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Inosisi!? 害獣退治と脂油回収!

●とある村を襲うイブリース
夜中に響き渡る轟音。それが何なのか、村人たちは知っている。畑を荒らす獣の蹂躙だ。
収穫を終えた畑。刈り取った麦の匂いに惹かれてやってきた獣達。しかし麦はもうなく、獣達は食物を求めて畑を掘り返す。何度も何度も何度も何度も――
そして夜が明け、畑はその原型を残さないほどに荒らされていた。台風が来てもこれほどの被害はないだろう。徹底的に土砂を掘り返し、何もないので空腹を満たすために近くの木を折って食らう。夜が来るたびに村は荒れ続けていた。
柵を立てても壊され、対抗しようにも村人にはそれだけの武力がない。手を出さなければ人を襲うことはないとはいえ、このまま放置するわけにもいかなかった。
そして騎士団に出される嘆願書。承諾されたそれを、一人のケモノビトが拝見した。彼女の名は――
●発明は試行錯誤の繰り返し
イ・ラプセルに設立された蒸気技術研究会『クロックワークタワー』。
設立開始と同時に蒸気技師を育てると同時に、既存の蒸気機関を発達させていく計画を並行して進めていた。
無論、一長一短で爆発的な改革ができるはずもない。『蒸気王』のような天才でもなければ、技術のブレイクスルーは不可能だ。だが、今あるモノに何かをプラスすることはそう難しくない。一つずつ積み重ねること。失敗しても次の取っ掛かりを得ること。それが大事なのだ。
今とり行われているのは、効率よく木を伐採する為の器具を作り出すことである。蒸気機関の燃料は石炭だが、その機械を作る鉄は木を燃やして作るのだ。エネルギー源が木炭から石炭に移行しても、材木量は重要な国の財源にもなっている。それを効率よく集めることは国家発達の重要事項なのだ。
しかし腕のいい木こりなどすぐにはできやしない。ならば道具を改良することでスピードアップと効率化を図ろうと言う事である。最初は斧を自動で振るコマのような機械から、回転するものを斧ではなく細かな刃に切り替えて――
「そうか! 刃を鎖(チェーン)につけて鋸(ソー)にすればいいんだ!」
回転する細かな刃を木に押し当て、鎖を回転させて刻んでいく。押し当てることで木を切っていく蒸気式回転刃伐採機。最初は回転用蒸気機械や刃のつけ方などで試行錯誤を繰り返していたが、ようやく形になりつつある。
しかし、技術者の努力だけではどうにもならない問題が発生した。原因は解っているのだが、それを自分達では解決できないのだ。それは――
●自由騎士
「刃付きの鎖を回転させるための潤滑油。これが不足してるんです」
『発明家』佐クラ・クラン・ヒラガ(nCL3000008)は集められた自由騎士を前に説明を開始する。
潤滑油。歯車などに刺して摩擦を緩和したり錆止めしたりと、機械を扱うなら基礎中の基礎知識である。用途に応じて動植物や鉱物などから精製され、一般的には菜種油や豚などから得られるラード、天然アスファルトから抽出される鉱油等だ。
このうち菜種油はランタンなどの照明器具に使用されるため、イ・ラプセル――というよりはこの時代の工業では――鉱油とラードを混ぜたものを使用するのが一般的であった。以上、スチパンうんちくおしまい。
「そこでラード集めと治安維持も含めて、あんたはんらんにはこちらのイブリース討伐をお願いしたく」
ヒラガが広げた紙には、イ・ラプセル西部の地図と木炭で書かれた絵があった。剛毛が生えた四足歩行の動物だ。イブリース化していて人の倍ほどに巨大化しているが、元の動物が何なのかは一目でわかった。
「イノシシ?」
猪。偶蹄目の獣で、その小さい体に似合わない突進力を持つ。獰猛な外見から勘違いされがちだが主食は植物で、穀物を荒らすこともある。
「はい。イブリース化する前は村の狩人達で対処できたのですが、イブリース化してからは狂暴性と食性が増して手が付けられへんようで、騎士団に討伐依頼が出たんです。で、折角なので一枚かませてもらいましょうということですわ」
つまり、イブリース退治とそのイノシシから採れるラード回収を兼ねるということか。
どうあれイブリースは放置できない。自由騎士達は武器を持ち、目的地に向かうのであった。
夜中に響き渡る轟音。それが何なのか、村人たちは知っている。畑を荒らす獣の蹂躙だ。
収穫を終えた畑。刈り取った麦の匂いに惹かれてやってきた獣達。しかし麦はもうなく、獣達は食物を求めて畑を掘り返す。何度も何度も何度も何度も――
そして夜が明け、畑はその原型を残さないほどに荒らされていた。台風が来てもこれほどの被害はないだろう。徹底的に土砂を掘り返し、何もないので空腹を満たすために近くの木を折って食らう。夜が来るたびに村は荒れ続けていた。
柵を立てても壊され、対抗しようにも村人にはそれだけの武力がない。手を出さなければ人を襲うことはないとはいえ、このまま放置するわけにもいかなかった。
そして騎士団に出される嘆願書。承諾されたそれを、一人のケモノビトが拝見した。彼女の名は――
●発明は試行錯誤の繰り返し
イ・ラプセルに設立された蒸気技術研究会『クロックワークタワー』。
設立開始と同時に蒸気技師を育てると同時に、既存の蒸気機関を発達させていく計画を並行して進めていた。
無論、一長一短で爆発的な改革ができるはずもない。『蒸気王』のような天才でもなければ、技術のブレイクスルーは不可能だ。だが、今あるモノに何かをプラスすることはそう難しくない。一つずつ積み重ねること。失敗しても次の取っ掛かりを得ること。それが大事なのだ。
今とり行われているのは、効率よく木を伐採する為の器具を作り出すことである。蒸気機関の燃料は石炭だが、その機械を作る鉄は木を燃やして作るのだ。エネルギー源が木炭から石炭に移行しても、材木量は重要な国の財源にもなっている。それを効率よく集めることは国家発達の重要事項なのだ。
しかし腕のいい木こりなどすぐにはできやしない。ならば道具を改良することでスピードアップと効率化を図ろうと言う事である。最初は斧を自動で振るコマのような機械から、回転するものを斧ではなく細かな刃に切り替えて――
「そうか! 刃を鎖(チェーン)につけて鋸(ソー)にすればいいんだ!」
回転する細かな刃を木に押し当て、鎖を回転させて刻んでいく。押し当てることで木を切っていく蒸気式回転刃伐採機。最初は回転用蒸気機械や刃のつけ方などで試行錯誤を繰り返していたが、ようやく形になりつつある。
しかし、技術者の努力だけではどうにもならない問題が発生した。原因は解っているのだが、それを自分達では解決できないのだ。それは――
●自由騎士
「刃付きの鎖を回転させるための潤滑油。これが不足してるんです」
『発明家』佐クラ・クラン・ヒラガ(nCL3000008)は集められた自由騎士を前に説明を開始する。
潤滑油。歯車などに刺して摩擦を緩和したり錆止めしたりと、機械を扱うなら基礎中の基礎知識である。用途に応じて動植物や鉱物などから精製され、一般的には菜種油や豚などから得られるラード、天然アスファルトから抽出される鉱油等だ。
このうち菜種油はランタンなどの照明器具に使用されるため、イ・ラプセル――というよりはこの時代の工業では――鉱油とラードを混ぜたものを使用するのが一般的であった。以上、スチパンうんちくおしまい。
「そこでラード集めと治安維持も含めて、あんたはんらんにはこちらのイブリース討伐をお願いしたく」
ヒラガが広げた紙には、イ・ラプセル西部の地図と木炭で書かれた絵があった。剛毛が生えた四足歩行の動物だ。イブリース化していて人の倍ほどに巨大化しているが、元の動物が何なのかは一目でわかった。
「イノシシ?」
猪。偶蹄目の獣で、その小さい体に似合わない突進力を持つ。獰猛な外見から勘違いされがちだが主食は植物で、穀物を荒らすこともある。
「はい。イブリース化する前は村の狩人達で対処できたのですが、イブリース化してからは狂暴性と食性が増して手が付けられへんようで、騎士団に討伐依頼が出たんです。で、折角なので一枚かませてもらいましょうということですわ」
つまり、イブリース退治とそのイノシシから採れるラード回収を兼ねるということか。
どうあれイブリースは放置できない。自由騎士達は武器を持ち、目的地に向かうのであった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリース3体の退治
どくどくです。
折角なので猪討伐。何が折角なのかはお察しを。
●敵情報
・イノシシ(×3)
畑を荒らすイノシシです。イブリース化して3mほどに巨大化しています。
その巨体を維持するために森やら畑やらを荒らして、被害は大きいです。周辺に住む農家から、早く倒してくれと期待されています。イブリース化する以前から害獣として問題視されていた模様。
動物交流を使えば会話はできますが、説得とかはほぼ無理です。食わなきゃ死ぬんだからね。
倒した後はヒラガが処理します。ラードさえ取れればいいので、余ったお肉を食べることもできます。
攻撃方法
牙 攻近単 鋭い牙で突きあげてきます。【二連】
突撃 攻近貫2 まさに猪突猛進です。【ノックB】(100%、50%)
土砂 攻遠範 牙で土砂を巻き上げます。木の根や石が皮膚を傷つけます。【スクラッチ1】
咆哮 魔遠全 野生の咆哮が耳朶を打ち、動きを止めます。【スロウ2】【ダメージ0】
泥浴 自 のた打ち回るようにしながら自身に泥を塗ります。HP&BS回復効果。
●場所情報
イ・ラプセル西部の村はずれ。収穫後の畑を荒らしに来るイブリースを迎撃する形になります。住民などは避難済みのため、人払いは不要です。
時刻は夜。明かりは村人達が用意してくれます。足場と広さは戦闘に支障ありません。
戦闘開始時、敵前衛に『イノシシ(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。ホムンクルスの作製も可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
折角なので猪討伐。何が折角なのかはお察しを。
●敵情報
・イノシシ(×3)
畑を荒らすイノシシです。イブリース化して3mほどに巨大化しています。
その巨体を維持するために森やら畑やらを荒らして、被害は大きいです。周辺に住む農家から、早く倒してくれと期待されています。イブリース化する以前から害獣として問題視されていた模様。
動物交流を使えば会話はできますが、説得とかはほぼ無理です。食わなきゃ死ぬんだからね。
倒した後はヒラガが処理します。ラードさえ取れればいいので、余ったお肉を食べることもできます。
攻撃方法
牙 攻近単 鋭い牙で突きあげてきます。【二連】
突撃 攻近貫2 まさに猪突猛進です。【ノックB】(100%、50%)
土砂 攻遠範 牙で土砂を巻き上げます。木の根や石が皮膚を傷つけます。【スクラッチ1】
咆哮 魔遠全 野生の咆哮が耳朶を打ち、動きを止めます。【スロウ2】【ダメージ0】
泥浴 自 のた打ち回るようにしながら自身に泥を塗ります。HP&BS回復効果。
●場所情報
イ・ラプセル西部の村はずれ。収穫後の畑を荒らしに来るイブリースを迎撃する形になります。住民などは避難済みのため、人払いは不要です。
時刻は夜。明かりは村人達が用意してくれます。足場と広さは戦闘に支障ありません。
戦闘開始時、敵前衛に『イノシシ(×3)』がいます。
事前付与は一度だけ可能です。ホムンクルスの作製も可能です。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2019年01月15日
2019年01月15日
†メイン参加者 8人†
●
「来たぜ。さすがに目立つな」
屋根の上から『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が仲間に声をかける。村周辺を調査し、イノシシが来るであろうポイントを予測して布陣していたのだ。巨体故に身を隠せないが、巨体故に力強く迫ってくる。
「イノシシが強ければいいんだけどねぇ」
銃を弄りながら『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は愚痴る。強者との戦いを求めるアンにとって、興味の大半がそこに注がれる。ただのイノシシではなく、巨大化したイブリースイノシシ。さてその強さは如何ほどか。
「うりぼーは可愛いんだけどね……」
見上げるようにイノシシを見ながら『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はため息をついた。まるまるしていて愛嬌のあるうり坊。しかしイブリース化すればもはや凶暴でしかない。近づいて撫でようという気すら起きなかった。
「イノシシなんか害獣の代表格じゃない。いい思い出なんかないわ」
言って肩をすくめる『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)。貴族として領地周辺の害獣を駆除して回る狩猟貴族アークライト家だが、イノシシは飽きるほど駆除してきた。柵を立てても突撃して壊すのだから、直接出向くしかないのだ。
「都会の近くでも、農家の悩みは一緒なんだな」
そうだよなぁ、と『新米兵士』ナバル・ジーロン(CL3000441)は頷く。故郷の村でも同じような苦悩があったな、としみじみ思い出す。まあ、ここまで巨大化した個体はお目にかかったことはないのだが。ともあれ騎士として民を守るために頑張るのみだ。
「私の両親も農家を営んでいるので、こういう被害は他人事ではありませんね」
同じく故郷を思い出しながら『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は頷いた。アマノホカリでも同じようにイノシシによる獣害は起こっているようだ。主に狙われるのがイモ類であると、多少の違いはあるのだが。
「でっかいねえ。お肉が沢山取れるかな?」
『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)は言って腰に手を当てる。主目的はイブリース退治でラードの回収だが、余った肉は好きにしていいとのことだ。野生のイノシシがどのような味か。興味は尽きなかった。
「クロックワークタワー』が絡んでいるのであれば、一肌脱がないわけにはいかないわね」
拳を握って気合を入れる『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。蒸気技術研究会の立ち上げに一役買った(買った?)身としては、その活動もできるだけ支えたい。この拳で助けることが出来るなら、遠慮なく振るうつもりだ。
イブリースは道の途中に立ちふさがる自由騎士を見て、足を止める。そして地面を削るように蹴って威嚇した。退かないのなら踏み潰す。その意図は自由騎士にも伝わったはずだ。だが――
「悪いけど倒させてもらうぜ。村の為にな」
作物を荒らす害獣を許すわけにはいかない。それがイブリースなら、自由騎士の仕事だ。女神の権能を示すように、それぞれの自由騎士達は武器を構える。
三度偶蹄で地面を蹴った後にイブリースは鼻息荒く自由騎士達を睨む。。力を溜めるように身をかがめ、吼えるように口を開いて地を蹴った。
自由騎士とイブリース。その意思がぶつかり合う。
●
「ダ、ダニとかまで巨大化してませんよね。してませんよね!?」
間近に迫ったイノシシを前に、アリアが震える。八本足の蜘蛛のような毛深い虫。噛まれればそこから血を吸われ、毒を注がれる。それが自分の太ももに噛みついて……大きく首を振ってその未来を振り払う。――ダニってmiteだよなぁ、とどくどくがメモったのは小さな秘密。
現実に目を向けて、イブリースに立ち向かう。アリアの両腕が振るわれると同時に、それに合わせて二刀が翻る。片刃は真っ直ぐに皮膚を割き、もう片刃は蛇のように伸びて足に絡まりイブリースを傷つけていく。
「さあ、私はここですよ。当てれるものなら当てて見なさい!」
「そっちは任せたわよ、アリア!」
親愛しているパートナーに声をかけ、ヒルダは銃を構える。アリアがやられるという心配はしない。彼女のことはよくわかっているからだ。だから自分はその信頼に応えるのみ。魔力を瞳に集めて命中精度を上げながら、呼吸を整える。
大きく息を吸い、そして吐く。それだけでヒルダは狩猟者の精神にスイッチする。できるかぎりの弾幕をイブリースに叩き込み、その出鼻をくじく。初手は派手に最大限に。戦いのイニシアティブは常に自分が握る。それが大事なのだと理解していた。
「悪いけどその命、いただくわ!」
「俺も負けてられないね! 一気に行くよ!」
瞳をイブリースに向けて、笑みを浮かべるアン。既に魔力強化してある狩人の瞳で敵を射抜き、品定めをするように唇を湿らせる。巨大化して増えた重量。それを支える脚力と、爆発的に駆け出す突撃。野生の獣がさらに狂暴化した暴走獣。
獣の殺気が自分に向いたと同時に、アンは動いていた。手にした銃を両手で構える。足は肩幅まで広げ、腕をわずかに曲げて衝撃を筋肉て受け止めるポーズをとる。銃を撃つ基本の構え。何千何万と繰り返し、自然にできる撃つ動作。放たれた弾丸が獣の眉間を穿つ。
「Jackpot! 真正面からだと狙いやすいね」
「とはいえ、あの突撃は厄介です」
大気のマナを取り入れながらマリアは冷静に戦況を分析する。イブリースの戦法はいたって単純だ。その巨体を生かし、力で押す。無策に見えるが、それが可能な身体能力があるのなら策などいらない。武術や知恵は肉体的に劣る者が生み出した技術だから。
心を落ち着かせるように息を吸うマリア。感情を表に出さないように意識しながら、他内に宿るマナを手のひらに集わせていく。マナは白い光となって顕現し、風に乗って戦場に広がっていく。癒しの魔力が込められた光が涼風となって仲間の傷を癒していく。
「私は回復に専念します。攻撃は任せました」
「オレはそれほど強くないぜ。あまり期待するなよ……!」
ショートスピアとライオットシールドを構え、ナバルは無理やり笑みを浮かべる。戦いは怖い。目の前の攻防を見ながら、恐怖心が沸き上がってくるのは止められない。それでも勇気を振り絞り、一歩前に出る。
隠し持っていたタケノコをイブリースの前に放り投げるナバル。激しい食欲で動いていたイブリースはすぐに反応し、一口で丸呑みしてしまう。そこに生まれた隙を逃すことなくナバルの槍が振るわれ、無防備に晒された瞳を突き刺す。
「害獣イノシシ! お前らも食うために仕方ないんだろうが、オレらも食っていくためだ!」
「吼えるねぇ。こいつは新米呼ばわりは失礼だな」
ナバルの啖呵に自分の顎を撫でるウェルス。ノウブルという種族には不信を持っているが、種族を別にすれば信用できる者もいる。そういう奴らがもっと増えればいいのだが、そうもいかぬが世の中か。
自作の蒸気式狙撃銃を手に亀を取るウェルス。腰を下ろして体を丸め、体全体で衝撃を受け止めるポーズをとる。狙え、目はそれだけでいい。体は銃を支えるだけでいい。指は引き金を引くだけでいい。意識全てを撃つことに集中し、静かに引き金を引いた。
「こんなものか。出力は落ちるが安定性は増すな」
「ああ、いい感じで眠ってるねえ」
ウェルスの射撃で眠りに落ちたイブリースを見ながらゼクスが唸る。殴るか眠気が覚めるまでは動くことはないだろう。それを見て弓の先を別のイブリースに移す。さて、あのイノシシは何本矢を突き刺せば倒れてくれるか。ハリネズミになる前に倒れてくれよ。
体内に取り入れた魔力を指先に集わせ、矢を番える。指先から魔力が矢に伝播し、染み入っていく。放たれた矢は風を割くように飛び、その姿が書き消えた。魔力による幻惑。一瞬の幻だが、それで十分。その一瞬の後に、矢はイブリースに深く突き刺さっていた。
「あんまり暴れると肉に血が回っちゃって味が落ちるって聞くし、急いでお肉になって貰うよう」
「ええ。お互い生き残るためよ。悪く思わないでね」
言ってエルシーは拳を固める。生存競争。イノシシを駆除しなければ人が飢えて死ぬ。自らの命を絶って他者を救えなど、エルシーは言わない。献身は教会の教えにあるが、その為に命を捨てることは認めない。それこそ命への冒涜なのだ。
赤龍の籠手がランタンの光を反射する。その光がイブリースの目を僅かに閉じさせた。その隙を逃すことなくエルシーは踏み込む。裂帛と共に拳を繰り出し、イノシシの鼻頭に叩き込む。もう一撃――と思った瞬間に振り上げられる牙。それを避け、後ろに下がる。
「鼻は弱いみたいだけど……それでも急所ってわけじゃないみたいね」
呼吸を整え、構えなおすエルシー。他の自由騎士も同様に気合を入れなおす。
武器を叩き込み、矢弾を穿ち、魔を放っても止まることのないイブリースの突撃。力任せには違いないが、それは人間の小細工など踏襲するほどのパワーがある。
それでもなお、自由騎士達は退くことはない。それぞれの思いを込めて、強く武器を握りしめる。
野獣との戦いは、少しずつ佳境に向かっていく。
●
イブリースは文字通り猪突猛進に攻めてくる。咆哮で動きを止め、突撃し、牙を突き立て、土砂を飛ばして。
「あいたたたた……! オレ、まだまだ貧弱だな……!」
その猛攻を受けて、ナバルがフラグメンツを削られる。失いそうになる意識を繋ぎとめ、強く武器を握りしめた。
「流石に楽じゃないねぇ。ま、あとは任せたよう」
飛ばされた土砂を受けてゼクスが倒れ伏す。やるべきことはやった。あとは仲間に任せて大丈夫だという顔で気を失う。
「そろそろやばいな。俺も回復に回るぜ」
広がる被害を見ながらウェルスが攻撃から回復に移行する。巨体故の爆発的な打撃で形勢逆転されるかもしれない。念には念を打つのが商人時代からの習慣だ。無形の魔力が傷を癒すために広がり、自由騎士達の傷を塞いでいく。
「流石にきついね……!」
突撃の衝撃を受けて、アンが膝をつく。だがまだ負けたわけじゃない。どちらかが生きている限り勝負はつかないというのがアンのポリシーだ。叩き込んだ弾丸は無駄ではない。あとは仲間達が何とかしてくれる。
「どれだけ強く突っ込んできても、ここは通さないわよ!」
背後にいる仲間を意識しながらエルシーは吼える。イブリースの突撃を真正面から受け止める自信はない。だけど通すつもりはない。拳を鼻先に当てて、深く踏み込むと同時に衝撃を伝わせる。央華大陸由来の格闘術によるゼロインパクトを叩き込む。
「ヒルダちゃんから結構跳ぶって聞いてたけど……っ!」
イブリースの攻撃を回避しながらアリアは息をのむ。イノシシの跳躍力をヒルダから聞いていたが、予想以上に跳んできた。イブリース化して身体能力が強化されているとはいえ、冷や汗ものだ。
「咆哮で動きが止められるのが地味に効きますね……」
イブリースの戦い方を見ながら、マリアが肩をすくめる。吠えてこちらを委縮させ、一気に突撃してくる。だが逆に動きを止められさえしなければその戦略は崩壊する。故にマリアの行動の大半は委縮を打ち消す魔術を放つ事になった。
「悪いけど矜持にかけてここで仕留めるわ!」
銃を手にヒルダが叫ぶ。狩猟貴族として害獣に後れを取るつもりはない。それがイブリース化したとはいえ、元がイノシシというのならどれだけ傷ついても倒れてやるつもりはなかった。しっかり倒して貴族の誇りを示すのだ。
「まだまだ倒れないぞ! 害獣なんかに負けてたまるか!」
肩で息をしながらナバルが盾を構える。巨大化したイノシシの攻撃を受け流し、槍を突き立てる。気を失いそうだが、村人の苦難を想像して踏ん張っていた。ここで頑張るのが騎士の努め。人を助け、笑顔を守る。それがナバルの描く騎士だ。
一体一体に火力を集中して戦う自由騎士達。それゆえ一体を殲滅する速度は早く、その度に負担が減っていく。残り一体になれば、回復を行っていたウェルスも攻撃に手を回すことができる。
「これで終わりです!」
アリアの蛇腹剣がイブリースに絡まり、各刃が傷をつける。痛みで止まった隙を逃すことなく跳躍し、落下速度を『葬送の願い』に乗せてイブリースの眉間に突き刺した。白目をむいて、イブリースが横たわる。
「討伐完了です!」
手首を振って伸びた『萃う慈悲の祈り』のワイヤーを収めるアリア。家で隠れて見ていた村人達が、喜びの歓声を上げた。
●
「灯りの手配や事前の避難協力、ありがとうございます」
「いえいえ。むしろこちらの方がお礼を言わなくちゃいけないのに」
戦闘後、アリアは村人たちに一礼する。村人達は頭を下げたアリアに慌てて頭を下げていた。
イブリース浄化後、元の姿に戻ったイノシシをさばくためにヒラガと『クロックワークタワー』のメンバーがやってくる。
「これだけ大きいと解体も大変ですなぁ。まずは内臓と血を抜いて、そっから――」
「手伝うぜ。つーか美女のウサギちゃんが猪を解体するってなかなかすごい光景だな」
ウェルスは解体しているヒラガに声をかけ、手伝いにかかる。クマとウサギがイノシシを解体しているというのもすごい光景だが。
「おおきに。あんたはんもええ男よ。お腹割くん手伝ってくださいな」
「先に血抜きした方がいいよぉ。ここからナイフを刺して――」
前足と肋骨の隙間にナイフを突き刺すゼクス。感触あったとナイフを回し、傷口を下にして血を流していく。先に放血しておくことで肉の臭みを消し、肉の旨みを引き出すことができるのだ。器用に三匹の血抜きを終わらせる。
血を抜いて、皮をはぐ。越冬のために脂肪がたんまり乗ったイノシシ。その脂肪をナイフではいでいく。一匹につき大人七人体制で行い、どうにかこうにか脂と骨を切り分ける。
「イノシシに合う香草取ってきたぞー」
その間にアンは森に向かい、手ごろな山菜と香草を摘んでいた。イノシシの肉は癖があるため、こういったものでその臭みを消さないと鼻に残るのだ。
「疲れたー。解体するだけでお腹すいたわー」
手で自分を扇ぎながらヒルダが座り込む。狩猟貴族の嗜みとして解体方法は知っている。その労力も含めて。やっぱりイノシシにはいい思い出がないわねー、と小さく呟く。
「良い時間ね。皆で猪鍋にしましょう。この量だと八人でも多いので、皆さんもどうぞ」
エルシーの誘いに頷く村人達。鍋や野菜を持ち合って、イノシシパーティが始まる。
「肉パーティーだ! 焼くぞ! 煮るぞ!」
「野菜も食べないともたれますよ。脂身がかなりありますからね」
「あれ? 脂肪は全部持ってかれたんじゃないのか?」
「背脂だけで十分です。それに脂のない肉食うても味気ないでっしゃろ?」
「っていうか設計図とか見せてみせてー……。ほー、刃を固定したら鉄とかも切れそうだよねえ、これ」
「武器にも転用できそうね。試作品ができたら私にも触らせてもらるかな?」
「美味いねえ。仕事じゃなけりゃ、酒を飲みたい気分だよ」
「ありあー、お口あーん」
「むぐ……すご、取れたての肉ってこんなに美味しいんだ!」
自由騎士達と村人の晩餐は深夜まで続いたという――
夜明け後、自由騎士達と『クロックワークタワー』のメンバーは村を去る。村人たちは笑顔で騎士達を送り出してくれた。
村にはまだイブリースに荒らされた跡もあるが、いずれそれもなくなるだろう。そして春が来て、新たな作物が植えられる。
そんな平和な農村の日常。それこそが、自由騎士が守った最大の報酬だった。
「来たぜ。さすがに目立つな」
屋根の上から『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が仲間に声をかける。村周辺を調査し、イノシシが来るであろうポイントを予測して布陣していたのだ。巨体故に身を隠せないが、巨体故に力強く迫ってくる。
「イノシシが強ければいいんだけどねぇ」
銃を弄りながら『隻翼のガンマン』アン・J・ハインケル(CL3000015)は愚痴る。強者との戦いを求めるアンにとって、興味の大半がそこに注がれる。ただのイノシシではなく、巨大化したイブリースイノシシ。さてその強さは如何ほどか。
「うりぼーは可愛いんだけどね……」
見上げるようにイノシシを見ながら『慈悲の刃、葬送の剣』アリア・セレスティ(CL3000222)はため息をついた。まるまるしていて愛嬌のあるうり坊。しかしイブリース化すればもはや凶暴でしかない。近づいて撫でようという気すら起きなかった。
「イノシシなんか害獣の代表格じゃない。いい思い出なんかないわ」
言って肩をすくめる『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)。貴族として領地周辺の害獣を駆除して回る狩猟貴族アークライト家だが、イノシシは飽きるほど駆除してきた。柵を立てても突撃して壊すのだから、直接出向くしかないのだ。
「都会の近くでも、農家の悩みは一緒なんだな」
そうだよなぁ、と『新米兵士』ナバル・ジーロン(CL3000441)は頷く。故郷の村でも同じような苦悩があったな、としみじみ思い出す。まあ、ここまで巨大化した個体はお目にかかったことはないのだが。ともあれ騎士として民を守るために頑張るのみだ。
「私の両親も農家を営んでいるので、こういう被害は他人事ではありませんね」
同じく故郷を思い出しながら『マギアの導き』マリア・カゲ山(CL3000337)は頷いた。アマノホカリでも同じようにイノシシによる獣害は起こっているようだ。主に狙われるのがイモ類であると、多少の違いはあるのだが。
「でっかいねえ。お肉が沢山取れるかな?」
『黒道』ゼクス・アゾール(CL3000469)は言って腰に手を当てる。主目的はイブリース退治でラードの回収だが、余った肉は好きにしていいとのことだ。野生のイノシシがどのような味か。興味は尽きなかった。
「クロックワークタワー』が絡んでいるのであれば、一肌脱がないわけにはいかないわね」
拳を握って気合を入れる『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)。蒸気技術研究会の立ち上げに一役買った(買った?)身としては、その活動もできるだけ支えたい。この拳で助けることが出来るなら、遠慮なく振るうつもりだ。
イブリースは道の途中に立ちふさがる自由騎士を見て、足を止める。そして地面を削るように蹴って威嚇した。退かないのなら踏み潰す。その意図は自由騎士にも伝わったはずだ。だが――
「悪いけど倒させてもらうぜ。村の為にな」
作物を荒らす害獣を許すわけにはいかない。それがイブリースなら、自由騎士の仕事だ。女神の権能を示すように、それぞれの自由騎士達は武器を構える。
三度偶蹄で地面を蹴った後にイブリースは鼻息荒く自由騎士達を睨む。。力を溜めるように身をかがめ、吼えるように口を開いて地を蹴った。
自由騎士とイブリース。その意思がぶつかり合う。
●
「ダ、ダニとかまで巨大化してませんよね。してませんよね!?」
間近に迫ったイノシシを前に、アリアが震える。八本足の蜘蛛のような毛深い虫。噛まれればそこから血を吸われ、毒を注がれる。それが自分の太ももに噛みついて……大きく首を振ってその未来を振り払う。――ダニってmiteだよなぁ、とどくどくがメモったのは小さな秘密。
現実に目を向けて、イブリースに立ち向かう。アリアの両腕が振るわれると同時に、それに合わせて二刀が翻る。片刃は真っ直ぐに皮膚を割き、もう片刃は蛇のように伸びて足に絡まりイブリースを傷つけていく。
「さあ、私はここですよ。当てれるものなら当てて見なさい!」
「そっちは任せたわよ、アリア!」
親愛しているパートナーに声をかけ、ヒルダは銃を構える。アリアがやられるという心配はしない。彼女のことはよくわかっているからだ。だから自分はその信頼に応えるのみ。魔力を瞳に集めて命中精度を上げながら、呼吸を整える。
大きく息を吸い、そして吐く。それだけでヒルダは狩猟者の精神にスイッチする。できるかぎりの弾幕をイブリースに叩き込み、その出鼻をくじく。初手は派手に最大限に。戦いのイニシアティブは常に自分が握る。それが大事なのだと理解していた。
「悪いけどその命、いただくわ!」
「俺も負けてられないね! 一気に行くよ!」
瞳をイブリースに向けて、笑みを浮かべるアン。既に魔力強化してある狩人の瞳で敵を射抜き、品定めをするように唇を湿らせる。巨大化して増えた重量。それを支える脚力と、爆発的に駆け出す突撃。野生の獣がさらに狂暴化した暴走獣。
獣の殺気が自分に向いたと同時に、アンは動いていた。手にした銃を両手で構える。足は肩幅まで広げ、腕をわずかに曲げて衝撃を筋肉て受け止めるポーズをとる。銃を撃つ基本の構え。何千何万と繰り返し、自然にできる撃つ動作。放たれた弾丸が獣の眉間を穿つ。
「Jackpot! 真正面からだと狙いやすいね」
「とはいえ、あの突撃は厄介です」
大気のマナを取り入れながらマリアは冷静に戦況を分析する。イブリースの戦法はいたって単純だ。その巨体を生かし、力で押す。無策に見えるが、それが可能な身体能力があるのなら策などいらない。武術や知恵は肉体的に劣る者が生み出した技術だから。
心を落ち着かせるように息を吸うマリア。感情を表に出さないように意識しながら、他内に宿るマナを手のひらに集わせていく。マナは白い光となって顕現し、風に乗って戦場に広がっていく。癒しの魔力が込められた光が涼風となって仲間の傷を癒していく。
「私は回復に専念します。攻撃は任せました」
「オレはそれほど強くないぜ。あまり期待するなよ……!」
ショートスピアとライオットシールドを構え、ナバルは無理やり笑みを浮かべる。戦いは怖い。目の前の攻防を見ながら、恐怖心が沸き上がってくるのは止められない。それでも勇気を振り絞り、一歩前に出る。
隠し持っていたタケノコをイブリースの前に放り投げるナバル。激しい食欲で動いていたイブリースはすぐに反応し、一口で丸呑みしてしまう。そこに生まれた隙を逃すことなくナバルの槍が振るわれ、無防備に晒された瞳を突き刺す。
「害獣イノシシ! お前らも食うために仕方ないんだろうが、オレらも食っていくためだ!」
「吼えるねぇ。こいつは新米呼ばわりは失礼だな」
ナバルの啖呵に自分の顎を撫でるウェルス。ノウブルという種族には不信を持っているが、種族を別にすれば信用できる者もいる。そういう奴らがもっと増えればいいのだが、そうもいかぬが世の中か。
自作の蒸気式狙撃銃を手に亀を取るウェルス。腰を下ろして体を丸め、体全体で衝撃を受け止めるポーズをとる。狙え、目はそれだけでいい。体は銃を支えるだけでいい。指は引き金を引くだけでいい。意識全てを撃つことに集中し、静かに引き金を引いた。
「こんなものか。出力は落ちるが安定性は増すな」
「ああ、いい感じで眠ってるねえ」
ウェルスの射撃で眠りに落ちたイブリースを見ながらゼクスが唸る。殴るか眠気が覚めるまでは動くことはないだろう。それを見て弓の先を別のイブリースに移す。さて、あのイノシシは何本矢を突き刺せば倒れてくれるか。ハリネズミになる前に倒れてくれよ。
体内に取り入れた魔力を指先に集わせ、矢を番える。指先から魔力が矢に伝播し、染み入っていく。放たれた矢は風を割くように飛び、その姿が書き消えた。魔力による幻惑。一瞬の幻だが、それで十分。その一瞬の後に、矢はイブリースに深く突き刺さっていた。
「あんまり暴れると肉に血が回っちゃって味が落ちるって聞くし、急いでお肉になって貰うよう」
「ええ。お互い生き残るためよ。悪く思わないでね」
言ってエルシーは拳を固める。生存競争。イノシシを駆除しなければ人が飢えて死ぬ。自らの命を絶って他者を救えなど、エルシーは言わない。献身は教会の教えにあるが、その為に命を捨てることは認めない。それこそ命への冒涜なのだ。
赤龍の籠手がランタンの光を反射する。その光がイブリースの目を僅かに閉じさせた。その隙を逃すことなくエルシーは踏み込む。裂帛と共に拳を繰り出し、イノシシの鼻頭に叩き込む。もう一撃――と思った瞬間に振り上げられる牙。それを避け、後ろに下がる。
「鼻は弱いみたいだけど……それでも急所ってわけじゃないみたいね」
呼吸を整え、構えなおすエルシー。他の自由騎士も同様に気合を入れなおす。
武器を叩き込み、矢弾を穿ち、魔を放っても止まることのないイブリースの突撃。力任せには違いないが、それは人間の小細工など踏襲するほどのパワーがある。
それでもなお、自由騎士達は退くことはない。それぞれの思いを込めて、強く武器を握りしめる。
野獣との戦いは、少しずつ佳境に向かっていく。
●
イブリースは文字通り猪突猛進に攻めてくる。咆哮で動きを止め、突撃し、牙を突き立て、土砂を飛ばして。
「あいたたたた……! オレ、まだまだ貧弱だな……!」
その猛攻を受けて、ナバルがフラグメンツを削られる。失いそうになる意識を繋ぎとめ、強く武器を握りしめた。
「流石に楽じゃないねぇ。ま、あとは任せたよう」
飛ばされた土砂を受けてゼクスが倒れ伏す。やるべきことはやった。あとは仲間に任せて大丈夫だという顔で気を失う。
「そろそろやばいな。俺も回復に回るぜ」
広がる被害を見ながらウェルスが攻撃から回復に移行する。巨体故の爆発的な打撃で形勢逆転されるかもしれない。念には念を打つのが商人時代からの習慣だ。無形の魔力が傷を癒すために広がり、自由騎士達の傷を塞いでいく。
「流石にきついね……!」
突撃の衝撃を受けて、アンが膝をつく。だがまだ負けたわけじゃない。どちらかが生きている限り勝負はつかないというのがアンのポリシーだ。叩き込んだ弾丸は無駄ではない。あとは仲間達が何とかしてくれる。
「どれだけ強く突っ込んできても、ここは通さないわよ!」
背後にいる仲間を意識しながらエルシーは吼える。イブリースの突撃を真正面から受け止める自信はない。だけど通すつもりはない。拳を鼻先に当てて、深く踏み込むと同時に衝撃を伝わせる。央華大陸由来の格闘術によるゼロインパクトを叩き込む。
「ヒルダちゃんから結構跳ぶって聞いてたけど……っ!」
イブリースの攻撃を回避しながらアリアは息をのむ。イノシシの跳躍力をヒルダから聞いていたが、予想以上に跳んできた。イブリース化して身体能力が強化されているとはいえ、冷や汗ものだ。
「咆哮で動きが止められるのが地味に効きますね……」
イブリースの戦い方を見ながら、マリアが肩をすくめる。吠えてこちらを委縮させ、一気に突撃してくる。だが逆に動きを止められさえしなければその戦略は崩壊する。故にマリアの行動の大半は委縮を打ち消す魔術を放つ事になった。
「悪いけど矜持にかけてここで仕留めるわ!」
銃を手にヒルダが叫ぶ。狩猟貴族として害獣に後れを取るつもりはない。それがイブリース化したとはいえ、元がイノシシというのならどれだけ傷ついても倒れてやるつもりはなかった。しっかり倒して貴族の誇りを示すのだ。
「まだまだ倒れないぞ! 害獣なんかに負けてたまるか!」
肩で息をしながらナバルが盾を構える。巨大化したイノシシの攻撃を受け流し、槍を突き立てる。気を失いそうだが、村人の苦難を想像して踏ん張っていた。ここで頑張るのが騎士の努め。人を助け、笑顔を守る。それがナバルの描く騎士だ。
一体一体に火力を集中して戦う自由騎士達。それゆえ一体を殲滅する速度は早く、その度に負担が減っていく。残り一体になれば、回復を行っていたウェルスも攻撃に手を回すことができる。
「これで終わりです!」
アリアの蛇腹剣がイブリースに絡まり、各刃が傷をつける。痛みで止まった隙を逃すことなく跳躍し、落下速度を『葬送の願い』に乗せてイブリースの眉間に突き刺した。白目をむいて、イブリースが横たわる。
「討伐完了です!」
手首を振って伸びた『萃う慈悲の祈り』のワイヤーを収めるアリア。家で隠れて見ていた村人達が、喜びの歓声を上げた。
●
「灯りの手配や事前の避難協力、ありがとうございます」
「いえいえ。むしろこちらの方がお礼を言わなくちゃいけないのに」
戦闘後、アリアは村人たちに一礼する。村人達は頭を下げたアリアに慌てて頭を下げていた。
イブリース浄化後、元の姿に戻ったイノシシをさばくためにヒラガと『クロックワークタワー』のメンバーがやってくる。
「これだけ大きいと解体も大変ですなぁ。まずは内臓と血を抜いて、そっから――」
「手伝うぜ。つーか美女のウサギちゃんが猪を解体するってなかなかすごい光景だな」
ウェルスは解体しているヒラガに声をかけ、手伝いにかかる。クマとウサギがイノシシを解体しているというのもすごい光景だが。
「おおきに。あんたはんもええ男よ。お腹割くん手伝ってくださいな」
「先に血抜きした方がいいよぉ。ここからナイフを刺して――」
前足と肋骨の隙間にナイフを突き刺すゼクス。感触あったとナイフを回し、傷口を下にして血を流していく。先に放血しておくことで肉の臭みを消し、肉の旨みを引き出すことができるのだ。器用に三匹の血抜きを終わらせる。
血を抜いて、皮をはぐ。越冬のために脂肪がたんまり乗ったイノシシ。その脂肪をナイフではいでいく。一匹につき大人七人体制で行い、どうにかこうにか脂と骨を切り分ける。
「イノシシに合う香草取ってきたぞー」
その間にアンは森に向かい、手ごろな山菜と香草を摘んでいた。イノシシの肉は癖があるため、こういったものでその臭みを消さないと鼻に残るのだ。
「疲れたー。解体するだけでお腹すいたわー」
手で自分を扇ぎながらヒルダが座り込む。狩猟貴族の嗜みとして解体方法は知っている。その労力も含めて。やっぱりイノシシにはいい思い出がないわねー、と小さく呟く。
「良い時間ね。皆で猪鍋にしましょう。この量だと八人でも多いので、皆さんもどうぞ」
エルシーの誘いに頷く村人達。鍋や野菜を持ち合って、イノシシパーティが始まる。
「肉パーティーだ! 焼くぞ! 煮るぞ!」
「野菜も食べないともたれますよ。脂身がかなりありますからね」
「あれ? 脂肪は全部持ってかれたんじゃないのか?」
「背脂だけで十分です。それに脂のない肉食うても味気ないでっしゃろ?」
「っていうか設計図とか見せてみせてー……。ほー、刃を固定したら鉄とかも切れそうだよねえ、これ」
「武器にも転用できそうね。試作品ができたら私にも触らせてもらるかな?」
「美味いねえ。仕事じゃなけりゃ、酒を飲みたい気分だよ」
「ありあー、お口あーん」
「むぐ……すご、取れたての肉ってこんなに美味しいんだ!」
自由騎士達と村人の晩餐は深夜まで続いたという――
夜明け後、自由騎士達と『クロックワークタワー』のメンバーは村を去る。村人たちは笑顔で騎士達を送り出してくれた。
村にはまだイブリースに荒らされた跡もあるが、いずれそれもなくなるだろう。そして春が来て、新たな作物が植えられる。
そんな平和な農村の日常。それこそが、自由騎士が守った最大の報酬だった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
イノシシの解体ってどうするのかを調べて、驚きました。めっちゃ肉体労働じゃん、これ。
以上の様な結果になりました。ちょっとパワー高めかな、と思ってましたがもう一匹増やしてもよかったかもしれません。
MVPはナイスな前準備をしたジーロン様に。そりゃ食いつきますわ。
それではまた、イ・ラプセルで。
イノシシの解体ってどうするのかを調べて、驚きました。めっちゃ肉体労働じゃん、これ。
以上の様な結果になりました。ちょっとパワー高めかな、と思ってましたがもう一匹増やしてもよかったかもしれません。
MVPはナイスな前準備をしたジーロン様に。そりゃ食いつきますわ。
それではまた、イ・ラプセルで。
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