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気焔、黒く燃えて

●
「ふむ、栄えておるな。忌々しい反逆者どもめ」
宇羅幕府に仕えるニンジャ、妖火(ようか)は眼下に広がる村を眺めて不機嫌そうに呟く。
妖火の一族は幕府のために不都合な存在の粛清に当たっていた。とは言え規模は御庭番衆に劣り、長年冷遇が続いていた。彼自身、ニンジャとしての40年は屈辱を味わったのだ。
そこへ降って湧いたのがアマノホカリの争乱である。妖火にとっては、一族の捲土重来を図るにこの上ない機会だった。
「多少の備えはしているようだが……クク、あのようなもの」
観月村(かんげつむら)はこの辺り一帯では、そこそこに大きな村で発言力もある。ここの若い村長は天津朝廷側への協力を宣言しており、近くの村にも呼び掛けている。たかが村の農民ごときと侮られてはいたが、気付けば幕府側にとって鬱陶しい存在になりつつあった。
そこで妖火は村への襲撃を計画した。危険は少なく、功績は大きい。獲物としては上々の相手である。忍びの術をもってすれば、寡兵でも十二分に討てる相手なのだ。
一族のものは他の作戦に当たっているが、腕の立つ野武士団を味方にすることも出来た。戦力は十分だろう。
「各々方、準備は宜しいか? 幕府に弓退く不忠者を一人残らず焼き尽くしてやろうではないか」
言葉の上では聞こえのいい言葉である。
しかし、妖火の目に浮かんでいるのは、大義の下に力のない者を蹂躙する愉悦だ。自身の境遇への不満を弱者へとぶつけることへの歪んだ喜びだった。
もっとも、付き従うサムライたちにもそれを指摘する者はいない。彼らだって、割りのいい仕事を耳にして協力している食い詰め者なのだ。彼らの頭にはこれから行う暴力と略奪のことだけなのである。
悪しき心の炎は、黒く淀んで熱を増していく。
平和な村に迫りくる破滅を止められる者、それは……。
●
「お集まりいただき恐悦至極。諸君らに頼みたいことがある」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は、演算室にオラクルが揃ったことを確認すると、ゆっくりと切り出した。
「諸君らに向かってほしい場所はアマノホカリである。幕府に与するニンジャが観月という村を襲撃することが分かった。その作戦を止めて欲しい。その村は天津朝廷や我々に対して好意的だ。戦略上、放っておくわけにはいかん」
もちろん、人道の意味でも放置できない話だ。
ニンジャは他の村への見せしめの意味も込めて、観月の村を完膚なきまでに滅ぼすつもりらしい。そのような悪行、許してよい道理はない。
「ニンジャは近隣の洞窟をアジトとして利用しているとのことだ。実際に襲撃が始まってしまっては村民の救助だけで手いっぱいで、敵を倒すことはおぼつかないだろう。そうなる前に決着をつけて欲しい」
周到に準備を行っているようで、作戦が始まったら対応は困難だ。だが、アジトには敵戦力もすべて集まっており、十二分に付け入る隙がある。
「もちろん、敵にも備えはある。しかし、警戒を上手くすり抜けることが出来れば、大きな優位を得られることは間違いない」
一つ目には鳴子や、仕掛けを踏むことで打ち出される弓矢などの罠が隠されている。鋭い感覚の持ち主であれば見つけることが出来るだろう。
二つ目にはニンジャが率いる野武士団には見張りだっている。隠密能力の高いものが多ければ、そう簡単に見つからず、不意が打てるはずだ。
「質問はあるかね? なければ説明は以上だ。良い報告を期待しておるよ」
「ふむ、栄えておるな。忌々しい反逆者どもめ」
宇羅幕府に仕えるニンジャ、妖火(ようか)は眼下に広がる村を眺めて不機嫌そうに呟く。
妖火の一族は幕府のために不都合な存在の粛清に当たっていた。とは言え規模は御庭番衆に劣り、長年冷遇が続いていた。彼自身、ニンジャとしての40年は屈辱を味わったのだ。
そこへ降って湧いたのがアマノホカリの争乱である。妖火にとっては、一族の捲土重来を図るにこの上ない機会だった。
「多少の備えはしているようだが……クク、あのようなもの」
観月村(かんげつむら)はこの辺り一帯では、そこそこに大きな村で発言力もある。ここの若い村長は天津朝廷側への協力を宣言しており、近くの村にも呼び掛けている。たかが村の農民ごときと侮られてはいたが、気付けば幕府側にとって鬱陶しい存在になりつつあった。
そこで妖火は村への襲撃を計画した。危険は少なく、功績は大きい。獲物としては上々の相手である。忍びの術をもってすれば、寡兵でも十二分に討てる相手なのだ。
一族のものは他の作戦に当たっているが、腕の立つ野武士団を味方にすることも出来た。戦力は十分だろう。
「各々方、準備は宜しいか? 幕府に弓退く不忠者を一人残らず焼き尽くしてやろうではないか」
言葉の上では聞こえのいい言葉である。
しかし、妖火の目に浮かんでいるのは、大義の下に力のない者を蹂躙する愉悦だ。自身の境遇への不満を弱者へとぶつけることへの歪んだ喜びだった。
もっとも、付き従うサムライたちにもそれを指摘する者はいない。彼らだって、割りのいい仕事を耳にして協力している食い詰め者なのだ。彼らの頭にはこれから行う暴力と略奪のことだけなのである。
悪しき心の炎は、黒く淀んで熱を増していく。
平和な村に迫りくる破滅を止められる者、それは……。
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「お集まりいただき恐悦至極。諸君らに頼みたいことがある」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は、演算室にオラクルが揃ったことを確認すると、ゆっくりと切り出した。
「諸君らに向かってほしい場所はアマノホカリである。幕府に与するニンジャが観月という村を襲撃することが分かった。その作戦を止めて欲しい。その村は天津朝廷や我々に対して好意的だ。戦略上、放っておくわけにはいかん」
もちろん、人道の意味でも放置できない話だ。
ニンジャは他の村への見せしめの意味も込めて、観月の村を完膚なきまでに滅ぼすつもりらしい。そのような悪行、許してよい道理はない。
「ニンジャは近隣の洞窟をアジトとして利用しているとのことだ。実際に襲撃が始まってしまっては村民の救助だけで手いっぱいで、敵を倒すことはおぼつかないだろう。そうなる前に決着をつけて欲しい」
周到に準備を行っているようで、作戦が始まったら対応は困難だ。だが、アジトには敵戦力もすべて集まっており、十二分に付け入る隙がある。
「もちろん、敵にも備えはある。しかし、警戒を上手くすり抜けることが出来れば、大きな優位を得られることは間違いない」
一つ目には鳴子や、仕掛けを踏むことで打ち出される弓矢などの罠が隠されている。鋭い感覚の持ち主であれば見つけることが出来るだろう。
二つ目にはニンジャが率いる野武士団には見張りだっている。隠密能力の高いものが多ければ、そう簡単に見つからず、不意が打てるはずだ。
「質問はあるかね? なければ説明は以上だ。良い報告を期待しておるよ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.ニンジャ及び野武士団の討伐
こんばんは。
村は焼くもの焼かれるもの、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はアマノホカリでニンジャ及び野武士団と戦っていただければと思います。
●戦場
野武士一味の潜む山中の洞窟。煙でいぶし出すような作戦は、別の出口から逃げられる可能性があるため、向いていません。
内部には罠が仕掛けられており、気付かず入ると敵に悟られるだけでなく、ダメージを受けます。
また、襲撃に備えている見張りがいますが、隠密の工夫を行えば不意打ちが可能です。
●ニンジャと野武士団
宇羅幕府に仕えるニンジャと、彼に雇われたサムライの集団。全体的に弱者に対して暴力を振るうことを好み、強欲な性格をしている。
・妖火
40代のニンジャ。ガリガリに痩せた長身の男。
毒素に反応する魔導の炎を展開する遠距離範囲攻撃(BSの数が多いほど威力)、広域に毒の煙を展開する遠距離範囲攻撃(BS付与、ダメージなし、自身の回避上昇+移動)のスキルを用いる。
また、戦闘開始時に敵全体にバーン2の効果を発生させる(戦闘開始時のみ)。
1体います。
・野武士
妖火に雇われたサムライ集団。基本食い詰め者。
低命中高威力の近接単体攻撃スキルを用いる。
8体います。
村は焼くもの焼かれるもの、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はアマノホカリでニンジャ及び野武士団と戦っていただければと思います。
●戦場
野武士一味の潜む山中の洞窟。煙でいぶし出すような作戦は、別の出口から逃げられる可能性があるため、向いていません。
内部には罠が仕掛けられており、気付かず入ると敵に悟られるだけでなく、ダメージを受けます。
また、襲撃に備えている見張りがいますが、隠密の工夫を行えば不意打ちが可能です。
●ニンジャと野武士団
宇羅幕府に仕えるニンジャと、彼に雇われたサムライの集団。全体的に弱者に対して暴力を振るうことを好み、強欲な性格をしている。
・妖火
40代のニンジャ。ガリガリに痩せた長身の男。
毒素に反応する魔導の炎を展開する遠距離範囲攻撃(BSの数が多いほど威力)、広域に毒の煙を展開する遠距離範囲攻撃(BS付与、ダメージなし、自身の回避上昇+移動)のスキルを用いる。
また、戦闘開始時に敵全体にバーン2の効果を発生させる(戦闘開始時のみ)。
1体います。
・野武士
妖火に雇われたサムライ集団。基本食い詰め者。
低命中高威力の近接単体攻撃スキルを用いる。
8体います。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
6個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
7日
参加人数
5/6
5/6
公開日
2021年01月05日
2021年01月05日
†メイン参加者 5人†

●
野鼠が1匹、洞窟の中から出て来る。
そして、そのままわき目も振らずに目指す先にいたのは、コーラルピンクの髪を長く伸ばした錬金術師。頭から生えた3本の角はそれが『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)だと語っている。
「ロディ、お疲れ様だ」
野鼠の正体はマグノリアの作り出したホムンクルスだ。
この先の洞窟には村の襲撃を目論む野武士の一団が潜んでいる。その偵察のため、ロディは命を得ることとなった。
(ほんの10分の命に対して名前を付けるなんてね)
マグノリアはそんな自身に起きた小さな変化に驚いていた。名無しだと悲しむ相手がいる、それだけの理由だが、自分がそれを受け入れるとは思わなかった。そして、その変化は存外に不快なものではなかったのだ。
そして、ロディはその短い命の中で、与えられた使命を十分に果たした。
偵察の結果をもとに、自由騎士たちは薄暗い洞窟の中へと入っていく。
「そこだよ」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が小声で仲間たちに警戒を促す。まだ幼いオニヒトの少女であるが、役者業と同じく武術の修行は積んでいるのだ。見た目以上にその実力は高く、勘も鋭い。この手の罠を見つけるのは得意な方だ
「もうすぐのはずです。気を付けてください」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)が事前に調べた内部の構造から、奥に大人数が居座れる空間があることを知っていた。生憎と村人とコンタクトを取る時間までは取れなかったが、事前に精確な情報を得ることは出来た。
探ってみると、たしかに見張りの姿もある。敵が潜んでいる場所はここで間違いはないだろう。
敵の様子を確認すると、セアラは近くの壁をそっと撫でる。
「ここから行けそうですね」
そう言うと、セアラの身体が壁の中へと吸い込まれていく。彼女の習得しているスキルの効果だ。
一見すると気弱な貴族の娘にしか見えないセアラだが、彼女だって祖国と仕える神のために勇躍した自由騎士の一人である。見た目で侮ると痛い目を見るのは相手の方だ。
セアラが姿を消したことにタイミングを合わせて、カノンは攻撃に備えて、自分の気配を殺す。
もっとも、裏腹にその内心は怒りに燃えていた。
(幕府や天朝云々はともかく戦う力の無い人を嬲り殺しにするような奴は許しておけないよ! 絶対懲らしめてやるんだから!)
そして、その怒りを力に変えて、虎狼の牙のごとく鋭い一撃を向ける。
(舌噛まないでよ!)
同時に襲い掛かったのはセアラの放つ魔力の渦だ。これを不意にもらったのであれば、見張りは仕事を果たすことが出来ない。
見張りが無力化されたことを確認し、自由騎士たちは野武士たちが潜む空間へと踊りこんだ。
「な、なんだ!?」
「敵か?」
「気付くのが遅いな。全力で殲滅してやるぜ」
今まで音を出すのを我慢して気づかっていたが、もう憚る必要はない。混乱する野武士たちに向かって咆哮を上げたのはウェルス・ライヒトゥーム(CL3000033)だ。
ウェルスの雄たけびと共に、浮足立った野武士たちを魔力の渦が包んでいく。先に動きを封じて、確実に仕留めるための作戦だ。パッと見には力一辺倒にも見えるが、実際には優秀な射手なのである。
「安心しろ、俺らは命までは取るつもりは無い。まぁ、突き出した先でどうなるかまでは知らん」
歯をむき出してにぃっと笑みを浮かべるウェルス。
その顔は比喩表現などではなしに、狂暴な肉食獣の笑顔だった。
「お前達の企て、潰してあげるわ! 覚悟しなさい」
同じく隠れる必要はないとばかりに存分に拳を振るうのは、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だ。ここまでは罠や見張りを警戒して大人しくしていたが、ここらが我慢の限界だ。
そもそもからして、この手の外道が彼女の最も嫌う所なのである。
幸いにして、野武士たちも明かりは用意していた。自分が持っていたカンテラを地面に転がすと、こぶしを握り締めて、力強く振り抜く。愛用の籠手も出番が来たことを喜んでいるかのようだ。
「あ、あれはエルシー・スカーレットか!?」
野武士の一人がエルシーのことに気付いて声を上げる。気付けば緋色の拳の名はアマノホカリの地にまで鳴り響いていた。
機先を制することで自由騎士たちは野武士たちに痛打を与えることに成功する。だが、邪悪な炎の燻りが消えていなかったことを証明するように、突如爆炎が自由騎士たちへと襲い掛かった。
●
アマノホカリには独自に編み出された戦闘技術の体系が存在する。有名なものとしてはサムライの剣技がある。
その中でも事前に仕込みを行うことで強力な効果を発揮する電光石火の早業は強力なものだ。これによってかく乱を行い、さらに毒素による攻撃を重ねていくのが、このニンジャの得意とする戦法だった。
しかし、アマノホカリとの戦端が開かれて時は久しく、自由騎士は十分に対策を取っていた。
「イ・ラプセルとしては、天津朝廷側への協力を宣言している村が襲われるのは見過ごせませんね」
セアラの魔導医学の術式が、炎のまき散らす穢れを祓っていく。
セアラは元来、争いごとが苦手で内気な性格である。戦いの場に出るような性格ではない。だけど、大事に育ててくれた人のために戦場に出ることを決意した。それに恥じるような真似は出来ない。
「……どちらにせよ被害者が出るのは嫌ですから」
これは戦争だ。犠牲者を0にするなど、神々にだって出来ない相談だ。だけども、被害を減らすことは不可能ではない。
少なくとも被害を増やすことだけを望むものを見過ごすわけにはいかないのだ。
そして、思わぬ相手の登場に当惑する敵に向かって、マグノリアは畳みかける。
「自身の癇癪の為に巻き添えになる側の気持ち等、考えた事も無いのだろう」
聖遺物でもある球体と容器を手にマグノリアは錬金術を行使する。それは「劣化」の概念を付与し、武装を弱体化させるもの。たとえ、アマノホカリの装備であったところで関係なしだ。
「君自体に、余りに適性が無い……其れだけだ」
或いは、このニンジャにも同胞を想う気持ちがあったのかもしれない。境遇だけの話をするのなら、同情の余地もある。
だとしても、自分の気持ちしか考えられないような狭量な人物に、運が向くはずはない。そのような者の自由にさせるわけにはいかない。
自由騎士たちの攻撃によって、野武士たちの動きは大きく制限を受ける。それでも彼らの刀は必殺。迂闊に近づけば痛手を受ける強力な武器だ。
首魁であるニンジャも毒の煙で自由騎士たちの行く手を阻んでくる。
そして、そんな所へ果敢に乗り込んでいくのがエルシーだ。
(洞窟内で煙とか正気?)
そういうことを考えない狂人なのか、よほど技の扱いに自信が在るのか。
どちらにせよ、そんなことに巻き込まれて倒れるわけにはいかない。
呼吸を抑えながら、リズムに合わせて拳を繰り出すエルシー。
閉鎖空間で単調になりがちな刀の攻撃をかわし、内側に入り込んで拳を放つ。
リズミカルに繰り出される打撃は、まさに殺戮円舞曲だ。
「平和な村で生活する人達を虐殺するつもり? そんなこと、ぜっっったいに許さない!」
宇羅幕府のニンジャであるのならここで倒すことに異論はないし、何よりもその性根が気に食わない。悪に向ける緋色の一撃は、何よりも鋭いものだった。
その苛烈な攻撃の前に倒れていく野武士たち。
算を乱して逃げようとする者も、そもそも移動することが出来ないか、マグノリアの足止めもあって逃亡は叶わない。
「見栄と嫉妬の解消で村を襲うなんて男以前に人間として最低だね!」
いつの間にかニンジャとの距離を詰めていたのはカノンだ。小さな体の全身を発条にするようにして、死角からフックを決める。
苦悶と憎しみの視線を向けて来るニンジャ。
しかし、カノンの動きは止まらない。
「見える物なら躱してみなよ!」
カノンが取るのは正拳の基本動作。
ただの動作ではない。4つの動作を同時に行うカノンの秘技だ。人の脳が2つ以上の動作を認識できないため、それは必殺必中、「神の見えざる手」となって敵を穿つ。
狙ったのは顔面だ。自害すら許さないとその歯を叩き折った。
痛みの衝撃で身動きの出来なくなったニンジャは、いつの間にか目の前に紳士用御用達の服を纏った巨漢の熊がいることを察した。当然、ウェルスだ。
「あんた、仕事の皮をかぶって八つ当たりに略奪しようって話らしいな。俺の趣味じゃないタイプだ。遠慮はしねえ」
ウェルスの手に握られるのはマキナ=ギアから取り出した超大型リボルバー。
その鋼が外道を許さんとばかり、ギラリと獰猛に輝いた。
「今回以外でも碌な事してなさそうな連中だし、心はまったく痛まん」
ウェルスが引き金を絞ると、規格外の巨弾が6発撃ち込まれる。そんなものを喰らって、普通の人間が立っていられるはずもない。
弾丸を撃ち尽くしたリボルバーを手に、ウェルスは満足げな笑みを浮かべた。
●
翌日、自由騎士たちは朝廷側の役人へニンジャと野武士たちを引き渡す場に立っていた。完膚なきまでに叩き伏せられた彼らに、命はあっても、とてもこれ以上歯向かう気力までは残っていなかった。
そんな景色を横目に、マグノリアは観月村の村長から聞いた話を思い返していた。彼は幕府と手を組んだヴィスマルク、朝廷と結んだイ・ラプセル、それぞれの評判を聞いて決意を固めたらしい。この形になるまでは一方ならぬ苦労もあったとか。
村の判断が正しかったのか、それは自由騎士たちが答えを示していくこととなる。
その内に引き渡しは終わり、ウェルスは役人たちに挨拶をして送り出す。
「そいつらのこと、よろしく頼むぜ」
「悪い事は出来ないものだよ。真面目に働くのが一番!」
カノンの声が明るく響く。
アマノホカリの情勢は、今なお争乱の中にある。どのような未来が待っているのか、語れるものはおるまい。だが、自由騎士たちの戦いは一歩一歩、確かに未来への道を作っているのだ。
野鼠が1匹、洞窟の中から出て来る。
そして、そのままわき目も振らずに目指す先にいたのは、コーラルピンクの髪を長く伸ばした錬金術師。頭から生えた3本の角はそれが『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)だと語っている。
「ロディ、お疲れ様だ」
野鼠の正体はマグノリアの作り出したホムンクルスだ。
この先の洞窟には村の襲撃を目論む野武士の一団が潜んでいる。その偵察のため、ロディは命を得ることとなった。
(ほんの10分の命に対して名前を付けるなんてね)
マグノリアはそんな自身に起きた小さな変化に驚いていた。名無しだと悲しむ相手がいる、それだけの理由だが、自分がそれを受け入れるとは思わなかった。そして、その変化は存外に不快なものではなかったのだ。
そして、ロディはその短い命の中で、与えられた使命を十分に果たした。
偵察の結果をもとに、自由騎士たちは薄暗い洞窟の中へと入っていく。
「そこだよ」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)が小声で仲間たちに警戒を促す。まだ幼いオニヒトの少女であるが、役者業と同じく武術の修行は積んでいるのだ。見た目以上にその実力は高く、勘も鋭い。この手の罠を見つけるのは得意な方だ
「もうすぐのはずです。気を付けてください」
セアラ・ラングフォード(CL3000634)が事前に調べた内部の構造から、奥に大人数が居座れる空間があることを知っていた。生憎と村人とコンタクトを取る時間までは取れなかったが、事前に精確な情報を得ることは出来た。
探ってみると、たしかに見張りの姿もある。敵が潜んでいる場所はここで間違いはないだろう。
敵の様子を確認すると、セアラは近くの壁をそっと撫でる。
「ここから行けそうですね」
そう言うと、セアラの身体が壁の中へと吸い込まれていく。彼女の習得しているスキルの効果だ。
一見すると気弱な貴族の娘にしか見えないセアラだが、彼女だって祖国と仕える神のために勇躍した自由騎士の一人である。見た目で侮ると痛い目を見るのは相手の方だ。
セアラが姿を消したことにタイミングを合わせて、カノンは攻撃に備えて、自分の気配を殺す。
もっとも、裏腹にその内心は怒りに燃えていた。
(幕府や天朝云々はともかく戦う力の無い人を嬲り殺しにするような奴は許しておけないよ! 絶対懲らしめてやるんだから!)
そして、その怒りを力に変えて、虎狼の牙のごとく鋭い一撃を向ける。
(舌噛まないでよ!)
同時に襲い掛かったのはセアラの放つ魔力の渦だ。これを不意にもらったのであれば、見張りは仕事を果たすことが出来ない。
見張りが無力化されたことを確認し、自由騎士たちは野武士たちが潜む空間へと踊りこんだ。
「な、なんだ!?」
「敵か?」
「気付くのが遅いな。全力で殲滅してやるぜ」
今まで音を出すのを我慢して気づかっていたが、もう憚る必要はない。混乱する野武士たちに向かって咆哮を上げたのはウェルス・ライヒトゥーム(CL3000033)だ。
ウェルスの雄たけびと共に、浮足立った野武士たちを魔力の渦が包んでいく。先に動きを封じて、確実に仕留めるための作戦だ。パッと見には力一辺倒にも見えるが、実際には優秀な射手なのである。
「安心しろ、俺らは命までは取るつもりは無い。まぁ、突き出した先でどうなるかまでは知らん」
歯をむき出してにぃっと笑みを浮かべるウェルス。
その顔は比喩表現などではなしに、狂暴な肉食獣の笑顔だった。
「お前達の企て、潰してあげるわ! 覚悟しなさい」
同じく隠れる必要はないとばかりに存分に拳を振るうのは、『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)だ。ここまでは罠や見張りを警戒して大人しくしていたが、ここらが我慢の限界だ。
そもそもからして、この手の外道が彼女の最も嫌う所なのである。
幸いにして、野武士たちも明かりは用意していた。自分が持っていたカンテラを地面に転がすと、こぶしを握り締めて、力強く振り抜く。愛用の籠手も出番が来たことを喜んでいるかのようだ。
「あ、あれはエルシー・スカーレットか!?」
野武士の一人がエルシーのことに気付いて声を上げる。気付けば緋色の拳の名はアマノホカリの地にまで鳴り響いていた。
機先を制することで自由騎士たちは野武士たちに痛打を与えることに成功する。だが、邪悪な炎の燻りが消えていなかったことを証明するように、突如爆炎が自由騎士たちへと襲い掛かった。
●
アマノホカリには独自に編み出された戦闘技術の体系が存在する。有名なものとしてはサムライの剣技がある。
その中でも事前に仕込みを行うことで強力な効果を発揮する電光石火の早業は強力なものだ。これによってかく乱を行い、さらに毒素による攻撃を重ねていくのが、このニンジャの得意とする戦法だった。
しかし、アマノホカリとの戦端が開かれて時は久しく、自由騎士は十分に対策を取っていた。
「イ・ラプセルとしては、天津朝廷側への協力を宣言している村が襲われるのは見過ごせませんね」
セアラの魔導医学の術式が、炎のまき散らす穢れを祓っていく。
セアラは元来、争いごとが苦手で内気な性格である。戦いの場に出るような性格ではない。だけど、大事に育ててくれた人のために戦場に出ることを決意した。それに恥じるような真似は出来ない。
「……どちらにせよ被害者が出るのは嫌ですから」
これは戦争だ。犠牲者を0にするなど、神々にだって出来ない相談だ。だけども、被害を減らすことは不可能ではない。
少なくとも被害を増やすことだけを望むものを見過ごすわけにはいかないのだ。
そして、思わぬ相手の登場に当惑する敵に向かって、マグノリアは畳みかける。
「自身の癇癪の為に巻き添えになる側の気持ち等、考えた事も無いのだろう」
聖遺物でもある球体と容器を手にマグノリアは錬金術を行使する。それは「劣化」の概念を付与し、武装を弱体化させるもの。たとえ、アマノホカリの装備であったところで関係なしだ。
「君自体に、余りに適性が無い……其れだけだ」
或いは、このニンジャにも同胞を想う気持ちがあったのかもしれない。境遇だけの話をするのなら、同情の余地もある。
だとしても、自分の気持ちしか考えられないような狭量な人物に、運が向くはずはない。そのような者の自由にさせるわけにはいかない。
自由騎士たちの攻撃によって、野武士たちの動きは大きく制限を受ける。それでも彼らの刀は必殺。迂闊に近づけば痛手を受ける強力な武器だ。
首魁であるニンジャも毒の煙で自由騎士たちの行く手を阻んでくる。
そして、そんな所へ果敢に乗り込んでいくのがエルシーだ。
(洞窟内で煙とか正気?)
そういうことを考えない狂人なのか、よほど技の扱いに自信が在るのか。
どちらにせよ、そんなことに巻き込まれて倒れるわけにはいかない。
呼吸を抑えながら、リズムに合わせて拳を繰り出すエルシー。
閉鎖空間で単調になりがちな刀の攻撃をかわし、内側に入り込んで拳を放つ。
リズミカルに繰り出される打撃は、まさに殺戮円舞曲だ。
「平和な村で生活する人達を虐殺するつもり? そんなこと、ぜっっったいに許さない!」
宇羅幕府のニンジャであるのならここで倒すことに異論はないし、何よりもその性根が気に食わない。悪に向ける緋色の一撃は、何よりも鋭いものだった。
その苛烈な攻撃の前に倒れていく野武士たち。
算を乱して逃げようとする者も、そもそも移動することが出来ないか、マグノリアの足止めもあって逃亡は叶わない。
「見栄と嫉妬の解消で村を襲うなんて男以前に人間として最低だね!」
いつの間にかニンジャとの距離を詰めていたのはカノンだ。小さな体の全身を発条にするようにして、死角からフックを決める。
苦悶と憎しみの視線を向けて来るニンジャ。
しかし、カノンの動きは止まらない。
「見える物なら躱してみなよ!」
カノンが取るのは正拳の基本動作。
ただの動作ではない。4つの動作を同時に行うカノンの秘技だ。人の脳が2つ以上の動作を認識できないため、それは必殺必中、「神の見えざる手」となって敵を穿つ。
狙ったのは顔面だ。自害すら許さないとその歯を叩き折った。
痛みの衝撃で身動きの出来なくなったニンジャは、いつの間にか目の前に紳士用御用達の服を纏った巨漢の熊がいることを察した。当然、ウェルスだ。
「あんた、仕事の皮をかぶって八つ当たりに略奪しようって話らしいな。俺の趣味じゃないタイプだ。遠慮はしねえ」
ウェルスの手に握られるのはマキナ=ギアから取り出した超大型リボルバー。
その鋼が外道を許さんとばかり、ギラリと獰猛に輝いた。
「今回以外でも碌な事してなさそうな連中だし、心はまったく痛まん」
ウェルスが引き金を絞ると、規格外の巨弾が6発撃ち込まれる。そんなものを喰らって、普通の人間が立っていられるはずもない。
弾丸を撃ち尽くしたリボルバーを手に、ウェルスは満足げな笑みを浮かべた。
●
翌日、自由騎士たちは朝廷側の役人へニンジャと野武士たちを引き渡す場に立っていた。完膚なきまでに叩き伏せられた彼らに、命はあっても、とてもこれ以上歯向かう気力までは残っていなかった。
そんな景色を横目に、マグノリアは観月村の村長から聞いた話を思い返していた。彼は幕府と手を組んだヴィスマルク、朝廷と結んだイ・ラプセル、それぞれの評判を聞いて決意を固めたらしい。この形になるまでは一方ならぬ苦労もあったとか。
村の判断が正しかったのか、それは自由騎士たちが答えを示していくこととなる。
その内に引き渡しは終わり、ウェルスは役人たちに挨拶をして送り出す。
「そいつらのこと、よろしく頼むぜ」
「悪い事は出来ないものだよ。真面目に働くのが一番!」
カノンの声が明るく響く。
アマノホカリの情勢は、今なお争乱の中にある。どのような未来が待っているのか、語れるものはおるまい。だが、自由騎士たちの戦いは一歩一歩、確かに未来への道を作っているのだ。