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Local! とある地方の宗教事情!

●宇羅幕府
「アマノホカリを名乗る者への対策ですか? ああ、すみませんトイレトイレ」
宇羅幕府。ヴィスマルクの支援を得て、アマノホカリを支配しようとする組織。その幕府の一室。
ノウブルの男はとかく会議を中座する。理由は決まってトイレである。最初はわざとかと疑ったが、本当にトイレに行って用を足すという。あまりの頻度に、彼のことは『小便公方』のイエシゲと小ばかにされていた。
「ええ。先の戦いで義兄弟が討ち取られたようで。ええ、まったくもって難儀なことでして。ああ、すみませんトイレトイレ」
「しかしですなぁ、トクガワ家は皆母親が異なる義兄弟でして。兄弟の情がないと言われましてもすみませんトイレトイレ」
「それよりも昨日の舞台は見ましたか? はあ、見ていない。これは残念。ああ、トイレトイレ」
わざとではない事は知っているが、こうも会議を中断されては問題がある。と言う事でイエシゲは幕府から爪はじきされていた。当のイエシゲ本人もそれを気にする様子はない。
「ふぃ。これで時間ができそうか。朝廷関係は義兄弟たちにお任せして、そろばん勘定と行きましょうか。戦争するにもお金お金……っとトイレトイレ」
一息ついた後に、イエシゲは動き出す。部下が調べた情報を吟味し、目的の場所を調べ上げる。朝廷と幕府の境界線ギリギリの村だが、朝廷軍と悶着を起こさなければなんとかなるだろう。
「神州ヤオヨロズの息がかかった村。人をさらって人身御供に捧げるとかやめてほしいねえ。働き手がなくなれば経済は回せないんだから……トイレトイレ」
神州ヤオヨロズ――元々は土地神を祭る村が集まったカルト集団で、神は消えたのではなくアマノホカリの大地と一体化したと信じている集団だ。その為、神アマノホカリの存在を唾棄しているという。
それ自体は幕府としてはどうでもいいのだが、神のためなら何でもしていいという思想で行動するため、犯罪行為に躊躇がないのである。事実、幕府側の人間をさらって殺すと言う事も平気でやるのだ。
「サクッと行ってサクッと倒しますか。幕府側の村人だったら村に返せるけど朝廷側だったら……ヴィスマルクさんにお任せかな。西方は奴隷制度あるんだっけ? 可哀想だけど朝廷側にコネはないしなぁ……トイレトイレ」
イエシゲとてアマノホカリの人間を外国に売り飛ばしたいわけではない。だが目下喧嘩中の領域に住む人間を安全に返す方法がないのだ。宇羅幕府に戻せば『戦争のきっかけになるぜ!』と見せしめのために殺しかねない。っていうか殺すだろう。
かといって捕らわれて弱った者を護衛もなしに放逐するわけにもいかない。下手をすると野犬やマガツキ(アマノホカリにおけるイブリースの呼び名)に襲われて命を落としかねないのだ。死ぬよりはマシな選択肢が奴隷と言うのは悲しいかな。これも戦争なのだ。
「そうでない事を祈りますか。タヌマ、オーオカ。よろしく頼むよ」
言ってイエシゲは現地に向か……う前に厠に駆け込んだ。
●自由騎士
神州ヤオヨロズの息がかかった村が、人さらいをしている。
天津朝廷からその報を受けた自由騎士達はその村に向かう。目的の村を見つけると同時に、巨大な幻想種――アマノホカリでは妖怪と呼ばれる存在が蠢き、村を攻撃し始めた。
警報の鐘が鳴り、松明の灯りがともされる。その事により隠れていた自由騎士達も照らされることとなり、村人たちとの交戦に入る事となった。
「あ、外国の奴ら。……ヤッバイなぁ。口封じるしかないか。悪いけど巻き込まれてくれ」
そして村に戦闘を仕掛けた男――イエシゲは自由騎士達の姿を確認してそう言い放った。
かくして、天津朝廷の自由騎士。神州ヤオヨロズの集団。宇羅幕府のイエシゲの三つ巴の戦いが始まった。
「アマノホカリを名乗る者への対策ですか? ああ、すみませんトイレトイレ」
宇羅幕府。ヴィスマルクの支援を得て、アマノホカリを支配しようとする組織。その幕府の一室。
ノウブルの男はとかく会議を中座する。理由は決まってトイレである。最初はわざとかと疑ったが、本当にトイレに行って用を足すという。あまりの頻度に、彼のことは『小便公方』のイエシゲと小ばかにされていた。
「ええ。先の戦いで義兄弟が討ち取られたようで。ええ、まったくもって難儀なことでして。ああ、すみませんトイレトイレ」
「しかしですなぁ、トクガワ家は皆母親が異なる義兄弟でして。兄弟の情がないと言われましてもすみませんトイレトイレ」
「それよりも昨日の舞台は見ましたか? はあ、見ていない。これは残念。ああ、トイレトイレ」
わざとではない事は知っているが、こうも会議を中断されては問題がある。と言う事でイエシゲは幕府から爪はじきされていた。当のイエシゲ本人もそれを気にする様子はない。
「ふぃ。これで時間ができそうか。朝廷関係は義兄弟たちにお任せして、そろばん勘定と行きましょうか。戦争するにもお金お金……っとトイレトイレ」
一息ついた後に、イエシゲは動き出す。部下が調べた情報を吟味し、目的の場所を調べ上げる。朝廷と幕府の境界線ギリギリの村だが、朝廷軍と悶着を起こさなければなんとかなるだろう。
「神州ヤオヨロズの息がかかった村。人をさらって人身御供に捧げるとかやめてほしいねえ。働き手がなくなれば経済は回せないんだから……トイレトイレ」
神州ヤオヨロズ――元々は土地神を祭る村が集まったカルト集団で、神は消えたのではなくアマノホカリの大地と一体化したと信じている集団だ。その為、神アマノホカリの存在を唾棄しているという。
それ自体は幕府としてはどうでもいいのだが、神のためなら何でもしていいという思想で行動するため、犯罪行為に躊躇がないのである。事実、幕府側の人間をさらって殺すと言う事も平気でやるのだ。
「サクッと行ってサクッと倒しますか。幕府側の村人だったら村に返せるけど朝廷側だったら……ヴィスマルクさんにお任せかな。西方は奴隷制度あるんだっけ? 可哀想だけど朝廷側にコネはないしなぁ……トイレトイレ」
イエシゲとてアマノホカリの人間を外国に売り飛ばしたいわけではない。だが目下喧嘩中の領域に住む人間を安全に返す方法がないのだ。宇羅幕府に戻せば『戦争のきっかけになるぜ!』と見せしめのために殺しかねない。っていうか殺すだろう。
かといって捕らわれて弱った者を護衛もなしに放逐するわけにもいかない。下手をすると野犬やマガツキ(アマノホカリにおけるイブリースの呼び名)に襲われて命を落としかねないのだ。死ぬよりはマシな選択肢が奴隷と言うのは悲しいかな。これも戦争なのだ。
「そうでない事を祈りますか。タヌマ、オーオカ。よろしく頼むよ」
言ってイエシゲは現地に向か……う前に厠に駆け込んだ。
●自由騎士
神州ヤオヨロズの息がかかった村が、人さらいをしている。
天津朝廷からその報を受けた自由騎士達はその村に向かう。目的の村を見つけると同時に、巨大な幻想種――アマノホカリでは妖怪と呼ばれる存在が蠢き、村を攻撃し始めた。
警報の鐘が鳴り、松明の灯りがともされる。その事により隠れていた自由騎士達も照らされることとなり、村人たちとの交戦に入る事となった。
「あ、外国の奴ら。……ヤッバイなぁ。口封じるしかないか。悪いけど巻き込まれてくれ」
そして村に戦闘を仕掛けた男――イエシゲは自由騎士達の姿を確認してそう言い放った。
かくして、天津朝廷の自由騎士。神州ヤオヨロズの集団。宇羅幕府のイエシゲの三つ巴の戦いが始まった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.宇羅幕府、神州ヤオヨロズの打破
どくどくです。
面倒な状況って大好き!(キッラキラした瞳
●敵情報
★宇羅幕府側
・『小便公家』イエシゲ・トクガワ
宇羅幕府所属。父は千国時代の武将だったとか。ノウブル35歳男性。錬金術スタイル。自身の戦闘力はなく、宇羅幕府からは無能と評されています。あだ名もよくトイレに行くことから。
OPの内容は知っていて構いません。水鏡とかそんな理由で。
『小便公家(EX)』『エンブリヲ Lv3』『メディケイション Lv4』『パナケア Lv4』『ホムンクルス Lv4』
小便公家(EX):色々察してください。15ターン目に戦線を離脱します。呼び出したホムンクルスは残ります。25ターン目に帰ってきますが、仲間の幻想種二人が倒れていたら降参します。
・オーオカ
音の幻想種。大きさ50cmのフェアリーです。華奢ですが音波の障壁をはって防御しています(メタな事を言うとHPです)。
攻撃方法
ノイズ 魔遠範 音を飛ばし、衝撃を与えます。
ハウル 魔遠単 獣の叫び声が響き、恐怖を呼び起こされます。【ショック】
トーン 魔遠全 体中に響く音が、構えを崩します。【ダメージ0】【ブレイク】
コピー 自付 呪文や術式を跳ね返す。【リフレクト30】
・タヌマ
土の幻想種。アマノホカリでは泥田坊と呼ばれている妖怪です。大きさは4mほどの泥型スライム。
攻撃方法
泥の手 攻近範 泥の手を振るい、薙いできます。
泥団子 攻近貫2 泥団子を転がし、押し潰してきます。(100%、50%)
土の槍 攻近単 大地から隆起した複数の土槍が、相手を貫きます。【三連】
泥状化 自付 半液体化し、物理攻撃を受け流します。【攻耐】
泥巨体 P 体が大きく、泥で足を取ります。4名までブロック可能。
★神州ヤオヨロズ
・村人(×20)
土地と一体化したとされる神ヤオヨロズを信仰する者達です。全員ノウブル男性。アマノホカリを『似非の神』と称しています。その為朝廷とは手を結ぶつもりはありません。あと他国の神を奉じるヴィスマルクに繋がっている宇羅幕府とも敵対しています。
農具を改造した武器で攻撃しています。配分は重戦士10人、軽戦士5人、ガンナー5人です。全員、ランク1までのスキルを習得しています。
・誘拐された人(×5)
神州ヤオヨロズの村人達に誘拐され、洗脳された人達です。ノウブル女性。村人の為に死ぬことが神の為と信じており、身を投げ出すことに躊躇はありません。
防御タンクのカバーリングを習得しています。武装も粗末な刃物とボロボロの服の身です。
なお洗脳不十分な人達が村の納屋に閉じ込められていますが、戦闘には関与しません。幕府側の村人と朝廷側の村人がほぼ半分ずつ。
・村長(×1)
村の村長です。ノウブル男性。ヒーラースタイル。カルト集団の長よろしく、思考が凝り固まっています。
ヒーラースタイルのランク2までのスキルを活性化しています。
●場所情報
アマノホカリの村入り口。時刻は夜。明かりは村のたいまつで十分照らされています。
三つ巴です。それぞれの前衛が、互いの前衛と接している形とします。遠距離攻撃はどの陣営にも飛ばすことが可能で、全体攻撃は陣営一つ全てに効果を及ぼします。ブロックなどは通常ルール通りとします。
戦闘開始時、宇羅幕府陣営は『タヌマ』『イエシゲ』『ホムンクルス』が前衛に。後衛に『オーオカ』がいます。
神州ヤオヨロズは前衛に『重戦士(×10)』『軽戦士(×5)』が。後衛に『誘拐された人(×5)』『ガンナー(×5)』『村長(×1)』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。敵側は、既に付与を行っている形です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
面倒な状況って大好き!(キッラキラした瞳
●敵情報
★宇羅幕府側
・『小便公家』イエシゲ・トクガワ
宇羅幕府所属。父は千国時代の武将だったとか。ノウブル35歳男性。錬金術スタイル。自身の戦闘力はなく、宇羅幕府からは無能と評されています。あだ名もよくトイレに行くことから。
OPの内容は知っていて構いません。水鏡とかそんな理由で。
『小便公家(EX)』『エンブリヲ Lv3』『メディケイション Lv4』『パナケア Lv4』『ホムンクルス Lv4』
小便公家(EX):色々察してください。15ターン目に戦線を離脱します。呼び出したホムンクルスは残ります。25ターン目に帰ってきますが、仲間の幻想種二人が倒れていたら降参します。
・オーオカ
音の幻想種。大きさ50cmのフェアリーです。華奢ですが音波の障壁をはって防御しています(メタな事を言うとHPです)。
攻撃方法
ノイズ 魔遠範 音を飛ばし、衝撃を与えます。
ハウル 魔遠単 獣の叫び声が響き、恐怖を呼び起こされます。【ショック】
トーン 魔遠全 体中に響く音が、構えを崩します。【ダメージ0】【ブレイク】
コピー 自付 呪文や術式を跳ね返す。【リフレクト30】
・タヌマ
土の幻想種。アマノホカリでは泥田坊と呼ばれている妖怪です。大きさは4mほどの泥型スライム。
攻撃方法
泥の手 攻近範 泥の手を振るい、薙いできます。
泥団子 攻近貫2 泥団子を転がし、押し潰してきます。(100%、50%)
土の槍 攻近単 大地から隆起した複数の土槍が、相手を貫きます。【三連】
泥状化 自付 半液体化し、物理攻撃を受け流します。【攻耐】
泥巨体 P 体が大きく、泥で足を取ります。4名までブロック可能。
★神州ヤオヨロズ
・村人(×20)
土地と一体化したとされる神ヤオヨロズを信仰する者達です。全員ノウブル男性。アマノホカリを『似非の神』と称しています。その為朝廷とは手を結ぶつもりはありません。あと他国の神を奉じるヴィスマルクに繋がっている宇羅幕府とも敵対しています。
農具を改造した武器で攻撃しています。配分は重戦士10人、軽戦士5人、ガンナー5人です。全員、ランク1までのスキルを習得しています。
・誘拐された人(×5)
神州ヤオヨロズの村人達に誘拐され、洗脳された人達です。ノウブル女性。村人の為に死ぬことが神の為と信じており、身を投げ出すことに躊躇はありません。
防御タンクのカバーリングを習得しています。武装も粗末な刃物とボロボロの服の身です。
なお洗脳不十分な人達が村の納屋に閉じ込められていますが、戦闘には関与しません。幕府側の村人と朝廷側の村人がほぼ半分ずつ。
・村長(×1)
村の村長です。ノウブル男性。ヒーラースタイル。カルト集団の長よろしく、思考が凝り固まっています。
ヒーラースタイルのランク2までのスキルを活性化しています。
●場所情報
アマノホカリの村入り口。時刻は夜。明かりは村のたいまつで十分照らされています。
三つ巴です。それぞれの前衛が、互いの前衛と接している形とします。遠距離攻撃はどの陣営にも飛ばすことが可能で、全体攻撃は陣営一つ全てに効果を及ぼします。ブロックなどは通常ルール通りとします。
戦闘開始時、宇羅幕府陣営は『タヌマ』『イエシゲ』『ホムンクルス』が前衛に。後衛に『オーオカ』がいます。
神州ヤオヨロズは前衛に『重戦士(×10)』『軽戦士(×5)』が。後衛に『誘拐された人(×5)』『ガンナー(×5)』『村長(×1)』がいます。
事前付与は一度だけ可能とします。敵側は、既に付与を行っている形です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
7/8
7/8
公開日
2020年09月28日
2020年09月28日
†メイン参加者 7人†

●
「人さらい……? そうですか。人さらいですか」
声に嫌悪感を乗せて『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は武器を構える。ヨウセイのサーナはかつてシャンバラに捕らわれていた過去を持つ。その経緯もあって、神州ヤオヨロズの人間を許すつもりはなかった。
「そうだな。人でなしっていうのはこういうことを言うんだろうな」
同じく侮蔑の意を隠そうとしない『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。これまでの国で様々な価値観を見てきたが、彼らはその中でも下の下だ。容赦なく潰すとしよう。
「どうあれ怪我人が少ないといいのだが……」
両手剣を構えタイガ・トウドラード(CL3000434)はそう呟く。これが戦いであることは十分に理解しているが、それでも怪我人や死傷者は少ないに越したことはない。それが理想なのだと分かっていても、どうしても気になってしまう。
「そうですね。理想を掲げることは悪くはありません」
タイガの言葉に頷く『カレーとパスタを繋ぐモノ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。どのような理想を持とうとも構わない。しかし踏み外してはいけない道はある。正しき信仰を彼らに伝える為に、アンジェリカは前に出る。
「文献によると、アマノホカリの土着の神は『八百万の神』と言うらしい。さて、この村は何を奉じているのかな……?」
興味津々、とばかりに『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は神州ヤオヨロズの方を見る。奇異ともいえる聖印と聖言。推測するなら、ここにかつて住んでいた幻想種なのだろうか?
「神のためなら何でもしていいというのは……」
神州ヤオヨロズの行動に眉を顰めるセアラ・ラングフォード(CL3000634)。神の蟲毒に戦争をしているイ・ラプセル。だが一定のモラルは守っているつもりだ。誘拐し、洗脳し、自分達の盾にする。そのような事をするなど信じられない。
「どうやら目的の方とは違う様子。まあ構いません」
『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)はトクガワの報を見て不満そうにつぶやく。マリアが話をしたい相手とは別のトクガワ義兄弟だったが、かといって諦めるつもりはない。全員倒してでも引っ張り出すのだ。あれ? 目的地ちがうくない?
「殺せー! 神の敵は殺せ!」
「タケキリタヌキ様の敵は皆殺しだー!」
「神……敵……ああああああああ」
「……守れば、ご飯、もらえる……おにぎり……」
常軌を逸した瞳で迫ってくる神州ヤオヨロズ。そして――
「うわー。あれって外国の人達か。タイミング悪いなぁ」
そして宇羅幕府のイエシゲは、自由騎士達に気付いて額に手を当てた。こちらを敵と認識したのか、戦意を向けられる。
神州ヤオヨロズ、宇羅幕府、そして自由騎士。三つ巴の戦いの火ぶたが、今切って落とされた。
●
「そこの旦那。話があるんだが聞いてくれないか?」
戦闘開始と同時にウェルスがイエシゲに話を持ち掛けた。沈黙を促しと受け取り、言葉を重ねる。
「俺達は誘拐された人達の救出に来た。そっち側の人質はそちらに返すので、取引しないか? ヤオヨロズの連中も野放しに出来ないから、生かして縛り上げるつもりだが。
俺達は朝廷側の誘拐された奴を保護する。事後処理やヤオヨロズの処遇もこっちが請け負――」
「あー、無理。彼らを生かすのなら手は結べない」
「……何故?」
「禍根は立たないとね。それこそ君達がヤオヨロズと手を結んで同じような事件を起こそうとしているのでは、という懸念もあるので」
イエシゲの言葉に、ウェルスは黙り込む。誘拐犯は生かします。再犯の可能性は敵側のモラルを信頼しろ。そう言われればウェルスも確かに眉を顰める。少なくとも、手放しで信用はしない。
「では仕方ありませんね。ともあれ、数は減らしましょう」
交渉の結果を聞いた後に、アンジェリカが動く。迫る村人の前に立って武器を構え、背後に控えるパスタ教教徒も同様に聖印を掲げる。それは正しき道を歩む司教の如く。謝った信仰を罰するために降り立った聖人。
自分自身に魔力の星を刻み、構えを取るアンジェリカ。星の位置が魔術的な意味を示し、刻まれた者の力を強化する。体内にあふれる力を解放するように武器を振るい、ヤオヨロズの信者たちを振り払っていく。
「先ずは大人しくしてもらいます。その後に、説得を」
「そうですね。討伐しなくちゃ」
サーナは小さく頷き、エストックを構える。人をさらって洗脳する。その行為を聞いただけでも嫌悪感がある。そして今、さらわれた人間を目の前にして怒りは更に高まった。彼らは許してはおけない。
細く息を吸い、肺一杯に夜の空気を取り入れる。その空気を吐き出すと同時に、全身に魔力を展開するサーナ。澄み切った体に通った魔力が身体速度を向上させる。その感覚を維持したまま、指先に込めた魔力の矢を解き放った。
「殺しはしません。ええ、殺しませんよ」
「倒れた人間は可能な限り保護。衛生部隊、頼んだぞ」
部隊に指示を出しながら、タイガは剣を振るう。できるだけ怪我人や死者は出したくないが、かといって剣を収めるわけにはいかない。彼らを放置すれば更なる被害者が出る。それだけは防がなければならない。
ヤオヨロズのから振るわれる農具を剣の腹で受け止め、武器を弾き返すように刃を振るう。仲間を守る位置に立って相手の攻撃を受け止め、牽制するように大剣を振るった。仲間を守るために、タイガは今ここに居るのだ。
「三つ巴の混戦か。厄介だな」
「はい……。出来れば話し合いが通じればよかったのですが……」
タイガの後ろでうつむきがちに呟くセアラ。ヤオヨロズのやったことは確かに間違いだが、殺していいかと言われると首肯できないセアラ。だが動き出した戦いはもう止まらない。出来るだけ怪我人が少なくなるのを祈るのみだ。
仲間達のダメージを見ながら、呪文を唱えるセアラ。聖遺物を手に、リズミカルに言葉を紡ぐ。三音節で場を清め、二節でマナに意味を与える。最後の言葉で力を解き放ち、癒しの術を行使した。仲間を包み込む光が、傷を癒していく。
「とにかく、さらわれた人を助けないと」
「そうですね。最低限、こちら側の村人は確保しておかないと」
頷くマリア。神州ヤオヨロズの行為は、けして看過できない。よその村から人をさらい、自らの都合のいいように洗脳する。そうやって自らの勢力を広げていくのだ。人道的にも軍事的にも許しがたい行為と言えよう。
ヤオヨロズの村人を庇う人達。庇っている彼らに向かい、マリアは躊躇なく雷撃をぶつける。アクアディーネの権能がある限り、命を奪う事はない。宇羅幕府に攻撃されるよりも前に彼らを鎮圧し、安全を確保しなくては。
「とはいえ、長期戦になります。こちらが疲弊して押されるようなら考えを改める必要がありますね」
「そうだね……、あのイエシゲ、油断できない相手だ」
マグノリアは戦いながら、イエシゲの動きを見ていた。同じ錬金術師だが、その方向性は異なる。マグノリアが攻防共にこなすタイプなら、イエシゲは完全に他者回復とホムンクルス使いに特化している。共に戦う幻想種ともども、無能とは言えない相手だ。
イエシゲの方に意識を向けながら、マグノリアの矛先はヤオヨロズの方を向く。錬金術で生み出した薬品を手にして、そこに魔力を注ぎ込む。発生した煙がヤオヨロズの方に向かって飛び、気化した薬品が彼らの体内を蝕んでいく。
「とにかく、ここを制するのが先決だ」
自由騎士達はまず数を減らそうとヤオヨロズに矛先を向ける。攻めてくるイエシゲ達を受け流しながら、村人の数を減らしていた。その甲斐もあって、ヤオヨロズ側の数は少しずつ減ってくる。
「偽神アマノホカリに味方する者は神の敵だ! 宇羅幕府も敵だ!」
だが、狂信者の戦意は衰えることはない。むしろ仲間の仇とばかりに過熱していく。
「短期決戦で終わらせたいんだけど、結構しぶといなぁ!」
自由騎士とヤオヨロズの両方を攻めているイエシゲは、焦るように呟いた。いろいろお察しください。
三つ巴の戦いは、少しずつ加速していく。
●
イエシゲとの交渉が断たれた自由騎士だが、それでも神州ヤオヨロズを主な相手として戦っていた。それは誠意を籠めればいずれはイエシゲを説得できるという楽観的な考えではない。単純にヤオヨロズ側の数の暴威があったに過ぎない。
宇羅幕府側の戦力は衰えることはない。それはヤオヨロズと、そして自由騎士達の体力を削っていた。
「きゃ……!」
「まだ、負けられない!」
「流石に数が多いですね」
前衛に立つさーねとアンジェリカ、そして仲間を守っていたタイガがフラグメンツを削られる。
だが、自由騎士達もただやられているわけではない。神州ヤオヨロズ側の勢力は少しずつ減ってきていた。
「同盟を組まないんだったら遠慮はしねぇぜ。いっきに叩き潰す」
ヤオヨロズの勢力が減ってきたのを見計らって、ウェルスは銃口を宇羅幕府の方に向ける。弾幕を放ちイエシゲ達を一気に攻め立てた。回復に優れたイエシゲだが、それ以上の火力を叩き込めば問題ない。
「そちらは任せます。私は彼らを」
ウェルスの行動を見ながら、アンジェリカは未だ暴れる神州ヤオヨロズを攻める。宗教に傾倒する彼らには言うべきことがある。それは今ではない。興奮が冷めて落ち着いてからだ。今は女神の権能を振るい、(物理的に)落ち着かせていく。
「オーオカは相性が悪いですね。では私はタヌマを」
マリアは戦場に目を向け、戦場を俯瞰するような思考で次の手を判断する。勝利のために必要なことを脳内で整理し、そこに近づくための手を考える。それはイ・ラプセルに伝わるチェスの如く。勝利への道しるべを想像し、その為の布石を打つのだ。
「『不利になるから攻撃しない』……その選択肢を強いるというのは、大した戦術だよ」
マグノリアはイエシゲのつれてきた幻想種を見て、うなりをあげる。不利にならないという理由でこちらの選択肢を狭め、攻撃目標を絞る。これによりダメージに差が生まれ、癒す相手と順番をある程度限定できるのだ。狙ってやったのだろう。
「やはり無理ですか……」
セアラは自分を守る盾兵達に前に出るように願うが、主の守りは放棄できないと拒否される。彼らは主従契約をした主を守るために居るのであって、主から大きく離れることはできないのだ。セアラは断念し、回復に専念する。
(彼らの今後が気にかかるが……。今は!)
タイガは神州ヤオヨロズの方を見ながら、眉を顰める。もしこちら側が勝った場合、彼らの扱いは朝廷が預かることになる。その懲罰は内政干渉となりイ・ラプセルは関与できない。この村の今後が気になるが、こればかりはどうしようもない。
「これで最後です。人さらいは、敵です」
最後のヤオヨロズ軍勢を地に伏すサーナ。その瞳に慈悲はない。アクアディーネの権能で生きてはいるだろうが、そうでなければ命を奪っていただろう。他人をさらいいいように扱う。そんな奴らを許しておけるはずがなかった。
神州ヤオヨロズが倒れ、宇羅幕府との戦いとなる。イエシゲは自由騎士達を見逃すつもりはないのか、幻想種に指示を出しながら回復を施していく。だが――
「あ……やばい。後任せた」
しばらくしてイエシゲが戦線を離脱すれば、そのパワーバランスは崩れる。回復を失った幻想種達は少しずつ追い込まれていく。
「これでお終いです」
マリアが氷の魔力を掲げ、タヌマに向ける。自由生地たちの攻撃で疲弊した土の幻想種は、これに耐えるだけの体力もなければ避けるだけの敏捷性もなかった、凍える魔力を喰らい、そのまま倒れ伏す。
「ふむ、オーテと言うのでしたか。将棋では。ともあれ決着です」
戻ってきたイエシゲに向けて、マリアは静かに言い放った。
●
「降伏。好きにしてくれ」
帰ってきたイエシゲは武器を捨て、抵抗する意思がないことを示すように手をあげた。
「命乞いとかはしないのか?」
「そりゃこちらは同盟蹴って襲い掛かったんだから。それを考えれば生きているだけでも幸運てなものよ」
この辺りは、しばらく前まで小規模戦乱に明け暮れていた武将の価値観である。
「まあ、生殺与奪はこちらが握らせてもらうぜ」
かくして幻想種もろとも、縛につくイエシゲ達。その後、彼らは捕らわれていた人達を救うために動き出す。誘拐していた人を閉じ込めていた納屋はすぐに見つかり、疲弊した人達が救出される。
「しかしイエシゲ……。君の体質は病気じゃないのか?」
「そうですね。そういう病気があると聞いたことはあります」
「いやあ、お恥ずかしい。生まれもっての体質故に」
医療の心得の在るマグノリアとセアラはイエシゲの体質を聞いてそう判断する。イエシゲ自身も名うての錬金術師だが、いかんせん対策は見つからなかったという。もう百五十年ほどすれば、糖尿病の対策なども見つかるのだがそれは余談。
「アマノホカリ様はこの土地の兄弟。アクア様はマガツキを浄化する女神様。そして空飛ぶパスタ様は稲穂であり大地の恵みそのもの」
アンジェリカはヤオヨロズ達の価値観を崩すべく、真理を伝えていた。一辺倒な信仰ではなく、様々な角度からモノを見ることが出来るようにと。話し合えばわかり合える。アンジェリカはそう信じていた。
「……うーん。間違っているような、止めないといけないような……」
「やめとけ。一緒に説法喰らうぞ」
アンジェリカの行動に、かつてのシャンバラの姿を見たような気がするサーナが止めようとするが、ウェルスに止められる。ああなったら止まらない事はよく知っている。少なくともあれでヤオヨロズが大人しくなるというのなら、それに越したことはない。
「助かった人達がいて、よかったというべきだな」
タイガはヤオヨロズに誘拐された人達を引取り、安堵の息を漏らす。救助はもう少し遅れれば、彼らはヤオヨロズの先兵となって盾となっていたか、或いは人をさらう手伝いをしていただろう。そうなれば、彼らも討伐対象となっていた。
自由騎士達は事後処理を終え、朝廷に戻る。助かった人達を保護するために――
「イエシゲがやられた、だと!?」
「ふ、だがイエシゲはこのトクガワ義兄弟最弱。前もやったなぁ、このノリ。天丼すぎないか?」
「さすがに二度もやられれば偶然とは言えまい。奴らの実力、認めざるを得ないようだな」
「うむ。しかし如何に奴らが強かろうと、未知なる戦力に対する策は立てれまい。我らトクガワ義兄弟、奇策奇襲はお手の物」
「うむうむ。未来でも読めぬ限りは、我らの戦術戦略戦力に気付く由なし」
「「「「はっはっは」」」」
「……で、次は誰が行く?」
「……またクジでも引くか」
「人さらい……? そうですか。人さらいですか」
声に嫌悪感を乗せて『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は武器を構える。ヨウセイのサーナはかつてシャンバラに捕らわれていた過去を持つ。その経緯もあって、神州ヤオヨロズの人間を許すつもりはなかった。
「そうだな。人でなしっていうのはこういうことを言うんだろうな」
同じく侮蔑の意を隠そうとしない『ラスボス(HP50)』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。これまでの国で様々な価値観を見てきたが、彼らはその中でも下の下だ。容赦なく潰すとしよう。
「どうあれ怪我人が少ないといいのだが……」
両手剣を構えタイガ・トウドラード(CL3000434)はそう呟く。これが戦いであることは十分に理解しているが、それでも怪我人や死傷者は少ないに越したことはない。それが理想なのだと分かっていても、どうしても気になってしまう。
「そうですね。理想を掲げることは悪くはありません」
タイガの言葉に頷く『カレーとパスタを繋ぐモノ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。どのような理想を持とうとも構わない。しかし踏み外してはいけない道はある。正しき信仰を彼らに伝える為に、アンジェリカは前に出る。
「文献によると、アマノホカリの土着の神は『八百万の神』と言うらしい。さて、この村は何を奉じているのかな……?」
興味津々、とばかりに『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は神州ヤオヨロズの方を見る。奇異ともいえる聖印と聖言。推測するなら、ここにかつて住んでいた幻想種なのだろうか?
「神のためなら何でもしていいというのは……」
神州ヤオヨロズの行動に眉を顰めるセアラ・ラングフォード(CL3000634)。神の蟲毒に戦争をしているイ・ラプセル。だが一定のモラルは守っているつもりだ。誘拐し、洗脳し、自分達の盾にする。そのような事をするなど信じられない。
「どうやら目的の方とは違う様子。まあ構いません」
『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)はトクガワの報を見て不満そうにつぶやく。マリアが話をしたい相手とは別のトクガワ義兄弟だったが、かといって諦めるつもりはない。全員倒してでも引っ張り出すのだ。あれ? 目的地ちがうくない?
「殺せー! 神の敵は殺せ!」
「タケキリタヌキ様の敵は皆殺しだー!」
「神……敵……ああああああああ」
「……守れば、ご飯、もらえる……おにぎり……」
常軌を逸した瞳で迫ってくる神州ヤオヨロズ。そして――
「うわー。あれって外国の人達か。タイミング悪いなぁ」
そして宇羅幕府のイエシゲは、自由騎士達に気付いて額に手を当てた。こちらを敵と認識したのか、戦意を向けられる。
神州ヤオヨロズ、宇羅幕府、そして自由騎士。三つ巴の戦いの火ぶたが、今切って落とされた。
●
「そこの旦那。話があるんだが聞いてくれないか?」
戦闘開始と同時にウェルスがイエシゲに話を持ち掛けた。沈黙を促しと受け取り、言葉を重ねる。
「俺達は誘拐された人達の救出に来た。そっち側の人質はそちらに返すので、取引しないか? ヤオヨロズの連中も野放しに出来ないから、生かして縛り上げるつもりだが。
俺達は朝廷側の誘拐された奴を保護する。事後処理やヤオヨロズの処遇もこっちが請け負――」
「あー、無理。彼らを生かすのなら手は結べない」
「……何故?」
「禍根は立たないとね。それこそ君達がヤオヨロズと手を結んで同じような事件を起こそうとしているのでは、という懸念もあるので」
イエシゲの言葉に、ウェルスは黙り込む。誘拐犯は生かします。再犯の可能性は敵側のモラルを信頼しろ。そう言われればウェルスも確かに眉を顰める。少なくとも、手放しで信用はしない。
「では仕方ありませんね。ともあれ、数は減らしましょう」
交渉の結果を聞いた後に、アンジェリカが動く。迫る村人の前に立って武器を構え、背後に控えるパスタ教教徒も同様に聖印を掲げる。それは正しき道を歩む司教の如く。謝った信仰を罰するために降り立った聖人。
自分自身に魔力の星を刻み、構えを取るアンジェリカ。星の位置が魔術的な意味を示し、刻まれた者の力を強化する。体内にあふれる力を解放するように武器を振るい、ヤオヨロズの信者たちを振り払っていく。
「先ずは大人しくしてもらいます。その後に、説得を」
「そうですね。討伐しなくちゃ」
サーナは小さく頷き、エストックを構える。人をさらって洗脳する。その行為を聞いただけでも嫌悪感がある。そして今、さらわれた人間を目の前にして怒りは更に高まった。彼らは許してはおけない。
細く息を吸い、肺一杯に夜の空気を取り入れる。その空気を吐き出すと同時に、全身に魔力を展開するサーナ。澄み切った体に通った魔力が身体速度を向上させる。その感覚を維持したまま、指先に込めた魔力の矢を解き放った。
「殺しはしません。ええ、殺しませんよ」
「倒れた人間は可能な限り保護。衛生部隊、頼んだぞ」
部隊に指示を出しながら、タイガは剣を振るう。できるだけ怪我人や死者は出したくないが、かといって剣を収めるわけにはいかない。彼らを放置すれば更なる被害者が出る。それだけは防がなければならない。
ヤオヨロズのから振るわれる農具を剣の腹で受け止め、武器を弾き返すように刃を振るう。仲間を守る位置に立って相手の攻撃を受け止め、牽制するように大剣を振るった。仲間を守るために、タイガは今ここに居るのだ。
「三つ巴の混戦か。厄介だな」
「はい……。出来れば話し合いが通じればよかったのですが……」
タイガの後ろでうつむきがちに呟くセアラ。ヤオヨロズのやったことは確かに間違いだが、殺していいかと言われると首肯できないセアラ。だが動き出した戦いはもう止まらない。出来るだけ怪我人が少なくなるのを祈るのみだ。
仲間達のダメージを見ながら、呪文を唱えるセアラ。聖遺物を手に、リズミカルに言葉を紡ぐ。三音節で場を清め、二節でマナに意味を与える。最後の言葉で力を解き放ち、癒しの術を行使した。仲間を包み込む光が、傷を癒していく。
「とにかく、さらわれた人を助けないと」
「そうですね。最低限、こちら側の村人は確保しておかないと」
頷くマリア。神州ヤオヨロズの行為は、けして看過できない。よその村から人をさらい、自らの都合のいいように洗脳する。そうやって自らの勢力を広げていくのだ。人道的にも軍事的にも許しがたい行為と言えよう。
ヤオヨロズの村人を庇う人達。庇っている彼らに向かい、マリアは躊躇なく雷撃をぶつける。アクアディーネの権能がある限り、命を奪う事はない。宇羅幕府に攻撃されるよりも前に彼らを鎮圧し、安全を確保しなくては。
「とはいえ、長期戦になります。こちらが疲弊して押されるようなら考えを改める必要がありますね」
「そうだね……、あのイエシゲ、油断できない相手だ」
マグノリアは戦いながら、イエシゲの動きを見ていた。同じ錬金術師だが、その方向性は異なる。マグノリアが攻防共にこなすタイプなら、イエシゲは完全に他者回復とホムンクルス使いに特化している。共に戦う幻想種ともども、無能とは言えない相手だ。
イエシゲの方に意識を向けながら、マグノリアの矛先はヤオヨロズの方を向く。錬金術で生み出した薬品を手にして、そこに魔力を注ぎ込む。発生した煙がヤオヨロズの方に向かって飛び、気化した薬品が彼らの体内を蝕んでいく。
「とにかく、ここを制するのが先決だ」
自由騎士達はまず数を減らそうとヤオヨロズに矛先を向ける。攻めてくるイエシゲ達を受け流しながら、村人の数を減らしていた。その甲斐もあって、ヤオヨロズ側の数は少しずつ減ってくる。
「偽神アマノホカリに味方する者は神の敵だ! 宇羅幕府も敵だ!」
だが、狂信者の戦意は衰えることはない。むしろ仲間の仇とばかりに過熱していく。
「短期決戦で終わらせたいんだけど、結構しぶといなぁ!」
自由騎士とヤオヨロズの両方を攻めているイエシゲは、焦るように呟いた。いろいろお察しください。
三つ巴の戦いは、少しずつ加速していく。
●
イエシゲとの交渉が断たれた自由騎士だが、それでも神州ヤオヨロズを主な相手として戦っていた。それは誠意を籠めればいずれはイエシゲを説得できるという楽観的な考えではない。単純にヤオヨロズ側の数の暴威があったに過ぎない。
宇羅幕府側の戦力は衰えることはない。それはヤオヨロズと、そして自由騎士達の体力を削っていた。
「きゃ……!」
「まだ、負けられない!」
「流石に数が多いですね」
前衛に立つさーねとアンジェリカ、そして仲間を守っていたタイガがフラグメンツを削られる。
だが、自由騎士達もただやられているわけではない。神州ヤオヨロズ側の勢力は少しずつ減ってきていた。
「同盟を組まないんだったら遠慮はしねぇぜ。いっきに叩き潰す」
ヤオヨロズの勢力が減ってきたのを見計らって、ウェルスは銃口を宇羅幕府の方に向ける。弾幕を放ちイエシゲ達を一気に攻め立てた。回復に優れたイエシゲだが、それ以上の火力を叩き込めば問題ない。
「そちらは任せます。私は彼らを」
ウェルスの行動を見ながら、アンジェリカは未だ暴れる神州ヤオヨロズを攻める。宗教に傾倒する彼らには言うべきことがある。それは今ではない。興奮が冷めて落ち着いてからだ。今は女神の権能を振るい、(物理的に)落ち着かせていく。
「オーオカは相性が悪いですね。では私はタヌマを」
マリアは戦場に目を向け、戦場を俯瞰するような思考で次の手を判断する。勝利のために必要なことを脳内で整理し、そこに近づくための手を考える。それはイ・ラプセルに伝わるチェスの如く。勝利への道しるべを想像し、その為の布石を打つのだ。
「『不利になるから攻撃しない』……その選択肢を強いるというのは、大した戦術だよ」
マグノリアはイエシゲのつれてきた幻想種を見て、うなりをあげる。不利にならないという理由でこちらの選択肢を狭め、攻撃目標を絞る。これによりダメージに差が生まれ、癒す相手と順番をある程度限定できるのだ。狙ってやったのだろう。
「やはり無理ですか……」
セアラは自分を守る盾兵達に前に出るように願うが、主の守りは放棄できないと拒否される。彼らは主従契約をした主を守るために居るのであって、主から大きく離れることはできないのだ。セアラは断念し、回復に専念する。
(彼らの今後が気にかかるが……。今は!)
タイガは神州ヤオヨロズの方を見ながら、眉を顰める。もしこちら側が勝った場合、彼らの扱いは朝廷が預かることになる。その懲罰は内政干渉となりイ・ラプセルは関与できない。この村の今後が気になるが、こればかりはどうしようもない。
「これで最後です。人さらいは、敵です」
最後のヤオヨロズ軍勢を地に伏すサーナ。その瞳に慈悲はない。アクアディーネの権能で生きてはいるだろうが、そうでなければ命を奪っていただろう。他人をさらいいいように扱う。そんな奴らを許しておけるはずがなかった。
神州ヤオヨロズが倒れ、宇羅幕府との戦いとなる。イエシゲは自由騎士達を見逃すつもりはないのか、幻想種に指示を出しながら回復を施していく。だが――
「あ……やばい。後任せた」
しばらくしてイエシゲが戦線を離脱すれば、そのパワーバランスは崩れる。回復を失った幻想種達は少しずつ追い込まれていく。
「これでお終いです」
マリアが氷の魔力を掲げ、タヌマに向ける。自由生地たちの攻撃で疲弊した土の幻想種は、これに耐えるだけの体力もなければ避けるだけの敏捷性もなかった、凍える魔力を喰らい、そのまま倒れ伏す。
「ふむ、オーテと言うのでしたか。将棋では。ともあれ決着です」
戻ってきたイエシゲに向けて、マリアは静かに言い放った。
●
「降伏。好きにしてくれ」
帰ってきたイエシゲは武器を捨て、抵抗する意思がないことを示すように手をあげた。
「命乞いとかはしないのか?」
「そりゃこちらは同盟蹴って襲い掛かったんだから。それを考えれば生きているだけでも幸運てなものよ」
この辺りは、しばらく前まで小規模戦乱に明け暮れていた武将の価値観である。
「まあ、生殺与奪はこちらが握らせてもらうぜ」
かくして幻想種もろとも、縛につくイエシゲ達。その後、彼らは捕らわれていた人達を救うために動き出す。誘拐していた人を閉じ込めていた納屋はすぐに見つかり、疲弊した人達が救出される。
「しかしイエシゲ……。君の体質は病気じゃないのか?」
「そうですね。そういう病気があると聞いたことはあります」
「いやあ、お恥ずかしい。生まれもっての体質故に」
医療の心得の在るマグノリアとセアラはイエシゲの体質を聞いてそう判断する。イエシゲ自身も名うての錬金術師だが、いかんせん対策は見つからなかったという。もう百五十年ほどすれば、糖尿病の対策なども見つかるのだがそれは余談。
「アマノホカリ様はこの土地の兄弟。アクア様はマガツキを浄化する女神様。そして空飛ぶパスタ様は稲穂であり大地の恵みそのもの」
アンジェリカはヤオヨロズ達の価値観を崩すべく、真理を伝えていた。一辺倒な信仰ではなく、様々な角度からモノを見ることが出来るようにと。話し合えばわかり合える。アンジェリカはそう信じていた。
「……うーん。間違っているような、止めないといけないような……」
「やめとけ。一緒に説法喰らうぞ」
アンジェリカの行動に、かつてのシャンバラの姿を見たような気がするサーナが止めようとするが、ウェルスに止められる。ああなったら止まらない事はよく知っている。少なくともあれでヤオヨロズが大人しくなるというのなら、それに越したことはない。
「助かった人達がいて、よかったというべきだな」
タイガはヤオヨロズに誘拐された人達を引取り、安堵の息を漏らす。救助はもう少し遅れれば、彼らはヤオヨロズの先兵となって盾となっていたか、或いは人をさらう手伝いをしていただろう。そうなれば、彼らも討伐対象となっていた。
自由騎士達は事後処理を終え、朝廷に戻る。助かった人達を保護するために――
「イエシゲがやられた、だと!?」
「ふ、だがイエシゲはこのトクガワ義兄弟最弱。前もやったなぁ、このノリ。天丼すぎないか?」
「さすがに二度もやられれば偶然とは言えまい。奴らの実力、認めざるを得ないようだな」
「うむ。しかし如何に奴らが強かろうと、未知なる戦力に対する策は立てれまい。我らトクガワ義兄弟、奇策奇襲はお手の物」
「うむうむ。未来でも読めぬ限りは、我らの戦術戦略戦力に気付く由なし」
「「「「はっはっは」」」」
「……で、次は誰が行く?」
「……またクジでも引くか」