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【メアリー】Doll!? 白衣の人形遣い!



●とあるオラクルとフランケンシュタインJr
「ネリー。貴方の子守歌、今でも歌えるよ」
 ドシュ。肉を潰す感覚が伝わってくる。
「トレイシー。故郷にお孫さんがいるんだよね。会いたかったよね……」
 ドシュ。肉を潰す音が耳に届く。
「ラモー。メンテナンスが終わった後、頭を撫でてくれたね。お父さんみたいでうれしかった」
 ドシュ。返り血が白衣と頬を染める。
 ヘルメリア西部。メアリー事変で焦土と化した地には、機械化された亜人の還リビトが出没していた。ある者は肉体を残し、ある者は恨みだけで霊体と化し、セフィロスの海に至らず還リビトとなった者は、今なお西部でさまよっている。
 その女性はその還リビトを見つけ、破壊していた。その顔を見て、その思い出を口にして思い出を回顧しながら破壊して。
 ――厳密に言えば、破壊をしているのは彼女ではない。
「フランケンシュタインJr」
 女性の言葉と共に、彼女の傍に立つ人形が動く。人形は拳を振るい、死者を潰していく。
「これで、三九八七人目。皆を弔って、カタクラフトを回収して、それで新しい人形を作ってまた頑張るから。皆の戦いは、無駄じゃないから」
 女性は熱にうなされたように口を開き、亜人のカタクラフトを回収する。手慣れた手つきで分解し、運びやすい形にしてカバンに詰める。
「――ヘルメス様も、それを望んでいるから」
 オラクルであることを示す印が彼女の手の甲に輝く。
 その色は、彼女がヘルメスの祝福を受けたオラクルであることを示していた。

●自由騎士
『メアリー・シェリー』……彼女が知るキジン化亜人のメンテナンス方法。その手掛かりを得るために自由騎士はヘルメリア西部を進む。
 プロメテウスとの衝突で生まれた焼けた大地を歩きながら、メアリーの居場所を探る。生きているのか死んでいるのかさえ分からない人物を探す事は難しい。ならば人が住むことが出来る場所を探し、そこから手掛かりを探ろうという方向となった。
 そして自由騎士は見つける。
「足跡と……なにかを引きずった跡だな。それも比較的新しい」
 その跡を追っていくと、激しい戦闘音が聞こえてくる。近づくにつれて血臭が鼻を突く。そして視認できるほど近づけば――還リビト数体と白衣を着た女性が交戦していた。
「シズカ。貴方の入れた紅茶、美味しかった」
「フレデリック。お調子者だったけど、今思えば励ましてくれたんだよね」
 そんなことを呟き、そしてその傍らの人形が還リビトに攻撃を加えていく。白衣の女性も傷つきながら、戦い続けていた。
「皆で集まってやりなおそう。大丈夫、ヘルメス様もそれを望んでいる。一〇年前は失敗したけど、今度は皆で頑張ろう」
 血と死に塗れながら、白衣の女性は呟いていた。
 自由騎士として、貴方は還リビトを倒すべきなのだろう。その為の権能だ。
 そしてその後は――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
シリーズシナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
どくどく
■成功条件
1.還リビト7体の打破
 どくどくです。
 全三回シリーズ二回目。続きの方も初めての方もよろしくお願いします。

●敵情報
・還リビト(×7)
 人の霊魂がイブリース化したモノです。すぐ近くに白骨化したキジンらしい死体があります。骨格から判断するに、オニビトとソラビト。
 霊体ですが、物理攻撃は有効です。説得などの話しかけは何の効果も持ちません。生きている者全てに襲い掛かります。

攻撃方法
死の手  魔近単 冷たい手が生きる力を奪います。【パラライズ2】
死霊弾  魔遠範 死霊を弾丸のように放ちます。
念動力  物遠単 ポルターガイスト。近くにある固い物をぶつけてきます。
死の叫び 魔敵全 背筋が凍るような叫び声をあげます。【ダメージ0】【アンコントロール1】

・白衣の女性(×1)
 オラクル。イ・ラプセルのオラクルでない事は、紋章の色でわかります。人と同じ大きさの機械人形を連れており、その二つで一つのキャラクターです。
 実際に戦うのは人形で、女性は命令を下している戦い方です。近接の物理攻撃を行っています。
 基本的に何かに取り憑かれたかのように還リビトに語りかけて攻撃しますが、還リビト以外に攻撃されれば反撃は行います。

●場所情報
 ヘルメリア西部。草一つ生えていない乾いた大地。焼けた大地は何らかの対策を行わないと、ターンごとにMPが減少します。広さや明るさなどは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『還リビト(×7)』が、敵後衛に『白衣の女性(×1)』がいます。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
4個  4個  4個  4個
8モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2019年10月13日

†メイン参加者 8人†




「あの髪の色……!」
 白衣の女性を見た瞬間に『帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)の理性ははじけ飛ぶ。十年前の故郷で見た女性。それをそのまま大人にした風貌。気が付けば白衣の女性に向けて銃口を向けていた。
「撃て!」
 その動向を察した『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はマキナ=ギアを通して、仲間に合図を出した。あの白衣の女性が求めている人物なら、敵対行動を行う事は望ましくない。ザルクの行動は想定はしていただけあって、判断は迅速だった。
 控えていたクマのケモノビトがザルクに向かい弾丸を放つ。弾丸はザルクの肩に命中した。痛みによる衝撃が脳を揺らし、動きを止める。一瞬止まれば思考する時間が出来る。『私の元に帰ってきなさい』と刻まれた指輪の感触。それを感じながらザルクは――
「メアリー・シェリー!」
 ザルクは引き金を引く。復讐はザルクの行動理念だ。帰る場所がある事とはまた別の話。ここで止まってしまえば、今までの歩みを否定することになる。
「せっかちだな。こういうのは死ぬ一歩手前で留めて長く遊ぶのが……ま、此処にゃそういう趣味のヤツも少ないか」
 ザルクを止めようと魔力を練っていた『帰ってきた工作兵』ニコラス・モラル(CL3000453)だが、間に合わなかったため肩をすくめて魔力を霧散させる。行動事態に納得はできる。だがそれを許す許さないは別なのだ。ともあれ、起きてしまったことは仕方ないと諦める。
「……そうよ。復讐の炎は理性で燃やすの。狂気で燃やすのは狂信者の類よ」
『遠き願い』ライカ・リンドヴルム(CL3000405)はザルクを見てそう呟く。何かに復讐する気持ちは理解できる。だけどそれは衝動で燃やしてはいけない。自分の意志、自分の理念、自分の想いで燃やさなければただの暴力と変わらないのだ。
「相手はヘルメスのオラクルだ。おそらくこちらを敵と認識するだろうが……」
 ザルクの銃弾でのけ反る女性を見ながら『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は次の動向を逃すまいと注視する。こちらが他国のオラクルだという事は、互いに分かることだ。それが攻撃を仕掛けた以上、好意的な反応は難しいとみていいだろう。
「じゃろうな。だが今は先に魂をあるべき場所に還さねば!」
 アデルの言葉に頷く『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)。思う所はたくさんあるが、還リビトを放置はできない。話し合いをするにせよ争うにせよ、還リビトを放置していいわけがない。
「そうだね。今は彼女のことは置いておこう」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は白衣の女性から視線を外さない範囲で還リビトを見る。メアリー事変。そう呼ばれる反乱で死亡した『兵站軍』。彼らが今なお彷徨うのなら、それを浄化しなくては。
「もし彼女がミス・シェリーだというのなら」
 怪しい雰囲気の女性を見ながら『百花の騎士』アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)は思考する。十年間この灼熱の大地で生き抜き、何をしているのか。何が彼女を駆り立てているのか。それによっては敵対するかもしれないし、協力できるかもしれない。
「……邪魔、しないで……!」
 絞りだすように女性は声をあげ、自由騎士達を見る。手を振るうと同時に人形が立ち上がり、動き出す。それが彼女の武装であることは経験で理解できた。
 焼けた大地で、二種のオラクルと還リビトの三つ巴が展開される。


「最初から敵として戦った方が楽と思うけどね」
 白衣の女性を見ながらライカは冷たく言い放つ。相手がヘルメスを信望しているヘルメリアのオラクルなら、アクアディーネとは相いれないだろう。ならば初めから敵対した方が気分は楽だ。その割り切りがなければ、戦争で心を摩耗してしまうだろう。
 視線を還リビトの方に移し、ライカは大きく呼吸する。乾燥した空気が体力を奪っていく。暑さに耐えながら両手の手甲剣を振るう。速度で相手を封殺し、そのまま押し切る。振るわれた二閃が還リビトを裂いていく。
「少なくとも、還リビトのカタクラフトの扱いでほぼ間違いなく衝突は免れないわ」
「現状の情報ではそうだね。だからもっと探らなくては」
 ライカの言葉にそう返すマグノリア。白衣の女性に関して分かっていることは少ない。その状態で判断を下すのは早計だ。もちろん、ライカの言葉にも一理ある。だが判断を下すのは情報をもっと得てからでも遅くはないだろう。
 肌を刺すような熱気の中、マグノリアは魔力を展開する。戦場全体に魔力を広げ、海洋のように魔力を波打たせる。渦のように円を描く魔力が敵の足を取り、その動きを封じていく。魔力を放出しながら白衣の女性を目を見るマグノリア。その瞳に宿る意思を見るように。
「洗脳されている様子はない。……かと言って正気かといわれると難しいね」
「悲しいのに泣けない時点で異常だ。交渉も何もかも心身ともに健康になってからだ!」
 怒りの声をあげるツボミ。還リビトに対して語りかけ、傷つきながら倒していく。そんな様子がまともであるはずがない。仮に正気を保っていたとしても、あそこまで傷つく様を医者として見過ごせるはずがない。
 ツボミの瞳が戦場全ての生きている者を見て、その傷の度合いを判断する。選別するまでもなく、一番傷が深いのは白衣の女性だった。ザルクの一撃以前に、傷を治療せずさ迷っているのは明白だ。癒しの魔力を放ちながら、説教するように声をかける。
「カタクラフト扱うんだから機械と同じで人体にもメンテが必須な事は分かっとるだろうが。そんな無理通して後何人弔えるつもりだ!」
「後、2567人。……ああ、シズカ達を入れると2572人か」
「……成程。<メアリー事変>で死んだ『兵站軍』の人数か」
 冗談で聞いたツボミの言葉に、真剣に答える女性。その数字の意味に気付いたのはアデルだった。あてずっぽうだが間違いはないのだろう。それだけの人数を個人が弔わないといけない事情など、それこそ戦争以外にあり得ないのだから。
 女性の動きを注視しながら、アデルは還リビトに槍を向ける。カタクラフトから蒸気を放出して、全関節の稼働を行う。大地を踏みしめる足首、上半身をひねる腰、槍を支える肩、そして槍をひねる手首。全力で突き出した槍が還リビトを浄化し、無に帰す。
「とりあえずの敵意はザルクに向いているが、こちらを味方と思ってはくれないだろうな」
「みかた? わたしの味方は、皆とヘルメス様よ」
「状況からしてメアリー・シェリーだろうから、そういう風に扱わせてもらうぜ。嫌なら名乗っときな」
<メアリー事変>の内容を思い出しながらニコラスが女性に語りかける。歯車騎士団の機械化亜人の扱いを理由にの多くの『兵站軍』と共に国に反した女性。プロメテウスを前に敗れた当時十才のオラクル。まず間違いないだろう。
 傷ついた仲間を癒しながら、ニコラスは『彼女』の服を見る。白衣の下にあるのは軍服だろう。垣間見せるの二等勲章は間違いなく歯車騎士団の物だ。年齢不相応の階級は、彼女の才を認められての特別昇進なのだろうか。
(そういやプロメテウスのパイロットも二等扱いだったか。才能ある奴を軍に留める為の名誉昇進って所か)
「そうよ、メアリー・シェリー。……貴方達は、誰?」
「ミス・シェリー。今は緊急時故に名乗れぬ無礼を許してください」
 還リビトと交戦しながら言葉を返すアリスタルフ。警戒心をむき出しにする女性に礼節を返せない事に不甲斐なさを感じながら、しかし優先すべきことを忘れない。軍人である以上、人命と軍務を優先しなくてはいけない。
 体温を調節しながら、筋肉を引き締めるアリスタルフ。体全てが武器。そう意識しながら踏み込んだ。還リビトの手を上体を伏せてかわす。そのまま相手の懐に入り、真っ直ぐに拳を突き出した。そのまま足を止めず、次の目標に向かう。
「復讐を止めろとは言わないが、任務の妨害だけは止めて貰うぞ」
「……っ! 分かってる……!」
 アリスタルフの言葉に応えるザルク。頭のどこか冷静な部分ではそれが正しいと理解しながら、同時に熱く駆り立てる衝動があることも分かっていた。故郷を滅ぼした要因。メアリー事変。その名をもつ者が目の前にいるのだ。
 女性が操る人形の関節を狙うようにザルクが弾丸を放つ。弾丸を受けてはじけ飛ぶ人形の腕。だがその腕そのものを鈍器として人形はザルクに襲い掛かる。繰り出される一撃に耐えながら、ザルクはさらに引き金を引いた。
「お前と会うために……俺の、答えを探して、俺は、戻ってきたんだ!」
「――知ってる。『     』。ディフセイルの街に居た、鍛冶屋の息子さん」
復讐の感情を叩きつけた相手から帰ってきたのは、郷愁の言葉だった。言われたザルクはその言葉に昔を思い出す。ディフセイル、鍛冶屋、そしてザルク・ミステルを名乗る前の名前。そのキーワードが彼女の『知ってる』と言う言葉を強化する。
「ねえ、お父さんは? パン屋のシェリルさんは? 町長のカーマインさんは? みんないまどこにいるの?」
「……いねぇよ!」
 すがるように迫る女性の言葉を殴るように腕を払って振り払う。
「あの町の人間は俺以外みんな死んだ! あの戦争で、お前達が奪ったんだ!」
 その事実こそが必殺。その復讐心こそが刃。その言葉こそが奇跡。
 それが彼女の戦意を折り、嗚咽するように口を押えて膝をつかせた。今頭に銃を押し当てて引き金を引けば、簡単に命を奪えるだろう。ザルクはそれを思いながら、銃を向けた。そして――
「…………くそ」
 ザルクの銃は脱力するように押し当てた頭から下がっていく。押しとどめたのは指輪に刻まれた言葉。無抵抗の彼女を殺してしまえば、戦って復讐を果たした指輪の送り主に顔向けが出来なくなる。そんな理由だった。
 そして自由騎士達は還リビトと相対する。


 焼けた大地の疲弊と生気を奪う還リビトの手。それが自由騎士の動きを止め、じわりじわりと長期戦の流れを生み出していた。
「暑いわ!」
「こんな所で足を止めるつもりはない」
 前衛で戦うシノピリカとライカがフラグメンツを削られる。ニコラスやツボミが癒しにはいるが、それでも数の差もあって十全とは言い切れない。
「ザルク、早く戦端に戻れ! その女はしばらくは動けん! 今は手数が必要だ!」
 冷静に戦局を見極め、アデルが叫ぶ。精神的なショックからメアリーはしばらく動けないだろう。あれが演技とは思えない。ならこの隙に戦況を整えるしかない。アデルは槍を振るいながら、銃を構えなおすザルクを確認して安堵の息を漏らす。
「しかし大した記憶力だね。十年前に少ししか接点のなかっただろうザルクのことまで覚えているなんて」
 メアリーの言葉を思い出しながら、マグノリアは関心を持ったように呟く。共に戦った『兵站軍』だけではなく、袖触れ合った者は皆覚えているのだろう。彼女の特性なのか、何かの神秘が係わっているのか。どちらにせよ興味は尽きない。
「忘れちまった方が楽だ、ってこともあるけどね……。おおっと、おじさんの実体験じゃないぜ」
 言って肩をすくめるニコラス。過去はいいものばかりじゃない。悪いことだって存在する。都合の悪い事は忘れた方が、心のダメージが少ないのだ。実体験じゃない、と手を振りながらそれでも忘れられない想いは存在する。
「彼女はその忘れられない過去に縛られているということか。おそらく随行した『兵站軍』全てを覚えているのだろう」
 うずくまるメアリーを見ながらアリスタルフは頷いた。還リビトを伏すときに語りかける言葉。まだ元気だったころを回顧し、それを思い出しながら還リビトを粉砕しているのだ。『浄化』できない彼女は、如何なる思いで還リビトを壊したのだろうか?
「共に戦った仲間の還リビトを『再殺』か。んなもん心が壊れるに決まっとろうが!」
 阿呆が、と言いたげに声荒く叫ぶツボミ。癒しの術を行使しながら、戦争で心を壊した者への治療を思い出す。十年分の心身ダメージの鬱積だ。下手をすると長期の治療になるだろう。それでも見捨てるという選択肢はツボミにはなかった。
「同情はしないわ。相手はヘルメスのオラクルよ」
 ライカは自分の『敵』に容赦がない。同情できる過去があろうとも、そこを曲げるつもりはなかった。殺せるときに殺さないと、復讐で仲間が殺される可能性が生まれる。『へいわにいきるだいち』の為に、血を流し続けると誓ったのだから。
「確かにな。だが彼女はそのヘルメリアに反した者じゃ。上手くすれば仲間になれるやもしれん」
 頷きそして言葉を返すシノピリカ。敵の敵は味方、とは言い切れないがそれでも可能性はゼロではない。メアリー・シェリーが何故ヘルメリアに反乱しながらもヘルメスを信望できるのか。そこが分かれば、妥協の道は開けるかもしれない。
 三つ巴の状態から脱し、一気に還リビトを攻め立てる自由騎士達。状況が整えば、後はやるべきことを全力でやるだけだ。一体、また一体と還リビトの数を減らしていく。
「終わりよ」
 最後の還リビトにライカが迫る。右に左にとジグザクにステップを踏みながら近づき、相手を翻弄しながら迫る。交差する瞬間に両腕を振るい、両腕に装着した刃を振り切った。
「さようなら。正しくセフィロトの海に戻りなさい」
 残渣を払うようにライカが刃を振るう。アクアディーネの浄化の権能が発動し、還リビトは虚無に散り去った。


 全ての還リビトが消え去り、サポートのクマとネコのケモノビトが応急処置等の後処理を行う。ある程度状況が安定した後に、自由騎士の興味はメアリーに移った。彼女も戦いが終わるころには青ざめた表情でよろけながらなんとか立ち上がっていた。
「…………」
 アデルは何かあった時の為に、一歩引いて様子を見る。ザルクの攻撃で関節部分にダメージが残っているが、人形がまだ動く可能性がある。注意を怠らず、いつでも飛びかかれるように待機していた。
(変な動きはない……というよりは、変な様子ばかりなんだけど)
 同じく未来の映像を見ながらライカはメアリーの観察をしていた。精神状態が安定しない事もあり、メアリーの行動はどこか要領を得ない。いきなり襲い掛かるような挙動は見えないが、それでも何をするのかわからない不安はあった。
「……お前は、どうしてまだ生きていて、何をしているんだ?」
 最初に口を開いたのはザルクだった。そこに含まれた復讐の感情を察したのか、メアリーは体を震わせる。
「ヘルメス様の為に、機械化亜人を救う準備をしているの」
「ミス・シェリー。貴女は今でも兵站軍を救いたいと願い、その為の術を持っているのか?」
「ええ。だってそれがこの国の為だから」
 アリスタルフの言葉に迷うことなく答えるシェリー。それが彼女の確固たる信念であると言外に語っていた。
「……あんた、死人からカタクラフトを剥ぎ取って、どこに持っていくつもりだったんだ?」
 慎重に言葉を選び、問いかけるニコラス。メアリーの背後に誰かがいたりあるいは騙されている可能性を考慮しての問いかけだ。何処かに居る誰か――最悪ヘルメリア軍――がいれば、準備なくついていくのは危険だ。
「――――んで――ない」
 だが、その言葉にメアリーが首を横に振る。呼吸を荒くし、明らかに動揺した様子で後ろに下がる。
「みんな、死んでない……。生きてる、生きてる! 皆倒れたけど、まだ皆は生きてるから! カタクラフトを集めて、皆で力を合わせて、まだ立ち上がれるから!」
 それはメアリー・シェリーが十年間目を逸らし続けた事。戦った仲間全てが死人であること。もう終わってしまったという事。
 彼らのカタクラフトと自分の技術があればまだ戦える。プロメテウスで体は滅んでも、まだ終わっていない。皆はまだ死んではいない。そうだ。皆は生きている――
 どこか遠くで汽笛が鳴る。その音を、自由騎士は知っていた。
「この音は……幽霊列車か!?」
 ツボミは舌打ちするように言い放つ。強い絶望などの激しい感情。それが幽霊列車(ゲシュペント)を呼び、イブリース発祥のきっかけになると言われている。強く響く汽笛の音が現実を歪ませていく。
「そうじゃな。面倒なことになったぞ」
 メアリーから目をそらさずに口を開くシノピリカ。周囲にある死体のカタクラフトがメアリーのフランケンシュタインJrと融合し、一つの生命体となる。否、その現象を自由騎士達は知っている。何もない物体が命を持ったかのように動き出す現象を。
 イブリース化。それはメアリーにも起こっていた。
「フラグメンツを極限まで欠損したオラクルはイブリース化する可能性がある。聞いてはいたが……」
 人形遣いメアリー・シェリー。彼女は失った『兵站軍』を前に絶望した。6559人の全員の名前を呼びながら焼けた大地を彷徨い、その絶望に引き寄せられるようにゲシュペントが現れ――
「この地一体の『兵站軍』が還リビトとなったのは、彼女の絶望の結果か……」
「当時はまだ年端もいかぬ子供じゃ。それを責めるのは酷か」
 イブリース化した存在は、死をもってしか解放できない。ここでメアリー・シェリーと言う存在は消え去る事となるだろう。

 だがそれには唯一の例外が存在する。
 アクアディーネの浄化の権能。これをもってすれば、イブリース化したメアリーに死以外の結果を与える事が出来る――

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。
んー。文字数削った削った。

MVPは色々立ち回った非時香様に。あれがなければメアリー死亡ルートもありました。
また、アニムスによるメアリー鎮静化(?)がなければ、状況は複雑化していたことも追記しておきます。ええい、折角の人形遣いスキルが!

分岐点は三つ。『メアリーの生死』『メアリーのヘルメスへの態度に関する言及の有無』『メアリーの仲間の生死の言及の有無』で、2×2×2の8パターンです。
なおどれを選んでも『詰み』の状態はありません。なので今後も皆様の思うがままに行動してください。いきなりアクアディーネに謀反を起こしても、どくどくはこまらない(たぢまCWは困るだろうけど、まあそれは)。

ともあれ、お疲れさまでした。先ずは傷を癒してください。
それでは次のシナリオで。
FL送付済