MagiaSteam
Care! ドナー基地緊急病棟発足!



●一つの戦いの終わり
 チャイルドギア――
 ヴィスマルクが生み出した駆動システムで、蒸気騎士の駆動システムを転用した駆動系だ。その名の通り薬物や暴力で大人に逆らえないようにした幼い子供を拘束して閉じ込め、命令を与えて戦わせるものである。
 これにより兵器の小型化並びにコストの削減を可能とし、大量の戦車軍団が生み出される――予定であった。その発案者であるジルヴェスター・エルトル・ウーリヒはイ・ラプセルの軍門に下り、その研究成果やデータも同様に押さえられた。ヴィスマルクがこれ以上チャイルドギアの研究を行うことは難しいだろう。
 そう、チャイルドギアがこれ以上生み出されることはない。これでめでたしめでたし――

●戦争はいつだって、後処理の方が大変なのだというお話
「――いやまあ、ひと段落ではあるのですがね」
 ジョン・コーリナー(nCL3000046)はため息交じりの声でそう呟いた。その表情はこれからしなければならない苦労を物語っている。
 チャイルドギアがこれ以上生み出されることはなく、同時にチャイルドギアから多くの子供達を回収できた。
 ではその子供達がいきなり元気になって家に帰っていったと言うと、そんなわけはない。鋼鉄の箱の中に拘束されていたのだ。まともに歩ける者など一人もいない。自意識を保っている者はまだましな方で、精神に傷を負ったがほとんどだ。
 端的に言えば、放置すれば死ぬ。そんな子供達ばかりなのだ。
「そうですね。チャイルドギアから救出した子供達。精神的なケアが必要な子供は四三四名。精神的にな無事ですが肉体的に殴られたり薬物を討たれたりで動けない子供は七八六名。包帯もベッドもそれだけ必要です」
 レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)はまとめた資料を読み上げる。ジョンの助手のようなこのネズミのケモノビトも数字を読み上げながら何ともいえない表情を浮かべていた。数字が莫大過ぎて、想像が追い付かない。
「幸運なことが二つ。ドナー基地で子供達を治療可能なスペースを確保できたことだ。少なくともゼロから病院を建てると言う暴挙はしなくてよさそうだ。
 もう一つは、回収した資料から子供達の治療法がある程度確立できる」
 サイラス・オーニッツ(nCL3000012)は医者の見地からコメントする。とはいえ、圧倒的に人手が足りない事は事実である。
「合理的に考えれば、見捨てるのが一番なのですが」
 ジョンの意見は、ある意味正しい。イ・ラプセルは戦争を行っている。人員などの資源は大事にすべきだ。ましてや子供達は他国の子供。助ける義務は何処にもない。その時間を別の方向に向けるのが、国としては建設的なのは確かだ。
「この数字を戦った自由騎士に黙って握りつぶしたら、なんといわれるか」
 命を懸けて救った子供達は、結局こちらの都合で救えませんでした。そんな結末は誰も望んでいないだろう。
 かくして、占領したばかりのドナー基地の七割近くは急造病棟と化すのであった――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常σ
担当ST
どくどく
■成功条件
1.傷ついた子供達をケアする
 どくどくです。
 チャイルドギア、後始末編。ある意味、ここが本番です。

●説明ッ!
 占領したてのドナー基地。そこはチャイルドギアで消耗された子供達の病棟となりました。
 とはいえ、治療を行うには乏しい状態です。ベッドなどなく、地面に布団や毛布を敷いてその上に寝かせる程度。そもそも部屋が足らず、まだマシな子供は廊下に寝かせています。当然、こんな状態では十分な治療などできるはずもありません。
 このままだと救った子供達は満足な治療を受けることが出来ずに死んでしまうでしょう。
 幸いにして、治療に必要な物と行動は解っています。ただ、人手が足りません。

 行動内容はプレイングもしくはEXプレイングに【1】~【3】を書いてください。それ以外の行動は【4】でお願いします。書かれていなかった場合、適当にどくどくが判断します。
 いや、マジで書いて頂けるとありがたく。執筆の苦労がまるで変わるので。

【1】医療具作製:ベッドを作るために木を切ったり、ベッドを作ったり。子供達をベッドに運んだり。布を切って包帯を作ったり、後は体を温める為のお湯を沸かしたり。そう言った肉体労働です。
【2】治療行為:包帯を巻いたり、薬を作ったり。或いは精神的におびえる子供の手を握ってあげたり。実際に子供に接して治療します。魔術の治療は一時的なので、有効ではありません。
【3】慰労行為:『まだマシ』な子供達に芸を見せたり、話をしたりして元気を出してもらうために頑張ってもらいます。戦闘スキルや武器を抜くのは子供達に戦いを想起させるのでアウト。

●NPC
 NPCは絡まれなければ空気です。基本的に提示した番号で行動していますが、呼び出すことは可能です。

・サイラス・オーニッツ(nCL3000012)
 ペストマスクの医者です。【2】で治療行為をしています。時々子供に泣かれてます。本人は苦い薬のせいだと思っているようですが。

・アミナ・ミゼット(nCL3000051)
 褐色の少女です。【3】で踊っています。事情はあまり理解していませんが、踊って皆を喜ばせてくれと言われています。

・ジョン・コーリナー(nCL3000046)
 こっそり子供達のことを握りつぶそうとする程度には冷徹な人間です。【1】でベッドを作っています。

・レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)
 ジョンに従うネズミのケモノビトです。【1】で包帯を作っています。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
 
状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  0個  1個
3モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
24/∞
公開日
2021年01月12日

†メイン参加者 24人†

『おもてなしの和菓子職人』
シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)
『望郷のミンネザング』
キリ・カーレント(CL3000547)
『祈りは歌にのせて』
サーナ・フィレネ(CL3000681)



「問題点ばかりだな。然もありなんと言えば仕方のない話だが」
『智の実践者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はまとめられた種類を見ながらそう呟いた。チャイルドギアに『使用』された子供の数とその症状。そしてそれを治療する為の環境。医療には素人のテオドールだが、これがどれだけ困難なのかは理解できる。
「千を超える子供達、か」
 先ずは治療する子供達の数が多い。それにかかる労力もそこから割り出せる。例えるなら、山の頂点までの距離が分かりどれだけの時間がかかってどれだけ疲労するかが分かったのだ。だが、
「……これでも助けることができた数、というのだからな。しかし見捨てるわけにもいくまい」
 ため息をついてテオドールは人の割り振りを開始する。やることは多い。どこから手を付けなければならないか、どの人材が適任か、物資は、場所は、考えることは多かった。


「ジョンちゃんの言う事ももっともなのよな」
 医療物資を運びながら『何やってんだよお父さん』ニコラス・モラル(CL3000453)はぼやく。工作員として一歩引いた視点で見れば、治療にかける人数や物資を前線に回した方が国の為だ。損得勘定で言えば大損なのである。
「だから働きたくないのよー。分かる? 娘に連絡入れないと起こられるしさー」
 なのでニコラスは治療ではなく物資運搬と言う作業に従事していた――これはこれで重要な事のだが。だが本当にサボったら娘になんといわれるか。そんなジレンマがあった。
「うん。これならこの膏薬でいけそうだね」
 膏薬――動物の油で煉り合せた打ち身の薬を塗りながらリィ・エーベルト(CL3000628)は頷いた。ヴィスマルクの兵士から暴力行為を受けていたのだろう。リィの前に居る子供の背中には青い痣が残っていた。
(助けるって言ったんなら最後まで面倒見ないと、嘘になるよねぇ)
 先の戦争はチャイルドギアにとr割れた子供を開放するのが名目だった。だが自由騎士達は子供達を助けることに意義を見出している。なら、ここで治療するのは当然だ。薬士の知識を生かし、リィは子供達を診ていく。
「うん。いい子だね。飴玉をあげる」
「おやすみなさい」
『祈りは歌にのせて』サーナ・フィレネ(CL3000681)は子供を寝かしつけ、優しく声をかける。治療や薬学の知識はないが、子供と接することで不安を取り除いたり世話をする事で清潔を保っていた。
「悪い大人はもういないわ。皆が守ってくれる」
 悪い大人――ヴィスマルク兵はもうここにはいない。いまサーナにできることは安心させることだ。肉体的な治療は医者達が行ってくれる。身体を洗うことで心を落ち着かせ、安心して眠れるようにしなくては。子守唄を口ずさみながら毛布を掛け直す。
「安心して眠ってね」
「さあ、綺麗にしてあげるよ」
 子供を抱えて浴槽に運ぶ『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。傷の具合などを確認し、浴槽に入れれそうな子供は温かいお湯につけて身体を洗っていた。チャイルドギアの機械油と埃が一気に落ちていく。
「熱くない温度だから、ゆっくり体を温めて……。そう、力を抜いて」
 適温に温めたお湯に慣らすように子供にお湯をかける。そのまま体を洗い、汚れを落とした後に抱えてお湯につけてあげた。話をしたりゆっくりと数を数えたりしながら体を温めていく。その様子を見ながら、静かにマグノリアは思う。
(以前この子達が普通にしていた、生活の匂い。それを思い出してくれれば……)
「君達を苛める人はもうどこにもいないからね」
『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)は言って子供の手を取り、自らの胸に誘導する。そこから伝わるカノンの心臓の鼓動。それは人が安らぎを覚えるリズム。カノンに医療の知識も技術もないが、子供を安心させることならできる。
(傷はお医者さんが癒してくれる。カノンはカノンのできることを)
 全てのことが出来る人間はいない。医者に出来ること。医者に出来ない事。それを分担して行うことが大事なのだ。カノンは医者じゃないけれど、医者ではできないやり方で子供を癒すことが出来る。
「元気になったら、カノンが劇を見せてあげる!」
「おやすみなさい……」
 吐息をあげる子供に優しく話しかける『円卓を継ぐ騎士』たまき 聖流(CL3000283)。疲労困憊した子供は夜を待たずに眠ってしまう。こういう時に傍にいてあげるのが自分の役目だ。寂しい思いをさせないように、たまきはそっと子供の手を握る。
「安心して眠ってくださいね」
 子供の手を握りながら、その様子を伺うたまき。熱が出ているようだったら頭をタオルで冷やしたり、流れる汗を拭ってあげたり。解けそうな包帯を巻きなおし、水差しでのどを潤してあげたり。やることは多い。休んでいる暇はなかった。
「この子達が『普通』を取り戻せる一歩になれば……」
「サイラスさん、どうしましょうか?」
 サイラスについて回り、その補佐を行う『毎日が知識の勉強』ナーサ・ライラム(CL3000594)。魔術の治癒では一時的な効果しかない。その為医療知識を持たないナーサは医者であるサイラスの補助を行っていた。
「包帯を巻きなおし、体を清拭しよう。やり方は前の子と同じ要領で」
「はい。綺麗な包帯と、温かい布で……」
 サイラスの指示に従うナーサ。気持ちだけでは人は救えない。それでもこの気持ちが無駄であるとは思わない。今は気持ちのままに体を動かすだけだ。
「次はどうしましょうか?」
「この子は軽傷……この子は重傷……」
 セアラ・ラングフォード(CL3000634)は子供達の傷を度合いを見ながら、治療する順序を決めていた。医療の手も薬も無限ではない。軽傷の人間はあえて後回しにして、治療が必要な人間から先に救う。
(こんなことをするなんて……)
 ヴィスマルクの暴力行為に嫌悪感を感じながら、それを表情に出すことなくセアラは治療を行う。大事なのは子供を癒すことだ。ヴィスマルクへの怒りは今は横に置いておこう。手を動かし、子供達の治療を続けていく。
「ここが正念場です。気を緩めずに……!」
「ええい、人手が足らん! ぼやいてる時間も惜しいわ!」
 行きつく暇もない、とばかりに『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は手を動かしていた。チャイルドギアに閉じ込められた子供達の状態は、それこそ子供の数だけある。それに応じて対策を考えていかなければ、治せるものも治せない。
「診断だけで大作業だな。サイラス、お前は先に治療に向かえ。貴様は気に食わんが腕前は信用できる。あとは見た目が怖いのをどうにかしろ!」
「ご指摘感謝するよ。だからと言ってこれはないとは思うがね」
 セアラからくくりつけられたリボンやツボミから被せられた花冠に対する不満を言いながら、サイラスは治療を進める。
「だが理解はしているのだろう? 患者を診察して度合いで選別。この状況だ。治療が間に合わないと判断される子供も出てくる。
 患者を選別する、と言う事はその際に『見捨てる』選択もあるのだと」
 サイラスは冷徹に言い放つ。
 それは医者である以上、必ずと言っていいほど直視しなければならない事。命を扱う以上、どうあっても避けられない事。
 死。助けられない命。選択すると言う事は、その判断を下すことでもあるのだ――
「知らん。いや、知ってはいるが今は考えない。私は医者だ。治療するべき者が居るなら居るだけ癒すのが当然で望みだ。それ以上も以下もない。
 ほら、無駄口を叩いてる余裕はないと言ったろうが、動け!」
 サイラスの問いかけに躊躇なく答えるツボミ。結果は後でついてくる。今できることは、今やらなければ。
「やれやれ。医者が商売繁盛と言うのも難儀な事だな」


 さて、イ・ラプセルには様々な人物がいる。自由騎士内にもまた様々な人物が降り、その思想も様々だ。
「コーリナー卿には一部同意出来るな。役に立たぬ亜人など切り捨てればいいだろうに。その分、他の者を手厚く出来るというものだ」
 亜人に対していい感情を持たない『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)は現状をそう言い放つ。子供達のほとんどが亜人であったこともあり、そこにかけるコストは無駄だという意見だ。
「役に立たないなどと、何故言いきれる? 目にしたものを見ぬ振りが出来るのならば、そもそもこんな事態になっては居ない。彼らはいずれこの国の民となり、未来を切り開くものとなるだろう」
 そして『国家安寧』ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)は静かに反論を返す。子供達はいずれ国の礎となる。たとえそれがヴィスマルクに戻ったとしても、だ。自由騎士達は助ける選択をした。その流れは変えることはできない。
「レストレンジ卿も人手不足なら切り捨てる事も視野に入れてはどうだ? 全ては救えない、それが政治であり戦争だろう」
 書類を見ながらライモンドは告げる。切り捨てる。それは救う命を厳選することだ。現実は非情で残酷だ。理想通りに行くことなんて稀だろう。ならば誰かがその選択をしなければならない。
「何処かを切らねばならぬ事はあるだろう。それは事実だ。今医師たちは、その数を減らそうとしている。その努力を無為にするつもりはない」
 ガブリエラはその現実を見据え、そして同時に今動いている者達を労うように告げた。現実は残酷で、でもそれに足搔く者達がいる。政治家としてできることは何か? それを考え、そして実行する。
 ライモンドもガブリエラも、どちらも正しい。正解は一つではない。そもそも正解が正しいとも限らない。敢えて悪事を選ぶことで救える命もある。命を捨てることで、護れる正義もある。その清濁を飲み込むのが、政治なのだ。
 平行線の意見は混じらわず、しかし両者は救える命を救うべく動き続ける。


 子供の命を救うのは、医者だけではない。
 医療に携わる環境を整えるのも、また大事なことだ。
「…………」
 フロレンシス・ルベル(CL3000702)は黙々と作業をこなしていた。水を汲んで火をくべてお湯を沸かし、その隣でもくもくと布を切って包帯を作っている。汚れた机や床の掃除、ゴミの除去と言った衛生面も大事だ。休むことなく身体を動かしていた。
「大丈夫、キリは頑丈だから」
『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)は言いながら子供をベッドに運んでいた。作られたばかりのベッドを整え、大丈夫というサインを確認してからゆっくりと運ぶ。少し揺れただけで傷が開いて表情が歪む子もいる。慎重に、そして迅速に。
(あの子は……ここにはいないみたい。元気だといいけど……)
 キリはドナー基地を攻める際に相対した子のことを思っていた。救おうとして手を伸ばし、しかし救えなかった子。ヴィスマルク兵士で敵だけど、それでも救ってあげたかった。ここではない場所で療養しているという話は耳にしたが――
「今は、こっちを優先して……。大丈夫、もうすぐベッドで寝れますから」
「とんてんかーん。今日のメーメーちゃんは〜……大工さんだよぉ〜……」
 どこか間延びした声をあげる『にゃあ隊長』メーメー・ケルツェンハイム(CL3000663)。乾いた木をのこぎりで切ってベッドの骨組みを作ったり、余った木材で食器を作ったり。育ちのせいもあって、手慣れたものである。
「あぁ〜、そうだぁ〜。この壁〜、ずっと気になってたんだぁ〜」
 言ってメーメーは木材を板状にして、壁に打ち付ける。軍の基地と言う事もあり装飾の乏しい壁が、木目の温かい印象を受ける壁に変化する。同時に防寒にもなり、冷えに苦しむ子供達を守る事となった。
「ぜ〜んぶ木の壁にするまでぇ〜……頑張るぞぉ〜……」
「どうやら追加で木を切ってきた方がいいみたいだな」
 メーメーを見ながらウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が立ち上がる。蒸気騎士の装備を使って用意された材木をベッドの材料に加工していたが、どうやらまだまだ材木は必要のようだ。尽きる前に切っておいた方がいいだろう。
「生木は使えないだろうから、乾燥中の資材と交換の形だろうな」
 言いながら近くの森に向かうウェルス。木は水分を含んでいて、そのまま材木としては使えない。半年ほど自然乾燥させるか、人工的に温めて乾燥させる必要がある。どちらにせよ、切ってすぐに使えるものではない。
「たまには平和に木こりや日曜大工も悪くないか」
「こんなにも……いいえ、今は怒ってる場合ではありませんね」
 子供達の数を聞いて『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は絶句する。シャンバラのヨウセイも国の方針で聖櫃に閉じ込められていた経緯がある。それとこの状況を重ねてしまうのは、致し方なかった。
「わたしにできる事……」
 ティルダはハサミを手に布を切り始める。子供達に巻く包帯。これは数がどれだけあってもいいだろう。用意された布にハサミを入れ、包帯を作っていく。同じ大きさに切りそろえ、まとめて袋に入れる。単純に見えるが、ティルダの器用さがなければできない事だ。
「子供達が一日でも早く元気になれるように……。何でもお手伝いしますっ」
「そうね。今はヴィスマルクに怒りをぶつける時じゃないわ」
『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)も多くの子供達を前に怒りを覚えていた。しかし今はそれよりも大事なことがある。腹立たしさを押し殺し、ベッドの図案を睨みつKた。
「ベッドの効率化。……二段ベッドにする……駄目ね。上段の子供を診たりシーツ交換の手間が大きすぎる。じゃあ構造の簡略化……。少ない材料で強度を保ちつつ……」
 アンネリーザはベッドそのものを効率よくしようと思考をひねっていた。ベッドの大きさは変えられない。ならばどうすれば子供も医者も滞りなく治療できるか。僅かでも改良できれば、その分治療も楽になるのだ。
「……そうよ。羊毛の毛布。帽子の問屋に口利きすれば回してもらえるかもしれないわ」
「全くあの人は!」
 ベッドの足を作りながら『いと堅き乙女に祝福を』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)は怒りの声を上げていた。こっそりと子供達の事を握りつぶそうとしていた人物への怒りだ。必死になって助けた子供を『処分』し、自由騎士には『彼らは故郷に帰りました』とうそぶくつもりだったのだろう。
(自分が犠牲になった時でも同じように結論付けるのでしょう。それはそれでなんだか腹立たしいのですが!)
 少し探せばジョンと会う事は出来るのだが、敢えてそうせずにデボラは作業していた。今会えばそう言った諸々の感情をぶつけかねない。――事実、こういった作業が神の蟲毒の足止めになっている、と言われれば反論はできないのだが。
「いい加減! イ・ラプセルの国民性を理解してほしいです! いいえ、信じたうえでそうしているのでしょうが!」
『だけどそういうトコロもイイんだろ? チョイ悪親父……この場合は正論で人を刺す知的な悪オジサマか? 乙女心はふくざっ……!』
 口を開く乙女チェッカーを強引に握りつぶすデボラ。怒りの一部をそこで昇華し、更にベッド作製に勤しんだ。


(こんだけの子供を使い捨ての兵器にしようとしていたのかよ)
 子供達を見ながら『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)は愚痴るように頭を抱えた。阻止できたからよかったものの、放置していればもっと多くの子供が犠牲になっていたかもしれない。
「俺に出来る事……そうだな」
 言ってルエは大きく息を吸って、メロディを口ずさむ。子供を寝かしつかせる子守唄から、故郷を思わせる優しい歌。歌には自信がある。孤児であるルエだからこそ、一人苦しんでいる時に歌ってほしい歌が分かる。
「一緒に歌うか? 元気が出るぞ」
「音楽……こっちも……」
 ノーヴェ・キャトル(CL3000638)は楽団を率いて、子供達を慰労していた。同時にノーヴェ自身も玉乗りを行い、子供達を楽しませている。軽快な音楽とそれに合わせた芸。それが子供達に笑顔を刺そう。
「次は輪っかを……ぐるぐる……ボールを、みっつ、よっつ、いつつ……」
 玉乗りの次は、リングを使った大道芸だ。腰でリングを回しながら、ボールを使ったジャグリング。一通り芸を終えたノーヴェは、ジャグリングに使っていたボールの中から飴玉とマシュマロを取り出し、子供達に分けていく。
「甘いの……元気、出るから」
「こっちには本があるぞー。おっきい本だー」
 大仰に声を上げてセーイ・キャトル(CL3000639)が子供達の注目を集める。実際セーイが抱えて運ぶにしても大きな本だ。セーイが作った仕掛け本。ページを開くと中から仕掛けた飛び出てくる本だ。
「皆で一緒に読もうか! それじゃあ!」
 言いながらページを開くと、中から登場人物と文字が飛び出るように出てくる。物語自体はどの国にでもあるようなお伽噺。最初は苦労したけど、最後は幸せになるお話だ。文字が読めない子供のために、ゆっくり大声で読み上げるセーイ。
「めでたしめでたし! じゃあ次の本を読もうか!」
「元気になるには美味しいもの! 甘いお菓子は皆さんを笑顔にしてくれるはずです!」
 言って出来立てのクッキーを配る『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。アマノホカリの菓子技術を受け継ぐシェリルだが、クッキー等の洋菓子も普通に作れる。オーブンを借りて大量に作ってきた。
「たくさんありますよ。顎が弱い方にはこちらをどうぞ。お水がいる方は水差しも置いておきますね」
 怪我で顎の力が弱っている子供用に柔らかいクッキーを用意し、クッキーで乾いた口内を潤すように水差しも用意する。相手が怪我人であることを考慮した処置だ。何よりも甘味はそれだけで脳の刺激になり幸せにしてくれる。
「元気になったら、その時はもっとおいしいお菓子を作ってあげますからねぇ」
「はい。食はエネルギーです。先ずはお腹を満たしましょう」
『サルーテ・コン・ラ・パスタ』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は言って大量のシチューを運んでくる。胃が弱って固形物すら飲み込めない状態の子供のために、野菜類や肉類を煮込んだシチューを作ってきたのだ。
「無理して食べる必要はありません。ゆっくり、しっかり味わって食べてください」
 舌が食材の味を感じ取り、お腹を満たす。それだけで人は幸せを感じることが出来るのだ。そしてそれは生きる為の力になる。精神的に、そして肉体的に。アンジェリカは子供達が食事を口にするのを見て、笑みを浮かべる。
「休んでいる暇はありません。さあ、頑張りましょう!」
 それは自分に、そして子供達を癒そうとする自由騎士すべてにかけられた言葉。
 敵こそいないが、ここもまた騎士達の戦場だった。


 かくして自由騎士達の行動により多くの子供達は救われる。
 峠こそ超えたが、予断は許さない。ドナー基地の大半は治療場として占拠されるが、その甲斐あって多くの命が救われる。
 その命が様々な人生を歩み、世界に影響を与えていくのだ。自由騎士はその可能性を救った。だがそれは彼らからすれば些末事――

 命を救ったと言う事実こそが、自由騎士達の最大の報酬だった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
決戦で『子供を全員救う』っていうプレイングが多かったんでやってみました。

ジョンさん殴られるぐらいは覚悟していたけど、皆さん寛容で助かりました。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済