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【東方陽動作戦】UnbelievablePlan!

●Three Nation Invasion
一八一九年二月、シャンバラニルヴァン小管区でイ・ラプセルとシャンバラがぶつかり合う。イ・ラプセル側のオラクル騎士団の活躍が大きく、シャンバラ聖堂騎士団の猛攻を防ぎきる。
シャンバラの軍が退けられたとはいえ、決定的な敗北とはならなかった。聖櫃を利用して生み出された潤沢な食料と聖域と呼ばれる結界による籠城をされれば聖王都に手を出すことが出来ず、そして国土さえ気にしなければ山脈を崩すほどの威力をもつ神像落としと大量破壊魔道式アルス・マグナがある。
極論を言えば、シャンバラはまだ聖堂騎士団というカードを一枚切っただけなのだ。
イ・ラプセルがシャンバラに攻勢に出るにはいくつかの障害がある。ヴィスマルクに近いニルヴァンに布陣したイ・ラプセルは後方の鉄血国家の動向も気にしなければならず、ヘルメリアのプロメテウスも健在だ。二国の動向を探らねばならず、下手に動くことはできないだろう。よほどの奇策を講じなければ見動きすら取れないはずだ。
――というのが、シャンバラ側の現状解釈である。そしてそれは概ね事実であった。
アレイスター・クローリーを仲立ちとした三国共闘。そんな奇策など予想できるはずがなかった。
●ファルスト小管区
「ファルスト小管区を制圧せよ」
ヘルメリア国王チャールズ・バベッジの命により、SA-PR/C(サターン-プロメテウス/カーネイジ)を主軸とした部隊が動き出す。圧倒的な火力と流言飛語を使った混乱。これによりヘルメリアは早期にファルスト小管区を制圧する。
「その場を橋頭保とし、南方にあるグレイタス及びムートリアス小管区を掌握せよ。
軍備が整い次第次第、すぐさま進むのだ」
さらにそこから南下し、二つの小管区を攻め落とそうとする。グレイタスとムートリアス小管区は鉱山地区とも言われ、潤沢な鉱石が手に入る。鉄を多く使用するヘルメリアとしては抑えておきたい管区だ。
「イ・ラプセルの現兵力では二管区まで制圧する余裕はない。『耳』はヴィスマルク及びシャンバラに多く向けよ」
『蒸気王』の言葉はヘルメリア軍の総意でもあった。あの国は今は気にしなくていい。
それは正しく、同時に間違っていた。
確かに大軍を動かす余裕はないが、それはイ・ラプセルを軽視していい理由にはならない――
●グレイタス小管区
「働け! 睡眠など二時間で十分だ! メシ? そんなもん食わせる暇はない!」
グレイタス小管区を収めるパーカス地方聖職者は鉱山で働く奴隷を酷使していた。キジンやマザリモノはシャンバラで人権はない。たとえ死んでも罪になど問われない。精々が『雑に扱い、国の物を壊した』程度の叱咤を受けるだけだ。
今は大量の鉄が必要になる。戦争は終わるどころか激化し、武器や鎧を作るのに鉄はどれだけあっても足りない。奴隷がどれだけ壊れようが構う者か。結果を出せばチャラになる。今は聖櫃を護ることが最重要だ。
「ノロノロするな! それだけ休みの時間が減るぞ!」
無理の軋轢は奴隷に振りかかる。奴隷達は不満を募らせながらも、逆らう事が出来ずに俯いていた。
●ムートリアス小管区
「ミトラース様……どうかこの私をお救いください……!」
小管区に建てられた城の奥。その主であるカースンは執務室で震えていた。
戦争。遠く離れたニルヴァンで起きた事件はすぐに終わると思っていたのに、その気配はない。そしてヴィスマルクやヘルメリアまでやって来て激化する一方だ。聖王都から助けが来る気配もなく、コネを駆使して呼び寄せた騎士に防衛を命じて自分は一番安全な場所で震えていた。
信用出来る騎士にのみ扉の開閉を許して執務をこなす。小管区の運営はそれで問題はない。
「ミトラース様が助けてくれる。助けてくれる…………!」
祈るカースン。国を維持するために尽力する自分を、ミトラース様が助けてくれないわけがない。だが、いつだ? いつまで待てばいい?
恐怖は日に日に膨らみ、風船のように破裂する寸前だった。
●イ・ラプセル
グレイタス小管区とムートリアス小管区の分かれ道。その付近の森に潜む影があった。イ・ラプセルの自由騎士である。
「この二つの小管区を落とすのが目的だ」
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)は集まった自由騎士の前で説明を開始する。
「いや、この人数でか!?」
「この人数でだ」
きっぱり言い放つサイラス。集まった人数を二つに分け、シャンバラ兵と戦い小管区を攻め入る。さて兵力差は何倍になるのか? 幾らなんでも無理――という声が飛ぶ前に言葉を続ける。
「先ずグレイタス小管区。こちらは鉱山採掘の為に多くの奴隷を酷使している。奴隷達はかなり不満が溜まっているという情報だ。彼らを蜂起させてその混乱を突くように別動隊の騎士団を突撃させる」
「奴隷が解放されなかったら?」
「無駄に突撃をして、部隊壊滅だ。勝敗は奴隷解放が上手くいくか否かにかかっている」
さらりと言って肩をすくめるサイラス。
「そしてムートリアス小管区。こっちはガチガチの籠城をしている。城主が臆病者のようで、その命令でそうしているようだ。その執務室まで言って、軽く脅すだけで怯えて逃げだすだろう。
上からの命令が無ければ軍の機能は滞る。そこを一気に制圧する」
「執務室に行くって……簡単に行けるものなのか?」
「さて? そこは腕次第だな。上手くやってくれないとこちらも無駄に騎士団が突撃することになる」
無茶苦茶な物言いだが、已む無き事情もあった。ファルスト小管区を押さえたヘルメリアの存在だ。水鏡の予知によれば、準備を整えたヘルメリアが小管区を押さえる為に動き出すと言う。
だがそれより前に小管区を押さえてしまえば? 今回に限り、ヴィスマルクとヘルメリアは一時的な同盟を結んでいる。その同盟を蹴れば国の信用は失われる。国そのものにかかる不信は今後の闘いに置いて大きな傷となるだろう。少なくとも、躊躇する材料にはなる。
「イ・ラプセルの利点は水鏡による未来予知だ。それにより他国より一手先に行動できる。あとは人材の問題だ。
魔力特化や火力特化、技術特化な国々の鼻を明かすいい機会だと思うが、如何か?」
乗らないというのならそれでもいい。だが上手くいけば、小国と侮っているヘルメリアに先んでる事が出来る。
のるかそるかの大博打。信じられない無茶無理無謀の大作戦。
さて貴方はこの作戦に――
一八一九年二月、シャンバラニルヴァン小管区でイ・ラプセルとシャンバラがぶつかり合う。イ・ラプセル側のオラクル騎士団の活躍が大きく、シャンバラ聖堂騎士団の猛攻を防ぎきる。
シャンバラの軍が退けられたとはいえ、決定的な敗北とはならなかった。聖櫃を利用して生み出された潤沢な食料と聖域と呼ばれる結界による籠城をされれば聖王都に手を出すことが出来ず、そして国土さえ気にしなければ山脈を崩すほどの威力をもつ神像落としと大量破壊魔道式アルス・マグナがある。
極論を言えば、シャンバラはまだ聖堂騎士団というカードを一枚切っただけなのだ。
イ・ラプセルがシャンバラに攻勢に出るにはいくつかの障害がある。ヴィスマルクに近いニルヴァンに布陣したイ・ラプセルは後方の鉄血国家の動向も気にしなければならず、ヘルメリアのプロメテウスも健在だ。二国の動向を探らねばならず、下手に動くことはできないだろう。よほどの奇策を講じなければ見動きすら取れないはずだ。
――というのが、シャンバラ側の現状解釈である。そしてそれは概ね事実であった。
アレイスター・クローリーを仲立ちとした三国共闘。そんな奇策など予想できるはずがなかった。
●ファルスト小管区
「ファルスト小管区を制圧せよ」
ヘルメリア国王チャールズ・バベッジの命により、SA-PR/C(サターン-プロメテウス/カーネイジ)を主軸とした部隊が動き出す。圧倒的な火力と流言飛語を使った混乱。これによりヘルメリアは早期にファルスト小管区を制圧する。
「その場を橋頭保とし、南方にあるグレイタス及びムートリアス小管区を掌握せよ。
軍備が整い次第次第、すぐさま進むのだ」
さらにそこから南下し、二つの小管区を攻め落とそうとする。グレイタスとムートリアス小管区は鉱山地区とも言われ、潤沢な鉱石が手に入る。鉄を多く使用するヘルメリアとしては抑えておきたい管区だ。
「イ・ラプセルの現兵力では二管区まで制圧する余裕はない。『耳』はヴィスマルク及びシャンバラに多く向けよ」
『蒸気王』の言葉はヘルメリア軍の総意でもあった。あの国は今は気にしなくていい。
それは正しく、同時に間違っていた。
確かに大軍を動かす余裕はないが、それはイ・ラプセルを軽視していい理由にはならない――
●グレイタス小管区
「働け! 睡眠など二時間で十分だ! メシ? そんなもん食わせる暇はない!」
グレイタス小管区を収めるパーカス地方聖職者は鉱山で働く奴隷を酷使していた。キジンやマザリモノはシャンバラで人権はない。たとえ死んでも罪になど問われない。精々が『雑に扱い、国の物を壊した』程度の叱咤を受けるだけだ。
今は大量の鉄が必要になる。戦争は終わるどころか激化し、武器や鎧を作るのに鉄はどれだけあっても足りない。奴隷がどれだけ壊れようが構う者か。結果を出せばチャラになる。今は聖櫃を護ることが最重要だ。
「ノロノロするな! それだけ休みの時間が減るぞ!」
無理の軋轢は奴隷に振りかかる。奴隷達は不満を募らせながらも、逆らう事が出来ずに俯いていた。
●ムートリアス小管区
「ミトラース様……どうかこの私をお救いください……!」
小管区に建てられた城の奥。その主であるカースンは執務室で震えていた。
戦争。遠く離れたニルヴァンで起きた事件はすぐに終わると思っていたのに、その気配はない。そしてヴィスマルクやヘルメリアまでやって来て激化する一方だ。聖王都から助けが来る気配もなく、コネを駆使して呼び寄せた騎士に防衛を命じて自分は一番安全な場所で震えていた。
信用出来る騎士にのみ扉の開閉を許して執務をこなす。小管区の運営はそれで問題はない。
「ミトラース様が助けてくれる。助けてくれる…………!」
祈るカースン。国を維持するために尽力する自分を、ミトラース様が助けてくれないわけがない。だが、いつだ? いつまで待てばいい?
恐怖は日に日に膨らみ、風船のように破裂する寸前だった。
●イ・ラプセル
グレイタス小管区とムートリアス小管区の分かれ道。その付近の森に潜む影があった。イ・ラプセルの自由騎士である。
「この二つの小管区を落とすのが目的だ」
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)は集まった自由騎士の前で説明を開始する。
「いや、この人数でか!?」
「この人数でだ」
きっぱり言い放つサイラス。集まった人数を二つに分け、シャンバラ兵と戦い小管区を攻め入る。さて兵力差は何倍になるのか? 幾らなんでも無理――という声が飛ぶ前に言葉を続ける。
「先ずグレイタス小管区。こちらは鉱山採掘の為に多くの奴隷を酷使している。奴隷達はかなり不満が溜まっているという情報だ。彼らを蜂起させてその混乱を突くように別動隊の騎士団を突撃させる」
「奴隷が解放されなかったら?」
「無駄に突撃をして、部隊壊滅だ。勝敗は奴隷解放が上手くいくか否かにかかっている」
さらりと言って肩をすくめるサイラス。
「そしてムートリアス小管区。こっちはガチガチの籠城をしている。城主が臆病者のようで、その命令でそうしているようだ。その執務室まで言って、軽く脅すだけで怯えて逃げだすだろう。
上からの命令が無ければ軍の機能は滞る。そこを一気に制圧する」
「執務室に行くって……簡単に行けるものなのか?」
「さて? そこは腕次第だな。上手くやってくれないとこちらも無駄に騎士団が突撃することになる」
無茶苦茶な物言いだが、已む無き事情もあった。ファルスト小管区を押さえたヘルメリアの存在だ。水鏡の予知によれば、準備を整えたヘルメリアが小管区を押さえる為に動き出すと言う。
だがそれより前に小管区を押さえてしまえば? 今回に限り、ヴィスマルクとヘルメリアは一時的な同盟を結んでいる。その同盟を蹴れば国の信用は失われる。国そのものにかかる不信は今後の闘いに置いて大きな傷となるだろう。少なくとも、躊躇する材料にはなる。
「イ・ラプセルの利点は水鏡による未来予知だ。それにより他国より一手先に行動できる。あとは人材の問題だ。
魔力特化や火力特化、技術特化な国々の鼻を明かすいい機会だと思うが、如何か?」
乗らないというのならそれでもいい。だが上手くいけば、小国と侮っているヘルメリアに先んでる事が出来る。
のるかそるかの大博打。信じられない無茶無理無謀の大作戦。
さて貴方はこの作戦に――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.両管区における戦功点を50ポイント以上取得する。
どくどくです。
解放戦に隠密戦。水鏡の予知を如何に生かせるか。
※ この依頼に参加した場合、S級依頼に参加することはできません。
もう片方の陽動作戦に参加することは可能です。
戦場内にどこかの国の斥候はいるかも知れませんが、それが誰であるかはわかりませんし攻撃もしてこないですし、姿も現さないので警戒にプレイングを割く必要はありません。
作戦上、この地域はイ・ラプセル担当ですので他の国の兵士も介入しません……今は、まだ。敵はシャンバラ兵のみです。
また管区ごとに小聖櫃が存在しています。
管区が豊かであるということはそのままヨウセイが囚われていることを指しています。
聖櫃を止めるか否かはお任せします。聖櫃を止めることでシャンバラの一般人が困窮することになります。
意見が割れた場合、多数決の形で決定します。同数の場合、神がサイコロを振ります。
今回はポイント制になります。
その管区にPC一人参加で1ポイント、行動の良し悪しでプラスマイナスになります。敵を倒すごとにポイントは増えます。
それ以外の行動で良い行動であればポイントは加算されていきます。
1箇所につき50ポイントを得ることができれば、陥落させることができます(それ以上ポイントを得ることも可能です)。陥落できなかった場合はヘルメリアが侵攻して、その管区はヘルメリアのものとなります。
得たポイントにより、S級指令での行動がしやすくなり、聖櫃を破壊するために有利になります。
バランスよく配備するのも重要になります。
また、今回は【4】ファルスト小管区に向かうことは禁じられています。シャンバラとの戦いに集中してください。
プレイングで指定された場合白紙として扱います。
●書式
一行目:【5】か【6】どちらに行くか(未記入の場合はどちらかにふりわけられます)
二行目:誰かと一緒に参加するのであればIDと名前(フルネームじゃなくてもかまいません)もしくはタグでご指定ください。
三行目:プレイング
【5】グレイタス小管区
複数の鉱山とその麓にある都市です。キジンやマザリモノは執務を行う教会の地下牢に押し込まれるようにして生活しています。
そこを警備する者を倒すだけで終わりではありません。不満こそあれど立ち上がる力をもたない奴隷達を鼓舞し、立ち上がらせなければいけません。さもなければ奴隷達は『所詮支配者が変わるだけ』と再び俯いてしまいます。
グレイタス教会&地下牢
シャンバラにおける奴隷を収容する場所です。探せばすぐに入り口は見つかります。教会を襲撃し、警備を駆逐することが最低条件となります。
教会は地下牢含め、地方聖職者のパーカスが管理しています。教会にはパーカスと警備兵がいますが、3ターン後に聖堂騎士の聖歌隊が参戦します。
敵情報
・『水銀錬成師』オルガ・パーカス(×1)
地方聖職者。ノウブル錬金術師。四五才男性。徹底したノウブル至上主義です。特にキジンやマザリモノは人族として見ていません。ランク2の錬金術スキルとヒュドラルギュルムを保持しています。
倒せば小聖櫃の場所を聞きだすことができます。
EX:ヒュドラルギュルム 魔遠範 蠢く毒水が蛇のように絡みつきます。【ポイズン2】【スロウ2】
・駐屯兵(×20)
グレイタスを護る衛兵です。重戦士。ランク1までのスキルを使います。
・『ソングオブスターハイ』クロエ・ピエロン(×1)
シャンバラ上級市民。ノウブル女性。聖堂騎士団聖歌隊の隊長です。聖歌隊と共にこの地に駐屯しています。戦闘開始から3ターン目に登場します。
ランク2のヒーラースキルを使います。
・聖歌隊(×8)
クロエの部下です。戦闘になればサポートに回ります。戦闘開始から3ターン目に登場します。
それぞれランク1のヒーラースキルを使います。
・奴隷達
グレイタスに収容されたキジンやマザリモノです。その多くは過酷な労働で疲労困憊していますが、動ける者もいます。解放の時点で一定数の奴隷は蜂起します。
さらに上手く奮い立たせれば、より多くの奴隷達が蜂起します(説得の内容により、騒動が大きくなりイ・ラプセルが攻めやすくなります)。
【6】ムートリアス小管区
製鉄が盛んな鉱山と鍛冶の街です。立派な古城があり、そこが小管区の政の場となっています。城の麓までは問題なく移動できますが、そこからは地方聖職者の命令もあって厳重な警備が敷かれています。
便宜上『城内侵入』→『警備突破』→『執務室』に区分けされます。
チームを組んで各箇所を突破してもいいです(チームの誰かが突破できれば、OKとします。この場合ポイントゲットは突破した人のみとなります)し、一人で突破しても構いません。
『執務室』以外に警護兵がいます。警備兵は倒してもいいですし、倒さなくてもいいです。倒せばポイントがもらえますが、見つかる可能性も増えます。倒さなければ各所でのチェック等が厳しくなり、失敗したり発見されやすくなります。
1城内侵入
侵入経路は三つあります。どれを選んでも構いません。全員同じルートで侵入してもいいし、別々でも構いません。
城門:真正面から侵入します。警備兵にチェックされる事は避けれません(『ステルス』の余地すらありません)。一番厳しいですがチェックを上手くごまかせれば、一気に『執務室』まで行けます。
用水路:城壁から流れる用水路を泳いで侵入します。警備兵のチェックは緩いですが、相応の技能が無いと泳ぎ切れず流されます。
城壁:高さ6mの城壁を飛び越えます。城壁でチェックする警備兵はそれなりに居ますので、何かしらの対策が必要です。
2警備突破
警邏する騎士をスキルなどでどう突破するかです。戦ってもいいですが、戦闘に時間をかけすぎると騒ぎが大きくなり、地方聖職者が逃げる可能性があります。
3執務室
地方聖職者の部屋です。『アイアンロック』された扉があり、よほどのことが無ければ扉は開けません。窓ははめ殺しのため、扉が唯一の入り口です(ほかの出入り口を探す余裕はありません)。上手く開けるか、開けさせてください。
地方聖職者自身は小物で無力です。どう処理しても構いません。心を折って戦いの命令が出来ないようにすればこの小管区は落とせます。
●敵情報
アベル・カースン(×1)
ノウブル男性。六七才。ムートリアス地方聖職者。小心者の老人です。危険を避けて生きていたため、荒事は苦手です。『土下座 急』とか使いますが、フレーバーです。
問い詰めれば小聖櫃の場所を吐きます。
・『白銀旗』ナディア・ナバル(×1)
元白銀騎士団隊長。旗で守るガーディアン。ノウブル女性。蒼白激突戦の結果、陰謀その他いろいろあって隊長格をはく奪され、左遷の形でこの城の騎士となっています。
経歴程度に頭がよく、目ざといです。執務室と各部署のパイプ役をこなしながら、城内を警備しています。
ランク2の防御タンクスキルを活性化しています。
・警護兵(60~)
各所に配置された警備兵です。軽戦士のランク1あたりを活性化しています。基本二人一組で行動しています。
見つかれば戦うよりも笛を鳴らし、危険を知らせる事を優先します。
●ロケーション
各小管区ともに時刻は真夜中。一夜で全てを片付けます。
明かりのペナルティは無し。その他に関しては多岐にわたる為、状況次第です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
解放戦に隠密戦。水鏡の予知を如何に生かせるか。
※ この依頼に参加した場合、S級依頼に参加することはできません。
もう片方の陽動作戦に参加することは可能です。
戦場内にどこかの国の斥候はいるかも知れませんが、それが誰であるかはわかりませんし攻撃もしてこないですし、姿も現さないので警戒にプレイングを割く必要はありません。
作戦上、この地域はイ・ラプセル担当ですので他の国の兵士も介入しません……今は、まだ。敵はシャンバラ兵のみです。
また管区ごとに小聖櫃が存在しています。
管区が豊かであるということはそのままヨウセイが囚われていることを指しています。
聖櫃を止めるか否かはお任せします。聖櫃を止めることでシャンバラの一般人が困窮することになります。
意見が割れた場合、多数決の形で決定します。同数の場合、神がサイコロを振ります。
今回はポイント制になります。
その管区にPC一人参加で1ポイント、行動の良し悪しでプラスマイナスになります。敵を倒すごとにポイントは増えます。
それ以外の行動で良い行動であればポイントは加算されていきます。
1箇所につき50ポイントを得ることができれば、陥落させることができます(それ以上ポイントを得ることも可能です)。陥落できなかった場合はヘルメリアが侵攻して、その管区はヘルメリアのものとなります。
得たポイントにより、S級指令での行動がしやすくなり、聖櫃を破壊するために有利になります。
バランスよく配備するのも重要になります。
また、今回は【4】ファルスト小管区に向かうことは禁じられています。シャンバラとの戦いに集中してください。
プレイングで指定された場合白紙として扱います。
●書式
一行目:【5】か【6】どちらに行くか(未記入の場合はどちらかにふりわけられます)
二行目:誰かと一緒に参加するのであればIDと名前(フルネームじゃなくてもかまいません)もしくはタグでご指定ください。
三行目:プレイング
【5】グレイタス小管区
複数の鉱山とその麓にある都市です。キジンやマザリモノは執務を行う教会の地下牢に押し込まれるようにして生活しています。
そこを警備する者を倒すだけで終わりではありません。不満こそあれど立ち上がる力をもたない奴隷達を鼓舞し、立ち上がらせなければいけません。さもなければ奴隷達は『所詮支配者が変わるだけ』と再び俯いてしまいます。
グレイタス教会&地下牢
シャンバラにおける奴隷を収容する場所です。探せばすぐに入り口は見つかります。教会を襲撃し、警備を駆逐することが最低条件となります。
教会は地下牢含め、地方聖職者のパーカスが管理しています。教会にはパーカスと警備兵がいますが、3ターン後に聖堂騎士の聖歌隊が参戦します。
敵情報
・『水銀錬成師』オルガ・パーカス(×1)
地方聖職者。ノウブル錬金術師。四五才男性。徹底したノウブル至上主義です。特にキジンやマザリモノは人族として見ていません。ランク2の錬金術スキルとヒュドラルギュルムを保持しています。
倒せば小聖櫃の場所を聞きだすことができます。
EX:ヒュドラルギュルム 魔遠範 蠢く毒水が蛇のように絡みつきます。【ポイズン2】【スロウ2】
・駐屯兵(×20)
グレイタスを護る衛兵です。重戦士。ランク1までのスキルを使います。
・『ソングオブスターハイ』クロエ・ピエロン(×1)
シャンバラ上級市民。ノウブル女性。聖堂騎士団聖歌隊の隊長です。聖歌隊と共にこの地に駐屯しています。戦闘開始から3ターン目に登場します。
ランク2のヒーラースキルを使います。
・聖歌隊(×8)
クロエの部下です。戦闘になればサポートに回ります。戦闘開始から3ターン目に登場します。
それぞれランク1のヒーラースキルを使います。
・奴隷達
グレイタスに収容されたキジンやマザリモノです。その多くは過酷な労働で疲労困憊していますが、動ける者もいます。解放の時点で一定数の奴隷は蜂起します。
さらに上手く奮い立たせれば、より多くの奴隷達が蜂起します(説得の内容により、騒動が大きくなりイ・ラプセルが攻めやすくなります)。
【6】ムートリアス小管区
製鉄が盛んな鉱山と鍛冶の街です。立派な古城があり、そこが小管区の政の場となっています。城の麓までは問題なく移動できますが、そこからは地方聖職者の命令もあって厳重な警備が敷かれています。
便宜上『城内侵入』→『警備突破』→『執務室』に区分けされます。
チームを組んで各箇所を突破してもいいです(チームの誰かが突破できれば、OKとします。この場合ポイントゲットは突破した人のみとなります)し、一人で突破しても構いません。
『執務室』以外に警護兵がいます。警備兵は倒してもいいですし、倒さなくてもいいです。倒せばポイントがもらえますが、見つかる可能性も増えます。倒さなければ各所でのチェック等が厳しくなり、失敗したり発見されやすくなります。
1城内侵入
侵入経路は三つあります。どれを選んでも構いません。全員同じルートで侵入してもいいし、別々でも構いません。
城門:真正面から侵入します。警備兵にチェックされる事は避けれません(『ステルス』の余地すらありません)。一番厳しいですがチェックを上手くごまかせれば、一気に『執務室』まで行けます。
用水路:城壁から流れる用水路を泳いで侵入します。警備兵のチェックは緩いですが、相応の技能が無いと泳ぎ切れず流されます。
城壁:高さ6mの城壁を飛び越えます。城壁でチェックする警備兵はそれなりに居ますので、何かしらの対策が必要です。
2警備突破
警邏する騎士をスキルなどでどう突破するかです。戦ってもいいですが、戦闘に時間をかけすぎると騒ぎが大きくなり、地方聖職者が逃げる可能性があります。
3執務室
地方聖職者の部屋です。『アイアンロック』された扉があり、よほどのことが無ければ扉は開けません。窓ははめ殺しのため、扉が唯一の入り口です(ほかの出入り口を探す余裕はありません)。上手く開けるか、開けさせてください。
地方聖職者自身は小物で無力です。どう処理しても構いません。心を折って戦いの命令が出来ないようにすればこの小管区は落とせます。
●敵情報
アベル・カースン(×1)
ノウブル男性。六七才。ムートリアス地方聖職者。小心者の老人です。危険を避けて生きていたため、荒事は苦手です。『土下座 急』とか使いますが、フレーバーです。
問い詰めれば小聖櫃の場所を吐きます。
・『白銀旗』ナディア・ナバル(×1)
元白銀騎士団隊長。旗で守るガーディアン。ノウブル女性。蒼白激突戦の結果、陰謀その他いろいろあって隊長格をはく奪され、左遷の形でこの城の騎士となっています。
経歴程度に頭がよく、目ざといです。執務室と各部署のパイプ役をこなしながら、城内を警備しています。
ランク2の防御タンクスキルを活性化しています。
・警護兵(60~)
各所に配置された警備兵です。軽戦士のランク1あたりを活性化しています。基本二人一組で行動しています。
見つかれば戦うよりも笛を鳴らし、危険を知らせる事を優先します。
●ロケーション
各小管区ともに時刻は真夜中。一夜で全てを片付けます。
明かりのペナルティは無し。その他に関しては多岐にわたる為、状況次第です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
7個
3個
3個




参加費
50LP
50LP
相談日数
8日
8日
参加人数
44/50
44/50
公開日
2019年03月18日
2019年03月18日
†メイン参加者 44人†
●グレイタス小管区――Ⅰ
グレイタス教会前で鬨の声が上がる。
「……行きましょう、囚われた者達に自由を!」
『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は『断罪と救済の十字架』を掲げ、声高らかに宣言する。その声と共に教会地下室に向かって進軍する自由騎士達。
赤い瞳に戦意を燃やし、アンジェリカは駐屯兵に向かい武器を構える。大上段に構えて振り下ろされる重い一撃。一撃が振るわれるたびにシスター服が舞い上がり、その奥の金色の体毛が揺れる。狐のケモノビトの顔が戦いの中で鋭く変貌する。
「奴隷狙いか!? させるな、あれはワシのモノだ!」
「いいえ! 彼らの人生は彼らの物です! 誰にもそれを邪魔させたりはしません!」
「ケダモノ風情が人を語るではいわ! 言葉が穢れる!」
「ノウブル以外には人権はないって? 虫けら同然に使い潰してもいいと?」
オルガの言葉を聞きながら『ノラ狗』篁・三十三(CL3000014)は怒りを感じていた。イ・ラプセル以外の国でノウブルが尊重されて、亜人が虐げられていることは知っている。だがオルガは輪にかけて差別が酷かった。
ゴーグルをかけ、意識を集中する。体中全ての動きを意識するように気を巡らせ、呼気と共に駆け出した。三十三の武器が空を切る。疾風ともいえる一閃が教会を護る駐屯兵を切り裂き、少しずつ無力化していく。
「俺は絶対に許さない! 必ず奴隷にされている皆を助け出す!」
「は、所詮お前達も自分の国の都合だろうが! 奴隷を強奪して生産力を落とす作戦のくせに偉そうに言うな!」
「お前のような奴がいるから、亜人は住みにくくなるんだ!」
「ふむ。これは処置なしだな。まあ説得する気はないけどな!」
にべもない返しに肩をすくめるヨーゼフ・アーレント(CL3000512)。ああ、もう容赦ないなぁと泣き出したくなるがそうも言ってられない。自由騎士に参入したとたんに戦争&敵地での活動。新人の扱いが酷すぎると思うのだが、やめるわけにもいかなかった。
イ・ラプセル前王の奴隷がまだいた時代を思い出し、ヨーゼフは眉を顰める。ヨーゼフ自身はノウブルだが、亜人を下に見る事を良しと思えなかった。あんなことはあってはならない。その想いを込めて、引き金を引く。
「あぁ全く! 我らが故国は新人にも容赦ないな!」
「あ、そうなんだ。もしかして怖い?」
「怖いに決まってるだろうが! ああ、だが怖くてもやるしかないんだ!」
「そうね、同胞を救わなくちゃ!」
怯えるように戦うヨーゼフに語りかけていたのは『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)だ。ヨウセイとしてこの国を生き延び、聖櫃で奪われた同胞達のことを知る。初めての戦いだが、怯えることなく戦いに挑む。
瞑想と静かなリズム。静と動の二重の魔力増幅を行うモニカ。練り上げた魔力をハープに乗せて、奏でる様にして放出した。音が戦場に響き渡り、モニカの歌声が仲間に届く。整えられた一輪の花は、戦場で可憐に咲いていた。
「あなた達、聖歌隊っていうくらいだから歌上手なんでしょ? モニカの演奏に合わせて歌ってみてよっ!」
「ヨウセイ如きが汚らわしい。相手するまでもありません」
「酷っ!? 何よ、歌に自信がないってこと!」
「確かにひどいわ。でもシャンバラからすれば当然の反応やしなぁ」
モニカと聖歌隊のやり取りに、うんうんと頷く『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)。彼らからすればヨウセイは聖櫃にくべる炭同然なのだ。始めその事を聞いた時は驚いたものだ。
かかとを叩くようにして足のキジン部分を戦闘稼働させるアリシア。地面を蹴ると同時に前かがみになるように身を沈め、駐屯兵との距離を一気に詰めた。蹴り上げる様に『ブレイドセイヴァー』を振り上げ、相手の腹部を薙いでいく。
「でもま、頑張るで。シャンバラのキジン、助けたらな!」
「ミトラース様が与えた肉体を捨て、鉄屑に頼る輩を助ける? 鉄の時点で道具同然だろうが!」
「そのような事をおっしゃる方が土地を収めるだなんて……」
オルガの言葉に悲痛な表情を浮かべる『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)。どこかおっとりとした優しいたまきは、誰も傷ついてほしくないと思っている。オルガの他人と人と思わない態度は、彼女とは真逆だ。
悲しげな表情のまま、魔力を展開していくたまき。たまきを中心に螺旋状に湧き上がっていく空気の流れ。そこに含まれる水分に癒しのマナを込め、小雨のようにして天から降らせた。熱を冷やす慈愛の雨が騎士達の傷を癒していく。
「オルガさん、貴方に負けるわけにはいきません」
「それはこちらのセリフだ。この管区に攻め入って無事で帰れると思うなよ。お前達も奴隷にしてくれるわ!」
(よし。陽動としては上手くいっているようだな)
大騒ぎになりつつある状況を見ながら『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は頷いた。オルガの騒ぎが演技とは思えない。このまま戦闘を続け、そしてこのグレイタス小管区も攻め落とす――
先手必勝、とばかりに敵陣に入り込み、拳を放つ。左手で相手の武器を持つ手を払いながら、深く踏み込んで背中を叩きつける様にぶつかっていく。機械の足を止めることなく、その身体を武器としてアリスタルフは攻め続ける。
「どうした? 鉄屑の足を止められないのか?」
「ほざけ! 神の加護なき貴様らに勝利はない! 精々はしゃいでおれ!」
「ミトラースはお前を助けない。俺達がぶっ倒すからだ!」
黒いダガーを手に『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は叫ぶ。ヨウセイ。シャンバラに置いて魔女と呼ばれ、その生命まで搾取された種族。彼らは今のままでは生きてはいけない。だからミトラースを倒す為戦うのだ。その意思を、刃に乗せる。
黒い衣を翻し、オルパは戦場を疾駆する。敵と味方の位置を頭の中でイメージし、その間を走り抜けるルートを導き出す。イメージは一瞬、決断は刹那。駐屯兵の横を通り抜け様に振るわれるダガー。オルパの通った後に、鮮血が飛び散った。
「ヨウセイ如きが!」
「ああ、ヨウセイだ! それがお前たちのミトラースを倒すんだ!」
「そういうこった。歯ごたえがあると嬉しいがねぇ!」
にやり、と笑みを浮かべる『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)。政治や歴史に興味はないが、今この瞬間に血が滾るような戦いがあるのなら、そこに身を投じるのも悪くない。アンを動かすのはいつだってその熱だ。
入り乱れる敵味方。多すぎる情報量を脳内で処理し、同時に手を動かす、敵からの射線から身を隠し、安定した足場を確保し、迅速かつ正確な構えで銃を敵に向け、そして引き金を引く。一秒にも満たない動作の中に、どれだけの熟練が必要か。それをこなした後に、アンは鋭く笑う。
「それともあんたが満足させてくれるのかい? 地方聖職者さん?」
「いいだろう。この『水銀錬成師』と呼ばれた実力を見せてやる。
ミトラース様に詫びながらもがき苦しむがいい!」
言葉共に銀色に煌めく霧のような何かが、オルガの周囲を囲む。
それは水銀。錬金術の三原質の一つ。科学が発達した今ではその不変性を否定する説も多いが――それを究めようとする文献も確かに存在する。オルガはそう言った錬金術師なのだろう。
グレイタス小管区をめぐる戦いは、まだ始まったばかりだ。
●ムートリアス小管区――Ⅰ
「今なら兵士の数は少ないわよ」
「ありがとう、アリア!」
『弛まぬ絆』ヒルダ・アークライト(CL3000279)が透視の魔眼で城壁内を見て、『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)がアリアを抱えて跳躍する。城壁の僅かなでっぱりを足場にして数度跳躍し、【弛まぬ絆】の二人は城内に進入する。
「さあ、私達と踊って貰いますよ。嫌でもね」
進入したアリアは、警邏する兵士達に向かい刃を向ける。突然の乱入者に戸惑う兵士達の隙を逃すことなく接近し、手に盛った刃を振るう。警戒なリズムと共に繰り出される二刀が兵士達を傷つける。
「この程度で終わりですか? 大人しくするなら命は奪いません」
「ふざけるな……!」
「ふざけちゃいないわよ。ま、容赦するつもりはないけどね!」
銃を構え、ヒルダがウィンクを兵士に飛ばす。同時に放たれた弾丸が荒れ狂い、弾幕となって広がっていく。アリアの舞うような刃の軌跡と交差し、相手の逃げ道を塞いでいく。言葉を交わすまでもない。互いの癖は知り尽くしているのだから。
「あたしが見て――」
「私が跳ぶ――」
「「この【弛まぬ絆】は砕けないわ!」」
「始まってますね。では私も」
水路から侵入した『ReReボマー?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)は、別区画で暴れている仲間達の音を聞きながら、ホムンクルスを生成する。蝶の形をしたホムンクルスを飛ばし、五感を共有して先行させた。
ホムンクルスを通じてエミリオの視界に警備兵が映る。そちらの方に移動しながら薬品を生成し、先手必勝とばかりに投げつけた。不意に猛毒をぶつけられ、慌てる警備兵。その間隙を逃すことなくエミリオは次の行動に移っていた。
「ええ、私も負けてはいられませんね。派手に囮になりましょう」
「兵の数は少ないです。早くこちらに」
『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)は潜入する者のサポートを行っていた。人並外れた聴覚力で兵士の歩く音を聞き、その存在を仲間に教えて誘導する。その力を使って自分自身が執務室に向かう事もできるが、敢えてそれは行わなかった。
軍人は民を護るもの。それは同じ軍属である仲間であっても同等だった。幼いころから軍の教えを知り、それを正直に実践する。功績など意味をなさない。ただ皆が無事であるのならそれでいい。
「兵士は自分が排除します。急ぎ、地方聖職者の方に向かってください」
「囮も楽じゃないヨ、まったく」
ふう、と一息つくワン・フェイロン(CL3000492)。城壁の出っ張りや出窓などを足場に跳躍して乗り越え、城内に潜入する。元より陽動のつもりで潜入するつもりだったため、身を隠すつもりはなかった。笛を鳴らされ、警備員が殺到してくる。
さてとワンは手を叩き、先だって倒した警備員と視線を合わせる。戦っている途中に視線を合わせて魔眼を仕掛ける事は難しいが、無力化すれば問題ない。瞳に魔力を込めて、ゆっくりと命令する。シャンバラ兵はお前の敵だ、と。その命令に従い動き出す兵士。
「次はあっちに向かうカ。しかし、全体が分かるのはやりやすいネ」
「はい。わかりました。それでは次は――」
『支える者』ドロテア・パラディース(CL3000435)は音を沈める結界を施して存在を隠しながら、仲間と連絡を取り合っていた。ムートリアス小管区に向かった仲間の顔を覚え、そのものに向けてテレパスを飛ばし、情報共有を行っているのだ。
ドロテアは自分自身が強いと思わない。しかしそれは戦わない理由にはならなかった。前に出る事が出来ないならできないなりの闘い方を。奏でる音が、声が、元気が、仲間を支える事が出来ると信じて戦火に立ち向かっていた。
(皆が無事でありますように)
ドロテアの情報伝達は陽動で動く者達の指針となっていた。彼女は癒しの術を飛ばせる距離にはいないが、この行動が囮組の被害を大きく減じていた。
●グレイタス小管区――幕間
教会前で戦っている隙を縫うように、地下室に向かう影があった。
「流石に警備なし、とはいかないか」
地下室を護る警備兵を無力化した『演技派』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は、そのまま奴隷達が収容されている地下牢に向かう。ルークは探偵だ。兵士ではない。探し偵察するのが主な仕事。地下の扉が単純な鍵ならルークにも開けれたのだが、
「魔術と物理の二重式か。……だが、声は届くな」
扉を開ける事を諦め、ルークは閉じ込められている奴隷達に声をかける。
「虐げられている同胞を、家族を、何より自分自身を――助ける気はあるか?」
何事かと顔をあげる奴隷達。疲弊し、疲れ切った目を覚ますようにルークは言葉を続ける。
「今、オルガ・パーカスを倒そうとイ・ラプセル軍が攻撃している。だが十分とは言い難い。地方聖職者を倒して――そこまでだ。
あとはお前達の問題だ。このまま俯くか、前を見るか」
戦いの振動が地下牢を揺らす。
そして奴隷達の心も揺れていた。
●グレイタス小管区――Ⅱ
グレイタス教会前の闘いは少しずつ激しくなってきていた。
ネクロマンサーではなく錬金術というジャンルで地方聖職者にのし上がったオルガ。そして小管区を護る警備兵。さらには聖歌隊の支援。攻防ともに安定した構成だ。
「難しい事は解らないけど、サシャ頑張るぞ!」
拳を振り上げ『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は癒しの魔力を放つ。オオカミの耳をピンと立て、元気よく皆を癒していく。政治的な部分は解らないが、この戦いに負ければ辛い思いをする人が増える事は分かっていた。なら戦う理由は充分だ。
聖書を手にして魔力を展開するサシャ。胸にあるのは教会で育った弟や妹たちの顔。その笑顔が曇らぬように戦いに挑む。聖剣をもって魔王に挑むのが勇者の本質ではない。平和な日常を護る為に戦うのが勇者なのだ。
「サシャみたいなマザリモノはこの国では本当につらい思いをしてるんだぞ!」
「当たり前だ! 穢れた存在がノウブル様と同じ大地に立つことなど許されるものか! 奴隷として生きていられるだけありがたいと思え!」
「お前みたいなやつがいるから、負けられないんだぞ!」
「正直、貴方の主義主張はどうでもいいです」
ノウブル至上主義のオルガの言葉を涼しく受け流す『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。程度はあれどノウブル以外を下に見るという社会は一般的だ。むしろイ・ラプセルでの亜人の扱いが特殊なだけ。今更反論するつもりはない。
刀の柄を手にして、呼吸を整えるカスカ。心を沈め、気を集中する。尖れ、極めろ、己の道を突き進め。刃に生き、刃に死ぬ。それが己の生きる道。信念を貫き歩み続けたカスカの放つ一閃が、駐屯兵の牙城を打ち崩す。
「これが仕事ですからね。次の相手はどなたです?」
「はい。私達は敵を打ち倒す。後はお任せします」
マジックスタッフを手に『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は頷いた。表情が硬く、話術も得意ではないマリアは奴隷達に声をかけて元気づける術を知らない。適材適所と割り切って、この軍勢を倒すことに専念する。
魔力を練り上げながら、後方で癒しを行っている聖歌隊を見る。戦いの基本は癒し手を打つことから。その基本に乗っ取り、聖歌隊たちに向けて稲妻を放った。雷撃が縛となって聖歌隊たちの動きを鈍らせていく。
「その癒し、封じさせてもらいます」
「押されているぞ! 所詮先の戦いで逃げかえった臆病者だな。オニビト如きの術を受けて怯むとは!」
「も、申し訳ありません。すぐに立て直します……!」
「仲間にまでそんな扱いをするなんて……!」
オルガの物言いに怒りを覚える『少年聖歌隊』ティア・ブラックリップ(CL3000489)。シャンバラの聖歌隊に負けないように仲間を支援していたが、だからこそ支援する聖歌隊たちをぞんざいに扱うオルガが許せなかった。
春の温もりを感じさせる空気を吸い、一杯になった肺を押さえるように胸に手を当てる。歌おう、この心の在り方を。唄おう、自由を求める心をリズムに変えて。歌に魔力を込めてティアは仲間を癒す。この歌が自由への道になると信じて。
「囚われた人達を開放させてもらいます! もう、貴方達の道具になんかさせません!」
「ほざけミズビト! お前も明日には奴隷の仲間入りだ。その歌を嘆きに変えてやるわ!」
「そんなことはさせねぇ! みんなを護るのが俺の役割だ!」
槍と盾を持ち、『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)が前に立つ。難しい事は解らない。未来がどうなるかなんてわからない。戦争なんて怖くて仕方ないけど、安全な場所で黙ってみていることはしたくなかった。そこではだれも守れないのだから。
駐屯兵のメイスを盾で受け止めるナバル。その衝撃を殺さないように後ろに下がり、仲間に向かうオルガの術式を庇って受けた。フラグメンツを削りながら、呼吸を整え何度も味方を護り続ける。
「どうした! まだまだ耐えられるぞ!」
「ふん、ノウブルのくせに亜人を護るか。イ・ラプセルはよほど人手不足とみえるな。盾などキジンが適しているだろうに」
「そうそう。ナマ温かい人はそういう役割があるのにねえ」
仲間に回復を施しながら『あるくじゅうはちきん』ローラ・オルグレン(CL3000210)は頷いた。ナマ、の言葉に艶めかしいイントネーションを置いて、髪をかきあげる。ふう、というため息さえも計算されていたかのように人目を引いた。
(名目上は)動きやすいように改造されたイ・ラプセルの軍服がローラの魔力の余波を受けてひらりと舞った。温かな微風に乗った癒しの魔術が仲間達を癒していく。ふざけているようで、仕事はきちんとする。でもローラはローラだった。
「でもキジンの人はキジンの人で悪くないわよ。ガチガチに硬いもんね」
「飲む打つ買うはいつの時代でも癒しだネ」
ローラの言葉に頷き答える『博学の君』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)。王立地質学研究所客員研究員という立場だが、そういった愉しみを否定するほど頭が固いわけではない、価値観は水のように流転する事を知っているからだ。
飄々とした表情のままにアクアリスは魔力を練り上げる。歯車シンボルの青い杖につけられたストライプ柄のリボンがふわりと揺れる。蒼きマナを一点に集め、聖なる属性を付けて解き放った。癒しの水が仲間達の渇きを癒していく。
「これ終わったら酒盛りしましょう! ほら、お酒いっぱい持って来たんですヨー」
「酔っぱらったら戦えないと思うのはナナンだけ?」
唇に手を当てて小首をかしげる『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)。その後でまあいいや、と頭を切り替える。今やるべきことはグレイタスの地下に居る奴隷達を開放する事。先ずはそこをクリアしなくてはいけない。
ツヴァイハンダーを手にして気合をいれるナナン。闘気に満ちた声がナナンの身体を活性化させていく。小さな体に不釣り合いな巨大な剣。それを難なく振るい、駐屯兵に叩きつける。轟音を伴った剣撃が、戦いの血路を生む。
「一気にやっつけちゃうよー!」
「くそ、役立たず共が……っ!」
戦況を見ながらオルガは悪態をつく。イ・ラプセルの勢いは強い。このままでは駐屯兵を突破され、その刃が自分に届くだろう。
だがそこまでだ。時間が来れば他の場所から兵がやってくる。そうなればイ・ラプセルも撤退せざるを得まい。それは自由騎士側も分かっていた。
イ・ラプセルの勝利条件はこの戦いの勝利ではない。奴隷を如何に蜂起させ、彼らにこの地を取り返させるか。その一点にかかっている。
グレイタスの戦闘は佳境を迎えつつあった。
●ムートリアス小管区――Ⅱ
ムートリアス城内は争乱の渦に巻き込まれていた。侵入不可能と思われていた城内にイ・ラプセルのオラクルが現れたのだから。
「落ち着け、数は多くない! 持ち場を護る事を重視しろ!」
そんな混乱を収めようと声をあげる者がいた。警備隊長の任についたナディアである。
「名のある武人とお見受けするでござる。一手御指南願いたい」
「知ってるよ! 『白銀旗』だ!」
そんなナディアの前に現れたのは『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)と『南方舞踏伝承者』瑠璃彦 水月(CL3000449)の二人だ。二人は劣りとなって兵士達を迎え撃っていたが、混乱を収めようとする声を聞いてやってきた
ジーニアスと水月は一瞬目を交差させ、同時に走り出す。ジーニアスは廊下を、そして水月は天井を。上下に分かれた二人を同時に視界に入れる事はできない。片側を処理すれば、もう片方は放置される流れだ。
「これぞ我々の連携技!」
「水龍直下クリティカルブレイク!」
交差するジーニアスと水月の武器。その一撃を受けたナディアは一瞬よろけ、しかし倒れることなく手にした旗を振るう。2mほどの長柄の旗を器用に廊下で振り回し、体勢を整えなおす。
「やるね! だけどまだ負けないよ!」
「この小管区を狙いに来たか。だがこのような形を取るという事は、数は多くはないようだな」
「分からんでござるよ。そう思わせておいてその裏があるかもしれぬ」
ナディアの問いにはぐらかすように水月が答える。
「援軍に参りましたわ!」
「さあ、足止めです!」
戦いの様子を聞きつけた『生真面目な偵察部隊』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)と『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)が援護するように割って入る。薄紫と金の髪が冷たい風を受けて静かに薙いだ。
ナディアに向かい疾駆するサラ。ショートソードを手に相手との距離を詰めていく。それを迎撃しようとナディアの旗が動き、
「させませんわ!」
その動きをけん制するようにレベッカの銃が火を吹いた。こめかみを狙った弾丸を避ける為にナディアの動きが止まる。その間隙を予測していたかのようにサラは攻め込み、刃を振るう。レベッカの支援を信じていたのだろう。その一撃に迷いはなかった。
「さあ、わたくしたちを倒さなくては守れるものも守れませんわ」
「逆だな。その程度で私を止められると思ったか」
「思うとも。何故ならお前の目的は私たちではないはずだ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はナディアと戦う者達を癒しながら答える。囮として自由騎士の仲間を癒して回っていたが、ナディアの姿を見つけるとそちらに足を向けた。
「しかし『白銀旗』がこんな所に? 聞いた話じゃ御偉い隊長サマじゃなかったっけ?
あー、左遷か。それも仕方ないか。貴様は所詮……先の戦争の『敗北者』だしなあ」
「否定はしない。功績もなく得られた情報も不十分とあっては、そのあだ名も当然だ」
挑発するツボミ。激昂すると思ったが、苦虫を嚙み潰したようにその事実を受け入れるナディア。
「おそらくこの襲撃もなにかの布石か陽動なのだろう? 真意を隠す為に一ヶ所で派手に動く。イ・ラプセルの癖だな。おそらく信頼度の高い情報収集能力があり、そこを軸に動いている。しかも電撃的かつ一糸乱れぬ動きで」
(むぅ。やはりこいつ頭が切れるな。とはいえピルグレイス大聖堂襲撃までは予測できんか)
無言で舌を巻くツボミだが、かといってここで足止めすれば問題ない。ナディアは頭が切れるが、兵への最終的な命令権は地方聖職者。そこを押さえればこちらの勝ちだ。
夜の城の中、静かな戦いは加速していく。
●グレイタス小管区――Ⅲ
実力で地方聖職者までのし上がったオルガ。その二つ名を示すともいえる水銀の蛇術。
蛇は基本に忠実に、回復を行う後衛を中心に放たれる。毒で蝕み魔力を削り、動きを止める。効率的に回復能力を奪い自由騎士の継戦能力を削っていく。
「オルガ……あの人は……!」
『蒼の彼方の傍観者』サラ・アーベント(CL3000443)はオルガの動きを観察しながら、その人間性を測っていた。傍観者と自らを称するサラだが、個人的な意見を言えば嫌いな類だった。何故ならその術式は――
「その術、人間相手に実験して完成させたのですね?」
サラはオルガが使うヒュドラルギュルムを見て、そう断ずる。猛毒ともいえる水銀を戦闘に使用できるまで特化する。その最大の近道は仮想敵である人に使うのが一番だ。そしてその相手とは――彼の性格から考えればすぐに計り知れた。
「人? 違うな。マザリモノやキジンは人じゃないからな!」
「やはり! その所業、貴方の信じる神がお許しになるとでも思うのですか!」
「許されるとも。お前達も神の威光にひれ伏し、涙するがいい! 屈辱の涙をな!」
「あははははは! そうだよね、そこまでするのは当然だよね!」
オルガの言葉に同意するように笑う『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。欲しい、欲しい、欲しい。未知なるものが欲しい。その為に何を犠牲にしても構わない。自分自身の命さえも。
「あたしは知りたいだけなの。あたしが持っていないもの全て。だから貴方のその業も知りたい! 面白い業を使うんだってね! どんなのか見せてよ!」
「はっ! 動物程度の脳みそで理解できると思うな!」
「ふふ……ふふ……。こんな感じかぁ…毒って良いよねぇ、こう、蝕んで行く感じ……あんたの蛇はもう見た……じゃぁ、これはお返し……!」
水銀の蛇を身に受けながらクイニィーは錬成した白のドングリを解き放つ。燃えるような毒がオルガを包み、その体力を奪っていく。
「動物程度とは片腹痛い。純血種も亜人も混血も、セフィロトの海より生まれた者だと言うのに」
オルガの言葉を聞きながら怒りの声をあげる『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)。姿形に違いこそあれど、人族は皆同じ生き物だ。差異こそあれど同じ場所から生まれた者に違いはないというのがリュリュの意見だ。
「錬金術を嗜む者として恥じるばかりだな。無知蒙昧にして浅識短才。真実を見る事が錬金術の基礎だというのに」
「黙れ、その翼を水銀の蛇で捕らえてやるわ!」
「その蛇とは――これのことか」
リュリュの言葉と同時にオルガの足元から水銀が生まれ、ヘビのように絡みつきその動きを拘束していく。
「ば、バカな……ソラビト如きにヒュドラルギュルムが!?」
「亜人でもノウブルと同じ物が使える。優劣など無い」
「た、ただの偶然だ! こんなものは劣化したコピー技にすぎん! 水銀で殺すという事を知らぬお前にはたどり着けぬ領域、味わうがいい!」
「否、もう貴様にその機会はない!」
言葉と共に軍刀を振るう『終ノ彼方 鉄ノ貴女』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。駐屯兵を相手しながら少しずつオルガに近づき、そして今その刃が届く領域までやってきたのだ。その戦いを象徴するかの如く血に塗れ、それでもその歩みに揺らぎはない。
「シャンバラの一小管区を収める者として、国を護る為に並々ならぬ努力があったことは認めよう。軍人としてそれを理解できぬほど浅慮ではない。
だが奴隷を極限まで酷使した罪はもはや申し開きはできぬ!」
「キジン如きが偉そうにほざきおって! 奴隷は人ではない! それを壊したところで何の咎があるというのだ!」
「その価値観を断行すべくイ・ラプセルの旗はあると知れ! 『SIEGER・IMPACT 改二』!」
シノピリカの機械の腕がオルガに押し当てられ、ドン、という鈍い音が響く。大量の蒸気がその腕からあふれ出し、夜風に吹かれて消えた。衝撃は拳からオルガの胸部に伝わり、彼の意識を刈り取った。
「グレイタス小管区地方聖職者オルガ・パーカス、打ち取ったり! これ以上の闘いは無意味だ! 皆、剣を収めよ!」
勝鬨の声をあげるシノピリカ。その朗々と響く声が、この場での闘いの終結を告げる。他のシャンバラ兵や聖歌隊も、これ以上抵抗は無意味と知って戦意を収める。
だが、グレイタス小管区の闘いはまだ終わらない。
――ここからが、本番なのだ。
●ムートリアス小管区Ⅲ
陽動部隊が動いている最中、執務室に向かう影があった。
「良し。誰もいないな」
アデル・ハビッツ(CL3000496)は魔眼で壁の向こうを見て安全を確認し、物質透過で壁をすり抜ける。顔を隠す兜が執務室の方を向く。急ぐ必要があるが、見つかっては意味がない。その事を意識しながら進入する。
安全確保と隠密。足音を忍ばせ、確実に進んでいく。気配を消して進むのは、夜襲の基本だ。傭兵の時にはよくやっていた。身を隠す場所の多い城では注意さえ怠らなければ見つかる事はない。
「あともう少し。さて、上手くいけばいいがな」
「ふう……」
用水路から顔を出す『みんなをまもるためのちから』海・西園寺(CL3000241)。水気を取り去った後にマキナ=ギアからぬいぐるみのミミーを取り出す。ミミーを抱きしめ、上手く侵入できないかもという不安を打ち払った。
そのまま海は警備の死角を突くように場内を動き回る。兵士の目が向きそうにない壁を渡って移動し、時には物質透過で隠れる。陽動で動いている者がいるのも功を奏したのか、兵士に見つかることなく進むことが出来た。戦闘音のする方を見て、海は小さく呟く。
「皆さん、無事でいてください……」
仲間の無事を信じ、海は城を進む。
「――ふっ!」
呼気と共に壁を乗り越える『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。着地の際に体全体で受け流すように受け身を取り、衝撃と着地音を最小限にして城内に潜入する。そのまま素早く茂みに入り、黒い布で口を覆った。
気配を消し、風景と同化する。ミルトスは静かに城の中を移動していた。木にあっては木の呼吸を。石にあっては石の呼吸を。自然を尊敬し、そこから学ぶ。それは格闘家としての理念でもあった。
「窓がはめ殺しでなければここから登って侵入できるのですが……」
上を見上げるミルトス。執務室までの距離は、あと少し。
「さて、行きましょう」
メイド服を着た『癒しの回復師』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)がサイズを確認するように軽く腰を回転させる。その足元には用水路侵入時に着ていた水着があった。着換えシーンは円盤で追加予定(されません)。
陽動で混乱する中、慌てて逃げるように移動するティラミス。ホムンクルスによる資格共有と五秒後の未来予知を駆使しながら城内を進む。非常時という事もあって、走って戦闘の音から逃げるメイドは兵士も目に止めなかったのだろう。
「こわいー、たすけてー」
そんな声をあげながらティラミスは執務室に向かう。
「カバだからすいちゅうこきゅう」
用水路から顔を出す『リムリィたんけんたいたいちょう』リムリィ・アルカナム(CL3000500)。無表情のまま用水路から上がる……事はなく、そのまま水中を進み続けた。巨大なハンマーを重しにして水から顔を出さないように進んでいく。
時折水から顔を出し、外の様子を確認しながら進んでいく。さすがに執務室前まで用水路は繋がっていないので、どこかで水から上がらなくてはいけない。暫く水底でじっとした後、兵士達がいなくなったのを確認して顔を出した。
「みまわりいない。いま」
何度か見つかりそうになるが、その度にリムリィはハンマーを振るい突破していく。
「聖王都より枢機卿からカースン様への言伝を預かり参りました。重要事項にてカースン様に直接伝えさせていただきたい」
城門真正面で『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は声を張り上げる。キジンの身体を隠し、しかし堂々とした立ち様で門番に語りかけていた。
「カースン様がお忙しく中々お会いする事が出来ないのは百も承知です。ソレでも『なお』直接伝えようとするこの意味、聡明な貴方達ならお分かりになるかと」
言われて兵士達は眉を顰める。使いの騎士は名前も明かさないし、聖王都からそういう者が来る連絡も受けていない。堂々たる態度は騎士の教育を受けた証なのだろうが、それでも疑念が払われるわけではない。常時なら即刻取調室行きだ。だが――
(あの枢機卿だからなぁ……)
ゲオルグ・クラーマーの顔と態度を思い出し、兵士達は閉口する。あの男なら予想外のことを平気でやりかねない。
「分かった。私が執務室まで案内しよう」
事実上の見張りを付けて、アダムを通す門番
――数分後、その見張りを倒してアダムは執務室へと向かう。
●グレイタス小管区――Last
オルガを倒し、シャンバラ兵を降伏させた自由騎士達。
だが教会を警備していないシャンバラ兵がこのことを知れば、自由騎士達を討とうと殺到するだろう。当然その為に騎士団が介入することになっているが、数が足りない。
たまきやローラやティアが奴隷達の傷を癒して回り、血気盛んな奴隷達は武器を持ち戦う準備を整えている。だがまだ不足している。これまで受けた仕打ちが彼らを苛んでいるのだ。
故に、鼓舞しなければならない。このままでは彼らはまた誰かの奴隷となってしまうだろう。
「ローラのモテモテハーレムパワーでやる気出させるって……やっぱダメ?
大丈夫だよ! ちょっとえっちなカッコ見せるだけだから!」
いろんな意味で役に立たなくなりそうだと、ローラを引っ込めさせた。
「自由を掴み取りましょう、我等自由騎士団と共に! 今こそ革命の時です!さぁ、武器を取りなさい……未来を掴み取る為に!」
「君達は自由だ! この世に生まれしもの。種族が違えとも皆同く心を持つ人だ!」
「自由を手にする為に今立ち上がるんだ! 我々も戦うが、君たちも君たち自身と家族の為に手を貸してくれ!」
アンジェリカ、ヨーゼフ、ティアなどの自由騎士達が奴隷達に声をかけるが、彼らの反応は薄い。
「自由……自由って何だ? 美味いのか?」
「なあ、それがあれば俺達はどうなるんだ!?」
はっとなる自由騎士。彼らは『自由』を知らない。『繋がれていることが当然』な彼らにとって、繋がれていない世界など知らない。羽根のないものが空という世界を知らないように、自由をもたない奴隷達にその概念はないのだ。
「あんた達は地面を這い蹲る姿がお似合いね……立ち上がる事も出来ない負け犬さんっ。何ならモニカが新しいご主人様になったげ――もがもがっ」
余計な事を言いかけたモニカの口を塞ぐが、実のところキモはそこだ。地を這い、立ち上がる事を知らない負け犬。そんな彼らを立ち上がらせなければならないのだ。
「俺はアン・J・ハインケル。見ての通りのマザリモノだが、あんたら奴隷を解放しにきた。イ・ラプセルならあんたらのことも、平等に人として扱われることは保証するぜ」
「オレたちの国は、キジンとかマザリモノもノウブルと同じ扱いをしてる」
「種族が違ってもキジンであっても人らしく生きなあかんねん。どうしていいかわからんならうちが教えたる」
アンやナバルやアリシアの言葉を受けて種族差別を受けていた奴隷達の一部が目を輝かせるが、それでもまだ立ち上がれない者もいる。
「皆聞けっ! 見ての通り俺はヨウセイだ!」
ヨウセイの種族特徴ともいえる尖った耳を晒し、オルパが叫ぶ。
「これから俺はミトラースのくそったれをブチのめす! お前達も一緒にやろうぜ!」
「ミトラースを……倒す……?」
ミトラース。それはシャンバラに取って最も高い座にある存在。
それを倒す、という言葉は奴隷達に大きな衝撃を与えた。
「いまここから逃げたって、現体制が続けば俺達は行き場がないんだ。 いま起たないでどうするんだよ!」
「その通りじゃ! 今こそ立ち上がる時!」
鋼の拳を振り上げ、シノピリカが叫ぶ。彼らを隷属させていたオルガを倒した拳を。
「奴らも血を流す。我らも血を流す! そこに何の違いがあろうか!? 血が出るなら倒せる、立ち向かえる!」
「勝てる……のか? 俺達が?」
「無論! 今この時より、我々は同志である。どうか力を貸して欲しい!
搾り取られて打ち捨てられるか! 立ち向かって打ちのめすのか! いざ立て、同胞よ!」
「奴隷の俺達を……同胞というのか?」
「あいつらを倒して……もう鞭で打たれないようにできるのか!?」
「やるぞ! 俺はやってやる!」
そこから波及した熱が伝わるように、奴隷達が立ち上がる。自らを縛る枷を外し、武器をもって蜂起する。
「なんとかなりそうだな」
「うむ。見事な言葉だったぞ。あの言葉が決定打じゃった」
安堵するオルパに頷くシノピリカ。
虐げられた奴隷達にとって分かりやすい目標と衝撃的な内容。それが彼らを突き動かしたのだ。
解放された奴隷達には石などの遠距離攻撃を担当させてシャンバラ兵を足止めさせ、混乱した隙を縫うようにイ・ラプセルが動く。蜂起した奴隷達の数もあって、シャンバラ兵は各個撃破される形で掃討されていく。
夜明けを待たずして、グレイタス小管区からシャンバラ兵は撤退する事となった――
●ムートリアス小管区――Last
執務室前――
そこにたどり着いた自由騎士の数はアデル、海、ミルトス、ティラミス、リムリィ、アダムの六名。彼らは魔術で閉ざされた扉を前に足を止めていた。
「さてどうしましょうか。壁側に回って、包囲されているように思わせるとかはどうです?」
壁を伝って移動できるミルトスが提案するが、驚いたアベルに兵を呼ばれてしまう可能性がある。そうなればこの作戦は失敗だ。執務室内に入るまでが隠密戦なのだ。
「なので壁を壊すのも却下だから」
「ん」
無言でハンマーを構えて壁を壊そうとするリムリィ。制止の言葉を受けて素直にハンマーを下した。
「物質透過で中から錠を開けると言うのは?」
「扉は魔法で閉ざされているんです。物理的な錠を開けても意味がありません」
言って首を振る海。
「物質透過で中に入り込んで地方聖職者を押さえ込むとかは?」
「無理だな。相手がどこに居るかわからん。探している間に見つかって叫ばれる可能性が高いだろう。二人で入って一瞬で叫ばないようにするのは難しい」
兜の奥でアデルはため息をついた。
扉さえ開けてしまえば、六人で雪崩れ込んで押さえる事が出来る。あるいは地方聖職者自身に扉を開けさせれば、そのまま捕らえる事も可能だ。
だがどうやって?
「――よし。僕がやろう」
呼吸を整え、アダムが扉に近づく。背筋を伸ばして戸を叩いた。
「カースン様、枢機卿から言伝を預かっています」
「おお、クラーマー卿からか!? 兵が来るのか?」
「はい。他の誰にも見られずお渡ししたく。この扉を開けてもらえませんか?」
「渡す、という事は手紙か何かか? なら封筒入れに入れてくれ」
「いえ。伝聞です。書簡の形にして漏れてはいけませんので」
「ならナバル隊長に伝えてくれ。元白銀騎士団隊長である彼女なら枢機卿も信頼してくれるだろう」
(駄目か……?)
アダムはこれ以上続ければ疑念がかかると判断し、『了解しました』と告げて扉から離れる。枢機卿という権力を出せば開けると思っていたが、相手の怯えっぷりが尋常ではなかったようだ。
「……そうか。信頼できる部下なら開けてくれるんだ」
アダムのやり取りに頷くティラミス。メイド服を整え、背筋を伸ばす。
「し、失礼しますっ、カースン様」
上ずった声。緊張した風を装うティラミス。『この場に不慣れなメイド』を意識して演技する。
「な、ナディア様の命でお茶をお持ちいたしました!」
「……見慣れぬ顔だな」
覗き窓から見ているのか、扉の奥からそんな声が聞こえてくる。
「ひゃい、その、最近配属されたばかりで……」
「…………」
沈黙。
「ナバル隊長はどうした?」
「ナディア様は今お忙しく……。なんでも枢機卿からの言葉を受け取っているようで……。席を外すついでに、カースン様にお茶をもつように命じられました……」
再び沈黙。
(枢機卿からの言付けを受け取り、部外者を外す。聖王都の情報を落ち着いて聞かせる為に茶を運ばせたというところか。あの隊長崩れも気が利く)
単純に新人メイドが茶を運んできた、というだけなら見慣れぬ者という事で不審者扱いされただろう。
だがその前のアダムの言葉が功を為していた。疑心暗鬼になってシャンバラからの助けを舞っていたアベルは『ありえそうな』ストーリーに安心してしまう。
「いいだろう。入ってすぐのテーブルに茶を置き、すぐ退出だ」
かちゃり、魔術の錠が解かれてドアが開かれる。それと同時に自由騎士達は室内に殺到し、地方聖職者の身柄を押さえ込んだ。
「何者――ムグッ!」
「大人しくするなら命は奪いません」
「てあしのいっぽんやにほん。おれてもなおせばいい」
「自分から死にたくなるような拷問もあるのだぞ?」
自由騎士達の言葉に顔を合収めながら頷くアベル。相手の正体は解らないが、彼らが自分の生殺与奪剣を握っていることは理解できた。
「さて選択だ。ここで死ぬか、大人しくこちらに従うか……聞くまでもないか」
恐怖のあまり気を失った地方聖職者を見ながら、自由騎士達は作戦完了を確信した。
さて、あとは無事帰還するだけだ。テレパスで連絡を取ってくれているドロテアにその事を伝え、陽動している人達にも伝える。あとは定刻通りに騎士団が攻めてくるはずだ。
定刻よりやや早く、イ・ラプセル騎士団がムートリアス城に攻撃を始める。
地方聖職者という命令系統を失ったシャンバラ兵は混乱し、浮足立った。跳ね橋などの防衛機構も内部に自由騎士が潜入している時点で意味をなさない。瞬く間に場内に進入した騎士達が、シャンバラ兵を制圧していく。
こうして、ムートリアス小管区をめぐる戦いは一夜のうちに決着がついた。
●聖櫃
聖櫃。シャンバラの大地を育み、食物を育てる環境を生み出す存在。
それはヨウセイを糧として動く。棺のようなものに閉じ込められた数多くのヨウセイ達。その多くは既に枯渇していた。
だが、囚われたばかりのヨウセイもいたらしい。
「良かった……!」
救われたヨウセイは茫然としていたが、事情を知るとイ・ラプセルや自由騎士に感謝の言葉を告げる。体が癒えれば、協力してくれると約束してくれた。
グレイタス小管区とムートリアス小管区。そこにあった聖櫃は二つとも破壊された。シャンバラ本来の気候が二管区を包みこむ。常春ののどかな空気ではなく、いまだ冬の色が残る刺すようなものに。
この小管区に限らず、シャンバラは歴史の転換を迎えるだろう。今まで受けていた豊かさは消え、あるいは飢えてしまうかもしれない。
それが本来のシャンバラなのだ。聖櫃で守られていない、自然そのままの大地。
そしてそれを開拓していくのが、人なのだ――
●夜明け
戦い終わり、ボロボロになった自由騎士達を向かえる『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)と『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)と『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)と『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)と『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。
太陽が上り、イ・ラプセルの領土となった大地を照らす。
問題はまだ山済みだが、それでも今はこの勝利を祝おう。
勝鬨の声が、二つの小管区に響き渡った。
グレイタス教会前で鬨の声が上がる。
「……行きましょう、囚われた者達に自由を!」
『歩く懺悔室』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は『断罪と救済の十字架』を掲げ、声高らかに宣言する。その声と共に教会地下室に向かって進軍する自由騎士達。
赤い瞳に戦意を燃やし、アンジェリカは駐屯兵に向かい武器を構える。大上段に構えて振り下ろされる重い一撃。一撃が振るわれるたびにシスター服が舞い上がり、その奥の金色の体毛が揺れる。狐のケモノビトの顔が戦いの中で鋭く変貌する。
「奴隷狙いか!? させるな、あれはワシのモノだ!」
「いいえ! 彼らの人生は彼らの物です! 誰にもそれを邪魔させたりはしません!」
「ケダモノ風情が人を語るではいわ! 言葉が穢れる!」
「ノウブル以外には人権はないって? 虫けら同然に使い潰してもいいと?」
オルガの言葉を聞きながら『ノラ狗』篁・三十三(CL3000014)は怒りを感じていた。イ・ラプセル以外の国でノウブルが尊重されて、亜人が虐げられていることは知っている。だがオルガは輪にかけて差別が酷かった。
ゴーグルをかけ、意識を集中する。体中全ての動きを意識するように気を巡らせ、呼気と共に駆け出した。三十三の武器が空を切る。疾風ともいえる一閃が教会を護る駐屯兵を切り裂き、少しずつ無力化していく。
「俺は絶対に許さない! 必ず奴隷にされている皆を助け出す!」
「は、所詮お前達も自分の国の都合だろうが! 奴隷を強奪して生産力を落とす作戦のくせに偉そうに言うな!」
「お前のような奴がいるから、亜人は住みにくくなるんだ!」
「ふむ。これは処置なしだな。まあ説得する気はないけどな!」
にべもない返しに肩をすくめるヨーゼフ・アーレント(CL3000512)。ああ、もう容赦ないなぁと泣き出したくなるがそうも言ってられない。自由騎士に参入したとたんに戦争&敵地での活動。新人の扱いが酷すぎると思うのだが、やめるわけにもいかなかった。
イ・ラプセル前王の奴隷がまだいた時代を思い出し、ヨーゼフは眉を顰める。ヨーゼフ自身はノウブルだが、亜人を下に見る事を良しと思えなかった。あんなことはあってはならない。その想いを込めて、引き金を引く。
「あぁ全く! 我らが故国は新人にも容赦ないな!」
「あ、そうなんだ。もしかして怖い?」
「怖いに決まってるだろうが! ああ、だが怖くてもやるしかないんだ!」
「そうね、同胞を救わなくちゃ!」
怯えるように戦うヨーゼフに語りかけていたのは『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)だ。ヨウセイとしてこの国を生き延び、聖櫃で奪われた同胞達のことを知る。初めての戦いだが、怯えることなく戦いに挑む。
瞑想と静かなリズム。静と動の二重の魔力増幅を行うモニカ。練り上げた魔力をハープに乗せて、奏でる様にして放出した。音が戦場に響き渡り、モニカの歌声が仲間に届く。整えられた一輪の花は、戦場で可憐に咲いていた。
「あなた達、聖歌隊っていうくらいだから歌上手なんでしょ? モニカの演奏に合わせて歌ってみてよっ!」
「ヨウセイ如きが汚らわしい。相手するまでもありません」
「酷っ!? 何よ、歌に自信がないってこと!」
「確かにひどいわ。でもシャンバラからすれば当然の反応やしなぁ」
モニカと聖歌隊のやり取りに、うんうんと頷く『イ・ラプセル自由騎士団』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)。彼らからすればヨウセイは聖櫃にくべる炭同然なのだ。始めその事を聞いた時は驚いたものだ。
かかとを叩くようにして足のキジン部分を戦闘稼働させるアリシア。地面を蹴ると同時に前かがみになるように身を沈め、駐屯兵との距離を一気に詰めた。蹴り上げる様に『ブレイドセイヴァー』を振り上げ、相手の腹部を薙いでいく。
「でもま、頑張るで。シャンバラのキジン、助けたらな!」
「ミトラース様が与えた肉体を捨て、鉄屑に頼る輩を助ける? 鉄の時点で道具同然だろうが!」
「そのような事をおっしゃる方が土地を収めるだなんて……」
オルガの言葉に悲痛な表情を浮かべる『聖き雨巫女』たまき 聖流(CL3000283)。どこかおっとりとした優しいたまきは、誰も傷ついてほしくないと思っている。オルガの他人と人と思わない態度は、彼女とは真逆だ。
悲しげな表情のまま、魔力を展開していくたまき。たまきを中心に螺旋状に湧き上がっていく空気の流れ。そこに含まれる水分に癒しのマナを込め、小雨のようにして天から降らせた。熱を冷やす慈愛の雨が騎士達の傷を癒していく。
「オルガさん、貴方に負けるわけにはいきません」
「それはこちらのセリフだ。この管区に攻め入って無事で帰れると思うなよ。お前達も奴隷にしてくれるわ!」
(よし。陽動としては上手くいっているようだな)
大騒ぎになりつつある状況を見ながら『実直剛拳』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は頷いた。オルガの騒ぎが演技とは思えない。このまま戦闘を続け、そしてこのグレイタス小管区も攻め落とす――
先手必勝、とばかりに敵陣に入り込み、拳を放つ。左手で相手の武器を持つ手を払いながら、深く踏み込んで背中を叩きつける様にぶつかっていく。機械の足を止めることなく、その身体を武器としてアリスタルフは攻め続ける。
「どうした? 鉄屑の足を止められないのか?」
「ほざけ! 神の加護なき貴様らに勝利はない! 精々はしゃいでおれ!」
「ミトラースはお前を助けない。俺達がぶっ倒すからだ!」
黒いダガーを手に『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は叫ぶ。ヨウセイ。シャンバラに置いて魔女と呼ばれ、その生命まで搾取された種族。彼らは今のままでは生きてはいけない。だからミトラースを倒す為戦うのだ。その意思を、刃に乗せる。
黒い衣を翻し、オルパは戦場を疾駆する。敵と味方の位置を頭の中でイメージし、その間を走り抜けるルートを導き出す。イメージは一瞬、決断は刹那。駐屯兵の横を通り抜け様に振るわれるダガー。オルパの通った後に、鮮血が飛び散った。
「ヨウセイ如きが!」
「ああ、ヨウセイだ! それがお前たちのミトラースを倒すんだ!」
「そういうこった。歯ごたえがあると嬉しいがねぇ!」
にやり、と笑みを浮かべる『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)。政治や歴史に興味はないが、今この瞬間に血が滾るような戦いがあるのなら、そこに身を投じるのも悪くない。アンを動かすのはいつだってその熱だ。
入り乱れる敵味方。多すぎる情報量を脳内で処理し、同時に手を動かす、敵からの射線から身を隠し、安定した足場を確保し、迅速かつ正確な構えで銃を敵に向け、そして引き金を引く。一秒にも満たない動作の中に、どれだけの熟練が必要か。それをこなした後に、アンは鋭く笑う。
「それともあんたが満足させてくれるのかい? 地方聖職者さん?」
「いいだろう。この『水銀錬成師』と呼ばれた実力を見せてやる。
ミトラース様に詫びながらもがき苦しむがいい!」
言葉共に銀色に煌めく霧のような何かが、オルガの周囲を囲む。
それは水銀。錬金術の三原質の一つ。科学が発達した今ではその不変性を否定する説も多いが――それを究めようとする文献も確かに存在する。オルガはそう言った錬金術師なのだろう。
グレイタス小管区をめぐる戦いは、まだ始まったばかりだ。
●ムートリアス小管区――Ⅰ
「今なら兵士の数は少ないわよ」
「ありがとう、アリア!」
『弛まぬ絆』ヒルダ・アークライト(CL3000279)が透視の魔眼で城壁内を見て、『慈愛の剣姫』アリア・セレスティ(CL3000222)がアリアを抱えて跳躍する。城壁の僅かなでっぱりを足場にして数度跳躍し、【弛まぬ絆】の二人は城内に進入する。
「さあ、私達と踊って貰いますよ。嫌でもね」
進入したアリアは、警邏する兵士達に向かい刃を向ける。突然の乱入者に戸惑う兵士達の隙を逃すことなく接近し、手に盛った刃を振るう。警戒なリズムと共に繰り出される二刀が兵士達を傷つける。
「この程度で終わりですか? 大人しくするなら命は奪いません」
「ふざけるな……!」
「ふざけちゃいないわよ。ま、容赦するつもりはないけどね!」
銃を構え、ヒルダがウィンクを兵士に飛ばす。同時に放たれた弾丸が荒れ狂い、弾幕となって広がっていく。アリアの舞うような刃の軌跡と交差し、相手の逃げ道を塞いでいく。言葉を交わすまでもない。互いの癖は知り尽くしているのだから。
「あたしが見て――」
「私が跳ぶ――」
「「この【弛まぬ絆】は砕けないわ!」」
「始まってますね。では私も」
水路から侵入した『ReReボマー?』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)は、別区画で暴れている仲間達の音を聞きながら、ホムンクルスを生成する。蝶の形をしたホムンクルスを飛ばし、五感を共有して先行させた。
ホムンクルスを通じてエミリオの視界に警備兵が映る。そちらの方に移動しながら薬品を生成し、先手必勝とばかりに投げつけた。不意に猛毒をぶつけられ、慌てる警備兵。その間隙を逃すことなくエミリオは次の行動に移っていた。
「ええ、私も負けてはいられませんね。派手に囮になりましょう」
「兵の数は少ないです。早くこちらに」
『鷹狗』ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)は潜入する者のサポートを行っていた。人並外れた聴覚力で兵士の歩く音を聞き、その存在を仲間に教えて誘導する。その力を使って自分自身が執務室に向かう事もできるが、敢えてそれは行わなかった。
軍人は民を護るもの。それは同じ軍属である仲間であっても同等だった。幼いころから軍の教えを知り、それを正直に実践する。功績など意味をなさない。ただ皆が無事であるのならそれでいい。
「兵士は自分が排除します。急ぎ、地方聖職者の方に向かってください」
「囮も楽じゃないヨ、まったく」
ふう、と一息つくワン・フェイロン(CL3000492)。城壁の出っ張りや出窓などを足場に跳躍して乗り越え、城内に潜入する。元より陽動のつもりで潜入するつもりだったため、身を隠すつもりはなかった。笛を鳴らされ、警備員が殺到してくる。
さてとワンは手を叩き、先だって倒した警備員と視線を合わせる。戦っている途中に視線を合わせて魔眼を仕掛ける事は難しいが、無力化すれば問題ない。瞳に魔力を込めて、ゆっくりと命令する。シャンバラ兵はお前の敵だ、と。その命令に従い動き出す兵士。
「次はあっちに向かうカ。しかし、全体が分かるのはやりやすいネ」
「はい。わかりました。それでは次は――」
『支える者』ドロテア・パラディース(CL3000435)は音を沈める結界を施して存在を隠しながら、仲間と連絡を取り合っていた。ムートリアス小管区に向かった仲間の顔を覚え、そのものに向けてテレパスを飛ばし、情報共有を行っているのだ。
ドロテアは自分自身が強いと思わない。しかしそれは戦わない理由にはならなかった。前に出る事が出来ないならできないなりの闘い方を。奏でる音が、声が、元気が、仲間を支える事が出来ると信じて戦火に立ち向かっていた。
(皆が無事でありますように)
ドロテアの情報伝達は陽動で動く者達の指針となっていた。彼女は癒しの術を飛ばせる距離にはいないが、この行動が囮組の被害を大きく減じていた。
●グレイタス小管区――幕間
教会前で戦っている隙を縫うように、地下室に向かう影があった。
「流石に警備なし、とはいかないか」
地下室を護る警備兵を無力化した『演技派』ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は、そのまま奴隷達が収容されている地下牢に向かう。ルークは探偵だ。兵士ではない。探し偵察するのが主な仕事。地下の扉が単純な鍵ならルークにも開けれたのだが、
「魔術と物理の二重式か。……だが、声は届くな」
扉を開ける事を諦め、ルークは閉じ込められている奴隷達に声をかける。
「虐げられている同胞を、家族を、何より自分自身を――助ける気はあるか?」
何事かと顔をあげる奴隷達。疲弊し、疲れ切った目を覚ますようにルークは言葉を続ける。
「今、オルガ・パーカスを倒そうとイ・ラプセル軍が攻撃している。だが十分とは言い難い。地方聖職者を倒して――そこまでだ。
あとはお前達の問題だ。このまま俯くか、前を見るか」
戦いの振動が地下牢を揺らす。
そして奴隷達の心も揺れていた。
●グレイタス小管区――Ⅱ
グレイタス教会前の闘いは少しずつ激しくなってきていた。
ネクロマンサーではなく錬金術というジャンルで地方聖職者にのし上がったオルガ。そして小管区を護る警備兵。さらには聖歌隊の支援。攻防ともに安定した構成だ。
「難しい事は解らないけど、サシャ頑張るぞ!」
拳を振り上げ『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)は癒しの魔力を放つ。オオカミの耳をピンと立て、元気よく皆を癒していく。政治的な部分は解らないが、この戦いに負ければ辛い思いをする人が増える事は分かっていた。なら戦う理由は充分だ。
聖書を手にして魔力を展開するサシャ。胸にあるのは教会で育った弟や妹たちの顔。その笑顔が曇らぬように戦いに挑む。聖剣をもって魔王に挑むのが勇者の本質ではない。平和な日常を護る為に戦うのが勇者なのだ。
「サシャみたいなマザリモノはこの国では本当につらい思いをしてるんだぞ!」
「当たり前だ! 穢れた存在がノウブル様と同じ大地に立つことなど許されるものか! 奴隷として生きていられるだけありがたいと思え!」
「お前みたいなやつがいるから、負けられないんだぞ!」
「正直、貴方の主義主張はどうでもいいです」
ノウブル至上主義のオルガの言葉を涼しく受け流す『天辰』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)。程度はあれどノウブル以外を下に見るという社会は一般的だ。むしろイ・ラプセルでの亜人の扱いが特殊なだけ。今更反論するつもりはない。
刀の柄を手にして、呼吸を整えるカスカ。心を沈め、気を集中する。尖れ、極めろ、己の道を突き進め。刃に生き、刃に死ぬ。それが己の生きる道。信念を貫き歩み続けたカスカの放つ一閃が、駐屯兵の牙城を打ち崩す。
「これが仕事ですからね。次の相手はどなたです?」
「はい。私達は敵を打ち倒す。後はお任せします」
マジックスタッフを手に『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は頷いた。表情が硬く、話術も得意ではないマリアは奴隷達に声をかけて元気づける術を知らない。適材適所と割り切って、この軍勢を倒すことに専念する。
魔力を練り上げながら、後方で癒しを行っている聖歌隊を見る。戦いの基本は癒し手を打つことから。その基本に乗っ取り、聖歌隊たちに向けて稲妻を放った。雷撃が縛となって聖歌隊たちの動きを鈍らせていく。
「その癒し、封じさせてもらいます」
「押されているぞ! 所詮先の戦いで逃げかえった臆病者だな。オニビト如きの術を受けて怯むとは!」
「も、申し訳ありません。すぐに立て直します……!」
「仲間にまでそんな扱いをするなんて……!」
オルガの物言いに怒りを覚える『少年聖歌隊』ティア・ブラックリップ(CL3000489)。シャンバラの聖歌隊に負けないように仲間を支援していたが、だからこそ支援する聖歌隊たちをぞんざいに扱うオルガが許せなかった。
春の温もりを感じさせる空気を吸い、一杯になった肺を押さえるように胸に手を当てる。歌おう、この心の在り方を。唄おう、自由を求める心をリズムに変えて。歌に魔力を込めてティアは仲間を癒す。この歌が自由への道になると信じて。
「囚われた人達を開放させてもらいます! もう、貴方達の道具になんかさせません!」
「ほざけミズビト! お前も明日には奴隷の仲間入りだ。その歌を嘆きに変えてやるわ!」
「そんなことはさせねぇ! みんなを護るのが俺の役割だ!」
槍と盾を持ち、『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)が前に立つ。難しい事は解らない。未来がどうなるかなんてわからない。戦争なんて怖くて仕方ないけど、安全な場所で黙ってみていることはしたくなかった。そこではだれも守れないのだから。
駐屯兵のメイスを盾で受け止めるナバル。その衝撃を殺さないように後ろに下がり、仲間に向かうオルガの術式を庇って受けた。フラグメンツを削りながら、呼吸を整え何度も味方を護り続ける。
「どうした! まだまだ耐えられるぞ!」
「ふん、ノウブルのくせに亜人を護るか。イ・ラプセルはよほど人手不足とみえるな。盾などキジンが適しているだろうに」
「そうそう。ナマ温かい人はそういう役割があるのにねえ」
仲間に回復を施しながら『あるくじゅうはちきん』ローラ・オルグレン(CL3000210)は頷いた。ナマ、の言葉に艶めかしいイントネーションを置いて、髪をかきあげる。ふう、というため息さえも計算されていたかのように人目を引いた。
(名目上は)動きやすいように改造されたイ・ラプセルの軍服がローラの魔力の余波を受けてひらりと舞った。温かな微風に乗った癒しの魔術が仲間達を癒していく。ふざけているようで、仕事はきちんとする。でもローラはローラだった。
「でもキジンの人はキジンの人で悪くないわよ。ガチガチに硬いもんね」
「飲む打つ買うはいつの時代でも癒しだネ」
ローラの言葉に頷き答える『博学の君』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)。王立地質学研究所客員研究員という立場だが、そういった愉しみを否定するほど頭が固いわけではない、価値観は水のように流転する事を知っているからだ。
飄々とした表情のままにアクアリスは魔力を練り上げる。歯車シンボルの青い杖につけられたストライプ柄のリボンがふわりと揺れる。蒼きマナを一点に集め、聖なる属性を付けて解き放った。癒しの水が仲間達の渇きを癒していく。
「これ終わったら酒盛りしましょう! ほら、お酒いっぱい持って来たんですヨー」
「酔っぱらったら戦えないと思うのはナナンだけ?」
唇に手を当てて小首をかしげる『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)。その後でまあいいや、と頭を切り替える。今やるべきことはグレイタスの地下に居る奴隷達を開放する事。先ずはそこをクリアしなくてはいけない。
ツヴァイハンダーを手にして気合をいれるナナン。闘気に満ちた声がナナンの身体を活性化させていく。小さな体に不釣り合いな巨大な剣。それを難なく振るい、駐屯兵に叩きつける。轟音を伴った剣撃が、戦いの血路を生む。
「一気にやっつけちゃうよー!」
「くそ、役立たず共が……っ!」
戦況を見ながらオルガは悪態をつく。イ・ラプセルの勢いは強い。このままでは駐屯兵を突破され、その刃が自分に届くだろう。
だがそこまでだ。時間が来れば他の場所から兵がやってくる。そうなればイ・ラプセルも撤退せざるを得まい。それは自由騎士側も分かっていた。
イ・ラプセルの勝利条件はこの戦いの勝利ではない。奴隷を如何に蜂起させ、彼らにこの地を取り返させるか。その一点にかかっている。
グレイタスの戦闘は佳境を迎えつつあった。
●ムートリアス小管区――Ⅱ
ムートリアス城内は争乱の渦に巻き込まれていた。侵入不可能と思われていた城内にイ・ラプセルのオラクルが現れたのだから。
「落ち着け、数は多くない! 持ち場を護る事を重視しろ!」
そんな混乱を収めようと声をあげる者がいた。警備隊長の任についたナディアである。
「名のある武人とお見受けするでござる。一手御指南願いたい」
「知ってるよ! 『白銀旗』だ!」
そんなナディアの前に現れたのは『神秘(ゆめ)への探求心』ジーニアス・レガーロ(CL3000319)と『南方舞踏伝承者』瑠璃彦 水月(CL3000449)の二人だ。二人は劣りとなって兵士達を迎え撃っていたが、混乱を収めようとする声を聞いてやってきた
ジーニアスと水月は一瞬目を交差させ、同時に走り出す。ジーニアスは廊下を、そして水月は天井を。上下に分かれた二人を同時に視界に入れる事はできない。片側を処理すれば、もう片方は放置される流れだ。
「これぞ我々の連携技!」
「水龍直下クリティカルブレイク!」
交差するジーニアスと水月の武器。その一撃を受けたナディアは一瞬よろけ、しかし倒れることなく手にした旗を振るう。2mほどの長柄の旗を器用に廊下で振り回し、体勢を整えなおす。
「やるね! だけどまだ負けないよ!」
「この小管区を狙いに来たか。だがこのような形を取るという事は、数は多くはないようだな」
「分からんでござるよ。そう思わせておいてその裏があるかもしれぬ」
ナディアの問いにはぐらかすように水月が答える。
「援軍に参りましたわ!」
「さあ、足止めです!」
戦いの様子を聞きつけた『生真面目な偵察部隊』レベッカ・エルナンデス(CL3000341)と『こむぎのパン』サラ・ケーヒル(CL3000348)が援護するように割って入る。薄紫と金の髪が冷たい風を受けて静かに薙いだ。
ナディアに向かい疾駆するサラ。ショートソードを手に相手との距離を詰めていく。それを迎撃しようとナディアの旗が動き、
「させませんわ!」
その動きをけん制するようにレベッカの銃が火を吹いた。こめかみを狙った弾丸を避ける為にナディアの動きが止まる。その間隙を予測していたかのようにサラは攻め込み、刃を振るう。レベッカの支援を信じていたのだろう。その一撃に迷いはなかった。
「さあ、わたくしたちを倒さなくては守れるものも守れませんわ」
「逆だな。その程度で私を止められると思ったか」
「思うとも。何故ならお前の目的は私たちではないはずだ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はナディアと戦う者達を癒しながら答える。囮として自由騎士の仲間を癒して回っていたが、ナディアの姿を見つけるとそちらに足を向けた。
「しかし『白銀旗』がこんな所に? 聞いた話じゃ御偉い隊長サマじゃなかったっけ?
あー、左遷か。それも仕方ないか。貴様は所詮……先の戦争の『敗北者』だしなあ」
「否定はしない。功績もなく得られた情報も不十分とあっては、そのあだ名も当然だ」
挑発するツボミ。激昂すると思ったが、苦虫を嚙み潰したようにその事実を受け入れるナディア。
「おそらくこの襲撃もなにかの布石か陽動なのだろう? 真意を隠す為に一ヶ所で派手に動く。イ・ラプセルの癖だな。おそらく信頼度の高い情報収集能力があり、そこを軸に動いている。しかも電撃的かつ一糸乱れぬ動きで」
(むぅ。やはりこいつ頭が切れるな。とはいえピルグレイス大聖堂襲撃までは予測できんか)
無言で舌を巻くツボミだが、かといってここで足止めすれば問題ない。ナディアは頭が切れるが、兵への最終的な命令権は地方聖職者。そこを押さえればこちらの勝ちだ。
夜の城の中、静かな戦いは加速していく。
●グレイタス小管区――Ⅲ
実力で地方聖職者までのし上がったオルガ。その二つ名を示すともいえる水銀の蛇術。
蛇は基本に忠実に、回復を行う後衛を中心に放たれる。毒で蝕み魔力を削り、動きを止める。効率的に回復能力を奪い自由騎士の継戦能力を削っていく。
「オルガ……あの人は……!」
『蒼の彼方の傍観者』サラ・アーベント(CL3000443)はオルガの動きを観察しながら、その人間性を測っていた。傍観者と自らを称するサラだが、個人的な意見を言えば嫌いな類だった。何故ならその術式は――
「その術、人間相手に実験して完成させたのですね?」
サラはオルガが使うヒュドラルギュルムを見て、そう断ずる。猛毒ともいえる水銀を戦闘に使用できるまで特化する。その最大の近道は仮想敵である人に使うのが一番だ。そしてその相手とは――彼の性格から考えればすぐに計り知れた。
「人? 違うな。マザリモノやキジンは人じゃないからな!」
「やはり! その所業、貴方の信じる神がお許しになるとでも思うのですか!」
「許されるとも。お前達も神の威光にひれ伏し、涙するがいい! 屈辱の涙をな!」
「あははははは! そうだよね、そこまでするのは当然だよね!」
オルガの言葉に同意するように笑う『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)。欲しい、欲しい、欲しい。未知なるものが欲しい。その為に何を犠牲にしても構わない。自分自身の命さえも。
「あたしは知りたいだけなの。あたしが持っていないもの全て。だから貴方のその業も知りたい! 面白い業を使うんだってね! どんなのか見せてよ!」
「はっ! 動物程度の脳みそで理解できると思うな!」
「ふふ……ふふ……。こんな感じかぁ…毒って良いよねぇ、こう、蝕んで行く感じ……あんたの蛇はもう見た……じゃぁ、これはお返し……!」
水銀の蛇を身に受けながらクイニィーは錬成した白のドングリを解き放つ。燃えるような毒がオルガを包み、その体力を奪っていく。
「動物程度とは片腹痛い。純血種も亜人も混血も、セフィロトの海より生まれた者だと言うのに」
オルガの言葉を聞きながら怒りの声をあげる『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)。姿形に違いこそあれど、人族は皆同じ生き物だ。差異こそあれど同じ場所から生まれた者に違いはないというのがリュリュの意見だ。
「錬金術を嗜む者として恥じるばかりだな。無知蒙昧にして浅識短才。真実を見る事が錬金術の基礎だというのに」
「黙れ、その翼を水銀の蛇で捕らえてやるわ!」
「その蛇とは――これのことか」
リュリュの言葉と同時にオルガの足元から水銀が生まれ、ヘビのように絡みつきその動きを拘束していく。
「ば、バカな……ソラビト如きにヒュドラルギュルムが!?」
「亜人でもノウブルと同じ物が使える。優劣など無い」
「た、ただの偶然だ! こんなものは劣化したコピー技にすぎん! 水銀で殺すという事を知らぬお前にはたどり着けぬ領域、味わうがいい!」
「否、もう貴様にその機会はない!」
言葉と共に軍刀を振るう『終ノ彼方 鉄ノ貴女』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。駐屯兵を相手しながら少しずつオルガに近づき、そして今その刃が届く領域までやってきたのだ。その戦いを象徴するかの如く血に塗れ、それでもその歩みに揺らぎはない。
「シャンバラの一小管区を収める者として、国を護る為に並々ならぬ努力があったことは認めよう。軍人としてそれを理解できぬほど浅慮ではない。
だが奴隷を極限まで酷使した罪はもはや申し開きはできぬ!」
「キジン如きが偉そうにほざきおって! 奴隷は人ではない! それを壊したところで何の咎があるというのだ!」
「その価値観を断行すべくイ・ラプセルの旗はあると知れ! 『SIEGER・IMPACT 改二』!」
シノピリカの機械の腕がオルガに押し当てられ、ドン、という鈍い音が響く。大量の蒸気がその腕からあふれ出し、夜風に吹かれて消えた。衝撃は拳からオルガの胸部に伝わり、彼の意識を刈り取った。
「グレイタス小管区地方聖職者オルガ・パーカス、打ち取ったり! これ以上の闘いは無意味だ! 皆、剣を収めよ!」
勝鬨の声をあげるシノピリカ。その朗々と響く声が、この場での闘いの終結を告げる。他のシャンバラ兵や聖歌隊も、これ以上抵抗は無意味と知って戦意を収める。
だが、グレイタス小管区の闘いはまだ終わらない。
――ここからが、本番なのだ。
●ムートリアス小管区Ⅲ
陽動部隊が動いている最中、執務室に向かう影があった。
「良し。誰もいないな」
アデル・ハビッツ(CL3000496)は魔眼で壁の向こうを見て安全を確認し、物質透過で壁をすり抜ける。顔を隠す兜が執務室の方を向く。急ぐ必要があるが、見つかっては意味がない。その事を意識しながら進入する。
安全確保と隠密。足音を忍ばせ、確実に進んでいく。気配を消して進むのは、夜襲の基本だ。傭兵の時にはよくやっていた。身を隠す場所の多い城では注意さえ怠らなければ見つかる事はない。
「あともう少し。さて、上手くいけばいいがな」
「ふう……」
用水路から顔を出す『みんなをまもるためのちから』海・西園寺(CL3000241)。水気を取り去った後にマキナ=ギアからぬいぐるみのミミーを取り出す。ミミーを抱きしめ、上手く侵入できないかもという不安を打ち払った。
そのまま海は警備の死角を突くように場内を動き回る。兵士の目が向きそうにない壁を渡って移動し、時には物質透過で隠れる。陽動で動いている者がいるのも功を奏したのか、兵士に見つかることなく進むことが出来た。戦闘音のする方を見て、海は小さく呟く。
「皆さん、無事でいてください……」
仲間の無事を信じ、海は城を進む。
「――ふっ!」
呼気と共に壁を乗り越える『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。着地の際に体全体で受け流すように受け身を取り、衝撃と着地音を最小限にして城内に潜入する。そのまま素早く茂みに入り、黒い布で口を覆った。
気配を消し、風景と同化する。ミルトスは静かに城の中を移動していた。木にあっては木の呼吸を。石にあっては石の呼吸を。自然を尊敬し、そこから学ぶ。それは格闘家としての理念でもあった。
「窓がはめ殺しでなければここから登って侵入できるのですが……」
上を見上げるミルトス。執務室までの距離は、あと少し。
「さて、行きましょう」
メイド服を着た『癒しの回復師』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)がサイズを確認するように軽く腰を回転させる。その足元には用水路侵入時に着ていた水着があった。着換えシーンは円盤で追加予定(されません)。
陽動で混乱する中、慌てて逃げるように移動するティラミス。ホムンクルスによる資格共有と五秒後の未来予知を駆使しながら城内を進む。非常時という事もあって、走って戦闘の音から逃げるメイドは兵士も目に止めなかったのだろう。
「こわいー、たすけてー」
そんな声をあげながらティラミスは執務室に向かう。
「カバだからすいちゅうこきゅう」
用水路から顔を出す『リムリィたんけんたいたいちょう』リムリィ・アルカナム(CL3000500)。無表情のまま用水路から上がる……事はなく、そのまま水中を進み続けた。巨大なハンマーを重しにして水から顔を出さないように進んでいく。
時折水から顔を出し、外の様子を確認しながら進んでいく。さすがに執務室前まで用水路は繋がっていないので、どこかで水から上がらなくてはいけない。暫く水底でじっとした後、兵士達がいなくなったのを確認して顔を出した。
「みまわりいない。いま」
何度か見つかりそうになるが、その度にリムリィはハンマーを振るい突破していく。
「聖王都より枢機卿からカースン様への言伝を預かり参りました。重要事項にてカースン様に直接伝えさせていただきたい」
城門真正面で『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)は声を張り上げる。キジンの身体を隠し、しかし堂々とした立ち様で門番に語りかけていた。
「カースン様がお忙しく中々お会いする事が出来ないのは百も承知です。ソレでも『なお』直接伝えようとするこの意味、聡明な貴方達ならお分かりになるかと」
言われて兵士達は眉を顰める。使いの騎士は名前も明かさないし、聖王都からそういう者が来る連絡も受けていない。堂々たる態度は騎士の教育を受けた証なのだろうが、それでも疑念が払われるわけではない。常時なら即刻取調室行きだ。だが――
(あの枢機卿だからなぁ……)
ゲオルグ・クラーマーの顔と態度を思い出し、兵士達は閉口する。あの男なら予想外のことを平気でやりかねない。
「分かった。私が執務室まで案内しよう」
事実上の見張りを付けて、アダムを通す門番
――数分後、その見張りを倒してアダムは執務室へと向かう。
●グレイタス小管区――Last
オルガを倒し、シャンバラ兵を降伏させた自由騎士達。
だが教会を警備していないシャンバラ兵がこのことを知れば、自由騎士達を討とうと殺到するだろう。当然その為に騎士団が介入することになっているが、数が足りない。
たまきやローラやティアが奴隷達の傷を癒して回り、血気盛んな奴隷達は武器を持ち戦う準備を整えている。だがまだ不足している。これまで受けた仕打ちが彼らを苛んでいるのだ。
故に、鼓舞しなければならない。このままでは彼らはまた誰かの奴隷となってしまうだろう。
「ローラのモテモテハーレムパワーでやる気出させるって……やっぱダメ?
大丈夫だよ! ちょっとえっちなカッコ見せるだけだから!」
いろんな意味で役に立たなくなりそうだと、ローラを引っ込めさせた。
「自由を掴み取りましょう、我等自由騎士団と共に! 今こそ革命の時です!さぁ、武器を取りなさい……未来を掴み取る為に!」
「君達は自由だ! この世に生まれしもの。種族が違えとも皆同く心を持つ人だ!」
「自由を手にする為に今立ち上がるんだ! 我々も戦うが、君たちも君たち自身と家族の為に手を貸してくれ!」
アンジェリカ、ヨーゼフ、ティアなどの自由騎士達が奴隷達に声をかけるが、彼らの反応は薄い。
「自由……自由って何だ? 美味いのか?」
「なあ、それがあれば俺達はどうなるんだ!?」
はっとなる自由騎士。彼らは『自由』を知らない。『繋がれていることが当然』な彼らにとって、繋がれていない世界など知らない。羽根のないものが空という世界を知らないように、自由をもたない奴隷達にその概念はないのだ。
「あんた達は地面を這い蹲る姿がお似合いね……立ち上がる事も出来ない負け犬さんっ。何ならモニカが新しいご主人様になったげ――もがもがっ」
余計な事を言いかけたモニカの口を塞ぐが、実のところキモはそこだ。地を這い、立ち上がる事を知らない負け犬。そんな彼らを立ち上がらせなければならないのだ。
「俺はアン・J・ハインケル。見ての通りのマザリモノだが、あんたら奴隷を解放しにきた。イ・ラプセルならあんたらのことも、平等に人として扱われることは保証するぜ」
「オレたちの国は、キジンとかマザリモノもノウブルと同じ扱いをしてる」
「種族が違ってもキジンであっても人らしく生きなあかんねん。どうしていいかわからんならうちが教えたる」
アンやナバルやアリシアの言葉を受けて種族差別を受けていた奴隷達の一部が目を輝かせるが、それでもまだ立ち上がれない者もいる。
「皆聞けっ! 見ての通り俺はヨウセイだ!」
ヨウセイの種族特徴ともいえる尖った耳を晒し、オルパが叫ぶ。
「これから俺はミトラースのくそったれをブチのめす! お前達も一緒にやろうぜ!」
「ミトラースを……倒す……?」
ミトラース。それはシャンバラに取って最も高い座にある存在。
それを倒す、という言葉は奴隷達に大きな衝撃を与えた。
「いまここから逃げたって、現体制が続けば俺達は行き場がないんだ。 いま起たないでどうするんだよ!」
「その通りじゃ! 今こそ立ち上がる時!」
鋼の拳を振り上げ、シノピリカが叫ぶ。彼らを隷属させていたオルガを倒した拳を。
「奴らも血を流す。我らも血を流す! そこに何の違いがあろうか!? 血が出るなら倒せる、立ち向かえる!」
「勝てる……のか? 俺達が?」
「無論! 今この時より、我々は同志である。どうか力を貸して欲しい!
搾り取られて打ち捨てられるか! 立ち向かって打ちのめすのか! いざ立て、同胞よ!」
「奴隷の俺達を……同胞というのか?」
「あいつらを倒して……もう鞭で打たれないようにできるのか!?」
「やるぞ! 俺はやってやる!」
そこから波及した熱が伝わるように、奴隷達が立ち上がる。自らを縛る枷を外し、武器をもって蜂起する。
「なんとかなりそうだな」
「うむ。見事な言葉だったぞ。あの言葉が決定打じゃった」
安堵するオルパに頷くシノピリカ。
虐げられた奴隷達にとって分かりやすい目標と衝撃的な内容。それが彼らを突き動かしたのだ。
解放された奴隷達には石などの遠距離攻撃を担当させてシャンバラ兵を足止めさせ、混乱した隙を縫うようにイ・ラプセルが動く。蜂起した奴隷達の数もあって、シャンバラ兵は各個撃破される形で掃討されていく。
夜明けを待たずして、グレイタス小管区からシャンバラ兵は撤退する事となった――
●ムートリアス小管区――Last
執務室前――
そこにたどり着いた自由騎士の数はアデル、海、ミルトス、ティラミス、リムリィ、アダムの六名。彼らは魔術で閉ざされた扉を前に足を止めていた。
「さてどうしましょうか。壁側に回って、包囲されているように思わせるとかはどうです?」
壁を伝って移動できるミルトスが提案するが、驚いたアベルに兵を呼ばれてしまう可能性がある。そうなればこの作戦は失敗だ。執務室内に入るまでが隠密戦なのだ。
「なので壁を壊すのも却下だから」
「ん」
無言でハンマーを構えて壁を壊そうとするリムリィ。制止の言葉を受けて素直にハンマーを下した。
「物質透過で中から錠を開けると言うのは?」
「扉は魔法で閉ざされているんです。物理的な錠を開けても意味がありません」
言って首を振る海。
「物質透過で中に入り込んで地方聖職者を押さえ込むとかは?」
「無理だな。相手がどこに居るかわからん。探している間に見つかって叫ばれる可能性が高いだろう。二人で入って一瞬で叫ばないようにするのは難しい」
兜の奥でアデルはため息をついた。
扉さえ開けてしまえば、六人で雪崩れ込んで押さえる事が出来る。あるいは地方聖職者自身に扉を開けさせれば、そのまま捕らえる事も可能だ。
だがどうやって?
「――よし。僕がやろう」
呼吸を整え、アダムが扉に近づく。背筋を伸ばして戸を叩いた。
「カースン様、枢機卿から言伝を預かっています」
「おお、クラーマー卿からか!? 兵が来るのか?」
「はい。他の誰にも見られずお渡ししたく。この扉を開けてもらえませんか?」
「渡す、という事は手紙か何かか? なら封筒入れに入れてくれ」
「いえ。伝聞です。書簡の形にして漏れてはいけませんので」
「ならナバル隊長に伝えてくれ。元白銀騎士団隊長である彼女なら枢機卿も信頼してくれるだろう」
(駄目か……?)
アダムはこれ以上続ければ疑念がかかると判断し、『了解しました』と告げて扉から離れる。枢機卿という権力を出せば開けると思っていたが、相手の怯えっぷりが尋常ではなかったようだ。
「……そうか。信頼できる部下なら開けてくれるんだ」
アダムのやり取りに頷くティラミス。メイド服を整え、背筋を伸ばす。
「し、失礼しますっ、カースン様」
上ずった声。緊張した風を装うティラミス。『この場に不慣れなメイド』を意識して演技する。
「な、ナディア様の命でお茶をお持ちいたしました!」
「……見慣れぬ顔だな」
覗き窓から見ているのか、扉の奥からそんな声が聞こえてくる。
「ひゃい、その、最近配属されたばかりで……」
「…………」
沈黙。
「ナバル隊長はどうした?」
「ナディア様は今お忙しく……。なんでも枢機卿からの言葉を受け取っているようで……。席を外すついでに、カースン様にお茶をもつように命じられました……」
再び沈黙。
(枢機卿からの言付けを受け取り、部外者を外す。聖王都の情報を落ち着いて聞かせる為に茶を運ばせたというところか。あの隊長崩れも気が利く)
単純に新人メイドが茶を運んできた、というだけなら見慣れぬ者という事で不審者扱いされただろう。
だがその前のアダムの言葉が功を為していた。疑心暗鬼になってシャンバラからの助けを舞っていたアベルは『ありえそうな』ストーリーに安心してしまう。
「いいだろう。入ってすぐのテーブルに茶を置き、すぐ退出だ」
かちゃり、魔術の錠が解かれてドアが開かれる。それと同時に自由騎士達は室内に殺到し、地方聖職者の身柄を押さえ込んだ。
「何者――ムグッ!」
「大人しくするなら命は奪いません」
「てあしのいっぽんやにほん。おれてもなおせばいい」
「自分から死にたくなるような拷問もあるのだぞ?」
自由騎士達の言葉に顔を合収めながら頷くアベル。相手の正体は解らないが、彼らが自分の生殺与奪剣を握っていることは理解できた。
「さて選択だ。ここで死ぬか、大人しくこちらに従うか……聞くまでもないか」
恐怖のあまり気を失った地方聖職者を見ながら、自由騎士達は作戦完了を確信した。
さて、あとは無事帰還するだけだ。テレパスで連絡を取ってくれているドロテアにその事を伝え、陽動している人達にも伝える。あとは定刻通りに騎士団が攻めてくるはずだ。
定刻よりやや早く、イ・ラプセル騎士団がムートリアス城に攻撃を始める。
地方聖職者という命令系統を失ったシャンバラ兵は混乱し、浮足立った。跳ね橋などの防衛機構も内部に自由騎士が潜入している時点で意味をなさない。瞬く間に場内に進入した騎士達が、シャンバラ兵を制圧していく。
こうして、ムートリアス小管区をめぐる戦いは一夜のうちに決着がついた。
●聖櫃
聖櫃。シャンバラの大地を育み、食物を育てる環境を生み出す存在。
それはヨウセイを糧として動く。棺のようなものに閉じ込められた数多くのヨウセイ達。その多くは既に枯渇していた。
だが、囚われたばかりのヨウセイもいたらしい。
「良かった……!」
救われたヨウセイは茫然としていたが、事情を知るとイ・ラプセルや自由騎士に感謝の言葉を告げる。体が癒えれば、協力してくれると約束してくれた。
グレイタス小管区とムートリアス小管区。そこにあった聖櫃は二つとも破壊された。シャンバラ本来の気候が二管区を包みこむ。常春ののどかな空気ではなく、いまだ冬の色が残る刺すようなものに。
この小管区に限らず、シャンバラは歴史の転換を迎えるだろう。今まで受けていた豊かさは消え、あるいは飢えてしまうかもしれない。
それが本来のシャンバラなのだ。聖櫃で守られていない、自然そのままの大地。
そしてそれを開拓していくのが、人なのだ――
●夜明け
戦い終わり、ボロボロになった自由騎士達を向かえる『道化の機械工』アルビノ・ストレージ(CL3000095)と『貫く正義』ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)と『踊り子』ミケ・テンリュウイン(CL3000238)と『思いの先に』ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)と『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。
太陽が上り、イ・ラプセルの領土となった大地を照らす。
問題はまだ山済みだが、それでも今はこの勝利を祝おう。
勝鬨の声が、二つの小管区に響き渡った。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
MVP
称号付与
『水銀を伝えし者』
取得者: リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『新人メイドは扉を開ける』
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『威風堂々たれ』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『水銀を砕く鉄腕』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『音運ぶ小鳥』
取得者: ドロテア・パラディース(CL3000435)
『グレイタス解放者』
取得者: オルパ・エメラドル(CL3000515)
取得者: リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『新人メイドは扉を開ける』
取得者: ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『威風堂々たれ』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『水銀を砕く鉄腕』
取得者: シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『音運ぶ小鳥』
取得者: ドロテア・パラディース(CL3000435)
『グレイタス解放者』
取得者: オルパ・エメラドル(CL3000515)
†あとがき†
どくどくです。
ねこてんし「二管区だから決戦二つ書いてもいいよ」
どくどく「いえいえ。こちらは解放戦と隠密だから。そちらは派手な戦いなので二つ書きます?」
ねこてんし「いやいや。どくどくさんこそ」
そんなやり取りがあったとかなかったとか。
以上のような結果になりました。二管区解放です。
戦闘メインではなく説得と侵入メイン。なのでポイントもそちらが多めになっております。
MVPは迷いましたが、上手く奴隷達を立ち上がらせた二人と、扉を開けた二人と連絡役のあなたに。特にテレパスはなければ撤退タイミングをミスって陽動組が大怪我をする所でした。
シャンバラでの戦いは大詰めに向かっています。
皆様の健闘を祈りつつ、筆を置かせてもらいます。……まあ、敵をぶつけるのはどくどくなのですがね!
それではまた、イ・ラプセルで。
=====================
ラーニング成功!!(自由騎士取得可能)
獲得者:リュリュ・ロジェ(CL3000117)
スキル名:ヒュドラルギュルム
性能:魔近範 命中-5 【ポイズン2】【スロウ2】
フレーバー:水銀が縛鎖の蛇となって絡みつく。リュリュ・ロジェ(CL3000117)が誰もが平等に使える様に改良した技。 取得シナリオ:【東方陽動作戦】UnbelievablePlan!
ねこてんし「二管区だから決戦二つ書いてもいいよ」
どくどく「いえいえ。こちらは解放戦と隠密だから。そちらは派手な戦いなので二つ書きます?」
ねこてんし「いやいや。どくどくさんこそ」
そんなやり取りがあったとかなかったとか。
以上のような結果になりました。二管区解放です。
戦闘メインではなく説得と侵入メイン。なのでポイントもそちらが多めになっております。
MVPは迷いましたが、上手く奴隷達を立ち上がらせた二人と、扉を開けた二人と連絡役のあなたに。特にテレパスはなければ撤退タイミングをミスって陽動組が大怪我をする所でした。
シャンバラでの戦いは大詰めに向かっています。
皆様の健闘を祈りつつ、筆を置かせてもらいます。……まあ、敵をぶつけるのはどくどくなのですがね!
それではまた、イ・ラプセルで。
=====================
ラーニング成功!!(自由騎士取得可能)
獲得者:リュリュ・ロジェ(CL3000117)
スキル名:ヒュドラルギュルム
性能:魔近範 命中-5 【ポイズン2】【スロウ2】
フレーバー:水銀が縛鎖の蛇となって絡みつく。リュリュ・ロジェ(CL3000117)が誰もが平等に使える様に改良した技。 取得シナリオ:【東方陽動作戦】UnbelievablePlan!
FL送付済