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星に願いを――。

●
3月の夜はまだ少々寒い。
はく息は夜闇に白く染まる。
東の空を見上げれば、いっとう輝く白いレグルスを中心にしし座。
南の空低い空には青白い一等星のシリウスが目印のおおいぬ座。
その少し上には黄色い一等星のプロキオンが目印のこいぬ座。
そして北東の空には北斗七星と、北の目印である北極星のおおぐま座。
星たちはヒトビトを静かに見下ろし続けている。何万年も何億年も、ずっとずっと前から。
世界に神々が降り立つそのずっとまえから――。
戦争はこの先も続く。
だけれども、少しだけでも夜空に思いを馳せるのも悪くないだろう。
3月の夜はまだ少々寒い。
はく息は夜闇に白く染まる。
東の空を見上げれば、いっとう輝く白いレグルスを中心にしし座。
南の空低い空には青白い一等星のシリウスが目印のおおいぬ座。
その少し上には黄色い一等星のプロキオンが目印のこいぬ座。
そして北東の空には北斗七星と、北の目印である北極星のおおぐま座。
星たちはヒトビトを静かに見下ろし続けている。何万年も何億年も、ずっとずっと前から。
世界に神々が降り立つそのずっとまえから――。
戦争はこの先も続く。
だけれども、少しだけでも夜空に思いを馳せるのも悪くないだろう。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.星を眺める。
ねこてんです。
星座は1600年以降星座に名前つけるよブームが300年ほど続いて最大130個まで増えるカオス状態でしたが、20世紀頭になんとか88個で固定されました。
マギスチ世界のイ・ラプセルから見える星はわかりやすく北半球で、現実と同じ季節のもので全88個という形でOKです。
大切な人やお友達、家族とのお時間をお過ごしください。
また、お一人での参加も歓迎いたします。今後に一人思いを馳せることも素敵だと思います。
NPCは基本的にはねこてん担当とちょころっぷ担当のNPCであれば誘っていただければお伺いいたします。(今までのねこてんのイベシナにリストはあります)
アルヴィダは彼女の船に。メモリアはスペリール湖になります。
海や、湖から見る星も素敵だと思います。
王族の皆様は王城で。
他イ・ラプセル内であれば、どこでもOKです。
ランダム希望で誰かと話したいのであればEXにどうぞ。こちらから話しかけた体でリプレイを書かせていただきます。指定が恥ずかしい場合もEXにどうぞ。
食べ物の持込みもかまいませんが公序良俗にはご注意を。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
星座は1600年以降星座に名前つけるよブームが300年ほど続いて最大130個まで増えるカオス状態でしたが、20世紀頭になんとか88個で固定されました。
マギスチ世界のイ・ラプセルから見える星はわかりやすく北半球で、現実と同じ季節のもので全88個という形でOKです。
大切な人やお友達、家族とのお時間をお過ごしください。
また、お一人での参加も歓迎いたします。今後に一人思いを馳せることも素敵だと思います。
NPCは基本的にはねこてん担当とちょころっぷ担当のNPCであれば誘っていただければお伺いいたします。(今までのねこてんのイベシナにリストはあります)
アルヴィダは彼女の船に。メモリアはスペリール湖になります。
海や、湖から見る星も素敵だと思います。
王族の皆様は王城で。
他イ・ラプセル内であれば、どこでもOKです。
ランダム希望で誰かと話したいのであればEXにどうぞ。こちらから話しかけた体でリプレイを書かせていただきます。指定が恥ずかしい場合もEXにどうぞ。
食べ物の持込みもかまいませんが公序良俗にはご注意を。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
0個
1個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
33/50
33/50
公開日
2019年03月30日
2019年03月30日
†メイン参加者 33人†

●
天上の天鵞絨に浮かぶ星は輝く、きらきらと。
エルシー・スカーレット(CL3000368)は星を見上げる。
最近夜空なんて見上げてなかったと気づき、輝く星に思いを馳せる。この無数の星の中に私だけに煌く星はあるのかしら、と。
『みてごらん、エルシー。ひと際美しく輝くあの星こそ、君の星だよ』
エルシーは低めに声をだす。
「まぁ、素敵。なんていう星なのですか?」
答えるエルシーの声はいつもより高い。
『夜空を美しく舞う白鳥、デネブさ』
両手を広げエルシー(低)はエルシー(高)の問に答えた。
「なーんちゃって! なんちゃって! 陛下ったらきゃーーっ」
……。3月の夜の風がぴゅうと吹く。
「あの……エルシー?」
自分を呼ぶ声に振り向けばミズーリ・メイヴェンの姿。
「そのね、うん、趣味は問わないわ。うん。でもね、さすがに、大声でそういうの……誰かに見られると、恥ずかしいと思うの。いえ! 私は内緒にしておくから! ね?」
「ちょっとまって」
一部始終をみていたミズーリの肩をエルシーは掴む。やばい、クールビューティの私のイメージがやばい。
「あの、私のイメージのために、その……」
「うん、わかってる! わかってるから、肩痛いわよ」
「ねえ、ミズーリ」
「はい?」
「飲みにいこ? 飲みにいって忘れよ?」
「わ、わかったから、肩から手を外してくれないかしら?」
「おい、アーウィン」
暫くの逡巡のあと、非時香・ツボミ(CL3000086)はアーウィン・エピに話しかける。
静かな星の夜、彼を見かけ声をかけようとしたが、その表情は遠い祖国を思っているようで、なんとなく声がでなかった。が、その程度で諦めるようなツボミではない。医者として、カウンセラーとして話しかけなくてはいけないとおもったのだ。
しかして、振り向いた彼に続く言葉はそもそも考えてなかった。
だから、その時点で続きを考える。そうだ、星だ。
「せ、星座! 星座の名前は言えるか? 星の名前もだ!」
「なんだよ突然……お前俺のことバカだとおもってないか? 俺は北生まれだぞ、夜の雪原で方角がわかるように北斗七星くらいはわかるぞ。あのいっとう光ってるのが北極星だ」
「ほう、前から思ってたが、お前意外と学があるんだな」
「生活の知恵だっつーの。あの星がどういう経緯でそうなったとかは知らなねえよ」
褒められたのが照れくさいのかアーウィンはそっぽをむく。
「まあ、そういうな。学はなくとも生きてはいけるが、あれば潤う。潤いは心身の健康につながる」
「お前の故郷(ハイマート)の教えか?」
その異国の言葉に彼が常に思いを馳せている場所がわかる。当たり前だ。昔の想いは消えることがない。今はまだ、彼は其処にはいけない。それは彼にとって辛いことだろう。しかし、来るべき時はいつか彼の前にもくるのだろう。その時はできる限りの手をかそうと思う。
「そんなところだ、他には知らんのか? 教えてやろう。そうさな、あのひときわ明るい星は……」
そこで、ツボミの言葉が止まる。っていうかそりゃ北斗七星位なら知っているが、そもそもツボミは星には詳しくはない。勢いで言ってみたが、あれなんて星?
「……どうしたよ」
「というかさぁ!」
ツボミは突如声を張り上げる。
「お前恋人の一人もこさえなさいよ!!」
「おい、星の名前はどうした?」
「星なんかより恋人だろうが! 貴様モテるんだし」
「知らねえよ、っていうかなんでキレてんだよ! バカ医者!」
他愛もないやり取りに笑みが溢れる。そうだ、今はソレで良い。目を閉じて今だけ忘れたらいい。
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は教会の庭の夜空の下、とっておきの紅茶を淹れる。
自分を見下ろす無数の星と一人だけの贅沢なお茶会。
カップの中の温度が冷えた指先を温める。
夜風は冷たいけれどそれは紅色の贅沢。星を数えることもない。言葉を発することもない。
ただ、時間がすぎるのをまつだけの本当に贅沢なひととき。
指先の熱が、今を生きていることを感じさせる。
戦うものはいつ何時死地へ向かうのかはわからない。明日この場にいれるとは限らない。
だけれでも。こんな一人の満たされた時間があることが、生きる糧になるのだ。
一口紅茶を嚥下する。熱い紅茶が喉を通り五臓六腑に熱を齎す。ああ、本当に。
――私は生きている。
ルークは依頼人からの仕事を済ませ、路地裏の壁にもたれかかって、紫煙を燻らせる。
なんとはなしに、昇る紫煙を目で追いかければ、四角く切り取られた綺麗な星空に気づく。
「綺麗な星空だ」
返り血にまみれた自分の衣装とは大違いだ。
自由騎士であるまえに彼は探偵である。ずいぶんな汚れ仕事もやってきた。
この国の水鏡は優秀だ。しかし緊急性のあるものが優先される状況において、小さな事件はどうしても後回しにされてしまうのだ。だからこそ、探偵の出番がある。
星空はいい。悪の手も届かず脅かされることもない。
だから地上のものには手が届いてしまう。
「ちょっと、ルーク、怪我してるの?!」
突然上がった声に振り向けば、バーバラ・キュプカーだ。
「あ、いや、これは、俺のじゃない」
「あんた、無茶やってるって聞くわよ?」
彼女は耳聡い。隠していようとも彼の行動はバーバラにはいつの間にか知られてしまう。
「お姉さんと妹が心配するわよ」
「家族のことは言うなよ」
「言うわよ、これ以上無茶するなら、あの二人に言いつけるわよ」
「勘弁してくれよ」
「はい」
「なんだこれ? 傷薬? いや別にいらないが」
「あなた、ほっぺ、怪我してるの気づいてないの?」
「彼女と星がみたくて」
夜半に無作法とは思ったが、テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はそんな希望をメイマール伯に告げれば、メイマール伯は嬉しげに娘の部屋にテオドールを通した。
だというのに件の娘は、ぶすっとしている。彼が戦場に出て怪我をして帰ってきたのが気に食わないのだろう。
テオドールは一層優しい声で婚約者であるカタリーナに「心配してくれてありがとう」と告げれば目元を拭った彼女はちらりとこちらを向く。
「まだ機嫌は治らないのかな。困った。カタリーナ、一緒に星をみたくてきたんだ。君と星をみることができなくては用が果たせない」
そう困った顔をすればカタリーナは黙って隣に座る。
「ありがとう。カタリーナ。星が綺麗だな。一つ願いを星に託そう」
「どんな願いですか?」
「国の繁栄……ではなく、君と添い遂げられますように、と」
もちろん国の繁栄も大事だ。でもそれは当主としての願い。彼女の問いが『テオドール・ベルヴァルド』の願いを聞いていることくらいは鈍い彼でもわかる。だから素直にそういった。
ややあって、カタリーナの指先が、テオドールの手に重なる。
「わたしもです」
そう言って婚約者は幸せそうに微笑んだ。婚約者の機嫌が治ったことにテオドールはほっと心をおちつけるのだった。
「先日陛下に拝謁した際に結婚の日取りについて聞かれたよ。
つい言葉を濁してしまったが、メイマール伯とも打ち合わせねばな」
「商人ギルドの寄り合いもそろそろお開きだな」
ずいぶんと酔いの回った面々を見つめ、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそろそろと腰をあげる。
ちょうど同じタイミングで腰をあげた佐クラ・クラン・ヒラガと目が会い、会釈する。
「佐クラ嬢もお帰りか?」
「ええ、お酒も、もういっぱいでして。おなかたぽたぽになってまいますし」
「じゃあ、家まで送っていくぜ?」
「あら、怖い送り狼がよってきたわぁ」
「安心しろって、俺は熊だ」
「あらあら、じゃあ鈴の音ならしてあるかなこわいわぁ」
軽口を言い合いながら、寄り合いの酒場をふたりは後にする。
「久々にこんな星空をみたなあ」
ウェルスは家路を歩きながら見上げる夜空を仰ぐ。
「シャンバラではどうでしたん?」
「みたようなみてないような。なんだか忙しくて星を見上げる余裕なくってな」
「そりゃあ、あんじょう儲かってるようで、ええことです」
「通商連(しょうばい)じゃなくて、自由騎士の仕事で、だけどな」
「戦争やもんねえ。ウェルスはん、怪我せんようにね」
「心配してくれるのか?」
「ええ、うちの大事な商売先やもん」
そういって佐クラがころころ笑い、ウェルスはすこし肩を落とす。もうちょっと、男としてみてほしいものだが。
言っているうちに星見の帰り道は終わり、佐クラの店の前につく。
「戸締まりはしっかりとな」
「ええ、ウェルスさんもきいてつけてね。ああ、これあげるわぁ。ウェルスさんよう怪我するから」
そう言って佐クラは懐からだした小袋をウェルスに渡す。
「あけてびっくりせんといてね。うちのやないよ。ほなまたね」
ざざーん。
春の浜辺に穏やかな波が行き来する。
すこし冷える浜辺を英羽・月秋(CL3000159) とサラ・アーベント(CL3000443)はふたり手をつなぎ歩く。包み込んでくる大きな手は男の子だから? 温かい手がサラには好ましかった。
星を数え、指先で星座をなぞり。星詠みの詩を綴り。時間は優しく過ぎていく。
「そういえば、アーベントさんと出会った時も星を眺めていましたね」
「そうだったかしら?」
「ええ、懐かしいです。星は……僕たちをつないでくれているようで、前より好きになりました」
サラは好きの言葉にすこし心が跳ねる。そういう意味じゃないからとはわかってはいるけれど。
「せっかくだからお願いごとをしませんか? 星は、昔から願いを叶えてくれるなんて言われていますが、英羽さんは叶えて欲しい願い事などはありますか? 私にできることなら、星と共にお手伝いしますよ?」
少しだけ早口でまくしたてる。すこしの照れ隠しがあったのかもしれない。
「願い事、ですか?
……僕は、まだまだ駆け出しの自由騎士です。
故に弱い」
それは少しの苦渋が交じる声。正しく自分の能力をしっているから。何度無力さを呪ったかもわからない。
「だけど」
言って月秋はサラをみつめる。
「一人ではなく二人なら。
だから、僕は背中を預けて共に闘える相棒が見つかりますように。
それが僕の願いでしょうか」
その相手が貴方であってほしい。そう言えるほど月秋は器用でもない。自分だけで思ってるだけで十分だ。
「あなたなら見つかるでしょうね。私がお手伝いしますから」
「アーベントさんは?」
「……私は、いつか終わりが来るとしても、最後まで繋いでいてくれる手がありますように……でしょうか?」
思わずサラはつないだ手を強く握る。月秋が少し驚いたようにサラを見た。
「なんて。世界が平和になりますように、です」
「ああ、それはアーベントさんらしい願いですね」
少年と、おばあさんと。その二人の心は近いような遠いような。だけれども、月秋が握り返してきた掌はいつもより熱い気がした。
星の下での女子会は騒がしく。
レネット・フィオーレ(CL3000335) とライチ・リンドベリ(CL3000336)、バーバラ・キュプカー。女子が3人あつまれば、やがては恋バナに。
「そっか、レネットちゃん恋してるんだねぇ。アドバイスできないのが悔しいなあ」
にまにまとライチが笑う。ライチ本人は恋なんてまだしたことないけど。聞き役というのも楽しいのだ。
「わーっ! ライチちゃん声!声が大きいです!
いやもうバレバレだと思うのですけれど、こんなお話出来る相手がいなくて……!」
対するレネットは頬をりんごのように赤くして手を振る。
「「で、百戦錬磨、経験豊富なバーバラさんにお聞きしたいのですが」」
二人よりいくぶんか年上であるバーバラに水がむけられた。
「まあ、それなりにだけど……、あなたたち目が怖いわよ? いい、女は愛嬌! 余裕ぶった笑みで男を惑わせる小悪魔になりなさい。そして、振り回して、わざと弱みみせるのよ。男ってそういうのに弱いから! 見せなさい! 女子力!」
バーバラの含蓄のある言葉に二人は頷く。
「女子力かあ、剣のこととか山ごもりなら得意だけど」
「でもライチちゃん戦闘してるときの姿可愛くて女子力高いですよ……もしかして女子力イコール戦闘力……!?」
「いやいや、なんか違うでしょ。で、レネットちゃん。誰に恋してるのかな?」
素っ頓狂なレネットの導き出した答えにライチは苦笑しながら手をふり、本題に入る。
「ええっ!? ええと、絶賛玉砕中ですが、優しくて、お話してくれて、思ったより不器用だったりして、こう、逆にそんなところが可愛い人でして……」
「ヨアヒムでしょ? あいつ女の子ってドウ扱えばいいの? とか最近きいてきたもの」
バーバラに名前を出された途端レネットの顔がさらに赤くなる。
「うう~~、意地悪です、バーバラさん。えっと、開き直ります! ヨアヒムさんのすきなものとかきいていいですか?」
「あいつ? うーん、子供舌だから甘い物好きよ。コーヒーとかも砂糖3つくらい入れるし」
「へぇ、そうなんだ! 意外だなあ」
バーバラのあげるすきなものをレネットは懐からだしたメモに書き記していく。
「でもあいつ情けないところも多いわよ?」
「いえ! そんなところがいいんです!」
「ねえ、ライチ、このこダメンズに引っかかりやすいタイプよ。貴方がちゃんとみてあげなさいよ?」
「あはは、でも私はレネットちゃんの恋は応援するよ」
「良いお友達がいてよかったわね、レネット」
「ねえ、姐さん、まだ外にいるの? 風邪引くよ? ストールもってきたけど」
そんな女子会に乱入するのは、ストールを手にもってきたヨアヒム・マイヤー。
「あわわわわわ……!」
「うわっ! レネットにライチもいたんだ? あー、うん君たちの分のストールも用意するよ」
ヨアヒムはバーバラ以外にも女の子がいたことに驚き、慌ててストールの準備をするために、部屋の中に飛び込んでいった。そのヨアヒムの登場にレネットの顔色は青くなったり赤くなったりと大忙しになるのであった。
アダム・クランプトン(CL3000185)は宿舎の外に出て、星に手を伸ばす。
しかしどれだけ伸ばしても星に手は届かない。それは自分の願いに似ていて胸が苦しくなって、手をのばすのを止め俯く。
瞬く星々がまるで自分を責めてるように想えたから。
救いたかったのだ。何もかもを。
だけれども現実は理想を凌駕する。結局は救いたいモノほど救えない。
「優しい世界、なんてただの夢物語なんだろうか」
「そりゃあ、全てに優しい世界なんてないだろうな」
後ろから聞き覚えのある低い声。振り向かなくてもわかる。騎士団長フレデリック・ミハイロフだ。
「頭ではわかっているんです。そんなものがありえないと」
「諦めるのか?」
「諦めるわけ無いじゃないですか!」
つい、アダムは声を荒げてしまう。ずっとずっと心に誓ったそのために子供のようにあがいてあがいて。
「でも、疲れたんだろう」
「…………はい」
シャンバラ人と戦った。彼らもまた悪辣なヒトではなく国を守るために戦う戦士だった。それなのに憎み合い奪い合う。戦争なんてものは平たく言えば権利の奪い合いだ。それが「戦争」だと割り切れる程にアダムは老成してはいない。
「お前はまだまだ子供だからな」
「僕は、子供じゃ……!」
その言葉に反発を覚え、フレデリックに顔を向ける。
「だから悩めばいい。戦争だから戦う、戦争だから殺す、それが当然なわけがないさ。戦えば犠牲がでる。それを仕方がないと割り切れずに悩むのは若者の特権だ」
「僕はもう、どうして良いのかわからないんです」
それは、犯した「罪」を雪ごうと『善行』を行い続けてきた少年がこぼした最初の弱音。
「教えてください。この世界は何が正しいんですか?
ヒトを殺して奪うことは正しいんですか?
憎み合うのは当たり前なんですか?」
口から一度こぼれたその助けを求める想いは掌からこぼれ落ちるようにどんどんと溢れてくる。フレデリックはそのアダムから溢れ出した言葉を受け止める。
助けてと叫ぶ少年の声なき声を受け止める。
「がんばったな、アダム・クランプトン。この世界に完全に正しいことはどこを探しても無いだろう。我が神の行いも他の国にとっては悪であることもある。
ではなにが正しいのか。それは自分の信念を裏切らないことだ」
アダムはフレデリックを見上げた。
「俺もな、お前と同じことで悩んだことがある。そして今もなお悩んでいる。自分の手の届く範囲があまりにも矮小なことに嫌になる」
「団長でも、ですか?」
「ああ、なさけないことにな。あ、これは他の団員に知られると俺の沽券に関わるから軍事機密だぞ?
思い通りにならないことはある。しかして腐るな。
こんな時は酒でも飲んで……ってお前は未成年だったな! 早く大人になれ!」
豪快にフレデリックは笑う。
「いいか、アダム。お前は常に正しく生きている。胸をはれ。そうすればお前の行動のあとに正しさっていうのもはついてくるはずだ」
そう言うとフレデリックはアダムのあたまをゴシゴシと雑に撫でる。
「団長……」
「お前は今、自信がなくなっただけだ。だから自信をもって生きればいい。お前はお前の望む正しさを誰にも譲ってはいけない」
「こーら、リムちゃん、良い子はもう寝る時間ですよ」
フーリィン・アルカナム(CL3000403)は就寝時間になってもベランダで座ったままのリムリィ・アルカナム(CL3000500)に声をかけた。
「……きれいなものをみてた」
言われるがままに見上げれば満天の星々。
なにもなかったこの義妹がいつしか意志をもってきれいなものを好んで見るようになった。その小さな変化がフーリィンには好ましい。
今まできる限りのことはしてあげたいと思い実行してきた。
少女が騎士になりたいと言ってきたときには心配はしたけれど止めなかった。初めてこの子が口にした意志と希望を無碍にしたくはなかったから。
「お星様綺麗ですもんね」
「うん、きれいなものはすき。おねえちゃんがまえにいってた。きれいはたいせつでだいじ
かたちはあったりなかったりいろいろ。
なんだかほしみたいだっておもった」
「そう」
自分で感じて、触れて、自分とそして誰かの大切がわかるようにとリムリィには告げてきた。
「リムちゃんの大切なものはできましたか?」
「かぞく。なかでもおねえちゃんはとくべつ」
世界は綺麗なものと同じくらいそうじゃない物も溢れている。そのなかでリムリィが見つけた答えがフーリィンには愛おしかった。戦いの中で彼女は幾度傷ついただろう。でも彼女はその戦いを是としている。それは本当に正しいのかと何度も葛藤した。
「わたしみたいにてきにもたいせつがあるのかな? ちょっとむつかしい」
その疑問にフーリィンは適切な答えが思い浮かばなかった。当然だ。誰にだって大切なものはある。それを奪うことがあるのが戦争だ。そのとおりだと答えれば義妹はどんな顔をするのだろうか。苦しむのだろうか。なんとも思わないのだろうか?
「ふあ、ねむ。……ねるまでいっしょにいてくれる?」
「わかったわ。リムちゃん甘えん坊ね」
でも今は、義妹の目には綺麗なものだけ写してあげたいと、姉はそう思った。
『星を見に行かないか?』
きっかけはそんな思いつき。見上げた夜空が綺麗で、大切なあの子と一緒に見たくなったのだ。
戦争とか物騒なことで忙しい中、ふと得ることのできた間隙。
ロイ・シュナイダー(CL3000432)はだからこそ、その時間を無駄にしたくなかった。
誘われたタイガ・トウドラード(CL3000434)は気分転換にいいと思ったよりもあっさりと承諾してくれた。
タイガも幼い頃は家族で野原に向かい、望遠鏡で遠くの星座をみつけて喜んでいたころがあった。
そんな優しくもふるい記憶に思いを馳せるタイガの頬に温かいものが触れる。
「飲み物、用意してきたよ。まだ寒いしね」
彼はなんとも気が回る。本当なら女である自分が用意すべきだったのに。ほんとに私は武、一辺倒でだめだなと少しタイガは落ち込む。
「ありがとう、気を遣わせてしまったな」
「いいよ、気にしないで」
言ってロイはさり気なく、いつもより少し近い場所に座る。よし、ここまでは完璧だ。さり気なくタイガの隣に座れたぞ!
今日のロイには野望があった。この婚約者殿とは清い関係だ。いや、この年頃の男女にしては清すぎるくらいに。星を見る→雰囲気良くなる→ちゅーする。これが本日のロイ君の計画である。
事実子供の頃からの付き合いで小さい頃にふざけてタイガのほっぺにちゅーしたことくらいしか婚約者らしいことはできていないのだ。それではいけない。うん、絶対にいけない。さり気なく肩を抱こうと腕を伸ばす。10センチ、5センチ、3センチ、2センチ、1センチ……。
「ロイ! みろ! 今流れ星が!」
そんな下心にも気づかずタイガは星空を指差す。ロイの勇気はそこで粉微塵に吹き飛んだ。
「あ、うん、みえなかったなーかなしーな、ざんねんだー」
「なんだ、ロイ、そんなに流れ星が見えなかったのが残念だったのか」
「うん、そーかな」
「仕方ないな」
タイガは優しく笑むと流れ星が見れなくて落ち込んでる(と思い込んでいるまま)ロイの手をとり、その甲に口づけを落とす。
「今はこれが流れ星だ。この流星に誓おう。ロイ、私がお前を守るから」
トゥンク。ロイの心臓が跳ねる。
「あの、タイガさん。俺よりイケメン度高いのなんとかならない???」
「星を見てるんですか?」
アクアディーネが吹き抜けで空を見上げているライカ・リンドヴルム(CL3000405)に問う。
「今日は星がキレイに見えるから。神殿からだとどうかとおもって」
「あまり変わらないと思いますが、どうですか?」
「さあ」
ライカはぶっきらぼうに答える。一緒に星を見たかったとはいわない。代わりに違うことを言う。
「ミモザ、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。神殿の皆さんにお願いして送ってもらいました」
あの色の意味を聞きたかったのだけど、そういうことかとすこしがっかりする。
「やっぱり神殿から出れないの?」
「ええ、もしものことがあるといけないので」
まるで閉じ込められた小鳥じゃない、カミサマなのに。そう思うとなんとなくイライラとする。
「ねえ、キミには願いはないの?」
ライカは強い願いがある。世界から神を全部なくすこと。だから神が願うのなら何を願うのか聞いてみたくなった。
「願いですか? みなさんがへいわにいきるだいちになること でしょうか」
ライカは少しだけその答えに違和感を覚えたが、それがなんであるのかは言語化することができない。
「へんなの。変な願い」
だからそういった。
「へんですか?」
女神は気を悪くすることもなく問い返すのがなんとなくだけど気に入らなかった。悪口をいってるんだから怒ったっていいのに。
「そうだ。黄色いミモザの意味。わからずに贈ったわけじゃないから」
「はい?」
アクアディーネが聞き返そうとおもって振り向いたそこにすでに、ライカの姿はなかった。
(こんなしみじみと星空を眺めるとかいつぶりだろう?)
コジマ・キスケ(CL3000206)は同僚であるユリカ・マイ(CL3000516)と並んで夜空を見上げる。
「素敵な星空です! あんまり綺麗で吸い込まれそうです。
こんな夜は思い出しますね! 共に参加した初の野外訓練のときの夜空を。
あのときも吸い込まれそうな夜空でした」
(ああ、そっかあのときか)
うれしそうなユリカの言葉に思い出すのは苦い記憶。新兵訓練で自分の無力さをしったあの夜。
「私はあのときほど、星空が美しいと強く感じたことはありませんでした!
星空の眩しさ、そして困難を共にする存在のありがたさを」
ユリカは慢心を打ち砕かれ、無様な醜態を晒してしまった相手であるコジマを暫くまともに見ることができなかったが、いつしかそれもなくなり良い思い出だったと思えるようになった。
「そっかー良い思い出、ハイ ソウデスネ」
今はキラキラの同僚の笑顔が眩しすぎて正直しんどかったけど、それは顔にはださないように務める。
正直自分含め何人かの基礎が足りていなかった連中はユリカのように星を見上げるほどの余裕はなかっただろう。今でこそ並んで走れる程度までにはなったがユリカがコジマのコンプレックスであることは変わらない。もちろん仲はいいとおもう。友人として好ましいとも思う。でも、両者の間の気持ちには大きな差がある。
「ぜひまた一緒に、夜間訓練にいきましょう!」
そんな思いを知ってか知らずか、ユリカは明るく誘う。
「そうね、どうせやるなら一緒がいいか」
「はい!」
未熟なユリカが遥かに見上げた星々。憧れ手を伸ばしてきたその相手(コジマ)の「一緒」の言葉が嬉しくて、ユリカは一層嬉しそうに返事をした。
……アレイスター・クローリー、居るんだろう?
マグノリア・ホワイト(CL3000242)が星空のもと、つぶやく。
「呼んだかい?」
「ああ、君は君は僕らを《可能性(オラクル)》と呼んでいるよね……?」
突如隣に現れた魔術師に驚く様子も見せずマグノリアは尋ねた。クローリーは口元に笑みを浮かべその続きを促す。
「僕らが命を削るたび、君は喜んで居るようだ」
「ソレは誤解さ。マグノリア・ホワイト。僕ぁね、君たちのおこす奇跡が必要なんだ。それによって君たちが死んでしまうのは本末転倒だけれどもね。君たちが命を削ることは僕にとって辛いことなんだぜ?」
マグノリアはどうだか? と胸中で呟いた。
「ねえ、君はこの世界を君好みにひっくり返すつもりかい? 君はこの蠱毒の先を見て楽しんでいるように見える」
「マグノリア・ホワイト。君は頭がいい。だから考える。僕がその首謀者(ラスボス)ではないかってね? 残念。僕ぁね、そこまで世界を動かせるほどの英雄ではないさ。300年前から頑張ってはいるものの、20年前の大戦が限界でさ。そこに現れたのは奇跡の可能性である君たちだったんだよ。
君たちは、確実に世界を変えつつある。
――それと蠱毒については因果関係が逆だ。その先の崩壊を起こさないように蠱毒を起こしたのさ。僕ぁね。この世界が無くなるのを是とはしていないんだぜ。歪んでしまった未来を戻したいだけさ」
「神だって首を取られれば死ぬ。君は首を跳ねられても生きているそうだね」
「おっと、個人情報の聞き出しかい? 僕のこと知りたくてたまらないのかな?」
「ちゃかすなよ。ソレを可能にしてるのは何……?」
「呪いさ」
「呪い……?」
「そうさ、アレがこの世界にのこしちゃった『呪い(かのうせい)』なのさ。どうにもポンコツだけど」
「……もしかして君は本当はこの星たちより前に生まれたものなのかい?」
「いいや、君たちが神と呼んでいるものよりは年下さ。ほんの1600歳。おっと、公式年齢は801歳になったところだっけ?」
「そうかい。まあいいや、ねえ君と星がみたい。星の名前を教えてよ」
眼の前の魔術師を胡乱な目で見ながら、マグノリアは思う。答えはなにも得ていない。それでも、彼の願いを叶えて見せようと誓った。きっとそうしたら、彼の顔色は変わるはずだから。
「王女様はお星様のこと詳しいんですか?」
星見のお茶会をひらいたのはアリア・セレスティ(CL3000222)。
お土産の金平糖を喜んでもらったのは嬉しかった。
「それほどでもありませんが……そうですねこの時期だとレグルスのしし座が有名ですけど、その真上を見てください。あの星と――」
王女は4つの星を指す。
「あれがこじし座です。その上にはやまねこ座があって……私のなかではねこさん達が遊んでいるあたり、なんて思っています……て変です、か?」
「いえいえ! とんでもない。王女様はネコ、すきなんですか?」
「ええ、かわいいので好きです」
他愛のない会話は続く。
「こうしていると、平和なんですけどね」
言ってアリアは目を伏せた。国内に戦火を広げることなく戦争は進んでいる。だからイ・ラプセル国土事態は今は平和であることにアリアは誇りを持っている。
「戦争は、怖いです。私は戦うことはできません。みんなが傷ついても見てるだけしかできないんですから」
そんなアリアに申し訳なさそうに王女は俯く。
「あ、いえ! あー、王女様にそんな顔させたくて言ったわけじゃなくて! だから安心してくださいっていいたかったんですけど、えっと」
そうだ、この王女は心優しい人なのだ。だから自分ができることを模索してなにもできていないと落ち込んでしまうのだ。
「あのね、王女様。じゃあ、お願いがあります」
アリアは笑う。
「応援してください。ソレだけで皆笑顔になってまたがんばれますから!」
「それだけでいいんですか?」
「『それだけ』じゃないですよ。王女様の応援は『それほど』なんです」
「……アリア、頑張って」
「はい! すごく元気でました」
「うそばっかり」
「嘘じゃないですって! あ、あともひとつ不躾なお願い、いいです?」
「はい、かまいません」
「私も、王女様のこと『ティーヌ』って呼んでいいですか? 皆が呼んでいて少し羨ましくて」
王女は一瞬だけキョトンとした顔をすると、すぐに笑顔になって大きく首を縦に振った。
寝付けない夜、外に出たらあまりにも夜空が綺麗で。
だから、モニカ・シンクレア(CL3000504)は夜の散歩だ。遠出して、森をぬければ大きな湖があった。
透明感のあるその湖は夜のキャンバスをそのまま水面に鏡写し。
世界が星でくるまれたようなその光景にモニカは故郷にいたらきっと見ることができなかったのだろうと思う。
ふと故郷が懐かしくなって、ぽろん、とリラの弦を爪弾く。
音は湖に吸い込まれるように響いていく。
――♪
やがてその音色にあわせ、歌声が聞こえ目を上げれば、湖に羽根の生えたクジラが浮かんでいた。
(きゃ~何このクジラ~可愛いんですけど~っ! それに歌も上手~! 知ってる歌だし、デュエットよっ!)
モニカは、邪魔にならないようにユニゾンして同じ歌を歌う。
――♪
「ねえ、あなた、ウタクジラ、っていう幻想種なんでしょ? 名前は、メモリア! 私はモニカ・シンクレアよ!」
歌い終わったその途端にモニカは自己紹介をする。イ・ラプセルの資料でみて興味があった幻想種を目にして興奮がさめやらない。
「そう、モニカ、よく知ってるのね」
「メモりんってよんでいい?」
「すきにすれば」
「ねえ、背なかに乗せてもらっていい? 今から星にお願いごとしたくって! 少しでも高いところにいけば願いも叶いやすいかなって!」
「あまり高いところは無理だし、落ちてもしらないわよ」
「大丈夫!」
モニカはその後メモリアの背なかで空中遊泳を楽しむ。
「願い事はいいの?」
モニカは少しだけ高いところに上昇してほしいとメモリアに頼めば、メモリアは言葉なく上昇する。 (……少しでも多くの同胞が救われますように……)
すこしでも星に高い位置で、少女は願いを口にした。
「アーウィンさんだ! アーウィンさんだー!」
篁・三十三(CL3000014)が星空の下、散歩に興じるアーウィン・エピを見つけ跳ねながら声をかけた。
「おー、うっさいのがきたな」
「ひどいなあ! 知ってる人に会えるとうれしいんだもん。お兄ちゃんができたみたいで!」
「……っな! そうか、ふーん」
三十三の言葉にアーウィンはまんざらでもなさそうに顔をそむける。
「ねえ、アーウィンさん! 俺星座しってるんだよ! そう、アレ! アレは……えっと……」
「ずいぶん北にあるよな」
「そう! 北斗七星! 迷子にならないようにって教えてもらったんだ!」
「へぇ」
「……あのさ、この前初めて戦争している他国にいったんだけど」
「ああ」
「物の考え方っていうのは生まれた国によって植え付けられるものなんだね」
「そうだな、俺だって、生まれはヴィスマルクの田舎だ。その国にはその国の常識がある」
「自由を知らないっておかしいよね」
「いいや、生まれによっちゃソレが当たり前だ」
三十三はアーウィンの真意を掴むことができずに訝しげな表情を浮かべる。
「そりゃ好きなようにできないこともあるのはしってるけど、それでも当たり前だなんておかしいよ。ヒトはモノじゃない、ちゃんと考えることのできる同じヒトなんだって……」
「ヒトってもんは自分を囲むナショナリズムってものに順応する。結果洗脳に近いそれは自分の常識(あたりまえ)になる。それだけのことだ」
「でも……」
「それでも、そうやって他人の自由に関して思えるお前は立派だとおもうぜ、俺は」
そういって苦笑するアーウィンを眺めるが三十三は『常識(あたりまえ)』に納得はできない。それでも、この不器用な青年が慰めてくれたのだろうことは理解した。
「失礼します。夜分遅くに申し訳ありません。父からの使いで書簡をおもちしました」
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は執務室に入り、エドワード・イ・ラプセルに書簡を届ける。
「ああ、其処においておいてくれたまえ」
執務に従事する彼はデボラを一瞥すると、書類へ目を落とす。
「あのっ」
仕事中の陛下にお声をかけるのは不敬だとはおもったけれど、眉間のシワが気になる。疲れだって見えている。
「星が綺麗ですし、少し休憩はいかがですか?」
「ああ、そうさせてもらおうかな? いけないな、気が急いて休憩を忘れてしまう」
エドワードはペンを下ろすと、メイドにお茶の用意をさせた。
「キミもよかったらどうぞ」
デボラはふかふかのソファに腰をかける。エドワードもその向かい側に座る。程なく紅茶がメイドによって給仕された。
「あの、陛下は日々のお見合いの話も未だ変わらず、ですか?」
「まあね、クラウスが連日急かしてくるけど、ソレどころじゃないからね、キミは……っとすまない、失言だ」
世間話にと水をむけ、デボラの生い立ち――体を機械化することで一命をとりとめた彼女は婚約者に婚約を破棄された――を思い出し、気まずそうに紅茶を飲む。
「い、いえ! お構いなく! 命があるだけいいのです。それに私は以前のままではありません。それが原因で彼に捨てられたとしてどうして責められましょう。
殿方は器量です。こう、器の大きい、40代のおじさま! 妥協するとして30代!! 白馬にのった渋いおじさまが迎えにきてくれるはずです!」
デボラはヒートアップしソファから立ち上がった。
「えっと、うん、元気があっていいね」
「失礼しました! 私情はここまでにしましょう」
こほんと咳払いしデボラはソファに腰を下ろす。
「あ、陛下流れ星です。願いましょう。この国の民の末永い幸せと、そして我が国の勝利を」
「私はキミにいい縁談がくることを願っておくよ」
「陛下ってずいぶんいじわるですね」
そういってデボラは口を尖らせた。
宿舎の屋根に登ったカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)はごろりと仰向けに寝転がる。
手を伸ばせば星は届きそうでとどかない。夜の天鵞絨が自分を抱きしめているように想えて嬉しくなる。
「ふわー、星がいっぱーい!
んーと、あの星と星を結んで、絵になるんだっけ?
あのおおきいのと……」
ひときわ輝くレグルスに指を向けそのまま横にずらしていく。けれども。
「どれだっけ?」
星座の続きの星がわからない。でも構わない。だってすごくきれいだから。
星は瞬く。この星空はシャンバラでも、ヘルメリアでも、ヴィスマルクでも、パノプティコンでも、そしてこのイ・ラプセルでも同じだと思う。同じ空の下戦争が起きているのは嘘のようだ。
「あのひととか、アミナとかティーヌに女神さま、みんなのんびりできたらいいのにな」
それは純粋な願い。
「番外地のみんな、南国で一緒に踊ったヒト、それとあの、ていこくのユリアーナに」
指をおりながら出会ったヒトビトにカーミラは思いを馳せる。
「はやく、せんそー、おわらせたいなー」
ナナン・皐月(CL3000240)はメモリアの背の上に毛布にくるまれて星を見る。
――Twinkle twinkle little star,
満天の星の下、ふたりは星を謳う。
――How I wonder what you are. ――Up above the world so high,
ナナンは高くあげた両手を降ってきらきらを表す。
――Like a diamond in the sky.
空に浮かぶダイヤモンドのような笑顔で。
ナナンはメモリアが星が見えているのかと聞く。湖にたくさんあるわとメモリアは答えた。
――Twinkle twinkle little star,How I wonder what you are.
歌い終えれば、一筋の流れ星。
ナナンは願う。今はこの星を見上げきれいだと安心して見上げることができる時代ではない。けれども、そうなってほしいと願う。
願い終わった頃には、いつのまにかナナンは夢の中に揺蕩っていた。
夢の中ではみんな、幸せそうに笑ってる。それがとてもとても嬉しかった。
手紙の約束の日は今夜。クレマンティーヌ・イ・ラプセルは友人の到着を心待ちにする。
星の形のキャンディと、紅茶を準備して。
ノックとともにやってきた友人は不思議なものを持ってきていた。
「それは?」
「星見盤というのです。これをみながら星をみると楽しくなると思って」
海・西園寺(CL3000241)は少しはにかんでそういった。
二人は星を見る。星見盤をテーブルにおいて、どれがどの星座と照らし合わせながら見ればいつもより新鮮な気持ちでみることができる。
「ティーヌの好きな星の色はなんですか?」
そう海が質問すれば、王女は蒼い星のキャンディをレグルスに置く。
「海は?」
「西園寺は――」
海はそのレグルスのとなりにキャンディを置く。王女はまたそのとなりにキャンディを置く。二人でそうやって、甘いキャンディで星座を作っていくのは楽しかった。二人で作る星座は時には本物とは違うものになったけれども。
そんな時間を過ごして海はこの王女の大好きなところが一つ一つ増えていくのに気づいた。
だから二人でつくった『みかがみ座』に誓う。
私がこの王女を守るのだと。だから願う。二人だけに輝く『みかがみ座』に。
ティーヌを守れる力になれるように。それを全うできる人になれるようにと。
くしゅんと王女がくしゃみをしたので、もってきたストールをふたりでかぶれば、不思議といつもより温かい気がした。
今日は星見の散歩。
熱めのココアと星型のクッキーをお供にお気に入りの外套を羽織って。
たまき 聖流(CL3000283)は星がよく見える丘に腰掛け、星を見上げる。
(この綺麗な星々は、どれ程の世界の悲しみと、喜びを、見て来たのでしょうか……)
今空で輝いている星はずっとずっと遠い昔から届いた光だという。そんな観測者である星たちに悲しみばかりを見せたくないとたまきは思う。
今は戦争中で、悲しいことはこの先どんどんふえていくだろう。だけれども、できることなら安心して、この世界を見下ろしてほしいと思う。
「くちゅん」
そう夜空に思うたまきの近くで小さなくしゃみが聞こえた。先客がいたことに気づいていなかったのがすこし恥ずかしい。
「たまき、いたの。さむ。」
「アンセムさん」
そこにいたのは大きな角を生やしたマザリモノの少年、アンセム・フィンディングだ。
「ちょっと、星空にインスパイア。でも、ねむくなって、ねてた」
「だめです、よ? 風邪、ひいちゃいます……!」
たまきはあわてて、用意してあったストールの予備を渡してココアをカップに淹れてアンセムにわたす。
「これ?」
「はい、私もここでひとりで、星見しようと思って……でも、ひとりよりふたりがいいので」
「そう、ふあぁ。じゃあ、すこしおきる」
「はい、そうしてください……。あの、クッキーもありますよ」
「星、だ」
「はい、星の形です。星見に似合うかなって思って……」
「わるく、ないね」
星は優しく見下ろす。少年と少女の小さなお茶会を。
なんや、シャンバラと今はどんぱちやってるっちゅうのに。
見上げた春の前の空は高く遠く澄み切っている。その黒いキャンバスには瞬く星々。それがきれいで戦争中であることをわすれてしまいそうになる。
アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は真上を見ながら歩いた。
そうしたらどんと誰かに衝突する。
「へいへい! アリシア殿、よそ見してると大怪我するでござるぜ!」
「ああ、ムサシマルやん。っていうか、ムサシマルもよそ見してたんちゃうん?」
「ちゃうねん」
「あ、ちゃわんやつや。ムサシマル、星の名前しっとる?」
「星ってくいもんでござるか?」
「うちも詳しないけど、ムサシマルよりはましや思うわ」
いってアリシアは星を指差す。
「あの柄杓のかたちしたやつ。おおぐま座のしっぽのやつ。
あれの柄杓の先にある、めっちゃきらっとしてるのが北極星やで」
それはアリシアが唯一知っている星座。
「あれが北の方角やって教えてもろたんけど、曇の日や昼だとわからんやん!」
「そんときは勘に頼ればいいんでござるよ! 我が先に道はアリでござる」
「ムサシマルだからよく迷子になっとるんちゃうん」
「いや、違うでござる! 拙者ではなく世界が迷子になっているのでござる」
「ものはいいようやな。あ、流れ星や、お願いしとこ!」
マダムシープの羊たちは、サロンの窓から星を見る。
「今日は暇やなぁ、まあ、そんな日もたまにはあるんやろうけど」
蔡 狼華(CL3000451)はあくびを噛み殺しながらつぶやく。
春とはいえ夜はまだ冷える。毛布を肩にかけ部屋をでると寒がりの同僚のためにミルクを温めにいく。
「雪〜? 生きとる〜? 凍死してへんか?」
カップにミルク、そこにチョコレートを放り込んだ即席のホットチョコレートをもって雪・鈴(CL3000447)の部屋にいけば、そこには瑠璃彦 水月(CL3000449)とニコラス・モラル(CL3000453)も集まって来ていた。
「ああ、もう、みんなおったん。うちと雪の分しかつくってないわぁ。ニコラス、じぶんのお酒もってくる代わりに彦のぶんもつくってきたって!」
「はいはいっと。ほんと人使い荒いなあ」
「ぶつくさいわんと。つまみももってきてええから」
「さむ。さむ。ありがとう、ホットチョコあったかい」
「ニコラス殿~あっしのは少し温めで」
「はいよー」
「あの、みんなでお星様みるですか? おそとですか?」
「そんなんしたら、雪が死んでしまうやん。なかで、この窓からしかくぅい星空みるん」
そんなやりとりのあと、少しのツマミと瑠璃彦のためのホットチョコと自前の酒をトレイにのせたニコラスが戻ってくる。
「お、おいしそうですぞ」
瑠璃彦がチョコレートに手をのばすのをニコラスは軽く叩く。
「瑠璃彦のはこっち。これは特別なツテで手に入れたとっときだからおじさんのなの」
「で、この中にお星様の説明できるんおる?」
狼華の問いかけにだれもうなずかない。
「だぁれもしらんのかいな。こういうの寝物語ではなしたらうけるのに」
「狼華も知らないんだろう?」
そんなニコラスの言葉に狼華はにらみつける。
「あああーーー! 流れ星! よっし、星を拾いにいきますぞ! ナムサン!」
流れ星を発見した瑠璃彦が突如窓をあければ寒い空気が入り込んでくる。空いた窓から瑠璃彦はぴょんと飛び出していく。
「さむ、さむ」
「こらぁ、彦! 雪が凍え死んでまうやん!」
毛布にくるまり蛹になっているような雪をなでながら狼華がどなる。
「うちのエースはこわいねえ」
そんな狼華をニコラスが茶化しながら窓をしめた。
「いやあ、大量でしたぞ」
ややあって、瑠璃彦は両手に色とりどりの金平糖を目一杯のせて足でドアを開けて帰還する。
「おほしさま、ひろってきたですか?」
うれしそうに触覚を震わせる雪に瑠璃彦は「これだけあればいくらでも願いができますぞ」と答える。
「しょうもないことして」
いいつつも狼華の表情は明るい。
彼らは思い思いに願いを星に託す。
「あっしの願い? 秘密ですにゃ」
「じゃあ、おじさんも秘密!」
「ひみつだらけやん」
「いわないほうが花ってものもあるのさ」
「まあそんなことより、綺麗に瞬く星空をみましょうぞ!」
「暗いから気を付けるんだぞ! 足元に注意だぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は教会の妹や弟をつれて今日は夜の散歩だ。
遠足のその先はスペリール湖。星空が綺麗な夜だから、湖と空と2つの星空を見せたかったのだ。
先導する姿はすこしくらいはお姉さんにみえるけれど……足元の石に躓いてコケるのを妹が起こそうとするが、転がって見る空は高くて綺麗で。
「みんな、ここに転がってみるんだぞ!」
綺麗なこの空をサシャは共有したかったのだ。
「お姉ちゃんコケたんじゃなくて、この空をみせたかったんだね」
「そ、そのとおりだぞ!」
結果オーライ。そういうことにしておくことにした。
キラキラ光るキャンディの粒のようなその星空に子どもたちは感嘆の声をあげる。
「ねえ、あれはなんていう星座?」
「あれはだな、この時期に一番綺麗にひかる……」
「レグルスのしし座ってきいたわ」
いつの間にか上空に浮かんでいるウタクジラの声。
「おおう! それだ! 知っていたんだぞ? メモリア」
起き上がったサシャの周りに怯えた子どもたちが集まる。
「大丈夫だぞ。あいつはメモリア。サシャたちの仲間のウタクジラだぞ!」
最初は怯えていた子どもたちもメモリアが害を及ぼすものではないとわかり、しっぽやヒレをひっぱりはじめる。
「サシャ、このこたちに引っ張らないでと言って」
「わかったぞ! こら、いじめちゃだめだぞ!」
そう怒鳴れば子どもたちは笑いながら蜘蛛の子を散らすように走っていく。
「すまないのだぞ、悪気はないはずなのだぞ」
「わかってるわ。――♪」
メモリアが歌えば子どもたちも戻ってきて歌い始める。サシャもまた頷くと一緒に歌う。
それはメモリアがナナンに教わった歌。――きらきら星。
天上の天鵞絨に浮かぶ星は輝く、きらきらと。
エルシー・スカーレット(CL3000368)は星を見上げる。
最近夜空なんて見上げてなかったと気づき、輝く星に思いを馳せる。この無数の星の中に私だけに煌く星はあるのかしら、と。
『みてごらん、エルシー。ひと際美しく輝くあの星こそ、君の星だよ』
エルシーは低めに声をだす。
「まぁ、素敵。なんていう星なのですか?」
答えるエルシーの声はいつもより高い。
『夜空を美しく舞う白鳥、デネブさ』
両手を広げエルシー(低)はエルシー(高)の問に答えた。
「なーんちゃって! なんちゃって! 陛下ったらきゃーーっ」
……。3月の夜の風がぴゅうと吹く。
「あの……エルシー?」
自分を呼ぶ声に振り向けばミズーリ・メイヴェンの姿。
「そのね、うん、趣味は問わないわ。うん。でもね、さすがに、大声でそういうの……誰かに見られると、恥ずかしいと思うの。いえ! 私は内緒にしておくから! ね?」
「ちょっとまって」
一部始終をみていたミズーリの肩をエルシーは掴む。やばい、クールビューティの私のイメージがやばい。
「あの、私のイメージのために、その……」
「うん、わかってる! わかってるから、肩痛いわよ」
「ねえ、ミズーリ」
「はい?」
「飲みにいこ? 飲みにいって忘れよ?」
「わ、わかったから、肩から手を外してくれないかしら?」
「おい、アーウィン」
暫くの逡巡のあと、非時香・ツボミ(CL3000086)はアーウィン・エピに話しかける。
静かな星の夜、彼を見かけ声をかけようとしたが、その表情は遠い祖国を思っているようで、なんとなく声がでなかった。が、その程度で諦めるようなツボミではない。医者として、カウンセラーとして話しかけなくてはいけないとおもったのだ。
しかして、振り向いた彼に続く言葉はそもそも考えてなかった。
だから、その時点で続きを考える。そうだ、星だ。
「せ、星座! 星座の名前は言えるか? 星の名前もだ!」
「なんだよ突然……お前俺のことバカだとおもってないか? 俺は北生まれだぞ、夜の雪原で方角がわかるように北斗七星くらいはわかるぞ。あのいっとう光ってるのが北極星だ」
「ほう、前から思ってたが、お前意外と学があるんだな」
「生活の知恵だっつーの。あの星がどういう経緯でそうなったとかは知らなねえよ」
褒められたのが照れくさいのかアーウィンはそっぽをむく。
「まあ、そういうな。学はなくとも生きてはいけるが、あれば潤う。潤いは心身の健康につながる」
「お前の故郷(ハイマート)の教えか?」
その異国の言葉に彼が常に思いを馳せている場所がわかる。当たり前だ。昔の想いは消えることがない。今はまだ、彼は其処にはいけない。それは彼にとって辛いことだろう。しかし、来るべき時はいつか彼の前にもくるのだろう。その時はできる限りの手をかそうと思う。
「そんなところだ、他には知らんのか? 教えてやろう。そうさな、あのひときわ明るい星は……」
そこで、ツボミの言葉が止まる。っていうかそりゃ北斗七星位なら知っているが、そもそもツボミは星には詳しくはない。勢いで言ってみたが、あれなんて星?
「……どうしたよ」
「というかさぁ!」
ツボミは突如声を張り上げる。
「お前恋人の一人もこさえなさいよ!!」
「おい、星の名前はどうした?」
「星なんかより恋人だろうが! 貴様モテるんだし」
「知らねえよ、っていうかなんでキレてんだよ! バカ医者!」
他愛もないやり取りに笑みが溢れる。そうだ、今はソレで良い。目を閉じて今だけ忘れたらいい。
アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は教会の庭の夜空の下、とっておきの紅茶を淹れる。
自分を見下ろす無数の星と一人だけの贅沢なお茶会。
カップの中の温度が冷えた指先を温める。
夜風は冷たいけれどそれは紅色の贅沢。星を数えることもない。言葉を発することもない。
ただ、時間がすぎるのをまつだけの本当に贅沢なひととき。
指先の熱が、今を生きていることを感じさせる。
戦うものはいつ何時死地へ向かうのかはわからない。明日この場にいれるとは限らない。
だけれでも。こんな一人の満たされた時間があることが、生きる糧になるのだ。
一口紅茶を嚥下する。熱い紅茶が喉を通り五臓六腑に熱を齎す。ああ、本当に。
――私は生きている。
ルークは依頼人からの仕事を済ませ、路地裏の壁にもたれかかって、紫煙を燻らせる。
なんとはなしに、昇る紫煙を目で追いかければ、四角く切り取られた綺麗な星空に気づく。
「綺麗な星空だ」
返り血にまみれた自分の衣装とは大違いだ。
自由騎士であるまえに彼は探偵である。ずいぶんな汚れ仕事もやってきた。
この国の水鏡は優秀だ。しかし緊急性のあるものが優先される状況において、小さな事件はどうしても後回しにされてしまうのだ。だからこそ、探偵の出番がある。
星空はいい。悪の手も届かず脅かされることもない。
だから地上のものには手が届いてしまう。
「ちょっと、ルーク、怪我してるの?!」
突然上がった声に振り向けば、バーバラ・キュプカーだ。
「あ、いや、これは、俺のじゃない」
「あんた、無茶やってるって聞くわよ?」
彼女は耳聡い。隠していようとも彼の行動はバーバラにはいつの間にか知られてしまう。
「お姉さんと妹が心配するわよ」
「家族のことは言うなよ」
「言うわよ、これ以上無茶するなら、あの二人に言いつけるわよ」
「勘弁してくれよ」
「はい」
「なんだこれ? 傷薬? いや別にいらないが」
「あなた、ほっぺ、怪我してるの気づいてないの?」
「彼女と星がみたくて」
夜半に無作法とは思ったが、テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はそんな希望をメイマール伯に告げれば、メイマール伯は嬉しげに娘の部屋にテオドールを通した。
だというのに件の娘は、ぶすっとしている。彼が戦場に出て怪我をして帰ってきたのが気に食わないのだろう。
テオドールは一層優しい声で婚約者であるカタリーナに「心配してくれてありがとう」と告げれば目元を拭った彼女はちらりとこちらを向く。
「まだ機嫌は治らないのかな。困った。カタリーナ、一緒に星をみたくてきたんだ。君と星をみることができなくては用が果たせない」
そう困った顔をすればカタリーナは黙って隣に座る。
「ありがとう。カタリーナ。星が綺麗だな。一つ願いを星に託そう」
「どんな願いですか?」
「国の繁栄……ではなく、君と添い遂げられますように、と」
もちろん国の繁栄も大事だ。でもそれは当主としての願い。彼女の問いが『テオドール・ベルヴァルド』の願いを聞いていることくらいは鈍い彼でもわかる。だから素直にそういった。
ややあって、カタリーナの指先が、テオドールの手に重なる。
「わたしもです」
そう言って婚約者は幸せそうに微笑んだ。婚約者の機嫌が治ったことにテオドールはほっと心をおちつけるのだった。
「先日陛下に拝謁した際に結婚の日取りについて聞かれたよ。
つい言葉を濁してしまったが、メイマール伯とも打ち合わせねばな」
「商人ギルドの寄り合いもそろそろお開きだな」
ずいぶんと酔いの回った面々を見つめ、ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はそろそろと腰をあげる。
ちょうど同じタイミングで腰をあげた佐クラ・クラン・ヒラガと目が会い、会釈する。
「佐クラ嬢もお帰りか?」
「ええ、お酒も、もういっぱいでして。おなかたぽたぽになってまいますし」
「じゃあ、家まで送っていくぜ?」
「あら、怖い送り狼がよってきたわぁ」
「安心しろって、俺は熊だ」
「あらあら、じゃあ鈴の音ならしてあるかなこわいわぁ」
軽口を言い合いながら、寄り合いの酒場をふたりは後にする。
「久々にこんな星空をみたなあ」
ウェルスは家路を歩きながら見上げる夜空を仰ぐ。
「シャンバラではどうでしたん?」
「みたようなみてないような。なんだか忙しくて星を見上げる余裕なくってな」
「そりゃあ、あんじょう儲かってるようで、ええことです」
「通商連(しょうばい)じゃなくて、自由騎士の仕事で、だけどな」
「戦争やもんねえ。ウェルスはん、怪我せんようにね」
「心配してくれるのか?」
「ええ、うちの大事な商売先やもん」
そういって佐クラがころころ笑い、ウェルスはすこし肩を落とす。もうちょっと、男としてみてほしいものだが。
言っているうちに星見の帰り道は終わり、佐クラの店の前につく。
「戸締まりはしっかりとな」
「ええ、ウェルスさんもきいてつけてね。ああ、これあげるわぁ。ウェルスさんよう怪我するから」
そう言って佐クラは懐からだした小袋をウェルスに渡す。
「あけてびっくりせんといてね。うちのやないよ。ほなまたね」
ざざーん。
春の浜辺に穏やかな波が行き来する。
すこし冷える浜辺を英羽・月秋(CL3000159) とサラ・アーベント(CL3000443)はふたり手をつなぎ歩く。包み込んでくる大きな手は男の子だから? 温かい手がサラには好ましかった。
星を数え、指先で星座をなぞり。星詠みの詩を綴り。時間は優しく過ぎていく。
「そういえば、アーベントさんと出会った時も星を眺めていましたね」
「そうだったかしら?」
「ええ、懐かしいです。星は……僕たちをつないでくれているようで、前より好きになりました」
サラは好きの言葉にすこし心が跳ねる。そういう意味じゃないからとはわかってはいるけれど。
「せっかくだからお願いごとをしませんか? 星は、昔から願いを叶えてくれるなんて言われていますが、英羽さんは叶えて欲しい願い事などはありますか? 私にできることなら、星と共にお手伝いしますよ?」
少しだけ早口でまくしたてる。すこしの照れ隠しがあったのかもしれない。
「願い事、ですか?
……僕は、まだまだ駆け出しの自由騎士です。
故に弱い」
それは少しの苦渋が交じる声。正しく自分の能力をしっているから。何度無力さを呪ったかもわからない。
「だけど」
言って月秋はサラをみつめる。
「一人ではなく二人なら。
だから、僕は背中を預けて共に闘える相棒が見つかりますように。
それが僕の願いでしょうか」
その相手が貴方であってほしい。そう言えるほど月秋は器用でもない。自分だけで思ってるだけで十分だ。
「あなたなら見つかるでしょうね。私がお手伝いしますから」
「アーベントさんは?」
「……私は、いつか終わりが来るとしても、最後まで繋いでいてくれる手がありますように……でしょうか?」
思わずサラはつないだ手を強く握る。月秋が少し驚いたようにサラを見た。
「なんて。世界が平和になりますように、です」
「ああ、それはアーベントさんらしい願いですね」
少年と、おばあさんと。その二人の心は近いような遠いような。だけれども、月秋が握り返してきた掌はいつもより熱い気がした。
星の下での女子会は騒がしく。
レネット・フィオーレ(CL3000335) とライチ・リンドベリ(CL3000336)、バーバラ・キュプカー。女子が3人あつまれば、やがては恋バナに。
「そっか、レネットちゃん恋してるんだねぇ。アドバイスできないのが悔しいなあ」
にまにまとライチが笑う。ライチ本人は恋なんてまだしたことないけど。聞き役というのも楽しいのだ。
「わーっ! ライチちゃん声!声が大きいです!
いやもうバレバレだと思うのですけれど、こんなお話出来る相手がいなくて……!」
対するレネットは頬をりんごのように赤くして手を振る。
「「で、百戦錬磨、経験豊富なバーバラさんにお聞きしたいのですが」」
二人よりいくぶんか年上であるバーバラに水がむけられた。
「まあ、それなりにだけど……、あなたたち目が怖いわよ? いい、女は愛嬌! 余裕ぶった笑みで男を惑わせる小悪魔になりなさい。そして、振り回して、わざと弱みみせるのよ。男ってそういうのに弱いから! 見せなさい! 女子力!」
バーバラの含蓄のある言葉に二人は頷く。
「女子力かあ、剣のこととか山ごもりなら得意だけど」
「でもライチちゃん戦闘してるときの姿可愛くて女子力高いですよ……もしかして女子力イコール戦闘力……!?」
「いやいや、なんか違うでしょ。で、レネットちゃん。誰に恋してるのかな?」
素っ頓狂なレネットの導き出した答えにライチは苦笑しながら手をふり、本題に入る。
「ええっ!? ええと、絶賛玉砕中ですが、優しくて、お話してくれて、思ったより不器用だったりして、こう、逆にそんなところが可愛い人でして……」
「ヨアヒムでしょ? あいつ女の子ってドウ扱えばいいの? とか最近きいてきたもの」
バーバラに名前を出された途端レネットの顔がさらに赤くなる。
「うう~~、意地悪です、バーバラさん。えっと、開き直ります! ヨアヒムさんのすきなものとかきいていいですか?」
「あいつ? うーん、子供舌だから甘い物好きよ。コーヒーとかも砂糖3つくらい入れるし」
「へぇ、そうなんだ! 意外だなあ」
バーバラのあげるすきなものをレネットは懐からだしたメモに書き記していく。
「でもあいつ情けないところも多いわよ?」
「いえ! そんなところがいいんです!」
「ねえ、ライチ、このこダメンズに引っかかりやすいタイプよ。貴方がちゃんとみてあげなさいよ?」
「あはは、でも私はレネットちゃんの恋は応援するよ」
「良いお友達がいてよかったわね、レネット」
「ねえ、姐さん、まだ外にいるの? 風邪引くよ? ストールもってきたけど」
そんな女子会に乱入するのは、ストールを手にもってきたヨアヒム・マイヤー。
「あわわわわわ……!」
「うわっ! レネットにライチもいたんだ? あー、うん君たちの分のストールも用意するよ」
ヨアヒムはバーバラ以外にも女の子がいたことに驚き、慌ててストールの準備をするために、部屋の中に飛び込んでいった。そのヨアヒムの登場にレネットの顔色は青くなったり赤くなったりと大忙しになるのであった。
アダム・クランプトン(CL3000185)は宿舎の外に出て、星に手を伸ばす。
しかしどれだけ伸ばしても星に手は届かない。それは自分の願いに似ていて胸が苦しくなって、手をのばすのを止め俯く。
瞬く星々がまるで自分を責めてるように想えたから。
救いたかったのだ。何もかもを。
だけれども現実は理想を凌駕する。結局は救いたいモノほど救えない。
「優しい世界、なんてただの夢物語なんだろうか」
「そりゃあ、全てに優しい世界なんてないだろうな」
後ろから聞き覚えのある低い声。振り向かなくてもわかる。騎士団長フレデリック・ミハイロフだ。
「頭ではわかっているんです。そんなものがありえないと」
「諦めるのか?」
「諦めるわけ無いじゃないですか!」
つい、アダムは声を荒げてしまう。ずっとずっと心に誓ったそのために子供のようにあがいてあがいて。
「でも、疲れたんだろう」
「…………はい」
シャンバラ人と戦った。彼らもまた悪辣なヒトではなく国を守るために戦う戦士だった。それなのに憎み合い奪い合う。戦争なんてものは平たく言えば権利の奪い合いだ。それが「戦争」だと割り切れる程にアダムは老成してはいない。
「お前はまだまだ子供だからな」
「僕は、子供じゃ……!」
その言葉に反発を覚え、フレデリックに顔を向ける。
「だから悩めばいい。戦争だから戦う、戦争だから殺す、それが当然なわけがないさ。戦えば犠牲がでる。それを仕方がないと割り切れずに悩むのは若者の特権だ」
「僕はもう、どうして良いのかわからないんです」
それは、犯した「罪」を雪ごうと『善行』を行い続けてきた少年がこぼした最初の弱音。
「教えてください。この世界は何が正しいんですか?
ヒトを殺して奪うことは正しいんですか?
憎み合うのは当たり前なんですか?」
口から一度こぼれたその助けを求める想いは掌からこぼれ落ちるようにどんどんと溢れてくる。フレデリックはそのアダムから溢れ出した言葉を受け止める。
助けてと叫ぶ少年の声なき声を受け止める。
「がんばったな、アダム・クランプトン。この世界に完全に正しいことはどこを探しても無いだろう。我が神の行いも他の国にとっては悪であることもある。
ではなにが正しいのか。それは自分の信念を裏切らないことだ」
アダムはフレデリックを見上げた。
「俺もな、お前と同じことで悩んだことがある。そして今もなお悩んでいる。自分の手の届く範囲があまりにも矮小なことに嫌になる」
「団長でも、ですか?」
「ああ、なさけないことにな。あ、これは他の団員に知られると俺の沽券に関わるから軍事機密だぞ?
思い通りにならないことはある。しかして腐るな。
こんな時は酒でも飲んで……ってお前は未成年だったな! 早く大人になれ!」
豪快にフレデリックは笑う。
「いいか、アダム。お前は常に正しく生きている。胸をはれ。そうすればお前の行動のあとに正しさっていうのもはついてくるはずだ」
そう言うとフレデリックはアダムのあたまをゴシゴシと雑に撫でる。
「団長……」
「お前は今、自信がなくなっただけだ。だから自信をもって生きればいい。お前はお前の望む正しさを誰にも譲ってはいけない」
「こーら、リムちゃん、良い子はもう寝る時間ですよ」
フーリィン・アルカナム(CL3000403)は就寝時間になってもベランダで座ったままのリムリィ・アルカナム(CL3000500)に声をかけた。
「……きれいなものをみてた」
言われるがままに見上げれば満天の星々。
なにもなかったこの義妹がいつしか意志をもってきれいなものを好んで見るようになった。その小さな変化がフーリィンには好ましい。
今まできる限りのことはしてあげたいと思い実行してきた。
少女が騎士になりたいと言ってきたときには心配はしたけれど止めなかった。初めてこの子が口にした意志と希望を無碍にしたくはなかったから。
「お星様綺麗ですもんね」
「うん、きれいなものはすき。おねえちゃんがまえにいってた。きれいはたいせつでだいじ
かたちはあったりなかったりいろいろ。
なんだかほしみたいだっておもった」
「そう」
自分で感じて、触れて、自分とそして誰かの大切がわかるようにとリムリィには告げてきた。
「リムちゃんの大切なものはできましたか?」
「かぞく。なかでもおねえちゃんはとくべつ」
世界は綺麗なものと同じくらいそうじゃない物も溢れている。そのなかでリムリィが見つけた答えがフーリィンには愛おしかった。戦いの中で彼女は幾度傷ついただろう。でも彼女はその戦いを是としている。それは本当に正しいのかと何度も葛藤した。
「わたしみたいにてきにもたいせつがあるのかな? ちょっとむつかしい」
その疑問にフーリィンは適切な答えが思い浮かばなかった。当然だ。誰にだって大切なものはある。それを奪うことがあるのが戦争だ。そのとおりだと答えれば義妹はどんな顔をするのだろうか。苦しむのだろうか。なんとも思わないのだろうか?
「ふあ、ねむ。……ねるまでいっしょにいてくれる?」
「わかったわ。リムちゃん甘えん坊ね」
でも今は、義妹の目には綺麗なものだけ写してあげたいと、姉はそう思った。
『星を見に行かないか?』
きっかけはそんな思いつき。見上げた夜空が綺麗で、大切なあの子と一緒に見たくなったのだ。
戦争とか物騒なことで忙しい中、ふと得ることのできた間隙。
ロイ・シュナイダー(CL3000432)はだからこそ、その時間を無駄にしたくなかった。
誘われたタイガ・トウドラード(CL3000434)は気分転換にいいと思ったよりもあっさりと承諾してくれた。
タイガも幼い頃は家族で野原に向かい、望遠鏡で遠くの星座をみつけて喜んでいたころがあった。
そんな優しくもふるい記憶に思いを馳せるタイガの頬に温かいものが触れる。
「飲み物、用意してきたよ。まだ寒いしね」
彼はなんとも気が回る。本当なら女である自分が用意すべきだったのに。ほんとに私は武、一辺倒でだめだなと少しタイガは落ち込む。
「ありがとう、気を遣わせてしまったな」
「いいよ、気にしないで」
言ってロイはさり気なく、いつもより少し近い場所に座る。よし、ここまでは完璧だ。さり気なくタイガの隣に座れたぞ!
今日のロイには野望があった。この婚約者殿とは清い関係だ。いや、この年頃の男女にしては清すぎるくらいに。星を見る→雰囲気良くなる→ちゅーする。これが本日のロイ君の計画である。
事実子供の頃からの付き合いで小さい頃にふざけてタイガのほっぺにちゅーしたことくらいしか婚約者らしいことはできていないのだ。それではいけない。うん、絶対にいけない。さり気なく肩を抱こうと腕を伸ばす。10センチ、5センチ、3センチ、2センチ、1センチ……。
「ロイ! みろ! 今流れ星が!」
そんな下心にも気づかずタイガは星空を指差す。ロイの勇気はそこで粉微塵に吹き飛んだ。
「あ、うん、みえなかったなーかなしーな、ざんねんだー」
「なんだ、ロイ、そんなに流れ星が見えなかったのが残念だったのか」
「うん、そーかな」
「仕方ないな」
タイガは優しく笑むと流れ星が見れなくて落ち込んでる(と思い込んでいるまま)ロイの手をとり、その甲に口づけを落とす。
「今はこれが流れ星だ。この流星に誓おう。ロイ、私がお前を守るから」
トゥンク。ロイの心臓が跳ねる。
「あの、タイガさん。俺よりイケメン度高いのなんとかならない???」
「星を見てるんですか?」
アクアディーネが吹き抜けで空を見上げているライカ・リンドヴルム(CL3000405)に問う。
「今日は星がキレイに見えるから。神殿からだとどうかとおもって」
「あまり変わらないと思いますが、どうですか?」
「さあ」
ライカはぶっきらぼうに答える。一緒に星を見たかったとはいわない。代わりに違うことを言う。
「ミモザ、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして。神殿の皆さんにお願いして送ってもらいました」
あの色の意味を聞きたかったのだけど、そういうことかとすこしがっかりする。
「やっぱり神殿から出れないの?」
「ええ、もしものことがあるといけないので」
まるで閉じ込められた小鳥じゃない、カミサマなのに。そう思うとなんとなくイライラとする。
「ねえ、キミには願いはないの?」
ライカは強い願いがある。世界から神を全部なくすこと。だから神が願うのなら何を願うのか聞いてみたくなった。
「願いですか? みなさんがへいわにいきるだいちになること でしょうか」
ライカは少しだけその答えに違和感を覚えたが、それがなんであるのかは言語化することができない。
「へんなの。変な願い」
だからそういった。
「へんですか?」
女神は気を悪くすることもなく問い返すのがなんとなくだけど気に入らなかった。悪口をいってるんだから怒ったっていいのに。
「そうだ。黄色いミモザの意味。わからずに贈ったわけじゃないから」
「はい?」
アクアディーネが聞き返そうとおもって振り向いたそこにすでに、ライカの姿はなかった。
(こんなしみじみと星空を眺めるとかいつぶりだろう?)
コジマ・キスケ(CL3000206)は同僚であるユリカ・マイ(CL3000516)と並んで夜空を見上げる。
「素敵な星空です! あんまり綺麗で吸い込まれそうです。
こんな夜は思い出しますね! 共に参加した初の野外訓練のときの夜空を。
あのときも吸い込まれそうな夜空でした」
(ああ、そっかあのときか)
うれしそうなユリカの言葉に思い出すのは苦い記憶。新兵訓練で自分の無力さをしったあの夜。
「私はあのときほど、星空が美しいと強く感じたことはありませんでした!
星空の眩しさ、そして困難を共にする存在のありがたさを」
ユリカは慢心を打ち砕かれ、無様な醜態を晒してしまった相手であるコジマを暫くまともに見ることができなかったが、いつしかそれもなくなり良い思い出だったと思えるようになった。
「そっかー良い思い出、ハイ ソウデスネ」
今はキラキラの同僚の笑顔が眩しすぎて正直しんどかったけど、それは顔にはださないように務める。
正直自分含め何人かの基礎が足りていなかった連中はユリカのように星を見上げるほどの余裕はなかっただろう。今でこそ並んで走れる程度までにはなったがユリカがコジマのコンプレックスであることは変わらない。もちろん仲はいいとおもう。友人として好ましいとも思う。でも、両者の間の気持ちには大きな差がある。
「ぜひまた一緒に、夜間訓練にいきましょう!」
そんな思いを知ってか知らずか、ユリカは明るく誘う。
「そうね、どうせやるなら一緒がいいか」
「はい!」
未熟なユリカが遥かに見上げた星々。憧れ手を伸ばしてきたその相手(コジマ)の「一緒」の言葉が嬉しくて、ユリカは一層嬉しそうに返事をした。
……アレイスター・クローリー、居るんだろう?
マグノリア・ホワイト(CL3000242)が星空のもと、つぶやく。
「呼んだかい?」
「ああ、君は君は僕らを《可能性(オラクル)》と呼んでいるよね……?」
突如隣に現れた魔術師に驚く様子も見せずマグノリアは尋ねた。クローリーは口元に笑みを浮かべその続きを促す。
「僕らが命を削るたび、君は喜んで居るようだ」
「ソレは誤解さ。マグノリア・ホワイト。僕ぁね、君たちのおこす奇跡が必要なんだ。それによって君たちが死んでしまうのは本末転倒だけれどもね。君たちが命を削ることは僕にとって辛いことなんだぜ?」
マグノリアはどうだか? と胸中で呟いた。
「ねえ、君はこの世界を君好みにひっくり返すつもりかい? 君はこの蠱毒の先を見て楽しんでいるように見える」
「マグノリア・ホワイト。君は頭がいい。だから考える。僕がその首謀者(ラスボス)ではないかってね? 残念。僕ぁね、そこまで世界を動かせるほどの英雄ではないさ。300年前から頑張ってはいるものの、20年前の大戦が限界でさ。そこに現れたのは奇跡の可能性である君たちだったんだよ。
君たちは、確実に世界を変えつつある。
――それと蠱毒については因果関係が逆だ。その先の崩壊を起こさないように蠱毒を起こしたのさ。僕ぁね。この世界が無くなるのを是とはしていないんだぜ。歪んでしまった未来を戻したいだけさ」
「神だって首を取られれば死ぬ。君は首を跳ねられても生きているそうだね」
「おっと、個人情報の聞き出しかい? 僕のこと知りたくてたまらないのかな?」
「ちゃかすなよ。ソレを可能にしてるのは何……?」
「呪いさ」
「呪い……?」
「そうさ、アレがこの世界にのこしちゃった『呪い(かのうせい)』なのさ。どうにもポンコツだけど」
「……もしかして君は本当はこの星たちより前に生まれたものなのかい?」
「いいや、君たちが神と呼んでいるものよりは年下さ。ほんの1600歳。おっと、公式年齢は801歳になったところだっけ?」
「そうかい。まあいいや、ねえ君と星がみたい。星の名前を教えてよ」
眼の前の魔術師を胡乱な目で見ながら、マグノリアは思う。答えはなにも得ていない。それでも、彼の願いを叶えて見せようと誓った。きっとそうしたら、彼の顔色は変わるはずだから。
「王女様はお星様のこと詳しいんですか?」
星見のお茶会をひらいたのはアリア・セレスティ(CL3000222)。
お土産の金平糖を喜んでもらったのは嬉しかった。
「それほどでもありませんが……そうですねこの時期だとレグルスのしし座が有名ですけど、その真上を見てください。あの星と――」
王女は4つの星を指す。
「あれがこじし座です。その上にはやまねこ座があって……私のなかではねこさん達が遊んでいるあたり、なんて思っています……て変です、か?」
「いえいえ! とんでもない。王女様はネコ、すきなんですか?」
「ええ、かわいいので好きです」
他愛のない会話は続く。
「こうしていると、平和なんですけどね」
言ってアリアは目を伏せた。国内に戦火を広げることなく戦争は進んでいる。だからイ・ラプセル国土事態は今は平和であることにアリアは誇りを持っている。
「戦争は、怖いです。私は戦うことはできません。みんなが傷ついても見てるだけしかできないんですから」
そんなアリアに申し訳なさそうに王女は俯く。
「あ、いえ! あー、王女様にそんな顔させたくて言ったわけじゃなくて! だから安心してくださいっていいたかったんですけど、えっと」
そうだ、この王女は心優しい人なのだ。だから自分ができることを模索してなにもできていないと落ち込んでしまうのだ。
「あのね、王女様。じゃあ、お願いがあります」
アリアは笑う。
「応援してください。ソレだけで皆笑顔になってまたがんばれますから!」
「それだけでいいんですか?」
「『それだけ』じゃないですよ。王女様の応援は『それほど』なんです」
「……アリア、頑張って」
「はい! すごく元気でました」
「うそばっかり」
「嘘じゃないですって! あ、あともひとつ不躾なお願い、いいです?」
「はい、かまいません」
「私も、王女様のこと『ティーヌ』って呼んでいいですか? 皆が呼んでいて少し羨ましくて」
王女は一瞬だけキョトンとした顔をすると、すぐに笑顔になって大きく首を縦に振った。
寝付けない夜、外に出たらあまりにも夜空が綺麗で。
だから、モニカ・シンクレア(CL3000504)は夜の散歩だ。遠出して、森をぬければ大きな湖があった。
透明感のあるその湖は夜のキャンバスをそのまま水面に鏡写し。
世界が星でくるまれたようなその光景にモニカは故郷にいたらきっと見ることができなかったのだろうと思う。
ふと故郷が懐かしくなって、ぽろん、とリラの弦を爪弾く。
音は湖に吸い込まれるように響いていく。
――♪
やがてその音色にあわせ、歌声が聞こえ目を上げれば、湖に羽根の生えたクジラが浮かんでいた。
(きゃ~何このクジラ~可愛いんですけど~っ! それに歌も上手~! 知ってる歌だし、デュエットよっ!)
モニカは、邪魔にならないようにユニゾンして同じ歌を歌う。
――♪
「ねえ、あなた、ウタクジラ、っていう幻想種なんでしょ? 名前は、メモリア! 私はモニカ・シンクレアよ!」
歌い終わったその途端にモニカは自己紹介をする。イ・ラプセルの資料でみて興味があった幻想種を目にして興奮がさめやらない。
「そう、モニカ、よく知ってるのね」
「メモりんってよんでいい?」
「すきにすれば」
「ねえ、背なかに乗せてもらっていい? 今から星にお願いごとしたくって! 少しでも高いところにいけば願いも叶いやすいかなって!」
「あまり高いところは無理だし、落ちてもしらないわよ」
「大丈夫!」
モニカはその後メモリアの背なかで空中遊泳を楽しむ。
「願い事はいいの?」
モニカは少しだけ高いところに上昇してほしいとメモリアに頼めば、メモリアは言葉なく上昇する。 (……少しでも多くの同胞が救われますように……)
すこしでも星に高い位置で、少女は願いを口にした。
「アーウィンさんだ! アーウィンさんだー!」
篁・三十三(CL3000014)が星空の下、散歩に興じるアーウィン・エピを見つけ跳ねながら声をかけた。
「おー、うっさいのがきたな」
「ひどいなあ! 知ってる人に会えるとうれしいんだもん。お兄ちゃんができたみたいで!」
「……っな! そうか、ふーん」
三十三の言葉にアーウィンはまんざらでもなさそうに顔をそむける。
「ねえ、アーウィンさん! 俺星座しってるんだよ! そう、アレ! アレは……えっと……」
「ずいぶん北にあるよな」
「そう! 北斗七星! 迷子にならないようにって教えてもらったんだ!」
「へぇ」
「……あのさ、この前初めて戦争している他国にいったんだけど」
「ああ」
「物の考え方っていうのは生まれた国によって植え付けられるものなんだね」
「そうだな、俺だって、生まれはヴィスマルクの田舎だ。その国にはその国の常識がある」
「自由を知らないっておかしいよね」
「いいや、生まれによっちゃソレが当たり前だ」
三十三はアーウィンの真意を掴むことができずに訝しげな表情を浮かべる。
「そりゃ好きなようにできないこともあるのはしってるけど、それでも当たり前だなんておかしいよ。ヒトはモノじゃない、ちゃんと考えることのできる同じヒトなんだって……」
「ヒトってもんは自分を囲むナショナリズムってものに順応する。結果洗脳に近いそれは自分の常識(あたりまえ)になる。それだけのことだ」
「でも……」
「それでも、そうやって他人の自由に関して思えるお前は立派だとおもうぜ、俺は」
そういって苦笑するアーウィンを眺めるが三十三は『常識(あたりまえ)』に納得はできない。それでも、この不器用な青年が慰めてくれたのだろうことは理解した。
「失礼します。夜分遅くに申し訳ありません。父からの使いで書簡をおもちしました」
デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は執務室に入り、エドワード・イ・ラプセルに書簡を届ける。
「ああ、其処においておいてくれたまえ」
執務に従事する彼はデボラを一瞥すると、書類へ目を落とす。
「あのっ」
仕事中の陛下にお声をかけるのは不敬だとはおもったけれど、眉間のシワが気になる。疲れだって見えている。
「星が綺麗ですし、少し休憩はいかがですか?」
「ああ、そうさせてもらおうかな? いけないな、気が急いて休憩を忘れてしまう」
エドワードはペンを下ろすと、メイドにお茶の用意をさせた。
「キミもよかったらどうぞ」
デボラはふかふかのソファに腰をかける。エドワードもその向かい側に座る。程なく紅茶がメイドによって給仕された。
「あの、陛下は日々のお見合いの話も未だ変わらず、ですか?」
「まあね、クラウスが連日急かしてくるけど、ソレどころじゃないからね、キミは……っとすまない、失言だ」
世間話にと水をむけ、デボラの生い立ち――体を機械化することで一命をとりとめた彼女は婚約者に婚約を破棄された――を思い出し、気まずそうに紅茶を飲む。
「い、いえ! お構いなく! 命があるだけいいのです。それに私は以前のままではありません。それが原因で彼に捨てられたとしてどうして責められましょう。
殿方は器量です。こう、器の大きい、40代のおじさま! 妥協するとして30代!! 白馬にのった渋いおじさまが迎えにきてくれるはずです!」
デボラはヒートアップしソファから立ち上がった。
「えっと、うん、元気があっていいね」
「失礼しました! 私情はここまでにしましょう」
こほんと咳払いしデボラはソファに腰を下ろす。
「あ、陛下流れ星です。願いましょう。この国の民の末永い幸せと、そして我が国の勝利を」
「私はキミにいい縁談がくることを願っておくよ」
「陛下ってずいぶんいじわるですね」
そういってデボラは口を尖らせた。
宿舎の屋根に登ったカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)はごろりと仰向けに寝転がる。
手を伸ばせば星は届きそうでとどかない。夜の天鵞絨が自分を抱きしめているように想えて嬉しくなる。
「ふわー、星がいっぱーい!
んーと、あの星と星を結んで、絵になるんだっけ?
あのおおきいのと……」
ひときわ輝くレグルスに指を向けそのまま横にずらしていく。けれども。
「どれだっけ?」
星座の続きの星がわからない。でも構わない。だってすごくきれいだから。
星は瞬く。この星空はシャンバラでも、ヘルメリアでも、ヴィスマルクでも、パノプティコンでも、そしてこのイ・ラプセルでも同じだと思う。同じ空の下戦争が起きているのは嘘のようだ。
「あのひととか、アミナとかティーヌに女神さま、みんなのんびりできたらいいのにな」
それは純粋な願い。
「番外地のみんな、南国で一緒に踊ったヒト、それとあの、ていこくのユリアーナに」
指をおりながら出会ったヒトビトにカーミラは思いを馳せる。
「はやく、せんそー、おわらせたいなー」
ナナン・皐月(CL3000240)はメモリアの背の上に毛布にくるまれて星を見る。
――Twinkle twinkle little star,
満天の星の下、ふたりは星を謳う。
――How I wonder what you are. ――Up above the world so high,
ナナンは高くあげた両手を降ってきらきらを表す。
――Like a diamond in the sky.
空に浮かぶダイヤモンドのような笑顔で。
ナナンはメモリアが星が見えているのかと聞く。湖にたくさんあるわとメモリアは答えた。
――Twinkle twinkle little star,How I wonder what you are.
歌い終えれば、一筋の流れ星。
ナナンは願う。今はこの星を見上げきれいだと安心して見上げることができる時代ではない。けれども、そうなってほしいと願う。
願い終わった頃には、いつのまにかナナンは夢の中に揺蕩っていた。
夢の中ではみんな、幸せそうに笑ってる。それがとてもとても嬉しかった。
手紙の約束の日は今夜。クレマンティーヌ・イ・ラプセルは友人の到着を心待ちにする。
星の形のキャンディと、紅茶を準備して。
ノックとともにやってきた友人は不思議なものを持ってきていた。
「それは?」
「星見盤というのです。これをみながら星をみると楽しくなると思って」
海・西園寺(CL3000241)は少しはにかんでそういった。
二人は星を見る。星見盤をテーブルにおいて、どれがどの星座と照らし合わせながら見ればいつもより新鮮な気持ちでみることができる。
「ティーヌの好きな星の色はなんですか?」
そう海が質問すれば、王女は蒼い星のキャンディをレグルスに置く。
「海は?」
「西園寺は――」
海はそのレグルスのとなりにキャンディを置く。王女はまたそのとなりにキャンディを置く。二人でそうやって、甘いキャンディで星座を作っていくのは楽しかった。二人で作る星座は時には本物とは違うものになったけれども。
そんな時間を過ごして海はこの王女の大好きなところが一つ一つ増えていくのに気づいた。
だから二人でつくった『みかがみ座』に誓う。
私がこの王女を守るのだと。だから願う。二人だけに輝く『みかがみ座』に。
ティーヌを守れる力になれるように。それを全うできる人になれるようにと。
くしゅんと王女がくしゃみをしたので、もってきたストールをふたりでかぶれば、不思議といつもより温かい気がした。
今日は星見の散歩。
熱めのココアと星型のクッキーをお供にお気に入りの外套を羽織って。
たまき 聖流(CL3000283)は星がよく見える丘に腰掛け、星を見上げる。
(この綺麗な星々は、どれ程の世界の悲しみと、喜びを、見て来たのでしょうか……)
今空で輝いている星はずっとずっと遠い昔から届いた光だという。そんな観測者である星たちに悲しみばかりを見せたくないとたまきは思う。
今は戦争中で、悲しいことはこの先どんどんふえていくだろう。だけれども、できることなら安心して、この世界を見下ろしてほしいと思う。
「くちゅん」
そう夜空に思うたまきの近くで小さなくしゃみが聞こえた。先客がいたことに気づいていなかったのがすこし恥ずかしい。
「たまき、いたの。さむ。」
「アンセムさん」
そこにいたのは大きな角を生やしたマザリモノの少年、アンセム・フィンディングだ。
「ちょっと、星空にインスパイア。でも、ねむくなって、ねてた」
「だめです、よ? 風邪、ひいちゃいます……!」
たまきはあわてて、用意してあったストールの予備を渡してココアをカップに淹れてアンセムにわたす。
「これ?」
「はい、私もここでひとりで、星見しようと思って……でも、ひとりよりふたりがいいので」
「そう、ふあぁ。じゃあ、すこしおきる」
「はい、そうしてください……。あの、クッキーもありますよ」
「星、だ」
「はい、星の形です。星見に似合うかなって思って……」
「わるく、ないね」
星は優しく見下ろす。少年と少女の小さなお茶会を。
なんや、シャンバラと今はどんぱちやってるっちゅうのに。
見上げた春の前の空は高く遠く澄み切っている。その黒いキャンバスには瞬く星々。それがきれいで戦争中であることをわすれてしまいそうになる。
アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は真上を見ながら歩いた。
そうしたらどんと誰かに衝突する。
「へいへい! アリシア殿、よそ見してると大怪我するでござるぜ!」
「ああ、ムサシマルやん。っていうか、ムサシマルもよそ見してたんちゃうん?」
「ちゃうねん」
「あ、ちゃわんやつや。ムサシマル、星の名前しっとる?」
「星ってくいもんでござるか?」
「うちも詳しないけど、ムサシマルよりはましや思うわ」
いってアリシアは星を指差す。
「あの柄杓のかたちしたやつ。おおぐま座のしっぽのやつ。
あれの柄杓の先にある、めっちゃきらっとしてるのが北極星やで」
それはアリシアが唯一知っている星座。
「あれが北の方角やって教えてもろたんけど、曇の日や昼だとわからんやん!」
「そんときは勘に頼ればいいんでござるよ! 我が先に道はアリでござる」
「ムサシマルだからよく迷子になっとるんちゃうん」
「いや、違うでござる! 拙者ではなく世界が迷子になっているのでござる」
「ものはいいようやな。あ、流れ星や、お願いしとこ!」
マダムシープの羊たちは、サロンの窓から星を見る。
「今日は暇やなぁ、まあ、そんな日もたまにはあるんやろうけど」
蔡 狼華(CL3000451)はあくびを噛み殺しながらつぶやく。
春とはいえ夜はまだ冷える。毛布を肩にかけ部屋をでると寒がりの同僚のためにミルクを温めにいく。
「雪〜? 生きとる〜? 凍死してへんか?」
カップにミルク、そこにチョコレートを放り込んだ即席のホットチョコレートをもって雪・鈴(CL3000447)の部屋にいけば、そこには瑠璃彦 水月(CL3000449)とニコラス・モラル(CL3000453)も集まって来ていた。
「ああ、もう、みんなおったん。うちと雪の分しかつくってないわぁ。ニコラス、じぶんのお酒もってくる代わりに彦のぶんもつくってきたって!」
「はいはいっと。ほんと人使い荒いなあ」
「ぶつくさいわんと。つまみももってきてええから」
「さむ。さむ。ありがとう、ホットチョコあったかい」
「ニコラス殿~あっしのは少し温めで」
「はいよー」
「あの、みんなでお星様みるですか? おそとですか?」
「そんなんしたら、雪が死んでしまうやん。なかで、この窓からしかくぅい星空みるん」
そんなやりとりのあと、少しのツマミと瑠璃彦のためのホットチョコと自前の酒をトレイにのせたニコラスが戻ってくる。
「お、おいしそうですぞ」
瑠璃彦がチョコレートに手をのばすのをニコラスは軽く叩く。
「瑠璃彦のはこっち。これは特別なツテで手に入れたとっときだからおじさんのなの」
「で、この中にお星様の説明できるんおる?」
狼華の問いかけにだれもうなずかない。
「だぁれもしらんのかいな。こういうの寝物語ではなしたらうけるのに」
「狼華も知らないんだろう?」
そんなニコラスの言葉に狼華はにらみつける。
「あああーーー! 流れ星! よっし、星を拾いにいきますぞ! ナムサン!」
流れ星を発見した瑠璃彦が突如窓をあければ寒い空気が入り込んでくる。空いた窓から瑠璃彦はぴょんと飛び出していく。
「さむ、さむ」
「こらぁ、彦! 雪が凍え死んでまうやん!」
毛布にくるまり蛹になっているような雪をなでながら狼華がどなる。
「うちのエースはこわいねえ」
そんな狼華をニコラスが茶化しながら窓をしめた。
「いやあ、大量でしたぞ」
ややあって、瑠璃彦は両手に色とりどりの金平糖を目一杯のせて足でドアを開けて帰還する。
「おほしさま、ひろってきたですか?」
うれしそうに触覚を震わせる雪に瑠璃彦は「これだけあればいくらでも願いができますぞ」と答える。
「しょうもないことして」
いいつつも狼華の表情は明るい。
彼らは思い思いに願いを星に託す。
「あっしの願い? 秘密ですにゃ」
「じゃあ、おじさんも秘密!」
「ひみつだらけやん」
「いわないほうが花ってものもあるのさ」
「まあそんなことより、綺麗に瞬く星空をみましょうぞ!」
「暗いから気を付けるんだぞ! 足元に注意だぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)は教会の妹や弟をつれて今日は夜の散歩だ。
遠足のその先はスペリール湖。星空が綺麗な夜だから、湖と空と2つの星空を見せたかったのだ。
先導する姿はすこしくらいはお姉さんにみえるけれど……足元の石に躓いてコケるのを妹が起こそうとするが、転がって見る空は高くて綺麗で。
「みんな、ここに転がってみるんだぞ!」
綺麗なこの空をサシャは共有したかったのだ。
「お姉ちゃんコケたんじゃなくて、この空をみせたかったんだね」
「そ、そのとおりだぞ!」
結果オーライ。そういうことにしておくことにした。
キラキラ光るキャンディの粒のようなその星空に子どもたちは感嘆の声をあげる。
「ねえ、あれはなんていう星座?」
「あれはだな、この時期に一番綺麗にひかる……」
「レグルスのしし座ってきいたわ」
いつの間にか上空に浮かんでいるウタクジラの声。
「おおう! それだ! 知っていたんだぞ? メモリア」
起き上がったサシャの周りに怯えた子どもたちが集まる。
「大丈夫だぞ。あいつはメモリア。サシャたちの仲間のウタクジラだぞ!」
最初は怯えていた子どもたちもメモリアが害を及ぼすものではないとわかり、しっぽやヒレをひっぱりはじめる。
「サシャ、このこたちに引っ張らないでと言って」
「わかったぞ! こら、いじめちゃだめだぞ!」
そう怒鳴れば子どもたちは笑いながら蜘蛛の子を散らすように走っていく。
「すまないのだぞ、悪気はないはずなのだぞ」
「わかってるわ。――♪」
メモリアが歌えば子どもたちも戻ってきて歌い始める。サシャもまた頷くと一緒に歌う。
それはメモリアがナナンに教わった歌。――きらきら星。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『うさぎのあし』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
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