霊びの遺蹟
幾つもの根がうねり絡まりながら、大樹はその場所を守っていた。
果たしていつの時代に誰が作ったのかも明らかでは無いその門を潜り抜けた先に、果たして何が眠るのか――それを知る事ができるのは、『覚者』のみ。
来るべき時の訪れに、絡み合う根は紐解かれ、門は姿を現した。
●霊びの遺蹟
神具庫に来てくれないか。
ある日、祠堂 薫(nCL2000092)が珍しく自分から、覚者たちを神具庫へと呼び出した。
「おう、悪かったな、呼び出して。ちょいと頼みがあってな」
呵呵と笑った薫が、僅かに眉を寄せて、口を開いた。
「これは、俺も聞いたばかりの話なんだがな。……妙な遺跡がな、発見されたんだ」
曰く、近畿地方某所の原生林に、その遺跡はあるのだという。
そこは一切人が立ち入った事が無い場所では無かった。学者たちが原生林を発掘調査の為、あるいは自然保護の為に調査をした事もあった筈だが遺跡の存在などこれまでまったく報告されていなかった。
しかし、先日五燐大学の考古学研究所がその原生林を調査した際、大樹の根元に顔を覗かせる遺跡の入り口が発見された。
「地震とか大雨とか、そういった地形が変化するような事も無かった。……なのに、突如として遺跡が現れた。怪しいと思わないか?」
果たして偶然なのか、それとも何者かの意思が働いてその遺跡が現れたのか。それさえも、今は手がかりになるものは何も無い。
「いわゆるオーパーツ的なものとかが見つかれば、新たな神具の開発とか……そういった技術に応用できるような何かがあるかもしれないって事でな。俺にお声が掛かった訳だ。まぁ、勿論何も無い……って可能性もあるがな」
しかし、そこは未知の遺跡だ。危険がまるで無いとも限らないし、何より薫一人で調査できる規模でも無い。
「遺跡の入り口は木の根元。実際遺跡があるのは地下になるから確かな事は言えないらしいが、外から見た感じだと、50人もいれば十分に調査できる広さらしい」
突如現れた、地下遺跡。それが全く何の意味も無いものだとは思えない様子で、真顔になって薫がひげを節くれだった指で撫で付ける。
「って事で、YOUたちに一緒に来て貰いたいんだ。オッサンの護衛で悪いがなぁ。HAHAHA」
あ、ここ笑うとこだぞ。そう、にっと笑う薫だったが――その目は、いつに無く真剣だった。
「上手く行けば、お前たちの力になれるかもしれない。すまんが、よろしく頼んだぜ」
果たしていつの時代に誰が作ったのかも明らかでは無いその門を潜り抜けた先に、果たして何が眠るのか――それを知る事ができるのは、『覚者』のみ。
来るべき時の訪れに、絡み合う根は紐解かれ、門は姿を現した。
●霊びの遺蹟
神具庫に来てくれないか。
ある日、祠堂 薫(nCL2000092)が珍しく自分から、覚者たちを神具庫へと呼び出した。
「おう、悪かったな、呼び出して。ちょいと頼みがあってな」
呵呵と笑った薫が、僅かに眉を寄せて、口を開いた。
「これは、俺も聞いたばかりの話なんだがな。……妙な遺跡がな、発見されたんだ」
曰く、近畿地方某所の原生林に、その遺跡はあるのだという。
そこは一切人が立ち入った事が無い場所では無かった。学者たちが原生林を発掘調査の為、あるいは自然保護の為に調査をした事もあった筈だが遺跡の存在などこれまでまったく報告されていなかった。
しかし、先日五燐大学の考古学研究所がその原生林を調査した際、大樹の根元に顔を覗かせる遺跡の入り口が発見された。
「地震とか大雨とか、そういった地形が変化するような事も無かった。……なのに、突如として遺跡が現れた。怪しいと思わないか?」
果たして偶然なのか、それとも何者かの意思が働いてその遺跡が現れたのか。それさえも、今は手がかりになるものは何も無い。
「いわゆるオーパーツ的なものとかが見つかれば、新たな神具の開発とか……そういった技術に応用できるような何かがあるかもしれないって事でな。俺にお声が掛かった訳だ。まぁ、勿論何も無い……って可能性もあるがな」
しかし、そこは未知の遺跡だ。危険がまるで無いとも限らないし、何より薫一人で調査できる規模でも無い。
「遺跡の入り口は木の根元。実際遺跡があるのは地下になるから確かな事は言えないらしいが、外から見た感じだと、50人もいれば十分に調査できる広さらしい」
突如現れた、地下遺跡。それが全く何の意味も無いものだとは思えない様子で、真顔になって薫がひげを節くれだった指で撫で付ける。
「って事で、YOUたちに一緒に来て貰いたいんだ。オッサンの護衛で悪いがなぁ。HAHAHA」
あ、ここ笑うとこだぞ。そう、にっと笑う薫だったが――その目は、いつに無く真剣だった。
「上手く行けば、お前たちの力になれるかもしれない。すまんが、よろしく頼んだぜ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.オーパーツの発見
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
祠堂薫にお付き合い頂き、遺跡発掘調査へとご協力下さいませ。
少々長い説明となってしまいますが、下記、ご確認頂けると幸いです。
●遺跡について
近畿地方某所の原生林の中で発見された地下遺跡です。
不思議な事に今日までその存在は学者たちも発見できていなかったらしく、
事実上、F.i.V.E.が今回初めてその存在を発見したという状況となります。
●遺跡の構造
門を潜るとすぐに、4本に道が分かれた分岐点に辿り着きます。
皆様には数名ずつ分かれ、それぞれの道を進んだ先のエリアの調査をお願い致します。
ご自分がどのエリアの調査に当たる、またどういった点を重点的に調査するのかをプレイングにご記載下さい。
・ジャングルエリア
ジャングルのように木々が生い茂る中に、崩れた建物が散見されるエリアです。
天井部は開けており外の光が入ってくる為、灯りなどは基本的に必要ありません。
木々が通行の妨げになっている事も多いので調査には手間がかかる可能性があります。
・地下水路エリア
何本もの水路が碁盤目状に近いような形で交差しているエリアです。
他エリアに比べ、岩で道や壁が舗装がされている為歩きやすい場所ですがとにかく暗く、死角になる場所が多いです。
・神殿エリア
ほとんど形を崩す事無く残っている神殿内部調査に当たります。
神殿内部は入り組んでおり、小部屋などがたくさんある為、調査箇所が多いです。
灯りはあった方が良いでしょう。
・村跡エリア
かつて人々が暮らしていたらしい村の跡地です。
民家と思われる建物はどこもかなり損壊が激しく、一つ一つの建物は大きくありませんが、何かを発見するのであればかなり入念に調べないといけないでしょう。
建物の中に入る時のみ灯りが必要になります。
建物の数は二十戸ほど。
●あると良いかもしれない技能
下記の技能があるとちょっぴり有利かもしれません。
また、これ以外の技能でも、使い方によって有利に働く可能性はあります。
・危険予知
・透視
・暗視
・面接着
・物質透過
・ハイバランサー
●その他
戦闘の危険は特にありません。
現地までの移動手段もF.i.V.E.側で用意している為、プレイングに必要な部分は遺跡に入った後の内容になります。
●薫
祠堂薫が同行致します。
彼自身も発掘のプロでは無い為、調査については基本的に皆様のご意向に従います。
彼に指示をしたい事がありましたら、参加者様どなたかのプレイングにその旨をご記載下さい。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
●本イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常のイベントシナリオと異なり通常依頼難易度「簡単」相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
50/50
50/50
公開日
2015年12月01日
2015年12月01日
■メイン参加者 50人■

●密林をくぐり抜け
天から降り注ぐのは、常日頃から浴びるそれと何ら変わらぬ太陽の光。
けれど、鼻孔をくすぐるあまりにも瑞々しい植物や水の匂いと、遺跡の外の原生林とも異なる――まさにジャングルと呼んで差し支えの無い、熱帯に生えるような植物たちの天井が眼前に広がっているその場所は、あまりにも非日常からかけ離れていた。
「ふっ……」
目の前に広がる緑の世界に、月歌 浅葱(CL2000915)が笑みを浮かべた。
「突如現れる謎の遺跡っ。そして秘境っ! ロマンがありますねっ」
「ホントに! 古代文明の遺産! オーパーツ! 封じられた怪獣!」
それからそれから、と、遺跡探検ものの物語で描かれたような題材を思い浮かべて、鹿ノ島・遥(CL2000227)がぐっと拳を作る。
「なんでもいいから、見つけてやんぜ!」
盛り上がる二人につられるように、おー、と拳を作って、風織 紡(CL2000764)がふわりと双眸を細めて笑った。
「ジャングル探検なんて日本でできるんですか」
わくわくするです、と、心躍らせて、軽々と足場を乗り越える。
ここが日本だということを忘れてしまうような光景だった。空を仰げば、そこに天井は無く、木々の向こうには空が見える。その空さえ、いつも自分たちが見上げる空とは違うマガイモノなのでは無いかと疑いたくなるほどに。
「外……は、普通、だ……」
ふわりと空を飛び、天上の穴の『外』を確かめてていたのは、桂木・日那乃(CL2000941)。彼女の視界に移るのは、鬱蒼と茂る原生林。それは、この遺跡に辿り着くまでの道中、彼女たちが歩いてきた光景と変わりない。
遺跡の外に生える木々たちも、数として一番多いのは樫や椎といった常緑広葉樹であり、それ以外に混生する植物も、この地に生息していておかしいという程のものは無い。
――唯一の例外は、遺跡の入り口を守っていた大樹だろう。根元をぐるっと回ってから、春野 桜(CL2000257)は立ち止まり樹皮に手を触れる。
双眸を伏せて、耳を、そして意識を傾けるのは木の心。遺跡を守る大樹の記憶から何か探る事は出来ないかと、大樹へと心を寄せる。
昨日、一昨日――そこから更に数日。昼と夜を逆再生で繰り返しながら、辿れた一番古い記憶は一週間程前のもの。周囲の光景は今とほぼ変わりない。
「……あ」
無駄骨だったかしら、と嘆息しかけた桜の唇から小さな声が漏れた。それは辿れる限界の、最古の記憶だろう。大樹の根を、まるで檻をこじ開けるように掻き分けていく『誰か』の気配。F.i.V.E.の関係者では無さそうだが、それが何者なのか、手がかりになるようなものは見えなかった。
遺跡内のジャングルに生える木々たちの記憶も、これといった変化を伝えては来ない。ならば、地道に探すのみだ。
そんな、あまりにも豊かに――けれどこれといった情報をもたらしてくれはしなかった木々に覆い隠されるかのように、崩れ落ちてもはやただの瓦礫と言っても過言では無い建物跡があった。
「こっちです。何かありそうじゃないですか?」
ひょいひょい、と軽やかに木や瓦礫といった心許ない足場を飛び越えて先行していた紡が手招きする。
「ホントだ、建物も集まってたみたいだね、この辺」
後を追って辿り着き、早速瓦礫の隙間を覗き込む鐡之蔵 禊(CL2000029)の体勢は、不安定なものにならざるを得ない。それを支えながら、ミュエルも興味津々といった視線を送る。
「どんな感じ?」
「えっと……何とか、中に入れそう」
ならば、と三人が瓦礫の隙間を縫うようにして入ったそこには、幾つもの石の箱が積み上げられていた。
「何かの、貯蔵庫かな……」
箱の蓋を開けようにも、力を入れても開く気配は無い。それなら、と、禊が体内の炎を活性化させ、ぐ、と大きく力を込める。
ミシッ、ミシッ――。箱に僅かな亀裂が走り、その直後、これまでの抵抗が嘘のように、するりと蓋が開いた。
箱の中には、金属で出来たボルトがぎっしりと詰まっていた。
「……蓋の裏にも何か書いてありますね?」
蓋を裏返して、紡が刻まれた文様を視線で辿る。ただの文様なのか、それとも文字であったのか。少なくとも、今ここで彼女たちに解読できるようなものではなかった。
一方、上空。鈴白 秋人(CL2000565)の守護使役・ピヨが上空から変わったものが無いかを探す。
(「ここは、元は畑、とか……??」)
どうだろう、ね。そう問うようにピヨに視線をやると、丸い鳥のようなフォルムの守護使役がぱたぱたと羽をはためかす。
その下――上空からでは死角になるだろう位置を中心に、秋人が丹念に地上を調査する。
「これだけ植物が生えるのなら、きっと……」
空気の流れ、水の流れ。それを辿れば、何かが見つかるかもしれない。ゆっくりと地道に調査する秋人を追い越して、ひょいひょい、と足場の悪い場所を遥は軽やかに跳躍しながら、酒々井 数多(CL2000149)は面接着で木の上に登りながら、先行する形で調査する。
「あ、見てみて、ここ!」
軽快なジャンプからの着地で屈み込み、木々の根元を重点的に調べていた遥が大きくぶんぶんと手を振った。同じく地上を嗅ぎ分ける事で調べていた数多の守護使役・わんわんが、鼻を寄せて匂いを確かめ、わん、と吠える。
「ここは一際木々が成長してるわね」
ナイフで枝や蔓を切り開いていくと、石を組み上げて作られた壁らしきものが姿を現した。材質としては雲母片岩に近いだろうか、緑柱石のような緑を含んだ壁の色は、まさに木々に紛れていた。
「見て、ここから水が流れてるわ!」
さらに数多が切り開いていくと、水が流れ出てくる穴が顔を覗かせる。
「本当だ。……ジャングルの植物たちは、この水で育っているのかもしれないですね」
「この水が地下水路に流れているのかもね」
流れる水は緩やかに植物たちを潤し、そして傾斜を下り穴の中へと落ちてゆく。この遺跡がいつ頃のものかは定かでは無いが、用水路がきちんと整備されている事は明らかだった。そこに確かな文明の存在を感じて、秋人と遥が頷いた。
そして、ジャングルで集められた手がかりたちが集約されていく。
「ここは、元は畑、だったのかも……」
上空から密林地帯の地形や建物の数などを数えていた日那乃の呟きに、浅葱がすらすらとペンを紙に走らせていた手を止めて顔を上げた。
「確かに……畑だった跡地に、これだけの植物が生えてきたという可能性はありますねっ」
他の班が向かった村跡エリアとは異なるが、ここもかつての住民たちの生活の為に存在していた場所だったのかもしれない。『畑? 水路?』といった、これまでに得られた情報が、紙へと記されていった。
「獣道のようなものも……特に無かったね」
これだけの自然がありながら、そこに生き物の気配が無いというのも不自然だ。釈然としない様子で、桜が報告する。
「こっちはほら、こんなの見つけたよ」
「同じような箱がいっぱいありましたねえ」
禊、ミュエル、紡が持って来た箱の中身を仲間たちへと見せる。
「畑だけじゃなくて、たとえば工房とか……他にもこの付近にあったのかもしれませんね」
うんうん、と紙を埋め尽くしていく発見や推測に、満足げに浅葱が頷いた。
●暗闇を照らす
――そして。
ジャングルを潤す水が流れる先、あるいは元だろうと推測された地下水路に、こつこつと幾つもの足音が重なって響いた。
「うわあ、ダンジョンみたいだね」
「……ハル。テンションが上がるのは良いけど、転ばないように気をつけて」
はぐれないようにと、白枝 遥(CL2000500)と黒桐 夕樹(CL2000163)は手をつなぎ、それぞれ他方の手で壁を叩いて音を確かめ、あるいは懐中電灯で周囲を照らしながら進んでいく。頭の中には、おどろおどろしいBGMが流れるが、実際には水の音さえほとんどせず、響くのは覚者たちが起こした音がほとんどだった。
「竜丸、お願いいたしますね」
神城 アニス(CL2000023)の要請に答え、守護使役・竜丸がともしびで辺りを照らす。熱を持たない神秘の灯火が僅かに揺らめきながら照らした先も、水路が見えるばかりだった。
ばしゃっ! 灯火が照らした先で、突如飛沫が上がった。そこから顔を出したのは、星野 宇宙人(CL2000772)
「水も滴るイイ男……なんちゃって!」
「HAHAHA、こりゃ誰もが振り向くNice Guyだな」
宇宙人を引き上げながら、祠堂 薫(nCL2000092)が尋ねたが、答えは、水滴滴る頭を横に振るだけだった。少なくともこの辺りには変わったものは無いらしい。
「宝さがしでござるかあ」
幼い頃を思い出す、と神祈 天光(CL2001118)が思いを馳せるその横で、エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が僅かに苦い感情を乗せて微笑む。
ほとんど代わり映えのしない風景に、人の集中力がいつまでも持続する訳ではない。
「地図作っておくから、何かあったら教えてね」
遥がマス目のノートへと地図を描いていく。これが無ければ、代わり映えの無い景色のせいで誰かが迷うかもしれない。
「水路の方も、特に変なものはなさそうだ」
水中を透視して、夕樹が首を振る。水路に意図的に何かが埋められた様子は無い。たとえあったとしても、それは水の流れが行き着く先だろう。
「こっちの道は何も無さそうだったよ。って事で、ここ、……そう、こっち側の道の先はただの行き止まり」
一本の道をまず通路の死角になっている場所を重点的に探していた六道 瑠璃(CL2000092)の報告も、地図へと記されていく。たとえこれといった収穫らしい収穫がなかったとしても、積み重ね、不明点を潰していく事はけして無駄ではない。
「……お。ちょっと待って?」
分散し、合流し。迷わないように地図を描きながら水路を攻略して、しばらくしたとき、宇宙人が仲間たちを呼び止めた。
「何か、暖かい感じがするよ」
僅かに感じた熱の熱源は、緩すぎる水の流れの先にあった。地底湖のように開けた空間に水が溜まっており、その湖の中央の小島に松明が置かれている。
「……いっておくでござるが、絶対に押さないでほしいでござるよ。エヌ殿、これはフリではないでござる!」
調べて来い、と言いたそうなエヌの視線を感じて、慌てて天光が振り向こうとするが――とん、と背中を押され、水へと片足が突っ込んだ。
「大丈夫です、安心してください。僕は何もしませんよ」
エヌの穏やかな笑顔が、顔の半分を覆う仮面のせいもあり、何とも胡散臭い。
「そう、君が手の届かぬ先で闇に飲まれようとも笑顔で見送ります」
グッドラック。そんな笑顔に見送られ、渋々露骨に怪しい小島へと水上歩行で進んだ天光だったが――。
「……全く熱くないでござる」
松明に手を伸ばしたが、その炎はともしびに似た、熱を持たないそれ。否、たとえそれが熱を持っていたとしても、いつからこの炎が灯されていたのだろうかという疑問が浮かぶ。それとも或いは、何かの力が働いていてずっと昔から炎が消えなかったのかもしれない。
「……水、あんまり流れてないのよ」
水路に手を入れて、鼎 飛鳥(CL2000093)が首を傾げた。これだけ緩やかとなれば、水源は遺跡の下から湧き出てくる湧水である可能性もある。湧水を利用し、そしてこれだけの水路を整えたという事は、かなりの文明レベルがあったと見て良いのかもしれない。
「ころんさん、この石ちょっとかじってみて」
かじっ。見た目は愛玩動物のごときまんまるフォルムでも、れっきとした覚者の守護使役だ。ころんが齧った石は、パァンと小気味良い音を立てて真っ二つに割れた。断面に見えるのは、緑柱石らしい緑色。ジャングルエリアにあった石壁と同じ、雲母片岩に似た石のようだった。
「壁や床とたぶん同じ材質だな……。一応、持って帰ってみよう」
石と壁を見比べて、瑠璃が首を傾げた。もしかするともっとサンプルがあると良かったのかもしれないが、壁や床を掘削するのは、遺跡調査の素人たちだけでやるべきでは無い、そう判断したらしい。
、発光によって明るい視界を確保し、地底湖へと飛び込んだ七海 灯(CL2000579)。守護使役イブキの力も借り、地底湖へと飛び込み、水中を発光で照らして確かめながら、小島へと近づいていく。
「あ、これは……」
小島の真下、底にまるで貼り付けられたようにくっついていた一枚の板を外す。
「……石板?」
何かが記された石板のようなもの。そして壁や床と同じ材質の石。それが、水路側の収穫だった。
●神の懐
部屋の数が多い神殿には人手を多く割き、分散して調査に当たる。得られた情報を集約し、地図を作って少しでも謎になっている部分を埋めていこうとはするものの――。
「しっかし……この神殿。……そもそも誰が作ったんだ?」
何かしらの発見があればある程に尽きない疑問を、風祭・誘輔(CL2001092)が口にする。気になる場所は写真に収め、地図を作ってはいくものの、深まる謎に、苦々しげな顔を浮かべずにはいられない。
「おい、次はあっちだ」
「はいはーい。…………はぁ、結構忙しいなぁ」
誘輔の指示を受けながら、鯨塚 百(CL2000332)も機材の運搬にあっちへこっちへとこき使われて神殿内を駆け回る。結構な重労働ではあったが、だからこそ、少しずつ、神殿の構造は鮮明になっていった。
「あ、この出っ張り、押したくなるよね!これ押しちゃダメだよね!?」
気分はまさにダンジョン探検。工藤・奏空(CL2000955)は瞳を輝かせて、壁に作られた突起へと手を伸ばす。
「いや、トラップかもしれないから、いきなり触ったり踏んだりしないようにしよう」
壁に突起物、とメモを取った阿久津 亮平(CL2000328)が慌てて顔を上げて奏空を制止する。いかにもな怪しいものを全部触っていたら、身体がいくつあっても足りないくらいの大惨事になるかもしれない。そんな想像はけして難しくはなかった。……そんな想像さえも、ダンジョン探検に弾む心にとってはスパイスでしかないけれど。
罠があればいきなり引っかかりそうな仲間の横で、志賀 行成(CL2000352)は薙刀の石突で自分たちより数歩先の床に何か仕掛けられていないか、慎重に探す。
「……そこは音が違うから、落とし穴かもしれないな」
落ちるなよ、と静かに行成が忠告すると和泉・鷲哉(CL2001115)も自然と足運びを慎重なものへと変えてしまう。
「しかし、神殿ってもっと1区画が広いイメージだけど、大分小さく分かれてるんだな、ここ」
そう。神殿というには、ここはあまりにもこじんまりとした部屋が多い。構造的に入り組んでいるように感じるのはむしろ、作れるだけ部屋を作ろうとしたからのようにさえ思える。これだけたくさんの部屋が作られているのであれば、ここもまた住居を兼ねていた可能性もあるだろう。住居を兼ねていたのであれば、それだけ何らかの信仰はこの地に根付いていたのかもしれない。あるいは、この神殿こそが、文明の集まる場所だったのかもしれない。
「あ、これ。何か絵……みたいだな」
鷲哉が歩みを止めて、数歩先に書かれた円に似た絵を指差した。少しぽてっとしたラインはまるで。
「なんかこれ、守護使役みたいだね!?」
おおっ! と奏空が歓声を上げる。ほら、あれがライライさんで、こっちが……そう楽しげに奏空が指差した。そう言われてみると、どんどんそれらの絵は守護使役にしか見えなくなってくる。
『守護使役みたいな絵』とメモにとって、亮平がううむ、と小さく唸る。
「守護使役だとすると、やはり覚者たちに関係する場所なのか?」
想像はいくらでも働くが、正解は誰も教えてはくれない。雲を掴むような調査は、まだまだ続く。
「一定レベルの神秘解析の力を持つ者に反応したか、単純に覚者の総量などに反応したか……」
遺跡が姿を見せたきっかけは何だったのだろうか。思索に耽った深緋・幽霊男(CL2001229)の口から、感嘆にも似た息が落ちた。偶然でなければ、それは現代の文明ですら再現の難しい技術力である。
「……しかし、日本神話とは少し違うようだが……どこの文化だ?」
神殿の構造やレリーフは、中国――いや、もっと西洋に近いだろうか。そのような文化の残滓が日本の一地方に存在している現状は、俄かには信じがたい。だが現場を調査する前に撮影した写真は偽りではなく、確かにこの摩訶不思議な遺跡の姿を写し取っていた。少なくとも、これは夢でもなければ幻でもない。
神殿の中枢だろう広間へと水瀬 冬佳(CL2000762)と梶浦 恵(CL2000944)、九段 笹雪(CL2000517)は向かっていた。
巨大な丸い円柱が、神殿を支えて聳え立っている。その柱に記された文様や絵の配列。すぐに解析はできなくとも、そこから何か規則性を見つけることは出来ないか。
「何の為に建てられ、何を祀っていたんでしょう……」文様や絵の図柄を手元の紙に書き写し、梶浦 恵(CL2000944)は視線の上下を繰り返しながら、幾度と無く思考を巡らせる。
「あ、あれとか、ちょっと守護使役に似てない?」
恵が模写した絵と、実際に柱に描かれた絵を見比べていた笹雪が思いついたといった様子でぽんと手を叩く。
「……! そう言われてみると……因子のようにも、見えるかもしれないですね」
恵と笹雪がああではないかこうではないかと、文様や絵が指し示すものが何なのかと議論を交わす。確証にこそ至らないけれど、自分たちがこの遺跡を見つけ、訪れたことはやはり偶然ではないのだ、と。それだけは確信できた。
「祭具か何か、無いのかしらね」
儀式を行う広間にあるもので冬佳の目に止まるのは円柱と、その前に置かれた壊れた像らしきもの。模していたのは人の形だったが――羽や角など、人間にはありえないものを持った姿は、神秘的でもあり、どこか禍々しくもあった。壊れている為に何を表現しようとした像なのかははっきりとは分からないが――因子の力が呼び起こす現象にも、描こうとした内容は通じていたのかもしれない。
広間の先――神殿の最奥の部屋を目指すのは緒形 逝(CL2000156)。
「くしび、と言うのだから一筋縄では行かんよな」
明らかに発達していただろう文明の痕跡。遺跡の外の生態系とはまるで異なる木々や植物。そして、ほとんど感じない生命の気配。不思議というしか無い光景があちこちに広がっているのだ。微かに笑いながら逝は最奥の部屋の扉を開いた。
「……武器、か?」
立てかけられ、あるいは棚にしまわれていたのは杖や槍に見える長柄の得物。棚にしまわれていたのは、弾丸にも見える鉄の小片だった。
「そういやピラミッドは隠し部屋とか隠し通路あんだよな……」
ここにもあるのかもしれないと、田場 義高(CL2001151)は小部屋のほかにも壁など、気になったところをこつこつと叩いて、慎重に調査していた。これだけの部屋の数は、あえて何かを隠す為に作られた可能性だって否定は出来ない。
「……ぬ、もしやこれが書物で読んだ『だんじょん』というやつか」
隠し部屋といえばダンジョン。ただ神を崇める為の場所とは思えない様子に、うきうきとでもいうべきか、そわそわというべきか。少し落ち着かない様子で、由比 久永(CL2000540)も義高にならい、壁をこつこつと叩く。
やがて、音が異なる反響をした場所にたどり着いた。僅かな音の変化に、義高と久永は目を細め、そこをさらに強くぐっと叩いた。抵抗が拳へと返った次の瞬間、がらがら! と音を立て、壁が崩れてゆく。
「大丈夫ですか!?」
なるべく余計な音を立てないように皆が調査していた中で、突如響いた轟音に、犬童 アキラ(CL2000698)が慌てて駆けつける。
「何だ、どうした?」
崩落の音に、谷崎・結唯(CL2000305)も駆けつけ、現れた真っ暗な部屋を灯りで照らす。闇に投げかけられた光が照らしたのは、祭壇のような石でできた物体だった。
「ホントに隠し部屋、あったか……」
驚きのあまり呆然気味な様子の義高に声を潜めるよう促してから、義高が心の中で呼び掛ける。
闇のせいか、他の場所よりも死の香りが強いこの空間で、初めていらえが返ってきた。
――絶やしてはいけないのです。
如何なる智慧も技術も、絶やしてはいけません。きちんと正しく、継承しなくてはならないのです――。
かなりノイズが混ざった思念の声が脳に届いた、ただその言葉を繰り返すのみ。ここにあった文明や、現代の言葉で言うオーパーツについて問いかけることはできなかった。唯一分かるのは、智慧と技術を継承しよう、という強い意思で、この地に縛り付けられる思念があったという事だけだ。
「っ、また崩れそうであります! 出ましょう!」
ぴしっと不吉な亀裂が走る音に、アキラが慌てて皆を小部屋の外へ出るよう促し、部屋の外へと退避を終えたところで、崩れた壁が更に破壊されていく。
「……継承者を待っていたのだろうかな」
結唯が訝しげに眉間に皺を寄せて、暗闇を覆いつくした瓦礫をじっと見つめた。
覚者たちは、思念の主たちにとって、正しく智慧や技術を継承するに値する存在なのか。それに答えられる者も――今はまだ、誰もいない。
●そこにいた証
村があると調べたくなるのは――。
「勇者と魔王の、物語より続く信頼と実績の伝統なのです」
なのでこれは致し方ない事だ、と。主を失い朽ちていった民家を見つめて、橡・槐(CL2000732)はうんうん、と一人首肯する。だが、その考えこそが死角を生みかねない。建物の中は他の仲間たちに任せ、彼女が調べたのは建物の外。建物の並び、村の外との境界を韋駄天の速さで駆け回り調べてゆく。
村の並びは、特にこれといって変わったことも無く、平らな場所を選んで舗装されたのだろう道に沿うように建てられていた。代わりに異様な雰囲気を醸し出していたのは、村を囲む塀だった。高くそびえたつ石で出来た塀は、外部からの侵入を拒むようにさえ思える。そして、見事なまでに真っ直ぐに切り開かれたのだろう石の断面も、つなぎ目をほとんど感じさせない石の大きさも、朽ちた村の雰囲気に全くそぐわない。
(「この場所には、どんな伝統があったのでしょう」)
中へ踏み入ってもなお謎に満ちた遺跡に、槐は首を傾げざるをえなかった。
「わー、どれもこれも随分とダメージがヒドイね……」
歴史を感じさせる――というにはあまりにも風化した村跡の姿に、天城 聖(CL2001170)が思わず声を上げた。住居らしい建物は、辛うじて建物と呼べる程度の形は残していたが、屋根や壁はかなり崩れている。巨大台風が過ぎ去った後――それが、日常の中で見る可能性のある光景としては、一番似ているだろうか。
「長年無人のまま放置されて朽ちていったか、争いごとの爪痕なのか……」
水蓮寺 静護(CL2000471)も眉を寄せた。状況としては前者に近いように見えるが、もし後者だったとしても、かなりの年月が経過していたとすれば、その爪痕も風化して薄れてきている可能性は高い。
崩壊した扉らしい瓦礫を乗り越えて、一軒の民家の中へと入り、四条・理央(CL2000070)は双眸を伏せた。意識を研ぎ澄まさせて、心の中で問いかける。だが、それに応じる声は無い。
「残留思念……とかは、無いってことなのかな」
滅びた村となれば、未だこの地にとらわれた魂があるのではないか、その可能性も考えていただけに、いらえが無いことに対しては、僅かな落胆と、同時に安堵を含んだ息が漏れた。
「私の家は空家になっていますから、いつかこんな風に朽ちてしまうのでしょうね」
かつて住んでいた村を思い出したらしく、柳 燐花(CL2000695)がぽつりと呟いた。その表情は、知らぬ者が見れば、無表情に見えたかもしれない。
「もし良ければ、僕が一緒に行って手伝うのも……足手纏いにはならないよ?」
けれど、そこに郷愁の念に似たものを感じて、蘇我島 恭司(CL2001015)がそう提案する。その気遣いがありがたい、と。燐花がほんの僅かに結んでいた唇を緩ませる。
パシャリ、と恭司が建物の内部を撮影する姿を見守って――燐花がその姿を、小型カメラに収めた。それは、彼女が一番今撮りたいもの。そして、小型カメラを構える彼女の姿が、お返しにとファインダーに収められる。
一軒の民家の裏に、丸みを帯びた石が何個か地面に突き立てられて並んでいる。お墓だろうか、とそっと手を合わせてから、聖は周囲へと視線をさ迷わせ――特に異変が無いのを確かめて、首を振った。
「セーゴー、何か見つかったー?」
懐中電灯片手に建物の中を調べていた静護が朽ちた玄関をするりと抜け出し、その掌に握っていたものを見せた。
「聖。外に何かあったか?」
問いに、こっちは全然、と聖が苦笑いを浮かべ、静護の掌へと視線を落とす。
そこにあったのは、小さな歯車だった。
『――すまない、こちらに誰か来てもらえるか?」
ゲイル・レオンハート(CL2000415)からの送受心が、村跡を探索するメンバーたちへと届く。慌てて駆けつけた仲間たちに礼を述べながら、ゲイルが地面をとん、と叩いた。
「ここが開けられるんだ」
床の無い地面が、叩いた反動でぱかりと口を開いた。いわゆる床下倉庫なのだろう、中には木箱が幾つかしまわれていた。
「……同じものを、他の建物で見たで」
葛葉・かがり(CL2000737)と時任・千陽(CL2000014)も同じような木箱を持ってきていた。さらにその上に、書物らしきものを何冊かずつ抱えている。
「解読はきっと大変ではありますが、これで何か見つかれば、骨の折損にはならないと思いますので」
きり、と表情を引き締めて、千陽がそう説明する。現代の日本語表記とは大きく異なる、解読できない文字ばかりが記されているが、御崎博士に提出し、調査が進めば、何か役に立つ情報が見つかるかもしれない。書を開いたところで、想像する以上の事は出来ないが、この集落が生きていた頃の様子か、この遺跡の神秘にまつわるような話が、何かしら記されているだろう。
「おじゃまします」
たとえ家主がいなかったとしても、失礼にならないように、きちんと挨拶をしてから向日葵 御菓子(CL2000429)が理央が入った隣の民家へと上がる。この建物は比較的損壊が激しくなく、土間や納戸、そして家具などがほとんど姿を変えることもなく残っていた。かつていただろう家主へと心の中で詫びながら、御菓子は神棚らしきものへと手を伸ばした。
「ごめんなさい、失礼します」
内陣の小さな扉を開き、中から札を取り出す。現代で神棚に御神札をおさめる風習と、そう大差は無いようだが、、まるでみみずがのたくったような、漢字とは到底思えない落書きのようなものが御神札らしきものに描かれていた。
台所だっただろう場所の隣の部屋に入った赤祢 維摩(CL2000884)が見つけたものは農具らしきもの。鍬や鋤といった、機械化される前の農具たちが並んでいるところは、かつての日本の一般的な農家の光景とさして変わらないだろう。ただ、大昔と呼ぶには、金属部分はあまりにも綺麗に形が整っている。今なお柄にも刃にもほとんど歪みが見られない農具は、それだけ製造する技術が発展していたと想像できる。
「いったい何時の物だ?」
果たしてこの遺跡はいつの時代のものなのか。答えが見えない思索は、研究者としての探究心をくすぐられる。残されている家具や日用品も、風化具合に比べれば、確かな技術の存在が窺えた。
「……ふん、中々に退屈せん調査だな」
すべてを解き明かす事は今はできない。だからこそ掻き立てられる探究心に、維摩は僅かに口端を釣り上げた。
しゃがみこんで床に顔を近づけて、成瀬 翔(CL2000063)が透視で隠された何かが無いかと探る。床の端まで匍匐前進で進んで、次に調べるのは壁。壁の向こうに何か無いかと探っていた翔の口から、お、と小さな声が漏れた。
(「叔父さん、こっちこっち!」)
声には出さず、懐中電灯をかちかちとつけて合図をし、共に調査に当たっていた叔父の成瀬 基(CL2001216)を呼んだ。
「ここ、壁の向こうに何かあるっぽいんだ」
「じゃあ僕が行ってみよう」
甥っ子を危険な目に遭わせる訳にはいかないしね、と笑って基が壁へと物質透過で入り込んでゆく。壁の裏に隠されていたのは収納棚。現代の建築技術とも遜色が無い程にしっかりと作られた棚に、護符のようなものが飾られていた。何か書いてはあるものの、それを読み取る事は出来ないが――。
(「家具とかも、立派だけど……オーパーツって感じじゃないな」)
家具はあくまで家具だ。しかし、護符を隠しているのはおそらくこの家だけではない。この村は、少なくともただ人々が暮らしていた訳では無く、信仰などで結ばれていた人々の集まりだったのかもしれない。
「もともと地上にあった村が、何らかの原因で土地が陥没して地下に落ちたんか、それとも最初から地下に作られていたんか……」
どうなんやろ、と光邑 研吾(CL2000032)が首を傾げると、その隣にいた光邑 リサ(CL2000053)が柔らかく、そしてどこか楽しげに微笑んだ。
「また3人でお出かけできるなんて、うれしいワ」
それが遊びに出かける訳ではなく遺跡の調査であっても――あるいは、ともすれば危険に遭遇しないとも限らない調査だからこそ。家族と共に赴ける事は、覚者一家にとっては幸福なのかもしれない。祖父母の背後を守るように後ろからついて来ている奥州 一悟(CL2000076)も、祖父よりたくさん嗅がされた膠の匂いを思い出しながら、何か変わった匂いはしないかと、すんすんと鼻を鳴らす。
三人が向かった先は、村跡の中央に位置する、広場だったと思われる場所。村跡の入り口からまっすぐ進んだ先にある広場を更に先に進むと、一際大きな建物の跡、崩れた柱の跡が残されていた。
「それにしてもなんで廃れちまったんだろうな」
地下に作ったからだろうか、と想像して一悟が眉を寄せた。なら、一体何の為に地下遺跡の中にこの集落は作られたのか。外敵から身を――あるいは、何かとてつもなく重要なものを隠している。そう思えてならなかった。
「ケンゴ、上ばかり見ていたら危ないワ。イチゴも足元に気をつけて」
一番大きな民家跡に入るやいなや本柱を中心に丹念に調べる研吾と、罠が仕掛けられてはいないかと足元を見張る一悟へとそう呼び掛けてからリサが触れたのは、暖炉の跡だった。呼び掛けても語る思念はそこには無かったが、あちこちに垣間見える生活の痕跡は、滅びを実感させた。
「……お、こいつは。玉竜、ちょっと上の方を照らしてみてくれへんか?」
守護使役・玉竜にともしびを使わせながら、柱の一部を研吾が押した。皺の刻まれた指が触れた場所が、僅かに凹む。
「これ、ぶち抜けばいいの?」
勿論本当に全力でぶち抜いては、家自体が壊れかねない。十分に加減して、一悟がぐぐっと柱を押すと、ぱかっと柱に穴が開いた。
中にあったのは、護符のようなもの。これもかつては、村人たちの拠り所であり、彼らを守っていたのだろうか。
だが、護符によって守られるべき者たちは、既にそこにはいない。
「一体、何処へ行ってしまったんでしょう……」
賀茂 たまき(CL2000994)が屈み込んで地面へと触れて呟いた。かつての住人たちが消えて久しいこの場所で、良い情報と言えるだけの情報を得ることは難しい。けれど、たまきの掌には、そこに住む人々を失った大地の嘆きが伝わってくるような気がした。
●成果
「HAHAHA、すごいなYOUたちは!」
どこにオーパーツが眠るか――ヒントになるようなものがあった訳でも無い。それでも、オーパーツと呼ぶに値する品を発見する事が出来たのは、ひとえに覚者たちの工夫と努力があったからこそ。単にスキルに頼るだけでは無く、それを如何に行使するか、知恵を使ったからこそだ。
「良く見つけたもんだ。大変だっただろ?」
地下水路班が闇の中手探りで何かを探そうとしたその苦労は同行した彼も良く知っている。だが、その他の班でもきちんと、怪しいと感じた何かを見つけ、そして持ち帰って来たのだ。
「私たちより先に、この遺跡に入ろうとした人が、F.i.V.E.以外でいたみたいね。それが誰かまでは分からなかったけれど……」
遺跡の扉を守るように生える大樹から得た記憶を、桜が語る。それ以上は分からなかった、と首を振ると、柔らかな黒い髪がふわりと揺れた。
「入口が見つからなかった原因は、結界の類、と言う所でしょうね」
冬佳も首を傾げて思案する。木々の記憶にあった誰かが遺跡発見のトリガーとなったのか、それとも更に別の要因があったのか――。
灯の顔からも訝しむ色は消えない。
「民家の数に対して、水路の規模が大き過ぎるように感じましたね。……他に何か目的があったのでしょうか」
居住区、畑、水路。そして神殿。一つ一つのパーツは、かつてそこに独特の宗教文化を持っていた集落が存在したという結論が導き出されるのかもしれない。けれど、これまでずっとその存在が発見されなかったという事実が何より、この遺跡をただの集落の跡と結論付ける事を躊躇させた。
いずれにせよ、現時点ではすべて推測の域を出ない。
歯車、ボルトとそれが収められていた箱、護符のようなもの、石板、水路の壁の一部と思われる石、文様や絵を書き写した紙。書籍らしきもの。
覚者たちが持ち帰った数々の戦果へと視線を落とした薫が、僅かに眉を寄せ、真顔になった。
「……持って帰って、俺の方でも調べてみよう。きっと、YOUたちの役に立つ何かがある筈だ」
「見ただけでわかるの……?」
ミュエルの問いに薫は顔を上げ、陽気に笑いながらどん、と胸を叩いた。
「そりゃあもちろん……勘ってヤツよ」
勘。それはあまりにも不確かな言葉ではあったが、自信満々といった様子で口端をにっと吊り上げて笑み、薫は顎鬚を撫でた。
「必ずちゃーんと成果は報告するぜ。改めて、お疲れさん! 付き合ってくれてTHANK YOU!」
天から降り注ぐのは、常日頃から浴びるそれと何ら変わらぬ太陽の光。
けれど、鼻孔をくすぐるあまりにも瑞々しい植物や水の匂いと、遺跡の外の原生林とも異なる――まさにジャングルと呼んで差し支えの無い、熱帯に生えるような植物たちの天井が眼前に広がっているその場所は、あまりにも非日常からかけ離れていた。
「ふっ……」
目の前に広がる緑の世界に、月歌 浅葱(CL2000915)が笑みを浮かべた。
「突如現れる謎の遺跡っ。そして秘境っ! ロマンがありますねっ」
「ホントに! 古代文明の遺産! オーパーツ! 封じられた怪獣!」
それからそれから、と、遺跡探検ものの物語で描かれたような題材を思い浮かべて、鹿ノ島・遥(CL2000227)がぐっと拳を作る。
「なんでもいいから、見つけてやんぜ!」
盛り上がる二人につられるように、おー、と拳を作って、風織 紡(CL2000764)がふわりと双眸を細めて笑った。
「ジャングル探検なんて日本でできるんですか」
わくわくするです、と、心躍らせて、軽々と足場を乗り越える。
ここが日本だということを忘れてしまうような光景だった。空を仰げば、そこに天井は無く、木々の向こうには空が見える。その空さえ、いつも自分たちが見上げる空とは違うマガイモノなのでは無いかと疑いたくなるほどに。
「外……は、普通、だ……」
ふわりと空を飛び、天上の穴の『外』を確かめてていたのは、桂木・日那乃(CL2000941)。彼女の視界に移るのは、鬱蒼と茂る原生林。それは、この遺跡に辿り着くまでの道中、彼女たちが歩いてきた光景と変わりない。
遺跡の外に生える木々たちも、数として一番多いのは樫や椎といった常緑広葉樹であり、それ以外に混生する植物も、この地に生息していておかしいという程のものは無い。
――唯一の例外は、遺跡の入り口を守っていた大樹だろう。根元をぐるっと回ってから、春野 桜(CL2000257)は立ち止まり樹皮に手を触れる。
双眸を伏せて、耳を、そして意識を傾けるのは木の心。遺跡を守る大樹の記憶から何か探る事は出来ないかと、大樹へと心を寄せる。
昨日、一昨日――そこから更に数日。昼と夜を逆再生で繰り返しながら、辿れた一番古い記憶は一週間程前のもの。周囲の光景は今とほぼ変わりない。
「……あ」
無駄骨だったかしら、と嘆息しかけた桜の唇から小さな声が漏れた。それは辿れる限界の、最古の記憶だろう。大樹の根を、まるで檻をこじ開けるように掻き分けていく『誰か』の気配。F.i.V.E.の関係者では無さそうだが、それが何者なのか、手がかりになるようなものは見えなかった。
遺跡内のジャングルに生える木々たちの記憶も、これといった変化を伝えては来ない。ならば、地道に探すのみだ。
そんな、あまりにも豊かに――けれどこれといった情報をもたらしてくれはしなかった木々に覆い隠されるかのように、崩れ落ちてもはやただの瓦礫と言っても過言では無い建物跡があった。
「こっちです。何かありそうじゃないですか?」
ひょいひょい、と軽やかに木や瓦礫といった心許ない足場を飛び越えて先行していた紡が手招きする。
「ホントだ、建物も集まってたみたいだね、この辺」
後を追って辿り着き、早速瓦礫の隙間を覗き込む鐡之蔵 禊(CL2000029)の体勢は、不安定なものにならざるを得ない。それを支えながら、ミュエルも興味津々といった視線を送る。
「どんな感じ?」
「えっと……何とか、中に入れそう」
ならば、と三人が瓦礫の隙間を縫うようにして入ったそこには、幾つもの石の箱が積み上げられていた。
「何かの、貯蔵庫かな……」
箱の蓋を開けようにも、力を入れても開く気配は無い。それなら、と、禊が体内の炎を活性化させ、ぐ、と大きく力を込める。
ミシッ、ミシッ――。箱に僅かな亀裂が走り、その直後、これまでの抵抗が嘘のように、するりと蓋が開いた。
箱の中には、金属で出来たボルトがぎっしりと詰まっていた。
「……蓋の裏にも何か書いてありますね?」
蓋を裏返して、紡が刻まれた文様を視線で辿る。ただの文様なのか、それとも文字であったのか。少なくとも、今ここで彼女たちに解読できるようなものではなかった。
一方、上空。鈴白 秋人(CL2000565)の守護使役・ピヨが上空から変わったものが無いかを探す。
(「ここは、元は畑、とか……??」)
どうだろう、ね。そう問うようにピヨに視線をやると、丸い鳥のようなフォルムの守護使役がぱたぱたと羽をはためかす。
その下――上空からでは死角になるだろう位置を中心に、秋人が丹念に地上を調査する。
「これだけ植物が生えるのなら、きっと……」
空気の流れ、水の流れ。それを辿れば、何かが見つかるかもしれない。ゆっくりと地道に調査する秋人を追い越して、ひょいひょい、と足場の悪い場所を遥は軽やかに跳躍しながら、酒々井 数多(CL2000149)は面接着で木の上に登りながら、先行する形で調査する。
「あ、見てみて、ここ!」
軽快なジャンプからの着地で屈み込み、木々の根元を重点的に調べていた遥が大きくぶんぶんと手を振った。同じく地上を嗅ぎ分ける事で調べていた数多の守護使役・わんわんが、鼻を寄せて匂いを確かめ、わん、と吠える。
「ここは一際木々が成長してるわね」
ナイフで枝や蔓を切り開いていくと、石を組み上げて作られた壁らしきものが姿を現した。材質としては雲母片岩に近いだろうか、緑柱石のような緑を含んだ壁の色は、まさに木々に紛れていた。
「見て、ここから水が流れてるわ!」
さらに数多が切り開いていくと、水が流れ出てくる穴が顔を覗かせる。
「本当だ。……ジャングルの植物たちは、この水で育っているのかもしれないですね」
「この水が地下水路に流れているのかもね」
流れる水は緩やかに植物たちを潤し、そして傾斜を下り穴の中へと落ちてゆく。この遺跡がいつ頃のものかは定かでは無いが、用水路がきちんと整備されている事は明らかだった。そこに確かな文明の存在を感じて、秋人と遥が頷いた。
そして、ジャングルで集められた手がかりたちが集約されていく。
「ここは、元は畑、だったのかも……」
上空から密林地帯の地形や建物の数などを数えていた日那乃の呟きに、浅葱がすらすらとペンを紙に走らせていた手を止めて顔を上げた。
「確かに……畑だった跡地に、これだけの植物が生えてきたという可能性はありますねっ」
他の班が向かった村跡エリアとは異なるが、ここもかつての住民たちの生活の為に存在していた場所だったのかもしれない。『畑? 水路?』といった、これまでに得られた情報が、紙へと記されていった。
「獣道のようなものも……特に無かったね」
これだけの自然がありながら、そこに生き物の気配が無いというのも不自然だ。釈然としない様子で、桜が報告する。
「こっちはほら、こんなの見つけたよ」
「同じような箱がいっぱいありましたねえ」
禊、ミュエル、紡が持って来た箱の中身を仲間たちへと見せる。
「畑だけじゃなくて、たとえば工房とか……他にもこの付近にあったのかもしれませんね」
うんうん、と紙を埋め尽くしていく発見や推測に、満足げに浅葱が頷いた。
●暗闇を照らす
――そして。
ジャングルを潤す水が流れる先、あるいは元だろうと推測された地下水路に、こつこつと幾つもの足音が重なって響いた。
「うわあ、ダンジョンみたいだね」
「……ハル。テンションが上がるのは良いけど、転ばないように気をつけて」
はぐれないようにと、白枝 遥(CL2000500)と黒桐 夕樹(CL2000163)は手をつなぎ、それぞれ他方の手で壁を叩いて音を確かめ、あるいは懐中電灯で周囲を照らしながら進んでいく。頭の中には、おどろおどろしいBGMが流れるが、実際には水の音さえほとんどせず、響くのは覚者たちが起こした音がほとんどだった。
「竜丸、お願いいたしますね」
神城 アニス(CL2000023)の要請に答え、守護使役・竜丸がともしびで辺りを照らす。熱を持たない神秘の灯火が僅かに揺らめきながら照らした先も、水路が見えるばかりだった。
ばしゃっ! 灯火が照らした先で、突如飛沫が上がった。そこから顔を出したのは、星野 宇宙人(CL2000772)
「水も滴るイイ男……なんちゃって!」
「HAHAHA、こりゃ誰もが振り向くNice Guyだな」
宇宙人を引き上げながら、祠堂 薫(nCL2000092)が尋ねたが、答えは、水滴滴る頭を横に振るだけだった。少なくともこの辺りには変わったものは無いらしい。
「宝さがしでござるかあ」
幼い頃を思い出す、と神祈 天光(CL2001118)が思いを馳せるその横で、エヌ・ノウ・ネイム(CL2000446)が僅かに苦い感情を乗せて微笑む。
ほとんど代わり映えのしない風景に、人の集中力がいつまでも持続する訳ではない。
「地図作っておくから、何かあったら教えてね」
遥がマス目のノートへと地図を描いていく。これが無ければ、代わり映えの無い景色のせいで誰かが迷うかもしれない。
「水路の方も、特に変なものはなさそうだ」
水中を透視して、夕樹が首を振る。水路に意図的に何かが埋められた様子は無い。たとえあったとしても、それは水の流れが行き着く先だろう。
「こっちの道は何も無さそうだったよ。って事で、ここ、……そう、こっち側の道の先はただの行き止まり」
一本の道をまず通路の死角になっている場所を重点的に探していた六道 瑠璃(CL2000092)の報告も、地図へと記されていく。たとえこれといった収穫らしい収穫がなかったとしても、積み重ね、不明点を潰していく事はけして無駄ではない。
「……お。ちょっと待って?」
分散し、合流し。迷わないように地図を描きながら水路を攻略して、しばらくしたとき、宇宙人が仲間たちを呼び止めた。
「何か、暖かい感じがするよ」
僅かに感じた熱の熱源は、緩すぎる水の流れの先にあった。地底湖のように開けた空間に水が溜まっており、その湖の中央の小島に松明が置かれている。
「……いっておくでござるが、絶対に押さないでほしいでござるよ。エヌ殿、これはフリではないでござる!」
調べて来い、と言いたそうなエヌの視線を感じて、慌てて天光が振り向こうとするが――とん、と背中を押され、水へと片足が突っ込んだ。
「大丈夫です、安心してください。僕は何もしませんよ」
エヌの穏やかな笑顔が、顔の半分を覆う仮面のせいもあり、何とも胡散臭い。
「そう、君が手の届かぬ先で闇に飲まれようとも笑顔で見送ります」
グッドラック。そんな笑顔に見送られ、渋々露骨に怪しい小島へと水上歩行で進んだ天光だったが――。
「……全く熱くないでござる」
松明に手を伸ばしたが、その炎はともしびに似た、熱を持たないそれ。否、たとえそれが熱を持っていたとしても、いつからこの炎が灯されていたのだろうかという疑問が浮かぶ。それとも或いは、何かの力が働いていてずっと昔から炎が消えなかったのかもしれない。
「……水、あんまり流れてないのよ」
水路に手を入れて、鼎 飛鳥(CL2000093)が首を傾げた。これだけ緩やかとなれば、水源は遺跡の下から湧き出てくる湧水である可能性もある。湧水を利用し、そしてこれだけの水路を整えたという事は、かなりの文明レベルがあったと見て良いのかもしれない。
「ころんさん、この石ちょっとかじってみて」
かじっ。見た目は愛玩動物のごときまんまるフォルムでも、れっきとした覚者の守護使役だ。ころんが齧った石は、パァンと小気味良い音を立てて真っ二つに割れた。断面に見えるのは、緑柱石らしい緑色。ジャングルエリアにあった石壁と同じ、雲母片岩に似た石のようだった。
「壁や床とたぶん同じ材質だな……。一応、持って帰ってみよう」
石と壁を見比べて、瑠璃が首を傾げた。もしかするともっとサンプルがあると良かったのかもしれないが、壁や床を掘削するのは、遺跡調査の素人たちだけでやるべきでは無い、そう判断したらしい。
、発光によって明るい視界を確保し、地底湖へと飛び込んだ七海 灯(CL2000579)。守護使役イブキの力も借り、地底湖へと飛び込み、水中を発光で照らして確かめながら、小島へと近づいていく。
「あ、これは……」
小島の真下、底にまるで貼り付けられたようにくっついていた一枚の板を外す。
「……石板?」
何かが記された石板のようなもの。そして壁や床と同じ材質の石。それが、水路側の収穫だった。
●神の懐
部屋の数が多い神殿には人手を多く割き、分散して調査に当たる。得られた情報を集約し、地図を作って少しでも謎になっている部分を埋めていこうとはするものの――。
「しっかし……この神殿。……そもそも誰が作ったんだ?」
何かしらの発見があればある程に尽きない疑問を、風祭・誘輔(CL2001092)が口にする。気になる場所は写真に収め、地図を作ってはいくものの、深まる謎に、苦々しげな顔を浮かべずにはいられない。
「おい、次はあっちだ」
「はいはーい。…………はぁ、結構忙しいなぁ」
誘輔の指示を受けながら、鯨塚 百(CL2000332)も機材の運搬にあっちへこっちへとこき使われて神殿内を駆け回る。結構な重労働ではあったが、だからこそ、少しずつ、神殿の構造は鮮明になっていった。
「あ、この出っ張り、押したくなるよね!これ押しちゃダメだよね!?」
気分はまさにダンジョン探検。工藤・奏空(CL2000955)は瞳を輝かせて、壁に作られた突起へと手を伸ばす。
「いや、トラップかもしれないから、いきなり触ったり踏んだりしないようにしよう」
壁に突起物、とメモを取った阿久津 亮平(CL2000328)が慌てて顔を上げて奏空を制止する。いかにもな怪しいものを全部触っていたら、身体がいくつあっても足りないくらいの大惨事になるかもしれない。そんな想像はけして難しくはなかった。……そんな想像さえも、ダンジョン探検に弾む心にとってはスパイスでしかないけれど。
罠があればいきなり引っかかりそうな仲間の横で、志賀 行成(CL2000352)は薙刀の石突で自分たちより数歩先の床に何か仕掛けられていないか、慎重に探す。
「……そこは音が違うから、落とし穴かもしれないな」
落ちるなよ、と静かに行成が忠告すると和泉・鷲哉(CL2001115)も自然と足運びを慎重なものへと変えてしまう。
「しかし、神殿ってもっと1区画が広いイメージだけど、大分小さく分かれてるんだな、ここ」
そう。神殿というには、ここはあまりにもこじんまりとした部屋が多い。構造的に入り組んでいるように感じるのはむしろ、作れるだけ部屋を作ろうとしたからのようにさえ思える。これだけたくさんの部屋が作られているのであれば、ここもまた住居を兼ねていた可能性もあるだろう。住居を兼ねていたのであれば、それだけ何らかの信仰はこの地に根付いていたのかもしれない。あるいは、この神殿こそが、文明の集まる場所だったのかもしれない。
「あ、これ。何か絵……みたいだな」
鷲哉が歩みを止めて、数歩先に書かれた円に似た絵を指差した。少しぽてっとしたラインはまるで。
「なんかこれ、守護使役みたいだね!?」
おおっ! と奏空が歓声を上げる。ほら、あれがライライさんで、こっちが……そう楽しげに奏空が指差した。そう言われてみると、どんどんそれらの絵は守護使役にしか見えなくなってくる。
『守護使役みたいな絵』とメモにとって、亮平がううむ、と小さく唸る。
「守護使役だとすると、やはり覚者たちに関係する場所なのか?」
想像はいくらでも働くが、正解は誰も教えてはくれない。雲を掴むような調査は、まだまだ続く。
「一定レベルの神秘解析の力を持つ者に反応したか、単純に覚者の総量などに反応したか……」
遺跡が姿を見せたきっかけは何だったのだろうか。思索に耽った深緋・幽霊男(CL2001229)の口から、感嘆にも似た息が落ちた。偶然でなければ、それは現代の文明ですら再現の難しい技術力である。
「……しかし、日本神話とは少し違うようだが……どこの文化だ?」
神殿の構造やレリーフは、中国――いや、もっと西洋に近いだろうか。そのような文化の残滓が日本の一地方に存在している現状は、俄かには信じがたい。だが現場を調査する前に撮影した写真は偽りではなく、確かにこの摩訶不思議な遺跡の姿を写し取っていた。少なくとも、これは夢でもなければ幻でもない。
神殿の中枢だろう広間へと水瀬 冬佳(CL2000762)と梶浦 恵(CL2000944)、九段 笹雪(CL2000517)は向かっていた。
巨大な丸い円柱が、神殿を支えて聳え立っている。その柱に記された文様や絵の配列。すぐに解析はできなくとも、そこから何か規則性を見つけることは出来ないか。
「何の為に建てられ、何を祀っていたんでしょう……」文様や絵の図柄を手元の紙に書き写し、梶浦 恵(CL2000944)は視線の上下を繰り返しながら、幾度と無く思考を巡らせる。
「あ、あれとか、ちょっと守護使役に似てない?」
恵が模写した絵と、実際に柱に描かれた絵を見比べていた笹雪が思いついたといった様子でぽんと手を叩く。
「……! そう言われてみると……因子のようにも、見えるかもしれないですね」
恵と笹雪がああではないかこうではないかと、文様や絵が指し示すものが何なのかと議論を交わす。確証にこそ至らないけれど、自分たちがこの遺跡を見つけ、訪れたことはやはり偶然ではないのだ、と。それだけは確信できた。
「祭具か何か、無いのかしらね」
儀式を行う広間にあるもので冬佳の目に止まるのは円柱と、その前に置かれた壊れた像らしきもの。模していたのは人の形だったが――羽や角など、人間にはありえないものを持った姿は、神秘的でもあり、どこか禍々しくもあった。壊れている為に何を表現しようとした像なのかははっきりとは分からないが――因子の力が呼び起こす現象にも、描こうとした内容は通じていたのかもしれない。
広間の先――神殿の最奥の部屋を目指すのは緒形 逝(CL2000156)。
「くしび、と言うのだから一筋縄では行かんよな」
明らかに発達していただろう文明の痕跡。遺跡の外の生態系とはまるで異なる木々や植物。そして、ほとんど感じない生命の気配。不思議というしか無い光景があちこちに広がっているのだ。微かに笑いながら逝は最奥の部屋の扉を開いた。
「……武器、か?」
立てかけられ、あるいは棚にしまわれていたのは杖や槍に見える長柄の得物。棚にしまわれていたのは、弾丸にも見える鉄の小片だった。
「そういやピラミッドは隠し部屋とか隠し通路あんだよな……」
ここにもあるのかもしれないと、田場 義高(CL2001151)は小部屋のほかにも壁など、気になったところをこつこつと叩いて、慎重に調査していた。これだけの部屋の数は、あえて何かを隠す為に作られた可能性だって否定は出来ない。
「……ぬ、もしやこれが書物で読んだ『だんじょん』というやつか」
隠し部屋といえばダンジョン。ただ神を崇める為の場所とは思えない様子に、うきうきとでもいうべきか、そわそわというべきか。少し落ち着かない様子で、由比 久永(CL2000540)も義高にならい、壁をこつこつと叩く。
やがて、音が異なる反響をした場所にたどり着いた。僅かな音の変化に、義高と久永は目を細め、そこをさらに強くぐっと叩いた。抵抗が拳へと返った次の瞬間、がらがら! と音を立て、壁が崩れてゆく。
「大丈夫ですか!?」
なるべく余計な音を立てないように皆が調査していた中で、突如響いた轟音に、犬童 アキラ(CL2000698)が慌てて駆けつける。
「何だ、どうした?」
崩落の音に、谷崎・結唯(CL2000305)も駆けつけ、現れた真っ暗な部屋を灯りで照らす。闇に投げかけられた光が照らしたのは、祭壇のような石でできた物体だった。
「ホントに隠し部屋、あったか……」
驚きのあまり呆然気味な様子の義高に声を潜めるよう促してから、義高が心の中で呼び掛ける。
闇のせいか、他の場所よりも死の香りが強いこの空間で、初めていらえが返ってきた。
――絶やしてはいけないのです。
如何なる智慧も技術も、絶やしてはいけません。きちんと正しく、継承しなくてはならないのです――。
かなりノイズが混ざった思念の声が脳に届いた、ただその言葉を繰り返すのみ。ここにあった文明や、現代の言葉で言うオーパーツについて問いかけることはできなかった。唯一分かるのは、智慧と技術を継承しよう、という強い意思で、この地に縛り付けられる思念があったという事だけだ。
「っ、また崩れそうであります! 出ましょう!」
ぴしっと不吉な亀裂が走る音に、アキラが慌てて皆を小部屋の外へ出るよう促し、部屋の外へと退避を終えたところで、崩れた壁が更に破壊されていく。
「……継承者を待っていたのだろうかな」
結唯が訝しげに眉間に皺を寄せて、暗闇を覆いつくした瓦礫をじっと見つめた。
覚者たちは、思念の主たちにとって、正しく智慧や技術を継承するに値する存在なのか。それに答えられる者も――今はまだ、誰もいない。
●そこにいた証
村があると調べたくなるのは――。
「勇者と魔王の、物語より続く信頼と実績の伝統なのです」
なのでこれは致し方ない事だ、と。主を失い朽ちていった民家を見つめて、橡・槐(CL2000732)はうんうん、と一人首肯する。だが、その考えこそが死角を生みかねない。建物の中は他の仲間たちに任せ、彼女が調べたのは建物の外。建物の並び、村の外との境界を韋駄天の速さで駆け回り調べてゆく。
村の並びは、特にこれといって変わったことも無く、平らな場所を選んで舗装されたのだろう道に沿うように建てられていた。代わりに異様な雰囲気を醸し出していたのは、村を囲む塀だった。高くそびえたつ石で出来た塀は、外部からの侵入を拒むようにさえ思える。そして、見事なまでに真っ直ぐに切り開かれたのだろう石の断面も、つなぎ目をほとんど感じさせない石の大きさも、朽ちた村の雰囲気に全くそぐわない。
(「この場所には、どんな伝統があったのでしょう」)
中へ踏み入ってもなお謎に満ちた遺跡に、槐は首を傾げざるをえなかった。
「わー、どれもこれも随分とダメージがヒドイね……」
歴史を感じさせる――というにはあまりにも風化した村跡の姿に、天城 聖(CL2001170)が思わず声を上げた。住居らしい建物は、辛うじて建物と呼べる程度の形は残していたが、屋根や壁はかなり崩れている。巨大台風が過ぎ去った後――それが、日常の中で見る可能性のある光景としては、一番似ているだろうか。
「長年無人のまま放置されて朽ちていったか、争いごとの爪痕なのか……」
水蓮寺 静護(CL2000471)も眉を寄せた。状況としては前者に近いように見えるが、もし後者だったとしても、かなりの年月が経過していたとすれば、その爪痕も風化して薄れてきている可能性は高い。
崩壊した扉らしい瓦礫を乗り越えて、一軒の民家の中へと入り、四条・理央(CL2000070)は双眸を伏せた。意識を研ぎ澄まさせて、心の中で問いかける。だが、それに応じる声は無い。
「残留思念……とかは、無いってことなのかな」
滅びた村となれば、未だこの地にとらわれた魂があるのではないか、その可能性も考えていただけに、いらえが無いことに対しては、僅かな落胆と、同時に安堵を含んだ息が漏れた。
「私の家は空家になっていますから、いつかこんな風に朽ちてしまうのでしょうね」
かつて住んでいた村を思い出したらしく、柳 燐花(CL2000695)がぽつりと呟いた。その表情は、知らぬ者が見れば、無表情に見えたかもしれない。
「もし良ければ、僕が一緒に行って手伝うのも……足手纏いにはならないよ?」
けれど、そこに郷愁の念に似たものを感じて、蘇我島 恭司(CL2001015)がそう提案する。その気遣いがありがたい、と。燐花がほんの僅かに結んでいた唇を緩ませる。
パシャリ、と恭司が建物の内部を撮影する姿を見守って――燐花がその姿を、小型カメラに収めた。それは、彼女が一番今撮りたいもの。そして、小型カメラを構える彼女の姿が、お返しにとファインダーに収められる。
一軒の民家の裏に、丸みを帯びた石が何個か地面に突き立てられて並んでいる。お墓だろうか、とそっと手を合わせてから、聖は周囲へと視線をさ迷わせ――特に異変が無いのを確かめて、首を振った。
「セーゴー、何か見つかったー?」
懐中電灯片手に建物の中を調べていた静護が朽ちた玄関をするりと抜け出し、その掌に握っていたものを見せた。
「聖。外に何かあったか?」
問いに、こっちは全然、と聖が苦笑いを浮かべ、静護の掌へと視線を落とす。
そこにあったのは、小さな歯車だった。
『――すまない、こちらに誰か来てもらえるか?」
ゲイル・レオンハート(CL2000415)からの送受心が、村跡を探索するメンバーたちへと届く。慌てて駆けつけた仲間たちに礼を述べながら、ゲイルが地面をとん、と叩いた。
「ここが開けられるんだ」
床の無い地面が、叩いた反動でぱかりと口を開いた。いわゆる床下倉庫なのだろう、中には木箱が幾つかしまわれていた。
「……同じものを、他の建物で見たで」
葛葉・かがり(CL2000737)と時任・千陽(CL2000014)も同じような木箱を持ってきていた。さらにその上に、書物らしきものを何冊かずつ抱えている。
「解読はきっと大変ではありますが、これで何か見つかれば、骨の折損にはならないと思いますので」
きり、と表情を引き締めて、千陽がそう説明する。現代の日本語表記とは大きく異なる、解読できない文字ばかりが記されているが、御崎博士に提出し、調査が進めば、何か役に立つ情報が見つかるかもしれない。書を開いたところで、想像する以上の事は出来ないが、この集落が生きていた頃の様子か、この遺跡の神秘にまつわるような話が、何かしら記されているだろう。
「おじゃまします」
たとえ家主がいなかったとしても、失礼にならないように、きちんと挨拶をしてから向日葵 御菓子(CL2000429)が理央が入った隣の民家へと上がる。この建物は比較的損壊が激しくなく、土間や納戸、そして家具などがほとんど姿を変えることもなく残っていた。かつていただろう家主へと心の中で詫びながら、御菓子は神棚らしきものへと手を伸ばした。
「ごめんなさい、失礼します」
内陣の小さな扉を開き、中から札を取り出す。現代で神棚に御神札をおさめる風習と、そう大差は無いようだが、、まるでみみずがのたくったような、漢字とは到底思えない落書きのようなものが御神札らしきものに描かれていた。
台所だっただろう場所の隣の部屋に入った赤祢 維摩(CL2000884)が見つけたものは農具らしきもの。鍬や鋤といった、機械化される前の農具たちが並んでいるところは、かつての日本の一般的な農家の光景とさして変わらないだろう。ただ、大昔と呼ぶには、金属部分はあまりにも綺麗に形が整っている。今なお柄にも刃にもほとんど歪みが見られない農具は、それだけ製造する技術が発展していたと想像できる。
「いったい何時の物だ?」
果たしてこの遺跡はいつの時代のものなのか。答えが見えない思索は、研究者としての探究心をくすぐられる。残されている家具や日用品も、風化具合に比べれば、確かな技術の存在が窺えた。
「……ふん、中々に退屈せん調査だな」
すべてを解き明かす事は今はできない。だからこそ掻き立てられる探究心に、維摩は僅かに口端を釣り上げた。
しゃがみこんで床に顔を近づけて、成瀬 翔(CL2000063)が透視で隠された何かが無いかと探る。床の端まで匍匐前進で進んで、次に調べるのは壁。壁の向こうに何か無いかと探っていた翔の口から、お、と小さな声が漏れた。
(「叔父さん、こっちこっち!」)
声には出さず、懐中電灯をかちかちとつけて合図をし、共に調査に当たっていた叔父の成瀬 基(CL2001216)を呼んだ。
「ここ、壁の向こうに何かあるっぽいんだ」
「じゃあ僕が行ってみよう」
甥っ子を危険な目に遭わせる訳にはいかないしね、と笑って基が壁へと物質透過で入り込んでゆく。壁の裏に隠されていたのは収納棚。現代の建築技術とも遜色が無い程にしっかりと作られた棚に、護符のようなものが飾られていた。何か書いてはあるものの、それを読み取る事は出来ないが――。
(「家具とかも、立派だけど……オーパーツって感じじゃないな」)
家具はあくまで家具だ。しかし、護符を隠しているのはおそらくこの家だけではない。この村は、少なくともただ人々が暮らしていた訳では無く、信仰などで結ばれていた人々の集まりだったのかもしれない。
「もともと地上にあった村が、何らかの原因で土地が陥没して地下に落ちたんか、それとも最初から地下に作られていたんか……」
どうなんやろ、と光邑 研吾(CL2000032)が首を傾げると、その隣にいた光邑 リサ(CL2000053)が柔らかく、そしてどこか楽しげに微笑んだ。
「また3人でお出かけできるなんて、うれしいワ」
それが遊びに出かける訳ではなく遺跡の調査であっても――あるいは、ともすれば危険に遭遇しないとも限らない調査だからこそ。家族と共に赴ける事は、覚者一家にとっては幸福なのかもしれない。祖父母の背後を守るように後ろからついて来ている奥州 一悟(CL2000076)も、祖父よりたくさん嗅がされた膠の匂いを思い出しながら、何か変わった匂いはしないかと、すんすんと鼻を鳴らす。
三人が向かった先は、村跡の中央に位置する、広場だったと思われる場所。村跡の入り口からまっすぐ進んだ先にある広場を更に先に進むと、一際大きな建物の跡、崩れた柱の跡が残されていた。
「それにしてもなんで廃れちまったんだろうな」
地下に作ったからだろうか、と想像して一悟が眉を寄せた。なら、一体何の為に地下遺跡の中にこの集落は作られたのか。外敵から身を――あるいは、何かとてつもなく重要なものを隠している。そう思えてならなかった。
「ケンゴ、上ばかり見ていたら危ないワ。イチゴも足元に気をつけて」
一番大きな民家跡に入るやいなや本柱を中心に丹念に調べる研吾と、罠が仕掛けられてはいないかと足元を見張る一悟へとそう呼び掛けてからリサが触れたのは、暖炉の跡だった。呼び掛けても語る思念はそこには無かったが、あちこちに垣間見える生活の痕跡は、滅びを実感させた。
「……お、こいつは。玉竜、ちょっと上の方を照らしてみてくれへんか?」
守護使役・玉竜にともしびを使わせながら、柱の一部を研吾が押した。皺の刻まれた指が触れた場所が、僅かに凹む。
「これ、ぶち抜けばいいの?」
勿論本当に全力でぶち抜いては、家自体が壊れかねない。十分に加減して、一悟がぐぐっと柱を押すと、ぱかっと柱に穴が開いた。
中にあったのは、護符のようなもの。これもかつては、村人たちの拠り所であり、彼らを守っていたのだろうか。
だが、護符によって守られるべき者たちは、既にそこにはいない。
「一体、何処へ行ってしまったんでしょう……」
賀茂 たまき(CL2000994)が屈み込んで地面へと触れて呟いた。かつての住人たちが消えて久しいこの場所で、良い情報と言えるだけの情報を得ることは難しい。けれど、たまきの掌には、そこに住む人々を失った大地の嘆きが伝わってくるような気がした。
●成果
「HAHAHA、すごいなYOUたちは!」
どこにオーパーツが眠るか――ヒントになるようなものがあった訳でも無い。それでも、オーパーツと呼ぶに値する品を発見する事が出来たのは、ひとえに覚者たちの工夫と努力があったからこそ。単にスキルに頼るだけでは無く、それを如何に行使するか、知恵を使ったからこそだ。
「良く見つけたもんだ。大変だっただろ?」
地下水路班が闇の中手探りで何かを探そうとしたその苦労は同行した彼も良く知っている。だが、その他の班でもきちんと、怪しいと感じた何かを見つけ、そして持ち帰って来たのだ。
「私たちより先に、この遺跡に入ろうとした人が、F.i.V.E.以外でいたみたいね。それが誰かまでは分からなかったけれど……」
遺跡の扉を守るように生える大樹から得た記憶を、桜が語る。それ以上は分からなかった、と首を振ると、柔らかな黒い髪がふわりと揺れた。
「入口が見つからなかった原因は、結界の類、と言う所でしょうね」
冬佳も首を傾げて思案する。木々の記憶にあった誰かが遺跡発見のトリガーとなったのか、それとも更に別の要因があったのか――。
灯の顔からも訝しむ色は消えない。
「民家の数に対して、水路の規模が大き過ぎるように感じましたね。……他に何か目的があったのでしょうか」
居住区、畑、水路。そして神殿。一つ一つのパーツは、かつてそこに独特の宗教文化を持っていた集落が存在したという結論が導き出されるのかもしれない。けれど、これまでずっとその存在が発見されなかったという事実が何より、この遺跡をただの集落の跡と結論付ける事を躊躇させた。
いずれにせよ、現時点ではすべて推測の域を出ない。
歯車、ボルトとそれが収められていた箱、護符のようなもの、石板、水路の壁の一部と思われる石、文様や絵を書き写した紙。書籍らしきもの。
覚者たちが持ち帰った数々の戦果へと視線を落とした薫が、僅かに眉を寄せ、真顔になった。
「……持って帰って、俺の方でも調べてみよう。きっと、YOUたちの役に立つ何かがある筈だ」
「見ただけでわかるの……?」
ミュエルの問いに薫は顔を上げ、陽気に笑いながらどん、と胸を叩いた。
「そりゃあもちろん……勘ってヤツよ」
勘。それはあまりにも不確かな言葉ではあったが、自信満々といった様子で口端をにっと吊り上げて笑み、薫は顎鬚を撫でた。
「必ずちゃーんと成果は報告するぜ。改めて、お疲れさん! 付き合ってくれてTHANK YOU!」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
