《金剛布武》最強に抗う者達
《金剛布武》最強に抗う者達



「いいか、ここは七星剣金剛軍の占領地! そして、貴様らは生きる資格もない負け犬だ!」
 征服地に隔者達の怒号が響く。
 七星剣幹部金剛によって壊滅させられた街並みは、瓦礫の山と化し。この地を守っていた覚者組織は跡形もない。犠牲者達の骸は乱雑に野ざらしのまま。辛うじて生き残った人々は鎖に繋がれて、過酷な労働を強制させられていた。
「おら! 休むな働け、奴隷共!」
「ぐっ」
 ふらふらとなった老人を、隔者達は見せつけるように何度も蹴り飛ばす。
 囚われた人々はろくに食事も睡眠もとることができず、皆がガリガリにやつれていた。一般人の立場としてはどちらが幸せだったか。圧倒的な暴力で一瞬で圧殺されるのと、奴隷として使い切られて死ぬのと。絶望のうちに力尽き、バタバタと人が倒れてこと切れる。
「やめろ……彼らはただの一般人だ。頼むから、少し休ませてやってくれ……」
 大怪我をして作業に従事していた男が、隔者達に願い出る。
 彼はこの街を守っていた覚者組織のリーダーであった。懸命に人々を守ろうしたが、金剛軍には力が及ばず敗北したのだ。
「あん? 負け犬の分際で、人の言葉を喋っているんじゃねーよ!」
「やっちまえ!」
 隔者達は、彼を血だるまになるまで袋叩きにする。
 金剛軍は各地でファイヴへの進撃を続け、その途上にある地はどこも植民地のような扱いを受けている。
「ふふ、隔者連合の者共がはりきっておるようじゃな」
「彼らも作業が遅れれば、金剛師範の部下に処罰を受けかねませんから」
 七星剣最強の一角たる金剛。
 金剛に下った隔者達をまとめる結城征十郎。
 二人ははるか高みから地獄のような光景を、悠然と眺めている。荘厳な城の天守閣は、贅を尽くされた造りで地上の崩壊ぶりとは雲泥の差であった。これらは全て、支配した地の人々を酷使して作らせたものである。
「それでこの城の完成は、予定通りいきそうか?」
「ええ、他の地のものも含めて滞りなく」
「そうか」
 金剛は目を細めて笑う。
 誰にも真似のできぬ、絶対的な強者の笑みだった。
「さて、このままではファイヴは本当に詰みとなるが……どうなるかのう」


「緊急事態だ。七星剣幹部金剛が、征服した複数の特異点に大規模な拠点を作り上げていることが分かった」
 中 恭介(nCL2000002)が説明を始める。
 七星剣最強の一角たる金剛は、その武力を背景にファイヴを包囲殲滅せんと動いている。現在多くの地が金剛の支配下にあるが、そのなかでも特異点のある場所に大規模な要塞を築いているというのだ。
「このまま全ての拠点が完成してしまえば、ファイヴは完全に封じこまれてしまいかねない。最悪本当に敵軍に包囲殲滅されかねない。さらに、支配地の人々は金剛の圧政に苦しんでいる。これを見逃すことはできない」
 金剛軍の圧倒的な暴力によって既に多くの犠牲者が出ている。
 五麟市にも多くの難民が押し寄せてきているし、世間では金剛の目的であるファイヴにすら批判の声が高まっていた。中 恭介自身もパニックになった暴徒に襲われている。
「そこで金剛のいる拠点を破壊し、捕らわれた人々を救出するのが今回の任務となる。この作戦には、ファイヴと共闘態勢にある金剛の抵抗勢力の面々も参加してくれる」
 作戦はこうだ。
 まず抵抗勢力の大部隊が囮となって、金剛がいる居城に迫る。好戦的な金剛の性格からいって、軍を率いてうって出て来るだろう。そうやって金剛軍を囮部隊が引き付けている間に、ファイヴ含む別働隊が要塞へと潜入。捕らわれた人々を解放し、内部から爆発物を仕掛けて離脱する。
「囮部隊の指揮は、抵抗勢力から推薦された元AAAの日向朔夜という男がとる。別働隊にはその助手らがついて、君達をサポートする予定だ」
 日向朔夜は過去にファイヴとも何かと縁のある人物だが、部隊指揮等の腕は確かである。
 要塞の敵の露払いや、爆弾設置も朔夜の助手達が動いてくれる。
「君達の一番大事な役割は、城に残っている有力敵……金剛直属の部下を打倒し、捕らわれた人々を助けだすことだ」
 囮部隊によって金剛軍の大部分は引き付けることができたとしても、何人かは守備に残ることだろう。別働隊は、そこを突破しなくてはならない。
「金剛の直属の部下は、群を抜いた強さを誇る。それこそ一人で、覚者組織を潰してのけたという報告もある。大変危険な相手だが」
 そこで恭介は、金剛に壊滅させられた地が映るスクリーンに目をやった。
「……君達に行ってもらう地には、元々はファイヴと懇意にしていた覚者組織があった。市民の犠牲を少しでも減らそうと、最後まで戦い続けたらしい」
 ファイヴを潰す。
 ファイヴに与する者も全て潰す。
 七星剣金剛は、声高らかにそう喧伝している。
「ここで彼らの生き残りや市民を助け、金剛の企みを少しでも狂わせることができれば、今の最悪な流れも変わってくるはずだ。全ては君達にかかっている、よろしく頼む」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:睦月師走
■成功条件
1.金剛直属の部下の打倒
2.捕らわれた覚者組織の生き残りや一般人の解放
3.金剛が築いた要塞の破壊
 今回は七星剣『金剛』に関連するシナリオになります。

●七星剣幹部『金剛』
 七星剣最強の一角。
 ファイヴを包囲殲滅するために、進軍を続けて無差別な蹂躙を続けて人々を恐怖に陥れています。現在、奴隷達に作らせた城にいます。今回は、金剛が軍勢とともに城を留守にしたところをファイヴが狙うという流れです。

●現場
 ファイヴを包囲殲滅するために、金剛一派が建設した大規模拠点の一つ。
 堅牢強固な城塞です。元々は特異点に居を構える覚者組織の本部がありましたが、金剛一派によって壊滅させられ。その上に、覚者組織の生き残りや一般市民などを酷使して作らせています。
 
●金剛一派
 ファイヴ殲滅のために各地で、圧倒的な武力を振るっています。
 今回のシナリオに登場する城塞にも大部隊が詰めていますが、日向朔夜が率いる抵抗勢力がそれらの大部分を誘い出してくれます。
 その結果、城塞に残るのは金剛直属の部下一人と、隔者連合(金剛の下についた隔者達)の隔者達になります。この金剛直属の部下は飛び抜けた強さを誇る火行の使い手で、これを相手にするのがファイヴの重要な役割になります。

●隔者連合
 金剛一派に下った隔者達になります。とりまとめているのは、大企業会長の結城征十郎。
 隔者連合の隔者は、金剛直属の部下達にいいように使われています。

●覚者組織の生き残りと、捕らわれた人々
 金剛軍によって、壊滅させられた覚者組織の生き残り達と、一般人の捕らわれた人々は奴隷のように酷使させられています。また、この覚者組織はファイヴと懇意にしていました。それで金剛に目をつけられた部分があります。
 彼らは突入時に、城内の各牢に繋がれています。
 その正確な数はわかりませんが、少なくとも100人は超えています。

●金剛に対する抵抗勢力
 金剛の脅威に対して集まった抵抗勢力です。交渉により、ファイヴと共闘関係にあります。
 今回は、大規模な囮部隊となって金剛一派の注意を引きつけてくれます。また別働隊がファイヴと一緒に城塞に突入し、露払いや爆弾設置などサポートをしてくれます。
 囮部隊の指揮をとるのは、元AAAの日向朔夜という人物です。
 別働隊の指揮をとるのは、日向朔夜の助手であるアリスという人物です。

●ファイヴの行動について
 抵抗勢力の囮部隊が金剛軍を誘き出して時間を稼ぎ。
 その間に、抵抗勢力の別働部隊と一緒に敵の城塞へと侵入することになります。城塞に残った隔者連合の隔者などは、抵抗勢力の別働部隊が相手をしてくれます。ファイヴの役割は、城塞に残った有力敵たる金剛直属の部下の打倒。併せて捕えられた覚者組織の人々の救出です。
状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
10/10
公開日
2018年03月29日

■メイン参加者 10人■



「おや。誰かと思ったら、朔夜の坊やかい。この金剛と決着でもつけに来たかい?」
「金剛、お前とは俺がAAAにいた時からの因縁だがな。時代がもう違うと気付け」
 七星剣金剛と日向朔夜は、お互いに大部隊を率いてぶつかり合う。
 数度矛を交えた後、抵抗勢力は巧みに後退した。戦っては退き、戦っては退き、精強を誇る金剛軍を命懸けで引き付ける。
 そんな両軍の様子を上月・里桜(CL2001274)、『守人刀』獅子王 飛馬(CL2001466)らは、遠目からしっかりと確認していた。
「アリスさんも朔夜さんも、大変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「いやいや、こっちもお仕事っすから」
「朔夜にーちゃん達とは色々あったけどさ、俺は今こうして戦えること、嬉しく思ってるぜ」
 朔夜の助手であるアリス達別働隊とともに、覚者達は隠密に行動を開始した。
 守護使役を飛ばした里桜は、窓から建物内を覗いてもらう。自身は感情探査で人の分布、感情の種類を観察。博覧強記で建物の構造を予想も加味して出来る限りの内部情報を得ようとした。
「人が多くて、確かなことは分かりませんが。残った隔者達は厳戒態勢をとっているようです。侵入するなら、あちらのルートから回っていった方が良いと思います」
 里桜の言葉に、『教授』新田・成(CL2000538)は頷く。
「元となったF.iV.E.と懇意な覚者組織拠点の見取り図は入手済みです。金剛一派により要塞化されているといっても、この短期間で基礎構造に及ぶ大幅な改修は不可能。効率的に突入・捜索しましょう」
 自分の持つ情報と照らし合わせた上での結論だ。
 覚者達は、隙を縫うように敵要塞へと侵入を果たす。
(相手はこの拠点を作る事で私達をさらに追い詰めようとしている。このまま完成させるわけにはいかない。それにここに囚われている人達を……助けなきゃ)
(私達と同じ志を掲げた方々が踏みにじられています……そして、そう遠くない先に五麟市でも同じことが起きようとしているわけですね。別段気の短い性格と言うわけでもありませんが、黙ってみていられるほど大人しくもありません!)
 城内は突貫工事とは思えない完成度を既に誇っており、迷路のような造りは禍々しい緊張感に満ちている。三島 椿(CL2000061)は第六感で不意打ちを警戒した。しのびあしで足音を消しつつ、闘志を燃やしているのは『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)だ。
「ニポンの城が一晩でできるってホントだったんだね! ヤスブシンだね!」
 『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)は透視で場内を探索する。壁の向こうでは、隔者達が忙しなく駆け回っている。万が一、金剛の部隊が早く帰還した時に備えてチーカマのほうこうを準備しておいた。
「ファイヴの本部を囲む様に各地の特異点を占拠していて、今回の特異点は六箇所……丁度、六芒星を描けますね。これが完成してしまったらと悪い予感しかありません。その前に、この事自体が金剛さんの罠である可能性もありますが……金剛さんの好む戦い方ではない気がして……違和感を感じるのですよね……」
「本当に強いと誇るなら、こんなに回りくどいやり方はしない筈。周りにも宣言せずにファイヴと直接渡り合えばいいだけの事。そこに憤りを感じる。金剛の本当の目的はなんだ……?」
 『意志への祈り』賀茂 たまき(CL2000994)の脳裏からは嫌なイメージが放れない。同様の疑念を抱く『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は、適宜守護使役に外の様子を見張らせておく。金剛軍の動きを素早く察知するためだ。
「そこに何かあるよ。皆、気をつけて」
 危険予知を持つ『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は、前進にストップをかける。
 『冷徹の論理』緒形 逝(CL2000156)が慎重に地面をつついてみると、突如として大きな落とし穴が出現した。
「おやまあ、おっさん金剛派のヒト喰わせに来ただけなのに……まあ、いいか。最終的に喰えれば問題は無いさね、その為の我慢と努力はするわよ」
 即座に土蜘蛛の糸で壁に張り付き、ことなきを得た逝であった。
 

「――隔者が来ます」
 研ぎ澄まされた椿の勘が、不意打ちを防ぐ。
 罠をかいくぐり、出来る限り慎重に進んでいた一行であったが、全く敵と遭遇せずとはいかない。
「侵入者だ!」
「賊がいたぞ、こっちだ!」
 隔者達は声高に叫び、覚者達に襲いかかる。
 その度にアリス達別働隊が人数を割いて、足止めを行い。都度に爆弾を設置していく。
「露払いはこっちでするっす。ファイヴの人達は出来る限り温存するようにって、朔夜先輩に指示されていますんで」
「分かりました。私達は支障のない範囲で手伝います」
「上手くいけば敵拠点も潰せて、評判に罅を入れられる。同名の石のように……って所かね」
 ラーラや逝らも出来ることで助力しつつ、本格的な戦闘になる前に離脱して探索を続ける。
 成は見取り図を確認して考え込んだ。
「これには地下階らしき記載はなし。透視をしてみても確信は持てませんでしたが」
 覚者のスキルに対応して拠点を作成したとすると、透視の効かぬ深さに地下室があることも充分考えられる。ともかく注意を払って一階、二階と捜索範囲を拡大していった。
「しかし、金剛の民は出てこないね」
 プリンスは大声や物音などで金剛直属の兵を呼び寄せ、自分達に有利な場所で戦闘を行おうとしていた。だが、これほどの騒ぎになっても、本命の敵は姿を現そうとしない。
「変です。この先から、多くの感情を感じます」
「もしかして……」
 覚者達は行き止まりの通路に突き当たる。
 里桜が疑念を抱き、秋人が物質透過で壁を通り抜けてみる。果たして、隠されていた大部屋に出た。地下に続くと思われる階段も発見する。
「上階の隠し部屋を通らないと、地下牢へ行けない仕掛けか」
 内側に取り付けられたコンソールを操作すると閉ざされていた壁が開き、他の面々も隠し部屋へと足を踏み入れる。瞬間、けたたましい警報が鳴り響く。
『侵入者用の警備システムはそれなりにちゃんと動いているようだ。安普請としてはまあまあかな』
「この声は……結城会長」
 スピーカーを通じて、どこからか声が聞こえてくる。 
 たまきは本人の姿を探すが、仮面の男はどこにも見当たらない。
『ファイヴの諸君、君達の活躍は隠しカメラで拝見させてもらっていた。ファイヴの性格上、捕虜達の解放が目的かな?』
 後方から大勢の隔者達が次々と現れる。
 そして、城全体が大きく揺れた。つんざくような破壊音。
「どうしたの、きらら」
「龍丸、何か来るのか?」
 渚と飛馬の守護使役が咆哮する。全員が何事かと震源である宙を見上げると、凄まじい勢いで何重もの天井を突き破って――道着を纏った人影が降り立った。
「我が名は煉獄。金剛師より、この城の守護を任された者なり」
 筋骨隆々とした大男は、尋常でない殺気を放って覚者達を見据える。
 前方には金剛兵。
 後方には隔者達。
 完全に囲まれた形であった。
『最上階から、全上層をぶち抜いてショートカットですか。金剛軍の方は規格外ですね……私は次の仕事があるのでお暇しますが。仕掛けられた爆弾の撤去もやっておきましょうか、煉獄さん?』
「いらん。こいつらを全員八つ裂きにすれば良い話だ」
 煉獄は早く行けとばかりに手を振る。
 出来ることなら隔者連合のリーダーを拘束したいと願っていた里桜は、せめてもとスピーカー越しに問いかけた。
「……あなた方が弱者と呼ぶ者たちの血で濡れた地を歩く気分はいかがですか?」
『そうですね。強いて言うなら、まあ最悪の気分かな』
 それだけを言い残し。
 結城征十郎は、一度も姿を見せぬまま手の届かぬところに消えた。

● 
「巌心流、獅子王 飛馬。推参なり……ってか?」
「五麟学園保健委員の渚だよ。こういう時は、義によって馳せ参じ……とかって言うんだっけ。いや、そうなんだけど、ちょっと違うかな。私、今かなり怒ってるんだよ?」
「ふむ、その意気や良しといったところか」
 飛馬が清廉珀香と用兵の才覚で、まず場を整え。次いで渚は予防措置、大祝詞・戦風で全体の底上げを図る。煉獄はその様子を腕組みをして眺めていた。
(攻撃してこない?)
 相手の意図が読めぬまま、ラーラは錬覇法・改を使っておく。エネミースキャンで状況の解析も怠らない。仲間達も攻勢に備えて強化を進める者が多い。
「後ろは守りますんで、安心して下さいっす」
「足止めを、まずしましょう」
「人数が多いところからね」
 アリス達は後方から迫る隔者達を相手にしていた。
 最初は混戦気味になっていたが、成や椿らが援護をしたことによってしっかりとした防御陣形が築かれた。
「ふっ、そろそろそちらの準備は良いようだな……金剛一派、煉獄。参る!」
 不動だった煉獄が腕組みを解く。
 途端にプレッシャーが跳ね上がり、巨体が残像を残して消える。まるで地面の方が縮んだように、間合いが瞬時に詰まる。
(何を使……)
 うか様子を見よう、と胸中で続ける前に。
 逝の身体に、巨大な拳がめり込む。予め機化硬で備えていたのにもかかわらず、全身の骨が砕ける音がした。いや、違う。防御を固めていたからこそこれだけで済んだのだ。
「ほう。思ったよりは脆くはないな。思ったよりは、だが」
 煉獄は暴力の化身となって、猛威を振るう。
 それは自然災害と同質だった。全てを砕き、全てを押し流す。プリンスは攻撃と進行を抑えんと前に出る。
「あれ、オバアチャーンは留守? お茶菓子は期待できないね」
「応。代わりに拳を存分にふるまってやろう」
 炎を宿した拳打一つ一つが必殺の威力。
 機化硬・改と仲間達の技で強化した肉体が早くも軋み始めるが、プリンスは両足に力を入れ続けた。
(相当な火行使い……実は結城会長が隔者とも思ったけどこれは……)
 秋人の予想は外れたが、これは別の意味で厄介だ。
 B.O.T.を撃っても撃っても、金剛兵は超スピードでかいくぐってしまう。飛び道具に対する反応速度は、異常ともいえるレベルだった。
(不安要素を挙げればキリが無いですが、今は気持ちをしっかり切り替えて、目の前で助けを求めている方々の為に頑張ります!)
 相手の動きは超視力を持ってしてもとらえられない。
 たまきは激しい炎に身を焼かれながら、何とか隆神槍を返す。金剛兵の屈強さの前には、全ての作業が死と隣合わせだった。
(……結城さんと金剛さんが会ったこと。それから七星杯の意味をよく考えていれば、犠牲はもっと減ったのですよね……。ええ、泣き言です)
 里桜は様々な後悔に包まれていた。
 あの時ああしていれば、こうしていれば……思考の迷路の奥へ奥へと行ってしまいそうになりつつ。直近の危険を回避すべく仲間達を懸命に回復して支える。
「守りは得意分野だぜ」
 白夜での三連撃を振るい、飛馬は速度で対抗する。
 こちらの剣戟と相手の拳が入り乱れては血風が舞った。覚者の身体は急速に傷だらけとなり、血を危険水域まで失う。
「私も治療に回るね」
「これでは治癒が追いつかないかしらね」
 何度回復しても回復してもきりがない。
 一旦攻撃の手を止めて、渚は癒力大活性によるサポートを優先した。今の状況で予防措置が切れてしまえば、どうなってしまうか分からない。椿も潤しの滴と雨で、回復役へと移行せざるを得なかった。
「全員注意して! この人、体術も術式も飛びぬけています」
 エネミースキャンで得た、敵の絶望的な強度。
 タネも仕掛けもなく、ただただ強い。それこそ一人で一組織を潰してのけるほどに。ラーラはそれでも敵の炎に対抗せんと、火行の技を燃え盛らせた。
「ひたすらに攻撃して、ダメージを蓄積させるしかありませんか」
 成はB.O.T.・改で弾幕を張り続けた。
 どれだけ躱されようとも、水滴で岩を削るように撃つ。その覚者の体も、金剛兵の強力な火行の余波を受けて火傷だらけになってしまっている。
「本当、さすがにおかしいでしょ」
 地烈を連打するプリンスの言葉は、相手の強さだけを指すものではない。
 無駄の多い方法で城を建てたり、1人でクレーターを作れるのに大軍動かしたり、突然モヒカン世界を目指したり、ロマンや痴呆でないなら何があるのか?
「相手は万能型かね。まあ、良いさな喰い殺すだけだ」
 強烈な痛みを無視して、逝はドアノックする。動きを殺す効率だけを追求した単純な人体破壊の技。息をするように、鍛えられぬ部位を叩き潰し。
「鈴白ちゃん、よろしく」
「術式を封印するよ」
 今度は秋人が前に出た。
 螺旋崩しで、力の流れを乱す。
(小さな子供達や、力の無い人達を踏みにじる強さは、本当の強さではない気がするよ。これじゃ、ただの弱い者虐めだ)
 目の前には恐るべき強敵。
 だが、その強さを認めるわけにはいかない。
(金剛さんは本当に強さだけに取り憑かれてしまっただけなのでしょうか……? 私にはやはり事情があったからこそ、強さに固執してしまった様にしか思えなくて……)
 たまきは大震で間合いを何とか調整する。
 己の命の灯が消えかけようとしているときに、頭をよぎるのは恐怖ではなく。純粋な疑問であった。
「金剛師は貴様らを気にかけていたが。この程度かファイヴ!」
 たとえ技を封殺しても。
 こちらが死力を尽くしても。
 煉獄は全てを打ち砕く。最強を名乗る尖兵に相応しい戦闘力に、覚者達は圧倒され。里桜は回復役を他の者に任せる。
「ここは特異点です。魂を捧げれば手助けしてもらえるでしょうか? あなた方に殺された方達の想いも……」
 己が根幹を一つ削る。
 刹那、里桜の頭に膨大なイメージが流れ込む。嘆き、痛み、悲しみ……そして憎しみ。あまりにも多くの無念。張り裂けそうな苦しみの先に、信じられないほどの力が溢れ出す。
「貴様、この力は!」
 煉獄の顔が歪む。
 特大隆神槍が直撃。里桜を中心に、風向きは完全に変わる。
「これ以上の悪さは許さないんだから!」
 保健委員の腕章を掲げてびしっと決めポーズ。
 最後の力を振り絞り、渚が攻勢をかける。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 ラーラはペスカに預けた金の鍵で魔道書の封印を解く。
 渾身の炎が戦場を焦がす。椿のエアブリットに煽られて更に渦を巻いた。
「悪食が腹を減らしてるさね、喰い殺すまで引き退らないぞう」
「ちっ、図に乗るなよ!」
 四方投げをかます逝に、煉獄の必殺の拳が迫り。
 そこに飛馬とプリンスが立ち塞がる。二人が使っていたのは八卦の構え・極。
「巌心流は守りに重き置く流派……だけどな!」
 攻撃も決して苦手ではない。 
 強力な攻撃故の、強力なカウンター。煉獄の両拳が無惨に砕ける。
(金剛さんの強さは本来は違う所にあったのではないでしょうか……?)
(でも先ず俺は、虐げられている人達と、俺の生活を守る為に戦うよ。できる限り犠牲者は出したくないから)
 たまきと秋人の息を合わせた抜群の連携。
 それに押された金剛兵の側面を成が襲い、挟撃の態勢をとる。
「驕るな、ファイヴ!」
 こちらを孤立と見て攻め掛かる金剛兵。
 だが、それは成の思惑通り。
「人間という種が獲得した適者生存のための最大の武器、それが社会性なのですが――馬鹿への講釈は無駄ですな。では、さようなら」
 がら空きになった背に。
 仲間の。
 魂を燃やした里桜の。
 致命的な土行が決まり。最強を謳う軍の精鋭は敗北を悟ると……瞬時に自決した。


「行きますよ! ペスカ。要塞を焼き払うんです」
 ラーラが放つ、暴れ狂う紅き炎の奔流が怒れる獅子の姿と化し敵の居城を襲う。内部に仕掛けられた爆弾と連鎖して、大爆発が起こった。
「大丈夫、もう捕らわれた方はいませんでした」
 最後まで残って確認していたたまきは、城の崩壊寸前で飛び出し無事に着地する。
 外にはファイヴの覚者達によって牢から解放された捕虜達が外に溢れかえっている。里桜や逝達が拘束具を破壊し、応急処置をし、避難を急ぐ。
「プロフェッサー、鍵開けお見事だったね。打ち上げのセッティングもお願いしちゃおうかな☆ 余バサシ食べたい」
「殿下のご希望は馬刺しですか。畏まりました。手配しておきます」
 プリンスは城門跡に王子スマイルのハンマー痕を刻んで撤退を始めた。成は手土産代わりの敵の首を置いておく。出来れば詳細に要塞等を調査しておきたかったが。
「早くしないと金剛軍と鉢合わせする。行こう」
 秋人らの守護使役が、帰還しようとする金剛の軍勢をとらえていた。
 とても悠長にしている余裕はない。解放した覚者と別働隊の面々に護衛を依頼して、椿も素早くこの場を立ち去る。
「さらにこれから気を引き締めていかなきゃ……」
 多くの被害を出したものの、今回はどうにか勝てた。
 だが、次は……? 
 道に打ち捨てられた死体と目が合う。覚者達は死の匂いでむせかえる戦場を駆け、金剛軍の影を見送った。





 
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