<五麟祭>裏闘技場バトルロワイヤル!
●
――五麟祭!
五輪学園文化祭とは学園すべてが会場となる一大イベントである!
小中高全ての生徒だけでなく外部の人間たちも出店するため毎年多くの来場者数を記録しているのだ!
だがそんなお祭り騒ぎの地上から一階層挟んだ地下闘技場で今、覚者たちの隠されたバトルロワイヤルが始まろうとしている!
「学園最強になりたいか!」
久方 相馬(nCL2000004)は壇上でマイクを握りしめ、力の限り叫んだ。
ここは学園共同プールの地下に存在する隠し闘技場である。
F.i.V.Eに所属する覚者が立ち入りを許されるここに、あなたはいた。
「ルールは簡単だ。このフィールド内に集まった全員が戦い合い、最後まで立っていられた者が勝者だ! 古来から伝わる最も単純なルール。覚者バトルロワイヤル!」
会場はさしずめドーム球場だ。違いは非常に頑丈なフェンスで周囲が覆われていることくらいか。高さも広さも明るさも充分にある。勿論試合中の退場は禁止だ。
勿論これは模擬戦ルールを適用している。お互い後に引いたり他の遊びができなくなるような怪我を残すことはない。
「優勝者には『2015年バトルロワイヤル優勝者』の称号が与えられる。さあっ」
天井に描かれた偽物の空と太陽を指さして、相馬は絶叫した。
「トゥルーサーファイト、レディ――ゴゥ!」
――五麟祭!
五輪学園文化祭とは学園すべてが会場となる一大イベントである!
小中高全ての生徒だけでなく外部の人間たちも出店するため毎年多くの来場者数を記録しているのだ!
だがそんなお祭り騒ぎの地上から一階層挟んだ地下闘技場で今、覚者たちの隠されたバトルロワイヤルが始まろうとしている!
「学園最強になりたいか!」
久方 相馬(nCL2000004)は壇上でマイクを握りしめ、力の限り叫んだ。
ここは学園共同プールの地下に存在する隠し闘技場である。
F.i.V.Eに所属する覚者が立ち入りを許されるここに、あなたはいた。
「ルールは簡単だ。このフィールド内に集まった全員が戦い合い、最後まで立っていられた者が勝者だ! 古来から伝わる最も単純なルール。覚者バトルロワイヤル!」
会場はさしずめドーム球場だ。違いは非常に頑丈なフェンスで周囲が覆われていることくらいか。高さも広さも明るさも充分にある。勿論試合中の退場は禁止だ。
勿論これは模擬戦ルールを適用している。お互い後に引いたり他の遊びができなくなるような怪我を残すことはない。
「優勝者には『2015年バトルロワイヤル優勝者』の称号が与えられる。さあっ」
天井に描かれた偽物の空と太陽を指さして、相馬は絶叫した。
「トゥルーサーファイト、レディ――ゴゥ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.バトルロワイヤルだ!
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ルールは単純。参加者全員が突っ込まれた広大な闘技場で全員敵のバトルロワイヤルを行ないます。
勿論一時的な協力や特定の相手を狙ったプレイも可能。下のテンプレにある『特定の誰かとの行動』規則を利用しましょう。逆にグループ単位での複数協力はそれだけで驚異なのでソッコーで潰されるリスクが高まるでしょう。
描写人数の最大キャパは200人です。
ちなみに、裏方や実況担当は募集していません。なんでかっていうと一人当たりの描写量を超えそうだからです。
あとカップル。ここはホテルじゃない、今すぐ逃げろ。
●プレイングとその判定
参加者は全員前衛固定。プレイングに指定したスキルのうちその場において適切なスキルを自動で使用します。なので最低限のプレイング例は『炎撃、貫殺撃、火柱の中から使用』です。
今のところレベル差はそんなにないので、バトルスタイルや意気込みに拘って書くと拘った分だけ乱数判定を上方修正します。
レッツビギン!
以下、テンプレです。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
42/∞
42/∞
公開日
2015年10月13日
2015年10月13日
■メイン参加者 42人■

●大乱闘トゥルーサー・タイムA
今日は楽しい五麟祭。
地上が露天やゲームで賑わう中、地下では全く別の形で賑わっていた。
「力比べは楽しいもんだ。思いっきりやろうな!」
「はいっ、できる限り頑張ります!」
炎を纏った柾の拳と最大硬化したたまきの拳が正面から激突する。爆炎がたまきを覆い、衝撃が柾を突き抜ける。
俊敏なバックスウェーで離脱しようとする柾だが、たまきは力強く踏み込んで術式発動。隆起した地面が柾を撥ね飛ばしていく。
「力量は互角か。でもこいつは乱戦!」
柾は眼下のたまき――ではなく、背後から斬りかかる聖華へむけて飛燕蹴りを繰り出した。聖華の頬を掠めていく真空刃。しかし止まらず、ダブルブレードによるクロスアタックを叩き込んだ。
吹き飛ぶ柾。
「よしっ、見せてやるぜ!」
一方で聖華はたまきに標的をシフト。高速回転を駆けながら切りつける。
両腕のガードでしのぐたまきだが、まるで岩を削るグラインダーのような斬撃に火花が散った。
しのぎきれるか。そう思われた時、聖華ばちんと不格好なウィンクをした。
「ふむ、いいだろう」
たまきの背中に誰かの手のひらが当たった。
誰あろう、まことの手である。
「即席のタッグも」
「悪くない」
まことがパチンと指を鳴らした途端、形容不明な衝撃がたまきの体内を突き抜けた。
そう。これは乱戦。全てが敵だが時として味方でもある。同時に、タッグを組むことで驚異となり狙われやすくなることもある。
「解身(リリース)!」
淡い発光と共に覚醒したアキラが二人に向けて機関銃を乱射。
「日頃の鍛錬の成果を、試させていただきます」
上方向からは上下反転した麗虎が剣を構えて狙いを定めている。
激しい剣のぶつかり合い、そして弾の弾き合いが始まった。
火花と鉛玉が四方八方に飛び散る戦場。いやさ鉄火場か。
その中を、汗を散らして走る二つの影があった。
片や夜一。ナイフを逆手持ちし、アキラの弾幕をよけながらジグザグに走っている。片や行成。ナギナタを扇風機よろしく回転させて弾を弾きつつ夜一と併走していた。
併走といっても平行移動ではない。ジグザグのカーブをきるたび、まるでカーチェイス中の車がごとくお互いにぶつかり合っていくのだ。
「この場において老若男女を区別してはむしろ失礼だ。全力でお相手させて貰おう」
その間、まことと聖華の間を通過。行成は自身を回転させる形で足払いをかけて二人を強制転倒。回転の最中に夜一へ向けて水礫を放った。
術式硬化した水をナイフで切り裂き、急接近する夜一。
「肉弾戦は得意じゃないんだが、負けるのは嫌いだ。勉強させて貰おうか」
夜一の繰り出すナイフが行成の胸を一文字に裂く。しかし皮一枚だ。半歩距離をとって変幻自在に薙刀を振り回す行成。槍術同様薙刀術は間合いが肝心。リーチが稼げて有利かのように思われるが、一瞬でも内側に入られれば致命傷を負いかねない。見た目からしてカウンターを狙っている夜一は天敵なのだ。……あくまで人間格闘での話だが。
「そこだ」
薙刀の柄にナイフを押し当て、強制的に接近してくる夜一。
「ぐうっ……!」
行成は歯を食いしばって薙刀を返し、こじりを夜一へ叩き付けにかかる。
衝撃と気迫が、眼前五センチの位置で爆発する。
乱戦が起これば必ず生じるのがヘイト計算である。
いかに自分が狙われず、他人同士がつぶし合ってくれるか。
「ククク争え、争うがええわ! 京都千年の伝統、喧嘩は腕力あるやつに任せて権威だけキープ作戦や!」
かがりはここぞというタイミングで召雷を発動。フィールド内に激しい雷が降り注いだ。
が、同じようなことを考える者はやっぱり沢山いるもので。
同じようなことを考えているやつが沢山居ると考えているやつもまた、いるものだ。ややっこしいが。
「今時は羊だって血をすする。力比べしてちゃ生き残れないよ、っと」
かがりの足下をよじよじ移動していた円が、獣めいた逆立ち蹴りでかがりをはじき飛ばす。
「それにしても皆あからさまな隙は見せないなあ」
「ま、経験値はともかく玄人揃いだからね!」
円の後ろにスゥっと現われた千晶がキャスケットを被り、口元だけで笑った。
「お仕事モードに入りますか」
「うわっと」
刀を大上段から振り下ろされ、円は転がって回避。
二の太刀に繰り出した斬撃はしかし、祇澄の刀によって止められた。
刀に力を込めながらも祇澄は術式を発動。
髪を振り乱し、身体全体で乱れるように舞い踊る。五行術式と剣術を同時にこなす過程において、祇澄の動きは必然的に神楽舞いのそれとなるのだ。
「驚異は、そぎます!」
くるくると回って千晶の背後へ至り、背中を切り払う。
「油断はせず、確実に」
アイシールドのような前髪の内側で眼光を左右へ走らせる祇澄。そんな彼女の刀と首に、それぞれ透明な糸が絡みついた。
「これは……!」
「俺のやり方。俺の水礫だ」
数珠を両手に巻き付けたゲイルがファイティングポーズで構えている。
人間ならぬ覚者である。この程度で拘束できるものではないが、一瞬でも動きが鈍れば死につながるというのは万人共通である。ゲイルはまるでシャドウボクシングのラッシュをかけるように複雑に数珠を振り、霊力糸を放っていく。祇澄はそれを刀で迎撃。そんな彼女たちの横合いから円が自らの身体をローリングさせた体当たりを仕掛けてくる。
ぶつかりあう三人。
エネルギーが爆発し、それぞれが吹き飛ばされていく。そうしてできた戦場のエアポケットに、宗助と小唄がそれぞれ飛び込んだ。
小唄の強いまなざしを受けて、全身の筋肉を隆起させる宗助。
「小柄だが、立派な男だな。なら戦う理由に充分だぜ!」
巨大なハンマーを振り上げ、叩き付ける。
「いっくぞー、がおー!」
ハンマーを跳び箱方式で乗り越え、宙返りからのキックを繰り出す。
キックはエネルギーを伴い宗助の胸に直撃。X字に肌を切り裂く。しかし彼はのけぞりすらしなかった。どころか小唄の足を掴み、振り回す。
「わわっ?」
「唸れ俺の筋肉、吠えろ俺の――筋肉!」
地面に叩き付ける。
急激に迫る地面。当然だ。地面の方からも小唄へ急速隆起しているのだから。
「う、うわー!?」
叩き付けられた地面を粉砕しながら、小唄は目をぐるぐるに回した。
「やられたぁー……がくりっ」
「おおーっ、すごいすごい! 皆大健闘じゃん!」
天十里はバケツサイズのポップコーンをもっさもっさ頬張りながら身を乗り出した。
その左右でベンチに腰を落ち着ける成とアーレス。
彼らと戦闘フィールドは強固な設備で遮られ、簡単には流れ弾もやってこない。
要するに観客席である。
「……ていうか、なんで観客席にいるの? 中入らないの?」
視線を向けられて成は穏やかに笑った。
「岡目八目といいましてな。当事者では見えないことが見えるというのは楽しいものです。アーレスさんもそうでしょう?」
「……ははは。いや、ステルス状態で潜伏するつもりでしたが、よく考えたら彼ら全員覚者でした。非覚者慣れをしすぎましたね」
失敗談を語っているというのにアーレスの表情に苦しさは無い。これが遊びだということを自覚しているからだ。
アーレスと成の視線が天十里に集まる。
「それで、あなたは?」
天十里は満面の笑みで。
「白紙(わすれてた)!」
●大乱闘トゥルーサー・タイムB
ヘイト計算の話を引きずるようだが、あえて最初からチームを組むことで連携をとり、乱戦を勝ち抜こうという考え方もある。
「皆様の悲鳴! 怒声! 断末魔! ああなんと美しきハーモニー! この僕にたっぷりと聞かせてくださいよお! さあ、さあ、さあさあ――!」
ドライアイス演出のように濃霧を展開しながらゆっくりと足場ごとせり上がっていくエヌ。
「お行きなさい隣人たち。神祈天光! 鐡之蔵禊!」
「う、ううむ……」
天光は眉間をもんだ。
「今の演出で一気に拙者たち、悪の組織と化したでござる」
額に手を当てる禊。
「じゃあ私たちって手下AとB? どうして共闘してるんだろう私」
「どうやらヘイト稼ぎは順調らしいな」
静護が抜刀し、ゆっくりと歩み寄ってくる。
同じく抜刀する天光。互いにすり足となり、中心点を円移動しはじめる。互いの間合いを奪い合っているのだ。
そんな二人の間に、何かの切れ端がはらりと落ちたその途端。同時に急接近。刀と刀がぶつかり合う。
「天光、援護するよ!」
巫女装束を翻し、横合いから蹴りつけようとする禊。
だがしかし。
「すきありぃー!」
そのまた横合いからの聖・ザ・ドロップキックに押し倒された。
流れるように関節技に入ろうとする聖。
「セーゴは大事な道具なんだから、やられたら困るんだよね!」
「道具……」
静護の片眉がぴくりと上がった。
エヌがもう見えないくらい高いところから呼びかけてくる。
「何をしているのです。切り裂きなさい! できるだけ長く愉しめるよう、傷ましく、狂おしく!」
「「……」」
静護と天光は上を見てから、互いを見た。
「苦労しているでござるな」
「お前もな」
言いつつも至近距離で術式を発動。静護の放った水の矢はしかし、天光の展開した水流によって受け流される。
無数の斬撃が交わされ、大量の火花と水しぶきがわき起こる。
一方で聖と禊はお互いの足を掴みながらごろごろと転がっていた。
「はなせー! 私はセーゴと一緒に勝ち進んで、最後にセーゴを蹴っ飛ばして優勝するんだから!」
「あなたも大概酷いわね! もう人のこと言えないけど!」
禊は逆立ち蹴りの要領で聖をはねのけ、空中に浮かせた。
すぐさま身体のバネを使ってジャンプ。
足で相手を挟み込み、高速回転をかけて地面へとせまる。
対する聖も歯を食いしばり、強制的に回転を逆方向に回して禊を地面に叩き付けた。
そこへ、奏空と夜司が乱入した。
「じぃじ、行こう!」
「おうとも……!」
軍刀を抜いた老人いやさ童子が炎を全身に纏い、同じ背格好の奏空と方を並べた。
「ちびっこを舐めるなよ! ファイナルハルモニアスカイアタック!」
奏空が天空を指さすと、激しい雷が走ってエヌや聖たちを直撃。対抗して雷を乱射するエヌ。
一方で全身に炎を纏った夜司が静護や天光たちへと突撃。
「これでも神童と謳われたんじゃよ」
静護の脇を切り裂く夜司の刀を弾き上げた天光の眉間に水礫を放った静護に至近距離で衝撃波を加えた夜司の腕を正確に切り裂く天光の腹を蹴りつける夜司の足を払い落とす静護に――と、三者入り乱れての高速乱戦が繰り広げられた。
彼らの動きを追える者など、もはや彼ら本人以外にない。
誰が誰を狙うかわからない乱戦の中。明確に相手を定めていることもある。それがぶつかり合ったとき、彼らの中で世界は急速に切り離され、乱戦場は決闘場へと姿を変える。
「瑛月ィィ……!」
「風祭クンンッ……!」
誘輔は煙草をくわえ、秋葉は煙草を噛み潰し、互いの瞳を互いの中で反射した。
駆け寄りなどしない。そんな間柄では無い。
しかし一歩近づけば覚醒し、二歩近づけば術式でお互いを強化している。
距離にして一センチ。
鋼のように固まった拳をだらりとさげる誘輔。
同じく鋼のように輝く腕をだらりとさげる秋葉。
額を強烈に叩き付け合い、腕を振り翳し合い、
「「くらばりやがれ!」」
互いの拳が互いの横っ面に激突。激しい熱量と衝撃に煙草の先端が散り、着火した。
「負けたらおごりな! 一日奴隷でもいいぜ!」
「上等や、おにーさん少しばっかり本気出すわぁ」
紫煙と眼光で軌跡を描き、更に顔面を殴りつける秋葉。
砕けてヒビ入る眼鏡を無視して相手の顔面を殴りつける誘輔。
二人の拳は二人が力尽きるまで全力でお互いの顔面を粉砕しあう。
そんな彼らの一方で。
「よう四月一日……四月一日四月二日、俺の代わりに泣けよ。トモダチだろ?」
維摩は肩をすくめ、朗らかな笑顔で言った。
「だよな、お前の友達俺くらいだもんな。痛くするけど泣いてもいいぜ?」
四月二日はポケットに手を入れて朗らかに笑った。
笑顔のまま早足で歩み寄り合い、至近距離でにらみ合う。
「馬鹿か? 泣くのはお前だろ」
「カチンとくるなあオイ」
互いの目が、限界まで開かれる。
と同時に、凄まじい電撃が中心に『爆発』した。爆発としか言いようが無い発光と衝撃に、吹き飛ばされそうになりながらもラフな姿勢でこらえる維摩。
「お前が泣こうが怒ろうが俺の心は痛まん!」
「血も涙も無いヤツって言われない? 赤祢くん……!」
二人は更にスパーク。電撃がぶつかり、はじけ、飛び散っては爆発する。
やがてはお互い額を叩き付けた。もはや衝突とも言うべきぶつけかたである。
そんな二人に、殴り合いのまま走っていた誘輔と秋葉がぶつかってくる。
「「ああ!?」」
二人。いや四人は同時にそれぞれのペアをにらみ付け、全く同時に拳と電撃を交差させた。
「「邪魔すんなァ!」」
もはや何が何だか分からなくなってきた感はあるが、戦って倒すの基本はここでも健在である。ボロボロになった鈴鳴も、その基本を守ってここまで来た。
大きな旗をバトンのようにくるくると回し、背筋を伸ばした直立姿勢で水平に突き出す。格好も動きもマーチングバンドのカラーガードそのもので、極々乱暴に説明すると楽団の先頭で旗を振る係である。
技術体力精神力。あらゆるものを要求される最前衛ではあるが、五行戦闘においての鈴鳴な最後衛。回復支援の専門である。だがしかし今日こそは。
「胸をお借りいたします!」
「いいね」
悠乃はにひゃりと笑い、延長腕を広く構えた。
構えて、突撃。延長腕を顎に見立てた食らいつきである。まるで大型の肉食ハ虫類。それも人間を一口で喰うサイズのものである。
対して鈴鳴は旗を回転。両サイドから迫る顎を上下にいなすと、小刻みにステップを踏んで喉の奥へ接近。打撃をしかけるかと思いきや。旗を垂直に立てた姿勢で停止した。そのうえ悠乃に背を向けるように反転。
急いで顎を閉じ直す悠乃に対し、水平に回した旗を突っ返させ、鉄棒のように駆け上がって悠乃を蹴り飛ばす。
深追いはせずに離脱する悠乃。唇まで流れた血をぺろりと舐めた。鈴鳴の規則正しく隙の無い防御型の戦闘術はチェコの銃剣術に近い。元々マーチングバンドの存在そのものが軍隊に近い所にあるのだ。当然と言えば当然である。
「ちょーたのしい! こんなスタイル、戦ったことも無いよ!」
「珍しいスタイルと聞いて、オレ参上!」
二人の間へ『待った』の姿勢で割り込んでくる遥。
「鹿ノ島遥、スタイルは空手!」
特殊なバンテージを手足に巻き付け、びしりと固定。
「一手よろしくお願いします!」
遥は悠乃に早速突撃。
ダッシュの勢いと踏み込みそして腕の伸縮を会わせたマッハの突きを叩き込む。
それは悠乃の腹に直撃したが、一瞬遅れて遥の頭部がかの両顎に食いつかれた。
悠乃は彼を捻るように地面から引っこ抜き、左右に強引に振り回した後、空中へと放り投げた。それこそ怪獣の有様である。
空中で上下反転したまま体勢を整える遥――の眼下に、ハルがいた。
「ハルカ? 女の名前だな」
「男で何が悪い! 修正してやろうか!」
「フッ」
ハルはリボルバー式の拳銃を抜くと、銃身でウェスタンハットのつばを押し上げた。
腰に巻き付けた縄をとり、遥めがけて放つ。縄はまるで意志を持った蛇のごとく遥へ迫り。先端で作った輪が首へと引っかかった。
「ぐえ!」
無理矢理引き落とされ、地面に叩き付けられる遥。
ハルは遥の頭に銃口を向け、銃のトリガーを押した。
「悪く思――」
「トドメだー!」
明後日の方向から飛んできた蕾花が遥の胸の上に着地し、瓦割りの要領で顔面を殴りつけた。白目をむく遥。停止するハル。
「あっ」
「やった! 次は悠乃。リベンチマッチだよ!」
「ふふ、残念。今日はダメ」
ファイティングポーズで振り向く蕾花をよそに、悠乃はちょこまかと逃げ出した。
「逃がさない!」
ダッシュからのラッシュ。虚空を殴ったはずのパンチは衝撃を生み、真空刃となって放たれる。
一方の悠乃は鈴鳴とハルの肩をぽんと叩いて駆け抜けた。
「あとよろしく」
「わっ馬鹿押しつけるな!」
ハルは帽子を押さえて銃を乱射。
鈴鳴は旗を回転させて真空刃を弾き始める。
無差別攻撃の鬼ごっこが始まった。
●大乱闘トゥルーサー・タイムC
乱戦が続いてどれだけ経っただろうか。見渡す限りにいた参加者が三割を下回った頃、勝ち残った参加者たちはラストスパートへと突入した。
「フッ、天才坂上懐良の兵法をもってすればこの段階まで勝ち残るなどたやすい」
懐良は前髪をふぁさぁっとかき上げて決め顔を晒した。
後ろで弾丸やら衝撃波やらを刀でがしがし弾きつつ振り返る数多。
「へーほー?」
「うむ、以逸待労だ!」
「OK! エロ仕掛けね! 準備してあるわ!」
数多は威勢良くサムズアップすると、スカートの裾をおもむろに引っ張り上げた。
「スカートの下は水着だから、恥ずかしくないの!」
「馬鹿者!」
「すとぱっ!?」
坂上ビンタ(別名男女平等拳)をくらった数多はがくりと乙女座りになった。
ビシリと指を突きつける懐良。
「見せてどうする! 見えそうで見えないドキドキラインを保て! それでも貴様ピンクか!」
「ピンクじゃないし酒々井数多だし!」
「ええいこうなったら抛磚引玉だ! じっとしていろ!」
「えっなにちょっとやめて!」
懐良は数多の後ろに回り込むと、服の上着をゆっくりとそして時折あえてもたつくように引き戻しつつもなめらかに引き上げていった。その際スカートのホックを外すことも忘れない。下腹部からへそ、そして下乳までの芸術的なラインを周囲に晒す。挿絵ピンはまだですか。
「ククク、手出しできまい! これぞ李代桃僵! 乙女のやわはだ、触れられるものなら触れて――」
「ッシャオラアアアアア!」
全力ダッシュした天が数多をかっさらっていった。
「合法的に女子へアレコレできるチャアアアアアンス!」
「イヤアアアアアアアアアアア!」
「漲ってきたぜええええ!」
天は数多を適当な乱戦エリアでポイすると、ターンして懐良にラリアット。『とりこっ!』といって吹き飛んでいった彼を見送った所で、天の視界が炎で埋め尽くされた。慌ててダッシュを再開。振り向くと、キリエが謎の本を広げてここではないどこかの空を見上げている。
「カミサマ! 人類はヤンチャが好き。なのでわたしも、カミサマの教えを広めたいのでございますです!」
いい加減な日本語を唱え、キリエはあろうことか瞑目。
プロテスタント調の賛美歌を高らかに歌い始めた。まるで音程の波を具現化したかの如く炎が波打ち、天を飲み込もうと追いかけてくる。天は冷や汗と脂汗を吹き出しながら全速力で逃げた。
「なんだこりゃ、女子とかそういう問題じゃねえ! シスター服ちょーイイとか言ってる場合じゃねえ! ってうおお!」
古来より炎は虎に例えられ、人より早く走るとも言われる。天はたちまち炎に呑まれた。
「模擬戦、とても平和的、とてもよいこと!」
天は知らないかもしれないが、厳密なはなしベールを被ったシスターがプロテスタント調の賛美歌を独唱するというのはなかなかにいびつな状態である。
だがキリエはそれこそ正道とばかりに両腕を広げて見せた。
「この聖書とカミサマの与えたもうた力で、皆様の心に小さな火をともしたいのです。さあカミサマのもとへ参りましょう!」
「どこが小さな火だ! 死ぬわ!」
天は逃げるのをやめてキリエに突撃。
鋼化した腕によるショルダータックルをぶちかます。
「身も心も炎に焦がして、さあ!」
対するキリエは手のひらに焼き鏝でつけたような印を浮き上がらせ、真っ赤に加熱させた。
キリエの手のひらと天のタックルが正面から激突。
パワー負けして吹き飛んだキリエと、なんとかその場に踏ん張ってみせた天。しかし天の両腕からは黒い煙が吹き出し、所々で小爆発を起こした。
「ぐお、やべえ!」
「天知る地知る人知れずっ!」
隙を見せた天に、浅葱が急速接近。
長い白マフラーを靡かせて、ダッシュパンチを叩き込む。
激しいスパークを伴った浅葱の拳は天を爆発させ、爆風によって再びマフラーが靡いた。
「次の相手は誰ですかっ」
高らかに吠える浅葱の前に、真央がどっしりと仁王立ちした。
「もうあの頃の私とは……怯えていただけの私とは違うんです! 誰かを守れる強さを証明してみせます」
両腕を掲げる。
「あの人の代わりに――コーシカ!」
途端、虚空から現われたネコめいたグローブが真央の両手を包み込む。
ファンシーショップで販売しそうな可愛い手袋だが、これが彼女の力であり強さである。
「猫屋敷真央、行きます!」
「月歌浅葱、迎え撃ちますっ!」
地面を蹴って拳を叩き付ける真央。浅葱の拳と正面から衝突。拳を引いてもう一方の拳を繰り出すも、再び衝突。
「拳の語り合い。ロマンですねっ」
更に足を止めて殴り合うかと思われた真央だが、俊敏にバックスウェーをかけて離脱。独特のファイティングポーズをとると、浅葱の周りを高速で駆け回り始めた。
きょろきょろと首を巡らせる浅葱。
そんな浅葱の脇を、真央がランダムに掠めていく。そのたびに浅葱の身体に生傷が増えていく。
しかし表情は笑っていた。歯を見せて。
「どこから来るかわからない。けど、読みはしません。きっと来ると、信じてっ!」
浅葱は180度反転し、思い切り拳を繰り出した。
バックスタブを狙った真央の頭部に直撃。
「――にゃ!」
そのまま吹き飛ばされるかと思われた真央だが、空中でくるんと回って衝撃を逃がし、上下逆さのまま浅葱と向かい合った。ネコのようなグローブを引き絞り、一回転して戻ってきたところで浅葱の頭部に叩き込む。
浅葱は吹き飛び、バウンドして転がり、そしてがくりと脱力した。
「はあ……はあ……ふう……」
呼吸が整わない。大粒の汗が流れ、視界が歪む。
真央はやがて、自ら膝を折ってうつ伏せに倒れた。
「おっと、可愛い肉球ちゃんだと思って狙ってたのに。取られちゃったか」
冬月はそう言って、手の中で拳銃をくるくると回した。
姿も振る舞いも可憐な少女そのものだが、こうみえて正体は二十五歳の男性である。
周囲を見回せば、ほとんどの参加者は戦闘不能によってリタイアしていた。
残るは自分だけだろうか。
「ま、可愛いオレが戦ってる時点で最強に可愛いんだけどね」
「かわいい……?」
ずるり、とどこからか音がした。
血まみれでうつ伏せに倒れた少女からそれが聞こえた……と思った時には、少女は姿を変えていた。
「かわいい女の子は、強くなくちゃいけないの」
少女。小石ころん。
黒衣にとがり帽子。ハロウィーンでしかお目にかけないような二メートル近いキャンディケインを手に、ゆっくりと立ち上がる。
言うなればお菓子の家の魔女だろうか。
だが童話の魔女とて、ここまで闘志をむき出しにはしないだろう。
冬月は片眉を上げ、そして銃をころんめがけて乱射した。
ころんに直撃。弾に仕込まれたビーンズがはじけるが、ころんはゆらぎすらしなかった。
「ころんは完全に勝利して、本当のかわいいを手に入れるの」
「本当のかわいいね。いいよいいよ、オレと一緒に楽しく可愛くバトルしーましょ♪」
「ルールはかんたん」
杖を振るころん。溶けて流れ出たキャンディドロップが固まり、弾丸へと変わる。
腕のシュシュを引き抜き、お手玉のようにする冬月。
「勝ったら可愛い!」
「負けたら死ぬのっ」
杖をライフルのように構えて握り込むころん。
彼女の円周軌道走りながら銃を乱射する冬月。
大量の飴玉とビーンズが飛び交い、それぞれがお互いの服を引き裂いていく。
可愛いパーカーが破れ、可愛いドレスが破れ、可愛いリュックサックが破れ、可愛い帽子が破れ、可愛い、ルーズソックスが破れ、可愛いリボンが破れる。
しかし二人は。
「やっぱりオレって」
「ころんは」
「「かわいい!」」
目を限界まで見開き、冬月は急接近。シュシュを投擲すると、仕込まれていたツルが展開してこいしの腕へ巻き付いた。シュシュの形に戻りはするが、腕を食いちぎらんばかりに締め付ける。
痛みで杖から手を離すころん。
「もらった♪」
華やぐ声で、可愛いトーンで、殺人的なまなざしで、銃口を胸に押し当てる冬月。トリガーにかかる指に力がこもる。
ころんは。
「ころんは」
ころんは。
「ころんは」
杖の先端に結んだリボンを口でくわえて引っ張り上げ、強制的に杖を振り上げると、冬月めがけて全力で叩きつけた。
薙ぎ払われ、地面を転がり、仰向けに、大の字に倒れる冬月。
「あ、いたた……た……」
起き上がる力はなさそうだ。
「いいストレス発散になったよ。たまにはいいね」
「アナタ」
ころんは彼に近づき、覚醒状態を解いた。
手を伸ばす。
「顔は傷付けないでくれたのね」
「お互いさま」
伸ばしたころんの手を、冬月はぎゅっと握って起き上がった。
「今日の一番はきみにあげる。次は、きっとオレが一番だからね」
「負けないの」
そう言って、ころんはその場で気を失った。
かくして。
第一回。2015年五麟祭バトルロワイヤル優勝者が決定した。
だがこの日をおしまいにするのはまだ早い。
楽しいものはまだまだ沢山残っているのだ。
なぜならは。
今日は楽しい五麟祭。
今日は楽しい五麟祭。
地上が露天やゲームで賑わう中、地下では全く別の形で賑わっていた。
「力比べは楽しいもんだ。思いっきりやろうな!」
「はいっ、できる限り頑張ります!」
炎を纏った柾の拳と最大硬化したたまきの拳が正面から激突する。爆炎がたまきを覆い、衝撃が柾を突き抜ける。
俊敏なバックスウェーで離脱しようとする柾だが、たまきは力強く踏み込んで術式発動。隆起した地面が柾を撥ね飛ばしていく。
「力量は互角か。でもこいつは乱戦!」
柾は眼下のたまき――ではなく、背後から斬りかかる聖華へむけて飛燕蹴りを繰り出した。聖華の頬を掠めていく真空刃。しかし止まらず、ダブルブレードによるクロスアタックを叩き込んだ。
吹き飛ぶ柾。
「よしっ、見せてやるぜ!」
一方で聖華はたまきに標的をシフト。高速回転を駆けながら切りつける。
両腕のガードでしのぐたまきだが、まるで岩を削るグラインダーのような斬撃に火花が散った。
しのぎきれるか。そう思われた時、聖華ばちんと不格好なウィンクをした。
「ふむ、いいだろう」
たまきの背中に誰かの手のひらが当たった。
誰あろう、まことの手である。
「即席のタッグも」
「悪くない」
まことがパチンと指を鳴らした途端、形容不明な衝撃がたまきの体内を突き抜けた。
そう。これは乱戦。全てが敵だが時として味方でもある。同時に、タッグを組むことで驚異となり狙われやすくなることもある。
「解身(リリース)!」
淡い発光と共に覚醒したアキラが二人に向けて機関銃を乱射。
「日頃の鍛錬の成果を、試させていただきます」
上方向からは上下反転した麗虎が剣を構えて狙いを定めている。
激しい剣のぶつかり合い、そして弾の弾き合いが始まった。
火花と鉛玉が四方八方に飛び散る戦場。いやさ鉄火場か。
その中を、汗を散らして走る二つの影があった。
片や夜一。ナイフを逆手持ちし、アキラの弾幕をよけながらジグザグに走っている。片や行成。ナギナタを扇風機よろしく回転させて弾を弾きつつ夜一と併走していた。
併走といっても平行移動ではない。ジグザグのカーブをきるたび、まるでカーチェイス中の車がごとくお互いにぶつかり合っていくのだ。
「この場において老若男女を区別してはむしろ失礼だ。全力でお相手させて貰おう」
その間、まことと聖華の間を通過。行成は自身を回転させる形で足払いをかけて二人を強制転倒。回転の最中に夜一へ向けて水礫を放った。
術式硬化した水をナイフで切り裂き、急接近する夜一。
「肉弾戦は得意じゃないんだが、負けるのは嫌いだ。勉強させて貰おうか」
夜一の繰り出すナイフが行成の胸を一文字に裂く。しかし皮一枚だ。半歩距離をとって変幻自在に薙刀を振り回す行成。槍術同様薙刀術は間合いが肝心。リーチが稼げて有利かのように思われるが、一瞬でも内側に入られれば致命傷を負いかねない。見た目からしてカウンターを狙っている夜一は天敵なのだ。……あくまで人間格闘での話だが。
「そこだ」
薙刀の柄にナイフを押し当て、強制的に接近してくる夜一。
「ぐうっ……!」
行成は歯を食いしばって薙刀を返し、こじりを夜一へ叩き付けにかかる。
衝撃と気迫が、眼前五センチの位置で爆発する。
乱戦が起これば必ず生じるのがヘイト計算である。
いかに自分が狙われず、他人同士がつぶし合ってくれるか。
「ククク争え、争うがええわ! 京都千年の伝統、喧嘩は腕力あるやつに任せて権威だけキープ作戦や!」
かがりはここぞというタイミングで召雷を発動。フィールド内に激しい雷が降り注いだ。
が、同じようなことを考える者はやっぱり沢山いるもので。
同じようなことを考えているやつが沢山居ると考えているやつもまた、いるものだ。ややっこしいが。
「今時は羊だって血をすする。力比べしてちゃ生き残れないよ、っと」
かがりの足下をよじよじ移動していた円が、獣めいた逆立ち蹴りでかがりをはじき飛ばす。
「それにしても皆あからさまな隙は見せないなあ」
「ま、経験値はともかく玄人揃いだからね!」
円の後ろにスゥっと現われた千晶がキャスケットを被り、口元だけで笑った。
「お仕事モードに入りますか」
「うわっと」
刀を大上段から振り下ろされ、円は転がって回避。
二の太刀に繰り出した斬撃はしかし、祇澄の刀によって止められた。
刀に力を込めながらも祇澄は術式を発動。
髪を振り乱し、身体全体で乱れるように舞い踊る。五行術式と剣術を同時にこなす過程において、祇澄の動きは必然的に神楽舞いのそれとなるのだ。
「驚異は、そぎます!」
くるくると回って千晶の背後へ至り、背中を切り払う。
「油断はせず、確実に」
アイシールドのような前髪の内側で眼光を左右へ走らせる祇澄。そんな彼女の刀と首に、それぞれ透明な糸が絡みついた。
「これは……!」
「俺のやり方。俺の水礫だ」
数珠を両手に巻き付けたゲイルがファイティングポーズで構えている。
人間ならぬ覚者である。この程度で拘束できるものではないが、一瞬でも動きが鈍れば死につながるというのは万人共通である。ゲイルはまるでシャドウボクシングのラッシュをかけるように複雑に数珠を振り、霊力糸を放っていく。祇澄はそれを刀で迎撃。そんな彼女たちの横合いから円が自らの身体をローリングさせた体当たりを仕掛けてくる。
ぶつかりあう三人。
エネルギーが爆発し、それぞれが吹き飛ばされていく。そうしてできた戦場のエアポケットに、宗助と小唄がそれぞれ飛び込んだ。
小唄の強いまなざしを受けて、全身の筋肉を隆起させる宗助。
「小柄だが、立派な男だな。なら戦う理由に充分だぜ!」
巨大なハンマーを振り上げ、叩き付ける。
「いっくぞー、がおー!」
ハンマーを跳び箱方式で乗り越え、宙返りからのキックを繰り出す。
キックはエネルギーを伴い宗助の胸に直撃。X字に肌を切り裂く。しかし彼はのけぞりすらしなかった。どころか小唄の足を掴み、振り回す。
「わわっ?」
「唸れ俺の筋肉、吠えろ俺の――筋肉!」
地面に叩き付ける。
急激に迫る地面。当然だ。地面の方からも小唄へ急速隆起しているのだから。
「う、うわー!?」
叩き付けられた地面を粉砕しながら、小唄は目をぐるぐるに回した。
「やられたぁー……がくりっ」
「おおーっ、すごいすごい! 皆大健闘じゃん!」
天十里はバケツサイズのポップコーンをもっさもっさ頬張りながら身を乗り出した。
その左右でベンチに腰を落ち着ける成とアーレス。
彼らと戦闘フィールドは強固な設備で遮られ、簡単には流れ弾もやってこない。
要するに観客席である。
「……ていうか、なんで観客席にいるの? 中入らないの?」
視線を向けられて成は穏やかに笑った。
「岡目八目といいましてな。当事者では見えないことが見えるというのは楽しいものです。アーレスさんもそうでしょう?」
「……ははは。いや、ステルス状態で潜伏するつもりでしたが、よく考えたら彼ら全員覚者でした。非覚者慣れをしすぎましたね」
失敗談を語っているというのにアーレスの表情に苦しさは無い。これが遊びだということを自覚しているからだ。
アーレスと成の視線が天十里に集まる。
「それで、あなたは?」
天十里は満面の笑みで。
「白紙(わすれてた)!」
●大乱闘トゥルーサー・タイムB
ヘイト計算の話を引きずるようだが、あえて最初からチームを組むことで連携をとり、乱戦を勝ち抜こうという考え方もある。
「皆様の悲鳴! 怒声! 断末魔! ああなんと美しきハーモニー! この僕にたっぷりと聞かせてくださいよお! さあ、さあ、さあさあ――!」
ドライアイス演出のように濃霧を展開しながらゆっくりと足場ごとせり上がっていくエヌ。
「お行きなさい隣人たち。神祈天光! 鐡之蔵禊!」
「う、ううむ……」
天光は眉間をもんだ。
「今の演出で一気に拙者たち、悪の組織と化したでござる」
額に手を当てる禊。
「じゃあ私たちって手下AとB? どうして共闘してるんだろう私」
「どうやらヘイト稼ぎは順調らしいな」
静護が抜刀し、ゆっくりと歩み寄ってくる。
同じく抜刀する天光。互いにすり足となり、中心点を円移動しはじめる。互いの間合いを奪い合っているのだ。
そんな二人の間に、何かの切れ端がはらりと落ちたその途端。同時に急接近。刀と刀がぶつかり合う。
「天光、援護するよ!」
巫女装束を翻し、横合いから蹴りつけようとする禊。
だがしかし。
「すきありぃー!」
そのまた横合いからの聖・ザ・ドロップキックに押し倒された。
流れるように関節技に入ろうとする聖。
「セーゴは大事な道具なんだから、やられたら困るんだよね!」
「道具……」
静護の片眉がぴくりと上がった。
エヌがもう見えないくらい高いところから呼びかけてくる。
「何をしているのです。切り裂きなさい! できるだけ長く愉しめるよう、傷ましく、狂おしく!」
「「……」」
静護と天光は上を見てから、互いを見た。
「苦労しているでござるな」
「お前もな」
言いつつも至近距離で術式を発動。静護の放った水の矢はしかし、天光の展開した水流によって受け流される。
無数の斬撃が交わされ、大量の火花と水しぶきがわき起こる。
一方で聖と禊はお互いの足を掴みながらごろごろと転がっていた。
「はなせー! 私はセーゴと一緒に勝ち進んで、最後にセーゴを蹴っ飛ばして優勝するんだから!」
「あなたも大概酷いわね! もう人のこと言えないけど!」
禊は逆立ち蹴りの要領で聖をはねのけ、空中に浮かせた。
すぐさま身体のバネを使ってジャンプ。
足で相手を挟み込み、高速回転をかけて地面へとせまる。
対する聖も歯を食いしばり、強制的に回転を逆方向に回して禊を地面に叩き付けた。
そこへ、奏空と夜司が乱入した。
「じぃじ、行こう!」
「おうとも……!」
軍刀を抜いた老人いやさ童子が炎を全身に纏い、同じ背格好の奏空と方を並べた。
「ちびっこを舐めるなよ! ファイナルハルモニアスカイアタック!」
奏空が天空を指さすと、激しい雷が走ってエヌや聖たちを直撃。対抗して雷を乱射するエヌ。
一方で全身に炎を纏った夜司が静護や天光たちへと突撃。
「これでも神童と謳われたんじゃよ」
静護の脇を切り裂く夜司の刀を弾き上げた天光の眉間に水礫を放った静護に至近距離で衝撃波を加えた夜司の腕を正確に切り裂く天光の腹を蹴りつける夜司の足を払い落とす静護に――と、三者入り乱れての高速乱戦が繰り広げられた。
彼らの動きを追える者など、もはや彼ら本人以外にない。
誰が誰を狙うかわからない乱戦の中。明確に相手を定めていることもある。それがぶつかり合ったとき、彼らの中で世界は急速に切り離され、乱戦場は決闘場へと姿を変える。
「瑛月ィィ……!」
「風祭クンンッ……!」
誘輔は煙草をくわえ、秋葉は煙草を噛み潰し、互いの瞳を互いの中で反射した。
駆け寄りなどしない。そんな間柄では無い。
しかし一歩近づけば覚醒し、二歩近づけば術式でお互いを強化している。
距離にして一センチ。
鋼のように固まった拳をだらりとさげる誘輔。
同じく鋼のように輝く腕をだらりとさげる秋葉。
額を強烈に叩き付け合い、腕を振り翳し合い、
「「くらばりやがれ!」」
互いの拳が互いの横っ面に激突。激しい熱量と衝撃に煙草の先端が散り、着火した。
「負けたらおごりな! 一日奴隷でもいいぜ!」
「上等や、おにーさん少しばっかり本気出すわぁ」
紫煙と眼光で軌跡を描き、更に顔面を殴りつける秋葉。
砕けてヒビ入る眼鏡を無視して相手の顔面を殴りつける誘輔。
二人の拳は二人が力尽きるまで全力でお互いの顔面を粉砕しあう。
そんな彼らの一方で。
「よう四月一日……四月一日四月二日、俺の代わりに泣けよ。トモダチだろ?」
維摩は肩をすくめ、朗らかな笑顔で言った。
「だよな、お前の友達俺くらいだもんな。痛くするけど泣いてもいいぜ?」
四月二日はポケットに手を入れて朗らかに笑った。
笑顔のまま早足で歩み寄り合い、至近距離でにらみ合う。
「馬鹿か? 泣くのはお前だろ」
「カチンとくるなあオイ」
互いの目が、限界まで開かれる。
と同時に、凄まじい電撃が中心に『爆発』した。爆発としか言いようが無い発光と衝撃に、吹き飛ばされそうになりながらもラフな姿勢でこらえる維摩。
「お前が泣こうが怒ろうが俺の心は痛まん!」
「血も涙も無いヤツって言われない? 赤祢くん……!」
二人は更にスパーク。電撃がぶつかり、はじけ、飛び散っては爆発する。
やがてはお互い額を叩き付けた。もはや衝突とも言うべきぶつけかたである。
そんな二人に、殴り合いのまま走っていた誘輔と秋葉がぶつかってくる。
「「ああ!?」」
二人。いや四人は同時にそれぞれのペアをにらみ付け、全く同時に拳と電撃を交差させた。
「「邪魔すんなァ!」」
もはや何が何だか分からなくなってきた感はあるが、戦って倒すの基本はここでも健在である。ボロボロになった鈴鳴も、その基本を守ってここまで来た。
大きな旗をバトンのようにくるくると回し、背筋を伸ばした直立姿勢で水平に突き出す。格好も動きもマーチングバンドのカラーガードそのもので、極々乱暴に説明すると楽団の先頭で旗を振る係である。
技術体力精神力。あらゆるものを要求される最前衛ではあるが、五行戦闘においての鈴鳴な最後衛。回復支援の専門である。だがしかし今日こそは。
「胸をお借りいたします!」
「いいね」
悠乃はにひゃりと笑い、延長腕を広く構えた。
構えて、突撃。延長腕を顎に見立てた食らいつきである。まるで大型の肉食ハ虫類。それも人間を一口で喰うサイズのものである。
対して鈴鳴は旗を回転。両サイドから迫る顎を上下にいなすと、小刻みにステップを踏んで喉の奥へ接近。打撃をしかけるかと思いきや。旗を垂直に立てた姿勢で停止した。そのうえ悠乃に背を向けるように反転。
急いで顎を閉じ直す悠乃に対し、水平に回した旗を突っ返させ、鉄棒のように駆け上がって悠乃を蹴り飛ばす。
深追いはせずに離脱する悠乃。唇まで流れた血をぺろりと舐めた。鈴鳴の規則正しく隙の無い防御型の戦闘術はチェコの銃剣術に近い。元々マーチングバンドの存在そのものが軍隊に近い所にあるのだ。当然と言えば当然である。
「ちょーたのしい! こんなスタイル、戦ったことも無いよ!」
「珍しいスタイルと聞いて、オレ参上!」
二人の間へ『待った』の姿勢で割り込んでくる遥。
「鹿ノ島遥、スタイルは空手!」
特殊なバンテージを手足に巻き付け、びしりと固定。
「一手よろしくお願いします!」
遥は悠乃に早速突撃。
ダッシュの勢いと踏み込みそして腕の伸縮を会わせたマッハの突きを叩き込む。
それは悠乃の腹に直撃したが、一瞬遅れて遥の頭部がかの両顎に食いつかれた。
悠乃は彼を捻るように地面から引っこ抜き、左右に強引に振り回した後、空中へと放り投げた。それこそ怪獣の有様である。
空中で上下反転したまま体勢を整える遥――の眼下に、ハルがいた。
「ハルカ? 女の名前だな」
「男で何が悪い! 修正してやろうか!」
「フッ」
ハルはリボルバー式の拳銃を抜くと、銃身でウェスタンハットのつばを押し上げた。
腰に巻き付けた縄をとり、遥めがけて放つ。縄はまるで意志を持った蛇のごとく遥へ迫り。先端で作った輪が首へと引っかかった。
「ぐえ!」
無理矢理引き落とされ、地面に叩き付けられる遥。
ハルは遥の頭に銃口を向け、銃のトリガーを押した。
「悪く思――」
「トドメだー!」
明後日の方向から飛んできた蕾花が遥の胸の上に着地し、瓦割りの要領で顔面を殴りつけた。白目をむく遥。停止するハル。
「あっ」
「やった! 次は悠乃。リベンチマッチだよ!」
「ふふ、残念。今日はダメ」
ファイティングポーズで振り向く蕾花をよそに、悠乃はちょこまかと逃げ出した。
「逃がさない!」
ダッシュからのラッシュ。虚空を殴ったはずのパンチは衝撃を生み、真空刃となって放たれる。
一方の悠乃は鈴鳴とハルの肩をぽんと叩いて駆け抜けた。
「あとよろしく」
「わっ馬鹿押しつけるな!」
ハルは帽子を押さえて銃を乱射。
鈴鳴は旗を回転させて真空刃を弾き始める。
無差別攻撃の鬼ごっこが始まった。
●大乱闘トゥルーサー・タイムC
乱戦が続いてどれだけ経っただろうか。見渡す限りにいた参加者が三割を下回った頃、勝ち残った参加者たちはラストスパートへと突入した。
「フッ、天才坂上懐良の兵法をもってすればこの段階まで勝ち残るなどたやすい」
懐良は前髪をふぁさぁっとかき上げて決め顔を晒した。
後ろで弾丸やら衝撃波やらを刀でがしがし弾きつつ振り返る数多。
「へーほー?」
「うむ、以逸待労だ!」
「OK! エロ仕掛けね! 準備してあるわ!」
数多は威勢良くサムズアップすると、スカートの裾をおもむろに引っ張り上げた。
「スカートの下は水着だから、恥ずかしくないの!」
「馬鹿者!」
「すとぱっ!?」
坂上ビンタ(別名男女平等拳)をくらった数多はがくりと乙女座りになった。
ビシリと指を突きつける懐良。
「見せてどうする! 見えそうで見えないドキドキラインを保て! それでも貴様ピンクか!」
「ピンクじゃないし酒々井数多だし!」
「ええいこうなったら抛磚引玉だ! じっとしていろ!」
「えっなにちょっとやめて!」
懐良は数多の後ろに回り込むと、服の上着をゆっくりとそして時折あえてもたつくように引き戻しつつもなめらかに引き上げていった。その際スカートのホックを外すことも忘れない。下腹部からへそ、そして下乳までの芸術的なラインを周囲に晒す。挿絵ピンはまだですか。
「ククク、手出しできまい! これぞ李代桃僵! 乙女のやわはだ、触れられるものなら触れて――」
「ッシャオラアアアアア!」
全力ダッシュした天が数多をかっさらっていった。
「合法的に女子へアレコレできるチャアアアアアンス!」
「イヤアアアアアアアアアアア!」
「漲ってきたぜええええ!」
天は数多を適当な乱戦エリアでポイすると、ターンして懐良にラリアット。『とりこっ!』といって吹き飛んでいった彼を見送った所で、天の視界が炎で埋め尽くされた。慌ててダッシュを再開。振り向くと、キリエが謎の本を広げてここではないどこかの空を見上げている。
「カミサマ! 人類はヤンチャが好き。なのでわたしも、カミサマの教えを広めたいのでございますです!」
いい加減な日本語を唱え、キリエはあろうことか瞑目。
プロテスタント調の賛美歌を高らかに歌い始めた。まるで音程の波を具現化したかの如く炎が波打ち、天を飲み込もうと追いかけてくる。天は冷や汗と脂汗を吹き出しながら全速力で逃げた。
「なんだこりゃ、女子とかそういう問題じゃねえ! シスター服ちょーイイとか言ってる場合じゃねえ! ってうおお!」
古来より炎は虎に例えられ、人より早く走るとも言われる。天はたちまち炎に呑まれた。
「模擬戦、とても平和的、とてもよいこと!」
天は知らないかもしれないが、厳密なはなしベールを被ったシスターがプロテスタント調の賛美歌を独唱するというのはなかなかにいびつな状態である。
だがキリエはそれこそ正道とばかりに両腕を広げて見せた。
「この聖書とカミサマの与えたもうた力で、皆様の心に小さな火をともしたいのです。さあカミサマのもとへ参りましょう!」
「どこが小さな火だ! 死ぬわ!」
天は逃げるのをやめてキリエに突撃。
鋼化した腕によるショルダータックルをぶちかます。
「身も心も炎に焦がして、さあ!」
対するキリエは手のひらに焼き鏝でつけたような印を浮き上がらせ、真っ赤に加熱させた。
キリエの手のひらと天のタックルが正面から激突。
パワー負けして吹き飛んだキリエと、なんとかその場に踏ん張ってみせた天。しかし天の両腕からは黒い煙が吹き出し、所々で小爆発を起こした。
「ぐお、やべえ!」
「天知る地知る人知れずっ!」
隙を見せた天に、浅葱が急速接近。
長い白マフラーを靡かせて、ダッシュパンチを叩き込む。
激しいスパークを伴った浅葱の拳は天を爆発させ、爆風によって再びマフラーが靡いた。
「次の相手は誰ですかっ」
高らかに吠える浅葱の前に、真央がどっしりと仁王立ちした。
「もうあの頃の私とは……怯えていただけの私とは違うんです! 誰かを守れる強さを証明してみせます」
両腕を掲げる。
「あの人の代わりに――コーシカ!」
途端、虚空から現われたネコめいたグローブが真央の両手を包み込む。
ファンシーショップで販売しそうな可愛い手袋だが、これが彼女の力であり強さである。
「猫屋敷真央、行きます!」
「月歌浅葱、迎え撃ちますっ!」
地面を蹴って拳を叩き付ける真央。浅葱の拳と正面から衝突。拳を引いてもう一方の拳を繰り出すも、再び衝突。
「拳の語り合い。ロマンですねっ」
更に足を止めて殴り合うかと思われた真央だが、俊敏にバックスウェーをかけて離脱。独特のファイティングポーズをとると、浅葱の周りを高速で駆け回り始めた。
きょろきょろと首を巡らせる浅葱。
そんな浅葱の脇を、真央がランダムに掠めていく。そのたびに浅葱の身体に生傷が増えていく。
しかし表情は笑っていた。歯を見せて。
「どこから来るかわからない。けど、読みはしません。きっと来ると、信じてっ!」
浅葱は180度反転し、思い切り拳を繰り出した。
バックスタブを狙った真央の頭部に直撃。
「――にゃ!」
そのまま吹き飛ばされるかと思われた真央だが、空中でくるんと回って衝撃を逃がし、上下逆さのまま浅葱と向かい合った。ネコのようなグローブを引き絞り、一回転して戻ってきたところで浅葱の頭部に叩き込む。
浅葱は吹き飛び、バウンドして転がり、そしてがくりと脱力した。
「はあ……はあ……ふう……」
呼吸が整わない。大粒の汗が流れ、視界が歪む。
真央はやがて、自ら膝を折ってうつ伏せに倒れた。
「おっと、可愛い肉球ちゃんだと思って狙ってたのに。取られちゃったか」
冬月はそう言って、手の中で拳銃をくるくると回した。
姿も振る舞いも可憐な少女そのものだが、こうみえて正体は二十五歳の男性である。
周囲を見回せば、ほとんどの参加者は戦闘不能によってリタイアしていた。
残るは自分だけだろうか。
「ま、可愛いオレが戦ってる時点で最強に可愛いんだけどね」
「かわいい……?」
ずるり、とどこからか音がした。
血まみれでうつ伏せに倒れた少女からそれが聞こえた……と思った時には、少女は姿を変えていた。
「かわいい女の子は、強くなくちゃいけないの」
少女。小石ころん。
黒衣にとがり帽子。ハロウィーンでしかお目にかけないような二メートル近いキャンディケインを手に、ゆっくりと立ち上がる。
言うなればお菓子の家の魔女だろうか。
だが童話の魔女とて、ここまで闘志をむき出しにはしないだろう。
冬月は片眉を上げ、そして銃をころんめがけて乱射した。
ころんに直撃。弾に仕込まれたビーンズがはじけるが、ころんはゆらぎすらしなかった。
「ころんは完全に勝利して、本当のかわいいを手に入れるの」
「本当のかわいいね。いいよいいよ、オレと一緒に楽しく可愛くバトルしーましょ♪」
「ルールはかんたん」
杖を振るころん。溶けて流れ出たキャンディドロップが固まり、弾丸へと変わる。
腕のシュシュを引き抜き、お手玉のようにする冬月。
「勝ったら可愛い!」
「負けたら死ぬのっ」
杖をライフルのように構えて握り込むころん。
彼女の円周軌道走りながら銃を乱射する冬月。
大量の飴玉とビーンズが飛び交い、それぞれがお互いの服を引き裂いていく。
可愛いパーカーが破れ、可愛いドレスが破れ、可愛いリュックサックが破れ、可愛い帽子が破れ、可愛い、ルーズソックスが破れ、可愛いリボンが破れる。
しかし二人は。
「やっぱりオレって」
「ころんは」
「「かわいい!」」
目を限界まで見開き、冬月は急接近。シュシュを投擲すると、仕込まれていたツルが展開してこいしの腕へ巻き付いた。シュシュの形に戻りはするが、腕を食いちぎらんばかりに締め付ける。
痛みで杖から手を離すころん。
「もらった♪」
華やぐ声で、可愛いトーンで、殺人的なまなざしで、銃口を胸に押し当てる冬月。トリガーにかかる指に力がこもる。
ころんは。
「ころんは」
ころんは。
「ころんは」
杖の先端に結んだリボンを口でくわえて引っ張り上げ、強制的に杖を振り上げると、冬月めがけて全力で叩きつけた。
薙ぎ払われ、地面を転がり、仰向けに、大の字に倒れる冬月。
「あ、いたた……た……」
起き上がる力はなさそうだ。
「いいストレス発散になったよ。たまにはいいね」
「アナタ」
ころんは彼に近づき、覚醒状態を解いた。
手を伸ばす。
「顔は傷付けないでくれたのね」
「お互いさま」
伸ばしたころんの手を、冬月はぎゅっと握って起き上がった。
「今日の一番はきみにあげる。次は、きっとオレが一番だからね」
「負けないの」
そう言って、ころんはその場で気を失った。
かくして。
第一回。2015年五麟祭バトルロワイヤル優勝者が決定した。
だがこの日をおしまいにするのはまだ早い。
楽しいものはまだまだ沢山残っているのだ。
なぜならは。
今日は楽しい五麟祭。
