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XXX! ビールbeer麦酒!

●ブレインストーミングより
『聖霊門、城塞、馬房と建築関係者には世話になりっぱなしだ。その都度、何かと無理難題を押し付けてしまっているしな。
当然彼らも相応の報酬は得ていようが、我々に出来る事は無いだろうか。
そう、例えば酒宴。労いもでき、感謝も伝えられる。
どうだろうな?』
●ビール純粋令に従い醸造されています
純粋令――1516年にノースグレン公国(現ヴィスマルク南東地方)にて『ビールは麦芽、水、ホップのみとする』と定めた一文で、食品に関する最古の法令としていまなお守られ続けている。当時香辛料やハーブ等の味付けにより劣悪ともいえたビールは駆逐され、良質の職人による質のいいビールが作られるようになったと言う。
そしてイ・ラプセルでもその法令は守られていた。事、良質の水と麦を有するこの国においてビールマイスターは数多い。通りの数だけ麦酒工房があるともいわれ、祭りの際には自慢のビールをこぞって競い合う。
そんなビールにも格付けがあり、品質の良さを『X』で示す風習がある。より良いビールは『XX』とも言われ、さらには最高級の品質のビールに『XXX』を付けた。
「うっしゃー!」
掛け声と共に蛇口が取り付けられた樽に入っているのはまさに1819年春先を祝うビールだ。『XXX』を付けた品質の麦芽色の液体。それが皆に配られていく。
「今日は自由騎士様の凱旋祝いだ! お代は騎士様が持ってくれる。じゃんじゃん飲め!」
「子供には麦のジュースがあるよ!」
「料理もたんとふるってある! 肉料理にチーズ料理、取れたての魚もあるぜ!」
「今日は飲み明かせー!」
最高品質のビールとそれに合わせた料理。
労いを込めた酒宴だが、かといって自分達が騒いではいけないと言う法はない。
乾杯の音頭と共に貴方は――
『聖霊門、城塞、馬房と建築関係者には世話になりっぱなしだ。その都度、何かと無理難題を押し付けてしまっているしな。
当然彼らも相応の報酬は得ていようが、我々に出来る事は無いだろうか。
そう、例えば酒宴。労いもでき、感謝も伝えられる。
どうだろうな?』
●ビール純粋令に従い醸造されています
純粋令――1516年にノースグレン公国(現ヴィスマルク南東地方)にて『ビールは麦芽、水、ホップのみとする』と定めた一文で、食品に関する最古の法令としていまなお守られ続けている。当時香辛料やハーブ等の味付けにより劣悪ともいえたビールは駆逐され、良質の職人による質のいいビールが作られるようになったと言う。
そしてイ・ラプセルでもその法令は守られていた。事、良質の水と麦を有するこの国においてビールマイスターは数多い。通りの数だけ麦酒工房があるともいわれ、祭りの際には自慢のビールをこぞって競い合う。
そんなビールにも格付けがあり、品質の良さを『X』で示す風習がある。より良いビールは『XX』とも言われ、さらには最高級の品質のビールに『XXX』を付けた。
「うっしゃー!」
掛け声と共に蛇口が取り付けられた樽に入っているのはまさに1819年春先を祝うビールだ。『XXX』を付けた品質の麦芽色の液体。それが皆に配られていく。
「今日は自由騎士様の凱旋祝いだ! お代は騎士様が持ってくれる。じゃんじゃん飲め!」
「子供には麦のジュースがあるよ!」
「料理もたんとふるってある! 肉料理にチーズ料理、取れたての魚もあるぜ!」
「今日は飲み明かせー!」
最高品質のビールとそれに合わせた料理。
労いを込めた酒宴だが、かといって自分達が騒いではいけないと言う法はない。
乾杯の音頭と共に貴方は――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.酒宴を楽しむ
どくどくです。
この依頼は『ブレインストーミングスペース#1 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375) 2019年02月21日(木) 21:50:59』から発生しました。
名前のある方が参加することを強要しているものではありません。
●説明っ!
色々お世話になった方への酒宴です。ですが自由騎士もまた参加者です。
行動は【1】~【3】の中から選んでください。プレイング冒頭もしくはEXプレイングに書いていただけるとありがたいです。それ以外の場合は【4】でお願いします。
【1】酒宴を楽しむ:酒を飲んだり物を食べたり。未成年は麦ジュースで。
【2】裏方に回る:料理を作る。秘蔵の酒を出す。給仕する。芸を披露する。そういった裏方です。
【3】こっそりお話:喧騒から少し離れてお話を。
●NPC
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)
黒衣の仮面医者です。【2】で酔っ払い介抱(物理)を行っています。
アミナ・ミゼット(nCL3000051)
小麦色の踊り子です。【2】で踊っています。
NPCは話しかけられなければ基本空気です。こっそり【3】に誘う事もできます。
●場所情報
イ・ラプセル首都サンクディゼール。そこの大通り。
噴水のある大公園を中心に祭りが開催されています。時間は昼から夕刻。二次会に行きたい人はご自由に。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
この依頼は『ブレインストーミングスペース#1 テオドール・ベルヴァルド(CL3000375) 2019年02月21日(木) 21:50:59』から発生しました。
名前のある方が参加することを強要しているものではありません。
●説明っ!
色々お世話になった方への酒宴です。ですが自由騎士もまた参加者です。
行動は【1】~【3】の中から選んでください。プレイング冒頭もしくはEXプレイングに書いていただけるとありがたいです。それ以外の場合は【4】でお願いします。
【1】酒宴を楽しむ:酒を飲んだり物を食べたり。未成年は麦ジュースで。
【2】裏方に回る:料理を作る。秘蔵の酒を出す。給仕する。芸を披露する。そういった裏方です。
【3】こっそりお話:喧騒から少し離れてお話を。
●NPC
『ペストマスクの医者』サイラス・オーニッツ(nCL3000012)
黒衣の仮面医者です。【2】で酔っ払い介抱(物理)を行っています。
アミナ・ミゼット(nCL3000051)
小麦色の踊り子です。【2】で踊っています。
NPCは話しかけられなければ基本空気です。こっそり【3】に誘う事もできます。
●場所情報
イ・ラプセル首都サンクディゼール。そこの大通り。
噴水のある大公園を中心に祭りが開催されています。時間は昼から夕刻。二次会に行きたい人はご自由に。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
1個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
27/∞
27/∞
公開日
2019年04月06日
2019年04月06日
†メイン参加者 27人†

●
ビール――大麦の麦芽をアルコール発酵させることでできる酒である。麦が発芽する際にに甘味(現代知識でいえばの種子内のデンプンが糖化したもの)が生まれ、これが麦ジュースの味の元となる。
また発酵に使用される酵母と温度などの違いによりフルーティ味わいのエールや、すっきりとした味のラガーに分かれる。冷蔵技術が未発達なこの時代、低温醸造のラガーはあまり作られず常温保存可能なエールが一般的であり、ビール=エールであった。
なお本リプレイでは色々面倒なので全部ビール表記とします。はい前書き終わり。それでは――
●
「かんぱーい!」
ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)の音頭と共にグラスが掲げられる。カン、と音が響いてから一斉にビールに口を付ける。
「まず宴の主旨に則り自由騎士団への協力者らに感謝を」
皆が飲み始める中、朗々と謝辞を述べるランスロット・カースン(CL3000391)。
「我々が緒戦にて勝利を収められたのは偏に諸兄の協力によるもの、感謝とイ・ラプセルへの忠誠を称賛して料理とビールを用意した――」
だがランスロットの言葉を聞いている者は誰もいなかった。皆、ビールと料理の味に酔いしれている。それに気づいて、キリのいい所で言葉を止めた。
「ランス先輩」
そんなランスロットに声をかけるアリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。若く見えるが成人しており、ビール片手にランスロットに話しかけてくる。呼び方からも分かるように自由騎士の先輩後輩関係だ。
「アリスタルフか。色々大変だったようだな」
「……うう。いえ、いいです。無事に帰れましたし」
同情するようなランスロットの言葉に、胃が痛くなるアリスタルフ。貞操の危機だったことは忘れたい。
「先輩は先日の大聖堂制圧任務でも活躍されたと聞きました。おめでとうございます。勲章が増える日も近いですね」
「俺一人の功績ではない。あの場に居た皆の、いや、積み重ねてきた全員での勝利だ」
アリスタルフの言葉にいつも無表情なランスロットの顔に小さく笑みが浮かぶ。誇らしげな笑みだ。
「シャンバラとの決戦が迫っている。だがこれまで同様、己の為すべきを為すのみだ」
ランスロットの言葉にアリスタルフは強く頷き、ビールを口にした。
「こいつはいい酒じゃないか」
アン・J・ハインケル(CL3000015)はビールを口にして笑みを浮かべる。裏路地で出される酒場の酒とはわけが違う。一口飲んだ瞬間に口に広がる味がガツンとくる。そんなビールだ。
「折角の機会だ。派手な戦の前の景気づけに、派手に飲むとしようじゃないか。
おう、そこのシケたツラした熊公! あんたも飲みな!」
「飲んでるぞ。しかしまあ、肉もうまいが魚もいいな」
アンに肩を叩かれ、ジョッキを傾けるウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。
「しかしそんな顔してたか? いつも通りの熊の顔だぞ」
「してたね。また難しいこと考えてたんだろう?」
アンに指摘されて、無言で酒に口をつけるウェルス。無言で肯定することになったが、アンもそれ以上は追及してこなかった。
(ノウブルに混じって亜人が酒を飲む……。もう慣れちまったが、他の国だと異常だよな、こいつは)
ノウブルが亜人を支配する。イ・ラプセル以外ではそれが普通のスタイルだ。シャンバラはまだ魔女狩りという形で亜人でもまともな生活が出来る可能性があった。だが他の国は――いかん、飲み過ぎた。気を紛らそう。
「よぉ、飲んでるか?」
「うむ、頂いているよ。実に美味い」
ウェルスに声をかけられたウィルフリード・サントス(CL3000423)は口に泡を付けて応える。
「ウィートバーリィライの時にも思ったが、この国のビールは本当に質がいいな。
麦と水、この2つが素晴らしい質だからこそ、この味が出るのだろうな」
「おう。通商連でもいい取引がされてるみたいだぜ」
ビールの味に感激するウィルフリードに頷くウェルス。高評価を受けていることを知って、ウィルフリードはお替りを要求する。
「チーズとビール。この組み合わせがまたたまらない。トマトと組み合わせるとさらに味が際立つ!
うむ、不純かもしれないがこの素晴らしいビールのために戦争も頑張るとしようか!」
「いいんじゃない? 戦う理由なんてそんなものよ」
ウィルフリードの言葉に頷くエルシー・スカーレット(CL3000368)。大義や正義だけで戦う人もいる。復讐や克己心だけで武器を持つ人もいる。美味しい料理や我が家の為に戦う人がいてもいいのだ。
「色々まわっていたみたいだが、何をしていたのかな?」
「あいさつ回りよ。色々お世話になった人の」
ウィルフリードの言葉に応えるエルシー。橋頭堡や聖霊門や馬房など、お世話になった人は多い。そういった人達に挨拶していた。コネを得たいと言う気持ちもあったが、感謝を得たい気持ちももちろんある。
「孤児院出だからね。こういう機会に人脈を広げておきたいのよ。後ろ盾って重要よ」
「君はこの国最高峰ともいえるエドワード王とのコネがあるんだがなぁ」
「そ、それはそれよ。人脈が多いに越したことはないわ。
あ、こっちのテーブルに魚料理の追加おねがい~」
「飲んでおるな。良いつまみがあるが、どうかね」
エルシーのテーブルに近づくテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
「薄くスライスした豚肉の燻製だ。コショウをまぶしてあるのでビールによく合うぞ」
「ホントっ……なにこれ!? ビールが進むわ!」
テオドールが持ってきたつまみを食べて驚くエルシー。その様子を見てうんうんと頷くテオドール。作ってもらったかいがあった。
「確かにここで顔を繋いでおくのも悪くないな。私も冶金関係者との繋がりを深めないと」
「? なんで冶金なの?」
「実は婚約者の親が冶金会社を経営していて。その関係での予防線を敷いておきたいのだよ」
「婚約者!?」
テオドールの言葉に思わず叫ぶエルシー。婚約者が社長令嬢とか流石貴族、と驚いていた。
「それでどんな人なの、その婚約者」
「実はまだ成人していなく――」
酒の消費速度と場のムードは、少しずつ上がっていく。
●
宴の最中、その裏側でせっせと働く者がいる。
「…………」
兜をかぶり会場を警備するアデル・ハビッツ(CL3000496)だ。特に武器など持っているわけでもなく、大声をあげるでもない。ただ無言で宴会場を見て立っている。ただそれだけだ。勿論、問題があれば動くがそうでなければ不動を貫いていた。
(なにもなければ、それでいい。折角の祭りだ。怪我人が出ないに越したことはない)
兜を外すことなく、ただ会場を見る。それだけで酔って暴れようとする者の威圧になる。そういったやからの牽制になるのなら、それでいい。アデルは静かに頷き、会場の警備を続ける。
そんなアデルに声がかけられる。
「お疲れ様です。お食事とお酒はいりますか?」
「生憎というか丁度というか、俺は酒を飲めないからな。祭りが終わった後に何か持ってきてくれないか」
「分かりました。では頑張ってくださいね」
声をかけたフーリィン・アルカナム(CL3000403)は一礼して厨房に向かう。バスケットの中には大量の鶏肉や野菜類。慣れた手つきでそれを並べ、包丁を手にする。孤児院で厨房に立つこともあって、大勢に料理をふるまう事は慣れている。
「さて、それじゃあ――」
頭の中で作業ルーチンを考えるフーリィン。鶏肉に味をしみこませている間にポテトを切り、煮込む時間と並行してサラダを用意する。休むことなく動き続け、料理を仕上げていく。
「鶏のから揚げに塩茹で豆とミモザサラダです」
「まあ、お見事ですわアルカナム様」
「孤児院には子供達が多いんでこういう料理は作り慣れているんです」
「わたくしもがんばらなくレはいけませんわね」
フーリィンの料理を見て気合を入れるレベッカ・エルナンデス(CL3000341)。貴族の嗜みとして……というよりはいい花嫁になるようにと教えられた料理。その努力を見せる時が来た。
「仕込みは十分。あとはソースを用意して……」
前もってお酒に浸しておいた魚に小麦粉をまぶして火を通す。その間に小麦粉とパプリカを刻む。魚に色がついたら皿に盛り、秘伝のソースを乗せてやる。魚の香ばしい香りとソースの香りが絡み合い、食欲を一層引き立てる。
「特製ムニエルですわ。冷めないうちにお召し上がりください」
「流石レベッカさん。わたしは魚をさばくなんてとてもできません」
「ご両親の食堂でお手伝いはしないんですか?」
「家の方は運ぶ専門なので」
サラ・ケーヒル(CL3000348)は言って苦笑する。両親が営んでいる食堂は結構繁盛しているが、サラはまだ厨房に立ったことが無い。簡単な料理ならできるが、魚をさばいたりなどはとてもできない。
「そうですね。でもこれぐらいなら」
開いているかまどの前に立ち、肉を用意するサラ。火は強ければいいのではない。肉に応じて適した温度で適した時間だけ焼く。肉汁を逃さず、しかし焼き洩らしのないように。しっかり焼き上げる。
「出来ました。お料理お願いしまーす!」
「任せとき、10番テーブルもっていくで!」
サラの料理を手にしてアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は元気よく答える。アマノホカリのなまりを含んだ特徴的な返事だが、周りの者もアリシア自身もそれをきにしている様子はない。
「はー。大変ですね。……でもこの服は?」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はビールジョッキをもちながら、着ている服を見る。厨房で働いていたのだが、給仕が足りないという事で急遽こちらに回されたのだ。胸元が大きめのエプロンドレス。ぴっちりとしているのは服で何かを引っかけないためだ。けしてボディラインを浮き彫りにする目的ではない。ないったらない。
「次こっちやね。注文? ちょい待ったってな」
「今聞きますね。ビールお替り六人分ですね。分かりました」
「おっちゃんたちのみすぎやで! ビールやのうて麦ジュースにしときや!」
アリシアとサラはひっきりなしに動き回る。キジン化した足で宴会場を走り回り、ウサギの耳で注文を聞く。酔っぱらって騒がしくなる会場の中でも、アリシアとサラは互いの特性を生かしあって、潤滑に注文をこなしていた。
「はーい。5番テーブル料理お待ちかねー」
「もう、おさわり厳禁ですよっ」
裏方の活躍もあって、宴は盛り上がっていく。
●
麦が発芽する際に生まれる甘味。これらは麦芽が成長する際のエネルギーとなる。小さな一粒だがかなりの糖があり、これをそのまま水で薄めた者が麦ジュースのベーシックとなる。他にも牛乳や果汁などを用いるものもあり、ひとえに麦ジュースと行っても様々だ。
今回のものは麦と水のみの物だが、樽から直で出されるため劣化が少なく、透き通った味わいと甘味が同意していた。
「これが麦ジュースか。おいしいー!」
「未成年の私達でも、安心して飲めますね!」
篁・三十三(CL3000014)とたまき 聖流(CL3000283)は麦ジュースを飲んで笑顔を浮かべる。二人とも麦ジュースは初めてでおっかなびっくりだったが、一口飲んでその美味しさに感激していた。
「これがさいこーきゅーかー。さいこーきゅーいいなー!」
耳をぱたぱたと振るわせながら三十三は麦ジュースを飲む。別段最高級がどういいかは解っていないが、その場のノリとジュースの美味しさが口を動かしていた。持ってきたポテトのフライとの相性もよく、のどを潤していく。
「ふふ。三十三さんたら。元気がいいですね」
はしゃぎまわる三十三を見て、たまきが笑みを浮かべる。弟がいればこんな感じなのだろうかと思いながら、感情のままに動く三十三の耳に手を伸ばす。最初はゆっくりだったが、三十三が拒否していない事を確認して優しく触れる。
「わひゃぁぁ……たまきさん?」
「ふふふ」
三十三が見せる反応を楽しむようにたまきは手を動かす。最初は耳の毛を梳くようにしていたが、その内頭全体を優しくなでるような動きに変わっていく。その度に赤面していく三十三。
「ほわ……酔ったかもしれません……」
「え!? お酒飲んでないよね? 場の空気に酔った?」
「マスター、もう一杯! なのれす……! お料理もー!」
「たたた、たまきさん!ちょっと飲みすぎな気が……! ジュースなんだけど!」
場の空気にほだされて、二人の温度も上がっていく。
「お肉料理! チーズ! お魚!」
お皿の上に料理をたくさん乗せてリサ・スターリング(CL3000343)は元気よく麦ジュースを飲む。名目はお世話になっている人への感謝だが、自分達が楽しんではいけない理由はない。
「麦ジュースって甘くておいしー! べ物の間に飲んだら口の中がすっきりしてどんどん食べられちゃう!」
肉、ジュース、魚、ジュース、チーズ、ジュース……食べる合間にジュースを飲んで、すっきりさせてから次の料理に移る。早食いにして大食い。早く食べないといろんな料理が食べれない。今日は限界まで食べるつもりだ。ただし野菜は除いて。
「次はこっちのお肉ー!」
「そのにくは何もかけずに食べるとおいしいんだぞ!」
「そうなんだ。それじゃあ、たくさん食べるぞー」
「サシャも食べるんだぞ!」
木製のトングを使って肉をつまむサシャ・プニコフ(CL3000122)。まだ十一歳のサシャはビールを飲むことはできないが、その分たくさん食べる気でいた。酒よりもにく。サシャの目には肉しか映ってなかった。
「お酒にあわせてつくられたにく料理はうまいんだぞ! ご飯のおにくもおいしいけど、おつまみのおにくもうまいぞ!」
言いながらサシャはいろんな肉料理をつまんでいく。牛、豚、羊、馬、猪、兎……焼き方も強火から弱火と様々だ。味付けも塩やコショウを始めとした様々な香辛料。スモークされた物やシチューで似られた物。そんな肉も見逃さない。
「このにく1枚で他のおにくが何杯でもいけるぞ!」
「おにくおいしい?」
「当然なのだ! おにくは最高のおにくなのだ!」
「さいこうのおにく」
無表情にサシャに言葉を返すリムリィ・アルカナム(CL3000500)。意味はあまり分からないが、肉が美味しいという事は十分に伝わってきた。だったらという事でリムリィも肉を口に運んで、咀嚼する。
「おいしい。おまつり、たのしい」
感動をまるで感じない無表情無感情な物言いだが、リムリィを知る者が見れば楽しんでいることが分かる。黙々と麦ジュースと料理を口に運んでいるように見えて、心の中では皆が楽しんでいる様子を楽しんで見て……知り合いの肩を掴んだ。
「おさけのんじゃだめ」
「……えっ? ダメ? なんで? 16だよ? 大人じゃん? 13で成人式済ませたよ? こっちじゃ違う?」
「こどもがおさけをのんだらせいちょうがとまる。おねえちゃんがいってた」
「ちくしょー!」
ビールを飲もうとして断られたナバル・ジーロン(CL3000441).リムリィに言われ、愕然と膝をつく。田舎での成人式――働き手として認められる儀式かと思われる――と正式な成人は違うのだ。諦めたように麦ジュースを手にする。
「おいアミナ、聞いたかよ。都会じゃお酒は20歳までダメらしいぜ? お前んとこはどうだった?」
ナバルは踊っていたアミナを捕まえて問いかけた。
「あーしの所はお酒が無かったよ」
「それもすごいよな。でも1人で働けるようになったら、もう大人でいいじゃんよなぁ。
いいよいいよ。こっちはこっちで楽しむから! おいアミナ! お前も付き合え! 一緒に麦ジュース飲め!!」
「いえあ! ナバルちんパリピ!」
カコン、とグラスを重ねてナバルとアミナは麦ジュースを飲み干した。
●
パーティの裏方と行っても様々で、酔っぱらったものを介抱するのもその一つだ。
「水を飲ませて毛布で包め。暴れそうなら手足を縛っておけ」
「お前はそういう所が容赦ないなぁ」
非時香・ツボミ(CL3000086)はサイラスの手際を見ながら、そんな感想を抱いた。治療自体に間違いはないが、暴れる可能性がありそうなら先に押さえる過激さ。
「下手に暴れられて、怪我人を増やされてはかなわんからな」
「まあ私も似たような感じだが。オラ飲め酔っ払い共! 飲まぬならねじ込むぞ!」
酔っ払いに配合した薬をねじ込ませながらツボミが答える。
「生薬か?」
「古典的だが糖蜜と、臓腑の働きを助ける鬱金の生薬。後は塩を少し入れた水だ。
アーユルヴェーダっつー本で読んでだな。番外地の酔っ払い共で試しまくったら実際効果があるっぽいので常備している」
酷い医者である。
「旅人故の国外知識か。こっちは生まれてこの方イ・ラプセルだ。お陰で清潔な水には困らない。傷の化膿が起こりにくいので、最悪切ってキジンにすればいいし」
酷い医者達である。
そんな医者達の元に運び込まれる酔っ払いがまた一人――
酒宴と言えば芸である。場を盛り上げ、良質の芸は宴を華やかにしていく。
「モニカも一緒に踊るわよっ!」
そしてモニカ・シンクレア(CL3000504)も盛り上げに一役買っていた。こういった宴は歌って踊って演奏もできる魔法少女のモニカの独壇場ともいえる。露出多めの衣装を着たヨウセイは、背中の羽根で部隊を彩りながら陽気に舞っていた。
「ふぅ……あ、アミナ!」
踊り終わり、舞台裏で汗をかくモニカ。同じように休んでいるアミナを見つけて声をかける。同じダンサーとして興味津々の顔でモニカは近づいていく。色々話をした後、ふと気になっていたことを問いかけた。
「アミナって女傑部族の出身よね……男性は普段どうしてるの?」
「ピンときたら床ドン? あーし、まだしたことないけど」
実力主義の女傑部族ならではである。
(女性ばかりの部族だからって、そういう嗜好というわけでもないみたい。でももしかしたら女性同士でも?)
思いながらアミナを見るモニカ。健康的な褐色の肌。全身鍛えられた張りのある肌。無邪気な笑顔。モニカの百合よりな嗜好が刺激されるが、いまはそういう空気じゃない。頬を叩いて気合を入れなおす。
「んー。休憩終わり! 決戦の勝利の為にも、景気付けに盛り上げるわよっ!」
「おー。アゲアゲでいくよー!」
言ってモニカとアミナは二人で部隊に上がり、踊りだす。
●
「ビール! ビール! ビール!」
「アンネリーザは飲ませ上手だね」
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)とマグノリア・ホワイト(CL3000242)はハイペースでビールを飲んでいた。ガンガン飲むアンネリーザにマグノリアが付き合っている感じだ。
「樽が空になるまで呑むわよ!」
がん、とジョッキをテーブルに叩きつけるようにアンネリーザが置き、おかわりを要求する。その間に料理をつまんで、ビールがやってきたら口にする。ホップの苦みと料理が混ざり合い、絡み合ってアンネリーザを刺激する。
「本当に空にできそうなのがすごいね。僕も手伝えるかな」
自分のペースを崩すことなくマグノリアはビールを口にする。食べて飲んでのアンネリーザを見ながら微笑み、それを楽しむようにビールを口にする。使いってかなりの量を飲んでいるはずなのに、普段と変わった様子はない。
「快気祝いだからどんどん飲んでほしいね」
「ふふ、そんなに心配してくれなくても大丈夫なのに。でも、ありがとう。心配してくれる人が居るのは幸せな事よね」
「どういたしまして」
酒の速度はどんどん増し、それにつれて会話は変わっていく。
「マグノリアは先の事を考えていて偉いわね……私は今、目の前の事で精一杯だわ」
「僕もそこまで先のことを考えているわけじゃないけどね」
「私よりは考えてるわ。未来なんて分からないのが当たり前。その時に正しいと思う事をするだけよ」
「アンネリーザならできるよ。今までそうしてきたように」
「ありがと。ビールもういっぱーい!」
酒豪たちの宴は、まだまだ終わらない。
「労いのお酒に感謝のお酒。いいですね!」
「集団で物事をなす以上、他者への感謝を忘れるべからず。では、乾杯!」
コジマ・キスケ(CL3000206)とユリカ・マイ(CL3000516)は言ってグラスを重ねてビールを飲む。のどを通るたんさんの感覚とホップの苦みが体を刺激した。胃に入ったと同時にアルコールが体内を駆け巡る感覚が広がり、体が熱くなっていく。
「はふぅ……さすがXXXですね。あ、お料理持ってきますね。コジマさんのご希望はありますか?」
「あぁ、お願いできます? では、腸詰と……あれば豆料理を」
わかりました、と言って席を立つユリカの背中をみるコジマ。はきはきとした動き様から、心の底からこの宴を楽しんでいるのが伝わってくる。
(ユリさんは相変わらずかてーっすね。いい状勢が続けば、こういう席だって何度もありますさ)
逆に言えば敗戦濃厚となれば切り捨てられるかも、と思いながらビールを飲む。ユリカが料理をもってきて、本格的に飲みが始まる。
「騎士としてはやはりあまり乱れず節度を保ち、しかし笑顔と愉悦には共に浸りたい。等というのは我儘な贅沢でしょうか」
「いいんじゃないですか。こういう席ですし」
「そうですね。それでは!」
コジマの言葉に背中推されるようにユリカはジョッキを口にする。小麦色の液体が体内に染み入り、気分を高めていく。
(良き席、良きお酒、良き肴、そして良き友――お祝いの雰囲気とも相俟って、一生の思い出になるかもしれません)
(……これの経費分、配給削られたりしねーだろうな)
理想主義のユリカと現実主義のコジマ。同期の桜の二人で互いに友愛を感じる二人だが、その在り方は大きく異なっていた。
●
ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は静かに思う。
この世は不条理に満ちている。それは探偵という職業だからこそ見えるのかもしれないが、それでも多くの不条理を見てしまう。
エドワード王の政策によりイ・ラプセルでは奴隷制度撤廃と亜人平等が謳われたが、それでも差別は生まれる。生まれ、経済、性別……他人から見れば無意味と思われることから、人は悩み、苦しみ、そして法を犯そうとする。そういったことを多く見てきた。
尽きることのない差別と不条理。人が人の心をもつ限り、尽きることのない永遠の問題。どれだけ無くそうと尽力しても、すぐに同じような事件は起きる。
探偵はそういった仕事から目を背ける事はない。それが仕事だからだ。だが、心が摩耗する事は止められない。
だからこそ、酒を飲むのだ。不平不満を喉から出さないように。行き場の無い感情を、酒で洗い流す為に――
「だがまあ、皆で飲むビールも悪くない」
喧騒を静かに見ながら、ルークは呟き微笑んだ。
ビール――大麦の麦芽をアルコール発酵させることでできる酒である。麦が発芽する際にに甘味(現代知識でいえばの種子内のデンプンが糖化したもの)が生まれ、これが麦ジュースの味の元となる。
また発酵に使用される酵母と温度などの違いによりフルーティ味わいのエールや、すっきりとした味のラガーに分かれる。冷蔵技術が未発達なこの時代、低温醸造のラガーはあまり作られず常温保存可能なエールが一般的であり、ビール=エールであった。
なお本リプレイでは色々面倒なので全部ビール表記とします。はい前書き終わり。それでは――
●
「かんぱーい!」
ラメッシュ・K・ジェイン(CL3000120)の音頭と共にグラスが掲げられる。カン、と音が響いてから一斉にビールに口を付ける。
「まず宴の主旨に則り自由騎士団への協力者らに感謝を」
皆が飲み始める中、朗々と謝辞を述べるランスロット・カースン(CL3000391)。
「我々が緒戦にて勝利を収められたのは偏に諸兄の協力によるもの、感謝とイ・ラプセルへの忠誠を称賛して料理とビールを用意した――」
だがランスロットの言葉を聞いている者は誰もいなかった。皆、ビールと料理の味に酔いしれている。それに気づいて、キリのいい所で言葉を止めた。
「ランス先輩」
そんなランスロットに声をかけるアリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)。若く見えるが成人しており、ビール片手にランスロットに話しかけてくる。呼び方からも分かるように自由騎士の先輩後輩関係だ。
「アリスタルフか。色々大変だったようだな」
「……うう。いえ、いいです。無事に帰れましたし」
同情するようなランスロットの言葉に、胃が痛くなるアリスタルフ。貞操の危機だったことは忘れたい。
「先輩は先日の大聖堂制圧任務でも活躍されたと聞きました。おめでとうございます。勲章が増える日も近いですね」
「俺一人の功績ではない。あの場に居た皆の、いや、積み重ねてきた全員での勝利だ」
アリスタルフの言葉にいつも無表情なランスロットの顔に小さく笑みが浮かぶ。誇らしげな笑みだ。
「シャンバラとの決戦が迫っている。だがこれまで同様、己の為すべきを為すのみだ」
ランスロットの言葉にアリスタルフは強く頷き、ビールを口にした。
「こいつはいい酒じゃないか」
アン・J・ハインケル(CL3000015)はビールを口にして笑みを浮かべる。裏路地で出される酒場の酒とはわけが違う。一口飲んだ瞬間に口に広がる味がガツンとくる。そんなビールだ。
「折角の機会だ。派手な戦の前の景気づけに、派手に飲むとしようじゃないか。
おう、そこのシケたツラした熊公! あんたも飲みな!」
「飲んでるぞ。しかしまあ、肉もうまいが魚もいいな」
アンに肩を叩かれ、ジョッキを傾けるウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)。
「しかしそんな顔してたか? いつも通りの熊の顔だぞ」
「してたね。また難しいこと考えてたんだろう?」
アンに指摘されて、無言で酒に口をつけるウェルス。無言で肯定することになったが、アンもそれ以上は追及してこなかった。
(ノウブルに混じって亜人が酒を飲む……。もう慣れちまったが、他の国だと異常だよな、こいつは)
ノウブルが亜人を支配する。イ・ラプセル以外ではそれが普通のスタイルだ。シャンバラはまだ魔女狩りという形で亜人でもまともな生活が出来る可能性があった。だが他の国は――いかん、飲み過ぎた。気を紛らそう。
「よぉ、飲んでるか?」
「うむ、頂いているよ。実に美味い」
ウェルスに声をかけられたウィルフリード・サントス(CL3000423)は口に泡を付けて応える。
「ウィートバーリィライの時にも思ったが、この国のビールは本当に質がいいな。
麦と水、この2つが素晴らしい質だからこそ、この味が出るのだろうな」
「おう。通商連でもいい取引がされてるみたいだぜ」
ビールの味に感激するウィルフリードに頷くウェルス。高評価を受けていることを知って、ウィルフリードはお替りを要求する。
「チーズとビール。この組み合わせがまたたまらない。トマトと組み合わせるとさらに味が際立つ!
うむ、不純かもしれないがこの素晴らしいビールのために戦争も頑張るとしようか!」
「いいんじゃない? 戦う理由なんてそんなものよ」
ウィルフリードの言葉に頷くエルシー・スカーレット(CL3000368)。大義や正義だけで戦う人もいる。復讐や克己心だけで武器を持つ人もいる。美味しい料理や我が家の為に戦う人がいてもいいのだ。
「色々まわっていたみたいだが、何をしていたのかな?」
「あいさつ回りよ。色々お世話になった人の」
ウィルフリードの言葉に応えるエルシー。橋頭堡や聖霊門や馬房など、お世話になった人は多い。そういった人達に挨拶していた。コネを得たいと言う気持ちもあったが、感謝を得たい気持ちももちろんある。
「孤児院出だからね。こういう機会に人脈を広げておきたいのよ。後ろ盾って重要よ」
「君はこの国最高峰ともいえるエドワード王とのコネがあるんだがなぁ」
「そ、それはそれよ。人脈が多いに越したことはないわ。
あ、こっちのテーブルに魚料理の追加おねがい~」
「飲んでおるな。良いつまみがあるが、どうかね」
エルシーのテーブルに近づくテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)。
「薄くスライスした豚肉の燻製だ。コショウをまぶしてあるのでビールによく合うぞ」
「ホントっ……なにこれ!? ビールが進むわ!」
テオドールが持ってきたつまみを食べて驚くエルシー。その様子を見てうんうんと頷くテオドール。作ってもらったかいがあった。
「確かにここで顔を繋いでおくのも悪くないな。私も冶金関係者との繋がりを深めないと」
「? なんで冶金なの?」
「実は婚約者の親が冶金会社を経営していて。その関係での予防線を敷いておきたいのだよ」
「婚約者!?」
テオドールの言葉に思わず叫ぶエルシー。婚約者が社長令嬢とか流石貴族、と驚いていた。
「それでどんな人なの、その婚約者」
「実はまだ成人していなく――」
酒の消費速度と場のムードは、少しずつ上がっていく。
●
宴の最中、その裏側でせっせと働く者がいる。
「…………」
兜をかぶり会場を警備するアデル・ハビッツ(CL3000496)だ。特に武器など持っているわけでもなく、大声をあげるでもない。ただ無言で宴会場を見て立っている。ただそれだけだ。勿論、問題があれば動くがそうでなければ不動を貫いていた。
(なにもなければ、それでいい。折角の祭りだ。怪我人が出ないに越したことはない)
兜を外すことなく、ただ会場を見る。それだけで酔って暴れようとする者の威圧になる。そういったやからの牽制になるのなら、それでいい。アデルは静かに頷き、会場の警備を続ける。
そんなアデルに声がかけられる。
「お疲れ様です。お食事とお酒はいりますか?」
「生憎というか丁度というか、俺は酒を飲めないからな。祭りが終わった後に何か持ってきてくれないか」
「分かりました。では頑張ってくださいね」
声をかけたフーリィン・アルカナム(CL3000403)は一礼して厨房に向かう。バスケットの中には大量の鶏肉や野菜類。慣れた手つきでそれを並べ、包丁を手にする。孤児院で厨房に立つこともあって、大勢に料理をふるまう事は慣れている。
「さて、それじゃあ――」
頭の中で作業ルーチンを考えるフーリィン。鶏肉に味をしみこませている間にポテトを切り、煮込む時間と並行してサラダを用意する。休むことなく動き続け、料理を仕上げていく。
「鶏のから揚げに塩茹で豆とミモザサラダです」
「まあ、お見事ですわアルカナム様」
「孤児院には子供達が多いんでこういう料理は作り慣れているんです」
「わたくしもがんばらなくレはいけませんわね」
フーリィンの料理を見て気合を入れるレベッカ・エルナンデス(CL3000341)。貴族の嗜みとして……というよりはいい花嫁になるようにと教えられた料理。その努力を見せる時が来た。
「仕込みは十分。あとはソースを用意して……」
前もってお酒に浸しておいた魚に小麦粉をまぶして火を通す。その間に小麦粉とパプリカを刻む。魚に色がついたら皿に盛り、秘伝のソースを乗せてやる。魚の香ばしい香りとソースの香りが絡み合い、食欲を一層引き立てる。
「特製ムニエルですわ。冷めないうちにお召し上がりください」
「流石レベッカさん。わたしは魚をさばくなんてとてもできません」
「ご両親の食堂でお手伝いはしないんですか?」
「家の方は運ぶ専門なので」
サラ・ケーヒル(CL3000348)は言って苦笑する。両親が営んでいる食堂は結構繁盛しているが、サラはまだ厨房に立ったことが無い。簡単な料理ならできるが、魚をさばいたりなどはとてもできない。
「そうですね。でもこれぐらいなら」
開いているかまどの前に立ち、肉を用意するサラ。火は強ければいいのではない。肉に応じて適した温度で適した時間だけ焼く。肉汁を逃さず、しかし焼き洩らしのないように。しっかり焼き上げる。
「出来ました。お料理お願いしまーす!」
「任せとき、10番テーブルもっていくで!」
サラの料理を手にしてアリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)は元気よく答える。アマノホカリのなまりを含んだ特徴的な返事だが、周りの者もアリシア自身もそれをきにしている様子はない。
「はー。大変ですね。……でもこの服は?」
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はビールジョッキをもちながら、着ている服を見る。厨房で働いていたのだが、給仕が足りないという事で急遽こちらに回されたのだ。胸元が大きめのエプロンドレス。ぴっちりとしているのは服で何かを引っかけないためだ。けしてボディラインを浮き彫りにする目的ではない。ないったらない。
「次こっちやね。注文? ちょい待ったってな」
「今聞きますね。ビールお替り六人分ですね。分かりました」
「おっちゃんたちのみすぎやで! ビールやのうて麦ジュースにしときや!」
アリシアとサラはひっきりなしに動き回る。キジン化した足で宴会場を走り回り、ウサギの耳で注文を聞く。酔っぱらって騒がしくなる会場の中でも、アリシアとサラは互いの特性を生かしあって、潤滑に注文をこなしていた。
「はーい。5番テーブル料理お待ちかねー」
「もう、おさわり厳禁ですよっ」
裏方の活躍もあって、宴は盛り上がっていく。
●
麦が発芽する際に生まれる甘味。これらは麦芽が成長する際のエネルギーとなる。小さな一粒だがかなりの糖があり、これをそのまま水で薄めた者が麦ジュースのベーシックとなる。他にも牛乳や果汁などを用いるものもあり、ひとえに麦ジュースと行っても様々だ。
今回のものは麦と水のみの物だが、樽から直で出されるため劣化が少なく、透き通った味わいと甘味が同意していた。
「これが麦ジュースか。おいしいー!」
「未成年の私達でも、安心して飲めますね!」
篁・三十三(CL3000014)とたまき 聖流(CL3000283)は麦ジュースを飲んで笑顔を浮かべる。二人とも麦ジュースは初めてでおっかなびっくりだったが、一口飲んでその美味しさに感激していた。
「これがさいこーきゅーかー。さいこーきゅーいいなー!」
耳をぱたぱたと振るわせながら三十三は麦ジュースを飲む。別段最高級がどういいかは解っていないが、その場のノリとジュースの美味しさが口を動かしていた。持ってきたポテトのフライとの相性もよく、のどを潤していく。
「ふふ。三十三さんたら。元気がいいですね」
はしゃぎまわる三十三を見て、たまきが笑みを浮かべる。弟がいればこんな感じなのだろうかと思いながら、感情のままに動く三十三の耳に手を伸ばす。最初はゆっくりだったが、三十三が拒否していない事を確認して優しく触れる。
「わひゃぁぁ……たまきさん?」
「ふふふ」
三十三が見せる反応を楽しむようにたまきは手を動かす。最初は耳の毛を梳くようにしていたが、その内頭全体を優しくなでるような動きに変わっていく。その度に赤面していく三十三。
「ほわ……酔ったかもしれません……」
「え!? お酒飲んでないよね? 場の空気に酔った?」
「マスター、もう一杯! なのれす……! お料理もー!」
「たたた、たまきさん!ちょっと飲みすぎな気が……! ジュースなんだけど!」
場の空気にほだされて、二人の温度も上がっていく。
「お肉料理! チーズ! お魚!」
お皿の上に料理をたくさん乗せてリサ・スターリング(CL3000343)は元気よく麦ジュースを飲む。名目はお世話になっている人への感謝だが、自分達が楽しんではいけない理由はない。
「麦ジュースって甘くておいしー! べ物の間に飲んだら口の中がすっきりしてどんどん食べられちゃう!」
肉、ジュース、魚、ジュース、チーズ、ジュース……食べる合間にジュースを飲んで、すっきりさせてから次の料理に移る。早食いにして大食い。早く食べないといろんな料理が食べれない。今日は限界まで食べるつもりだ。ただし野菜は除いて。
「次はこっちのお肉ー!」
「そのにくは何もかけずに食べるとおいしいんだぞ!」
「そうなんだ。それじゃあ、たくさん食べるぞー」
「サシャも食べるんだぞ!」
木製のトングを使って肉をつまむサシャ・プニコフ(CL3000122)。まだ十一歳のサシャはビールを飲むことはできないが、その分たくさん食べる気でいた。酒よりもにく。サシャの目には肉しか映ってなかった。
「お酒にあわせてつくられたにく料理はうまいんだぞ! ご飯のおにくもおいしいけど、おつまみのおにくもうまいぞ!」
言いながらサシャはいろんな肉料理をつまんでいく。牛、豚、羊、馬、猪、兎……焼き方も強火から弱火と様々だ。味付けも塩やコショウを始めとした様々な香辛料。スモークされた物やシチューで似られた物。そんな肉も見逃さない。
「このにく1枚で他のおにくが何杯でもいけるぞ!」
「おにくおいしい?」
「当然なのだ! おにくは最高のおにくなのだ!」
「さいこうのおにく」
無表情にサシャに言葉を返すリムリィ・アルカナム(CL3000500)。意味はあまり分からないが、肉が美味しいという事は十分に伝わってきた。だったらという事でリムリィも肉を口に運んで、咀嚼する。
「おいしい。おまつり、たのしい」
感動をまるで感じない無表情無感情な物言いだが、リムリィを知る者が見れば楽しんでいることが分かる。黙々と麦ジュースと料理を口に運んでいるように見えて、心の中では皆が楽しんでいる様子を楽しんで見て……知り合いの肩を掴んだ。
「おさけのんじゃだめ」
「……えっ? ダメ? なんで? 16だよ? 大人じゃん? 13で成人式済ませたよ? こっちじゃ違う?」
「こどもがおさけをのんだらせいちょうがとまる。おねえちゃんがいってた」
「ちくしょー!」
ビールを飲もうとして断られたナバル・ジーロン(CL3000441).リムリィに言われ、愕然と膝をつく。田舎での成人式――働き手として認められる儀式かと思われる――と正式な成人は違うのだ。諦めたように麦ジュースを手にする。
「おいアミナ、聞いたかよ。都会じゃお酒は20歳までダメらしいぜ? お前んとこはどうだった?」
ナバルは踊っていたアミナを捕まえて問いかけた。
「あーしの所はお酒が無かったよ」
「それもすごいよな。でも1人で働けるようになったら、もう大人でいいじゃんよなぁ。
いいよいいよ。こっちはこっちで楽しむから! おいアミナ! お前も付き合え! 一緒に麦ジュース飲め!!」
「いえあ! ナバルちんパリピ!」
カコン、とグラスを重ねてナバルとアミナは麦ジュースを飲み干した。
●
パーティの裏方と行っても様々で、酔っぱらったものを介抱するのもその一つだ。
「水を飲ませて毛布で包め。暴れそうなら手足を縛っておけ」
「お前はそういう所が容赦ないなぁ」
非時香・ツボミ(CL3000086)はサイラスの手際を見ながら、そんな感想を抱いた。治療自体に間違いはないが、暴れる可能性がありそうなら先に押さえる過激さ。
「下手に暴れられて、怪我人を増やされてはかなわんからな」
「まあ私も似たような感じだが。オラ飲め酔っ払い共! 飲まぬならねじ込むぞ!」
酔っ払いに配合した薬をねじ込ませながらツボミが答える。
「生薬か?」
「古典的だが糖蜜と、臓腑の働きを助ける鬱金の生薬。後は塩を少し入れた水だ。
アーユルヴェーダっつー本で読んでだな。番外地の酔っ払い共で試しまくったら実際効果があるっぽいので常備している」
酷い医者である。
「旅人故の国外知識か。こっちは生まれてこの方イ・ラプセルだ。お陰で清潔な水には困らない。傷の化膿が起こりにくいので、最悪切ってキジンにすればいいし」
酷い医者達である。
そんな医者達の元に運び込まれる酔っ払いがまた一人――
酒宴と言えば芸である。場を盛り上げ、良質の芸は宴を華やかにしていく。
「モニカも一緒に踊るわよっ!」
そしてモニカ・シンクレア(CL3000504)も盛り上げに一役買っていた。こういった宴は歌って踊って演奏もできる魔法少女のモニカの独壇場ともいえる。露出多めの衣装を着たヨウセイは、背中の羽根で部隊を彩りながら陽気に舞っていた。
「ふぅ……あ、アミナ!」
踊り終わり、舞台裏で汗をかくモニカ。同じように休んでいるアミナを見つけて声をかける。同じダンサーとして興味津々の顔でモニカは近づいていく。色々話をした後、ふと気になっていたことを問いかけた。
「アミナって女傑部族の出身よね……男性は普段どうしてるの?」
「ピンときたら床ドン? あーし、まだしたことないけど」
実力主義の女傑部族ならではである。
(女性ばかりの部族だからって、そういう嗜好というわけでもないみたい。でももしかしたら女性同士でも?)
思いながらアミナを見るモニカ。健康的な褐色の肌。全身鍛えられた張りのある肌。無邪気な笑顔。モニカの百合よりな嗜好が刺激されるが、いまはそういう空気じゃない。頬を叩いて気合を入れなおす。
「んー。休憩終わり! 決戦の勝利の為にも、景気付けに盛り上げるわよっ!」
「おー。アゲアゲでいくよー!」
言ってモニカとアミナは二人で部隊に上がり、踊りだす。
●
「ビール! ビール! ビール!」
「アンネリーザは飲ませ上手だね」
アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)とマグノリア・ホワイト(CL3000242)はハイペースでビールを飲んでいた。ガンガン飲むアンネリーザにマグノリアが付き合っている感じだ。
「樽が空になるまで呑むわよ!」
がん、とジョッキをテーブルに叩きつけるようにアンネリーザが置き、おかわりを要求する。その間に料理をつまんで、ビールがやってきたら口にする。ホップの苦みと料理が混ざり合い、絡み合ってアンネリーザを刺激する。
「本当に空にできそうなのがすごいね。僕も手伝えるかな」
自分のペースを崩すことなくマグノリアはビールを口にする。食べて飲んでのアンネリーザを見ながら微笑み、それを楽しむようにビールを口にする。使いってかなりの量を飲んでいるはずなのに、普段と変わった様子はない。
「快気祝いだからどんどん飲んでほしいね」
「ふふ、そんなに心配してくれなくても大丈夫なのに。でも、ありがとう。心配してくれる人が居るのは幸せな事よね」
「どういたしまして」
酒の速度はどんどん増し、それにつれて会話は変わっていく。
「マグノリアは先の事を考えていて偉いわね……私は今、目の前の事で精一杯だわ」
「僕もそこまで先のことを考えているわけじゃないけどね」
「私よりは考えてるわ。未来なんて分からないのが当たり前。その時に正しいと思う事をするだけよ」
「アンネリーザならできるよ。今までそうしてきたように」
「ありがと。ビールもういっぱーい!」
酒豪たちの宴は、まだまだ終わらない。
「労いのお酒に感謝のお酒。いいですね!」
「集団で物事をなす以上、他者への感謝を忘れるべからず。では、乾杯!」
コジマ・キスケ(CL3000206)とユリカ・マイ(CL3000516)は言ってグラスを重ねてビールを飲む。のどを通るたんさんの感覚とホップの苦みが体を刺激した。胃に入ったと同時にアルコールが体内を駆け巡る感覚が広がり、体が熱くなっていく。
「はふぅ……さすがXXXですね。あ、お料理持ってきますね。コジマさんのご希望はありますか?」
「あぁ、お願いできます? では、腸詰と……あれば豆料理を」
わかりました、と言って席を立つユリカの背中をみるコジマ。はきはきとした動き様から、心の底からこの宴を楽しんでいるのが伝わってくる。
(ユリさんは相変わらずかてーっすね。いい状勢が続けば、こういう席だって何度もありますさ)
逆に言えば敗戦濃厚となれば切り捨てられるかも、と思いながらビールを飲む。ユリカが料理をもってきて、本格的に飲みが始まる。
「騎士としてはやはりあまり乱れず節度を保ち、しかし笑顔と愉悦には共に浸りたい。等というのは我儘な贅沢でしょうか」
「いいんじゃないですか。こういう席ですし」
「そうですね。それでは!」
コジマの言葉に背中推されるようにユリカはジョッキを口にする。小麦色の液体が体内に染み入り、気分を高めていく。
(良き席、良きお酒、良き肴、そして良き友――お祝いの雰囲気とも相俟って、一生の思い出になるかもしれません)
(……これの経費分、配給削られたりしねーだろうな)
理想主義のユリカと現実主義のコジマ。同期の桜の二人で互いに友愛を感じる二人だが、その在り方は大きく異なっていた。
●
ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は静かに思う。
この世は不条理に満ちている。それは探偵という職業だからこそ見えるのかもしれないが、それでも多くの不条理を見てしまう。
エドワード王の政策によりイ・ラプセルでは奴隷制度撤廃と亜人平等が謳われたが、それでも差別は生まれる。生まれ、経済、性別……他人から見れば無意味と思われることから、人は悩み、苦しみ、そして法を犯そうとする。そういったことを多く見てきた。
尽きることのない差別と不条理。人が人の心をもつ限り、尽きることのない永遠の問題。どれだけ無くそうと尽力しても、すぐに同じような事件は起きる。
探偵はそういった仕事から目を背ける事はない。それが仕事だからだ。だが、心が摩耗する事は止められない。
だからこそ、酒を飲むのだ。不平不満を喉から出さないように。行き場の無い感情を、酒で洗い流す為に――
「だがまあ、皆で飲むビールも悪くない」
喧騒を静かに見ながら、ルークは呟き微笑んだ。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『スノウメルト』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
というわけでビールです。
決戦前の景気づけになれば。
MVPは企画提案して頂いたベルヴァルド様に。
決戦前の景気づけになれば。
MVPは企画提案して頂いたベルヴァルド様に。
FL送付済