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【楽土陥落】ユーアンゲリオンは届かない




「獄層が破られたのですか?」
 グラーニア小管区の管区長エメ・アンペールはその報告を聞いたときすぐには信じることができなかった。枢機卿の裏をかくことが魔女に、自由騎士にできるわけがないはずなのに。
 追って告げられたのは、聖央都への招集である。
 最終防衛網への転属を命じられたエメは首を振る。
「この管区の護りはどうするのです? 残りの管区は今や数えるほど。ヴィスマルクがアストラントへもその毒牙を伸ばすでしょう。そうしたら次は……ここです」
「しかし、エメ殿。現在は聖央都を攻められている状況。貴方の高速魔導は聖央都を守るために必要です」
 『白銀騎士』エルネスト・ランベールが必死の様相でエメを説得する。
「私がこのグラーニア小管区を護ります」
 その申し出にエメは眉根を寄せた。眼の前の白銀騎士はかつてナディア・ナバルと共にニルヴァンに攻め込み、おめおめと帰ってきた敗軍の将(というほど偉くはないが)だ。
 もしヴィスマルクに攻められたら? 彼は護りきれるのだろうか? 
 しかして、彼は隊長職を解かれたナディアとは違い、失態をおかしたにもかかわらず隊長職の任を解かれていない。単純な男ではあるがある一定の小器用さだけは持ち合わせている。
「ナディア・ナバルと共にここは私が護ります」
「ふむ…」
 失態は見せてはいるものの、白銀騎士の隊長格の二人。それも護りに長けたガーディアンの二人がいるのであれば、籠城に徹すれば守れぬこともないだろう。それに彼らは汚名を雪ぐために一層の努力はみせざるを得ない。
「それに、国家存続も聖央都が落ちれば叶いません。なにとぞ、エメ殿!」
 ランベールとて汚名返上の機会は欲しくてたまらないのだろう。仕方がない。不安は残るがシャンバラを蹂躙する自由騎士はじめ他国の不敬な輩を放置もできない。
 神に与えられし、この魔導の力。請われているのであれば祖国のためにふるおうではないか。
「わかりました。では、このグラーニアをお願いしますよ。ではアロイス様。私どもは聖央都へ」
 ランベールは聖央都に向かい踵をかえしたエメの背に深く深く礼をした。


「諸君。シャンバラ皇国との決戦である」
 『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) は自由騎士たちに厳かにそう切り出した。
 去年より続くシャンバラとの戦いは自由騎士たちの活躍により、決戦を迎えるに至った。
「君たちは、聖央都の市街地、西側より侵入してもらい、其処を守るソラビトのマギアス、エメ・アンペール率いる白銀騎士達を撃退してもらう。
 彼女を知っているものもいるだろうが、高威力の詠唱魔導を短節詠唱で連発するという相手だ。
 彼女の魔導力はシャンバラでも高位に位置する。
 くれぐれも油断のないように。
 そして彼女を守る白銀騎士であるアロイス・バルトもまた手練である。
 彼らには後がもうない。故にその抵抗は大きなものになるだろう。
 いいかね、これは宰相クラウス・フォン・プラテスではなく我輩個人としての言葉だ。
 無事に、帰ってきてくれたまえ」
 言って、クラウスは自由騎士達に詳細を記した書類を手渡すと次のチームへの説明に向かうのだった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.エメ・アンペールの撃破
2.白銀騎士の撃破
 ねこてんです。
 決戦です。前哨戦です。
 なお、ナディアとエルネストはグラーニアにお留守番ですので登場はしません。
 ナディアはどくどくSTからお借りしております。
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「この共通タグ【楽土陥落】依頼は、連動イベントのものになります。同時期に発生した依頼ですが、複数参加することは問題ありません」
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 ●エネミー

 エリアボス
 ・地方聖職者(準神民) エメ・アンペール マギアス・ソラビト
 グラーニア小管区の管理者の30代前半の女性。敬虔なミトラース信徒。
 高火力の魔導で敵を殲滅することを得手としています。
 守られている間はジウスドラの函を連発することになります。
 ランク2までのマギアススキルと、ハーベストレイン、ノートルダムの息吹 を使用します。

 EX(P):短節詠唱(詠唱時間-1ターン)
 短節で詠唱することで、詠唱ターンを短くしますが、術式のダメージは75%まで減少します。
 捕虜として捕まることがあれば自害するでしょう。

 ネームド
・白銀騎士 アロイス・バルト
 エメを守る騎士です。ガーディアン・ノウブル
 ランク2のスキルを使用。パリィングを守護対象に使います。
 攻撃力はそれほど高くはありませんが命中、防御力とHPはかなり高いです。

 白銀騎士×8
 
 内訳
 ドクター×2
 バスター×2
 ガーディアン×2
 マギアス×2
 ランク2までのスキルを使います。練度は皆様の最高レベルと同じ程度。
 エメに近づくのを邪魔してきます。
 魔導攻撃に耐性があり高めの治癒力の魔導が付与された装備を配布されています。
 すべてノウブルです。

 魔女狩り×2
 ネクロマンサーランク2スキルまで使用します。
 ケモノビトです。
 


 ●ロケーション
 聖央都 市街区
 市街区ではありますが、戦争として攻め込まれた以上は戦場ですので通商連のルールには抵触しません。
 明るさ、広さなどは特に問題はありません。思いっきり戦ってください。
 建物を遮蔽物に使えますが使っている間は攻撃はできません。
 一般人は既に退去していますので、一般人はいませんのでご安心ください。

 同行にムサシマル・ハセ倉がいます。
 特に指示がなければ皆様の邪魔にならないように戦います。
 指示は【ムサシマル指示】の最新の発言を参照します。
状態
完了
報酬マテリア
3個  7個  3個  3個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年04月18日

†メイン参加者 8人†





「さて、エメ殿、自由騎士が現れました」
 白銀騎士アロイス・バルトは一歩前に歩を進め、目の前の敵を睨む。
 この聖央都が攻められるなどとは思ってもいなかった。ミトラースの守護により、シャンバラは永遠に守られるはずであったのだ。
「わかっております。我が神敵、我が身に変えても討ちましょう」
 そうして女は――エメ・アンペールは詠唱を唱え始めた。

 その日の聖央都は喧騒に満ちていた。響き渡る剣戟、魔導を行使する音、悲鳴、怒号。
 まさに戦地である。
 自由騎士以外にもイ・ラプセルの国防騎士達もまた、この場で戦っている。
 彼らはお互いに死ぬなよと声を掛け合い己の戦地に向かう。
「綺麗な街ね」
 『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)が見るましろに統一され整えられたシャンバラの町並みは美しい。けれど――。
 それはヨウセイを礎にした唾棄すべき美しさだ。エルシーはこみ上げる吐き気を抑え、敵を睨む。
「このような状況でなければぜひ魔導について対話を交わしてみたかったが」
 そんな状況ではあるまい。『静かなる天眼』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は手にしたアンプルを軽く振る。
 敵と味方。双方に別れ戦い暴力でもって自らの弁を通す。
 それが戦争だ。この先に『優しい世界』があるのかはわからない。しかし、『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)はその歩みを止めることができない。
 信念のため、少年は歩むことを決めたのだから。
 援護は任せろ、とクマのケモノビトが叫ぶ。
「頼む」
 『鋼壁の』アデル・ハビッツ(CL3000496)は一言だけ返すとジョルトランサーを構える。
 いつもどおりにすればいい。力によるシンプルな強制とその応酬。そう、こいつが戦争だ。お互いにやるべき事を、すべての力を以て通す……ああ、いつもどおりだ。
「過去はどうであれ、現在の侵略者は私達です。責められるのは私達でしょう。でも今はそんなことどうでも良くて――。治癒はまかせてください。みなさんは私が支えます! ロジェさん、連携していきますよ!」
 蒼光の癒し手(病弱)』フーリィン・アルカナム(CL3000403)にも思うことはある。しかし今はやるべきことをやることに注力すると誓う。
「エメさんは生かして捕らえたいし自害してほしくないわ」
 『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)はつぶやく。
 相手はたった一度魔導を打ち合っただけの仲だ。友人でも、憎き仇でもない。
 ――「呪文は省略しない方が好み、枝葉の言葉も大事」
 ――「ロマンチストなのね。詠唱は短ければ短いほどに効率的」
 ただ、そのときのやり取りがきゐこの心に楔を打ったのだ。
(相手がこちらを殺そうとしてるのに、こっちは捕らえたい……ね。そんな余裕があればいいけど)
 『神の御業を断つ拳』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は小さく舌打ちをする。ライカは人同士の戦いに神の権能を使う気はない。詰まりは、どの神の使徒(オラクル)ももつ『神殺し』とそしてアクアディーネの権能『不殺』を使わないという意味である。それは敵対する相手を『殺す』つもりで戦うということだ。
「最後の抵抗だ。無理もあるまい。彼女らからすれば勝っても負けても良い結果にはならぬだろうからな。ならば戦い、潔く散ってもらうが贐か」
 『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の言葉にきゐこは目を向けた。
「生きていれば良いことがある。それは単なる押しつけだ。ああ、もちろんソレで救われる者もいるだろう。しかしそうでないものも居る。彼女は後者だろう」
 テオドールの言葉はただただ、事実を述べているだけだ。
「それでも……」
 きゐこは諦めきれない。諦めきれないのだ。

「我が名は自由騎士アダム・クランプトン! 誇り持つ者ならば名乗られよ!」
 朗々たるアダムの名乗りあげにより戦いが始まる。
 前衛にはエルシー、ライカ、アデル、アダム。後衛攻撃手としてきゐことテオドール。回復手としてフーリィンとリュリュというバランスの取れた布陣である。
「我が名は白銀騎士、アロイス・バルト。この先にはいかせんよ、自由騎士」
 詠唱を止めないエメの代わりにアロイスが、エメの前で答えた。

 彼らがまずは狙うのはネクロマンサーだ。彼らの予測どおりドクターはガーディアンが護りを固めている。
 彼らは目配せをすると、事前に決めた通りに攻撃を始める。
「流石にダメージは通りにくいのだわ」
「魔導に秀でた国だけのことはあるな」
 衝突はあったとは言え、きゐことテオドールの連携に澱みはない。
 バスターが踏み込んでくるのを、ライカが留める。
「ムサシマル! 強化はブレイクゲイトで剥がしてくれ!」
 リュリュがムサシマル・ハセ倉(nCL3000011) に指示をかければ、ムサシマルはほいさ! と軽い返事で飛び込んでいく。
「……正直なところ、勝つ気はあるのかしら。アルス・マグナの発動に賭けてる…?でも一つを滅ぼしても他の二国が攻めて終わりでしょうに」
 ライカの疑問にバスターは答える。
「我が神は勝利を我らに与えてくれる!!」
 狂信者は眼の前の敗北を認めることはできない。
「ばかばかしい」
 ライカは吐き捨てながら、最高速の一撃をバスターに放つ。
「くらえ! 緋色の拳!」
 エルシーは目の前のネクロマンサーごと鉄山靠でエメを穿とうとするが、エメを庇う位置に立つアロイスに止められる。
 それでも無駄ではない。アロイスにダメージを与えることもまた必要なことだ。
「アルカナム!」
「はい! ありがとうございます!」
 リュリュはノートルダムの息吹を展開するフーリィンへアンチトキシスを付与し、彼女を補佐する。彼の役割はいうなれば地味なものである。しかしてその小さなフォローは戦地に強固な土台を敷いていくものでもあるのだ。
 故に彼は皆の状況の変化を見逃さない。
「ゆらりゆれる水の函、流せ、流せ、揺らめく天秤を傾けよ」
 エメの詠唱が完了し、魔導による満潮と引き潮が自由騎士たちを弄ぶ。
「さすが、シャンバラトップレベルの魔導と謳われるだけあるわね」
 ガードをしながらエルシーがダメージに辟易しながらもつぶやく。
「これがこの先何度も来るとはうんざりするな」
 アデルですら恨み言をつぶやく。
 リュリュとフーリィンは目配せしあって皆の回復に努める。状況は始まったばかりだ。25%減算されたダメージとはいえ、二人がかりで回復しなくてはチームを支えることができない。彼女が詠唱中のタイミングでしかBS回復もできないというタイトな状況だ。
 最悪の場合アダムは前衛から下がりフーリィンを守る必要があるかもしれないことを視野にいれる。
 アロイスならこういう場合どのように守護対象をまもるのだろうか?
「私は戦争に片が付いたらエメさんと魔導やお互いの国や神様について等諸々建設的な雑談や議論がしたいのよ!」
 きゐこは叫びながらユピテルゲイヂを放つ。
「建設的なおはなし? そうですね。あなた達が今すぐ改宗して我が光(かみ)に跪くということかしら?」
「そうじゃなくて、魔導のお話とか……! あなただって魔導に興味はあるんでしょう? 私はもっともっといろんなことを知りたいわ!」
「いいえ、いいえ。私はこの国のため、神のため魔導を磨きました。それは怨敵を撃つため。魔導の髄が知りたいから、興味があるから、楽しいからではありません。この国がなくなれば、なにも意味がありません」
 交わしあう意見は平行線をたどる。魔導を極めるもの。その二人の目的は天と地ほどに違う。エメの言葉に狂気は存在していない。ただ事実を述べているだけだ。
「戦後、そうですね。貴方が改宗するつもりがなければあなたは生きていないでしょう。故に、戦後貴方と交わすお話はございません」
 それは絶対なる拒絶。彼女にとってイ・ラプセルが勝利した場合においては穏やかな戦後など存在しない。ミトラースを失った世界など、彼女にとっては絶望の場所でしかないのだ。
 逆にミトラースが生存する未来であれば。改宗するのであれば望む未来への道へつながることもあるだろう。
 しかしそれはたら、れば、の話で、そうすることはできるわけがないのだ。
「でも!」
 続けようとするきゐこを同じくユピテルゲイヂを展開していたテオドールが止める。
「これ以上は平行線だ。君が譲る気がないのであればどこまでいっても同じだろう。彼女とて譲るつもりはないだろう」
(彼女の魔導には興味がある。彼女は殉教の使徒なのだろう。生き残った彼女に残るものは……考えたくもないな。きっと絶望でしかないだろう)
 リュリュは心を切り替える。エメに説得など通じることはないだろう。もちろんきゐこや、口にはだしてはいないが、リュリュの傍らにたつフーリィンもまた人死にに強い拒絶感を持っているのは知っている。
 エルシーだってそうだ。彼女だってできる限りは人殺しはしたくないだろう。
 最前列で盾を務めるアダムだってそのはずだ。まあ、彼は最近考え方が変わりつつあるようだが――。
「きゐこ! アタシたちはこの女の拠り所を奪う侵略者よ! その侵略者と仲良く雑談? 無理にきまってる。侵略者に捕まって生き恥を晒すような女じゃないことはもうわかってるんでしょう? アタシが同じ立場だったら死ぬわ!」
 バスターを誘導しながら龍王の牙でネクロマンサーを切り伏せたライカが耐えきれないという言うように叫ぶ。
「それでも!」
 きゐこは心の何処かでは無理であると納得はしているのだ。シャンバラの民は権能により心を支配されていると予測されている。
 ミトラースが死ねば権能が弱まり説得できる可能性があるとも思った。しかし、権能にかかわらずエメは強い意志でミトラースに殉教を考えている、とわかる。 
「ヨウセイを犠牲にしてノウブルが幸せを享受する世界は、歪んでいると思わない?」
 エルシーもまたエメ(シャンバラ)に問う。
「いいえ。魔女は汚れた存在。神に背く背教の邪徒。その邪徒が罪を贖いこの国のためになることはなにも歪んでいるとは思いません。むしろ、そんな背教者ですら神は慈しみ愛し、そして国家のためになる栄誉を与えているのです」
「ああ、もう、話が通じない! シャンバラ以外の世界を知りなさいよ」
「必要ありません。世界はシャンバラによって統一されるのですから。シャンバラこそが世界なのですから」
 そういって笑うエメの表情は慈愛に満ちている。ミトラースが世界を救うと言わんがばかりに。

 そして戦闘は推移する。お互いに満身創痍。一度膝を着いたものもいる。アデルは無言でバッシュを続ける。ときにダメージが最も大きいものを見極め、集中攻撃の指示をする。
 フーリィンはともすれば萎えてしまいそうな気持ちを抑え回復魔導を展開する。何度使ったのかわからない。いつ終わるのかもわからない。しかしこの場を支えることが自分の使命だ。リュリュもまたフーリィンのそばでそれを支えてくれているのだ。自分が膝を折るわけにはいかない。
(状況は良くはない。良くはないが――)
 リュリュは戦場を俯瞰して思う。良くはない。しかしわずかだがほんの僅かだが、希望はみえてきている。ここが回復手としての自分の踏ん張りどころだと思い、再度フーリィンにアンチトキシスを付与する。
 白銀騎士たちはガーディアンとドクターを残しほぼ倒れた。ライカが白銀騎士が減るたびにエメに牽制をかけるがアロイスに阻まれてしまう。
 アダムが前衛に合図を送ると、満身創痍のその体にムチを打って、前に飛び出しバーチカルブロウで、ドクターからガーディアンを引き剥がした。
「よくやった、アダム」
 フリーになったドクターに向かい前衛達が集中攻撃をかける。ドクターは必死の抵抗で自らにメセグリンをつかうが焼け石に水だ。
 戦いの天秤は徐々に自由騎士たちに傾いていく。自由騎士たちは残る白銀騎士とアロイス、そしてエメを囲んでいく。
「アロイス・バルト! あなたに問いたい!」
 アダムが叫ぶ。
「貴方のの信念はどんなモノなのか!」
「この国を守護することだ」
「それが何かの犠牲のもとにあったとしてもだろうか」
「もちろんだ。護り戦う以上犠牲は生まれる。犠牲に怯え足を止めれば民は、神は護れない」
「犠牲は少しでも減らしたい!」
「それが貴様の信念か? 笑止、砂糖菓子よりも甘い信念だ!」
「わかっている! 甘い理想だ。僕の行いが正しいかはわからない。それでも僕は僕自身を信じて、この信念が正しいと信じる。
 この道の先に望む世界があると信じる」
「そうか。その信念を叩き割ってやろう」
 アロイスは少しだけ羨望を込めた表情でアダムを見た。
「僕の信念で貴方の信念を乗り越えてみせる!」
 ガキン、と二人の騎士の武器が重なる。アダムの楔(ウェッジ)が発動しアロイスの防御を貫いていく。
「男の子だね、アダム」
 エルシーがからかうが、アダムは不敵に笑ってみせる。
「なんとも眩しい話だ」
 だが嫌いではない。自分には届かない浪漫だがな、とアデルは兜の下の口元を綻ばせる。自分がやることはきまっている。いつもの戦争だ。彼と自分の道はきっと重なることはないだろうが、アダムがそれを為せるのであれば貫いてみるがいいと思う。
 ライカの影狼がエメごしにアロイスを削り取っていく。エルシーも緋色の衝撃をエメに向け放つ。至近距離からアロイスに向かって放たれた衝撃はアロイス以上の衝撃をエメに伝える。
 こほりとエメが血を吐く。
「エメ殿!」
「大丈夫とは言えませんが。あと少し耐えれますか?」
「ええ」
 アロイスの返事にエメは回復ではなく詠唱を唱え始めた。彼らはいまや生き残るという意志は無い。この場で刺し違えてても敵を討つという意志だけでこの場に立っている。
 テオドールは鋭聴力でもって決死の覚悟を乗せるエメの詠唱を一字一句余さず覚えようと構えた。
「どうして死のうとするのよ!」
 きゐこの言葉にエメは答えない。
 アダムがシールドバッシュをアロイスに炸裂させれば、エメの護りが外れる。
「ちっ!」
 アロイスが舌打ちをして体勢を整えるが間に合わない。
 其処に突貫するのはアデルだ。彼は今や防御など考えていない。決死の一撃だ。傭兵らしく浪漫の欠片もなく、ただ効率だけを追い求めるその一撃は三度、女を穿つ。
 ――きゐこの未来を見通す目が5秒後の女の絶命を予測する。
 だから、きゐこは必死で「雪女郎の果ての果て」を展開する。その隣を風が吹き抜ける。ライカだ。
 事実エメのジウスドラが次に発動すれば、全員倒れてしまうことになるだろう。
 フーリィンの蒼光の祈り(おくのて)はすでに発動している。故にリュリュが彼女を支えているものの倒れるのも時間の問題だ。
 だからライカは風となる。殺意の風に。周りに危険が及ぶのであれば誰かの願いと天秤にかけることはできない。
 フーリィンが悲鳴をあげた。ぼろぼろと涙を流しながら。
 きゐこは運命に祈る。宿業を改竄せんと。
 エメが薄く笑った。笑って、口の中に潜ませておいた速攻性の毒を食む。
 こほり、とエメが血を吐き倒れた。
 祈りは届かない。 
 エメを殺したくないのは本当の気持ちだった。だが完全な拒絶で心が迷ってないとは言えない。
 その迷いが、運命の欠片を取りそこねたのだ。
「うそ、でしょ」
 血溜まりの中のエメはきゐこに答えない。
「見事な殉教でした。エメ殿。我らが慈愛の神は貴方を称えることでしょう。私もいずれ貴方のもとに」
 アロイスは武器を構え、自由騎士に向かう。
 アロイスが勝てる要素はいまやもう失われた。しかして退くことはできない。

 戦いの天秤は完全に自由騎士達に傾き、この場における市街戦は集結を迎えた。
 しかしまだ自由騎士の戦いは終わらない。戦争の前哨戦を終えただけである。彼らには神殺しという役割がまだ残っている。
「死なずにすめば最上だったろうさ」
 動かぬエメにメセグリンを掛け続けるフーリィンにリュリュは声をかける。死んだものは蘇ることはない。
「自分で命を捨てるなんてとんでもないです! 生きたくても生きられない人もいるのに! そういうところがシャンバラはおかしいんですよ!」
 フーリィンの叫びは曇る空に吸い込まれた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『夢の通い路みちしるべ』
取得者: 猪市 きゐこ(CL3000048)
『折れぬ信念』
取得者: アダム・クランプトン(CL3000185)

†あとがき†

想いの先が違えば想いは重ならないこともあります。

MVPはヒーラーを支えた縁の下の力持ちのあなたに。

同じスキルを持ち、状況としての解析もありましたので、短節詠唱は
ラーニングが叶いました。

それではこの先も戦いはありますが、頑張ってください。
ご参加ありがとうございました。
FL送付済