過去ログ
三カ国作戦
[2019/03/02]

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アストラント炭鉱、メルキュール小管区への【潜入調査】により、聖域が強力な防御結界であり、神造兵器でなくては到底破ることはかなわないということが発覚した。
聖央都を包む結界は、不浄なる魔女の罪を力の源としているという噂話と「聖域」展開中は大管区の生活レベルが下るという情報から、おそらく大管区の聖櫃が使われているという予想がたてることができる。
「大管区を……全てとは言わずとも、一角でも落とすことができれば、聖域の出力をさげることができる、かもしれないということか」
王の執務室に広げられた地図のシャンバラ大管区とされる部分を、エドワード・イ・ラプセル王が、ペンで指しながらつぶやく。
「でしょうな。とはいえ、聖域発動中は、大管区に聖堂騎士はじめ兵を集結させているのが道理」
蓄えられた髭を親指でなでながらフレデリック・ミハイロフが所見を述べた。
「聖域はヘルメリアのプロメテウスの火力をものともせず、ヴィスマルクのデウスギアであれば破壊は可能であるが、ヴィスマルクはその手札を切るとは思えない。であれば外側からの破壊は不可能と割り切るしかないのであるな」
宰相クラウス・フォン・プラテスが既にわかりきった事実を口にして確認をする。
「シャンバラはそれほど軍事力が高いわけではない。周囲の小管区に一斉に攻撃があれば……兵を割かずにはいられないだろう」
「なるほど、陽動作戦ですかな、陛下」
「ああ、ニルヴァンを足がかりに……そうだな、6箇所程度の小管区を攻めるのはどうだろう。
大管区を中心に、グラーニア、コンスタンツェ、ギネヴィア、ファルスト、グレイタス、ムートリアスの小管区がある。ここを侵略しようと思う」
エドワードは大管区に大きな丸をつけたあと、6つの管区に印をつけた。
「6箇所同時、にですか。……遺憾ながら我が兵力では同時には4つが限度では?」
フレデリックがその無茶な作戦に具申する。
国防騎士、自由騎士を総動員しても6つは厳しい。それに本国に屯する騎士も必要だ。どう考えても6箇所は無理にもすぎる。
「ここからは政治だ。
私はこの陽動計画をヴィスマルクとヘルメリアにも告げる」
「ふむ」
クラウスは片眼鏡にふれ、先を促す。
「終戦処理の話だよ。まあ勝ってもないのに皮算用といえばそのとおりだけれど。彼らにはギネヴィアとファルストを明け渡すつもりだ。彼らとてシャンバラ国内に橋頭堡は必要だろう」
そういったエドワードの表情は明るいものではない。シャンバラ侵略を他の国にも委ねる。それはさらなる戦渦の拡大を意味する。それは他国をこの先コントロールできない以上、兵でないものへの被害も拡大するということだ。
シャンバラの内情はともかくとして、シャンバラに住む一般人はあくまでも善良な一般人なのだ。国際条約で一般人への攻撃は禁止されてはいるが、すべてがすべて守られるわけではない。
イ・ラプセルはその条約を遵守するつもりだ。しかしヘルメリアとヴィスマルクがどうするかなどわからない。
「そしてシャンバラ戦争終戦後にシャンバラは戦争に参加した国家で切り分けられることになるだろう。その足がかりは彼らとて必要になるはずだ」
それは苦渋の決断。もちろん彼らがそれに同意するかどうかもわからない机上の空論だ。
「やあやあ、平和主義とおもいきや、割と大胆だね、エドワード陛下」
エドワードの推論の後静かになった執務室に場違いな声が聞こえた。振り向けばそこにはアレイスター・クローリーがいつの間にか立っている。
「アレイスター・クローリー殿。どういったご用向かな?」
エドワードは痛む胃に眉を顰めながら楽しそうに笑みを浮かべる魔術師にといかけた。
「いやいや、僕がその作戦の中継ぎをしてあげていいよって話をしにきたのさ」
そのクローリーの提案にエドワードはきょとんとする。面倒な手はずを整え通商連経由でその作戦を伝えるつもりだったので、彼がその役割を担ってくれるのであれば、ありがたい。ありがたいが、だ。
「君にそのメリットはあるのかい?」
「ああ、もちろん。ヴィスマルク、ヘルメリア、イ・ラプセル、まあ今回は参加しないつもりみたいだけどパノプティコン。今現在において、陥落させやすいと思われるシャンバラをどこが落としてもらっても僕ぁかまわないのさ。戦争の進行は僕にとって好都合だ。それだけで僕にとっては最大のメリットを果たしているということなんだよ。
それにあのミトラースのおじいちゃんったら全方向にめちゃくちゃな喧嘩売るんだもんなあ。僕の話きいてくんないし。そりゃあ、どこの国からも集中攻撃されるよ。まったく。自殺行為かよ。
――まあそれはおいといて、現状君たちの利害は一致している。だからエドワード君もこの作戦を考案したんだろう? 悪くないよ。
発案者が一番負担を強いられて、他の2国は最小限の手で橋頭堡を得ることができる。ずいぶんな落とし所だとおもうよ」
嬉しそうにクローリーは執務室を歩きながらエドワードの作戦を肯定する。
「僕がこの発案を叶えてみせるよ」
胡散臭い笑みを浮かべるクローリーは空いている作戦参謀席に座った。
「じゃあ、作戦をしっかりと詰めようじゃないか!」
■S級指令が発動されました。
関連依頼:
⇒【S級指令】ピルグレイス大聖堂制圧 (担当ST:吾語)
⇒【西方陽動作戦】トリオペルウノ― 一のための三重奏―(担当ST:†猫天使姫†)
⇒【東方陽動作戦】UnbelievablePlan!(担当ST:どくどく)