MagiaSteam
【白蒼激突】Noble! 気高き白銀の旗!



●白銀騎士団
 ニルヴァンがイ・ラプセルにより陥落した。
 シャンバラ聖央都ウァティカヌスに走った衝撃は大きく、その波紋は国中に広がった。ある者は嘆き、ある者は否定し、ある者は怯える。盤石ともいえる唯一神ミトラースの守りを突破した国がヴィスマルクではなく今まで意にも解さなかったイ・ラプセルだとは――
 シャンバラ軍はこの事態に対し迅速に動いた。軍を派兵し、ニルヴァン及び周辺に住む人達を避難させながら包囲網を形成する。
「あれが彼らの砦か」
 シャンバラが誇る聖堂騎士団、その一つ『白銀騎士団(シルバーナイツ)』。銀色の魔道武具を纏った歩兵部隊だ。
 蒸気機関を毀棄するシャンバラ兵だが、それを魔道技術と練度で補っている。ヴィスマルク軍も手を焼くと言われた歩兵部隊の真価は、高い連動能力にあると言われていた。部隊が連動して突き進み、一つの生物のように動くという。
「見た目は洋館のようだな。砦設営が間に合わなかったか」
 砦の第一印象は『枯れた林に立つ異国の館』だ。おどろおどろしい尖閣が目立ち、武装などは見られない。
「可能性はあります。神の加護が途絶えた地では満足に準備ができなかったかと」
「……ふむ」
 隊長格の女は眼鏡に手を当てて思案する。斥候の情報を疑うわけではないが、あの館は防衛戦をするには不向きすぎる。あえてこちらの油断を誘うように見えなくもない。砦の形を成していないからこそ、戦い慣れた者からすれば罠を警戒してしまう。
 だが――
(罠やもしれないが、ここで手をこまねいているわけにもいかない)
 戦争において、時は千金だ。兵糧などの兵站事情を考えれば、出来るだけ早く終わらせるに越したことはない。
「我らには唯一神ミトラース様の加護がある! 側面より攻めるランベール殿の支援を信じ、恐れず突き進め!」
 応、と白銀騎士団の鬨の声が上がる。ミトラースの紋章が描かれた白銀の旗がはためき、白銀騎士団は進行を開始する。

●自由騎士
「シャンバラ軍との戦争だ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は集まった自由騎士に向けて説明を開始する。
「先行部隊が作った砦にシャンバラの白銀騎士団が突撃してくる。数は多いが砦の構造上一度に攻めてくる数は少ない。各個撃破していけばいい」
 怪しい洋館に見せかけた砦は、壁に銃眼を多数配備し、経路を誘導するように柵が作られ、更に動線を断ち切る箇所に落とし穴が掘られている。薬剤を散布する投石機もどきも作られており、撃ち出す兵の訓練も十分だ。そうそう突破できるものではない。
「とはいえ、ミトラースの加護を信じて一糸乱れぬ動きをする白銀騎士団は油断ならない。気を引き締めて戦ってくれ」
 砦防衛のために扉前に一個師団を配置する。五分交代で入れ替わり、耐え忍ぶ作戦だ。
「先ずは前哨戦だ。ここを凌いで攻勢に出る為に砦を落とさせるわけにはいかない。
 気合を入れて防衛だ!」
 フレデリックの言葉に気を引き締める自由騎士。
 白銀騎士団の旗は、もう目視できるほどに近づいていた。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
担当ST
どくどく
■成功条件
1.30ターン全滅しない
 どくどくです。
(田奈アガサSTのシナリオを見て)うわぁ……これを攻めるのかぁ……。

●敵情報
・白銀騎士団(×10~)
 シャンバラが誇る聖堂騎士団、その一つの白銀騎士団です。白銀を象徴とし、同色の武具に身を包んでいます。ジョブは軽戦士中心。オラクル男性。
 連携だって動き、相応に戦闘経験もあります。落としやすい者から叩く、複数で一人を狙うなど、貴方達が取る戦略は普通にとってきます。
 罠などに引っかかっており、戦闘開始時に門の前に到達できたのは10名です。ですが罠を脱出したりして5ターンごとに4名、敵後衛に追加されます。
『ヒートアクセル Lv3』『ブレイクゲイト Lv2』『ラピッドジーン Lv2』『テレパス 破』等を活性化しています。

・『白銀旗』ナディア・ナバル(×1)
 白銀騎士団隊長。OPで喋っていたのは彼女です。旗で守るガーディアン。オラクル女性。
 3ターン目に敵後衛に登場します
『バーチカルブロウ Lv3』『スティールハイ Lv2』『サクリファイス Lv3』『ノートルダムの息吹 Lv3』『叫びのオハン』『冷静沈着』『インテリメガネ』等を活性化しています。

●戦場効果
 壁に設置された銃眼からの射撃により、毎ターン戦場にいる白銀騎士団全員にダメージを与えます。
 投石機から撃ち出される薬剤により、4ターンに一度敵前衛にいる者に【ウィーク1】を与えます。

●場所情報
 ニルヴァンに建てられた橋頭堡。その一角。扉前(実はこの扉はフェイク)での防衛戦です。時刻は昼。足場と広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『白銀騎士団(×10)』がいます。3ターン目に敵後衛に『ナバル(×1)』が、5ターン毎に敵後衛に『白銀騎士団(×4)』が追加されます。
 事前付与は一度だけとします。

 この共通タグ【白蒼激突】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年02月14日

†メイン参加者 8人†

『商人魂(あきんどそうる)』
ディルク・フォーゲル(CL3000381)
『果たせし十騎士』
ウダ・グラ(CL3000379)
『キセキの果て』
ニコラス・モラル(CL3000453)
『みつまめの愛想ない方』
マリア・カゲ山(CL3000337)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『困った時のウィリアムおじさん』
ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)
『おもてなすもふもふ』
雪・鈴(CL3000447)



「こ、ここから先は通せません……!」
 振り絞るように声を出し、決意を示す『おもてなすもふもふ』雪・鈴(CL3000447)。その境遇から普段は筆談などで会話をする鈴だが、今はそうも言ってられない。身体の震えを押さえるように、盾を持つ手に力を籠める。
「先ずは数で押してくるか」
『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)はシャンバラ側の戦略をイメージする。こちらの橋頭保に対する威力偵察と言った所だろうか。籠城に持ち込まないのは聖霊門による補給があることを知っているためだ。ならこの突撃は理にかなっている。
「五分か。……今までの人生の中で、最も長い五分になりそうだな」
 魚型のホムンクルスを生成しながら『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は懐中時計の蓋を閉じた。五分毎に交代し、橋頭堡を守る。味方が作った防衛能力を信じているが、それでも楽勝と行かないことは理解していた。
「さあ来いよ銀ピカさんたち! オレはあんたらの神様のケツを蹴り飛ばしにきたんだ!」
 鎧と盾と槍を持ち、『田舎者』ナバル・ジーロン(CL3000441)は声を張り上げる。戦争なんて怖くて嫌だが、かといって武器を捨てれば仲間が殺される。大事な人たちを守るため、恐怖を抱きながらもナバルは戦いに身を投じる。
「まあ、ぶっちゃけ私はミトラースの首さえいただければいいんですけど」
 どこか冷静に『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)が告げる。神が国のシンボルとしてある以上、神を討とうとすれば国家間の争いになることは避けられない。シャンバラの兵士に恨みはないが、必然性があるなら戦うまでだ。
「魔眼は……効かないよなあ……」
 効けば楽なんだけどなぁ、と頭を掻く『密着王』ニコラス・モラル(CL3000453)。魔眼はオラクルには効かず、そして白銀騎士団はオラクルで構成されている。そもそも、戦闘中に相手と目を合わせることは容易ではない。諦めたようにチャクラムを手にするニコラス。
「ふぅ……戦争、だねぇ。性に合わないが……大丈夫。守ってみせるよ」
 フードを深くかぶって『湖岸のウィルオウィスプ』ウダ・グラ(CL3000379)は口を開く。薬師であるウダは戦争そのものにいい感情を持てない。だがミトラースの与える救いに思う所があり、身を投じることとなった。
「薬剤の効果を過剰に告げて使い脅す……やめておきましょう」
『商人魂(あきんどそうる)』ディルク・フォーゲル(CL3000381)は相手の戦意を崩すためにハッタリを考えていたが、効果が薄そうなので諦める。致死性の高い猛毒を使えば通商連の国際戦時条約に触れる。嘘とはいえ、そこから攻められれば大事になりかねない。
「ミトラース様の為に、突撃!」
 白銀の武具を身にまとったシャンバラの騎士達が突撃してくる。神の加護を信じ、勝利のために身を捧げた者達だ。その戦意は、決して低くはない。
 二国の騎士達は互いに武器を構える。水国の騎士は橋頭堡を守るために。白神の騎士は奪われた領土を取り返すために。
 時の声が上がり、互いの武具が交差する。ニルヴァンをかけた戦いが、今切って落とされた。


「皆さんを守ります……!」
 最初に動いたのは鈴あった。頭の触角を振りながら前に出て、両手にもったバックラーを構える。誰かの役に立ちたい。それが彼の原動力。それが偽善と呼ばれようが、誰かが笑顔になることが嬉しかった。
 白銀騎士団の槍が振るわれる。腰を落とした真っ直ぐな突き。鈴は真っ直ぐに相手の姿を見ながら、盾を動かす。盾で受け止めるのではなく、穂先を弾くように軌跡を逸らす。最小限の動きで最大限の防御。小さいながら考えられた防御の動き。
「しばらくは、耐えられます」
「守りは任せた」
 短く言ってウィリアムが槍を構える。柔軟性を重視した構えを取りながら、脳内で錬金術の式を構築する。槍はあくまで戦いの補助。メインとなるのは実験で培われた錬金術。その構え同様、柔軟な動きがウィリアムの強みだ。
 槍で白銀騎士団の動きをけん制しながら、ウィリアムは錬金術の式を展開する。生まれた命なき兵士はウィリアムの作り上げた式に従い武器を構え、白銀騎士団に突撃していく。振るわれる一閃が血の花を咲かせた。
「まだ始まったばかりだ。無理せず行こう」
「おう! しっかり守ってうまいものを食おう!」
 ナバルは戦いが終わった後のご飯を思いながら武具を構える。戦いにおいて大事なのは、終わった後は日常に回帰すること。それを話捨ててしまえば心が病んでしまう。戦争なんて恐ろしい事ばかりだからこそ、終わった後何をするかが重要なのだ。
 盾と槍を構え、教えてもらったことを脳内で反芻するナバル。盾で受け止め、槍で突く。大事なのは基本の動き。田舎の広い野原で鍛えられた足腰は、重装備を背負っても体力が尽きることはない。目の端に白銀の旗を捕らえ、名乗りを上げる。
「オレはイ・ラプセル代表ナバル! 仲間を護る盾として、立派に務めを果たす! 勝負だ、そっちのナバル!」
「ナディア・ナバル。ミトラース様の命により汝らを討つ。いざ参られよ!」
「ミトラース様、か」
 ナディアの言葉に暗澹とした声で答えるウダ。ミトラースは自分を守ってくれる。そう信じているナディアの声に同情めいた視線を送っていた。信じているモノに対する蔑視と共にそれを信望する者に対する憐れみか。
 首飾りにある琥珀に指を触れながら、ウダは錬金術を行使する。生まれた毒を圧縮し、小さな矢じりにする。ウダが指さすと同時に矢じりは飛び、白銀騎士団の一人に突き刺さった。毒は静かに進行し、その動きを阻害していく。
「ミトラースの加護など、ないさ。ミトラースは君たちを駒としか思っていない。それは――呪いだよ、ナディア」
「我らが神を愚弄するか、異教徒。その報い、血で贖ってもらうぞ!」
「狂信か、あるいはそう言う事で味方の戦意をあげているのか」
 ナディアの言葉を分析するリュリュ。シャンバラ民はミトラースを強く信仰しており、イ・ラプセルよりも神に対する依存度は高い。ナディアの言動もそこから来るものと考えられるが、それが本気なのか煽動なのかは解らない。
 どちらにせよ、今はそれを確認する余裕も術もない。リュリュは頭を振って思考を戦いに移行する。乱戦となった状態で広範囲の呪文は見方も巻き込む。魔力を細く絞り、二対の矢を解き放った。
「智謀に長け、且つ浮沈。前に出る指揮官、というのを強く意識した構成だな」
「厄介ではありますが、前線に出る以上討ち取れる可能性もあります」
 リュリュの言葉に頷くマリア。指揮官が前に出るメリットは、前線の状況変化に迅速に対応できることにある。マキナ=ギアによる高品質な通信手段が少ない時代において、指揮官からの命令が届きやすい事は生存率が大きく上がるのである。
 戦場を見据え、魔力を展開するマリア。白い風のマナがマリアの周囲に吹き荒れ、その指先に収縮していく。小さく集った魔力は強力な稲妻となる。解き放たれた稲妻は真っ直ぐに敵陣に飛び、その周囲で爆発するように荒れ狂った。
「大人しく退くなら追いません……と言って聞いてくれるわけではないのでしょうが」
「妥協点を見出すことは交渉の基本です。それを探ることは悪くはないですよ」
 丁寧な物腰でマリアに告げるディルク。商人として経済と交渉で夜を渡り歩いてきたディルクにとって、相手の事を知ることは基本中の基本だった。イ・ラプセルの常識がここでは非常識になる。それを知れば知るほど、驚きと怒りが募っていくのだが。
 呼吸を整え、怒りを収めるディルク。今この怒りをぶつけることに意味はない。『片手鎌『ジャックドー』』を構え、白銀騎士団から距離を取り戦う。振るわれる鎌が風の刃を生み、戦場を走る。凶風が通り過ぎ、白銀騎士団の流した血が地面を濡らした。
「……とはいえ、妥協点を見つけることも難しいというのが現状ですが」
「戦争だからなぁ……楽してぇ」
 気怠そうにニコラスが呟く。出来ることなら寝て過ごしたいが、そうもいかないのが自由騎士。やるべきことをしっかりやって寝るとしよう、とばかりに欠伸をする。態度こそふざけているがその視線は戦場を見やり、鋭く脳内で最善手を分析していた。
『白銀旗』ナディア・ナバル。ニコラスは鋭く彼女を見る。ひとさし指で戦輪を回転させ、遠心力をつけて投擲した。右と左。異なる軌跡からカーブを描いての投擲。戦輪はナディアの頬を割き、鮮血が軍服を赤く染めた。
「お。中々のインテリ系眼鏡美人。こういう状況じゃなきゃ、お茶にでも誘いたいね」
「白湯なら付き合ってやろう。ただし独房の中でだがな!」
 白銀の旗が振るわれ、癒しの奇跡が行使される。傷ついた白銀騎士団の傷が癒え、戦意が戻っていく。
『白銀旗』ナディア・ナバル。そしてその旗に集いし白銀騎士団。彼らはミトラースの加護を信じ、真っ直ぐに敵陣に突撃する。そしてそれを支えるだけの地力と回復力を有している。
 しかしイ・ラプセルも負けてはいない。橋頭堡に設置された防衛兵器は聖堂騎士団の足を止め、自由騎士に強い地の利を与えている。何よりも戦闘経験豊富な自由騎士は多少の絶望を前に、その心が揺らいだりはしない。
 戦いは少しずつ激化していく。


「銃撃始め!」
「援護射撃行きまーす!」
 橋頭堡から放たれる銃弾と薬剤の投石が白銀騎士団を襲い、疲弊させていく。
「ナバル隊長! 遅れながら参戦いたします!」
 しかし時間ごとに増えていく白銀騎士団。数が増えていけば増えるほど、彼らの連携が際立っていく。だが、
「連絡手段は絶たせてもらうよ」
 白銀騎士団の情報伝達の一つであるテレパスはウダが封じていた。これにより白銀騎士団は簡単なハンドサインで状況を伝えあうことになり、連携にずれが生じてしまう。そのすきを縫うように少しずつ敵数を減らしていく自由騎士団。
 しかし、自由騎士側の被害も皆無ではない。
「…………っ!」
「範囲攻撃を行うものを狙ってきますか……!」
 前衛で盾となっている鈴と、範囲魔法攻撃を行うマリアがフラグメンツを削られるほどの傷を負う。
「やべえ……本当に寝ちまうところだったぜ」
「さすが軍人といったところだな。練度と連携は賊の比じゃない」
 回復を担うニコラスとリュリュも白銀騎士団の槍投擲でフラグメンツを奪われる。
「なるほど、こちらが守っていない後衛を狙う戦法か」
「数を減らさないといけないけど、守りの構えを取り直す分、攻撃数が減るからな……!」
 ウダとナバルは味方を守りながら戦っている。だが『味方を守る構え』を取り直すひと手間が必要な分、敵に対する攻撃回数が減ることになる。ナディアの回復も相まって、戦局は均衡を保っていた。
 ただし、時間ごとに白銀騎士団の数は増えていく。このことを加味すれば、少しずつ自由騎士たちは不利な状況に陥っていく。
「私、まだ倒れませんよ……。嘘だと思うのなら試してみます?」
 傷つきながらも笑顔を崩さないディルク。本当は途切れそうな意識をフラグメンツを燃やして何とか維持していた。言葉と態度。これがディルクの最大の武器。こんな程度は修羅場に入らない、とばかりに自分に活を入れて仲間を守るための囮となる。
「……さぁ、根比べだ」
 ウダはナディアを見ながら治療の魔術を行使する。ナディアが『討って出るしかない』と思う状況になれば、白銀騎士団を支える回復も止まる。その時が勝負の瞬間だ。それはナディアもわかっているのか、簡単に踏み込んでこない。
「さすがに隊長は庇うか。こりゃ面倒だね」
 ニコラスはナディアを早急に倒すべく動いていたが、それを察した白銀騎士団がナディアをかばうように動く。こちらが後衛をかばうように、相手も戦術の要を庇う。いよいよもって疲れる話だと肩をすくめた。
「だが庇う分、向こうも手数が減る。無駄なわけではない」
 リュリュもまたナディアを早期打破しようと動いていた。二連の矢が空を割き、白銀騎士団を襲う。呼吸を整えながら、魔力の残量を再計算する。五分という長期戦。先走りが過ぎれば魔力切れを起こしてしまう。焦るな、と自分に言い聞かせながら魔力を練る。
「任せろ。庇うのなら衝撃を押し通すだけだ」
 ナディアを庇う戦略に出た白銀騎士団を前にウィリアムは落ち着いた声で答える。その程度は想定済み、とばかりに槍の石突を向けた。石突を相手に軽く当て、背骨を軸に腰を動かし力を槍に伝達させる。貫く衝撃が騎士に守られたナディアに伝わり、体力を奪う。
「この状況だと巻き込みますか……仕方ありませんね」
 マリアは範囲魔法攻撃を放とうとして、味方を巻き込んでしまうことに気づきその手を止める。範囲攻撃はその特性上、敵味方の選別ができない。そして前衛が倒れれば陣地は崩壊するだろう。やむなく単体攻撃に切り替える。
「次はお前だー! だりゃあ!」
 シールドで白銀騎士団を押し倒すように攻めるナバル。傷ついたものから一人ずつ。その戦略は着実にその数を減らしていた。派手な魔法も一子相伝の武技もないが、それが誰かに劣るというわけではない。ただまっすぐに、仲間を守るためにナバルは戦う。
「あう……。ごめん、なさい……」
 敵の矛先を一心に受け止めていた鈴がその攻撃に耐え切れず、意識を失う。謝罪は『もう守れない』という罪悪感からか。しかしその傷は今まで仲間を守っていた証でもあった。その出自と経験から自らを低く見る鈴。だが仲間の評価は決して低くはないだろう。
 時間ごとに増えていく白銀騎士団。仲間を守りながら傷を重ねていく自由騎士団。
 これが殲滅戦なら、このまま数に押されて自由騎士団は劣勢に立たされていただろう。ナディアの継戦能力に支えられた白銀騎士団を駆逐するには、現状では一手足りなかった。
 だがこれは防衛線。自由騎士達の目的は守ること。次の攻撃隊が出るまで戦線を維持すればいいのだ。
 ナディア自身もそれを理解している。それゆえに焦燥を感じていた。全体を見れば押し切れず、しかし焦って前に出るわけにもいかない。
(……おかしい。ランベール殿の支援が来ない。予定ではもう動いているはずなのに)
 焦る理由はもう一つあった。来るべきはずの別動隊の支援がない。いかにこの橋頭保が堅牢であっても、あれだけの強さを持ったオラクル軍勢を被害なく無害化できるはずがない。少なくとも何らかのアクションがあるはずなのだ。その隙を縫えば――
 ナディアは知らない。その支援が来ることはないことを。ゆえに彼女はいたずらに時間を費やすことになることを。知っていれば、退却か強引に押し切るなどの選択肢が生まれたのだが、彼女は仲間の支援を最後まで信じた。
「特殊弾が来る。陣形Dだ!」
 ディルクが懐中時計を開き、時間を確認する。それは五分経過を示す交代の合図、今まで投石機の特殊薬剤団に苦しめられた白銀騎士団にとって、その一言は緊張を走らせるに十分な言葉だった。盾を構えたすきを逃さず、自由騎士達は交代要員の騎士隊と入れ替わる。
「――しまった!」
 ナディアがディルクに惑わされたと気づくが、時すでに遅し。傷ついたものを抱えながら、自由騎士たちは橋頭保内に撤退する。扉が完全に閉まり、戦場から隔絶される。それを確認し、自由騎士達は脱力して座り込む。
「……長い五分だったな」
 リュリュの放った言葉は、この場にいる自由騎士たち全員の代弁だった。


「大丈夫か! よし、とりあえず体を拭け!」
 治療班の騎士が駆け付け、清潔なタオルと冷たい水が入ったコップを持ってくる。泥と血で汚れた体を拭き、水で喉を潤す。体に染み入るような感覚が戦いで火照った体をゆっくりと冷やしていく。
「すまない。隊長を倒せていれば指揮を落とせたのに」
「いや、よくやってくれた。向こうもかなり疲弊しているようだし、何より相手の戦い方がわかったのは大きい」
 隊長を起点として戦う『白銀旗』率いる白銀騎士団。攻めにくい難敵ではあったが、その火力が橋頭保を一気に攻め落とせるものではないことも理解できた。相手も無限に攻めれるわけではない。いずれ撤退するだろう。
 その意味で言えば、この戦いはイ・ラプセル側の勝利となる。白銀騎士団は兵力を疲弊させ、橋頭保を攻め切ることができなかったのだから。
 
 かくして白銀騎士団はニルヴァン橋頭保を攻めきれず、撤退することとなる。
 撤退を示すのであろう派手な色がついた魔力弾が上がり、波が引くように戦場は静かになる。
 国の威信ともいえる聖堂騎士団の撤退は、シャンバラ民に大きな衝撃を与えることになる。
 しかしその程度でミトラースへの信仰が揺らぐわけではない。否、絶望が深まるほどにシャンバラ民はミトラースの起こすであろう奇跡を待望する。
 その象徴ともいえるデウスギア――アルス・マグナ発射のカウントダウンは、少しずつ進んでいた。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

 どくどくです。
 PBWあるある名前かぶりの巻。

 以上のような結果になりました。なんだこの耐久戦特化パーティは。
 数で押せるかと思いきや、粘られて時間切れの形です。
 MVPは最も効率よく白銀騎士団の連携を崩したグラ様に。ええ、それやられたらそうなります。

 シャンバラとの戦争はまだ続きます。この戦いの結果が如何なるものになるか、それはどくどくにもまだわかりません。
 とまれ、傷を癒して頑張ってください。

 それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済