MagiaSteam
Quell! 竜牙艦隊を鎮圧せよ!




『アクアディーネの元に三柱の力が集まったか』
『わざわざ蒐集し大義である。アクアディーネを含め、神の力を全て献上し、我が神の色になるのであれば永遠なる鉄血の豊穣を授けよう』
『抵抗するなら、鉄血をもって応えるだけだ』


 北北西の風、風力四m。潮は季節相応に荒れている。
 だがそれらはヴィスマルクの艦隊を止めるには至らない。神モリグナとアドルフ皇帝の命により動き出したイ・ラプセル殲滅作戦。一気に攻め入るのではなく、神アクアディーネの精神を削るように街の破壊と略奪を主とする作戦だ。
 一気呵成にサンクディゼールに攻め入ることは不可能ではない。連戦に続く連戦、しかもパノプティコンとヴィスマルクを同時に侵攻していたイ・ラプセルは疲弊している。個人のやる気はともかく、経済的にも民意的にも立て続けの戦争は様々なものを削っての行動だ。単純な力押しでいえば、ヴィスマルクに分がある。
 なによりも、デウスギアの存在が大きい。予知と言う情報収集を主体とした水鏡と、放たれれば確実な破壊を生む大陸弾道弾。切り札としてどちらがプレッシャーを与えるかは明白だ。それをイ・ラプセルの首都に落とさないのは、アクアディーネが神の力を有しているというだけにすぎないのである。
 ヴィスマルク軍の進軍は正に疾風迅雷。この時の為に力を溜めていたとばかりに、陸軍海軍が突き進む。
「圧倒的ではないか、我が軍は!」
 少将の勲章を付けた軍人が、ヴィスマルク軍の侵攻を示していた。ガブリエーレ・クラウゼヴィッツ。三年前にイ・ラプセルに攻め入った海軍の師団長だ。あの時は撤退を余儀なくされたが、その時に雪辱を晴らすとばかりに強きの進軍である。
 防衛を行うイ・ラプセルを破竹の勢いで撤退させ、街に揚陸して物資を強奪する。占領する必要はない。破壊と略奪の後に次の拠点に向かう。迅速であること、ヴィスマルクへの恐怖を刻むこと。この二点が重要だ。
「……はい。作戦通りです」
 言葉少なく同意するのは、エッケハルト・エビングハウス大佐。三年前のイ・ラプセル侵攻作戦では同じ将校として轡を並べていたが、作戦失敗により降格。今はガブリエーレの部下となっていた。心情を隠し、軍務に励む。
「オラクルを前面に出し、弾避けにしろ! 亜人共を繰り出し、イ・ラプセルを消耗させろ! 疲弊したところを突き進め!」
 ガブリエーレの作戦は、端的に言えばオラクルと亜人部隊をすり潰しての力押しだ。単純ではあるが、基礎の軍事力が高いのなら力押しほど有効な策はない。真正面からぶつかる。単純であるがゆえに、隙が無い。
 だがそれは、同レベルの戦力をぶつけられれば止められるという事でもあった――


「――というわけで、力押しだ」
『軍事顧問』フレデリック・ミハイロフ(nCL3000005)は海図とそこに用意された駒を前に説明を開始する。
「敵艦隊は移動先の街で略奪を繰り返し、イ・ラプセルに迫っている。物資を奪われた後に砲撃で街を破壊されるという徹底ぶりだ。占領をするつもりはないらしい」
 戦争とは、極論を言えば土地を無料で手に入れる為の経済活動だ。群という資源を消費し、土地を占領する。占領した土地で自国の経済活動――この時代では労働力確保や工場などの生産所設立など――を行い、経済を発展させる。
 それを放棄し、ただ破壊のままに進んでいる。つまり目的は戦争に勝つという事ではなく、ただ破壊をする事のみ。そして最終的にはアクアディーネから神の力を奪い取る事。
「大前提として、ヴィスマルクの要求をのむことはできない。信用できないという事やエドワード国王の勅命と言う事もあるが、今までお前達が培ってきた戦歴を無駄にするわけにはいかない。
 当然だが、ヴィスマルクの侵略を良しとするつもりもない。こちらも艦隊を出し、足止めの後に白兵戦を仕掛ける。敵艦隊にある程度の損害を与えれば進軍も止まるだろう」
 ヴィるマルクの部隊は大軍だが、全てを倒す必要はない。部隊の三割減少すれば兵の攻撃力は減衰するという。用は信仰できないほどの損益を与えればいいのだ。
「街を破壊された人達の保護は別の騎士団が行う。お前達はいち早くヴィスマルク艦隊の動きを止めてくれ」
 フレデリックの言葉に、自由騎士達は頷き武器をとった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
大規模シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.【艦隊】に一定以上の損害を与える
 どくどくです。
 よし、力押しで行こう(あたまわるい

●敵情報
・竜牙艦隊
 ヴィスマルク海軍。及び海軍が保有する艦隊です。
 頑丈さ、砲門、移動速度などの総合し、この時代でもトップクラスの海軍と言えます。


★【強襲船】
 亜人を中心とした先行部隊です。敵を疲弊させるために突撃してきます。軍からの扱いはよくありませんが、他に生きる道はないので逆らう事はありません。
 こちらへの対応が不十分の場合、イ・ラプセル海軍に被害が生じ、【艦隊】への援護『水の護り』の効果が弱まります。
 重戦士三割、ガンナー二割、防御タンク二割、魔導士二割、ヒーラー一割で構成されています。所属クラスのランク2までのスキルをレベル3まで使います。

・『骨砕き(クノッヘンハマー)』ガイノス(×1)
 全身ウロコで覆われたトカゲのケモノビト。ヴィスマルク軍人。階級は軍曹。強襲船の兵たちを纏める立場です。軍と言うよりはアンテスに従っている軍人。
 ハンマーを持つ重戦士です。積極的に前に出て敵を穿ちます。
 拙作『Ruse! 海路を穿つ竜牙の杭!』に出ていますが、『ヴィスマルクの軍人』ということが分かれば問題ありません。
『バッシュ Lv5』『バーサーク Lv4』『ハップライト』等を活性化しています。

・『鋼花(シュタールブルーメ)』ロミルダ・アンテス(×1)
 右腕が機械化したキジン女性。ヴィスマルク軍人。階級は大尉。強襲船のリーダー的存在。いわゆる『前に立つ』タイプの指揮者。
 ブランダーパス(ラッパ銃)を持つガンナーです。
  拙作『Attack! 竜牙艦隊を止めろ!』『Ruse! 海路を穿つ竜牙の杭!』に出ていますが、『ヴィスマルクの軍人』ということが分かれば問題ありません。
『ゼロレンジバースト Lv5』『サテライトエイム Lv4』『バレッジファイヤ Lv4』『スキルガンナー』等を活性化しています。

※フィールド効果
 なし


★【艦隊】
 竜牙艦隊の艦隊です。こちらにある程度の損害を与えることが主眼となります。ヴィスマルクも意地をかけて戦うため、激しい戦場になるでしょう。
 重戦士四割、ガンナー三割、魔導士三割で構成されています。所属クラスのランク2までのスキルをレベル3まで使います。

・『雷帝(ドンナーカイザー)』カルステン・アイメルト(×1)
 ノウブルの男性。九八歳。ヴィスマルク軍人。階級は軍曹。兵をまとめ上げる立場です。軍人にして魔導士。老いにも負けぬ健康な老人です。
『ユピテルゲイヂ Lv5』『アニマ・ムンディ Lv5』『マナウェーブ Lv3』等を活性化しています。

・『武人(クリーガァ)』エッケハルト・エビングハウス(×1)
 ノウブル男性。ヴィスマルク軍人。階級は大佐。この作戦の実行部隊責任者です。略奪行為などに思う所はありますが、軍人として否と言えない立場です。
 個人の感情としてはイ・ラプセルに恨みを持っていますが、それで行動に乱れが生じる事はありません。
 だぢまCWからお借りしました。参照シナリオは『マギアスティームグランドオープニング 神殺し』『漸近線に交わるX軸』です。
『ギアインパクト Lv5』『ツォルンフランメ(EX)』『ライジングスマッシュ Lv3』『バーサーク Lv4』等を活性化しています。

EXスキル:ツォルンフランメ 緻密な計算により放たれるベクトル統一された炎。(範囲・グラビティ2・バーン2・二連)

・ガブリエーレ・クラウゼヴィッツ(×1)
 ノウブル男性。ヴィスマルク軍人。階級は少将。この艦隊の総責任者です。最奥に引っ込んでおり、戦場には姿を現しません。通常の方法では、出会う事すら叶わないでしょう。
 戦闘力は皆無です。奇跡的な事が起きれば、あるいは牙が届くかもしれません。

※フィールド効果
・鉄血の援護
 従わねば死ぬ。その環境下で鍛えられたヴィスマルク軍人の援護射撃。
 毎ターン、この戦場に居るイ・ラプセル軍のHPを最大値の10%減少させる。

・水の護り
 全てのヒトに自由と平等を。その思想をかなえるべく戦って来た自由騎士達の奮起。
 味方からの援護により、『鉄血の援護』の効果を打ち消します。援護が弱まれば、打ち消しは不十分になります。


●ヴィスマルクの権能
 ヴィスマルク軍人は以下の権能を活性化しています。

勇猛:戦女神の名において、戦場では常に勇敢であれ。(精神系のBS抵抗力+15% 防御力+3% 防御無視無効・魔抵抗無視無効)
苛烈:戦女神の名において、苛烈であれ。(単体攻撃力が+10%)


●場所情報
 イ・ラプセル海域。天候は晴れ。灯りなどは問題なし。船上は若干揺れる為、対策がなければ命中と回避にペナルティが付きます。

 便宜上、戦場を【強襲船】【艦隊】の2区画に分けます。プレイング、もしくはEXプレイングに行き場所を記載してください。書かれていない場合、孤立して狙われることになります。
 他戦場への移動は可能です。ただし連戦になるので重傷率は高まります。


●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。

 皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
3個  3個  7個  3個
2モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
38/∞
公開日
2021年05月16日

†メイン参加者 38人†

『幽世を望むもの』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『天を癒す者』
たまき 聖流(CL3000283)
『RE:LIGARE』
ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『祈りは歌にのせて』
サーナ・フィレネ(CL3000681)
『平和を愛する農夫』
ナバル・ジーロン(CL3000441)
『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『鬼神楽』
蔡 狼華(CL3000451)
『智を求める旅人』
ナーサ・ライラム(CL3000594)


●襲撃船Ⅰ
 亜人で構成された強襲戦部隊は、ヴィスマルクの命令に従い真っ直ぐにイ・ラプセルに向かう。
 それがこちらを疲弊させるための玉砕特攻だと分かっていても、イ・ラプセルはこちらに手を裂かないわけにはいかなかった。
「ヴィスマルクですかぁ……。負けられませんよぉ!」
『おもてなしの和菓子職人』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は迫りくるヴィスマルクの船に向けて、魔術を解き放つ。ここで負けるつもりはないと自らに気合を入れて、魔導書を展開して炎を打ち放った。
「ドッカンドッカン行きますよぉ~」
「鉄血の方々は華があらしまへんなあ」
 二刀を手にして『鬼神楽』蔡 狼華(CL3000451)は唇を笑みの形に変える。破壊、略奪、そして支配。彼らはただ効率的に戦争をしている。そこに何かを生み出すという美学はない。その淡々とした様が狼華は気に入らなかった。
「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに冥く、死に死に死に死んで死の終りに冥し。生まれて死ぬまで何を舞うか、それが人生や」
 人は生まれ、そして死ぬ。それまでになにを為し得るか。ただ破壊だけを繰り返す軍隊に何の意味があろうか。狼華は敵陣に向かい、踊るように刃を振るう。縁と直線を優雅に組み合わせ、同時に敵兵を切り裂いていく。
「うちの舞を見て、その荒んだ心の目を慰めなはれ」
「彼らのやり方は理解していたつもりですが……」
 突撃する亜人達を見ながらロザベル・エヴァンス(CL3000685)は武器を握りしめる。使い捨てにされる亜人達。本隊の盾として消耗される道具。そんな彼らに思うとこがないわけではない。だが、今はそれを口にしてもどうしようもないのは事実だった。
「今は、押し留めます」
 決意を口にして、歩を進めるロザベル。蒸気騎士のエンジンを回転させ、兵装を展開する。随行させた盾兵隊を布陣させ、砲撃を打ち放った。炎の花が敵陣で咲き、衝撃がヴィスマルク兵を乱していく。だがロザベルの表情は明るいものではなかった。
(……現状を打破するには、ヴィスマルクを陥落させるしかない。それが、戦争)
「先行部隊……他に生きる道はない。もちろん、生きて帰るつもりなのでしょうけれど……」
 同じく亜人達を見て、苦渋の表情を浮かべるセアラ・ラングフォード(CL3000634)。ヴィスマルクでの亜人の境遇は伝聞から想像するしかない。だが『まだマシ』とされる軍隊でさえこの扱いなのだ。生きる為には、戦うしかない。
「とにかく今は、戦わないと……」
 言ってセアラは仲間を癒していく。できる事なら戦わずに解決したい。だがそれは無理な話だ。せめて彼らを生かして捕らえ、捕虜にする事で彼らを保護できれば。その間にヴィスマルクを討つことが出来れば、或いは――
「それでどうにかなるかは解りませんが、今は――!」
「戦争だから略奪を避難はしないよ。だけど――」
 拳を振るいながら『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は告げる。戦地で物資を確保する略奪。長期の進軍には必須ともいえる戦術だ。兵士も食わねば生きていけないのだから。
「住処を失った人達の怒りは思い知らせてやるよ!」
 だが、それは奪っていいという免罪符ではない。住む場所を破壊され、生活するものを奪われた人達の怒りと恨み。それを晴らすためにカノンは拳を振るう。仲間達に鬼の武具の力を与えながら、敵陣に向かった真っ直ぐに突き進んでいく。
「戦争に正義も悪も無い、互いの国を背負って戦うだけ。だからこそ負けられない!」
「街の破壊と略奪かあ。この前宇羅幕府もそんな事やってたねー」
 アマノホカリの戦いを思い出しながらリィ・エーベルト(CL3000628)はため息をついた。宇羅幕府は宇羅による暴威。ヴィスマルクは女神アクアディーネの精神を削るための破壊。それが分かっているとはいえ、ため息の一つもつきたくなる。
「ここまで来たらねー、やるしかしょうがないかなあ」
 気分を切り替えるように目を閉じて、そして開く。バランスをとりながら後ろに下がったリィはアクアディーネの護符を握りしめながら錬金術を展開する。赤く光る液体が空中に散布されて霧になり、それを吸い込んだ仲間達の活力を増していく。
「頭を潰せばどうにかなると思ったけど、そうでもなさそうね」
「はい……。皆さんの絆は硬そうです」
 暗い顔をする『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)。ヴィスマルクで虐げられているならイ・ラプセルに来れば救われる。そう説得してみたが、一蹴された。
(……彼らにも国に家族がいて、守るべきヒトがいる。その為に戦っているのなら)
 亜人達の戦う理由はティルダにも伝わった。自分の考えで『救う』つもりだったが、それが家族を引き裂くことになるのなら、致し方ない。守るべきモノはティルダにもある。家族、同胞、仲間、国。それらを背負う者同士、容赦はできない。
「ヨウセイを受け入れてくれたイ・ラプセル。この国を護るために、戦います!」
「もうこれ以上好きにはさせねえ! お前らの進撃はここで止まる! この『機盾』が止める!」
 盾兵隊を展開し、『機盾ジーロン』ナバル・ジーロン(CL3000441)は叫ぶ。亜人を捨て駒にするような軍隊だ。味方に対する扱いでさえ酷いのに、敵に優しいなんてことはありえない。こちらのことを塵芥のように扱う軍隊に、加減は必要ない。
「絶対に止めてやる!」
 盾を構え、敵の進軍を必死に止めるナバル。ここを突破されれば、多くの民が不幸になる。そんな事はさせられない。こういう時の為に体を鍛えてきたのだ。その意地を見せるように、ナバルは敵の砲弾と突撃を受け止め続ける。
「人を人とも思わねえ神なんかに負けるか! こっちの女神様は、優しくて泣き虫の、支えたくなる可愛い女神様だ! 比較にもなんねえよ!」
 人を人と思わない独善の女神。人を思いやり、それ故に守ろうと戦う女神。
 大陸に残った最後の二柱。その在り方はまさに真逆。
 その神の元に集ったヒトの戦いは、全てを巻き込み激しくなっていく。

●幕間Ⅰ
「こらあかんな。走り過ぎたか」
 気が付けば『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)はヴィスマルク兵に囲まれていた。無心で動き回った結果、巧みな罠に絡み取られた形だ。
「こうなったら、これや!」
 近くの壁を蹴って跳躍し、海に飛び込むアリシア。銃弾が何発か体に当たり、出血した状態で海に身を投げ出す。その衝撃で、意識が薄れてきた。
(あとは運任せ。なんとかなるやろ……)
 最後の最後までもがき、手が何かを掴む。その感覚を最後に、アリシアの視界は完全に暗転した。

●艦隊Ⅰ
 龍牙艦隊。ヴィスマルクが誇る海軍。
 それは蒸気艦の質だけではなく、船を動かす兵士達の質も含めての事だ。
「……」
 フロレンシス・ルベル(CL3000702)はそのヴィスマルク海軍の攻撃で傷ついた者達を、黙々と癒していた。魔導書を手に魔力を展開し、癒しの術式を解き放つ。冷静に、そして的確に。アクアディーネの護符を握りしめ、己の役割を全うする。
「…………」
 盾兵隊を展開し、海上の戦いを意識する。フロレンシスの武器は武力ではなく、知識。医学知識と海上での戦術。そして魔力を使った癒しの術式。それを最大限活用し、勝利に貢献していく。
「よーし、サシャも頑張るんだぞ!」
 元気よく叫ぶ『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)。三年前のヴィスマルクとの戦いを思い出し、小さく身震いする。三年前の自分よりも強くなったが、それは敵も同じだ。油断なく意識を引き締め、戦いに挑む。
「皆、頑張るんだぞー!」
 聖域を展開し、仲間を守るサシャ。癒しと守り。それがサシャの役割。元気よく叫び、そして元気よく魔術を展開していく。三年前の戦いは、強襲から守るため。今の戦いは、強襲から守って活路を見出すため。
「いっくぞー! えいえいおー!」
「ええ。この戦いを切り抜けていきますとも!」
 同じく仲間を鼓舞するように叫ぶ『天を征する盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。長く使用している盾を構え、仲間を守るように敵前に立ち尽くす。ヴィスマルク海兵の攻撃を受けながら、鋭い視線を相手に返す。
「私の役割は盾! 全ての攻撃に耐えて見せましょう!」
 仲間の為に盾になる。それがデボラの役割。立ち位置を支配しながら、仲間を守るように布陣する。迫る斬撃や弾丸を盾で受け止め、逸らすように盾を動かし攻撃をさばいていく。言葉通り、ヴィスマルクの攻撃全てを止めると言わんがばかりに。
「この身が屈するまで、仲間に攻撃は通しません!」
「ええ。私はもう、迷わない」
 ライフルを手に『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は宣言する。ヴィスマルクのやり方には屈しない。鉄血の暴威から故郷イ・ラプセルを守り抜く。蹂躙するようなやり方は許せない。
「私は私の信念を持ってこの侵略を止めてみせる!」
 翼を広げ、空を舞うアンネリーザ。風の影響をものともせず、空中でも安定した状態でライフルを構える。重力から解放された状態のまま狙いを定め、静かに引き金を引いた。確かな決意と共に放たれた弾丸が、ヴィスマルク兵を穿っていく。
「この水の国、そして世界を守る。それが私の決意!」
「確かにあの国が支配する世界は御免だな」
『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)は氷雪の剣を手に呟く。亜人やオラクルを先行させるやり方。自分達以外を駒としか思っていない冷たい軍隊。それは確かに強いのだろう。かつてヴィスマルクに居たのだから、それはよく理解している。
「俺は駒になりたくないんでね」
 揺れる船の上、バランスをとりながらヴィスマルク兵に切りかかる。剣に魔力を込め、迫る兵士達に剣を振るうと同時に魔力を開放する。凍れる刃から炎が生まれ、相反する温度の反発力が渦となって敵兵を襲う。
「なんで止めさせてもらうよ」
「ええ。ここで負ければ亡国一直線。全力で止めさせてもらいましょう」
 国の終わりを意識しながら『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は歩を進める。相手は力と数をそろえた軍隊だ。それを最大限発揮できるようにぶつけてくる。弱いはずがない。
(きっと終わりは近い。この戦争も、神の蟲毒も、そして――)
 拳を振るいながら、ミルトスは静かに終焉を感じていた。どういう形であれ、戦争は終わる。イ・ラプセルの勝利か、あるいは敗北か。それが世界が滅びるのか。それはまだわからない。それでも終わりの訪れを確かに感じていた。
「結末からは目を背けません。それまで、ただひたすらに走り続けます」
「はい。……今はただ、出来る事を」
 ヴィスマルク兵の気に飲み込まれないように、『天を癒す者』たまき 聖流(CL3000283)はしっかりと自らの意思を示す。破壊と死。略奪と暴力。それを繰り返し進むヴィスマルク軍。その熱気に負けないように、自分を保つ。
「皆さんの命を少しでも……」
 命を救う。それがたまきの意志。それは味方だけではなく、敵もまた救うと言う意味だ。それがどれだけ困難であるかは、身をもって知っている。助けた命が、別の命を奪うかもしれない。それでも――救いたい。
「できる事を、一つずつ、積み重ねていきます」
「その通り。己に出来る事を、己のできる範囲で。できぬことは他人に任せるがいい」
 たまきの言葉に頷く『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。一人のできる事は多くない。だが、多くの人がいるなら多くのことができる。国は一人の英傑ではなく、多くの人材によって発展していくのだとテオドールは知っている。
「まずは敵戦力を割かねばな。やはりこの数は脅威か」
 隊を組んで進んでくるヴィスマルク軍を見ながら、テオドールは呪力を展開する。地の底から冷えるような白い縛鎖。荒れ狂う冬の暴風を思わせる勢いでテオドールの呪力はヴィスマルク兵の動きを封じていく。
「暫くは足止めに集中だな。流石にヴィスマルク海軍は一筋縄では行かぬか。アイメルト卿を押さえたかったが」
「ふふん、ならあの相手は私がするわ」
 強い魔術師に興味を抱いた『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)。そのまま『雷帝』と呼ばれる魔術師に意識を向ける。相手もきゐこに気付いたのか、手にした魔道具を静かに向けた。
「三年ぶりの襲来お疲れさま。悪いけど今回もお帰り願おうかしら!」
 五秒後の未来を見ながらきゐこは魔術を展開する。広範囲に広がる雷撃の未来。それを解き放たれる前に鬼気を当ててその動くを止める。一泊の隙を見つけ、稲妻を纏った鼬を生み出す。雷鼬は戦場を走り、『雷帝』を貫いていく。
「これが私の雷よ! 感想ぐらいは聞きたいわね!」
「うむ、そのまま押し通せ。まだまだあの爺元気だぞ」
 冷静に『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が言い放つ。敵の状況を正確に把握し、同時に味方の怪我も見て動く。それがツボミの戦いだ。荒れ狂う『雷帝』の電磁力の中でも動きを止めず、ただ治療に専念する。
「まあ、いつも通りだ。向こうも引けぬし、こちらも引けない。いつも通りだな」
 ツボミはヴィスマルクの行為に何も言う事はない。滅びが迫り、しかし互いの女神の為に譲れない。ならば口論に意味はなく、いつも通りに押し通るまで。仲間を癒し、敵を打ち倒す。その為に魔力を展開した。
「だから私の治療の邪魔はさせん。お前達が殺して奪う分、私は癒していくだけだ」
 戦争。その中で各国の騎士達は様々な悪意や不幸を見てきた。
 それを加速させる者もいた。それを止める者もいた。それを癒す者もいた。消して譲れぬ騎士達の想い。
 それをぶつけあいながら、戦争は加速していく。

●幕間Ⅱ
「包囲されました、か」
『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)は進軍する本隊からはぐれ、ヴィスマルク軍に包囲されていた。高い魔導力で突破しようと氷の魔術を放つが、ヴィスマルク軍の包囲を突破するには至らない
「いいえ、諦めません! アクアディーネ様のご加護に祈りを!」
 諦めればそれで終わり。ナーサが自由騎士での戦いで学んだことだ。最後の最後まであきらめず戦い、結露を切り拓く。絶望に屈することなく戦うこと。これまでの経験が孤立無援のナーサを支えていた。が、
「……あ、う」
 それでも限界は訪れる。自分に向けて銃を向けるヴィスマルク兵と乾いた音。それと同時に、ナーサの意識は暗転した。

●襲撃船Ⅱ
 ヴィスマルクの亜人とオラクルで結成された強襲船。
 捨て駒として結成された部隊だが、だから弱い――と見下した者達は皆痛い目を見てきた。捨て駒同然の環境と生きて帰れるかどうかわからない追い詰められた戦いが彼らを強くしていた。
「大したものね。だけど戦場はこちらも数を踏んできているのよ!」
 迫りくる強襲部隊を迎え撃ちながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は叫ぶ。ヴィスマルクの練度は低くない。拳を交わしてそれを理解し、しかし負けないと言い放つ。ヴィスマルクが戦場を渡ってきたように、自由騎士達も戦場を乗り越えてきたのだ。
「私の拳で歓迎してあげる! かかってらっしゃい!」
 挑発するように言い放ち、同時にヴィスマルク兵に接敵する。相手の攻撃を紅色の手甲で受け流し、同時に反対側の腕を振るって拳を叩きつける。太陽の元で踊るようにステップを踏み、鋭く拳を突き出す。円と直線。時に交互に、時に同時に描かれる武の舞。
「エドワード陛下の親衛隊(自称)として、イ・ラプセルを鉄血なんかにこれ以上踏み荒らさせないわよ!」
(親衛隊どまりでいいのでありますか。いえ、本人が決める事なので、ええ、まあ)
 エルシーの言葉を聞いて、『鉄腕』フリオ・フルフラット(CL3000454)はそんな事を口に使用として、寸前で止める。恋愛は人それぞれ。身分違いでも相手は生きているのだから。フリオはそっと自分が思っていた人の事を思い出す。
「三年前のような無様を晒す訳には行かない。そしてこれ以上の侵攻も……させません!」
 三年前、フリオはヴィスマルクの攻撃に巻き込まれ、四肢を失った。その隊に助けてもらった『隊長』のことを想い、武器を振るった。蒸気騎士のエンジンをフル稼働させ、強襲戦の隊長である『鋼花』を攻め立てていく。
「戦乙女の加護など、意に介しません。『隊長(エッカート)』の歩みは、その程度では止まらないのであります!」
「前に立つ指揮官さん、素敵ですわ!」
『轍を辿る』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は言って魔力の炎を『鋼花』に向けて撃ち放つ。人望高い指揮官の周囲には自然と人が集まる。広範囲の炎は多くのヴィスマルク兵を巻き込んだ。
「貴方も私もいろいろ言いたいことはあるでしょうけど、この期に及んでああだこうだ言うのは野暮ですわ。お互い出来る事を出来るだけ致しましょ?」
「違いない。言葉で話し合えるラインは三年前にヴィスマルクが攻め込んで消した。ならば手早く愚を終わらせて傷を最小限にするだけだ」
 アリシアの言葉に応じる『鋼花』。互いに戦争に関して思う所はある。だが今それを口にしても、この流れは断ち切れない。ならばできるだけ戦いを早く終わらせ、できるだけ戦争の傷を小さくするのが最良だ。
「ええ。その結果、お互いの国や世界が守れれば誇らしいですわね!」
「誇らしい、か。ヴィスマルクに誇りがあればな」
 言いながら銃を撃ち放つ『デザイア・ブロッサム』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。狙いはかつて交戦したヴィスマルク兵の『骨砕き』。弾丸と同時に怒りの言葉を叩き込んだ。
「街での略奪に加えて、一般人大量虐殺と居住区への砲撃。国際戦時条約と言う最低限の決め事を破った以上、もはやお前らはただの賊だ」
「『条約違反? 通商連には金を払えばいい』」
 ウェルスの言葉に、苦々しい表情――爬虫類ベースのケモノビトなので表情は読みにくいが――で答えるガイノス。その言葉にウェルスは絶句した。
「それが上の言葉だ。戦時条約は逸脱すれば経済的なペナルティを受ける。だが逆に金を払えば虐殺も略奪も許される。それがヴィスマルクの考えだ」
 言いながらハンマーを振るう『骨砕き』。それが彼の本意かどうかは分からない。だが、ウェルスの怒りだけでは鉄血を止められない。拳銃を握り、ヴィスマルクを止める為に弾丸を放つ。
「お前らヴィスマルクは本気で勝つためなら何でもして良いって考えてるのか!? 狂ってる……!」
「そういう事だ。そして民の代わりに狂うのが兵士の務め。血にまみれ、命を奪い、それを常とするのが兵士だ」
「そうね、それが戦争。私もそれに身をゆだねてきたわ」
 ガイノスの言葉に頷く『キセキの果て』ステラ・モラル(CL3000709)。かつてヘルメリアで工作兵として生きてきたステラ。彼女が奪ってきた命の数は多く、壊してきた施設は数知れない。『勝つためなら何でもしていい』……正にその考えのままに動いてきた。
(自分のしてきたことから、逃げるつもりはない)
 父に助けられ、そして戦場に立つ。イ・ラプセルではヘルメリアのような任務はないけれど、それでも戦争が正々堂々としたものばかりだなんて思っていない。ヴィスマルクの戦術を罵る事はしない。ただ、打ち砕く敵として彼らを見る。
「海戦で無様な姿は見せられないわ」
 揺れる船の上、しっかりと敵兵を見る。そして同時に味方も見た。波の動きに合わせるように重心を動かし、そのリズムのままに呪文を唱える。海はミズビトのフィールド。それを意識し、周囲のマナを癒しの力に返還していく。
「おとうさんなら、こうしたから」
 父の遺品を手にし、仲間を癒していく。ヘルメリア時代に使っていた武器を捨て、父の跡を継ぐように癒し手として戦場に立つ。その決意、その想い。それが形となって、仲間達を癒す魔力の花が開く。ステラはきっと認めないけど、それは戦場に父がいるかのような安堵を仲間に与えていた。その魔力が多くの自由騎士を癒し、怪我人を減らす。
「アリガト! エイラ、頑張ル!」
 ステラの癒しを受けて『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)が魔力の矢を放つ。戦場を走り回り、ヴィスマルク兵の数を減らすことを中心に動き回っていた。自らの安全は二の次に、敵兵を撃ち貫いていく。
「敵減ラシテ、他ノ仲間がジャイアントキリングすレば勝チ!」
 エイラは立ち止まらない。立ち止まることに意味がないことを知っているからだ。世界の消滅が始まり、神の蟲毒も終焉に近づいている。ここで立ち止まって考える余裕などないのだ。善悪や倫理。それを論じる時間すら惜しいほどに。
「Aチーム後退! Cチームは防御に回り穴を埋めろ!」
「隙アリ!」
 指揮の為に声をあげた『骨砕き』に向けて、射撃を止めたエイラが突撃する。振るう一戦は鋭く、命令というわずか隙を深い傷に変えた。
「ガイノス、下がれ」
「すいません」
『鋼花』の命令に従い、戦線を離脱する『骨砕き』。命令系統の乱れにより、ヴィスマルク強襲船の指揮は大きく減じる事となる。
 結果として、亜人部隊はこれ以降ジリ貧の戦いを強いられることとなった。

●幕外Ⅲ
「ここまで釘付けできれば僥倖か」
『薔薇色の髪の騎士』グローリア・アンヘル(CL3000214)は剣を振るいながらそう呟いた。ヴィスマルク兵を討つために一人突出し、剣を振るっていたのだ。
 単独で一部隊近くを足止めしていたが、限界は近い。それを知りながらグローロアは気丈に胸を張った。軍人として最後まで戦い続ける。その気概を見せつけた。
「私は自由騎士グローリア・アンヘル。国命によりヴィスマルクに挑もう」
 ヴィスマルクに関して思う事はある。だが、それは今は二の次だ。
 今はただ、軍人として最後まで身を削って戦おう――

●艦隊Ⅱ
 ヴィスマルク戦の戦いは佳境を迎えていた。
 戦乙女の加護を持つヴィスマルク兵、水女神の慈悲を持つ自由騎士。
 その趨勢は少しずつ自由騎士側和に傾きつつある。強襲船からの妨害が途絶え、歴戦の騎士の地力が少しずつ発揮されつつあった。
「おらおらおらぁー!」
 巨大な斧を振るう『神落とす北風』ジーニー・レイン(CL3000647)。ただ真っ直ぐに突き進み、敵兵を薙ぎ払う。猪突猛進に思えて、仲間の連携を頭に入れた攻勢。思考し、同時に仲間に援護を任せた攻めだ。
「悪いけどとっとと戦争を終わらせるぜ! インディオの故郷を守らないといけないからな!」
 ジーニー自身にヴィスマルクに対する強い敵意はない。だが、この戦争が長引けば世界が滅びる。それはインディオの故郷も消えるのだ。折角故郷に戻れるかもしれない同胞たちに、絶望を味合わせるわけにはいかない。
「そんなわけだ。恨みはないけど一気に行くぞ!」
「立ち塞がるというのなら、その全てを打ち砕いてみせましょう!」
 最前線に立つ『全ての人を救うために』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)はヴィスマルク兵を真正面から押し留めていた。相手の攻撃を受けながら、それでも鋼の意志で意識を保って武器を振るう。
「互いに退けぬ戦い、より強い意志と覚悟を持つ者達だけが先へ進むことが出来るでしょう……決して諦めません!」
 折れず、曲がらず、そして諦めない。世界を救うためにここで倒れるわけにはいかない。アンジェリカは心の芯に強い信念を敷き、その信念に負けぬように己を奮い立たせる。ただ真っ直ぐに道を進み続ける。苦痛などないが如きの表情で武器を振るう。
「前に! 全てのヒトを救うために!」
「無理はしないでください!」
 全線に立つ人達を守りながら『望郷のミンネザング』キリ・カーレント(CL3000547)は声を張り上げる。戦争。その是非に対して答えは出ない。アンジェリカのような強い答えは持っていない。それでも――
(それでも、キリのようなヒトはもう出しちゃいけない……!)
 戦争で故郷を失ったキリ。その喪失感は身にしみてわかっている。こんな思いを持つ人を生み出してはいけない。略奪と殺戮を繰り返すヴィスマルク。鉄血に立ち挑む理由はそれだけ。たったそれだけの強い意志で、キリはヴィスマルクの攻撃を受け止める。
「キリの復讐は終わったけど、この信念は消えません!」
「気持ちを切らすな。最後の最後、その意地が命を救う事もある」
 静かに、だけどはっきりと『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は言い放つ。精神的な要因が肉体に影響する証明はできない。だけどそれがヒトを立たせる事もある。他ならうアデル自身、それを糧に戦に挑むこともある。
(略奪、殺戮。効率的に『勝つ』戦術。嫌な顔を思い出す)
 脳裏に浮かんだかつての隊長の顔を奥歯を噛んで追い出す。今は目の前の戦場に集中するのみだ。手にした槍を振るい、敵陣を駆け抜ける。この戦場における実質的な指揮官。であるエッケハルトに肉薄し、槍を突き出す。
「名誉将軍アデル・ハビッツ。どうした大佐。ここで逃げれば『武人(クリーガァ)』の名が泣くぞ」
「分かりやすい挑発だが乗ってやろう。どの道、退くつもりなどない」
 交錯するアデルの槍と、エッケハルトのサーベル。激しい金属音が、戦場に高らかと響き渡った。共に一打必殺。相手を殺すつもりで放たれた武装が戦争をさらに加速させる。
「全力全開だー!」
 戦場を突き進む『鉄塊の如き拳』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。ケモノビトの力を開放し、ただ真っ直ぐに拳を振るう。揺れる船の影響などないかのように動き回り、その勢いを殺さぬように拳を叩き込む。
「おっすおっす、エッケハルト! 久しぶりに顔を見たよ!」
 アデルと交戦するエッケハルトを煽るように声をかけるカーミラ。三年前の因縁を忘れていないのか、エッケハルトの顔が歪む。その動揺を見逃さず、カーミラはその懐に飛び込んで拳を振るう。
「あの時の屈辱、忘れはしない。今度は我らヴィスマルクが貴様らの神を傷つけてやる」
「させないよ! 神を傷つけたこの力、今度はお前の身体で味わえ!」
「やりますなぁ、『雷帝(ドンナーカイザー)』! このシルヴァネール公爵家が嫡男にしてイ・ラプセル最強の祈祷師、クレヴァニール・シルヴァネールに傷を与えるとはぁぁぁ!」
 大声を上げて『雷帝』に迫る『水銀蛇と共に』クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)。ヴィスマルクの中でも名立たる魔術師なのだろう。二つ名に恥じない魔導力を有していることを確認し、笑みを浮かべる。
「予想以上に大したものですね。ですが、俺様も雷には自信があります……。どちらが『雷帝』に相応しいか勝負と行きましょうか!」
 言うと同時にクレヴァニールは印を結ぶ。この世界に存在する精霊に願い、雷鳥を呼び寄せる。クレヴァニールの祈祷により呼び出された鳥は稲妻の翼を広げ、戦場を飛び回る。紫電が尾を引き、多くのヴィスマルク兵の動きを封じる。
「見事。イ・ラプセル最強の祈祷師を名乗るだけのことはあるか。ならばこちらも出し惜しみなしで行こう」
「それでこそ! 稲妻の王を名乗るにふさわしい戦いと行こうではありませんか!」
「あ、すまんス。これ戦争なんで横ヤリいれるっすね」
 タイマン上等的な雰囲気を砕くように『stale tomorrow』ジャム・レッティング(CL3000612)の放った銃弾が『雷帝』を襲う。卑怯だとか誇りだとか言っている余裕はない。実際、『雷帝』を放置すれば被害は甚大になる。
(やべー爺さんすからね。。出来るだけ早く落とさなくちゃ)
 銃弾の数。周りの敵味方の配置。鬼の視線による意識妨害。そういった『手札』を数えながらジャムは『雷帝』を狙う。こここそが『切り札』の切り時だ、とばかりに攻撃を重ねていく。相手を老兵を侮るつもりはない。むしろ老兵だからこそ侮らない。
「爺ちゃん嫌いじゃないけど、戦争っすから。ここで倒しとけってあたしの勘が言ってるんすよ」
 相手とやり取りするつもりはない。言葉さえも相手の手管。ただひたすらに弾丸を装填し、引き金を引く。反撃の稲妻に耐えながら、最後の弾丸を撃ち放った。
「……やったっス。老軍人には色々面倒な縁があるっすね」
 倒れた『雷帝』を見ながら、ジャムは静かにため息をついた。

●敵将
 ヴィスマルクとイ・ラプセルがぶつかっている戦場から離れた場所。竜牙艦隊の司令艦。
 そこに迫る自由騎士と、それを防ぐヴィスマルク兵の戦いがあった。
「奴の居場所はあそこか。分かりやすい場所に閉じこもっているな」
『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)はヴィスマルク兵の布陣と相手の性格から司令官のガブリエーレ・クラウゼヴィッツの居場所を割り出していた。無理をしてまでここまで潜り込んだのは、相手に情報を渡さない為でもある。
「全く、いつでも戦場は人手不足だな。私のような政治家まで駆り出されるとは」
 愚痴りながら人形に命令してヴィスマルク兵を打ち払う。ライモンドの意のままに戦場を駆けまわる蒸気人形。その動きはさながら生物の如く。無機質ならではの関節の動きと、生物のような滑らかな動き。その二つが融合していた。
「ここであの男を倒せば、海軍の指揮系統は乱れるだろう。無理をする価値はある」
「そうだね。この国の者を蹂躙し、アクアディーネを悲しませる者は……僕が許さない」
 怒りの言葉を放つ『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。イ・ラプセルにいる女神アクアディーネ。ヴィスマルクの意図は彼女の心を削るためだ。そんな事はさせない。そんな事をするモノは許せない。強く決意し、歩を進める。
「流石に、これは使えないか……」
 ニンジャの巻物を手に苦笑するマグノリア。ニンジャの術がなければこれはただの巻物だ。バッグにしまって、魔力を展開する。敵兵を全て倒すため、解き放たれた魔力の帯が甲板に荒れ狂う。
「手加減はしない。命が惜しくないのなら、かかってくるんだ」
 小規模な戦場とかした司令艦の甲板。
 その様子を艦橋から俯瞰しながらクラウゼヴィッツ少将は笑みを浮かべていた。
「ふん、無駄な特攻だったな。その程度では私の元には届くまい。所詮は小国の軍隊という事か」
「そうかな? 確かに島は小さいけど見どころはあるよ」
 聞こえてきた声に驚くクラウゼヴィッツ。しかし声の主は何処にもいない。……それどころか、艦橋には誰もいない。副官も、他の軍人も、だれも――
「だ、誰かいないのか!?」
「折角来たんだから、ゆっくりイ・ラプセルを堪能してもらうよ。
 捕虜待遇だけどね!」
 声と同時に魔力がほとばしり、クラウゼヴィッツを襲う。それはクラウゼヴィッツの足元に命中した。
 わざとだ。
 自分が狙われていることを理解してもらうための威嚇。そのつもりがあるなら、今の一撃でこちらを戦闘不能にできただろう。敢えてそれをせずに、恐怖を与える為にそうしたのだ。
「だ、誰か来い!」
「誰も来ないよ。みーんな倒しちゃったもん」
「う、嘘をいうな! 生えある竜牙艦隊の海兵が――」
「嘘じゃないよ。自慢の兵隊のほとんどは最前線に出てるし、残った兵隊も甲板で戦闘中。誰もここには来ないよ」
 くすくすくす。そんな笑い声さえ聞こえてきそうな、そんな楽しそうな声。その声から逃げるようにクラウゼヴィッツは走る。ヴィスマルクの兵を探し、艦の中を走り回る。その度に魔力が走り、怯えるように悲鳴を上げる。
「降参するなら終わらせてあげるよ。もう走るのも疲れたんじゃない?」
「く、く、くるなああああああああ!」
 走っても走っても消えない声。逃げる先に誰もおらず、ただ恐怖に駆り立てられるように走り続けるクラウゼヴィッツ。
 そんな彼はついに人影を見かける。希望を見つけた、とばかりに走り出す。見た目はリスの尻尾を持つケモノビトのようだ。サボっている亜人兵だろうか? どうでもいい。今はこいつを盾にして逃げ延びよう。クラウゼヴィッツは最後の力を振り絞ってそのケモノビトに迫り――
「ごーるっ。お疲れさまっ! イ・ラプセルにようこそ!」
 そんな言葉と同時に、意識が暗転する。その声が今まで自分を追いかけてきた声だと気付いたのは、気を失う寸前。
「あー、面白かったッ! さて、帰ろっと!」
 ホムンクルスと隠密術でクラウゼヴィッツに見つからないように追いかけていた『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は、満面の笑みを浮かべて敵の少将を捕虜にし、帰還する。
 ――数分後、少将不在の竜牙艦隊は指揮系統の乱れで撤退を余儀なくされる事となった。


 後に『ディレスト海戦』と呼ばれる戦役は、こうして幕を閉じる。
 竜牙艦隊が混乱して撤退する中、自由騎士を含めたイ・ラプセル軍はそれを置くことなく、襲撃された町の方に駐屯し、兵の一部を復興に当てたという。
 海からの攻勢を止めたイ・ラプセル軍だが、ヴィスマルクとの戦いはまだ終わったわけではない。
 戦を求める女神と、平和を求める女神。
 二人の女神の思惑は、世界を巻き込んでぶつかり合う。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『水の癒し』
取得者: ステラ・モラル(CL3000709)
『今はただ走り続けて』
取得者: エイラ・フラナガン(CL3000406)
『雷帝を討ちし者』
取得者: ジャム・レッティング(CL3000612)
『Tiny Squirrel』
取得者: クイニィー・アルジェント(CL3000178)

†あとがき†

to be continued……!
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