≪悪・獣・跋・扈≫三つ首の巨獣跳梁、その名はミカゲ
●
奈良県で起きた動物系妖の退治で覚者達は、多くの成果を上げてきた。
その最中、鳴海 蕾花(CL2001006)の調査がきっかけとなって、奈良盆地山中に妖の一大コミュニティが発見された。
『群狼』と名乗る妖の群れは、牙王(きばおう)と呼ばれるランク4動物系妖によってまとめられた集団だ。
夢見の予知によれば妖達は近々人里に現れ、大規模な襲撃の準備をしているという。第三次妖討伐抗争後落ち着きつつある状況がまた混乱に戻ってしまうのは明白だ。
そこでFiVEとAAAは先手を打って、大規模な妖掃討作戦を発動が決定された。
敵となる、妖達はグループを作って、山の中に散在している。それらを各個撃破していくのだ。
『群狼』には牙王をはじめとして、ミカゲや紫鼠といった強力な個体が確認されている。こちらに対しては、相応の戦力を持って当たることになるだろう。
相手も簡単にやられてくれるわけではない。AAAの協力もあるとは言え、決して油断できない相手だ。
だが、皆で力を合わせれば。
必ず勝利を掴みとることができる。
誰もがそう信じ、戦場へと赴いていく。
そこに、どれほどの血が流れるかを想像しながらも……
●
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」
三つ首の巨大な狼。
その名はミカゲ。
群狼に属するランク4の巨獣は、その三つの首からあらん限りに咆哮をあげた。
その周囲では、彼の手勢たる百獣の妖達がことごとく平伏している。自分にこの凶暴な矛先が向かわないように。
そう。
ミカゲは激怒していた。
手下達に人里へと解き放ち、王がため破壊の限りを尽くすつもりが。その中の幾つは、覚者の手によって返り討ちあい。おめおめと敗戦の報告が入ってくる始末。
人間ごとき虫けらが、随分と無駄な抵抗をしてくれたものだ。
この世は弱肉強食。
それが絶対の掟。
弱者は大人しく蹂躙されて、食い散らかされていればよいものを。
この分をわきまえない非礼、万死に値する。
今も何やらこちらの根城を取り囲んで、虫けららしくこそこそと人間共が何かやっているようだが。
ちょうど良い機会だ。
もう、忍耐も限度。
自ら打って出て、存分に首級を挙げてくれる。
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!?????」」」
猛る三つの首から漏れる、極大の炎と雷と氷。
紅蓮の炎で死体を消し炭にし。
怒涛の稲妻で全身を串刺し。
その魂すらも凍結させる。
そうやって、ミカゲはこれまで数え切れないほどの敵を倒し、殺し、喰らって生きてきた。唯一、それが叶わなかったのは王である牙王のみ。人間など、最初から眼中にない。
覚者達の大量の首を手土産にして、また牙王に王の座を賭けて挑戦する。
これはその前段階に過ぎない。
以前に挑み、敗れた時の傷もようやく癒えたところだ。
三つ首の狼が号令し、進軍する。
手の内である獣達は一糸乱れず、将へと付き従った。ミカゲを中心として、妖達は大地を駆け抜ける。それは山全体を揺らす地鳴りとなり、粉塵が視界を覆い尽くす。
狙いは、山の近辺にいる連中。
そいつらを、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――そして、喰らい尽くす。
ただ、それだけ。
――近い。
人間達の匂いを嗅ぎつけ。
妖達が野生の殺気を放ち。
三つの巨大な首が、鋭すぎる牙を剥いた。
●
奈良の戦場……覚者達の悲鳴が木霊する。
一人、また一人と、生きたまま食い殺され。
AAAの敷いた幾つもの包囲網が突破される。
「陣形を立て直すっ!」
「一旦後退するぞ!」
「負傷者には手を貸してやれ!」
隊員達は出来得る限り声を張り上げる。
そうしなければ、獣達の雄叫びに全てが掻き消されてしまいかねないからだ。
迫りくる百獣の動物系妖達へと雨霰のごとく弾丸を浴びせ、ナイフを振るい、五行の技を叩きつける。それでも、敵の進軍は止まらない。
「「「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!???」」」
三つ首の巨獣。
ミカゲは、己が群れを率い。
縦横無尽に、戦場を駆け抜ける。その進む道に多くの骸を作りあげながら。
「あれが、事前に情報にあったランク4!」
「ミカゲと、その群れの一団か!」
「奴らを絶対に山から出すな!」
何度も陣形を整え。
この凶悪な集団を野に放ってはならぬと、AAAの各部隊はミカゲ達を包囲する。そこに投入された戦力は、甚大なものだった。
「群れの敵前面がこちらに向かってきます!」
「持ち堪えろ! 押し返せ!!」
「ここを突破されるわけにはいかん!」
敵はただの獣ではない。
爛々と戦意を滾らせて、殺到。
豹が放つ氷の棘が舞い。獅子の鋭い稲妻が光り。暴れ牛の炎が人の身を焦がす。やらせてなるものかと、こちらも一進一退の攻防を繰り返した。
「敵右翼を攻めていた部隊が、毒に冒されている模様です!」
「敵左翼は守りが固い! すぐにはランク4に近付けそうにない!」
妖達を包囲し。
敵前面から。
右翼から。
左翼から。
多くの手数をかけて三方からの多重攻撃。
皆が死闘を演じ。味方のために道を作り。敵群へと突入する。
それでもなお。群れの中心、ミカゲまでの距離は果てしなく遠く感じられた。
仮にそこまで辿り着けたとして――
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」」」」
「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」」」
「「「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」」」
この三つ首の巨獣の傍らこそが。
一番の死地。
血を血で洗う戦場は、更なる流血を求めていた。
奈良県で起きた動物系妖の退治で覚者達は、多くの成果を上げてきた。
その最中、鳴海 蕾花(CL2001006)の調査がきっかけとなって、奈良盆地山中に妖の一大コミュニティが発見された。
『群狼』と名乗る妖の群れは、牙王(きばおう)と呼ばれるランク4動物系妖によってまとめられた集団だ。
夢見の予知によれば妖達は近々人里に現れ、大規模な襲撃の準備をしているという。第三次妖討伐抗争後落ち着きつつある状況がまた混乱に戻ってしまうのは明白だ。
そこでFiVEとAAAは先手を打って、大規模な妖掃討作戦を発動が決定された。
敵となる、妖達はグループを作って、山の中に散在している。それらを各個撃破していくのだ。
『群狼』には牙王をはじめとして、ミカゲや紫鼠といった強力な個体が確認されている。こちらに対しては、相応の戦力を持って当たることになるだろう。
相手も簡単にやられてくれるわけではない。AAAの協力もあるとは言え、決して油断できない相手だ。
だが、皆で力を合わせれば。
必ず勝利を掴みとることができる。
誰もがそう信じ、戦場へと赴いていく。
そこに、どれほどの血が流れるかを想像しながらも……
●
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」
三つ首の巨大な狼。
その名はミカゲ。
群狼に属するランク4の巨獣は、その三つの首からあらん限りに咆哮をあげた。
その周囲では、彼の手勢たる百獣の妖達がことごとく平伏している。自分にこの凶暴な矛先が向かわないように。
そう。
ミカゲは激怒していた。
手下達に人里へと解き放ち、王がため破壊の限りを尽くすつもりが。その中の幾つは、覚者の手によって返り討ちあい。おめおめと敗戦の報告が入ってくる始末。
人間ごとき虫けらが、随分と無駄な抵抗をしてくれたものだ。
この世は弱肉強食。
それが絶対の掟。
弱者は大人しく蹂躙されて、食い散らかされていればよいものを。
この分をわきまえない非礼、万死に値する。
今も何やらこちらの根城を取り囲んで、虫けららしくこそこそと人間共が何かやっているようだが。
ちょうど良い機会だ。
もう、忍耐も限度。
自ら打って出て、存分に首級を挙げてくれる。
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!?????」」」
猛る三つの首から漏れる、極大の炎と雷と氷。
紅蓮の炎で死体を消し炭にし。
怒涛の稲妻で全身を串刺し。
その魂すらも凍結させる。
そうやって、ミカゲはこれまで数え切れないほどの敵を倒し、殺し、喰らって生きてきた。唯一、それが叶わなかったのは王である牙王のみ。人間など、最初から眼中にない。
覚者達の大量の首を手土産にして、また牙王に王の座を賭けて挑戦する。
これはその前段階に過ぎない。
以前に挑み、敗れた時の傷もようやく癒えたところだ。
三つ首の狼が号令し、進軍する。
手の内である獣達は一糸乱れず、将へと付き従った。ミカゲを中心として、妖達は大地を駆け抜ける。それは山全体を揺らす地鳴りとなり、粉塵が視界を覆い尽くす。
狙いは、山の近辺にいる連中。
そいつらを、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して――そして、喰らい尽くす。
ただ、それだけ。
――近い。
人間達の匂いを嗅ぎつけ。
妖達が野生の殺気を放ち。
三つの巨大な首が、鋭すぎる牙を剥いた。
●
奈良の戦場……覚者達の悲鳴が木霊する。
一人、また一人と、生きたまま食い殺され。
AAAの敷いた幾つもの包囲網が突破される。
「陣形を立て直すっ!」
「一旦後退するぞ!」
「負傷者には手を貸してやれ!」
隊員達は出来得る限り声を張り上げる。
そうしなければ、獣達の雄叫びに全てが掻き消されてしまいかねないからだ。
迫りくる百獣の動物系妖達へと雨霰のごとく弾丸を浴びせ、ナイフを振るい、五行の技を叩きつける。それでも、敵の進軍は止まらない。
「「「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!???」」」
三つ首の巨獣。
ミカゲは、己が群れを率い。
縦横無尽に、戦場を駆け抜ける。その進む道に多くの骸を作りあげながら。
「あれが、事前に情報にあったランク4!」
「ミカゲと、その群れの一団か!」
「奴らを絶対に山から出すな!」
何度も陣形を整え。
この凶悪な集団を野に放ってはならぬと、AAAの各部隊はミカゲ達を包囲する。そこに投入された戦力は、甚大なものだった。
「群れの敵前面がこちらに向かってきます!」
「持ち堪えろ! 押し返せ!!」
「ここを突破されるわけにはいかん!」
敵はただの獣ではない。
爛々と戦意を滾らせて、殺到。
豹が放つ氷の棘が舞い。獅子の鋭い稲妻が光り。暴れ牛の炎が人の身を焦がす。やらせてなるものかと、こちらも一進一退の攻防を繰り返した。
「敵右翼を攻めていた部隊が、毒に冒されている模様です!」
「敵左翼は守りが固い! すぐにはランク4に近付けそうにない!」
妖達を包囲し。
敵前面から。
右翼から。
左翼から。
多くの手数をかけて三方からの多重攻撃。
皆が死闘を演じ。味方のために道を作り。敵群へと突入する。
それでもなお。群れの中心、ミカゲまでの距離は果てしなく遠く感じられた。
仮にそこまで辿り着けたとして――
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」」」」
「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」」」
「「「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」」」
この三つ首の巨獣の傍らこそが。
一番の死地。
血を血で洗う戦場は、更なる流血を求めていた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ミカゲの撃退
2.ミカゲの群れによる包囲網突破阻止
3.なし
2.ミカゲの群れによる包囲網突破阻止
3.なし
今回はその群狼に属する、ランク4の妖ミカゲについてのシナリオになります。
●プレイングについて
プレイング冒頭、またはEXプレイングに【1】~【3】を明記して下さい。
【1】群れの前面部隊を攻める
【2】群れの右翼部隊を攻める
【3】群れの左翼部隊を攻める
今回の目的はランク4の妖であるミカゲの撃退。
ミカゲを撃退することができれば、彼が率いる妖達は戦意を失い散り散りに退散していきます。
ですが、ミカゲは部下である妖達に守護されながら進軍しており。ミカゲに有効に攻撃するためには、まず敵の群れを三方向のどこからか切り崩していき。
その中心にいるミカゲへと辿りつかなければなりません。
多くのAAA達も、三方に分かれてミカゲ達を包囲しながら攻撃しています。
・【1】群れの前面部隊を攻める
火、氷、雷を攻撃として扱う動物系妖達で群れの前面は固められています。
火を使う妖の弱点は水行。
氷を使う妖の弱点は火行。
雷を使う妖の弱点は土行。
妖の数が最も多く、各々の個体としての強さも一番の部隊です。前面から突破を目指すならば、相当な激戦が予想されます。
・【2】群れの右翼部隊を攻める
毒の攻撃を主として行う動物系妖達で右翼部隊は固められています。
弱点は木行。右側面から右後方まで展開しており、スピードに優れた妖達が多いです。
・【3】群れの左翼部隊を攻める
物理攻撃を主として行う動物系妖達で左翼部隊は固められています。
弱点は天行。左側面から左後方まで展開しており、防御力に優れた妖達が多いです。
今回の【1】~【3】の選択は相互関係にあります。
一点に戦力を集中した方が、敵部隊を切り崩してミカゲへと辿り着くのは楽になりますが。戦力を集中し過ぎると、他の箇所を攻める面々の負担が大きくなり、三方に分かれたAAAともに被害が大きくなっていきます。
仮に【1】に戦力を集中しすぎて、【2】【3】担当のFiVEとAAAが壊滅してしまった場合。こちらの包囲網が容易に突破されやすくなり。また、戦線のバランスが崩れ【1】担当の者達へと敵の右翼部隊と左翼部隊が襲いかかってきて甚大な被害が出ます。
どこに、どのような人材が、どれほどの人数で配置されて。それぞれが、どのようなプレイングをするのかが鍵となります。
●ミカゲ
群狼に属するランク4の妖。
三つ首を持つ巨大な狼。
群れの中心にいて、進軍しています。
三つの首から、それぞれ炎と氷と雷を放ちます。
リーダーである牙王に王の座を賭けて挑んでは、いつも負けて従っているという状況です。
≪百・獣・進・撃≫三つ首の巨獣が咆哮せし時、≪百・獣・進・撃≫憤怒のミカゲなどで存在が確認されていました。
三つ首の狼たるミカゲは、一ターンに三つの首がそれぞれ行動します。
ミカゲ自体は一体の妖ですが、この三つの首それぞれにステータスが設定されており。ミカゲを倒すには、三つの首全てを撃破する必要があります。
どれか一つでも首を倒すことができれば、他の首もその力が弱まります。
また、三つ首にはそれぞれ以下のような弱点があります。
火を放つ首は、水行に弱い。
氷を放つ首は、火行に弱い。
雷を放つ首は、土行に弱い。
(主な攻撃手段)
炎のブレス A:特遠列 【焔傷】 ※炎を放つ首のみ
氷のブレス A:特遠列 【凍結】 ※氷を放つ首のみ
雷のブレス A:特遠列 【不随】 ※雷を放つ首のみ
ブラッティファング A:物近単
身体活性[回復] A:特自
●ミカゲの手勢
子リスから獅子まで存在する多種多様な動物系妖達。
上記で説明したように、前面部隊、左翼部隊、右翼部隊に分かれ。ミカゲを中心にするように展開して進軍しています。
●戦場
奈良県の山の麓近く。
ミカゲ達は、とにかく人間がいるところを手当り次第に襲います。戦闘員、非戦闘員もお構いなし。多数のAAAが戦線を敷いて山から出さぬようにしていますが、既に相当な損害を受け、かなりの犠牲者が出ています。また包囲を完全に突破された場合は、一般人が危険にさらされる可能性があり、絶対に阻止しなくてはなりません。
●AAA
多くのAAAがミカゲとその手下達と死闘を繰り広げています。
牙王を討ち取るために今回の作戦では山を包囲して大人数で各所に布陣していましたが、ミカゲ達の猛威により戦闘員や補給部隊ともにそちらに人員を割かざるを得ない状況になっています。
ミカゲ達を包囲して、参加者達と同じように【1】~【3】の三方から攻めてミカゲを撃退しようとしています。
三方に投入された戦力は、ほぼ各々同数。
時間が経ち、ミカゲ達に手こずるほどに、被害も大きくなっていきます。
●重要な備考
≪悪・獣・跋・扈≫のシナリオ成否状況により、奈良盆地の状況が決定します。
これ等の判定は基本的に『難易度が高いシナリオの成否程』重視されますが、『成否に関わらず戦況も加味して』判定されます。
総合的な判定となります。予め御了承下さい。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】という タグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
よろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
8日
8日
参加費
50LP
50LP
参加人数
50/50
50/50
公開日
2016年07月18日
2016年07月18日
■メイン参加者 50人■

●
「うわー、よくこんなに動物が集まったもんだな……まるで動物園だぜ……ってそんなこと考えてる場合じゃねぇな。絶対こいつらを倒さなきゃな」
奈良県の山の麓近く。
大群の前面部隊が、炎に氷に雷を撒き散らして進軍する。ミカゲ率いる百獣の妖達との最前線に、鯨塚 百(CL2000332)は立っていた。
「燃え盛れ、オイラの炎!」
己が炎を活性化させ。
激しい炎を纏わせた一撃で、獣を思い切りぶっとばす。氷使いの妖は、文字通り凍解するように四散した。
「色んな動物がここまで沢山だと絶景だなー。これで妖じゃなきゃスゲー平和で和む光景なんだケドねー」
辺りは、殺意剥き出しの獣だらけ。
国生 かりん(CL2001391)は、中衛から火球を飛ばし敵を焼くが。消し炭になったものを踏み越えて、敵群はあとからあとから押し寄せる。
(アタシはトーゼン火弱点の敵は狙ってくんだケドもソイツだけに拘らないよーに。ちまちま火弱点の敵ばっかり狙って攻撃の機会ケチるぐらいなら1体でも多くの敵を一気に巻き込んでいくよ~!)
火柱が舞い、多くの妖がそれに巻き込まれる。
南条 棄々(CL2000459) は守りを固めて、そこを越えてくる妖を狙った。
「こんなに獣たちが……あんたたちに好き放題暴れられたら胸糞悪いのよ。あと獣臭いし」
だからとっとと片付けたいわ、と。
身体の一部を硬化させての強打を振るう。コヨーテの妖は雷撃を放つ間もなく。ぐちゃぐちゃになった肉体は、もはや原形をとどめていない。
「この正面部隊を貫ければ、状況は良い流れであるが。さて、そう都合よくいくかどうか」
力を滾らせた華神 刹那(CL2001250) による抜刀。水術式が弱点の標的を撃つ。刀身から発された氷が貫通し、後ろの妖達ごと突き刺す。
「何にせよ、思想を塗り固められた原理主義者に比べれば、まだ獣の方が斬り甲斐もある」
……素直な戦である、楽しんで過ごすが吉よ。
動きは止めず、群れの動きを少しでも読み。敵の手薄なところを狙って次の敵を仕留めていく。
「人に仇なす妖……牙を剥く理由はあるでしょうけれど。死ぬわけにも、死なせるわけにもいきません」
アレサ・クレーメル(CL2001283)は、英霊の力を引出し。
大群と対する。
「騎士、アレサ・クレーメル……いきます!」
対象は数の多い列、敵の数を一つずつ減らしていく。
鹿ノ島・遥(CL2000227)と天堂・フィオナ(CL2001421) は肩を並べ、正面を見据えてガンガン前へと出ていった。
「男は黙って正面突破ァ!! 行くぜ天堂! きっつい戦場だが、こいつら突破して、親玉ぶっ飛ばしにいくぞ!」
「ああ! 正面から真っ直ぐ行くのが、私達の性に合ってるよな!」
襲い掛かってくる群れに、遥は片っ端からカウンターを叩き込み。連撃でトドメを刺す。フィオナは後れを取らないよう、活性化した炎を極力維持し。疾風斬りで一気に攻める。
「天堂、無理すんじゃねえぞ! お前まだ実戦慣れしてねえんだから!」
「君は流石に強いな! だが、私だって! 多少は強くなったんだ、意地でも付いていくぞ! 君の方こそ余所見はするなよ!」
「おっ、やる気満々か! こりゃ悪かった! じゃ、オレも負けてらんねえな! 二人でここを突っ切って、敵の大将の鼻っつらに一発ぶちかまそうぜ!」
遥は敵を正面から受け止め、群れを切り開きながらミカゲに迫らんとする。先行く仲間が傷を負わせた化け物へと、フィオナの火が叩き付けられた。一体でも多く落とす。
「知性があろうと、できるのが力押しだけなら脅威ではない、と言う認識でしたが。ここまで来ればその認識も改めるべきですね、極まれば単純な力押しと数の暴力ほど厄介な物もない。ならば、こちらも数を頼みにするしかないですし、連携で上回れれば突破口も開けるでしょう」
氷門・有為(CL2000042)は群れをブロックしながら押し留めつつ、削っていく。
長期戦を想定して反応速度を上げた。空気を熱圧縮させた衝撃が、大型の熊を吹き飛ばし敵陣を乱す……ただ、消費が多いので多用は禁物だ。
「内なる炎よ、目覚めなさい! 開眼!」
鈴駆・ありす(CL2001269)は、額に開眼しつつ灼熱化する。
炎の津波が巻き起こり、空を飛ぶ鳥を落としにかかる。周りは敵ばかりで、正直狙いを付ける必要もないほどだ。
「何処もかしこも、雁首揃えれば良いってもんじゃないのよ!」
息巻くありすの炎。
そこに合わせて、ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も更に火を呼び寄せる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
炎の津波が、広範囲に妖達を焼き尽くす。
火が苦手な者にはこれはひとたまりもなく。数十体の妖達が餌食となった。だが、すぐに今度は別の妖達が殺到して雷や炎の返礼をしてくる。真っ先に狙われたのは、いましがた大量の敵を仕留めたラーラ達だ。
「ここで保健委員の渚が参上!」
腕章を翳しながら、栗落花 渚(CL2001360)は味方のフォローを行った。この大群戦、回復や補給は欠かすことができない。それを怠った者から倒れていくこととなる。
「邪魔すると怪我しますよ」
菊坂 結鹿(CL2000432) は、まずは火を使う妖の多いところに攻撃を集中していく。
氷巖華をぶつけて空いた穴に飛び込み。重突でその穴を拡大する。
「立ち塞がるものは容赦しません」
「オオオオオ!」
味方がその穴を抜けて進み、敵が態勢を整えて来たら一旦下がる。
その繰り返し、根比べだ。
「窮鼠猫を噛む。弱いと侮ってるボク等人間がどれ程の力を持ってるか、身をもって知ってもらおうか」
そう言い放つ四条・理央(CL2000070) は、立ち塞がる炎を使う山猫へと水竜をぶつけ。氷を使う鼠達へと炎で追い払う。
技を使い分けて兎に角最前列の敵を攻め立てた。
「水行と火行、どちらも使ってくる人間は珍しいかな?」
ミカゲへの道を作る事を優先して、自身は戦線維持や突破口の確保に注力する。
深緋・幽霊男(CL2001229)は、1人で突出する事を避け攻撃の際もダメージが大きい物を優先し列に巻き込む。
臭いで周囲の状況を確認し、死角からの攻撃を警戒していたが……そこへ。
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
群れの中心から、耳の奥まで残る雄叫びが震動する。
ミカゲ……三つ首のその巨体は、遠くからでも十二分に異様だった。将の一吼えが戦場全体に轟き、妖達はまた狂ったように暴れる。
「あれがミカゲですか……。何とも恐ろしい姿ですね」
血に塗れた敵意に、諏訪 奈那美(CL2001411)は多大な重圧を感じざるを得ない。
ましてや、今からあの中心へと飛び込もうとしているのだ。
(恐れてばかりもいられません。私達の使命はあれを倒すことなのですから)
この一瞬の間にも、多くの味方が血を流している。
それを少しでも癒し、近付いて来る火の妖に水の礫を見舞う。葛城 舞子(CL2001275)も、後衛から回復役を務めた。重い傷を受けた者から随時、忙しく治療を行う。
「頭が3つもあったら、餌代大変そうッスね! 首輪もつけにくいし、散歩も一苦労ッス!! ……そもそも飼うこと自体、難しそうッスケド!!」
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ……今までの経験から人間など簡単に踏み潰せると思っているのなら自分の首を気にした方が良いのですよ」
援護を受けた橡・槐(CL2000732)は前衛で戦線維持を第一に努める。
その横では椿屋 ツバメ(CL2001351)の炎を帯びた大鎌が、氷を吐く豹達を薙ぎ払う。
「まずはミカゲに辿り着く前に、私は氷使いの妖の相手だな」
駆け抜けるように相手を斬り裂き、連撃を放ち。
遠くの敵へと第三の眼から光を浴びせた。標的にだけは不自由するという事は決してない。
「牙王と共に、ミカゲも、来ましたか。牙王に、負け続けていると、言う話を、聞くと、どうしても、格下に、思ってしまいますが。ランク4の、強大な敵です。油断なく、参りましょう」
「ミカゲも牙王と一緒に来たの? ふふ、実は仲良しなんじゃない? 牙王を倒した私達に襲い掛かれば楽に獣妖の長になれたでしょうに。それともオツムが可哀想なのかしら。いずれにせよ、ここできっちり仕留めて行くわね」
神室・祇澄(CL2000017)正面から敵を突破しにかかる。
それにエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が、水のベールを纏わせて追従する。
「邪魔です。道を、開けなさい!」
土の鎧で守りを固めた祇澄は、敵陣に突っ込み岩砕で道を開いていく。エメレンツィアは仲間を支援しつつ、荒波を発生させて道幅を広くする。
「ふふ、こんなに攻勢に出たのは久しぶりね」
●
「あれがミカゲ。ケルベロスとはあのような姿なのでしょうか?何にせよこれ以上死傷者を出す訳には参りません。全力で行きますわ!」
敵左翼部隊には、高密度の粘りつくような霧に覆われていた。
それは後衛に就いていた秋津洲 いのり(CL2000268) によるもの。弱体化させた敵へと、星のように輝く光の粒を頭上から降らせる。
大型の肉食獣達が、流星の煌めきの犠牲となる。
ミカゲと相対する前に、敵左翼部隊の隊列を乱したい所だ。
こちらは範囲攻撃が得意な人間が多い。先ずは飛行出来る者が敵の頭上から、敵部隊の隊列中央に天行での攻撃を集中させる。天行術式が苦手なら、前方からの攻撃と隊列中央付近への攻撃で、多少は混乱させる事が出来るかもしれない。
「此方の妖は堅牢な物が多い様ですね。弱点は天行……天行全員で集中的に突けば、そこから突破口が開けるでしょう。私は私のベストを尽くします」
梶浦 恵(CL2000944)の雷に敵が穿たれる。敵左翼は装甲自慢の部隊だが、天行の技には成す術もなくバタバタと倒れて行った。そこに、圧縮した空気を解き放ち。更に霧を濃くする。
「何としてでもミカゲにご対面してやる! こっちは防御力高いらしいけど、これだけ弱点の天行が揃ってるんだ。突破できねーはずねーぜ!」
脣星落霜で全体に攻撃。少しでも数を減らす。
成瀬 翔(CL2000063)は二撃目に雷獣でなるべく敵が固まってて纏めて攻撃できそうな所を狙った。こっちの囲みを抜けようとする奴がいれば、そこを優先。他の班と連絡取りつつ突破を目指す。
「初めての実戦から間もないのに、まさかこんな大きな戦いに身を投じることになるとは……とにかく、やれるだけのことはやりましょう!」
天羽・テュール(CL2001432)は演舞・清風で味方を鼓舞する。
(何故、こんなにたくさんの動物たちが怒り狂って妖になってしまったのでしょうか……哀れかもしれませんが、もう倒すしかないんですね)
人と獣が永遠と殺し合いを続けている、目の前に広がる光景。
地獄というのがあるなら、これに近いものなのかもしれない。
「わずかではありますがボクの魔力、受け取ってください!」
少しでも助勢を。
皆が皆、己に出来ることを行う。
「ふっ、弱肉強食適者生存は自然として正しいですねっ。自然はただ只管にストイックに選択するのみですっ。強弱の尺度など移ろうもの、一つの物差し等脆いものっ。正しさの上で戦いましょうかっ」
月歌 浅葱(CL2000915) は、飛燕で敵を打ち払い。
固まっている者には召雷を浴びせる。
「さあっ、張り切って突破しましょうかっ」
正義の味方(自称)にしてみれば。
強弱の差なんて最後に立ってるかのみだ。そして、雷撃によって立っていられなくなった妖達を覚者達は乗り越えていく。
「じゃあツム姫、背中は任せ……あれ? どこ? ツム姫どこー?」
フォローを当てにしていたプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は、麻弓 紡(CL2000623)の姿を探して右往左往していた。
「え、あ。ハイハイ……任せられた」
紡は今回の決戦、見守りたい子筆頭の2人は王の元で気も漫ろ。
届いた殿の声に現に返って、やるべき事はやろうかな……と気合を入れて、愛用パチンコの棹を握り直す。
(……ツム姫が女子達に夢中で構ってくれなくても泣かない)
プリンスは因子の力で耐性を高めた身体で、敵へと向かう。連撃を繰り出して巨大な猪を止め、そのまま強烈な突きで相手を貫き。連打で獣を群れごと薙ぎ払う。
(殿の周りには、目を光らせておかないと)
そんな自由気侭に動く殿の周りにいる敵へと、飛行を使いながら紡は艶舞・寂夜と纏霧で支援する。そのあたりは、いざ戦闘となれば抜かりはない。
「被害を最小限に抑える為も此度は攻撃優先で動くとしよう」
由比 久永(CL2000540)が後衛から迷霧で弱体化後、脣星落霜や雷獣にて一掃する。ただし、体力・BS・気力共に回復が足りぬ場合には手を貸した。
「やる前にやられては元も子もないからなぁ」
「ここは、防御力の高い動物系が多くいる場所。事前にわかっている僕たちの人員も多い方ではないし、耐久戦と思うべきかな。数の比率としては敵が圧倒的だけど、普段よりこちらも絶対数は多いのだし。弱点の天行使いが揃っているし」
宮神 羽琉(CL2001381) は、少しでも『普段より安心できそうな点』を呟いて少しでも落ち着こうとしていた。飛行で最低限浮遊しつづけて、転んだりしないように鳥型が多くなければ、長距離移動時のみ高度を上げて視界を広く取る。
(敵を倒すよりも、ひとりでも少しでも無事であるように、立ち回る)
乱戦時は怖いが、上がり際を引っ掛けられては危険なのであくまでも浮遊に留める。纏霧で弱体を付与してまわり、填気で大技を撃つ者や回復主体の者を補佐した。
「私達の役割は皆を支える事。頑張りましょうね」
「これだけの数が街に出たら、大勢の人が……そんなこと、絶対させません。頑張りましょう、椿さん。私たちが皆さんを支えるんです!」
三島 椿(CL2000061)は、微笑みかけて気合を入れて水龍牙を。震えそうだった守衛野 鈴鳴(CL2000222)も勇気を出してエアブリットを放つ。
(私の目標の人。本当に心強いですっ)
傍らの椿の姿は、鈴鳴に力を与えてくれる。
超直観で敵味方の位置や傷の具合を把握。
後衛に立って回復の漏れが極力出ないように、椿と鈴鳴は範囲を分担。潤しの雨、潤しの滴を使い分けて範囲内の味方を回復。行動を阻害する状態異常を受けている者は深想水で治療した。
主に回復を行っていたのは切裂 ジャック(CL2001403)も同じだ。
「さあここで終わらせようぜ! 妖たちの跋扈は勘弁だ!これは人間の都合だろうが、人間としちゃあ譲れない。これ以上、だれも傷つけさせねえぞ!!」
手が空いたときには、敵を焼く。
心のなかでは済まないなって思ってる。
(だけどそれは今できるわけじゃないって思うんだ。だからこの戦いを瞬間記憶で頭に叩き込んで、妖たちの叫び声も覚えて……これさえなくなる世界にしたいわけよ!!)
いつか、妖と分かち合える世界にしたいと願う。
「だから、今日はやりたくないけど、殺すんだ。ごめんな、ごめんな……!!」
戦場では、さまざまな思いが交錯するものだ。
ジャックのように思う者もいれば、また――
「どのような背景とどのような思惑が渦巻いていようとも、眼前の敵は打ち倒さねばならないというのは面倒ですねぇ。最も、さもなければ喰われてしまうのですけれども、ね」
雑魚敵と踊っておきましょうか、と。
エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)は後衛に立ち、広範囲に脣星落霜を放ちながら迷霧でステータスダウンを狙う。
防御力が高いとはいっても、効果の高い術式を放てばそれも無意味。
気力が尽きかければ大填気で補充。そんな背を神祈 天光(CL2001118)は、刀を手にして守る。
「どのような化け物が相手だったとしても、この神祈 天光。人を護る為にこの場にやってきたでござる。――この命、使いはたそうとも。一人でも多くの人間を護るでござる!」
海衣で守備力をあげつつ、防御に回る。
負傷した者や自分自身を癒しの滴で治療しつつ、少しでも長く立ち多くの攻撃に耐えてみせる。
「嗚呼――集団戦は好い物ですね。
人の自らの命のため足掻き狂い一縷の望みを求めてあげる声。
……僕が好む、とても好い音色だ」
「エヌ殿、毎度のことでござるが、不謹慎でござるよ。拙者らは人が苦しむ声を聴くがために此処に立っているわけではないのでござる!」
●
「敵右翼を攻めていた部隊が、毒に冒されている模様です!」
前面、左翼と激戦を繰り広げると同時。右翼方面でも苦戦が続く。
報告の声にはじかれたように、向日葵 御菓子(CL2000429)は敵右翼と戦っている部隊へと向かった。
「毒は私が治せます。後ろに下げて!」
「う、うう……だが」
「無理せず早めに下がって」
苦しんでいるAAAの隊員達へと声掛けながら、深想水や癒しの霧で回復役に徹する。
そこに蛇の大群が俊敏に毒液まみれの牙を剥くが、三島 柾(CL2001148)がガードに入り。後衛の皆の道を切り開くように妖達の動きをみつつ攻撃を避け、ガンガン攻撃していく。
「速さならそこまで遅れはとらない、みんなの足手まといにならないよう頑張るか」
スピードを上げ、目にも止まらぬ連撃で妖達を狩りとる。
蛇のなかに、最も巨大な体躯の大蛇が目に留まり。リーダー格と見るや、率先して狙って先制する。
(スピードには自信ないから後ろの方で攻撃と回復しよ。それにしても、よくこれだけの妖達を集めたな)
と、東雲 梛(CL2001410)も第三の目を額に現し。
香仇花で敵列を攻撃。
破眼光と棘一閃で呪いと出血の付与を行っていたが。
(あの大蛇がリーダー格の一人か)
柾が対している妖が、要の一つだと超直観が告げる。
すぐにそれを、スキルを使って他の者へと伝播させる。近くにいた者達は、それに反応して動き出す。
「包囲戦術と来れば、かのハンニバルに倣おうか。逆に言えば、敵にやられれば危険だが……その敵の機動力を叩きつつ、有利に戦況を運ぶべく敵右翼を攻めるのがベストだ」
坂上 懐良(CL2000523) が、地列で素早い敵を優先的に処理しつつ攻め上がり、包囲殲滅を行う。
「後は、オレ個人が突出しすぎないように気を付けるってところか。個より、集の力こそ、兵法だからな」
懐良の言う通り、単純な数の戦力だけなら妖達には敵わない。
桂木・日那乃(CL2000941) は右翼の者達を――AAAも含めて――送受心・改でつないで状況と行動を情報共有して動きやすくする。
「わたしは、後衛からBSと体力の回復してる。あ、FiVEのひとだけじゃなくて、AAAのひとも」
……最初は、ミカゲの部下の妖と戦って、突破されないようにしないとで。そのあとミカゲとも戦闘するかも、だから。
(こちらの敵は毒を使うようですので、最初に清廉香を使いましょう。切れたらかけ直すように気をつけます)
自然治癒力を上げ、天野 澄香(CL2000194) は中衛の上空から全体を見ながら攻撃する。敵の数が多いうちは、濃縮した毒を与えるように相手に流し込む。
「毒はそちらだけの専売特許ではないのですよ」
毒で意趣返しされた大蛇がもがき苦しむ。
味方が作り出し好機に、鈴白 秋人(CL2000565) は水の竜をぶつけ。檜山 樹香(CL2000141)が地烈でトドメを刺した。
「弱点は木行でスピード重視の妖か……俺はそれ程スピードに自信がある訳じゃないから回復メインに立ち回らせて貰うね」
「さて、決戦じゃ。敵はミカゲ、群狼のランク4の妖じゃ。これを倒さねば、人に危害を及ぼす危険な存在じゃ。なれば、全力をもって彼を討ち果たす。それがワシ等の役目じゃな」
敵はまだまだ、気の遠くなる数。
リーダー格の一体を倒したことで乱れた戦列へと、第六感で不意打ちに気を付けながら秋人は自身に超純水を取り込み。波動弾で弾幕を張る。回復の際にも周りとの声掛け連携は必須だ。樹香は捕縛蔓を用いて敵を足止めし、棘散舞や地烈にて攻撃。敵の機動力を奪い、少しずつ進路を確保することに専心した。
「AAAのおっちゃん達! ファイヴも来たよ! 一緒に頑張ろう!」
工藤・奏空(CL2000955)は先へ進む仲間達への全面援助。
ハイバランサーで確実に足場を確保して敵の動きを捉えつつ。上空から守護使役のていさつで状況を見て送受心・改で周囲の仲間に伝える。
「スピードには負けない自信がある。逆に俺のスピードについて来れるかな!」
向かってくる敵には速度を活かして先手必勝。
迷霧で弱らせ、こちらは錬覇法で強化。雷獣で攻撃して切り込み。薄い壁を切り崩して道を作る。
「天行の舞をとくと見るがいい!」
演舞・舞音と癒しの滴は出し惜しみしない。と言うか、得意気だ。
自身、仲間の気力回復には填気。
(生存競争なのでしょうね。相手がどう思ってるかはしりませんが)
紅崎・誡女(CL2000750)はエネミースキャンを広く浅く実施。
BSの付与状況、敵の残体力等を主体に調査し、周囲と共有し攻撃の効率化を図るためだ。相手に虚弱付与を主眼に行動し、時にはわざと攻撃を回避させて敵集団の流れを乱し誘導する。味方の体力回復の手が不足するときは癒力活性で補助した。
「オオオオオオオオ!!」
「どうしてこんなに怒り狂っているのでしょう……私にはなんだか哀れに見えます……」
後衛にいたとしても安心はできない。
数でこちらを凌駕する敵が怒号をあげるのを、神幌 まきり(CL2000465)は棘一閃で撃退した。
「自然よ……妖たちが暴虐を尽くす前に私たちに力を貸してください……」
出来れば毒の治癒に努めたいところなのだが、状況がそうもいってられない。
祈りを捧げるように味方を癒し……そして倒れた味方の前に出て木行の技を振るわなければならなかった。
「冗談じゃないっての、あんなバケモンと戦えってのか! みんなでやれば勝てるとか大丈夫とかそんなんじゃなくてさ、オレはもっと根本的にあんなのと戦わなきゃいかんのかって事を言ってんの!」
緋神 悠奈(CL2001339)は毒づきながらも自身を守るためにも、眼前の敵に対処しなくてはならなかった。気を抜けば毒牙で瞬時に噛み付いてくる妖達に、手を抜く余裕などありはしない。
「まー、うーん、でもどうだろうなー。こんな命懸けなこと滅多に味わえないしなー。何が分が悪いかはわかんねーけど、やるだけやってみるか……はぁ……」
とりあえずまぁ、死なないように頑張ってみるか、と。
とにかく戦線を支える。どんな感慨を抱くにせよ、全ては生き残ってからあとのことである。
「それじゃ、できることをそれなりに」
黒桐 夕樹(CL2000163) は清廉香を使用し毒対策。
ライフルで敵狙撃し、棘一閃発動。捕縛蔓で行動を阻害させ、隙を生み出す。
「毒、ね。俺の毒の味も教えてあげるよ」
「ッツ!!」
木行の毒を逆に見舞うと妖達は猛然と苦しみ出す。そこを深緑鞭で強かに打ち付け。負傷者らに敵が接近したら、妨害の為援護射撃を行う。
(視野を広く持ち敵の攻撃に備えます)
鷹の目を持つ七海 灯(CL2000579) は、前衛として天駆で強化された状態を保ちつつ。地烈で攻撃して乱戦を戦い抜いていた。通常では捉えきれない急角度から迫る蝙蝠を視認すると、瞬時に身体が反応して敵を叩き落とす。継続して戦いを有利に進める。
「スピード勝負! 本当に早い人たちには勝てないけど……そんじょそこらの奴らよりは速いんだからね!」
御白 小唄(CL2001173) は、演舞・清爽で皆の底上げを行う。
「みんな、いっくよー!」
「小唄さん、あまり突出しないよう」
地烈でまとめて敵をぶっ飛ばす小唄。
それを追い掛けるようにクー・ルルーヴ(CL2000403)は双刀を振るう。エネミースキャンと鋭聴力を駆使して戦況把握に努め。囲まれないように、そして、味方や小唄が効率よく動けるようにサポートする。
「キミは、私が守ります。これ以上傷つけさせません」
二人で敵陣深くまで駆けるほどに、敵の攻撃は熾烈さを増す。
次第に傷を増やす小唄を、蔵王で守りを固めたクーがガードし。返す刀で相手に出血を強いる。その隙に、味方は更に進んでいる。
「クー先輩、僕たちも行こう!」
負けじと小唄も切り込んでいく。
敵につけられた傷は痛むが、まだ立っていられる。
(毒なんかに怯むもんか! クー先輩が僕を庇ってくれてるけど、僕だってクー先輩に無茶はさせられないんだ)
纏わりついてくる奴らを連撃で払う。
その闘志が更なる道を生み出す。
「邪魔をするなっ!」
奮闘する小唄。
クーはじっと目を離さずにいた。
(敵の目的など知りません。私は私の守るべきものを守るだけです)
●
戦場が血の匂いで包まれる。
このとき、戦線を完全に把握している者は存在しなかった。
覚者達と妖達との戦いは、一進一退を繰り返す。ミカゲ率いる化け物達の群れは縦横無尽に駆けまわって、今にも楔から解き放たれんとする。覚者達は暴れ回る大群を三方から、何とか押さえつける。あたかも、巨大な獣を三つの鎖で懸命に縛っているような状態だった。
敵は倒しても、倒しても、何重にも立ち塞がってくる。
殺して、殺されて。
疲労と傷が蓄積する。
人と獣の死体が散乱した大地で、正気を保つことすら困難だ。
「ガアアアアア!」
「我が雷よ、怒れる妖たちを焼き払いたまえ!」
既に傷だらけとなったテュールは召雷を目前の敵に斉射する。
屈強なバッファローが倒れるが、その後ろから今度はサイが突進してくる。それを浅葱がガードに入る。
「ふっ、倒させませんよっ。一人で戦うものではないですしねっ」
そのまま浅葱は体力減った者命力翼賛や癒力活性で回復させる。息を吹き返したテュールは、今度は破眼光を繰り出した。
「ボクに宿る第三の目よ……その力を解き放て!」
手の平の第三の眼からの光線。
そこに合わせて、味方が集中砲火を浴びせ。また敵の壁の一枚を削る。その先に――
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」
ついに。
三つ首の巨獣の姿を至近にとらえた。
今回の戦い、ミカゲに最初に到達したのは左翼から攻めた者達だった。鉄壁に近い防御力を誇る妖達を、天行の技が上回ったのだ。
「お前は永遠に一番にはなれねーよ。ここでオレらに負けるんだからな!」
敵大将に翔が初の攻撃を仕掛ける。
三つの頭をまとめて狙い、B.O.Tの弾が駆け抜ける。人間も動物も仲良くやれるといいのにな……と考える、彼の想いがこもった一撃だった。この事態を引き起こした三つ首へと、思いの丈が衝突する。
「想像以上に敵を混乱させることができましたね」
気力が尽きる前に填気で回復し、恵は癒しの滴で皆の補助をしながら頷く。
読み通り、広範囲の天行を頭上から浴びせたことで敵部隊は少なからずその秩序を乱した。前方と中央付近は瓦解を始め、そこを覚者達は踏破したのだ。ただ、こちらの攻撃手も少なくなっていきている。ここからは、自分も役割を変更する必要がありそうだ。
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
ミカゲの三つ首がこちらの鼓膜を突き破る勢いで猛る。
この世の不機嫌を全て混合したかと思わせる、怒声だった。
「何を怒っているのか知りませんが、いのりの方がもっと怒っておりますのよ。これ以上罪無き人の命を殺める事は許しません! 覚悟なさい!」
いのりがミカゲに接近。
彼の者に迷霧をかけ、三つの首全てを目がけ脣星落霜で攻撃。多くの妖をここまで屠って道を開いてきた光の粒が、敵将にも降り注ぐ。
この後も続々と、左翼を攻めていた者達が穴を抜けて攻撃に移る。
「こんにちは! 大変申し訳ないけど、王家のペットはファンシー系以外禁止なんだ」
「殿ー、オイタなケモへのお仕置きは任せた」
プリンスは貫殺撃で敵の頭を同時に打ち抜き、王家の素敵な笑顔を刻み付ける。紡のタイミングを合わせた高等演舞がそれを後押しする。
「ていうかこのワンコ、下剋上とか言ってなかったっけ。諦めたの?」
「もふもふさせてくれる子じゃない残念すぎる……」
プリンスは首を傾げ。
紡は、ふぅとため息。
戦場でも、ぶれない二人だった。
「怒りに任せて進軍とは……三つも頭があるのに宝の持ち腐れだのぉ」
敵将を近くから眺めて、悠然と呟いたのは久永である。
迷霧で辺りを覆い、攻撃の準備をする。
「首の弱点はつけぬから、余は体を狙おう。さすがに心の臓はひとつだろうから、それを落とした方が手っ取り早い気がするが……まぁとどめにならずとも、進軍を阻止できれば首を落とすのもやりやすかろう」
敵の動きを止めるため、雷獣を胴体目掛けて放つ。
ところが、頑強なミカゲの身体はそれをはねのける。首以上に他の部位は強固なようだ。
「三つ首の噂は聞いていたが、これはなかなか……やれ面倒な相手だのぉ。まぁよい、この世は弱肉強食というならば、どちらが強者でどちらが弱者か……思い知らせてやらねばなるまい」
何にしても難題には違いない。
左翼を突破したといっても、敵を殲滅したわけではない。開いた道は刻一刻と細くなり。今度はこちらが、包囲されようとしている。ミカゲだけ相手をしているわけにもいかず。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
また、ここは死地の中心。
大口を開けたミカゲの牙が、AAAの隊員を襲う。不幸にも的となった若者は、刹那の間に肉塊に変わって転がった。悲鳴をあげる暇すらなく。その死体には、頭と右足がなくなっていた。
「みんなを支えなくちゃ。ここが突破されたら街に被害が行く。そんな事はさせない」
「私たち人間の力、甘く見ないでください!」
椿は必要な際は迷わず回復して、友軍を支援する。鈴鳴も倒れそうな味方を庇い、治療を行う。羽琉はそんな回復手達を填気でフォローした。
「誰も死なせないぞ。誰一人な!! 俺達回復の役職がどういうものかわかるだろ!」
ジャックは叫び。
戦闘不能で倒れた男を後ろに投げる。だが、その者も息をしているかどうかも分からない。
ようやく妖の群れを抜けてミカゲに到達した覚者達は、蟻地獄の中におさまったような感覚に襲われていた。目の前にはランク4、後方には妖達が背中を押してくる。
通常ならこのまま挟撃されて圧殺されるところを。何とか堪えてみせたのはこのまま飲み込まれてたまものかと、覚者達が勇戦したからに他ならない。
事態が変化したのは、体力気力共に危険域に入らんとしていた頃合いのことだった。
「エヌ殿、あれは――」
周りの敵を斬り払った天光は、妖達の一角を指差す。同行者のエヌは、そちらに視線を巡らせて――味方が群をなして敵影を蹴散らしている姿が写った。
それは、前面から敵を攻めていた者達だった。
「かわいい動物の妖は倒すのにちょっと抵抗があるけど、それでもこの先で暴れさせるわけにはいかないのよ」
棄々が斬・一の構えからリスの妖達を斬りつけた。
前面から激戦を潜り抜けてきただけあって、身体も気力もぎりぎりのところだ。
「体術だって、効かないわけじゃないでしょ? 今度はズタズタにしてあげるわ」
小型なものだけではない。
ここまでくれば強靭な妖がひしめいている。そこを押し進まなくてはいけない。
「押し込んで崩します」
アレサは攻撃を叩きこみ。
相手の列を崩すのを助勢する。強化を掛け直す暇も惜しい。
「ボクは他の人より弱点をつける幅が広い。なら、そちらの利点を生かして攻めないとね!」
理央は火で敵の氷を焼き払い。水で敵の炎を消火する。周りの誰かのMPが尽きそうなら填気で、倒れそうなら状況に応じて潤しの滴や潤しの雨で補助し。
器用に、攻守を操った。
「近接物理がメインですし、ミカゲ本体を狙うよりは、周囲の妖を狙う方がいいでしょう」
有為の疾風斬りが煌めき。
有言実行。ミカゲを取り巻く妖を斬り捨てる。彼女達が率先して道を作り、維持し、前面で戦っていた覚者達は中心地へと急行する。
「……いってらっしゃい、存分にぶちのめしてくるのよ」
ミカゲへの道が開けたことを確認し。
棄々はそう呟いてから、自身は道を維持するために周囲の雷の妖と戦い続ける。それは他の味方を救うことにも繋がった。
「おう、ケンカ売りにきてやったぜ! いっちょ勝負しようぜ大将!」
「妖どもめ! どれだけの数で来ようが、私の炎は消せないぞ!」
飛び出した遥がとっておきの正鍛拳。
併せてフィオナは最大限に集中して双撃。
予想外の方向からの渾身の攻撃に、ミカゲも虚を突かれてその巨体がたたらを踏む。それ自体は、致命打にはなりえないが。
「1度で駄目なら――もう1回!」
フィオナが叫び。
他の者もそれに続く。
(実に獰猛、実に醜悪。何とも受け甲斐のある殺気である)
気力体力の続く限り。
積極的に刹那は、切り込んでいく。
「はは! ただの殺し合いも久しいな……滾るぞ」
「ダアアアアアアアアアアアアアアァアア!!」
間一髪。
後一歩で黒焦げになるところで炎のブレスを躱し。刀身に力を溜めて放ち、心から戦いを楽しむ。
「あなたは弱者は大人しく蹂躙されていればよいものを、と考えているんですよね?その言葉そっくりそのまま返します。覚悟してください」
結鹿は霧を発生させ、自身を強化し。
スキルをフル活用でミカゲに立ち向かう。
「牙王に逆らいながらも、そのグループから出る勇気もなかった時点で、あなたの敗北は予定されていたんです」
その言葉を解したのか。
ミカゲは雷のブレスをこちらに向ける。一発で大軍をショートさせかねない雷が大地に轟く。
「憶えておくのです、慢心は常に破滅の一歩前に現れるということを」
ミカゲの攻撃範囲に入った時に警戒して、一旦中衛に下がっていた槐は雷の難を逃れていた。強化は切らさないようにし、味方ガードしながら演舞・舞音で回復を、大填気で補給を行う。そして、乱舞・雪月花で混乱を振りまく。
「何ぞ、お前「人間」みたいだの」
幽霊男は飛燕でダメージの大きい首から優先し狙っていく。
……しかし、まぁ。律儀というか。本当に勝つ気があるのか。
(己に言い訳をし。周りに虚勢を張り。気づいてるだろうさ。王とやらは。そのザマに。群れの結束を維持するための儀式。約束事。出来レースって言うんだぜ? 人の世界では。まぁ、いい。あまり虐めては可愛そうだしの)
死して屍拾う者なし。草葉が墓標よ。
敵の牙を喰らい。血を流し、今度はこちらの牙でその首を喰い飛ばさんとする。
「大き過ぎる身体というのも考えものね? 強大な力だろうと、それが弱点になる事もあるわ。最後に勝つのは私達よ」
エメレンツィアは伊邪波で三つ首全部まとめて標的とし。
決然と宣言する。
「全てこの女帝の前に跪きなさい!」
その覚者の後ろから。
祇澄が躍り出て、岩砕で三つ首をこちらもまとめて攻撃する。
「神室神道流、神室祇澄。いざ、参ります!」
雷の首を土行だけで落とすのは無理だろう。
ならば、その力を削ぐ事に注視する。自分達しか倒せないわけではないのだから。
「ふん、三つ首の狼なんてケルベロスじゃないんだから。むしろ、アタシ達がアンタを冥府送りにしてあげるわ、覚悟なさい!」
幾多の敵を焼いてここまで来たありすは。
ミカゲと相対するやいなや、氷の首めがけて火焔連弾を撃ち込む。
「見えた! そこよ、燃えなさい!」
「ッツ!?」
氷の首が爆炎に包まれる。
一つでも落とせば相対的な勝機に繋がるというのなら。
(見せてあげようじゃないの、火行の……アタシ達FiVEの火力を! 動けなくなるまで全力で撃ち続けるわ。ここで必ず、アンタは倒し切るんだから!)
風が吹く。
炎はゆらめき、更に大きく燃え上がった。
「アタシ達の炎は全ての敵を燃やし尽くすわ!」
アタシ、達。
覚者の攻撃はまだまだ終わらない。
「これがミカゲ……今まであなたの邪魔してたのは私だよ。ごめんね。今回も好きにさせてあげられないんだ」
「遂にミカゲさんと相対する時が来たんですね。決着を付けましょう」
渚にサポートされたラーラが、力をみなぎらせ。
今日一番の火柱をミカゲの周りに呼び寄せる。ランク4の妖のみならず、他の周りの妖達を火あぶりにする。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「私の白狼とどちらが強いか……どちらかが喰らい尽くすまで、勝負と行こうか」
ツバメは氷使いの頭をメインに集中的に狙いつつ。
得意の列攻撃で全体の体力を少しずつでも削って行く。爆裂掌を叩き込み、疾風斬りと地烈で攻撃。敵の氷柱をハイバランサーと超柔軟で俊敏に躱していく。
「氷を放つ首を火炎弾で集中して狙ってくよー」
かりんのノリは軽いが、彼女なりに真剣である。火箸手裏剣と火術符を投げ、皆と同じように攻勢をかける。対して舞子は回復役に徹していた。強敵が相手なのだから、ここがやられると困る。
「どっちかっていうと犬より猫派だし、それ以上に鳥派ッス!!!」
などと尽力しながらも。
もしやられる時は、その前に味方を庇ってから力尽きるつもりだった。
(「あとは任せた……!」って言ってみた…じゃなくて、一人でも長く立っていられた方が一矢報いるチャンスができそうじゃないッスか! )
幸か不幸か。
今の所、まだそのチャンスはきていないが。
「ミカゲ、貴方は見誤っています」
奈那美は出来るだけ直接敵と接することのないよう、後衛の内側の陣取り。火を放つ首に水礫を撃ち込む。
自分達には貴方のような鋭い牙も、恐ろしい爪もない。
個々の戦力で見れば貴方の足元にも及ばない。
「人間の強さは、数と知恵です」
……ヒトの強さを認めず、弱いところだけを見て侮った貴方の敗北は必然です。
そう、奈那美は思う。
そして、その数の強さが最後の方角から勢いよく現れる。
「僕たちFiVEを……人間を、舐めるなぁっ!」
一気に駆け抜け。
小唄が地烈でミカゲの首を蹴り飛ばす。
「デカけりゃ良いってもんじゃない! 良い的だ!」
三つ首全部倒せってんなら、全部纏めてやってやる!
そんな様を、クーは見守りながら敵将の首をスキャンする。その結果――
「狙うべきはあの首です。まずは一つ、いきましょう」
氷を放つ首の疲弊が激しいと察知。
味方にも通達する。皆が――右翼部隊を踏破した覚者達が、そこへ狙いを定めた。三方に分かれていた戦力が、今ここに結集した瞬間だった。
「さあ、往こうぞお前様方」
周囲の状況を常に把握していた樹香。
進路が確保し仲間と共にミカゲへと切り込む。
「この世は弱肉強食と言うのなら、お主が倒されるのも理かもしれぬぞ?」
あまり人間を侮るな、ミカゲ。
と、積極的に攻撃を仕掛けに行く。木行の技が唸りをあげる。
「さて、ここからが正念場ですか……3つ首……妖として生まれたのか動物が変異したのか気になりますね」
誡女はミカゲの頭へ虚弱と痺れの付与を主軸にすると同時に、重篤な状態になっている味方への癒力活性による支援を行う。
「……、あれがミカゲ。被害が出るなら消す」
日那乃はしかと敵を見据え。
回復で皆を差させる。気力が足らなくなると、それに気づいたテュールといのりが近付いて補給してくれる。他の面々と合流したため、この手の連携も取りやすくなっている。
(まず狙うべきは、氷の首か。ミカゲは逃がさずに、ここで叩き潰せればそれがいいが、ま、欲はかくまい。囲師は周することなかれ、だ)
懐良はミカゲが身体活性に対して双撃を行う。
敵に休む隙は与えない。
「そんなんで牙王を倒せるのか」
「ガ……アアアアアアアアア!!」
柾はミカゲを挑発して注意を後衛から逸らす。
灼熱化を使用し、飛燕と五織の彩を使用してミカゲに攻撃した。
「ふーん、お前がミカゲか」
梛は香仇花を使用。
弱体化を図り、攻撃を一番受けている氷を放つものを主に狙う。
「もういい加減眠りな、牙王は俺達が倒すからさ」
やる事はちゃんとやる。
手なんか抜かない。
「お前ら『妖』って存在はそもそもなんなんだよ! 教えろ!!」
奏空の慟哭にも似た問いに対する答えは、三つのブレスだった。
だが、そのうちの一つ。氷のブレスの勢いが、やはり他と比べて動きも速度も鈍い。確実に相手も消耗している。そこへ百が凍てつくブレスに身を晒しながらも全力で近づく。
「血と戦いを求めてたんだろ? オイラたちが相手になってやるぜ。あいにく、狩られるつもりはないけどな」
このチャンス。
逃すつもりは毛頭ない。
「この一撃にオイラの魂ごと賭けてやる!」
魂。
それは覚者にとって、命にも等しい最終手段。
その生命そのものを差し出し。等価の価値を得る。
百の全身が光り輝く。普段の二倍、三倍……いやそれでも足らぬほどの炎が、この戦場のいるすべての者を照らす。
「うおぉぉぉ、喰らえ豪炎撃!」
極大の炎がランク4の妖を襲う。
全て焼き尽くす炎は、相手の氷のブレスを相殺し。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
次の瞬間。
けたたましい爆音が空気を貫き。
ミカゲの首の一つは、跡形もなく吹き飛ぶ。
三つ首の巨獣は……いや、もうその形容はできない妖は、信じられないものを見るように失った首の跡をしばし呆然と眺めていた。
「次は雷を放つ首を倒しましょう。首をまた一つ倒す事で残りの首の力が弱まり、後の戦闘が多少楽になるはずです」
間髪入れず。
敵が停止している間に、灯が宣言し。自ら率先して、白夜の三連撃を仕掛ける。送受心・改で集中攻撃を提案された周囲の味方とAAAは頷いて、そこに続く。
(私はミカゲも牙王も関わった事はありませんけれど。こんな、人間だけではなく動物達まで巻き込んで戦いを起こすなんて事、何としてでも止めたいです)
大群を相手にしていたのと同じように。
澄香は毒を用い、棘散舞で敵の首を拘束しながら攻撃する。合流した他の部隊にも清廉香を施すのも忘れない。
「獣臭い。その牙、ここで折ってあげるよ」
夕樹は、捕縛蔓で進行を妨害していた。
別部隊担当だった紡は、そんな姿を鷹の目で見つけて届けとばかりに回復を密かに施した。
(……がんばって)
紡の視線の先の夕樹は、敵の目を狙い種を撃つ。
着弾直後に棘一閃発動。これには呆然としていたミカゲも、たまらずのたうち回り始める。すると、その衝撃に周りの妖達は巻き込まれて潰れていった。
確かな成果を得て、夕樹はそのままB.O.T. や通常攻撃を主にして近くの覚者の攻撃の隙を補うように行動する。
「少しでも、力になれたら……」
ミカゲは四方八方に残った二つの首で、炎と雷を撒き散らす。そこには、もはや敵味方の区別すらなかった。無差別攻撃の余波に傷付く味方を、まきりは清廉香や樹の雫で支援した。
「ふっ、たった一人で強いつもりならっ。群の力で凌駕してみましょうかっ。この世に真に単独でいられるものなどないのですからっ」
首を一つ失ったミカゲは、明らかに衰弱を始めている。
浅葱は仲間とともに、弱った雷の首から狙って攻勢をかけた。虫けらと侮っていた人間に、いまや完全にランク4の妖は追い詰められていた。
「二度と動物達巻き込むんじゃねーぞ!!」
翔の雷獣が、空気を震撼させる。
破れかぶれに雷のブレスが返ってくるが、狙いが甘く。逆に手下の妖達の方を貫いてしまう。
「その首、いただきます!」
「グウウウウウウウ!?」
ブレスの隙を縫い。
祇澄が土行の技を発動させる。土の力で生成された岩が、雷を吐き続ける首へと迫り。
「私たち人間を、侮った報い、その身に、刻みましたか?」
落石の大群が、その首を押し潰す。
そこで雷のブレスはようやく止まった。永遠に、である。
人を塵芥にも考えていなかったミカゲは。その人間に過ぎないはずの祇澄に、最後に残った首の目を真っ直ぐに向けた。
その目には、敵意以外の何かが込められていた……ようにも見えた。
「これで」
秋人は薄氷を叩きつけて火を操つる最後の首を攻撃する。ミカゲは、それを避ける様子も見せず。身体を揺らす。その後に秋人は回復行動に戻ってメンバーの支援に動く。
「……」
ランク4。
ミカゲは二つの首を失い。
されるがままに攻撃を受け続ける。一つとなった首を真っ直ぐに伸ばし、空を見上げていた。
「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その一吼えは。
覚者達の賞賛のようでもあり。
王へ向けた無念の声のようでもあり。
ただの、ため息でもあるかのようだった。
そこから打って変わって、炎のブレスを覚者達へと怒涛の勢いで放つ。最後の残り火を、燃やし尽くすのとその様は同じだった。
「私が時間を稼ぎます。みなさんは今のうちに態勢を立て直してください」
回復役を行っていた御菓子が、周りの疲労を考えて攻撃に転じ。
水龍牙で攻撃する。
「小さいからってバカにしてると痛い目見るんですよ。今更やり直しもできませんけどね」
今や、強大だった炎のブレスも長続きせず。
その威力も半減以下になってしまっている。それでも、ミカゲは戦うのを止めはしない。
「オレの狙いは大将首だ。だから、無駄に追いはしねえよ、小物は逃げてもいいんだぜ。」
そんな懐良の挑発にも、ミカゲは敢えて乗るように。
乗らなければ、今までの自分を否定していることになると言わんばかりに。逃げるごとなく、ただ愚直に突進する。
「これで終わりだ!!」
反動は気にしない。
柾はタツヒサの構えをとり。渾身のストレートを、敵の顔面へと浴びせる。確かな手応え。自身の手があまりの衝撃に耐えきれず出血し。
代償にふさわしい成果として、ミカゲの額を大きく割る。その巨体そのものが、後退した。
「みんなが集まると強敵だけど心強いわね」
そう椿は鈴鳴に告げて。
周囲の空気を圧縮し始める。奈良の山に風が強く、駆け抜けた。
「私の攻撃は軽くはないわよ?」
エアブリット。
それが、この戦いの幕を引く最後の一撃となり。
――ランク4の獣は、完全に沈黙した。
「良かった」
椿は静かに微笑む。
それは、この戦いの終了を告げていた。
●
いのりは犠牲となった者達に、祈りを捧げる。
ミカゲが倒れた瞬間に、あれほどまでいた妖達は突如としてほうほうに四散していった。戦場となった大地には、大量の血と骸が残されているのみ。
AAAの隊員達は、仲間の死体を回収していた。
「被害は甚大です……田中隊、水島隊、柿崎隊はほぼ壊滅状態です」
「そうか。遺族には、見せられない状態だが……後で手厚く葬ってやろう」
そんな声が聞こえてくる。
ファイヴも覚者達も、多くが身心ともに疲弊していた。むせかえるような血の匂いが、付いて離れない。それが、また不快だった。
「さようなら愚かな強者」
奈那美は、誰にも聞こえないような。
それこそ本人すら聞こえないような小声で、ぽつりと呟く。
奈良の山々に、それは木霊することすらなく。ゆっくりと、その音は風に掻き消された。
「うわー、よくこんなに動物が集まったもんだな……まるで動物園だぜ……ってそんなこと考えてる場合じゃねぇな。絶対こいつらを倒さなきゃな」
奈良県の山の麓近く。
大群の前面部隊が、炎に氷に雷を撒き散らして進軍する。ミカゲ率いる百獣の妖達との最前線に、鯨塚 百(CL2000332)は立っていた。
「燃え盛れ、オイラの炎!」
己が炎を活性化させ。
激しい炎を纏わせた一撃で、獣を思い切りぶっとばす。氷使いの妖は、文字通り凍解するように四散した。
「色んな動物がここまで沢山だと絶景だなー。これで妖じゃなきゃスゲー平和で和む光景なんだケドねー」
辺りは、殺意剥き出しの獣だらけ。
国生 かりん(CL2001391)は、中衛から火球を飛ばし敵を焼くが。消し炭になったものを踏み越えて、敵群はあとからあとから押し寄せる。
(アタシはトーゼン火弱点の敵は狙ってくんだケドもソイツだけに拘らないよーに。ちまちま火弱点の敵ばっかり狙って攻撃の機会ケチるぐらいなら1体でも多くの敵を一気に巻き込んでいくよ~!)
火柱が舞い、多くの妖がそれに巻き込まれる。
南条 棄々(CL2000459) は守りを固めて、そこを越えてくる妖を狙った。
「こんなに獣たちが……あんたたちに好き放題暴れられたら胸糞悪いのよ。あと獣臭いし」
だからとっとと片付けたいわ、と。
身体の一部を硬化させての強打を振るう。コヨーテの妖は雷撃を放つ間もなく。ぐちゃぐちゃになった肉体は、もはや原形をとどめていない。
「この正面部隊を貫ければ、状況は良い流れであるが。さて、そう都合よくいくかどうか」
力を滾らせた華神 刹那(CL2001250) による抜刀。水術式が弱点の標的を撃つ。刀身から発された氷が貫通し、後ろの妖達ごと突き刺す。
「何にせよ、思想を塗り固められた原理主義者に比べれば、まだ獣の方が斬り甲斐もある」
……素直な戦である、楽しんで過ごすが吉よ。
動きは止めず、群れの動きを少しでも読み。敵の手薄なところを狙って次の敵を仕留めていく。
「人に仇なす妖……牙を剥く理由はあるでしょうけれど。死ぬわけにも、死なせるわけにもいきません」
アレサ・クレーメル(CL2001283)は、英霊の力を引出し。
大群と対する。
「騎士、アレサ・クレーメル……いきます!」
対象は数の多い列、敵の数を一つずつ減らしていく。
鹿ノ島・遥(CL2000227)と天堂・フィオナ(CL2001421) は肩を並べ、正面を見据えてガンガン前へと出ていった。
「男は黙って正面突破ァ!! 行くぜ天堂! きっつい戦場だが、こいつら突破して、親玉ぶっ飛ばしにいくぞ!」
「ああ! 正面から真っ直ぐ行くのが、私達の性に合ってるよな!」
襲い掛かってくる群れに、遥は片っ端からカウンターを叩き込み。連撃でトドメを刺す。フィオナは後れを取らないよう、活性化した炎を極力維持し。疾風斬りで一気に攻める。
「天堂、無理すんじゃねえぞ! お前まだ実戦慣れしてねえんだから!」
「君は流石に強いな! だが、私だって! 多少は強くなったんだ、意地でも付いていくぞ! 君の方こそ余所見はするなよ!」
「おっ、やる気満々か! こりゃ悪かった! じゃ、オレも負けてらんねえな! 二人でここを突っ切って、敵の大将の鼻っつらに一発ぶちかまそうぜ!」
遥は敵を正面から受け止め、群れを切り開きながらミカゲに迫らんとする。先行く仲間が傷を負わせた化け物へと、フィオナの火が叩き付けられた。一体でも多く落とす。
「知性があろうと、できるのが力押しだけなら脅威ではない、と言う認識でしたが。ここまで来ればその認識も改めるべきですね、極まれば単純な力押しと数の暴力ほど厄介な物もない。ならば、こちらも数を頼みにするしかないですし、連携で上回れれば突破口も開けるでしょう」
氷門・有為(CL2000042)は群れをブロックしながら押し留めつつ、削っていく。
長期戦を想定して反応速度を上げた。空気を熱圧縮させた衝撃が、大型の熊を吹き飛ばし敵陣を乱す……ただ、消費が多いので多用は禁物だ。
「内なる炎よ、目覚めなさい! 開眼!」
鈴駆・ありす(CL2001269)は、額に開眼しつつ灼熱化する。
炎の津波が巻き起こり、空を飛ぶ鳥を落としにかかる。周りは敵ばかりで、正直狙いを付ける必要もないほどだ。
「何処もかしこも、雁首揃えれば良いってもんじゃないのよ!」
息巻くありすの炎。
そこに合わせて、ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)も更に火を呼び寄せる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
炎の津波が、広範囲に妖達を焼き尽くす。
火が苦手な者にはこれはひとたまりもなく。数十体の妖達が餌食となった。だが、すぐに今度は別の妖達が殺到して雷や炎の返礼をしてくる。真っ先に狙われたのは、いましがた大量の敵を仕留めたラーラ達だ。
「ここで保健委員の渚が参上!」
腕章を翳しながら、栗落花 渚(CL2001360)は味方のフォローを行った。この大群戦、回復や補給は欠かすことができない。それを怠った者から倒れていくこととなる。
「邪魔すると怪我しますよ」
菊坂 結鹿(CL2000432) は、まずは火を使う妖の多いところに攻撃を集中していく。
氷巖華をぶつけて空いた穴に飛び込み。重突でその穴を拡大する。
「立ち塞がるものは容赦しません」
「オオオオオ!」
味方がその穴を抜けて進み、敵が態勢を整えて来たら一旦下がる。
その繰り返し、根比べだ。
「窮鼠猫を噛む。弱いと侮ってるボク等人間がどれ程の力を持ってるか、身をもって知ってもらおうか」
そう言い放つ四条・理央(CL2000070) は、立ち塞がる炎を使う山猫へと水竜をぶつけ。氷を使う鼠達へと炎で追い払う。
技を使い分けて兎に角最前列の敵を攻め立てた。
「水行と火行、どちらも使ってくる人間は珍しいかな?」
ミカゲへの道を作る事を優先して、自身は戦線維持や突破口の確保に注力する。
深緋・幽霊男(CL2001229)は、1人で突出する事を避け攻撃の際もダメージが大きい物を優先し列に巻き込む。
臭いで周囲の状況を確認し、死角からの攻撃を警戒していたが……そこへ。
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
群れの中心から、耳の奥まで残る雄叫びが震動する。
ミカゲ……三つ首のその巨体は、遠くからでも十二分に異様だった。将の一吼えが戦場全体に轟き、妖達はまた狂ったように暴れる。
「あれがミカゲですか……。何とも恐ろしい姿ですね」
血に塗れた敵意に、諏訪 奈那美(CL2001411)は多大な重圧を感じざるを得ない。
ましてや、今からあの中心へと飛び込もうとしているのだ。
(恐れてばかりもいられません。私達の使命はあれを倒すことなのですから)
この一瞬の間にも、多くの味方が血を流している。
それを少しでも癒し、近付いて来る火の妖に水の礫を見舞う。葛城 舞子(CL2001275)も、後衛から回復役を務めた。重い傷を受けた者から随時、忙しく治療を行う。
「頭が3つもあったら、餌代大変そうッスね! 首輪もつけにくいし、散歩も一苦労ッス!! ……そもそも飼うこと自体、難しそうッスケド!!」
「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ……今までの経験から人間など簡単に踏み潰せると思っているのなら自分の首を気にした方が良いのですよ」
援護を受けた橡・槐(CL2000732)は前衛で戦線維持を第一に努める。
その横では椿屋 ツバメ(CL2001351)の炎を帯びた大鎌が、氷を吐く豹達を薙ぎ払う。
「まずはミカゲに辿り着く前に、私は氷使いの妖の相手だな」
駆け抜けるように相手を斬り裂き、連撃を放ち。
遠くの敵へと第三の眼から光を浴びせた。標的にだけは不自由するという事は決してない。
「牙王と共に、ミカゲも、来ましたか。牙王に、負け続けていると、言う話を、聞くと、どうしても、格下に、思ってしまいますが。ランク4の、強大な敵です。油断なく、参りましょう」
「ミカゲも牙王と一緒に来たの? ふふ、実は仲良しなんじゃない? 牙王を倒した私達に襲い掛かれば楽に獣妖の長になれたでしょうに。それともオツムが可哀想なのかしら。いずれにせよ、ここできっちり仕留めて行くわね」
神室・祇澄(CL2000017)正面から敵を突破しにかかる。
それにエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が、水のベールを纏わせて追従する。
「邪魔です。道を、開けなさい!」
土の鎧で守りを固めた祇澄は、敵陣に突っ込み岩砕で道を開いていく。エメレンツィアは仲間を支援しつつ、荒波を発生させて道幅を広くする。
「ふふ、こんなに攻勢に出たのは久しぶりね」
●
「あれがミカゲ。ケルベロスとはあのような姿なのでしょうか?何にせよこれ以上死傷者を出す訳には参りません。全力で行きますわ!」
敵左翼部隊には、高密度の粘りつくような霧に覆われていた。
それは後衛に就いていた秋津洲 いのり(CL2000268) によるもの。弱体化させた敵へと、星のように輝く光の粒を頭上から降らせる。
大型の肉食獣達が、流星の煌めきの犠牲となる。
ミカゲと相対する前に、敵左翼部隊の隊列を乱したい所だ。
こちらは範囲攻撃が得意な人間が多い。先ずは飛行出来る者が敵の頭上から、敵部隊の隊列中央に天行での攻撃を集中させる。天行術式が苦手なら、前方からの攻撃と隊列中央付近への攻撃で、多少は混乱させる事が出来るかもしれない。
「此方の妖は堅牢な物が多い様ですね。弱点は天行……天行全員で集中的に突けば、そこから突破口が開けるでしょう。私は私のベストを尽くします」
梶浦 恵(CL2000944)の雷に敵が穿たれる。敵左翼は装甲自慢の部隊だが、天行の技には成す術もなくバタバタと倒れて行った。そこに、圧縮した空気を解き放ち。更に霧を濃くする。
「何としてでもミカゲにご対面してやる! こっちは防御力高いらしいけど、これだけ弱点の天行が揃ってるんだ。突破できねーはずねーぜ!」
脣星落霜で全体に攻撃。少しでも数を減らす。
成瀬 翔(CL2000063)は二撃目に雷獣でなるべく敵が固まってて纏めて攻撃できそうな所を狙った。こっちの囲みを抜けようとする奴がいれば、そこを優先。他の班と連絡取りつつ突破を目指す。
「初めての実戦から間もないのに、まさかこんな大きな戦いに身を投じることになるとは……とにかく、やれるだけのことはやりましょう!」
天羽・テュール(CL2001432)は演舞・清風で味方を鼓舞する。
(何故、こんなにたくさんの動物たちが怒り狂って妖になってしまったのでしょうか……哀れかもしれませんが、もう倒すしかないんですね)
人と獣が永遠と殺し合いを続けている、目の前に広がる光景。
地獄というのがあるなら、これに近いものなのかもしれない。
「わずかではありますがボクの魔力、受け取ってください!」
少しでも助勢を。
皆が皆、己に出来ることを行う。
「ふっ、弱肉強食適者生存は自然として正しいですねっ。自然はただ只管にストイックに選択するのみですっ。強弱の尺度など移ろうもの、一つの物差し等脆いものっ。正しさの上で戦いましょうかっ」
月歌 浅葱(CL2000915) は、飛燕で敵を打ち払い。
固まっている者には召雷を浴びせる。
「さあっ、張り切って突破しましょうかっ」
正義の味方(自称)にしてみれば。
強弱の差なんて最後に立ってるかのみだ。そして、雷撃によって立っていられなくなった妖達を覚者達は乗り越えていく。
「じゃあツム姫、背中は任せ……あれ? どこ? ツム姫どこー?」
フォローを当てにしていたプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は、麻弓 紡(CL2000623)の姿を探して右往左往していた。
「え、あ。ハイハイ……任せられた」
紡は今回の決戦、見守りたい子筆頭の2人は王の元で気も漫ろ。
届いた殿の声に現に返って、やるべき事はやろうかな……と気合を入れて、愛用パチンコの棹を握り直す。
(……ツム姫が女子達に夢中で構ってくれなくても泣かない)
プリンスは因子の力で耐性を高めた身体で、敵へと向かう。連撃を繰り出して巨大な猪を止め、そのまま強烈な突きで相手を貫き。連打で獣を群れごと薙ぎ払う。
(殿の周りには、目を光らせておかないと)
そんな自由気侭に動く殿の周りにいる敵へと、飛行を使いながら紡は艶舞・寂夜と纏霧で支援する。そのあたりは、いざ戦闘となれば抜かりはない。
「被害を最小限に抑える為も此度は攻撃優先で動くとしよう」
由比 久永(CL2000540)が後衛から迷霧で弱体化後、脣星落霜や雷獣にて一掃する。ただし、体力・BS・気力共に回復が足りぬ場合には手を貸した。
「やる前にやられては元も子もないからなぁ」
「ここは、防御力の高い動物系が多くいる場所。事前にわかっている僕たちの人員も多い方ではないし、耐久戦と思うべきかな。数の比率としては敵が圧倒的だけど、普段よりこちらも絶対数は多いのだし。弱点の天行使いが揃っているし」
宮神 羽琉(CL2001381) は、少しでも『普段より安心できそうな点』を呟いて少しでも落ち着こうとしていた。飛行で最低限浮遊しつづけて、転んだりしないように鳥型が多くなければ、長距離移動時のみ高度を上げて視界を広く取る。
(敵を倒すよりも、ひとりでも少しでも無事であるように、立ち回る)
乱戦時は怖いが、上がり際を引っ掛けられては危険なのであくまでも浮遊に留める。纏霧で弱体を付与してまわり、填気で大技を撃つ者や回復主体の者を補佐した。
「私達の役割は皆を支える事。頑張りましょうね」
「これだけの数が街に出たら、大勢の人が……そんなこと、絶対させません。頑張りましょう、椿さん。私たちが皆さんを支えるんです!」
三島 椿(CL2000061)は、微笑みかけて気合を入れて水龍牙を。震えそうだった守衛野 鈴鳴(CL2000222)も勇気を出してエアブリットを放つ。
(私の目標の人。本当に心強いですっ)
傍らの椿の姿は、鈴鳴に力を与えてくれる。
超直観で敵味方の位置や傷の具合を把握。
後衛に立って回復の漏れが極力出ないように、椿と鈴鳴は範囲を分担。潤しの雨、潤しの滴を使い分けて範囲内の味方を回復。行動を阻害する状態異常を受けている者は深想水で治療した。
主に回復を行っていたのは切裂 ジャック(CL2001403)も同じだ。
「さあここで終わらせようぜ! 妖たちの跋扈は勘弁だ!これは人間の都合だろうが、人間としちゃあ譲れない。これ以上、だれも傷つけさせねえぞ!!」
手が空いたときには、敵を焼く。
心のなかでは済まないなって思ってる。
(だけどそれは今できるわけじゃないって思うんだ。だからこの戦いを瞬間記憶で頭に叩き込んで、妖たちの叫び声も覚えて……これさえなくなる世界にしたいわけよ!!)
いつか、妖と分かち合える世界にしたいと願う。
「だから、今日はやりたくないけど、殺すんだ。ごめんな、ごめんな……!!」
戦場では、さまざまな思いが交錯するものだ。
ジャックのように思う者もいれば、また――
「どのような背景とどのような思惑が渦巻いていようとも、眼前の敵は打ち倒さねばならないというのは面倒ですねぇ。最も、さもなければ喰われてしまうのですけれども、ね」
雑魚敵と踊っておきましょうか、と。
エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)は後衛に立ち、広範囲に脣星落霜を放ちながら迷霧でステータスダウンを狙う。
防御力が高いとはいっても、効果の高い術式を放てばそれも無意味。
気力が尽きかければ大填気で補充。そんな背を神祈 天光(CL2001118)は、刀を手にして守る。
「どのような化け物が相手だったとしても、この神祈 天光。人を護る為にこの場にやってきたでござる。――この命、使いはたそうとも。一人でも多くの人間を護るでござる!」
海衣で守備力をあげつつ、防御に回る。
負傷した者や自分自身を癒しの滴で治療しつつ、少しでも長く立ち多くの攻撃に耐えてみせる。
「嗚呼――集団戦は好い物ですね。
人の自らの命のため足掻き狂い一縷の望みを求めてあげる声。
……僕が好む、とても好い音色だ」
「エヌ殿、毎度のことでござるが、不謹慎でござるよ。拙者らは人が苦しむ声を聴くがために此処に立っているわけではないのでござる!」
●
「敵右翼を攻めていた部隊が、毒に冒されている模様です!」
前面、左翼と激戦を繰り広げると同時。右翼方面でも苦戦が続く。
報告の声にはじかれたように、向日葵 御菓子(CL2000429)は敵右翼と戦っている部隊へと向かった。
「毒は私が治せます。後ろに下げて!」
「う、うう……だが」
「無理せず早めに下がって」
苦しんでいるAAAの隊員達へと声掛けながら、深想水や癒しの霧で回復役に徹する。
そこに蛇の大群が俊敏に毒液まみれの牙を剥くが、三島 柾(CL2001148)がガードに入り。後衛の皆の道を切り開くように妖達の動きをみつつ攻撃を避け、ガンガン攻撃していく。
「速さならそこまで遅れはとらない、みんなの足手まといにならないよう頑張るか」
スピードを上げ、目にも止まらぬ連撃で妖達を狩りとる。
蛇のなかに、最も巨大な体躯の大蛇が目に留まり。リーダー格と見るや、率先して狙って先制する。
(スピードには自信ないから後ろの方で攻撃と回復しよ。それにしても、よくこれだけの妖達を集めたな)
と、東雲 梛(CL2001410)も第三の目を額に現し。
香仇花で敵列を攻撃。
破眼光と棘一閃で呪いと出血の付与を行っていたが。
(あの大蛇がリーダー格の一人か)
柾が対している妖が、要の一つだと超直観が告げる。
すぐにそれを、スキルを使って他の者へと伝播させる。近くにいた者達は、それに反応して動き出す。
「包囲戦術と来れば、かのハンニバルに倣おうか。逆に言えば、敵にやられれば危険だが……その敵の機動力を叩きつつ、有利に戦況を運ぶべく敵右翼を攻めるのがベストだ」
坂上 懐良(CL2000523) が、地列で素早い敵を優先的に処理しつつ攻め上がり、包囲殲滅を行う。
「後は、オレ個人が突出しすぎないように気を付けるってところか。個より、集の力こそ、兵法だからな」
懐良の言う通り、単純な数の戦力だけなら妖達には敵わない。
桂木・日那乃(CL2000941) は右翼の者達を――AAAも含めて――送受心・改でつないで状況と行動を情報共有して動きやすくする。
「わたしは、後衛からBSと体力の回復してる。あ、FiVEのひとだけじゃなくて、AAAのひとも」
……最初は、ミカゲの部下の妖と戦って、突破されないようにしないとで。そのあとミカゲとも戦闘するかも、だから。
(こちらの敵は毒を使うようですので、最初に清廉香を使いましょう。切れたらかけ直すように気をつけます)
自然治癒力を上げ、天野 澄香(CL2000194) は中衛の上空から全体を見ながら攻撃する。敵の数が多いうちは、濃縮した毒を与えるように相手に流し込む。
「毒はそちらだけの専売特許ではないのですよ」
毒で意趣返しされた大蛇がもがき苦しむ。
味方が作り出し好機に、鈴白 秋人(CL2000565) は水の竜をぶつけ。檜山 樹香(CL2000141)が地烈でトドメを刺した。
「弱点は木行でスピード重視の妖か……俺はそれ程スピードに自信がある訳じゃないから回復メインに立ち回らせて貰うね」
「さて、決戦じゃ。敵はミカゲ、群狼のランク4の妖じゃ。これを倒さねば、人に危害を及ぼす危険な存在じゃ。なれば、全力をもって彼を討ち果たす。それがワシ等の役目じゃな」
敵はまだまだ、気の遠くなる数。
リーダー格の一体を倒したことで乱れた戦列へと、第六感で不意打ちに気を付けながら秋人は自身に超純水を取り込み。波動弾で弾幕を張る。回復の際にも周りとの声掛け連携は必須だ。樹香は捕縛蔓を用いて敵を足止めし、棘散舞や地烈にて攻撃。敵の機動力を奪い、少しずつ進路を確保することに専心した。
「AAAのおっちゃん達! ファイヴも来たよ! 一緒に頑張ろう!」
工藤・奏空(CL2000955)は先へ進む仲間達への全面援助。
ハイバランサーで確実に足場を確保して敵の動きを捉えつつ。上空から守護使役のていさつで状況を見て送受心・改で周囲の仲間に伝える。
「スピードには負けない自信がある。逆に俺のスピードについて来れるかな!」
向かってくる敵には速度を活かして先手必勝。
迷霧で弱らせ、こちらは錬覇法で強化。雷獣で攻撃して切り込み。薄い壁を切り崩して道を作る。
「天行の舞をとくと見るがいい!」
演舞・舞音と癒しの滴は出し惜しみしない。と言うか、得意気だ。
自身、仲間の気力回復には填気。
(生存競争なのでしょうね。相手がどう思ってるかはしりませんが)
紅崎・誡女(CL2000750)はエネミースキャンを広く浅く実施。
BSの付与状況、敵の残体力等を主体に調査し、周囲と共有し攻撃の効率化を図るためだ。相手に虚弱付与を主眼に行動し、時にはわざと攻撃を回避させて敵集団の流れを乱し誘導する。味方の体力回復の手が不足するときは癒力活性で補助した。
「オオオオオオオオ!!」
「どうしてこんなに怒り狂っているのでしょう……私にはなんだか哀れに見えます……」
後衛にいたとしても安心はできない。
数でこちらを凌駕する敵が怒号をあげるのを、神幌 まきり(CL2000465)は棘一閃で撃退した。
「自然よ……妖たちが暴虐を尽くす前に私たちに力を貸してください……」
出来れば毒の治癒に努めたいところなのだが、状況がそうもいってられない。
祈りを捧げるように味方を癒し……そして倒れた味方の前に出て木行の技を振るわなければならなかった。
「冗談じゃないっての、あんなバケモンと戦えってのか! みんなでやれば勝てるとか大丈夫とかそんなんじゃなくてさ、オレはもっと根本的にあんなのと戦わなきゃいかんのかって事を言ってんの!」
緋神 悠奈(CL2001339)は毒づきながらも自身を守るためにも、眼前の敵に対処しなくてはならなかった。気を抜けば毒牙で瞬時に噛み付いてくる妖達に、手を抜く余裕などありはしない。
「まー、うーん、でもどうだろうなー。こんな命懸けなこと滅多に味わえないしなー。何が分が悪いかはわかんねーけど、やるだけやってみるか……はぁ……」
とりあえずまぁ、死なないように頑張ってみるか、と。
とにかく戦線を支える。どんな感慨を抱くにせよ、全ては生き残ってからあとのことである。
「それじゃ、できることをそれなりに」
黒桐 夕樹(CL2000163) は清廉香を使用し毒対策。
ライフルで敵狙撃し、棘一閃発動。捕縛蔓で行動を阻害させ、隙を生み出す。
「毒、ね。俺の毒の味も教えてあげるよ」
「ッツ!!」
木行の毒を逆に見舞うと妖達は猛然と苦しみ出す。そこを深緑鞭で強かに打ち付け。負傷者らに敵が接近したら、妨害の為援護射撃を行う。
(視野を広く持ち敵の攻撃に備えます)
鷹の目を持つ七海 灯(CL2000579) は、前衛として天駆で強化された状態を保ちつつ。地烈で攻撃して乱戦を戦い抜いていた。通常では捉えきれない急角度から迫る蝙蝠を視認すると、瞬時に身体が反応して敵を叩き落とす。継続して戦いを有利に進める。
「スピード勝負! 本当に早い人たちには勝てないけど……そんじょそこらの奴らよりは速いんだからね!」
御白 小唄(CL2001173) は、演舞・清爽で皆の底上げを行う。
「みんな、いっくよー!」
「小唄さん、あまり突出しないよう」
地烈でまとめて敵をぶっ飛ばす小唄。
それを追い掛けるようにクー・ルルーヴ(CL2000403)は双刀を振るう。エネミースキャンと鋭聴力を駆使して戦況把握に努め。囲まれないように、そして、味方や小唄が効率よく動けるようにサポートする。
「キミは、私が守ります。これ以上傷つけさせません」
二人で敵陣深くまで駆けるほどに、敵の攻撃は熾烈さを増す。
次第に傷を増やす小唄を、蔵王で守りを固めたクーがガードし。返す刀で相手に出血を強いる。その隙に、味方は更に進んでいる。
「クー先輩、僕たちも行こう!」
負けじと小唄も切り込んでいく。
敵につけられた傷は痛むが、まだ立っていられる。
(毒なんかに怯むもんか! クー先輩が僕を庇ってくれてるけど、僕だってクー先輩に無茶はさせられないんだ)
纏わりついてくる奴らを連撃で払う。
その闘志が更なる道を生み出す。
「邪魔をするなっ!」
奮闘する小唄。
クーはじっと目を離さずにいた。
(敵の目的など知りません。私は私の守るべきものを守るだけです)
●
戦場が血の匂いで包まれる。
このとき、戦線を完全に把握している者は存在しなかった。
覚者達と妖達との戦いは、一進一退を繰り返す。ミカゲ率いる化け物達の群れは縦横無尽に駆けまわって、今にも楔から解き放たれんとする。覚者達は暴れ回る大群を三方から、何とか押さえつける。あたかも、巨大な獣を三つの鎖で懸命に縛っているような状態だった。
敵は倒しても、倒しても、何重にも立ち塞がってくる。
殺して、殺されて。
疲労と傷が蓄積する。
人と獣の死体が散乱した大地で、正気を保つことすら困難だ。
「ガアアアアア!」
「我が雷よ、怒れる妖たちを焼き払いたまえ!」
既に傷だらけとなったテュールは召雷を目前の敵に斉射する。
屈強なバッファローが倒れるが、その後ろから今度はサイが突進してくる。それを浅葱がガードに入る。
「ふっ、倒させませんよっ。一人で戦うものではないですしねっ」
そのまま浅葱は体力減った者命力翼賛や癒力活性で回復させる。息を吹き返したテュールは、今度は破眼光を繰り出した。
「ボクに宿る第三の目よ……その力を解き放て!」
手の平の第三の眼からの光線。
そこに合わせて、味方が集中砲火を浴びせ。また敵の壁の一枚を削る。その先に――
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」
ついに。
三つ首の巨獣の姿を至近にとらえた。
今回の戦い、ミカゲに最初に到達したのは左翼から攻めた者達だった。鉄壁に近い防御力を誇る妖達を、天行の技が上回ったのだ。
「お前は永遠に一番にはなれねーよ。ここでオレらに負けるんだからな!」
敵大将に翔が初の攻撃を仕掛ける。
三つの頭をまとめて狙い、B.O.Tの弾が駆け抜ける。人間も動物も仲良くやれるといいのにな……と考える、彼の想いがこもった一撃だった。この事態を引き起こした三つ首へと、思いの丈が衝突する。
「想像以上に敵を混乱させることができましたね」
気力が尽きる前に填気で回復し、恵は癒しの滴で皆の補助をしながら頷く。
読み通り、広範囲の天行を頭上から浴びせたことで敵部隊は少なからずその秩序を乱した。前方と中央付近は瓦解を始め、そこを覚者達は踏破したのだ。ただ、こちらの攻撃手も少なくなっていきている。ここからは、自分も役割を変更する必要がありそうだ。
「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」
ミカゲの三つ首がこちらの鼓膜を突き破る勢いで猛る。
この世の不機嫌を全て混合したかと思わせる、怒声だった。
「何を怒っているのか知りませんが、いのりの方がもっと怒っておりますのよ。これ以上罪無き人の命を殺める事は許しません! 覚悟なさい!」
いのりがミカゲに接近。
彼の者に迷霧をかけ、三つの首全てを目がけ脣星落霜で攻撃。多くの妖をここまで屠って道を開いてきた光の粒が、敵将にも降り注ぐ。
この後も続々と、左翼を攻めていた者達が穴を抜けて攻撃に移る。
「こんにちは! 大変申し訳ないけど、王家のペットはファンシー系以外禁止なんだ」
「殿ー、オイタなケモへのお仕置きは任せた」
プリンスは貫殺撃で敵の頭を同時に打ち抜き、王家の素敵な笑顔を刻み付ける。紡のタイミングを合わせた高等演舞がそれを後押しする。
「ていうかこのワンコ、下剋上とか言ってなかったっけ。諦めたの?」
「もふもふさせてくれる子じゃない残念すぎる……」
プリンスは首を傾げ。
紡は、ふぅとため息。
戦場でも、ぶれない二人だった。
「怒りに任せて進軍とは……三つも頭があるのに宝の持ち腐れだのぉ」
敵将を近くから眺めて、悠然と呟いたのは久永である。
迷霧で辺りを覆い、攻撃の準備をする。
「首の弱点はつけぬから、余は体を狙おう。さすがに心の臓はひとつだろうから、それを落とした方が手っ取り早い気がするが……まぁとどめにならずとも、進軍を阻止できれば首を落とすのもやりやすかろう」
敵の動きを止めるため、雷獣を胴体目掛けて放つ。
ところが、頑強なミカゲの身体はそれをはねのける。首以上に他の部位は強固なようだ。
「三つ首の噂は聞いていたが、これはなかなか……やれ面倒な相手だのぉ。まぁよい、この世は弱肉強食というならば、どちらが強者でどちらが弱者か……思い知らせてやらねばなるまい」
何にしても難題には違いない。
左翼を突破したといっても、敵を殲滅したわけではない。開いた道は刻一刻と細くなり。今度はこちらが、包囲されようとしている。ミカゲだけ相手をしているわけにもいかず。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
また、ここは死地の中心。
大口を開けたミカゲの牙が、AAAの隊員を襲う。不幸にも的となった若者は、刹那の間に肉塊に変わって転がった。悲鳴をあげる暇すらなく。その死体には、頭と右足がなくなっていた。
「みんなを支えなくちゃ。ここが突破されたら街に被害が行く。そんな事はさせない」
「私たち人間の力、甘く見ないでください!」
椿は必要な際は迷わず回復して、友軍を支援する。鈴鳴も倒れそうな味方を庇い、治療を行う。羽琉はそんな回復手達を填気でフォローした。
「誰も死なせないぞ。誰一人な!! 俺達回復の役職がどういうものかわかるだろ!」
ジャックは叫び。
戦闘不能で倒れた男を後ろに投げる。だが、その者も息をしているかどうかも分からない。
ようやく妖の群れを抜けてミカゲに到達した覚者達は、蟻地獄の中におさまったような感覚に襲われていた。目の前にはランク4、後方には妖達が背中を押してくる。
通常ならこのまま挟撃されて圧殺されるところを。何とか堪えてみせたのはこのまま飲み込まれてたまものかと、覚者達が勇戦したからに他ならない。
事態が変化したのは、体力気力共に危険域に入らんとしていた頃合いのことだった。
「エヌ殿、あれは――」
周りの敵を斬り払った天光は、妖達の一角を指差す。同行者のエヌは、そちらに視線を巡らせて――味方が群をなして敵影を蹴散らしている姿が写った。
それは、前面から敵を攻めていた者達だった。
「かわいい動物の妖は倒すのにちょっと抵抗があるけど、それでもこの先で暴れさせるわけにはいかないのよ」
棄々が斬・一の構えからリスの妖達を斬りつけた。
前面から激戦を潜り抜けてきただけあって、身体も気力もぎりぎりのところだ。
「体術だって、効かないわけじゃないでしょ? 今度はズタズタにしてあげるわ」
小型なものだけではない。
ここまでくれば強靭な妖がひしめいている。そこを押し進まなくてはいけない。
「押し込んで崩します」
アレサは攻撃を叩きこみ。
相手の列を崩すのを助勢する。強化を掛け直す暇も惜しい。
「ボクは他の人より弱点をつける幅が広い。なら、そちらの利点を生かして攻めないとね!」
理央は火で敵の氷を焼き払い。水で敵の炎を消火する。周りの誰かのMPが尽きそうなら填気で、倒れそうなら状況に応じて潤しの滴や潤しの雨で補助し。
器用に、攻守を操った。
「近接物理がメインですし、ミカゲ本体を狙うよりは、周囲の妖を狙う方がいいでしょう」
有為の疾風斬りが煌めき。
有言実行。ミカゲを取り巻く妖を斬り捨てる。彼女達が率先して道を作り、維持し、前面で戦っていた覚者達は中心地へと急行する。
「……いってらっしゃい、存分にぶちのめしてくるのよ」
ミカゲへの道が開けたことを確認し。
棄々はそう呟いてから、自身は道を維持するために周囲の雷の妖と戦い続ける。それは他の味方を救うことにも繋がった。
「おう、ケンカ売りにきてやったぜ! いっちょ勝負しようぜ大将!」
「妖どもめ! どれだけの数で来ようが、私の炎は消せないぞ!」
飛び出した遥がとっておきの正鍛拳。
併せてフィオナは最大限に集中して双撃。
予想外の方向からの渾身の攻撃に、ミカゲも虚を突かれてその巨体がたたらを踏む。それ自体は、致命打にはなりえないが。
「1度で駄目なら――もう1回!」
フィオナが叫び。
他の者もそれに続く。
(実に獰猛、実に醜悪。何とも受け甲斐のある殺気である)
気力体力の続く限り。
積極的に刹那は、切り込んでいく。
「はは! ただの殺し合いも久しいな……滾るぞ」
「ダアアアアアアアアアアアアアアァアア!!」
間一髪。
後一歩で黒焦げになるところで炎のブレスを躱し。刀身に力を溜めて放ち、心から戦いを楽しむ。
「あなたは弱者は大人しく蹂躙されていればよいものを、と考えているんですよね?その言葉そっくりそのまま返します。覚悟してください」
結鹿は霧を発生させ、自身を強化し。
スキルをフル活用でミカゲに立ち向かう。
「牙王に逆らいながらも、そのグループから出る勇気もなかった時点で、あなたの敗北は予定されていたんです」
その言葉を解したのか。
ミカゲは雷のブレスをこちらに向ける。一発で大軍をショートさせかねない雷が大地に轟く。
「憶えておくのです、慢心は常に破滅の一歩前に現れるということを」
ミカゲの攻撃範囲に入った時に警戒して、一旦中衛に下がっていた槐は雷の難を逃れていた。強化は切らさないようにし、味方ガードしながら演舞・舞音で回復を、大填気で補給を行う。そして、乱舞・雪月花で混乱を振りまく。
「何ぞ、お前「人間」みたいだの」
幽霊男は飛燕でダメージの大きい首から優先し狙っていく。
……しかし、まぁ。律儀というか。本当に勝つ気があるのか。
(己に言い訳をし。周りに虚勢を張り。気づいてるだろうさ。王とやらは。そのザマに。群れの結束を維持するための儀式。約束事。出来レースって言うんだぜ? 人の世界では。まぁ、いい。あまり虐めては可愛そうだしの)
死して屍拾う者なし。草葉が墓標よ。
敵の牙を喰らい。血を流し、今度はこちらの牙でその首を喰い飛ばさんとする。
「大き過ぎる身体というのも考えものね? 強大な力だろうと、それが弱点になる事もあるわ。最後に勝つのは私達よ」
エメレンツィアは伊邪波で三つ首全部まとめて標的とし。
決然と宣言する。
「全てこの女帝の前に跪きなさい!」
その覚者の後ろから。
祇澄が躍り出て、岩砕で三つ首をこちらもまとめて攻撃する。
「神室神道流、神室祇澄。いざ、参ります!」
雷の首を土行だけで落とすのは無理だろう。
ならば、その力を削ぐ事に注視する。自分達しか倒せないわけではないのだから。
「ふん、三つ首の狼なんてケルベロスじゃないんだから。むしろ、アタシ達がアンタを冥府送りにしてあげるわ、覚悟なさい!」
幾多の敵を焼いてここまで来たありすは。
ミカゲと相対するやいなや、氷の首めがけて火焔連弾を撃ち込む。
「見えた! そこよ、燃えなさい!」
「ッツ!?」
氷の首が爆炎に包まれる。
一つでも落とせば相対的な勝機に繋がるというのなら。
(見せてあげようじゃないの、火行の……アタシ達FiVEの火力を! 動けなくなるまで全力で撃ち続けるわ。ここで必ず、アンタは倒し切るんだから!)
風が吹く。
炎はゆらめき、更に大きく燃え上がった。
「アタシ達の炎は全ての敵を燃やし尽くすわ!」
アタシ、達。
覚者の攻撃はまだまだ終わらない。
「これがミカゲ……今まであなたの邪魔してたのは私だよ。ごめんね。今回も好きにさせてあげられないんだ」
「遂にミカゲさんと相対する時が来たんですね。決着を付けましょう」
渚にサポートされたラーラが、力をみなぎらせ。
今日一番の火柱をミカゲの周りに呼び寄せる。ランク4の妖のみならず、他の周りの妖達を火あぶりにする。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
「私の白狼とどちらが強いか……どちらかが喰らい尽くすまで、勝負と行こうか」
ツバメは氷使いの頭をメインに集中的に狙いつつ。
得意の列攻撃で全体の体力を少しずつでも削って行く。爆裂掌を叩き込み、疾風斬りと地烈で攻撃。敵の氷柱をハイバランサーと超柔軟で俊敏に躱していく。
「氷を放つ首を火炎弾で集中して狙ってくよー」
かりんのノリは軽いが、彼女なりに真剣である。火箸手裏剣と火術符を投げ、皆と同じように攻勢をかける。対して舞子は回復役に徹していた。強敵が相手なのだから、ここがやられると困る。
「どっちかっていうと犬より猫派だし、それ以上に鳥派ッス!!!」
などと尽力しながらも。
もしやられる時は、その前に味方を庇ってから力尽きるつもりだった。
(「あとは任せた……!」って言ってみた…じゃなくて、一人でも長く立っていられた方が一矢報いるチャンスができそうじゃないッスか! )
幸か不幸か。
今の所、まだそのチャンスはきていないが。
「ミカゲ、貴方は見誤っています」
奈那美は出来るだけ直接敵と接することのないよう、後衛の内側の陣取り。火を放つ首に水礫を撃ち込む。
自分達には貴方のような鋭い牙も、恐ろしい爪もない。
個々の戦力で見れば貴方の足元にも及ばない。
「人間の強さは、数と知恵です」
……ヒトの強さを認めず、弱いところだけを見て侮った貴方の敗北は必然です。
そう、奈那美は思う。
そして、その数の強さが最後の方角から勢いよく現れる。
「僕たちFiVEを……人間を、舐めるなぁっ!」
一気に駆け抜け。
小唄が地烈でミカゲの首を蹴り飛ばす。
「デカけりゃ良いってもんじゃない! 良い的だ!」
三つ首全部倒せってんなら、全部纏めてやってやる!
そんな様を、クーは見守りながら敵将の首をスキャンする。その結果――
「狙うべきはあの首です。まずは一つ、いきましょう」
氷を放つ首の疲弊が激しいと察知。
味方にも通達する。皆が――右翼部隊を踏破した覚者達が、そこへ狙いを定めた。三方に分かれていた戦力が、今ここに結集した瞬間だった。
「さあ、往こうぞお前様方」
周囲の状況を常に把握していた樹香。
進路が確保し仲間と共にミカゲへと切り込む。
「この世は弱肉強食と言うのなら、お主が倒されるのも理かもしれぬぞ?」
あまり人間を侮るな、ミカゲ。
と、積極的に攻撃を仕掛けに行く。木行の技が唸りをあげる。
「さて、ここからが正念場ですか……3つ首……妖として生まれたのか動物が変異したのか気になりますね」
誡女はミカゲの頭へ虚弱と痺れの付与を主軸にすると同時に、重篤な状態になっている味方への癒力活性による支援を行う。
「……、あれがミカゲ。被害が出るなら消す」
日那乃はしかと敵を見据え。
回復で皆を差させる。気力が足らなくなると、それに気づいたテュールといのりが近付いて補給してくれる。他の面々と合流したため、この手の連携も取りやすくなっている。
(まず狙うべきは、氷の首か。ミカゲは逃がさずに、ここで叩き潰せればそれがいいが、ま、欲はかくまい。囲師は周することなかれ、だ)
懐良はミカゲが身体活性に対して双撃を行う。
敵に休む隙は与えない。
「そんなんで牙王を倒せるのか」
「ガ……アアアアアアアアア!!」
柾はミカゲを挑発して注意を後衛から逸らす。
灼熱化を使用し、飛燕と五織の彩を使用してミカゲに攻撃した。
「ふーん、お前がミカゲか」
梛は香仇花を使用。
弱体化を図り、攻撃を一番受けている氷を放つものを主に狙う。
「もういい加減眠りな、牙王は俺達が倒すからさ」
やる事はちゃんとやる。
手なんか抜かない。
「お前ら『妖』って存在はそもそもなんなんだよ! 教えろ!!」
奏空の慟哭にも似た問いに対する答えは、三つのブレスだった。
だが、そのうちの一つ。氷のブレスの勢いが、やはり他と比べて動きも速度も鈍い。確実に相手も消耗している。そこへ百が凍てつくブレスに身を晒しながらも全力で近づく。
「血と戦いを求めてたんだろ? オイラたちが相手になってやるぜ。あいにく、狩られるつもりはないけどな」
このチャンス。
逃すつもりは毛頭ない。
「この一撃にオイラの魂ごと賭けてやる!」
魂。
それは覚者にとって、命にも等しい最終手段。
その生命そのものを差し出し。等価の価値を得る。
百の全身が光り輝く。普段の二倍、三倍……いやそれでも足らぬほどの炎が、この戦場のいるすべての者を照らす。
「うおぉぉぉ、喰らえ豪炎撃!」
極大の炎がランク4の妖を襲う。
全て焼き尽くす炎は、相手の氷のブレスを相殺し。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
次の瞬間。
けたたましい爆音が空気を貫き。
ミカゲの首の一つは、跡形もなく吹き飛ぶ。
三つ首の巨獣は……いや、もうその形容はできない妖は、信じられないものを見るように失った首の跡をしばし呆然と眺めていた。
「次は雷を放つ首を倒しましょう。首をまた一つ倒す事で残りの首の力が弱まり、後の戦闘が多少楽になるはずです」
間髪入れず。
敵が停止している間に、灯が宣言し。自ら率先して、白夜の三連撃を仕掛ける。送受心・改で集中攻撃を提案された周囲の味方とAAAは頷いて、そこに続く。
(私はミカゲも牙王も関わった事はありませんけれど。こんな、人間だけではなく動物達まで巻き込んで戦いを起こすなんて事、何としてでも止めたいです)
大群を相手にしていたのと同じように。
澄香は毒を用い、棘散舞で敵の首を拘束しながら攻撃する。合流した他の部隊にも清廉香を施すのも忘れない。
「獣臭い。その牙、ここで折ってあげるよ」
夕樹は、捕縛蔓で進行を妨害していた。
別部隊担当だった紡は、そんな姿を鷹の目で見つけて届けとばかりに回復を密かに施した。
(……がんばって)
紡の視線の先の夕樹は、敵の目を狙い種を撃つ。
着弾直後に棘一閃発動。これには呆然としていたミカゲも、たまらずのたうち回り始める。すると、その衝撃に周りの妖達は巻き込まれて潰れていった。
確かな成果を得て、夕樹はそのままB.O.T. や通常攻撃を主にして近くの覚者の攻撃の隙を補うように行動する。
「少しでも、力になれたら……」
ミカゲは四方八方に残った二つの首で、炎と雷を撒き散らす。そこには、もはや敵味方の区別すらなかった。無差別攻撃の余波に傷付く味方を、まきりは清廉香や樹の雫で支援した。
「ふっ、たった一人で強いつもりならっ。群の力で凌駕してみましょうかっ。この世に真に単独でいられるものなどないのですからっ」
首を一つ失ったミカゲは、明らかに衰弱を始めている。
浅葱は仲間とともに、弱った雷の首から狙って攻勢をかけた。虫けらと侮っていた人間に、いまや完全にランク4の妖は追い詰められていた。
「二度と動物達巻き込むんじゃねーぞ!!」
翔の雷獣が、空気を震撼させる。
破れかぶれに雷のブレスが返ってくるが、狙いが甘く。逆に手下の妖達の方を貫いてしまう。
「その首、いただきます!」
「グウウウウウウウ!?」
ブレスの隙を縫い。
祇澄が土行の技を発動させる。土の力で生成された岩が、雷を吐き続ける首へと迫り。
「私たち人間を、侮った報い、その身に、刻みましたか?」
落石の大群が、その首を押し潰す。
そこで雷のブレスはようやく止まった。永遠に、である。
人を塵芥にも考えていなかったミカゲは。その人間に過ぎないはずの祇澄に、最後に残った首の目を真っ直ぐに向けた。
その目には、敵意以外の何かが込められていた……ようにも見えた。
「これで」
秋人は薄氷を叩きつけて火を操つる最後の首を攻撃する。ミカゲは、それを避ける様子も見せず。身体を揺らす。その後に秋人は回復行動に戻ってメンバーの支援に動く。
「……」
ランク4。
ミカゲは二つの首を失い。
されるがままに攻撃を受け続ける。一つとなった首を真っ直ぐに伸ばし、空を見上げていた。
「オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その一吼えは。
覚者達の賞賛のようでもあり。
王へ向けた無念の声のようでもあり。
ただの、ため息でもあるかのようだった。
そこから打って変わって、炎のブレスを覚者達へと怒涛の勢いで放つ。最後の残り火を、燃やし尽くすのとその様は同じだった。
「私が時間を稼ぎます。みなさんは今のうちに態勢を立て直してください」
回復役を行っていた御菓子が、周りの疲労を考えて攻撃に転じ。
水龍牙で攻撃する。
「小さいからってバカにしてると痛い目見るんですよ。今更やり直しもできませんけどね」
今や、強大だった炎のブレスも長続きせず。
その威力も半減以下になってしまっている。それでも、ミカゲは戦うのを止めはしない。
「オレの狙いは大将首だ。だから、無駄に追いはしねえよ、小物は逃げてもいいんだぜ。」
そんな懐良の挑発にも、ミカゲは敢えて乗るように。
乗らなければ、今までの自分を否定していることになると言わんばかりに。逃げるごとなく、ただ愚直に突進する。
「これで終わりだ!!」
反動は気にしない。
柾はタツヒサの構えをとり。渾身のストレートを、敵の顔面へと浴びせる。確かな手応え。自身の手があまりの衝撃に耐えきれず出血し。
代償にふさわしい成果として、ミカゲの額を大きく割る。その巨体そのものが、後退した。
「みんなが集まると強敵だけど心強いわね」
そう椿は鈴鳴に告げて。
周囲の空気を圧縮し始める。奈良の山に風が強く、駆け抜けた。
「私の攻撃は軽くはないわよ?」
エアブリット。
それが、この戦いの幕を引く最後の一撃となり。
――ランク4の獣は、完全に沈黙した。
「良かった」
椿は静かに微笑む。
それは、この戦いの終了を告げていた。
●
いのりは犠牲となった者達に、祈りを捧げる。
ミカゲが倒れた瞬間に、あれほどまでいた妖達は突如としてほうほうに四散していった。戦場となった大地には、大量の血と骸が残されているのみ。
AAAの隊員達は、仲間の死体を回収していた。
「被害は甚大です……田中隊、水島隊、柿崎隊はほぼ壊滅状態です」
「そうか。遺族には、見せられない状態だが……後で手厚く葬ってやろう」
そんな声が聞こえてくる。
ファイヴも覚者達も、多くが身心ともに疲弊していた。むせかえるような血の匂いが、付いて離れない。それが、また不快だった。
「さようなら愚かな強者」
奈那美は、誰にも聞こえないような。
それこそ本人すら聞こえないような小声で、ぽつりと呟く。
奈良の山々に、それは木霊することすらなく。ゆっくりと、その音は風に掻き消された。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
今回は、まず左翼部隊と戦っていた方達がミカゲに接近。続いて前面部隊、右翼部隊と破り。最後には全員で、ミカゲの首を一つずつ潰していったという結果になりました。
AAAは負傷者が多数。
ミカゲも最後には、何かを思い散っていったようです。
それでは、ご参加ありがとうございました。
AAAは負傷者が多数。
ミカゲも最後には、何かを思い散っていったようです。
それでは、ご参加ありがとうございました。
