<雷獣結界>沖縄炎上! 妖大決戦!
<雷獣結界>沖縄炎上! 妖大決戦!


●見落とされた第十四封印地区
「はあ、日本全国へ飛び回って妖退治とは、流石に今回は覚者たちに無理をさせてしまったわね」
 御崎 衣緒(nCL2000001)は報告書をまとめた束をデスクに積み、しかしどこかほっとした顔をしていた。
 机を挟んだ向かい。椅子に腰掛ける中 恭介(nCL2000002)。
「そのおかげで日本の電波障害は解消された。まあ、覚者自身が微量の電波を放つせいで戦闘中は無線通信機器が使えないと言うところは少々つらいが……なに、今まで通りだ。日本が抱える問題のひとつを解決したことで、ファイブの名声も大きく上がるだろう」
「だといいけど……」
 電話のベルが呼ぶ。
 受話器をとると相手は政府の使者アズマコウジだった。
『も、もももっ、もうしわけありません! 自分は知らなかったもので! こんなことになるとは……!』
 唐突な物言いにアタリは目を細める。
「落ち着いてくれ。何があった」
『沖縄です! 沖縄で! 妖が大量発生しています!』
「……なんだと!?」

 内容を整理して伝えよう。
 日本13箇所にわたる雷獣結界。その全てを訪問し、封印された妖を退治して電波障害を解除してきたファイヴであるが……。
 この中に未だ知られぬ『第14の雷獣結界』が存在していたというのだ。
 それもなんと、沖縄の地下。
 正確には沖縄本島の地下500メートルの岩盤そのものが古妖となっており、彼の放つ電磁波によって大量の古妖が沖縄の地下に封印されていたというのだ。
 そんな古妖が地下にあって大丈夫なのかとアタリは疑問に思ったが、どうやら沖縄雷獣は大量の妖を封印するため地下へ潜り、存在を岩盤に定着させたのだという。物言わぬ、そして動かぬ古妖。妖怪石のたぐいとでも言おうか。
『沖縄雷獣は他13箇所の結界と連動して自らの結界を維持していました。しかし13箇所が一斉に解除された反動で結界が弱まり、内側から破壊されてしまったのです!』
「なら、今は……」
『だから! 沖縄で大量の妖が発生しているんですよお!』
 アタリは受話器を取り落とし、素早く取り出したスマートホンを耳に当てた。
「ファイヴに所属する全覚者に緊急招集! 決戦依頼を承認する! 場所は沖縄、敵は妖だ!」

●沖縄米軍基地、そして――ヒノマル陸軍。
 同時刻、沖縄に軍用ヘリが到来した。
 その運転席にいるのは誰あろう、七星剣大幹部にしてヒノマル陸軍総帥・暴力坂乱暴である。
「おいおい、こりゃあどういう地獄だ……」
 見下ろす限りバケモノの群れ。
 海に山に市街地に、魑魅魍魎があふれていた。
 ひとまず漢那のヘリポートに着陸する暴力坂。そこへヒノマル陸軍幹部の御牧が転がるように駆け寄ってきた。
「総帥! よくぞおいでくださいました! 沖縄に妖が!」
「もう聞いてるよバカヤロウ。電波が急に通じるようになったのと関係あんのか」
「おそらく……。妖もこの地下に封印されていたものが一気にあふれたものかと」
「チッ、決戦前に避難民の様子でも見とこうと思ったらコレかよ」
 漢那特別避難住宅地。ヒノマル陸軍がこっそりと持っている一般人用の居住区である。隊員の家族や土地ごと保護した一般人などが暮らす土地で、なんでか妖があんまり出ないから都合良く使っていたのだが……。
「三基地の米軍連中は何してる」
「こっちの指示を待っております。暴力坂殿のお声がけがあれば動くと……」
「バッカヤロウ!」
 暴力坂は御牧を殴り倒すと、ずかずかと歩き始めた。
「伝令! 一般人を全部南の港から船で逃がせ! 逃げ切れねえやつはヘリ! それもダメなら抱えて走れと伝えろ! 戦争任務中の覚醒隊を招集して時間を稼がせろ。そんでも潰しきれねえだろうから、まずは住民を別の地区に避難させてそれから――」
「そ、総帥もうひとつご連絡が!」
「アァ!?」
 振り返る暴力坂に、御牧がゆらりと立ち上がり……天空を指さした。
「ファイヴがこの騒ぎを聞きつけて大規模決戦をおこすそうです」
「あ、な……あんだとお!? 連中死ぬぞ! 俺らと『やる』前に! なんのために七星剣の連中だまくらかしてまで協定結んだと思ってんだチクショウ! 協りょ――じゃなかった、奴らに混じって妖を攻撃! ファイブにこんな所で戦死者を出すなと伝えろ! いいな!」

●漢那ダム
 ダム湖の水面を突き破って現われる半魚人めいた物体。
 水と氷と泥がグニャグニャと混ざり合った自然系妖の群れである。
 それを、ボートの上の更に上、アンテナの頂点に立って見つめる仮面の男がいた。
 水上歩行が可能な覚醒隊員が戦うが、大小様々な半魚人風妖が手槍を投げたり噛みついたりといった攻撃を繰り出してくる。
「あぁ、こりゃあ酷い」
「ランク1とランク2の混合部隊っす。でもってボスが……」
 妖たちの中央。水面を巨大な水柱が登った。
 否、全長10メートルはあろうかという大蛇である。
「あれ倒せます?」
「無理だろぉ」

●与那覇岳森林地帯
 木々の間を抜け、走る猛獣の群れ。
 否、現地の動物が妖化した動物系妖の群れである。
 それを、木々の上から飛行しながら観察する覚醒隊がいた。その連絡を受け、麓での短い瞑想を終える、男。
「熊、シカ、サル、イノシシ、鳥も少々といったところか……む?」
 木々をへし折り、土をひっぺがして現われる巨大な熊妖。
「難敵か。しかし、立ち向かうまでのこと」

●那覇市街地
 町は混乱の限りにあった。逃げ惑う人々を駐中米軍やヒノマル陸軍の一般兵が誘導し、時には抱えて避難させている。
 それを追いかけて襲うのは、自動車が四足獣のようになった物質系妖の群れである。
 そこへ特殊なオフロードバイクに跨がった覚醒隊が駆けつけた。
「住民が一部取り残されてるみたいです。救助に向かえと。でも一番の難所はあの中でして……」
 一人が指をさす。ビルがそのまま手足の生えた怪物となり、隣のビルを殴り倒している。
 体長らしき男が顔を歪めた。
「馬鹿、あれは死ぬだろ!」

 沖縄は、かつてない戦場と化している。
 この地を救うべく、いざ戦うのだ。


■シナリオ詳細
種別:決戦
難易度:決戦
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.漢那ダムの妖を50%以上退治する
2.与那覇岳の妖を50%以上退治する
3.那覇市街地の妖を50%以上退治する
 こちらは全体シナリオ<雷獣結界>の一部にして最終決戦シナリオとなります。
 軽く巻き込まれた形のヒノマル陸軍も関わっていますが、今回彼らはFH協定(※後述)によって味方寄りの第三勢力となっております。

●依頼の概要
 沖縄に張られていた妖を封印する結界が内部から破られました。
 それによって妖が大量発生しており、市民は急いで避難を始めています。
 ほぼ偶然巻き込まれたヒノマル陸軍も応戦していますが、彼らだけで倒すことは不可能です。
 妖を倒し、沖縄を解放しましょう。

 エリアは大きく分けて『水上戦闘のA』『森林戦闘のB』『要一般人救助のC』となっています。

●成功条件の補足
 漢那、与那、那覇の三箇所が妖発生地点となっています。
 それぞれの妖を50%以上倒すことができればAAA等による掃討プランによって妖を全て除去することができると言われています。
 ただしこのまま放置しておくと妖は勢力を増し、手がつけられなくなってしまうでしょう。実質的な妖の沖縄制圧状態となってしまいます。
 そうなる前に、妖たちを倒すのです。

●プレイングの補足
 この決戦シナリオに参加する際は向かうエリアを決定してください。
 プレイング冒頭に【A:漢那ダム】のようにエリアを書き込むことでその場所に参加できます。
 一緒に戦いたい人が居る場合は『文鳥 つらら(nCL2000051)』のようにフルネームをIDつきで書くようにしてください。表記不足の場合はぐれることがあります。

●エリア情報
A:漢那ダム
 巨大なダム湖です。
 水上に半魚人めいた妖が大量に発生しており、市街地へと進行を始めています。
 妖は疑似水上歩行が可能で、銛を投げたり斬りかかったり噛みついたりといった攻撃を行ないます。
 物理攻撃(物攻)よりも術式攻撃(特攻)のほうが通じやすいという特徴があります。
 小型のランク1が沢山、大型のランク2が少々といった分布です。
 このエリアのラスボスは大蛇型の妖。
 ランク3の強力な妖です。周囲を水流によって薙ぎ払う全体攻撃を得意とします。
 このエリアでは希望すれば戦闘に耐えうるボートが支給されます。

B:与那覇岳
 山の森林地帯です。
 動物系妖が群れを作っており、人里目指して進行しています。
 ほとんどがランク1の妖ですが、総じてタフで数が多いという特徴があります。
 ここのラスボスは巨大な化け熊です。
 複数の動物系妖が混ざり合ったランク3妖で、豊富な体力と攻撃力、そして大地全体を震撼させるノックバック攻撃が特徴です。

C:那覇市街地
 沖縄の南に位置する市街地では物質系妖が大量に発生しています。
 町中で突如発生したため避難が大きく遅れており、戦いながら一般人救助を行なう必要が生じています。
 しかし大抵の場所は避難が済んでおり、誘導や搬送はプロが行なっています。
 崩壊した家屋やビルなど、救助が困難な場所での任務が主となるでしょう。
 妖は殆どがランク1物質系妖。
 自動車や自販機、道路標識や日用品などが妖化しています。
 ここでのラスボスはビル妖。人型に変形した12階建てビルです。ちなみに那覇市役所です。
 所員は殆ど逃げましたが、ごく一部だけ内部に取り残されています。倒すにしても彼らを救助した後でないとマズいでしょう。

●FH協定の影響
 今回の決戦シナリオ内において、ヒノマル陸軍が第三勢力として参戦しています。要するに『こっちに絶対攻撃しない敵』です。
 理由として、現在ファイブはヒノマル陸軍と戦争中にあり、FH協定を結んでいます。
 これは一般人に危害を加えないという内容の他に、両者を拘束したり殺したり鹵獲やルール外の制圧や攻撃行為などを行なわないというものがあります。
 これによって現在ヒノマル陸軍とファイブは当決戦において交戦しませんしできません。当然誤射もしません。
 それ以前に、ヒノマル陸軍にとっても(隊員の家族が住んでたり米軍基地とのパイプがあったりと)大事な土地なので、かなり必死に住民を逃がし、防衛します。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(6モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
50LP
参加人数
87/∞
公開日
2016年12月19日

■メイン参加者 87人■

『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『ゆるゆるふああ』
鼎 飛鳥(CL2000093)
『研究所職員』
紅崎・誡女(CL2000750)
『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『希望を照らす灯』
七海 灯(CL2000579)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)
『想い重ねて』
蘇我島 燐花(CL2000695)
『使命を持った少年』
御白 小唄(CL2001173)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『冷徹の論理』
緒形 逝(CL2000156)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『花屋の装甲擲弾兵』
田場 義高(CL2001151)
『想い重ねて』
蘇我島 恭司(CL2001015)
『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『静かに見つめる眼』
東雲 梛(CL2001410)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『ぬばたまの約束』
檜山 樹香(CL2000141)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『弦操りの強者』
黒崎 ヤマト(CL2001083)
『五麟マラソン優勝者』
奥州 一悟(CL2000076)
『桜火舞』
鐡之蔵 禊(CL2000029)
『行く先知らず』
酒々井・千歳(CL2000407)
『正義のヒーロー』
天楼院・聖華(CL2000348)
『アイティオトミア』
氷門・有為(CL2000042)
『偽弱者(はすらー)』
橡・槐(CL2000732)
『清純派の可能性を秘めしもの』
神々楽 黄泉(CL2001332)
『侵掠如火』
坂上 懐良(CL2000523)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『落涙朱華』
志賀 行成(CL2000352)
『BCM店長』
阿久津 亮平(CL2000328)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『天衣無縫』
神楽坂 椿花(CL2000059)
『水の祝福』
神城 アニス(CL2000023)
『突撃巫女』
神室・祇澄(CL2000017)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)
『『恋路の守護者』』
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『歪を見る眼』
葦原 赤貴(CL2001019)
『夢想に至る剣』
華神 刹那(CL2001250)
『献身なる盾』
岩倉・盾護(CL2000549)
『Overdrive』
片桐・美久(CL2001026)
『愛求独眼鬼/パンツハンター』
瀬織津・鈴鹿(CL2001285)
『悪食娘「グラトニー」』
獅子神・玲(CL2001261)
『隔者狩りの復讐鬼』
飛騨・沙織(CL2001262)
『烏山椒』
榊原 時雨(CL2000418)

●漢那ダム攻防戦
 はじける水のしぶきと陽光の乱反射。
 今、漢那ダムとその湖は妖の群生地と化していた。
 ゲル状の半魚人の群が硬質化した槍を水面から掴み上げ、牽制のために投擲してくる。
「ボクがそんな攻撃で止まるだろうなんて、考えが甘いゾ!」
 犬山・鏡香(CL2000478)はフッドパーツからエネルギーをホバー噴射しながら水面を走り、飛来する槍を自らの槍でもって打ち弾く。
 反撃にアームパーツから小さな球体を連射。逆に妖を牽制すると、発射口から太く頑丈なツルを瞬間的に生やし、すれ違いざまに妖を叩き倒していく。
 蓋を開いてBB弾サイズの植物種子のマガジンケースを入れ替える鏡香。
 その横を、ボートに乗った覚者の集団が追い抜いていく。ヒノマル陸軍の第一覚醒隊だ。
「やっほー! 今日は味方だな、ヨロシクー!」
「よろしくぅ」
 アンテナの上に立って手を振り返す忍日。
 そんなボートを取り囲むように、無数の妖が水面を破って現われた。
 迎撃しようとボートから隊員たちが身を乗り出すが、妖たちの狙いは忍日たちではなかった。湖から出て人里へと進行することなのだ。
 妖たちが水面を走り南側へと進行していく。
「それ以上は行かせないのよ!」
「絶対に、ここで食い止めるよ……!」
 ボートを走らせ、妖たちの群れへと突っ込んでいく鼎 飛鳥(CL2000093)と明石 ミュエル(CL2000172)。
 扇状に展開して飛びかかってくる妖。
 対して飛鳥はステッキを振り上げておまじないを唱えた。彼女に応じるように周囲の水が吹き上がり、獣のように妖たちへと襲いかかる。
 それを抜けてボートへ飛び乗る妖。
 振り込まれた槍をステッキで受け止め、ミュエルは目を僅かに細めた。
「ミュエルちゃん、はなれてなのよ!」
 ステッキから水の剣を伸ばして切りつける飛鳥。刃ごと吹き飛んでいく妖――をぶち破って二倍以上の巨大さをもつ半魚人の大型妖が突っ込んできた。
 ボートを崩壊させ、飛鳥とミュエルを突き飛ばす。
 空中を舞う二人。ミュエルは体勢を強制的にねじってサシェを投げつけた。
 炸裂し、大型妖をのけぞらせる。
 水面へ落下――する寸前、ギリギリを飛行した大辻・想良(CL2001476)が二人を掴んで飛び上がった。
「大丈夫。ここさえしのげば、今のところは外へ出ないよ」
「うん、じゃあ……」
「いっしょにやるのよ!」
 想良は頷き、ミュエルの種子弾と飛鳥の水圧弾にのせるように空圧弾を乱射。
 全て被弾した大型妖はぶっくりとふくらみ、まるで水風船のように破裂した。
「助かったのよ。けどずっと抱えて飛んでたら……」
「大丈夫。駆けつけてるのは、わたしだけじゃないから」
 想良はそう言うと、空を視線でしめした。
 キラキラに包まれたイルカの集団が空を飛んでいる。
 彼らは次々に湖へと着水すると、自分たちに乗るように呼びかけてきた。
「また会ったねミュエルちゃん、それにみんな!」
「大変な事態だって聞いたからね。手を貸すよ、乗りな!」
「……うん!」
 飛鳥とミュエルはそれぞれイルカさんに飛び乗ると、再び妖たちへと立ち向かった。

 大量の手槍が空へと飛び上がり、弧を描き来る。
 守衛野 鈴鳴(CL2000222)は目を開き、翼を広げ、戦旗をばさりとはためかせた。
 存在しない大地を踏み鳴らし、架空の楽団を引き連れて旗を回したならば彼女の周囲の水面が無数の柱となって吹き上がる。
 水のヒールウォールに守られながら賀茂 たまき(CL2000994)は大きな護符を水面に浮かせて高速で滑っていた。
「頑張って雷獣さんを助けましょう、鈴鳴ちゃん!」
「はい……!」
 降り注ぐ槍のダメージを次々と打ち消していく水の壁。
 たまきは足下に巨大な護符を敷くと、蛇腹構造の手帳で右から左にラインを描いた。力を持った朱印がたまきを円形に囲み、力ある文字がたまきを覆って妖たちを撥ね飛ばしていく。
 そんな船を後ろから追尾してくるのは四つ足走行の大型妖だ。
 周囲に水の弾丸を作ると、船めがけて乱射してくる。
 鈴鳴とたまきが振り返り手帳と旗を翳すと、巨大な粘土の壁が生まれて弾丸を受け止めた。受け止めきれずに崩壊した壁の裏にはたまき。
 何重にも重ねて棒状に丸めた大型護符を野球バットのように構えていた。
「鈴鳴ちゃん、あわせてください!」
 たまきの声に応えて、鈴鳴もシンメトリーポーズで旗を構える。
 二人同時のスイング。
 凍って弾丸となった粘土のかけらが弾幕となって大型妖へと殺到する。
 そんな彼女たちとすれ違うようにスピードをあげる蘇我島 恭司(CL2001015)のボート。
 その先頭には柳 燐花(CL2000695)が身を屈めていた。
「燐ちゃん、落ちないように気をつけね」
「寒中水泳は避けたいですし、ね」
 ボートは大型妖へと直進。
 大型妖の放つ弾丸を燐花がジグザグに振り込んだ小太刀で打ちはじくと、恭司が術式発動の合図をかけた。
 燐花の背に触れる恭司の大きな手。ぬくもり。そして伝わるぴりりとした感覚。
 心臓の音を聞きながら、燐花は自らのエネルギーと恭司のエネルギーをあわせた斬撃を繰り出した。
 大型妖とその周囲で編隊を組んでいた妖たちへ、巨大な光の衝撃が浴びせられる。
 妖たちは一斉に上下真っ二つになった。
 が、すぐにボディを修復して船にかじりつく大型妖。
 大きく傾くボート。更に食いつこうとした妖の口に刀をねじ込む燐花。
「下がっていてください」
「ありがとう、凛ちゃん!」
 手製爆弾を妖の中にねじ込み、ボートの加速をかける恭司。
 爆発四散する妖を背に、恭司は天を突くようにのびる大蛇の妖を見上げた。
「おかげで、あれに集中できるよ」
 術式を組み上げ、大蛇めがけて解き放つ。

 頭が二つあるサメのような妖から逃げるように走るボート。
 諏訪 奈那美(CL2001411)はボートを操縦しながら、敵を阻害する霧を展開していく。
「良かれと思っての行動がこのような事態を引き起こすとは、知らなかったは言い訳ですね」
「うん、ボクたちにも責任の一端がある。だから――」
 四条・理央(CL2000070)は二色の護符をそれぞれ開いて手の中でぱたぱたと高速で折りたたんだ。折り紙の手裏剣が一瞬でできあがり、術式の力で変容していく。
 追尾してくるサメとその周囲で編隊を組む妖たち。
 彼らがボートへ追いつきそうになった所へ先んじて、理央は手裏剣を投擲。円形のウォーターカッターが妖を切断貫通。
 返す刀で放った手裏剣が炎のつぶてとなって拡散。妖をばらばらに爆散させていく。
 ボートの進行方向上に回り込む妖たち。
「バーにつかまってください!」
 強行突破のために奈那美が放った雷にしびれた隙に、相手を撥ね飛ばしながら突っ切っていく。
 衝撃に揺れるボート。
 その上でも平然と仁王立ちするのは天羽・テュール(CL2001432)と成瀬 翔(CL2000063)である。
「ここまでの妖が現われるとは……大魔道士テュールの出番ですね!」
 三角帽子をきゅっと半回転させると、テュールはどこからともなく抜き出した槍を床にどんと突き立てた。
「さあ、ボクの魔力、受け取ってください!」
 テュールの周囲にラクガキのような電流の魔方陣が無数に生まれ、その全てから激しい電撃が解き放たれた。
 サメ妖とその周囲の妖たちが次々にはじけていく。
 それでもタフに残ったサメ妖がボートに食らいつこうとしたその時。
 六色塗りの派手なボートがサメに横からの体当たりを仕掛けていった。
「これは――」
「待たせたな翔! 五行戦隊カクセイジャー、推参だぜ!」
 ざーちゃんとブラウンに操縦を任せ、カクセイジャーたちが周囲の妖の掃討を始める。
 翔は頷いて、カクセイパッドを取り出した。
「頼もしいぜ、みんなも、こいつもな!」
 二本指を筆に見立ててパッドに文字を描くと、立体的に投射された術式が巨大な爆弾となってサメ妖へと叩き込まれる。
 爆発四散するサメ妖。翔はカクセイジャーたちと共にサムズアップを交わした。

 湖は巨大な大蛇妖を中心にして、バラバラにR1~2の妖が散らばっている状態である。
 人里への進行をさまたげるために戦うミュエルたちのチームとは別に、頭をくじいて勢いを殺すべく大蛇を狙うチームが存在していた。
 その分強力な妖も多いために激戦区となるのだが……。
「うわ最悪! 俺充分カッコイイのにこれ以上男前ににならなくていいから!」
「水もしたたるか、馬鹿か。いや、馬鹿だったな」
「沖縄も今は寒いんだからさあ、風邪ひいたらどうすんのこれ」
「馬鹿は風邪などひかんだろう。そうでなくても頑丈なのが取り柄だろう?」
「引きこもりは身体弱くてかわいそうですねー!」
「なんだと……?」
 赤祢 維摩(CL2000884)と四月一日 四月二日(CL2000588)はいつもと全く変わらないテンションで妖の群れをボートで駆け抜けると、互いの雷獣や脣星落霜でもって妖たちを蹴散らしていく。
「ふん、百薬の長で殺菌されておけ」
「いいね、できれば泡盛で! つまみはお魚かなっと!」
「魚は飽きた。食うならアグーだな」
「おつまみ決定!」
 そういいつつも大型の妖に囲まれる二人。
 人型の妖にボートをがしりと押さえつけられ、後方からはワニのような妖が大きな口を開く。
 ボートを噛み砕かんとしたその時、横から飛び込んだ氷門・有為(CL2000042)の蹴りが炸裂した。
 人型の頭部を蹴り飛ばし、空中で反転してから水面へと着地。
 脚部に接続した斧をスケート靴のように変形させ、ジェット噴射によって加速をかけると妖の胴体を拳によってぶち抜いていく。
 その一方で、獅子神・玲(CL2001261)がワニ妖の上に飛び乗って顎をわしっと掴んで強制的に引き開けていた。
「折角沖縄に来たのにこれじゃあおちおちご飯も食べられないね。サーターアンダギーたべたーいな、っと!」
 回復術式を周囲にまき散らすと、そのままワニ妖から離脱。
 水面をてけてけ走って距離をとった。
 彼女を追いかけようと振り返るワニ妖だが、空中に飛び上がった有為に気づいた。気づいたときにはもう遅い。
 変形した斧による踵落としによって頭を左右真っ二つに切断された。
 吹き上がる水しぶき。
 そんな光景を背に、玲はここではないどこかへと思いをはせる。
「沙織は大丈夫かな。ヒノマル陸軍相手に、無茶してないといいけど……」

 家族や保護対象である沖縄市民を守るため、そして戦争対象であるファイヴに予定外の戦死者を出さないためにヒノマル陸軍もこの戦いに加わっている。
 湖に配置されているのは船幽霊のボート操縦技術によって支えられた少数精鋭の第一覚醒隊。そして、この戦いに志願した水芭忍軍である。
「あ、この前の人だ。やっほー」
「くっ……」
 鏡香に手を振られ、水芭ハヤテは無言で目をそらした。
 ゴーグルをしっかりとかけ直し、妖を次々と切り捨てていく。
 狙うはこのエリアを統括しているであろう大蛇の妖である。
 無謀にも突撃をはかるハヤテ。だが、大蛇妖は彼をひとにらみすると、巨大な波を起こして彼らを薙ぎ払った。
 妖の群れの中へと放り込まれるハヤテ。
 一斉に振りかざされる槍。
 死を覚悟するようなその刹那、どこからともなく現われた炎の波が妖を一掃していく。
「この暴虐な炎……貴様か、鈴駆ありす!」
「何で判断してるのよ」
 振り返ると、一人用ボートに鈴駆・ありす(CL2001269)が立っていた。
 ありすは燃える手を振り払うと、ほどけかかったマフラーを巻き直した。
「なれ合うつもりはないけど、アンタ達なら助けてあげる」
「フン、なれ合いなど死んでもあり得ん。だが貴様を倒すのはこの俺だ。こんな場所で潰えるなど認めん!」
「馬鹿にしないで。余裕よ」
「なになに何の話?」
 ボートによせてきた鏡香に視線だけで応えて、ありすは再び炎を燃え上がらせた。
「さあ。どんどんいくわよ、ゆる――!」
 炎の柱が大蛇を飲み込んでいく。
 炎に一旦呑まれた大蛇は自らの頭を複数に分裂させ、水の塊となって次々と突っ込んでくる。
 水といえど重量を持った物体。これが塊となって叩き付けられれば自動車がスクラップ板と化すだろう。
 だがそんな中を突き抜ける一席のボート。
 水面をあろうことかドリフトすると、先端に立った阿久津 ほのか(CL2001276)が頭の後ろで両手首を組むようなポーズをとった。
「そ~れ、ぷれっしゃー!」
 ほのかから解き放たれた圧力が大蛇の首をへし折っていく。
 折れた首から飛び出した巨大な半魚人妖がボートへ飛び乗るが、船から伸びた幽霊の腕が足下を拘束。ほのかはその隙に零距離まで詰めると、強烈な掌底を叩き込んでやった。
 腹に穴をあける半魚人妖。
 ボートの頂点から飛んだ忍日が宙返りからの空手チョップで半魚人妖を真っ二つに切り裂く。
「お見事ぉ」
「そちらこそ~」
 ぱたぱたと手を振り合うほのかと忍日。
「今です!」
「全力でいくよっ」
 ボートの船室から身を乗り出したラーラ・ビスコッティ(CL2001080)と向日葵 御菓子(CL2000429)がそれぞれ同時に術式を発動。
 空中に描き出された五線譜が円形の魔方陣となり、熱湯の竜が大蛇へと絡みついていく。
 ねじ切られていく大蛇の頭。
 だが別の頭が空へ向けて水流をはき出し、飛び散ったつぶての全てが槍となって降り注いだ。
「回避回避!」
 船体を叩く御菓子に応じて、軍服を着た船幽霊がハンドルをぐいんと捻った。
 ありえない加速とターンで直撃をふせぐが、降り注ぐ槍の全てを避けきるのは難しい。
 御菓子はあえて船外へ飛び出し、楽器演奏を開始。
 突き刺さる槍が片っ端から水へとかえっていく。
「反撃です――良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を、イオ・ブルチャーレ!」
 大量に生まれた魔方陣から次々と炎の弾を乱射するラーラ。
 弾幕に紛れるように突進する複数のボート。
 それぞれの先頭には燐花とたまき、ハヤテと鏡香、有為とカクセイレッド、そして神々楽 黄泉(CL2001332)がスタンバイしていた。
 対するは水面を破って現われた無数の妖たち。
 パッドに文字を書き付ける翔。
「いくぜ皆、一斉砲撃! 活路を開く!」
「一斉だって、一緒にやっちゃう?」
「黙って盾にでもなっていろ」
 維摩と四月二日もそれに続いて術式を発動。
「これは我々の手落ち。始末は――」
 奈那美が護符を握ってゆるりと舞うと、雷が巨大な槍となって整形されていく。
 恭司がそこへ自らの術式をねじ込んだ。
「燐ちゃん、気をつけてね。あと一覚体のみんな、よろしく」
 腕を振り上げ、振り下ろす。
 すると槍は妖の群れへと叩き込まれ、光の爆発となって広がった。
 前衛を支えていた大型の妖たちがぶくぶくと分解されて消えていく。
 中衛エリアからサメ妖やワニ妖といった連中がざばりと浮き上がる。
「第二射、用意――!」
 理央が手の中で護符をツルように高速で折りたたむと、空中に放り投げた。
「ボクのとっておきの魔力、あずけますよ!」
「みんなの力を合わせれば、あのくらい――」
 テュールは杖で空をぐるりと描き、電撃の魔方陣を形成していく。
 そこへ重ねるように巨大な炎の魔方陣を描いていくラーラ。そしてレッド。
 ミュエルは手の中でぎゅっと果実を握りつぶすと、魔方陣の中に放り投げた。
 巨大な怪鳥が形成されていく。
 その全てを覆い尽くさんばかりに、ありすが両腕から炎を激しく燃え上がらせる。
「燃やし尽くすわ、なにもかも」
 両手を前へ突き出すやいなや、巨大な炎の鳥が妖の群れを撫でるように焼き尽くしていく。
 その余波でばきばきとおれていく大蛇の首たち。
 だがただで倒れるような相手ではない。
 大蛇の首を直接叩き付けるかのように、全てのボートめがけて突っ込んで来るでは無いか。
「きますっ、衝撃にそなえて……!」
 想良は空中に飛び上がり、回復術式を展開。
 同じく鈴鳴も術式を展開して回復弾幕を放った。
 首の直撃を一回だけ無力化する。
 第二波が来る。ボートが破壊され、放り出された御菓子をイルカさんたちがキャッチ。
「まだ終わってないよ!」
「もちろん――!」
「とつげきのチャンスなのよ!」
 飛鳥がステッキにおまじないを唱えると、御菓子の演奏に合わせて再びの回復弾幕が張られていく。
 水面に叩き付けられた大蛇の首。
 天高く吹き上がる水しぶき。
 それを道筋として、鏡香と有為がずんと足を踏み出した。
 両者、脚部機構からエネルギーを全力噴射。ほのかの両手を掴んでスリングショットの要領で放り出しつつ水流の道を駆け上がっていく。
 第三波として叩き付けられようとしていた大蛇の首を有為のヒートホークと鏡香のランスがそれぞれ切り裂いていき、一拍遅れて飛び込んだハヤテとほのかのショルダータックルでへし折った。
 折れたひょうしにさがってきた首を踏みつけ、水流の道を強引に突き進んでいくボートが一隻。船幽霊杓子オボロの運転するボートである。
 ボートの先頭にはそれぞれたまき、燐花、冷、黄泉、忍日がバーにつかまる形で構えている。
「チャンスは一瞬だけです」
「それだけあれば、じゅうぶん」
 黄泉が目をギラリと光らせた。
「たのんだよー」
 冷が蒼い光をつむぎだし、彼らの背に光のマントを形成していく。
 勢い余って空中へと飛び上がるボート。
 大蛇の首が大きく口を開く。
 ピンポイントの激流が螺旋状の槍となって放たれるが、たまきはリュックからポスター巻きした大量に護符を引っ張り出して一斉開放。
 巨大な壁が水流と相殺し、その裏から燐花と忍日が弾丸のごとく飛び出した。
 すれ違いざまに八斬まとめて叩き込み、大蛇の首をジグザグに崩壊させていく。
「ゆけぇ、片目の」
 陽光に重なるように。
 天空より。
 黄泉は棍棒を振り上げていた。
「かいしんのいちげきーぃ」
 雷が落ちるように、流星が降るように、黄泉の打撃が大蛇の額に叩き込まれる。
 大蛇の額に六角形の障壁が生まれ黄泉を拒絶する。
「一歩足りんか……っ!」
 珍しく焦りの様子を見せる忍日。
 だが、彼の様子はすぐに変わった。
 なぜならば。
「悪い子は、おしおき」
 黄泉の包帯によって隠された右目がまばゆく、どこまばもまばゆく、太陽のごとく黄金に輝いたのだ。
 はじけ飛ぶようにほどける包帯。
 彼女の棍棒が障壁の拒絶すらも引き裂くようにごりごりと自らを削り、ゆがみ、さらには相手のエネルギーを奪って巨大な斧へと変容していく。
 ちいさく、呟く。
「だいせつだぁん」
 途端に重力が狂った。
 大蛇が真っ二つに引き裂かれ、湖が真っ二つに切り裂かれ、底の大地すらもかち割れていく。
 が、大蛇の首はまだもう一本。
 よりもどしによって水中にのこされた黄泉を狙うように、水中に潜んでいた最後の頭が黄泉へと食らいついてきたのだ。
 斧をつっかえるようにして顎を固定。
 押し込まれそうにになる衝撃を、黄泉は不可思議な力で押し止めた。まるで見えない誰かが彼女の背を押しているかのようだった。
 斧の形状が再び変容していく。
 まるでずっと昔から彼女の手にあったかのように深くなじみ、大樹を巡る水がごとく彼女と斧の間にエネルギーラインが形成されていく。
 記憶のはじっこにある、いつかたどり着くべき一打が、今この瞬間だけ許される。
「おかあさんの、いちげき」
 光が湖の底から吹き上がり、大蛇が天空へと跳ね上げられ、粉々に散っていく。
 水面へと浮き上がってきた黄泉は、そのままくったりと水面に膝をついた。
 たまきがそっと寄り添い、手元のたすき布で黄泉の片目を覆ってやる。
 砕けた妖の滴が雨となって降り注ぐ。
 大蛇の力をたよりにしていたからだろうか、周囲の妖たちもたちまちのうちに溶解し、湖へと消えていく。
 晴れた陽光が、黄泉たちを照らした。

●与那覇岳攻防戦
 動物たちが妖化し、群れの脅威となって山の斜面を駆け下りていく。
 まるで雪崩のように進む黒い群衆を、人々は止めるすべすら持たなかった。つい一年前までは。
「妖、止める。盾護、頑張る……!」
 両足を大地に突っ張り、イノシシ妖の突撃を真正面から受け止める岩倉・盾護(CL2000549)。
 常人なら挽肉と化していてもおかしくない衝撃をうけ、しかし盾護は折れること無く、どころか数歩先へと押し込んでいく。
 そんな彼を押し流すように、大量のイノシシが飛びかかっているが、しかし。
「手伝うよ。ここを抜かれるわけには、行かないもんね!」
 栗落花 渚(CL2001360)が盾護と共にタックルをかけ、押し切ろうとするイノシシの軍勢にさらなるつっぱりをかけた。
「気力も少ないし広い回復だって得意じゃ無いけど、私にできることも限られてるけど……だから、ここばっかりはって磨いてきたんだよ。インファイトディフェンスは、私の間合い!」
 拳を繰り出す渚。
 しかし攻撃のためではない。自らのエネルギーを波紋状に伝播させ、仲間の体力を引き上げるための拳である。
 盾護と渚がイノシシの軍勢を押し込み、勢いの余った彼らは上方向へと跳ね上がった。
「これだけいると壮観ですねえ、ラピス!」
 片桐・美久(CL2001026)は刀をさっぱりと抜くと、盾護や渚の肩を踏み台にしてイノシシの群れへと飛び込んだ。
 跳ね上がったイノシシを次々に切り裂いては駆け抜け、樹幹を蹴って反転。
「どれだけいてもやることは一つです! 露払いは任せて貰いますよ!」
 イノシシの背に飛び乗り、頭めがけて刀を叩き付ける。
 衝撃が四方へ伸び、周囲のイノシシが草花もろとも吹き飛んでいく。
 彼の衝撃を耐え、横から飛びかかってくるサル妖。
 拳が岩石のように硬く大きく膨らんだサルは美久を横合いから殴り飛ばすが、空中で七海 灯(CL2000579)にキャッチされた。
「大丈夫ですか」
「ぜんぜん平気です。まだまだ行けますよ! 小さいからって舐められたら困りますからね!」
 二人共に草の上を転がる。
 サル妖が木の枝に飛び乗り、こちらを見下ろしている。
 灯は鎖分銅を長く持ち、ぐるぐると回し始める。
 一方でサルへと襲いかかる美久。
 枝から飛び降り、回転をかけて殴りかかってくる。
 剣で受け止めるが、あまりに重い。体勢が傾きそうになった所で、横から分銅が放たれた。
 美久を蹴って飛び退くサル。分銅は樹枝に巻き付き、一方で灯が樹幹を走るようにダッシュを開始。
 サル妖に追いつくと、分裂させた鎌で斬りかかる。サル妖の腕を切断――すると同時に鎖を巻き付けた枝が折れて灯もまたバランスを崩した。
 技能スキルに代用したワイヤーアクションのまねごとは流石に難しかったようだ。だが元々の技量というものもある。灯はすぐにバランスを整えて着地。
 腕を失ってもなお殴りかかってくるサル妖を蹴り飛ばした。
 対して、飛んできたサル妖を真っ二つに切断する美久。
 灯はくずれゆく死体を確認して小さく頷いた。
「これだけの群衆です。やはり指揮を中継する存在がいましたね」
「ということは、これで終わりじゃないですよね」
「もちろん。どんどん倒していきますよ」

 与那覇岳にも例外なくヒノマル陸軍の兵士が送り込まれている。
 中でも死亡によるロストの心配が少ない熟練のチームは激戦区に投入されていた。
 という前振りと共に。
「ギャー! 山の妖怪がー!」
 神野 美咲(CL2001379)は仲間と思いっきりはぐれて山のどっかに迷い込んでいた。
 茂みからぬっと現われるのっぺらぼうや頭だけ以上に大きい集団や枝からぶら下がって首を無限界点させる婦女子などから逃げ回り、いつのまにかの大遭難である。
「な、なんだこいつらは。妖じゃないのは確かだが……」
「ヒノマル陸軍古妖隊。軍事訓練を受けた古妖の軍隊だ。例外も混じっているが」
 ばさりと翼を羽ばたかせ、軍服を着た天狗『風車』が降り立つ。
「お、おお……予想外に大変な連中だが、たすかった」
「いや、助かってはいない」
 ザザッと周囲の茂みから大量のシカやクマといった妖が飛び出してくる。
 風車は刀を抜いて舌打ちした。
「防衛網の穴になりそうな場所だったのでな。妖が集まってきている」
「ギャー!」
 水の塊をべしべし投げつける美咲。
 構わずいっせーのせで飛びかかってくる妖の群れ――に先んじて。
「お待たせしました」
 土をえぐるほどのスピードで駆けつけた上月・里桜(CL2001274)が、即座に地面を複雑に隆起させて妖をはねのけた。
 どうやら風車も里桜も考えていることは同じだったようで、互いに連絡を取り合ってこの場所に仲間を集めていたのだ。
 その証拠に、里桜より一拍遅れてとんでもない速度で爆走してくる橡・槐(CL2000732)の姿があった。
 特に必要も無いのに不安定な山岳地帯を車椅子でがんがん突っ切っていた。
 これ幸いにと妖たちが飛びかかるが、なぜか目測を誤って互いに頭をぶつけたりその辺につまづいて転倒したり自ら撥ねられたりと大混乱の様子である。
 一方の槐はなんか途中から面倒くさくなったのか車椅子を捨てて自足で走り、進路を妨害しようとする妖をおもむろに蹴飛ばしつつ駆けつけた。
「仲間が必要らしいので、手近なひとを連れてきました」
「連れてこられたんだけど、なに」
 小脇に抱えられた南条 棄々(CL2000459)が顔を上げる。
 無理矢理この場を突破しようとした妖たちが更に茂みの奥から飛び出してくる。
「ああ、そういうこと」
 何もかもが嫌という顔をして、棄々は地面に降り立った。
 空から落ちてきた二台のチェーンソーをそれぞれキャッチし、舌打ちする。
「電波障害を尚したと思ったらクソほど沸いてきて。本当、胸くそ悪い世の中だわ」
 飛びかかってくる野犬を真正面から切断。
 横から飛びかかる巨大なリスに岩石を飛ばして叩き付け、落ちた所を思い切り踏みつぶす。
 巨大化した鳥が上空から飛来するが、素早く空に無数の矢を放った風車が迎撃。
 その間に謎の空気を展開した槐によって鳥や犬たちが荒れ狂い、意味も分からず互いにぶつかり合っているところへ里桜が次々に隆神槍を叩き込んでいく。
 やがて妖の波が収まった所で、風車は空へと飛び上がった。
「次へ行く。その子供は任せたぞ」
「こっ、こどもとかゆーな!」
 腕をぐるぐるやる美咲をわしっと掴み、槐は車いすに座り直した。
「殺し合うために今は協力する。なんとも奇妙な共闘ですが、いかにもあやしい政府の支社とやらよりまだマシなのですよ」

 森の上空ではヒノマル天狗と呼ばれる飛行部隊となんかよくわからない空飛ぶ妖怪の群れが鳥妖たちと激戦を繰り広げている。
 そんな中に麻弓 紡(CL2000623)はいた。
 羽根を矢のように飛ばしてくる鳥妖からスピンをかけて回避。身を反転させてスリングショットを構えると、空圧弾で迎撃しつつ更に飛ぶ。
 送受心で会話しているので特に意味は無いが、なんとなくで耳に手をあてる。
「殿ー、陸の分布は伝わった? ちゃんと仕事しないと島唄酒場はなしだからねー」
『わかってるけど、わかってるけど沖縄寒いんだもん! アタリマンに騙された! ビーチでオリオンのビールちゅーちゅーできると思ったのに!』
「悪酔いするよー。あ、一旦陸戻るー」
 紡は翼をあえて畳んで急降下をかけると、陸で戦っていた志賀 行成(CL2000352)や緒形 逝(CL2000156)の間を通り抜けつつ辻ヒール。
 彼らら気づく間もなく再び枝はの間を突き抜けて上昇すると、プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)のもとへと降り立った。
「ちゃんとやってるー?」
「フフ、かつてないほどの余だよ」
 プリンスは送受心・改で百メートル圏内の仲間と通信ととりつつバランスよく戦力を配分していた。
 与那覇岳は広大で妖も人里方面を目指しているとはいえなかなかにバラけている。
 統率能力が低いがゆえのバラけかただが、対応する方も楽では無い。たまに意味のわらからない方向へ流れていく妖もいるので、実際に見て確かめるしかないのだ。
 というわけで紡を衛星にして、プリンスがその情報を中継するという作戦である。
「島唄酒場いきたい。おばあがめっちゃ歳くってるとこいきたい」
「そんなことより殿ー、うしろー」
 背後の茂みを突き破って飛び出すクマ妖。
 紡の放った補強術を受け、プリンスの外骨格が激しく蒸気を噴き出す。
 振り向きざまに繰り出したハンマーアタックが熊妖を打ち返し、樹木をへし折って飛ばした。
 飛んだクマ妖は地面をバウンドし、ちょうどその場にいた谷崎・結唯(CL2000305)が刀を突き刺してトドメをさす。
「ちっ……」
 無言のまま周囲の妖を次々に処理していく。
 そこへ、樹木ごとぶった切りながら緒形 逝(CL2000156)が現われた。
「おやあ? なんだかさっきから身体が軽いぞう? 誰かに辻ヒールでもされたかな」
 こきこきと首をならして、刀をまるで野球のバットよろしくぶん回す。
「ああ悪食や、たべたいのかね。良いぞう。種類は豊富に有るようだし、片っ端から腹に収まって貰おう」
 かたかたと笑ったようにヘルメットをゆらしてのけぞる逝。
 周囲から野犬の妖が一斉に飛び出してくるが、彼らは互いを無視するかのようにジグザグに飛び回り、妖たちを刻んでいく。
 その一方。
 樹幹にナイフを立てて駆け上り、太い枝の上によじ登る阿久津 亮平(CL2000328)。
 上空で旋回している鳥妖にキッと目を向けた。
 相手もまた、亮平に狙いをつける。
 編隊を組み、大きく開いて襲いかかってくる妖たち。
 対して亮平はナイフを逆手に繰り出して斬撃を飛ばし鳥妖を数体いっぺんに切断。
 後方から回り込んできた妖にもピボットターンで反転して斬撃。
 相手の攻撃が届くより先に切り落とす。
 そんな亮平を地上から狙おうと走るサル妖の群れ。
 木の枝を伝って飛びかかろう――とした所で、志賀 行成(CL2000352)が薙刀でもってまとめてたたき伏せた。
「亮平さんは対空攻撃を対応してくれている。ならば、私はこちらを確実に仕留めていこう」
 ぐるんと薙刀を回し、後方から攻める妖を薙ぎ払う。
 さらには地面に刃を立て、ポールに見立てて回し蹴りを繰り出した。
 強烈な蹴りに飛ばされた妖が樹幹にげきとつし、衝撃は樹幹を通り抜けてすっぱりと切断していく。
 くずれて倒れる樹木。
「これで、暫く中心部も戦いやすくなるだろう」

 木々の間を駆け抜けるエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)。
 彼女を追いかけるように走る野犬の群れ。
 エメレンツィアはハイヒールパンプスで樹木を駆け上がると、上下反転したまま相手の頭上をとり術式を発動。
 彼女を中心に現われた無数の水流が螺旋を描き、野犬たちを大地ごと貫いていく。
 くるんと身をひるがえし、地に手をつけて着地するエメレンツィア。
 振り向き、手を翳す。
 背後に、いつのまにか、弓を構えたサングラスの男がいたのだ。
 第三覚醒隊、八幡である。
 彼の放った矢は途中で無数に分裂。エメレンツィアだけを避けてその背後の空から飛来する大量の鳥妖を貫いた。
 一方でエメレンツィアの起こした水流が八幡の背を狙うシカ妖の集団を押しのける。
「急に武器を向けるのは、驚くからやめてちょうだい」
「おお、物騒物騒」
「二人ともあぶなかったの」
 しゅたっと二人のそばに降り立つ瀬織津・鈴鹿(CL2001285)。
 手早く術式を組むと、二人まとめて回復していく。
「おや、敵を回復してしまっていいんですかな? お嬢さん」
「誰かを守れる人は善人で、そういうひとこそ助けてあげなさいって父様と母様はいってたの。だから、一緒に戦うの」
 山中の妖は数とタフネスが強みのようで、倒したそばから起き上がってくる。
 鈴鹿は新たな術式を練りながら妖たちをにらみ付けた。
「だから一緒に戦うの。それで……終わったら、褒めて欲しいの」
「今からでも褒めますぞ。おお、いいこいいこ」
 頭をひたすら撫でくりする八幡。なかなか無礼なやつだが、エメレンツィアは不思議と責めるつもりにはなれなかった。
「それにしても……いくら結界が崩壊したからといって、これほどの妖が急に発生するなんて普通じゃないわね」

「Life is as tedious as a twice-told tale……万屋どのは、どうか?」
 華神 刹那(CL2001250)は大地に立ち、刀をするすると抜く。
「あらあら、気持ちはわかるけど、ねん♪」
 魂行 輪廻(CL2000534)は大地に立ち、刀をぬるぬると抜く。
 二人は無数の妖たちに囲まれていた。
 人を殺すことだけを目的とした存在が赤い目をらんらんと光らせている。
 だというのに、二人はそろって瞑目した。
「善人ぶるのも飽いた。そろそろ潮時やもしれぬて、見切りをつける前に軽く発散しておくか」
「長く自分を偽っていると、偽物の自分にたべられちゃうものねん。今日の私は、少し残酷よ」
 目を開く。
 輪廻の瞳は明けた東の空の如く。
 刹那の瞳は暮れる西の空の如く。
 輝きが漏れ、そして、光は軌跡の線となった。
 木々の間をジグザグに走る線。
 大地をざくざくとえぐる線。
 樹幹を跳ねて空を縦横無尽に駆け回る線。
 その線のゆきさきで、輪廻は刀を振り抜いた。
 一拍遅れ、軌道上の全ての妖が真っ二つに分かれていく。
 一方で木々を強引に突き抜けて大地にまっすぐに伸びる線。大樹を貫いてカーブし、更にまっすぐに、再びカーブしてまっすぐに突き進む線の至る先で、刹那が踵でブレーキをかけた。
 進路上にあった全ての樹木と妖が連鎖爆発でも起こすように砕け散っていく。
 鞘に刀を収める刹那。
 巨大なシカ妖が木々をなぎ倒して突撃するが、僅かに抜いた刀身だけで強固な角を押し止めた。
 リボンのように薄い刀身を閃かせた輪廻がシカ妖の横を通り過ぎる。
 それだけで妖はサイコロステーキサイズまで切断された。
 輪廻は泥のように笑った。
「八つ当たりに、付き合ってもらうわよ。あやかしども」
 刹那は彼女に背を向ける。
「背に興味はなし。任せた」
「私も、興味ないわ」
 二人は背を向けあい、同時に走り出した。
 輪廻は自らの周囲に鋼の軌跡を描きながら馬の首をねじ切り牛の肝を引きずり出し虎の牙をへし折りウサギの歯を引き抜く蛇を握りつぶし羊をそぎ落とし猿の四肢を千切り鳥の首を掴んで犬の口にねじ込んで粉砕した。
 一方で刹那は二十体のイノシシを一息で葬り、三十体の鳥を一手で墜とし、四十体の猿を一瞬で爆砕した。
 二人は木々をなぎ倒し、妖を端から順に切り刻み、いつまでもいつまでも、山から妖が一匹残らず消えるまで妖を殺し続けた。
 かつて妖が人類の地獄となった日のように。
 彼女たちは今、妖の地獄と成りはてた。

 輪廻や刹那が森の周囲をなぞるように蹂躙していくさなか、ヒノマル陸軍第六覚醒隊の威徳は無数に突撃してくる熊の妖を端から順に殴り倒していた。
 拳を振り抜き、呼びかける。
「好機、撃て!」
「動物たちに恨みはありませんが――」
 秋津洲 いのり(CL2000268)は杖を地面に突き立てると、虹色の水晶をまばやく輝かせた。
「妖を待ちに出すわけには参りません。この力は、人々を守るための力なのですから!」
 輝きは天空へと舞い上がり、爆発し無数の流星となって妖たちに降り注ぐ。
「あなた方の命を奪うのが理不尽なのはわかっております。けれど、町を守るため、人々を守るため――」
「否、迷う必要などないぞ」
 手を合わせるいのりに、威徳はゆっくりと振り向いた。まるでピエロのような仮面をつけてはいるが、その目と口元は苦い悲しみを帯びていた。
「我々が戦っているのは妖。愛を持って戦う者ならば……見よ」
 いのりがはっとして顔を上げると、妖化から開放された熊やリスたちがむくりと起き上がっては逃げていく。
「貴殿の力。深い敬意に値する」
「……ありがとうございます」
 いのりは小さく頷いて、そして杖を空に掲げた。
 雷の力が空へと解き放たれる。

 山の中心に近づくにつれ、妖の量は増えていく。
 ランク2の妖も比較的多く現われるようになり、通常であればこれ以上の進行を諦めて撤退するような場面なのだが……。
「こんなところで、諦めてたまるかっ!」
 鯨塚 百(CL2000332)は森の間を駆ける巨大なイノシシに正面から殴りかかると、自らの身体を大きく燃え上がらせた。
 バンカーバスターがイノシシの額と激突し、衝撃が周囲の草花を吹き飛ばしていく。
「オイラだって、まだまだ戦えるぜ! バンカーバスター!」
 気合いと共に、百のバンカーバスターから鋼鉄の杭が飛び出した。
 イノシシの額を貫く杭。
 と同時に、後ろから猛然と突っ走ってきた新咎 罪次(CL2001224)が大ジャンプ。
 血のついた鉄パイプを思い切りイノシシへ叩き付けた。
 頭を砕かれ、ずしんと倒れるイノシシ。
 足で踏んづけると、罪次はぎらぎらと笑った。
「いっぱいいるぅ。あはは、殴っても殴ってもわいてきてやんの! これぜんぶ殴っていいのー?」
 彼の目は戦場をぐるりと見回しているようだが、しかしどこも見てはいなかった。
 暴力という欲望に突き動かされ、彼は妖を見るたびに殴りかかるマシーンと化していた。
「どんだけチカラ入れてもいいし、ヒトみたいにすぐ死んじゃわないし…さいこーじゃん! だいじょーぶ。苦しくないよーに、すぐ死ねるとこ、ちゃんと狙ってあげるからさ!」
 巨大熊妖が現われたのは、まさにそんなタイミングだった。
 周囲の木々を、まるで鎌で牧草を刈るがごとくへし折っていく。
「うおっ!?」
 頭を庇うように飛び退く百たち。
 追撃がおこるその直前。
「スターップ!」
 ダッシュからのドロップキックでもって巨大熊へと飛びかかる一人の女。
 リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)である。
 殴りかかろうとした巨大熊だが、リーネのあまりの勢いによってのけぞった。
 どべんと地面に倒れたリーネはすぐさま起き上がり、百たちに腕を振る。
「ここは任せて一旦下がるのデス!」
「こいつは引き受けた」
 青銅の剣をかついで現われる葦原 赤貴(CL2001019)。
 リーネはファイティングポーズをとって、二人の間に立ち塞がった。
「こんな時になんですけど、赤貴君」
「なんだ」
「この前言ったこと、変な風に受け取ってマセンカ?」
「……」
 否定も肯定もしない赤貴に、リーネは妙な顔をした。
「いま赤貴君を放っておくと、取り返しの付かないことがおきソウナ……ナントイウカ……」
「それは。殺しておくべき敵が世にはびこりすぎているからだろうな。花の芽を踏む輩ばかりで、嫌になる」
 青銅の剣がふるえ、周囲の大気ごと揺らしていく。
「は、早まってはイケマセンヨ?」
 赤貴は黙って剣を振ると、憎しみの炎が妖たちへと襲いかかっていく。
 炎を突き抜けて襲いかかる巨大熊。
 リーネは両腕ガードで赤貴を庇うと、ウィンクをして笑った。
「ダイジョウブ。赤貴君もみんなも、私がシッカリ守ってミセマスカラ!」

 巨大熊補足の情報はプリンスたちを通じてたちまち仲間たちへと伝播した。
 そうなれば当然、敵将首を取らんと向かうチームも生まれてくる。
 その一つが……。
「おーおーよく沸いたもんやな。お山の掃除、やってやろうやん」
 切裂 ジャック(CL2001403)は立ち塞がる妖たちへと炎を放つと、返す刀で味方へ回復の雨を降らせていった。
 暴れ馬が猛烈なスピードで突っ込んでくるが、
 間に割り込んだ酒々井・千歳(CL2000407)が静かに剣を抜いた。
「妖といえど首を落とせば死ぬだろう。さもなくば、四肢を落とせば動きは鈍る。下級のたぐいは、だが」
「はあああああああんにーさまああああああああ!」
 馬と千歳がぶつかり合う寸前。横からドリルスピンで突っ込んできた酒々井 数多(CL2000149)が馬を瞬殺した。なんかミキサーにかけた挽肉みたいになった。
「にーさま出陣とかかっこいいいいい! ああああん! にーさまは私が護るううううう!」
「前に出た方がかっこいいと思う」
「デジマ!? かずたがんばるー!」
 ほっぺに手を当ててこしをくねくねさせ、照れ隠しみたく腕を振り回す数多。
 それだけで横から不意打ちをしかけた猿妖が失敗したミネストローネみたくなった。
「絶好調だね」
「ハイパー最強数多ちゃんだもん☆♪」
「その語尾どうやって発音しとんの」
 ジャックが両手ガスバーナー状態にして妖バーベキューしている横で、千歳がさくさくと妖をバラしていく。
 その様子を見て、水瀬 冬佳(CL2000762)はこくりと頷いた。
「酒々井君に剣の覚えがあるというのは本当だったのですね」
 小太刀を握り、後方から追いすがる妖に術式性の泡を放って薙ぎ払った。
「ときに、政府の使者というアズマコウジとは何者なのでしょう。音の響きから財前の息子を思わせますが……まさか」
「そんな話が? 初耳だな」
「俺も知らんけど」
「噂ですよ。緊急時代だったので小耳に挟んだ程度ですが。政治の人間となると裏取りは難しいでしょうか……」
 横から飛び込んでくるサル妖に小太刀を突き立て、素早く三分割する冬佳。
「ともかく、今は目の前のことと、ですね」
「うん、それじゃあ行くとしようか。冬佳さん、ジャックくん」
 四人はそれぞれ頷きあい、妖の群れを突き破っていく。

 一方、冬佳たちとは反対側から巨大熊を目指すチームがあった。
 黒く艶めいた薙刀が、枝葉をひゅんひゅんと割いて舞う。
 そのたびに周囲を飛び交う蝶や蜂の妖が切断され、はらはらと散っていく。
「ここはまさしく日本の岐路じゃ。本州が無事でも沖縄が焦土となっては意味が無い。ゆえに――」
 妖を切り裂き、見栄をきる檜山 樹香(CL2000141)。
「共にゆこうぞ、濡烏」
「勝手に行ってんじゃねえよ、やるのは俺様だ! どけ雑魚ども!」
 妖を乱暴に切断しては駆け抜ける諏訪 刀嗣(CL2000002)。
 その後ろから三人そろって妖の群れを切り開いていく少年たちがある。
「この先におっきい熊の妖がいるんだよね! 楽しみだなー!」
 シカの首だけを的確に切り落としてニコニコ笑う御影・きせき(CL2001110)。
「よっし、誰があいつを仕留めるか競争するか!」
 電撃を帯びた刀を振り回し、鳥妖たちの襲撃を風の如くかわしていく工藤・奏空(CL2000955)。
「空手家として熊殺しは譲れねえ。お先に失礼!」
 鹿ノ島・遥(CL2000227)は祈るように手のひらを立てると、ロケットの発射台のように見立ててイノシシ妖の脳天へと叩き込んだ。叩き込んだというかぶち抜いて爆砕させた。
「何よあんたたち、沖縄がピンチでへこんでるかと思ったら楽しそうじゃない」
 妖を切り捨て、金髪にツインテールをロールした女が現われた。
 彼女をカバーするように長身の男が金属の名刺を鳥妖へと撃墜する。
「どうも、皆さん。一足遅れましたが、援護に参りました」
 眉を上げる樹香。
「おお、蓮華と絹笠ではないか」
「この前ぶりね、濡烏、失恋慕、おっぱい天国」
「その呼び方やめね?」
「うっさいわね、ちんこもぎ取るわよ」
 蓮華は堂々と舌打ちすると、刀についた血を振り払った。
「あとダーリンどこよ」
「通信網はつながって折るが位置はわからん。山は広いからのう」
「ファック! またすれ違ってる! いつになったら婚姻届にサインすんのよ!」
「あいつ日本国籍ないから意味ないとおもうけど」
「ケツの穴増やすわよ」
「やめて」
 尻を押さえて震える遥。
 蓮華はくるりと背を向けると、刀を担いで言った。
「とにかく、ここはアタシらが引き受けるから。ラスボスとやらをぶっ殺してきなさいよ」
「……ヘッ」
 刀嗣は歪むように笑うと、蓮華に背を向け、走り出した。

 熊のパンチによって吹き飛ぶリーネと赤貴。
 無数の樹木をなぎ倒し、崖を転がり落ちるように山道へと飛び出した。
 アスファルト舗装された道路へと落下するリーネ。後から落ちてきた赤貴をがしりとキャッチすると、そのまま転がって追撃を逃れた。
 飛び降りてきた巨大熊がアスファルトの地面を殴りつけ、ダイナマイト爆破のように道路を粉砕するからだ。
「おいおい、こりゃ熊ってレベルじゃねーぞ」
 その場に駆けつけた田場 義高(CL2001151)、リーネたちを後ろに逃がしつつ斧を構えた。
「けど熊殺しは夢というか使命というか……とにかく、こいつはここでやっつけないと大変なことになります!」
 同じく駆けつけた御白 小唄(CL2001173)が、ショットガントレットをショットモードにして身構えた。
「うしっ、気合いいれんぞ!」
「はい!」
 義高と小唄は同時に逆方向へ走り出した。
 巨大熊は左右どちらを優先すべきか迷ったのか手を出さずに身構える。
「こっちだクマ公!」
 両足を踏ん張り、熊の脇腹を狙って斧を放つ義高。
 半拍遅れるように反対側から跳び蹴りを繰り出す小唄。
 その両方が直撃する――が、表面の毛皮によって攻撃がせき止められた。
 まるでゾウガメの甲羅から直接毛が生えているかのような堅さと分厚さである。
「なんて堅さ――うわ!?」
 小唄の足が掴まれ、頭上でぐるぐると振り回される。
 道路の向こうへと投げようとしたその時。
「おっとあぶねっ!」
 飛び出してきたジャックがジャンピングキャッチ。
「うごきとまれ!」
 小唄もろとも倒れつつ破眼光を乱射した。
 ビームを毛皮で弾きながら突撃をしかけてくる巨大熊。
 ジャックの左右から飛び出した数多と千歳、そして冬佳たそれぞれに斬撃を繰り出し、巨大熊の首を切断する。
「生き物なら頭を落とせば死ぬ筈ですが……」
 巨大熊はぶしゅんと首から血しぶきを飛ばすと、まるで植物成長の早回し映像がごとく首を再生させた。
「やはり、化け物か」
 千歳が呟いた途端、別方向から遥や刀嗣たちが駆け寄ってきた。
「うおお出遅れた! 俺俺! 俺がやる!」
「引っ込んでろ雑魚が! 俺様の獲物だ!」
「喧嘩するんじゃあないわ。はんぶんこじゃ、はんぶんこ」
「それって死んでるよね」
「じゃあ僕が切り分けるね!」
 なんか全員が前へ前へ状態になった五人組だった。
 自らの頭を撫でる義高。
「頼もしいんだかなんなんだか」
「最後に頼れるのは自分だけということだ」
 冬佳やジャックたちの回復支援を受けて復帰してくる赤貴。
 小唄を引っ張り上げると、巨大熊を全員で囲むように位置取った。
「こいつを倒せばきっと統率を失います。あとは周りの妖を倒せば町の平和を確保できるはず……」
 実際には輪廻と刹那が吸引力の変わらない掃除機のように妖をローラー抹殺しているので、この巨大熊さえ倒せばこのエリアを完封することができる。
「その戦い、混ぜて貰おう」
 どこからともなく現われた二刀の男。その顔に、刀嗣や数多は覚えがあった。
「地獄刃鉄、てめえなんでここに」
「禍ツ神は願われて顕われるもの……だが、しかし、今回ばかりは」
 刀を抜く。
「趣味で来た」
「いいね」
 遥はニヤリと笑って数多もニッコリと笑った。
「私の名前、ちゃんと覚えてる?」
「……ご、ごり」
「死ねぃ!」
 首をちょんぎってみたが、地獄刃鉄は平気で立っていた。
「おめーらなに遊んでんだ。ラスボス前なんだろ!」
 と言って現われたのは柄司である。
 きせきや奏空たちとへーイといってハイタッチすると、彼も彼で刀を抜いた。
「まーいーや。おめーらが楽しんでるってこたあ、この勝負……勝ったも同然!」
「そゆこと!」
 全員が一斉に武器を握りしめる。千歳が、刀をぶんと横一文字に振り込んだ。
「いくよ、総攻撃」
 数多と刀嗣が豪速で滑り込んだかと思うと巨大熊の両腕を切断。
 うなりと共に大地を踏みつける巨大熊。
 あまりの衝撃に数多たちは吹き飛ぶが、突撃を仕掛けていた奏空がそれにどっしりと耐えた。
「遥、きせき! 今だ!」
 彼の背に守られていた遥が飛び出し、零距離まで詰めてマシンガンのような速度で正拳を叩き込んでいく。
 腕をはやし、殴りかかる巨大熊。
 その腕をジャックと冬佳が殴りつけるようなカウンターヒールでそれぞれ相殺させた。
「数多に手ぇだすんじゃねえ」
 口を虎のように変容させ、食らいつこうとする巨大熊。
 だが、きせきと樹香が飛びかかるほうが早かった。
 両サイドから繰り出した斬撃によって巨大熊の首が回転しながらはねとんでいく。
 背後から刀を突き刺して固定する地獄刃鉄と柄司。
 だがそれでも止まらない。
 腹をばっくりと開いて巨大な口にする。
 ぱっくり喰われそうになった遥をひっぺがして割り込む義高。
 斧と腕でつっぱるが、牙が腕をべきべきとへし折っていく。
「何秒ももたねえぞ! トドメさせトドメ!」
「まかせとけ!」
 遥が身体を起こそう――とした途端彼を踏み台にして小唄と赤貴が飛び上がった。
 両腕を翳すようにしてガントレットからチップを放出。
 推進力を得た小唄はミサイルのような跳び蹴りを巨大熊へ叩き込んだ。
 肉体を大きく陥没させる熊。
 赤貴は飛び込みからの強烈な掌底で更に叩きつぶし、勢い余って地面を転がった。
 対して巨大熊は、べこべこにひしゃげた身体をぶるぶると震わせ、再び立ち上がろうとした所で全身から血を吹き出してぶっ倒れた。
 ――こうして最大の敵を倒したことで、ただでさえ統率力の弱かった山の妖たちは指向性すら失い、山のなかをさまようだけの群れとなった。
 彼らが後に魂を燃やして殺戮マシーンと化した刹那と輪廻によって一掃されたのは言うまでも無いことである。

●那覇市街地最前線
 悲鳴と足音。立ち上る黒煙と崩れた家屋。
 遠くでは巨大なビルが人の形となってビルを端から破壊している。
 闇雲に逃げ回る者。恐怖に座り込む者。那覇の北西に位置する港からは次々と避難用の船が走り、空はオスプレイヘリが高速で避難民のピストン輸送を繰り返している。
 米軍やヒノマル陸軍、加えて自衛隊や警察官、地元警備会社など様々な人々が垣根を取り払って協力し、妖から人々を避難させている。
 だがそれができるのも妖の発生地から離れた場所だけだ。
 俗に爆心地と呼ばれる妖の群生ポイントにはたとえ救助のプロであっても非覚者が立ち入ることは禁止された。
 このエリアに立ち入ることができるのは、人間を超えた肉体をもつもの。無数の命を身体に宿すもの。燃える魂をもつもの。
 目覚めし人類、覚者のみである。
「まるでロボット戦争だよね。壊しがいはあるけどっ!」
 民間人を追いかけ四足歩行で走る電話ボックスを急降下キックで粉砕し、即座に飛んで逃げる如月・彩吹(CL2001525)。
 民家を突き破って飛び出すブラウン管テレビの群れ。
 画面が砕けて怪光線を放ってくるが、彩吹はそれを刀でガード。虫のような足をはやした個体が次々と彩吹にとびかかって組み付こうとするが、神幌 まきり(CL2000465)の放った胡桃が炸裂。ブラウン管テレビが次々と打ち払われる。
「まさか雷獣結界を解いていったことでこんな事態になるなんて……けど、私はできることをやるまでです!」
 送受心・改で仲間に呼びかけると、崩れた家屋の中から救援要請が帰ってきた。
 彩吹へと呼びかけ、走り出す。
「これは――」
 家屋の扉ががれきでふさがれ、中に仲間と民間人が取り残されている。
「ミラノにまかせてっ!」
 まきりの要請をキャッチして駆け寄ってきたククル ミラノ(CL2001142)が、ダッシュの速度のまま壁をたかたか駆け上がり、窓を突き破って屋内へ滑り込んだ。
 一拍遅れて飛び込んでくる息吹。
 そこでは、田中 倖(CL2001407)が四つ足のバスタブや血まみれのテディベアと戦っていた。
 背後には小さな子供を庇っている。
「かかってきなさい、どこからでも」
 じりじりと周囲を囲むテディベア。
 四方八方から時間差で飛びかかる彼らに対し、倖は眼鏡のブリッジに中指を押し当てたまま連続回し蹴りを繰り出して迎撃。
 正面から突っ込んできたバスタブを足で突っ張ると、踵からチップショットを仕掛けて吹き飛ばす。
 そんな彼の左右に着地し、回復をかけるククル。
「じむいんさん、だいじょうぶっ!?」
「無傷ですよ」
 倖は頭から大量の血を流しながら、庇った少女の様態だけを言った。
 二の句を告げさせないように、言葉を重ねる。
「事務員として、当然のことをしたまでです」
 まきりが強引にどかしたがれきの隙間を通って少女を逃がす彩吹たち。
 そんな彼女たちの前を、大型トラックが通り抜けた。
 ただのトラックではない。運転席を肉食獣の顎の如く変容させ、蜘蛛のような六本足で走行するトラックである。
 そんなトラックに真正面から対抗するのは、道のど真ん中に突き立った電柱――の頂点に立つ鐡之蔵 禊(CL2000029)である。
「どこもかしこも妖だらけ。だったら私は、みんなの道を開くために戦うよ!」
 跳躍。太陽と重なった禊はマシンガンキックを大量の『衝撃の槍』とかえてトラック妖へ降り注がせた。
 攻撃におびえるように、荷台から大量の芋虫状の妖が飛び出してくる。廃材やゴミ袋が組み合わさったおぞましい妖だ。
 しかし禊のマシンガンキックによって次々とはじけ飛んでいく。
 宙返りをかけ、トラック妖の背後に着地する禊。
 高速ターンしたトラック妖が彼女を食いちぎろうとしたその時、神楽坂 椿花(CL2000059)が日本刀を野球のバットのようなフォームで叩き込んだ。
 頬をひっぱたかれたようにのけぞるトラック妖。
「凜音ちゃん凜音ちゃん! トラックが走ってるんだぞ!」
「トラックは走るもんだろ」
「そうだった! あれ? ちがうんだぞ!」
「ったく、やる気があるのはいいが俺のそばから離れるなよ」
 妖に牽制射撃をしかけながら、香月 凜音(CL2000495)は椿花に回復術式をかけてやった。
「うん! 椿花たちで少しでも妖を倒して、町の人が戻れるようにするんだぞ!」
「わかってんのかねえこいつは」
 かりかりと頭をかく凜音。
「とにかく。お前が怪我して帰ったらご両親が悲しむだろう? 俺が動ける間は治してやるが、危なくなったら一人でも逃げろ」
「凜音ちゃんは椿花が守るから、離れちゃダメなんだぞ!」
「あっ、こいつ聞いてないな……」
 何かあったら庇うしかねえなという顔で椿花の手を引いて走る凜音である。
 さておき、視点を戻そう。
 禊や凜音が大通りを民間人の少ない方へと走っていく。
 だがそんな彼らの目論見を裏切るがごとく、トラック妖はブレーキをかけ、あるものへと注意を向けた。
「あれは……!」
「バスだ。こいつ、幼稚園のバスを狙うつもりだ!」
 トラック妖が目をつけたのは、横転するバスだった。
 運転手や保母員は気を失い、シートベルトによって幸いにも怪我の少なかった幼稚園児たちも今は逃げるすべを失っている。
 急いで来た道を引き返す禊たちだが、速度をあげたトラック妖には追いつけない。
 今にも中身の園児たちを車体ごと噛み砕こうと口を大きく開くトラック妖――の眼前に、青い炎が燃え上がった。
「いかせない」
 道の脇から歩み出た小柄な少女。天堂・フィオナ(CL2001421)。
 彼女の瞳は青く青く輝いていた。
「必ず助ける。絶望は、させない!」
 剣を握り、まっすぐに構える。
 突っ込んでくるトラックを正面から殴りつける。荷台から飛びだそうとした廃材の妖たちが伝播した衝撃によって吹き飛び、空中で次々にはじけ飛んでいく。
 しかしパワーで負けているのか、フィオナの身体はトラックによってぐいぐいと押し込まれていく。
 踏ん張った足がアスファルトを削っていく。
 そんな彼女の頭上から手が伸び、強くトラックを押す。
 あまりの怪力に、トラック側が足を道路にこすらせた。
「ほう、たいした根性だ。根性はいい。味方の士気を上げる」
 フィオナにとっては初見の相手だが、ヒノマル陸軍第四覚醒隊、健御である。
 彼に続いて低レベルな兵士たちがトラックに群がり、バケツリレー形式で園児たちをバスの向こう側へと逃がし始めた。徹底した訓練のためか、まるでそう動くようプログラムされた工場機械のごとく正確に、そしてスピーディーに園児たちを運び出すのだ。
「流石に軍人、スムーズですね」
 独り言のように呟き時任・千陽(CL2000014)が戦闘に加わった。
 園児たちの避難ラインを庇うようにバスの上に立ち、トラック妖めがけて銃を連射する。
「みんな安心して。もう大丈夫よ」
 同じくトラックの上に立った環 大和(CL2000477)は太股に巻いたホルスターから護符をまとめて引き抜き、口づけによって術式を送り込むとビットのように解き放った。
 二人の攻撃に今度こそ引き下がるトラック妖。
 しかし後方は禊たちが阻んでいる。逃走の道はない。
 となれば。
 ぐおん、と獣のようにエンジン音でうなりを上げる。
 妖の声に呼び寄せられてか、周囲から郵便ポストや道路標識、自動販売機などの妖が手足を生やして集まってきた。
「避難を完了するまで、ここて食い止めましょう」
「わかってる、はじめからそのつもりよ」
 千陽はバスから飛び降りながら烈空波を乱射。
 大和もそれに続いて飛び降りからのローリングをかけ、周囲に展開した護符から雷撃を乱射していく。
 郵便ポストや道路標識の妖が次々と拉げていく中、自動販売機を殴り合う健御。
 そこへ駆けつけた東雲 梛(CL2001410)が仇華浸香を放った。
「この間うっかりして協定を破りそうになったから。少しだけだけね、敵だけど、今だけ助太刀する」
 術式性の毒に見舞われた自販機が体中から火花を放ち、冷たい飲料缶をまき散らしながら転倒した。
 その上を飛び越えるように襲いかかる達磨ストーブ妖。
 ボディを限界まで燃え上がらせると、梛めがけて突撃してくる。
「こいつ……!」
 飛び退きながら棘散舞を発射。
 一方で健御は自らの腕で達磨ストーブのボディをむんずと掴むと、手から順に燃え上がるのも無視して相手を高く担ぎ上げた。
「今だ、やれ」
「……っ」
 梛はほんの少しだけ感情を表情に出してから、ロッドの先から棘散舞を乱射した。
 全て着弾。ボディの内部で炸裂し、達磨ストーブ妖は燃料をまき散らして爆発した。
 園児たちの避難が完了した合図が送られる。
 千陽はそれを確認して、トラック妖へと狙いを定めた。
「火力を集中! 削り殺します!」
 大和の護符がトラックのあらゆる場所に張り付き、千陽と梛が集中的に射撃を加え、フィオナと健御でもって正面から殴りつける。
 爆発のような衝撃が伝わり、トラック妖はバラバラに砕け散っていった。

 港に面した国道58号線は片側四車線両側併せて八車線の大きな道路だ。
 それゆえ本来では運行不能な巨大なトラックでさえ通すことができる。仮に中央の植木をひっぺがせば飛行機の離着陸だってできるだろう。
 だがこんな場所を、自動車が四足歩行した妖の群れが列を成して進行することは、流石に想定されていない。
「こンの、妖のくせに大通りをくそ真面目に進行しやがって! 歩道にでも詰まってろバカヤロウ!」
 ヒノマル陸軍総帥・暴力坂乱暴は自動車妖をゲンコツ一発でスクラップにすると、ボーリングの要領で放り投げて後続の妖たちを蹴散らした。
 味方の送受心で全軍に指示を伝達しながらの戦闘である。あまり身が入っていないようだ。それになにより、避難民がいるなかで全力を出すわけにはいかないらしい。
「はわわっ、妖いっぱいなのぉ!」
 野武 七雅(CL2001141)が中央の植木をじぐざぐに駆け回りながら攻撃をさけ、潤しの雨をまいていく。
 『ていさつ』て空から周囲の様子を俯瞰してみるが、上から見た限りではこの辺りに取り残された民間人はいないようだ。
「おいそこのちっせぇの、下がれ下がれ! 車に轢かれるだろバカヤロウ!」
「なつね、ちっちゃいけど覚者だから、心配いらないのっ」
 木陰で震える子犬をみつけ、七雅はぎゅっと抱っこして庇う。
 これ幸いと野獣の如く食らいつく自動車妖を、暴力坂は引っこ抜いた道路標識を叩き付けることではねのけた。
「覚者だどうだなんか関係あるかバカヤロウ! 小学生が命張ってる時点でどうかしちまってんだよ! てめぇだっておでこぶつけりゃ痛えんだろうが!」
「だ、だいじょうぶなの! それでもこの子は守るの!」
 七雅は子犬を抱えたまま避難船へと走って行く。
 すれ違うように、天明 両慈(CL2000603)と華神 悠乃(CL2000231)が自動車妖の群れへと襲いかかった。
 両手をばちばちとスパークさせ、電撃を放つ両慈。
 自動車妖たちが一斉に感電し、あちこちから火花を散らす中、悠乃が斜め回転しながら飛びかかった。
 手足を真っ赤に発熱させ、自動車妖をみるみるえぐり潰していく。
「噂で聞きましたよ。アズマコウジさんでしたっけ。わざとらしい仕掛けをしてきますよね」
「確かにな。偶然雷獣結界を見落とし、偶然巨大な規模で、偶然ヒノマルのウィークポイントがあるなど。できすぎだ」
「ナニ話だよ、混ぜろよ」
 両慈と悠乃の肩に(かなり無理矢理)腕をかけてくる暴力坂。
 敵との内通みたいなことはよくないからってわざと聞こえるように大声で雑談してたのに、がっつり混ざってきたら台無しである。
「……おまえは空気の読み方を知らんのか」
「空気読むやつが戦争したいとか言うわけねえだろ」
「百里ある」
「俺ぁよ、最初はてっきりファイヴが協定をぶちこわしにきたのかなって思ったんだよ。ここには兵の家族だとか、保護した民間人だとかが大勢住んでる。ここを占拠して爆破スイッチ片手に『ヒノマル陸軍降伏せよ』つったら、まあ最低でも戦力の五割はそがれるわな。決戦直前。マウントとってタコ殴りタイムかなーと思ったわけさ」
「……」
 悠乃と暴力坂は一緒になって自動車妖を蹴り飛ばした。
 吹き飛び、後続の妖もろともスクラップ化する妖。
「そこへ来てお前、一緒になって戦っちゃってんじゃねーかよ。なんだ、誰かが火ぃつけた家に飛び込むカンジでよお」
 顔は見えないが、暴力坂の声にただならぬ感情が含まれているように思えた。
「お前らのトップよお、やばいんじゃねえのか?」
 後は任せたとばかりにトンと肩を叩いて那覇市役所のほうへと移動を始める暴力坂。
 悠乃と両慈は一度だけ振り返り、そして自動車妖たちへと集中した。
「両慈さんも行きます?」
「やめておく。悠乃もやめてくれよ? ビル相手に殴り合いなど、心臓にわるい」
「流石にそれはないですよ。人間の発想じゃあ……あっ」
 何かに思い至って、悠乃はぱくんと口を閉じた。

 那覇市役所……がもとあった位置から北に一キロほど移動したエリア。
 モノレールのラインをぶち破りながら、人型に変形した市役所ビルが歩いて行く。
 その一方で、踏みつぶされた銀行へと駆け込んだ月歌 浅葱(CL2000915)が、神城 アニス(CL2000023)と共に声を張り上げている。
「皆さん! 無事な方はお返事をしてください!」
 どこからかか細い声が聞こえてくる。
 周囲の雑音にかき消されそうなほどの小さな声だが……。
 月歌浅葱はそれがどんなに小さくとも、誰かが助けを呼ぶ声を聞き漏らさない。
「あっちですっ。胸を圧迫されてる声……手伝ってくださいっ!」
 アニスを連れ、がれきの中を走る浅葱。
 巨大な鉄の扉をパンチでこじ開け、中に取り残された民間人を発見した。
 呼吸音と見た限りの外傷を判断して、アニスへ振り返る。
「早く回復をっ。圧迫してる棚を引き上げるとにショックがかかりますから、その瞬間を狙ってっ」
「分かりました。他に取り残された方は?」
 アニスは浅葱と協力して民間人へ強制的に蘇生処置を施すと、優しく問いかけた。
「奥の金庫に。赤い人と、いっしょに……」
 むせながらも応える民間人。
 赤い人? 浅葱が首を傾げた途端、奥からがれきを取り払った紅崎・誡女(CL2000750)が現われた。ライダースーツを纏った別の覚者と一緒だ。第二覚醒隊・久米である。
 彼女たちはあえて金庫室に銀行内の民間人を放り込むことでシェルター代わりとしたのだ。ビルのスタンピングに金庫は耐えられなかったが、中身の人々は誡女たちが庇うことでなんとか無事なようだ。
 誡女がかすれ声で言う。
「助かりました。この方たちを安全な所までお願いします。私は彼と行くところが」

 民間人の避難を浅葱たちに任せて、誡女は歩く那覇市役所を眺めていた。ちらりと久米へ振り返る。
「『沖縄の地理に詳しいのですか?』」
「地元だからな。人が集まりそうな所も大体……」
「『そうですか、では』」
 手分けして敵の弱体化を図ろうと提案しかけて、そのくらいは既にやっているかと手を止める。
「『できれば足を借りたいのですが』」
 全て言い切る前に、久米が無言で何かのキーを投げ渡してくる。
 それは銀行前に止められた、異常に頑丈なオフロードバイクのものだった。

 いくら人の形をしたからといって、12階建ての巨大ビルに立ちはだかろうとする奴はいない。
 人間の発想では無い。
 だがここに、人知を超えた女子高生がいた。
 長らく無用のオブジェと化していた琉球放送局電波塔の頂上に、いた。
 奇人変人のサファリパークと言われるファイヴでも屈指の知名度をもつ、納屋 タヱ子(CL2000019)である。
 タヱ子は腕組みをして、向かい来る那覇市役所をにらみ付けた。
「アズマコウジ。もし皆さんのいう噂が本当なら……今回の事件、ファイヴとヒノマル陸軍を共倒れにするために仕組まれた罠かもしれません」
 かりに現在、ファイヴとヒノマル陸軍と妖軍勢が三つどもえ状態となっていれば、ファイヴとヒノマル陸軍の双方は壊滅的打撃をうけたことだろう。
 多くの民間人が危険だと分かればファイヴは動かざるをえない。分かりやすくそして致命的なウィークポイントだ。
 そしてヒノマル陸軍にとってもまた、この土地はウィークポイントとなり得ている。
「だが、そうだとしても、誰かが受けなければならない打撃があります。その誰かは」
 瞑目し、胸一杯に息を吸い込む。
 眼前まで迫る那覇市役所。
 振り上がった腕部。
 目を見開くタヱ子。
「私です!」
 拳をいっぱいに握りしめ、那覇市役所のパンチに自らのパンチをぶちあてた。
 人間だったら死ぬ。
 覚者でも場合によっては死ぬ。
 しかしタヱ子は半身が吹っ飛んだだけで耐えきった。
 一方の那覇市役所は僅かにのけぞり、半歩下がる。
「今、です!」
 言うがはやいか、神室・祇澄(CL2000017)と新田・成(CL2000538)が数秒だけ動きの止まった那覇市役所の壁を猛然と駆け上がった。
 表面的に強化された窓ガラスを力業で突き破り、内部へ侵入。
 すると、市民防災室とプレートのかかった部屋の奥に数人の民間人が固まっているのが見えた。
「だ、誰ですか!? どうやってここへ……!」
 質問が重複しそうだと考えた成は、両手を挙げて簡潔な事実だけを伝えた。
「助けに来ました。私の指示に従えば、必ず脱出できます」
「ぜ、全員いっぺんに外へ出られるんですか!?」
「焦らずに、二人ずつ私につかまってください」
 成は避難優先順位に従って民間人を抱え込むと、破壊した壁から外へと飛び降りた。
 絶叫する彼らをあえて無視し、両足で鮮やかに落下制御をかける。
 一方で、祇澄は別の民間人を抱えて屋外へ飛び出し、別のビルの壁に張り付くようにして持ち出していく。
「一人でも、多く。助け出したいです、けれど……」
 振り返る。那覇市役所は再び歩き出し、成は民間人を抱えたまま一目散にスタンピングをうけない場所へと転がり込んでいく。
 祇澄は手近な建物の窓ガラスを割って飛び込むと、民間人をその場に解放した。
 面接着で駆け上がる方法は確実性こそ高いが、相手が動き回っている間はゆっくりと登ることになる。足下に近い階層はこれでなんとかなるが、中央部や上層階は他の仲間に任せるしか無い。
 祇澄は息を呑んで、再びクライミングに挑戦した。

 祇澄が任せた仲間とは、すなわち飛行能力を持つ仲間たちである。
「いくぜ、みんな! 全員残らず助け出すぞ!」
 ホテルの屋上から飛び立った翼人チーム。
 先頭をゆくのは黒崎 ヤマト(CL2001083)である。
「市役所たたくのちょーっと待てててね! 逃げ遅れた人助けてくる!」
 ヤマトに続く楠瀬 ことこ(CL2000498)、そして宮神 羽琉(CL2001381)。
 那覇市役所の頭に当たる部分がぐいんと動いてヤマトたちを目視。屋上部のアンテナから細いビームを無数に発射した。
「やべっ、よけろ……!」
 とはいえ簡単に避けられる状態ではない。
 咄嗟にガードしたヤマトたちを救ったのは、桂木・日那乃(CL2000941)の展開したヒールフィールドだった。
「いそいで。十階のあたり、だから」
「サンキュ! ことこ、羽琉、突っ込むぞ!」
 ヤマトは火炎連弾を発射。ことこと羽琉もエアブリットを乱射しながら那覇市役所の胸部。およそ十階部分へと飛び込んだ。
 公的資料にあった屋内地図を思い描く羽琉だが、人型に変形して歩いてる市役所の内部である。もうとんでもなくねじれた上に、ちらほらと妖が沸いていた。
 とはいえ全く役に立たないなんてことはない。
「この階に避難するとしたら会議室だよ。来て!」
 羽琉の誘導に従って会議室前へ。
 パソコンが寄り集まった虫のような妖がこちらへと振り返り、無数のコードを延ばして襲いかかってくる――その、すぐ窓の外で。
「せーの……」
 ビルの屋上をダッシュし、槍を棒高跳びの要領で手すりの縁に突き立てる榊原 時雨(CL2000418)がいた。
 それを目撃してぴたりと足を止めることこ。
「あっ、時雨ぴょん」
「そりゃー!」
 時雨は盛大にジャンプし、クロスアームで窓ガラスを突き破って妖にそのままダイレクトタックルを仕掛けた。
 ごろごろ転がり、槍を手元に引き戻す。
「この妖はうちに任しとき――ってことこなにしとるん!」
「まかせた!」
「妖お願いねー!」
「後で手伝うね」
 三人とも思いっきりスルーして会議室に飛び込んでいく。一方でコードにぐるぐる絡まれた時雨はぬがーと言って素手でパソコン妖のディスプレイ部分をタコ殴りにした。

 会議室の壁を破壊して、ことこたちが民間人を抱えて飛び出してくる。
 そんな彼らをうっとうしく思ったのか、那覇市役所妖は振り返りざまに殴りかかる。
 人を持ち運んでいる彼らに避けるすべなどない。
 万事休すというその時に、霊力障壁を最大まで展開した覚者が彼らを庇うように飛び込んでいった。
「こいつらって……!」
「そう、ヒノマル陸軍の開発部隊」
 インスタントジェットパックを利用して那覇市役所の屋上へと転がり込んだ開発部隊と一緒になって、坂上 懐良(CL2000523)がカッコイイぽーずで唱えた。
「俺の彼女候補、ガンマちゃんだ!」
「いや彼女候補じゃねーだろ」
 ヒノマルタイプのショットガントレットを地面に向けて叩き付けるアルファ。
 破壊を彼に任せ、懐良はカッコイイポーズを継続する。
「優れた軍略家は、まず状況を確認し、状況を望む方向に誘導するのだ。救助に必要なのは速度。速度とは効率。効率とはすなわち役割分担だ。こちらがどう救助に動くかを明確に語り、間接的にそれ以外の行動をとらせる。ヤマトたちが屋内救助に専念する間、ヒノマルの兵士たちには外部からの牽制を担当してもらっていたのだ。よし、じゃあ俺も行くか!」
 屋内の妖へと襲いかかる懐良。
 その一方で、天野 澄香(CL2000194)が屋上部。つまり那覇市役所妖の頭上めがけて急降下していった。
「日那乃さん、感情探査の結果は!?」
「ひとりだけ」
「わかりました、なんとしても――」
「助け出すぜー!」
 巨大なドラゴンに跨がった天楼院・聖華(CL2000348)が、那覇市役所委へドラゴンごと体当たりを仕掛けた。
 みんな覚えてるかなーこいつ。ホームレスドラゴンっていうんだけど。
 なんか無計画に仕事と住居をあげるよって言ったら大量のホームレス中年たちと一緒にファイヴへ押し寄せてアタリマンを精神的に折りかけたっていうあのドラゴンなんだけど。
「働かざること竜のごとし。けどこのくらいはこなしてみせるんじゃ!」
 ドラゴンが市役所の頭に組み付くと、聖華は仲間を引き連れて屋内へと飛び込んでいく。その後で、ドラゴンはあーもうむりーとか言いながら那覇市役所にべちこんとはじき飛ばされた。
 最後の民間人が取り残されているのは十一階。学校教育課の事務室である。
 そこには……。
『ニンゲン、コロス。ニンゲン、コロス』
 ロボットのように呪詛を唱えながら目からビームを乱射するおじさんの胸像があった。むろん妖である。
 でもって、その胸像とそっくりのおじさんがデスクの裏で頭を抱えて震えている。
 間に割り込み、ビームを刀で切り裂くように弾く獅子王 飛馬(CL2001466)。
 胸像はビームを一度拡散させて飛馬へ集中させるが、それを四方八方に刀を繰り出すことで弾いていく飛馬。
「ここは通さねえぞ。さあ、今のうちに!」
「よっしゃ、今助けるからな!」
 デスクの上を飛び移るようにして奥州 一悟(CL2000076)がおじさんの元へと駆けつけると、おじさんを抱えて外へと走り出す。
『ニンゲン、コロス!』
 すると、胸像が首を180度回転させてビームを放ってきた。
 おじさんを庇って直撃を受ける一悟。背後の壁がもろとも壊れ、外へと放り出される。
 だがしかし。
「つかまってください!」
 ダイブからの急加速で、澄香が一悟とおじさんを両方キャッチした。
 翼を広げて落下速度を制御。民間人と一緒に安全地帯まで飛び降りていく。
 残るは妖だけだ。
 菊坂 結鹿(CL2000432)はしっかりと剣を構えると、全身を青空のようなオーラで包み込んだ。
 同じく刀を構え、正義の光を膨らませる聖華。
「もうこれで、町の人たちは巻き込まれませんね」 
「思う存分戦えるな! でもって、デカブツは内部から壊すのがお約束だぜ!」
 聖華と結鹿、そして飛馬が一斉に胸像へと突撃。
 両目をあわせた極太ビームを放ってくるが、飛馬はそれを自らの刀と身体でまるごと受けた。
 そのうしろから 飛び出した聖華が胸像を斜めに切り裂き、更に飛び込んだ結鹿がざっくりと頭を剣で貫通させた。
『ニンゲン、コロ……!』
 爆発し、砕け散っていく胸像。
 その途端、那覇市役所は大きく傾いた。
 地面をすべり、壁の穴から外へと放り出される結鹿たち。
 それを、民間人避難を終えたヤマトたちが空中でキャッチ。近くのビルの屋上へと落としていく。
 飛行部隊は上から、結鹿たちは右側から。
 ヒノマル開発部隊や懐良たちは右側からそれぞれ囲い込む。
 背後には成や祇澄、一悟たちが控え、港側の救助を終えた仲間たちやほかのヒノマル陸軍兵士も集まってくる。
 だが相手はここまで巨大な妖だ。この場の戦力を集結させたとて、かなりのダメージを受けることになるだろう。
 と、そんな中。
「よーう」
 あずきのアイスバーを咥えた暴力坂がカブにのってとろとろとやってきた。
 背中には気を失った飛騨・沙織(CL2001262)を担いでいる。
「こんなかで、魂ぶっ放してでも那覇市役所を倒したいってえやつはいるか」
 暴力坂の呼びかけに、イエスと応える者は居ない。もてる実力で倒そうと決めていたからだ。
 とはいえ、民間人を救助しきるまで持ちこたえようと戦った結果覚者たちもボロボロだ。
 まともに戦えるメンバーは少ない。
 暴力坂はよしよしと呟いて、沙織を手近な仲間へとパスした。拡声器越しに呼びかける。
「俺以外全員退去。急げ、巻き込まれると死ぬぞ」

 時間をしばし遡る。
 飛騨沙織は崩壊する那覇市内を、妖を駆逐しながら町を走っていた。
 頭の中が、胸の奥が、臓腑の芯が、ぐちゃぐちゃとかき混ぜられたかのようだった。
 忘れたはずの声が聞こえ、忘れようとした景色がフラッシュバックし、ちかちかと脳を焼くのだ。
 妖。人道支援。隔者。手首を掴む男の影。自分の悲鳴。炎。床に伸びる血。白い顔。怒り。憎しみ。恨み。呪い。糾弾。糾弾。糾弾。絶望と死と恐怖と、そしてわずかな諦観。
 母の声がした気がした。父が呼んだ気がした。弟が見ているように思えた。
 すべてこの状況のせいだ。
 この状況のせい。
 妖が人を襲っている。
 妖を倒せば人が救われる。
 きわめて分かりやすい構図の筈なのに、仲間たちは軍服の隔者と共に戦っている。
 民間人を守って戦う隔者。妖から人々を守る覚者。
 覚者ってなんだ。隔者ってなんだ。憤怒者とは。人間とは。善悪とは。自分はいったい、どの立場からものを見ている。
 ……こういうとき、どうすればいいかは明白だった。
 しがらみや怨嗟は一旦脇へ置いて、妖と戦うべきなのだ。
 みんなそう理解して、この作戦に加わっている。
 自分は?
「うっ……!」
 襲い来るマネキンの妖を切り捨て、口元に手を当てる。
「大丈夫、大丈夫だ。私には関係ない。『攻撃しない敵』ってだけで、もうギリギリなんだ。関係ない。無視すればいいんだ。それだけで……」
 戦っていれば時間は過ぎる。苦痛だっていつかは終わる。
 そう自分に言い聞かせて、再び走り出そうとしたときだった。
 幼い子供を抱えたヒノマル陸軍の集団が、トラックへと乗り込んでいくのが見えた。
 避難民だろうか。
 子供を乗せたトラックが走り出すが、目の前の道路を巨大な物体が塞いだ。
 妖化した那覇市役所が道路ごと踏み砕いていったのだ。
 がれきが道を塞ぎ、まるで追い詰めるかのように自動車が変異した妖がそこら中からわき出した。
 小銃をとり、応戦を始める兵士たち。
 おそらく主力部隊ではないのだろう。妖の数に押され、次々に倒されていく。
「……関係ない」
 状況に背を向ける。
 だがなぜだろう。
 子供の悲鳴が聞こえたからだろうか。
 沙織は目と頬の傷を燃えるように輝かせ、そして振り返った。
 アスファルトの地面から大量の、そして頑丈なツルがのび、妖たちへと高速で巻き付いていく。それどころか、妖の群れを強制的に拉げさせ、スクラップに変えていくではないか。
「あ、ありがとう! 助かった!」
 ヒノマル陸軍の兵士が沙織にそう呼びかけ、トラックで走り去っていく。
 残された沙織は膝を突き、頭をぐしゃぐしゃにかき混ぜて自分でも意味の分からない言葉をわめいていた。
 なぜ助けた。
 気づけば自分で自分に怒鳴りつけていた。
「たすけて、玲……」
 限界を超えた精神は、自らを拒絶するようにぷつんと意識の糸を切った。
 うつ伏せに倒れる沙織。
 立ち止まり、彼女を見下ろす者があった。
「俺の兵士を……こいつ、魂で助けたのか?」

 時を戻そう。
 退避の済んだ大通り。
 暴力坂は自らの手の中で炎を熱く熱く燃え上がらせていた。
「あんな使い方されたんじゃあ、フェアじゃねえやな。決戦用の切り札だったが……どれ、俺も一個くれやるか」

 ――後の報告。港から出る船の上から、天を穿つほどの炎の柱が観測された。
 ――那覇市に大量発生していた妖はいつの間にか駆除され、妖化した那覇市役所もその後砂の山となって発見されることとなる。
 ――かくして、当初絶望的とも見られていた沖縄全土における戦闘は、妖の完全駆除という形で幕を閉じたのである。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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