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Hate! 土葬返しと堕ちたヨウセイ!



●戦争は戦後処理の方が大変と言うお話、その二
 シャンバラ平定――と言い難いが、少なくとも戦乱状態は収まった――後、そこに住む人達の生活は一変する。支配した国によるが、奴隷にされたり本国に送られるなど少なくとも以前の生活より悪くなることは変わりなかった。
 聖櫃システムにより虐げられた種族、ヨウセイ。彼らの多くはそのシステムによって命を失い、生き残った者やシャンバラに捕らわれなかったヨウセイはその事実を知らされる。ヨウセイを魔女と認定して贄に任命したミトラースは既にいない。だがその恨みが消えるわけではなかった。
 組織立ってヨウセイがシャンバラの人達を攻撃しなかったのは、大きく三つの要素が挙げられる。
 一つ、各国支配勢力がシャンバラ人に対する復讐を懸念して、ヨウセイを見張っていたこと。
 一つ、ヨウセイの最大武闘勢力だった『ウィッチクラフト』が戦いの終了を宣言したこと。
 一つ、暴徒を起こせるほどの数と武力がヨウセイにはなかったこと。
 悪事は理性があれば抑えられる――わけではない。リスクとリターンを考慮し、リターンが大きいと判断できれば人は悪事を行う。正義や倫理は所詮リスクを生み出す下地にしかならないのだ。世情が変われば逆転する価値観程度で、人の心が制御できるはずがない。
 閑話休題。ともあれ大規模なヨウセイのシャンバラ人への攻撃と言う可能性は極めて低い。だが、その心の中にある恨みが消えたわけではない。そしてそれは『復讐してもいい』と言う理由があればあっさり爆発するのだ。
 ――そしてその少女は、そういった心の機微に長けていた。

●ヨウセイとシャンバラ人と元魔女狩り
「この人はシャンバラで美味しい物をたくさん食べていたわ。ヨウセイの命が聖櫃で奪われていることを知りながら」
「やめろぉ……やめろぉ……!」
「いいのよ、殺しても。それだけの力をあげる。たとえあなたが倒れても、蘇らせて復讐させてあげる」
「痛い……痛い……いっそ殺してくれ……!」
「ああん、まだ駄目よ。だってこの子、復讐を果たしてないもん。兄弟と親、合計七人失ったのよ。こっちの子は恋人を。この子は村全部。奪われた者を取り返す権利があるわ」
「あああああ……知らなかった。知らなかったんだ! ヨウセイが苦しむだなんて! 本当に知らなかったんだ!」
「無知は罪、よ。彼らは貴方達と同じようにこんなに苦しむのに。……だからこそ、ダイスキ。愛してるわ。
 殺した罪におびえ、それでも燃え盛る復讐心に身を焦がして堕ちていくサマ。もう、サイッコー! アハハハハハハ!」

●自由騎士
「ヨウセイの集団によるシャンバラ人への暴行行為だね」
『君のハートを撃ち抜くぜ』ヨアヒム・マイヤー(nCL3000006)は集まった自由騎士を前に説明を開始する。
「イ・ラプセルに移民してきたヨウセイ達。彼らに復讐を煽るように囁いて、シャンバラ人を襲わせているみたいだね」
 短期間に七人のシャンバラ人が犠牲になったと言う。経緯はどうあれ、法に照らし合わせれば弁護の余地なく重罪。法は時に残酷だ。
「で、そのヨウセイを扇動しているのが元魔女狩り。ネクロマンサーの術を使って支援したり自分から前に立ったりするみたい。ヨウセイの方もレンジャーの技を使って援護するよ。
 ……ま、見過ごすわけにはいかないよね」
 ため息をつくヨアヒム。このまま放置すれば間違いなく被害は増えていく。
 殺人が罪であることはヨウセイ達も知っている。復讐は無意味だと叫べば心を痛めるだろう。罪の重さに苦しみ――しかしそれまでだ。彼らはもはや後戻りはできない。一度タガを外したものは、次のブレーキを踏むことが出来ない。
 何よりも善意を信じて一刑減じれば、その分シャンバラ人に不安が生まれる。イ・ラプセル騎士団は法を軽んじると思われれば、復讐者が跋扈するのだから。
 だが、それでも――法ではない立場から見れば違った正義があるのだから。
「彼らのアジトは調べてある。突入して、一網打尽にしてくれ」
 渡された地図と人相図。ヨアヒムはいつも通りに笑いながら、しかしどこかやるせない視線で自由騎士を送り出した。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
自国防衛強化
担当ST
どくどく
■成功条件
1.敵全員の戦闘不能
2.再犯の防止(手段及び生死は問わない)
 どくどくです。 
 成功条件以上のことは何も求めません。この物語は皆様の物です。
 たとえ彼らを逃がそうが、法より前に闇に葬ろうが。それもまた結末なのです。

●敵情報
・『土葬返し』ロラ・オリオール
 シャンバラ方逃亡した元魔女狩り。三姉妹でしたが、渡航の際に二人の姉妹と死に別れしています。見た目は12才女性。犬のケモノビト。かつて非道な手段を用いて自由騎士と戦いました(拙作、【楽土陥落】Zombiewall! 土葬返し姉妹!)。
 ヨウセイを煽って殺人を犯させ、罪の重さを枷にして更なる殺人を繰り返させます。そうやって堕ちていく様を楽しむ嗜好をもっています。
『ネクロフィリア』『リバースドレイン Lv3』『柳凪 Lv2』『回天號砲 Lv1』『アイアムロウ! 急』『壁ドン 破』等を活性化しています。

・『復讐の雷神』カシム・フローラル
 シャンバラに家族を奪われたヨウセイです。男性百三七歳。弓使い。殺人の罪を理解しながら、しかし復讐の炎に身を焦がしています。言葉による説得は不可能です。
『ブリッツクリーク Lv3』『充填』『マナウェーブ Lv2』『魔弾の射手』等を活性化しています。

・『声が聞こえる』ランザ・ドエイト
 シャンバラに恋人を奪われたヨウセイです。女性二十四歳。ダガー二刀流。恋人の断末魔が耳から離れず、シャンバラ人の命を奪う事で恋人に謝罪するように殺します。言葉による説得は不可能です。
『アローレイン Lv3』『ホークアイ Lv3』『ラピッドジーン Lv3』等を活性化しています。

・『炎が消えない』フリッツ・コー
 村全部を丸焼きにされたコー族の生き残り。焼けた御守り(クロス相当)を手に戦います。聖櫃で生命力を奪われ、何とか生き延びました。男性十一歳。極度のノウブル恐怖症。言葉による説得は不可能です。
『ディスペルアロー Lv3』『アローファンタズマ Lv3』『リバースドレイン Lv1』等を活性化しています。

・ヨウセイ戦士(×3)
 ヨウセイの軽戦士です。捕まれば重罪になる事を恐れ、必死に抵抗します。
『ラピッドジーン Lv2』『デュアルストライク Lv2』等を活性化しています。

●NPCの扱い
 戦闘不能にしたNPCをどう扱うかはPCに委ねられます。
 何もなければ司法に委ねることになります。そうなれば彼らの命はないでしょう。ヨウセイの経緯を考慮したうえで、減刑の余地はありません。
 意見が分かれた場合、多数決を取ります。同数の場合、プレイングを参照してSTが納得した理由を採用します。それでも甲乙決めがたい場合は、サイコロを振ります。
 法に委ねなかった場合、多少のお咎め(ゲーム的なペナルティはなし)は喰らうでしょう。ですが再犯の兆しが無いのなら依頼自体は成功となります。ヨアヒム君が色々誤魔化し奔走するでしょうが、些末事ですよね。

●場所情報
 イ・ラプセル港町アデレード。そのスラムにある小さな小屋。木の扉は殴ればすぐに破壊できます。そこに彼らは潜んでいます。出入口はその一ヶ所だけ。乱戦の間をついて窓から逃げる事は不可能とします。
 時刻は夜。明かりは小屋の中の蝋燭程度。何もなければ命中にペナルティがつきます。足場や広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『土葬返し』『声が聞こえる』『ヨウセイ戦士(×3)』が。敵後衛に『復讐の雷神』『炎が消えない』がいます。
 事前付与は不可。突入前に扉近くでごにょごにょしてたら気付かれますので。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  6個  2個
13モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2019年06月16日

†メイン参加者 8人†




「よぉ、久しぶりだなロラ・オリオール! 元気ぃ?」
 言いながら壁をぶち壊して侵入する『血濡れの咎人』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)。ロラとは元魔女狩り同士の知り合いだ。同じケモノビトではみ出し者の近接攻撃主体の魔女狩りとして互いに認識はしていたようだ。
「痛ましい事じゃ……ここで終わらせるぞ!」
 ヨウセイ達を見て『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は軍刀を抜く。ヨウセイ達のシャンバラでの歴史を鑑みれば、復讐に走る気持ちは理解できる。だがそれを許すわけにはいかないのだ。
「彼らの思いは未来に繋げる為の糧にするしかなかろうな」
 苦々しく『達観者』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)がマキナ=ギアから武器を取り出す。貴族の立場からもヨウセイ達の復讐は看過できない。七人を殺したヨウセイ達。もはや放置はできないのだ。
「……なんつーか、やり切れねえなあ」
『殲滅弾頭』ザルク・ミステル(CL3000067)は小さく呟く。ザルクは復讐を果たしていない。そういった経緯もあって、ヨウセイ達の行為そのものには理解があった。それでもこうなった以上は止めなくてはいけない。同じ復讐者として。同じ覚悟を持ったものとして。
「元魔女狩りは殺す。そこは譲れない」
 ロラを見て『浮世の憂い』エル・エル(CL3000370)は静かに告げる。エルは復讐を果たした。しかし魔女狩りに対する復讐が消えたわけではない。ロラのように『魔女』を弄ぶ存在を許せるはずがない。
「小汚い犬っころが水を汚して回ってるやなんて、さっさと駆除せなあきまへんなぁ」
 同じくロラを見て『艶師』蔡 狼華(CL3000451)が見下ろすように言う。ヨウセイ達の心情などどうでもいい。狼華が目にしているのはロラのみ。シャンバラ戦に置いて土をつけられた相手だけだ。
「モニカもヨウセイだし、あなた達の気持ちは痛いほど分かるわ」
『極光の魔法少女』モニカ・シンクレア(CL3000504)は武器を持つヨウセイ達を見て、相手から目をそらさずに言い放つ。長年にわたり虐げられてきたヨウセイ達。その怨嗟は一程に理解できる。
「…………俺の行動は、正しいのだろうか?」
 ダガーを強く握りしめ『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は思考に耽る。部族こそ違えど、ヨウセイは家族だ。彼らの行為の根幹も十分理解できる。シャンバラ人が憎くないはずがない。だがしかし、それでも。
「自由騎士!?」
 叫んだのはさて誰だろうか。イ・ラプセルの守護の騎士。彼らが来た目的は明白だ。だがそれを受け入れるわけにはいかない。まだ殺したい。まだ殺し足りない。復讐の炎がヨウセイ達を焦がす。
 復讐する者と止める者。両者の刃がぶつかり合う。


「悪いが動くな!」
 言葉と同時にザルクが銃を構える。魔力を通した瞳で闇を見通し、相手の姿を捕らえる。網膜が敵影を写すと同時に手首を傾けて銃口を向け、引き金を引いた。魔力が込められた弾丸が敵の足元に着弾し、捕縛用の陣が展開される。
「……やりきれない戦いだ、できる限り早く終わらせよう」
「覚悟がないなら帰ってもらおう」
「いや、戦う覚悟はあるさ。やりきれないのはお前達と土葬返しの関係だ」
『復讐の雷神』の言葉にため息をつきながら答えるザルク。
「復讐を唆したのが魔女狩りやってた土葬返しってので、乗ったヨウセイのの道化感があるのは確かなんだが。それでもな、分かっちまうんだよ。俺も復讐者だし。お前達が道を踏み外した理由が。
 だが、復讐にしろなんにせよ。やった事への責任は果たさないとダメだ。……俺たちはそれを覚悟で、復讐者になったんだから」
 ザルクは目の前のヨウセイを見る。この姿は復讐者の結末の一つだ。この炎を心に持つ限り、自分もまたこの未来を歩む可能性がある。復讐を果たせず、犯罪者としての末路を。
「俺は復讐は否定しない。でも、それを行った結果は受け入れなければいけないとも思ってるんだ」
「うむ。法が全てとは言わぬが、それを順守することで守れるものがあるのじゃ!」
 言いながら軍刀を振るうシノピリカ。振るわれる一閃が『声が聞こえる』のダガーを弾く。狂気のままにダガーを振るうヨウセイの攻撃をさばきながら、隙をついて鋭い一撃を加えていく。
「ごめんなさいチュール。私、シャンバラの人を殺すから、だから、もう!」
「痛ましいな。聞けば愛する者を失ったと聞く。……その悲しみを癒すことはできぬが、これ以上増やさない事が大事なのじゃ」
 ナイフの一撃を刃で受けるたびに、恋人を殺されたヨウセイの思いの強さを感じるシノピリカ。その声が耳から離れない。その断末魔が忘れられない。その怨嗟は自分の感情なのか彼の感情なのかもわからない。でも、殺さなくてはいけないのは確かなのだ。だってだって、そうしないと狂ってしまいそうだから――
「分かっておる。その傷も、痛みも、理解できるのはおぬしだけじゃ。それは背負ってやることはできぬ。
 だが手を繋ぐことはできた。共に歩むために手を引くこともできた。あるいは一緒に泣いてやることも。……それを拒否したのは他ならぬおぬしなのじゃ!」
 心を鬼にしてシノピリカは叫ぶ。一切の情をかけることはできない。
「温情はない。七人を殺した罪は償ってもらう」
 短く告げてテオドールは呪文を唱える。単音節のキャンセル。主動作におけるマナ振動の短縮化。副動作の同時進行。威力こそ落ちるが、呪文は形を成して顕現する。虚無の苗床より生えた白い茨が敵を縛っていく。
「ノウブル……いやだ、こっちに来るな、来るなああああああ!」
 ノウブル恐怖症の『炎が消えない』が叫ぶ。聖櫃に極限まで生命力を吸われ、かろうじて生き延びたのだが心の傷は深い。それがシャンバラがヨウセイにした仕打ちである。
(例えば……自分に子供が出来て、それが他者からの攻撃でこの子のようになったら?)
 怯える子供を見てテオドールは思う。そんな事はありえない、などと言えるはずがない。これは戦争で、イ・ラプセルが負ければそうなる可能性は十分にあるのだ。その時、復讐を誓わずにいられるか? 『敵国の法が正しい』と怒りを飲むことが出来るか?
 答えは出ない。出るはずがない。そうならないように前を向くしかない。例え方で救えぬものを見捨てるとしても。
「温情だけで捻じ曲げては他を助長させてしまうだけだ。……国を事を動かすには順序立てて行わねばならないのだ」
 それが貴族の在り方なのだから。
(俺は、どうすればいい?)
 オルパはいまだに踏ん切りがつかないでいた。ダガーを振るう手が時々止まる。この刃を振るいきれれば、彼らを伏して捕えることが出来る。そして彼らは殺される。それが正しい事なのかどうか。
 オルパはヨウセイだ。魔女狩りにより家族と親友を失っている。魔女狩りの、シャンバラの、そしてミトラースへの怒りは彼ら同様に持っている。オルパはミトラースを討ち、その復讐を昇華した。
 彼らは――それが無い。恨みを晴らす対象はシャンバラ人しかいないのだ。
「お前達、相手を間違えてるぜ! 俺達が憎むべき相手はミトラースだ! 魔女狩りだ! そこを間違えたら、俺達も魔女狩りと同じになっちまう!」
「黙れ! 俺達が奪われた分をシャンバラ人から奪って何が悪い!」
 悪いに決まっている、の言葉がオルパはとっさに出なかった。分かってしまう。彼らの気持ちが。彼らの思いが。彼らの憎しみが。それは自分が抱いていた感情なのだから。鏡合わせのヨウセイ同士で、ただ僅かに違っただけの、家族達。
(それでも……ヨウセイがイ・ラプセルの人達から恐れられる未来だけは、回避しないといけないんだ……!)
 何とか理由を見つけ、刃を振るうオルパ。答えは、まだ見つからない。


「外道が……! ミトラースが死んでもなお、魔女を遊び道具にするか!」
 エルは怒りをあらわにし、魔術刻印を起動させる。刻印に沿って走るマナ。それがエルの神経を刺激する。しかしそれさえもかき消す強い怒りがエルを滾らせていた。二重の魔術矢が回避のいとまを与えずに土葬返しに命中する。
「当たり前じゃない。遊んで何が悪いのよ」
「いい答えだわ。遠慮なく殺せる」
 ロラの答えに表情を変えずに答えるエル。
「じゃああなたで遊んであげるわ。魔女狩りに復讐する魔女。
 このヨウセイ達は貴女よ。怒りに燃え、衝動で人を殺す。もう止めることのできない熱い炎をもつ者同士。彼らの未来は、貴方の未来。たとえ国が許しても、貴方は人殺しなのよ」
 ロラ・オリオールと言う魔女狩りは人の心の機微を掴み、それを刺激するように喋る。それは一種の才能だったのだろう。そして不幸な事に、それを止める理性がロラにはなく、そしてそれを許す環境があった。
「いずれ貴方も罰を受ける。法? 仲間? それともあなた自身が罪に潰される? 魔女狩りを殺したことからは逃げられない。
『相手が悪いことをしたから殺していい』なんて逃げ道はないわよ。このヨウセイ同様、貴方も殺したんだから」
 嗤う土葬返し。その一言を受けてエルは、
「ええ。そうね。でもどうでもいいわ」
 そんなことは解っている、とばかりにさらりと受け流した。
「フラれちまったなぁ、ロラ。どうせならこっちに来いよ。『俺は』殺さずにいてやるぜ」
 指で誘いながらロンベルは土葬返しを挑発する。その挑発に乗ったか、はたまた知り合い同士くみしやすいと思ったか。ロラはロンベルに向かって一気に距離を詰める。その動きに口角をあげ、ロンベルは隕鉄で作られた斧を振り下ろす。
「最後は派手にぶちかまそうぜ、なあ!」
「ホント、血生臭いわね」
 テンションを高揚させるロンベル。うんざりした声で返すロラ。同じケモノビトの魔女狩りだった者同士だが、その在り方は大きく異なっていた。土葬返し三姉妹はヨウセイを国に渡さず自らの玩具としており、ロンベルは自らの闘争心のままに戦っていた。
 ロラにとって武術は快楽を得る為の手段であり、ロンベルにとって武術は快楽そのものだ。前者はある程度の強さで満足し、後者は快楽に溺れるように強くなっていく。その差が、打ち合いの結果となった。
「かっかっか。体鈍ってるんじゃねぇのか? それともそんな程度だったってか?」
「うっさいわね、剛毛。アンタ、騎士なんかよりも海賊の方がお似合いなのよ」
 悪態をつきながら拳を変えるロラ。呪術を乗せたその鋭い手刀にロンベルは笑みを返す。まだまだ楽しめそうだ。
「悪いけど遊戯の時間は終わりや。とっとと逝ね」
 音もなくロラの横に立ち、同時に小刀を振るう狼華。相手がそれを交わしたと思った瞬間にはすでに狼華は体を傾け、再度に切りかかる。土葬返しの肌から流れる血液が狼華の心を刺激する。より暴力的に気分が高まっていく。
「ヨウセイがどうなろうが、うちは興味あらへん。復讐も何もかも、どうでもええ。
 でも、あんたは別や。うちに土付けたこと、後悔しながら死によし」
「あらあらー? もしかして根に持ってる? あたしが勝っちゃったこと根に持ってる? ごめーん、つよ過ぎて。
 ねえ悔しい? 勝てると思ったのに負けちゃって悔しい? 土の味は美味しかった?」
「せやね。熨斗つけて返したるわ。
 散々遊んでた玩具目の前で奪って、あんたは痛みと出血で悶えながら冷たい地面で転がしたる。それか首輪つけて吊るしたろか? 女が苦しむ様はええ見ものになりそうや」
 ロラの煽りを唇を舐めながら答える狼華。憎々し気に思っていた相手が血を流しているのを見て心が疼く。相手の焦りが伝わり、唇が笑みに変わる。追い詰めていくたびに体の芯が熱くなるのが止まらない。
「モニカのペットにして一生飼ってあげようと思ってたのに……もう許さないわっ!」
 ステップを踏みながら魔力を展開するモニカ。手にした短剣が振るわれるたびに、星のような光の煌めきが刃の軌跡を追うように走る。リズミカルに踊るモニカの攻撃は、それだけで人を魅了していた。
「もう逃がさないわよ! ヨウセイ達を弄ぶなんて!」
「んー? もしかして一緒に弄びたかったの? それとも弄ばれたかった? いいよ、おねーさんならどっちでもシテあげるから」
「ふざけないで!」
 からかうようなロラの言葉に怒りを感じるモニカ。どちらかと言うとドSなので弄びたい……ではなく、同胞をいいように扱う土葬返しに怒りを感じていた。聖櫃に差し出すのではなく、気の赴くままにヨウセイの心と尊厳を壊す土葬返しに。
「確かに彼らは復讐に狩られて殺したわ。それは悪い事よ!
 でもその恨みを作ったのは誰!? シャンバラの人達があんなことしなければ、こんな恨みは生まれなかった!」
「そーよ。だから彼らは殺すのよ。おねーさんも怨みたいんでしょう?」
「恨みが無い、とは言わないわ! でも……っ!」
 シャンバラが憎い。聖櫃が憎い。ああ、それは当たり前だ。長年にわたって虐げられたヨウセイの立場からすれば、それを憎んで当然だ。復讐する権利があるのだ、と土葬返しは優しく誘導する。
 それでも――
「モニカは踊って伝えるわ! 命の重みを、ヨウセイのすばらしさを、未来を!」
 復讐など望まない。復讐など認めない。
 ここに立つ自由騎士達は、その想いを胸にして武器を握る。ここで罪を犯したヨウセイ達を許してしまえば、ヨウセイによるシャンバラ人殺害を認めるも同然なのだから。
 戦いは、始終自由騎士に有利に傾いていた。ザルクの先制で足止めし、土葬返しへの集中砲火で最大火力を封じる。その後は一気呵成にヨウセイ達を伏していく。
「許せとは言わない。恨んでくれていい」
 最後に立っていたヨウセイに向けて、オルパが刃を振るう。その表情、その言葉、全てを忘れないと心に決めた。それが自分に出来る唯一の事。苦しみながら進んでいく自分にできる彼らに対する償い。
「お前達の名前を、忘れない」
 できる限り正気を保ちながら、最後のヨウセイに刃を突き立てるオルパ。命を絶った感触が、その短剣から確かに伝わってきた。


「んー。こんな所かな」
 サポートのミズビトの治療を受けた自由騎士は、改めて戦場を見る。傷を癒してもらい、こちらの損傷はほぼ皆無。対してヨウセイは全員気を失っている。そして土葬返しは――
「……死んだか」
「……事故、という事だろうな」
 シノピリカとテオドールが既にこと切れたロラから離れ、首を振る。アクアディーネの権能がある限り、戦闘中の殺害はありえない。意図して権能を外さない限りは。二人はエルと狼華の方を見る。
「魔女狩りは許さないわ」
「生かしてのらりくらりされるのは御免やさかい」
 エルと狼華は悪びれることなく言い放つ。殺してしまったことを隠すつもりはない。それ以上の追及をしても意味がない事を察し、倒れたヨウセイ達に意識を切り替える。
「彼らの処遇は法に任せる。それでいいな?」
 確認する様なテオドールの言葉。それに反対する者はいなかった。ヨウセイ達もそのまま連行されていく。
「お前たちは負けて、止められた。だから、ここまでだ。復讐だろうが、魔女狩りだろうが。負けて止まったら、そこで終わりだ」
 連れていかれるヨウセイ達に向けて、ザルクが声をかける。それはヨウセイ達に告げるようでもあり、そして自分に言い聞かせるようでもあった。
「復讐ってしんどいのよ、終わりがないから。だから――」
 終わらせてあげるのも悪いことではない。エルは静かに告げる。それはヨウセイ達に告げるようでもあり、そして自分に言い聞かせるようでもあった。
「悪くなかったぜ。出来りゃ再戦したかったが、まあ仕方ないか」
 ロラの遺体を見下ろし、ロンベルは肩をすくめる。闘争を求める元魔女狩りはヨウセイ達の処遇に思う事はない。昔馴染みと拳を交わせただけで満足だった。
 そしてこの戦いはここで幕がおちる――

 事件の後、法による処分は粛々と進む。
 オルパやモニカを始めとしたヨウセイ達は事件の背景から減刑や温情を要求するが、しかしテオドールやシノピリカを始めとした貴族や騎士達がそれを拒否した。
 これは身分や立場からではなく、法と言うものは何物にも左右されてはいけないと言う姿勢そのものだった。個人の思惑や感情によりルールが左右されてしまえば、それはただ声が大きい者が勝つだけの多数決ゲームだ。法とはたとえ厳しくとも揺れ動いてはならない。
 そして法が断行できるのは、その者の罪を裁く事だけ。
 そこから先の未来は、それを受けた者達が紡いでいく。
 シノピリカのようにヨウセイも元シャンバラ人も等しくイ・ラプセル国民である事を説く未来があった。
 モニカのように過去を忘れず、しかし復讐ではなく命の重みを知るべきだと喧伝する未来もあった。
 過去は覆らない。シャンバラ人達がヨウセイを燃料としてきた事は大きな溝を生んだのは確かだ。
 だが、人は現代を生きることで未来を変える事が出来る。過去を背負いながら、それでも前に進んでいける。
 その先に待つ未来が輝かしいかはわからない。絶望しかないのかもしれない。
 
 それでも人は正しいと思う方に向かって歩いていく。
 喜びと悲しみを、心に抱えながら――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
全部心情にしてもよかったかもなぁ。

以上のような結果になりました。それぞれの思いがぶつかり合った結果となりました。
復讐の是非を問う気はありません。戦争と言うのがマギアスティームのテーマの一つである以上、避けては通れない命題なのです。
MVPは最も心に響いた心情のエメラドル様に。そうやって生きていくしかないのです。

それではまた、イ・ラプセルで
FL送付済