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StealSpy! 闇に紛れて影を討て!

●動き始める各国
蒼白激突――
そう呼ばれるイ・ラプセルとシャンバラの闘いの最中、他国がそれを傍観するという事はなかった。
ヴィスマルクでは年の初めに壊滅したシェオール山脈の整地と同時に進行の準備を進めていた。戦車部隊が動くなどの情報が飛び交い、諜報はその真偽を探っているとか。
パノプティコンはシャンバラ側の国境線防衛を強化し、我関せずを決め込んでいる。今は自国内を管理するのに務めるようだ。
そしてヘルメリアは――シャンバラの絶対防御結界『聖域』に対し、最大火力である『プロメテウス』を突撃させた。
結果は『聖域』を突破できずに敗走することになったが、射出砲弾着弾地点を拠点として周囲を制圧する作戦に切り替わる。防壁などない拠点だが、単純火力でいえばプロメテウスを制圧できる兵装は少ない。その威圧感と火力は周囲を不安の空気に包み込む。
迂闊に索敵範囲に入れば戦車数台分の砲撃が飛び、運良く接近できたとしても巨人族すら切り裂く近接武器と連発系の副砲が火を吹く。街一つを一夜で更地に出来る兵装は個人でどうにかなるものではない。
スパイとして紛れ込んでいたヘルメリアの歯車騎士団も国からの伝令を受けて集結しつつあった。イ・ラプセルに遅れること一か月。戦争最中の力押しともいえる荒業でヘルメリアはシャンバラの国土に踏み入る。
一見不沈に見える火力特化の橋頭保だが――
●イ・ラプセル
「些か功を焦ったな、ヘルメリア。見事な電撃作戦だが、兵站の確保が不十分だ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集められた自由騎士を前に説明を開始する。
「先日、ヘルメリアの人型兵装がシャンバラ王都を強襲。だが強大な結界に阻まれて撤退した。
已む無く一時撤退し、その人型兵装を軸とした長期戦に出るようだ」
イ・ラプセルが防御に特化した橋頭保なら、ヘルメリアのそれは火力に特化したものだ。圧倒的なスペックで威圧し、攻め入らせない。軍事拠点としては及第点以下だが、それでも発生する被害を考えれば直接攻め入るには無謀と言った所か。
「現在ヘルメリアのスパイが集結しているが、圧倒的に足りない物がある――蒸気だ」
フレデリックは地図を指差し、説明を続ける。その指先にはシェオール山脈から流れるカリヤー川があった。農耕期は農地に豊富な水を供給する川だが、秋終わりから新春までは水門を閉じているという。
「あれだけのデカ物だ。満足に動かすには相応のエネルギーが必要になる。こういうことを想定しての兵装なのだろうが、蒸気も無限じゃない。必ず大量の水が必要になるはずだ。それはこの川から取るつもりなのだろう。
連中が山脈に設置された水門を破壊するという動きを掴んだ。そいつを阻止してくれ。水門を護るシャンバラの騎士もいるが……事情を話しても味方にはなってくれないだろうな」
つまり、シャンバラ勢力とヘルメリア勢力を同時に相手する可能性があるという事か。
「十分な水の供給が無ければあの兵装も満足には動けまい。そうなればただの固定砲台だ。脅威度は大きく減る。
今後の闘いを左右する作戦だ。任せたぞ」
フレデリックの声に頷き、自由騎士達は動き出す。
蒼白激突――
そう呼ばれるイ・ラプセルとシャンバラの闘いの最中、他国がそれを傍観するという事はなかった。
ヴィスマルクでは年の初めに壊滅したシェオール山脈の整地と同時に進行の準備を進めていた。戦車部隊が動くなどの情報が飛び交い、諜報はその真偽を探っているとか。
パノプティコンはシャンバラ側の国境線防衛を強化し、我関せずを決め込んでいる。今は自国内を管理するのに務めるようだ。
そしてヘルメリアは――シャンバラの絶対防御結界『聖域』に対し、最大火力である『プロメテウス』を突撃させた。
結果は『聖域』を突破できずに敗走することになったが、射出砲弾着弾地点を拠点として周囲を制圧する作戦に切り替わる。防壁などない拠点だが、単純火力でいえばプロメテウスを制圧できる兵装は少ない。その威圧感と火力は周囲を不安の空気に包み込む。
迂闊に索敵範囲に入れば戦車数台分の砲撃が飛び、運良く接近できたとしても巨人族すら切り裂く近接武器と連発系の副砲が火を吹く。街一つを一夜で更地に出来る兵装は個人でどうにかなるものではない。
スパイとして紛れ込んでいたヘルメリアの歯車騎士団も国からの伝令を受けて集結しつつあった。イ・ラプセルに遅れること一か月。戦争最中の力押しともいえる荒業でヘルメリアはシャンバラの国土に踏み入る。
一見不沈に見える火力特化の橋頭保だが――
●イ・ラプセル
「些か功を焦ったな、ヘルメリア。見事な電撃作戦だが、兵站の確保が不十分だ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集められた自由騎士を前に説明を開始する。
「先日、ヘルメリアの人型兵装がシャンバラ王都を強襲。だが強大な結界に阻まれて撤退した。
已む無く一時撤退し、その人型兵装を軸とした長期戦に出るようだ」
イ・ラプセルが防御に特化した橋頭保なら、ヘルメリアのそれは火力に特化したものだ。圧倒的なスペックで威圧し、攻め入らせない。軍事拠点としては及第点以下だが、それでも発生する被害を考えれば直接攻め入るには無謀と言った所か。
「現在ヘルメリアのスパイが集結しているが、圧倒的に足りない物がある――蒸気だ」
フレデリックは地図を指差し、説明を続ける。その指先にはシェオール山脈から流れるカリヤー川があった。農耕期は農地に豊富な水を供給する川だが、秋終わりから新春までは水門を閉じているという。
「あれだけのデカ物だ。満足に動かすには相応のエネルギーが必要になる。こういうことを想定しての兵装なのだろうが、蒸気も無限じゃない。必ず大量の水が必要になるはずだ。それはこの川から取るつもりなのだろう。
連中が山脈に設置された水門を破壊するという動きを掴んだ。そいつを阻止してくれ。水門を護るシャンバラの騎士もいるが……事情を話しても味方にはなってくれないだろうな」
つまり、シャンバラ勢力とヘルメリア勢力を同時に相手する可能性があるという事か。
「十分な水の供給が無ければあの兵装も満足には動けまい。そうなればただの固定砲台だ。脅威度は大きく減る。
今後の闘いを左右する作戦だ。任せたぞ」
フレデリックの声に頷き、自由騎士達は動き出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.18ターン戦線を維持する
どくどくです。
敵の敵はやっぱり敵。
●敵情報
・『潜水兵』(×5)
ヘルメリアの工作兵です。全員ミズビト。ヘルメスの権能によりハーフのキジンとなっています。一定期間毎に特殊なメンテナンスを受けないと死亡しますので、捕虜にしても情報を引き出すことはできません。その前に死にます。
『ホムンクルス』『リュンケウスの瞳 急』『ピッキングマン』等を駆使する隠密系。錬金術スタイルのランク1までを使います。
・『CaD』(×1)
ヘルメリア工作兵。コウモリのケモノビト。オールモストキジン。一定期間毎に特殊なメンテナンスを受けないと死亡しますので、捕虜にしても情報を引き出すことはできません。その前に死にます。
二つ名だけが知れ渡っているスパイです。囮から潜入工作まで何でもこなすとか。18ターン後に勝機なしと判断して撤退します。
軽戦士スタイルのランク2までを駆使して戦います。
・シャンバラ兵(×3~)
水門の見張りです。各所に点在していますが、水門動力施設前は最初3名しかいません。弓などで武装しています。
最初は草原の戦闘に気付きませんが、戦闘中の行動如何で気づかれる可能性があります。そして気付けば先ず増援を呼ぶでしょう。
ガンナースタイルのランク1までを使います。
●場所情報
カリヤー川水門。門を動かす為の動力源がある施設近くの草原。そこで邂逅できます。
時刻は夜。相応の対策が無ければ命中判定などに不利益が生じます。
戦闘開始時、敵前衛に『CaD』、敵後衛に『潜水兵(×5)』がいます。シャンバラ兵に気付かれれば戦場のランダムな場所に現れます(増援含む)。
隠密中の為、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
敵の敵はやっぱり敵。
●敵情報
・『潜水兵』(×5)
ヘルメリアの工作兵です。全員ミズビト。ヘルメスの権能によりハーフのキジンとなっています。一定期間毎に特殊なメンテナンスを受けないと死亡しますので、捕虜にしても情報を引き出すことはできません。その前に死にます。
『ホムンクルス』『リュンケウスの瞳 急』『ピッキングマン』等を駆使する隠密系。錬金術スタイルのランク1までを使います。
・『CaD』(×1)
ヘルメリア工作兵。コウモリのケモノビト。オールモストキジン。一定期間毎に特殊なメンテナンスを受けないと死亡しますので、捕虜にしても情報を引き出すことはできません。その前に死にます。
二つ名だけが知れ渡っているスパイです。囮から潜入工作まで何でもこなすとか。18ターン後に勝機なしと判断して撤退します。
軽戦士スタイルのランク2までを駆使して戦います。
・シャンバラ兵(×3~)
水門の見張りです。各所に点在していますが、水門動力施設前は最初3名しかいません。弓などで武装しています。
最初は草原の戦闘に気付きませんが、戦闘中の行動如何で気づかれる可能性があります。そして気付けば先ず増援を呼ぶでしょう。
ガンナースタイルのランク1までを使います。
●場所情報
カリヤー川水門。門を動かす為の動力源がある施設近くの草原。そこで邂逅できます。
時刻は夜。相応の対策が無ければ命中判定などに不利益が生じます。
戦闘開始時、敵前衛に『CaD』、敵後衛に『潜水兵(×5)』がいます。シャンバラ兵に気付かれれば戦場のランダムな場所に現れます(増援含む)。
隠密中の為、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年03月03日
2019年03月03日
†メイン参加者 8人†
●
「初依頼で敵国に乗り込んでまた別の敵国の兵と戦う事になるなんて……」
闇夜を進みながら、ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)は静かに呟く。遠くシャンバラの地までやって来ての戦闘行為。三国入り乱れる陰謀戦。政治家として自由騎士に参加し……まさか最初の任務が破壊活動を止める事だとは。入団時には夢にも思わなかった。
「ご愁傷様だな。これもイ・ラプセルを護るためだ」
ヨーゼフを宥める様に『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は言葉をかける。とはいえ、この状況はリュリュにとっても未経験のケースだ。ヘルメリアの者に恨みはないが、これも自国の為だ。
「さあて、いよいよ入り組んで来るな」
人差し指を額に当てながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は頭の中で地図を描く。シャンバラ、ヘルメリア、そしてイ・ラプセル。情報が確かならヴィスマルクも動くかもしれない。それぞれがそれぞれの正義の元に。
「強行偵察や破壊活動は得意分野なのだが……」
言って肩をすくめるアデル・ハビッツ(CL3000496)。頭全体を包む兜のお陰でその表情は解らないが、口調から察するに勝手が違うと言いたそうだ。確かに他国の施設を護る為に更に他国の工作員を止めるなど、レアケースだろう。
「シャンバラ側を援護するようで気が進まないけれど、やらなきゃこっちまでシャンバラ攻めが危うくなりかねないし」
『神の御業を断つ拳』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は相手に興味なさげに呟く。ヘルメリアを邪魔する理由は、神を殺す邪魔をされそう、という程度でしかない。 ミトラースを殺すのは自分達だ。そこだけは譲れない。
「キジン化された亜人と接触か……」
複雑な表情を浮かべる『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。特殊なメンテナンスを施さないと命を失う鋼鉄の肉体。ヘルメリアがそれを盾に取り、彼らを酷使していることを思うと、暗澹とした気分になる。
「潜水兵に思うところが無い……といえば嘘だな」
チャクラムを回しながら肩をすくめる『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。一歩逃げるのが遅れれば、自分がそうなっていたかもしれないのだ。だが今はそれを思う余裕はない。今の自分はイ・ラプセルの自由騎士なのだから。
「俺としては好都合だ。シャンバラを叩きながらこうしてヘルメリアの力も削げる。最高じゃねえか」
『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)は銃を握りしめ、静かに呟く。ヘルメリア、と口にしたときに込められた重い感情。その感情が戦いの原動力。奴らの戦力を削れるなら、どんな犠牲も払おう。
「あらまぁ。まさかお出迎えがあるとは思いもしませんでしたよ」
闇の中から6名のキジンが現れる。ミズビトとケモノビト。人の技術ではなし得ない亜人のキジン達。軽薄そうな声色だが、こちらを警戒しているのは空気でわかる。
時間が無いのは互いに共通する事。相容れないのもまた同じ。
まるで申し合わせていたかのように、両者の刃はぶつかっていた。
●
「行くわよ」
最初に動いたのはライカだった。戦いに精神をシフトすると同時に呼吸のリズムを変え、体中に酸素を送り込む。隅々までいきわたる夜の空気。それが神経を活性化させていく。清廉な感覚が全身に届き、体の動きを加速させていく。
軽く腰を下ろし、足に力を籠めるライカ。跳躍するように力を解放し、一気にミズビトの方に向かった。腕を振りかぶり、移動の勢いを殺すことなく『龍王の牙』と『龍牙の拳』を叩きつける。
「ヘルメリアも切り札の一つを切ってきてるんでしょうから『無意味でした』で終わらせられないのね」
「そうなのよねぇ。お陰で俺達みたいな下っ端は大わらわ。宮仕えは厳しいねぇ」
「好んでヘルメリアに属している口ぶりだな、同種(きょうだい)」
『CaD』の軽口に応えるウェルス。同じケモノビトとして思う所があるようだ。頭部以外は機械化したコウモリ。コウモリの表情など読んだことはないが、それでも見る限りは嘘を言っているようには見えない。
相手の様子を伺いながら武器を構えるウェルス。大型拳銃の安全装置をかけ、銃座の部分で殴りかかる。銃声を押さえて可能な限りシャンバラ兵に察知されない為の措置だ。殴打はコウモリの外套を通してその身体に衝撃を与える。
「話を聞く限りではいい所とは思えないがな」
「そりゃ価値観の相違。俺からすればおたくらみたいな田舎の島国はのどかすぎて刺激が足らないんでね」
「こちらの正体に気付いている口ぶりだな」
リュリュは『CaD』の言葉に言及する。こちらは水鏡の情報で相手のことは解っているが、向こうがこちらを知る術はないはずだ。本当に知っているのか、それともハッタリか。言葉を選びながら、しかしタイムラグなしで問い返す。
問いかけながらも動きを止めず動くリュリュ。試験管の口近くを親指と中指で抑え、薬指で底面を叩いて中の液体を拡販する。混ざりあった組成同士が生み出す香。それは生命を活性化させる錬金術の秘薬。それを仲間に向かって飛ばした。
「そりゃ気付く。俺達の姿に無反応な時点でシャンバラじゃない。ヴィスマルクがここまで出張るメリットはない。パノプティコンは動かない。消去法でイ・ラプセルさ」
「成程。相応に頭が切れるようだ」
「どうあれ、ここで殺せばすべて終わりだ」
二丁の銃を構えてザルクが口を開く。元より生かして帰すつもりはない。ヘルメリアと、その利益の為に動く者は全て。そうすることでイ・ラプセルが優位になるという事も確かにある。だがそれよりも、復讐の炎がザルクを駆り立てていた。
『クロックワークタワー』の技術により生まれた銃。それを握りしめてザルクは意識を集中する。過去の思い出は冷たく、復讐の炎は熱く。混じりあう二重の熱を解放するように引き金を引いた。銃声は悲鳴か、慟哭か。
「お前たち個人個人に恨みはないし、ヘルメリアという国に命を握られてる境遇なんだろうよ」
「んなもん軍服に袖を通した時点で皆同じでしょうよ。ま、選択肢なかったっちゃー、そうなんだけど」
「そうなる前に逃げる、っていう選択肢もあったろうにねー」
『CaD』の言葉に肩をすくめるニコラス。ヘルメリアに限らず、亜人は大都市では生きにくい。ノウブル中心の社会では低位置に配属される。ヘルメリアではその差別は大きく、正体がばれれば奴隷か死かの二択――ニコラスはそれをよく知っていた。
気持ちを切り開ける様にため息をつき、チャクラムを構える。蒼きマナを戦輪に付与し、指先で回転させて勢いを付けて投擲した。周囲の温度を吸い取りながらリングは飛び、潜水兵の脇腹を切り裂く。魔の冷気がその動きを封じていく。
「凍らせれば撤退も出来ず、死体回収も出来ない。潜入兵としちゃ辛いだろうね」
「あらもしかしてご同輩? やだねぇ。正直勧誘したくなる」
「愉快な奴だな。こういう状況でなければじっくり話し合いたいぐらいに」
『CaD』の口ぶりにため息をつくツボミ。国に命を握られた悲愴な捨駒、という印象があったがそんな哀しみはまるで感じさせない。あらゆる不運を自覚しながら、『仕方ないか』と肩をすくめて受け入れる姿勢。
だが、と『九矛目』を握りしめるツボミ。仲間の傷具合を確認しながら癒しの魔力を展開していく。相手がどのような存在であれ、敵対国というだけで全てが決定する。そこに肩入れする事はできない。躊躇すれば傷つくのは味方なのだ。
「誰も彼もが正義で悪の、正当の無い争いだ。怖いなあオイ。ま、私は私の都合の為に働くだけなのだが」
「そうそう正義正義。万人を動かす麻薬みたいな言葉だぜ。こっちもこっちの都合で動きたいんで、通してくれません?」
「通すと思ってはいないのだろう?」
槍を構え、アデルが口を開く。イ・ラプセルの為にもここでスパイたちを通すわけにはいかない。ここで彼らを足止めし、プロメテウスへの供給を滞らせる。兵站の重要性は傭兵稼業で嫌というほど知っている。
機械となった前腕のギアをあげる。回転する歯車が『ジョルトランサー』を握る手に力を与えていく。兜の奥から潜水兵を睨み、全身の力を槍に乗せて突撃した。全身全霊の一撃が敵兵を穿ち、その手ごたえが伝わってくる。
「多少の音はこちらでカットする」
「ありがたい。シャンバラに介入されたくないのはお互い様だもんねぇ」
「そうだな。お互い見つかりたくないんで、ここで終結と……いかないよなぁ、チクショウ!」
戦闘の空気に顔を青ざめながら提案するヨーゼフ。自由騎士の仕事がどんなものかと聞いてはいたが、まさか初めての仕事がこんな特殊なモノだなんて。戦時中とはいえそりゃないだろうと内心この運命を呪っていた。
半泣きになりながらスナイパーライフルを構えるヨーゼフ。怯えながらも訓練された身体はしっかりと動いてくれた。身体全体で銃を固定し、狙いを定める。両目で見ながら片目に意識を集中させ、標準を定めて引き金を引いた。
「当て、当て、当てる! 痛い目にあいたくなかったら終わろう!」
「痛いのはやだなぁ。痛くないように済ますから抵抗止めてくれない?」
自由騎士の猛攻をしのぎながら『CaD』が言葉を返す。隠密任務用に用意したナイフを振るいながら、できるだけ音を立てないように動いていた。シャンバラに介入されたくないのは、あちらも同じようだ。
夜の帳の元、二国は交差する。
●
自由騎士達は潜水兵をメインに攻撃を仕掛けていた。水からの水門侵入及び撤退を恐れての行動だ。各個撃破により、その数を減らしていく。
だが、同じことは敵側にも言える。ヘルメリアのスパイもミズビトに迫り攻撃をしているライカとアデルに火力を向けていた。
「……まだよ」
「この程度、まだ逆境ではない」
フラグメンツを削り、意識を保つライカとアデル。
「そいつら倒したら縛っといてねぇ。最悪そいつら連れて帰って戦果にするんで」
さらりとそんなことを言う『CaD』。
「わざわざこっちの陣までやってきてくれるんだから、ありがたく利用させてもらいますよ。お土産お土産っと」
あえて口にすることで自由騎士の不安を煽る『CaD』。だがそういう状況になれば遠慮なくそうするだろう。
「何者だ!」
そして騒ぎを聞きつけたのかシャンバラ兵がやってくる。音を漏らさず戦っていたが、明かりだけはどうしようもない。
シャンバラ、ヘルメリア、そしてイ・ラプセル。戦況は三国入り乱れた戦いとなった。
「逃がしやしないぜ。最後まで楽しもうや」
『CaD』の攻撃にフラグメンツを削られながら、それでもウェルスはその足止めに徹していた。外套で視界を誘導し、生まれた隙をナイフで突くコウモリのケモノビト。癒しの術を行使しながら、相手を見る。飄々とした、それでいて冷徹にこちらを追い込むスパイ兵。それ以上のことは読み取れなかった。
「予想通り混乱系の技か。面倒だな!」
ツボミは『CaD』の攻撃を予測し、術を展開する。手数ではなく技で困惑させてくるタイプ。そのくせ致命的な一撃を繰り出してくる暗殺者。回復の手を休めれば戦線は瓦解する。焦りを感じながらもツボミは冷静に対処していく。
「援軍の数が一気に増えてきたな。そろそろ無視はできないか」
リュリュは魔力の矢をシャンバラ兵に打ち放ち、その数を減らしていく。最初は放置する方向だったが、流石にこちらの被害が増えてきた。二対の矢を解き放ち、軌跡の違いで防御の隙を生みシャンバラ兵を穿っていく。
「今はお前たちを相手している余裕はないんだよ!」
矢を放ってくるシャンバラ兵にザルクは怒りを込めて弾丸を放つ。動きを止める拘束術式を付与した弾丸。ヘルメリア兵をどうにかしたいのだが、状況がそちらに集中させてもらえない。だが放置が出来ないのも事実だ。
「悪いな」
倒れ伏す潜水兵に小さく謝罪するアデル。アクアディーネの不殺の権能をカットし、命を絶つ一撃で相手を伏した。水門襲撃をシャンバラに伝える為に、彼らは死体となって貰わなくてはいけない。
「これで今後拠点防衛に兵を割いて……とうまくいくといいな」
倒れていく潜水兵を見ながら、ニコラスはふうと息を吐く。キジン化したミズビト。そんなことが出来るのはヘルメリアだけだ。ヘルメリアは『脱走兵』と言い張るのだろうが、どうあれこれで水門の強化に繋がれば幸いだ。
「うひぃ! い、痛いではないか!? ああ、もう! 戦いなんて碌なもんじゃないな!」
シャンバラ兵からの矢を受けてヨーゼフが悲鳴を上げるように叫ぶ。フラグメンツを削って何とか耐えているが、それでも痛いものは痛い。荒事に慣れていない事もあってパニックになりながら、それでも銃を撃ち敵を追い込んでいく。
「敵とはいえ、死体を野晒しってなんか……まぁいいけど」
倒れている潜水兵を見てライカは呟く。シャンバラの気質上、敵兵のキジンがまともに弔われるとは思えない。放置か、見せしめの為に人目に晒されるだろう。それを気にするつもりはないが。
「ぐちゃぐちゃだねぇ。こうなったら水門どころじゃないってか」
諦めたように苦笑する『Cad』。シャンバラに気付かれた以上、水門破壊は諦めざるを得まい。警戒は強まり、水門を開ける場所は特に警備が強くなるだろう。
「……ぐ……っ!」
「ここ、までか」
潜水兵を攻めていたライカとアデルが意識を失う。数名の敵兵を倒したが、集中砲火に耐えられなかった形だ。
「これは……! 大したもんだ……!」
『CaD』の刃を受けて、ウェルスが力尽きた。元より前に出るタイプではないのに、よく耐えたというべきだろう。
「撤退撤退! いやあ、イ・ラプセル強いねぇ!」
『CaD』の言葉と同時にヘルメリアが撤退する。倒れた仲間を抱え、夜の闇に消えていく。
「死体はおいて行――」
「追うな! そんな余裕はねぇ!」
倒れたヘルメリア兵を取り返そうとする自由騎士だが、その余裕がない事に気付く。追えば戦闘不能の三人がシャンバラ兵に捕らわれてしまう。こちらも急いで離脱しなくては。
自由騎士達は倒れた仲間を抱え、急ぎ戦線を離脱した。
●
戦い終わり――
「結局、痛み分けか」
「遺体は回収されたし、相手の遺品を持ち帰る事もできなかったか」
安全な場所まで逃げた自由騎士達は、戦いの結果にため息をついた。死体を残すことでヘルメリアへの警戒を高めさせ、また遺品を触媒にして情報を得ようとしたのだがそれもできなかった。結果としては『シャンバラは正体不明の敵を迎撃した』程度でしかない。
だが、
「これでプロメテウスは満足に動けない。ヘルメリアの侵攻は大きく遅れる」
水門が開けられなかった以上、ヘルメリアは十分な水源が得られず、プロメテウスは立ち往生となる。大量の蒸気が必要となる兵器ゆえの欠点だ。ともあれ目的は達したのだ。
「あぁ、このまま引退したい! でも駄目だろうなぁ!」
周りにシャンバラ兵がいないことを確認し、ヨーゼフが叫ぶ。元々インドア派のヨーゼフにとって乱戦は最も遠い場所にあった騒動だ。自由騎士なんてもうごめんだと思いながら、様々な思惑からそれもできないと観念した。
「しかし……てっきり嫌々従っているものと思ってたのにな」
ウェルスは『CaD』の言葉と態度を思い出す。定期的にメンテナンスされないと死亡する身体。国につけられた首輪。それにより非合法な行為を強いられている。それがウェルスが抱くヘルメリアの亜人の印象だった――だが『CaD』にはその悲愴さはなかった。
「状況を受け入れた、って感じだったねぇ」
ニコラスは頭を掻きながら冷静に分析する。ヘルメリアの工作兵として働いていたニコラスは、キジン化される前に逃げる事が出来た。逃げきれなければ命が握られていることを受け入れられるのだろうか――あるいは受け入れられる理由が『CaD』にはあるのか。
「知るか。どうあれヘルメリアに組するのなら次こそは殺す」
短く吐き捨てるザルク。個人的な恨みなどないが、ヘルメリアにより何かを奪われた者は多い。恨みを忘れるつもりはないし、許すつもりもない。敵は人族だが、ヘルメリアであるなら敵なのだ。
「……何とも、寂しい物だな。戦争と言う奴は」
仲間の傷を癒しながらツボミが呟く。皆が手を繋いで生きていけるなどと言う理想郷があるとは思わない。それでも戦わなくてはいけないのだ。国家、神、個人の事情。話し合いの余地などないのだから。
かくして戦いは終わり、カリヤー川水門は守られる。
プロメテウスは蒸気供給が不十分のため、しばらく足止めを喰らう事となった。
だが、ヘルメリア兵がシャンバラに在住していることは確かであり、その数は増えつつある。自由騎士はそのことに懸念する――かと思いきや。
エドワード・イ・ラプセルの大胆ともいえる策により、それどころではなくなってしまうのであった。
「初依頼で敵国に乗り込んでまた別の敵国の兵と戦う事になるなんて……」
闇夜を進みながら、ヨーゼフ・アーレント(CL3000512)は静かに呟く。遠くシャンバラの地までやって来ての戦闘行為。三国入り乱れる陰謀戦。政治家として自由騎士に参加し……まさか最初の任務が破壊活動を止める事だとは。入団時には夢にも思わなかった。
「ご愁傷様だな。これもイ・ラプセルを護るためだ」
ヨーゼフを宥める様に『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は言葉をかける。とはいえ、この状況はリュリュにとっても未経験のケースだ。ヘルメリアの者に恨みはないが、これも自国の為だ。
「さあて、いよいよ入り組んで来るな」
人差し指を額に当てながら『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は頭の中で地図を描く。シャンバラ、ヘルメリア、そしてイ・ラプセル。情報が確かならヴィスマルクも動くかもしれない。それぞれがそれぞれの正義の元に。
「強行偵察や破壊活動は得意分野なのだが……」
言って肩をすくめるアデル・ハビッツ(CL3000496)。頭全体を包む兜のお陰でその表情は解らないが、口調から察するに勝手が違うと言いたそうだ。確かに他国の施設を護る為に更に他国の工作員を止めるなど、レアケースだろう。
「シャンバラ側を援護するようで気が進まないけれど、やらなきゃこっちまでシャンバラ攻めが危うくなりかねないし」
『神の御業を断つ拳』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は相手に興味なさげに呟く。ヘルメリアを邪魔する理由は、神を殺す邪魔をされそう、という程度でしかない。 ミトラースを殺すのは自分達だ。そこだけは譲れない。
「キジン化された亜人と接触か……」
複雑な表情を浮かべる『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。特殊なメンテナンスを施さないと命を失う鋼鉄の肉体。ヘルメリアがそれを盾に取り、彼らを酷使していることを思うと、暗澹とした気分になる。
「潜水兵に思うところが無い……といえば嘘だな」
チャクラムを回しながら肩をすくめる『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)。一歩逃げるのが遅れれば、自分がそうなっていたかもしれないのだ。だが今はそれを思う余裕はない。今の自分はイ・ラプセルの自由騎士なのだから。
「俺としては好都合だ。シャンバラを叩きながらこうしてヘルメリアの力も削げる。最高じゃねえか」
『RED77』ザルク・ミステル(CL3000067)は銃を握りしめ、静かに呟く。ヘルメリア、と口にしたときに込められた重い感情。その感情が戦いの原動力。奴らの戦力を削れるなら、どんな犠牲も払おう。
「あらまぁ。まさかお出迎えがあるとは思いもしませんでしたよ」
闇の中から6名のキジンが現れる。ミズビトとケモノビト。人の技術ではなし得ない亜人のキジン達。軽薄そうな声色だが、こちらを警戒しているのは空気でわかる。
時間が無いのは互いに共通する事。相容れないのもまた同じ。
まるで申し合わせていたかのように、両者の刃はぶつかっていた。
●
「行くわよ」
最初に動いたのはライカだった。戦いに精神をシフトすると同時に呼吸のリズムを変え、体中に酸素を送り込む。隅々までいきわたる夜の空気。それが神経を活性化させていく。清廉な感覚が全身に届き、体の動きを加速させていく。
軽く腰を下ろし、足に力を籠めるライカ。跳躍するように力を解放し、一気にミズビトの方に向かった。腕を振りかぶり、移動の勢いを殺すことなく『龍王の牙』と『龍牙の拳』を叩きつける。
「ヘルメリアも切り札の一つを切ってきてるんでしょうから『無意味でした』で終わらせられないのね」
「そうなのよねぇ。お陰で俺達みたいな下っ端は大わらわ。宮仕えは厳しいねぇ」
「好んでヘルメリアに属している口ぶりだな、同種(きょうだい)」
『CaD』の軽口に応えるウェルス。同じケモノビトとして思う所があるようだ。頭部以外は機械化したコウモリ。コウモリの表情など読んだことはないが、それでも見る限りは嘘を言っているようには見えない。
相手の様子を伺いながら武器を構えるウェルス。大型拳銃の安全装置をかけ、銃座の部分で殴りかかる。銃声を押さえて可能な限りシャンバラ兵に察知されない為の措置だ。殴打はコウモリの外套を通してその身体に衝撃を与える。
「話を聞く限りではいい所とは思えないがな」
「そりゃ価値観の相違。俺からすればおたくらみたいな田舎の島国はのどかすぎて刺激が足らないんでね」
「こちらの正体に気付いている口ぶりだな」
リュリュは『CaD』の言葉に言及する。こちらは水鏡の情報で相手のことは解っているが、向こうがこちらを知る術はないはずだ。本当に知っているのか、それともハッタリか。言葉を選びながら、しかしタイムラグなしで問い返す。
問いかけながらも動きを止めず動くリュリュ。試験管の口近くを親指と中指で抑え、薬指で底面を叩いて中の液体を拡販する。混ざりあった組成同士が生み出す香。それは生命を活性化させる錬金術の秘薬。それを仲間に向かって飛ばした。
「そりゃ気付く。俺達の姿に無反応な時点でシャンバラじゃない。ヴィスマルクがここまで出張るメリットはない。パノプティコンは動かない。消去法でイ・ラプセルさ」
「成程。相応に頭が切れるようだ」
「どうあれ、ここで殺せばすべて終わりだ」
二丁の銃を構えてザルクが口を開く。元より生かして帰すつもりはない。ヘルメリアと、その利益の為に動く者は全て。そうすることでイ・ラプセルが優位になるという事も確かにある。だがそれよりも、復讐の炎がザルクを駆り立てていた。
『クロックワークタワー』の技術により生まれた銃。それを握りしめてザルクは意識を集中する。過去の思い出は冷たく、復讐の炎は熱く。混じりあう二重の熱を解放するように引き金を引いた。銃声は悲鳴か、慟哭か。
「お前たち個人個人に恨みはないし、ヘルメリアという国に命を握られてる境遇なんだろうよ」
「んなもん軍服に袖を通した時点で皆同じでしょうよ。ま、選択肢なかったっちゃー、そうなんだけど」
「そうなる前に逃げる、っていう選択肢もあったろうにねー」
『CaD』の言葉に肩をすくめるニコラス。ヘルメリアに限らず、亜人は大都市では生きにくい。ノウブル中心の社会では低位置に配属される。ヘルメリアではその差別は大きく、正体がばれれば奴隷か死かの二択――ニコラスはそれをよく知っていた。
気持ちを切り開ける様にため息をつき、チャクラムを構える。蒼きマナを戦輪に付与し、指先で回転させて勢いを付けて投擲した。周囲の温度を吸い取りながらリングは飛び、潜水兵の脇腹を切り裂く。魔の冷気がその動きを封じていく。
「凍らせれば撤退も出来ず、死体回収も出来ない。潜入兵としちゃ辛いだろうね」
「あらもしかしてご同輩? やだねぇ。正直勧誘したくなる」
「愉快な奴だな。こういう状況でなければじっくり話し合いたいぐらいに」
『CaD』の口ぶりにため息をつくツボミ。国に命を握られた悲愴な捨駒、という印象があったがそんな哀しみはまるで感じさせない。あらゆる不運を自覚しながら、『仕方ないか』と肩をすくめて受け入れる姿勢。
だが、と『九矛目』を握りしめるツボミ。仲間の傷具合を確認しながら癒しの魔力を展開していく。相手がどのような存在であれ、敵対国というだけで全てが決定する。そこに肩入れする事はできない。躊躇すれば傷つくのは味方なのだ。
「誰も彼もが正義で悪の、正当の無い争いだ。怖いなあオイ。ま、私は私の都合の為に働くだけなのだが」
「そうそう正義正義。万人を動かす麻薬みたいな言葉だぜ。こっちもこっちの都合で動きたいんで、通してくれません?」
「通すと思ってはいないのだろう?」
槍を構え、アデルが口を開く。イ・ラプセルの為にもここでスパイたちを通すわけにはいかない。ここで彼らを足止めし、プロメテウスへの供給を滞らせる。兵站の重要性は傭兵稼業で嫌というほど知っている。
機械となった前腕のギアをあげる。回転する歯車が『ジョルトランサー』を握る手に力を与えていく。兜の奥から潜水兵を睨み、全身の力を槍に乗せて突撃した。全身全霊の一撃が敵兵を穿ち、その手ごたえが伝わってくる。
「多少の音はこちらでカットする」
「ありがたい。シャンバラに介入されたくないのはお互い様だもんねぇ」
「そうだな。お互い見つかりたくないんで、ここで終結と……いかないよなぁ、チクショウ!」
戦闘の空気に顔を青ざめながら提案するヨーゼフ。自由騎士の仕事がどんなものかと聞いてはいたが、まさか初めての仕事がこんな特殊なモノだなんて。戦時中とはいえそりゃないだろうと内心この運命を呪っていた。
半泣きになりながらスナイパーライフルを構えるヨーゼフ。怯えながらも訓練された身体はしっかりと動いてくれた。身体全体で銃を固定し、狙いを定める。両目で見ながら片目に意識を集中させ、標準を定めて引き金を引いた。
「当て、当て、当てる! 痛い目にあいたくなかったら終わろう!」
「痛いのはやだなぁ。痛くないように済ますから抵抗止めてくれない?」
自由騎士の猛攻をしのぎながら『CaD』が言葉を返す。隠密任務用に用意したナイフを振るいながら、できるだけ音を立てないように動いていた。シャンバラに介入されたくないのは、あちらも同じようだ。
夜の帳の元、二国は交差する。
●
自由騎士達は潜水兵をメインに攻撃を仕掛けていた。水からの水門侵入及び撤退を恐れての行動だ。各個撃破により、その数を減らしていく。
だが、同じことは敵側にも言える。ヘルメリアのスパイもミズビトに迫り攻撃をしているライカとアデルに火力を向けていた。
「……まだよ」
「この程度、まだ逆境ではない」
フラグメンツを削り、意識を保つライカとアデル。
「そいつら倒したら縛っといてねぇ。最悪そいつら連れて帰って戦果にするんで」
さらりとそんなことを言う『CaD』。
「わざわざこっちの陣までやってきてくれるんだから、ありがたく利用させてもらいますよ。お土産お土産っと」
あえて口にすることで自由騎士の不安を煽る『CaD』。だがそういう状況になれば遠慮なくそうするだろう。
「何者だ!」
そして騒ぎを聞きつけたのかシャンバラ兵がやってくる。音を漏らさず戦っていたが、明かりだけはどうしようもない。
シャンバラ、ヘルメリア、そしてイ・ラプセル。戦況は三国入り乱れた戦いとなった。
「逃がしやしないぜ。最後まで楽しもうや」
『CaD』の攻撃にフラグメンツを削られながら、それでもウェルスはその足止めに徹していた。外套で視界を誘導し、生まれた隙をナイフで突くコウモリのケモノビト。癒しの術を行使しながら、相手を見る。飄々とした、それでいて冷徹にこちらを追い込むスパイ兵。それ以上のことは読み取れなかった。
「予想通り混乱系の技か。面倒だな!」
ツボミは『CaD』の攻撃を予測し、術を展開する。手数ではなく技で困惑させてくるタイプ。そのくせ致命的な一撃を繰り出してくる暗殺者。回復の手を休めれば戦線は瓦解する。焦りを感じながらもツボミは冷静に対処していく。
「援軍の数が一気に増えてきたな。そろそろ無視はできないか」
リュリュは魔力の矢をシャンバラ兵に打ち放ち、その数を減らしていく。最初は放置する方向だったが、流石にこちらの被害が増えてきた。二対の矢を解き放ち、軌跡の違いで防御の隙を生みシャンバラ兵を穿っていく。
「今はお前たちを相手している余裕はないんだよ!」
矢を放ってくるシャンバラ兵にザルクは怒りを込めて弾丸を放つ。動きを止める拘束術式を付与した弾丸。ヘルメリア兵をどうにかしたいのだが、状況がそちらに集中させてもらえない。だが放置が出来ないのも事実だ。
「悪いな」
倒れ伏す潜水兵に小さく謝罪するアデル。アクアディーネの不殺の権能をカットし、命を絶つ一撃で相手を伏した。水門襲撃をシャンバラに伝える為に、彼らは死体となって貰わなくてはいけない。
「これで今後拠点防衛に兵を割いて……とうまくいくといいな」
倒れていく潜水兵を見ながら、ニコラスはふうと息を吐く。キジン化したミズビト。そんなことが出来るのはヘルメリアだけだ。ヘルメリアは『脱走兵』と言い張るのだろうが、どうあれこれで水門の強化に繋がれば幸いだ。
「うひぃ! い、痛いではないか!? ああ、もう! 戦いなんて碌なもんじゃないな!」
シャンバラ兵からの矢を受けてヨーゼフが悲鳴を上げるように叫ぶ。フラグメンツを削って何とか耐えているが、それでも痛いものは痛い。荒事に慣れていない事もあってパニックになりながら、それでも銃を撃ち敵を追い込んでいく。
「敵とはいえ、死体を野晒しってなんか……まぁいいけど」
倒れている潜水兵を見てライカは呟く。シャンバラの気質上、敵兵のキジンがまともに弔われるとは思えない。放置か、見せしめの為に人目に晒されるだろう。それを気にするつもりはないが。
「ぐちゃぐちゃだねぇ。こうなったら水門どころじゃないってか」
諦めたように苦笑する『Cad』。シャンバラに気付かれた以上、水門破壊は諦めざるを得まい。警戒は強まり、水門を開ける場所は特に警備が強くなるだろう。
「……ぐ……っ!」
「ここ、までか」
潜水兵を攻めていたライカとアデルが意識を失う。数名の敵兵を倒したが、集中砲火に耐えられなかった形だ。
「これは……! 大したもんだ……!」
『CaD』の刃を受けて、ウェルスが力尽きた。元より前に出るタイプではないのに、よく耐えたというべきだろう。
「撤退撤退! いやあ、イ・ラプセル強いねぇ!」
『CaD』の言葉と同時にヘルメリアが撤退する。倒れた仲間を抱え、夜の闇に消えていく。
「死体はおいて行――」
「追うな! そんな余裕はねぇ!」
倒れたヘルメリア兵を取り返そうとする自由騎士だが、その余裕がない事に気付く。追えば戦闘不能の三人がシャンバラ兵に捕らわれてしまう。こちらも急いで離脱しなくては。
自由騎士達は倒れた仲間を抱え、急ぎ戦線を離脱した。
●
戦い終わり――
「結局、痛み分けか」
「遺体は回収されたし、相手の遺品を持ち帰る事もできなかったか」
安全な場所まで逃げた自由騎士達は、戦いの結果にため息をついた。死体を残すことでヘルメリアへの警戒を高めさせ、また遺品を触媒にして情報を得ようとしたのだがそれもできなかった。結果としては『シャンバラは正体不明の敵を迎撃した』程度でしかない。
だが、
「これでプロメテウスは満足に動けない。ヘルメリアの侵攻は大きく遅れる」
水門が開けられなかった以上、ヘルメリアは十分な水源が得られず、プロメテウスは立ち往生となる。大量の蒸気が必要となる兵器ゆえの欠点だ。ともあれ目的は達したのだ。
「あぁ、このまま引退したい! でも駄目だろうなぁ!」
周りにシャンバラ兵がいないことを確認し、ヨーゼフが叫ぶ。元々インドア派のヨーゼフにとって乱戦は最も遠い場所にあった騒動だ。自由騎士なんてもうごめんだと思いながら、様々な思惑からそれもできないと観念した。
「しかし……てっきり嫌々従っているものと思ってたのにな」
ウェルスは『CaD』の言葉と態度を思い出す。定期的にメンテナンスされないと死亡する身体。国につけられた首輪。それにより非合法な行為を強いられている。それがウェルスが抱くヘルメリアの亜人の印象だった――だが『CaD』にはその悲愴さはなかった。
「状況を受け入れた、って感じだったねぇ」
ニコラスは頭を掻きながら冷静に分析する。ヘルメリアの工作兵として働いていたニコラスは、キジン化される前に逃げる事が出来た。逃げきれなければ命が握られていることを受け入れられるのだろうか――あるいは受け入れられる理由が『CaD』にはあるのか。
「知るか。どうあれヘルメリアに組するのなら次こそは殺す」
短く吐き捨てるザルク。個人的な恨みなどないが、ヘルメリアにより何かを奪われた者は多い。恨みを忘れるつもりはないし、許すつもりもない。敵は人族だが、ヘルメリアであるなら敵なのだ。
「……何とも、寂しい物だな。戦争と言う奴は」
仲間の傷を癒しながらツボミが呟く。皆が手を繋いで生きていけるなどと言う理想郷があるとは思わない。それでも戦わなくてはいけないのだ。国家、神、個人の事情。話し合いの余地などないのだから。
かくして戦いは終わり、カリヤー川水門は守られる。
プロメテウスは蒸気供給が不十分のため、しばらく足止めを喰らう事となった。
だが、ヘルメリア兵がシャンバラに在住していることは確かであり、その数は増えつつある。自由騎士はそのことに懸念する――かと思いきや。
エドワード・イ・ラプセルの大胆ともいえる策により、それどころではなくなってしまうのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
不殺を切るとか容赦ない……まあ戦争だしね!
以上のような結果になりました。
明かりを押さえて音を出さない武器で戦うかと思いきや、バレる前提で挑むとは。
そういう事もあり、双方かなり被害が出た形です。
さて、シャンバラ戦は佳境に入ります。
この後、どのような展開になっていくのか。それを決めるのは皆さまです。
それではまた、イ・ラプセルで。
不殺を切るとか容赦ない……まあ戦争だしね!
以上のような結果になりました。
明かりを押さえて音を出さない武器で戦うかと思いきや、バレる前提で挑むとは。
そういう事もあり、双方かなり被害が出た形です。
さて、シャンバラ戦は佳境に入ります。
この後、どのような展開になっていくのか。それを決めるのは皆さまです。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済