MagiaSteam
Kindle! 己の心に火をつけろ!




 アタカパ・ブル曰く――
「その神像はワキヤンを示している」
 ワキヤン。インディオの伝承には雷鳴を告げる大きな鳥の精霊がいるという。その鳥を彼らの神をみなしているのだ。――サンダーバード、と呼ばれる幻想種の事だろう。
「遠い我らの先祖がワキヤンから授かったもので、精霊と通じることが出来るのもこの像のおかげだ」
 この像自体はインディオが作った物ではなく、遠い祖先が幻想種から受け取った品物だ。見る人が見れば、鉄でも金でもない金属であることが分かるだろうその像。人の鑑定眼では判断できない何かが見え隠れしている。
「この像を通して自分のワカンダ――君達の言葉で言えば一人一人に居る守護霊のようなモノと通じることが出来る。ワカンダの試練を乗り越えれば、己の中の何かに目覚めることが出来ると言わている」
 なんだかあいまいな表現である。アタカパも信じてもらおうとは思っていない。原始的な生活をして精神に依ったインディオと、蒸気技術を押し進めて物質に依った世界。理解が及ばないのは当然と思っていた。
「ワカンダに打ち勝つには相応の力が必要で、さらに言えば目覚めた者を受け入れるには相応の器が必要だ。その器がなければ意味をなさない。
 骨折り損になるかもしれないが、ワカンダと通じる為の儀式は――」
 儀式に必要なための道具と環境を伝えるアタカパ。インディオには文字の概念がないため、こういった事は口伝となる。――迂闊にインディオを滅ぼしてしまえば、これらの知識が失伝している所だった。
「……なぜ、こんなことを教えてくれるんだ?」
 自由騎士達はアタカパに問う。先の戦いで港街3356を奪還したイ・ラプセル。そこに武器もなく現れたインディオのアタカパ。インディオからすればパノプティコン同様、自らの故郷を侵略しに来た存在とも取れるのに。
「インディオという部族としては、貴国のことは警戒している。あるいはパノプティコンと相対させて共に疲弊させようという意見もある。
 だが個人的には君達に激励を送りたい。パノプティコンに見捨てられたマイナスナンバーを救ってくれた礼の一部でも返せればと思っただけだ」
 インディオと言う部族としてはイ・ラプセルに与することはできないが、アタカパという個人はそうではない。轡を並べることはできないが、知識を授けることはできる。
「では、貴国の戦いに精霊の加護があらん事を」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
新天地開拓σ
担当ST
どくどく
■成功条件
1.自分自身のワカンダと相対する
 どくどくです。
 自分対峙系シナリオ(勝手に名付けた)です。

・ワカンダ(×参加数分)
 自分自身の守護霊と呼ばれる存在です。自分自身をコピーした幽霊のようなモノだと思ってください。
 ワカンダの行動はキャラ様々ですが、共通事項として『本人を痛めつけて試練を与える』事があります。戦って力を引き出そうとしたり、苦手なことを指摘したりなどです。自分自身との対話、といったイメージが強いでしょう。
 自分のワカンダが見えるのは当人だけなので、他人のワカンダに干渉はできません。

例1:「見事な技術だ。で、それを用いて何を為す? 戦争という濁流を変えるにはまあ足りぬぞ」
例2:「善行を積み重ねても過去は変わらない。己の罪とどう向き合う?」
例3:「大事な者を守るために戦い、血に染まる。その手で愛する者を抱けるのか?」

 めんどくさかったら、普通に自分自身と殴り合ってください。

●場所情報
 港街3356と呼ばれていた港町。そこにある一室で儀式を行います。ワカンダとの対峙は、自らの精神内。夢を見ているような感覚です。状況もプレイングで示したような空間になります。
 戦闘になる場合、便宜上10×10mの正方形フィールドとします。事前付与を行えば、相手も同じ付与を行います。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
3モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年09月28日

†メイン参加者 8人†



●『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)のワカンダ
 ミルトスは自分のワカンダと相対し、二人は同時に拳を構えた。
 言うべきことなどない。語るべきことなどない。このワカンダが『ミルトス』というのなら、同じ想いを抱いているのだから。
 半身逸らして、前に出した方の足のかかとを少し上げる。重心は地面近くに。背筋は真っ直ぐに。突き出した腕を曲げ、もう片方の腕で腹部を守る位置に置く。全く同じ構え。まるで鏡で見ているかのような、同じ構え。
(あれが『私』だというのなら、フラグメンツもまた使えるはず。――少なくとも、私がそれが出来ると信じている以上、出来る)
 全くの同条件。それが自分のワカンダ。有利も不利もない。それが自分と相対すると言う事。ならば勝敗を決するのは――
「はぁっ!」
 掛け声をあげたのはどちらのミルトスか。同時に動き、同時に打ち始める。流れるような拳の応酬。自分ならどうする、というのを考える余裕のない至近距離の攻防。思うよりも先に体を動かしていく。
(あらゆる力は力でしかない)
 正義や悪と言った社会的意味は力に作用しない。
(あらゆる願いに貴賤はない)
 英雄の願いも乞食の願いも、同じ一人の人間の願いだ。
(あらゆる闘争に理由はない)
 聖戦であれ虐殺であれ、戦いは戦いでしかない。
(……それでも、手を伸ばす)
 世界を創った神の想いを知った。世界を愛した女神の想いを知った。戦いを望まず、争うヒト達を悲しむ想いを。
 こうして戦いを望むミルトスこそ、彼らには不要ではないのかと。正義のために戦う者、平和を願い戦う者、闘争を望む者。それこそが彼らを悲しませているのではないか?
「そんなことは――百も承知でやってるのよ私はァ!」
 たとえ嫌われても、そうやって悲しむ者を救いたい。戦いの果てに未来があるのなら、この拳で切り拓こう。
 例えその果てに、不要と言われた自らが廃棄される未来があるとしても。
 そんな事は、百も承知しているのだから。

●『白騎士』アダム・クランプトン(CL3000185)のワカンダ
「全てを守る。全てを救う」
 それはアダムが掲げてきた理想であり、彼が振るう旗だ。
 誰もがその言葉を聞き、甘い理想(ユメ)だと笑っただろう。あるいはお伽噺の騎士なのだと呆れただろう。あるいは――いばらの道を歩むのだと哀れんだだろう。
 皆がアダムを見て知る彼の理想。だが彼がそこに至った理由は誰も知りえない。なぜ彼がそう思うようになったのか。何故彼は、全てを守ると誓ったのか。
「君は友を見捨てた」
 自分の姿をしたワカンダは言う。それはアダムの中にある刺。あるいはアダムの心に立つ旗。
 栄華届かぬスラムの一角。そこに居る幼い子供達。ストリートチルドレンと呼ばれる彼らは、身を寄せ合って生きてきた。腹を満たすために物を盗み、身を守るために徒党を組んで暴力行為も行った。そうしなければ生きていけなかった。
 そこに、友はいた。
「アダム、知っているか! 騎士っていうのは皆を守ってくれるんだ!」
 その友はキラキラした瞳でそう言っていた。
 このゴミ駄目のスラムの中、星を見ていた。物語の騎士が助けてくれる。
「そんなの、いないよ」
 アダムは俯き、そう言い捨てる。そんな物がいるなら、こんなにお腹がすくことはない。
「いるさ。いなければ、なればいい!」
 それは、絶望の中で埋まれた空元気だったのかもしれない。
 ただアダムには、その姿がとても眩しく見えた。騎士を語る友の姿が、誰かを助ける騎士になろうとする姿が。
 だが、破局は訪れる。
 突如アダム達のストリートチルドレンを襲った大人たち。今思えば、他国の人さらいだったのだろう。突然の襲撃に蜘蛛の巣をつついたような騒ぎとなった。
「逃げろ、アダム!」
 友は、そう言ってアダムを先に行かせて殿となった。まだ幼いアダムは、大人の犯罪者の恐怖におびえ、そのまま走り出す。
「そうだ、僕は友を見捨てた」
「誓いの源泉は、後悔。誰かを守ることで、あの日逃げた罪を雪ごうとしているにすぎない。贖罪こそが、『僕』を動かすエネルギー。
 罪という盾は重いだろう。その盾をずっと一人で抱えて守っていくのかい?」
 ワカンダの問いに、アダムは首を縦に振る。その重さは罪の重さ。きっと死ぬまで抱え続けるのだろう。
 たとえその重さにつぶれようとも――

●『命の価値は等しく。されど』ナバル・ジーロン(CL3000441)のワカンダ
「本当に、オレは正しいのか?」
 ナバルが自分のワカンダに問われた事は、予想済みの事だった。
 より正確に言えば、ナバル自身が抱えている事そのものだ。
 ナバルは『平和』のために戦っていた。白紙の未来を回避すべく、誰もが戦わずに済む未来を作るために戦っていた。
 だけど、ある戦いで気付く。
 敵も『平和』のために戦っているのだと。自分達と価値観が違うだけで、そこにあった『平和』をナバルは打ち砕いた。……自分達の都合で、それを踏み抜いた。
 戦う理由は変わらない。大事な友の為、仲間の為、街の為、そして国の為。それが消えてなくなったわけではない。それを見失ったわけではない。
 ただ――気付いただけなのだ。それは『大事じゃないモノを蹴落としている』という事実に。だから問いかけるのだ。
「本当に、オレは正しいのか?」
 例えば――相手が悪であれば、それを滅ぼす自分達は正しいのか?
 シャンバラはヨウセイを虐げている悪性だったが、多くの民は平和と常春と謳歌していた。
 ヘルメリアは多くの亜人を虐げていたが、多くの蒸気文明は世界各国の生活を向上させた。
 ヴィスマルクは多くの国を滅ぼしたが、それは小規模の戦乱を押さえ込んだのかもしれない。
 パノプティコンは管理により自由はないが、管理されているがゆえに犯罪も少ないのだろう。
 少しでも悪があれば滅ぼしていいのか? それは正しいのか?
「答えは……出せるわけないだろう、こんなの!」
 膝をつき、吐きそうになる胸を押さえながら叫ぶナバル。
「そうだよ! 正しいっていう理由があれば戦えるなんて、現実逃避だ!
 この苦しい思いを抱えて、戦っていくしかないんだ、ちくしょう!」
 苦しくても、辛くても、戦っていくしかない。戦わなければ、失われるのは自分の方なのだから。
 盾は壊れず、槍は折れない。戦うことに不足はない。
 足りないのは――

●フリオ・フルフラット(CL3000454)のワカンダ
 あの日、腕と脚は失われた。自分を助けてくれた人達も、還らぬ命となった。
 カタクラフトにより四肢は補えたが、失われた命は蘇らない。その事実はフリオの心に突き刺さる刺となった。
 誰もがフリオの事を攻めなかった。あれはヴィスマルクが悪い。あの惨劇の中、一人でも生き残れたのは奇跡だ。彼らは君を救えて満足だろう。そんな声が憔悴しているフリオを支え、立ち上がらせる。
 それでも思うのだ――
「2年前のあの日、傷を負ったお前を救う為に隊の皆は犠牲になった。お前に、それだけの価値があるのか?」
 分かっている。分かっていた。自分自身の戦いと聞いた時、この命題が付きつけられるのは。
 自分なんかが助かるよりも、あの日勇敢に誰かを救おうとした人達が生き残ったのなら、もしかしたら今より多くの人が救えたのではないか? 自分はあの人達より命を取りこぼしているのではないか?
 自分が無力であることなど、自分自身が一番よく分かっている。もがき、足搔き、苦しみ、手を伸ばし、それでも命は失われる。守れるモノなんか、ほんのわずか。手の届かない所なんか多すぎる。
 自分に価値なんかない。そんな事は分かっている。分かっていた。
「私は、無力な自分が憎い」
 フリオは静かに認める。
「心は弱く、折れてしまう」
 今だって、泣き出してしまいそうだ。
 自分に価値なんて見つけることはできない。こんなに弱く、こんなに脆い心。例え手足が鋼鉄でも、それを振るう魂はこんなにボロボロなのだから。
「それでも――」
 それでも、生きている。あの日、生かされて。そしてこうして歩いている。
 無力で、弱くて、脆くて、無価値でも、今こうして生きている。届く範囲は短いけど、それでも手足は動いてくれる。
 始めから強い人間なんていない。初めから価値のある人間なんていない。
「たとえ這い蹲ってでも進んで、前に進むのであります!」
 ヒトは前に進んで強くなり、そして行動して価値を積み上げていくものなのだから。

●『過去の自身を超えし者』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)のワカンダ
「この手は短く、伸ばせる範囲は短い。それでも『全て』を救おうとするのですか?」
 自らのワカンダからの問いは、アンジェリカ自身も分かっていることだった。
「はい。何故なら命は尊いから」
「命が貴ばれる理由を論理的に説明できますか?
 真に命を大事にするなら、戦場から身を引き、できうる限りの子を守ればいい。命を奪う手で、生命賛歌を謳えるのか? 遠く届かぬ命に手を伸ばし、手の届く命を救えないかもしれないのに」
 なるほど、正論だ。自らのワカンダの意見だからこそ、凄く納得がいく。
 この手は血にまみれ、武器は多くの命を奪った。戦争という理由で誤魔化するつもりはない。人を殺すために自らを鍛え上げ、効率よく命を奪うために自らを研鑽する。奪った命に祈りを捧げながら、同時に必要とあらば躊躇なく敵を穿つ。
 それがアンジェリカ・フォン・ヴァレンタインという聖女。迷いなく、己の信仰のままに道を進むモノ。
「生命は奇跡だからです。
 愛し合う者達が出会い、子供を産み、それが育つ。風も、太陽も、大地も、我々生命が生きることを祝福するように存在しています。そう、私達は生きると言う事を許されたのです。僅かでも環境が違えば、命は潰えていたでしょう」
 その奇跡が神の御業だというのなら、それに従うのが神の子の務めだ。祈るようにアンジェリカは答える。
「ここで足を止めることは、奪ってきた命に対する冒涜です。
 血にまみれた手で、白紙の未来を切り拓くことが出来るのなら。罪を背負った身で、無垢な子供達を導けるのなら。
 私は喜んで身を汚しましょう。その先にある光を浴びることが出来なくとも」
 信じ、許し、そして先に進ませる。
 アンジェリカの信仰とは、まさにそれ。先導し、そして立ち上がるための杖となる。だけど未来へ進む一歩は、自分で進ませる。そこから先への未来は、その人のもの。アンジェリカはまた別の人を助けるために、危険に身を晒す。
「いと貴き神、――」
 信望する神の名を呟き、静かに瞑目した。

●『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)のワカンダ
「ここは……」
 デボラは今いる場所を確認し、ため息をついた。ディートヘルム家のエントランス。何処まで遠く雇用とも、デボラにとっての原点は『家』なのだ。それは愛すべき家族と言う意味でもあり、そして貴族と言う家系でもある。戦う理由も、そこに集約されている。
「はい。では私が何を言いたいかは理解できていますね?」
「ええ、『貴族の私』。私は『貴族としては奔放すぎる性格』と『周りが良しとしない想い』を抱いています」
 現れたワカンダは、ドレスを着こんだ自分自身。その問いかけの意味は、デボラ自身が口にして理解している。
 貴族とは家名を重んじる。その娘が他国の、それも他国の元犯罪者に惚れこんで駆け落ちも辞さないとばかりの勢いとなれば、ディートヘルム家の加盟につく傷は如何なるものか。単純な名誉や見栄のレベルではない。ディートヘルム家に所縁ある全ての貴族や商人にまで影響するのだ。
 そういったデボラも社会的なダメージを考慮してないわけではない。だが――
「確かに貴族として問題あるのは認めましょう。ですが愛に真っすぐで何の問題があると!」
「その事に問題はありません。ですが――その愛には障害が多すぎます。それを押しのけて初めて恋愛としてのスタートライン。それを理解しているのですか?」
 ワカンダの問いにデボラは呻きをあげる。あの人と共にいる『生徒』の件。避けていたわけではないが、直視はしなかった懸念。
(そうですね。私はあの人の抱える『問題』を詳しくは知らない。ヘルメリアで共闘し、奴隷解放を為した後は互いに別方向を向いている)
 同じイ・ラプセルで戦いながら、ヘルメリア戦以降は作戦立案者と騎士という立場だ。まともに話し合う機会は少なかった。
(『あの時』みたいに都合よく捨てられる? いいえ、そんな人ではないと……)
(ですが『アレ』は……いえ、普通に綺麗でしたけど!)
「ああ、もういいです! 本人に聞けばはっきりします! もう迷ったりはしません!」
 迷いを振り切るデボラ。そのまま真っ直ぐに館を出ていく。
「社会的な問題なら、むしろあの人は得意事です! むしろやる気が出てきましたよ!」
 その歩みに、迷いはなかった。

●『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)のワカンダ
 キリの目の前には、一つの光景と音楽があった。
 春を思わせる暖かい風。遠くから聞こえる音楽は弦楽器と打楽器を中心とした楽し気な歌。キリは自然と言葉を発していた。
「――プレール村」
「そう、ここがキリの原点。貴方が忘れ、しかし忘れられない場所。
 すでに滅び、失われ、もう取り返すことのできないモノ。それでも取り返そうと足搔き、苦しみ、キリを戦いと言う泥沼に誘うモノ」
 キリの姿をしたワカンダは、驚くキリにそう答える。
「だって、キリの村は……でも、これは」
「キリに記憶がなくとも、この光景は本物。他人にとっては夢だとしても、キリが感じる光景は全て本物。本物の――プレール村」
 キリはワカンダの言う事を聞きながら、それが事実だと理解していた。キリ自身に記憶がなくとも、ここは間違いなく『故郷』なのだと。夢? ワカンダが見せる幻覚? あるいは精霊の高度な魔術? 理由などどうでもいい。
 ここにはキリが失ったモノがある。取り戻せないと知りながら、復讐に溺れなければならない場所がここにある。
「望むなら、この夢を永遠にできる。復讐を忘れ、この村が滅びない未来を与えられる」
「……え?」
「永遠にこの村で生きられる幸せ。復讐など忘れ、平和に過ごす日々。それを与えられる」
 キリ・カーレントが戦う理由は、燃やされた村の復讐だ。
 それをなかったことに出来る。それがなかったことに出来る。そして戦わず、平和に過ごすことが出来る。
「でも、これは現実じゃない。『本当』はプレール村は滅んだ」
「その事実も『なかった』ことにできる。キリは平和に過ごせる」
 何もかもを忘れ、平和な夢に浸れる。それはとても魅力的だ。例え復讐が叶っても、村は戻ってこない。ならばこの夢に浸って村と共に生きるのも――
「…………駄目」
 血を吐くような思いで、涙を流しながらキリはワカンダを拒否する。
「キリは、『キリ』を捨てれない。一緒にいる仲間も、この苦しい思いも、全部まとめて『キリ』だから。
 それがなかったことになったら、それは『キリ』じゃないから」
 記憶が薄まる。今感じるプレール村の光景も音楽も、キリの中で『なかった』ことになる。思い出せず、その事に苦しむことになる。それはとても悲しいけど。
「う、わあああああああああああん!」
 それでも、キリはそうすると決めたのだ。泣きながら、苦しみながら、復讐の道を進むと決めたのだ。

●『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)のワカンダ
「お前はもっとよく考えてから行動するよう心掛けねばならない」
「考えている時間がもったいない! それが分からないなら拳でわからせてやる!」
 ワカンダの言葉を切って捨てるジーニー。拳を振るい、突撃する。
「なるほど、ではその愚直さが何を生むか教えてやろう!」
 そしてジーニーのワカンダもまた、それに答えて拳を構える。守護霊とはいえ、基本は当人と言う事か。
 同じ肉体同士の殴り合い。互いの間合も同じで、互いの戦術も同じ。そのせいもあって、自然と短期決戦の形となった。
「これでどうだ!」
「まだまだ!」
 互いが互い攻撃し、追い詰めていく。何のことはない、互いに自分自身なのだから、互いの長所と短所は解っている。そして互いにやりたいことは同じだった。
「弱点? そんなのを攻めるぐらいなら殴る!」
 それはジーニーを知るものなら、とても彼女らしいと評する戦い方であった。強いて言うなれば斧ではなく拳と言うぐらいだ。
「さすがもう一人の私、やるじゃねぇか!」
「全く、北風の精霊の血がそうさせるのか。全く獣のようだな!」
「違うぜ! 私が私だからだ! ヤ=オ=ガーには興味はあるが、親の素姓と私の行動は関係ない!
 邪魔する奴はぶっ飛ばす! 自由を縛る鎖があるなら引きちぎる! 誰も私の邪魔はさせやしないんだ!」
 自由を求める気質。真っすぐ突き進む意志。それがジーニー・レイン――否、アミトラと呼ばれるモノの根源。たとえ壁が目の前に迫っても、それを撃ち砕くのが彼女だ。迷いなく、澱みなく、ただ真っ直ぐに吹き抜ける風のような気性。
「これで、終わりだあああああああああああ!」
 真っ直ぐに突き出される拳。それが自らのワカンダを貫いた。


 気が付けばワカンダは消え、自由騎士達は現実に戻る。
 己との会話をすました彼らは――

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『未来を切り拓く祈り』
取得者: アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)
『そんな事は百も承知』
取得者: ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『盾は壊れず、槍は折れない。だが、』
取得者: ナバル・ジーロン(CL3000441)
『北風の拳』
取得者: ジーニー・レイン(CL3000647)
『復讐の意味は』
取得者: キリ・カーレント(CL3000547)
『盾の重さ。罪の重さ』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)
『積み上げていく価値』
取得者: フリオ・フルフラット(CL3000454)
『ただ真っ直ぐに』
取得者: デボラ・ディートヘルム(CL3000511)

†あとがき†

……おや? 自由騎士スタイルの様子が……?
FL送付済