<黒い霧>霧を晴らす一陣の風となれ!
●黒霧集結
三重県某所。
人目を忍ぶようにして建てられた暗霧城には、多数の黒ずくめの者達が跪く。
その最奥には、1人の青年が座っていた。
彼の名は「濃霧」霧山・譲。親の地盤を譲り受けた形で、暗殺集団「黒霧」の二代目首領となった男だ。
「…………」
彼はいくつかの報告を構成員から耳にし、全く表情を変えようとしない。
最近、彼は笑うことすらなくなった。F.i.V.E.に地を這わされたあの屈辱がその身を苛んでいる。
「F.i.V.E.に捕らえられた構成員1人が、この場所の情報を……」
「…………」
「ひっ!」
報告を行っていた末端員は、F.i.V.E.という言葉に鋭い視線を投げかけてきた霧山に、思わず悲鳴を上げる。周りに続きを促され、その末端員は報告を続けた。
黒霧は末端員は特に、厳しい教育が行われている。軽々しく情報を漏らす者はこの集団にふさわしくないとの判断からだ。
それだけに性格は二の次にしろ、構成員には優秀な暗殺者が多い。
しかし、長期に渡る取り調べによって、この暗霧城の場所を漏らしてしまった者がいたらしい。
諜報を得意とする黒霧は、そんな情報すらもすぐに入ってくる。
彼らは十分に暗殺、潜入といった活動を行えていたのは、こういった情報網の厚さがあってこそだ。
だが、それが徐々に崩されつつある。
理由の1つは、雷獣結界がなくなったが為に、通信機器が日本で急速に普及し出したこと。
もう1つは、F.i.V.E.に多数いる夢見の存在が大きい。
暗殺なぞあっさりと計画がバレてしまい、F.i.V.E.が介入した依頼が完遂できていないことが続いている。
構成員の報告によれば、常連客から黒霧にもう依頼は頼まない旨の通達が来ているという。
表面上に出ていない依頼をこなしてはいる為、上客を手放すとまでは至っていないが、霧山の父が懇意にしていた顧客は離れる傾向にある。
(やはり、二代目は……)
(所詮、七光りにしか過ぎんということだ)
(((ハハハハハハハハハ……)))
顧客とはいえ、そうまで言われて離れていく爺どもに恨み節も言いたくなるが、実際に結果を出せていないのだから、文句も言えない。
「――若」
そこにやってきたのは、小型のファクターを装着させた3名の部下を連れた白衣の男、静永・高明だ。
「これ以上、活動を続けるなら、やるしかないでしょう」
この場所が割れた以上、遅かれ早かれ、彼らはここに来る。
眉を顰めたままの霧山は、全構成員に通達を出す。
「この地の守りを固めろ。F.i.V.E.を……迎え討つ」
平伏する構成員達は一糸乱れぬ所作で、それに従うのである。
●決戦を前に
F.i.V.E.の会議室にて。
「黒霧の本拠地が判明した」
そこには、中 恭介(nCL2000002)、そして、久方 真由美(nCL2000003)の姿があった。
覚者達はこれから始まる決戦について、気合を入れながらもそのブリーフィングに耳を傾ける。
「先日の作戦で拘束した黒霧構成員から、ようやく本拠地を聞き出すことができました」
真由美が言うには、夢見の情報や他の調査による裏付けもとれ、間違いないという。
場所は、三重県某所。
元々は集合住宅があった場所がサラ地となった上で、城壁、そして本城「暗霧城」が築かれている。
普段から霧がかった城だということもあり、なかなか人目に付き辛い場所。近隣住人も不気味がって近づかないのだと言う。
「夢見の話では、黒霧はすでに本拠地の場所の情報が漏れたことを把握しており、戦力を集結させているらしい」
恭介が言うことをそのまま捉えるなら、戦いは熾烈を極めるのは予想に固くない。
ただ、ここで黒霧を潰しておけば、彼らの暗躍を完全に止める事ができる。
黒霧は、諜報、スパイといった活動から、組織潜入による人身売買、人体実験、武器売買、さらに暗殺まで行っていた連中だ。
反社会的な行動を行う彼らを叩くことができれば、日本の闇を一つ振り払うことができ、七星剣の幹部を大きく牽制できるはず。
「ただ、交戦経験がある方はご存知のとおり、首領である霧山・譲を始め、お目付け役の静永・高明以下、有力幹部が揃えば苦戦は必至です」
その為、突入する意志の強いメンバーを敵の本陣深くまで送り届けられるような布陣でこちらも臨み、首領霧山を討伐し、黒霧を無力化したい。
これまで、様々な事件に関与してきた黒霧。煮え湯を飲まされた者もおり、覚者達も思うことはあるだろう。
「だからこそ、ここで黒霧の壊滅を」
「お前達が頼りだ。検討を祈っている」
真由美、そして、恭介は最後にそう告げ、覚者達を戦地へと送り出すのである。
三重県某所。
人目を忍ぶようにして建てられた暗霧城には、多数の黒ずくめの者達が跪く。
その最奥には、1人の青年が座っていた。
彼の名は「濃霧」霧山・譲。親の地盤を譲り受けた形で、暗殺集団「黒霧」の二代目首領となった男だ。
「…………」
彼はいくつかの報告を構成員から耳にし、全く表情を変えようとしない。
最近、彼は笑うことすらなくなった。F.i.V.E.に地を這わされたあの屈辱がその身を苛んでいる。
「F.i.V.E.に捕らえられた構成員1人が、この場所の情報を……」
「…………」
「ひっ!」
報告を行っていた末端員は、F.i.V.E.という言葉に鋭い視線を投げかけてきた霧山に、思わず悲鳴を上げる。周りに続きを促され、その末端員は報告を続けた。
黒霧は末端員は特に、厳しい教育が行われている。軽々しく情報を漏らす者はこの集団にふさわしくないとの判断からだ。
それだけに性格は二の次にしろ、構成員には優秀な暗殺者が多い。
しかし、長期に渡る取り調べによって、この暗霧城の場所を漏らしてしまった者がいたらしい。
諜報を得意とする黒霧は、そんな情報すらもすぐに入ってくる。
彼らは十分に暗殺、潜入といった活動を行えていたのは、こういった情報網の厚さがあってこそだ。
だが、それが徐々に崩されつつある。
理由の1つは、雷獣結界がなくなったが為に、通信機器が日本で急速に普及し出したこと。
もう1つは、F.i.V.E.に多数いる夢見の存在が大きい。
暗殺なぞあっさりと計画がバレてしまい、F.i.V.E.が介入した依頼が完遂できていないことが続いている。
構成員の報告によれば、常連客から黒霧にもう依頼は頼まない旨の通達が来ているという。
表面上に出ていない依頼をこなしてはいる為、上客を手放すとまでは至っていないが、霧山の父が懇意にしていた顧客は離れる傾向にある。
(やはり、二代目は……)
(所詮、七光りにしか過ぎんということだ)
(((ハハハハハハハハハ……)))
顧客とはいえ、そうまで言われて離れていく爺どもに恨み節も言いたくなるが、実際に結果を出せていないのだから、文句も言えない。
「――若」
そこにやってきたのは、小型のファクターを装着させた3名の部下を連れた白衣の男、静永・高明だ。
「これ以上、活動を続けるなら、やるしかないでしょう」
この場所が割れた以上、遅かれ早かれ、彼らはここに来る。
眉を顰めたままの霧山は、全構成員に通達を出す。
「この地の守りを固めろ。F.i.V.E.を……迎え討つ」
平伏する構成員達は一糸乱れぬ所作で、それに従うのである。
●決戦を前に
F.i.V.E.の会議室にて。
「黒霧の本拠地が判明した」
そこには、中 恭介(nCL2000002)、そして、久方 真由美(nCL2000003)の姿があった。
覚者達はこれから始まる決戦について、気合を入れながらもそのブリーフィングに耳を傾ける。
「先日の作戦で拘束した黒霧構成員から、ようやく本拠地を聞き出すことができました」
真由美が言うには、夢見の情報や他の調査による裏付けもとれ、間違いないという。
場所は、三重県某所。
元々は集合住宅があった場所がサラ地となった上で、城壁、そして本城「暗霧城」が築かれている。
普段から霧がかった城だということもあり、なかなか人目に付き辛い場所。近隣住人も不気味がって近づかないのだと言う。
「夢見の話では、黒霧はすでに本拠地の場所の情報が漏れたことを把握しており、戦力を集結させているらしい」
恭介が言うことをそのまま捉えるなら、戦いは熾烈を極めるのは予想に固くない。
ただ、ここで黒霧を潰しておけば、彼らの暗躍を完全に止める事ができる。
黒霧は、諜報、スパイといった活動から、組織潜入による人身売買、人体実験、武器売買、さらに暗殺まで行っていた連中だ。
反社会的な行動を行う彼らを叩くことができれば、日本の闇を一つ振り払うことができ、七星剣の幹部を大きく牽制できるはず。
「ただ、交戦経験がある方はご存知のとおり、首領である霧山・譲を始め、お目付け役の静永・高明以下、有力幹部が揃えば苦戦は必至です」
その為、突入する意志の強いメンバーを敵の本陣深くまで送り届けられるような布陣でこちらも臨み、首領霧山を討伐し、黒霧を無力化したい。
これまで、様々な事件に関与してきた黒霧。煮え湯を飲まされた者もおり、覚者達も思うことはあるだろう。
「だからこそ、ここで黒霧の壊滅を」
「お前達が頼りだ。検討を祈っている」
真由美、そして、恭介は最後にそう告げ、覚者達を戦地へと送り出すのである。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.黒霧本城「暗霧城」の陥落
2.霧山・譲の討伐
3.なし
2.霧山・譲の討伐
3.なし
黒霧決戦シナリオです。
ここで、彼らの活動に終止符を。
皆様の熱いプレイング、お待ちしております。
●こちらのシナリオについて
こちらは、黒霧の本拠地「暗霧城」へと攻め入る
黒霧との決戦シナリオです。
順を追って3ヶ所で交戦しつつ奥に攻め込みますが、
どこまで進めるかはプレイングによって判断されます。
霧山、静永をこの手で。そういった意志の強いプレイングが
本丸へとキャラを送り届けることに繋がります。
また、そのメンバーを万全の状態で最奥に到達させるには、
他の方々の支援、戦闘プレイングも重要になりますので、ご留意くださいませ。
●平原
無数の黒霧構成員がいます。
参加人数によっては、後述の有力者がまぎれる場合があります。
近接でナイフ、遠距離で飛苦無、吹き矢など飛び道具を使用。
その数は、F.i.V.E.メンバーの数倍から10数倍と想定されています。
雑魚ちらしと存分に戦い、本丸を目指すメンバーを援護するのも良いでしょう。
なお、事前情報はありませんが、
この場では隔者組織「Teppen」メンバー30人ほども援護してくれます。
「テッペンを取るのはワイらじゃ!」(ID:1111)
「テッペン、今度こそとるんじゃ!」 (ID:1215)
「<黒い霧>ファクターがあれば、Teppenなぞ!」(ID:1373)
以上に登場した組織と同一です。
●城郭
外壁から、暗霧城の下層、中層です
黒霧構成員に紛れ、実力者が潜んでいます。
プレイングによっては、霧山も姿を現す場合があります。
◎静永・高明(しずなが・たかあき)(nCL2000200)
首領霧山・譲のお目付け役。
暦×土。ナックルをメインに攻撃してきます。
・鉄甲掌・還……特近単[貫2・50・100%]
・十六夜……物近列[二連]
・岩纏……自・特攻+ 特防+ 最大HP+ 最大+
・岩盤烈破……特遠列・重圧
以下、有力者3名。
小型の「ファクター」を因子出現箇所に装着、
力を高める代わりに理性を消失しています。
○藤本・円(ふじもと・まどか)、27歳女性。
翼×水。刀所持。
○ケヴィン・暮森(-・くれもり)、23歳男性。
怪×天、カミソリ所持。
○半田・透(はんだ・とおる)21歳。
獣(寅)×火、苦無、ナイフを所持。
いずれもこれまでの黒霧依頼で登場したリーダー格です。
個人の力量は覚者個人の力を凌ぎますのでご注意ください。
●本丸
暗霧城上層。
ここでは、霧山・譲、展開によっては、静永・高明が待ち受けています。
◎霧山・譲(nCL2000146)……20歳、男性。七星剣幹部の1人。
『濃霧のユズル』という二つ名を持っており、『黒霧』を率いています。
暦×天。飛苦無(麻痺)所持。
・刺殺衝……物近単貫3(30・70・100%)
・流星乱舞……特遠敵全
・真・霧隠れ……体術・特近列・失血
また、30%ほどの確率で2回行動してきます。
●同行設定
他のキャラクターと同行したい場合は
当該キャラクターのフルネームをIDつきで記載してください。
書き漏らしていた場合や、
参戦エリアが異なっていた場合には、はぐれることがあります。
●魂使用
奇跡を起こせますが、
依頼の成功が保証するものではないことを予めご了承ください。
プレイングに『魂使用』を記載の上、詳細記述を願います。
●注意
このシナリオは、一発死亡判定もございます。
その可能性を避けたい方は平原で戦いでの援護を願います。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・誰かと行動希望の場合、【グループ名】、
ID、名前、できれば、呼び方の表記を願います。
それでは、よろしくお願いいたします!
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
50LP
50LP
参加人数
54/∞
54/∞
公開日
2017年11月26日
2017年11月26日
■メイン参加者 54人■

●序章――霧に包まれた城
三重県の住宅地跡。
更地となったこの場所にはいつしか、城が建造されていた。
基本、うっすらと霧に囲まれたこの場所は不気味なことこの上ない。
まして、下手に近寄ろうものであれば、この地に住む者達から始末され、秘密裏に失踪扱いとされてしまう。
それもあって、この城に関心を持とうという近隣住民はいなくなり、誰も立ち寄ろうとはしない。
昼間にもかかわらず、常に薄暗いこの場所に建つ城を皆はこう呼ぶ。
――『暗霧城』と。
その城には、二代に続いて日本の暗部で息づき、汚れ仕事を糧として生きる者達がいた。
彼らの名は『黒霧』という。
初代首領、『濃霧』霧山・貰心が元々闇に隠れて活動していた暗殺者らを取り仕切り、組織化したのが起こりとされる。
元々高い暗殺、諜報技術を持っていた彼らは、この日本において歴史の裏舞台で常に暗躍していたという。
そして、因子の目覚め。奇しくも貰心を始め、こぞって発現した彼らの力はより強固なものとなる。
活動を続けていた黒霧だが、妖、AAAや内部抗争などの最中で、貰心は命を落とすこととなる。
代わって、二代目首領となり『濃霧』を受け継いだ息子、霧山・譲。
貰心に力で強引に従わされていた連中、黒霧を我が者にしようとしたバカな構成員を一掃した後、彼は黒霧の活動を本格化させた。
だが、力をつけてきた『F.i.V.E.』の妨害にあうこととなる。
人に害なす存在に対応するこの組織は、夢見の力で黒霧の活動を、とりわけ暗殺依頼をことごとく妨害してきていた。
現在、通信技術が軒並み欧米並みとなり、活動に困難を強いられていた彼らだったが、ここに来てF.i.V.E.が黒霧の本拠地のあるこの暗霧城を突き止め、総攻撃を仕掛けてきたことを察する。
「F.i.V.E.を……迎え討つ」
霧山・譲のその一言で、構成員達は暗霧城敷地内に展開し、F.i.V.E.の襲撃に備えるのである。
●平原・1――『五』里『霧』中とならぬように
濃い霧に包まれる暗霧城。
この地へ、F.i.V.E.の覚者達50名ほどが攻め込む。
「本拠地っぽい外観だね」
如月兄妹の兄、如月・蒼羽(CL2001575)は目を細め、奥にそびえる城を仰ぐ。
覚者達の目的はこの本丸にいるはずの首領、霧山・譲の撃破だ。
「黒霧の2代目か」
妹、如月・彩吹(CL2001525)が呟く。
覚者にとって、黒霧は碌な組織でないのは明白だが、霧山にとっては大事な居場所だったのかもしれないと、彩吹は刹那目を伏せる。
「誰だって、自分の居場所は守ろうとするさ」
だからと言って、見逃すわけにはいかない相手だ。
「私も止まることはないけれど。行こうか 兄さん」
見詰め合う2人は笑顔を浮かべ、仲間と共に前方へと攻め込み始める。
待ち構える大軍勢。
すでに、相手もこちらが攻め込んできていることを察しており、臨戦態勢に入っていた。その数は不明だが、最低でも3~400。500は超えるだろうと想定される。
そんな中、一握りであっても、霧山の下に仲間を送り届けねばならない。
皐月 奈南(CL2001483) は行く手を阻む構成員に閃光手榴弾を投げつけて相手を怯ませ、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) は迷霧を発して仲間を支援しつつ、奥の城を目指す。
「守りにも、色んな形ってのがあるんだ。先へ行くやつの邪魔はさせねー」
守りを得意とする獅子王 飛馬(CL2001466)は普段、仲間の前に立って耐えるポジションだが、今回は本丸を目指す仲間の為に道を切り開く。攻撃は最大の防御なのだ。
「戦いたいんなら、俺が相手してやるよ。かかってきやがれ!」
2本1対の太刀を抜く彼は、小走りに駆けつける黒い影へと地を這うような一撃を浴びせかけた。
それによって、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が賀茂たまき(CL2000994)と共に戦線を抜けて行く。
「霧山には、個人的な恨みがあるのですが……」
黒霧と因縁浅からぬメンバーは少なくない。橡・槐(CL2000732)もその1人だ。
「まぁ、恨みある人はたくさんいるでせうから、任せるのです」
槐はそう割り切り、この場での突破支援をと前に出る。
とにかく相手を眠らせようと、彼女はできる限り多くの構成員を包むように眠りへと誘う。
「霧山・譲、静永・高明……」
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)もまた、黒霧との因縁は浅くない。
黒霧に思うところは多分にある彼女だが、道を切り開く人間だって必要だとこの平原に残ることに決めていた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
全身から炎を燃え上がらせるラーラ。直接ナイフで切りかかってくる構成員目掛け、巻き起こした炎を津波のように浴びせて行く。
「月並みですが、一度言ってみたかったんです……。ここは私に任せて先に行ってください!」
彼女の想いも受け止め、敵陣深くに切り込む緒形 逝(CL2000156)が応じて。
「大事なお話があるから、絶対に霧山ちゃんの所まで行くさね」
彼は岩を纏って身を固め、飛んでくる苦無を防ぎつつ本丸を目指す。
「七星剣幹部の居城攻略……。よし、久々に暴れるか」
三島 柾(CL2001148)もまた仲間が進むべき道を切り開こうと、向かい来る敵と正面から対し、体中の細胞を活性させてから、複数の敵にまとめて気弾を発射する。
仲間達が敵を抑えている間、大辻・想良(CL2001476)は先を目指す仲間の為、守護使役の天に周囲をていさつさせていた。
「……七星剣、黒霧のひとって、こんなにたくさんいるんですね……」
戦況を確認してこの場にいる敵の姿を眺める彼女は、足元に障害物が無いかと気にして時折背中の翼でホバリングする。
そして、攻めてくる敵を見て、想良は自身をリラックスさせる空気で包んだ後、敵を少しでも眠らせて無力化させようとしていた。
「『黒霧』……私は……よく知らない組織ですが……、とても悪い事をしてきた組織……らしいですね……」
穏やかな性格の白詰・小百合(CL2001552) にとって、如何なる事情があろうと暗殺など受け入れられない行いだ。
「……だから、……私はお仕置きに行く皆さんを……サポートしますね」
小百合は味方へと治癒力を高める香りを振り撒き、さらに、こう呼びかける。
「……私が回復させて道を示します。だから……、皆さんは悪い人達にお灸を据えてきてください!」
仲間に癒しの雨を降らせて援護するエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)も、この場を皆に任せて先へと進む。
群がる黒霧構成員は地面を覆い尽くすほど。
「数では、到底勝ち目はありませんね。ですが、それを厭う時間はありません」
柳 燐花(CL2000695)は自身を強化しつつ、同行の蘇我島 恭司(CL2001015) を守るべく身構える。
「こういうのを、『ここは任せて先に行け』って言うんでしょうか」
先には、もっと面倒な相手が待ち構えている。そこに向かう人の為に道を作るのも大切なお仕事。そう告げる燐花に、恭司が同意した。
「うん、まさにそんな感じだねぇ」
敵の頭上に、光の粒を降らせる恭司。確かに広範囲の構成員を巻き込んでいためてはいるが、今回ばかりは相手が多すぎた。
「とはいえ、相手の人数が人数だから、ある程度は進む人自身に頑張って貰わないとかな?」
本丸を目指す切裂 ジャック(CL2001403) 。時任・千陽(CL2000014) も後を考え、力を温存して進む。
「敵の本拠地『暗霧城』……。改めて、わたしも戦わせて貰うわ」
黒霧が壊滅すれば、闇に飲まれる必要の無い人間が巻き込まれずに済む。
環 大和(CL2000477)はその為にも、本丸まで向かう千陽やジャックを見送って。
「必ず……、霧山を討ち取って頂戴」
彼らの背にそう呼びかけ、大和も敵陣目掛けて光の粒を降り注がせていった。
早くも、混戦状態となる戦場。少し距離を置き、【INVERSE】のメンバーも本丸を落とすべく敵陣を進む。
「手伝いはしたいけれど、本丸までたどり着けなかったら元も子もないからね!」
狐の耳を動かす御白 小唄(CL2001173)。
彼は仲間の為、邪魔な敵を左右の腕に装着した金属型ガントレットで構成員の体を薙ぎ払い、大きく吹き飛ばして仲間の道を作る。
「ここは任せて先に行って! ……親玉はちゃんと赤貴君達が倒してくれるって信じてるから!」
酒々井 数多(CL2000149) が小唄へと言葉を返す。
「まかせといて! 陣形を組んでせっきーくんを霧山君に送り届けるわ!」
にこやかに笑う小唄を残し、【INVERSE】のメンバーは先を急ぐ。
目的としては、葦原 赤貴(CL2001019) を中心として、本丸を落とすことだ。
(「『己が為に在れ』が信条のチームですが……、今はチーム自体が己となったのですね」)
納屋 タヱ子(CL2000019)は頼られることがこんなにも嬉しいものかと、強く実感して。
誰一人欠けるわけにはと、タヱ子はチームメンバーを気遣い、その後を追っていく。
(隠密の組織を追い詰められるようになったあたり、F.i.V.E.の組織力も上がったのかしらね)
この先の城郭へと考える華神 悠乃(CL2000231) も、近場の相手に炎柱を立ち上らせる。自分もまた平原に残るメンバーと同じことを行う為にも、先へと進まねばならない。
「みんな、ガンバレよ!!」
先を行く仲間に叫びかけ、奥州 一悟(CL2000076)は改めて、相手する構成員の姿を見渡す。
「F.i.V.E.兵力の10倍。持久戦だな」
とはいえ、末端員を全滅させる必要などない。
敵陣へと潜り込むメンバー以上に派手に暴れて、この場の構成員を引き付けられれば、一悟にとっては十分だ。
気力が続く範囲で、彼は地面から炎を立ち上らせ、多くの敵に火傷を負わせ、さらにトンファーを振り回して殴りかかっていた。
如月兄妹も応戦を行い、先を行く仲間を追う敵へと蒼羽は流れるような所作で籠手による殴打を浴びせて行く。
さらに、彩吹は無数の火蜥蜴を相手にけしかけ、纏わりつかせる。
その上で、彼女は空を切り裂く一蹴で、敵を大きく吹き飛ばしていたようだ。
「なんかいまいち良く分かってないんだけど」
目の前で繰り広げられる戦い。それは、全員で悪いやつと戦って、雑魚狩りとボスアタック的な展開のゲームのようだと真屋・千雪(CL2001638)は感じている。
現実味を全く感じない千雪であるが、初参戦でこうしたシナリオに参加すると、死んでしまうのではないかと考えていた。
「はは、死にたくないなぁ」
ともあれ、この場は周囲のメンバーと同じように移動して孤立を避けるよう千雪は心がけ、周囲の注意を引くメンバーの陰で樹の雫を振り撒いていた。
「はわわわ、敵の本拠地に乗り込むとか、なつねにはとっても荷が重いの」
こちらは、緊張しっぱなしの野武 七雅(CL2001141)。
1人で乗り込んだわけではないからおかしなはなしだと独り言をいいつつ、七雅は仲間にとって縁の下の力になろうと、潤しの雨を前方の仲間の頭上に降らしていく。
「せっかく乗り込んだんだったら、ボスまで到達してほしいの!」
その背中はすでに遠くなっている。七雅は彼らの検討を祈り、次はこの場の覚者の援護へと動く。
先へと送り届けた仲間も心配にはなるが、この場だって数としては圧倒的に覚者が劣勢なのだ。
「1対3では勝てないかもしれませんけれど……、1対1を3回なら勝ち目があるでしょう」
この場に立つ崎守 憂(CL2001569)は、確か先生がそういう風に言っていたと思い返す。
仲間と共に戦えば、一度に相手する敵の数は少なくて済む。
だが、彼女は因子の力で体内の炎を灼熱化させると、その熱さを感じてしまって。
「あぁ、でも、身体が熱いですね……。因子というのは厄介なものです……」
力に振り回されるように、憂はワイヤーで敵を打ち付ける。
「存分に参られませ。華と散らせて差し上げましょう」
最終決戦とあってか、正面きって戦いを挑んでくる黒霧に、シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)はよい割り切りだと評価して見せた。
その上で、彼女は「蓮華」を一閃させ、構成員どもを切り伏せて行く。
「I have nothing to offer but blood, toil, and sweat」
『血と苦労と汗以外に、何も捧げるものを持たない』。
そう告げた彼女は刀を振るって戦い、血風の中で戦うことが自身の全てだと、敵に連続して斬りかかる。
近場では、【助太刀】のメンバーも交戦を繰り広げていた。
「ハッ! 黒霧の連中とは何度かやり合ったが、ここが奴等との決着の場って訳か……。なら、因縁ある奴等の為にも雑魚共は任せろ!」
自分達はチームの名前ともしている助太刀役だと、飛騨・直斗(CL2001570)は笑う。
「さあ、存分に楽しもうじゃねェか! なあ、黒霧共!」
前に立つ彼は独特な香りを振り撒いて相手を弱らせ、 妖刀・鬼哭丸沙織で構成員達を薙ぎ払う。
「隔者……、その中でも危険な七星剣の一派である『黒霧』。……ええ、これは討伐せねばいけない敵ですわ」
その直ぐ後ろでは、自称アイドルの獅子神・伊織(CL2001603) が敵へと視線を向けていた。
「私達覚者としての責務、そして、私の正義に基づきお相手致しますわ!」
野放しにしては危険な相手。伊織は目の前にいる黒ずくめの連中をそう認識し、声を荒げる。
「さあ、いざ覚悟ですわ!」
伊織は広範囲に気弾を飛ばし、直人を気遣いつつ戦いを繰り広げていた。
さらに後ろ、伊織の従姉妹である獅子神・玲(CL2001261) が繰り広げられる戦いに顔をしかめていて。
「……また決戦なんだね」
玲は大切な人を死地に赴くことを、酷く嫌がっている。以前、親友を助けられなかったとき、強くそれを実感していたのだ。
「……もうあんな無力感に後悔……そんな事したくないから。……だから、僕は大切な人達を死なせない様に……守るよ」
玲が守りたいと考えているのは、親友の弟である直斗だ。
「僕が……回復させて死なせないから。だから、思いっきり暴れていいよ、直くん」
大切な仲間を支える為、彼女は前に立つ仲間の相手へと高密度の霧を発して支援していく。
さて、すでに先行メンバー達は城郭へと差し掛かっているが、それを追おうとする。
「敵をきっちり倒して制圧しないと、城内に進んだ人たちが危なくなるのよ」
仲間の回復支援を行う鼎 飛鳥(CL2000093)。
周囲の怪我人を見ながら彼女も折を見て水竜を解き放ち、構成員の体を撃ち抜く。
それによって、足を止める構成員は先行メンバーを捉えられず、平原に残る覚者の掃討に力を注ぐのである。
●城郭・1――立ち込める深い霧
平原を越えたメンバー達は、城郭へと攻め込む。
「こっちだよ!」
危険察知しつつ、栗落花 渚(CL2001360)が仲間を案内する。現在、30人余り、やってきた覚者の半数が平原を抜けてきていた。
「お城なんて目立つ物建てたら、いずれ場所がバレるのでは」
「霧山君も案外やるじゃない。こんな派手な場所でお殿様ってこと!」
タヱ子が率直な感想を告げると、酒々井 数多(CL2000149)は城の内部を見回して感嘆する。
そこで、鹿ノ島・遥(CL2000227)があーと声を上げて。
「思い出した思い出した! オレらを騙してたヤツ!」
黎明からの一件で霧山を覚えている覚者は多い。「そっかー、あいつそんな偉いヤツだったのかー」と遥は納得していたようだ。
「あいつとの別れ際に言ったんだ、『次に会うときは全力で勝負だ』ってな」
遥にとって霧山の肩書きなどはどうでもよく、霧山本人との戦いこそが問題なのだ。
「せっきー、霧山を見返してやろうな!」
赤貴は小さく頷き、ただ、前を向いて場内を駆け抜ける。
「何かこの戦場、死の空気っぽいの感じマスカラ、念には念を、デスネ!」
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)は第六感を働かせ、敵の出現に警戒する。
建てられてからは数十年といったところ。おそらくは先代の黒霧首領が築いたものなのだろう。
歴史的根拠が無い場合、一般には天守閣風建築物と呼ばれ、城と扱われる例は少ないですがと、氷門・有為(CL2000042)は語る。
「そういう意味での歴史はないですよね」
本当の意味では城とは呼べぬ場内。斎 義弘(CL2001487)は改めて、黒霧の城に乗り込んだことを実感して。
「罠も敵の反撃も凄まじいだろうが、それでもここで無理をするだけの価値はあるよな」
城は確かに罠はあれども、事前に対応できぬレベルではない。
それより、待ち受ける構成員の対応が面倒だ。
とはいえ、こちらも平原よりは少ない。あちらで頑張ってくれている仲間の為に、彼らは最奥を目指す。
「負けられない戦いと聞いて、あたし参戦!」
大声で意気込み、構成員を散らす宝達 はくい(CL2000837) は【霧喰】の一員として、華神センパイこと悠乃のサポート役として馳せ参じている。
「はーん、あの首領くんの花舞台なのね!!」
『獣の一矢』鳴神 零(CL2000669) は城郭を見渡して叫ぶ。どこかに上を目指す道があるはず。
「霧はいつしか晴れるものだ。それが今だっていう話だな」
こうして、城郭にまでやってきたものの。『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495) は大儀そうに嘆息して。
「しかしまぁ……。城取りに駆り出されるとは思わなかったが、何とかするしかないな」
メンバー達は、本丸……城の上層を目指すが、とりわけ、ジャックそこに『殺したい』相手がいると告げている。
(切裂君が『殺したい』とは珍しい。これはきっちりと送り届けねば)
『教授』新田・成(CL2000538) はジャックを本丸に送り届けようと、スキルで周囲を隈なくチェックし、待ち伏せする敵を看破する。
構成員を退けつつ城の下層を駆ける一行の前に、立ち塞がる3つの影。
「「「…………」」」
これまで、依頼で見た藤本、ケヴィン、そして、半田の隊長格3人。
彼らはそれぞれ因子出現場所に小さな半球状の器具を取り付けている。そして、彼らは構成員を従えていた。
「ここはあたしが抑えるから、早く行き!」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が【INVERSE】の仲間達へと叫びかけ、3人のうちの1人、藤本・円へと駆け寄って。
「女同士、仲良う殺り合おうやないか。……焔陰流21代目焔陰凛、推して参る!」
抜いた朱焔から煌めく焔のような輝きを見せ、相手に三連撃を叩き込む。その間に、赤貴達は隊長らをスルーして奥へと走っていく。
【霧喰】のメンバー達も、藤本の抑えに動いていた。
「向き合ってくれない相手は趣味じゃないから、流れは悪くない、けど……」
悠乃は相手を乗り逃すまいと考え、目の前に立ち塞がる藤本と対した。そして、器具によって理性を失った相手を見つめる。
「初めまして、宝達はくいッス、宜しくおなしゃーーす!」
相手に呼びかけるはくい。ただ、藤本を発することなく、まるで機械を思わせるような所作で刀を抜いて切りかかってくる。
すでに、英霊の力を引き出していた凜音は後方に下がり、仲間の支援に動き始めた。
成もこの場に残るようだ。現の因子を持つにも拘らず、ほぼ変わらぬ老練さを持つ見た目で、彼は波動弾を発射する。
この場に残る仲間に小さく頭を下げ、ジャック、千陽。彼らに零は笑いかけて。
「いいわよ、ここはお姉さんやお兄さんに任せて、じゃっくんと時任くんは先にどうぞどうぞ~」
駆け抜けて行く2人を尻目に、零も目の前に相手に向き直る。
「さて、藤本ってアンタだっけ」
零は露払いの為、目の前の相手に呼びかけた。
「可愛い弟クンたちが上にいきたーいってお願いされたから、意地でも守るのが大人の役目なのよね」
まるで獣のような威圧感を放ち、零は大太刀「鬼桜」に手をかけて。
「そこから先通しなさい、んでもって、通さないわ」
両腕を機械のように変化させ、彼女は台風のようにその刃こぼれさせた大太刀を振り回すのである。
中央、ケヴィン・暮森。片言の日本語を操る日系人だったはずだが、彼もまた無言のままだ。
「ケヴィンちゃん、どうしちゃったのだ??」
以前、対面したときとは全く別人の相手に、奈南は戸惑いを隠せない。
「前は何とかお話出来たのに、もう、お話も出来ないままになっちゃうの??」
奈南はそこで、ファクターと呼ばれる器具が彼の第三の目を覆うように装着されているのを見る。
「そしたら、ファクターを壊して、ケヴィンちゃんの理性を取り戻してから、せいせいどうどう勝負! なのだ!」
彼女は元気いっぱいに土の力で強化したホッケースティック改造くんで、彼の頭のファクターを破壊しようと殴りかかっていく。
覚醒爆光によって変身する、月歌 浅葱(CL2000915)もそれに続く。
「天が知る地が知る人知れずっ。黒霧退治のお時間ですっ」
彼女は右腕を機械のように変形させ、械の因子の力で自らの守りを固めつつ呼びかける。
裏稼業とてかつては必要だった時もあるのだろうが、それはもはや必要の無いものであり、取り残されたものなのだと。
「変われないなら変わるまで、理性がなくても通じる言語(物理)で話し合ってみましょうかっ」
自称ではあるが、浅葱は正義の味方。止めてみせようとカミソリを振り回しだしたケヴィンの態勢を崩して投げ飛ばす。
万屋メンバーは2手に分かれ、比較的覚者の少ない有力者と対することにする。比較的手薄なケヴィン側には、天明 両慈(CL2000603)、リーネが回っていて。
「ヘーイ! 両慈と一緒にお相手シマスネ!」
「リーネ、今回も守りは任せた」
そのリーネは、いつも彼の名前の上につけている『愛しの』がないことを仲間達に指摘されたようで。
「イ、イヤァ~、流石に迷惑かなと思いマシテ、デスネ?」
トニカク! リーネは仕切りなおした自らに補助、強化を施して仲間を守る心積もりだ。
その上で、両慈はリーネの後ろから戦場を見渡しつつ、相手に雷獣の一撃を浴びせかけていた。
もう1人、半田・透には、神々楽 黄泉(CL2001332)が向かう。
「三人で抑えに、行こ?」
彼女と共に付き添うのは、魂行 輪廻(CL2000534)に瀬織津・鈴鹿(CL2001285) だ。
比較的、他の末端構成員にも似た風貌の相手。ナイフと苦無を突き出す相手に黄泉はいつもと変わらず、思いっきり飛び上がって超燕潰しを振り上げる。
「黄ー泉ー……クラーッシュー……!」
身の丈より長いその斧の刃で、黄泉の勢いに任せて半田の肩口を裂く。
致命傷を避けて寅のしなやかさでそこから飛びのいた敵を、着物を着崩す輪廻が襲う。
ちらりと己の色気を見せながらも、彼女は彩の因子で強化された足腰で戦場を舞い踊り、相手を鋭く蹴り伏せようとする。
「……お願いだから、……無理だけはしないで」
前に出る黄泉や輪廻を鈴鹿は心配そうに見つめ、癒しの雨を降らせる。
この場にいるのは、彼女達だけではない。義弘はこの場の守りも請け負いつつ、メイスを握りしめる。
「一つ気合入れて、ぶん殴るとしようか」
すでに上を目指して進んだ仲間を信じ、義弘は敵の刃を受け止め、力の限り殴りつける。万全の状態で彼らの出迎えができれば言うことはない。
(彼らは今、ファクターを使われて理性を失ってる)
鈴白 秋人(CL2000565)もまた、半田の相手をすべく立ち回るが、頭の右耳付近に装着された半球状の器具に注意を向けていて。
自分に近しい人間にファクターを使用するということは、それだけ黒霧が……いや、霧山・譲が追い詰められているのだと秋人は分析する。
彼はやや回復よりで立ち回ることとなるが、貫通力を持つ波動弾などを利用し、攻撃も意識していく。
一方で、黒霧に興味など微塵も持ってはいない鈴鹿だが、一抹の不安を拭いきれずにいた。
(……何故か一緒に付いていかないと、後悔してしまいそうな気がしたから……。だから、一緒に戦いに来たの)
それが杞憂であることを、鈴鹿は願わずにはいられない。
「輪廻姉様……居なく……ならないよね?」
そして、城の中層を進むメンバー達。
「来るよ」
東雲 梛(CL2001410)は敢えてこちらに回ってきていたのは、名前が出ていたのに、これまで姿を見せない相手がいたからだ。
「やれやれ、ここまで乗り込んでくるとは……」
一行の行く手を、黒装束に白衣の男が数名の構成員を引き連れ、立ち塞がる。
彼こそが霧山・譲のお目付け役、静永・高明だ。
上層を目指すメンバーも彼を意識しており、霧山と同様、覚者との因縁が深い相手でもある。
「それにしても、静永さんとの関係……恋鎖の予感がする!」
これまでの報告書、そして、静永の態度を見て、数多は想像を巡らせる。
「個人的には、静永×霧山君の下克上攻めね。霧山君はあの雰囲気的に誘い受けの気配よ!」
妄想膨らむ数多はさておき――。
梛は手始めに閃光手榴弾を投げ飛ばして相手を威嚇するが、あまり静永に動揺する素振りが見られない。
ここぞと、奏空は温存していた力を発揮し、英霊の力を引き出し、八葉蓮華のシールドを展開する。
「前回みたいにはやられない」
奏空が周囲の構成員を 双刀・天地を薙ぎ払い、静永へと肉薄しようとする
「あの時は一人で立ち向かったけど、今は一人じゃない。……たまきちゃんがいる!」
そのたまきは、符の盾を前面に展開し、奏空の前に立つ。
「私は奏空さんの盾です! その為、奏空さんにお怪我はさせません!」
「ほぉ、麗しくも純粋な関係ですね。羨ましいですよ」
ただ、静永も本気だ。両手のナックルでたまき目掛け、躊躇なくその拳で殴りかかってくる。
「悪ぃな工藤。デートの邪魔ぁするぜ」
そこで、諏訪 刀嗣(CL2000002)が飛び込み、静永の拳を受け止めた。
抑えてなお、その衝撃は彼の体を駆け巡る。そして、刀嗣は邪魔する構成員を妖刀・失恋慕の刃で纏めて貫き通す。
氷門・有為(CL2000042)も戦場を駆け抜け、周囲の敵をオルペウス改を切り裂く。ともあれ、邪魔な相手を削っていきたいところ。
「……黒霧、なくなったら。暗殺、なくな、……らない、ね。頼むひと、が、まだいる、から」
桂木・日那乃(CL2000941)はそんな独り言を発していたが、目の前の相手は自ら動いて火種を起こす存在でもある。
仲間達がどこに向かっているのか、送受心で中継しつつ、戦力バランスの分配、情報交換に努める日那乃は、この場の回復を請け負い、仲間達に恵み雨を降らして行くのだった。
●平原・2――次々に吹き荒れる風
平原の戦いは続く。
城郭の付近に立つ飛馬は、先行メンバーを追おうとする敵へと抜き胴から三段打ちを素早く繰り出す。
しつこい敵を昏倒させ、飛馬は死角からの襲撃にも注意を払い、次なる敵へと攻め入る。
「なつねは支援をがんばるの」
前に進む仲間の回復をしていた七雅は、そのまま壁となる飛馬ら城郭付近の回復支援を続ける。
飛んでくる苦無によって痺れなどが走るようであれば、七雅は深想水を振り撒き、仲間を万全の態勢で戦えるよう援護していた。
その手前では、彩吹はガンガン敵へと攻め入り、素早い蹴りで黒霧をどんどん蹴りつけて行く。
兄の蒼羽も負けじと妹に並び、敵陣へと鮮烈なる雷を落としていたが。
「小隊長……か?」
その存在を仲間に知らしめた蒼羽。彼は穏やかに笑いながら、磨き上げた体術で敵を攻め立て、相手の態勢を崩しつつ勢いをつけて地面に投げ飛ばす。
同じく、率先して彩吹がそいつの首筋を蹴り飛ばし、地に沈めていたようだ。
「……向こうに向かわれない様、維持をしなければですね」
城郭側からも剣戟音が聞こえている。其方に敵を行かせぬこともそうだが、憂は平原方面も見渡して。
「一応、退路の確保も必要ですし……、これからは私達が守る番ですね」
そこで、憂を狙って繰り出されるナイフ。彼女はそれに鎌首をもたげるようにして反撃を行い、「KIMIHIKO」を一閃させ、その構成員を切り伏せた。
「相手の数が多いです。ガードにつきますので、攻撃はお任せしますね」
自らを強化した燐花は自身の防御面に不安を抱きつつも、恭司への被弾を一つでも減らすべく動く。
「ガードありがとう、燐ちゃん!」
彼女に礼を返す恭司。守ってもらう分は全力で。脣星落霜を浴びせかけて1人でも多く敵の撃破を目指す。
「終わったら、ゆっくり休みましょうね」
大切な人をこうして守ることができる喜びを噛み締め、燐花が呼びかけると、恭司も首肯して。
「うん、ゆっくり一緒に休む為にも、此処を頑張らないとだね」
大事な人に無理をさせぬよう、彼も全力で攻撃を、時に彼女へと癒しを行う。
とにかく、攻撃の手を止めるわけには行かない。大和は自身の気力を補填しながら敵陣に光の粒を降らして構成員の体力を削いでいく。
だが、混雑する戦場では、なかなかうまく動けぬものだ。
構成員の弱体化をはかろうと濃い霧を発し、仲間の傷の回復に当たっていた離宮院・太郎丸(CL2000131)だったが、その動きは冴えない。
仲間からやや孤立してしまった太郎丸を複数の構成員が狙う。そのナイフに切り裂かれてしまい、彼は戦場で倒れてしまった。
飛鳥は倒れる仲間の姿を見てしまうが、他にも体力的に苦しいメンバーはいる。敵が多いこともあり、飛鳥はさらに仲間が倒れぬようにと癒しの霧を展開した。
「ファイト!」
仲間に声をかけて、個別に潤しの滴も落とす飛鳥は、傷つくメンバーの盾となるにもなっていたようだ。
「ギャハハハ! 死ぬんじゃねーぞ! 雑魚共!」
前線で戦う直斗。楽しそうに刃を振るう彼も玲の支えを受けて善戦している。
時に、伊織も不本意ながら傷を負う直斗の代わりに前に出て、華やかなオーラを纏う。
「私は何れ世界に輝くアイドル、伊織様ですわ! さあ、その性根を叩き割ってあげますわ!」
敵へとそう告げた伊織は、豪炎を纏わせたエレキギターを手にして相手をボコ殴りにして行く。
「僕が付いてるから……いっぱいやっちゃって! 直君!」
玲は回復の合間に直斗へと強化を施すと、彼は敵の首を狙って躍りかかる。
1人を倒した彼らに群がる黒霧構成員達。霧が立ち込めるのにキリなく攻めくる相手は非常に面倒だ。
だが、そこに霧を吹き飛ばすような風が戦地に吹き込む。
「われ達、遅刻した分、思う存分暴れるで!」
「「「おおおおおお!!」」」
そこに現れたのは、「Teppen」を名乗る隔者集団30名ほど。彼らもまた黒霧に多少の借りがあり、それを果たそうとやってきたのだ。
思い思いに覚者を補佐すべく散らばるメンバー達。直斗はリーゼント頭のリーダー、浅野の姿を見つけて。
「よォ! テメェ等と共闘するのも変な感じだが……、まあ楽しくやろうぜ!」
「おぉ、敵の敵は味方ゆうけぇのう!」
彼らは群がる敵を片っ端から張り倒し、勢いづいていたようだ。
シャーロットも「Teppen」の参戦に頬を緩ませながらも、目の前の敵を蓮華で切り倒す。
「心配無用なのです。ここ数ヶ月でニンジャ戦は大量にこなしました」
彼女の刃は平原の敵を駆逐するまで、止まらない。
ラーラも思わぬ援軍の登場に驚きながらも、敵の能力を逐一分析する。
並み居る敵を相手にする為にラーラは自らの力を高め、さらに魔導書の封印を解き、敵陣に放つ炎の波で構成員を飲み込んでいく。
それで幾体か倒しても構成員の数が勝るが、槐は相手の感情に働きかけ、激情、焦燥感を引き起こして混乱させる。
多数の数を相手にしつつ、仲間を支援する。これぞ、槐が得意とするシチュエーションなのだ。
その敵へ、一悟が攻め入る。
彼は最低でも10人は倒すと決めていた。
構成員を多数炎の柱で一悟が巻き込む。長期戦となれば気力も尽きかけ、炎の因子を伴ってトンファーで殴りかかっていく。
それをみた想良が自身の精神力を分け与え、サポートに回っていた。彼女の分まで、一悟は目標はその3倍、30人倒そうと考える。
「回復に専念している仲間たちの分も倒さないとな」
「悪いけど、邪魔しないでよね!」
仲間と別れ、小唄はこの場のメンバーと共に構成員の相当に当たる。
「単純な数任せだけでは勝てないっていう所、しっかり見せてあげないとね」
ふと、彼女は、霧山が黎明に潜り込んでいたという話を思い出して、子オ構成員もそうなのかなと考える。
「まあ、だとしたら、なおさら敵なんだけどさ!」
実際に問いたださないと分からないが、ともあれ、小唄は一騎当千の意気込みで敵の撃破を目指す。
そうして戦うメンバーを、小百合が援護していた。
彼女は大樹の息吹で回復に当たりつつ、守護使役のロビンの力を借りたていさつで戦場を俯瞰する。
(南東の方面、敵が手薄です)
小百合はそうして、敵の弱点となりそうな場所を他の覚者と情報を共有していた。
そうして移動するメンバーの中、千雪は仲間の回復に当たっていたのだが。
「ボス? わー、素敵なベストだね」
うっかり、指揮者らしき相手と遭遇することとなってしまうが、そこに、柾が飛び出してガントレットでそいつに素早く二連撃を繰り出す。
応戦する敵は波動弾を駆使する厄介な相手。柾は関節に打撃を加えて相手の体術を封じる。
そこで、千雪が集中してから植物の鞭で相手を鞭で打ち据えると、さらに柾がワンツーを繰り出して地に沈める。
「張り切ったが、やはりなかなかしんどいもんだ」
一息つく柾は、若い仲間が最前線に向かっていることも考え、弱音は吐くまいと小さく気合を入れていた。
とはいえ、倒れる敵は増えてきている。ここがふんばりどころには違いない。
●本丸・1――待ち受ける濃霧
最奥まで向かっているのは、10人あまり。
彼らは上に行く階段を駆け上がっていく。霧に纏わりつくいやな空気に、上月・里桜(CL2001274)は顔をしかめた。
「……小さな頃からここに……。居心地が良いはずはありませんね……」
でも、黒霧の行為は認められない。里桜は視界に見えてきたその男を見据えて改めて思う。
「ようこそ、暗霧城へ。……歓迎などする気はないけれどね」
いつもの澄ました表情はそこにはないが、そこには、黒霧現首領、霧山・譲の姿があった。
「『濃霧のユズル』は、ここまでです」
「おっす、久しぶり! 有言実行しにきたぜ!」
里桜が最初にその男へと呼びかける。遥も気軽に言い放つ。
だが、多くの覚者達の表情は険しい。それは、目の前の男が向ける敵意にその身へと僅かに戦慄を覚えていたからだ。
しかし、今の覚者達にはそれに打ち勝つ力がある。
「……もう潜んでまわる遊びは終わりでいいのか? 『二代目』」
「邪魔してくるから、潜んでばかりもいられなくてね」
赤貴の皮肉に、霧山もまた毒のある言葉で返す。
霧山と因縁のあるメンバーは多い。エメレンツィアもその1人だ。
「思えば長かったわね」
黎明として潜り込んでいた霧山と出会ったのが彼女にとっての出会い。そこからずっと、霧山の前に彼女は現れ続けている。
「あの時は七星剣幹部になるとは思わなかったけれど。どうやら、親の七光りは性に合わなかったようね?」
「ああ、そうだよ。君の言うとおりだ」
「アナタも、思ったより凡人だった、ということね。……過去の亡霊に囚われた可哀想な人」
哀れみにも似た視線を向け、エメレンツィアは法具「国事詔書」を手に叫ぶ。
「さあ、決着をつけましょう!」
「一歩も退かないよ! 最前線でみんなを支えるために鍛えて来たんだから……」
仲間の健康管理は保険委員である私の仕事だと、渚もまた、身に着けた腕章をびしっと掲げて。
「この腕章にかけて、みんなを危険には晒さないよ!」
霧山を守るように構成員が現れると、覚者達もまた臨戦態勢に入る。
「大将になるためにさぞかし鍛えたんだろ? さあ、有限実行だ。勝負しようぜ、霧山ァ!」
雷神の力を解放する遥。覚者達が一斉に動き出すと、霧山もまた構成員に紛れて動いた。まずは覚者達へと流星を降り注がせ、全員に等しく大きなダメージを負わせてくる。
「きーりやーまちゃーん、お宅訪問よー!」
フルフェイスの逝はいつもと変わらぬ調子で、霧山に呼びかけた。
直刀・悪食で彼は前線の邪魔な構成員を薙ぎ払い、霧山への接敵を目指す。
(霧山と初めて会った時、彼が殺めた「テイク」の幹部。……彼は悪人だった。けれど)
ふと、いのりは霧山を見て思い出す。
例えどんな人物であっても、絶たれていい命など、この世にあろうはずがない。
「いのりはそう信じているから、霧山のしてきた事を認める訳にはいきません」
いのりは濃い霧を発し、霧山達の弱体化をはかる。
「お山の大将で偉そうになったじゃない、いくわよ。ケリつけましょう」
数多もまた、体内の炎を燃え上がらせ、写刀・愛縄地獄で取り巻きを蹴散らす。
遥もまた周囲に蹴りを繰り出し、構成員の排除を目指す。
眼を光らせ、攻め入ってくる霧山。
「タヱ子、いつものカチカチ防御期待してるぜ!」
遥の期待に応え、タヱ子は赤貴を守るべく己の身を岩の如く固め身構えた。
その赤貴は覚者の中央に布陣する。
「追いつくまで随分とかかったが、既に牙は突き立てた。あとは引き裂くだけだ」
霧山は追い詰められたところで、簡単に諦める相手ではない。それだけの死線を潜り抜けて来た相手だ。
赤貴も鯨骨斧を手に、地を這う連撃で構成員を打ち倒す。
「――改心する気は無いな?」
命を弄ぶなと言ったのは、お前の命を案じてだったが伝わらなかったか。
ジャックは冷ややかに霧山へと告げる。相手は聞き流しているのか、平然と仲間に向けて苦無で貫通攻撃を仕掛けていた。
「そういう訳だ、千陽。首領として霧山を終わらせて欲しい」
回復に当たるジャックの言葉に、千陽が応じる。彼はジャックにとって、敵を屠る剣なのだ。
(きっと、切裂の思いは彼には届かぬのだろう)
霧山にも、自分のように背を任せられる友人がいたなら、何か変わっていたかもしれないと千陽は考える。
――いや、きっといたのだ。
霧山にとっては、静永という男はそうではなかったのか。
(それに気づくことができていたら、未来は変わったのだろう)
とはいえ、それを言及するのは無粋に過ぎる。千陽はそう察している。
ともあれ、霧山は全力で居場所を守るのだろう。だからこそ、千陽もまた全力だ。
「友人との約束を――魁斗の剣として、霧山を倒す」
彼も仲間達と同様、霧山の撃破を目指し、邪魔な構成員を「NF-99」を振るって突き飛ばすのである。
●城郭・2――輪廻は巡る
城下層にて、隊長格3人を相手にしていた覚者達。
元々の力もかなり高い上、器具「ファクター」を装着させられ、理性の代わりに高めた力は、メンバー達を深く傷つけることとなる。
意外にも、最も早く決着がついたのは、ケヴィン戦だった。
彼を相手にしていたのは4人の覚者と最も少なく、序盤は苦戦を強いられていた。
「振り回すだけなら、木偶の坊と変わりないものですっ」
浅葱はなんとかケヴィンの攻撃を裁きつつ、その力を制しようと受け流していたが、敵はカミソリの刃でリーネの体深くに刃を突き入れた。
早くもリーネが命にすがって戦う状況の中、奈南はケヴィンのファクターに注目して。
「雷獣ちゃんをイジメてたケヴィンちゃんだけど、助けてあげるのだ!」
奈南はファクターを叩き壊そうとするが、なかなか相手は止まらない。
しかしながら、奈南が振るった改造君がファクターをうまく捉えた。どうやら、完全に調整されたわけではなく、小さく破裂して床へと転がった。
「ホワーイ、何が起こったデスカ?」
正気に戻ったケヴィンだが、説明できる余裕など覚者には無い。
起き上がった両慈はある程度状況を察したようで、潤しの雨を降らして仲間の傷を塞ぎ、サポートに当たる。
リーネもまた、自分達に防御力を高めるシールドを展開する手前で、浅葱が飛び込んで物理で話し合おうとナックルでケヴィンを殴り付ける。
「ナ、ナニが、ドーナッテ……」
戦況を把握できず、ケヴィンは白目を向いて崩れ落ちていった。
3人のうち、年長の女性、藤本・円。
その刃は的確に、覚者達の体を断ち切らんとしてくる。
「日本の闇って言えばそうなのかもしれないが、元はと言えばそういう生き方を選ばざるを得なかった……てのもあるんじゃねーの?」
後方から仲間に恵の雨を降らせる凜音は、目の前の藤本を始め、黒霧についてふと考える。
「真に忍びならば、散り逃げおおせて草に潜み、再起を図る道もあったでしょうに」
齢を重ね、大学教授としての地位を持つ成。彼は、黒霧の構成員達が子供の我儘と癇癪に付き合わされた被害者なのだと語る。
「同情しますよ。容赦はしませんがね」
その間も、成もまた波動弾を発する。狙うは頭や胸といった致命打を狙える部位。彼の攻撃に慈悲などはない。
黒霧構成員もまた、被害者なのではないか。この国のあり方に問題があるのではと凜音は癒しの手を止めずに独りごちる。
「どうにかならないものかねぇ……」
殺し殺されるこの状況に、戦場を俯瞰する凛音は嘆息していた。
「さあさ、殺し合い、潰し合いよ!」
一方で、零は不殺などという考えなど持ち合わせてはいない。
彼女もまた命を賭けてこの戦いに臨み、邪魔な取り巻きどもの排除を目指して気の弾丸を放つ。
「こっちは命かけてきてんだから、そっちも賭けなさいよ、命!」
鬼桜で繰り出すは、スピードを威力に転化させた一撃。
身体を切り裂かれる藤本だが、相手もただの殺戮マシーンと成り果てていて。零が刀を振りぬいた瞬間を狙い、繰り出された二連撃が彼女の首と胸を大きく切り裂く。
零は遠のく意識を繋ぎ止め、この勝負の続行を望む。まだ、終わるわけにはいかない。
「てかこいつ自分を無くしてるぽいけど、あれのせいか?」
凛もファクターの存在に気づいたらしい。理性が飛んだ攻撃は人外の威力とさえ思えてしまう。
だが、藤本を注視していた悠乃は、それを是とはしない。
「因子の出力が上がれば勝てるって考えは、賛同しかねるわ」
すでに倒れる仲間はいたものの。悠乃は長時間の独占を避けるようにと、横から双牙スコヴヌングを装着した拳で藤本に殴りかかっていく。
ただ、相手を昏倒させるとは至らない。鋭い視線で藤本は悠乃に刃を突きつける。
「うおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああ!!!!!」
叫びながら飛び込むはくい。明らかにヤバげな一撃だと感じたからこそ、悠乃を守ろうと庇ったのだ。
はくいの身を抉るように突き入れられた刃。彼女は血を吐きながらも、態勢を立て直し、硬化した拳で敵の顎を強く殴打する。
「後輩だって、やる時はやるんスよ」
まさに命がけ。はくいは悠乃へと誇らしげに微笑んだ。
戦いは徐々に覚者が優勢になってきてはいる。取り巻きが倒れていき、藤本も自由にならぬ体に動きを鈍らせてきていた。
「一瞬に命賭けなさい」
零は暴力坂・乱暴の戦闘スタイルより学んだ術で力を高め、逢魔ヶ時・紫雨の秘技を模した斬撃で藤本を叩ききる。
ただ、トドメとは至らない。生の本能が急所を外すよう身体を逸らしていたのだ。
しかし、焔を舞わせた凛が躍りこむ。
「焔に形は無く相手に合わせ変幻自在。それが焔陰流の”転(まろばし)”や!」
彼女は朱焔を柳のように操り、藤本の刀を捌いて。
「今度は本当のあんたでかかってこい。生きてたらな!」
凛は渾身の一打で相手を地に叩き伏せる。床にめり込むほどの一撃を受け、藤本はついに沈黙したのだった。
最も苦戦を強いられていたのは、半田を相手にしていたメンバーだろう。
とにかく、戦線の維持を。義弘は気合を入れて半田の怒り狂う獣の一撃を受け止めようとする。
「少なくとも、理性を失ってまで得た力に負けたくはないからな」
同意する秋人は、回復の合間に呼び寄せた水竜を浴びせかけて行く。
相手によっては、フィボナッチ達の事について何か分かる事があったのかもと考えるが、理性を失った相手ではそれを聞き出すのも難しい。
半田の狙いは、徐々に女性達へとシフトしていく。
超燕潰しを叩きつける黄泉が狙われ、その胸に半田のナイフが深く突き刺さる。
黄泉の中で、何かが砕けるような。そんな感覚。身体に力が入らず、前のめりに崩れ落ちる。
鈴鹿が表情を固まらせてしまうが、黄泉は命を砕いて起き上がろうとしていた。
鈴鹿がホッとするのも束の間の事。いつものように柔肌を見せつつ廓舞床で切りかかっていた輪廻が跳躍して。
「これが……最後よん」
どこか寂しげな一言と共に、輪廻は半田の体を蹴りつける。下着をつけていない彼女は危なげなアングルで敵を蹴りつけた。
だが、獣のように暴れ狂う半田は彼女の体を掴みかかり、力任せにその身体を引き裂こうとする。
――輪廻の中で、何かが決定的に壊れた。
だが、彼女はただ潰えはしない。残された全ての力を、可愛い鈴鹿に対して分け与えようとする。
「約束を守れなくて、ごめんね、鈴鹿ちゃん。でも……、ずっと見守ってるからね」
赤いものを撒き散らし、輪廻は床に倒れ行く。
最後の最後まで、服を肌蹴させたまま、彼女はやってくるリーネと両慈に視線を向ける。
そして、黄泉、最後に鈴鹿の顔を眺め、小さく微笑んだ輪廻はその生を……終えた。
「姉様……?」
「輪……廻……? 嘘……?」
鈴鹿、黄泉は、目の前の出来事を受け入れられない。
「……ハ、イ? ……嘘、デスヨネ?」
そこに駆けつけてきたリーネもまた、同じ。生の息吹が感じられなくなった彼女に首を大きく振る。
「輪廻さん? 輪廻………。あぁ……アァ……アァァァァァァァァァ!!!」
直情過ぎる故に、リーネはまっすぐに悲しみを露わにして。
「嫌デス! 輪廻さん! 輪廻さん! こんな事……こんな事って……、アァァァァァァ!!!」
「どうして……輪廻が……私より、強くて、お母さんみたいに、強くて……輪廻?」
普段は感情を示さぬ黄泉。しかし、このときばかりは大きく動揺を見せて何度も何度も何度も、輪廻の名を呼びかけるが……。
もう彼女は、言葉を返してくれない。
「輪廻? 輪廻? 死んじゃ……やだぁ……!」
「なんで……どうして……私を……置いてかないでよ、姉様……」
鈴鹿もまた涙を流し、若すぎる彼女の死を嘆く。
もう彼女は愛してはくれない。そんな想いに、鈴鹿は涙を溢れさせて眼帯をも濡らす。
「輪廻……最期まで、お前はお前らしく、逝ったのだな……」
いつも元気をくれたあの笑顔をもう見ることは叶わない。両慈はそれを認識し、肩を落とす。
悲しんでばかりはいられない。輪廻を死に至らしめた半田は健在なのだ。
義弘も強く口を噛み締め、掌で高圧縮させた空気を叩きつけ、敵を大きく弾き飛ばす。
秋人も冷静さを崩さず気丈な態度で潤しの雨を降らし、これ以上の被害を出さぬようにと立ち回る。
仲間が戦っている。黄泉は暴れ狂う半田目掛け、超燕潰しを叩きつけた。
戦う黄泉は先ほどまでとは大きく変わらないが、鈴鹿は違う。彼女は激情にかられ、半田の体を睨みつける。
「……殺す。……貴様だけは殺す!」
祓刀・大蓮小蓮を握り、鈴鹿はその首を狙う。
「姉様の……仇だ!」
両の刃が半田の首を跳ね飛ばす。それでも、その身体に刃を突きたてようとする鈴鹿を、黄泉が押さえる。
(鈴鹿、輪廻をお母さんの様に慕ってた、から)
抑えられた輪廻は我に戻り、その場で再び涙を流すのだった。
中層でも、覚者と静永のバトルが繰り広げられる。
たまきが地面に力を流し込み、取り巻きを吹き飛ばしたところで、奏空が攻め込む。
速さによる連撃で、奏空が静永に双刀・天地の刃を浴びせかけて行く。
だが、相手もこの黒霧で首領の補佐にまで上り詰めた男。本気となれば、その力を遺憾なく発揮してくる。
敵は豪腕と叩きつけ、たまきを一度床に沈める。さらに、奏空にも拳のワンツーで顔とボディーに思い連撃を食らわした。
やはり危険な相手だと再認識するメンバー達。そこへ、激情にかられる両慈が姿を現す。
「……貴様等黒霧は、この世に塵一つ残さない。貴様等は俺の手で、全員殺してやる……」
大切な仲間を死に至らしめた黒霧。
その全ての命を摘み取る為に彼は敵陣目掛けて雷を叩き落とすが、静永は地中より大きな岩を呼び起こし、覚者達へと浴びせかけてくる。
先ほどの戦いの傷もあってか、両慈もまた一度地を這い、命の力で起き上がった。
同じく、後方にいた日那乃もその巻き添えを食うこととなってしまう。
彼女も苦しそうにしながらも立ち上がり、仲間の為にと癒しの雨を降り注がせて行く。
「影働きのやつが城を枕に討ち死にたぁ、笑える冗談だぜ」
静永を力づくで抑えようとする刀嗣は敵を煽るように、声を掛ける。
暗殺は失敗すれば、何度も狙うことができるのが利点。しかしながら、纏まって挑んでくるなど愚策に過ぎない。だからこそ、七光なのだと。
「テメェらのボスがここで死ぬのは、テメェらの落ち度だな」
鋭い視線で刀嗣を射抜いた静永は、彼の体をこれでもかと殴り付けて行く。
一度は意識を失う刀嗣だが、じっと堪えてから妖刀で静永の体を切り裂く。
白衣に血が飛び散るが、静永はさほど意に介してはおらず。
「甘く見られたものですね」
7人を相手にし、取り巻きをあっさりと失った静永だが、まるで劣勢を感じさせない。
「例え、何を犠牲にしたとしても、他者を傷ついたとしても、それでも、守らなければならない世間体(もの)がある」
――人は、世間体の為に人を殺してしまう。
有為は逆に、静永に対して理解を示す。
とはいえ、前線で相手を抑える有為も傷を負いながら、静永に斬撃を見舞う状況。飛んで来る岩を受け、有為は一度、意識が遠のいていたようである。
「知った口を利いて欲しくは無いですね」
有為がまるで同類であるかのように物言いしたのに、静永は小さく眉を顰めていた。
そこで、力を溜めていた梛が体内の気を燃焼させ、静永目掛けて体当たりを繰り出す。
「これは……」
初めて、静永が動揺を見せる。梛はにやりと微笑んで見せて。
「あんた達は仲間の技だったから、知っている技かもしれないけど、まさか俺が使うとは思わないでしょ?」
その隙を奏空、たまきの2人は逃さない。
「この現状はあんたのせいだと言っても過言じゃない。あんたは霧山譲が現状を望んでいた訳ではない事を知ってたはずだ」
奏空が態勢を整える間に、たまきが地面から岩槍を突き出す。
静永は体勢を大きく乱しながらも、拳を振りかぶる。
「なのに、あんたは霧山譲の黒霧首領の座を黙認した……。霧山・譲を思いつつも結局、あんたは先代の亡霊に取り憑かれているんだよ」
知った風な態度なのは、重々承知。
だが、力ある者が現状に甘んじるのは罪だと奏空は相手を断じ、2本の刃で敵の両肩を大きく切り裂く。
「が……ぁっ」
両腕を垂らした静永は完全に意識を失い、重い音を立てて崩れ去る。
奏空はすぐさま雷獣地縛で彼を縛りつけた後、その手足を縄で縛りつけて行くのだった。
●本丸・2――霧が霧散するとき
七星剣幹部、「濃霧のユズル」。
彼は幼少時より死線を潜ってきている。それだけに、歴戦の覚者であろうが、難なく打ち倒してしまう。
まず、霧山は前線のタヱ子を倒そうと扱い慣れた飛苦無を飛ばし、あるいは直接斬り、殴りかかってくる。
防御一辺倒のタヱ子だが、それでも耐えるには限界がある。
命を削って相手の前に立ちはだかり、彼女は気の流れを活性化させて仲間の回復に努めていた。
だが、霧山の鋭い突きに痺れを走らせ、タヱ子は動きを止める。
そして、霧山が濃い霧に隠れたかと思ったのも束の間。次の瞬間現れた彼の刃によってタヱ子は全身から血を流し、意識を失い倒れ行く。
「全く、児童誘拐とブラック摘発から芋蔓式に出てくれて嬉しいけど」
逝もまた、これまでの霧山との交戦を思い返して呼びかける。
「道具は使い込めば育つし、替えが利かなくなるのよ、それは分かってるかね?」
道具はこの場合、部下を指す。道具は大切にせねばならず、管理場所の確保と不良品の排除も仕事だ。
「居場所が『此処』しかないと言うなら、見当違いもいい所さね。お宅の居場所は道具の側なのよ。それを忘れないようにしておくれ」
そこで、逝は直刀・悪食を振りかざし、物理と合わせて語りかける。
「……まあ、孤立させる為に色々したおっさんが言う事では無いがね!」
「……賢しいよ」
平然と襲い来る霧山は、逝に飛び掛り飛苦無を振り回してその首筋に突き入れる。
そうして、逝を倒した勢いをそのままに、里桜に攻め入る。自身の配下がいる間に、数で押し切るのが最良だと彼は考えているのだろう。
位置取りを気にして力を高め、敵陣に岩を飛ばす彼女だが、即座に対応できず手前から射抜かれることとなる。
気丈に里桜は耐え、身体を起こす。ただ、霧山の攻撃は苛烈だ。続けられる流星にを浴び、彼女は地を這うこととなってしまう。
万全の態勢で戦いに臨んでも、倒れる危険があるのがこの戦い。
そんな中、遥、数多が前衛で護衛を叩きながら霧山へと肉薄した。
「オレの得た仲間(ちから)は、オマエなぞに易々と破れはしない」
戦場で超視力を働かせ、仲間達の指揮をとる赤貴が素っ気無く告げる。
霧山の名を呼ばぬのは、赤貴にとって意趣返し。因縁意識を抱くのは一方的な認識だと彼は感じていたのだ。
そして、仲間達は全力で霧山を襲う。
舞い散る桜、燃え盛る焔の如く、数多が激しく美しく、霧山に刃を浴びせ欠ける。
「数多センパイ、大好きだ!」
そんな彼女と連携を取る遥も、渾身の力で正拳を打ち込む。
霧山は怯まない。冷静に2人の連携攻撃に対処してみせ、致命傷を避けて彼らの急所へと的確に苦無を一閃させる。
数多はギリギリ身体を動かしていたが、遥はどうやらまとも受けてしまったらしい。だが、2人とも命の力を多少砕いてでも、霧山に一撃でも多く、彼らは前のめりに攻撃を繰り出す。
霧山も攻撃の手を止めない。彼のターゲットはいのりに移っていた。
霧に隠れる霧山。いのりは守護使役の力で彼を居場所をかぎわけ、雷を叩き落とす。
確かに霧山の体を射抜くことができたが、彼の苦無は狙い違わずいのりの体を断ち切る。
血を吐くいのり。重すぎる一撃ではあったが、倒れてはいられない。
(出来れば、彼を生かして捕え、罪を償わせたい)
その為には、どんな攻撃を受けても決して倒れない。その気概で彼女は立ち上がる。
ただ、霧山に躊躇などない。立ちはだかる者は全て切り刻もうと、いのりの体を薙ぎ倒す。
気概は潰えていない。だが、霧の中から現れる圧倒的な力に対抗できず、彼女は崩れ落ちてしまう。
ジャックもまた、霧山に狙われることとなる。
(否定に侵された中で抗う霧山は、違う事ない首領の度量は十分さ)
回復中心に立ち回る彼は相手の苦無を受けながらも、霧山へと呼びかけて。
「でも、いつまでも親の背中見たって、お前はお前だろうに」
――やはり、言葉は届かない。
ジャックの呼びかけを聞く相手の姿を、千陽はじっと見つめる。
ここで、霧山は終わると彼は疑わない。だからこそ、彼がいたというその証をスキルという形で残そうと考えたのだ。
彼も仲間の攻撃の合間を見て、気を放出する。それもあって、構成員の姿はもうない。
倒れる仲間もいる中、渚はできる限り霧山に立ち向かうメンバーの治癒に当たり、自身の生命力を分け与え、全員の気の流れを活性化させて行く。
自分達も苦しい状況ではあるが、11人もの力ある覚者を相手にして、霧山とて苦しくないはずは無い。
ジャックはここぞと攻め入り、第三の目を煌かせる。
平和を愛するからこそ、ジャックは自分好みの世界を夢見て戦う。その為に、霧山の理想は必ず消し去り、押し潰さねばならない。
「霧に溢れたお前の世界はさぞ暗かろう。ちぃせぇ世界に引き籠ったもんだ。今切り裂いてやる!」
叫びと共に、彼は瞳に光を集めて。
「霧山という理想を打ち砕く俺はお前の! 黒い破滅の! 太陽だ!」
一気に怪光線を発射し、ジャックは霧山の胸を貫く。
「がっ…………」
ついに、霧山が血を吐く。ギリギリまで態勢を崩さなかった彼の体が始めて揺らぐ。
だが、霧山もまた、命を削って起き上がる。そして、霧に隠れた彼は即座に反撃し、ジャックの胸を苦無で貫いた。
「居場所を、奪われるわけには……いかないのでね」
ジャックもまた命に頼って、倒れることを拒み、起き上がる。
彼はまたも霧に隠れ、今度は覚者達の後方に姿を現す。
「絶対に逃がさないわよ!」
そこで、霧山に追い縋ったのはエメレンツィアだ。
出し惜しみなどはしない。彼女は全身全霊、魂をかけて渾身の一撃を繰り出す。
「女帝の本気、見せてあげるわ!」
彼女の集める水は今まで見た事も無い大きさの、そして、攻撃的なフォルムの水竜を生み出した。
大きく嘶く竜は霧山目掛けて突撃し、彼の体を蹂躙していく。
水に交じって赤いものが混じる。それは、霧山の血に他ならない。
「……こ、こんな」
水竜が消えると、全身から血を流す霧山は膝を突き、ゆっくりと倒れる。
「……案外、嫌いじゃなかったわよ。でも、お別れね」
エメレンツィアはどことなく、寂しげに霧山・譲へと呼びかける。
――さようなら、ユズル。
――ああ、さようなら、エメ。
最後にそう呟き、事切れた青年へ、ジャックは氷の花を手向けるのだった。
●終章――霧は晴れども……
黒霧首領、霧山・譲は没し、幹部静永・高明も重体。有力敵もほとんどが息絶え、あるいは降伏しており、黒霧は事実上壊滅に追いやったこととなる。
徐々に沈静化して行く戦い。
平原では、恭司、燐花が一息ついている。
司令塔を失った構成員達を、覚者達が捕らえていく。数が多い上、離脱スキルを持つ彼らだが、霧山の死亡を受けて投降する者も多かったようだ。
城郭でも、激闘を追え、皆傷つき壁を背にして休息をとっている。
深く傷つきながらもなんとか決闘を乗り切り、勝利を実感していた者もいたが……、その影に1人の少女の犠牲があった。
――――魂行 輪廻。
その顔は最後まで笑顔で、美しく。少しだけ服がはだけて大きな胸や太股をのぞかせ、彼女らしく安らかな最後を迎えていた。
「……安らかに眠れ……輪廻……後の事は、任せろ」
戦いを終え、仲間と共にこの場に戻ってきた両慈が輪廻の亡骸に告げる。
冷たくなっていく輪廻から鈴鹿は離れることなく、輪廻の名前を呼び続け、とめどなく涙を流す。
「悲しいの解る、大切だった人、いなくなる、とても悲しい……」
その鈴鹿へ、黄泉はそっと声を掛ける。普段は無口な黄泉だが、鈴鹿を全力で慰めようとして。
「でも、輪廻は、鈴鹿、ずっと見てる。ずっと、そこに居る」
鈴鹿は顔を上げて、当たりを見回す。
輪廻が笑う姿はもう目にすることはできない。ただ、彼女はきっと、黄泉を、そして、鈴鹿を見守ってくれているはず。
「いつもの鈴鹿を、ずっと見せよう? ね?」
――大好きな輪廻姉様に、いつもの自分を。
彼女の想いを受け継ぎ、涙を拭いた鈴鹿は黄泉に小さく頷いて見せたのだった。
三重県の住宅地跡。
更地となったこの場所にはいつしか、城が建造されていた。
基本、うっすらと霧に囲まれたこの場所は不気味なことこの上ない。
まして、下手に近寄ろうものであれば、この地に住む者達から始末され、秘密裏に失踪扱いとされてしまう。
それもあって、この城に関心を持とうという近隣住民はいなくなり、誰も立ち寄ろうとはしない。
昼間にもかかわらず、常に薄暗いこの場所に建つ城を皆はこう呼ぶ。
――『暗霧城』と。
その城には、二代に続いて日本の暗部で息づき、汚れ仕事を糧として生きる者達がいた。
彼らの名は『黒霧』という。
初代首領、『濃霧』霧山・貰心が元々闇に隠れて活動していた暗殺者らを取り仕切り、組織化したのが起こりとされる。
元々高い暗殺、諜報技術を持っていた彼らは、この日本において歴史の裏舞台で常に暗躍していたという。
そして、因子の目覚め。奇しくも貰心を始め、こぞって発現した彼らの力はより強固なものとなる。
活動を続けていた黒霧だが、妖、AAAや内部抗争などの最中で、貰心は命を落とすこととなる。
代わって、二代目首領となり『濃霧』を受け継いだ息子、霧山・譲。
貰心に力で強引に従わされていた連中、黒霧を我が者にしようとしたバカな構成員を一掃した後、彼は黒霧の活動を本格化させた。
だが、力をつけてきた『F.i.V.E.』の妨害にあうこととなる。
人に害なす存在に対応するこの組織は、夢見の力で黒霧の活動を、とりわけ暗殺依頼をことごとく妨害してきていた。
現在、通信技術が軒並み欧米並みとなり、活動に困難を強いられていた彼らだったが、ここに来てF.i.V.E.が黒霧の本拠地のあるこの暗霧城を突き止め、総攻撃を仕掛けてきたことを察する。
「F.i.V.E.を……迎え討つ」
霧山・譲のその一言で、構成員達は暗霧城敷地内に展開し、F.i.V.E.の襲撃に備えるのである。
●平原・1――『五』里『霧』中とならぬように
濃い霧に包まれる暗霧城。
この地へ、F.i.V.E.の覚者達50名ほどが攻め込む。
「本拠地っぽい外観だね」
如月兄妹の兄、如月・蒼羽(CL2001575)は目を細め、奥にそびえる城を仰ぐ。
覚者達の目的はこの本丸にいるはずの首領、霧山・譲の撃破だ。
「黒霧の2代目か」
妹、如月・彩吹(CL2001525)が呟く。
覚者にとって、黒霧は碌な組織でないのは明白だが、霧山にとっては大事な居場所だったのかもしれないと、彩吹は刹那目を伏せる。
「誰だって、自分の居場所は守ろうとするさ」
だからと言って、見逃すわけにはいかない相手だ。
「私も止まることはないけれど。行こうか 兄さん」
見詰め合う2人は笑顔を浮かべ、仲間と共に前方へと攻め込み始める。
待ち構える大軍勢。
すでに、相手もこちらが攻め込んできていることを察しており、臨戦態勢に入っていた。その数は不明だが、最低でも3~400。500は超えるだろうと想定される。
そんな中、一握りであっても、霧山の下に仲間を送り届けねばならない。
皐月 奈南(CL2001483) は行く手を阻む構成員に閃光手榴弾を投げつけて相手を怯ませ、『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) は迷霧を発して仲間を支援しつつ、奥の城を目指す。
「守りにも、色んな形ってのがあるんだ。先へ行くやつの邪魔はさせねー」
守りを得意とする獅子王 飛馬(CL2001466)は普段、仲間の前に立って耐えるポジションだが、今回は本丸を目指す仲間の為に道を切り開く。攻撃は最大の防御なのだ。
「戦いたいんなら、俺が相手してやるよ。かかってきやがれ!」
2本1対の太刀を抜く彼は、小走りに駆けつける黒い影へと地を這うような一撃を浴びせかけた。
それによって、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が賀茂たまき(CL2000994)と共に戦線を抜けて行く。
「霧山には、個人的な恨みがあるのですが……」
黒霧と因縁浅からぬメンバーは少なくない。橡・槐(CL2000732)もその1人だ。
「まぁ、恨みある人はたくさんいるでせうから、任せるのです」
槐はそう割り切り、この場での突破支援をと前に出る。
とにかく相手を眠らせようと、彼女はできる限り多くの構成員を包むように眠りへと誘う。
「霧山・譲、静永・高明……」
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)もまた、黒霧との因縁は浅くない。
黒霧に思うところは多分にある彼女だが、道を切り開く人間だって必要だとこの平原に残ることに決めていた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
全身から炎を燃え上がらせるラーラ。直接ナイフで切りかかってくる構成員目掛け、巻き起こした炎を津波のように浴びせて行く。
「月並みですが、一度言ってみたかったんです……。ここは私に任せて先に行ってください!」
彼女の想いも受け止め、敵陣深くに切り込む緒形 逝(CL2000156)が応じて。
「大事なお話があるから、絶対に霧山ちゃんの所まで行くさね」
彼は岩を纏って身を固め、飛んでくる苦無を防ぎつつ本丸を目指す。
「七星剣幹部の居城攻略……。よし、久々に暴れるか」
三島 柾(CL2001148)もまた仲間が進むべき道を切り開こうと、向かい来る敵と正面から対し、体中の細胞を活性させてから、複数の敵にまとめて気弾を発射する。
仲間達が敵を抑えている間、大辻・想良(CL2001476)は先を目指す仲間の為、守護使役の天に周囲をていさつさせていた。
「……七星剣、黒霧のひとって、こんなにたくさんいるんですね……」
戦況を確認してこの場にいる敵の姿を眺める彼女は、足元に障害物が無いかと気にして時折背中の翼でホバリングする。
そして、攻めてくる敵を見て、想良は自身をリラックスさせる空気で包んだ後、敵を少しでも眠らせて無力化させようとしていた。
「『黒霧』……私は……よく知らない組織ですが……、とても悪い事をしてきた組織……らしいですね……」
穏やかな性格の白詰・小百合(CL2001552) にとって、如何なる事情があろうと暗殺など受け入れられない行いだ。
「……だから、……私はお仕置きに行く皆さんを……サポートしますね」
小百合は味方へと治癒力を高める香りを振り撒き、さらに、こう呼びかける。
「……私が回復させて道を示します。だから……、皆さんは悪い人達にお灸を据えてきてください!」
仲間に癒しの雨を降らせて援護するエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)も、この場を皆に任せて先へと進む。
群がる黒霧構成員は地面を覆い尽くすほど。
「数では、到底勝ち目はありませんね。ですが、それを厭う時間はありません」
柳 燐花(CL2000695)は自身を強化しつつ、同行の蘇我島 恭司(CL2001015) を守るべく身構える。
「こういうのを、『ここは任せて先に行け』って言うんでしょうか」
先には、もっと面倒な相手が待ち構えている。そこに向かう人の為に道を作るのも大切なお仕事。そう告げる燐花に、恭司が同意した。
「うん、まさにそんな感じだねぇ」
敵の頭上に、光の粒を降らせる恭司。確かに広範囲の構成員を巻き込んでいためてはいるが、今回ばかりは相手が多すぎた。
「とはいえ、相手の人数が人数だから、ある程度は進む人自身に頑張って貰わないとかな?」
本丸を目指す切裂 ジャック(CL2001403) 。時任・千陽(CL2000014) も後を考え、力を温存して進む。
「敵の本拠地『暗霧城』……。改めて、わたしも戦わせて貰うわ」
黒霧が壊滅すれば、闇に飲まれる必要の無い人間が巻き込まれずに済む。
環 大和(CL2000477)はその為にも、本丸まで向かう千陽やジャックを見送って。
「必ず……、霧山を討ち取って頂戴」
彼らの背にそう呼びかけ、大和も敵陣目掛けて光の粒を降り注がせていった。
早くも、混戦状態となる戦場。少し距離を置き、【INVERSE】のメンバーも本丸を落とすべく敵陣を進む。
「手伝いはしたいけれど、本丸までたどり着けなかったら元も子もないからね!」
狐の耳を動かす御白 小唄(CL2001173)。
彼は仲間の為、邪魔な敵を左右の腕に装着した金属型ガントレットで構成員の体を薙ぎ払い、大きく吹き飛ばして仲間の道を作る。
「ここは任せて先に行って! ……親玉はちゃんと赤貴君達が倒してくれるって信じてるから!」
酒々井 数多(CL2000149) が小唄へと言葉を返す。
「まかせといて! 陣形を組んでせっきーくんを霧山君に送り届けるわ!」
にこやかに笑う小唄を残し、【INVERSE】のメンバーは先を急ぐ。
目的としては、葦原 赤貴(CL2001019) を中心として、本丸を落とすことだ。
(「『己が為に在れ』が信条のチームですが……、今はチーム自体が己となったのですね」)
納屋 タヱ子(CL2000019)は頼られることがこんなにも嬉しいものかと、強く実感して。
誰一人欠けるわけにはと、タヱ子はチームメンバーを気遣い、その後を追っていく。
(隠密の組織を追い詰められるようになったあたり、F.i.V.E.の組織力も上がったのかしらね)
この先の城郭へと考える華神 悠乃(CL2000231) も、近場の相手に炎柱を立ち上らせる。自分もまた平原に残るメンバーと同じことを行う為にも、先へと進まねばならない。
「みんな、ガンバレよ!!」
先を行く仲間に叫びかけ、奥州 一悟(CL2000076)は改めて、相手する構成員の姿を見渡す。
「F.i.V.E.兵力の10倍。持久戦だな」
とはいえ、末端員を全滅させる必要などない。
敵陣へと潜り込むメンバー以上に派手に暴れて、この場の構成員を引き付けられれば、一悟にとっては十分だ。
気力が続く範囲で、彼は地面から炎を立ち上らせ、多くの敵に火傷を負わせ、さらにトンファーを振り回して殴りかかっていた。
如月兄妹も応戦を行い、先を行く仲間を追う敵へと蒼羽は流れるような所作で籠手による殴打を浴びせて行く。
さらに、彩吹は無数の火蜥蜴を相手にけしかけ、纏わりつかせる。
その上で、彼女は空を切り裂く一蹴で、敵を大きく吹き飛ばしていたようだ。
「なんかいまいち良く分かってないんだけど」
目の前で繰り広げられる戦い。それは、全員で悪いやつと戦って、雑魚狩りとボスアタック的な展開のゲームのようだと真屋・千雪(CL2001638)は感じている。
現実味を全く感じない千雪であるが、初参戦でこうしたシナリオに参加すると、死んでしまうのではないかと考えていた。
「はは、死にたくないなぁ」
ともあれ、この場は周囲のメンバーと同じように移動して孤立を避けるよう千雪は心がけ、周囲の注意を引くメンバーの陰で樹の雫を振り撒いていた。
「はわわわ、敵の本拠地に乗り込むとか、なつねにはとっても荷が重いの」
こちらは、緊張しっぱなしの野武 七雅(CL2001141)。
1人で乗り込んだわけではないからおかしなはなしだと独り言をいいつつ、七雅は仲間にとって縁の下の力になろうと、潤しの雨を前方の仲間の頭上に降らしていく。
「せっかく乗り込んだんだったら、ボスまで到達してほしいの!」
その背中はすでに遠くなっている。七雅は彼らの検討を祈り、次はこの場の覚者の援護へと動く。
先へと送り届けた仲間も心配にはなるが、この場だって数としては圧倒的に覚者が劣勢なのだ。
「1対3では勝てないかもしれませんけれど……、1対1を3回なら勝ち目があるでしょう」
この場に立つ崎守 憂(CL2001569)は、確か先生がそういう風に言っていたと思い返す。
仲間と共に戦えば、一度に相手する敵の数は少なくて済む。
だが、彼女は因子の力で体内の炎を灼熱化させると、その熱さを感じてしまって。
「あぁ、でも、身体が熱いですね……。因子というのは厄介なものです……」
力に振り回されるように、憂はワイヤーで敵を打ち付ける。
「存分に参られませ。華と散らせて差し上げましょう」
最終決戦とあってか、正面きって戦いを挑んでくる黒霧に、シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)はよい割り切りだと評価して見せた。
その上で、彼女は「蓮華」を一閃させ、構成員どもを切り伏せて行く。
「I have nothing to offer but blood, toil, and sweat」
『血と苦労と汗以外に、何も捧げるものを持たない』。
そう告げた彼女は刀を振るって戦い、血風の中で戦うことが自身の全てだと、敵に連続して斬りかかる。
近場では、【助太刀】のメンバーも交戦を繰り広げていた。
「ハッ! 黒霧の連中とは何度かやり合ったが、ここが奴等との決着の場って訳か……。なら、因縁ある奴等の為にも雑魚共は任せろ!」
自分達はチームの名前ともしている助太刀役だと、飛騨・直斗(CL2001570)は笑う。
「さあ、存分に楽しもうじゃねェか! なあ、黒霧共!」
前に立つ彼は独特な香りを振り撒いて相手を弱らせ、 妖刀・鬼哭丸沙織で構成員達を薙ぎ払う。
「隔者……、その中でも危険な七星剣の一派である『黒霧』。……ええ、これは討伐せねばいけない敵ですわ」
その直ぐ後ろでは、自称アイドルの獅子神・伊織(CL2001603) が敵へと視線を向けていた。
「私達覚者としての責務、そして、私の正義に基づきお相手致しますわ!」
野放しにしては危険な相手。伊織は目の前にいる黒ずくめの連中をそう認識し、声を荒げる。
「さあ、いざ覚悟ですわ!」
伊織は広範囲に気弾を飛ばし、直人を気遣いつつ戦いを繰り広げていた。
さらに後ろ、伊織の従姉妹である獅子神・玲(CL2001261) が繰り広げられる戦いに顔をしかめていて。
「……また決戦なんだね」
玲は大切な人を死地に赴くことを、酷く嫌がっている。以前、親友を助けられなかったとき、強くそれを実感していたのだ。
「……もうあんな無力感に後悔……そんな事したくないから。……だから、僕は大切な人達を死なせない様に……守るよ」
玲が守りたいと考えているのは、親友の弟である直斗だ。
「僕が……回復させて死なせないから。だから、思いっきり暴れていいよ、直くん」
大切な仲間を支える為、彼女は前に立つ仲間の相手へと高密度の霧を発して支援していく。
さて、すでに先行メンバー達は城郭へと差し掛かっているが、それを追おうとする。
「敵をきっちり倒して制圧しないと、城内に進んだ人たちが危なくなるのよ」
仲間の回復支援を行う鼎 飛鳥(CL2000093)。
周囲の怪我人を見ながら彼女も折を見て水竜を解き放ち、構成員の体を撃ち抜く。
それによって、足を止める構成員は先行メンバーを捉えられず、平原に残る覚者の掃討に力を注ぐのである。
●城郭・1――立ち込める深い霧
平原を越えたメンバー達は、城郭へと攻め込む。
「こっちだよ!」
危険察知しつつ、栗落花 渚(CL2001360)が仲間を案内する。現在、30人余り、やってきた覚者の半数が平原を抜けてきていた。
「お城なんて目立つ物建てたら、いずれ場所がバレるのでは」
「霧山君も案外やるじゃない。こんな派手な場所でお殿様ってこと!」
タヱ子が率直な感想を告げると、酒々井 数多(CL2000149)は城の内部を見回して感嘆する。
そこで、鹿ノ島・遥(CL2000227)があーと声を上げて。
「思い出した思い出した! オレらを騙してたヤツ!」
黎明からの一件で霧山を覚えている覚者は多い。「そっかー、あいつそんな偉いヤツだったのかー」と遥は納得していたようだ。
「あいつとの別れ際に言ったんだ、『次に会うときは全力で勝負だ』ってな」
遥にとって霧山の肩書きなどはどうでもよく、霧山本人との戦いこそが問題なのだ。
「せっきー、霧山を見返してやろうな!」
赤貴は小さく頷き、ただ、前を向いて場内を駆け抜ける。
「何かこの戦場、死の空気っぽいの感じマスカラ、念には念を、デスネ!」
リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)は第六感を働かせ、敵の出現に警戒する。
建てられてからは数十年といったところ。おそらくは先代の黒霧首領が築いたものなのだろう。
歴史的根拠が無い場合、一般には天守閣風建築物と呼ばれ、城と扱われる例は少ないですがと、氷門・有為(CL2000042)は語る。
「そういう意味での歴史はないですよね」
本当の意味では城とは呼べぬ場内。斎 義弘(CL2001487)は改めて、黒霧の城に乗り込んだことを実感して。
「罠も敵の反撃も凄まじいだろうが、それでもここで無理をするだけの価値はあるよな」
城は確かに罠はあれども、事前に対応できぬレベルではない。
それより、待ち受ける構成員の対応が面倒だ。
とはいえ、こちらも平原よりは少ない。あちらで頑張ってくれている仲間の為に、彼らは最奥を目指す。
「負けられない戦いと聞いて、あたし参戦!」
大声で意気込み、構成員を散らす宝達 はくい(CL2000837) は【霧喰】の一員として、華神センパイこと悠乃のサポート役として馳せ参じている。
「はーん、あの首領くんの花舞台なのね!!」
『獣の一矢』鳴神 零(CL2000669) は城郭を見渡して叫ぶ。どこかに上を目指す道があるはず。
「霧はいつしか晴れるものだ。それが今だっていう話だな」
こうして、城郭にまでやってきたものの。『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495) は大儀そうに嘆息して。
「しかしまぁ……。城取りに駆り出されるとは思わなかったが、何とかするしかないな」
メンバー達は、本丸……城の上層を目指すが、とりわけ、ジャックそこに『殺したい』相手がいると告げている。
(切裂君が『殺したい』とは珍しい。これはきっちりと送り届けねば)
『教授』新田・成(CL2000538) はジャックを本丸に送り届けようと、スキルで周囲を隈なくチェックし、待ち伏せする敵を看破する。
構成員を退けつつ城の下層を駆ける一行の前に、立ち塞がる3つの影。
「「「…………」」」
これまで、依頼で見た藤本、ケヴィン、そして、半田の隊長格3人。
彼らはそれぞれ因子出現場所に小さな半球状の器具を取り付けている。そして、彼らは構成員を従えていた。
「ここはあたしが抑えるから、早く行き!」
『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)が【INVERSE】の仲間達へと叫びかけ、3人のうちの1人、藤本・円へと駆け寄って。
「女同士、仲良う殺り合おうやないか。……焔陰流21代目焔陰凛、推して参る!」
抜いた朱焔から煌めく焔のような輝きを見せ、相手に三連撃を叩き込む。その間に、赤貴達は隊長らをスルーして奥へと走っていく。
【霧喰】のメンバー達も、藤本の抑えに動いていた。
「向き合ってくれない相手は趣味じゃないから、流れは悪くない、けど……」
悠乃は相手を乗り逃すまいと考え、目の前に立ち塞がる藤本と対した。そして、器具によって理性を失った相手を見つめる。
「初めまして、宝達はくいッス、宜しくおなしゃーーす!」
相手に呼びかけるはくい。ただ、藤本を発することなく、まるで機械を思わせるような所作で刀を抜いて切りかかってくる。
すでに、英霊の力を引き出していた凜音は後方に下がり、仲間の支援に動き始めた。
成もこの場に残るようだ。現の因子を持つにも拘らず、ほぼ変わらぬ老練さを持つ見た目で、彼は波動弾を発射する。
この場に残る仲間に小さく頭を下げ、ジャック、千陽。彼らに零は笑いかけて。
「いいわよ、ここはお姉さんやお兄さんに任せて、じゃっくんと時任くんは先にどうぞどうぞ~」
駆け抜けて行く2人を尻目に、零も目の前に相手に向き直る。
「さて、藤本ってアンタだっけ」
零は露払いの為、目の前の相手に呼びかけた。
「可愛い弟クンたちが上にいきたーいってお願いされたから、意地でも守るのが大人の役目なのよね」
まるで獣のような威圧感を放ち、零は大太刀「鬼桜」に手をかけて。
「そこから先通しなさい、んでもって、通さないわ」
両腕を機械のように変化させ、彼女は台風のようにその刃こぼれさせた大太刀を振り回すのである。
中央、ケヴィン・暮森。片言の日本語を操る日系人だったはずだが、彼もまた無言のままだ。
「ケヴィンちゃん、どうしちゃったのだ??」
以前、対面したときとは全く別人の相手に、奈南は戸惑いを隠せない。
「前は何とかお話出来たのに、もう、お話も出来ないままになっちゃうの??」
奈南はそこで、ファクターと呼ばれる器具が彼の第三の目を覆うように装着されているのを見る。
「そしたら、ファクターを壊して、ケヴィンちゃんの理性を取り戻してから、せいせいどうどう勝負! なのだ!」
彼女は元気いっぱいに土の力で強化したホッケースティック改造くんで、彼の頭のファクターを破壊しようと殴りかかっていく。
覚醒爆光によって変身する、月歌 浅葱(CL2000915)もそれに続く。
「天が知る地が知る人知れずっ。黒霧退治のお時間ですっ」
彼女は右腕を機械のように変形させ、械の因子の力で自らの守りを固めつつ呼びかける。
裏稼業とてかつては必要だった時もあるのだろうが、それはもはや必要の無いものであり、取り残されたものなのだと。
「変われないなら変わるまで、理性がなくても通じる言語(物理)で話し合ってみましょうかっ」
自称ではあるが、浅葱は正義の味方。止めてみせようとカミソリを振り回しだしたケヴィンの態勢を崩して投げ飛ばす。
万屋メンバーは2手に分かれ、比較的覚者の少ない有力者と対することにする。比較的手薄なケヴィン側には、天明 両慈(CL2000603)、リーネが回っていて。
「ヘーイ! 両慈と一緒にお相手シマスネ!」
「リーネ、今回も守りは任せた」
そのリーネは、いつも彼の名前の上につけている『愛しの』がないことを仲間達に指摘されたようで。
「イ、イヤァ~、流石に迷惑かなと思いマシテ、デスネ?」
トニカク! リーネは仕切りなおした自らに補助、強化を施して仲間を守る心積もりだ。
その上で、両慈はリーネの後ろから戦場を見渡しつつ、相手に雷獣の一撃を浴びせかけていた。
もう1人、半田・透には、神々楽 黄泉(CL2001332)が向かう。
「三人で抑えに、行こ?」
彼女と共に付き添うのは、魂行 輪廻(CL2000534)に瀬織津・鈴鹿(CL2001285) だ。
比較的、他の末端構成員にも似た風貌の相手。ナイフと苦無を突き出す相手に黄泉はいつもと変わらず、思いっきり飛び上がって超燕潰しを振り上げる。
「黄ー泉ー……クラーッシュー……!」
身の丈より長いその斧の刃で、黄泉の勢いに任せて半田の肩口を裂く。
致命傷を避けて寅のしなやかさでそこから飛びのいた敵を、着物を着崩す輪廻が襲う。
ちらりと己の色気を見せながらも、彼女は彩の因子で強化された足腰で戦場を舞い踊り、相手を鋭く蹴り伏せようとする。
「……お願いだから、……無理だけはしないで」
前に出る黄泉や輪廻を鈴鹿は心配そうに見つめ、癒しの雨を降らせる。
この場にいるのは、彼女達だけではない。義弘はこの場の守りも請け負いつつ、メイスを握りしめる。
「一つ気合入れて、ぶん殴るとしようか」
すでに上を目指して進んだ仲間を信じ、義弘は敵の刃を受け止め、力の限り殴りつける。万全の状態で彼らの出迎えができれば言うことはない。
(彼らは今、ファクターを使われて理性を失ってる)
鈴白 秋人(CL2000565)もまた、半田の相手をすべく立ち回るが、頭の右耳付近に装着された半球状の器具に注意を向けていて。
自分に近しい人間にファクターを使用するということは、それだけ黒霧が……いや、霧山・譲が追い詰められているのだと秋人は分析する。
彼はやや回復よりで立ち回ることとなるが、貫通力を持つ波動弾などを利用し、攻撃も意識していく。
一方で、黒霧に興味など微塵も持ってはいない鈴鹿だが、一抹の不安を拭いきれずにいた。
(……何故か一緒に付いていかないと、後悔してしまいそうな気がしたから……。だから、一緒に戦いに来たの)
それが杞憂であることを、鈴鹿は願わずにはいられない。
「輪廻姉様……居なく……ならないよね?」
そして、城の中層を進むメンバー達。
「来るよ」
東雲 梛(CL2001410)は敢えてこちらに回ってきていたのは、名前が出ていたのに、これまで姿を見せない相手がいたからだ。
「やれやれ、ここまで乗り込んでくるとは……」
一行の行く手を、黒装束に白衣の男が数名の構成員を引き連れ、立ち塞がる。
彼こそが霧山・譲のお目付け役、静永・高明だ。
上層を目指すメンバーも彼を意識しており、霧山と同様、覚者との因縁が深い相手でもある。
「それにしても、静永さんとの関係……恋鎖の予感がする!」
これまでの報告書、そして、静永の態度を見て、数多は想像を巡らせる。
「個人的には、静永×霧山君の下克上攻めね。霧山君はあの雰囲気的に誘い受けの気配よ!」
妄想膨らむ数多はさておき――。
梛は手始めに閃光手榴弾を投げ飛ばして相手を威嚇するが、あまり静永に動揺する素振りが見られない。
ここぞと、奏空は温存していた力を発揮し、英霊の力を引き出し、八葉蓮華のシールドを展開する。
「前回みたいにはやられない」
奏空が周囲の構成員を 双刀・天地を薙ぎ払い、静永へと肉薄しようとする
「あの時は一人で立ち向かったけど、今は一人じゃない。……たまきちゃんがいる!」
そのたまきは、符の盾を前面に展開し、奏空の前に立つ。
「私は奏空さんの盾です! その為、奏空さんにお怪我はさせません!」
「ほぉ、麗しくも純粋な関係ですね。羨ましいですよ」
ただ、静永も本気だ。両手のナックルでたまき目掛け、躊躇なくその拳で殴りかかってくる。
「悪ぃな工藤。デートの邪魔ぁするぜ」
そこで、諏訪 刀嗣(CL2000002)が飛び込み、静永の拳を受け止めた。
抑えてなお、その衝撃は彼の体を駆け巡る。そして、刀嗣は邪魔する構成員を妖刀・失恋慕の刃で纏めて貫き通す。
氷門・有為(CL2000042)も戦場を駆け抜け、周囲の敵をオルペウス改を切り裂く。ともあれ、邪魔な相手を削っていきたいところ。
「……黒霧、なくなったら。暗殺、なくな、……らない、ね。頼むひと、が、まだいる、から」
桂木・日那乃(CL2000941)はそんな独り言を発していたが、目の前の相手は自ら動いて火種を起こす存在でもある。
仲間達がどこに向かっているのか、送受心で中継しつつ、戦力バランスの分配、情報交換に努める日那乃は、この場の回復を請け負い、仲間達に恵み雨を降らして行くのだった。
●平原・2――次々に吹き荒れる風
平原の戦いは続く。
城郭の付近に立つ飛馬は、先行メンバーを追おうとする敵へと抜き胴から三段打ちを素早く繰り出す。
しつこい敵を昏倒させ、飛馬は死角からの襲撃にも注意を払い、次なる敵へと攻め入る。
「なつねは支援をがんばるの」
前に進む仲間の回復をしていた七雅は、そのまま壁となる飛馬ら城郭付近の回復支援を続ける。
飛んでくる苦無によって痺れなどが走るようであれば、七雅は深想水を振り撒き、仲間を万全の態勢で戦えるよう援護していた。
その手前では、彩吹はガンガン敵へと攻め入り、素早い蹴りで黒霧をどんどん蹴りつけて行く。
兄の蒼羽も負けじと妹に並び、敵陣へと鮮烈なる雷を落としていたが。
「小隊長……か?」
その存在を仲間に知らしめた蒼羽。彼は穏やかに笑いながら、磨き上げた体術で敵を攻め立て、相手の態勢を崩しつつ勢いをつけて地面に投げ飛ばす。
同じく、率先して彩吹がそいつの首筋を蹴り飛ばし、地に沈めていたようだ。
「……向こうに向かわれない様、維持をしなければですね」
城郭側からも剣戟音が聞こえている。其方に敵を行かせぬこともそうだが、憂は平原方面も見渡して。
「一応、退路の確保も必要ですし……、これからは私達が守る番ですね」
そこで、憂を狙って繰り出されるナイフ。彼女はそれに鎌首をもたげるようにして反撃を行い、「KIMIHIKO」を一閃させ、その構成員を切り伏せた。
「相手の数が多いです。ガードにつきますので、攻撃はお任せしますね」
自らを強化した燐花は自身の防御面に不安を抱きつつも、恭司への被弾を一つでも減らすべく動く。
「ガードありがとう、燐ちゃん!」
彼女に礼を返す恭司。守ってもらう分は全力で。脣星落霜を浴びせかけて1人でも多く敵の撃破を目指す。
「終わったら、ゆっくり休みましょうね」
大切な人をこうして守ることができる喜びを噛み締め、燐花が呼びかけると、恭司も首肯して。
「うん、ゆっくり一緒に休む為にも、此処を頑張らないとだね」
大事な人に無理をさせぬよう、彼も全力で攻撃を、時に彼女へと癒しを行う。
とにかく、攻撃の手を止めるわけには行かない。大和は自身の気力を補填しながら敵陣に光の粒を降らして構成員の体力を削いでいく。
だが、混雑する戦場では、なかなかうまく動けぬものだ。
構成員の弱体化をはかろうと濃い霧を発し、仲間の傷の回復に当たっていた離宮院・太郎丸(CL2000131)だったが、その動きは冴えない。
仲間からやや孤立してしまった太郎丸を複数の構成員が狙う。そのナイフに切り裂かれてしまい、彼は戦場で倒れてしまった。
飛鳥は倒れる仲間の姿を見てしまうが、他にも体力的に苦しいメンバーはいる。敵が多いこともあり、飛鳥はさらに仲間が倒れぬようにと癒しの霧を展開した。
「ファイト!」
仲間に声をかけて、個別に潤しの滴も落とす飛鳥は、傷つくメンバーの盾となるにもなっていたようだ。
「ギャハハハ! 死ぬんじゃねーぞ! 雑魚共!」
前線で戦う直斗。楽しそうに刃を振るう彼も玲の支えを受けて善戦している。
時に、伊織も不本意ながら傷を負う直斗の代わりに前に出て、華やかなオーラを纏う。
「私は何れ世界に輝くアイドル、伊織様ですわ! さあ、その性根を叩き割ってあげますわ!」
敵へとそう告げた伊織は、豪炎を纏わせたエレキギターを手にして相手をボコ殴りにして行く。
「僕が付いてるから……いっぱいやっちゃって! 直君!」
玲は回復の合間に直斗へと強化を施すと、彼は敵の首を狙って躍りかかる。
1人を倒した彼らに群がる黒霧構成員達。霧が立ち込めるのにキリなく攻めくる相手は非常に面倒だ。
だが、そこに霧を吹き飛ばすような風が戦地に吹き込む。
「われ達、遅刻した分、思う存分暴れるで!」
「「「おおおおおお!!」」」
そこに現れたのは、「Teppen」を名乗る隔者集団30名ほど。彼らもまた黒霧に多少の借りがあり、それを果たそうとやってきたのだ。
思い思いに覚者を補佐すべく散らばるメンバー達。直斗はリーゼント頭のリーダー、浅野の姿を見つけて。
「よォ! テメェ等と共闘するのも変な感じだが……、まあ楽しくやろうぜ!」
「おぉ、敵の敵は味方ゆうけぇのう!」
彼らは群がる敵を片っ端から張り倒し、勢いづいていたようだ。
シャーロットも「Teppen」の参戦に頬を緩ませながらも、目の前の敵を蓮華で切り倒す。
「心配無用なのです。ここ数ヶ月でニンジャ戦は大量にこなしました」
彼女の刃は平原の敵を駆逐するまで、止まらない。
ラーラも思わぬ援軍の登場に驚きながらも、敵の能力を逐一分析する。
並み居る敵を相手にする為にラーラは自らの力を高め、さらに魔導書の封印を解き、敵陣に放つ炎の波で構成員を飲み込んでいく。
それで幾体か倒しても構成員の数が勝るが、槐は相手の感情に働きかけ、激情、焦燥感を引き起こして混乱させる。
多数の数を相手にしつつ、仲間を支援する。これぞ、槐が得意とするシチュエーションなのだ。
その敵へ、一悟が攻め入る。
彼は最低でも10人は倒すと決めていた。
構成員を多数炎の柱で一悟が巻き込む。長期戦となれば気力も尽きかけ、炎の因子を伴ってトンファーで殴りかかっていく。
それをみた想良が自身の精神力を分け与え、サポートに回っていた。彼女の分まで、一悟は目標はその3倍、30人倒そうと考える。
「回復に専念している仲間たちの分も倒さないとな」
「悪いけど、邪魔しないでよね!」
仲間と別れ、小唄はこの場のメンバーと共に構成員の相当に当たる。
「単純な数任せだけでは勝てないっていう所、しっかり見せてあげないとね」
ふと、彼女は、霧山が黎明に潜り込んでいたという話を思い出して、子オ構成員もそうなのかなと考える。
「まあ、だとしたら、なおさら敵なんだけどさ!」
実際に問いたださないと分からないが、ともあれ、小唄は一騎当千の意気込みで敵の撃破を目指す。
そうして戦うメンバーを、小百合が援護していた。
彼女は大樹の息吹で回復に当たりつつ、守護使役のロビンの力を借りたていさつで戦場を俯瞰する。
(南東の方面、敵が手薄です)
小百合はそうして、敵の弱点となりそうな場所を他の覚者と情報を共有していた。
そうして移動するメンバーの中、千雪は仲間の回復に当たっていたのだが。
「ボス? わー、素敵なベストだね」
うっかり、指揮者らしき相手と遭遇することとなってしまうが、そこに、柾が飛び出してガントレットでそいつに素早く二連撃を繰り出す。
応戦する敵は波動弾を駆使する厄介な相手。柾は関節に打撃を加えて相手の体術を封じる。
そこで、千雪が集中してから植物の鞭で相手を鞭で打ち据えると、さらに柾がワンツーを繰り出して地に沈める。
「張り切ったが、やはりなかなかしんどいもんだ」
一息つく柾は、若い仲間が最前線に向かっていることも考え、弱音は吐くまいと小さく気合を入れていた。
とはいえ、倒れる敵は増えてきている。ここがふんばりどころには違いない。
●本丸・1――待ち受ける濃霧
最奥まで向かっているのは、10人あまり。
彼らは上に行く階段を駆け上がっていく。霧に纏わりつくいやな空気に、上月・里桜(CL2001274)は顔をしかめた。
「……小さな頃からここに……。居心地が良いはずはありませんね……」
でも、黒霧の行為は認められない。里桜は視界に見えてきたその男を見据えて改めて思う。
「ようこそ、暗霧城へ。……歓迎などする気はないけれどね」
いつもの澄ました表情はそこにはないが、そこには、黒霧現首領、霧山・譲の姿があった。
「『濃霧のユズル』は、ここまでです」
「おっす、久しぶり! 有言実行しにきたぜ!」
里桜が最初にその男へと呼びかける。遥も気軽に言い放つ。
だが、多くの覚者達の表情は険しい。それは、目の前の男が向ける敵意にその身へと僅かに戦慄を覚えていたからだ。
しかし、今の覚者達にはそれに打ち勝つ力がある。
「……もう潜んでまわる遊びは終わりでいいのか? 『二代目』」
「邪魔してくるから、潜んでばかりもいられなくてね」
赤貴の皮肉に、霧山もまた毒のある言葉で返す。
霧山と因縁のあるメンバーは多い。エメレンツィアもその1人だ。
「思えば長かったわね」
黎明として潜り込んでいた霧山と出会ったのが彼女にとっての出会い。そこからずっと、霧山の前に彼女は現れ続けている。
「あの時は七星剣幹部になるとは思わなかったけれど。どうやら、親の七光りは性に合わなかったようね?」
「ああ、そうだよ。君の言うとおりだ」
「アナタも、思ったより凡人だった、ということね。……過去の亡霊に囚われた可哀想な人」
哀れみにも似た視線を向け、エメレンツィアは法具「国事詔書」を手に叫ぶ。
「さあ、決着をつけましょう!」
「一歩も退かないよ! 最前線でみんなを支えるために鍛えて来たんだから……」
仲間の健康管理は保険委員である私の仕事だと、渚もまた、身に着けた腕章をびしっと掲げて。
「この腕章にかけて、みんなを危険には晒さないよ!」
霧山を守るように構成員が現れると、覚者達もまた臨戦態勢に入る。
「大将になるためにさぞかし鍛えたんだろ? さあ、有限実行だ。勝負しようぜ、霧山ァ!」
雷神の力を解放する遥。覚者達が一斉に動き出すと、霧山もまた構成員に紛れて動いた。まずは覚者達へと流星を降り注がせ、全員に等しく大きなダメージを負わせてくる。
「きーりやーまちゃーん、お宅訪問よー!」
フルフェイスの逝はいつもと変わらぬ調子で、霧山に呼びかけた。
直刀・悪食で彼は前線の邪魔な構成員を薙ぎ払い、霧山への接敵を目指す。
(霧山と初めて会った時、彼が殺めた「テイク」の幹部。……彼は悪人だった。けれど)
ふと、いのりは霧山を見て思い出す。
例えどんな人物であっても、絶たれていい命など、この世にあろうはずがない。
「いのりはそう信じているから、霧山のしてきた事を認める訳にはいきません」
いのりは濃い霧を発し、霧山達の弱体化をはかる。
「お山の大将で偉そうになったじゃない、いくわよ。ケリつけましょう」
数多もまた、体内の炎を燃え上がらせ、写刀・愛縄地獄で取り巻きを蹴散らす。
遥もまた周囲に蹴りを繰り出し、構成員の排除を目指す。
眼を光らせ、攻め入ってくる霧山。
「タヱ子、いつものカチカチ防御期待してるぜ!」
遥の期待に応え、タヱ子は赤貴を守るべく己の身を岩の如く固め身構えた。
その赤貴は覚者の中央に布陣する。
「追いつくまで随分とかかったが、既に牙は突き立てた。あとは引き裂くだけだ」
霧山は追い詰められたところで、簡単に諦める相手ではない。それだけの死線を潜り抜けて来た相手だ。
赤貴も鯨骨斧を手に、地を這う連撃で構成員を打ち倒す。
「――改心する気は無いな?」
命を弄ぶなと言ったのは、お前の命を案じてだったが伝わらなかったか。
ジャックは冷ややかに霧山へと告げる。相手は聞き流しているのか、平然と仲間に向けて苦無で貫通攻撃を仕掛けていた。
「そういう訳だ、千陽。首領として霧山を終わらせて欲しい」
回復に当たるジャックの言葉に、千陽が応じる。彼はジャックにとって、敵を屠る剣なのだ。
(きっと、切裂の思いは彼には届かぬのだろう)
霧山にも、自分のように背を任せられる友人がいたなら、何か変わっていたかもしれないと千陽は考える。
――いや、きっといたのだ。
霧山にとっては、静永という男はそうではなかったのか。
(それに気づくことができていたら、未来は変わったのだろう)
とはいえ、それを言及するのは無粋に過ぎる。千陽はそう察している。
ともあれ、霧山は全力で居場所を守るのだろう。だからこそ、千陽もまた全力だ。
「友人との約束を――魁斗の剣として、霧山を倒す」
彼も仲間達と同様、霧山の撃破を目指し、邪魔な構成員を「NF-99」を振るって突き飛ばすのである。
●城郭・2――輪廻は巡る
城下層にて、隊長格3人を相手にしていた覚者達。
元々の力もかなり高い上、器具「ファクター」を装着させられ、理性の代わりに高めた力は、メンバー達を深く傷つけることとなる。
意外にも、最も早く決着がついたのは、ケヴィン戦だった。
彼を相手にしていたのは4人の覚者と最も少なく、序盤は苦戦を強いられていた。
「振り回すだけなら、木偶の坊と変わりないものですっ」
浅葱はなんとかケヴィンの攻撃を裁きつつ、その力を制しようと受け流していたが、敵はカミソリの刃でリーネの体深くに刃を突き入れた。
早くもリーネが命にすがって戦う状況の中、奈南はケヴィンのファクターに注目して。
「雷獣ちゃんをイジメてたケヴィンちゃんだけど、助けてあげるのだ!」
奈南はファクターを叩き壊そうとするが、なかなか相手は止まらない。
しかしながら、奈南が振るった改造君がファクターをうまく捉えた。どうやら、完全に調整されたわけではなく、小さく破裂して床へと転がった。
「ホワーイ、何が起こったデスカ?」
正気に戻ったケヴィンだが、説明できる余裕など覚者には無い。
起き上がった両慈はある程度状況を察したようで、潤しの雨を降らして仲間の傷を塞ぎ、サポートに当たる。
リーネもまた、自分達に防御力を高めるシールドを展開する手前で、浅葱が飛び込んで物理で話し合おうとナックルでケヴィンを殴り付ける。
「ナ、ナニが、ドーナッテ……」
戦況を把握できず、ケヴィンは白目を向いて崩れ落ちていった。
3人のうち、年長の女性、藤本・円。
その刃は的確に、覚者達の体を断ち切らんとしてくる。
「日本の闇って言えばそうなのかもしれないが、元はと言えばそういう生き方を選ばざるを得なかった……てのもあるんじゃねーの?」
後方から仲間に恵の雨を降らせる凜音は、目の前の藤本を始め、黒霧についてふと考える。
「真に忍びならば、散り逃げおおせて草に潜み、再起を図る道もあったでしょうに」
齢を重ね、大学教授としての地位を持つ成。彼は、黒霧の構成員達が子供の我儘と癇癪に付き合わされた被害者なのだと語る。
「同情しますよ。容赦はしませんがね」
その間も、成もまた波動弾を発する。狙うは頭や胸といった致命打を狙える部位。彼の攻撃に慈悲などはない。
黒霧構成員もまた、被害者なのではないか。この国のあり方に問題があるのではと凜音は癒しの手を止めずに独りごちる。
「どうにかならないものかねぇ……」
殺し殺されるこの状況に、戦場を俯瞰する凛音は嘆息していた。
「さあさ、殺し合い、潰し合いよ!」
一方で、零は不殺などという考えなど持ち合わせてはいない。
彼女もまた命を賭けてこの戦いに臨み、邪魔な取り巻きどもの排除を目指して気の弾丸を放つ。
「こっちは命かけてきてんだから、そっちも賭けなさいよ、命!」
鬼桜で繰り出すは、スピードを威力に転化させた一撃。
身体を切り裂かれる藤本だが、相手もただの殺戮マシーンと成り果てていて。零が刀を振りぬいた瞬間を狙い、繰り出された二連撃が彼女の首と胸を大きく切り裂く。
零は遠のく意識を繋ぎ止め、この勝負の続行を望む。まだ、終わるわけにはいかない。
「てかこいつ自分を無くしてるぽいけど、あれのせいか?」
凛もファクターの存在に気づいたらしい。理性が飛んだ攻撃は人外の威力とさえ思えてしまう。
だが、藤本を注視していた悠乃は、それを是とはしない。
「因子の出力が上がれば勝てるって考えは、賛同しかねるわ」
すでに倒れる仲間はいたものの。悠乃は長時間の独占を避けるようにと、横から双牙スコヴヌングを装着した拳で藤本に殴りかかっていく。
ただ、相手を昏倒させるとは至らない。鋭い視線で藤本は悠乃に刃を突きつける。
「うおおおおおおおおおおおりゃあああああああああああ!!!!!」
叫びながら飛び込むはくい。明らかにヤバげな一撃だと感じたからこそ、悠乃を守ろうと庇ったのだ。
はくいの身を抉るように突き入れられた刃。彼女は血を吐きながらも、態勢を立て直し、硬化した拳で敵の顎を強く殴打する。
「後輩だって、やる時はやるんスよ」
まさに命がけ。はくいは悠乃へと誇らしげに微笑んだ。
戦いは徐々に覚者が優勢になってきてはいる。取り巻きが倒れていき、藤本も自由にならぬ体に動きを鈍らせてきていた。
「一瞬に命賭けなさい」
零は暴力坂・乱暴の戦闘スタイルより学んだ術で力を高め、逢魔ヶ時・紫雨の秘技を模した斬撃で藤本を叩ききる。
ただ、トドメとは至らない。生の本能が急所を外すよう身体を逸らしていたのだ。
しかし、焔を舞わせた凛が躍りこむ。
「焔に形は無く相手に合わせ変幻自在。それが焔陰流の”転(まろばし)”や!」
彼女は朱焔を柳のように操り、藤本の刀を捌いて。
「今度は本当のあんたでかかってこい。生きてたらな!」
凛は渾身の一打で相手を地に叩き伏せる。床にめり込むほどの一撃を受け、藤本はついに沈黙したのだった。
最も苦戦を強いられていたのは、半田を相手にしていたメンバーだろう。
とにかく、戦線の維持を。義弘は気合を入れて半田の怒り狂う獣の一撃を受け止めようとする。
「少なくとも、理性を失ってまで得た力に負けたくはないからな」
同意する秋人は、回復の合間に呼び寄せた水竜を浴びせかけて行く。
相手によっては、フィボナッチ達の事について何か分かる事があったのかもと考えるが、理性を失った相手ではそれを聞き出すのも難しい。
半田の狙いは、徐々に女性達へとシフトしていく。
超燕潰しを叩きつける黄泉が狙われ、その胸に半田のナイフが深く突き刺さる。
黄泉の中で、何かが砕けるような。そんな感覚。身体に力が入らず、前のめりに崩れ落ちる。
鈴鹿が表情を固まらせてしまうが、黄泉は命を砕いて起き上がろうとしていた。
鈴鹿がホッとするのも束の間の事。いつものように柔肌を見せつつ廓舞床で切りかかっていた輪廻が跳躍して。
「これが……最後よん」
どこか寂しげな一言と共に、輪廻は半田の体を蹴りつける。下着をつけていない彼女は危なげなアングルで敵を蹴りつけた。
だが、獣のように暴れ狂う半田は彼女の体を掴みかかり、力任せにその身体を引き裂こうとする。
――輪廻の中で、何かが決定的に壊れた。
だが、彼女はただ潰えはしない。残された全ての力を、可愛い鈴鹿に対して分け与えようとする。
「約束を守れなくて、ごめんね、鈴鹿ちゃん。でも……、ずっと見守ってるからね」
赤いものを撒き散らし、輪廻は床に倒れ行く。
最後の最後まで、服を肌蹴させたまま、彼女はやってくるリーネと両慈に視線を向ける。
そして、黄泉、最後に鈴鹿の顔を眺め、小さく微笑んだ輪廻はその生を……終えた。
「姉様……?」
「輪……廻……? 嘘……?」
鈴鹿、黄泉は、目の前の出来事を受け入れられない。
「……ハ、イ? ……嘘、デスヨネ?」
そこに駆けつけてきたリーネもまた、同じ。生の息吹が感じられなくなった彼女に首を大きく振る。
「輪廻さん? 輪廻………。あぁ……アァ……アァァァァァァァァァ!!!」
直情過ぎる故に、リーネはまっすぐに悲しみを露わにして。
「嫌デス! 輪廻さん! 輪廻さん! こんな事……こんな事って……、アァァァァァァ!!!」
「どうして……輪廻が……私より、強くて、お母さんみたいに、強くて……輪廻?」
普段は感情を示さぬ黄泉。しかし、このときばかりは大きく動揺を見せて何度も何度も何度も、輪廻の名を呼びかけるが……。
もう彼女は、言葉を返してくれない。
「輪廻? 輪廻? 死んじゃ……やだぁ……!」
「なんで……どうして……私を……置いてかないでよ、姉様……」
鈴鹿もまた涙を流し、若すぎる彼女の死を嘆く。
もう彼女は愛してはくれない。そんな想いに、鈴鹿は涙を溢れさせて眼帯をも濡らす。
「輪廻……最期まで、お前はお前らしく、逝ったのだな……」
いつも元気をくれたあの笑顔をもう見ることは叶わない。両慈はそれを認識し、肩を落とす。
悲しんでばかりはいられない。輪廻を死に至らしめた半田は健在なのだ。
義弘も強く口を噛み締め、掌で高圧縮させた空気を叩きつけ、敵を大きく弾き飛ばす。
秋人も冷静さを崩さず気丈な態度で潤しの雨を降らし、これ以上の被害を出さぬようにと立ち回る。
仲間が戦っている。黄泉は暴れ狂う半田目掛け、超燕潰しを叩きつけた。
戦う黄泉は先ほどまでとは大きく変わらないが、鈴鹿は違う。彼女は激情にかられ、半田の体を睨みつける。
「……殺す。……貴様だけは殺す!」
祓刀・大蓮小蓮を握り、鈴鹿はその首を狙う。
「姉様の……仇だ!」
両の刃が半田の首を跳ね飛ばす。それでも、その身体に刃を突きたてようとする鈴鹿を、黄泉が押さえる。
(鈴鹿、輪廻をお母さんの様に慕ってた、から)
抑えられた輪廻は我に戻り、その場で再び涙を流すのだった。
中層でも、覚者と静永のバトルが繰り広げられる。
たまきが地面に力を流し込み、取り巻きを吹き飛ばしたところで、奏空が攻め込む。
速さによる連撃で、奏空が静永に双刀・天地の刃を浴びせかけて行く。
だが、相手もこの黒霧で首領の補佐にまで上り詰めた男。本気となれば、その力を遺憾なく発揮してくる。
敵は豪腕と叩きつけ、たまきを一度床に沈める。さらに、奏空にも拳のワンツーで顔とボディーに思い連撃を食らわした。
やはり危険な相手だと再認識するメンバー達。そこへ、激情にかられる両慈が姿を現す。
「……貴様等黒霧は、この世に塵一つ残さない。貴様等は俺の手で、全員殺してやる……」
大切な仲間を死に至らしめた黒霧。
その全ての命を摘み取る為に彼は敵陣目掛けて雷を叩き落とすが、静永は地中より大きな岩を呼び起こし、覚者達へと浴びせかけてくる。
先ほどの戦いの傷もあってか、両慈もまた一度地を這い、命の力で起き上がった。
同じく、後方にいた日那乃もその巻き添えを食うこととなってしまう。
彼女も苦しそうにしながらも立ち上がり、仲間の為にと癒しの雨を降り注がせて行く。
「影働きのやつが城を枕に討ち死にたぁ、笑える冗談だぜ」
静永を力づくで抑えようとする刀嗣は敵を煽るように、声を掛ける。
暗殺は失敗すれば、何度も狙うことができるのが利点。しかしながら、纏まって挑んでくるなど愚策に過ぎない。だからこそ、七光なのだと。
「テメェらのボスがここで死ぬのは、テメェらの落ち度だな」
鋭い視線で刀嗣を射抜いた静永は、彼の体をこれでもかと殴り付けて行く。
一度は意識を失う刀嗣だが、じっと堪えてから妖刀で静永の体を切り裂く。
白衣に血が飛び散るが、静永はさほど意に介してはおらず。
「甘く見られたものですね」
7人を相手にし、取り巻きをあっさりと失った静永だが、まるで劣勢を感じさせない。
「例え、何を犠牲にしたとしても、他者を傷ついたとしても、それでも、守らなければならない世間体(もの)がある」
――人は、世間体の為に人を殺してしまう。
有為は逆に、静永に対して理解を示す。
とはいえ、前線で相手を抑える有為も傷を負いながら、静永に斬撃を見舞う状況。飛んで来る岩を受け、有為は一度、意識が遠のいていたようである。
「知った口を利いて欲しくは無いですね」
有為がまるで同類であるかのように物言いしたのに、静永は小さく眉を顰めていた。
そこで、力を溜めていた梛が体内の気を燃焼させ、静永目掛けて体当たりを繰り出す。
「これは……」
初めて、静永が動揺を見せる。梛はにやりと微笑んで見せて。
「あんた達は仲間の技だったから、知っている技かもしれないけど、まさか俺が使うとは思わないでしょ?」
その隙を奏空、たまきの2人は逃さない。
「この現状はあんたのせいだと言っても過言じゃない。あんたは霧山譲が現状を望んでいた訳ではない事を知ってたはずだ」
奏空が態勢を整える間に、たまきが地面から岩槍を突き出す。
静永は体勢を大きく乱しながらも、拳を振りかぶる。
「なのに、あんたは霧山譲の黒霧首領の座を黙認した……。霧山・譲を思いつつも結局、あんたは先代の亡霊に取り憑かれているんだよ」
知った風な態度なのは、重々承知。
だが、力ある者が現状に甘んじるのは罪だと奏空は相手を断じ、2本の刃で敵の両肩を大きく切り裂く。
「が……ぁっ」
両腕を垂らした静永は完全に意識を失い、重い音を立てて崩れ去る。
奏空はすぐさま雷獣地縛で彼を縛りつけた後、その手足を縄で縛りつけて行くのだった。
●本丸・2――霧が霧散するとき
七星剣幹部、「濃霧のユズル」。
彼は幼少時より死線を潜ってきている。それだけに、歴戦の覚者であろうが、難なく打ち倒してしまう。
まず、霧山は前線のタヱ子を倒そうと扱い慣れた飛苦無を飛ばし、あるいは直接斬り、殴りかかってくる。
防御一辺倒のタヱ子だが、それでも耐えるには限界がある。
命を削って相手の前に立ちはだかり、彼女は気の流れを活性化させて仲間の回復に努めていた。
だが、霧山の鋭い突きに痺れを走らせ、タヱ子は動きを止める。
そして、霧山が濃い霧に隠れたかと思ったのも束の間。次の瞬間現れた彼の刃によってタヱ子は全身から血を流し、意識を失い倒れ行く。
「全く、児童誘拐とブラック摘発から芋蔓式に出てくれて嬉しいけど」
逝もまた、これまでの霧山との交戦を思い返して呼びかける。
「道具は使い込めば育つし、替えが利かなくなるのよ、それは分かってるかね?」
道具はこの場合、部下を指す。道具は大切にせねばならず、管理場所の確保と不良品の排除も仕事だ。
「居場所が『此処』しかないと言うなら、見当違いもいい所さね。お宅の居場所は道具の側なのよ。それを忘れないようにしておくれ」
そこで、逝は直刀・悪食を振りかざし、物理と合わせて語りかける。
「……まあ、孤立させる為に色々したおっさんが言う事では無いがね!」
「……賢しいよ」
平然と襲い来る霧山は、逝に飛び掛り飛苦無を振り回してその首筋に突き入れる。
そうして、逝を倒した勢いをそのままに、里桜に攻め入る。自身の配下がいる間に、数で押し切るのが最良だと彼は考えているのだろう。
位置取りを気にして力を高め、敵陣に岩を飛ばす彼女だが、即座に対応できず手前から射抜かれることとなる。
気丈に里桜は耐え、身体を起こす。ただ、霧山の攻撃は苛烈だ。続けられる流星にを浴び、彼女は地を這うこととなってしまう。
万全の態勢で戦いに臨んでも、倒れる危険があるのがこの戦い。
そんな中、遥、数多が前衛で護衛を叩きながら霧山へと肉薄した。
「オレの得た仲間(ちから)は、オマエなぞに易々と破れはしない」
戦場で超視力を働かせ、仲間達の指揮をとる赤貴が素っ気無く告げる。
霧山の名を呼ばぬのは、赤貴にとって意趣返し。因縁意識を抱くのは一方的な認識だと彼は感じていたのだ。
そして、仲間達は全力で霧山を襲う。
舞い散る桜、燃え盛る焔の如く、数多が激しく美しく、霧山に刃を浴びせ欠ける。
「数多センパイ、大好きだ!」
そんな彼女と連携を取る遥も、渾身の力で正拳を打ち込む。
霧山は怯まない。冷静に2人の連携攻撃に対処してみせ、致命傷を避けて彼らの急所へと的確に苦無を一閃させる。
数多はギリギリ身体を動かしていたが、遥はどうやらまとも受けてしまったらしい。だが、2人とも命の力を多少砕いてでも、霧山に一撃でも多く、彼らは前のめりに攻撃を繰り出す。
霧山も攻撃の手を止めない。彼のターゲットはいのりに移っていた。
霧に隠れる霧山。いのりは守護使役の力で彼を居場所をかぎわけ、雷を叩き落とす。
確かに霧山の体を射抜くことができたが、彼の苦無は狙い違わずいのりの体を断ち切る。
血を吐くいのり。重すぎる一撃ではあったが、倒れてはいられない。
(出来れば、彼を生かして捕え、罪を償わせたい)
その為には、どんな攻撃を受けても決して倒れない。その気概で彼女は立ち上がる。
ただ、霧山に躊躇などない。立ちはだかる者は全て切り刻もうと、いのりの体を薙ぎ倒す。
気概は潰えていない。だが、霧の中から現れる圧倒的な力に対抗できず、彼女は崩れ落ちてしまう。
ジャックもまた、霧山に狙われることとなる。
(否定に侵された中で抗う霧山は、違う事ない首領の度量は十分さ)
回復中心に立ち回る彼は相手の苦無を受けながらも、霧山へと呼びかけて。
「でも、いつまでも親の背中見たって、お前はお前だろうに」
――やはり、言葉は届かない。
ジャックの呼びかけを聞く相手の姿を、千陽はじっと見つめる。
ここで、霧山は終わると彼は疑わない。だからこそ、彼がいたというその証をスキルという形で残そうと考えたのだ。
彼も仲間の攻撃の合間を見て、気を放出する。それもあって、構成員の姿はもうない。
倒れる仲間もいる中、渚はできる限り霧山に立ち向かうメンバーの治癒に当たり、自身の生命力を分け与え、全員の気の流れを活性化させて行く。
自分達も苦しい状況ではあるが、11人もの力ある覚者を相手にして、霧山とて苦しくないはずは無い。
ジャックはここぞと攻め入り、第三の目を煌かせる。
平和を愛するからこそ、ジャックは自分好みの世界を夢見て戦う。その為に、霧山の理想は必ず消し去り、押し潰さねばならない。
「霧に溢れたお前の世界はさぞ暗かろう。ちぃせぇ世界に引き籠ったもんだ。今切り裂いてやる!」
叫びと共に、彼は瞳に光を集めて。
「霧山という理想を打ち砕く俺はお前の! 黒い破滅の! 太陽だ!」
一気に怪光線を発射し、ジャックは霧山の胸を貫く。
「がっ…………」
ついに、霧山が血を吐く。ギリギリまで態勢を崩さなかった彼の体が始めて揺らぐ。
だが、霧山もまた、命を削って起き上がる。そして、霧に隠れた彼は即座に反撃し、ジャックの胸を苦無で貫いた。
「居場所を、奪われるわけには……いかないのでね」
ジャックもまた命に頼って、倒れることを拒み、起き上がる。
彼はまたも霧に隠れ、今度は覚者達の後方に姿を現す。
「絶対に逃がさないわよ!」
そこで、霧山に追い縋ったのはエメレンツィアだ。
出し惜しみなどはしない。彼女は全身全霊、魂をかけて渾身の一撃を繰り出す。
「女帝の本気、見せてあげるわ!」
彼女の集める水は今まで見た事も無い大きさの、そして、攻撃的なフォルムの水竜を生み出した。
大きく嘶く竜は霧山目掛けて突撃し、彼の体を蹂躙していく。
水に交じって赤いものが混じる。それは、霧山の血に他ならない。
「……こ、こんな」
水竜が消えると、全身から血を流す霧山は膝を突き、ゆっくりと倒れる。
「……案外、嫌いじゃなかったわよ。でも、お別れね」
エメレンツィアはどことなく、寂しげに霧山・譲へと呼びかける。
――さようなら、ユズル。
――ああ、さようなら、エメ。
最後にそう呟き、事切れた青年へ、ジャックは氷の花を手向けるのだった。
●終章――霧は晴れども……
黒霧首領、霧山・譲は没し、幹部静永・高明も重体。有力敵もほとんどが息絶え、あるいは降伏しており、黒霧は事実上壊滅に追いやったこととなる。
徐々に沈静化して行く戦い。
平原では、恭司、燐花が一息ついている。
司令塔を失った構成員達を、覚者達が捕らえていく。数が多い上、離脱スキルを持つ彼らだが、霧山の死亡を受けて投降する者も多かったようだ。
城郭でも、激闘を追え、皆傷つき壁を背にして休息をとっている。
深く傷つきながらもなんとか決闘を乗り切り、勝利を実感していた者もいたが……、その影に1人の少女の犠牲があった。
――――魂行 輪廻。
その顔は最後まで笑顔で、美しく。少しだけ服がはだけて大きな胸や太股をのぞかせ、彼女らしく安らかな最後を迎えていた。
「……安らかに眠れ……輪廻……後の事は、任せろ」
戦いを終え、仲間と共にこの場に戻ってきた両慈が輪廻の亡骸に告げる。
冷たくなっていく輪廻から鈴鹿は離れることなく、輪廻の名前を呼び続け、とめどなく涙を流す。
「悲しいの解る、大切だった人、いなくなる、とても悲しい……」
その鈴鹿へ、黄泉はそっと声を掛ける。普段は無口な黄泉だが、鈴鹿を全力で慰めようとして。
「でも、輪廻は、鈴鹿、ずっと見てる。ずっと、そこに居る」
鈴鹿は顔を上げて、当たりを見回す。
輪廻が笑う姿はもう目にすることはできない。ただ、彼女はきっと、黄泉を、そして、鈴鹿を見守ってくれているはず。
「いつもの鈴鹿を、ずっと見せよう? ね?」
――大好きな輪廻姉様に、いつもの自分を。
彼女の想いを受け継ぎ、涙を拭いた鈴鹿は黄泉に小さく頷いて見せたのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
軽傷
重傷
称号付与
特殊成果
なし

■あとがき■
尊い犠牲を出してしまいましたが、
黒霧を壊滅に追い込むことができました。
本当に、お疲れ様でした。
ラーニング成功!
取得キャラクター:時任・千陽(CL2000014)
取得スキル:真・霧隠れ
黒霧を壊滅に追い込むことができました。
本当に、お疲れ様でした。
ラーニング成功!
取得キャラクター:時任・千陽(CL2000014)
取得スキル:真・霧隠れ
