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VaporGoblin! ……ちがう、そうじゃない



●VaporGoblin
 ゴブリン――
 身長1mほどの人型幻想種である。人のすまない場所に集落を作り、粗暴で時折人里を襲うこともある。武装していない者からすれば脅威で、素人が武器を持った程度では返り討ちだ。知らせが遅れて村一つが崩壊したという事例もある。
 ――というのも一昔の話だ。銃器等の文化発達により、彼らは人の住む場所に近寄らなくなった。それでも恐れを知らずに襲い掛かってくることもあるが、ゴブリン襲撃と犠牲者は年々数を減らしていた。
「――というのも一昔前の話ゴブ。我らゴブリンも蒸気文明に目覚めたゴブ!」
 ゴブー! と大声をあげるゴブリン。語尾にゴブとかホブゴブつけるのは様式美なわけなのでご了承ください。
「見るがいい、この蒸気で動くゴブリン戦車! 砲台からは主砲を発射できる! そして突撃用の新兵器! さらにはゴブリンそれぞれに蒸気兵器も作ったゴブ!」
 ゴブー! 渡された『蒸気兵器』を手にして喜ぶゴブリン。それを装着し、振り回している。時々仲間を殴り、喧嘩に発展して2D6体ほどゴブリンの数が減るが、些細なことだ。
「さあ、人間達の村に攻め入るゴブ! そして……えーと……なんか酷いことするゴブ!」
「ごぶー! 女を攫って……なんかするゴブー!」
「逃げ惑う子供に……怖い顔して追いかけるゴブー!」
 あれです。もう何十年も人間を襲っていないので、何していいかわからないようです。
 だが、蒸気力を経たゴブリン達の蹂躙能力は数十倍に増している(自称)。そして脅威たるはその数だ。充分な知識と環境があれば、世界はゴブリンがノウブルの代わりにとって代わっていただろう。2か月ぐらいは。
「出撃ゴブー!」
 そして、蒸気ゴブリン軍団の進軍が始まった。

●階差演算室
「ええと……。皆、ゴブリンって知ってるかな?」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)の言葉は、彼女にしては珍しく歯切れが悪かった。
「そうそう、幻想種のゴブリン。それが村を襲うためにやってくるんだけど……」
 村を襲う幻想種。それを水鏡が予知したのだ。プラロークとしてはそれを自由騎士に伝え、自由騎士はそれを受けて出撃する。その流れに何の問題もなかった。事実、クラウディアもそれは理解しているし、ゴブリンを放置するつもりはない。ないんだけど――
「大きな壺を荷台に乗せて水を茹でてる車を引っ張ってるんだ。あと、お湯を入れたヤカンを手にしてる」
 …………なにそれ? 自由騎士は無言でそう問いかけた。
「よくわからないけど『新兵器だ』『蒸気の力を思い知れ』的な事を言っているからそういう事なんじゃない?」
 熱した水は蒸気になる。それを使って戦うなら蒸気の力と言えない事も……ねーよ。
「ともあれ、あれだけの数のゴブリンが村に入ったらそれだけでパニックだから止めてきてほしいの。
 あと、余裕があればでいいんでゴブリン達に新たな興味を持たせてほしいんだ」
 ゴブリンは控えめに言って思慮が足りない所があるが、新しい事には興味津々だ。自らの興味さえ満たしてしまえば、人里に押し入るようなことはないだろう。
「宜しく頼むねー!」
 送り出すクラウディアの声。その声に押されるように自由騎士達は演算室を出た。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
どくどく
■成功条件
1.ゴブリン蒸気戦車の打破
 どくどくです。
 ちがう、そうじゃない。

●敵情報
・ゴブリン
 蒸気の力を得たゴブリンです。得たのかなぁ? ともあれそう思っているゴブリンです。
 人間を襲っていたのは祖父当たりの世代。悪戯好きで『人間が困った顔するのがおもしろそうだから襲おう!』程度の襲撃です。
 数は多いのですが、ゴブリン蒸気戦車さえ倒してしまえば降参します。

・ゴブリン蒸気戦車(×1)
 大きさ2mほどのツボに車輪を付けた乗り物です。底部に薪を設置し、ツボの中の水を煮込んでいます。動力源は人力。ゴブリンが数名がかりで引っ張っています。砲撃手の命令で主砲が発射されます。
 こんなんでもキャラクター扱いなので、HPは存在しますしBSにもかかります。アンガーとかどうなるんだ、これ?

 攻撃方法
主砲発射 攻遠単 ツボの中で煮ている熱石をスリングで投げてきます。石を掬う際にゴブリンは火傷します。
副砲掃射 攻近単 おたまでお湯を掬ってぶちまけます。熱いだけ。【ダメージ0】【ショック】

・ゴブリン突撃兵器(×1)
 移動式シーソーです。ゴブリンを射出します。
 3ターンに1度、自由騎士側後衛に『蒸気ゴブリン』を投げ飛ばして配置します。投げ飛ばされたゴブリンはHPが半分になり、【パラライズ1】【スロウ1】【致命】状態になります。
 こんなんでもキャラクターなので以下略。

・蒸気ゴブリン(×8~)
 お湯を入れた鉄製ヤカンを武器に戦うゴブリンです。戦闘力はお察し。
 数で押す戦略が基本です、旗であるゴブリン蒸気戦車が壊されれば戦意は一気になくなります。

 攻撃方法
ヤカンで殴る 攻近単 ヤカンで殴ってきます。ヤカン程度に痛いです。
ヤカンを投擲 攻遠単 ヤカンを投げつけてきます。ヤカンはすぐに補充されます。

●場所情報
 イ・ラプセルにある山村近く。村から少し離れた道で戦います。時刻は昼。足場や明るさは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『蒸気ゴブリン(×8)』が、敵後衛に『ゴブリン蒸気戦車』『ゴブリン突撃兵器』がいます。
 事前付与は一度だけ可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
5個  1個  1個  1個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
7/8
公開日
2020年02月08日

†メイン参加者 7人†




「進軍ゴブー! しっかり引くゴブー!」
「ゴブーゴブー」
 掛け声をあげながら巨大な壺……ゴブリン蒸気戦車を引っ張るゴブリン達。進軍するゴブリンの数は多く、労働力は充分だ。確かにあれだけのゴブリンが人里に降りれば迷惑だろう。暴れる子供が走り回る程度には。
 そしてその前に立つ自由騎士。その表情は様々だ。
「……私が知っているゴブリンと些か差異が激しいのだが」
 額を押さえながら『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は呟く。報告書などの書物に記されたゴブリンはまさに悪鬼。血の惨劇を望む種族だった。これも時代か、と気持ちを切り替える。
「頭がいいのか悪いのかわからんな」
「でも機会さえあれば人を襲う事には変わりないのね」
 言って肩をすくめる『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。手法はどうあれ、人を襲う幻想種であることには変わりない。ならばやるべきことは変わらない。籠手を手にはめ、具合を確認するように各関節部分を動かした。
「いいわ。後悔させてあげる」
「まあでも、彼らの中にも『ヒト』の文化を得ようよする者も、いるんだし」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はゴブリンの文化発展に頷いた。結果はどうあれ、蒸気に興味を持ち、自ら兵器を生み出したのだ。その心意気と向上心は褒めたたえられるべきだろう。……方向性と結果はさておき。
「彼等の行動から生活ぶりを想像すると、心が温まる気がするよ」
「すごいごぶりんなんだね!」
 目をキラキラ輝かせて『元気爆発!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)がゴブリンを見る。蒸気の力に目覚めたゴブリン。カーミラ的には強いゴブリンもいたらいいなぁ、等と思いもしたが、それはそれ。やるべきことはきっちりこなそう。
「よーし、がんばるぞ!」
「確かにいいゴブリンだ」
『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)もゴブリンを見て頷いた。失敗は成功の母。一番いけないのは、失敗を恐れて何もしない事。行動して結果を出したのなら、先ずは成功と言ってもいいだろう。より良い結果にするなら、更なる努力をしなくては。
「まあ現状はお湯で遊ぶ迷惑なアホ共だがな!」
「彼らは始めの一歩を踏み出した。蒸気の先達としてそれを見守るのも選択肢の一つだろう」
 芝居かかった口調で『永遠のアクトゥール』コール・シュプレ(CL3000584)はゴブリン達を称賛する。戦いを経て成長・発展する文化もある。彼らにとってこの戦いがその兆しとなればいいのだが。それはそれとして、人里を襲われるのは駄目なので止めなくては。
「だがこれも運命。我ら自由騎士、その歩みを止める為にいざ参上!」
「湯を沸かす所までは完璧ですのに……あと1つ、あと1つピースが足りない……」
 湯を沸かすゴブリン達を見ながら、『空飛ぶナポリタンの使徒』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は額に手を当てた。蒸気という発想から兵器を生み出し、形にしたことは称賛に値する。だけどもう少し。あともう少し欲しかった。
「これはFPMの教えを広めなければなりません」
「何かいるゴブ! 排除するゴブ!」
「戦闘体制を取るでゴブー! 蒸気ハンマー装着ゴブー!」
「じょうきはんまー? ……ああ、ヤカンのことか」
 お湯をヤカンに入れて自由騎士達の前に立つ蒸気ゴブリン達。一応それが終わるまで律儀に待つ自由騎士達。あ、事前付与時間の寸劇です。
 かくして、村を襲う幻想種と自由騎士との戦いが始まるのであった。


「さあ、御祈りの時間です」
 最初に動いたのはアンジェリカだった。巨大な十字架状の武器を持ち、一気に蒸気戦車に迫っていく。行く手を遮るゴブリンに向けて、十字架を振り下ろした。轟音と共に悲鳴が上がり、地に伏すゴブリンに手を合わせる。
「神の導きがあらんことを。……死んでませんけどね」
「ケガしたくないならどきなさい!」
 拳を握り、エルシーもゴブリンの群れに突撃する。細かにステップを踏みながら複数のゴブリン相手に適した位置を確保し、踏み込みと同時に拳を振るう。ゴブリンの攻撃を上体を逸らして交わし、カウンター気味に紅色の籠手を叩きつけた。
「襲い掛かってくるなら容赦はしないわよ!」
「くるならこーい!」
 拳を突き出しカーミラが笑みを浮かべる。相手がそれほど邪悪でもないので、拳に乗るのは殺意よりも闘争心の割合が高い。迫るゴブリン達に次々と拳を叩き込み、一気に数を減らしていく。途中、頭の上を通過するゴブリンを見て、その着地(?)を見届けた。
「……なんか死にそうだけど、大丈夫なのかな?」
「癒してあげた気持ちはあるけど……今は敵だから、ね」
 跳んできた(跳ばされた?)ゴブリンに同情的な瞳を向けるマグノリア。疲弊しながらもこちらにヤカンを向ける所を見ると、こちらと戦う気力は充分にあるようだ。そんなゴブリンの数を減らすために、シーソーに向けて骨の兵士を解き放つ。
「戦いが終わったら、癒してあげるから」
「この戦場の中で誰が一番死にそうか、と言われれば確かにこいつらだよなぁ……」
 ツボミは医学的見地から魔術治療の順番を選択する。ヤカンを持つゴブリン相手に戦う仲間と、今しがた放物線を描いて地面にたたきつけられたゴブリン。どちらがダメージが高いかと言われれば……そこまで考えて首を振った。
「そこを動くなよ。サクッと終わらせてすぐに癒してやるからな」
「うむ。早く戦闘を終わらせる方が、ゴブリン達の傷も少なかろう」
 鷹揚に首を振るテオドール。矢次に魔力の針を飛ばし、ゴブリン達の持つヤカンを討ち貫いていく。ゴブリン達が火傷しているが、自業自得だ。トロメーアとかで身動き取れずに苦しむよりは、よっぽどましだろう。
「それほど危惧するほどでもあるまい。すぐに終わる」
「然り然り。彼らはまだはじめの一歩。挫折を知るのもまた経験だ」
 指を立ててコールは言葉を放つ。蒸気ゴブリンの攻撃を避けながら、カスタネットの音律で呪文を奏で、蒸気戦車に氷の魔術を放つ。蒸気戦車を動かすゴブリン達が凍り付き、戦車の動きが止まった。
「戦い以外にも蒸気の道はある。それも一つのストーリーだ」
 自由騎士達は始終優勢に戦いを展開する。
 数で押すゴブリンだが、数の差を個人の質で自由騎士達は補っていた。そのままゴブリン蒸気戦車にまで迫り、一気に武器を叩きつける。
「これで終わりだー!」
「ゴブー!」
 最後はカーミラの突撃で、ゴブリン蒸気戦車は戦闘不能になった。


「降伏ゴブー! お命だけはお許しだゴブー!」
「無駄ゴブ! 俺たち『ケイケンテン』の為に殺されるゴブー!」
「せめて痛くないようにしてほしいゴブ!」
 蒸気戦車を押さえられて、あっさり降伏するゴブリン達。どちらかというと人生諦めモードである。ゴブリンのくっころとか誰得か。
「確かにここで殺しておく方が後腐れはないのだろうが」
 貴族の立場としてテオドールが意見を述べる。人に害為す存在を放置することは、統治する立場からすれば好ましくない。だが、共存できるのならそれに越したことはない。
 それは自由騎士全員の共通の意見だった。治療をしているマグノリアやツボミ含めて、ゴブリン達を駆逐するつもりはない。人里への被害がなければそれでよかった。そのためにも、別の方向に興味を持たせる必要がある。
「下手に知恵や道具を与えるのも問題よね。湯を沸かすことが出来るんだったら……」
 エルシーは言いながら鳥の骨と言った出汁の元を取り出す。
「いい? こうした骨を煮込むことによって、そこから味が出るの。火加減はこれぐらいで、このまま時間をかけて――」
 小さな鍋で鳥の骨を煮込むエルシー。ゴブリン達は興味深くそれを見ていた。アクを取り除きながらしばし煮込んだ出汁を小皿にとって味見する。
「ほら。これ、飲んでみて」
「うまゴブー! こんなお湯飲んだことないゴブ!」
「たいていの動物の骨や食べ残しの肉はこうして煮込めば出汁になるわ。
 肉だけじゃないわよ。山のキノコも種類によってはいけるわね。アマノホカリでは乾燥させた昆布とかも出汁にするみたいだけど……流石にそれは難しいか」
「ええ。ですがお湯の神髄はそれだけではありません!」
 鍋をもう一つ持ってきてアンジェリカがゴブリン達に笑顔を見せる。アマノホカリでいうアルカイックスマイルだ。
「貴方達は蒸気力を無駄にしています。湯を沸かし、湯気が出る。
 となれば……次は茹でなければ湯と蒸気に失礼というもの!」
 茹でるのに蒸気関係ないじゃん、というツッコミは空気読んで誰もしなかった。
「鍋に火を入れて塩をわずかに入れます。沸騰……いいえ、蒸気パワーが満ちて細かな泡が生まれればそこにパスタを投入します。そう、パスタと蒸気の融合! 言うなれば蒸気文明とパスタ神が手を結び、神への道が見えるのです」
「神……ゴブ!?」
「ええ、ゴブリンにもパスタ神は存在します。いいえ、貴方達が神になるのです。ゴブリン界のパスタ神を目指しなさい……目指しなさい……目指しなさい……」
 オーディオエフェクト使って他の声を聞こえなくさせて、セルフエコーで洗n……パスタのすばらしさを教えるアンジェリカ。
「パスタ美味しいよね! あと鶏がらと麺類を混ぜるとラーメンになるよ!」
 央華大陸の料理を思い出すカーミラ。彼女は何かを教えるというよりは、物を教わるゴブリン達と共感するように行動していた。エルシーが作った鶏ガラにアンジェリカのパスタを混ぜ、箸でずるずるとすすって食べている。
「あ、お箸の使い方はこう! 指先でこう掴むんだよ!」
「ごぶー!」
「食でお腹が膨れれば、次は身を清めよう。そう、君達が生み出した蒸気戦車が生まれ変わる時だ!」
 羊皮紙に描いた絵を見せながらコールが前に出る。書かれているのは壺とヤカンを使った移動式風呂の図だ。
「人里離れた自然の中、湯につかるのは文明的と聞く……そういう場所は景色も良いだろう」
 例えば山の景色を楽しみながらお湯につかりリラックスする。景観で視界を癒されながら体を温め、心と身体の両方で温もりを感じることが出来るだろう。割と出まかせだが、そこはコールも役者だ。不安を感じさせないように言いきった。
「不測の事態に備えて消火用にヤカンを用意する。山の葉などを風呂に入れることで、適度な香りを生み出す。移動することで飽きることのない景色を楽しんでもらえる。
 リラクゼーションとエンターテインメントの融合とはこういうことを言うのだよ」
「ごぶー!」
 よく分かっていないだろうけど、勢いで賛同するゴブリン達。
「移動式お風呂! お風呂ってこう言うふうにやるんだよ! そーれ!」
 風呂の文化を知らないだろうゴブリンに、例を示すと言わんがばかりにカーミラがツボの中に飛び込んだ。ためらいのない飛び込みっぷりである。あとためらいのない脱ぎっぷりである。
「はふー。きもちいいー」
「カーミラ嬢、少しは羞恥という事を……いや、いまはいい」
 言ってから咳払いをして、空気を換えるテオドール。
「もしヒトを風呂に入れるときは、これを頂くように要求するんだ」
 テオドールが示したのは、イ・ラプセルで使われている貨幣である。なお国家間の貨幣価値等について語りだすと長いうえに面倒なので、ふんわりとさせていただきます。
「そして時折人里に降りてこれと食べ物を交換しろと要求するといい」
「コウカン?」
「うむ、ヒトはこれを渡すといろいろなモノを渡してくれる。いわば強奪の為の武器だ」
 テオドールがしていることは、貨幣経済のレクチャーだ。ゴブリンに分かりやすいように強奪とかの単語を使っているが、要するに労働対価と貨幣取引である。きちんとした商売で稼いでいるので、信用もある。
「蒸気文明ゴブリンの新たな武器。それがお金と言うものだ」
「あと……お金を使って本を買うといいよ」
 マグノリアは一冊の本をゴブリン達に渡す。大陸共通語で書かれた蒸気機関の基礎が書かれた本だ。
「文字は読めるかい? 分からないなら教えてあげるよ。先ず君達ゴブリンを示す言葉はこう書くんだ」
 文字に触れたことのないゴブリン達は、興味津々とばかりにマグノリアの教えを受ける。地面に書かれた文字をなぞるように枝で書き、すこしずつ文字らしい形になっていく。
「この蒸気戦車を作り出したのはキミかな。うん、独学でここまでできたのは素晴らしい事だと思うよ。
『目的』に対する『発想力』と『情熱』は素直に凄いからね」
 何もない状態から手探りで物を作る。その苦難はマグノリアも知っている。種族こそ違うが、何かを求める情熱の高さに違いはない。
「もしかしたら、『ヒト』との共生も、出来るかもね」
「無論、貴様らだけで発展させる道もある!」
 治療を終えたツボミが人形をゴブリン達の前に置く。
「良いかゴブリン共、蒸気の力の粋は戦車では無い。スチムマータ、蒸気人型兵器(ロボ)だ!」
「ロボ……ゴブか!」
 その単語に心惹かれるものがあったのか、瞳を輝かせて人形を見る。
「想像してみろ。人工物で作り上げた鋼の巨人! いや巨ゴブリンが貴様達の命令通りに動くのだ! 蒸気を吹き出しながら、轟音をあげて唸るパンチ!
 さあこれを受け取れ。そしてこれがスチムマータの仕様書の写しだ!」
 製作者の許可とか取ってないけど、まあいいや。そんな感じでツボミは悪びれることなく羊皮紙を渡す。
「さあ行け! 研究と探求の道を!」
「ゴブー!」
 湧き上がるゴブリン達。
 ここに新たな蒸気ゴブリンの未来が切り開かれたのであった。


 百年後――
「ネオヘルメリアの『蒸気自動殺戮兵器』の進行、止まりません!」
「リボーン・シャンバラ神聖騎士団、その数は十万を超える模様!」
「アルファ・パノプティコンの言語ミーム汚染が通信を阻害しています! ラ・ヒ・イ・ス!」
 三カ国同時進行。イ・ラプセルは波状攻撃ともいえる攻勢を何とかしのいでいた。それはイ・ラプセル騎士達の働き故である。だが彼らの体力と精神は連戦により疲弊していた。物資も乏しく、いずれ耐えきれなくなるのは明白だ。
「せめて、伝説の自由騎士達が健在であったならば……!」
 かつて活躍したオラクル騎士団自由騎士。神の蟲毒を生き、時代を生み出したと言っても過言ではない彼らは様々な理由でこの場にいない。新天地を求めた者、剣を鍬に変えた者、引退して後進を育てている者、様々だ。彼らさえ此処にいれば……。
「イ・ラプセルもここまでか――」
「自由騎士達はこんな状況でも弱音を吐かなかったゴブ!」
 ひざを折りそうになる騎士団達。そんな彼らに声をかけるものがあった。
「何者だ!?」
「我ら、ゴブリン蒸気部隊! かつてひいひいひいひいひいひい爺さんから受けた恩、今こそ返すときゴブ!」
「ささ、美味しい料理を食べるゴブ! 出汁が効いてるゴブよ」
「神はパスタを我らに授けたゴブ。肉は麺。血はトマトケチャップ。これらをもってヒトと為し、絡み合うことで真価を発する。祈るゴブよ。らーめん」
「ゴブリン温泉に入ればリフレッシュ! 移動式なので戦場でも問題ないゴブ!」
「あ、料金は頂くゴブ。領収書はこちらで。分割払いは6回からゴブ。戦時なので軍票でも承るゴブ」
「こういう時は『偸梁換柱』……敵軍の強みを他の軍勢に押し付けるのが良策ゴブ。既に手は打ってあるゴブよ」
「ゴブリンスチームマタ『ゴブナイト・ブレイブ』! ブが三つもつく最強の決戦式蒸気人形ゴブ!」
 百年の時を経て文明開化したゴブリン達。彼らの協力により、イ・ラプセルは未曽有の危機を脱したという。
 その後、様々な幻想種が交って続く1500年先まで続く水の国の栄華は、この時から始まったのであった――

「――てなことになったら、おもしろいよな?」
「そんな未来を見たアクアディーネ様には同情する」
 帰り道、自由騎士達はそんな会話をしたとかしなかったとか。
 未来の可能性は、無限である。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『言語伝承者(ゴブリン史)』
取得者: マグノリア・ホワイト(CL3000242)
『蒸気人形の始祖(ゴブリン史)』
取得者: 非時香・ツボミ(CL3000086)
『元気一杯!』
取得者: カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『経済の父(ゴブリン史)』
取得者: テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『移動式温泉発案者(ゴブリン史)』
取得者: コール・シュプレ(CL3000584)
『パスタ宣教者(ゴブリン史)』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『出汁の母(ゴブリン史)』
取得者: エルシー・スカーレット(CL3000368)

†あとがき†

どくどくです。
ゴブリン達、なんかニコラ書いてるようなかんじだったなぁ。

以上のような結果になりました。戦闘? すぐに終わりましたよ。
100年後の未来に関しては余興です。っていうか白紙になってる可能性もげふんげふん。
MVPはいろいろ悩みましたが、パスタ神に。ちがう、ヴァレンタイン様に。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済