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【インディオ】Below zero! 無価値と呼ばれた者達!

●マイナスナンバー
パノプティコンは国民に階級を与えることで管理を行う監視国家だ。
蒸気ドローンと国民管理機構により、神アイドーネウスは国民すべてを管理する。逆に言えば神に管理されていない者は、国民として認められない。
パノプティコン領地において、アイドーネウスの管理下にない存在が二種類いた。
一つはインディオ。元々この地に住んでいた先住民族だが、パノプティコンが支配を広げることで故郷を追いやられる。今でも抵抗を続けているが、それが功を為していない事は誰の目にも明白だった。
そしてもう一つ。マイナスナンバー。マザリモノのような元からパノプティコンに受け入れられない種族や様々な理由で階級から外れた存在。そういった理由でパノプティコンの管理から放逐された人達だ。彼らは国からの庇護を受けることが出来ない。事実上の流刑だ。
それを自由だ、と喜ぶ者はいない。衣食住の保証もない。パノプティコン国民は彼らを助けることはない。自然の暴威、イブリースの恐怖、そういった障害から自分と家族を守っていく。明日の食糧すらままならず、生きる気力を失っていく。
唯一の希望は国外に逃げることだが、パノプティコンはそれを許さない。蒸気ドローンが彼らの集落を監視し、異常があれば即座に兵を差し向ける。一人の逃亡者が発覚すれば、そのコミューン全てが死に絶える。
故にパノプティコンからの国外逃亡者は極端に少なくなる。一人の脱出の裏には、多くの犠牲が存在するのだ。
●自由騎士
「私が紹介するのは、そんな『マイナスナンバー』と呼ばれる者達が集まる集落の一つだ」
アタカパと呼ばれた男が移動しながら説明をしていた。蒸気ドローン周回の狭間を縫うように岩陰に隠れ、自由騎士達を誘導する。
「彼らは生命の危機にさらされている。現状のままの生活では行き詰まりを感じながら、しかし戦わない事を選択した者だ」
戦ってもどうしようもない。行動しても報われない。命があるならそれでいい。それが彼らを縛っていた。
だが、それを払拭すれば立ち上がることが出来るだろう。そうすれば、パノプティコン攻略のためのキーとなる。彼らの利点は数と『警戒されている』ことだ。作戦はいくらでも立てられる。
「我々インディオの中にも彼らを思う者もいる。君達が彼らをどうするかによっては、一時力を貸してもいい、と思う者もいる」
同じ大地に住み、同じ国に虐げられた者同士として思う所があるのだろう。アタカパの言葉が真実なら、インディオの一部が戦争の時に力を貸してくれるかもしれない。
「老婆心かもしれないが」
そう前置きをしてアタパカは語る。
「正義や善性は立派な価値観だが、それは絶対ではない。君達のような生活をしていれば想像もつかないだろうが、明日生きる事さえできない者もいる。生きる気力がない者もいる。
そういった者達には『自分は見捨てられていない』『希望がある』と言うだけで立ち上がれることもあるのだよ」
我々は部族結束の為に彼らを受け入れられなかったが、と言って話をしめる。
そうして案内された集落。崖の壁面。下腹から中腹辺りにあいた小さな洞穴の集合体。木の梯子と橋のみが各洞穴を繋ぎ、ボロボロの布のカーテンのみで外からの雨風を凌いでいた。定期的に飛んでくる蒸気ドローンの合間を縫うように、『マイナスナンバー』と呼ばれる者達に接触する自由騎士達。
ゼロ以下と評され、己の価値を失った者達。その表情は曇っており、自由騎士達を見ても反応を示さない。
全てがどうでもいい。無言でそう語っていた。
パノプティコンは国民に階級を与えることで管理を行う監視国家だ。
蒸気ドローンと国民管理機構により、神アイドーネウスは国民すべてを管理する。逆に言えば神に管理されていない者は、国民として認められない。
パノプティコン領地において、アイドーネウスの管理下にない存在が二種類いた。
一つはインディオ。元々この地に住んでいた先住民族だが、パノプティコンが支配を広げることで故郷を追いやられる。今でも抵抗を続けているが、それが功を為していない事は誰の目にも明白だった。
そしてもう一つ。マイナスナンバー。マザリモノのような元からパノプティコンに受け入れられない種族や様々な理由で階級から外れた存在。そういった理由でパノプティコンの管理から放逐された人達だ。彼らは国からの庇護を受けることが出来ない。事実上の流刑だ。
それを自由だ、と喜ぶ者はいない。衣食住の保証もない。パノプティコン国民は彼らを助けることはない。自然の暴威、イブリースの恐怖、そういった障害から自分と家族を守っていく。明日の食糧すらままならず、生きる気力を失っていく。
唯一の希望は国外に逃げることだが、パノプティコンはそれを許さない。蒸気ドローンが彼らの集落を監視し、異常があれば即座に兵を差し向ける。一人の逃亡者が発覚すれば、そのコミューン全てが死に絶える。
故にパノプティコンからの国外逃亡者は極端に少なくなる。一人の脱出の裏には、多くの犠牲が存在するのだ。
●自由騎士
「私が紹介するのは、そんな『マイナスナンバー』と呼ばれる者達が集まる集落の一つだ」
アタカパと呼ばれた男が移動しながら説明をしていた。蒸気ドローン周回の狭間を縫うように岩陰に隠れ、自由騎士達を誘導する。
「彼らは生命の危機にさらされている。現状のままの生活では行き詰まりを感じながら、しかし戦わない事を選択した者だ」
戦ってもどうしようもない。行動しても報われない。命があるならそれでいい。それが彼らを縛っていた。
だが、それを払拭すれば立ち上がることが出来るだろう。そうすれば、パノプティコン攻略のためのキーとなる。彼らの利点は数と『警戒されている』ことだ。作戦はいくらでも立てられる。
「我々インディオの中にも彼らを思う者もいる。君達が彼らをどうするかによっては、一時力を貸してもいい、と思う者もいる」
同じ大地に住み、同じ国に虐げられた者同士として思う所があるのだろう。アタカパの言葉が真実なら、インディオの一部が戦争の時に力を貸してくれるかもしれない。
「老婆心かもしれないが」
そう前置きをしてアタパカは語る。
「正義や善性は立派な価値観だが、それは絶対ではない。君達のような生活をしていれば想像もつかないだろうが、明日生きる事さえできない者もいる。生きる気力がない者もいる。
そういった者達には『自分は見捨てられていない』『希望がある』と言うだけで立ち上がれることもあるのだよ」
我々は部族結束の為に彼らを受け入れられなかったが、と言って話をしめる。
そうして案内された集落。崖の壁面。下腹から中腹辺りにあいた小さな洞穴の集合体。木の梯子と橋のみが各洞穴を繋ぎ、ボロボロの布のカーテンのみで外からの雨風を凌いでいた。定期的に飛んでくる蒸気ドローンの合間を縫うように、『マイナスナンバー』と呼ばれる者達に接触する自由騎士達。
ゼロ以下と評され、己の価値を失った者達。その表情は曇っており、自由騎士達を見ても反応を示さない。
全てがどうでもいい。無言でそう語っていた。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.マイナスナンバーと邂逅し、彼らと話をする
どくどくです。
全二回と言ったな。あれは嘘だ!
このシリーズは全三回のシリーズ物三回目です。……選択によっては四回目が発生するかもしれません。
この依頼で得られた結果を元に、パノプティコン領『港町3356』攻略を行うことになります。
●説明っ!
パノプティコンに隠密潜入してインディオに接触した自由騎士達。その交渉の結果、パノプティコンの管理から弾かれた『マイナスナンバー』と呼ばれる存在を紹介されます。
彼らは種族や病床といった様々な理由からアイドーネウスの管理から外れ、流刑と言う形でパノプティコンが指定した場所で生活しています。パノプティコンも彼らを国民と認めず、そこで死のうが関与しないつもりのようです。
逃亡だけは許さず、逃亡が発覚すればその集落全てを殺すと言われており、逃げることもできずに絶望の中生きている状態です。彼らも自分達の未来は見えているため、希望の糸があればすがるように食らいつくでしょう。
彼らをどう説得し、どう導くかで決戦の効果が変わります。下記にいくつか例を示すますが、それ以外の説得や導きも可能です。その場合、どのような効果になるかはどくどくが判断します。
【1】『マイナスナンバー』を皆殺しにする
パノプティコン兵士に扮し、集落を皆殺しにします。数名の『マイナスナンバー』を生かし、逃がすことで他の集落にこの惨劇を伝達させます。
自暴自棄になった彼らは生きるために一斉蜂起します。まず勝ち目はありません。ですがそちらにパノプティコンはそちらに軍を向ける必要があるため、イ・ラプセルに向ける軍勢が割かれ、決戦のパノプティコン兵士の数が減ります。
【2】『マイナスナンバー』に戦うように扇動する
イ・ラプセルが攻める事を伝え、蜂起させます。イ・ラプセルと共闘する形になります。
不意をつくことはできませんが、決戦時にイ・ラプセル軍と合流して身を挺して盾になってくれます。データ的には決戦時のHPが増加します。
【3】『マイナスナンバー』にサポートしてもらう
イ・ラプセルが攻める事を伝え、蜂起させます。イ・ラプセルと共闘する形になります。
『港町3356』に繋がる地下道を教えてもらえます。『マイナスナンバー』達は自由騎士の地下道潜入を悟らせない為の陽動作戦を行うこととなるでしょう。
決戦と同時に港町襲撃依頼(ベリーハード)が【インディオ】シリーズ依頼の追加で発生します。その成否で決戦の流れ(援軍や地形状況等)が変化します。
【4】『マイナスナンバー』に何もしてもらわない
戦争には参加してもらわない選択です。
言うまでもなく、決戦は厳しいものとなるでしょう。
上記はあくまで一例です。他にもさまざまなやり方があるでしょう。その影響などは、どくどくが判断します。
プレイング時点で意見が割れていた時、多数決を取ります。数が同じだった場合、個々のプレイング内容で決定します。
●『マイナスナンバー』(数多数)
様々な理由でパノプティコンの支配から放逐された者です。死を選ぶでもなく、逃亡するでもなく、ただ緩慢と生きています。マザリモノや、怪我などの理由で働けなくなったものが大半です。全員非オラクル。なので一部非戦で誘導や説得は可能です。
大きく三種類に分かれます。
・戦っても仕方ない
元兵士と言った軍人関係。パノプティコン軍の強さを知っているため抵抗を諦めた者です。軍務を漏らすと集落皆殺しにされると言われているため、頑として軍の情報は話しません。
・行動しても報われない
病床、もしくはマザリモノ迫害などで放逐され、労働の価値を失った者達です。何をしても無駄と思い、行動を放棄しています。
・命があるならそれでいい
放逐された者達の様々な『死』をみた者達です。今のままでも生きているならそれでいい。怯えと諦念が行動を制限しています。
●インディオ
アタカパ・ブルが同行しています。彼は自由騎士の行動に口出ししません。ただ結果を見守ります。襲われたら抵抗しますが、強さは難易度相応です。
自由騎士達の行動の結果で、インディオの一部が参戦する可能性があります。
●場所情報
パノプティコン領地にある崖。そこに空いた幾つかの洞窟の中。何とか雨風が防げる洞窟にマイナスナンバー達は住んでいます。湧水をすすり、パノプティコンに許された時間で行うことが出来る狩りで餓死をしのいでいる現状です。
蒸気ドローンは三〇分周期でに飛んできます。洞窟内に居れば見つかることはありませんが、外で狩り等をすれば蒸気ドローンに見つかるでしょう。
時刻は夕方。日が沈む一時間前とします。皆殺しにして闇に紛らせるにはいい時間でしょう。
皆様のプレイングをお待ちしています。
全二回と言ったな。あれは嘘だ!
このシリーズは全三回のシリーズ物三回目です。……選択によっては四回目が発生するかもしれません。
この依頼で得られた結果を元に、パノプティコン領『港町3356』攻略を行うことになります。
●説明っ!
パノプティコンに隠密潜入してインディオに接触した自由騎士達。その交渉の結果、パノプティコンの管理から弾かれた『マイナスナンバー』と呼ばれる存在を紹介されます。
彼らは種族や病床といった様々な理由からアイドーネウスの管理から外れ、流刑と言う形でパノプティコンが指定した場所で生活しています。パノプティコンも彼らを国民と認めず、そこで死のうが関与しないつもりのようです。
逃亡だけは許さず、逃亡が発覚すればその集落全てを殺すと言われており、逃げることもできずに絶望の中生きている状態です。彼らも自分達の未来は見えているため、希望の糸があればすがるように食らいつくでしょう。
彼らをどう説得し、どう導くかで決戦の効果が変わります。下記にいくつか例を示すますが、それ以外の説得や導きも可能です。その場合、どのような効果になるかはどくどくが判断します。
【1】『マイナスナンバー』を皆殺しにする
パノプティコン兵士に扮し、集落を皆殺しにします。数名の『マイナスナンバー』を生かし、逃がすことで他の集落にこの惨劇を伝達させます。
自暴自棄になった彼らは生きるために一斉蜂起します。まず勝ち目はありません。ですがそちらにパノプティコンはそちらに軍を向ける必要があるため、イ・ラプセルに向ける軍勢が割かれ、決戦のパノプティコン兵士の数が減ります。
【2】『マイナスナンバー』に戦うように扇動する
イ・ラプセルが攻める事を伝え、蜂起させます。イ・ラプセルと共闘する形になります。
不意をつくことはできませんが、決戦時にイ・ラプセル軍と合流して身を挺して盾になってくれます。データ的には決戦時のHPが増加します。
【3】『マイナスナンバー』にサポートしてもらう
イ・ラプセルが攻める事を伝え、蜂起させます。イ・ラプセルと共闘する形になります。
『港町3356』に繋がる地下道を教えてもらえます。『マイナスナンバー』達は自由騎士の地下道潜入を悟らせない為の陽動作戦を行うこととなるでしょう。
決戦と同時に港町襲撃依頼(ベリーハード)が【インディオ】シリーズ依頼の追加で発生します。その成否で決戦の流れ(援軍や地形状況等)が変化します。
【4】『マイナスナンバー』に何もしてもらわない
戦争には参加してもらわない選択です。
言うまでもなく、決戦は厳しいものとなるでしょう。
上記はあくまで一例です。他にもさまざまなやり方があるでしょう。その影響などは、どくどくが判断します。
プレイング時点で意見が割れていた時、多数決を取ります。数が同じだった場合、個々のプレイング内容で決定します。
●『マイナスナンバー』(数多数)
様々な理由でパノプティコンの支配から放逐された者です。死を選ぶでもなく、逃亡するでもなく、ただ緩慢と生きています。マザリモノや、怪我などの理由で働けなくなったものが大半です。全員非オラクル。なので一部非戦で誘導や説得は可能です。
大きく三種類に分かれます。
・戦っても仕方ない
元兵士と言った軍人関係。パノプティコン軍の強さを知っているため抵抗を諦めた者です。軍務を漏らすと集落皆殺しにされると言われているため、頑として軍の情報は話しません。
・行動しても報われない
病床、もしくはマザリモノ迫害などで放逐され、労働の価値を失った者達です。何をしても無駄と思い、行動を放棄しています。
・命があるならそれでいい
放逐された者達の様々な『死』をみた者達です。今のままでも生きているならそれでいい。怯えと諦念が行動を制限しています。
●インディオ
アタカパ・ブルが同行しています。彼は自由騎士の行動に口出ししません。ただ結果を見守ります。襲われたら抵抗しますが、強さは難易度相応です。
自由騎士達の行動の結果で、インディオの一部が参戦する可能性があります。
●場所情報
パノプティコン領地にある崖。そこに空いた幾つかの洞窟の中。何とか雨風が防げる洞窟にマイナスナンバー達は住んでいます。湧水をすすり、パノプティコンに許された時間で行うことが出来る狩りで餓死をしのいでいる現状です。
蒸気ドローンは三〇分周期でに飛んできます。洞窟内に居れば見つかることはありませんが、外で狩り等をすれば蒸気ドローンに見つかるでしょう。
時刻は夕方。日が沈む一時間前とします。皆殺しにして闇に紛らせるにはいい時間でしょう。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
4個
4個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/10
8/10
公開日
2020年08月15日
2020年08月15日
†メイン参加者 8人†
●
「マイナスナンバー……。そのような方がいるのですね」
これまでの話を聞いた『痛みのその果に』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)はそう言って瞑目する。国によって文化が異なることは理解しているが、この扱いは驚きだった。罪人ではなく働けぬから役立たずと扱われるなど。
「ウチの国にもないとは限らないよな……」
苦渋に満ちた表情で『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は口を開いた。働けない老人を山に捨てるという逸話は、村育ちのナバルでも聞いたことがある。口減らししなければ村が滅ぼるという懸念はどの場所でも存在するのだ。
「キリは、運がよかったんですね……」
『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)は呟く。かつて住んでいた村。その記憶はあまりないけど、少なくとも監視されていたという記憶はない。それが如何なる努力と幸運であるか。――おそらくは、村を守ってくれたインディオの尽力なのだろうか?
「戦士ではない者を巻き込むのは、些か気は乗らないのですが」
悩ましい表情で『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は肩をすくめた。戦う覚悟のない者を奮起させて戦わせる、というのはあまり乗り気にならない。だが、それで救われるのならと前向きにとらえる。
「私は……マイナスナンバー……ちがう、そこに居る、ヒトと、話す」
途切れ途切れにノーヴェ・キャトル(CL3000638)は自らの意思を示す。洞窟に居るのは、パノプティコンから無価値と呼ばれたマイナスナンバーではない。ただこの地に住む人間なのだと。
「俺は……今度こそ行動で示したい。ううん、示すんだ」
セーイ・キャトル(CL3000639)は言って拳を握る。インディオの人達とはうまくできなかったけど、今度は違う。きちんと相手のことを考え、その上で行動する。当てを外すこと自体が間違いではなく、二の轍を踏まないことが大事なのだ。
「しかし彼らは集落を出れば死を免れません。さて、説得が通じるかどうか」
気が重い、とばかりにため息をつく『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。出来るだけ負担は減らすつもりだが、要は彼らに命を賭けろと言いに行くのだ。上手くいくといいのだが。
「私も祈祷師みたいに精霊を感じてみたいなぁ」
インディオの血が混じる『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は道中アタカパとそんな話をしていた。もう片方の親は風の精霊で、しかもインディオ所縁の存在だという。真偽はともかく、そうだとするならそれを見てみたい。
「神像があるのなら『儀式』をすれば誰でも精霊と交信できる」
「へ? 本当か!?」
「その話は後にしよう。そろそろ蒸気ドローンの捜索範囲だ。できるだけ音を立てずについてきてくれ」
アタカパの誘導に従い、木々の合間を縫うように移動する自由騎士達。そして崖に空いた洞窟内に身をひそめる。そこには、十数名の人達が寄り添うように座り込んでいた。
マイナスナンバー。パノプティコンに不要と呼ばれた者達。その目はインディオ以外の存在に一瞬驚くが、すぐに興味を失ったかのように目を伏せる。生きる気力を失っているかのようだ。
自由騎士達は頷きあい、彼らに向かって口を開いた。
●
自由騎士が彼らに起こした最初のアクションは――
「何はなくともまずは食事です! 私が最高に美味しいパスタをご馳走しましょう!」
料理を振舞う事だった。
アンジェリカが用意したパスタ麺いろいろ。それを鍋に入れて火を通す。茹で上がるまでの間にソース類も用意する。新鮮なトマトが手に入らなかったことは土地柄仕方ないが、ミートソースは何とかなりそうだ。
「鍋があるなら、出汁を作るのもいいでしょう。パスタと合わせるのもありですね!」
デボラは鶏ガラ系の出汁スープを作る。鳥の骨を軽く水洗して煮込み、鶏ガラを作る。同時に海草を茹でてスープのベースを作り、そこに鳥ガラと味付け用に塩を少量入れた。香しいにおいが洞窟内に広がる。
「まあお手伝い程度なら」
ミルトスは途中で狩った鳥を小動物をさばき、調理する。狩りたての新鮮な肉は鮮度が高い。慣れた手つきで皮を剥ぎ、内臓を取り除いて食べられる部分だけを選別した。それを火で焼いて簡素な味付けをする。
「食はヒトの大事な娯楽ですから、ガッツリ食べて元気を出しましょう」
完成した料理をマイナスナンバーの前に出す。久しぶりの山菜以外の料理に言葉を失う人達。
「肉……肉なんて何年ぶりだ?」
「塩なんか第二階級じゃないと使えないのに……いいのか?」
「このぱすたっていうのは手づかみでいいのか?」
「わしらぁ、こんな料理が食えるほど働けないぞ」
マイナスナンバーの反応は様々だが『こんな料理を食べれるほど、自分達は偉くはない』という反応が多かった。
「い、意外な反応ですね……」
「私達は階級によって食べることが出来るモノが変わりますです。下級労働者だとオートミールと三日に一度の配給肉が与えられますです」
「こんな大きさの肉……本当に食べていいのか?」
「夢……そうだ、夢じゃないのか、これは! ははは、ありえない」
管理社会による配給制度。それがパノプティコンの食事事情だ。
それは社会の庇護下にあればだれもが飢えることのないシステムだ。また食事の安全性も社会が保証するため、誰もが病気になることはない。アイドーネウスの管理は個人の体調管理もあるらしく。病人にはそれに合わせた配給もあるとか。
「うーん。でも好きなものを食べられないというのは……」
「好きなもの? 食事って飢えなければいいんだろう?」
「寝るのと同じだろう? 寝れれば問題ないし」
多様性、という者が存在しない社会に生まれた人間の価値観である。
「あの、冷めないうちに食べた方がいいと思います」
「冷める? え? 料理って冷たいんじゃないのか? 凍るの?」
「湯気とか出ているけど、そう言う事なのか?」
などと食べる前に様々なカルチャーショックがあったわけだが、食べている間も彼らにとっては衝撃的だった。
「え、何だこの感覚? 味? 塩以外に味があるのか!?」
「肉なのに固くない! これが、肉……なのか?」
「ままー。このお水おいしー」
「出汁……? 水に火を通して……?」
簡素なパスタと出汁と焼いた肉でここまで感動されるのだから、パノプティコンの食事事情は知れるという者だ。
「上級の人は普通のお食事をされていると聞きましたが……」
「これは想像以上でしたね」
料理を作ったアンジェリカとデボラは、ここまで喜ばれることにむしろ驚きを感じていた。胃袋を掴んで話し合いの入り口を作れればと言う考えだったが、想像以上の喰らい付きだ。
「質素な食事で修行をする修道士(モンク)は世俗に出ると一気に堕落する、というお話を思い出しました」
女神を守る修道士としての修行を積んだミルトスは、禁欲生活の際に告げられたことを思い出す。あの時は誇張表現と思ったが、ここまで喜ぶマイナスナンバーを見てその考えを改める。
「あ、ありがとう。こんなの、初めて食べた!」
「食事って……食べるってこんなに素晴らしいんだな!」
「俺達もう、死んでもいいです! 心残りはありませんです!」
「いやいやいやいや。待って」
感涙するマイナスナンバー達。このまま『じゃあ俺達の為に突撃してくれ』と頼んでも喜んで受け入れられそうなぐらいである。
「……いいえ。ある意味違いませんね。とにかくいったん落ち着きましょう。
私達、イ・ラプセルは貴方達に頼みたいことがあります」
ここからが本題だ、とばかりに手で制するデボラ。
自己紹介を終えた後に、自由騎士達は本題であるパノプティコン攻略の話を始めた。
●
パノプティコンに牙をむく――
自由騎士達がそう告げた時、マイナスナンバー達は一気に沈黙した。
「ワシらからすれば……天と地に石を投げるようなものじゃ」
彼らからすればパノプティコンは世界そのもの。それに逆らおうという発想すら起きなかったのである。死を恐れるあまりに不老不死を求めるような、愚行なのだ。
だがそれは、彼らが管理されていない世界を知らないからだ。パノプティコン以外の世界を知らないからである。
「戦いは私達がやります。あなた方には『港町3356』を攻める際の陽動をお願いしたいのです」
作戦の詳細を説明したのは、デボラだ。『港町3356』に潜入する自由騎士のサポートをしてほしい。危険な事は自分達が担当すると。
「蜂起しているフリをして、敵の目を引き付けてほしいんだ! そのまま逃げ回ってくれ!」
ナバルが補足するように説明を重ねる。数をそろえて武器を持ち、大騒ぎして逃げる。実際に戦う必要はない。イ・ラプセルの都合に彼らを巻き込みたくないという思いがあった。
だが――
「いや。ワシらは集落を離れた時点で死罪確定なんだよ」
「逃げる場所すらない。蒸気ドローンからもアイドーネウス様からも逃れられん」
う、と呻く自由騎士達。『誰か一人でも逃げれば集落皆殺し』……彼らがそういう立場であることを忘れていたわけではないのだが。
「ならば徹底的に『戦う』か『戦わない』か、です。
戦えない人を巻き込むつもりはありません。……正確には『戦わない』事を選んだ人を、ですが」
そう前置きして、ミルトスが口を開く。
「ですが、ここで動けば今の生活から脱出できる可能性があります。私達はその可能性を示唆します。
それを選んでほしいだけです」
「キリはマザリモノとして何度も迫害を受けました」
種族特徴の耳を見せながら、キリがマイナスナンバー達に語りかける。彼らの中には、マザリモノの特徴を隠すように布を深くかぶった者達もいる。その怯えは、キリも理解できる。そんな人たちに語りかけるように。
「でも、こうして種族の関係のない、仲間が出来ました。
これは、キリたちを無価値だって言い張るやつらのやり方が間違ってる証拠です!」
「暖炉に燃べる薪のように消費されていたヨウセイ達の解放。消耗品のように扱われ、虐げられていた亜人達の保護と救済。
私達はその全てを成し遂げて来ました」
アンジェリカが語るのは、これまでのイ・ラプセルの戦いの軌跡だ。
「今度は貴方達を救う番。
生きる為の当たり前を、ヒトとしての権利を取り戻す時が今なのです!」
「俺達、イ・ラプセルはシャンバラとヘルメリアの神を倒し、両国に打ち勝った! ヨウセイや亜人奴隷を救ったんだ!」
叫ぶジーニー。牙が折れた軍人たちを奮起させるように、強く。
「私達はマイナスナンバーの人達を見捨てない! ヨウセイも亜人奴隷も救って来たんだ! だから一緒にパノプティコンと戦って、自由を得よう!」
「……自由」
自由。それはイ・ラプセルの騎士達が掲げる旗印。
種族解放を謳い、平等を誓う名。
「そうだよ! 自由な場所に行けるし、自由に名前だって名乗れる! 国にナンバリングされた名前じゃなく、自由な名前を!」
叫ぶセーイ。パノプティコンの国民に『自分の名前』はない。国民管理機構に組み込まれた時に番号管理され、元の名前は忘れてしまうのだ。その事を聞き、強く拳を握った。
「いつかこの国の神様を倒した時、みんなで名前を考えよう! 皆が気に入るような、そんな名前を! そこから『自分』が始まんだ!」
(……じゃあ、アナも、今は名前を……忘れて、る? ……だから『つめたい』)
セーイから聞いた話を反芻し、ノーヴェはそんなことを思う。『王族1734』。相対した彼女は、パノプティコンのナンバーを名乗っていた。
「皆で……ご飯を、食べる……。それだけで『あたたかい』になる、から」
途切れ途切れに言葉を重ねるノーヴェ。一人で食べる食事よりも、二人で食べる方が楽しい。大勢集まれば、もっと楽しいだろう。その楽しみを理解してほしくて。
「貴方達は国から『不要』とされ、捨てられたという。だけど、オレたちはそんな貴方達の力をぜひとも必要としている」
声を大にして口を開くナバル。それは戦術上の意味合いでもあり、ナバル本人の叫びでもあった。不要な人間などいない。そう思いたいナバルの強い思い。世界はまだ残酷だけど、
「そして、一緒に今と違う『明日』を見よう!」
それでも明日を夢見る権利はあるはずだ。こんな穴の中ではなく、広い空の元で――
「出来るのか……俺達に?」
「そんなふうに生きて、いいのですか?」
問いかけるマイナスナンバー達に、強く頷く自由騎士達。
彼らが知らない、当たり前のこと。それをするのに誰の許可もいらない。
それが、自由という者なのだから――
●
――そこからは大忙しだった。
陽動の準備。他のマイナスナンバーへの連絡、そして決行のタイミングの打ち合わせ。イ・ラプセル本国への報告もその合間に行う。
「そういえば『港町3356』への地下道ですが、どのような構図になっているのですか?」
「ああ。かなり昔に作られた水路だ。身をかがめて進む高さしかないので、ドローンが飛ぶには狭いから見つかることはない。だけど……」
「通路から出ればその限りではない……という事ですね」
一気に敵内部に潜入できる。そのメリットは大きい。
「内部に潜入できたのなら『物見』を見つけた方がいい」
計画を考える自由騎士に、アタカパが口を挟む。
「『物見』?」
「パノプティコンの各街に配置された役職だ。なんでもアイドーネウスのデウスギアの一端を使えるらしく、未来を見ることが出来ると言われている。些か眉唾だが、それを思わせるほどの知己を有している」
未来を見る。
何も知らない人が聞けば何の冗談かと笑い飛ばすのだが、自由騎士達はそれを受け入れざるを得ない。
円陣を組んで、小声で相談を行う自由騎士達。
(未来予知が出来るデウスギア? 水鏡と同質のものなのか?)
(……むぅ。国民管理機構は戦闘力に関与すると予測を立てたのですが……)
(そう考えると、『物見』はプロラークのような立ち位置……?)
(だとすれば、前の襲撃で待ち伏せされていたのはそれが理由か……。だとするとこの襲撃に失敗すれば)
相手の戦力が予知できるのだから、それに合わせた軍勢を用意する。当然それぐらいはやってくるだろう。自分達だってそうするのだから。
「……失敗はできないな、この戦い」
「するつもりもないけどね」
準備に勤しむマイナスナンバー達を見る。彼らは未来の為に動いている。『港町3356』襲撃に失敗すれば追撃を出されて、彼らは皆殺しとなる。
「陽動する者達には私がつこう。インディオからも協力者を募ってみる」
その心配を払うようにアタカパが言う。インディオ全てが味方になるわけではないが、それでも戦闘経験がある者がつくのは大きい。
「あの! 俺達は『クー』を示すことはできなかったのに、ここまでしてくれて感謝してます!」
「キリもです! 他のインディオの皆さんの中には、キリを非難したい人もいたはずなのに……」
セーイとキリがアタカパに頭を下げる。自分達はインディオの提案に歩み寄れなかったのに、アタカパはここまでしてくれる。追い詰められつつある彼らの都合という事もあるが、イ・ラプセルに協力する義務は彼らにはないのだ。
「神像の件もあるが、君達は私の家族の客人だ。無下にはできない」
彼が戦う理由は、家族の為。インディオと言う部族の為。ならばそれに連なる者の恩は返さなければならない。それが命を失いことになろうとも。
「後は君達の戦いだ。精霊の加護があることを祈っておこう」
インディオの激励なのだろう。自由騎士達はそれを受け取り、戦いに向かう。
かくして、マイナスナンバーとインディオの一部を味方に引き入れたイ・ラプセルは『港町3356』の攻略を開始する。
同時にデウスギアに繋がり、未来を予知する『物見』を襲撃する。予知されれば襲撃部隊に『前もって予知された』援軍が差し向けられ、包囲殲滅されるだろう。
故に襲撃は同時でなければならない。『物見』が倒されれば警備は強化される。それがイ・ラプセルの策略と分かれば、当然国外への警戒度も高まる。全ての警戒度を低く保って攻めるには、これがギリギリのライン。
勿論、襲撃作戦が成功することが大前提だ。敵陣の奥深くにいる『物見』を倒すまでの障害を廃し、刃を届けなければならないのだ。口にするほど容易ではない。
マイナスナンバーを囮として犠牲にすれば『港町3356』の兵士は減り、作戦は楽になっていただろう。
だが自由騎士はそれを望まなかった。それを覚悟の上で、マイナスナンバー達を安全な位置に置いた。彼らに明日を見てもらうために。彼らに自由を与える為に。
それこそが、自由騎士の戦う理由なのだから――
「マイナスナンバー……。そのような方がいるのですね」
これまでの話を聞いた『痛みのその果に』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)はそう言って瞑目する。国によって文化が異なることは理解しているが、この扱いは驚きだった。罪人ではなく働けぬから役立たずと扱われるなど。
「ウチの国にもないとは限らないよな……」
苦渋に満ちた表情で『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は口を開いた。働けない老人を山に捨てるという逸話は、村育ちのナバルでも聞いたことがある。口減らししなければ村が滅ぼるという懸念はどの場所でも存在するのだ。
「キリは、運がよかったんですね……」
『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)は呟く。かつて住んでいた村。その記憶はあまりないけど、少なくとも監視されていたという記憶はない。それが如何なる努力と幸運であるか。――おそらくは、村を守ってくれたインディオの尽力なのだろうか?
「戦士ではない者を巻き込むのは、些か気は乗らないのですが」
悩ましい表情で『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は肩をすくめた。戦う覚悟のない者を奮起させて戦わせる、というのはあまり乗り気にならない。だが、それで救われるのならと前向きにとらえる。
「私は……マイナスナンバー……ちがう、そこに居る、ヒトと、話す」
途切れ途切れにノーヴェ・キャトル(CL3000638)は自らの意思を示す。洞窟に居るのは、パノプティコンから無価値と呼ばれたマイナスナンバーではない。ただこの地に住む人間なのだと。
「俺は……今度こそ行動で示したい。ううん、示すんだ」
セーイ・キャトル(CL3000639)は言って拳を握る。インディオの人達とはうまくできなかったけど、今度は違う。きちんと相手のことを考え、その上で行動する。当てを外すこと自体が間違いではなく、二の轍を踏まないことが大事なのだ。
「しかし彼らは集落を出れば死を免れません。さて、説得が通じるかどうか」
気が重い、とばかりにため息をつく『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。出来るだけ負担は減らすつもりだが、要は彼らに命を賭けろと言いに行くのだ。上手くいくといいのだが。
「私も祈祷師みたいに精霊を感じてみたいなぁ」
インディオの血が混じる『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)は道中アタカパとそんな話をしていた。もう片方の親は風の精霊で、しかもインディオ所縁の存在だという。真偽はともかく、そうだとするならそれを見てみたい。
「神像があるのなら『儀式』をすれば誰でも精霊と交信できる」
「へ? 本当か!?」
「その話は後にしよう。そろそろ蒸気ドローンの捜索範囲だ。できるだけ音を立てずについてきてくれ」
アタカパの誘導に従い、木々の合間を縫うように移動する自由騎士達。そして崖に空いた洞窟内に身をひそめる。そこには、十数名の人達が寄り添うように座り込んでいた。
マイナスナンバー。パノプティコンに不要と呼ばれた者達。その目はインディオ以外の存在に一瞬驚くが、すぐに興味を失ったかのように目を伏せる。生きる気力を失っているかのようだ。
自由騎士達は頷きあい、彼らに向かって口を開いた。
●
自由騎士が彼らに起こした最初のアクションは――
「何はなくともまずは食事です! 私が最高に美味しいパスタをご馳走しましょう!」
料理を振舞う事だった。
アンジェリカが用意したパスタ麺いろいろ。それを鍋に入れて火を通す。茹で上がるまでの間にソース類も用意する。新鮮なトマトが手に入らなかったことは土地柄仕方ないが、ミートソースは何とかなりそうだ。
「鍋があるなら、出汁を作るのもいいでしょう。パスタと合わせるのもありですね!」
デボラは鶏ガラ系の出汁スープを作る。鳥の骨を軽く水洗して煮込み、鶏ガラを作る。同時に海草を茹でてスープのベースを作り、そこに鳥ガラと味付け用に塩を少量入れた。香しいにおいが洞窟内に広がる。
「まあお手伝い程度なら」
ミルトスは途中で狩った鳥を小動物をさばき、調理する。狩りたての新鮮な肉は鮮度が高い。慣れた手つきで皮を剥ぎ、内臓を取り除いて食べられる部分だけを選別した。それを火で焼いて簡素な味付けをする。
「食はヒトの大事な娯楽ですから、ガッツリ食べて元気を出しましょう」
完成した料理をマイナスナンバーの前に出す。久しぶりの山菜以外の料理に言葉を失う人達。
「肉……肉なんて何年ぶりだ?」
「塩なんか第二階級じゃないと使えないのに……いいのか?」
「このぱすたっていうのは手づかみでいいのか?」
「わしらぁ、こんな料理が食えるほど働けないぞ」
マイナスナンバーの反応は様々だが『こんな料理を食べれるほど、自分達は偉くはない』という反応が多かった。
「い、意外な反応ですね……」
「私達は階級によって食べることが出来るモノが変わりますです。下級労働者だとオートミールと三日に一度の配給肉が与えられますです」
「こんな大きさの肉……本当に食べていいのか?」
「夢……そうだ、夢じゃないのか、これは! ははは、ありえない」
管理社会による配給制度。それがパノプティコンの食事事情だ。
それは社会の庇護下にあればだれもが飢えることのないシステムだ。また食事の安全性も社会が保証するため、誰もが病気になることはない。アイドーネウスの管理は個人の体調管理もあるらしく。病人にはそれに合わせた配給もあるとか。
「うーん。でも好きなものを食べられないというのは……」
「好きなもの? 食事って飢えなければいいんだろう?」
「寝るのと同じだろう? 寝れれば問題ないし」
多様性、という者が存在しない社会に生まれた人間の価値観である。
「あの、冷めないうちに食べた方がいいと思います」
「冷める? え? 料理って冷たいんじゃないのか? 凍るの?」
「湯気とか出ているけど、そう言う事なのか?」
などと食べる前に様々なカルチャーショックがあったわけだが、食べている間も彼らにとっては衝撃的だった。
「え、何だこの感覚? 味? 塩以外に味があるのか!?」
「肉なのに固くない! これが、肉……なのか?」
「ままー。このお水おいしー」
「出汁……? 水に火を通して……?」
簡素なパスタと出汁と焼いた肉でここまで感動されるのだから、パノプティコンの食事事情は知れるという者だ。
「上級の人は普通のお食事をされていると聞きましたが……」
「これは想像以上でしたね」
料理を作ったアンジェリカとデボラは、ここまで喜ばれることにむしろ驚きを感じていた。胃袋を掴んで話し合いの入り口を作れればと言う考えだったが、想像以上の喰らい付きだ。
「質素な食事で修行をする修道士(モンク)は世俗に出ると一気に堕落する、というお話を思い出しました」
女神を守る修道士としての修行を積んだミルトスは、禁欲生活の際に告げられたことを思い出す。あの時は誇張表現と思ったが、ここまで喜ぶマイナスナンバーを見てその考えを改める。
「あ、ありがとう。こんなの、初めて食べた!」
「食事って……食べるってこんなに素晴らしいんだな!」
「俺達もう、死んでもいいです! 心残りはありませんです!」
「いやいやいやいや。待って」
感涙するマイナスナンバー達。このまま『じゃあ俺達の為に突撃してくれ』と頼んでも喜んで受け入れられそうなぐらいである。
「……いいえ。ある意味違いませんね。とにかくいったん落ち着きましょう。
私達、イ・ラプセルは貴方達に頼みたいことがあります」
ここからが本題だ、とばかりに手で制するデボラ。
自己紹介を終えた後に、自由騎士達は本題であるパノプティコン攻略の話を始めた。
●
パノプティコンに牙をむく――
自由騎士達がそう告げた時、マイナスナンバー達は一気に沈黙した。
「ワシらからすれば……天と地に石を投げるようなものじゃ」
彼らからすればパノプティコンは世界そのもの。それに逆らおうという発想すら起きなかったのである。死を恐れるあまりに不老不死を求めるような、愚行なのだ。
だがそれは、彼らが管理されていない世界を知らないからだ。パノプティコン以外の世界を知らないからである。
「戦いは私達がやります。あなた方には『港町3356』を攻める際の陽動をお願いしたいのです」
作戦の詳細を説明したのは、デボラだ。『港町3356』に潜入する自由騎士のサポートをしてほしい。危険な事は自分達が担当すると。
「蜂起しているフリをして、敵の目を引き付けてほしいんだ! そのまま逃げ回ってくれ!」
ナバルが補足するように説明を重ねる。数をそろえて武器を持ち、大騒ぎして逃げる。実際に戦う必要はない。イ・ラプセルの都合に彼らを巻き込みたくないという思いがあった。
だが――
「いや。ワシらは集落を離れた時点で死罪確定なんだよ」
「逃げる場所すらない。蒸気ドローンからもアイドーネウス様からも逃れられん」
う、と呻く自由騎士達。『誰か一人でも逃げれば集落皆殺し』……彼らがそういう立場であることを忘れていたわけではないのだが。
「ならば徹底的に『戦う』か『戦わない』か、です。
戦えない人を巻き込むつもりはありません。……正確には『戦わない』事を選んだ人を、ですが」
そう前置きして、ミルトスが口を開く。
「ですが、ここで動けば今の生活から脱出できる可能性があります。私達はその可能性を示唆します。
それを選んでほしいだけです」
「キリはマザリモノとして何度も迫害を受けました」
種族特徴の耳を見せながら、キリがマイナスナンバー達に語りかける。彼らの中には、マザリモノの特徴を隠すように布を深くかぶった者達もいる。その怯えは、キリも理解できる。そんな人たちに語りかけるように。
「でも、こうして種族の関係のない、仲間が出来ました。
これは、キリたちを無価値だって言い張るやつらのやり方が間違ってる証拠です!」
「暖炉に燃べる薪のように消費されていたヨウセイ達の解放。消耗品のように扱われ、虐げられていた亜人達の保護と救済。
私達はその全てを成し遂げて来ました」
アンジェリカが語るのは、これまでのイ・ラプセルの戦いの軌跡だ。
「今度は貴方達を救う番。
生きる為の当たり前を、ヒトとしての権利を取り戻す時が今なのです!」
「俺達、イ・ラプセルはシャンバラとヘルメリアの神を倒し、両国に打ち勝った! ヨウセイや亜人奴隷を救ったんだ!」
叫ぶジーニー。牙が折れた軍人たちを奮起させるように、強く。
「私達はマイナスナンバーの人達を見捨てない! ヨウセイも亜人奴隷も救って来たんだ! だから一緒にパノプティコンと戦って、自由を得よう!」
「……自由」
自由。それはイ・ラプセルの騎士達が掲げる旗印。
種族解放を謳い、平等を誓う名。
「そうだよ! 自由な場所に行けるし、自由に名前だって名乗れる! 国にナンバリングされた名前じゃなく、自由な名前を!」
叫ぶセーイ。パノプティコンの国民に『自分の名前』はない。国民管理機構に組み込まれた時に番号管理され、元の名前は忘れてしまうのだ。その事を聞き、強く拳を握った。
「いつかこの国の神様を倒した時、みんなで名前を考えよう! 皆が気に入るような、そんな名前を! そこから『自分』が始まんだ!」
(……じゃあ、アナも、今は名前を……忘れて、る? ……だから『つめたい』)
セーイから聞いた話を反芻し、ノーヴェはそんなことを思う。『王族1734』。相対した彼女は、パノプティコンのナンバーを名乗っていた。
「皆で……ご飯を、食べる……。それだけで『あたたかい』になる、から」
途切れ途切れに言葉を重ねるノーヴェ。一人で食べる食事よりも、二人で食べる方が楽しい。大勢集まれば、もっと楽しいだろう。その楽しみを理解してほしくて。
「貴方達は国から『不要』とされ、捨てられたという。だけど、オレたちはそんな貴方達の力をぜひとも必要としている」
声を大にして口を開くナバル。それは戦術上の意味合いでもあり、ナバル本人の叫びでもあった。不要な人間などいない。そう思いたいナバルの強い思い。世界はまだ残酷だけど、
「そして、一緒に今と違う『明日』を見よう!」
それでも明日を夢見る権利はあるはずだ。こんな穴の中ではなく、広い空の元で――
「出来るのか……俺達に?」
「そんなふうに生きて、いいのですか?」
問いかけるマイナスナンバー達に、強く頷く自由騎士達。
彼らが知らない、当たり前のこと。それをするのに誰の許可もいらない。
それが、自由という者なのだから――
●
――そこからは大忙しだった。
陽動の準備。他のマイナスナンバーへの連絡、そして決行のタイミングの打ち合わせ。イ・ラプセル本国への報告もその合間に行う。
「そういえば『港町3356』への地下道ですが、どのような構図になっているのですか?」
「ああ。かなり昔に作られた水路だ。身をかがめて進む高さしかないので、ドローンが飛ぶには狭いから見つかることはない。だけど……」
「通路から出ればその限りではない……という事ですね」
一気に敵内部に潜入できる。そのメリットは大きい。
「内部に潜入できたのなら『物見』を見つけた方がいい」
計画を考える自由騎士に、アタカパが口を挟む。
「『物見』?」
「パノプティコンの各街に配置された役職だ。なんでもアイドーネウスのデウスギアの一端を使えるらしく、未来を見ることが出来ると言われている。些か眉唾だが、それを思わせるほどの知己を有している」
未来を見る。
何も知らない人が聞けば何の冗談かと笑い飛ばすのだが、自由騎士達はそれを受け入れざるを得ない。
円陣を組んで、小声で相談を行う自由騎士達。
(未来予知が出来るデウスギア? 水鏡と同質のものなのか?)
(……むぅ。国民管理機構は戦闘力に関与すると予測を立てたのですが……)
(そう考えると、『物見』はプロラークのような立ち位置……?)
(だとすれば、前の襲撃で待ち伏せされていたのはそれが理由か……。だとするとこの襲撃に失敗すれば)
相手の戦力が予知できるのだから、それに合わせた軍勢を用意する。当然それぐらいはやってくるだろう。自分達だってそうするのだから。
「……失敗はできないな、この戦い」
「するつもりもないけどね」
準備に勤しむマイナスナンバー達を見る。彼らは未来の為に動いている。『港町3356』襲撃に失敗すれば追撃を出されて、彼らは皆殺しとなる。
「陽動する者達には私がつこう。インディオからも協力者を募ってみる」
その心配を払うようにアタカパが言う。インディオ全てが味方になるわけではないが、それでも戦闘経験がある者がつくのは大きい。
「あの! 俺達は『クー』を示すことはできなかったのに、ここまでしてくれて感謝してます!」
「キリもです! 他のインディオの皆さんの中には、キリを非難したい人もいたはずなのに……」
セーイとキリがアタカパに頭を下げる。自分達はインディオの提案に歩み寄れなかったのに、アタカパはここまでしてくれる。追い詰められつつある彼らの都合という事もあるが、イ・ラプセルに協力する義務は彼らにはないのだ。
「神像の件もあるが、君達は私の家族の客人だ。無下にはできない」
彼が戦う理由は、家族の為。インディオと言う部族の為。ならばそれに連なる者の恩は返さなければならない。それが命を失いことになろうとも。
「後は君達の戦いだ。精霊の加護があることを祈っておこう」
インディオの激励なのだろう。自由騎士達はそれを受け取り、戦いに向かう。
かくして、マイナスナンバーとインディオの一部を味方に引き入れたイ・ラプセルは『港町3356』の攻略を開始する。
同時にデウスギアに繋がり、未来を予知する『物見』を襲撃する。予知されれば襲撃部隊に『前もって予知された』援軍が差し向けられ、包囲殲滅されるだろう。
故に襲撃は同時でなければならない。『物見』が倒されれば警備は強化される。それがイ・ラプセルの策略と分かれば、当然国外への警戒度も高まる。全ての警戒度を低く保って攻めるには、これがギリギリのライン。
勿論、襲撃作戦が成功することが大前提だ。敵陣の奥深くにいる『物見』を倒すまでの障害を廃し、刃を届けなければならないのだ。口にするほど容易ではない。
マイナスナンバーを囮として犠牲にすれば『港町3356』の兵士は減り、作戦は楽になっていただろう。
だが自由騎士はそれを望まなかった。それを覚悟の上で、マイナスナンバー達を安全な位置に置いた。彼らに明日を見てもらうために。彼らに自由を与える為に。
それこそが、自由騎士の戦う理由なのだから――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
食べたいものを食べられる、というのはとても贅沢なのですよ。
以上のような結果になりました。これを受けて決戦シナリオを作ります。
MVPはやっぱり料理の発起人でしょうなぁ。ヴァレンタイン様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
食べたいものを食べられる、というのはとても贅沢なのですよ。
以上のような結果になりました。これを受けて決戦シナリオを作ります。
MVPはやっぱり料理の発起人でしょうなぁ。ヴァレンタイン様に。
それではまた、イ・ラプセルで。
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