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Duke! ウィスター公爵登場!



●『ネズミ公爵』ノーマン・B・ウィスター
「ミーの名前は『蒸気王』チャールズ・バベッジ!」
「ええっ!?」
 その名を聞いた木こり達は一応に大声を上げた。蒸気機関を生み出したヘルメリア国王の名は、遠くイ・ラプセルでも有名である。
「――と、同レベルで時代に名を遺すであろう『生物エンジン』開発者のノーマン・B・ウィスター公爵である!」
 そしてその驚きの声は一気に落胆に変わったという。
 白い毛を持つネズミのケモノビト。一言で言えば直立するネズミの格好をしたその男は両手を広げて自分の後ろにある木製の建造物っぽいものを指差した。
「見なさい! これがキーリッシュ国の科学の粋を作って生まれた『ラーケン三十二号』デース! 内部には生物エンジン百二十基を用意することで爆発的な機動力を確保!」
 窓を開けると、そこにはネズミが走りながら歯車を回している光景が写った。これが生物エンジンなのだろう。
「羽付き歯車や三枚歯車などの駆動系を駆使し、その動力を各パーツに伝達!」
 建造物っぽい何かに映えた腕のようなモノが上下に動く。
「これにより木々の伐採速度は五倍から十倍に増加! 効率的に開発を進めることが出来るのデース!」
「……はぁ」
 公爵の説明とは真逆に、聞いている人達のテンションは低かった。っていうかボロボロの小屋に手が生えたようなものを前に、どうリアクションを取ればいいのか。
「つまり! ミーに任せれば万事問題なし! 無能なユー達はこの天才の働きを指をくわえて見ているがグッド! ご安心を、ミーのおこぼれぐらいはユー達にくれてあげましょう!」
「あ。ちょっと待て! 勝手に俺達の仕事を――」
 取るな、と言いかけた男はラーケン三十二号が振り下ろされた巨大な斧の風圧を受けて、押し黙ることになる。まともに受ければ、命の危険すらあった。
「おや、ミーの言葉が聞こえなかったかな? キーリッシュ国公爵の慈悲は一度しかないデスよ」
 あ。これやばい。馬鹿だけどやばい。木こりたちは押し黙り、汗を流していた。

●とある居眠り画家の依頼
 オラクルたちが酒場に呼ばれてきてみれば、机に座って突っ伏すマザリモノがいた。気配を察したのか、もぞもぞと顔をあげる。
「………ん。ごめんね、後五分だけ……。いいや、説明してから……寝る……」
 何処かぼおっとしながら『芸術は爆発』アンセム・フィンディング(nCL3000009)はオラクルたちに向き直った。
「西にある森に……木こり? 森の木を刈る人たちがいるんだけど……そこをあるケモノビトが占拠した。それで木材の流通が……止まった」
 アンセムは鉛筆でケモノビトの風体と、『小屋に腕がついたような奇怪な物体』を書く。
「えと……このケモノビトが作った、この小屋っぽいの。これが木こりたちの邪魔をしてる。この小屋を壊して……。
 あとこのケモノビト……よくわからない国の公爵を名乗ってるけど……キーリッシュ国とか、聞いたこと、ない」
 半分寝ている状態のゆったりとした口調でアンセムは告げる。オラクルたちの記憶にもない国名だ。失礼を働いても国際的な問題が起きるとはとても思えない……っていうか失礼なのは向こうだ。
「この小屋を守るように……腕が動いて、攻撃してくるから、気を付けて……じゃあ、寝る……」
 説明を終えた後に、アンセムは流れるように眠りにつく。揺すってもおきそうにない。
 やれやれ、と肩をすくめてオラクルたちは現場に向かった。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
資源発掘σ
担当ST
どくどく
■成功条件
1.ラーケン三十二号「本体」の破壊
 どくどくです。
 ウィスター公爵で一番迷ったのは『一人称どうしよう?』でした。

●敵情報
・『ラーケン三十二号』(×1)
 よくわからない公爵が作った建造物です。便宜上、『本体』『右腕』『左腕』の三キャラクターが存在します。それぞれHP等のステータスが存在しています。敵が三体いる、という認識で問題ありません。ブロックも同様の扱いです。
 足っぽいものはあるので、移動はできるようです。
『本体』のHPを0にすれば、『右腕』『左腕』のHPが残っていても戦闘終了になります。

攻撃方法
『本体』
クロスボウ発射 攻遠単 『生体エンジン』の動力でクロスボウを打ちます。
動力伝達    味全  『生体エンジン』の動力を腕に伝えます。攻UP

『右腕』
斧を振るう   攻近単 巨大な斧で斬りかかります。
みじん切り   攻近単 斧を何度も叩きつけます。【パラライズ1】

『左腕』
掴む      攻近単 三本の指でつかみ、握りつぶそうとします。
酸放出     魔遠単 腐食性の液体を飛ばしてきます。【ポイズン1】

・『ネズミ公爵』ノーマン・B・ウィスター
(自称)キーリッシュ国公爵位。ネズミのケモノビトです。百二十歳男性。モノクルをつけ、白いスーツに身を包んだ紳士的な格好をしています。
 ネズミを走らせて歯車を回す『生体エンジン』の開発者を名乗っています。そんな国は知りませんし、そんなエンジンも知りません。困ったマッドサイエンティストの扱いで問題ありません。
 戦闘中彼はラーケン三十二号本体の中で操縦しています。戦闘中の会話は可能ですが……まあ、その、性格はOPで示した通りですので、有益な情報が得られるとは思わない方がいいです。ラーケン三十二号の中に入って接触する場合、ラーケン三十二号の戦闘には参加できないことを追記しておきます。

●場所情報
 伐採用の森。その入り口付近。木こりたちのテントの近くにラーケン三十二号はいます。時刻は昼。足場や灯りは戦闘に支障がないものとします。
 戦闘開始時、敵前衛に『右腕』『左腕』が、敵後衛に『本体』がいます。
 事前付与は一度だけ可能とします。

★サポートの推奨行動
・木こりたちを安全な場所に誘導。戦闘の飛び火から守るなど。
・戦闘に直接手出しはできませんが、応援することで鼓舞されるかもしれません。
・ガヤ。「キーリッシュ国……まさか!?」とか台詞を挟む。面白ければ採用されるかもしれません。所詮ギャグ依頼です。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
22モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2018年06月20日

†メイン参加者 8人†




「生物エンジン! なんて恐ろしい! もしアレをヴィスマルクの強襲艇に使われてたらひとたまりも無かったよ!」
「ふはははは。ミーの発明に驚くがいいデス! あ、風船使ったネズミ強襲船とかいるデス? お安くするデスヨ」
「蒸気王が居るって聞いたから蒸気ドリルが右手と左手どっちに装着されてるか確かめに来たぜ! ってパチモンじゃねーか!?」
「奴の蒸気ドリルは頭から生えているデスヨ! 見たことないけど」
「いやしくも公爵を名乗る者が民草に仇を成すとは……それでも貴族か! 恥を知れ!」
「きちんと勧告はしたデース! 義務は果たしたデスヨ!」
 先行した自由騎士達は木こりを避難させながらウィスター公爵とそんな口論をしていた。
「小屋が、動いて……? え、なんですかこれ……」
『胡蝶の夢』エミリオ・ミハイエル(CL3000054)が『ラーケン三十二号』を見た一言目がそれだった。そのまま呆然と腕を振る小屋っぽいものを見る。その表情は呆れる……というよりは玩具を見る子供のようにキラキラ輝いていた。
「あらあら、まぁ……こんな大きなお家、ネズミさん何匹で動かしてるのでしょう~。凄いですねぇ~」
 間延びした声をあげて『ラーケン三十二号』を見る『八千代堂』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)。おっとりしながらも、頭の中で動かす費用と効果を考えている辺りがマーチャントと言えよう。
「やぁ、キーリッシュ国の公爵さん。私はペルナ。外交の使者……って信じてくれないか」
 ペルナ・クラール(CL3000104)はイ・ラプセルの外交を名乗って気を引こうとしたが、効果がないことに気づき、諦めた。他の自由騎士が戦闘準備をしているため、こちらに交渉する気がないことは明白なのだ。
「よーし、がんばるぞー!」
 屈伸をしながら気合を入れる『豪拳猛蹴』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)。公爵だとかキーリッシュ国とか全く知らないけど、イ・ラプセルの森を荒らすというのなら許してはおけない。鍛えた拳を握り、戦意を示す。
「……ネズミ車にチーズでも投げ込めば解決するんじゃないコレ?」
 何処か呆れるように『深窓のガンスリンガー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は『ラーケン三十二号』を指差す。生体エンジンということはネズミが動かしているわけで、そのネズミをどうにかすれば……いや、まさかね? とりあえず否定してみた。
「ですが侮れません。ネズミは種によっては一日に三〇キロ以上も回し車で走り続けるといいます」
『護神の剣』カスカ・セイリュウジ(CL3000019)は言って頷く。小動物の運動性能は高い。少なくとも小屋っぽい物体を戦闘可能なレベルまで動かすことが出来るのだ。科学のことは専門外だが、油断していい状況ではない。
「しかし困ったもんだねぇ。木こりが仕事にならないんだから」
 腰に手を当ててため息を吐くトミコ・マール(CL3000192)。本来は食堂で働くトミコだが、イ・ラプセルの危機と聞いてはせ参じた。働いた後の労働者を迎える美味しいごはん。それを作るためにトミコは戦う。
「人の仕事を邪魔するなんて、撃たれても文句はないよね」
 自作の銃に弾丸を込めるマリア・ベル(CL3000145)。ゴーグルをつけて気合を入れ、『ラーケン三十二号』を見た。蒸気エンジンではない者で動く不細工な小屋。あんなの相手にならない、と言いたげに笑みを浮かべる。
「そこ! ミーの伐採の邪魔デース! 警告を無視するなら、実力行使といくデスヨ!」
 伝声管が開き、そんな声が聞こえてくる。おそらくウィスター公爵なのだろう。
 自由騎士達は自分達の意志を示すように、マキナ=ギアから武具を取り出し装備する。その様子を見て、『ラーケン三十二号』は両腕を動かし自由騎士達に振るう。
「逆らうというのなら、このラーケン三十二号の恐ろしさを見せてくれよう! 生体エンジン、出力上昇! 『お前達、チーズだよー』」
 がっしょんがっしょん、と音を立てて動き出す『ラーケン三十二号』。
 イ・ラプセルの森を守るため、自由騎士と変な公爵がぶつかり合う。


「では行きましょう。回り込めれば理想だったのですが」
 最初に動いたのはカスカだ。抜刀すると同時にラーケン三十二号の本体に向けて疾駆する。範囲攻撃を回避するために裏手に廻れれば理想だったのだが、そこまで行くと味方の回復の範囲から外れてしまう。仕方なし、とため息をついた。
 腰を下ろし、刀の柄を握るカスカ。一瞬の精神集中の後に爆発するように全身の筋肉を解放させ、刀を抜く。同時に鞘の中の空気を爆発させ、抜刀の威力を加速する。その速度、正に風の如く。疾風の刃がラーケン三十二号を切り裂く。
「動く理屈はよくわかりませんが、剣で斬って壊れないということはないはずです」
「オゥ。乱暴だが真理デース! しかしそれはこちらにも当てはまるデスヨ!」
「……いや。感心する所じゃないから、それ」
 聞こえてくるウィスター公爵の声にツッコミを入れるヒルダ。ショットガンを手にしているが、なぜか彼女は敵の刀剣が届く前衛にいた。前線で戦うということに、強いこだわりがあるようだ。アークライト家の家訓か、愛国心か。
 ショットガンを回転させてから構え、発砲する。撃った後にその場にとどまることなく横っ飛びに回転して移動し、さらに引き金を引く。ラーケン三十二号の気を引くようにしながら、アクロバティックに場所を変える。お転婆に見えて、優雅な動きで攻めていた。
「あたしはこっちよ! 当てれるものなら当てて見なさい!」
「おのれちょこまかと! クロスボウ、発射!」
「無茶はしないでね。めえ」
 活発的に攻める前衛組を見ながらペルナは静かに告げる。怪我をせずに済むならそれに越したことはないが、ラーケン三十二号は決して侮れる相手ではない。見た目はともかく、巨大な斧と酸の噴出がじわじわと自由騎士の体力を奪っていた。
 仲間の傷具合を見ながら、冷静に戦局を見るペルナ。誰が一番傷つき、誰が一番危険か。チェスのように脳内で先を読みながら、魔力を練り上げる。癒しの力を伴った魔力の波動が、仲間の傷を塞いでいく。
「しかしあの若造がここまでの技術力を手に入れるほどに成長してたなんて……」
「そ、そのゆるふわヴォイスは……まさか!? いいや。そんなはずはないはずデス!」
「長く生きてるといろいろ出会いがあるもんだねぇ」
 ペルナとウィスター公爵の会話を聞きながらトミコが頷いた。その出会いは知らないが、ウィスター公爵が今木こりの邪魔をしていることは確かだ。木こりの中にはトミコと同じ下町生まれの者もいる。その仕事を奪うのなら許せやしない。
 鉄塊を手にトミコはラーケン三十二号が持つ巨大な斧に迫る。振り上げられる斧に退くことなくトミコは鉄塊を構え、自分自身に振り下ろされた斧をカウンター気味に撃ち返す。激しい金属音が戦場に響き、一秒後に押し負けた斧が宙を舞った。
「どんなもんだい! さあさあ、降参するなら今のうちだよ!」
「なんたるパワー! しかしまだ勝負はついてないデスよ!」
「はいはーい。そこに撃ちますから退いてくださいねー」
 のんびりした声でシェリルが声をかける。アマノカホリの血が混じっているのか、その喋り方は独特のイントネーションがあった。にこりと微笑み首をかしげる姿は、何処か男性を魅了する。戦場にあっても彼女の華は揺らぐことはない。
 魔導書を手にシェリルが呪文を唱える。特殊な呼吸法によりシェリルの体内にある魔力を活性化させ、目覚めさせた魔力を媒介として炎を生み出す。緋色の光が複雑な文様を描く。そこから放たれた炎が、ラーケン三十二号に突き刺さった。
「自分勝手な人はお仕置きです~」
「ちょ、燃えてる燃えてる! バーンしてるデスネ!」
「大丈夫です。生体エンジンに影響がなければ!」
 目をキラキラさせてエミリオが拳を握る。先ほどは茫然としていたように見えたが、実は生体エンジンとラーケン三十二号に感動していたようだ。それは守りたいというわけではなく、解剖したいという兵器好きな興味であった。
 スナイパーライフルを構え、ラーケン三十二号に標準を合わせる。ぎっしょんがっしょんする動きに心を奪われてはいるが、自由騎士としての役割を忘れているわけではない。斧を持つ手を狙い、その動きを制限する。
「ディテールはともかく、建造物を兵器にしてしまうというセンスがすばらしい!」
「ふふん、分かるではないかヤングメン! そう、このラーケン――」
「うるさい。壊れろ」
 ウィスター公爵の言葉を遮るようにマリアが銃を撃つ。蒸気技術に傾倒しているマリアからすれば、生体エンジンなんておもちゃ程度でしかない。蒸気技術の力を証明するようにマリアは改造した銃の引き金を引く。
 ゴーグルの奥の瞳がラーケン三十二号を捕らえる。激しく動く腕だが、動きの起点は関節からだ。何処までの角度でどういう速度か。機械をいじっているマリアにはもう把握できていた。連続で放たれる銃撃がラーケン三十二号の腕を穿つ。
「あまり、暴れないでね。綺麗に、壊せないから」
「アンビリバボー! このラーケン三十二号が押されているデスと……! これがイ・ラプセルの自由騎士ということデスか!」
 思わぬ攻勢に驚きの声をあげるウィスター公爵。ヴィスマルクの攻勢を押し返した働きは、キーリッシュ国にも届いていたようだ。……まあ、そんな国知らないんだけど。
 しかし一瞬でも気を抜けば、押し返される。自由騎士達もそれは理解していた。
 イ・ラプセルの森をめぐる戦いは、まだ終わらない。


 ラーケン三十二号はふざけたフォルムだがその戦闘能力は高い。本来は伐採用なのだが、そこはツッコんじゃだめ。
「ガタイが大きいと難儀ですね」
「あいたっ! もう、ふざけるんじゃないわよ!」
「気合いと根性!」
 前で戦うカスカとヒルダとカーミラがラーケン三十二号の攻撃を受けて膝をつく。英雄の欠片を燃やして意識を保っていた。
「あ~れ~……きゅう」
 酸の噴出を受けてシェリルが崩れ落ちる。命に別状はなさそうだが、軽い傷でもなさそうだ。サポートのメンバーにより戦場外に運ばれる。
「そう言えば……開発、って言ってるから、もしかして、今から、領土を作るの?」
 銃を撃ちながらマリアが問いかける。キーリッシュ国なんて聞いたことがない国名だ。ということはもしかして今から建国するのだろうか? だがこの大陸に人が住めそうな場所はあらかた国がある。作るとして何処に作るのだろうか?
「よくぞ聞いてくれたデース! 地下三〇〇メートルにある大陸貫通トンネル。そこにキーリッシュ国はあるのデス!」
「え? そんなの、あるの?」
「……ラーケン四号が完成した暁にはできる予定なのデス!」
「どんな夢であれ人に迷惑をかけず幸せに夢見れるなら、それは素敵な事なんだよ」
 優しくペルナがウィスター公爵に語りかける。ペルナは公爵の生体エンジンを否定しない。夢を追うことは決して悪い事ではないのだ。彼女が止める理由は過度の伐採ゆえ。他人に迷惑をかける夢追い人には制裁を。
「ラーケン三十三号の力を私達は欲しているのよ。一緒にイ・ラプセルで働く気はない?」
「三十二号を破壊する前提デスネ!? 納得できないデース!」
「めえ。ばれたか」
「行きます――」
「頑張るぞー!」
 怜悧にカスカが呟き、元気よくカーミラが吼える。クールなカスカと熱血的なカーミラ。二人は息を合わせてラーケン三十二号に攻撃を仕掛ける。先行するカスカが刀を振るい活路を開き、生まれた隙をこじ開けるようにカーミラが角を立てて突撃する。
 かと思えば、カーミラが宙を舞いアクロバティックに三十二号の腕に絡みついて動きを封じると同時、腕の関節を狙いカスカが刀を振るう。時に交互に、時に同時に。視線だけで合図を交わし、臨機応変に二人はラーケン三十二号を追い詰めていく。
「木こりたちのために、小屋をぶっとばーす!」
「まあ、不殺もへったくれもないので気は楽です」
「ミーが四か月かけて作ったラーケン三十二号を……!」
「そりゃご苦労さん。悪いけど、どんどん行くよ!」
 トミコが鉄塊を振るい、斧を持つ右腕に迫る。その様を表現するなら、力対力。生体エンジンで動く巨大な斧と、トミコの鍛えられた重戦士の攻め。今までは十四戦七勝七敗。一五戦目の攻防は――トミコに軍配があがる。右腕はへしゃげ、斧が手から零れ落ちる。
「さあ。これで右腕は終わりだね。つぎはどうするんだい?」
「まだまだライトアームが残ってるデス!」
「それはあたしが壊させてもらうわ!」
 酸を噴出する左腕に攻撃を仕掛けるヒルダ。戦場を跳ぶように走り回り、引き金を引く。酸の噴出により服が所々ボロボロになり、均整の取れたスタイルが露になっていた。ちがうんだきいてくれあんらっきーすけべのこうかであってどくどくはわるくない。
「自力でそんな小屋作れてる時点で木を切る必要ないんじゃない!?」
「大量の木を削っておが屑を作り、ネズミたちのベットにするためデース! あときのこ育てたりするためデース!」
「……意外とネズミは大事にするのね」
「流石です! 環境を汚染しない生体エンジンという極めてエコロジカル! 半生体兵器とでも言いましょうか」
 ラーケン三十二号の性能を聞けば聞くほど、感動のスイッチがONになるエミリオ。朗らかな笑みを浮かべた好青年に見えるが、兵器の話になるといろいろと素が現れていた。イントネーションもアマノホカリっぽい所が出てきている。
「ものすごいロマンの塊ですね……めっちゃええやん……破壊して調べよ……」
「生体エンジンを理解してくれる同士と思ったらものすごく敵だったデス!」
「やはり基礎はネズミが回転させる車やろうな……どないな感じであの腕を動かしてるか……想像するだけでたまらんわ……」
 キャラ代わってるキャラ代わってる。
 左腕を集中砲火で落せば、後は本体のみ。頑丈ではあるが攻撃手段がクロスボウのみの本体のみでは自由騎士の体力を奪い取ることなどできるはずがない。
「どぉぉぉせぇぇぇぇぇぇぇーーーい!」
 トミコの鉄塊が振り上げられる。ボロボロになったラーケン三二号にその一撃を受け止めるだけの強度は残されていなかった。
「おのれ、ミーのラーケン三二号がああああああ!」
 豪快な破壊音とウィスター公爵の悲鳴。力尽きたように動かなくなったラーケン三十二号を前に、トミコはやれやれだねとばかりに汗を拭いていた。


「総員退避ー!」
 ウィスター公爵の声と共に小屋の中から大量のネズミが逃げ出した。黒やら白やら茶色やらのネズミが一斉に森の中に逃げていく。あまりの数に自由騎士達は手が出せないでいた。
「あれ……生体エンジンを動かしていたネズミかな?」
「で、件の公爵は?」
 自由騎士達がラーケン三十二号の中を捜索するが、ネズミのケモノビトの姿は見つからなかった。
「あ~。『獣化変身』ですね~」
 ぽん、と手を叩いたのは戦闘後に意識を取り戻したシェリルだ。ケモノビトが使える特殊な技能で、自分の元となった動物に変身することが出来るのだ。おそらく先ほど逃げたネズミに紛れて逃げたのだろう。
 ともあれラーケン三十二号を止めることに成功した。自由騎士は森と木こりたちの生活を守ったのだ。
「さてと。これで一件落着だね。おなかがすくだろうと思って弁当を作ってきたんだ。みんな食べるかい?」
 トミコが包みを広げて、お弁当を用意する。大量に用意された弁当は食欲をそそった。戦闘の疲れを癒すべく、トミコの弁当に手を付けるオラクルたち。
「解体! ああああ、どうなっているか楽しみです!」
 エミリオは工具を手にワクワクした表情でラーケン三十二号(残骸)を見ていた。どんな構造になっているのか気になって仕方がないという感じだ。
「分解するなら手伝います。力仕事は得意ですので」
 カスカはラーケン三十二号の解体を買って出る。外壁の小屋はボロボロだが、内部はまだ使える部品もあるだろう。
「見た目は駄目だけど、これだけ大きいと、蒸気エンジン積むなら、どうするか、とか、考えるとわくわくだね」
 脳裏でいろいろ考えながらマリアがラーケン三十二号の分解を始める。構造自体は蒸気機関取扱技術で理解できる。歯車の形状や役割は大きく変わるものではないようだ。
「蒸気機関を積むには、自重と強度が問題? 排熱処理も考えないと。フフフ……」
 微笑むマリアの表情は喜々としており、それがむしろ怖くもあった。

 かくしてイ・ラプセルの森を襲った脅威は阻止され、木材の流通は通常通りに戻った。
 ウィスター公爵の足取りはようとして掴めなかったが、まあどうでもいい。自由騎士達はよくわからない国の公爵のことなど忘れ、日常に戻っていく。片づけなくてはいけない事件はたくさんあるのだ。
「おのれ。イ・ラプセルの自由騎士! 覚えてろデース!」
 そんな声がどこかから聞こえてきた気もするが、空耳だよなと日常を謳歌する自由騎士達であった。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

称号付与
『戦場のお弁当お母さん』
取得者: トミコ・マール(CL3000192)

†あとがき†

どくどくです。
 MVPは悩みましたが、アフターケアのお弁当を用意したマール様に。キャラにあった行為で最も光っていましたので。
 さて今回のシナリオはd(雑音。ぶつ切りの音と良くわからないテーマソング)


「ミーの名前はキーリッシュ国ウィスター公爵! 皆の期待を受けてこの場を占拠した!」

次回予告!

「今に見ているデス、イ・ラプセルの自由騎士! 次なるミーの生み出したラーケン三十三号はメシテロ系。タバスコ爆弾を散布し、イ・ラプセルに激辛ブームを沸き起こすのデース! そして前もって大量に購入したトウガラシを高く売りつけ、キーリッシュ国の財源にしてやるデスヨ!
 次回『Fantastic!? 幻想激辛劇画、略してゲゲゲ!』にギアチェンジ!」

※シナリオの内容は予告なく変更する場合があります。

FL送付済