MagiaSteam




【禁断ノ果実】Jolt!脅迫された恋人達と小悪党!

●獄中の小悪党
イ・ラプセルが『チャイルドギア』を生み出すドナー基地を占拠したと聞いた時、ユーリア・ブロックマイアーは疑問に思った。
「何でイ・ラプセルは『チャイルドギア』使って攻めてこないんだろう? あれだけの戦車で攻められたら、ヴィスマルク結構ヤバかったのに」
ユーリアは、イ・ラプセルが『チャイルドギア』で酷使された子供達の治療にヒトなどの資源を注いでいることなど、想像もできない。他人のことなどどうでもいい。それが彼女だ。
スラムで生まれ、生きるために戦い、犯罪者となり、ヴィスマルク兵に捕まって。そこでも暴力を繰り返して。勝つこともあった。虐げる事もあった。負ける事もあった、屈することもあった。それでも強かに生きてきた。そんなユーリアに一つの話が舞い込んだ。
「フェア……なんだって?」
「フェアボーテネフリュヒテ……通称『VF』だ。簡単に言えば命を削って強くなる薬だ。これをお前に投与して、イ・ラプセルと戦ってもらう」
「あたいは捨て駒かい。全く酷い話だ」
「薬は三回分渡す。どう使おうが自由だ。但し三回は絶対に使いきるんだ」
「……へえ。どう使おうが、自由か」
兵士の説明を受けて、にやりと笑うユーリア。仮釈放という形で刑務所から出所し、兵士の監視の元、ドナー基地近くにある村に潜む。時々そこをイ・ラプセルの騎士が哨戒に来ることは知っていた。狙いは彼らだ。
村はずれで密会していた若い男女を襲い、一晩かけて散々弄る。精神を摩耗させたのちに薬――フェアボーテネフリュヒテを服用させてこう告げた。
「今のませた薬は、毒薬だ。解毒剤が欲しければ、これからやってくるイ・ラプセルの騎士を襲え。一人殺せば解毒剤を一つやる。
二人とも生き残りたかったら、二人殺せ」
身体を襲う異常に恐怖した二人は、それが犯罪であることを理解しながら武器を手にする。それを見てユーリアは自分にも薬を打ったのちに微笑んだ。
(ま、解毒剤なんてないんだけどね。ホント、酷い話だ)
遠くで見ているだろうヴィスマルク兵に悪態をつき、愛用のハサミを手にする。この二人を巻き込んだのはユーリアだが、兵士も止める猶予はあったのにそれをしなかったから同じ穴の狢だ。
「捨て駒になるつもりはないさ。鎖付きだけど外に出れたんだ。暴れさせてもらうよ、イ・ラプセル!」
●イ・ラプセル
――水鏡がどれだけ精度が高くとも、全てを見通せるわけではない。もしそれが出来るなら、ユーリアが村人を誘拐する前に止めることが出来たのに。
悔やむ時間はない。水鏡の予報を受けた自由騎士達は哨戒の騎士を追うように、急ぎ現場に向かうのであった。
イ・ラプセルが『チャイルドギア』を生み出すドナー基地を占拠したと聞いた時、ユーリア・ブロックマイアーは疑問に思った。
「何でイ・ラプセルは『チャイルドギア』使って攻めてこないんだろう? あれだけの戦車で攻められたら、ヴィスマルク結構ヤバかったのに」
ユーリアは、イ・ラプセルが『チャイルドギア』で酷使された子供達の治療にヒトなどの資源を注いでいることなど、想像もできない。他人のことなどどうでもいい。それが彼女だ。
スラムで生まれ、生きるために戦い、犯罪者となり、ヴィスマルク兵に捕まって。そこでも暴力を繰り返して。勝つこともあった。虐げる事もあった。負ける事もあった、屈することもあった。それでも強かに生きてきた。そんなユーリアに一つの話が舞い込んだ。
「フェア……なんだって?」
「フェアボーテネフリュヒテ……通称『VF』だ。簡単に言えば命を削って強くなる薬だ。これをお前に投与して、イ・ラプセルと戦ってもらう」
「あたいは捨て駒かい。全く酷い話だ」
「薬は三回分渡す。どう使おうが自由だ。但し三回は絶対に使いきるんだ」
「……へえ。どう使おうが、自由か」
兵士の説明を受けて、にやりと笑うユーリア。仮釈放という形で刑務所から出所し、兵士の監視の元、ドナー基地近くにある村に潜む。時々そこをイ・ラプセルの騎士が哨戒に来ることは知っていた。狙いは彼らだ。
村はずれで密会していた若い男女を襲い、一晩かけて散々弄る。精神を摩耗させたのちに薬――フェアボーテネフリュヒテを服用させてこう告げた。
「今のませた薬は、毒薬だ。解毒剤が欲しければ、これからやってくるイ・ラプセルの騎士を襲え。一人殺せば解毒剤を一つやる。
二人とも生き残りたかったら、二人殺せ」
身体を襲う異常に恐怖した二人は、それが犯罪であることを理解しながら武器を手にする。それを見てユーリアは自分にも薬を打ったのちに微笑んだ。
(ま、解毒剤なんてないんだけどね。ホント、酷い話だ)
遠くで見ているだろうヴィスマルク兵に悪態をつき、愛用のハサミを手にする。この二人を巻き込んだのはユーリアだが、兵士も止める猶予はあったのにそれをしなかったから同じ穴の狢だ。
「捨て駒になるつもりはないさ。鎖付きだけど外に出れたんだ。暴れさせてもらうよ、イ・ラプセル!」
●イ・ラプセル
――水鏡がどれだけ精度が高くとも、全てを見通せるわけではない。もしそれが出来るなら、ユーリアが村人を誘拐する前に止めることが出来たのに。
悔やむ時間はない。水鏡の予報を受けた自由騎士達は哨戒の騎士を追うように、急ぎ現場に向かうのであった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.『村人』『ユーリア』の打破(生死問わず、逃亡も打破とみなす)
どくどくです。
Verbotene Früchteで『VF』です。
●敵情報
・ユーリア・ブロックマイアー(×1)
ヴィスマルク人。女性15歳ソラビト。軽戦士スタイル兵士の訓練こそ受けていませんが、スラムの悪環境を暴力で生き残った犯罪者。逃亡防止用の魔力首輪をつけています。
『VF』の効果で身体能力が増しており、HPや速度が上昇しています。
村人が倒されれば、逃亡します。また『生きるために人を殺す人の姿』を娯楽にしたい為、自分から騎士には手を出しません。あくまで村人に殺させようとします。
『バトリングラム Lv4』『コンフュージョンセル Lv3』『ブレイクゲイト Lv4』等を活性化しています。
・村人(×2)
ヴィスマルク人。戦場近くに住んでいる男女です。ユーリアに一晩かけて弄られ、精神的に疲弊したところに『VF』を投与されました。『騎士』を殺さないと助からないと思い込んでいます。説得はかなり難しいでしょう。
身体能力が強化され、HPや攻撃力が上昇しています。20ターンまでに戦闘不能にして適切な処置(薬を吐かせたり、一時しのぎで治癒スキルをかけたりなど)を施さなければ、薬物の影響により(仮に【非殺】で倒したとしても)衰弱死します。
スキルなどはなく、ナタ等の武器をもって近くにいる相手に攻撃を仕掛けます。
●NPC
・騎士(×2)
イ・ラプセル軍騎士。哨戒任務の途中に襲撃を受けました。見た目からは想像もできないほどのパワーに押される形で倒れ伏しています。
1点でもダメージを受ければ、死亡します。
●場所情報
ヴィスマルク領。ドナー基地から少し離れた林道。少し進んだところに村があります。明るさや広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ユーリア』『村人(×2)』がいます。味方前衛に『騎士(×2)』が戦闘不能状態で倒れています。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
Verbotene Früchteで『VF』です。
●敵情報
・ユーリア・ブロックマイアー(×1)
ヴィスマルク人。女性15歳ソラビト。軽戦士スタイル兵士の訓練こそ受けていませんが、スラムの悪環境を暴力で生き残った犯罪者。逃亡防止用の魔力首輪をつけています。
『VF』の効果で身体能力が増しており、HPや速度が上昇しています。
村人が倒されれば、逃亡します。また『生きるために人を殺す人の姿』を娯楽にしたい為、自分から騎士には手を出しません。あくまで村人に殺させようとします。
『バトリングラム Lv4』『コンフュージョンセル Lv3』『ブレイクゲイト Lv4』等を活性化しています。
・村人(×2)
ヴィスマルク人。戦場近くに住んでいる男女です。ユーリアに一晩かけて弄られ、精神的に疲弊したところに『VF』を投与されました。『騎士』を殺さないと助からないと思い込んでいます。説得はかなり難しいでしょう。
身体能力が強化され、HPや攻撃力が上昇しています。20ターンまでに戦闘不能にして適切な処置(薬を吐かせたり、一時しのぎで治癒スキルをかけたりなど)を施さなければ、薬物の影響により(仮に【非殺】で倒したとしても)衰弱死します。
スキルなどはなく、ナタ等の武器をもって近くにいる相手に攻撃を仕掛けます。
●NPC
・騎士(×2)
イ・ラプセル軍騎士。哨戒任務の途中に襲撃を受けました。見た目からは想像もできないほどのパワーに押される形で倒れ伏しています。
1点でもダメージを受ければ、死亡します。
●場所情報
ヴィスマルク領。ドナー基地から少し離れた林道。少し進んだところに村があります。明るさや広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、敵前衛に『ユーリア』『村人(×2)』がいます。味方前衛に『騎士(×2)』が戦闘不能状態で倒れています。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2021年03月11日
2021年03月11日
†メイン参加者 6人†
●
「また人の命をムダにする物を作り出したのが許せないわね……」
天哉熾 ハル(CL3000678)はフェアボーテネフリュヒテの効果を脳内で反芻して、怒りの声をあげた。人の命を兵器として転用するヴィスマルク。それを良しと受け入れる軍隊。その在り方に怒りを覚えていた。
恐らくは先の『チャイルドギア』と同時に計画は進行していたのだろう。そして多くの国を虐げた国家にとって、人命などはいて捨てるほどいるのだ。敗戦国の兵士や国民。それらがどうなろうが自らの腹が痛まないのだから。
「あのユーリアもそう言う人間の一人なのかしら……」
「さてな。取り急ぎは自国の騎士を救うことだ」
フェアボーテネフリュヒテを村人に打ったユーリアのことを心配するハルに、冷静に言い放つ『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。不明瞭な情報に推察する余裕はない。先ずは自国の仲間を救う。それが第一義だ。
ヴィスマルクの国の在り方がイ・ラプセルと違う事は理解している。勝利の為には人命を軽視する。だからこその強さ。納得はできないが、イ・ラプセルが追い込まれればその判断を下さなければならない。――苦渋の選択を行うのも、貴族の務めなのだから。
「件の薬品の効果が分からぬ故に、加減はできぬな」
「解毒剤……なんて物が作れればいいんだけどね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はフェアボーテネフリュヒテの内容を推測しながら、そんなことを呟く。解毒剤。それは『毒』の効果を押さえるか、反作用する『毒』の事だ。そのためにはまず薬品を押さえなければならない。
加えて、それは壊れてしまった肉体を癒す効果はない。毒を癒して体を癒す。そんな都合のいい薬品はできない。錬金術は都合のいい奇跡ではない。積み重ねる学問だ。一足飛びで全ては解決できない。その事を理解したうえで、告げる。
「助ける事が可能な命なら、僕も助けたい」
「正直に言って、明らかに錯乱してる一般人の方を傷つけるのはかなり躊躇します」
視界に映る敵を見ながらロザベル・エヴァンス(CL3000685)は頷いた。暴れる男女の経緯は聞いている。ただそこにいただけ、と言う罪のない人達。それが捕らえられ、寿命を削られる薬品を打たれたのだ。
だが手心を加える余裕はない。下手に手加減をして倒すのが遅れれば、二人が助かる公算が減るのだ。できるだけ早く無力化し、治療する。そうしなければ助ける事はできないというのなら、そうするまでだ。
「でも、やるしかないんですね」
「はい。頑張りましょう」
エストックを手にして『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は前に出る。かつてシャンバラで多くの同胞を囚われた身としては、誘拐を行う者を許してはおけない。村人を救い、きっちり罪を償ってもらおう。
同時にヴィスマルクに囚われたヨウセイ達が気にかかる。ヴィスマルクにとって他国民の扱いは見ての通りだ。生きていればいい、なんて楽観はできない。状況が分からない事がサーナの心を不安で包み込んでいた。
「……大丈夫。なんとかなります」
「しっかし嫌われたものだな、イ・ラプセル。エンジンの次は薬と来たか」
顎をさすりながら『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は笑みを浮かべる。先のチャイルドギアによる騒動の次は、生命を削る薬品だ。イ・ラプセルを倒すなら死んでも構わないと言う腹積もりのようだ。
最も、ヴィスマルクも愚かではない。犠牲にするのは『痛くない』命だ。心臓を守るために腕を切り捨てて戦うような、そんな冷静な判断。悪態こそつくが、そこをはき違えるロンベルではない。相手が犠牲を伴って戦うなら、こちらも相応に戦うまでだ。
「ああ、楽しませてもらうぜ。ヴィスマルク」
言って武器を向ける自由騎士。ユーリアは向けられた戦意を受けて、唇を鳴らした。
「やだねぇ、こんなの聞いてないよ。楽したいのに仕方ないか」
「ああああああああ!」
「助けて助けて助けて……!」
肩をすくめるユーリアと、錯乱状態の村人達。それらが向き直る。
戦いの合図は一陣の風。薬に侵された者を救うため、自由騎士は戦いに挑む。
●
「倒させてもらいます!」
最初に動いたのはサーナだった。片手用の突剣を構え、真っ直ぐにユーリアに迫る。ハサミを持ったユーリアの動きを目に捕らえながら、体内に魔力を通していく。神経が、筋肉が、体の隅々までが繋がりその動きを速めていく。
交差するエストックとハサミ。軽快な金属音が何度か響き、二度のフェイントの後にサーナは切っ先に力を込めて突き出す。細い切っ先を防ごうとしたハサミは鋭い一撃に弾かれ、サーナの剣はユーリアの肩に突き刺さった。
「ヴィスマルクはそう言う事しかしないんですか? 誰かを犠牲にして戦わせて」
「人ははいて捨てるほどいるみたいだからねぇ。おおっと、上を批判すると処刑されるかな?」
「そんな事はさせないわ」
首輪をいじりながら笑うユーリアに対し、ハルは鋭く言い放つ。村人二人にフェアボーテネフリュヒテを服用させたのはユーリアだが、ハルはユーリアも救うつもりでいた。彼女もまたヴィスマルクの犠牲者なのだ。
倒れ伏した騎士を前線から下げると同時に、連れてきた兵士達に指示を出す。並行して『倭刀・忠兵衛』を振るい、魔力の刃を解き放つ。精神を蝕む黒き波動が刀に宿り、鋭く形成して斬撃として解き放つ。
「倒して薬を吐かせて適切な処置をすれば助け出せるはず!」
「どうだろうねぇ。試したことないからあたいには分からないや」
「あいにくだが、そう言った揺さぶりに動じる我々ではない」
不安をあおるようなユーリアの言葉に対し、テオドールはぴしゃりと言い放つ。自由騎士はシャンバラとヘルメリアの戦いを制し、パノプティコンイやヴィスマルクをも滅ぼす勢いだ。ただ腕っぷしが強いだけの騎士団ではない。多くの不条理を超えてきた仲間だ。
『黒杖ミストルティン』と『白剣レーヴァティン』を構え、魔力を解き放つ。白き荊が解き放たれ、鎖となって敵を拘束する。呪術の到達点に達したともいえるテオドールの魔術。それが今冴えわたる。
「サンプルとさせてもらう。今後の戦いの為にな」
「おお、怖い怖い。捕まったら拘束服着せられて実験台送りにされるのか。負けてられないね」
「そんな事はしたくはない……けどね」
ユーリアの言葉にそう言い返すマグノリア。フェアボーテネフリュヒテのサンプルは欲しいし、情報もできるだけ多く得たい。その為には何でもするつもりだが、その線引きはするつもりだ。……それが研究の大きなマイナスである事は理解しているが。
この世の因果を知り、そしてその流れを利用する。それが錬金術の基本。その基本に従い、者が劣化する流れを加速させる。ユーリア達の持っている物にその法則を適応させ、肉体の動きを鈍化させる。ダメージこそないが、弱った動きを仲間が穿つ。
「察するに、自由騎士にどれだけ通用するかを調べたかったのかな」
「だとすると本当にあたいは捨て駒か。はああ、ツキがないね」
「できる事ならイ・ラプセルに逃亡してほしいです。……それが出来ないように首輪をつけられているのでしょうが」
愚痴るユーリアに声をかけるロザベル。彼女がやった所業は犯罪でしかないが、それでも敵であるからと言って殺してしまうのは違う気がする。イ・ラプセルに逃亡させることが出来れば何かが変わるかもしれない。
何をするにせよ、ここを制さなければならない。ロザベルは剣を振るい、村人の一人と相対する。ナタを振るう村人に対してできるだけ傷つけないようにしていたが、加減している余裕がないと分かるとその力を強めていく。
「肉体への影響は押さえたいのですが……これは流石に!」
「だろうよ。お偉いさん自慢のお薬だ。あたいも使ってみてヤバいって思ったよ。ここまでして力が欲しいとか、頭悪すぎるぜ」
「そうか? 薬で肉体強化するとか常識だろうが」
ユーリアの言葉を鼻で笑うロンベル。副作用を受け入れたうえで力を求める。闘争こそ人生と豪語するロンベルからすれば当然のことだった。緩やかに長く生きるよりは、燃え盛って戦いの中で力尽きる方がいい。戦闘狂の思考だ。
戦闘開始時から全力で村人を攻めるロンベル。ただの人間なら最初の一撃で数度は死んでいる程の攻撃だが、フェアボーテネフリュヒテを飲んだ村人は意に介さずロンベルを攻めていた。その強さに気に入ったとばかりに笑みを浮かべる。
「戦いはこうでなくちゃな! ただのヒトがここまで強くなるなんざ、大したもんだぜ!」
「その男が欲しけりゃくれてやるよ。好きなだけ殴ってな。正直、弄り飽きちまった」
「ああ、こいつに飽きたら次はお前の番だ」
「怖い怖い。あたいはただの小悪党なんだから、見逃してほしいねぇ」
斬り結びながらそんな会話を続ける自由騎士とユーリア。
「回復役を狙って来たか……!」
「肉体強化された一撃は、流石に厳しいね……」
ユーリアの攻撃は主に後衛を中心に行われていた。投擲用のナイフを投げつけ、テオドールとマグノリアを集中的に狙ってくる。二人はフラグメンツを削られるほどのダメージを受けていた。
「痛ぇなぁ……! これでこそ戦いってもんだ!」
「蒸気騎士の装甲を貫く程魔で強化されるのですか」
「……まだ、です!」
村人を押さえる為に戦っていたロンベルとロザベル。そしてユーリアを斬り結んでいたサーナも戦いの中でフラグメンツを燃やす。
「おいおい、あんたらからすれば赤の他人だろ? そんな無理なんかしなくてもいいじゃないか」
傷つきながらも戦う自由騎士を前に、ユーリアはひきつったようにそう問いかけてくる。彼女の人生観からすれば、自由騎士がここまでして戦うのは信じられないようだ。任務の為に他人を犠牲にするヴィスマルクとは真逆の精神性。
二国の戦いは、少しずつ佳境に向かっていく――
●
フェアボーテネフリュヒテを服用した人間は、自分自身の生命を削り取って力を得るという。常人ではありえない力と、そして体力。ただの人間が数多の戦歴を持つ自由騎士と渡り合えるほどの力を得ているのだ。その代償は軽くはない。
そして裏社会で悪事を行い、ある程度の戦闘経験を持つユーリアもその薬を服用している。彼女も同様に寿命を削って強くなっていた。
「ようやく倒したか。オラ、吐けよ! ……くそ、どれがその薬かわかりゃしねぇな」
ロンベルは村人を倒し、喉の奥に指を突っ込んで嘔吐させる。あわよくば薬を飲もうとしたのだが、吐き出した胃液から元の薬を見つける事はできなかった。液体なのか、錠剤なのか、それさえも分からないのだから仕方ないと言えば仕方ないが。
「これはかなり厳しいね……。イブリースに匹敵するんじゃない、かな」
マグノリアは村人やユーリアの強さをそう判断する。個体差こそあるが、動物などがイブリース化すればここまで肉体が強化される。もっともこれは今のケースだ。これで薬の効果を推し量るには、未だデータが足りない。
「逃がしはしない。その罪を償ってもらおう」
テオドールはユーリアの足元を沼にして、動きを封じた。その性格から逃げることが予想されているユーリアの動きを止め、逃がさないようにする。魔術で生み出された沼がユーリアの足を捕らえた。翼を使って移動するにしても、手間はかかるだろう。
「ええ、逃がさないわよ! 貴方も治療を受けるのよ!」
足を封じたところにハルが切りかかる。彼女もフェアボーテネフリュヒテを服用している。生命を削って力を得る薬だ。その影響をできるだけ早く排除しなければ、どんな影響が出るかわかったものではない。
「……仕方ありませんね……!」
度重なる猛攻を前にサーナは攻撃から回復に移行する。フェアボーテネフリュヒテにより強化されたユーリヤや村人の攻撃が激しすぎる。森から生まれるマナを体内に取り入れ、癒しの力に変えて解き放つ。
「覚悟はしていたのですが……ここまでとは……!」
どうにか村人を倒したロザベル。最初は抵抗する村人の肉体影響を考えて強い攻撃を躊躇していたが、予想以上の強さを前にそうも言ってられないと判断し、猛攻撃に出ざるを得なかった。倒れた村人が動かなったことを確認し、新たな敵に目を向ける。
「おー……すっげぇな自由騎士。こわいんであたいは帰りたいんだけどねぇ」
逃げようにもテオドールが作り出した沼で足止めを受けている。ここから逃げださない限りは逃亡は難しい。
「しかしわかんないねぇ。あたいを癒したいとか救いたいとか。何? 美味しいご飯作ってくれるの? 温かいベッドで寝かせてくれるの? どうしたいの?」
「ヴィスマルクに利用されて、薬を打たれた貴方の身体を普通に戻したいの」
「フツウ? 普通って何? 今のあたいが異常で憐れだって言いたいの?
なにそれ? 上から目線で語ってんじゃないよ。あたいは薬を貰って、それを使ってこいつらをいたぶって楽しんだんだ。あたい自身も自分で薬を打ったんだ。それが不幸? 本気でそう思ってるんならお笑い種だね!」
自由騎士の伸ばした手を、嘲笑うユーリア。自分勝手な価値観で不幸と思われ、それを『救う』『癒す』と言われ、その在り方を彼女は――
「騎士っていうのはどの国でも変わらないね。ヴィスマルクもイ・ラプセルも上から目線の価値観を押し付けてくるんだからさ!」
説得は通じない。ユーリアは抵抗を止めるつもりはないようだ。自由騎士もその言葉を受け、ユーリアを攻める。その狙いは、沼を生み出したテオドールに向けられた。
「……ここまで、か!」
ユーリアの投げたナイフがテオドールに突き刺さり、その意識を奪う。同時に解除された足元の沼を確認し、ユーリアは翼を広げて後ろに跳躍した。
「逃がさねぇよ」
「貴方を助けると言ったわ!」
ユーリアを追うように動くロンベルとハル。滑るように地面を移動し、逃げるユーリアの距離を詰めた。 ロンベルの斧がユーリアの胴を薙ぎ、ハルの刀が首輪を斬る。
「ウソだろ。疲れてるんだから大人しく寝てりゃいいのに」
ホント、わけわかんない。そんな表情を浮かべてユーリアは地面に倒れ伏した。
●
「……残念だけど、もう助からない」
マグノリアは冷静に事実を述べる。目の前に横たわるのは、三つの遺体。
「薬を吐かせるまで時間をかけ過ぎたか」
自由騎士達はユーリア討伐に力を注いでおり、村人にはロンベルとロザベルの二人で対応していた。相手がただの村人、もしくはヴィスマルク兵ならそこまで時間はかからなかったのだろう。予想以上に時間がかかり、薬物を吐き出させても手遅れとなってしまった。村人打破を重視していれば、或いは助けられたかもしれない。
だが薬物による強化の度合いが分からなかった事もあるし、何よりもユーリアに力を注いだからこそ彼女を逃すことなく倒せたのだ。
「……こんなことになるなんて……」
ユーリアの遺体を見ながらハルは静かに呟く。
「逃亡防止用の首輪だからな。無理矢理破壊しようとすると、反抗の意志ありと判断されてこうなる様になっていたんだろう」
ユーリアのつけていた首輪の内側には、彼女の喉を突き刺すように短い針が生えていた。その先端には致死性の毒が塗られてある。一定時間経過するか、何かの刺激があると飛び出るようになっていたのだろう。
「私が首輪を斬ったから……だから彼女は……」
「仕方ありません。悪いのはこの首輪を作ったヴィスマルクです。このような仕掛けがあるなど、想像できるはずがありません」
「負ければ死ぬ。当たり前の結果だ。こいつも分かってるさ」
青ざめるハルに、ロザベルとロンベルが声をかける。ハルに責任はない。ユーリアは失敗すれば死ぬことを理解したうえで行動したのだ。ヴィスマルクに戻るにせよ、イ・ラプセルに服するにせよ、その先に救いはない。彼女自身、国に救われたいと思っていない節があったのだ。
「出来ればサンプルとして回収したいけど……」
「駄目だ。死亡したとはいえ他国の一般人の身柄を確保したとなれば、問題になる」
フェアボーテネフリュヒテのサンプルとして遺体を持ち帰って研究したいと言うマグノリアに、首を横に振るテオドール。
襲い掛かられて撃退した、までは正当防衛で通じる。だがその遺体を持ち帰ったとなれば大問題だ。最悪、ユーリアの行った罪状を押し付けられる可能性もあるのだ。諦めざるを得まい。
チャイルドギアは『兵器』だから鹵獲できた。だが人間を持ち帰れば誘拐なのだ。
「観察しているヴィスマルク軍人は……流石にわかりませんよね」
サーナは周囲の木々にヴィスマルク軍人の事を尋ねてみたが、木は『人間』は解っても『軍人』は解らないという。普通のヒトが『木』の顔の判別がつかないようなものだ。仕方ないと諦める。
自由騎士達は遺体を村に輸送した後に、帰路についた。
襲撃された騎士達は一命をとりとめ、自由騎士達に感謝の言葉を告げる。療養は必要だが後遺症などもなく、すぐに現場に復帰できそうだ。
フェアボーテネフリュヒテ。生命を削り、力を得る薬。ヴィスマルク帝国でも使用を控えていた薬品。禁じられた果実は解禁され、その脅威がイ・ラプセルに振りかかる。
だがそれはヴィスマルクが追い込まれていることの証左でもあった――
「また人の命をムダにする物を作り出したのが許せないわね……」
天哉熾 ハル(CL3000678)はフェアボーテネフリュヒテの効果を脳内で反芻して、怒りの声をあげた。人の命を兵器として転用するヴィスマルク。それを良しと受け入れる軍隊。その在り方に怒りを覚えていた。
恐らくは先の『チャイルドギア』と同時に計画は進行していたのだろう。そして多くの国を虐げた国家にとって、人命などはいて捨てるほどいるのだ。敗戦国の兵士や国民。それらがどうなろうが自らの腹が痛まないのだから。
「あのユーリアもそう言う人間の一人なのかしら……」
「さてな。取り急ぎは自国の騎士を救うことだ」
フェアボーテネフリュヒテを村人に打ったユーリアのことを心配するハルに、冷静に言い放つ『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。不明瞭な情報に推察する余裕はない。先ずは自国の仲間を救う。それが第一義だ。
ヴィスマルクの国の在り方がイ・ラプセルと違う事は理解している。勝利の為には人命を軽視する。だからこその強さ。納得はできないが、イ・ラプセルが追い込まれればその判断を下さなければならない。――苦渋の選択を行うのも、貴族の務めなのだから。
「件の薬品の効果が分からぬ故に、加減はできぬな」
「解毒剤……なんて物が作れればいいんだけどね」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)はフェアボーテネフリュヒテの内容を推測しながら、そんなことを呟く。解毒剤。それは『毒』の効果を押さえるか、反作用する『毒』の事だ。そのためにはまず薬品を押さえなければならない。
加えて、それは壊れてしまった肉体を癒す効果はない。毒を癒して体を癒す。そんな都合のいい薬品はできない。錬金術は都合のいい奇跡ではない。積み重ねる学問だ。一足飛びで全ては解決できない。その事を理解したうえで、告げる。
「助ける事が可能な命なら、僕も助けたい」
「正直に言って、明らかに錯乱してる一般人の方を傷つけるのはかなり躊躇します」
視界に映る敵を見ながらロザベル・エヴァンス(CL3000685)は頷いた。暴れる男女の経緯は聞いている。ただそこにいただけ、と言う罪のない人達。それが捕らえられ、寿命を削られる薬品を打たれたのだ。
だが手心を加える余裕はない。下手に手加減をして倒すのが遅れれば、二人が助かる公算が減るのだ。できるだけ早く無力化し、治療する。そうしなければ助ける事はできないというのなら、そうするまでだ。
「でも、やるしかないんですね」
「はい。頑張りましょう」
エストックを手にして『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は前に出る。かつてシャンバラで多くの同胞を囚われた身としては、誘拐を行う者を許してはおけない。村人を救い、きっちり罪を償ってもらおう。
同時にヴィスマルクに囚われたヨウセイ達が気にかかる。ヴィスマルクにとって他国民の扱いは見ての通りだ。生きていればいい、なんて楽観はできない。状況が分からない事がサーナの心を不安で包み込んでいた。
「……大丈夫。なんとかなります」
「しっかし嫌われたものだな、イ・ラプセル。エンジンの次は薬と来たか」
顎をさすりながら『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)は笑みを浮かべる。先のチャイルドギアによる騒動の次は、生命を削る薬品だ。イ・ラプセルを倒すなら死んでも構わないと言う腹積もりのようだ。
最も、ヴィスマルクも愚かではない。犠牲にするのは『痛くない』命だ。心臓を守るために腕を切り捨てて戦うような、そんな冷静な判断。悪態こそつくが、そこをはき違えるロンベルではない。相手が犠牲を伴って戦うなら、こちらも相応に戦うまでだ。
「ああ、楽しませてもらうぜ。ヴィスマルク」
言って武器を向ける自由騎士。ユーリアは向けられた戦意を受けて、唇を鳴らした。
「やだねぇ、こんなの聞いてないよ。楽したいのに仕方ないか」
「ああああああああ!」
「助けて助けて助けて……!」
肩をすくめるユーリアと、錯乱状態の村人達。それらが向き直る。
戦いの合図は一陣の風。薬に侵された者を救うため、自由騎士は戦いに挑む。
●
「倒させてもらいます!」
最初に動いたのはサーナだった。片手用の突剣を構え、真っ直ぐにユーリアに迫る。ハサミを持ったユーリアの動きを目に捕らえながら、体内に魔力を通していく。神経が、筋肉が、体の隅々までが繋がりその動きを速めていく。
交差するエストックとハサミ。軽快な金属音が何度か響き、二度のフェイントの後にサーナは切っ先に力を込めて突き出す。細い切っ先を防ごうとしたハサミは鋭い一撃に弾かれ、サーナの剣はユーリアの肩に突き刺さった。
「ヴィスマルクはそう言う事しかしないんですか? 誰かを犠牲にして戦わせて」
「人ははいて捨てるほどいるみたいだからねぇ。おおっと、上を批判すると処刑されるかな?」
「そんな事はさせないわ」
首輪をいじりながら笑うユーリアに対し、ハルは鋭く言い放つ。村人二人にフェアボーテネフリュヒテを服用させたのはユーリアだが、ハルはユーリアも救うつもりでいた。彼女もまたヴィスマルクの犠牲者なのだ。
倒れ伏した騎士を前線から下げると同時に、連れてきた兵士達に指示を出す。並行して『倭刀・忠兵衛』を振るい、魔力の刃を解き放つ。精神を蝕む黒き波動が刀に宿り、鋭く形成して斬撃として解き放つ。
「倒して薬を吐かせて適切な処置をすれば助け出せるはず!」
「どうだろうねぇ。試したことないからあたいには分からないや」
「あいにくだが、そう言った揺さぶりに動じる我々ではない」
不安をあおるようなユーリアの言葉に対し、テオドールはぴしゃりと言い放つ。自由騎士はシャンバラとヘルメリアの戦いを制し、パノプティコンイやヴィスマルクをも滅ぼす勢いだ。ただ腕っぷしが強いだけの騎士団ではない。多くの不条理を超えてきた仲間だ。
『黒杖ミストルティン』と『白剣レーヴァティン』を構え、魔力を解き放つ。白き荊が解き放たれ、鎖となって敵を拘束する。呪術の到達点に達したともいえるテオドールの魔術。それが今冴えわたる。
「サンプルとさせてもらう。今後の戦いの為にな」
「おお、怖い怖い。捕まったら拘束服着せられて実験台送りにされるのか。負けてられないね」
「そんな事はしたくはない……けどね」
ユーリアの言葉にそう言い返すマグノリア。フェアボーテネフリュヒテのサンプルは欲しいし、情報もできるだけ多く得たい。その為には何でもするつもりだが、その線引きはするつもりだ。……それが研究の大きなマイナスである事は理解しているが。
この世の因果を知り、そしてその流れを利用する。それが錬金術の基本。その基本に従い、者が劣化する流れを加速させる。ユーリア達の持っている物にその法則を適応させ、肉体の動きを鈍化させる。ダメージこそないが、弱った動きを仲間が穿つ。
「察するに、自由騎士にどれだけ通用するかを調べたかったのかな」
「だとすると本当にあたいは捨て駒か。はああ、ツキがないね」
「できる事ならイ・ラプセルに逃亡してほしいです。……それが出来ないように首輪をつけられているのでしょうが」
愚痴るユーリアに声をかけるロザベル。彼女がやった所業は犯罪でしかないが、それでも敵であるからと言って殺してしまうのは違う気がする。イ・ラプセルに逃亡させることが出来れば何かが変わるかもしれない。
何をするにせよ、ここを制さなければならない。ロザベルは剣を振るい、村人の一人と相対する。ナタを振るう村人に対してできるだけ傷つけないようにしていたが、加減している余裕がないと分かるとその力を強めていく。
「肉体への影響は押さえたいのですが……これは流石に!」
「だろうよ。お偉いさん自慢のお薬だ。あたいも使ってみてヤバいって思ったよ。ここまでして力が欲しいとか、頭悪すぎるぜ」
「そうか? 薬で肉体強化するとか常識だろうが」
ユーリアの言葉を鼻で笑うロンベル。副作用を受け入れたうえで力を求める。闘争こそ人生と豪語するロンベルからすれば当然のことだった。緩やかに長く生きるよりは、燃え盛って戦いの中で力尽きる方がいい。戦闘狂の思考だ。
戦闘開始時から全力で村人を攻めるロンベル。ただの人間なら最初の一撃で数度は死んでいる程の攻撃だが、フェアボーテネフリュヒテを飲んだ村人は意に介さずロンベルを攻めていた。その強さに気に入ったとばかりに笑みを浮かべる。
「戦いはこうでなくちゃな! ただのヒトがここまで強くなるなんざ、大したもんだぜ!」
「その男が欲しけりゃくれてやるよ。好きなだけ殴ってな。正直、弄り飽きちまった」
「ああ、こいつに飽きたら次はお前の番だ」
「怖い怖い。あたいはただの小悪党なんだから、見逃してほしいねぇ」
斬り結びながらそんな会話を続ける自由騎士とユーリア。
「回復役を狙って来たか……!」
「肉体強化された一撃は、流石に厳しいね……」
ユーリアの攻撃は主に後衛を中心に行われていた。投擲用のナイフを投げつけ、テオドールとマグノリアを集中的に狙ってくる。二人はフラグメンツを削られるほどのダメージを受けていた。
「痛ぇなぁ……! これでこそ戦いってもんだ!」
「蒸気騎士の装甲を貫く程魔で強化されるのですか」
「……まだ、です!」
村人を押さえる為に戦っていたロンベルとロザベル。そしてユーリアを斬り結んでいたサーナも戦いの中でフラグメンツを燃やす。
「おいおい、あんたらからすれば赤の他人だろ? そんな無理なんかしなくてもいいじゃないか」
傷つきながらも戦う自由騎士を前に、ユーリアはひきつったようにそう問いかけてくる。彼女の人生観からすれば、自由騎士がここまでして戦うのは信じられないようだ。任務の為に他人を犠牲にするヴィスマルクとは真逆の精神性。
二国の戦いは、少しずつ佳境に向かっていく――
●
フェアボーテネフリュヒテを服用した人間は、自分自身の生命を削り取って力を得るという。常人ではありえない力と、そして体力。ただの人間が数多の戦歴を持つ自由騎士と渡り合えるほどの力を得ているのだ。その代償は軽くはない。
そして裏社会で悪事を行い、ある程度の戦闘経験を持つユーリアもその薬を服用している。彼女も同様に寿命を削って強くなっていた。
「ようやく倒したか。オラ、吐けよ! ……くそ、どれがその薬かわかりゃしねぇな」
ロンベルは村人を倒し、喉の奥に指を突っ込んで嘔吐させる。あわよくば薬を飲もうとしたのだが、吐き出した胃液から元の薬を見つける事はできなかった。液体なのか、錠剤なのか、それさえも分からないのだから仕方ないと言えば仕方ないが。
「これはかなり厳しいね……。イブリースに匹敵するんじゃない、かな」
マグノリアは村人やユーリアの強さをそう判断する。個体差こそあるが、動物などがイブリース化すればここまで肉体が強化される。もっともこれは今のケースだ。これで薬の効果を推し量るには、未だデータが足りない。
「逃がしはしない。その罪を償ってもらおう」
テオドールはユーリアの足元を沼にして、動きを封じた。その性格から逃げることが予想されているユーリアの動きを止め、逃がさないようにする。魔術で生み出された沼がユーリアの足を捕らえた。翼を使って移動するにしても、手間はかかるだろう。
「ええ、逃がさないわよ! 貴方も治療を受けるのよ!」
足を封じたところにハルが切りかかる。彼女もフェアボーテネフリュヒテを服用している。生命を削って力を得る薬だ。その影響をできるだけ早く排除しなければ、どんな影響が出るかわかったものではない。
「……仕方ありませんね……!」
度重なる猛攻を前にサーナは攻撃から回復に移行する。フェアボーテネフリュヒテにより強化されたユーリヤや村人の攻撃が激しすぎる。森から生まれるマナを体内に取り入れ、癒しの力に変えて解き放つ。
「覚悟はしていたのですが……ここまでとは……!」
どうにか村人を倒したロザベル。最初は抵抗する村人の肉体影響を考えて強い攻撃を躊躇していたが、予想以上の強さを前にそうも言ってられないと判断し、猛攻撃に出ざるを得なかった。倒れた村人が動かなったことを確認し、新たな敵に目を向ける。
「おー……すっげぇな自由騎士。こわいんであたいは帰りたいんだけどねぇ」
逃げようにもテオドールが作り出した沼で足止めを受けている。ここから逃げださない限りは逃亡は難しい。
「しかしわかんないねぇ。あたいを癒したいとか救いたいとか。何? 美味しいご飯作ってくれるの? 温かいベッドで寝かせてくれるの? どうしたいの?」
「ヴィスマルクに利用されて、薬を打たれた貴方の身体を普通に戻したいの」
「フツウ? 普通って何? 今のあたいが異常で憐れだって言いたいの?
なにそれ? 上から目線で語ってんじゃないよ。あたいは薬を貰って、それを使ってこいつらをいたぶって楽しんだんだ。あたい自身も自分で薬を打ったんだ。それが不幸? 本気でそう思ってるんならお笑い種だね!」
自由騎士の伸ばした手を、嘲笑うユーリア。自分勝手な価値観で不幸と思われ、それを『救う』『癒す』と言われ、その在り方を彼女は――
「騎士っていうのはどの国でも変わらないね。ヴィスマルクもイ・ラプセルも上から目線の価値観を押し付けてくるんだからさ!」
説得は通じない。ユーリアは抵抗を止めるつもりはないようだ。自由騎士もその言葉を受け、ユーリアを攻める。その狙いは、沼を生み出したテオドールに向けられた。
「……ここまで、か!」
ユーリアの投げたナイフがテオドールに突き刺さり、その意識を奪う。同時に解除された足元の沼を確認し、ユーリアは翼を広げて後ろに跳躍した。
「逃がさねぇよ」
「貴方を助けると言ったわ!」
ユーリアを追うように動くロンベルとハル。滑るように地面を移動し、逃げるユーリアの距離を詰めた。 ロンベルの斧がユーリアの胴を薙ぎ、ハルの刀が首輪を斬る。
「ウソだろ。疲れてるんだから大人しく寝てりゃいいのに」
ホント、わけわかんない。そんな表情を浮かべてユーリアは地面に倒れ伏した。
●
「……残念だけど、もう助からない」
マグノリアは冷静に事実を述べる。目の前に横たわるのは、三つの遺体。
「薬を吐かせるまで時間をかけ過ぎたか」
自由騎士達はユーリア討伐に力を注いでおり、村人にはロンベルとロザベルの二人で対応していた。相手がただの村人、もしくはヴィスマルク兵ならそこまで時間はかからなかったのだろう。予想以上に時間がかかり、薬物を吐き出させても手遅れとなってしまった。村人打破を重視していれば、或いは助けられたかもしれない。
だが薬物による強化の度合いが分からなかった事もあるし、何よりもユーリアに力を注いだからこそ彼女を逃すことなく倒せたのだ。
「……こんなことになるなんて……」
ユーリアの遺体を見ながらハルは静かに呟く。
「逃亡防止用の首輪だからな。無理矢理破壊しようとすると、反抗の意志ありと判断されてこうなる様になっていたんだろう」
ユーリアのつけていた首輪の内側には、彼女の喉を突き刺すように短い針が生えていた。その先端には致死性の毒が塗られてある。一定時間経過するか、何かの刺激があると飛び出るようになっていたのだろう。
「私が首輪を斬ったから……だから彼女は……」
「仕方ありません。悪いのはこの首輪を作ったヴィスマルクです。このような仕掛けがあるなど、想像できるはずがありません」
「負ければ死ぬ。当たり前の結果だ。こいつも分かってるさ」
青ざめるハルに、ロザベルとロンベルが声をかける。ハルに責任はない。ユーリアは失敗すれば死ぬことを理解したうえで行動したのだ。ヴィスマルクに戻るにせよ、イ・ラプセルに服するにせよ、その先に救いはない。彼女自身、国に救われたいと思っていない節があったのだ。
「出来ればサンプルとして回収したいけど……」
「駄目だ。死亡したとはいえ他国の一般人の身柄を確保したとなれば、問題になる」
フェアボーテネフリュヒテのサンプルとして遺体を持ち帰って研究したいと言うマグノリアに、首を横に振るテオドール。
襲い掛かられて撃退した、までは正当防衛で通じる。だがその遺体を持ち帰ったとなれば大問題だ。最悪、ユーリアの行った罪状を押し付けられる可能性もあるのだ。諦めざるを得まい。
チャイルドギアは『兵器』だから鹵獲できた。だが人間を持ち帰れば誘拐なのだ。
「観察しているヴィスマルク軍人は……流石にわかりませんよね」
サーナは周囲の木々にヴィスマルク軍人の事を尋ねてみたが、木は『人間』は解っても『軍人』は解らないという。普通のヒトが『木』の顔の判別がつかないようなものだ。仕方ないと諦める。
自由騎士達は遺体を村に輸送した後に、帰路についた。
襲撃された騎士達は一命をとりとめ、自由騎士達に感謝の言葉を告げる。療養は必要だが後遺症などもなく、すぐに現場に復帰できそうだ。
フェアボーテネフリュヒテ。生命を削り、力を得る薬。ヴィスマルク帝国でも使用を控えていた薬品。禁じられた果実は解禁され、その脅威がイ・ラプセルに振りかかる。
だがそれはヴィスマルクが追い込まれていることの証左でもあった――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
どうでもいい話ですが、この時点でNPCがヴィスマルクに捕らわれていた場合、容赦なく薬を打たれて敵として出てきました。いえーい!
異常のような結果になりました。
MVPは戦闘およびロールプレイ面からバルバロイト様に。プレイングから感じる躍動感と、しっかりした戦術でした。
それではまた、イ・ラプセルで。
どうでもいい話ですが、この時点でNPCがヴィスマルクに捕らわれていた場合、容赦なく薬を打たれて敵として出てきました。いえーい!
異常のような結果になりました。
MVPは戦闘およびロールプレイ面からバルバロイト様に。プレイングから感じる躍動感と、しっかりした戦術でした。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済