MagiaSteam




Savior 戦火に怯える人達を救え!

●
アクアディーネが持つ四柱の力。ミトラース、ヘルメス、アイドーネウス、そしてアクアディーネ本人の力。その力を求めてヴィスマルクの女神モリグナは軍を動かした。
ヴィスマルクの侵攻に対抗すべくイ・ラプセルも軍を派兵する。街の破壊と略奪を行うヴィスマルク軍に対し、人命優先で動くイ・ラプセル軍。これにより一時的とはいえ多くの戦時難民が生まれることとなる。
「ヴィスマルク軍が攻めてくるなんてな……。これからどうなるんだ?」
「聞けばアマノホカリからも難民が来たって話だぜ」
「どうなってるんだよ……。もしかしたらヴィスマルクがこっちにも攻めてくるかもしれないのか?」
突然のヴィスマルク攻勢、アマノホカリからの大量の移民、慌しい軍隊の動き。
世界の終わりなど知る由もない一般人だが、急な世情の変化に不安を感じ始める。戦争で住処を奪われたこともあり、不安は高まる一方だ。それは少し突いてしまえば一気に爆発しそうな、そんな不安があった。
●
「――ということが予測されますので、早めにケアをしておきましょう」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は集まった自由騎士達に説明を介すする。
「ケア、と言ってもそんな特別な事をする必要はありません。
家をなくした人達に炊き出しをしたり、怪我人に治療をしたり、子供達に芸を見せたり。なんなら戦闘術を披露して『騎士は強いから安心しろ』というアピールをするのもアリでしょうね」
そんなのでいいのか、と言いたげな自由騎士に向けてジョンは静かに答える。
「大事なのは非日常に囚われそうになっているヒトに『大丈夫』と安堵させることです。その為には気を紛らしてあげたり、安心できる材料を持ってくるのが一番なんですよ」
詳細に戦況を語り、その上でそれを打ち破る策を出す。それで安心できるのは、兵士や王だ。戦争を知らないヒトからすれば、そんな自分の知識外の説得など理解できない。
誤魔化しや逃避で回避できる事もある。噓も方便。戦争から思考を切り離し、安心させる。それが大事なのだ。
「単純なように見えますが、不安に思う人達はたくさんいます。さあ、急ぎましょう」
示されたのは、イ・ラプセル、元シャンバラ領、ヘルメリア島、旧パノプティコン領……これまでイ・ラプセルが戦い、占領してきた場所全てだ。移動用の船や車も含め、大規模な作戦になりそうである。
「これも一つの戦いです。さあ、頑張りましょう!」
ジョンの言葉に自由騎士達は動き出す。
アクアディーネが持つ四柱の力。ミトラース、ヘルメス、アイドーネウス、そしてアクアディーネ本人の力。その力を求めてヴィスマルクの女神モリグナは軍を動かした。
ヴィスマルクの侵攻に対抗すべくイ・ラプセルも軍を派兵する。街の破壊と略奪を行うヴィスマルク軍に対し、人命優先で動くイ・ラプセル軍。これにより一時的とはいえ多くの戦時難民が生まれることとなる。
「ヴィスマルク軍が攻めてくるなんてな……。これからどうなるんだ?」
「聞けばアマノホカリからも難民が来たって話だぜ」
「どうなってるんだよ……。もしかしたらヴィスマルクがこっちにも攻めてくるかもしれないのか?」
突然のヴィスマルク攻勢、アマノホカリからの大量の移民、慌しい軍隊の動き。
世界の終わりなど知る由もない一般人だが、急な世情の変化に不安を感じ始める。戦争で住処を奪われたこともあり、不安は高まる一方だ。それは少し突いてしまえば一気に爆発しそうな、そんな不安があった。
●
「――ということが予測されますので、早めにケアをしておきましょう」
『先生』ジョン・コーリナー(nCL3000046)は集まった自由騎士達に説明を介すする。
「ケア、と言ってもそんな特別な事をする必要はありません。
家をなくした人達に炊き出しをしたり、怪我人に治療をしたり、子供達に芸を見せたり。なんなら戦闘術を披露して『騎士は強いから安心しろ』というアピールをするのもアリでしょうね」
そんなのでいいのか、と言いたげな自由騎士に向けてジョンは静かに答える。
「大事なのは非日常に囚われそうになっているヒトに『大丈夫』と安堵させることです。その為には気を紛らしてあげたり、安心できる材料を持ってくるのが一番なんですよ」
詳細に戦況を語り、その上でそれを打ち破る策を出す。それで安心できるのは、兵士や王だ。戦争を知らないヒトからすれば、そんな自分の知識外の説得など理解できない。
誤魔化しや逃避で回避できる事もある。噓も方便。戦争から思考を切り離し、安心させる。それが大事なのだ。
「単純なように見えますが、不安に思う人達はたくさんいます。さあ、急ぎましょう」
示されたのは、イ・ラプセル、元シャンバラ領、ヘルメリア島、旧パノプティコン領……これまでイ・ラプセルが戦い、占領してきた場所全てだ。移動用の船や車も含め、大規模な作戦になりそうである。
「これも一つの戦いです。さあ、頑張りましょう!」
ジョンの言葉に自由騎士達は動き出す。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.不安におびえる人達を安心させる
どくどくです。
ジョンの言葉ではありませんが、社会的弱者をどうするかも一つの戦争なのです。
●説明っ!
ヴィスマルクがイ・ラプセルに対し、戦争を仕掛けていました。
略奪と破壊を主にしたヴィスマルクの侵攻。これにより家や財産を失った難民がイ・ラプセルに雪崩れ込みます。幸い、イ・ラプセルの財政的には難民を一時受け入れる事は可能ですが、精神的な披露はカバーできません。
同時にヴィスマルクが攻めてくるかもしれないと不安に思う人も増えてきました。激動に次ぐ激動。長く続く戦争は多くの民の不安を煽り、そして今回の大侵攻でその不満が爆発しそうになっています。
そんな状況ですので、自由騎士が赴いて安心させてあげてください。基本的には自由騎士のネームバリューだけで問題はありませんが、何かの行動をすれば更に安心度は増すでしょう。怪我人を癒したり、大丈夫だと言ってあげたり、子供と遊んだり。
行先はこれまでイ・ラプセルが戦って占領してきた場所全てです。但しアマノホカリは除きます。難民が集まるキャンプに行ってもいいですし、思い出の場所に行ってもいいです。どくどくの扱っているNPCも、死亡してなければ会う事はできるでしょう。
●場所情報
1:イ・ラプセル島
アマノホカリを含めた多くの難民を受け入れています。仮設テントでの生活を強いられています。怪我人や不満の溜まっている人も多いです。
2:シャンバラ領
ヴィスマルクの侵攻から離れていますが、それも時間の問題です。多くの人達は逃げる準備をしています。元魔女狩りや騎士等戦える者は、微力ながら戦おうとしています。
3:ヘルメリア島
ヴィスマルクの侵攻から離れていますが、何時牙をむかれるかわからないと戦々恐々としています。元蒸気騎士などがなんとか戦おうとしている程度です。
4:パノプティコン領
イ・ラプセルとの戦争後と言う事もあり、そのダメージから回復しきっていません。統治も不十分で、不安におびえています。インディオなどは辛うじて統率を取り、戦意がある程度です。
その他、様々な場所に行くことができるでしょう。現状行けないのは、アマノホカリと水晶の国と、ヴィスマルクになります。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
ジョンの言葉ではありませんが、社会的弱者をどうするかも一つの戦争なのです。
●説明っ!
ヴィスマルクがイ・ラプセルに対し、戦争を仕掛けていました。
略奪と破壊を主にしたヴィスマルクの侵攻。これにより家や財産を失った難民がイ・ラプセルに雪崩れ込みます。幸い、イ・ラプセルの財政的には難民を一時受け入れる事は可能ですが、精神的な披露はカバーできません。
同時にヴィスマルクが攻めてくるかもしれないと不安に思う人も増えてきました。激動に次ぐ激動。長く続く戦争は多くの民の不安を煽り、そして今回の大侵攻でその不満が爆発しそうになっています。
そんな状況ですので、自由騎士が赴いて安心させてあげてください。基本的には自由騎士のネームバリューだけで問題はありませんが、何かの行動をすれば更に安心度は増すでしょう。怪我人を癒したり、大丈夫だと言ってあげたり、子供と遊んだり。
行先はこれまでイ・ラプセルが戦って占領してきた場所全てです。但しアマノホカリは除きます。難民が集まるキャンプに行ってもいいですし、思い出の場所に行ってもいいです。どくどくの扱っているNPCも、死亡してなければ会う事はできるでしょう。
●場所情報
1:イ・ラプセル島
アマノホカリを含めた多くの難民を受け入れています。仮設テントでの生活を強いられています。怪我人や不満の溜まっている人も多いです。
2:シャンバラ領
ヴィスマルクの侵攻から離れていますが、それも時間の問題です。多くの人達は逃げる準備をしています。元魔女狩りや騎士等戦える者は、微力ながら戦おうとしています。
3:ヘルメリア島
ヴィスマルクの侵攻から離れていますが、何時牙をむかれるかわからないと戦々恐々としています。元蒸気騎士などがなんとか戦おうとしている程度です。
4:パノプティコン領
イ・ラプセルとの戦争後と言う事もあり、そのダメージから回復しきっていません。統治も不十分で、不安におびえています。インディオなどは辛うじて統率を取り、戦意がある程度です。
その他、様々な場所に行くことができるでしょう。現状行けないのは、アマノホカリと水晶の国と、ヴィスマルクになります。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
0個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
6日
6日
参加人数
29/∞
29/∞
公開日
2021年05月30日
2021年05月30日
†メイン参加者 29人†

●イ・ラプセルⅠ
イ・ラプセルには現在、アマノホカリからの移住者やヴィスマルクの攻撃で疲弊した人達がやってきている。
移民問題と言うのは根が深く『困っているなら受け入れよう』と安易に受け入れると住居や食糧問題、衛生や価値観の違いによる軋轢など様々な問題を生み出してしまう。慎重かつ、人道的な判断が求められるのだ。
そういった理由もあり、移民者は街の外でテントによる生活を行ってもらっている。検査や住む場所を確保でき次第少しずつ受け入れていく形となるのだが、その間はどうなるかわからない不安に苛まれることとなる。
「…………」
そんな移民達をフロレンシス・ルベル(CL3000702)は黙々と癒していた。移住してきた人たちの中には、怪我をしている人達も多い。こちらにやってきて喧嘩をしたという事例も少なくないのだ。医療の手は幾らあっても足りないぐらいである。
「手数が足らん!」
「薬も包帯もギリギリですね」
嘆くように物資不足を叫ぶのは『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)と『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)だ。【テント】で医療行為を行っているのだが、とにかく物資も人手も数が足りない状態である。
「緊急性が高くないなら魔術は使わん。自然治療を促す形で行くぞ」
ツボミはてきぱきと患者に治療を施しながら呟く。魔術による治療は便利だが、一時的な処置でしかない。骨折などの重大なダメージは自然治癒に頼るのが一番だ。体を温め、栄養のある者を食べる。痛みを押さえる為の薬を処方し、大忙しである。
「はい。そうですね。それでしたらこういうのはどうでしょうか?」
たまきは治療の傍ら、移民達の不安を聞いていた。肉体的なダメージも浅くはないが、生活が変わったという精神的な不安は大きい。話を聞き、適切な解決策を示す。話を聞いてくれるというだけで救われる不安もある。
「分かってはいたがジリ貧だな。一時しのぎにしかならん」
「ですがやらないわけにはいきません。彼らを無視することは……」
「まあな。とはいえ根本的な解決を行うなら戦争の終結だ。後は――世界の終わりを止める事か」
「その為には、ヴィスマルクの打破……。できるだけ死人が出ない方向で行きたいのですが……」
ツボミとたまきは言ってため息をつく。連続的な労働と言う肉体的な疲労もあるが、終息が見えない不安の方が大きい。だが、やらないわけにはいかないのだ。
「子供を受け入れてくれて、ありがとうなのだ!」
『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)はイ・ラプセルの教会や孤児院を回っていた。移民の中には親を失ったりはぐれたりした子供もいる。そういった子供を受け入れてもらうよう、走り回っていたのだ。
「いい人に育てられたら、きっと大丈夫なのだ!」
戦争で親を失し、教会で育つ。サシャもそう言った経緯の持ち主だ。良い育ての親に出会ったサシャは、自分を不幸とは思わない。できるだけ多くの子供を救うために、イ・ラプセルを走り回る。
「さあ、頑張るぞ! できるだけ多くの子供を救うのだ!」
「いえーい! みんな、こっち見てー!」
元気よく声をかける『鉄鬼殺し』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。その手にはジャグリング用のリングや、玉乗り用の大きなボール。その他いろいろな曲芸用の道具があった。魅せるようにポーズをとって、皆の注目を引く。
「戦争続きで疲れたかもしれないけど、これを見て楽しんでいってね!」
笑顔を浮かべ、元気をアピールしながら芸を披露するカーミラ。持ち前の明るさが見る人の元気を生み、同時に心に安寧が訪れる。サーカス的な曲芸や武術的な演武など、カーミラの見せる芸は幅広い。その一つ一つが移民たちの心を癒していく。
「私は、自由騎士は、強いぞ! ヴィスマルクなんかに負けない!」
「そうね。私達は皆を守るわ。アクアディーネ様の名に懸けて」
カーミラの言葉に頷く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。戦いの時に着る動きやすいコスチュームではなく、神職の正装で移民たちを慰問する。一人一人の顔を見て、微笑みながら話をする。
(まあ、最前線に立って敵を打ち倒し、人々の平和を守る自由騎士って方が性にあっているかもだけどね)
心の中で苦笑するエルシー。だがここで苦しむ人達を無視はできない。彼らもまたアクアディーネ様やエドワード陛下を頼ってやってきた人達だ。その気持ちを無下にすることはできそうにない。あの二人なら、きっと助けると言ってくれるから。
「陛下は必ず私達を守ってくださいます。自由騎士団をはじめ、イ・ラプセル軍は皆さんを絶対に守ります!」
エルシーの言葉は、自由騎士全員の意思でもあった。
●シャンバラ
地理的にヴィスマルクに近いシャンバラ領地は、ヴィスマルク侵攻による不安も大きい。
明日どうなるかわからないという目に見えない恐怖は、例え何もなくとも心を苛んでいくのだ。
「気持ちは十分に理解できるが、混乱せずに聞いてほしい」
その不安を第一に解消したのは『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)だ。テオドール自身のイ・ラプセルでの活躍に加えニルヴァンに長く領主として貢献した実績もあり、シャンバラ民はその言葉に耳を傾ける。
「現状、戦線はイ・ラプセル側が有利だ。国が出来る限りの支援も行おう」
穏やかに、しかしはっきりと言葉を伝える。そしてそれを領内に伝令する。この状況で闇雲に行動されては困る。イ・ラプセルに移民するにせよ、その状況が分からないことが問題なのだ。我先にと行動される前に、大丈夫だと伝えることが大事なのだ。
「上手くまとめたか? 慰問等は他の物に任せるとしよう」
「ミトラースから解放されたんだ。ヨウセイの平和は守り抜く!」
妖精郷ティルナノーグで叫ぶ『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)。かつてヨウセイを燃料としてこの地を収めてきたミトラース。神の支配から解放された自由を、また奪われるわけにはいかない。
「自分達の平和は自分達で守る! 女神モリグナなんかに負けてたまるか!」
決起を促すように叫ぶオルパ。その声に応えるようにヨウセイ達は武器を構えて叫ぶ。自分達を助けてくれた自由騎士。その恩に報いようと声を張り上げる。その熱気を刃に変え、多くのヨウセイたちが立ち上がった。
「ヴィスマルクに連れていかれたヨウセイを救うために、戦うんだ!」
「大丈夫。イ・ラプセルが守ってくれるわ」
『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)が訪れたのは、ドナー基地。かつてチャイルドギアと呼ばれる機関を生み出していた基地だ。今はチャイルドギアとして使用されていた子供達を救うための医療所となっている。
「そう。皆少しずつ良くなってきているのね」
子供達と接しながらサーナは顔をほころばせる。チャイルドギアから解放された子供達は、少しずつだが快癒に向かっている。最も治療が途絶えればその限りではない。ドナー基地がヴィスマルクに奪われれば、治療は途絶え子供達はまた鉄血の犠牲になるだろう。
「そんな事にはさせないわ。私が皆を守るから」
「みんなぁ~。がんばってるぅ? 助けてほしいんだけどぉ~」
間延びした声で尋ねる『にゃあ隊長』メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)。メーメーが訪れたのはかつて越冬の知識を教えたシャンバラの村々だ。その知識と経験を他の人達に教えてほしいと願いに来たのだ。かつて世話になったこともあり、快諾してくれる。
「ありがとぉ~。メーメーちゃんはぁ〜、避難する時に必要な事とかぁ〜、避難生活でのサバイバル知識とかぁ〜、万が一の時に大事な事を教えていくよぉ〜」
メーメーはヴィスマルクにより家を失った時の知識を広めていく。そういった事態はないに越したことはないが、もし起きてしまえば必要になる。僅かでも知識があれば、それを元に動くことができる。全く動かないよりは生き残れる確率は高いのだ。
「ヨウセイとかは、他の人達がお話しているみたいぃ~。これでなんとかなるかなぁ~。
あ、このきのこは食べられるからぁ~、採っておいた方がいいよぉ~」
様々な方面から支援する自由騎士達。その姿を見て、シャンバラの領民たちは安堵していく。
●イ・ラプセルⅡ
「慰問はお人よしに任せておくとするか」
『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は言ってキャンプに目を向ける。困窮に苦しむ者に手を差し伸べる自由騎士は多い。だが移民問題はそれだけでは解決しない。貧しさに負けて犯罪に手を出すものがいないか、ライモンドはその探りを入れていた。
「キャンプから離れて集まっている者達がいる? ふむ……」
人目を避けるような行動。集団になじめないのだと平時ならスルーする案件だが、今は無視する状況ではない。不満を持つ人達を集め、要らぬ決起を起こそうとしている可能性がある。ライモンドは確認を行うために、足を運んだ。
「何をしている? こちらはキャンプ地ではないぞ」
「ふふ、御苦労さんやね。安心しぃ、何もなかったわ」
ライモンドの言葉に応える『鬼神楽』蔡 狼華(CL3000451)。ライモンドの心配する事態はなかった。そう言って手を振った。ついさっきまで不満がたまって暴れそうになっていた子供達は、狼華が御菓子をあげて宥めていた。
「そう? あんさんらみんな親からはぐれたん? やったらしゃーないな」
子供達と目線を合せる為にしゃがみ、話を聞く狼華。移民の際に親からはぐれた子供。親を失った子供。捨てられた子供。事情は様々だが、親がない子供達なのは共通している。しばし思案するように目をつむり、狼華は笑みを浮かべる。
「せやったら、暫くウチのところに来ぃな。マダムに話付けとくさかい」
「その前に検疫はさせてもらうぞ」
『国家安寧』ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)は子供達を見ながら言い放つ。病気や汚れが街の人達に伝播すれば、それだけで大問題になる。そういった医療的な問題もあるが、長く歩き続けた子供を汚れたままにするのはよろしくない。
「まずはお風呂だ。その後に一休み。その後に医者とお話だな」
自由騎士や街の医者等が作った医療テントはパンク寸前だ。時間を空ける意味も含めて、子供達を休めた方がいい。ガブリエラは慣れた手つきで子供達を仮設シャワーに案内し、体を洗う。不安になる子供達を安心させるように、優しく言葉をかけた。
「心配はいらぬ。イ・ラプセルはヴィスマルクに負けない。安心しておやすみ」
「そういうことだ。よく食べてよく休むのは大事だぞ」
キレイになった子供達にスープを渡すガラミド・クタラージ(CL3000576)。何はなくともお腹を満たす。お腹が減れば元気がなくなり、元気がなくなれば余計に不安に押しつぶされる。空だろうが元気であることは大事なのだ。
「身体にしろ気持ちにしろ元気があれば出来ることもあるしな」
アマノホカリの米を含んだ炊き出しをよそうガラミド。衛生部隊と協力して炊き出しと怪我人の治療を行っていた。酷い怪我は魔術で癒しながら、移民たちを少しずつ元気にしていく。
「安心しろ。オレ達は見捨てたりなんかしないから」
「そうですよぉ~。食事はまだまだありますから、ゆっくり食べてくださいね~」
間延びした声で『おもてなしの和菓子職人』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は移民たちに告げる。言いながら手を動かし、食材を刻んでは鍋に入れていく。移民の数が多く、炊き出しも相応の量を用意しないといけない為料理する側は休みなしだ。
「この程度、これまで苦労されてきた皆さんに比べれば銅と言う事はありませ~ん」
その苦労をそう笑って飛ばすシェリル。炊いた米を握って纏め、豚肉と野菜を使ったスープを作る。アマノホカリの調味料である『味噌』をいれて、アマノホカリの移民でも食べやすくしていた。
「八千代堂のお饅頭もつけますよ~。甘いものを食べて、心を落ち着けてくださ~い」
「今そっちに運ぶで。あらよっと!」
作られた食料を手に『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)がキャンプ場を走る。機械の足で地面を蹴って食べ物を運ぶ。走りながらバランスをとっていることもあり、知る者がこぼれる事はなかった。
「お待ち! お代は結構やで!」
アリシアは老人や怪我人と言った、自力では動けない人達を中心に配送していた。怪我人の世話をしたり、赤子をあやしたりと動くに動けない人達。そんな人達の元に、アリシアは笑顔と共に炊き出し品を運ぶ。
「うちが出来る事やったら何でもするさかい、気軽に呼びつけてな!」
「アマノホカリの文化はそういうものがあるんだね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はアマノホカリの移民達から祖国の文化を聞いていた。遠く離れた東の島国。そこに根付いた文化はイ・ラプセルとかけ離れていた。このまま彼らを受け入れても、文化の違いが彼らの負担になるだろう。
「似たような楽器は用意できる。あとは食文化。それに住居も……」
文化が異なる事自体は、さほど問題ではない。むしろ異文化との交流は望ましい。だが、それが負担になるのは問題だ。『違い』をお互いが理解し、上手く融合させる。容易ではないが、消して不可能な道ではないはずだ。
「なら……小規模なお祭りをしよう。ストレス緩和にもなるし」
「皆さん、いろいろ考えてらっしゃるのですね」
いろいろな人達の動きを見ながらセアラ・ラングフォード(CL3000634)は感心するように頷く。集まった移民達を救おうと、様々な手法で移民達に接していた。画一化された軍隊ではなく、皆が独自に行動する自由騎士ならではの光景と言えよう。
「私は、治療に集中します。誰にでも分け隔てなく」
自分にできる事。それを考え、最終的に治療行為を行うセアラ。先ずは戦争で疲弊したアマノホカリの人達からだ。国どころか済む大地すら失った彼らは、これから多くの苦難が待っているだろう。できるだけ元気になるようにと思いを込めて、治療を行う。
「皆さんの傷は私が癒します。ですから、諦めないでください」
イ・ラプセルに集まった移民達は、様々な形で癒されていく。
●ヘルメリア
ヘルメリア島。
かつてヘルメス神が統治しており、『蒸気王』による蒸気文明発祥にして最先端だった島。しかしその両方とももうこの世にはなく、かつての戦争で崩壊した都市の残骸を立て直しながらの生活となっていた。
「お久しぶりです。歯車騎士の皆さん」
『みんなをまもるためのちから』海・西園寺(CL3000241)はかつて戦った歯車騎士達の元に赴いていた。今は歯車騎士と言う騎士団は壊滅しているが、ヘルメリアを守る戦士達と言う意味でその言葉は残っている。かつて相対した騎士達は海を快く受け入れてくれた。
「皆さんも聞いていると思いますが、ヴィスマルクの件です。もし戦闘になった際は――」
海は歯車騎士達と協議し、ヴィスマルクへの対策を考える。避難場所および経路の確保、その際の誘導。戦場になるだろう場所に拠点を作り、防衛力を高める。備える事で安心し、同時にどう動けばいいかという指針にもなる。
「何かあった時、何も動けなくなるか混乱してしまう事が、皆さんにとって一番危険ですから」
「そうね。地理的な面は私もカバーするわ」
言って名乗りを上げるのは『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)だ。かつては歯車騎士の暗部として活躍していた。ステラが仕えていた男が歯車騎士の中でもダークな一面を担っていたこともあり、ステラも同様にいい顔はされない――と思っていた。
「……正直、恨まれてるとばかり思ってたわ」
ステラの所業を知る歯車騎士達は、彼女の悪行を知りながらもそれを責めはしなかった。あれは戦争で、皆がその熱気で狂っていたのだ。後はステラがどうしたいか。罪を償いたいのか、二度とここを訪れたくないのか。だが拒絶はしないと言ってくれた。
「考える時間が欲しいわ。……でも、ありがとう」
目を伏せ、礼を言うステラ。今はまだ、答えは見つからないけど――
●パノプティコン
「はーい、クイニィーちゃんのワクワク語学講座はっじめっるよ〜」
元パノプティコン民を前に『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)の声が響く。机と椅子。そして黒板。お得意の二枚舌で言語を学ぶことは身を守ることだよと騙s……説き伏せて、語学教室を開いていた。
(騙してないよ。嘘は言ってないもんね。言語が通じる相手の方が騙しやすいのは確かだけど)
そんなことを想いながらクイニィーは言語を教える。パノプティコンで使われていた言語も組み合わせ、パノプティコン民に分かりやすく共通言語を伝えていく。教えるクイニィーも楽しみながら、言語を教えていく。
「まずは会話で一番使う奴からいくね。何かあって本当かどうか問いかける『本当ですか?』『マジで?』……パノプティコンでは『ス・イ・チ・リ・ン』とか言われる言葉から」
「やっぱり戦争直後はダメージが大きいわね」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はつい先月まで戦っていたパノプティコンに赴いていた。戦争のダメージは深く、復興まで時間がかかる。今なお戦いの傷は残っていた。
「わたしにできる事は多くないけど……」
言いながら炊き出しを手伝うアンネリーザ。今はこの程度しかできないが、彼らの心が癒えてオシャレに興味を持ち出せば帽子を紹介するのもいいだろう。パノプティコン国民達の個性を引き出せるのなら、帽子屋としてその努力は惜しまないつもりだ。
インディオ――
この地に古くから住む民族で、複数の氏族が存在する。精霊を崇め、蒸気文明を利用しない流民として生きている。
「……そう言えば、あまりインディオの事を知らないんだよな」
セーイ・キャトル(CL3000639)は自分の中にあるインディオの知識を思い出しながら、そんな事を呟く。彼らの一部とは協力関係にあったが、戦時と言う事もあってかそれほど深い交流は行っていなかった。
「アタパカさんや通商連のインディオと話をしたぐらいだし。……そう言えば通商連に居る人達は戻ってくるんですか?」
「ああ、話はついている。とはいえ情勢を考えれば通商連の船の方が安全ということで、事が落ち着くまでは現状のままという事になった」
セーイの問いかけに応えたのは、インディオの中でもイ・ラプセルに親しいアタパカだ。
「情勢……ヴィスマルクか」
「君達が気にする事ではない。いずれ戦士を募って対抗するつもりだ。その準備を優先しているに過ぎない」
インディオが平和な日々を取り戻すには、まだ問題が多い。だが自由騎士達の働きで大きく前進したのは確かだ。
「ヴィスマルクの矢面に立つ君達に精霊の加護があらんことを」
「はい。インディオの方々も。私達風に言えばアクアディーネ様の救いがあらんことを」
インディオ達の生活の準備を手伝いながら『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は言葉を挟む。聖職者としての一礼を示した後に、襟を正す。ここからはミルトス個人としての言葉だ。
「貴方達には何度も助けられました。ありがとうございます」
「それはこちらの方だ。君達がいなければ、我々は故郷を奪還できなっただろう」
「この世界の全てが危機に立たされる時が来た時、きっと貴方達の選択は尊重されるでしょう」
『世界の全て』がどうなっているか。それはアタパカには伝えていない。混乱を避ける意味も含め、アイン0の情報は伏せられているのだ。
「ありがとう。我々は自然と精霊の赴くままに生きるだけだ」
「はい。それでよろしいかと。――それでは」
頭を下げて、その場を去るミルトス。
(きっと、もう会う事も無いでしょう)
核心に近い予想を胸に秘め、ミルトスは歩いていく。
「インディオ飯!」
多くのインディオ達に囲まれて『神落とす北風』ジーニー・レイン(CL3000647)が元気よく叫ぶ。アイドーネウスを討った英雄だがそれを主張することはなく、ただパノプティコンから解放された事実を喜んでいた。
「アイドーネウスを倒して、先祖の土地を取り戻したんだ! ここでまたヴィスマルクなんかにやられたたまるかよ!」
インディオ達が作ったご飯を食べながら、斧を振り上げるジーニー。ウサギやシカ等の肉を焼いたものを中心に、トウモロコシの粉を使ったパンや揚げ物。大人用にトウモロコシの酒まであるという。ジーニーはまだ飲めないが。
「インディオの魂は不屈! 来るなら来い、ヴィスマルク!」
ジーニーの言葉にインディオ達から歓声が上がる。殺戮は好まないが、故郷を守るための戦いなら躊躇はしない。インディオの気質がそこにあふれていた。
「アナ様、ですね」
インディオの輪から少し離れた場所にいるインディオの女性に話しかけるのはビジュ・アンブル(CL3000712)。カタクラフトと肉体の相性により戦線をリダツしたビジュがわざわざパノプティコン間で足を運んだのには理由がある。この女性にメッセージを届けに来たのだ。
「……私にその名前を名乗る資格はない。インディオを裏切り、パノプティコン王族1734として皆を苦しめたのだから」
「ですが貴方に救われた者もいます。青灰の髪のマザリモノの少女、キリ・カーレントをお覚えでしょうか」
ビジュが告げる言葉に体を震わせるインディオの少女。そのマザリモノとは何度も交戦した。
「恨み言? ええ、いくらでも聞くわ」
「いいえ。貴方が知る曲を教えてほしいと。彼女が知る曲は完璧ではなくそれを補足するために貴方の協力が欲しいとの事です」
言って奏でる曲はとある村の歌。かつてインディオの少女が守ろうとし、叶わなかったマザリモノの村の曲。
「それぐらいなら……」
「ありがとうございます。完成した曲を世界に届けたい。それが彼女の願いです」
曲の内容を確認し、一礼するビジュ。
「……アナ?」
ビジュのやり取りが終わるまで待っていたノーヴェ・キャトル(CL3000638)が王族1734に話しかける。インディオでの呼び名で呼ばれ、体を震わせる王族1734。
「……私は、その名までで呼ばれる資格はない」
「インディオの人達に……そういわれた?」
「いいえ……でも、私はパノプティコンの王として皆を苦しめた。貴方達、イ・ラプセルの人達も……」
蒼白な顔でそう告げる王族1734。彼女がインディオを裏切り、イ・ラプセルに攻撃を仕掛けてきたのは、彼女なりにインディオを守ろうとしたという理由がある。だが、パノプティコンの王となって苦しめたのは事実だ。
「アナは……インディオ、のヒト達と……一緒、がいい……と、思う……」
「無理。私が私を許せない」
「アナが……優しいのは、みんな知ってる。私も……知ってる……」
言って王族1734――インディオの祈祷師アナの手を取るノーヴェ。繋いだ手から温もりが伝わってくる。
「お話……しよう? つめたかった、アナが……あたたかい、になるように……。いっしょに、あたたかい、に……なろう」
たどたどしく。だけどしっかりとアナの目を見て告げるノーヴェ。今は自分を許せないかもしれないけど、いつか自分を許せるように。その日が来ることを、祈って。
ノーヴェが掴んだ褐色の手は、弱々しくだけど確かに握り返すように力が込められた。
墓地4133。かつてそう呼ばれたパノプティコンの土地。そこにあった党は現在解体されつつあり、いずれは何もない野原に変わるだろう。
「こちらですね」
『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は塔から離れた場所に作られた場所に赴いていた。かつてここにあった村。かつてマザリモノ達が住んでいた家があった場所。そこにある墓石に。
「…………」
墓前に供え物をして、静かに祈るアンジェリカ。アクアディーネの聖印を象るように指を動かし、手を合わせる。ここに眠るのは、共に戦場を駆け抜けた戦友。戦いの半ばで力尽きた守り手。その戦いに敬意を表するように祈る。
「……戦いはもうすぐ終わります。いいえ、終わらせます」
「はい。あとひと息です。そこまで一緒に戦えなかったのは残念ですが……」
言ってアンジェリカの隣に立つ『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。デボラも墓石の前に立ち、祈りを捧げる。その魂が正しく虚無の海に帰らんことを。……最も、このままだとこの世界全ての人間が虚無の海に帰りそうなのだが。
(そんな事にはさせません。貴方が守った世界を私も守ります)
誓いを胸に瞳を開ける。目の前に広がる平地は塩をまかれた事もあり、植物が生えていない。だが、塩害に強い植物も存在するし、津波の跡地に作物を育てる農業の技術もある。それらを駆使すれば、いずれここにも緑が戻るだろう。
「どれだけ時間がかかるかわかりませんけど、寂しい思いはさせません」
墓石にそう言って、デボラは背を向ける。
やるべきことは多い。未来のために、足を動かした。
●
アイン0、そしてヴィスマルクの侵攻。それらに苦しむ人達は、自由騎士の働きで安堵する。しかし問題が解決したわけではない。ヴィスマルクは未だ猛威を誇り、世界は確実に崩壊している。
解決するには、神の蟲毒の完成が最低条件。その為にも、先ずは女神モリグナを討たなければならない。
決意を胸に、自由騎士達は動き出す――
イ・ラプセルには現在、アマノホカリからの移住者やヴィスマルクの攻撃で疲弊した人達がやってきている。
移民問題と言うのは根が深く『困っているなら受け入れよう』と安易に受け入れると住居や食糧問題、衛生や価値観の違いによる軋轢など様々な問題を生み出してしまう。慎重かつ、人道的な判断が求められるのだ。
そういった理由もあり、移民者は街の外でテントによる生活を行ってもらっている。検査や住む場所を確保でき次第少しずつ受け入れていく形となるのだが、その間はどうなるかわからない不安に苛まれることとなる。
「…………」
そんな移民達をフロレンシス・ルベル(CL3000702)は黙々と癒していた。移住してきた人たちの中には、怪我をしている人達も多い。こちらにやってきて喧嘩をしたという事例も少なくないのだ。医療の手は幾らあっても足りないぐらいである。
「手数が足らん!」
「薬も包帯もギリギリですね」
嘆くように物資不足を叫ぶのは『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)と『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)だ。【テント】で医療行為を行っているのだが、とにかく物資も人手も数が足りない状態である。
「緊急性が高くないなら魔術は使わん。自然治療を促す形で行くぞ」
ツボミはてきぱきと患者に治療を施しながら呟く。魔術による治療は便利だが、一時的な処置でしかない。骨折などの重大なダメージは自然治癒に頼るのが一番だ。体を温め、栄養のある者を食べる。痛みを押さえる為の薬を処方し、大忙しである。
「はい。そうですね。それでしたらこういうのはどうでしょうか?」
たまきは治療の傍ら、移民達の不安を聞いていた。肉体的なダメージも浅くはないが、生活が変わったという精神的な不安は大きい。話を聞き、適切な解決策を示す。話を聞いてくれるというだけで救われる不安もある。
「分かってはいたがジリ貧だな。一時しのぎにしかならん」
「ですがやらないわけにはいきません。彼らを無視することは……」
「まあな。とはいえ根本的な解決を行うなら戦争の終結だ。後は――世界の終わりを止める事か」
「その為には、ヴィスマルクの打破……。できるだけ死人が出ない方向で行きたいのですが……」
ツボミとたまきは言ってため息をつく。連続的な労働と言う肉体的な疲労もあるが、終息が見えない不安の方が大きい。だが、やらないわけにはいかないのだ。
「子供を受け入れてくれて、ありがとうなのだ!」
『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)はイ・ラプセルの教会や孤児院を回っていた。移民の中には親を失ったりはぐれたりした子供もいる。そういった子供を受け入れてもらうよう、走り回っていたのだ。
「いい人に育てられたら、きっと大丈夫なのだ!」
戦争で親を失し、教会で育つ。サシャもそう言った経緯の持ち主だ。良い育ての親に出会ったサシャは、自分を不幸とは思わない。できるだけ多くの子供を救うために、イ・ラプセルを走り回る。
「さあ、頑張るぞ! できるだけ多くの子供を救うのだ!」
「いえーい! みんな、こっち見てー!」
元気よく声をかける『鉄鬼殺し』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。その手にはジャグリング用のリングや、玉乗り用の大きなボール。その他いろいろな曲芸用の道具があった。魅せるようにポーズをとって、皆の注目を引く。
「戦争続きで疲れたかもしれないけど、これを見て楽しんでいってね!」
笑顔を浮かべ、元気をアピールしながら芸を披露するカーミラ。持ち前の明るさが見る人の元気を生み、同時に心に安寧が訪れる。サーカス的な曲芸や武術的な演武など、カーミラの見せる芸は幅広い。その一つ一つが移民たちの心を癒していく。
「私は、自由騎士は、強いぞ! ヴィスマルクなんかに負けない!」
「そうね。私達は皆を守るわ。アクアディーネ様の名に懸けて」
カーミラの言葉に頷く『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。戦いの時に着る動きやすいコスチュームではなく、神職の正装で移民たちを慰問する。一人一人の顔を見て、微笑みながら話をする。
(まあ、最前線に立って敵を打ち倒し、人々の平和を守る自由騎士って方が性にあっているかもだけどね)
心の中で苦笑するエルシー。だがここで苦しむ人達を無視はできない。彼らもまたアクアディーネ様やエドワード陛下を頼ってやってきた人達だ。その気持ちを無下にすることはできそうにない。あの二人なら、きっと助けると言ってくれるから。
「陛下は必ず私達を守ってくださいます。自由騎士団をはじめ、イ・ラプセル軍は皆さんを絶対に守ります!」
エルシーの言葉は、自由騎士全員の意思でもあった。
●シャンバラ
地理的にヴィスマルクに近いシャンバラ領地は、ヴィスマルク侵攻による不安も大きい。
明日どうなるかわからないという目に見えない恐怖は、例え何もなくとも心を苛んでいくのだ。
「気持ちは十分に理解できるが、混乱せずに聞いてほしい」
その不安を第一に解消したのは『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)だ。テオドール自身のイ・ラプセルでの活躍に加えニルヴァンに長く領主として貢献した実績もあり、シャンバラ民はその言葉に耳を傾ける。
「現状、戦線はイ・ラプセル側が有利だ。国が出来る限りの支援も行おう」
穏やかに、しかしはっきりと言葉を伝える。そしてそれを領内に伝令する。この状況で闇雲に行動されては困る。イ・ラプセルに移民するにせよ、その状況が分からないことが問題なのだ。我先にと行動される前に、大丈夫だと伝えることが大事なのだ。
「上手くまとめたか? 慰問等は他の物に任せるとしよう」
「ミトラースから解放されたんだ。ヨウセイの平和は守り抜く!」
妖精郷ティルナノーグで叫ぶ『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)。かつてヨウセイを燃料としてこの地を収めてきたミトラース。神の支配から解放された自由を、また奪われるわけにはいかない。
「自分達の平和は自分達で守る! 女神モリグナなんかに負けてたまるか!」
決起を促すように叫ぶオルパ。その声に応えるようにヨウセイ達は武器を構えて叫ぶ。自分達を助けてくれた自由騎士。その恩に報いようと声を張り上げる。その熱気を刃に変え、多くのヨウセイたちが立ち上がった。
「ヴィスマルクに連れていかれたヨウセイを救うために、戦うんだ!」
「大丈夫。イ・ラプセルが守ってくれるわ」
『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)が訪れたのは、ドナー基地。かつてチャイルドギアと呼ばれる機関を生み出していた基地だ。今はチャイルドギアとして使用されていた子供達を救うための医療所となっている。
「そう。皆少しずつ良くなってきているのね」
子供達と接しながらサーナは顔をほころばせる。チャイルドギアから解放された子供達は、少しずつだが快癒に向かっている。最も治療が途絶えればその限りではない。ドナー基地がヴィスマルクに奪われれば、治療は途絶え子供達はまた鉄血の犠牲になるだろう。
「そんな事にはさせないわ。私が皆を守るから」
「みんなぁ~。がんばってるぅ? 助けてほしいんだけどぉ~」
間延びした声で尋ねる『にゃあ隊長』メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)。メーメーが訪れたのはかつて越冬の知識を教えたシャンバラの村々だ。その知識と経験を他の人達に教えてほしいと願いに来たのだ。かつて世話になったこともあり、快諾してくれる。
「ありがとぉ~。メーメーちゃんはぁ〜、避難する時に必要な事とかぁ〜、避難生活でのサバイバル知識とかぁ〜、万が一の時に大事な事を教えていくよぉ〜」
メーメーはヴィスマルクにより家を失った時の知識を広めていく。そういった事態はないに越したことはないが、もし起きてしまえば必要になる。僅かでも知識があれば、それを元に動くことができる。全く動かないよりは生き残れる確率は高いのだ。
「ヨウセイとかは、他の人達がお話しているみたいぃ~。これでなんとかなるかなぁ~。
あ、このきのこは食べられるからぁ~、採っておいた方がいいよぉ~」
様々な方面から支援する自由騎士達。その姿を見て、シャンバラの領民たちは安堵していく。
●イ・ラプセルⅡ
「慰問はお人よしに任せておくとするか」
『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は言ってキャンプに目を向ける。困窮に苦しむ者に手を差し伸べる自由騎士は多い。だが移民問題はそれだけでは解決しない。貧しさに負けて犯罪に手を出すものがいないか、ライモンドはその探りを入れていた。
「キャンプから離れて集まっている者達がいる? ふむ……」
人目を避けるような行動。集団になじめないのだと平時ならスルーする案件だが、今は無視する状況ではない。不満を持つ人達を集め、要らぬ決起を起こそうとしている可能性がある。ライモンドは確認を行うために、足を運んだ。
「何をしている? こちらはキャンプ地ではないぞ」
「ふふ、御苦労さんやね。安心しぃ、何もなかったわ」
ライモンドの言葉に応える『鬼神楽』蔡 狼華(CL3000451)。ライモンドの心配する事態はなかった。そう言って手を振った。ついさっきまで不満がたまって暴れそうになっていた子供達は、狼華が御菓子をあげて宥めていた。
「そう? あんさんらみんな親からはぐれたん? やったらしゃーないな」
子供達と目線を合せる為にしゃがみ、話を聞く狼華。移民の際に親からはぐれた子供。親を失った子供。捨てられた子供。事情は様々だが、親がない子供達なのは共通している。しばし思案するように目をつむり、狼華は笑みを浮かべる。
「せやったら、暫くウチのところに来ぃな。マダムに話付けとくさかい」
「その前に検疫はさせてもらうぞ」
『国家安寧』ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)は子供達を見ながら言い放つ。病気や汚れが街の人達に伝播すれば、それだけで大問題になる。そういった医療的な問題もあるが、長く歩き続けた子供を汚れたままにするのはよろしくない。
「まずはお風呂だ。その後に一休み。その後に医者とお話だな」
自由騎士や街の医者等が作った医療テントはパンク寸前だ。時間を空ける意味も含めて、子供達を休めた方がいい。ガブリエラは慣れた手つきで子供達を仮設シャワーに案内し、体を洗う。不安になる子供達を安心させるように、優しく言葉をかけた。
「心配はいらぬ。イ・ラプセルはヴィスマルクに負けない。安心しておやすみ」
「そういうことだ。よく食べてよく休むのは大事だぞ」
キレイになった子供達にスープを渡すガラミド・クタラージ(CL3000576)。何はなくともお腹を満たす。お腹が減れば元気がなくなり、元気がなくなれば余計に不安に押しつぶされる。空だろうが元気であることは大事なのだ。
「身体にしろ気持ちにしろ元気があれば出来ることもあるしな」
アマノホカリの米を含んだ炊き出しをよそうガラミド。衛生部隊と協力して炊き出しと怪我人の治療を行っていた。酷い怪我は魔術で癒しながら、移民たちを少しずつ元気にしていく。
「安心しろ。オレ達は見捨てたりなんかしないから」
「そうですよぉ~。食事はまだまだありますから、ゆっくり食べてくださいね~」
間延びした声で『おもてなしの和菓子職人』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は移民たちに告げる。言いながら手を動かし、食材を刻んでは鍋に入れていく。移民の数が多く、炊き出しも相応の量を用意しないといけない為料理する側は休みなしだ。
「この程度、これまで苦労されてきた皆さんに比べれば銅と言う事はありませ~ん」
その苦労をそう笑って飛ばすシェリル。炊いた米を握って纏め、豚肉と野菜を使ったスープを作る。アマノホカリの調味料である『味噌』をいれて、アマノホカリの移民でも食べやすくしていた。
「八千代堂のお饅頭もつけますよ~。甘いものを食べて、心を落ち着けてくださ~い」
「今そっちに運ぶで。あらよっと!」
作られた食料を手に『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)がキャンプ場を走る。機械の足で地面を蹴って食べ物を運ぶ。走りながらバランスをとっていることもあり、知る者がこぼれる事はなかった。
「お待ち! お代は結構やで!」
アリシアは老人や怪我人と言った、自力では動けない人達を中心に配送していた。怪我人の世話をしたり、赤子をあやしたりと動くに動けない人達。そんな人達の元に、アリシアは笑顔と共に炊き出し品を運ぶ。
「うちが出来る事やったら何でもするさかい、気軽に呼びつけてな!」
「アマノホカリの文化はそういうものがあるんだね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はアマノホカリの移民達から祖国の文化を聞いていた。遠く離れた東の島国。そこに根付いた文化はイ・ラプセルとかけ離れていた。このまま彼らを受け入れても、文化の違いが彼らの負担になるだろう。
「似たような楽器は用意できる。あとは食文化。それに住居も……」
文化が異なる事自体は、さほど問題ではない。むしろ異文化との交流は望ましい。だが、それが負担になるのは問題だ。『違い』をお互いが理解し、上手く融合させる。容易ではないが、消して不可能な道ではないはずだ。
「なら……小規模なお祭りをしよう。ストレス緩和にもなるし」
「皆さん、いろいろ考えてらっしゃるのですね」
いろいろな人達の動きを見ながらセアラ・ラングフォード(CL3000634)は感心するように頷く。集まった移民達を救おうと、様々な手法で移民達に接していた。画一化された軍隊ではなく、皆が独自に行動する自由騎士ならではの光景と言えよう。
「私は、治療に集中します。誰にでも分け隔てなく」
自分にできる事。それを考え、最終的に治療行為を行うセアラ。先ずは戦争で疲弊したアマノホカリの人達からだ。国どころか済む大地すら失った彼らは、これから多くの苦難が待っているだろう。できるだけ元気になるようにと思いを込めて、治療を行う。
「皆さんの傷は私が癒します。ですから、諦めないでください」
イ・ラプセルに集まった移民達は、様々な形で癒されていく。
●ヘルメリア
ヘルメリア島。
かつてヘルメス神が統治しており、『蒸気王』による蒸気文明発祥にして最先端だった島。しかしその両方とももうこの世にはなく、かつての戦争で崩壊した都市の残骸を立て直しながらの生活となっていた。
「お久しぶりです。歯車騎士の皆さん」
『みんなをまもるためのちから』海・西園寺(CL3000241)はかつて戦った歯車騎士達の元に赴いていた。今は歯車騎士と言う騎士団は壊滅しているが、ヘルメリアを守る戦士達と言う意味でその言葉は残っている。かつて相対した騎士達は海を快く受け入れてくれた。
「皆さんも聞いていると思いますが、ヴィスマルクの件です。もし戦闘になった際は――」
海は歯車騎士達と協議し、ヴィスマルクへの対策を考える。避難場所および経路の確保、その際の誘導。戦場になるだろう場所に拠点を作り、防衛力を高める。備える事で安心し、同時にどう動けばいいかという指針にもなる。
「何かあった時、何も動けなくなるか混乱してしまう事が、皆さんにとって一番危険ですから」
「そうね。地理的な面は私もカバーするわ」
言って名乗りを上げるのは『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)だ。かつては歯車騎士の暗部として活躍していた。ステラが仕えていた男が歯車騎士の中でもダークな一面を担っていたこともあり、ステラも同様にいい顔はされない――と思っていた。
「……正直、恨まれてるとばかり思ってたわ」
ステラの所業を知る歯車騎士達は、彼女の悪行を知りながらもそれを責めはしなかった。あれは戦争で、皆がその熱気で狂っていたのだ。後はステラがどうしたいか。罪を償いたいのか、二度とここを訪れたくないのか。だが拒絶はしないと言ってくれた。
「考える時間が欲しいわ。……でも、ありがとう」
目を伏せ、礼を言うステラ。今はまだ、答えは見つからないけど――
●パノプティコン
「はーい、クイニィーちゃんのワクワク語学講座はっじめっるよ〜」
元パノプティコン民を前に『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)の声が響く。机と椅子。そして黒板。お得意の二枚舌で言語を学ぶことは身を守ることだよと騙s……説き伏せて、語学教室を開いていた。
(騙してないよ。嘘は言ってないもんね。言語が通じる相手の方が騙しやすいのは確かだけど)
そんなことを想いながらクイニィーは言語を教える。パノプティコンで使われていた言語も組み合わせ、パノプティコン民に分かりやすく共通言語を伝えていく。教えるクイニィーも楽しみながら、言語を教えていく。
「まずは会話で一番使う奴からいくね。何かあって本当かどうか問いかける『本当ですか?』『マジで?』……パノプティコンでは『ス・イ・チ・リ・ン』とか言われる言葉から」
「やっぱり戦争直後はダメージが大きいわね」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)はつい先月まで戦っていたパノプティコンに赴いていた。戦争のダメージは深く、復興まで時間がかかる。今なお戦いの傷は残っていた。
「わたしにできる事は多くないけど……」
言いながら炊き出しを手伝うアンネリーザ。今はこの程度しかできないが、彼らの心が癒えてオシャレに興味を持ち出せば帽子を紹介するのもいいだろう。パノプティコン国民達の個性を引き出せるのなら、帽子屋としてその努力は惜しまないつもりだ。
インディオ――
この地に古くから住む民族で、複数の氏族が存在する。精霊を崇め、蒸気文明を利用しない流民として生きている。
「……そう言えば、あまりインディオの事を知らないんだよな」
セーイ・キャトル(CL3000639)は自分の中にあるインディオの知識を思い出しながら、そんな事を呟く。彼らの一部とは協力関係にあったが、戦時と言う事もあってかそれほど深い交流は行っていなかった。
「アタパカさんや通商連のインディオと話をしたぐらいだし。……そう言えば通商連に居る人達は戻ってくるんですか?」
「ああ、話はついている。とはいえ情勢を考えれば通商連の船の方が安全ということで、事が落ち着くまでは現状のままという事になった」
セーイの問いかけに応えたのは、インディオの中でもイ・ラプセルに親しいアタパカだ。
「情勢……ヴィスマルクか」
「君達が気にする事ではない。いずれ戦士を募って対抗するつもりだ。その準備を優先しているに過ぎない」
インディオが平和な日々を取り戻すには、まだ問題が多い。だが自由騎士達の働きで大きく前進したのは確かだ。
「ヴィスマルクの矢面に立つ君達に精霊の加護があらんことを」
「はい。インディオの方々も。私達風に言えばアクアディーネ様の救いがあらんことを」
インディオ達の生活の準備を手伝いながら『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は言葉を挟む。聖職者としての一礼を示した後に、襟を正す。ここからはミルトス個人としての言葉だ。
「貴方達には何度も助けられました。ありがとうございます」
「それはこちらの方だ。君達がいなければ、我々は故郷を奪還できなっただろう」
「この世界の全てが危機に立たされる時が来た時、きっと貴方達の選択は尊重されるでしょう」
『世界の全て』がどうなっているか。それはアタパカには伝えていない。混乱を避ける意味も含め、アイン0の情報は伏せられているのだ。
「ありがとう。我々は自然と精霊の赴くままに生きるだけだ」
「はい。それでよろしいかと。――それでは」
頭を下げて、その場を去るミルトス。
(きっと、もう会う事も無いでしょう)
核心に近い予想を胸に秘め、ミルトスは歩いていく。
「インディオ飯!」
多くのインディオ達に囲まれて『神落とす北風』ジーニー・レイン(CL3000647)が元気よく叫ぶ。アイドーネウスを討った英雄だがそれを主張することはなく、ただパノプティコンから解放された事実を喜んでいた。
「アイドーネウスを倒して、先祖の土地を取り戻したんだ! ここでまたヴィスマルクなんかにやられたたまるかよ!」
インディオ達が作ったご飯を食べながら、斧を振り上げるジーニー。ウサギやシカ等の肉を焼いたものを中心に、トウモロコシの粉を使ったパンや揚げ物。大人用にトウモロコシの酒まであるという。ジーニーはまだ飲めないが。
「インディオの魂は不屈! 来るなら来い、ヴィスマルク!」
ジーニーの言葉にインディオ達から歓声が上がる。殺戮は好まないが、故郷を守るための戦いなら躊躇はしない。インディオの気質がそこにあふれていた。
「アナ様、ですね」
インディオの輪から少し離れた場所にいるインディオの女性に話しかけるのはビジュ・アンブル(CL3000712)。カタクラフトと肉体の相性により戦線をリダツしたビジュがわざわざパノプティコン間で足を運んだのには理由がある。この女性にメッセージを届けに来たのだ。
「……私にその名前を名乗る資格はない。インディオを裏切り、パノプティコン王族1734として皆を苦しめたのだから」
「ですが貴方に救われた者もいます。青灰の髪のマザリモノの少女、キリ・カーレントをお覚えでしょうか」
ビジュが告げる言葉に体を震わせるインディオの少女。そのマザリモノとは何度も交戦した。
「恨み言? ええ、いくらでも聞くわ」
「いいえ。貴方が知る曲を教えてほしいと。彼女が知る曲は完璧ではなくそれを補足するために貴方の協力が欲しいとの事です」
言って奏でる曲はとある村の歌。かつてインディオの少女が守ろうとし、叶わなかったマザリモノの村の曲。
「それぐらいなら……」
「ありがとうございます。完成した曲を世界に届けたい。それが彼女の願いです」
曲の内容を確認し、一礼するビジュ。
「……アナ?」
ビジュのやり取りが終わるまで待っていたノーヴェ・キャトル(CL3000638)が王族1734に話しかける。インディオでの呼び名で呼ばれ、体を震わせる王族1734。
「……私は、その名までで呼ばれる資格はない」
「インディオの人達に……そういわれた?」
「いいえ……でも、私はパノプティコンの王として皆を苦しめた。貴方達、イ・ラプセルの人達も……」
蒼白な顔でそう告げる王族1734。彼女がインディオを裏切り、イ・ラプセルに攻撃を仕掛けてきたのは、彼女なりにインディオを守ろうとしたという理由がある。だが、パノプティコンの王となって苦しめたのは事実だ。
「アナは……インディオ、のヒト達と……一緒、がいい……と、思う……」
「無理。私が私を許せない」
「アナが……優しいのは、みんな知ってる。私も……知ってる……」
言って王族1734――インディオの祈祷師アナの手を取るノーヴェ。繋いだ手から温もりが伝わってくる。
「お話……しよう? つめたかった、アナが……あたたかい、になるように……。いっしょに、あたたかい、に……なろう」
たどたどしく。だけどしっかりとアナの目を見て告げるノーヴェ。今は自分を許せないかもしれないけど、いつか自分を許せるように。その日が来ることを、祈って。
ノーヴェが掴んだ褐色の手は、弱々しくだけど確かに握り返すように力が込められた。
墓地4133。かつてそう呼ばれたパノプティコンの土地。そこにあった党は現在解体されつつあり、いずれは何もない野原に変わるだろう。
「こちらですね」
『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は塔から離れた場所に作られた場所に赴いていた。かつてここにあった村。かつてマザリモノ達が住んでいた家があった場所。そこにある墓石に。
「…………」
墓前に供え物をして、静かに祈るアンジェリカ。アクアディーネの聖印を象るように指を動かし、手を合わせる。ここに眠るのは、共に戦場を駆け抜けた戦友。戦いの半ばで力尽きた守り手。その戦いに敬意を表するように祈る。
「……戦いはもうすぐ終わります。いいえ、終わらせます」
「はい。あとひと息です。そこまで一緒に戦えなかったのは残念ですが……」
言ってアンジェリカの隣に立つ『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。デボラも墓石の前に立ち、祈りを捧げる。その魂が正しく虚無の海に帰らんことを。……最も、このままだとこの世界全ての人間が虚無の海に帰りそうなのだが。
(そんな事にはさせません。貴方が守った世界を私も守ります)
誓いを胸に瞳を開ける。目の前に広がる平地は塩をまかれた事もあり、植物が生えていない。だが、塩害に強い植物も存在するし、津波の跡地に作物を育てる農業の技術もある。それらを駆使すれば、いずれここにも緑が戻るだろう。
「どれだけ時間がかかるかわかりませんけど、寂しい思いはさせません」
墓石にそう言って、デボラは背を向ける。
やるべきことは多い。未来のために、足を動かした。
●
アイン0、そしてヴィスマルクの侵攻。それらに苦しむ人達は、自由騎士の働きで安堵する。しかし問題が解決したわけではない。ヴィスマルクは未だ猛威を誇り、世界は確実に崩壊している。
解決するには、神の蟲毒の完成が最低条件。その為にも、先ずは女神モリグナを討たなければならない。
決意を胸に、自由騎士達は動き出す――