MagiaSteam
【ゴールドティアーズ】星に願いを大地に祈りを



 ●
 漕ぎ出すカヌーに揺れて水面の星が揺らぐ。
 星は願いを叶えるために大地に降りる。
 
 願わくば――。
 皆さんの願いが叶いますように。
 
 蒼き女神は祈る。
 神が祈る先には何が在るのか?
 それは本人にもわからないのかもしれない。
 けれどその思いは本物で。
 
 私は『神様』だけれども――。
 ――『神■■■』。
 その事実は覆らない。『彼』がそう言うのだから。
 『あのひと』はきっともういない。
 世界の裏側でいなくなったから。
 だけれども、あのこたちの願いが世界に牙をむく。
 ときの砂はさらさらと落ちていく。
 時間はもう幾ばくもないけれど。
 でも――。

 愛しい子どもたちの願いがぜんぶ叶うといい。
 だから私は祈ろう。
 この世界を生んだあのひとは居ない。だから、だから。
 世界に祈ろう。
 この「世界(ビオトープ)」が「永遠」に続くことを。ずっと『此処』に『在って』くださいと。
 永遠の先に私の居場所はなかったとしても――。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常γ
■成功条件
1.ゴールドティアーズを楽しむ
 ねこてんぢです。
 今年もゴールドティアーズです。
 こちらではスペリール湖へカヌーで漕ぎ出して天と水鏡の星々に包まれてください。
 当日はもっとも流れ星が美しくみえる日になることでしょう。

 デートだろうがなんだろうが問題ないです。ばっちこい!
 食べ物の持ち込みは可能ですが、ゴミのポイ捨ては禁止です。
 ゴミは持ち帰ってください。

 カヌーは基本的に誰にでも貸出はされます。
 そこそこに広い湖なので他の方とぶつかったりはしないです。

 王族+クラウス、に会いたい場合に王城へ。アクアディーネに会いたい場合は神殿へ。
 王城からも流れ星を観ることはできます。
 アルヴィダは欠席。
 メモリアはスペリール湖でぷかぷか浮いています。この日は皆さんのためにお歌をうたっています。
 クローリーは適当にそのあたりで楽しんでいます。

 その他ねこてんNPCおよび敵NPC以外のちょころっぷNPCは呼べばきますし、いつものようにEXでランダム希望していただければそのように。
 


●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  1個  0個
12モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
41/50
公開日
2019年07月21日

†メイン参加者 41人†

『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『キセキの果て』
ニコラス・モラル(CL3000453)
『炎の踊り子』
カーシー・ロマ(CL3000569)
『背水の鬼刀』
月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)
『蒼光の癒し手(病弱)』
フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『アイドル』
秋篠 モカ(CL3000531)
『みんなをまもるためのちから』
海・西園寺(CL3000241)
『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)


●星は降る。すべてのヒトビトの上に――。
 今夜は星降る夜。
 フーリィン・アルカナム(CL3000403)はスペリール湖まで足を伸ばすつもりだった。が、孤児院の子供が熱を出してしまったのだ。
 嬉しさに興奮しすぎた発熱だろう。残念ながら今日のアルカナム孤児院の星見は中止だ。
 あの子は残念がるのだろうなと思って壁をみれば、並ぶカンテラが一つ足りないことに気づいてフーリィンは笑った。
 犯人なんて言うまでもない。この星見を楽しみにしていたちいさな妹。
 少し前までは自分の後ろという、小さな世界をついてきていたのに。でも自由騎士になることで彼女の世界は自分の後ろという小さな世界を超えて広がっていった。それが誇らしくて少しだけ寂しい。
「そんなに急いで大人にならなくてもいいんですよ」
 窓から見上げた四角い星空につぶやく。
 きっとこの言葉は届くことはないけれど。ふと、発熱した子供が泣き出した。
 フーリィンは急いで子供の部屋に向かう。
(あのメモ、気づいてくれるかなぁ?)

 今日はめっちゃ星が流れる日なんや!
 流れ星が消える前に願い事みっつ言うたらええんやっけ?
 アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は流れ星に願いを託す。
「素敵な王子様みたいな人が現れますように! 素敵なおうひひゃ!」
 流れ星に向かって願い事を紡ぐが文字数の多さに失敗する。
「いまわろたやつがおる」
 背後で聞こえた笑いに振り向いて、半眼でアリシアが頬をふくらませる。
「いえ、その、あまりにも派手にかんでいたもので、笑ってしまってすみません」
 ジークベルト・ヘルベチカ(CL3000267)は必死で笑いを噛み殺しながら謝罪する。
 彼もまた星見にきたひとりだ。
 空の星の瞬きはまるで自分たちの生死と同じようにみえてなんとなく心がささくれ立っていたところにそんな脳天気な願いが聞こえれば笑ってしまうのも仕方ない。
「べつにええけど!」
「三回も願うならもっと短い願いがいいのでは?」
「短いのって難しいなぁ。じゃあ、ジークベルトさんはどんなの願うの?」
「願い……ですか?」
 問われて気づく。ジークベルトには願いというものがないことに。
「強いて言うなら平和、でしょうか?」
 言ったもののそれが自分のほんとうの願いであるのかと問われても答えることはできないだろう。
「あはは、それって、ジークベルトさんだけやなくて皆願ってることやない?」
 アリシアの言葉にジークベルトはきょとんとした顔をうかべてそして笑う。
「なるほど、たしかに。たくさんの人が同じ願いなら叶うかもしれませんね」
「あ! ながれた! へーわへーわへーわ、ってジークベルトさんも願わな叶わへんで!」
 アリシアが文句をいいながら流れ星を探す。
「「へーわ、へーわ、へーわ」」

 とはいえ同じようなことを願うものもいるのだ。
 こちらは王子ではなくおじさまだけれども。
「願えばおじさまがふってきたりするんでしょうか!」
 デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は両手を握りしめて星空を見上げる。
「くるわけないじゃん」
 その声にデボラは反射的にパンチを飛ばすが声の主(アレイスター・クローリー)にうけとめられる。
「愛しい人との出会いを願う、ごく普通の願いじゃありませんか!」
「そんなふってわいたやつが、君の『すべて』を愛してくれると思うほどに君は楽天的なのかい?」
「……」
 デボラは言葉につまる。彼女は自分をすべて肯定してくれる相手が欲しいだけだと見破られているが故の沈黙。
「私は、私は怖いのです。貴族として生まれた以上それに務めは生じます。
 なのに殿方が好む柔らかな手足は私にはありません。失ったことに後悔などありません。
 願うことが叶うのであればそれを願うかもしれませんが、それはもう、叶わないと知っています」
「だから、無条件に愛してくれるヒトを願うと。それなら叶いそうだから?」
 デボラは無言で頷く。そして逡巡して口を開いた。
「前線に立っても恐ろしいとは思わないのに、こんなことが怖いのです」
「普通は逆なんだけどね」

 レネット・フィオーレ(CL3000335)は緊張していた。
 その緊張が伝わったのかヨアヒム・マイヤーもまたそわそわとしている。カヌーにふたりきり。
 バーバラは余裕な態度でなんてアドバイスをくれたけど、まだまだ経験の足りないレネットには無理だ。
「ヨアヒムさん、きょ、今日はお日柄もよく…!!」
「ああ、星、きれいだよね!」
 ほんとにどうでもいいこと。緊張すれば口走る言葉はそんな挨拶。
 しばらくの沈黙の後にレネットは言葉を紡ぎ始める。
 水着を褒めてくれたことが嬉しかったこと、焦ったヨアヒムが可愛かったこと。
 もらったチョコが美味しかったこと。
 ぜんぶぜんぶ、ヨアヒムとの思い出のお話。
「そんなヨアヒムさんが……好きです」
「あー……えー……」
 真っ赤になったヨアヒムは居心地悪そうな声をだすが嫌がっているわけではない、と思う。
「どんな女性になれば、貴方にふさわしい女性になれるか、ずっと考えています」
 それくらい、それくらい、とってもだいすき。
「いや、レネットは十分魅力的だし、オレにはもったいないくらいだし!」
 しどろもどろでヨアヒムは答える。
 すごく困ってる顔。それがなんだかレネットにはおかしくて笑ってしまう。
「その! べつに困らせるつもりはないんですよ! ええ。そうだ、えっと! これ!」
 可愛らしい包み紙に包まれたそれをレネットはヨアヒムの胸元におしつける。
「ほら、もうすぐ誕生日じゃないですか! なので、誕生日プレゼントです!」
「えっ、あ、うん、ありがとう。嬉しいよ、レネット」

「なにしてるの? ニコラスさん」
 大の字に寝転がっていたニコラス・モラル(CL3000453)はそんな言葉に振り向けば、ミズーリ・メイヴェンの姿。
「んー? 星をみあげてただけ、そんで今星の女神が降臨」
「はいはい、そうですね。湖にはいかないのかしら?」
「まあ、ミズヒトだからね。そりゃ水の中は平気だしメモリアの歌でもきいてセンチメンタルに浸るのもいいかなと思ったんだけどおじさんだと絵面キツくない?」
「地べたに寝転がるおじさんもそうとうなものよ。ふんじゃうかとおもったもの。
 そんなおじさんは故郷、なんてあるのかしら?」
「そうさな、故郷って言えるほどの愛着は無いが、ヘルメリアだ」
 現状、国が次にきめた進撃するその先はヘルメリアなのだ。ミズーリの表情が沈む。
「気にしなさんなって、俺以外にもヘルメリア出身はいるし、そもそも故郷を飛び出した身さ。
 それにこの国ならひどいことはしないのはわかってる。個人の事情はきにするもんじゃないさ。
 だからよ、なーんにも考えずにお星様をみてんだよ」
「ほんとに何もかんがえてなさそうだわ」
「そのとおり。視界を遮るもんがないから星空を独り占め」
 そんなことを言うニコラスの視界がミズーリの手で遮られる。
「そんな意地悪してまで隣にいたいわけ? お嬢ちゃんもかわいいねぇ」
「好きに言ってちょうだい。私もちょっとここで空を見上げたくなっただけだもの」
「へいへい」

 スペリール湖にいってメモリアのお歌を聞きに行くんだぞ。
 サシャ・プニコフ(CL3000122)は兄弟分の小さな子どもたちをつれて、スペリール湖にきた。
 いわゆる保護者というやつなんだぞ。
「サシャ、足元気をつけて、迷子にならないでね」
「それはサシャのセリフなんだぞ!」
 どちらが保護者なのか。それでもサシャは子どもたちをゆっくりとカヌーにのせて漕ぎ出す。
「喧嘩は禁止なんだぞ」
 ワイワイ騒ぐ子供に言い聞かせながら湖をわたればメモリアの大きな姿が見える。
 思った以上の迫力にサシャはわぁと声をだしてしまう。子どもたちはその巨体に怯え泣きそうになるが、メモリアの歌声にやがて笑顔になっていく。
「いい曲なんだぞ」
 そう言って微笑んだサシャはすこしだけお姉さんのように見えた。

 カヌーにのってカーシー・ロマ(CL3000569)はフェアリーお供にメモリアのもとまで漕ぎ出していく。
 フェアリーは喜んでいるようで連れてきてよかったと思う。
 おっきいいきものは漢の浪漫! そんないきものとセッションなんてこころが踊る。
 しゃんしゃん、とレクで星のさざめきと湖水のさざなみを写せばメモリアがそれに合わせて歌をうたう。 
 それならとダラブッカの軽快なリズムを追加すれば、メモリアの曲調もかわる。
「やるねぇ」
 恋人の語らいのための心躍るリズムに友の語らいには心通うリズム。
 即興のリズムセッションはまるで何度も繰り返してきたかのようにすんなりと繋がっていくのがカーシーにはうれしくてしかたなかった。
 願わくば――ひとりでもいいふたりでもいい、もちろんたくさんならもっといい。
 満点の星と音楽に導かれたこの夜が恋人たちにも友人たちにも素敵な夜になりますようにと。
「あ、デートの定番といえば占いだよね、あっちのカヌーの二人に星占いしたらお金にならないかな?」
「それはおじゃまというものよ。それよりセッションの続きがしたいわ」
「しょうがねえなあ!」

 正直カヌーに誰かと乗るなんて誘われなければ考えもしなかったことだ。
 エル・エル(CL3000370)はザルク・ミステル(CL3000067)に手を引かれてカヌーに搭乗する。
 エルはザルクの強いアプローチに負けて付き合い、というのものを始めて数ヶ月。未だに恋愛感情というものはよくわからない。
 相手はこれをしてほしい、アレをしてほしいとは言うが逆の立場では――とくになにもない。
 求められることが嫌なわけではない。でも自分から求める方法がわからないのだ。
 それは随分と不誠実にも思ってしまう。
「静かだな」
 ザルクの言葉にエルは顔をあげる。
「こうして二人、夜の湖で星を観るってのもいいもんだろ」
 言って、大切なものに触れるようにザルクはエルの肩を抱いた。ふるり、と震える肩にザルクは不安を口にする。
「もしかして嫌だったか? そりゃお前は空が飛べるからもっと星を近くで見れるかもだけど、たまには同じ目線で同じものをみるっていうのもいいかなと」
 すこししどろもどろに言い訳するザルクにエルは頬をそめてつぶやく。
「嫌ならとっくに逃げてるわよ。あたしソラビトなのよ。
 ここがたとえ湖の真ん中だったとしても、嫌なら飛んで逃げることができるのよ
 だから、こんなこと、もう……いわせないで」
 その言葉にザルクは少年のように目を輝かせるものだからそれ以上は何も言えなくなってしまう。
「ヘルメリアとの戦いは始まった、今後はこうやってゆっくりもできないだろうし、できるうちにしっかりといちゃついておかないとな」
「ザッくん、ばかね」
「あのさ、この戦いが終わったらエルエルに言いたいこともあるんだ」
 そんなザルクの言葉にエルはザルクの鼻先を指で弾く。
「いてっ」
「そんな死亡フラグみたいな話は聞きたくはないわ。あたしは貴方にいわれて生きた。これからも、生きていくん……だから。そりゃあいつまで生きれるかわからないおばあちゃんだけど」
「わかってる。ちゃんと終わったら言うさ、しっかりとそのときまで生きてな」

「さあ、カタリーナ。足元に気をつけるんだぞ」
 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は婚約者――妻の手をとりカヌーに誘う。両者の指先に輝くのは揃いの銀の光。
「テオドールぅ! 裏切ったわね!」
 そんな最中、テオドールにむけて剣呑な言葉が投げかけられる。テオドールの手をとるカタリーナが心配そうに彼を観るが、テオドールは苦笑しながら首を横にふった。
「随分物騒な物言いを、まあ言いたいことはわかっている。
 君のその信念の貫き方は私にはできないゆえに、羨ましく思うよ」
「うう、同じ魔道士道を貫くとおもったのに!」
 猪市きゐこ(CL3000048)はきいきいと騒ぐが、彼らの揃いの指輪をみて表情がかわる。
「わ、わ! っていつの間にか結婚したのかしら? おめでとうだわ!」
 裏切り者とはいえ、友人の祝い事はやはり嬉しいもの。怒り一転笑顔になる。
「そうだ、きゐこ嬢はアマノホカリ出身だったな。この前ウェルスから必要だとこのお守りをさしだされたのだが、どうにも彼の国の言葉は不勉強ながら読めなくてね……」
「にふふ」
 そのお守りを見せられてきゐこは含み笑いを漏らす。
「任せるのだわ。これは、安産祈願! ってかいてあるのだわ。
 元気な子供が生まれますように、っていう意味なのだわ!
 ……ぐふふふふ、やるこたぁやってるわけね、このこのっ!」
 いやぁな目できゐこは肘でテオドールの脇腹……にはとどかないので太ももあたりをつつく。
「テオドールさま? やる、って?」
「いい。いいから、カタリーナ。きゐこ嬢もろくでもない言葉をおしえないでくれたまえ。
 というかこう、公衆の面前であるからにはマイルドに!」
「マイルドだったらいいのかしらぁ?」
「はあ、今度お酒をおごらせていただきますので、弄るのはこのくらいに」
「しかたないのだわ。高級なのでおねがいなのだわ」
 そういうときゐこは指先にからめた酒瓶の紐をもちあげて星見酒なのだわ、と去っていく。
「ふふ、面白いおともだちですね」
「ああ、彼女はああみえて立派な信念を持つ素晴らしい魔道士なんだ」

 雑踏の中に姿を探してしまうのはなぜだろうか。
 いるかどうかさえもわからないのに目はどこかにあいつがいないかと探してしまう。
 それが恋情かどうかなんてわからない。でも、それでも、そばにいることは嫌じゃない。
「アーウィン」
 その姿が見えた瞬間、グローリア・アンヘル(CL3000214)は思った以上に大きな声を出してしまったことに気づく。
 なんとなくそれが恥ずかしくて口を抑える。
「お、きてたのか、星見」
 そんな複雑な想いをアーウィン・エピは気づいた素振りもない。
「うん、なんとなく願いについて考えてたんだ」
「へぇ」
「お前の願いは知っている。ヴィスマルクを倒すこと」
「ああ、すでに祈っておいた」
「で、私がお前のために何を祈ることができるのだろうと考えた」
「は? せっかくの願い事なんだからお前のために祈れよ」
 私は気の利いたことが言えない。女らしいことはできない。だけど精一杯の気持ちで言ったのにこのオトコは……!!
「だから、私の願いもお前に合わせることにする。ヴィスマルクを倒すこと、だ」
「願いって合わせるようなものなのか?」
「はぁ……」
 本当に――。この鈍感!
「ヴィスマルクを倒すことはしいては、イ・ラプセルのためになるからだ」
「ああ、そうか、そうだよな。ってことは俺とおまえはお揃いのお願いになったのか」
 にぱ、と笑うアーウィンの顔を見てそれがお前ののぞみだからという言葉は飲み込む。言ってなんかあげない。そのかわりに。
 こてん、とグローリアは隣のアーウィンの肩に凭れ掛かる。
「どうした? ねむたいのか?」
「子供じゃない、ちょっと酒に酔ったんだ」
「真面目なお前が珍しいな。ちょっと水もらってきてやるよ!」
 言って駆け出したアーウィンの背中をグローリアは蹴りたくてしかたなかった。

 ふいに聞こえたウタクジラの歌声に誘われ月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)はカヌーを漕ぎ出そうとすると、湖畔にティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)がいることに気づく。
「いい夜だな。お前もあれが気になるのなら、乗るか? 一人でも二人でもそうかわらん。
 ヨツカはあれが気になる」
 言って桃色の湖面に浮かぶクジラを指差す。
「ふえ?」
「さあ、乗れ。どうせ見るなら近くの方がいい」
「ヨツカさん、ご一緒、させてくださってありがとうございます! その疲れたらかわりますからっ! カヌー漕ぎ」
「かまわん、ヨツカは男だ。力仕事は任せろ」
 ヨツカの漕ぐカヌーがメモリアに近づいて、歌声が耳から体に染み渡っていく。
 ヨツカという青年の人生は楽しいことばかりではなかった。生き抜くことに必死だった。
 その中でもただひとつ、師匠と過ごした日々は輝いていたと思う。
(……だが、何の為に、ここまで来たのか)
「こんなに綺麗な歌だと、惑わされてしまった人がいるのもうなずけますね」
 いまでは惑わせの魔力をコントロールできるようになったメモリアの歌には危険はない。ただ美しい望郷の旋律なのだ。 
(惑わされても、故郷が見れるなら――とは思ったのですけど)
「そうだ、おねがいごと! 悲しい思いをする人が少しでも減らせますように……て」
 ティルダの願いはただただ優しいもの。
「ティルダも――」
 先程まで黙っていたヨツカが口を開く。ティルダは視線をヨツカに向けた。
「遠くからきたのだったな」
 望郷の歌、そしてティルダの願いを耳にし、なぜ自分が此処にいるのかを再確認したヨツカは、やっとその目を周囲にも向ける。
「ふむ、ならこの夜をたのしまないとだな」
「はい、ヨツカさん!」

 おっほしさまはきらきらにゃん!
 スピンキー・フリスキー(CL3000555)はいつもの名乗りは今日はおやすみ。彼(?)だって空気というものは読めるのだ。今日のスピンキーは空気を読むんキーだ。
 とはいえ、こんな夜一人はさみしい。
 ふと、誰かをさがせば、湖畔で手酌で星見酒を飲んでいる青年――エミリオ・ミハイエル(CL3000054)がいた。
「星を観るのはすきですよ、ほら、見てくださいよ盃の湖にも星が流れて風流!」
 なぜかやけくそ気味に独り言で管を巻く彼の後ろからスピンキーが生えて、
「おうおう! ほんとうだべ、きれえ!」
 なんて声をかけるものだから、エミリオは腰を抜かしそうになる。
「あなたは?!」
 そんなふうに問われれば、空気読むンスキーだって名乗りをあげないわけにはいかない!
「にゃにゃにゃ! スピンキー・フリスキーだ!」
 いつもよりはちょっと遠慮した名乗りだけれど。
 そんなスピンキーのきらきらぷりにエミリオは妙に落ち込んでしまう。
 今の生活に不満はない。自由騎士生活は存外にたのしい。けどスピンキーのようなきらきら。
 言葉にするのであれば信念とかそういうのがエミリオにはないのだ。戦争の手助けをするのも死にたくないからとか誰かが死ぬのは気分がわるいからとかなんとなくなのだ。それがやけに恥ずかしい。
 なんてことをついついエミリオは愚痴ってしまう。
「ひとは死んだらお星様になるって聞いたんだけども、ほんとなんだべか?」
 スピンキーは全く関係ないと思われるような話をする。
「いや、セフィロトの海にとけるって話ですけど、まあ地方によってはそういうのもあるんかな?」
「世界の裏側とかどこなんだべ、そこに行った神様しんでしまったんしょ?
 世界には不思議だらけだにゃあ」
 それは言外に自分だってそんな大層な理由で戦っていないということを告げているのだ。たぶん、わかりにくいけれど慰めてるのだろう。
「それはそれとして! おいしいものいっぱい食べるさ! なにせお祭りだからな!」
「はは、ありがとう、スピンキーくん。そんなら、まあ俺がおごったるわ」
「まじで! わたがしとりんごあめと、あと焼きぬーどる!」
「ええよええよ。年上やしね。立派な若い子らに負けたくないもん」
 いって星の夜に青年は少年(?)と屋台征服に向かう。
 なにか――大事なものがみつかるとええんやけどなぁ。そう青年は思いながら。

 キリ・カーレント(CL3000547)は友人……と断じてしまうにはまだ照れくさいが、秋篠 モカ(CL3000531)をメモリアとのセッションをしないかと誘う。
 もちろんモカは二つ返事で了解してくれて、の今だ。
 同じくらいの年で可愛くて歌も踊りも演奏も素敵でそして凛々しくて。
 キリはそんなモカが大好きになったのだ。そりゃあ自分は演奏は上手じゃない。けれど、メモリアと、モカと三人で演奏すればきっと素敵な夜になるとおもったから。
 モカだってその誘いが嬉しくてしかたない。星の降る夜。
 大好きな音楽で満たすことができればそれはきっときっとすてきなこと。
「うたうの?」
 メモリアに問われ二人は大きく頷く。
「キリは上手に演奏できる?」
「はわっ! おしえてもらったこと、ちゃんとおぼえてますから!」
「せっかくなのでこの湖に来てる人をたのしませましょう」
 モカのリラが優しい音をたてる。キリは慌てて、プレールに指先を踊らせる。
 メモリアとモカの歌声がハーモニーを奏でる。その旋律にあわせてキリのプレールが伴奏を奏でていく。
 緊張はしたけれど、二人がゆっくりうたってくれたから。
 その歌声を大事にしたくて一つ一つ丁寧に爪弾いていく。ああ、これが一つの音を大切にということなのだとキリはきづく。
 もちろんミスはあったけど、そのたびに二人がフォローしてくれて申し訳なくおもうのだけれども、それ以上に嬉しくて、愉しくて、キリは笑う。
 やがて、楽曲はフィーネを告げる。
 周囲からの拍手がまるで星のきらめきを浴びているようだった。
「あの?」
「はい?」
「もう一曲、いかがですか?」
 キリのその申し出にモカは花が開いたような笑顔でうなずいた。
 このセッションが楽しかったのはキリだけではなかったのだ。

 メモリアの歌に耳を傾けに湖畔に向かうアリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は呆けている見知った顔を見つける。
 友人の家で働く使用人だ。というかなんだ! こんな日に入水自殺でも図ろうとしているのか?! と急いで走り寄る。
「あ、アリス様。歌を聞いていたらなんとなく」
 答えるのはユートリース・ミアプラキドゥス(CL3000573)。
「お前、まさか」
「お屋敷、出された」
「まさか、シュアドが君をクビに? はやまるな。そうだな、俺のつてで次の仕事先だって――」
 あわあわとした顔で、アリスタルフはどうにか解決できないかと解決法を模索する。
「アリス様、違う。ウタクジラに興味があるなら見ておいで、って坊っちゃんが」
「行ってこいと? ふぅ、心配させるな。なら一緒にカヌーでメモリアの歌を聞きに行こう」
 アリスタルフはユートリースを誘う。
「カヌー、漕ぐ。得意でも不得意でもないけど」
 そんな些事は使用人と貴族なら使用人がすること。
「なら、そうしてくれ」
 このぼけら、とした世間知らずの使用人は何をするかわからない。故に仕事を与えておいたほうが安心な気がする。
 やがてメモリアのそばにカヌーをとめ、用意してきた茶をユートリースにアリスタルフは差し出す。
 少し遠慮するものの今はお屋敷の仕事中ではないのだからと受け取る。
「みてみろ、ユト。こうやって茶に星をうつしとって」
「きれい」
「茶請けもある」
 すみれの砂糖漬けのはいった容器が二人の間におかれる。
 ユートリースは口下手だ。聞きたいこともあるけどその質問をどういっていいのか分からずに聞き手に回ることにする。
 対するアリスタルフは友人とこの使用人がなにかあったのかと思うが無理に聞き出すまいと思う。
 故に二人の間には沈黙と、メモリアの歌だけが流れる。
 メモリアの歌がおわり、アリスタルフは立ち上がっる。ユートリースはびくりと体をすくませるがアリスタルフは口元だけで笑う。
 持っていた袋から白い星の形の小花がメモリアに向かってフラワーシャワーとして撒かれた。空に輝く星と湖に映る星とそして花の星。三つの星が瞬く。
「きれい」
 そう顔を輝かせたユートリースに向かってアリスタルフはゆるりと微笑んだ。

 ――まあカヌーに乗らなくても星はみえるけどな。
 メアリと一緒に乗れるカヌーはないかとボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)は探したが、流石にそんなものはない。
 最愛の名馬、メアリと共に湖の真ん中で流れ星をみたいという願いは儚くも消え去る。願いが叶う夜だというのに。
「なにしてんのさ?」
「ローリー、お前、ホント色んな所にいるのな。まあ、メアリを連れているからな。
 船には乗れずに地上の天体観測になった。
 あ~~~~どこかにメアリを載せれる船とかないかなあ。親友をおいて一人でエンジョイする魔術師なんていないよなぁ~~」
「世界は僕の居場所だからね! おっけおっけ、願いを叶えよう!! そんじゃメアリ嬢と空中散歩行ってくるからナーナーは留守番な」
「あほか!! お前のような怪しいやつにメアリをまかせれるか、っていうかお前を親友呼ばわりしてるのはそんな便利魔術を使わせるためじゃない! なんでも叶えれてしまったら、それはそれでなんか傲慢じゃない」
「いや、明らか傲慢じゃん」
「ちがう! 傲慢じゃない! そういうの!」
 ボルカスの『傲慢(ルール)』はどうにも難しい。
「素直になればいいのに。使えるものはつかえばいいのにさ、シンユウ」
「いいからお前も星見につきあえ!」
「えー、野郎と?」
「うむ、野郎に無理やりつきあわせる傲慢」
「それはたしかに傲慢だぜ」

 膝にのせたメモリアのぬいぐるみがかわいくて。
 ミスリィ・クォード(CL3000548)はご機嫌でカヌーで漕ぎ出す。向かうはメモリアのもと。
「お願いが一つ叶ったのです」
 メモリアにむかってぬいぐるみを持ち上げてみせるミスリィ。
「それわたしなの?」
「ええ、新しいスペリール湖のお土産みたいです」
「へんなの」
「へんじゃないですよ」
 星に願えばこんな小さな願いに耳を傾けてくれた世界。もちろんもともとそんな企画があってやっと完成したという話だったのかもしれないけど、そんなふうにかんがえるのはロマンチックじゃないもの。
 小さなものだけどこんなに素敵な優しい幸福が、いつでもみんなのもとにありますように。
 ふわり浮かぶ星にミスリィは願う。
「メモリアさん、一緒にうたってもいいですか?」
「いいわよ」
 ――♪
 突如歌いだしたウタクジラのメロディーとハーモニーになるようにミスリィはリラを奏でながら歌い始める。
 他のみんなもメモリアと歌う。その旋律にうっとりと耳を傾けたり、また自分も合唱に参加したりして、星と音楽の夜をたのしむ。
 少し喉がかわいて水筒の紅茶を注げばそこにも星が浮かぶ。
 飲み込んだ紅茶は星屑の味。
 もっと歌と演奏の腕を磨いて、いつかそれが誰かの心にとどくといいな。
 飲み込んだ星にミスリィはこっそりと願った。

「アレイスターアレイスターアレイスター」
 いつの間にかローブを引っ張るクイニィー・アルジェント(CL3000178)をクローリーは軽くローブをひっぱって払いのける。
「きー、あたしにつめたい!」
「そうかい?」
「そんなことより星が落ちてくるってどうおもう?」
「隕石でこっちに飛んできたら大惨事だとおもうけど、そんなことがあったとしても僕の超絶魔術で君を守ってやるさ!」
「あたしがいいたいこととらないで! っていうかうさんくさい!
 まあ、たとえばさ、その石にあたしも知らない空の生物がくっついてたら!」
 クイニィーの目がキラキラと輝く。
「そういうの、アレイスターの不死の原因を知る鍵になったりしないかな?」
「僕のはそういうのじゃないさ、あいつの――やっぱやめよ。おしえてやんない」
「えーえー、いいかけたじゃん!! 教えておしえてーーー!」
 そりゃクローリー本人は自分がなぜ『不死』であるのかは知ってるだろう。それくらいわかってるけど、想像の翼はいくらでも空想の空を飛んでいく。
 その翼は与えられたものじゃあ満足できない。それは自分で奪い取ったものじゃないと。
「やっぱいい! あたしが解明する! だからそれまで死んじゃだめだよ」
「そりゃあ、おもしろい。君こそそれまでに死んだら大笑いしてやるぜ?」
 そうやって意地悪に口角をあげる彼は自分たちを可能性と呼ぶ。でもクイニィーからみたら、そっちのほうが可能性の塊なのだ。だからそれを知りたい。ずっとずっと求める気持ち。それはたぶん。
 恋と呼ばれるそれに似てる。似てるのならじゃあ、それは恋でいいのだ。
「ねえ、アレイスター、カヌーでランデブーしない? そしたら――んもーーー!また居ない!!
 こらーでてこーい! あたしの特製金平糖口にぶっこんでやる!」
 誰も居ない虚空に向かってクイニィーは頬を膨らませた。

 アリア・セレスティ(CL3000222)は去年と同じように誓いと祈りを星に捧げる。
「世界を平和にします」
 『葬送の願い』と銘をうたれた剣を高くかかげアリアは誓いの言葉を口にする。
「世界よ、力をかして、少しでも早く願いが叶うように」
 皆の大切なヒトが笑って暮らせる世界であるように。
 そして私の大切な友に世界中の空と海の蒼を見せることができるように。
「で、君なにをカヌーの上でダンスをおどってるのさ」
 重量が増えたカヌーは少し片側に傾く。
「願いを、誓いを星に捧げてたんです。どいて、アレイスター君。
 次はシャンバラ戦役で失われた命の冥福を願うんだから」
「願ったところで失われたものは戻らないよ」
「わかってる、それでも、冥福の祈りは生きてる私達のためにもあるんだから。
 ――戦火で喪われた命に、魂の安らぎがありますように」
 それを阻むものはたとえゲシュペンストでも退けてみせる。
「まったくもって矛盾じゃないかい? アリアたん
 その戦火は君たち自身が広げているのに」
「意地悪でも言ってるつもり? だからって足をとめるわけにはいかないよ。もう賽は投げられたあとなんでしょう」
「そのとおり! 君たちには戦ってもらわないと困る」
 半眼でクローリーに振り向けばそこには誰も居ない。アリアは神出鬼没な友人にため息をつく。
「そして、この願いに、アレイスター君の■■■にも、いつか終わりがきますように」
 そう、もう一度星に強く願った。
 
 ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は佐クラ・クラン・ヒラガと共にカヌーで漕ぎ出す。
 静かで景色のいい場所に。といっても湖一面がどこをとっても美しい場所ではあるのだが。
 とはいえ目の前の美女と美味しいお酒。つまりこんな小さな船の上ではあるが自分にとってはどんな場所であってもパライゾそのものだ。
「さてと、お嬢にはこの国に来てから商人としても自由騎士としても、普段から世話になりっぱなしだな」
「そんなことあらへんよ。ウチもみなさんに世話になってるもん。お互い様やわ」
「よそ者だった俺もうまく立ち回ってる」
「それはウェルスさんの人徳やよ」
「ってわけで、お嬢への感謝とお互いの発展を祝って乾杯」
「はいはい、うちも感謝しとります」
 カチンと酒盃を打ち合わせる音が響く。
 ウェルスは一瞬だけ星がおちる音みたいだなと言おうとして気障すぎると口にするのをためらう。
「これからも世話になると思うがよろしくな」
「ええ、ええ、うちからもよろしゅうおねがいします」
 言ってうさぎは深々と頭をさげる。
「さって、この祭りのあとはいよいよ本格的な夏だな」
「そうやね。ウチ今、すごい嫌な予感しとるよ?」
「今年は約束通り!! お嬢の水着姿を!!」
「いややわぁ。考えとくいうただけやろ?」
 いいながら佐クラはカバンの中をあさり始める。あったわぁなんて笑顔を浮かべている。
「もちろん今ぬい……っ!」
 ウェルスの顔の横を金属製のなにかがぶんと音をたて飛んでいってぼちゃんと音がする。
「あらら、大事なスパナとんでったわ。ウェルスはん、ちょっと酔っ払ってるんよね? 酔い覚ましのためにちょっととってきてくれへん?」
 言って笑う兎の目は笑っていない。
「いえっさー!」
 結果ウェルスは少し早い水泳をさせられるのだった。

「うむ、良き夜じゃ」
 傍らのワッカをなでながらシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)はうんうんと頷く。
「さあ、湖にいこう」
 カヌーにワッカを乗せようとするところを、クラウディア・フォン・プラテスが止める。
「んもー、シノピリカさん! 沈んじゃったらワッカ溺れちゃうよ」
「それはこまるのじゃ!
 思えばこいつをシャンバラで捕まえてからはや数ヶ月か」
「いまじゃすっかり相棒だね」
「うむ、あちこち連れ回しておるが、よくついてきてくれる」
「そっか、偉いね、ワッカ」
 クラウディアに撫でられたワッカはぶるんとうれしそうにいななく。
「ほんとうに、丈夫な愛いやつよ」
「あ、シノピリカさん髪の毛食まれてるよ」
「こりゃワッカーーーー!」
 三つ編みの先がべちゃべちゃだ。
「うう、メモリアと写真がとりたかったのに。故郷のチビたちにせがまれておっての」
「あ、私が撮ってあげる! きっと故郷の子たち、シノピリカさんの姿もみたいとおもうもの」
「おお、助かる」
「その前に三つ編みなんとかしないとね。ワッカもちゃんと一緒に撮ってあげるね」
「うむうむ! メモリアー! ちょっときてくれないかのー!」
 桃色の巨体を目視したシノピリカは大声でメモリアを呼んだ。きっと素敵な写真がとれるに違いない。

 ゴールドティアーズの美しい星空にメモリアさんの歌声。
 今夜はきっと最高の夜。
 レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)は一人高く高くスペリール湖の上空に飛び立つ。
 皆より高い場所で見れるのが少し誇らしかった。
 湖面を見下ろせば足の下にも満天の夜空。まるで星に抱きしめられているようで、なんだかくすぐったい。
 この星々はノウブルにも、そして亜人にも平等に輝きを放っている。
 それがレオンティーナには嬉しかった。
 世界に差別はなくならない。けれど、ソラはそんなヒトの都合なんて考えることなくこの美しい星星の輝きをあまねくすべてに与えて下るのだ。
 それがとても尊いことに思えて、レオンティーナは笑う。
 願わくば――ヒトの世もそのようになるように。差別なんてない、素敵な世界に。
「歌が聞こえてきますね。あ、あそこに浮かんでいるのがメモリアさんですわね。ふふ、かわいい」
 そのちかくに何艘ものカヌーがみえる。
 恋人たち、友人同士が今日を楽しんでいるのだろう。
「のぞき見は、はしたないですわね。さ、そろそろ降りましょうか」

●王城
 コール・シュプレ(CL3000584)は城門で逡巡する。
 王様にこの日に御礼がいいたくて来たものの、約束をしたわけではない。不敬で、迷惑かもしれない。
 それでも。
『君の人生は君が主役だ』
 それはなんてこともないひとことだった。でもその言葉はコールの胸の中で響き続けている温かいもの。だからワガママでいいのだ。改めてお礼がしたくて此処まできたのだ。
 意外にも謁見は思った以上に簡単に叶った。
「陛下、あの時かけていただいた言葉。――あのお言葉のおかげで私の世界がひろがったんです」
 国王エドワード・イ・ラプセルはコールの言葉に少しはにかんで、そんな大したことを言ったつもりはなかったのだけどね、と嘯く。
 コールはそんな王様の表情が少しくすぐったくって。そして一番言いたかった言葉を伝える。
「改めましてありがとうございました!」
「どういたしまして――、あ。コールみてごらん、流れ星だよ」
 エドワードにいわれて振り向けば、窓枠に区切られた四角い空に雫星。
「わぁ……!」
「星に願いは託したのかい?」
「はい。この国を少しでも守れるように。この国で――ずっと芝居が続けれるように」
「良い願い事だね」
「願い事を言うのってちょっと恥ずかしいですね」
 それと、それと――いつか胸を張って自分の人生の主役は自分であると、王様に誇れますように。

「お久しぶりです、ノイマン様」
 ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)はオスカー・フォン・ノイマンを見かけ話しかける。
「卿か、随分と自由騎士に飼いならされたものだな」
「自由騎士団に籍を置こうとも理想を捨てるつもりはありません」
 出会い頭のノイマンの皮肉にも薄い笑みを浮かべる。奴隷制度の復権。それはノイマンにとってもライモンドにとっても悲願だ。
「オラクルである私がまずは前線にたつのはひいてはこの国のためです。
 奴隷復活についてもこの国という基盤が失われてはままなりません。私はあくまでも持っているものを有効活用しているに過ぎません」
「詭弁だな。自由騎士はクラウスの子飼いではないか」
「故に内部からの切り崩しを狙います」
「言うようになったな。で、できるのか?」
「クラウスを追い詰めるほどの要素は今のところは――」
「そうしてそのうち、クラウスに飼いならされた卿を観ることになるのか? 私は」
「手厳しい。しかしそれよりも現状を活用する方向で思索されるほうが建設的です。
 シャンバラを滅ぼしたのは自由騎士の働きが大きい。その実績は無視はできません」
「……ふん」
「さて、ゴールドティアーズに野暮でしたかな」
「貴様のような男がどんな願いを託すのだ」
「後退ではない、あるべき形を取り戻すことです」
 そういった男の目はまっすぐに未来を見据えていた。

 こんな夜分に王城に立ち入りがゆるされるのかな?
 顔なじみになった門番に通されたというのにまだ、エルシー・スカーレット(CL3000368)は思い悩む。
 エドワード陛下はどこにいるんだろう?
 廊下の窓から星空を見上げる。もし会えなかったとしても同じ星空を眺めているのだと思えば、それはそれでかえってロマンチックじゃないかしら?
 ほわんほわん。
「陛下、いま流れ星がみえました。あっ、あちらにも!」
『綺麗だね』
「そうですね」
『いや、私が綺麗だと言ったのは、君の事だよ』
 エルシー定番の妄想モードが始まる。
「その……陛下! 私!」
「どうしたんだい? エルシー」
 妄想ではなく肉声で返事が来た。
「あの、え? 陛下?! どうしてこのようなところに?! っていうか王城だからいて当たり前なんですけど!」
「執務を終えて、気分転換に星空を見ようと思ってね」
「あわわ、もしかしてさっきの聞いてました?」
「さっきの?」
 さっきの妄想モードだ。もちろんエドワードの声真似までしちゃってるアレだ。
「ああああ! 聞いてなかったらいいんです! いいんですってば!」
「はは、じゃあ、一緒に星空でも見上げるかい?」
「は、はい!!」
 あれ? もしかしてこれ、きかれてたんじゃ?

 カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)とクレマンティーヌ・イ・ラプセルは屋根の上にいた。
 元気よく飛び込んできたカーミラがまるで怪盗が令嬢をさらうかのようにバルコニーから空中二段飛びでつれだしたのだ。
 ばれたら大目玉です。なんてティーヌが言うからカーミラは笑ってしまう。
 そう、これは二人だけの内緒の星見。
 屋根に遮られてみる、窓の向こうの四角い夜空よりきっと開放的だから。
「星ってなんこあるんだろう」
「いっぱいありますよね」
「数えたことあるんだけどいっつも途中で眠くなっちゃう」
「星はカーミラにとっての羊さんなのね、星がひとつ、星がふたぁつ、って」
「あ! 流れ星!」
 その流星にカーミラは願いを託す。
「ふふ、どんなお願い事したの?」
「さいきょーになれますように、おいしいものいっぱいたべれますように、みんななかよく。それとそれと」
「いっぱい贅沢……そんなに流れ星あるかな?」
「えへへ、だって、ぜんぶ叶えたいもん。ティーヌは?」
「世界が平和になりますように。お兄様がたいへんじゃなくなりますように」
「ふむふむ、じゃあもういっこ流れ星こないとこまるかも」
「え? どうして?」
「だって、もうひとつ願いができたんだ。ティーヌの願いが叶いますようにって」
「ほんとに、カーミラは贅沢ね」
 そういって王女が笑えば、カーミラも一緒に笑うのだった。

 大好きな友達に会える機会というのはそれほどは多くはない。
 それは仕方ない。だって友達は王女様だから。
 海・西園寺(CL3000241)はプレゼントを胸にだきしめ王城に向かう。
「海、いらっしゃい」
 そんな海を暖かく迎えてくれる王女の笑顔はやっぱり、大好きだ。
「あの、今日は贈り物があって」
 言って周囲をみまわせば、彼女の部屋にある調度品はなんとも高価なものばかりと気づく。
 あたりまえだ。王家の献上品なのだから。きっとこのプレゼントはそのどれよりも見劣りするだろう。
 でも――。
 これは海が一生懸命つくったもの。
「なあに?」
 海のプレゼントの包を王女が開く。がっかりされたらどうしよう。
「わぁ」
 透明な樹脂に星を閉じ込めて綺麗に磨いた――つもりのペーパウェイト。水につけた紙やすりで丁寧に何度も何度も磨くことでやっと此処まで艶をだすことができたのだ。
 それと色付きの羽根ペン。
「かわいい! これ、海が作ったんですか?」
「はい、西園寺もお揃いのもっています。えっとこれでお互いにたくさんお手紙ができるといいなって。西園寺お手紙をかくのがすきなのです。」
 ティーヌはお手紙を書くのは嫌いですか? なんて小さく付け足す。
「ありがとう! そうだわ」
 言って王女は机に座りインクをだして綺麗な便箋をとりだすと。海の羽ペンで文字を書き出す。
 気になって海が近付こうとすれば。
「ちょっとまってください! だめですよ、みちゃ」
 両手で王女は制止した。部屋の中をカツカツと紙をペンが摩擦する音だけがきこえる。
「あの、失礼かもしれないけれど。西園寺ティーヌに対して敬語ですが嫌な思いしてませんか?」
 その沈黙に耐えかね海が前々から不安に思っていたことを質問する。
「わ、た、し、は……あ、書いてることを口にだしちゃだめですね。ふふ、海、それはお互い様。海らしい話し方がそれであれば問題ありませんし、私はそんな海の口調かわいいって思ってます」
 そういわれて海は真っ赤になった。
「できました」
 王女は手紙を丁寧にたたんで綺麗な封筒にいれると封蝋をたらすと、王家の印で封印する。
「海、これは海のペンでかいたはじめてのお手紙です。お家であけてくださいね」
 そう言ってわたされた手紙を海は何度も頷いて胸にだきしめた。

●神殿
 神殿に向かったリリアナ・アーデルトラウト(CL3000560)はアクアディーネのもとに向かう。
「こんばんは、リリアナ」
 迎えられた少女は女神の笑顔にはにかむ。聞きたいことはたくさんある。
 自分と対して変わらない年頃の姿の女神が何を想っているか、何をかんがえているのか。
 だけど、問うことのできた質問はほんの少しで。
「あの、アクアディーネ様はどんな食べ物がすきですか? 果物はすきですか?」
「はい、えっと……」
 アクアディーネは供物台に捧げられた赤い果実をひとつ持ってきて、リリアナに渡す。
「りんご?」
「はい、あかくてまるくてかわいくて、ちょっとすっぱくてあまくて。私がだいすきな果物です」
「えっと……!」
「はい?」
「アクアディーネ様はどんな男性がこのみですか?」
 リリアナだって乙女だもの。コイバナをしたいのはあたりまえだ。一瞬だけ女神がさみしげな笑みを浮かべる。リリアナにはその理由はわからない。
「そうですね、男女問わず優しい人が好きです」
「優しい人、ですか」
 
 ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は神殿に祈りを捧げにいく。
「ミルトス、熱心ですね」
「ええ、これから忙しくなるでしょうし、皆さんの無事をいのっておきます」
 女神に話しかけられたミルトスはそう答える。
「そう、そうね私も祈りましょう」
 誰に? とはミルトスは聞かない。
「私は、知りました。多くの人は戦いを望んでいるわけではないと」
 少女のつぶやきの続きを女神は無言で促す。少女は自分の立ち位置を確認している最中なのだ。
「それでも、戦わないといけないほどに、ヒトにはそれぞれ願いがあるのだと知りました」
 多くのヒトビトはみな善良なヒトであるのだ。だけれども国という軛によって、その国のため他人の愛を、正義を、祈りを否定するために戦いを選ぶしかない。
 それは止めることのできない信念の戦い。つまり自分が戦えば戦うほどに『善良な誰か』の願いを踏みにじるということを知ったのだ。
 その世界において自分が弱いのであれば自分が踏みにじられる未来があるかもしれないと。そんな世界になったとしてもそれは許容しないといけないのだとミルトスは思う。それは――諦念とよばれるもの。
 ミルトスは女神の中にも同じような諦念があると、感じたことがある。
「だから、せめて戦いのない世界のために戦いたいのです」
 それは大いなる矛盾。戦いたくないから戦う。
 女神はそんな子供の頭をなでる。
「あなたはとても賢くて、優しい子なのね」
「わわ、えっと……!? もちろん! だからってこの世界が終わったら困りますからね! この世界を終わらせる以外の方法で成します!」
 ミルトスはどうしていいのか分からなくて早口で女神に答えた。
 そうだ、今後もやることは変わらない。そう、立ち位置は、変わっていないのだ。

「おお! 女神よ! 今宵もお変わりなく神秘的で荘厳で見目麗しい!
そのお美しさはこの満天の星空すら足元にも及ばないほどにございます!」
 騒がしいのは黒いやべーやつことナイトオウル・アラウンド(CL3000395)だ。
 いつものことに女神はおどろかない。
「お星様に祈りはささげましたか?」
「はい!! 星々に貴女のことを想って祈りを捧げるだけで、いかなる美酒や珍味よりも美味なパンケーキといちごジャムを味わえるものです!」
「ほんとうにあなたはパンケーキがすきなのね」
「はい! この事象をメシウマ、と申すそうでございます」
「メシウマ?」
「嗚呼! メシウマ!!! メシウマ!!!」
「たのしそうね。めしうま、めしうま」
「女神よ!! 貴方がお望みであれば、願いを叶えやすくするためこの夜空の星すべてを攫ってまいりましょう」
「ええっ、それは無理だからやっちゃだめよ? お星様は空で輝くから美しいんですよ! それに星がなくなったらみんな悲しみます」
「美しいもの! それは女神! わかりました!!!! 一つだけさらって参ります!!」
 言うが早いかナイトオウルは神殿をとびだしていく。
 次の日虫取り網を持ったまま地面に転がるナイトオウルが観測されたという。

「祭りの日にまでそれか、ほんとに貴様は真面目だなあ」
 呆れたように女神の様子をみていた非時香・ツボミ(CL3000086)はそう話しかける。
「あら、ツボミもさっきまで仕事をしていたのでしょう? お互い様です」
 そんな女神の言葉にすこしツボミはうんざりとした顔で商売繁盛ありがたいことだと嘯いた。
「思えば、ミトラース神も結局クソ真面目に神様やってたんだよな……。
 なあ、アクア様よ。ヒトは強欲だ」
 女神はツボミの言葉の続きを待つ。
「私はヒトの、皆の代弁者になるぞ。誰も彼も我儘なんだ。
 願い事? そんなもん『全取り』だ。戦争に勝ちたい、うまいものくいたい、誰も悲しまない世界が欲しい、医者が居なくてもいい世界がほしい。ああ、そうなれば食いっぱぐれるな、それはなしで」
「ツボミはよくばりね」
「ああ、そうだ! 私だけじゃない、みんなそう思ってる。実現可能かどうか?
 そんなものは関係ない。全部ほしいんだ。
 ――みんなが幸せになって欲しい、とな」
「素敵な願いね。ツボミはほんとにいい子ね。叶うといいと思います」
「おい! なに他人事のツラをしている。当然その中に貴様も入っているのだ!
 皆は大団円を迎える! それは確定事項だ。その中に貴様の笑顔も一緒でなければ願いが叶ったとはいわない。それは、私の希む幸せではない!」
 そういってツボミは小さな胸をはる。どうだ、めんどくさいだろう? 身勝手だろう。
 これは本音だ。絶対に曲がらない。曲げてなんかやるもんか。
「もう」
 そういって悲しそうに微笑んだ女神の顔と死ぬ前に母が浮かべた笑顔が重なる。
 すごく嫌な予感。そう、有り体にいえば『気に食わない』。釈然としないそれは不満だ。
 私達は貴様にとっては愛しい『子』なのだろう。なら聞かせるとも、子供の駄々を。
「貴様が居ない未来など、絶対に許さないからな」
 何もかもが終わったらこの女神は居なくなるかもしれない――そんな漠然とした勘のようなものがツボミの中にあったのだ。その不安をかき消すように、ツボミは強く女神に『駄々を捏ねた』。

「ねえ、アクアディーネ、こんな日だけどアタシの髪を切ってよ」
 そういって、刃を自分のほうに向けハサミを女神に差し出すのはライカ・リンドヴルム(CL3000405)。
「首の後ろくらいからバッサリと」
「こんなに綺麗な髪なのに?」
「だから。だから切ってほしいの」
 突然のその要求に戸惑いながらも女神はハサミを受け取る。
「その髪は好きにして。燃やしてもいい、捨てても良い」
 それは楽しかった思い出、自分の弱い心、凄く悲しくて悔しかった記憶、そして君を大好きだという、ヒトらしい思いが全て詰まっている。
 髪がはらりはらりと落ちていく。そう、それは彼女が言ったとおり『綺麗な』もの。アタシの中の綺麗なもの。
 これで、アタシは再び神への憎しみを抱き生まれ変われるはずだ。
 ヘルメスを殺す、アイドーネウスを殺す、ヴィスマルク女神を殺す、そして――。
 最後にきっとアクアディーネを殺すのだ。
 ――そうしたら、平和な世界で、次の神(にくしみ)を求めて憎悪を待ち散らすアタシを誰かが殺してくれるのかな?
「ところで、キミは。いつまで『アクアディーネ』でいるの?」
「私は、最後まで『アクアディーネ』です。私の役目が終わるその時まで」
 女神はライカの髪を愛おしそうになでながらそう言った。

「こんばんは、アクアディーネ」
「こんばんはマグノリア」
 穏やかな声に振り向いた女神はマグノリア・ホワイト(CL3000242)に笑みを向ける。
「またこの世界……ビオトープのことをかんがえているの?」
「考えてないときなんてありませんよ」
「……ねえ、アクアディーネ……
 もし、もしも、この世界が『此処』に『在る』為に、君が何でもするとして『彼』と
 協力するつもりはある?」
「そうせざるを得ないように、彼は時を待ったようですね」
 すこしだけ女神は眉をひそめた。
「やっぱり、『彼』は嫌い……? ……ふふ」
「好きではありません。けれど、協力はしないと世界が終わるのは確かです」
「できるなら、僕は――君と彼にも仲良くしてほしいと思っているよ……。
 でないと――」
 そのときに同時に『願い』が叶えられないから。
「星に願いを――」
「……?」
「あのね、僕と友達になってくれる? ……友達の願い――世界の崩壊をとめること――。
 そう思えば『力が湧く』気がするから」
 そういったマグノリアの頭を女神は撫でる。なんだかとてもくすぐったく感じる。
「貴方はとてもいい子なのね」
 そういって女神は頷く。
 (アレイスター、僕は……『君』にも同じことを、言っているんだからね……?)
 どこかで見ているかもしれない『彼』に届くかはわからないが、マグノリアはそう思った。

 その日遅くに女神のもとに来たのはアダム・クランプトン(CL3000185)だ。
「あら、随分と夜更かしなんですね」
 我が国の女神は大人気だ。だから最後でかまわないとアダムは思っていた。
「ええ、僕は夜更かしの不良に目覚めたんです」
「嘘ばっかり、アダムでも冗談をいうんですね?」
 そういえば――女神様と面と向かって話すことはあまりなかった。
「ヒトがヒトとして世界を変える。僕はそれを目指しています。だからこれは願い事ではなく誓いです。貴女は貴女の願いをかなえる夜になればいいと思います」
「そう……ねがい」
「この言葉は神としてではなく貴女という個人……個神に送る言葉です。その、不敬ですか?」
「いいえ、いいえ、でもアダム、私は個としてここにあってはいけないのです」
 言って女神は黙る。
 長い沈黙――。
「女神様!!」
「はいっ?」
「せっかくお会いさせていただけたというのに、そんな顔をさせるつもりはなかったんです!
 だからせめて! 楽しんでいただける芸をします!!!!」
 沈黙に耐えかねたアダムは小脇に抱えていた太鼓を取り出すとその場で腹筋運動をはじめる。
「喜んでもらえるかわかりませんが腹筋大鼓を奏でます!」
「えっ、えっ?」
「は~~~ぁっ!! へい! へい!! へい!」
 腹筋運動にあわせて太鼓の軽快な音が静かな神殿に響きわたる。
「へい! へい! へい!」
 筋肉と汗と音楽を融合させたアダム考案の新エンタメに女神は困惑の表情を浮かべているが、アダム本人はなにこれ楽しい!! とヒートアップしていく。
「へいっ!!」
 さいごの一打を奏できってアダムは強い満足感を感じていた。ぱちぱちと笑顔の女神が拍手をする。
「女神様。僕は、自由騎士になったばかりの頃の貴女の言葉に救われた。ずっとずっとそのお礼を伝えたかったんです」
「ふふ、アダム。私もあなたにはお礼をいいたかったの。いつもこの国のことを考えていてくれてありがとう」
 

●ほしのしずくのえぴろーぐ
 それは少女にとってはちょっとした冒険だ。
 名前のかかれたカンテラがこの冒険の相棒だ。
 ひとりカヌーで湖に漕ぎ出したリムリィ・アルカナム(CL3000500)はだれもいない場所にむかう。
 カヌーを止めて流れにまかせて寝転がる。
 そうしたら一面の星空がパノラマでリムリィの眼の前に広がる。
 まるで手が届くようで思わず手を伸ばす。でもなにもつかめない。少し暗いからかもしれない。だからもっと明るくすれば――。
 ひらりとカンテラからメモがおちた。リムリィはその内容をカンテラの光で読み上げる。
『夜更かしする悪い子へ 余り遅くならないように。あと、気をつけて帰ってくること。 お姉ちゃんより』
 リムリィはもう一度寝転がって空をみあげる。こんどはカンテラを消して。
 そうしたら、不思議とそっちのほうが星が近いように感じた。
 とおくでかがやいているあれはちかくなったけどやっぱりてはとどかない。
 あたりまえにあるたくさんのきれいなもの。
 それにてはとどかなくっていいのだとおもった。
 だって。

 ――それはわたしはもうもっているものなのだから。
 

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『王女の手紙』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:海・西園寺(CL3000241)

†あとがき†

素敵な時間が過ごせていたのなら嬉しく思います。
参加ありがとうございました。
FL送付済