MagiaSteam
Steal!? 蒸気の国から来た泥棒



●『フリーエンジン』のネズミと先生
 アクアフェスタ終了から終日後、ノウブルとネズミのケモノビトがイ・ラプセルの街道を歩いていた。
「凄いですよね、先生。ノウブルと亜人が平等に祭りを楽しむなんて信じられないです」
 大声で喋るネズミのケモノビト。頭を隠す大きなフードは背中で垂れており、その解放感を示すように笑顔が溢れていた。
「ええ、本当に。亜人側の今まで抑圧された恨みを見事に消化している。奴隷撤廃の令と同時に様々な教育案だ出されたのだろう。最低でも平等に対する教育と労働に対する教育。そして同時に移民を受け入れる農地開拓や――」
「耳を出しても石を投げられないってすごいです! ああ、こんなことならティダルトに住む人もこっそりこちらに来てほしいです!」
「船でひそやかにここに来ること自体は海軍の練度によるが不可能ではない。ロンディアナで発明された音の反響で船を見つける装置はまだ試作段階だ。月のない夜に小舟を出して灯台のない所に密航することは――」
「あの道化師さんの言う通りでした! ここの人達は本当に優しいです! ああ、ずっとここに住んでいたい……」
「さすがにそれは難しい。わたしたちは観光の名目でやってきている。そろそろ期間オーバーで騎士達が動き出すだろう。それまでに調べることを調べなくては」
「はい! 神殺しと水鏡ですね! ガジェットが持ち込めればもう少し効率よくいけたんですけど……」
「確かに。だけど下手に目立つわけにはいかない。水鏡階差演算装置は首都サンクディゼールにある。現物が見れればベスト。最悪原理だけでも知っておきたい。
『フリーエンジン』で演算装置が作製可能か不可能か。それにより『アイオロスの球』の場所が特定できるか。そもそもその精度は如何なるものか」
「本当にあの道化師さんには感謝です! さっきも『そろそろ内部鎮圧班と南部方面の奴隷狩りが手薄になるから、いい帰り時だよ』って教えてくれましたし!」
「あのローブ男にどんな意図があるかは読めないけど、少なくとも嘘ではなかったのは幸いか。
 では行こう。騒動が起きれば即撤退。戦闘は極力避ける方向で探ろう」
 二人が向かう先は――首都サンクディゼール。

●階差演算室
「斯様な二人組が演算装置にて感知された」
『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は集まった自由騎士に向かいそう告げる。
「名目上は観光を理由に入国しているヘルメリア人だ。首都に入る事自体は止めることはできない。だが彼らは夜に観光エリアより内に入り、ことあろうか演算装置室に迫ろうと目論んでいる」
 ――イ・ラプセルが移民を受け入れる関係上、一定区域までの入国が緩くなるのは致し方ない事である。だが城や神殿などは二重三重の物理的魔導的防衛戦が張られている。水鏡演算装置も結果としてその役割を担っている。
「防衛方法は大きく二つ。つまり先に動くか動くのを待つか、である。先だって接触し、無茶を止めさせる。その場合、逃げる彼らを捕らえる必要があるだろう。かつ罪は未遂以前の状態となるので二人の長期拘束はできない。説得しての国外退去が関の山だ。
 防衛すれば明確な在任故に長期の拘束及び尋問が可能だ。正規軍にも事は伝えてあるので、捕らえるのは容易だろう」
 どちらを選ぶかは、自由騎士達に委ねられた。正規軍としては接触するポイントが分かれば兵を割くことは問題ないという。
 さてどうするかな? モノクルで覗くクラウスの瞳が、そう問いかけていた。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
他国調査
担当ST
どくどく
■成功条件
1.泥棒二人の戦闘不能(生死は問わない)
 どくどくです。
 潜入ミッションだぜ!(NPCが)

●敵情報
・泥棒(×二)
 ヘルメリアから来た泥棒です。目的は水鏡演算装置の情報。それをすっぱ抜かれるわけにはいかないので、止めてください。
 二人とも非オラクルです。その為フラグメント復活はしません。

『六つ穴』レティーナ・フォルゲン
 頭に生えたネズミ両耳に三つずつ穴があいているネズミのケモノビトです。曰く「えへへ。すごく痛かったですけど、大丈夫ですよ」。戦闘になればスリングショットを使って遠距離から攻めてきます。時々カバンをまさぐるなど挙動不審になります。
『ヘッドショット Lv1』『テレパス 急』『魔眼 破』等を活性化しています。

『先生』ジョン・コーリナー
 眼鏡をかけたノウブルです。『フリーエンジン』と言う組織に属しているようです。武器はナイフ。
『ラピッドジーン Lv2』『ヘンゼルとグレーテル』『スチームノウエッジ』等を活性化しています。

●場所情報
 接触する状況によって、二種類に分かれます。
・事前接触する場合
 サンクディゼールの宿屋一階。幸道前の夕食時に接触します。自由騎士の権限で人払い及び出入口封鎖は可能です。
 脱出第一に考えますので、交渉や尋問は捕らえた後になるでしょう。

・待ち受ける場合。
 城に向かう一本道。そこで騎士団正規兵と連携して挟み撃ちにします。明かりなどは正規兵が用意してくれます。
 毎ターンの最初に、正規兵の援護で泥棒二人に矢を飛ばしてダメージが入ります。彼らは『不殺』の権能を持っていないので、この攻撃でHPが0になれば泥棒達は死亡します。

 どちらの場合でも戦闘開始時の敵陣営は『六つ穴』『先生』二人とも敵前衛となります。
 事前付与は三回まで可能です。

 戦闘自体は苦戦しないでしょう。リプレイの比率も会話が多めになります。勿論ひっとらえて尋問して精度の高い情報を得ることも可能です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
1個  1個  1個  5個
18モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2018年09月23日

†メイン参加者 8人†




 正規軍と自由騎士の共同作戦。目的はヘルメリアからくる泥棒の確保。
 作戦開始前にランスロット・カースン(CL3000391)と『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が正規兵の騎士と話をしていた。
「援護射撃を控えろ?」
「できれば生かして捕えたいのです。彼らの組織の事も、目的も不明なのであります。情報を得るためには生け捕りが不可欠」
「僕らにはアクアディーネ様から授かった不殺の権能があります。二人組を逃さないように留意して頂ければ、あとは我々がやりますので」
 二人の騎士による嘆願。それは――
「いいだろう。部下達にも伝えておく。初手も威嚇射撃に留めよう」
 あっさりと承諾された。彼らもまた、イ・ラプセルを守る者達。その目的にそう限りは自由騎士も同士なのだ。断る理由はない。
「では捕縛は任せよう。不要とは思うが、援護がいるときは合図してくれ」

 王城に続く一本道。道を照らす星々は暗く、闇に紛れるにはうってつけの状況だ。
「戦闘中に『目を合わせる』っていうのは難しいと思うが、念のために用意しておくか」
 相手の魔眼対策でサングラスをかける『星達の記録者』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。戦闘中の激しい動きの中で目を合わせて『魔眼』を発動させるのは容易ではない。だが可能性を減らすにこしたことはない。
「ゲストは歓迎せねばな?」
 言ってドリンクに口をつける『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)。演算装置からの情報によれば、相手はアレイスターから情報を得たという。その思惑は不明だが、投げられたパスは受けてやる。
「ふふっ! へルメリアかぁ……どんなお話が聞けちゃうかなぁー、楽しみだなぁ」
 暗殺針を手にしてはしゃぐように『子リスの大冒険』クイニィー・アルジェント(CL3000178)が口を開く。潜入して情報を得るという行為自体はクイニィーも良くやることだ。だからこそ、同じことをされるのはプライドに関わる。
「そうですね。聞きたいことはたくさんありますからね」
 笑みを浮かべる『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)。相手はヘルメリアに存在する組織からのスパイ。何が目的で、何の理由で水鏡と神殺しを調べるのか。それを調べて何を為そうとするのか。その興味は尽きない。
「確かに。それにしても水鏡階差演算装置か……」
『隠し槍の学徒』ウィリアム・H・ウォルターズ(CL3000276)は言って思考に耽る。泥棒の二人がどういう理由でそれを求めるのか。そもそも情報を得ただけで複製できると思っているのか。……そもそも、二人が知っている水鏡の情報はどのようなもなのか……。
(演算装置室に押し入ろうとするとはなぁ……っと、落ち着け。今は私情を控えろ)
 尖った神経を押さえるように『蒼影の銃士』ザルク・ミステル(CL3000067)はため息をついて深呼吸した。故国ヘルメリアのことを思うだけで気分が荒々しくなる。いまはイ・ラプセルの自由騎士として戦わなくては。
「そろそろ予定の時間よ!」
 翠のフードを着た魔術師の声が伝わる。その声に自由騎士達は現実に戻る。マキナ=ギアから武器を取り出し、所定の位置に就いた。
 建物の影に潜むように進む二つの影。水鏡の予知がなければ、気のせいと見逃すほどだ。
 一本道の真ん中に差し掛かったところで大量のランタンが開く。同時に道を塞ぐように正規兵と自由騎士が展開する。その足元に弓矢が降り、泥棒達の足を止めた。
「せ、先生……」
「何と……。こちらにミスはなかったはずですが」
 囲まれたことに気づいた泥棒達は武器を構える。戦闘以外に状況を突破できないと悟ったようだ。
 水鏡階差運命演算装置の秘密を守るため、自由騎士達は走り出す。


 最初に動いたのは――『先生』だった。ナイフを手に一気に自由騎士に迫り、近接距離まで肉薄する。
「何……!?」
「現状警戒するのは範囲攻撃による一網打尽です。生存率を上げるならこれが最上の策。
 レティーナ君、今です!」
 その言葉に答えるように『六つ穴』はカバンに手をかけ、大きく開く。
「はい、先生! 必殺ぱーんち!」
『六つ穴』は空っぽのカバンを開いた。なにもおきなかった。
「ああっ!? ガジェットはないんでした! いつもの癖で!」
「はっはっは。レティーナ君はあわてんぼうですね。ああ、でもこれで――」
 起死回生の行動が無駄に終わったのだ。こうなれば四倍の戦力差を覆す術はない。

 分針が一周するよりも早く、二人の泥棒は縛についていた。


「脱げ」
 泥棒二人に開口一番ツボミが言い放つ。
「全部だ、下着も許さん。嫌なら男衆は外に出しておく。情報を抜きに来たスパイだ。何を隠しているか分からん」
 手袋をはめながらいうツボミ。流石に路上でと言うのは(主に正規軍の意見で)憚れたので、屋内に移動しての身体検査となった。武器類などすべて押収され、入念に検査される。泥棒二人もまあそうなるよなと言う顔で、抵抗することなく検査を受けた。
「通信用の伝書鳩でも入っているのかと思ったが……本当に空っぽだな、このカバン」
 拍子抜けしたようにツボミは肩をすくめる。怪しいものは何も発見されず、急務で癒さなければならない傷もない。
「その辺は入国の際に厳しく調べられましたからね。書類もいろいろ書かされて大変でした。これでもオラクルじゃないからましな方ですが」
 とは『先生』の弁。
「水鏡の方に異常はなかった。どうやら本当に二人だけのようだ」
 念のために、と演算装置の方に向かっていたウェルスが戻ってくる。重要施設に潜入するには数が少なすぎる……と思っていたが、水鏡が予知しなければこちらが後手に回っていたかもしれないのだ。数が少ないほど計画がバレにくいというメリットもある。『たった二人』と軽視できるのはあくまで結果論なのだ。
「ここに居る時点で何も言い逃れは出来ないよ。聞きたいことたーっくさんあるの。お話聞かせてくれるよね?」
 笑みを浮かべてクイニィーが迫る。泥棒二人が抵抗する気はないのを確認し、言葉を続ける。
「君達があたし達の内情をちょこっと知ってるように、あたし達も君たちの事ちょこっと知ってるんだー。水鏡の存在を知ってるよね? 何処で誰に聞いたのかな?」
「フードをかぶった人に教えてもらいました。なんでも『イ・ラプセルには階差演算装置っていう機械があるよ。それがあればアイオロスの球を見つけることが出来るかも』って言ってました!」
「ソレを見たら作れる自信があるの? ねぇ、フリーエンジンさん?」
「それは現物を見ないことには何とも。……成程」
 頷く『先生』。クイニィーは怪訝な顔をしたが、それ以上は問わずに口を閉じた。
「ま、聞きたいことはまだあるんだ。じっくり聞かせてもらうぜ」
 ゆったりと前に出るウェルス。翠のフードをかぶった自由騎士がその後ろから笑みを浮かべて告げる。
「素直に話さないと……可愛い教え子の前で性癖暴露させるわよ♪」
「先生のせーへきってメイドさんですよね。知ってます」
「レティーナくん、後で話をしようか」
 等という一面もありましたが、
「先ずはヘルメリアの兵や兵器、施設の魔導対策について教えてもらおうか?」
「軍の総称は『歯車騎士団(ギア・ナイツ)』。その中で『プロメテウス』『正規軍』『兵站軍』の三つに分かれる」
 答えたのは泥棒達ではない。ヘルメリア王国出身のザルクだった。
「『プロメテウス』は簡単に言えば騎士型蒸気兵器だ。3メートルを超す巨大な人型兵器を特殊車両『キュニョーの砲車』の砲弾で打ち出し戦場に送り込む。その殲滅力は高く、ヘルメリアの主軸兵器だ。ヘルメリア国民なら誰もが知ってる軍の看板でもある。
『正規軍』はノウブルによる軍隊だ。一六歳の男子は一度徴兵され、二年間の兵役につく。そのまま軍人になったもので構成される。――洗礼を受けたノウブルのオラクルもこっちだな。そして『兵站軍』は――」
 ザルクは顔をゆがめ、言葉を続ける。
「ヘルメリア国内外で捕えられた『奴隷』がここに宛がわれる。『戦闘以外の役割』という名目だが……はっきり言って酷いものだ。高熱を発する戦闘用蒸気機関の近くでメンテをさせられたり、弾丸飛び交う戦場で塹壕を掘らされたり。命の保証などありやしない」
 言って唾棄するように顔を背ける。思い出したくないことを思い出した、と言う表情だ。
「概ねそのような感じです。私達はそう言った奴隷を解放しようと活動しています。……残念ながら目が出ていないというのが実情ですが」
 ヘルメリアの奴隷解放組織。『フリーエンジン(自由への原動機)』。しかしその活動はヘルメリアを変えるほどではないと言う。頭の中で情報を整理しながら、ウェルスは質問を続ける。
「……成程な。で、『アイオロスの球』っていうのは何なんだ?」
「ヘルメリアの心臓部です」
「心臓?」
「ヘルメリア首都ロンディアナの蒸気を生み出している発”蒸”機。我々の戦力でヘルメリア軍に対抗するにはここを押さえなければいけないのですが……」
 落胆する『先生』の表情が、その困難さを示していた。
「つまり、フリーエンジンの規模はヘルメリア内でもあまり強くないということか?」
 ランスロットの問いに頷く泥棒二人。
(となると、階差演算装置を狙ったのも現状の打開を求めた賭けのようなものか。相応に追い詰められているようだな……)
 異国にある装置に現状打破を願う。冷静に考えれば費用対効果があわない。それでもそれに頼らなければならないほどなのだ。
「ちなみにお前達はフリーエンジン内でどういう立場なんだ?」
「ていのいい使い捨てです」
「えへへー」
 だろうな、とランスロットはため息を吐く。組織の重要人がこんな危険を冒すわけがない。――もっとも、言葉通りの捨て駒ではないだろう。相応に能力が高いからこそ任命されたのだ。
(それにしては先ほどの戦闘はあっけなかった。実力を隠していた、とは思えない。自由騎士の連携が高かった、と言うのもあるが……)
 怪訝に思うランスロット。しかしその答えは今は出そうになかった。


「話は終わったか? なら連行して――」
「あー。もう少し待ってくれ。まだ話がある」
 牢に連れて行こうとする正規軍を止めるツボミ。健康上の理由で、と適当に理由をつけて時間を引き延ばす。
「さて、自己紹介がまだだったな。はツボミだ。貴様等の事は何と呼べば良い?」
「レティーナですっ! えへへー。ティナとかレティとか呼んでください」
「ジョン・コーリナー。お好きに」
「よし。ティナにジョンだな。貴様等質問は無いか?」
 そういうツボミに、驚きの表情を見せる泥棒二人。
「だって色々知りたくて此処に来たのだろう? そら機密は答えれんがな。それ以外は構わん」
「つまり、『演算装置』は機密で一般公開もしていない、ということですね」
「そうなるな。……そうか、その原理を知りたいということはアレイスターからはその辺りを聞いていないということか」
 その辺り、という言葉で濁すツボミ。どういうことだと問いかける仲間に、小声で答える。
<つまり、連中は水鏡がデウスギアだと知らないということだ。下手をすればデウスギアの存在そのものを知らんのかもしれん>
<ありうるのか、そんなことが……?>
<私達が知っている情報を相手が知っているとは限らない、ということだろうよ。逆もまた真、だな>
 こちらがヘルメリアの事を知らないから知りたいように、あちらも知らないから知りたいのだ。
「あのレティーナさん。その耳はどうされたんです? ファッションと呼ぶには少し乱暴な穴ですが」
「えへへ。歯車騎士団に捕まった時に色々されまして。熱かったり抉られたりしましたけど、もう大丈夫ですよ」
 エミリオの問いに笑って答えるレティーナ。『色々されまして』の中にある闇は予想以上に深い。
「ようこそイ・ラプセルへ。この国はどうだったかな」
「すごいですっ! いろんな種族の人がいて、あとお肉が柔らかくておいしくて!」
「ヘルメリアの料理は雑ですからねぇ」
 ウィリアムの問いに元気に答える『六つ穴』。暗く笑う『先生』。これもまたヘルメリアの闇なのか。
「そ、そうか……こういう状況じゃなければいいお店を紹介したかったんだが。あとヘルメリアの料理はそこまでおいしくないのか」
 沈痛に頷く泥棒二人。イ・ラプセルがどれだけ恵まれているのか、ウィリアムは改めて理解した。
「確認だが……二人は『アイオロスの球』を見つける為に演算装置の情報を求めたということだよな? それを見つけることでヘルメリア王国に打撃を与えようと」
「最終目的はヘルメリアの奴隷解放であって、『アイオロスの球』を押さえるのはそれを通すための手段なのですがね」
「確約はできないが、力になれることがあるかもしれない。私個人としては二人と仲良くしたいのでね」
「最後にいいかな」
 正規軍の視線を感じながらアダムが手をあげた。そろそろ終わりにしておかないとね、と仲間と正規軍の両方に示す。
「君達は何を望み、戦うんだい?」
「毛布で寝れる寝床です! あと、ごはんとか!」
「亜人達が奴隷狩りに怯えない生活、だよ」
『六つ穴』と『先生』の答えは異なっているようにみえて、その本質は同じ事だ。
「奴隷狩り……?」
「イ・ラプセルでも昔は奴隷商人から奴隷を買っていたんだろう? その奴隷を『狩る』集団だ。亜人は基本的に地下に潜るしかヘルメリアでは生活できない。いや、潜っても安心できなくなってきている」
「そうか……。僕は差別なく誰もが笑い合えるそんな優しい世界を望み戦っている。そんなヘルメリアの現状は看過できない」
 告げるアダム。しかし現状ではどうしようもないのは事実だ。
「種族の違いを超え協力し合っている君達となら望む世界は同じはずだ。
 何時か君達を助けに行くと約束するよ。敵としてではなく一度情報交換の場を設けてもらえると嬉しいね」
「そちらの欲する情報があれば提供するよ」
 アダムの言葉に『先生』は笑みを浮かべて応える。罪人故に手を取り合うわけにはいかないが、その約束は確かに結ばれていた。


 その後、二人の泥棒は正規軍により投獄されることになる。
 罪状は『立入禁止区域への侵入』になる。『国家機密簒奪』はあくまで未遂以前の状況なので、重い罪状にはなりそうにない。
「結局何の成果も得られませんでしたねぇ……」
「そうでもありません。彼らとの話で幾つかわかったことがあります。
 私達は自分が『フリーエンジン』と名乗ったわけではないのに、彼らは私達の素性を知っていた。……しかも組織名だけでその詳細や力関係は知らなかった。彼らが知っていたのは『私達がフリーエンジンである』と言う事だけだ」
 落ち込む『六つ穴』に優しく告げる『先生』。
「組織名だけが伝わった、ということはあるだろう。だが今日この時に襲撃するものが『フリーエンジン』という名前であることを知る手段はないはずだ。だが彼らは何らかの理由でそれを知った――おそらく水鏡と呼ばれる何かで。
 最初はディファレンスエンジンの亜種或いは劣化版と思っていたのですが、いささか形式が違うようだ。『機密』と言うからにはこの国の根幹にかかわるエネルギーか理論で作動しているのでしょう」
「……よくわかりませぇん」
「ディファレンスエンジンは過去のデータを『計算』することで現状における最適解を導き出します。それは接触したことのない事象に対しては無防備ですが、百年近い経験がその穴を埋めている。
 水鏡階差運命演算装置はおそらくその逆です。未知であるはずの私達を何らかの手段で知り、そこから襲撃と言う結果を導き出した」
「あう……私馬鹿だからよくわからないですけど、過去の逆だから未来とかですか?」
「はっはっは。未来が見えるだなんて神様じゃあるまいし。あのヘルメスでもそれは無理でしょう。
 ですがいい発想です。過去を計算しての未来予測ではなく、無限分岐する未来から災厄を選び出す未来予知。ディファレンスエンジンの予測を超えるのなら、そう言った奇抜さがなければ難しいでしょうね」

 かくしてヘルメリアからの泥棒事件は幕を下ろす。
 ヘルメリア王国に事を通達するが、文面上の謝罪を始めとした書類が送られてきた。要約すれば『悪かった。そちらの司法で裁いて構わない』との事である。
 泥棒二人はというと『拷問しないなんていい人達ですね』などと牢獄暮らしにむしろ満足している所がある。
 この出会いと情報が如何なる未来に進んでいくのか。それはまだ誰にもわからないことであった。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
 戦闘容赦ねぇ。これイージーやっちゅーの!

 以上の結果になりました。聞きたいことは聞けましたでしょうか?
 文字数やリプレイの尺の関係上、「彼らではわからない」「答えられない」部分は除いています。モーガンとかその辺り。ご了承ください。

 あと最後の泥棒二人の会話は聞いていたことにして構いません。正規軍から聞いたとかそんな感じで。

 それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済