過去ログ
戦いのさなかに
[2019/04/20]

遠くから人の叫び声のようなものが聞こえた。
きっと、まだこの聖央都のどこかで戦いは続いているのだろう。
それを聞きながら、ツボミは思った。
「ふがふがふがふが」
「何言ってるか聞こえないわ」
全身包帯まみれのツボミへ送られたエルの言葉は辛辣だった。
とはいえ、彼女もまぁ、外見だけを見れば同じような有様なのだが。
「それにしても……、敵もなかなかしぶといわね」
また遠くから聞こえてきた音に耳を寄せて、エルは肩をすくめる。
「しぶといだけならばいいのだがな」
そこに、マキナ=ギアを弄っていたアデルが口をはさんできた。
「何、どうしたの?」
「土葬返し三姉妹とやらが逃げおおせたらしい」
「もが?」
彼の言葉に、包帯まみれのツボミが首をかしげる。
「フン、そう。逃げ切ったの、あいつら。……次に会ったら殺すわ」
エルの身から殺気が揺らめき立った。
彼女自身、土葬返し三姉妹と戦った一員だ。思うところはあるのだろう。
「いずれ、どこかでまたまみえることもあるだろう。その時にでも決着をつければいい。……今の俺たちでは、難しいかもしれないがな」
アデルが言って嘆息する。
彼もまた、ツボミやエルと同じだ。
その身に深い傷を抱え、こうして聖央都の一角で休んでいる最中だ。
「因縁なんて、あっていいことなんて別にないけどね」
エルが吐き捨てるように言った。
彼女達はつい先刻、大きな因縁に決着をつけてきたところだ。
神造兵器アルス・マグナ。
その発射を防ぐための戦いの中でのことだった。
「――あの男は」
アデルが彼の話を切り出す。
彼――“魔女狩り将軍”ゲオルグ・クラーマー。
アルス・マグナの発射を巡る戦いで倒れた、シャンバラの枢機卿である。
「あの男は強かった。……だが同時に、弱かった」
「…………」
「もがもが」
イ・ラプセル側からは大層恐れられた彼を、アデルは弱いと評した。
「シャンバラという地に生まれたからこそ、あの男は強く在れた。きっと、イ・ラプセルに生まれていたら、あの強さは持ち得なかっただろう」
「……まぁ、そうでしょうね」
「ふがふが」
三人の間に、短い沈黙が落ちる。
アデルとエルが俯く中、やっと口元の包帯を外したツボミが言った。
「っぷは。……貴様ら、もう終わった話だろうが」
「何よ、一番気を揉んでたツボミがそれを言うの?」
「そりゃ生きてれば気にもするわ。だがもう奴は死んだ。終わったんだ」
ツボミはピシャリと言い切った。
「……一番無茶したツボミが言うなら、こっちに言えることなんてないわよ」
「同意だ。確かに、すでに終わった話ではあるからな」
ツボミとアデルが言ったところで、また、遠くから音がする。
今度は、何かが爆発した音のようだった。
「今気にするべきなのは、この戦いの行く末だろうな」
「ああ。勝てるといいんだが」
戦いの音を耳にしながら、祖国の勝利を祈るアデル達であった。
■関連依頼
【楽土陥落】 聖央塔の魔女狩り将軍(担当ST:吾語)
【楽土陥落】 Zombiewall!土葬返し三姉妹! (担当ST:どくどく)