妨害しようと雷を放つ残虐大帝だが、カクセイジャーのイエローやブルーたちが回復バリアを展開して雷を受け流していった。
「今だ!」
 ざぷんと波打つ水の術式。水はたちまち凍り、そり上がったジャンプ台となる。
 その上を、たまきや柾、レッドたちが駆け上がった。
「思い切り多勢に無勢だが……不思議だな。今度こそ負ける気がしない」
 ニヤリと笑う柾。
 そう、彼らはかつて全力モードにおける残虐大帝対策をこれでもかと考え、一度の失敗を経験することでより洗練した突破法を編み出していたのだ。
「これまでのお礼だ、残虐大帝!」
「今度こそ、倒します!」
 彼らの力が一つの巨大な拳となり、残虐大帝へと迫る。
「何だと!? おのれ、ここが残虐空間ならこんなことは……ぐ、ぐおおおおおお!」
 爆発。
 残虐大帝が塵も残さず次元から消滅していく。
 その光景を前に、紡たちは勢いよくハイタッチした。

●閑話休題
 五麟大学考古学研究所、前。
 屋上の手すりから身を乗り出していた納屋 タヱ子(CL2000019)は、静かな景色に目をこらしていた。
「あなた、戦争に参加していたんじゃあなかったの?」
 後ろから声をかけられて、タヱ子は『ええ』と返した。
 軋む車いすの音。蒼紫 四五九番(nCL2000137)だと分かったから、それ以上振り返らない。
「皆さんの予知を疑うわけじゃありませんが、この戦争に乗じて他の勢力が攻め込んでこないとも限りませんから。そう思いませんか蒼紫……四五九番(よんごおきゅうばん)さん」
 振り返る。蒼紫は表情をまるで変えなかった。
「七星剣の動きも察知したけれど、彼らはヒノマル陸軍が圧勝すると信じて疑わなかったわ。イレブンも目立った動きを見せていないし」
「イレブン……」
 タヱ子の目が細く鋭くなる。
「そんな目で見ないで。私たちだって何でも分かるわけじゃあないのよ。確信抜きで物事は進められないの」
「分かっていますけど」
 タヱ子は、学園の庭でひなたぼっこをする一般学生の集団を見下ろした。
 おかしな動きはしていない。
 何もしていない。ただにこやかに、ごく普通に語らっているだけだ。
 しかし。
 彼らの口が、こう述べたように見えた。
 『我々は苦役する』『脳髄を捧げよう』

●インタビュー:野武 七雅(CL2001141)
 なつねはね、ファイヴにきて本当に良かったと思えたの。
 大切なお友達もできたし、みんな優しくしてくれるし……なつねが出来ること、押し終えてくれたから。
 だからね、なつねはみんなの場所を守りたいの。

●兵術使い、健御ケンゴ
 森を走る無数の足音。追われるように走る少女たち。
「なつねにできることは、みんなを支えることなの!」
 魔法のステッキを翳し、先端の輪っかに息を吹く。沢山のシャボン玉が空に舞い上がり、ぱちぱちをはじけて仲間たちの傷を癒やしていった。
「うぉー! だとうしちせいけんっ!」
 その隙に両手をバッと掲げるククル ミラノ(CL2001142)。
 手をぐるーっと時計回りに回転させていく。
「ほーばーくー、つるっ!」
 両手をぱちんと合わせて全身でタケノコが生えるようなジェスチャーをすると、あたりから沢山の草花が生えて兵隊たちを転ばせていく。
 ククルは走りながら、応援用のポンポンを振った。
「おーえんはまかせて! ふれーっふれーっ!」
 応援を受けているのは少年三人組である。
 いつもなかよし工藤・奏空(CL2000955)、鹿ノ島・遥(CL2000227)、御影・きせき(CL2001110)だ。
 それに加えて、鎬次郎や柄司といった面々が戦闘に加わっている。
「遥、きせき、柄司! そして鎬次郎さん! 天獄村パワーをぶつけるんだ!!」
「いいですとも!」
「それなんかちがくね?」
「天行の空手家、鹿ノ島遥! 推して参る!」
「楽しく戦おうね!」
 最初に少女たちって言ったのに男性比率が五割超えじゃん詐欺じゃんって思ったそこのあなた。安心してイイゾ!
「どうやら成功したようだな。怪異番号0953、『これが、俺!? 驚きのファヴュラスメイクで今日から君も美少女だコンパクト七万八千五百円』!」
 横を走るキリンがそんなことを言い出した。なんだこのキリン。喋ってやがる! という突っ込みはもう一時間前にされたばかりだ。ご存じ蒐囚壁財団のブランク博士である。なに普通に出てきてんだという突っ込みも済んでいる。安心してほしい。
 そしてもっと安心して欲しいのは……。
「第四覚醒隊とお見受けする、いざ勝負!」
 遥は美しい連続蹴りで回り込んできた兵隊を蹴り倒し、奏空もまた逆手に握った刀で切り払った。
 ばたばたと倒れていく兵隊たち。
 見栄をきる遥と奏空。
 そして翻るスカート。
「説明しよう。『これが、俺!? 驚きのファヴュラス(以下略)』とは化粧を施すことで戦闘力を一時的に引き上げる一方格好だけなんとなく女の子っぽくなるというきわめて半端な怪異アイテムだ。使ってみた気分はどうだね!」
「だまされた!」
「あとキリンの状態で喋んないで、恐いから!」
「なんでこんな格好するの? 僕男なのに、変だよ……」
 ゴスロリ服をきたきせきが涙目で言った。
「「うわああああああああ!!」」
 柄司たちの目が尊さで焼かれた。
 第四覚醒隊は兵隊の運用に長けたチームだ。隊長の健御を覗いた全員が非覚者で、その半数は元天吹組からの引き抜きである。
 遥たちはまともに戦えば一騎当千の無双プレイができる相手なのだが、まるで海や山を相手にするかのような漠然とした巧妙さで彼らをじわじわ苦しめていた。ぶっちゃけククルたちが居なかったらヤバかった。
 が、そんな場面に駆けつける男たちがいた!
「ピンチのようだな!」
「その声は!」
 顔を上げた奏空に、三人組の男が現われる。名乗りと共に巻き起こるホンモノの爆発。
「「ちくびかじりむし!」」
「よりによって!」
「拙者、ちくびーむ侍でござる!」
「誰だっけ!?」
「我が名は百合神……百合大会の現場はここですか!? イエーァ! ハッピィー!」
「帰って!」
 五分とたたずに森が人外魔境のお祭りと化した。
 『きやがれ俗物の森』状態である。
 奏空は一旦無視して真言を唱えた。
「敵は多いけど、落ち着けばよく見えてくる。戦う親友たちのために、追い風になるんだ!」
 半裸にEカップ用ブラをした奏空が(こんな時でも)真剣な顔で語った。素直さに敵兵たちは泣きそうだった。
「おっと、敵の前で別のヤツを語るなんて失礼だよな! 全力でお相手するぜ!」
 遥が全裸にスカートだけはいてカラテの構えをとった。
 実直さに敵兵たちは泣きそうだった。
「子供だと思ってたら痛い目みせちゃうよ!」
 ゴスロリ服のきせきが刀を握って飛びかかった。
「「うわああああああああ!!」」
 尊さに敵兵たちは目を焼かれた。
「…………」
 なつねがこの状況がなんなのかわかんないって顔をしていると、その後ろにペスト医師のようなマスクをつけた男が現われた。
「……疫鬼、さん?」
「一年だ。一年、約束を守った。その分だけ……その分だけ、助ける。それだけだ」
 男は辺りを取り囲もうとする兵隊に病の気を一度だけ放つと、かすみのように消えていなくなった。
 ばたばたと倒れる兵隊たちを見回して、ぎゅっとステッキを握る七雅。
 周囲では人外魔境のお祭りが巻き起こっている。
 ファイヴから割り当てた人数は相手の半分以下だったが、案外なんとかなりそうだった。

 一方、第四覚醒隊唯一の覚者であるところの健御ケンゴは何をしていたのか。
「貴公は逃がしちゃいけない人だよ。戦争ゲームの中でもなりふり構わず戦う強い民だからだよ」
「ははは、買いかぶりすぎだ。見たところ、俺の戦力はお前よりずっと劣っているではないか」
 健御は非覚醒状態のまま、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)の攻撃をしのいでいた。
 彼が覚醒しないのは部下たちとの無線通信を続けるためである。逆に言えばそれがあからさまな弱点になりえるのだが、むしろそれを計算に入れた上で戦っているようにすら見えた。
「貴公みたいなナイスな民は、あずきバーおじさんが負けを認めても、戦いを諦めたりしないでしょ?」
「……へえ。あんた、ファイヴにしては珍し考え方をするな」
 グローブをしっかりと握り込み、防御の構えをとる健御。
 プリンスがハンマーをぎゅっと握り込むと、身を潜めていた九条蓮華や絹笠たちが姿を現わし、健御を取り囲んだ。
「だから確実に仕留めるよ。王家最新奥義・ビルドインスタビライザー!」
 プリンスは補助機能なしでハンマーをぐいんぐいん振り回すと、周囲の木々をなぎ倒しながら突撃した。

●インタビュー:神城 アニス(CL2000023)
 『誰も死んで欲しくない』って、そんなにおかしな考え方でしょうか。
 確かに、自分や周りの人の命を奪おうとする人は恐ろしいですし、そんなことはあってはいけないと思います。
 けれど、この世に無くなっていい命なんてありません。
 誰にでも家族や友人がいて、過去や未来をもって生きています。
 罪に対する正しい罰は、決して『死』ではないんです。

●地獄刃鉄
 戦況は決して有利では無い。
 アニスはスマートホンの専用アプリケーションに驚くほどの速度でフリック入力を続けながら、彼我の戦力分析を計っていた。
「私が後ろから支えます。ですから……」
「んー、倒れないのは無理かな」
「死んじゃったらごめんよ」
 アニスの想いを背にして、酒々井 数多(CL2000149)と緒形 逝(CL2000156)はそれぞれ刀を構えた。
 対するは地獄刃鉄。ふたふりの刀を持った禍ツ神である。
 力の大半を失ったとはいえ、三人がかりでも苦労する相手だ。
「先に伝えておくわね。三馬鹿が『楽しかった』って。私も同じ気持ちよ。そして今からも……」
「刃鉄ちゃーん、あっそびーましょー!」
 刀に呪力を乗せた逝が、地獄刃鉄めがけて斬りかかる。
 その隙を突くように、高速スウェーで回り込んだ数多が美しい連撃を叩き込んだ。
 二人の斬撃を、左右それぞれの刀で打ち払う地獄刃鉄。
 火花が散って空白が生まれる。
 地獄刃鉄は自らの刀に呪いを乗せると、逝と数多を切り払った。
 更に踏み込み、美しい連撃を叩き込んでくる。
「ラーニング……じゃないわね」
 ダンサーが互いを競う際に同じモーションを返すように、地獄刃鉄は彼女たちと同じ舞台で戦おうとしていた。
 刀を怪しく光らせる逝。
「おもしろいさね」
 身を犠牲にして飛び込む逝。
 数多もまた、自らの身をなげうつ覚悟で飛びかかった。
「見せてあげるから、わたしのとびっきり!」

●インタビュー:華神 刹那(CL2001250)
 拙に聞くことなぞなかろう。
 ……。
 ……。
 …………終わりでは? 何か話せと?。
 そうさな、この手の戦いは初めてではないが、規模の違いが目立ったか。
 七星剣幹部クラスとなると軍勢の数も多いものだが、対してファイヴの『百人規模』では事足りない。AAAやら何やらの協力団体と合わせてやっと拮抗しているが、このままでいいものやら……。

●学生村攻略ルート
 ヒノマル陸軍本拠地。その西側を埋めているのは巨大な学生寮の群れである。
 戦前から大量の学生寮がひしめき、安くてもいいからと刹那的に増え続ける学生入居者にあわせて増改築を繰り返した結果巨大な迷路のような村ができあがった。日頃から学生以外が入ることは無く、ここの配置を全て知る人間すらごく僅かとされていた。
「敵がマジ小学生だらけとかマジやばくないっすかマジ!」
 そんな学生寮のどこかで、ガルパンを疑似4D上映していた集団がいた。
 お風呂のシーンであのジェルパック洗剤を蒸すのがコツである。
「アーァッ! 爆発すりゅぅううう!」
 一通り荒れ狂った所で、部屋の内線電話が鳴った。慌ててとる青年。
「アッハイこちら学生寮F16! 敵が一直線にこっちに来てる!? 嘘だあここは壁だらけのギャアアアアアアアアアア!」
 押し入れをガラッと開けた刹那が青年を後ろから刺した。
 追撃をさけるべく再び襖を閉じ、壁抜けをして撤退する。
 そんな悲鳴を聞きながら、葉柳・白露(CL2001329)と檜山 樹香(CL2000141)は入り組んだ学生寮の廊下をひた走っていた。
 学生村は迷宮だ。屋内と野外をいったりきたりしつつ階段や地下道、時には秘密の通路まで使ってぐにゃぐにゃとしたルートを通るほかない。刹那など何名かは物質透過でショートカットして進んでいたが、かえって敵に囲まれる状況を招きやすく、早々に撤退するパターンが多かった。
 特に支援に駆けつけていたAAAは寮生たちの作った罠に片っ端からやられては撤退し、ファイヴにとってちょっとした地雷探知機代わりになっていた。
 ということで、中盤以降はファイヴの有志メンバーばかりが残る結果となった。
「九龍城だかウィンチェスターだか、これじゃあもうジャングルだね」
「しかしここを切り抜ければヒノマル陸軍を打ち倒し、混迷の時代を切り開く道標となろう。気合いをいれて突き進もうぞ!」
「――おっと」
 床板がくるんと回って、天然パーマの男が現われた。
「これ以上は行かせませんよ。ヒョヒョヒョヒョヒョ!」
「早速ブッチャーダァ!」
 現われたのは第六覚醒隊の主力メンバー、シャドウとブッチャーである。
 シャドウの大バサミを薙刀で受け止める樹香。
 一方でブッチャーナイフを全力でぶち込んでくる相手を、白露は火柱で牽制した。
 かなりふざけた連中だが実力は一人前。しかも一撃入れたら即離脱というズルい戦術で白露たちを苦しめていた。
「正面から打ってくればよかろうに……」
「不意打ちは対応できるけど、持久戦はちょっとキツいねえ」

 学生村は非常に深く入り組んだエリアである。
 『ここはまかせて先に行け作戦』の都合上、誰か一人でも奥までたどり着けばいいというものでもない。
 同時に、敵に地の利がある迷路という立地上、一丸となって進めばタコ殴りは必至である。
 ということで、ファイヴおよびAAA即席合同チームはいくつかに分散して突破する作戦にあたっていた。
「並列同時処理というやつですね」
「え、そうなのか? そういうやつのか?」
 キリッと三角帽子のつばをつまむ天羽・テュール(CL2001432)。
 鯨塚 百(CL2000332)はむつかしー言葉を使った彼を二度見した。
「とにかく、迷子にはならないように注意しなくちゃな。AAAのおっちゃんたちも撤退しちまったし」
「安心してください。どんな相手だろうとボクの魔法で一気に蹴散らしてあげましょう! 変態なんて敵じゃありませんよ!」
 自慢げに胸を張るテュールである。
「ほ、ほんとか! 変態に勝てるのか!?」
「変態だらけといっても所詮は少女大好きな人たちばかりです。僕らは少年ですから危険はな――」
「ショタだァアアアアアアアアアア!」
「イエエエエエエエエエエエエエア!」
「「うわああああああああああああ!」」
 窓をクロスアームで突き破り、女たちが飛び込んできた。
 床をローリングして通路の前後を挟むと、ウキョキョキョキョとか笑いながら反復横跳び式ブロッキングを仕掛けてきた。
「やべえよやべえよ男子小学生が寮内にいるよ!」
「目の保養ダナァー! こっちのヤンチャな方はいただきますね先輩!」
「第一回、伊藤ライフゲーム!」
「うわー! くるなー!」
 百は本能的な危機感からバンカーアタック。
 テュールもなんかの危機を察して雷の魔法をぶっ放した。
 ぎゃんとか言いながらぶっ倒れるも、社会的命数を削って這いずってくる女たち。
 小学生男子たちは恐怖に震えた。

 戦闘力と地理と変態性の掛け合わせという強みを活かして戦う第六覚醒隊。
 ファイヴ側に求められたのは戦闘力と地理への対抗は勿論のこと、変態への耐性もしくは対抗力であった。
「というわけで仲良くしてほしいの」
「アァーイクゥー!」
 だから瀬織津・鈴鹿(CL2001285)が相手を組み伏せ亀甲縛りにした上で更にパンツをはぎ取るという変態を通り越して芸術みたくなったマネをしていても、必要なことなんだなって思って欲しい。
 ちなみに縛られているのはドラクという第六覚醒隊主力メンバーのドM野郎である。
「これが、私の全力なの」
「くっ……この幼女、やるな!」
「次、俺でお願いします!」
「僕で!」
「五万円でいいですか!?」
 そんな鈴鹿を倒すべく取り囲む勇敢な第六覚醒隊の戦士たち。
 流石の妖怪パンツ脱がしも苦戦を強いられる状況であった。
 神妙な顔で頷く主力メンバーのマフィア。
「幼女にパンツを脱がされる。それだけで、俺たちは無限に戦い続けることができる。皆、童貞力を限界まで高めろ!」
「「ウオオオオオオオオオオッ!」」
「な、なんて童貞力なの……はいでもはいでもまた履いて……」
 熱気に押されそうになる鈴鹿。
 そんな彼女をそっと支えたのは魂行 輪廻(CL2000534)であった。
「まだまだねん、鈴鹿ちゃん♪」
「輪廻姉様!?」
「よく見ておくのよん?」
 輪廻は小太刀を抜くと、ぬらりとメタルリボンを展開した。
「戦いは、ただ敵の下着をはぎ取ればいいわけじゃあないのよん。相手を任すことは己の勝利にあらず」
 輪廻は最初からトップスピードになると、周囲の男たちの衣服だけを切り裂いていった。それもキッチリ三割づつ。と同時に自分の衣服も三割だけ切り裂いて見せる。
「何!? この戦法……聞いたことがある!」
「知っているのかマフィア!」
「古代中国大陸では美女が相手の鎧がはぎ取られるたびに自らの衣服をはぎ取っていくという不思議な戦法をとったという」
「敵を倒すつもりで自分を無防備にしては無意味なのでは!?」
「だが考えてみろ。『自分が全裸になったとき、相手も全裸になったとしたら』……?」
「な、なんてことだ……! ギリギリまでは剥かれちゃってもいいかなって思えてしまう! というか剥きたい!」
「フフフ――」
 輪廻はウィンクをひとつ。
 その輝きは魂の輝きに似ていた。
「魅せる戦い。そして情ある戦い。ちゃあんと、目に焼き付けておくのよん♪」
 一斉に襲いかかる男たちを前に、輪廻はアクロバティックに舞った。
 回り、ねじり、跳び、虹色の光で尾を引きながら戦う様は、もはや一つのショーと化していた。
 輪廻だけではない。敵の動きすらも手玉にとり、敵味方の入り乱れる様が一つの完成されたショーとなったのだ。
 思わず見とれた鈴鹿は、ハッとして叫んだ。輪廻の魂が、明確に削れ行くさまを見たからだ。
「輪廻姉様、やりすぎなの! どうしてそんな無茶をするの!」
 汗すらも美しく散らし、露わになった胸を光だけでごくごく僅かに隠しながら、輪廻は世にも美しく笑った。
 幼き鈴鹿の脳裏に、それは稲妻のごとく焼き付いた。

●インタビュー:ゆかり・シャイニング(CL2001288)
 ショージキ言ってですね、せんそーとかよく分かんないんですよ!
 ゲームとかアニメでしか見たことないし、学校じゃとにかく酷いってことしか教えてないし、いざやってみるとステージの上でギャグ合戦したり混浴温泉でタオル取り合ったりじゃないですか。
 なんなんですかせんそーって。ホントはゲームとかなんじゃないですか?
 大人が勝手に酷くしてるだけで、納得さえできればじゃんけんとかで決めてもいいヤツなんじゃないですか!?
 それぐらい自由なものだったら、ゆかりはゆかりらしくやってやりますよ。
 『相手を沢山殺した方が勝ちだぜグヘヘ』みたいなやつじゃないなら、ゆかりだって輝けるんですよ!

●第六覚醒隊長、大黒トモカズ
 学生村がいかに入り組んだ迷路と化していても所詮は人の作ったもの。
 やがては終わりが見えてくるものである。
「よくぞたどり着いた」
 学生村からの最終脱出ルートである地下道の中で、大黒トモカズは銀河○丈の声マネで言った。
 寮に帰れず迷い込んだ連中がたまに住み着いているらしく生活感あふれる通路となっていた。
 なんで脱出路がよりによって地下道なんだよてって突っ込みはもうしたが、あえて……。
「なんで地下道から脱出してんだよ! お前ら毎日大学かようのにこのルート通ってるのか!? なんでだよ!」
 奥州 一悟(CL2000076)が改めてツッコミを入れてくれた。
 声マネを続けながら応える大黒。
「なぜなら、かっこいいからだ!」
「かっこいいから!?」
「なんとせいけんさいきょうだからだ!」
「それ関係ないだろ! 言いたかっただけだろ!」
「落ち着いて、相手のペースに呑まれてはだめよ」
 エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は纏っていたドレスをバッを脱いで早き替えをした。
 胸元と太ももが露出した、控えめに言ってドスケベな軍服姿になった。
「さあ、徹底的に楽しみましょうか。鞭とヒールのどちらがお好きかしら」
「お、おいエメレンツィアさん……いくら敵が変態の親玉だからってそんなの通用するわけ……」
「両方でお願いします!」
「通用してるぅー!」
 ヘッドスライディングしてきた大黒を律儀に踏んでは叩くエメレンツィア。
 オッいいぞそこだ! とか言いながら白目を剥く大黒。実際一方的に術式攻撃を浴びせまくってる最中なのだが、結構余裕そうだった。
 逆に言えば、そのくらい彼の実力が高いことを示している。
「ククク、けどいいのかねぁ? 俺がこのリモコンスイッチを押すだけで地下道に仕掛けた爆弾が爆発し、道はふさがるのさ。お前たち……とぅぶすよ?」
 森久保○太郎の声マネでニヤリと笑う大黒。
 彼の有線リモコンにはドクロの赤いスイッチがついていた。
「何だって!?」
 律儀に身を乗り出してくれる一悟。いい子だなこの子。
「エメレンツィアさん! 大黒は自爆する気だ! そいつにボタンを押させるな!」
「いいや限界だ、押すね!」
 絶対それ言いたかっただけだろっていう台詞と共に親指でカチッてやる大黒。
 だが、その指は空振りした。
 と言うかリモコン自体が無くなっていた。
「リモコン、探す? ね、探す?」
 大黒の後ろから肩越しに囁きかける古妖リモコン隠し。
「爆弾の火薬はみんな処理したんダモ。この通路は完璧に整備されたんダモ」
「ダモさん!」
「くっ、ファイヴ村の愉快な仲間たちだと!? よりによってこのタイミングで!」
「やっぱり、直接戦うしかないようですね」
 主力メンバーのMENが白鞘の刀を手にゆらりと現われた。
 やっとそれらしくなってきたぜと身構える一悟。
 一悟の放つ炎のトンファーアタックを、刀で弾いていくMEN。
 さらには、周囲の隠し扉がパカパカと開き無数のヒノマル兵たちが飛び出してきた。
 兵隊つっても全員普段着の若者たちである。どう見ても本職軍人って感じじゃない連中、それが第六覚醒隊なのだ。
「こっちもリスク背負って戦ってるんで、通せんぼは全力でやらせて貰いますよ!」
 TE○GAを取り出し、上下に振りながら白目を剥く大黒。
 振りまかれた甘い香りを打ち払うべく、エメレンツィアは水を纏った鞭を振り回した。「ここへ来て数で押してくるのか、やっぱりただふざけてる連中じゃないぜ!」
 一悟は左右から『ショタだー!』といって飛びかかってくる女たちを炎の回転蹴りで打ち払う。
 そんな混乱する現場に――ゆかシャイが!
「変身!」
 赤ジャージから一転して可愛い衣装にチェンジしたゆかりは、激しい光を解き放った。
「これは……!」
「魂の輝き……!」
「なんという、魂の無駄遣い!」
「だが!」
「それがいい!」
 あまりのぶっ放しっぷりに身を乗り出す男たち。
「つながる縁を光に変えて――ゆかり・シャイニング、参上!」
 ポーズと共におこる爆発で、おもわず周囲の男たちが吹き飛んだ。
「あれはポージング爆破! けどこんな威力は無かったはず……まさか!」
「ザッツマサカ!(そのまさかですって英語で言いたかった)」
 ビシッと指を突きつけるゆかり。
「ゆかりの魂が輝く瞬間はいまこのとき! 満を持して言わせて頂きましょう――」
 更にかっこいいポーズをとると、ゆかりはキメ顔で言った。
「ここは任せて、先に行けぃ!」
「「カッコイイー!」」
 思わず歓声をあげる第六覚醒隊の兵士たち。
 大黒も半裸でエメレンツィアの馬になりながらシリアスフェイスで言った。
「ここまでイケメンなムーブをされちゃあしょうが無い。皆、この馬鹿野郎にとことんまで付き合ってやろう!」
「「応!」」
「かかってきなさい! ゆかりに触ると、ヤケドするぜ!」
 無駄に蟷螂拳の構えをとったゆかりは、ヒョーウと叫んで大黒たちへと飛びかかった。

●インタビュー:東雲 梛(CL2001410)
 正々堂々、真っ向勝負。
 そういうの、俺も嫌いじゃなかったよ。
 あそこまで迷い無く戦うのは、俺にはまだ難しかったけど……。
 それでも、俺がやってきたことに自身を持ちたいから、俺も向き合うことにしたんだ。

●第五覚醒隊
 実に今更ながら、ヒノマル陸軍覚醒隊一番から六番までそれぞれに個性があることに気づいていただろうか。
 純粋に強力な覚者の集団をそのまま運用している第一、覚者の技能特性を活かして様々な場所での活動に対応させた第二、覚者をリーダーに非覚者や協力な個体をサポートさせることを主眼にした第三、覚者一人で大量の非覚者を運用する兵術専門の第四。
 ここまで全て強いアーミー色を持った兵隊であったが、第五と第六だけが異色のメンバーで構成されていた。
 彼らはいわゆる、『強力な一般人』だ。元々戦争とはなんの関わりも無かった、覚醒しただけの一般市民の部隊なのだ。
 それだけに、ファイヴに近い性質を持っていたと言っていいだろう。
「正直、もう正義のありかなんてどうだっていいわ。私の守りたいものを守るために、驚異をぶっ飛ばすだけよ!」
「ただし正々堂々、正面からいきましょうかっ」
 姫神 桃(CL2001376)と月歌 浅葱(CL2000915)は、それぞれグッと利き手の拳を突き出して並んだ。
 その横に居並ぶ、如月・彩吹(CL2001525)、天野 澄香(CL2000194)、天野 澄香(CL2000194)、葛野 泰葉(CL2001242)、そして東雲梛。
 一方で、敵側には威徳ヤマタカを筆頭に安西、井上、片山、雷句、福田。そして彼らの拠点である日大を攻めた際に見えていた多くの隊員たちがずらりと並んでいた。
 主力チームだけで互角だったが、こちらには積み重ねたデータがある。
「彼らの戦い方はよく知ってる。最初は色々あったけど……今度も、勝つよ」
 ロッドを大地に打ち付け、捕縛蔓を展開する梛。
 対して第五覚醒隊の面々もまた対抗術式をしかけてきた。
 練度の低いメンバーにはバフデバフ及びヒールワークを担当させて攻撃と防御は主力が受け持つという、相変わらずバランスのいい戦術だ。
 一方でこちらは個性を活かしてとにかく殴るいつもの戦術である。各人の個性が強いファイヴでは最も安定する戦術と言ってもいい。
「行きますよ彩吹ちゃん。正面突破です!」
 澄香は複数のタロットカードを扇状に広げると、まとめて天に投げ放った。
 一枚を中心にして周囲十二枚で囲むホロスコープと呼ばれる配置法で並んだカード。審判のカードを中心にしたそのカード並びは味方の回復を意味する魔術的配置であった。
「力と力の押し合いなら、負けるわけにはいかないよね」
 彩吹は笑って、敵の放つ雷撃の中を駆け抜けた。
 刀を抜いて加速。
 空気の摩擦で加熱した刃を、敵の剣士が受け止めた。
 彩吹はそのまま空中へ飛び上がり、回転の勢いを乗せて更に斬撃を叩き込む。
 澄香の役割は味方の回復と遊撃。彩吹の役割は敵の攪乱である。
 結束とバランスのいい敵を邪魔するには、とにかく攪乱が役に立つ。
 その一方で、日那乃と泰葉も即席タッグを組んで敵陣の攪乱に努めていた。
「くくく、クハハハハ! どうです今のご気分は! 貴方はこの戦争でどんな感情をお持ちですか? それを見せていただきたい! 俺は全力でそれを受け止めてあげますよ!」
「なんだこいつ! ごちゃごちゃと戦いづれえ!」
 根性戦法が得意の井上も泰葉の心身共に絡みつくような格闘攻撃に攻めあぐねている様子だった。
 その後ろで、日那乃がふわふわとした様子で泰葉たちの回復に集中している。
 日那乃の回復力が高いおかげで防御の薄い泰葉も充分最前線で戦えているのだ。
 送受心込みで桃たちに通信を送る日那乃。
「こっちは、ひきつける。仮面のひと、おねがい」
 日那乃が仮面の人と言ったのは、第五覚醒隊の隊長。威徳ヤマタカである。
「ありがとう、任せたわ」
「力を合わせて、いきましょうっ」
 両手を合わせて祈るような姿勢をとる威徳。
 彼の両サイドへ回り込むように、桃と浅葱は加速した。
 浅葱のダッシュパンチ。それに併せて桃も手刀を繰り出した。
 まるで銛で魚を突くかの如く。彼女の気力が詰まった手刀は威徳のガードを貫き、肉をえぐって止めどなく血を流させた。
 対する威徳は掌底によって二人を同時にはねのける。
 流れるように大地を踏みつけ、衝撃を巻き起こした。
「なんのっ!」
 浅葱は対抗して地面に拳を叩き込んだ。
 走る亀裂から紫電が吹き上がり、威徳へと襲いかかる。
 その一方でわざと上へ飛んだ桃は回転をかけて踵落としを繰り出した。
「さあ受けてみなさい、天上天下逃げ場なしの挟み撃ちよ!」
 双方直撃。
 しかし、威徳は祈るような姿勢のまま微動だにしなかった。
 恐ろしく硬い。まるで鉄の柱を殴っているような感触だ。
 だが、必ず倒さねばならないわけではない。
 この間に仲間たちが暴力坂の元まで無傷でたどり着けばよいのだ。
 ガードを抜けていく仲間たちを横目に、桃は手刀に再び気力を溜めた。

 第五覚醒隊主力メンバーの更に後ろに控えているのは、主力には上がらないながらもなかなかの戦闘力を持った覚者たちである。
「よりによって随分シンプルな所に来てしまったものですねえ」
 などと言いながら、橡・槐(CL2000732)は悠々と車椅子を転がしていた。別に足が悪くてこんなものに乗っているわけではない。相手を油断させるための外見的な細工である。
 もとより槐は小細工の得意なプレイヤーだった。ポーカーとかクッソ強いタイプである。
 そんな槐の戦法は、いかにも自分は弱いですよと思わせて置いて周囲をいつの間にか大混乱に陥れるというものだ。
 彼女の振りまく奇妙な音波が敵軍を混乱させ、いつの間にか同士討ちを誘うのだ。
 色々キッチリした場面ではあまり顔を見せないが、今回のように格下の敵が無数に入り乱れている状況ではもはや無敵といっていい。
 そんな戦場を駆け抜ける楠瀬 ことこ(CL2000498)と榊原 時雨(CL2000418)。
 時雨は浴びせられる機関銃の射撃を槍の回転ではねのけて突き進むと、銃座に収まった敵を銃座ごと破壊していった。
 横からライフル弾が迫る――が、それをギターで殴って弾くことこ。
「ことこさん、大丈夫?」
「なにが?」
「今回やけにまともやない? 頭うってへんよな?」
「んー?」
 ことこは笑顔で首を傾げると、その顔のまま言った。
「今回、ことこちゃん本気なの。よそに戦争をしかける迷惑な人は徹底的におしおきするの」
「あ、うん……そやな、うん」
 後ろから撃たれないせいでかえってペースが狂うという謎の状況に陥った時雨である、がしかし。
「ことこさん頭下げっ――!」
 ショットガントレットを嵌めて背後から飛びかかってきた敵相手に、時雨は槍を振り込んだ。

 この正面突破作戦で脅威になるのは第五覚醒隊ばかりではない。
 『開発部隊』と呼ばれ、ヒノマル陸軍の兵器開発とその実験に携わるチームもまた驚異となっていた。
 実名を隠しアルファからゼータまでの記号がふられた六人。ファイヴと戦った回数で言えば最も多いのがこのチームである。
 そんな彼らに対抗していたのが、酒々井・千歳(CL2000407)と水瀬 冬佳(CL2000762)のペアである。
「今回もかなりの規模になったね。いこうか、冬佳さん」
「合わせます、酒々井君。今更ですが、無理はダメですよ」
 二人は抜いた刀を交差させ、正面から飛んできた特殊毒性グレネードを切断。
 重ねるように打ち込まれた付呪ライフル弾を左右に飛ぶことで回避。
 刀を横一文字に振って衝撃を飛ばす千歳に対し、全身を重装甲で包んだ兵士が飛び出すことで突破――をはかろうとした所に冬佳の伊邪波が襲った。
 物特両端からの攻撃に防御の崩れる敵。千歳と冬佳は無言のまま息を合わせると、同時に斬りかかった。
 ディフェンダー仕様のショットガントレットで無理矢理受け止める敵。
 そこへ、坂上 懐良(CL2000523)と田中 倖(CL2001407)が割り込んでいく。
「おっ、いたいた俺のハニーちゃんたち! 知らない仲じゃあないし、相手してやるか!」
「お知り合いですか」
 眼鏡のブリッジを小指で押し上げ、横目で見る倖。
「ショットガントレットくれた人たちだ。あと俺の彼女だ」
「相手はそのつもりではないようです」
「知ってんじゃん」
 ゆーよねーとか言いながら指さす懐良。
「つーわけで行くぜハニーちゃんたち! 俺に勝ったらメアド教えてやんぜ!」
 刀を抜いて飛びかかる懐良。
 ゼータが強化義翼をはためかせ、無数の霊子ビットを放ってくる。
 それを刀で切り落としながら突き進む懐良――をハイジャンプで飛び越えて、倖はアルファへと飛びかかった。
「ここまでの無謀な動きは、悪い大人の見本ですね」
 対するアルファはパンチ動作によってガントレットから炎弾を連射。
 攻撃をあえて避けず、倖は流星キック。接触時にインパクトを放ってアルファを吹き飛ばした。
 戦力的にこちらが下回っているとはいえ、相手の癖やスペックを把握することで差を埋め、今や戦いは両者互角。
 暴力坂乱暴の待つ最深部へは、当初予定していた百パーセントの戦力を送り込むことに成功したのだった。

●暴力坂乱暴
 広すぎる畳部屋。柔道試合を四つまとめて行なえるような広間は実際、暴力坂乱暴の屋内トレーニングルームだった。
 そのド真ん中で一人、熱い茶を手にしていた。
 湯飲みを口に持って行ったところで、ぴたりと止まる。
 口につけることなくゆっくりと床に置き、暴力坂は立ち上がった。
「ああ、来たか」
「予告通り」
 カトラスの射撃安全装置を解いて、児戯のような構えをとる白髪の女。
 俗称、深緋・久作(CL2001453)。
「正直な、どっかで勝手に死んでて、俺がガッカリするパターンだと思ってたぜ」
「私はそれでも良かったんですけれど」
「『あの女』の魂が流れ込んだだけのこたぁある。何考えてるかわかりゃあしねえ」
 語りつつも、久作はひとつたりとも歩みを止めてはいない。
 ずかずかと畳を土足で踏み、五歩の距離まで近づいた所で大きく加速。暴力坂の首に剣を振り込んだ。刃は暴力坂の首筋の肉へ難なく滑り込み、左から難なく抜けていく。
 ――かと思いきや、暴力坂の影はかすむように消えた。
「残像だ、なんつってな」
 意識の隙に割り込むように、久作の眼前に突如として現われた暴力坂は彼女の顔面を容赦なく殴りつけた。
 地面と水平に飛び、黒光りした木造の柱をへし折りながら止まる久作。
 一方の暴力坂は手をぷらぷらとやりながら顔をしかめた。
「なんだぁ? テメェ魂でも使ってきたのか」
「道中」
 がらりと木片を散らして粉を巻き上げながら、久作は立ち上がった。
「捨てて参りました」
「うーん、控えめに言って頭がおかしい」
「そちらが生き死にをかけるなら丁度いい対価でしょう。いざ尋常に――」
 久作。今度は一歩目から最加速。
 剣の突きが暴力坂の拳とぶつかり合った。鋭い切っ先が、なぜか拳を通らない。
 が、構わず零距離でフルオート射撃。驚き顔の暴力坂は両手が数十本に増えるほどに加速しながら飛び退いた。
 弾は受け止めた。しかし殺しきれない物理エネルギー。今度は暴力坂が吹き飛ぶ番だった。
 真空を殴りつけて体勢を整えるという無茶苦茶な動作の後、畳に足と拳でブレーキをかける。
 その時、部屋を囲む三つの扉が開いた。
 それぞれから現われたのは一色・満月(CL2000044)、天楼院・聖華(CL2000348)、諏訪 刀嗣(CL2000002)。
「七星剣幹部。全員屠る、例外は無い」
「改めて名乗るぜ!俺の名前は天楼院聖華!正義のヒーローだ!」
「櫻火真陰流、諏訪刀嗣。いざ尋常にって言うにゃ邪魔が多いけど、本気で行くぜ」
 三人が同時に刀を抜き、同時に襲いかかる。
「出てこい軍刀」
 暴力坂が唱えると、虚空から軍刀が飛び出した。
 キャッチ、抜刀。鞘と刀身で満月と刀嗣の斬撃を同時に弾くと、頭を下げて聖華の斬撃を回避した。
 奇跡的に合致した三人の連係攻撃だが、合致したのは最初の一振りだけである。
「この期に及んで出し惜しみするんじゃねえぞ! テメェの百年、食らわせて貰うぜ!」
 周囲を押しのける勢いで斬りかかる刀嗣。燃え上がる刀身の炎が青白く暴れた。
 暴力坂は刀嗣の手首を蹴り上げることでそれを妨害。加速した足が増えて見え、刀嗣の胸を突き飛ばす。
「暴力坂! お前の正義と俺らの正義、きっと両方正しいぜ! どっちが勝っても日本を引っ張っていけるさ! 後はどっちが強いかだけだ。行くぜ!」
 ふたふりの刀を自在に操り、周囲の風景ごと切り取っていく聖華。
 刀の放つ輝きが部屋を強く照らすが、暴力坂は斬撃を肌に滑らせるように弾いて聖華の襟首を掴み、刀嗣の飛んでいった方向へとぶん投げる。
「好かれたものだな、暴力坂。お前は俺の両親を屠った奴か? それとも知っているのか?
 それだけ吐いてから死ね」
 満月の高速連突が大気を吹き払う勢いで放たれるが、暴力坂はその全てを指でつまんで止めていく。
 最後には拳を突き出し、剣を正面から殴りつけた。
 衝撃が走り、動きを強制的に止められた満月――を勢いよく一本背負いモドキで投げ飛ばす。
 三人は重なって壁にぶつかり、はじけるように転がった。
「馬鹿野郎! 三人いっぺんにごちゃごちゃ話しかけてくるんじゃあねえよ! 並べ! 一列に!」
「うるせえ! だったら俺が先頭だ!」
「他人に譲る暇はない。答えてから死ねと言っているんだ」
「俺は皆が好きだ! だから皆を命がけで守るんだ!」
 暴力坂の見立てによれば、ファイヴにチームプレイなんていうものはない。
 あるのはスタンドプレイから生じる結果的なチームワークだけだ。
 個々人が好き勝手に主張し、好き勝手に前へ出て、好き勝手に力を振るい、好き勝手に帰って行く。
 まるで民衆の縮図だ。
「だが、それでこそ」
「「暴力坂!」」
 全くばらばらに、しかし一点の曇り無く放たれる剣。
 その全てが暴力坂の右腕を貫いた――その直後、ずんと踏み込んだ足の衝撃に三人は訳も分からず吹き飛ばされた。
 壁をぶち抜き、屋外へと転がり出ていく。
 そう、ここは敷地内にあって独立した道場なのだ。
 湯飲みを片手に歩み出てくる暴力坂。
 残った中身を飲み干すと、それを放り捨てた。
「端から順番に応えるぞ! 金髪! 俺くらい強くなりたかったらあと80年修行しろ! 白髪! 俺は正義を語ったことはねえ、そういうのは民衆向けの詭弁なんだよ! ヘッドホン! 俺が直接殺した奴は全員覚えてるがテメェに似た奴は知らねえ! 以上だ馬鹿野郎!」
「結局全員応えてるんじゃねーか……」
 獅子王 飛馬(CL2001466)が刀を抜いて構えた。おなじみ防御の構えである。
 着流しの表面に石の鱗を纏い、その表面を水気の膜で覆い、目を閉じて念じ、ゆっくりと型を揺らがせていく。
 その型を見て、目を細める暴力坂。
「この前の戦いで思ったが、お前ら……戦争の中で強さがワンランク上がってるな」
「どう、でしょうね。自分では、分かりませんが」
 歩み出た神室・祇澄(CL2000017)が、双刀を抜いて握り込んだ。
 途端、二人の刀に魂の輝きが宿った。
「やべえ」
 暴力坂は咄嗟に防御。
 構わず飛び込んだ祇澄は相手の防御に刀をとんと押し当てることで防御を崩させ、流れるように突きを繰り出す。
 吹き飛ばされ、無理矢理道場内に戻された暴力坂は空中を三十回ほど回転してから無理矢理空中制動――をかけた所へ祇澄が眼前へ接近。
 前髪がふわりと上がり、光る目が暴力坂の驚いた顔をとらえた。
 輝く刀の軌道が七十回ほど十字を刻み、一拍おいて大上段から打ち付ける。
 それを、暴力坂は拳を翳すことで受け止めた。今度は暴力坂が打ち込む番だ。空中に刀軌道の卍模様が大量に描かれ、その全てが祇澄へと押し寄せる。暴風が彼女の巫女服をはためかせた。
 結果。
 暴力坂乱暴、無傷。
 対して。
 神室祇澄、無傷。
 何故にか。
「暴力坂。巌心流一子相伝奥義」
 暴力坂の放つ剣を、飛馬が全て受け止めていたいたからである。
 ギラリと目を光らせる暴力坂。
「そいつは、『獅子奮迅』」
「いかにも」
 暴力坂を討ち取ろうと、相手を妖しく絡め取るかのような剣術で攻めていく祇澄。
 暴力坂を受け止めようと、変幻自在の剣術で衝撃を周囲に逃がしていく飛馬。
 その二人をさばくべく非常識な軌道で剣を操る暴力坂。
 飛馬、暴力坂、祇澄の三人は余人にはまるで読み取れないほどの練度でもつれあった。
 あえて常人の目から表現するなら無数の蛇が絡み合うさまであり、火花で覆われた煙の球体であり、鉄板を斬るチェーンソーの騒音である。
 しかしやがてはそれも終わる。
 飛馬が蹴り飛ばされ、道場の天井を水平発射で突き破っていく。
 道場に残ったのは、赤く火照った肌を晒して、着崩れた巫女服をそのままに立つ祇澄。
 そして、三十代の若々しい姿をとった暴力坂乱暴である。
 祇澄は刀を一本放り捨て、もう一本を鞘に収める。
 居合抜きの構えである。
 暴力坂もまた、刀を鞘に収めた。
 言葉を交わす必要はない。
 男と女。
 刀と刀。
 それが今この世界に存在する全てである。
 空中を思うさま泳いだ飛馬が大地に激突した刹那、暴力坂と祇澄は動いた。
 影、交差。
 閃、交差。
 振り抜き姿勢で背を向け合った祇澄と暴力坂。
 祇澄の前髪が斜めにさっくりと斬れ、はらはらと落ちていく。
 さらには彼女の刀も途中でぽっきりと折れていた。
 膝を突く祇澄。
 一方で美しく振り抜いたままの暴力坂。その手には、刀は無かった。
 くるくると空中を回り、祇澄の眼前へと突き刺さる。
 と同時に、暴力坂の腹が十字に裂けて血を吹いた。
「一本だ。そいつはくれてやる」
「……」
 祇澄は応えなかった。全身全霊を出し切り、既に意識がなくなっていたのだ。

「まあ、こんなもんだろう。魂特攻かましてくる奴が二人……あいや三人もいりゃあ多すぎだ。この前は五人……いや、正確には三人くらいか、よし。後はなんとかペース配分をして……」
「暴力坂」
 指折りする暴力坂の前に、時任・千陽(CL2000014)が立ち塞がった。
 彼の左右には切裂 ジャック(CL2001403)と犬山・鏡香(CL2000478)。
 そして後ろに環 大和(CL2000477)。
 四人すべてが魂を輝かせていた。
 顔を両手で覆う暴力坂。
「もうやだこの組織」
 ジャックは言霊を鎖で繋ぐように力に変えていく。
「前に考え直せって言ったがやっぱりこうなるか。軍人てば度し難い。戦いの中で死ぬのが誉? いいよ、そんなに戦場が好きならここで死ね。平和とは一番遠い方法で今日必ず決着をつける。命を安易に落として欲しくはない。暴力坂であっても。暴力坂、お前の命を救えなかった俺を、地獄で笑うがいい。俺は救世主じゃない。俺は勇者じゃない。俺はただの切裂ジャック。俺は友と暴力坂を天秤にかけた結果、友を取っただけの話。これが俺の意思と意志。腕だろうが目だろうが魂だろうがお好みの場所を犠牲にしてやる。善悪関係無く千陽との一蓮托生をきっちり果たす。殺せぬ俺の代わりに殺してくれ、必ずな」
 長い長い語り口が千陽に力の鎖となって巻き付き、千陽はただ『はい』とだけ言った。
 まるでマネするように、鏡香も言葉の鎖を繋いでいく。
「ヒノマルの考え方は間違ってるとは思わないけどサー。ちょっと血を流しすぎだよー。それじゃあ普通の人達はついてこないよ。わかっててやってるんだろうけどさー。おじいちゃんたちにヤな役目ぜーんぶ押し付けて平気だと思ってほしくないナ! わからずやのセンパイにガチコンいっちゃえショーイ! 後の心配はいらないよ。ボクもショーイもFIVEの人達も。それにキミの部下もいるんだから日本は絶対守るもんねー!」
 背中をばちんと叩かれて、千陽はもう一度『はい』と言った。
 最後に、千陽は自らに巻き付いた力の鎖に自分の魂の輝きを灯していった。
「貴様はまた違った形の日本の未来の偶像であったのだろう。日本の国土を増やす。それは大願であり宿願だった。しかし、今の世でそれは広がる戦火でしかない。軍人とは誰よりも平和を希求する存在だ。この国を血と硝煙の戦火に晒すわけにはいかない」
 ナイフを抜いて走る千陽。相手の心臓を一突きにして殺す、およそ軍人らしからぬ突撃である。
 暴力坂はそれを、正面から殴りつけるという文字通りの暴挙によって相殺。
 へし折れて飛んでいくナイフ。
「暴力坂ああぁ! この国の未来は俺達が佳いものにする! 俺たちに任せろ! 過去の亡霊は過去に帰れぇえ!」
「ええいなんかもううるせえ!」
 至近距離で拳銃を抜き合う二人。額めがけて放った弾を、直前になってかわす。
 外れた弾が道場の壁や天井にめり込んでいく。
 相手が引き金を引ききる寸前に腕で払って軌道を反らす神業を違いに幾度も繰り返すのだ。
「てめえはいい軍人だよ馬鹿野郎!」
 やがて戦いに加わるジャックと鏡香。
 大和もまた戦いに飛び込んでいく。
「私が皆を支えるわ。千陽さんにはお世話になってるしね!」
 長い黒髪が銀色に染まり、瞳が妖しく紫色に輝いた。
 太ももに巻いた護符のホルダーがひとりでに開き、無数の札がビット化して空中を飛び交っていく。
 紐付けした親機とも言うべき一枚に口づけをすると、回復術式の雨を降らせていく。
「色々気にせず、全力でいって頂戴」
 ジャックや鏡香たちがサポートする中で、千陽は暴力坂に銃をぶっ放し、残弾の限りを叩き込む。
 一方で暴力坂はそれを正面からはねのけながら突撃。
 銃を捨てた千陽と暴力坂は拳をぶつけ合い、衝撃が道場を激しくきしませる。
「暴式戦車砲!」
「そんなもの!」
 とてつもない衝撃が更に加わり、ジャックたちが吹き飛ばされていく中、千陽だけは踏みとどまって対抗した。
 かつてないまでのパワーが、千陽の全身をあらゆる意味で支えているのだ。
 まるでジャックや千景、そして大和たちが彼の背中を押しているかのようだった。
 道場を削るように、爆発のような音が幾度となく続く。それは永遠に続くかのように思われた。

 戦いの音が止んだのは、どれくらいの時間が経ってからだったろうか。
 倒れた千陽たちを背に、ほぼ崩れかけた道場を出る暴力坂。
 体中が傷だらけだったが、そのことを意にも介さない様子だった。
 まるで無限に傷付けられようと倒れないとでもいうかのように、平気な顔で歩いている。
 血でべったりとかたどられた足跡だけが、彼の傷の深さを表わしていた。
「これ以上はやべえかもしれねえな。破綻しかねん」
 が、しかし。
「……どうも」
 柳 燐花(CL2000695)と蘇我島 恭司(CL2001015)が立っていた。
 暴力坂の背後でがらがらと崩れていく道場。
 敵前。距離にして七メートル。
 でありながら、燐花は真横の恭司へしっかりと向き直った。
「前にお伝えした方法で、総てをぶつけて参ります」
「……うん、気をつけて」
 そこまで言ってから、恭司は頭をかいた。
「いや、悔いが残らないようにね。できる限りのことはするから」
 親戚のおじさんかなにかが言うようなことを述べて、恭司は手を翳した。
 燐花の頬か髪か、どちらに触れようかとさまよった挙げ句、どこにも触れずに手を下ろす。
「頑張ってね」
「はい、頑張りますね」
 その間、暴力坂はぼーっと虚空だけを見上げていた。
 敵前でありながら、自分はその世界にいないかのような気配の消しっぷりである。
 やがて自分へ向き直った燐花に、暴力坂は咥えかけていた煙草をしまった。
「いいか」
「はい。今まで何度もお相手頂いておりましたが、これで最後ですので」
 燐花は少女のように身構え、乙女のように魂を輝かせ、女のように世界を圧縮した。
 誤解の無いように述べておくと。
 全力を出した完全装備の暴力坂乱暴に対して百パーセント完璧に先手をとれるファイヴ所属覚者は今のところ、柳燐花ただ一人である。
 最大速度、測定値にして300オーバー。
 ファイヴトップクラスの練度と速度を誇り、かの逢魔ヶ時紫雨をも出し抜いた優秀なハイスピードプレイヤー。
 彼から盗んだ速度依存スキルの予測威力は400をゆうに超え、特別な小太刀から繰り出される技は肉眼でとらえることすら困難とされる。
 ……といったあらゆる全てが、今やどうでもよかった。
 どうでもよくなるくらい、燐花の身体が軽かった。
 地球の重力が意味を成さない。
 太陽が冷たく感じ、大気圏などシャボン玉の膜に等しかった。
 今なら宇宙を飛び回れそうだった。
 火星と木星を飛び越えて、土星の輪をくるくると回れそうだった。
 その理由を、彼女は確信していた。
「速い、重い、そして強い!」
 燐花の繰り出す異常なまでの超高速連続攻撃を360全面から受けながら、飛び上がった暴力坂はギラリと笑った。
「恋する乙女か、相手にとって不足無しってな!」
「……ふ」
 燐花が頬を朱に染めて笑った。
 柳燐花が頬を染めて笑ったのだ。まるで奇跡のようなその一瞬。
 心臓を打ち抜くような一瞬に、燐花は文字通りに心臓を七十七度打ち抜いた。
 だが同時に、燐花の胸も銃弾によって貫かれていた。
 血をふいて跳ねる燐花。
「燐ちゃん!」
 彼女をキャッチして、恭司は力の限りの回復術式を練り上げた。
 それを受けて、燐花は安らかに目を閉じた。
「……お疲れ様」
 恭司は笑って、燐花を抱えたままその場を離れた。

 ファイヴトップクラスの戦力が魂の輝きをもってして次々と挑みかかったのだ。
 さしもの暴力坂乱暴とて無事とは言いがたい状態だった。銃は弾切れ。刀も置いてきた。
 逆に言えば、それだけの戦力を投入しても倒しきれないほどの相手だということである。
 しかし、それも永遠ではない。
 自らの肉体が限界に近いことを、暴力坂は自覚していた。
 それを囲んだのが、これまた壮観。
 華神 悠乃(CL2000231)。
「あなたと最も殴り合ったひとりとしては、きっちり締めくくりたいんですよ」
「顔の覚えられねえ連中じゃ物足りないからじゃあねえのかい」
「昔のことじゃあないですか」
 その後ろに、天明 両慈(CL2000603)。
 指ぬきグローブをキッチリとはめ込み、悠乃の背中を見つめていた。
「俺も行く。力の限り支えるぞ、悠乃」
 二人は愛のある視線を一度だけ交わして、そして頷き合った。
 一方、暴力坂の右側を塞ぐように立つ四条・理央(CL2000070)。
 五色の札を扇状に広げ、完全戦闘状態で構えている。
「本来の戦争以上にスポーツめいた戦争もこれでおしまい」
「半端な決着では禍根を残す。完全な決着をつけなければならない、か」
 反対側では、諸肌を晒して扇を広げるゲイル・レオンハート(CL2000415)。
 そして、背後を塞ぐように立つ八重霞 頼蔵(CL2000693)。
「ファイヴのような研究機関になぜこんな真似を? 正義の味方でも探しているのかね」
 取り囲む。
 多対一の戦いではもはや常識のような布陣である。ともすれば卑怯と考えてしまう者もいようか。
 だが、『多対暴力坂』である場合、むしろこれでも足りないと言って良かった。
 現にここに居並ぶ五人が、軍団によって袋小路に追い詰められたかのような焦りを感じていたのだ。
 世の中には『手負いの虎』という言葉があるが、暴力坂の状態がまさにそれである。
 あと一息などとは思えない。必死にくぐり抜けなければこちらが死ぬ。そういう状況なのだ。
「さてと」
 首をごきりと鳴らし、暴力坂は笑った。
「暴力坂流乱闘術、今代最後のお披露目だ。来やがれ馬鹿野郎!」
 爆発がおこった。
 真っ先に飛びかかろうとしていた頼蔵が顔面を掴まれ、近くの大学棟へと暴力坂もろとも突っ込んだのである。
 周囲の風景がスローモーションで崩壊していき、ありとあらゆる道具が宙に浮く。
 追って飛び込み、ゲイルと理央がアシンメトリーな舞いを踊った。
 散ってははじけるエネルギーの本流が頼蔵の拉げた全身を強制修復。
 零距離で拳銃を胸に押し当てフルオート射撃。
 暴力坂は彼の拳銃を握力だけで拉げさせ、膝蹴りでもって棟の外に放り出した。
 それを途中でキャッチし、押し返すゲイルと理央。
 彼に並んで棟へと飛び込んできた悠乃が、自らの手足と尾を連続で浴びせていく。
 暴力坂は近くをスローモーションで通り過ぎようとしていたモップを手に取りガード。へし折れるモップ。更にバケツを掴んでガード。ぶち抜かれるバケツ。更にこんにゃくのゼリーを手にとってこれじゃあダメだと投げ捨て、手近なパイプ椅子を掴んで悠乃に叩き付けた。
 曲がるとか折れるとかそういう次元ではない。爆砕したパイプ椅子と血をまき散らす悠乃。
 彼女の背中に掌底を入れ、治癒の術式と共に押し返す両慈。
 全身を強制修復された悠乃と、戦線に戻った頼蔵はそれぞれの全力を叩き込む。
 対して暴力坂はそれぞれの攻撃をその辺にある板やらボールペンやら鞄やら高そうな測定機材やらで相殺しつつ、ついでに悠乃のしっぽを掴んで頼蔵へと叩き付ける暴挙に出た。
 まとめて吹き飛んでいく頼蔵と悠乃。
 回復をしようと素早く動いた両慈たちだが、暴力坂が大地を殴りつける方が早かった。
「暴式、戦車砲!」
 大地が砲台となり、全ての物が上空めがけて打ち出される。
 それはそこら中にある道具は勿論、両慈や理央たちはおろか、大学棟そのものでさえも例外ではなかった。
 まとめて吹き飛んでいく。
 吹き飛び、落下し、雨のようにがれきが降り注ぐ。
 その中に、無事なものなどまるでなかった。
 暴力坂を覗いて誰も立っていなかった。
 否。
 このタイミングで暴力坂の元へとたどり着いた者が、立っていた。
 飛騨・沙織(CL2001262)、ただ一人である。
 彼女の目を見て、暴力坂は一言。
「自分で考えたみてえだな」
 沙織はただ一言。
「覚者か隔者かは、私が決める」
 そうとだけ言って、刀を抜いた。

 たとえば、トラックに轢かれそうな女子高生を命がけで助けるというおなじみの善行がある。
 その理由をわざわざ問う者もなければ、その是非をわざわざ議論するまでもない。
 たとえそれまでの行ないが引きこもりのニートだろうが快楽殺人鬼だろうが性犯罪者だろうが大体その場で善行が認められる。
 では。
 悪人が死にそうな時に助けることは善行だろうか。
 殺すべき人間を殺さなかったことの是非は。
 人が往々にして陥る自縄自縛のパラドクス。
 その答えを、飛騨沙織は齢15にして獲得していた。
「貴様を止める。貴様を止めると、私が決めた」
 沙織は風より早く暴力坂へと斬りかかった。
 その場にあった鉄パイプを叩き付けてガードする暴力坂。すっぱりと切れて飛んでいく鉄パイプを無視して、切断面を沙織めがけて叩き込む。
 沙織は防御の一切をしなかった。
 その代わりに刀を暴力坂へと突き立てる。
 互いで互いを貫き合う。肌を合わせ、血を溶け合わせ、生命をかけてぶつかり合う。
 まるで性の交わりのようだった。
 まるで生命の始まりのようだった。
 そして実際は、生命の終わりそのものだった。
「私と心中しろ、暴力坂。嬉しいだろう」
「嬉しいねえ、テメエみてえな美少女が俺と心中するなんてよ」
 沙織は何かを言いかけて、苦しげに笑った。
「それは、私が皮肉で言おうとしたんだ」
 たった一刺し。
 それで、二人はもつれるように倒れた。
 倒れて動かなくなった。
 まるであっけない。
 日本最大隔者組織、七星剣幹部。
 ヒノマル陸軍総帥。
 暴力坂乱暴。
 享年100歳。
 昭倭93年初旬、死亡した。

 獅子神・玲(CL2001261)はがれきの山を苦労して乗り越えながら、先を急ぐように走っていた。
 とても嫌な予感がしたのだ。
 大事なものを喪う予感がしたのだ。
 その予感は、実感に近い形で彼女の心中を駆け巡っている。
 友、沙織の見せた後ろ姿。
 かすんで消えそうな背中。
 次のクリスマスを一緒に過ごそうというあの約束と、その奥に見えた流星のような光。
 そして、鉄骨を押し倒して現場へたどり着いたその時に、すべては現実のものとなった。
「沙織!」
 暴力坂ともつれるようにして倒れる沙織の姿。
 駆け寄って、持てる回復術式の全てを流し込む。
 しかし底の抜けたカップに水を注ぐが如く、次々と流れ落ちていった。
「まって」
 回復術式。
 流れ落ちる。
「まってよ沙織、置いていかないで!」
 回復術式。
 流れ落ちる。
「無茶しないって言ったのに」
 回復術式。
 流れ落ちる。
「なんでこんな、こんな酷い嘘……!」
 回復術式。
 流れ落ちる。
 枯渇した気力にも構うこと無く、無意味な空振りをし続ける。
「沙織がいないとダメなんだよ!」
 ついには自らの魂をえぐり取ってまで、沙織に回復術式を浴びせかけた。
 だというのに。
 彼女は目を開くことは無かった。
 永遠に。

 すがりついて泣く玲を、同じタイミングでたどり着いた紅崎・誡女(CL2000750)と諏訪 奈那美(CL2001411)が見下ろしていた。
「死者は生き返らない」
「それでも、試す価値はあります」
 二人は暴力坂の死体を抱え上げ、自らの魂を切り取って注ぎ込んだ。
 魂はいわば命の灯火。たとえば消えた蝋燭に火を移すかのごとく再び燃やすことができるやも。
「私は貴方を止めに来たのです。殺して良しとはしたくありません。それに文字通り死ぬほど頑張ったのです。貴方の部下で納得しない人もいないでしょう。貴方達はこの国が好きなのでしょう。私もそうです、この国の人達を守りたい。犠牲を出さずにこの国を守る術を共に探して下さい。またこれを繰り返すなら何度でも止めてみせます。だから……」
 血まみれの身体を抱きしめる奈那美。
 しかし。
 暴力坂の蝋燭に火が移ることはなかった。
 その例えで言うなれば、蝋を使い切った蝋燭に二度と火が宿らぬように。
「望まぬ死や、奪われた命ではなく、天寿の全うだと言うのでしょうか」
「恐らくは……」
 言ってから、誡女は自分の喉や血流がかつての自分同様に復調していることを自覚した。
 まるで駄賃はいらないと返されたかのようだった。まるで足りないようには思うが。
「せめて、この地に埋葬しましょう。部下もそれを望むでしょうから」

●代償代価
 かつてないほどに魂の輝きをみせたこの戦争いは、暴力坂乱暴の死という形で終戦を迎えた。
 玲や奈那美、誡女たちの力は彼女たちの望む形で形を成しはしなかったが、代わりに各方面で思いも寄らない変化をもたらしていた。

「おい、なんだあこりゃあ……?」
 両腕を失い、仰向けに倒れていた第二覚醒隊長、久米ヒサシ。
 彼はいつのまにか元通りになっていた腕を見て思わず飛び起きた。
 目の前には血まみれで粗く息を整えるミュエルが、頬についた血と髪をぬぐっている。
「終わったみたい、だね……」
「こりゃあ、かなわねえなあ」
 苦笑して武装解除の合図を出す久米。
 隊員たちは皆一様に武器を捨て、小豆衆たちも変化を解いた。

 仮面を落としやけどまみれの顔をさらす黒人男性。
 第一覚醒隊長、忍日シノブの素顔である。
 目の前では、仮面が砕けて横たわる紡の姿があったが、二人は血まみれであることを覗いてはなんの外傷も残っていなかった。
「奇跡の光かぁ……こうまでされては、完敗だなぁ」
 両手を挙げる忍日。
「誰も、死んでいやがらねえんですか……?」
 よろよろと起き上がった紡は、ボートの周りでわけもわからずきょろきょろとする敵味方の風景を眺めた。

 海底に沈み行く者が居る。水芭忍軍のリーダー、水芭ハヤテである。
 彼は無数の古妖イルカによって支えられ、水面へと引き上げられた。
 息を大きく吸い込む。イルカの上にバランス良く立ったありすが、彼を見下ろしている。
「俺は、死んだのか。無愛想な天使が見える」
「焼き殺すわよ」

 琵琶湖にショタがいた。
 語弊や誤解を恐れずにもう一度言おう。
 マントを羽織った派手なショタが誕生した。
 たまきがその顔を覗き込む。
「あなたはもしかして……残虐大帝さん、なんですか?」
「そ、そんな目でみるな! 我はざんぎゃくたいてーなるぞ! この世をあんこくにみたしてやるのだ! ぐたいてきには……えっと、えっと……なんだっけ」
 みるみる気分をしぼませていく残虐大帝。この際だからざーくんとか呼んじゃっていいと思う。だって紡のねじ込んだキャンディをあまーいとか言ってほわほわしているのだから。
「所であいつはどうしたんだ? 弓矢を撃ってたあの」
 カクセイジャーたちに言われて周囲を見回すが、残虐大帝を支援していた八幡ヤハチの影は既に無かった。
「逃げた、のか……」

「貴様、などに……わかるまい……我が、軍の、使命……」
「うる、さい」
 ヒノマル天狗の長、風車。彼と小唄は渾身のパンチを出し合い、互いの頬にめり込ませた。
 ぐらりと傾き、両者仰向けに倒れる。が、風車はすぐに立ち上がった。
「諦め、ないぞ。我々、は……大日本帝国を取り戻し、平和な……未来、を……」
 目を瞑る風車。疲労のあまり意識が途絶えただけだと気づき、小唄も起き上がるのをやめてそのまま倒れた。凍った湖の、なんと気持ちよいことか。

 折れた刀が、大地に刺さっている。
 禍ツ神、地獄刃鉄の本体ともいうべき刀である。
 数多はそれを見下ろして、自らの写刀・愛縄地獄を鞘に収めた。
「あなたを倒したら、私も禍ツ神になっちゃうのかしらね」
『否、貴様は既に禍ツ神だ』
 ハッとして振り返る数多。そこには誰も居ない。
『貴様だけではない。あの場にいた皆、禍ツ神になりかけている』
 周囲を見回して、やっと、自分の脳内から響いているのだと気づいた。
 幻聴だろうか。
 問いかけてみても、もう答えは無かった。
 まるで自らに溶けて消えたように、もう何も聞こえてこなかった。

 木の幹にめり込む形で、第四覚醒隊長である健御ケンゴは血を吐いた。
 そして、ゆらりと立ち上がる。
 戦闘能力を喪っても尚動ける。そうだ、こいつはそういう奴だ。
 プリンスはハンマーを担いでそう思った。
「どっちがいい? 裁判官のハンマーで片付けてもらうのと、自分で片付けるのと」
「暴力坂殿が死んだ」
「……」
 プリンスは黙った。まるで直感のように走った暴力坂が死に行く気配が、自分だけの幻覚ではないと知ったからだ。
「お前にも分かるか。そうか。なら、そういうことなんだろうな」
 答えにはなっていないが、プリンスはそれを答えとした。

「「いつもピョンピョン!」」
「「楽しさもとめて!?」」
「「ハジケチャエー!!」」
「ぴょんぴょん党!」
 男たちとゆかりがカラオケセットで盛り上がっていた。
 マラカスを無表情で小刻みに振る第六覚醒隊長、大黒トモカズ。
 ゆかりと視線を交わし、そのテンポを早めていく。
「ゆかりまだまだ歌えますよ!」
「よし、もうワンループいこう!」
「「イエエエエエエエエエイッ!!」」

 片膝をつく道化めいた仮面の男。第五覚醒隊長、威徳ヤマタカ。
 それを前にして、桃と浅葱は満身創痍だった。肩を預け合い、よろめく。
「なんとか、勝った……わね……」
「せいぎの、しょうり……ですっ……」
 ぐらんと傾き、二人はまとめて倒れた。
 その奥ではここぞとばかりにやってきたゴウハラ博士とハラスエ博士が、開発部隊とメアド交換中の懐良たちにアクセスしていた。
 今女の子のアドレスふりふりしてるところでしょうが! とか言ってぶち切れる懐良を一旦羽交い締めにする仲間たち。
 博士たちは自分のはげ上がった頭や出っ張った腹を撫でながら言った。
「総帥から話は通してある。終戦後、我々ヒノマル陸軍は解体。フリーになったメンバーが他の組織に流出しないよう拘束する権限をファイヴに与えるものとする。この時自軍へのスカウトは自由にせよとのことだ」
「つまり?」
「がんばり次第でヒノマル陸軍の軍事力を吸収できるということだな。普通ならお互い喧嘩しまくって『全員の首をはねろ!』とか言い出すものだが……」
「何それ恐い」
「これまでの戦争期間中、ファイヴはきわめて誠実に戦ってきた。沖縄決戦においても『妖を押しつけてこの期に闇討ちしてしまえ』なんて考えず、共に戦ってくれた。その甲斐あって、軍の隊員たちの多くはファイヴの考えに賛同するつもりのようだ」
「つまり女の子のアドレスが増える?」
「あなたはそればかりですね」
 梓がため息交じりに言った。書類仕事が増えそうだ。

 百人規模対百人規模。
 本来なら数十人の死者が出るべき戦争において、両軍の死者はたったの三名であった。
 暴力坂の死体を床に置き、手を合わせる誡女。
 奈那美が兄弟でなにかごたごたやっているが、関わるべきものでもなかろうと無視している。
 ふと見ると、玲が沙織に今もすがりついている。
 人の死。
 あまりに簡単に、あまりに自然に訪れすぎる。
 15年しか生きていないというべきか、15年も生きたというべきか。
 どちらにせよ、自らの強い決意をもって、宿命に向き合いながら、彼女はこの世を巣立ったように、外からは見えた。
『泣かないで、私の愛しい親友。私の分まで、幸せになって』
 沙織の声が聞こえた気がして、玲ははたと顔を上げた。
 いや、確かに聞こえたのだ。
 魂の限りを注ぎ込んだことで、たとえ底の抜けたカップであろうとも残った滴が彼女にだけ聞こえる声となって昇華したのである。
 ……ならば、暴力坂は?

●暴力坂乱暴、ロスタイム
『なにしてくれてんだテメエ馬鹿野郎』
 空中になんか浮いていた。
 あぐらをかいて腕組みをする、100歳のジジイが浮いていた。
「あの……」
「暴力坂、さん……?」
『死んでるってえのに無理矢理引っ張るもんだからオメエ、こんなワケのわからねえ状態になっちまったじゃあねえかよ』
 ぽかんと見上げる誡女たちに、暴力坂は苦々しい顔をした。
『いわゆる幽霊ってやつだ。化けて出たんだよ、ものの数分で。こちとらこれから成仏するところだってのに』
「あの、待って、ちょっと待ってください」
 何を言おうかかなり迷ったが、誡女にはそれくらいしか言うことがなかった。急いで理論を組み立てる。
「このままファイヴに来て頂いて、神秘解明の手助けをしてくれま――」
『やだ』
 ジジイの幽霊は鼻をほじって言った。
 言うに事欠いて『やだ』ときた。
『ファイヴってえのは立派な組織だが、いかんせん戦争に忌避感がありすぎていけねえ。戦争には負け方ってもんがあるんだよ』
「負け方、ですか……」
 それは、誡女が長らく考えていたことだ。ファイヴにとっての敗北とは何か。
『戦争ってのはただの手段だ。石器時代以前の奴らが仕方なく殺し合いでつけてただけでな、21世紀ともなると様変わりしてんだよ。全部が全部』
「と、言いますと」
『話し合い。条約。武力による抑止。金の請求や法律の操作。全部戦争の一部だ。つーか、現代の戦争は大体コレだ。核ミサイル一本で世界が終わるような世の中だぞ? 今更戦車と鉄砲でカタがつくわけねえだろ』
「………………」
 まんまとはめられた、ように思えた。
 暴力坂は、まるで『海外に言って沢山人を殺します』と言ったようにみせかけて、それは全てこちらの思い込み似すぎなかったと……今、言い切ったのだ。と言うか、この分だとヒノマル陸軍内部ですら欺いている気がする。
『戦争の終わり方は、両者が納得することだ。大体が快くとは行かねえが、大体の連中が快く納得すれば一番いいわな。その後の反乱が起きねえからよ』
 それは、聞いたことがある。
 第一次世界大戦でドイツを負かしたついでに好き放題やったら反逆が起きて第二次世界大戦が勃発したという話だ。そういう意味で、日本は上手に負けたというべきなのかも知れない。
 では、第三次世界大戦とは……?
 反逆の起きない戦争とは?
『まず。俺が死んでねえとヒノマル陸軍が負けたことを内外の誰も納得できねえ。どころか、イカサマを疑われちまう』
 例えば七星剣諸幹部は『ファイヴがお情けで生き残った』と思うだろうし、そのまま仲間にでもなろうものなら『ヒノマルがファイヴを内側から牛耳った』と考えるだろう。それくらい無理のある話なのだ。
 だが暴力坂乱暴が殺されたとなれば、誰がどう見てもヒノマル陸軍が敗北したことになる。
 その勝者であるファイヴは、今現時刻をもって『日本隔者問題における決定打』になりえるのだ。
 これは武力がどうのという話ではない。
 凄まじく強力な政治的カードだ。
「まさか、これを狙って……」
『負けた場合はな。俺らが勝ったら勝ったで、また別の計画が動いてた所だ。さて……』
 暴力坂はすっくと立ち上がると、そのまま天へと昇りはじめた。
 引き留めることなどできはしない。
 なぜなら彼は幽霊。死者なのだ。
『ちょっくら地獄へ行ってくるぜ。どうだ、アンタも来るかい。ダチが大量に待ってるもんでよ』
「私は……」
 誡女はふと、自らの身体が傾くのを自覚した。
 最後の魂を使い切り、ゆるやかに死に行くのだ。
 手足の疑体化ゆえに感覚が遅れてやってきたのか、それとも魂の効果を使い切るのに時間をかけたのか。
 それにしても、お迎えがよりによってこの男とは。
「そこはいいところですか? 天国で何もせずに過ごすより、ずっと知的な刺激があるとよいのですが」
『さあなあ。けど、刺激的な奴は大体地獄に落ちてるだろうぜ』
 地獄で研究三昧か。
 それもおもしろいかも知れない。どのみち決めるのは自分では無いが。
「少なくとも途中までは、一緒に行きましょうか」
『おうよ』
 暴力坂は、既に霊体と化した誡女の手を取って天へと昇っていく。
 最後の言葉は、こうである。

『さあて、地獄で戦争でも起こすかなあ!』

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

アイテムドロップ

・取得キャラクター:神室・祇澄(CL2000017)
・取得アイテム:壱七式軍刀・最終決戦仕様

スキル伝授
 技能スキル:特殊乱闘術
 体術スキル:達人戦闘術




 
ここはミラーサイトです