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【ソフ00】YoreGod!『滅びよ』と神は言った




『それ』は突然やってきた。ヴィスマルクとの勝利の余韻に浸る余裕もなく、むしろそれを待ち受けていたかのように。
 水鏡による予知を知っていた者なら『ここでくるか』と言う心持はできるが、そうでない者は晴天の霹靂。土砂降りの雨の如く、滅びがやってきた。
 何が起きたか。それを説明するのは、この一言で事足りた。

『神が、世界を滅ぼそうとしている』

●水晶の神クオーツ/キムラヌート
 大陸北部。遥か高き山の上にある滅んだ国。
 かつて水晶の国と呼ばれた場所に、それは降り立った。否、顕現した。
 生きとし生ける者全てが水晶化していく現象。その存在から放たれる波動が、生物を鉱物に変えていく。動物も、植物も、水も、大地も、炎も、全てが透明な水晶となっていく。
「やめて」
 震える声でその地を守ってきた巫女は言葉を放つ。分かっている。こんなことが出来る存在は一つしかいない。
「汚い命。全部綺麗にしてあげるわ。透明無垢な水晶になりなさい」
 水晶の神、クオーツ。その神が持つデウスギア『七色万華鏡』。あらゆるものを宝石に変え、永遠にとどめるかりそめの不死を与える神の力。
 今は創造神の元に下り、その名をキムラヌートとなっている。かつてこの地を守っていた存在は、反転してこの地を滅ぼす存在となっていた。
 本来は難病者の延命のために使う神の力。だけどそれは国中――否、世界中にむけて解き放たれている。まるで神が世界を滅ぼそうとするが如く。
 その様子を見ながら『水晶の巫女』は絶望に打ちひしがれていた。
「クオーツ様、貴方は、創造神(おちちうえ)を止める為に『向こう側』に行ったはずなのに」
 創造神が世界を滅ぼそうとしている。それを止める為に、戦ってくる。
 そう言って優しく頭を撫でてくれたクオーツ様。帰りを待つと自ら水晶に留まった私。それから300年近く、待ち続けたのに。
 なのに、なのに、クオーツは……。
「や、めて」
 嘆きの声は届かない。水晶化は確実に、世界に広がっていく。

●水銀の神メルクリウス/ケムダー
 ヘルメリア島――
 蒸気機器を飲み込む、銀色の波。それは金属を溶かし、そして肥大化していく。剣、弾丸といったあらゆる物理的攻撃はそれに飲み込まれ、活力となる。
「ミルダ、トルクス、ヘイヤー地区、水銀に埋没!」
「被害さらに拡大! 目標、西に移動開始!」
「住民の避難間に合いません!」
 水銀。
 人間の知識に照らし合わせるなら、それは水銀だ。常温で液体状を保つ銀色の金属。それが貪欲に全てを飲み込んでいく。だが、神の知識を知る者はそれをこう呼ぶ。
 あれこそが水銀の神メルクリウスのデウスギア、『アルゲントゥム・ウィーウム』。何かを飲み込むだけの不要物を飲み込むだけのデウスギア。
 否、今は創造神の駒、ケムダー。ただ貪欲に全てを喰らうだけの知能なき災害。
「うへへへへ。お腹いっぱい食べるぅぅぅぅ」
 それはヘルメリア島をも溶かし始める。次は海水を溶かし。この大陸そのものを溶かしだろう。制御されない貪欲が、世界を滅ぼし始める。
「諦めるな! ヘルメリアには我ら歯車騎士団がいる!」
 だが絶望の中、白い槍を手に熱く叫ぶ声が響いた。蒸気騎士の鎧をまとい、果敢に神に挑む一団が。
 かつてイ・ラプセルと相対した歯車騎士団。今は名前だけの存在だか、国を守る心は名前だけの騎士団ではない。
「いかなる存在であれ、ヘルメリアの地を汚すなら阻むのみ! それが我ら歯車騎士団!」
 精鋭とも言える騎士団。しかし、神を討つにはまだ足りないだろう。

●紫銀の神カダ/アィーアツブス
 疫病。
 パノプティコンがあった大地を襲ったのは、正に疫病だ。黒き風が吹き荒れ、人々を病気に貶めていく。倦怠感から始まり、頭痛に吐き気、皮膚に紫色の斑点が広がり、高熱の後に体の部位から血を流して苦しみながら死に至る。
「全て、病に消えよ。あらゆる命に不安定を」
 それは央華大陸風の服をまとった一人の老人。その名は紫銀の神カダ。そしてそのデウスギアである『セイノウショ』。あらゆる病魔を記録することで病を閉じ込める書物。しかしそれを逆転させれば、病魔は世に放たれる。
「生命は死に至るが定め。苦悶を刻むことで生を実感し、痛みを覚えながら虚無の海に還るがいい」
 かつて央華大陸で医の祖となった神はここにはいない。故にこの名はアィーアツブス。創造神が生んだ死の風。
 何も知らないパノプティコンの民は苦しみ悶え、死んでいく。だが何かを知っていたところで、対抗する術はない。神を傷つけることなど、出来ないのだから。
 大地は確実に滅びに向かいつつあった。
「この地に滅びもたらすなら、精霊の名において戦おう」
「それが死に至るとしても、それもまた精霊の導きなれば!」
 インディオ。この地に住まう流浪の民族。
 自然のままにいきるインディオにとって、死も自然の一部。大地を守るため、命をかけて戦うだろう。
(この戦いは私にとっての贖罪)
 そしてインディオの中で唯一のオラクルである女性は、自らを戒めるように瞑目していた。
 王族1734。インディオであるのに敵対するパノプティコンの王族となっていた女性。イ・ラプセルに懇願し、戦犯の身でありながら故郷の危機に馳せ参じることを許された戦士。
(許されるなどと思っていないが、この命をこの地を守るために使おう)
 しかし、インディオ達の覚悟とて微力。神に刃は届かないだろう。
 大地は確実に病に染まり、死が広がっていく。


 神々が告げる滅びと同時に、神の周辺がイブリース化する。
 神が――創造神がそう命じたかのように世界は変貌していく。ヒトよ滅びろと神は告げた。最早この世界に未来はない。何もかも、消し去ろう。
 かくして世界の白紙化は第二段階に移った。
 その名を『ソフ00』――ビオトープを消し去るプログラム。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
どくどく
■成功条件
1.水晶の神クオーツ/キムラヌートの打破。
2.水銀の神メルクリウス/ケムダーの打破
3.紫銀の神カダ/アィーアツブスの打破
 どくどくです。
 皆様、神の蟲毒終了、おめでとうございます。はい、おかわり!(わんこそばっぽく神を追加する

●敵情報
★【水晶】
・水晶の神クオーツ/キムラヌート(×1)
 神。半透明の女性の姿をしています。300年前に創造神による世界白紙化を止める為に『向う側』に渡りましたが、創造神の手下となって世界を破壊しようとしています。
 デウスギア『七色万華鏡』を常時発動しているため戦場に立つ者は戦闘不能(復活した者には効果なし)になれば、水晶化します。デウスギア破壊まで動けません(システム的には戦闘不能後の復活系スキルは無効化されます)。
 
 攻撃方法
ルビーアイ 魔遠全 燃え盛る赤光が全てを燃やす。【バーン3】(このBSは上書きされません)
エメラルドエッジ 攻近範 形なき緑の軌跡が全てを切り裂く。【防御無】
ガーネットガード 味全  黒光が生命を活性化させる。HPチャージ200
アメジストの偏愛 P   創造神に捧げた一途な愛。【精無】

・水晶ゴーレム(×50)
 イブリース。水晶の神のデウスギア『七色万華鏡』の影響下で生まれたイブリースです。

味方NPC
・巫女親衛隊(×10)
 水晶の巫女を護る騎士です。ノスフェラトゥ。戦闘不能後、HPを全快して立ち上がることが出来ます。
 防御タンクのランク2スキルを3レベルまで使えます。

・『古きもの』(×1)
 全身金属でできたスチームドラゴンです。水晶の巫女に従います。
 クオーツの攻撃を受け続け、多くの機能を失っています。HP残存量も少なく、長くはもたないでしょう。魔法によるHP回復は出来ません。
 毎ターン、戦車砲と炎ブレスで敵全体に物理ダメージを与えます。

・『水晶の巫女』
 かつて水晶の国のハイオラクルだった存在です。デウスギアの効果で自らを水晶に閉じ込め、命を留めて神の帰還を待っていました。その為、デウスギアを破壊すれば命はないでしょう。
 戦場には居ませんが、魂を戦場に飛ばして味方を支援します。毎ターン、味方全体のHPを回復します。


★【水銀】
・水銀の神メルクリウス/ケムダー(×1)
 神。全長1キロ近くある水銀のスライム……もはや山や湖レベルの巨体です。神メルクリウス/ケムダーとそのデウスギア『アルゲントゥム・ウィーウム』が融合しています。あらゆる物質を喰らい、自らの力にします。
 1000年程前に創造神の力を喰らおうとしましたが、結果は御覧の通りです。

攻撃方法
クイックシルバー 攻遠全 全てを溶かし、喰らう水銀の津波。【防御無】(攻撃耐性と攻撃完全防御を無視して攻撃できる)
いただきまぁす   P   物理攻撃を受けた時、そのダメージの半分だけHPが回復する。
マナ伝導体質   P    魔法攻撃を受けた時、そのダメージの半分だけMPが回復する。
全てを飲み込む水銀 P   相手を戦闘不能にしたとき、そのキャラの最大HP×5点分、自身のHPを回復できる。


味方NPC
・『熱血槍』マリオン・ドジソン
 かつてヘルメリアを守っていた歯車騎士の一人。オラクル。祖国の危機を知り、はせ参じました。
『ホワイトラビット Lv5』『ドーマウス Lv5』『熱き叫び(EX)』を活性化しています。

EXスキル:熱き叫び 自付 攻撃力とドラマ上昇。

・元歯車騎士団(×15)
 かつてヘルメリアを守っていた歯車騎士達です。オラクル。
 蒸気騎士のランク2スキルを3レベルまで使えます。

・自陣防衛防御戦車『デネブ』
 自陣防衛防御戦車。巨大な盾を乗せた戦車です。自陣を守るように折り畳みの盾を展開します。
 常時、味方全体の物防及び魔抗を増加させます。


★【紫銀】
・紫銀の神カダ/アィーアツブス
 神。身長150cmほどの男性老人の姿をしています。かつて央華大陸にいた神で、多くの医学の始まりを教えたものとして伝えられていました。あらゆる病を書き示したデウスギア『セイノウショ』より病気のイブリースを大量生産しています。
 スキル『病入膏肓』の効果で、回復魔法でもダメージを受けます。
 800年ほど前に自ら創造神となろうとしましたが見事敗退し、創造神の一部となっています。

攻撃方法
四百四病 魔遠範 あらゆる病魔が広がっていく。【ポイズン3】
薬石無功 魔遠全 あらゆる薬が効かなくなる。【ダメージ0】【不安】【生命逆転】
医食同源 攻近単 食べる事で救われる。与ダメージの50%HP吸収
病入膏肓  P  逃れられぬ死の病。追い詰められたが故の才覚。攻撃力魔導力UP。自分に解除不可の【生命逆転】

・病(×20)
 イブリース。黒い霧を纏った人型のような姿をしています。デウスギア『セイノウショ』の効果により、2ターンごとに5体増加していきます。
 スキル『病入膏肓』の効果で、回復魔法でもダメージを受けます。

攻撃方法
医食同源 攻近単 食べる事で救われる。与ダメージの50%HP吸収
病入膏肓  P  逃れられぬ死の病。追い詰められたが故の才覚。攻撃力魔導力UP。自分に解除不可の【生命逆転】

・味方NPC
・アタパカ・ブル(×1)
 インディオ、ブル族の長。パノプティコンの地を守るために戦います。オラクルではない為、神にダメージを与える事はできません。
『エスツァナトレヒ Lv5』『デ・ヒ・ノ・ヒノ Lv4』等を使います。

・インディオの戦士(×15)
 インディオ族の戦士です。オラクルではない為、神にダメージを与える事はできません。
 軽戦士のランク2までのスキルを3レベルまでで使います。

・王族1734(×1)
 元パノプティコン王族。今はイ・ラプセルの囚人扱い。彼女自身が故郷を守りたいと願い、イ・ラプセルの許可を得て戦闘に参加しました。オラクル。
『ウンセギラ Lv5』『スカーレッド Lv4』『エスツァナトレヒ Lv3』『ウィワンヤンク・ワチピ Lv4』『ツァジグララル(EX)』を活性化しています。

ツァジグララル(EX): P 家族の守り手にして地獄の使いの女性型精霊。全ての攻撃に【必殺】が付与される。

・プロメテウス/ファッケル(×1)
 人型兵器。大きさ4m。十の指先から放たれる炎が主武器の兵器です。
 イブリース全員に【バーン3】を常時付与していきます。PCがBSを放った際、最優先で解除されます。

フィールドパッシブ
幽霊列車(ゲシュペンスト)
範囲:全世界
『属性:イブリース』のHP、攻撃力、魔導力を強化します。またNPCが死亡した際に、イブリース化して復活します。

注!
神にはダメージを与える事はできません。例外はオラクルです。
またPC以外のオラクルが神を倒した時、その力は創造神に戻ります。

●場所情報
 便宜上、戦場を【水晶】【水銀】【紫銀】に分けます。プレイング内、及びEXプレイング内にどこに向かうかを示してください。示さなかった場合、ランダムな戦場に向かわせます(人が少ない所に行く。『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
 世界各国への輸送は飛行船『アルタイル』にて行います。他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。

●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
5個  5個  5個  5個
3モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
30/∞
公開日
2021年07月16日

†メイン参加者 30人†

『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『明日への導き手』
フリオ・フルフラット(CL3000454)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『癒しの歌を奏でよう』
ビジュ・アンブル(CL3000712)
『stale tomorrow』
ジャム・レッティング(CL3000612)
『未来の旅人』
瑠璃彦 水月(CL3000449)
『神を討ちし剣』
瀧河 雫(CL3000715)


●水晶Ⅰ
 水晶の国――
 水晶の神クオーツが形成した鉱物の外壁により、外敵および低気温から民は守られていた。また民達は鉱物や石炭等により作られた飛空船により外壁を超えて移動し、ヘルメリアとは別方向の文化の進化を遂げていたという。
 三〇〇年前にクオーツが『向こう側』に挑み、民を守っていた外壁は消える。水晶の巫女はデウスギアの能力により延命し、神の帰還を待っていた。
 だが、帰ってきたのは水晶の神クオーツではない。『物質主義』――人の精神を顧みないキムラヌートとして、かつて愛した『王国』を自らが好む物質に変える為に降臨した――

「何が物質主義だ。一途な愛を捧げながらとか……まあ、創り手に後から弄られりゃそうもなるか……」
 キムラヌートの降臨に肩をすくめる『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。人の心を顧みないくせに行動理念が創造神への愛とか如何なものか。その辺りは考えないように反転させられたのだろう。そう思えば憐れな存在だ。
「見ちゃおれんが説得して治るわけでもないしな。とにかく行くぞ」
 創造神やキムラヌートの思考を考えている時間はない。現実問題として被害は拡大しつつあるのだ。空気中に散布するマナを体内に取り入れ、癒しの力に転化する。燃え広がる炎を打ち払うべく、ツボミのはなった癒しの魔力が展開された。
「いいから休め。神も巫女も、働き過ぎだ。寝ろ」
「そうだな。クオーツだって本来ならこんな事したくないだろう。止めさせてもらうよ」
 騒動の中心にいるクオーツ/キムラヌートを見ながら『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)はため息をついた。自らが守ってきた王国を、こんな形で終わらせようなんて。反転させられたがゆえの暴挙か、あるいはこの反転も含めて神なのか。
「これが俺らの未来の姿ってのは御免被りたいから頑張るか」
 ルエは言って剣に魔力を込める。迫る水晶ゴーレムを切り払いながらキムラヌートへの道を切り拓いていく。ルエが戦う理由は、ただ一つ。自分達の未来を確保するため。白紙の未来を回避し、明日を迎える為だ。
「神が死ねというのなら、死にもの狂いで抵抗してやる」
「うわぉ! キラキラなゴーレムちゃんがいっぱいだー! 動かなくさせれば、キラキラだから売れるのかなぁ?」
 ゴーレムに攻撃を加えながら、『ひまわりの約束』ナナン・皐月(CL3000240)。赤、青、紫、緑……色とりどりの輝く鉱石で形成された人形だ。これほど大きな宝石は見たことはない。ナナンでなくとも、この光景に喜ぶものは多いだろう。
「でもイブリースチャンなんだよねぇ。浄化したらどうなるんだろ?」
 体内に宿るアクアディーネの力を意識し、ナナンはナナンの勇者ソードを振るう。小さな体に宿る強い力。真っ直ぐに振り上げ、真っ直ぐに叩き下ろす。その剣筋はナナンの性格の如く。迷いなき一刀が、ゴーレムを切り裂いた。二分されたゴーレムは、ただの岩に戻る。
「そっか。イブリースちゃんは浄化したら元の物質に戻るんだ。ま、いっか!」
「いいわね、水晶が砕ける音。気持ちいわ」
 唇を笑みに変えて『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)は笑う。透明で美しい水晶が砕けて粉々になる様は見てて気持ちいい。それがこんなにたくさんあるのだ。顔がほころぶのも仕方ないだろう。うん、仕方ない。仕方ないから壊そう。
「これだけの水晶を砕けるなんて、カシバの時以来かしら!」
 アマノホカリにあったカシバと呼ばれる場所にある鉱山。そこを襲撃した事を思い出すきゐこ。同時に魔力を展開し、周囲に炎を展開する。炎そのものが魔法陣を形成してさらなる魔力を生み出し、高温の炎を解き放っていく。
「水晶ゴーレムは全部私が引き受けてあげるわ!」
「ええ、ただ真っ直ぐに突き進むだけです」
 祈るように瞑目し、そして瞳を開けて武器を手にする『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。水晶の神クオーツ/キムラヌート。相手の力は確かに強大だ。放置すれば、確かに世界は水晶に満ちていただろう。だが、水鏡はその前に予知できた。
「ならば勝てます。これまで通り、問題ありません!」
 破滅の未来を知り、それを回避すべく戦う。それは今までアンジェリカを始めとした自由騎士がやってきたことだ。武器を握りしめ、水晶ゴーレムに向かって振るう。砕けるゴーレムと、その奥にいるキムラヌートを見ながらアンジェリカは雄々しく吼える。
「有象無象を永遠の彫刻にする水晶だろうと! 私が歩みを止める理由にはならない!
 長い旅路の結果、私達は神を地に引きずり下ろした。この切っ先が届くのなら……勝てない理由など、無い!」
「私達に届く。そう、神殺し。貴方達はタットワの剣を内包したのね。この地に残った五柱を皆殺して。
 ああ、なんて合理的。なんて我欲の強いイキモノ。自ら世界を得ようと神を殺して強奪しようとするなんて。
 だから人間は滅ぶべきなのよ」
 この世界は神の――創造神のものだ。それを奪うなんて許せない。そんな怒りを含んだキムラヌートの言葉。
 言葉は既に意味を成さない。滅ぼそうとする神と、生きようとするヒト。両者の刃は交わされていく。

●水銀Ⅰ
 水銀の神メルクリウスが支配する国は善人悪人分け隔てなく内包する国だったという。
 金属にして液体。物質であり霊魂。毒であり薬。炎であり氷。相反する二対立のバランスをとり、それらが潰し合わないようにしていたという。それにより互いの利点を最大限に発揮させ、対立する者同士は喧嘩こそすれどそれ以上の事件には発展しなかったという。
 それは神の力による支配ではなく、メルクリウスが持つ智謀と経験によって生み出された秩序だった。それは他の神から見れば非常に危ういバランスで、事実メルクリウスも秩序の維持に大きく心を砕いた。それでも神の力や権能を使った支配を行うことなく、あくまでヒト目線で統治したという。その『栄光』は記録に残されていない。
 そして一〇〇〇年経った今、世界全てを一つに纏めようと『貪欲』に顕現する。

「これはまた……しかもこれと同じような力を持つのが後四柱か」
 小山ほどあるケムダーを見ながら『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)は陰鬱な気分になる。見慣れたヘルメリアの地形を飲み込むほどの巨体。方向性こそ違えど、同じほどの力を持つ神が世界を滅ぼすために顕現したのだ。
「ヘルメリアを丸々飲み込もうとか、流石に許しておけねぇよな!」
 二挺拳銃を手にしてザルクが吼える。ここはザルクの故郷。やんごとなき理由で相対したこともあったが、故郷がなくなってほしいわけじゃない。矢次に引き金を引いて弾丸を叩き込み、体力を奪っていく。
「ひたすらにタフで回復し続けながら全てを飲み込もうとしてるわけか。ちょっとやそっとの攻撃じゃ通じねぇ。出来る限りの火力を叩き込むしかねぇな!」
「そういう事だ。分かりやすいな」
 ザルクの言葉ににやりと笑みを浮かべる『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)。神の思惑に興味などない。そこに敵がいて、それを倒さなければならない。それが分かれば十分だ。
「対策とかは任せたぜ。俺はただひたすらに殴るだけだ!」
 強敵を倒す。ロンベルの人生を語るなら、その一言だ。強くなり、強い敵を倒す。それこそが域外で、それ以外に興味はない。『虎杖丸』と『堕神の白刃』を手にして敵に迫り、力の限りに刃を振るう。そこに敵がいるなら、殴るのみ。
「たっぷりと俺の一撃を喰らって、腹壊しやがれ! オラァオラァオラァオラァオラァオラァオラァオラァ!」
「歯車騎士団達……自分の故郷を護りたい。その想いはみんな一緒だよね」
 ケムダーに挑む歯車騎士団達を見て『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は頷いた。ヘルメリアという国はもうなくとも、そこに住んでいた人は確かにいる。それが奪われそうになっているのだ。命を賭けて戦う事は理解できる。
「アクアディーネ様はもういない。ううん、そうじゃない。カノン達皆の中にいるんだよね」
 失ったモノ。消え去った神。それを思い、カノンは拳を握る。ヒトの未来を紡ぐために消え去ったアクアディーネ。その想いと力は確かに受け取った。後はその想いをかなえるためにこの拳を振るうだけだ。
「我が拳は信念の刃、魂の牙。神が全てを滅ぼすのなら、カノンは優しい女神の信念を受け継いだモノとしてその滅びに抗うよ。この手刀に斬れぬ物無し!」
「はい。諦めません。ヘルメリアを守る人がいるのですから」
 ロザベル・エヴァンス(CL3000685)は歯車騎士団を見ながら頷いた。ケムダーの侵攻を妨げるように展開し、盾兵隊に指示を出して自らも防衛に挑む。攻撃を加えてその体積を削り取っていく。
「白紙の未来。それが約束された正しいことだとしても、諦めるわけにはいきません」
 創造神が下した世界の終わり。それが世界にとって正しいことだとしても、この歩みを止めるわけにはいかない。ロザベルが歩んできた道。それがここで諦めてはいけないと教えてくれる。この機械の身体が動く限り、諦念で足を止める事だけは出来なかった。
「私は故郷を守ります。最後の最後まで」
「攻撃の手は止めないで。でもトドメは私達が討たないと意味がないの」
 歯車騎士団に指示を出す『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。元ヘルメリア群だった彼女は、歯車騎士団の面々ともある程度は面識がある。元上司の顔の広さと、その実力もあって歯車騎士団達はその指示を受け入れる。
「倒れそうになったら無理はしないで。幽霊列車が活発化してるわ」
 遠く聞こえる汽笛を気ながらステラは歯車騎士団に注意する。ここで倒れればイブリース化し、敵対することになる。そうならないように癒しの術を施しながら、同時にケムダーの行動を気にかける。一瞬たりとも気の抜けない状況を前に、汗が流れる。
「マリオン様も無理をしないでください」
「様はいらない、ステラ。俺は国に属さない騎士崩れだ。軍人的な階級でいえば傭兵同然! 遠慮なく命令してくれ!」
 共に戦うマリオンに声をかけるステラ。ふと、気になった事を尋ねてみた。
「……どうして、ヘリメリア戦役の後にイ・ラプセル国に入らなかったのですか?」
「我ら歯車騎士団の王は蒸気王のみ。ただそれだけだ。つまらぬ感傷なのは理解しているが、それでも曲げれぬ忠義だったのだ!」
 おそらくここにいる歯車騎士団も似たような思いだったのだろう。様々な理由でアクアディーネの洗礼を拒んだオラクルたち。
「みんなみんな食べるぅぅぅぅぅ。全部食べて、一つにしてやるぅぅぅぅ!」
 メルクリウス/ケムダーが叫ぶ。かつて二極のバランスをとっていた神は、それら全てを統合すべく貪欲に食らい始める。生物を、非生物を、何もかもを。
 神の滅びに抗うため、ヘルメリアに集った有志達は戦い続ける。

●紫銀Ⅰ
 紫銀の神カダ――
 カダの事を正しく記した書物は存在しない。神として祀られたという記録さえない。カダは家を持たず央華大陸を流浪し、そこに住む人達に学問を教えて気が付けば去って行く。人々の口伝に残るカダはそんな伝説だった。
 カダはあらゆる学問の『基礎』のみを人々に伝えた。狩りの基礎、農耕の基礎、建築の基礎、そして医学の基礎。自分は人とかかわるべきではないとばかりに最低限の知恵のみを伝え、人々はそれを元に発展していった。時折今の文明ではどうしようもない存在や病魔が現れると顕現し、それに対応した程度である。
 かくして都市伝説のような神様は何時しか現れなくなった。それが創造神に挑んだ結果なのか、或いはヒトにはもう『基礎』を伝えきったと判断したかはわからない。
 ただ言えるのは、その神は反転してアィーアツブスとして顕現していることである。

「数が多いですが、負けるわけにはいきません!」
 アィーアツブスが生み出すイブリースの攻撃を防ぎながら『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は叫ぶ。ヘルメリアの事も気にかかるが、戦局を鑑みてパノプティコンを選んだデボラ。別戦場の事は気になるが、目の前の戦場から意識を逸らすことはない。
「私の後ろから離れないでください!」
 背後を振り向くことなく叫ぶデボラ。前に出て仲間を守る事。それが自らの役割。この鋼鉄の身体はこのためにある、とばかりに真っ直ぐに敵前に立つ。敵が神であっても、その気概が折れる事はない。否、神だからこそ全身全霊をもって挑むのだ。
「私にやれることを全力で! この地に生きるヒトすべての力でで勝利を掴むのです!」
「ええ、ええ! やって見せますわ! 元気よく行きますわよ!」
 ハイテンションに叫んで炎を放つ『轍を辿る』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)。疫病を焼き払うように全力で炎を放ち、同時にテンションをあげていく。病は気から。自ら気分を高め、病に負けぬように攻め立てていく。
「アィーアツブスとか長いですしダサいです。貴方もそっちの方がお好きでは無いですか御爺様?」
「裏もまた真。全てをもって我なり。もっとも名前の件は否定はせんがな、カッカッカ!」
「あら以外とお茶目。
 ねえカダさん。どんな時でも状況でも、変わってしまう事と変わらない事ってあると思いますの。その辺貴方はどうですの? まー、全部焼くんですけどね! ヒャッハー!」
「万物は円を描くように流転し、いずれ混沌に帰す。是即ち太極也。即ち、変わる事も変わらん事も長い目で見れば皆一緒じゃーい!」
「以外とお話が通じるご老人のようで。……実はあっし、饅頭とお茶が怖い病でしてな。
沢山の饅頭と一杯のお茶が出てくると困るなー! あいたたたー!?」
 アィーアツブスの様子を見て『一番槍』瑠璃彦 水月(CL3000449)は手を叩き、これはいけると思って冗談交じりに饅頭こわいと言ってみた。帰ってきたのは食あたりに似た腹痛――スベスベマンジュウガニの毒である。解せぬ。
「冗談を開始ながら同時にダメージを与えてくるとは、気は抜けぬということですな!」
 ダメージに耐えながら『天ノ羽衣』を振るう水月。健脚でイブリースに迫り、その攻撃を避けながら蹴りを放つ。空を舞い、足を振るうと同時に羽衣が宙を舞う。羽衣に編まれた鋼線と、そして水月自身の蹴りがイブリースを傷つけていく。
「先ずは数を減らしましょうぞ。神を討つための道を確保させていただきますぞ!」
「はい。ここで勝たないとこれまでの事が無駄になってしまいます……」
 体内に宿るアクアディーネの力を意識しながらセアラ・ラングフォード(CL3000634)が頷く。神の蟲毒。その為に奪って来た各国の平和と日常。イ・ラプセルの侵略により救われた亜人達の命は確かにある。しかし悲しむモノが皆無ではないのも事実だ。そのことを、胸に刻む。
「……はい、許されるなんて思っていません。それでも、まだ」
 セアラはしっかりと現実を直視する。戦争。それに伴う傷痕。戦争だから、他国の所業だから、自分には関係ないから。そう思うのが普通だろう。だけどセアラは逃げない。逃げることなく、自分のしたことに向き合いつもりでいた。その為に、この戦いを勝ち抜く。
「皆さんは私が癒します。この戦いを勝ち抜いて、滅びの世界を回避しましょう」
「病になんか、負けないぞー!」
 叫びながら拳を振るう『薔薇の谷の騎士』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。生き延びる意思と生命の輝き。その二つを見せつけるように元気よく拳を振るう。直進と円。静と動。休むことなく拳を振るい、イブリース達を討ち取っていく。
「全力全開! 我流・神獣撃!」
 毒をばら撒く相手に持久戦は不利、とばかりに最初からトップスピードで攻撃を重ねるカーミラ。アィーアツブスへ攻撃できると判断した瞬間に距離を詰め、ただ真っ直ぐに拳を振るう。央華大陸生まれの両親が教えてくれた技を、見よう見まねで覚えた一打。
「うおりゃあああああああああ! 大人しく寝てろおおおお!」
「この動き、まさか……? 成程ヒトは進化するモノ。拳もまた同じ。時ともに拳を重ねればこの娘はかの獣神に届くやもしれぬ――まあ、今すぐ世界滅ぼすんじゃがな!」
「そんな事させるもんか!」
 叫ぶカーミラ。未来の可能性を閉ざさせやしない、という思いを込めて拳を振るう。
 病をもって未来を閉ざす神と、意思を持って未来を築こうとするヒト。その戦いは終わらない。

●水晶Ⅱ
 デウスギア『七色万華鏡』がきらめくと同時に、倒れ伏した巫女親衛隊が宝石と化す。
 キムラヌートが放つ光が、多くの命を傷つけていく。かつてこの地を守っていた神は、全てを冷たき石にする為に力を振るう。
「かつての水晶の神が何を考えていたかなんて、少なくともあたしには関係ない」
『宝剣・桜』を手に『邪竜』瀧河 雫(CL3000715)が静かに告げる。アマノホカリの地より来た雫にとって、ここは見知らぬ土地。そこに降臨した世界を滅ぼそうとする神に嫌悪感を抱くのは当然のことだ。
「天が滅びよと言うのなら、その天を滅ぼすまで」
 神アマノホカリと同格の存在を相手に、退くことなく刃を振るう雫。魂を捧げて、究極に消化した一刀。その一撃がキムラヌートを穿つ。戦術などない。持ちうる最大の攻撃を叩き込み、どちらが先に倒れるかの勝負。気力と体力の勝負だ。
「あたしは天に牙剥く邪竜。あたしの納得する道の為に、神を滅ぼす一刀」
「デウスギア『七色万華鏡』……神を殺せばデウスギアは効果がなくなる……どうにか殺さずに奪い取って……駄目か……!」
『エレガントベア』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はキムラヌートが持つデウスギア
を簒奪しようと思考をめぐらすが、不可能だと結論付けた。そもそもデウスギアの形状も分からないのだ。どこにあるかわからないどんな形かもわからないモノを戦闘の最中に奪うなど無理である。
「ま、本命はこっちだけどな。創造神への愛、いったん忘れてもらおうか!」
 ウェルスはマキナ=ギアの中から蒸気式の多薬室砲を取り出し、弾丸を撃ち放つ。圧縮された蒸気が弾丸を加速し、キムラヌートの胸を貫く。弾丸内に込められた魔力が、一時的に概念自体を操作していく。それを確認し、ウェルスは水晶の巫女に語りかける。
「水晶の巫女さんよ。効果があるかはわからないけど語りかけるなら今だぜ」
「クオーツ様、共に、滅びましょう。いいえ、私たちはもう消え去るべきだったのです。
 ……こんな茶番に突き合わせてごめんなさい、セカイ。そして、イ・ラプセルの皆さん」
「それがキミの結論なんだね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は水晶の巫女の言葉にそう頷いた。水晶の巫女の死はもう覆らない。否、三〇〇年前にクオーツが創造神の元に向かったときに決していたのだ。今はその覚悟を垣間見ただけ。
「ならば、安心して逝ける様に存分に力を振るおう」
 水晶の巫女の覚悟を受け取り、マグノリアは錬金術を展開する。望んだ結末ではないにせよ、それが彼女達の選んだ道なのだ。ならばその覚悟を尊重し、全力を振るうまで。そしてこの光景を目に留め、未来に紡ぐのだ。
「そう。未来に伝えよう。創造神からこの世界を守って、君達の物語を伝えると『約束』しよう。……必ず、だ」
「セカイ、契約の履行に来たぞ」
 ブレスを放つ古きものに『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は告げる。かつて古きものに情報を求めた。その際にアデルは傭兵として雇われる事を提案したのだ。その約束を、果たしに来た。
「ヒトが約束を果たすとはな。驚いたぞ」
「残念だが約束を果たすのはこれからだ。水晶の神を――討ち取る」
 自由騎士達の猛攻により、水晶ゴーレムの多くは廃した。一気にキムラヌートの元に迫り、槍を振るう。機械のパースが削られて意識が跳びそうになる激痛の中、それでも冷静さを保ち苛烈に攻め立てる。
「あの優しい女神が最後に残した力が、神殺しの奇跡というのは皮肉だが」
 アデルは消え去った女神のことを想う。こうなることを知っていながら、最後まで何も言わなかったアクアディーネ。水晶の巫女の言葉通り、女神とともに歩く未来はない。それでも――彼女は自由騎士達に確かに何かを残した。それは神殺しの力であり、そして優しい笑顔の記憶。
「世界を神から奪い取るぞ。これはその第一歩だ。滅びろ、水晶の神クオーツ/キムラヌート!」
 突き出したアデルの槍がクオーツ/キムラヌートの身体を貫く。幾重に重ねられた鉱石の盾を貫き、その心臓を穿つ。アデルの体内にある神殺しの力が、神を滅ぼす因子を注ぎ込んでいく。
「私は……。キレイな世界を、護り、たい……」
 その言葉を最後に、鉱石が砕けるようにクオーツ/キムラヌートは消え去った。
「見事だ、ヒトよ。……最早、悔いはない」
 キムラヌートの最後を見届け、古きものは崩れ落ちる。
「セカイ!」
 その名を知る者は名を呼ぶが、古きものが動く気配はない。そして同時に、幽霊列車の汽笛が聞こえてきた。世界を走り続けるイブリースかを促す存在。創造神の小さな介入。それが力尽きた古きものに迫ってくる。このままだと――
「…………」
 首を振りながらフロレンシス・ルベル(CL3000702)は古きものに手をかける。今まで仲間を癒し続けてきたフロレンシス。癒しの魔力も枯渇し足取りもふらついているが、それでもゆっくりと古きものに魔力を注ぎ込む。
「…………」
 古きもの。人を癒す魔力では癒すことはできない。人の医学は人の体にのみ有効だ。犬の身体を癒す知識は、犬の医学になる。竜の身体を癒す知識は、当然竜の医学になるだろう。人の医学で、治すにはあまりにも種族差が離れすぎている。
「…………」
 だが、古きものはスチームドラゴン。蒸気機関を喰らい、蒸気機器の肉体を得たドラゴン。ならば、蒸気の知識をもってすれば?
 人の医学、蒸気の知識。そして――古きものを癒したいという優しいフロレンシスの精神。それが種族の壁を超えた。生物と無生物の壁を超えた。何もかも分け隔てなく癒したい。その想いが、奇跡を生んだ。
 かつて、アクアディーネに受け入れられた少女はその優しさを受け継ぎ、その優しさをもって尽きようとする命を救う。連鎖する医学の癒し。今フロレンシスが助けた命。それがゆっくりと目を覚ます。
「――そうか。助かったのか。汝の献身に感謝する」
 古きものは優しい声で、フロレンシスに首を垂れるように感謝の言葉を述べた。

●水銀Ⅱ
 水銀の巨体が揺れる。これだけの大きさになると、移動だけでも人間サイズには攻撃に等しい。波打つ金属が高重量の波となり、ヒトを押し潰していく。
「全部全部食べるぅぅぅぅぅ。邪魔しないでぇぇぇ」
「まるで銀色の湖? 丘? 地形を相手にしてるみたいだ」
 ケムダーの前に立ち、攻撃を凌いでいる『大いなる盾』ナバル・ジーロン(CL3000441)。この大きさになれば鎧も城壁も同じようなものだ。攻撃を防げているのも、神の権能を纏っているからに過ぎない。それでも気を抜けば倒れてしまいそうな攻撃だ。
「自由騎士も、ヘルメリアの皆も、全部守る! 世界を守る!」
 神の権限を宿した盾を繰り出し、仲間達を護るナバル。神が世界を食うと言うのなら、それを止めるのが自分の役割だ。他のことは仲間がやってくれる。そう信じてナバルは他者を守る盾に徹していた。
「いくら腹が減ってるからって、盗み食いはよくないぜ、神様。ましてや、自分だけ腹いっぱいになろうなんてな。食い物も世界もひとり占めじゃ楽しくないもんだ」
「うそだぁぁぁぁぁ。ヒトだって、楽しそうに世界を我が物にしてるじゃないかぁぁぁ」
「……神の目線から見ればそう見えるのかもしれんな」
 ナバルに護られる位置を維持したまま『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375) はケムダーの言葉に頷く。ヒトから見れば神の暴挙に対抗しているのだが、神から見ればヒトの所業は耐えきれないのかもしれない。
「だが、黙って滅ぼされるわけにはいかない。我々は生きているのだから」
 座して死を受け入れろ、と言われて受け入れるわけにはいかない。反逆の意を込めてテオドールは呪力を展開する。生命の因果を反転させる呪い。ケムダーが喰らった力を逆転させ、痛みに返還する術。なんでも吸収するケムダーの能力を利用した術を。
「やはりこの呪いは効くようだな。反転して貪欲にならなければ、こううまくもいかなかったろうに」
「どっちにしろ、この重量を削り切らないといけないのはきついっすけどね」
 ため息交じりに呟く『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)。ケムダーの真価は何でも吸収する体質ではない。このバカげた大きさだ。核のようなものがあれば攻略も容易いのだが、流石に見つけられない。或いはあるのかもしれないが……。
「流石に藁の中の針っすね。面倒っすけど、地道に削っていくっす」
 最善が無理なら次善。ジャムの切り替えは早い。この切り替えの早さこそがジャムの真価。心を殺し、ただ敵だけを見て引き金を引く。この大きさなら外すことなどありえない。一発、また一発と繰り返していく。
「運よく急所に当たればめっけもの。そうじゃなくても、討ち続ければいつかは倒れるっす」
「その通り! 山のような巨体でも、切り拓き続ければいつかは崩せる! 進み続ければ道が見える! そうでありましょう! 隊長!」
 どこか冷めたジャムの言葉とは逆に『機国解放者』フリオ・フルフラット(CL3000454)は熱く叫んでケムダーに攻撃を加えていく。テオドールの呪いがかかった瞬間を好機と見て、一気呵成に攻撃を叩き込んでいく。
「行きましょう、ヘルメリアの守護者、歯車騎士団!」
 フリオは歯車騎士団に激を入れ、そして拳を握る。かつてヘルメリア国があったころは敵対し、命を奪い合った仲だ。その遺恨が完全に消えたわけではない。事実、彼ら歯車騎士団はイ・ラプセルに帰依しなかった。その技術と戦闘力を持ったまま、在野に下ったのだ。
「イ・ラプセルに属さぬ我らを守護者と呼ぶか。自由騎士」
 歯車騎士団の一人がそう問いかけることを誰が攻められよう。イ・ラプセルはヘルメリアを攻め落とした国だ。祖国を滅ぼした国に好感情を抱けないことを誰が攻められよう。
 その全てを理解したうえで、フリオは打算なく言葉を放つ。
「無論であります! ヘルメリアの危機にはせ参じたことがその証! その武器がケムダーに向いていることが、貴君らの守護者の誇りであります!
 かつて刃を交え、今は蒸気騎士の力を振るう者として、そして一人の騎士として! このフリオ・フルフラット、全身全霊をもって助力いたします!」
 フリオのこの言葉が無ければ、歯車騎士団の何割かはここを死地と決めて命を投げ出していただろう。全力を出し切った後に無謀な突貫を仕掛け、それを騎士の誉れとしただろう。最早存在しない祖国を胸に抱き、それで満足しただろう。
「いいだろう。我らヘルメリアの守護者、フリオ・フルフラットの助力に応じよう!」
「国破れ、されど人は破れぬ! 蒸気王の残した技術とそれを生み出す人々を守るため戦おうぞ!」
 場が戦場でなければ、槍を構えてフリオに傅きそうな騎士達の気迫。それを感じ取り、フリオも言葉を返す。
「自由騎士も負けてはいないでありますよ! さあ、ヘルメリアを救うであります!」
 そして上がる鬨の声。この島を守り『続ける』為に、騎士達は戦う。
「皆さんは、もう大丈夫のようですね」
 命を捨てる戦いではなく、これからもヘルメリアを護り続ける戦い。その気迫を感じ取り『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)は静かに笑みを浮かべる。無理な突貫をするのなら、その気概を削がなくてはいけなかった。全ての命を守ることがたまきの願いだから。
「全てを吸収する性質。そしてこの大きさの液体……」
 仲間を癒しながら、たまきはケムダーの性質について思考していた。吸収する性質を逆転させてダメージを蓄積してはいるが、なにせこの大きさである。全てを削り切るのにどれだけかかるか。例えるなら、湖の水を手桶で汲み上げるようなものだ。
(攻撃しても液体状であまり効果がない。なら――)
 たまきは一旦癒しの手を止めて、魔力を練り上げる。待機中に存在する青いマナ。それを集め、そして自らを中心として散布する。マナはたまきの誘導に従い広がっていき、一つの形を形成する。
(冷やせ、冷やせ、冷やせ――液体じゃなく、固体なら衝撃も通ります――!)
 魔力を放出しながらイメージを続けるたまき。『アルゲントゥム・ウィーウム』の大きさは約一キロメートル。それを包み込む氷の牢獄。冷気を内部に放出し、水銀を凍らせる温度――マイナス39℃の極寒の空間を生み出すために。
 冷気の呪縛は一瞬にしてケムダーを包み込む。何でも吸収する体質が災いしたのか、冷気も体内に取り込み即座に凍り付くケムダー。
「今です! 凍り付いたのなら、破壊は簡単なはずです!」
 たまきの号令と共に、一気に攻め立てる自由騎士と歯車騎士団。持ちうるすべての火力を叩き込み、衝撃を加えていく。そして――
「おなかすいたぁぁぁぁ……。ああ、もっと食べたかったぁぁぁぁぁ」
 そんな声をあげながら、水銀の神メルクリウス/ケムダーは消滅していく。水が蒸発するように、世界に溶けていく。
 神の打破を確認し、ヘルメリア島に歓声が上がった。

●紫銀Ⅱ
 カダを中心に発生していく病のイブリースは、自由騎士達とインディオの猛攻によりその数は少しずつ減ってきていた。
「神農様。カダ様。医ノ神様。……ソれが今コレ」
『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)は人を滅ぼそうとするカダ――アィーアツブスを見て嘆くようにそう言い放つ。神農。人々に医術と農耕を教えたとされる存在。その伝承を知るエイラからすれば、それがヒトを滅ぼそうとすることは信じられなかった。
「創造神が弄レルは道理。ケど、ドしテコンな形に弄ルした?」
「基礎の裏は不安定。また元に戻せるように、裏返したにすぎぬ。この二面含めてカダ/アィーアツブス。人に基礎を伝える神も、人を不安定に脅かす神も本質は同じ事。
 裏切りに耐えきれぬか、娘。それは詫びよう。信仰の反転こそがその傷なのだから」
「…………ッ!」
 理解できない、とエイラは切り捨てるように炎を放つ。アマノホカリより伝承されたニンジャの技。真正面から戦うのではなく、心理の裏側や死角から攻める術。それを駆使し、アィーアツブスの隙を生み出そうとする。
「一瞬、隙デキレば、仲間決メテクレル! エイラ、信じテル」
「ああ、隙が『見え』れば一気に行くよ!」
 五秒後の未来を見ながらセーイ・キャトル(CL3000639)は炎の魔術を解き放つ。病のイブリースを炎で焼きながら、神の隙を見つけようと未来視の魔眼を使用する。流れ込んでくる多くの情報量を脳内で処理しながら、最善手を思考して思念で飛ばす。
「流石に連発は厳しいかな」
 大技を連続で放ったこともあり、息絶え絶えにセーイは息を継ぐ。周囲にあるマナをリングを通して取り入れながら、それでも攻撃の手を止めずに炎を放つ。ここで攻撃の手を止めるわけにはいかない。この地に住む人達を、殺させるわけにはいかないから。
「無理をするな。君達が命を賭けてこの地を護る義理はない」
 息絶え絶えになっているセーイにアタパカが声をかける。インディオが生まれ育ったこの地を守るのは彼らの生き様ゆえだ。だが自由騎士はそうではない。冷たい言い方をすれば、支配地の一部でしかない。最悪放置してもいいのだ。
「いいえ、そんな事はありません。この世界を救うんです。それはこの地の人も含んでいます」
 だが、セーイはそう断言する。これはこの地に集った自由騎士すべての意見。世界を、そこに住む人を救うために、命を賭けて神に挑むのだ。
「わかった。君達にも命を賭けるだけの理由があるのだな」
「はい。だから今は、一緒に戦いましょう!」
「ん……。皆、一緒に……」
 言葉少なく、しかしはっきりとした決意を込めてノーヴェ・キャトル(CL3000638)は口を開く。両手にカランビットを持ち、イブリースを切り裂き道を切り拓いていく。圧倒的な速度と無駄のない動き。刃の疾風ともいえる動きで敵陣を切り拓いていく。
「私は……止まらない……」
 ノーヴェは足を止めることなく動き回り、王族1734――アナ・ブルの攻撃の隙を埋めるように攻め立てる。何度も敵対し、刃を交わした仲。だからこそ攻撃のタイミングも理解できる。アナと共に戦場を舞い、イブリース達を駆逐していく。
「……皮肉だな。パノプティコンの管理の元ではなくとも、息を合せられるなんて」
 泣くのを我慢するような顔で王族1734は呟く。かつてこの地を支配したパノプティコンの王族。その罪を雪ぐ為にこの戦いに志願した。いっそ囮か捨て駒に使ってくれた方が気が楽だったのに。なのに誰も自分を責めはしない。それどころか――
「アナは……いろいろ、考えすぎ……。皆、アナに、生きてほしいって思ってる……」
「私が貴方達を苦しめたパノプティコンの王族だとしても、か?」
「アナには、事情があった……大変だけど、一緒に頑張ろう。一緒に、戦うから」
 王族1734――アナの手を取り、笑みを浮かべるノーヴェ。これからも一緒に戦う。その誓いを込めての微笑み。
「これ以上の言葉は不要のようだな。さてさて、気合を入れるか」
 アナとノーヴェの様子を見ながら、ビジュ・アンブル(CL3000712)は頷いた。死に急ごうとするインディオの娘にこれ以上かける言葉はない。あとはイブリース達から仲間を守るだけだ。
「あの子が仲間を守ろうとしたように、私も守る。……あとで先生に殺されないといいけど」
 ため息をつきながらビジュは術を展開する。カタクラフトの拒絶反応もあって、元より戦場に立てるような肉体ではない。無理を通してこの戦いに参加したのだ。魔力を癒しの力に転化し、不倒の覚悟でイブリースに挑む。倒れぬ癒し手。その存在は強く仲間を安堵させる。
(あの子のように敵前に立つことはできないけど――)
 癒しの聖域を展開しながら、ビジュは思う。果敢に敵の前に立ち、その攻撃を防ぐ。そんな戦い方はビジュにはできない。身体は衝撃に耐えきれないし、カタクラフトが壊れてしまうかもしれない。それでも、ビジュにはビジュにしかできない戦いがある。
「これが私の戦い。ただひたすら守り、そして癒す。斬ったり撃ったりはできないけどそれでも仲間を守り通す!」
 痛み止めを打ち、忌むべき魔剣士の力を使い、仲間を守るために全力を尽くす。後方支援に徹していたビジュが敢えて戦場に出てきた勇気。そしてその覚悟。彼が放つ癒しは、その強い精神性が顕れていた。
「あれって『セイノウショ』の原本!? ウワー! 金になりそう!」
 カダ/アィーアツブスの持つ書物を見て、『有美玉』ルー・シェーファー(CL3000101)は声をあげる。古くから伝わる薬学の書。蒸気文明が発達した今となっては時代遅れの書物だが、それでも歴史的価値はあるだろう。
「冷気のチカラはあらゆる病を止めるのヨ。現代蒸気科学パワーを喰らえー!」
 冷気を閉じ込めがガジェットを解き放つルー。低温で一気にイブリースの足を止め、アィーアツブスの元に走る。刃を隠した仕込み手甲を振るい、神に打撃を加えていく。拳を相手に押し付けた後に重心移動で打撃を伝える技法で、内部に直接衝撃を加えていく。
「ちょっとーカダちゃん! いなくなったと思ったらこんなに変わり果てて!」
 戦いの最中、怒ったように腰に手を当てるルー。カダの話は幻想種の父親から色々聞いていたらしい。
「その髪は銀龍の……あやつ人の娘と子を作ったのか」
「カダちゃんいなくなって央華大陸大変だったノヨ! シコウテイが支配して不老不死求めたり、最強戦士コウウが恐怖統治したり。アタシその時生まれてなかったんだけど!」
 八〇〇年の間に色々あった央華大陸。その辺りはルーも親に聞いただけである。ただ色々大変だったとは聞かされた。
「カダちゃんが教えた事は正しく伝わってるヨ。カダちゃんが変わり果てても、それまで教えてきた『基礎』は生きているから」
「そうか。我が教えが正しく伝わっているのなら、先達としてこれに勝る喜びはな――」
「まあそれはそれとして、央華大陸が大変だった父祖の恨み、この拳に宿れ! 【商人一流掌】!」
 話の流れを断ち切るように、ルーの拳はアィーアツブスを穿つ。先達の教えに敬意を払い、今を生きる者として過ちを正す。形はどうあれ、ルーは薬師として道を踏み外しそうになった者を止めることに成功したのであった。
「さようなら、カダちゃん。貴方の教えは、確かに央華大陸で伝わってル。その『基礎』があるから、アタシがいるのは忘れないヨ」
 消滅するカダ/アィーアツブスを見ながら、感謝の言葉を述べるルー。
「生物なら死や病に生き足搔くは道理。ヒトよ、見事な足搔きであった。
 されど忘れるな。それはヒトだけに当てはまる事ではない。滅びぬために抗うのは、ヒトだけではない事を」
 消え去る寸前に放った神の言葉が風に消える。
 静寂が訪れた後、勝利を確信して自由騎士とインディオは勝鬨をあげるのであった。


 神との戦いが終わり、ソフ00は終わりを告げる。
 しかし世界はまだ、変貌したままだ。
 いつの間にか空に開いた大穴。昼間なのに星空が見える虚き穴――現在の知識でいえば宇宙空間を想起させる光景が広がっている。
 五柱の神がそこからこの地に降臨したというのなら、その穴の『向こう側』に創造神がいるのだろう。
 水晶の国からならその穴に届く。『向こう側』にいる創造神の元に。

 アイン0により大陸の一部は崩壊した。
 ソフ00により神が世界を荒らした。
 オウル000――最後の滅びが今、世界を包む。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『水晶を砕く者』
取得者: アデル・ハビッツ(CL3000496)
『騎士を奮わす騎士』
取得者: フリオ・フルフラット(CL3000454)
『マイナス39度の鉄槌』
取得者: たまき 聖流(CL3000283)
『不屈の癒し手』
取得者: ビジュ・アンブル(CL3000712)
『受け継がれる薬師の基礎』
取得者: ルー・シェーファー(CL3000101)
『機竜を癒す心』
取得者: フロレンシス・ルベル(CL3000702)
FL送付済