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Suffering! 料理の苦痛に耐えよ!

●奴隷解放の本番はここからだ!
ヘルメリアに根付いた奴隷システムは、払拭することが容易ではない。
国家をあげて『人の価値』を定めたことにより、常識を書き換えたのだ。人は空を飛べず、海に潜れない。そうであるように、亜人は人に逆らえない。生き物の禁忌を定める様にそれを決定する。牛や豚を家畜にするのが当然であるかのように、亜人は奴隷として当然であると決めたのだ。
結果としてヘルメリアはこの時代にはありえないほどの治安維持と、蒸気技術発展を為した。多数の奴隷による安定した労働力と鉱石供給。選民意識による優越感が生んだエリート思考。ノウブルを頂点としたピラミット構造が安定していたからこそ、ここまでの発展を生んだのだ。
当然犠牲は存在する。奴隷として扱われた亜人達の生活は劣悪そのものだ。人としての尊厳を奪われ、心は弄ばれる。ノウブルの趣味趣向によりその末路は決まり、命さえ奪われることもある。文字通り生活に密着する『モノ』として奴隷は存在していたのだ。
「どう……して……?」
だから――
「え、いや、だって奴隷禁止令らしいんで。イ・ラプセルは奴隷制度がないからキミ、クビね。はい、これ首輪の鍵。今外すから」
定食屋『金の釣り針』の店長は、ミズビトの奴隷の首輪の鍵を外す。
「ええええええええ!? あのあのあのあの! 私、ここを追い出されたら住む場所無いんですけど! っていうかこれまで通り店で雇ってくれないんですか!?」
「うん。だって雇うと給料払わないといけないし。悪いけどタダで住みこませる余裕もなくなったんだ。戦争で客が減ったんで余裕ないんで」
「あうあうあうあうあうあう」
店に住み込みで働いていたミズビトは、突然の解雇通知に目を白黒させる。奴隷ながらも何とか衣食住を確保し、忙しく貧しいながらもなんとか生きてこれたのだ。ここを追い出されてしまえば、この後どうやって生活していけばいいのだろうか。
「君は本当に良く働いてくれたし、一緒に過ごした分の情もある。でも、僕と家族が生きる為には、こうするしか方法はないんだ。
……これでも奴隷商人に売り渡さないだけ温情だと思ってほしい」
「…………そうですねぇ、今までありがとうございましたぁ、店長」
――奴隷を禁止し、一人のヒトとして扱うべし。
今まで『モノ』扱いしていた亜人を対等に扱うとなれば、こういった問題も発生するのであった。
●自由騎士のお仕事
「最近はそういう人達にお仕事を見繕うお仕事をしています!」
『六つ穴』レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。『お仕事』が重なりましたね、と頭を掻くレティーナ。
「『先生』曰く、ここで対策を討たないとあぶれた亜人さん達が良くて浮浪からの盗賊化。最悪、餓死して還リビトになるって言ってます。
それぞれの得意分野を聞いてから、炊き出しや積み荷の荷物おろしといったお仕事を割り振って、お金を渡しているのが現状です。デザイアさんのシステムをそのままスライドしている形ですね」
古今東西、社会変化によって職を得られなかった者の末路は生きる為に犯罪を犯すか、死ぬかだ。清貧を貫いて職を得たケースもないわけではないが、そういった者は運と素養と行動力がある限られた者となる。言うまでもなく、そういった者達を出さない社会を作るに越したことはない。イ・ラプセルは前もってその布石を打っていたのだ。
で、自由騎士が何故呼ばれたかというと――
「炊き出しを作っている公園でイブリースが発生するらしいです。水鏡からの情報だそうです。よくわかりませんけど、すごいですね。
ええと、料理がイブリース化するんで、食い止めてほしいそうです。料理している人もいるので、出来るならその安全を確保してほしいとか」
情報をまとめた書類がレティーナから渡される。それに目を通し、うんざりする自由騎士達。
「……料理?」
「はい。ヘルメリアの一般的な料理です」
そっかー。自由騎士達は生暖かい表情をした。これを料理と言っちゃうのかー。そんな顔だった。
ともあれ、無視はできない。気持ちを切り替えて、自由騎士達はイブリースが出没する場所に向かった。
ヘルメリアに根付いた奴隷システムは、払拭することが容易ではない。
国家をあげて『人の価値』を定めたことにより、常識を書き換えたのだ。人は空を飛べず、海に潜れない。そうであるように、亜人は人に逆らえない。生き物の禁忌を定める様にそれを決定する。牛や豚を家畜にするのが当然であるかのように、亜人は奴隷として当然であると決めたのだ。
結果としてヘルメリアはこの時代にはありえないほどの治安維持と、蒸気技術発展を為した。多数の奴隷による安定した労働力と鉱石供給。選民意識による優越感が生んだエリート思考。ノウブルを頂点としたピラミット構造が安定していたからこそ、ここまでの発展を生んだのだ。
当然犠牲は存在する。奴隷として扱われた亜人達の生活は劣悪そのものだ。人としての尊厳を奪われ、心は弄ばれる。ノウブルの趣味趣向によりその末路は決まり、命さえ奪われることもある。文字通り生活に密着する『モノ』として奴隷は存在していたのだ。
「どう……して……?」
だから――
「え、いや、だって奴隷禁止令らしいんで。イ・ラプセルは奴隷制度がないからキミ、クビね。はい、これ首輪の鍵。今外すから」
定食屋『金の釣り針』の店長は、ミズビトの奴隷の首輪の鍵を外す。
「ええええええええ!? あのあのあのあの! 私、ここを追い出されたら住む場所無いんですけど! っていうかこれまで通り店で雇ってくれないんですか!?」
「うん。だって雇うと給料払わないといけないし。悪いけどタダで住みこませる余裕もなくなったんだ。戦争で客が減ったんで余裕ないんで」
「あうあうあうあうあうあう」
店に住み込みで働いていたミズビトは、突然の解雇通知に目を白黒させる。奴隷ながらも何とか衣食住を確保し、忙しく貧しいながらもなんとか生きてこれたのだ。ここを追い出されてしまえば、この後どうやって生活していけばいいのだろうか。
「君は本当に良く働いてくれたし、一緒に過ごした分の情もある。でも、僕と家族が生きる為には、こうするしか方法はないんだ。
……これでも奴隷商人に売り渡さないだけ温情だと思ってほしい」
「…………そうですねぇ、今までありがとうございましたぁ、店長」
――奴隷を禁止し、一人のヒトとして扱うべし。
今まで『モノ』扱いしていた亜人を対等に扱うとなれば、こういった問題も発生するのであった。
●自由騎士のお仕事
「最近はそういう人達にお仕事を見繕うお仕事をしています!」
『六つ穴』レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)は集まった自由騎士達を前に説明を開始する。『お仕事』が重なりましたね、と頭を掻くレティーナ。
「『先生』曰く、ここで対策を討たないとあぶれた亜人さん達が良くて浮浪からの盗賊化。最悪、餓死して還リビトになるって言ってます。
それぞれの得意分野を聞いてから、炊き出しや積み荷の荷物おろしといったお仕事を割り振って、お金を渡しているのが現状です。デザイアさんのシステムをそのままスライドしている形ですね」
古今東西、社会変化によって職を得られなかった者の末路は生きる為に犯罪を犯すか、死ぬかだ。清貧を貫いて職を得たケースもないわけではないが、そういった者は運と素養と行動力がある限られた者となる。言うまでもなく、そういった者達を出さない社会を作るに越したことはない。イ・ラプセルは前もってその布石を打っていたのだ。
で、自由騎士が何故呼ばれたかというと――
「炊き出しを作っている公園でイブリースが発生するらしいです。水鏡からの情報だそうです。よくわかりませんけど、すごいですね。
ええと、料理がイブリース化するんで、食い止めてほしいそうです。料理している人もいるので、出来るならその安全を確保してほしいとか」
情報をまとめた書類がレティーナから渡される。それに目を通し、うんざりする自由騎士達。
「……料理?」
「はい。ヘルメリアの一般的な料理です」
そっかー。自由騎士達は生暖かい表情をした。これを料理と言っちゃうのかー。そんな顔だった。
ともあれ、無視はできない。気持ちを切り替えて、自由騎士達はイブリースが出没する場所に向かった。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.イブリースの全滅
2.一般人の犠牲を5名までに押さえる
2.一般人の犠牲を5名までに押さえる
どくどくです。
浄化されて戻った料理は、スタッフ(自由騎士)が完食してくれます。
●敵情報
・ヘルメリア料理
亜人達が一生懸命作った料理です。分類はイブリース。浄化すると、普通に食べられるようになります。味はともかく。
・フィッシュ&チップス(×3)
タラの白身魚とポテトのフライです。二つ合わせて一キャラクター。イブリース化して人間大ほどに巨大化しています。ケチャップをつけるとケチャップの味がします。そのままだとめっちゃ脂っぽいです。まだ食える。
攻撃方法
体当たり 攻近単 体当たりしてきます。熱くて脂っぽいです。【バーン1】
ポテト弾 攻遠単 あげたポテトを投擲してきます。不味いです。【ポイズン1】
・マッシュポテト(×2)
ポテトを潰した料理です。過剰に加熱してグチョグチョなスライム状態。味付けしないと味はありません。イブリース化して人間大ほどに肥大化しています。心を無にすれば食える。
攻撃方法
纏わりつき 攻近単 グチョグチョのポテトがまとわりつきます。
ポテト投擲 魔遠単 自分の身体をちぎって投げてきます。【HP消費50】【パラライズ1】
・生のニンジン(×2)
生のニンジンです。そのままポリポリ食べます。硬いです。イブリース化して人間大ほどになってます。味はニンジンの味です。食えるけど料理ではない。
攻撃方法
体当たり 攻近単 思いっきりぶつかってきます。痛いです。【必殺】
●NPC
・公園の人達(×15)
元奴隷や料理を食べに来た人達。何もしなければ3ターン程パニックに陥って、それから逃げだします。
自由騎士が声掛けしたりすることで、パニックを迅速に治めることが出来ます。技能やプレイング、貢献値などで治める効果が増加します。
・レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)
道案内的に同行します。戦闘もできますが、指示されなければ公園に来ている人の避難誘導に回るようです。指示は相談卓内でお願いします(プレイング節約のため)。
戦闘になれば、ドリルアーム等を使って身近なイブリースに近接攻撃を仕掛けます。
●場所情報
ヘルメリアの公園。イ・ラプセル占領下なので、身バレとかは気にしなくていいです。
時刻は昼。周囲には料理を食べに来た人と、料理を作っている人がいます。合計で十五名。自由騎士の言葉には従います。足場や広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、『フィッシュ&チップス(×3)』『マッシュポテト(×2)』『生のニンジン(×2)』が前衛にいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
浄化されて戻った料理は、スタッフ(自由騎士)が完食してくれます。
●敵情報
・ヘルメリア料理
亜人達が一生懸命作った料理です。分類はイブリース。浄化すると、普通に食べられるようになります。味はともかく。
・フィッシュ&チップス(×3)
タラの白身魚とポテトのフライです。二つ合わせて一キャラクター。イブリース化して人間大ほどに巨大化しています。ケチャップをつけるとケチャップの味がします。そのままだとめっちゃ脂っぽいです。まだ食える。
攻撃方法
体当たり 攻近単 体当たりしてきます。熱くて脂っぽいです。【バーン1】
ポテト弾 攻遠単 あげたポテトを投擲してきます。不味いです。【ポイズン1】
・マッシュポテト(×2)
ポテトを潰した料理です。過剰に加熱してグチョグチョなスライム状態。味付けしないと味はありません。イブリース化して人間大ほどに肥大化しています。心を無にすれば食える。
攻撃方法
纏わりつき 攻近単 グチョグチョのポテトがまとわりつきます。
ポテト投擲 魔遠単 自分の身体をちぎって投げてきます。【HP消費50】【パラライズ1】
・生のニンジン(×2)
生のニンジンです。そのままポリポリ食べます。硬いです。イブリース化して人間大ほどになってます。味はニンジンの味です。食えるけど料理ではない。
攻撃方法
体当たり 攻近単 思いっきりぶつかってきます。痛いです。【必殺】
●NPC
・公園の人達(×15)
元奴隷や料理を食べに来た人達。何もしなければ3ターン程パニックに陥って、それから逃げだします。
自由騎士が声掛けしたりすることで、パニックを迅速に治めることが出来ます。技能やプレイング、貢献値などで治める効果が増加します。
・レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)
道案内的に同行します。戦闘もできますが、指示されなければ公園に来ている人の避難誘導に回るようです。指示は相談卓内でお願いします(プレイング節約のため)。
戦闘になれば、ドリルアーム等を使って身近なイブリースに近接攻撃を仕掛けます。
●場所情報
ヘルメリアの公園。イ・ラプセル占領下なので、身バレとかは気にしなくていいです。
時刻は昼。周囲には料理を食べに来た人と、料理を作っている人がいます。合計で十五名。自由騎士の言葉には従います。足場や広さなどは戦闘に支障なし。
戦闘開始時、『フィッシュ&チップス(×3)』『マッシュポテト(×2)』『生のニンジン(×2)』が前衛にいます。
急いでいるため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
完了
報酬マテリア
2個
2個
2個
6個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
6/8
6/8
公開日
2020年01月15日
2020年01月15日
†メイン参加者 6人†
●
フィッシュアンドチップス。マッシュポテト。キャロット。
イブリース化して巨大化したとはいえ、元の料理はヘルメリアの味気ない、或いは一つの濃い味しかしないものだ。それを前にしてイ・ラプセルの自由騎士団は微妙な表情を浮かべていた。
「いや、人様が育てて料理したものを悪く言いたくはないけどさ……」
煮込み過ぎてぐちょぐちゅになっているマッシュポテトを見ながら『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は言葉を継ぐことが出来なかった。他国の文化を悪く言うつもりはない。ないんだが……色々どうにかしないといけないと決意する。
「どげんとせんといかん」
「料理は失敗を重ねて覚えていくもの。日々精進が必要なのです」
『空飛ぶナポリタンの使徒』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は両手を合わせて祈りの言葉を捧げる。『フライングパスタモンスター教』にまつわる『そうあれかし』という単語を呟き、武器を手にする。
「偶然にもパスタが此処に在りますので」
「具無しの塩スープがあれば完璧だな。ポテトの量は少し多いが」
ヘルメリア出身の『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)はイブリース化した料理を見てそう呟く。ヘルメリアにいた頃に食べていた料理だ。故郷を懐かしむ想いはあるが、今は戦いに赴かなくては。
「フィッシュアンドチップスも、焼いた部位によっちゃそのままいけるんだけどなぁ」
「炊き出しがイブリース化って……納得できる自分が嫌だわ」
ため息をつくように『灼熱からの帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)は呟いた。ザルクもまたヘルメリア出身者だが、こちらは故郷のことなど思い出したくもない人間だ。正確にはあの味気ないねちゃねちゃした拷問のような料理を、だが。
「イ・ラプセルの料理に慣れちまうと、もう戻れねぇな」
「どちらかというと、炊き出しを行っていた人間が気になるな」
イブリース化のショックで混乱している亜人達を見ながらウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が口を開く。今の生活補助とて長く続けていくわけにはいかない。いずれは自立してほしいのだが、それはまず今の危険を排してからだ。
「折角得られた自由の切符だ。有効活用させたいね」
「食事は……楽しみの場だからね……。出来るなら、けが人なしで、収めたいな」
暴れはじめるイブリースを見ながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は決意を言葉にする。奴隷から解放された亜人達の新たな生活。その生活に影を落とすようなことがあってはならない。
「終わった後に、皆で食べあわないかい……?」
暴れまわるイブリース。その攻撃圏内に足を踏み入れる自由騎士達。武器を構えて戦意を向ける。それに反応したのか、イブリースも自由騎士の方に向き直……ったんだろうと思われる動作をする。顔とかないからよくわからないけど。
「じゃあ、避難誘導しますね!」
レティーナが軽く手をあげて自由騎士に告げる。その声に頷き、そして自由騎士達も申し合わせたように動き出す。
ヘルメリアの亜人達が見守る中、自由騎士とイブリースとの戦いが幕を開ける。
●
「皆様落ち着いて、こちらの自由騎士に従って慌てず急がず避難して下さい!」
一番最初に動いたのはアンジェリカだった。お腹に力を込めて、声を大にして叫ぶ。声が大きいだけではない。空気を響かせ、よく『通る』声だ。その声にパニックから脱した人達は、我を取り戻して離れていく。
その姿を横目で見ながらアンジェリカは武器を振るう。巨大化したニンジンを前に巨大な十字架を掲げ、力を込める。足、腰、肩、腕と力を伝達させインパクトの瞬間に武器を強く握りしめて全ての力を収縮させる。強い衝撃がイブリースを穿った。
「下ごしらえは重要です。先ずは細かく刻んでいきましょう」
「まあ、本当にただのニンジンだからな」
ザルクはいろいろすまなそうな目をする。ヘルメリアの料理が『雑』なのはザルクのせいではないのだが、生まれ故郷故になんとなく申し訳なくなる。朝食代わりに生のニンジンをかじったりしていた光景を思い出し、いたたまれなくなる。
二挺拳銃を構え、イブリースに向ける。狙う相手はフィッシュ&チップス。ギトギトに脂ぎった揚げ物に向けて、炎の弾丸を討ち放った。炎の尾を引いて飛来する弾丸がイブリースの身体を燃やしていく。
「くっそ、ギトギトだな。おまけに油の質も悪いと来たか」
「そりゃ数日単位で同じ油使ってるだろうからな」
あーうん、と頷くニコラス。ヘルメリア人として、台所事情はなんとなく理解できる。この時代油は貴重で、料理に使うなら限界までと言うのが通説だ。蒸気で灯が作れるようになったヘルメリアでも、それは強く根付いているようだ。単に気にしてないだけかもだが。
それを責めている余裕はない。相手はイブリース。ふざけていれば大怪我をする。ニコラスは一歩下がった一で魔力を練り上げ、そして解き放つ。癒しの光が味方を包み込みイブリースによって受けたダメージを癒していく。
「やっぱりあれ、食うの? おじさん、食べる量は人並みだよ」
「浄化すれば……元の大きさに戻るよ?」
ニコラスの言葉に軽く頷くマグノリア。気にしているのは量のことではないのだろうが、ともあれ食べるつもりでいるのは確かなようだ。錬金術と料理は通じるものがあるという学者もいる。ならば正しい調理をすれば、ヘルメリア料理もおいしくなるのだろう。多分。
魔力の波を解き放ち、イブリースの足止めをするマグノリア。その隙に周りの人間が逃げていくのを見ながら、聖遺物を振るい魔力を解き放つ。錬金術の法則に従い赤き水がほとばしり、味方の体力を底上げしていく。
「僕がラボに籠って食べている物よりは……温かい分、ちゃんとした料理だと思うよ」
「マグノリアさんもきちんとした料理を食べないといけないと思います!」
マグノリアの言葉にびしっと指摘するナバル。他人の生活に口出しをしたくはないが、研究に籠ってまともに物を食べないのはやはりよくない。料理は一日のエネルギー源だ。それをきちんととるからこそ、健康的な生活が出来るのだから。
槍と盾を構え、イブリースの前に立つナバル。茹ですぎてグチョグチョになったマッシュポテトの前に立ち、防御の構えを取る。気を引き締めながらイブリースの攻撃を受け止め、まとわりつく感覚に耐えながら体を動かしていく。
「オレはポテトに強い。いや、麻痺に強い。この芋の抑えは任せてもらおう!」
「頼んだぜ。俺とレティーナも誘導を終わらせればすぐに向かう」
ナバルにそう言ってからウェルスは羽ばたき機械を使って逃げ遅れた亜人達に近づいていく。イブリースと亜人達の間に入って、盾になるような位置取りをしながら逃げるように声をかけ、レティーナに誘導を任せていく。
イブリースに攻撃の兆候が見える。背後を確認しながら腕を交差して防御の構えを取るウェルス。是が非でも後ろの亜人達に攻撃を通すわけにはいかないと足を踏ん張り、投擲されたポテトをその身で受ける。後ろに攻撃が行っていない事を確認し、笑みを浮かべた。
「覚えてな、そこのポテト。きっちり止めを刺してやるからな」
誘導に手を割きながら、イブリースを押さえる自由騎士達。適切な配分により、怪我人を出すことなく公園の人間の避難は完了した。後はイブリースを排するのみだ。
自由騎士達は武器を構え、イブリースに立ち向かう。
●
守るべき人達が安全件に移動すれば、憂いなく自由騎士は戦いに集中できる。
「自爆しなーい、ぱーんち!」
レティーナの掛け声に何かしらの不安を感じつつ、自由騎士達はイブリースを処理していく。
「一気に処理していくぜ」
避難誘導を終えてレティーナと共に戦線に戻ったウェルスは、銃を構えて腰を下ろす。銃のアタッチメントを操作して、弾丸をばらまきながら銃口を左右に振る。鋼の弾幕がカーテンのようにイブリースに迫り、そのまま弾丸を射叩きつける。
「数が減ってくれば、攻撃する余裕もできるね」
イブリースの数が減るにつれて、こちらの被弾率が減ってくる。そうなればマグノリアも攻撃に参加する余裕が生まれてきた。燃えるような薬品を生成し、魔力で包み込んでイブリースに注ぎ込む。物理的かつ霊的に存在を削っていく。
「ああちくしょう! 不味いポテトを投げてくるな!」
マッシュポテトを避けながらザルクは叫ぶ。かつての自分はこういったヘルメリア料理を何の疑問もなく食べていたのだ。それしか知らなかったとはいえ、恐ろしい事である。もうあの頃には戻れないだろう。
「食感もクソもないな……芋の臭いしかしねえ……」
下地なく鍋で10時間ほど煮込まれたような――ような、ではなく概ねそんな感じのポテトを受け止めながらナバルは陰気な声を出す。言うなればポテトのポテト煮込み。あるのはただ満腹感のみ。これを食事と呼んじゃいけないとナバルは強く頷く。
「単体で食べるには確かに厳しい品々ですわね」
煮込み過ぎたポテト、ニンジン、脂ぎった白身魚のフライ。アンジェリカはそれらの味を想像しながら、これをどうしたものかと思案する。炊き出しであるため簡素な調理法になるのは致し方ない。攻めて後ひと工夫欲しい所である。
「いやいやいけますよ。フィッシュアンドチップスをメインにして、ポテトで口直し。合間にニンジン」
油分多めのフィッシュアンドチップスを浄化するようにポテトとニンジンで口直し。そんな『戦略』を口にしたニコラスだが、それでも辛いんだよなぁと苦笑した。やれと言われればやりたくないのが本音である。
愚痴をこぼしながらも連携を取って動く自由騎士達。ニコラスとマグノリアの回復を基点に、確実にイブリースにダメージを積み重ねていく。
「こいつでトドメだ!」
最後に残ったフィッシュアンドチップスに銃口を向けるザルク。構えた二挺の銃口から魔を滅する弾丸が放たれる。アクアディーネの浄化の権能を乗せた聖弾は狙いを外すことなくフィッシュアンドチップスに命中した。
「こういうのはこれっきりにしてほしいぜ。胸やけしそうだ」
フィッシュアンドチップスの味を思い出しながら、苦笑するザルク。両手の銃をホルスターにしまい、幻痛を消すようにタバコに火を点けた。
●
「ありがとうございます!」
「お礼に御一つどうですか!?」
イブリースを退治した自由騎士達に礼を告げる炊き出しをしていた亜人達。好意で料理を差し出され、その笑顔に耐えきれず受け取って一口含めば、予想以上の衝撃が襲い掛かってきた。
先ずフィッシュアンドチップス。油だ。白身魚のフライと言う名目だが、油の味が口の中に広がる。まるで味覚すべてを蹂躙するように脂が広がり、そして白身魚の食感だけが噛んだ歯でわかる。その食感も、タラのどの部位を使ったかで異なるのだ。
そしてマッシュポテト。素晴らしきかな、飲み込めると錯覚してしまいそうなほどグチョグチョだ。だがそのまま飲み込めば喉に引っかかる。三度程口内で噛みしめ、ポテトの味100%の味わいを堪能し、嚥下する。
そしてニンジン。天然素材100%。皮すら向いていない素のニンジン。せめてもの情けとばかりに水洗いはされているが、それを喰らうには歯の力がいる。げっ歯類のような切歯がない人間の歯では、慣れないうちは難儀するだろう。
改めて、自由騎士達は思う。これはだめだ。
「とりあえず、飲み物かな。エールと……未成年の人にはジュースを」
マグノリアは用意してきたエールとジュースを持ってくる。物を食べれば喉が渇く。その喉を潤す為の水分は大事だ。そういった見地もあるが、美味しい飲み物があれば話も弾む。そんな場を和ます意味もあった。
「あ、やっぱり食うの? だよねー」
ニコラスは半ばあきらめたようにため息をついた。正直、このまま帰りたいが仲間達のやる気を無駄にするわけにもいかない。とりあえず塩で誤魔化せばどうにかなるだろう。後は水気を取り除いて焼くか。ヘルメリア生活が生きる瞬間であった。
「奇跡的にパスタがありますね。ええ、神の思し召しです」
『偶々持っていた』パスタをベースにアンジェリカが料理を始める。炊き出しに使っていた火を使い、各ヘルメリア料理を調理していく。脂分を紙で吸い取り軽減し、細かく刻んでガーリックと一緒に痛める。ひと手間加えて料理をより良くしていく。
「料理教室も支援活動の一つかね」
お料理教室に目を向けながらザルクはそんなことを思う。他国でも通じる料理を作ることが出来れば、生きる為の選択の幅が広がる。ヘルメリアと言う国から離れて、広い世界を見るきっかけになれば……というのもあるが、故郷の料理はもう少しよくしたいものだ。
「いただきます」
酢と塩で味付けされた料理を前にして手を合わせるナバル。どういう形であれ、料理されたものを捨てるのは許されない。出来る限り食べられるようにして、口に含む。オレの体の血肉となってくれ。そう祈って口を開く。
「そうだな。余裕が出来ればでいいんで他の仕事の訓練をしてみないか? 炊き出し以外にもいろいろやってみるのもいいだろうよ」
ウェルスは亜人達に様々な仕事の道を示していた。今まで奴隷として扱われてきた彼らに、『ヒト』としての可能性を切り拓く為だ。様々なスキルを得て様々な仕事に進んでいく。そうすることで世界は広がっていくのだから。
数分前までは阿鼻叫喚だった公園は、いつの間にか和気藹々とした食事会となっていた。
働いている亜人達は自由騎士達の働きにより、多少は料理に関心を持つ者が増えた。そして炊き出し以外のいろいろな職業にも目を向け、その勉学の準備を進めている者もいるようだ。
広い見地と広い視野を持つことで、奴隷時代ではありえなかった未来が見えてきた。彼らがこれからどのような道を進んでいくのか。それはまた別の話――
…………とまあ、ここで終わればそれなりにいい話なのだが。
「大変です! 今度はサンドイッチ(具なし)がイブリース化しました!」
硬くてパサパサした二枚組パンのイブリース。その報告を聞いて異文化交流は難しいなぁ、と自由騎士達は頭を抱えるのであった。
フィッシュアンドチップス。マッシュポテト。キャロット。
イブリース化して巨大化したとはいえ、元の料理はヘルメリアの味気ない、或いは一つの濃い味しかしないものだ。それを前にしてイ・ラプセルの自由騎士団は微妙な表情を浮かべていた。
「いや、人様が育てて料理したものを悪く言いたくはないけどさ……」
煮込み過ぎてぐちょぐちゅになっているマッシュポテトを見ながら『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は言葉を継ぐことが出来なかった。他国の文化を悪く言うつもりはない。ないんだが……色々どうにかしないといけないと決意する。
「どげんとせんといかん」
「料理は失敗を重ねて覚えていくもの。日々精進が必要なのです」
『空飛ぶナポリタンの使徒』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は両手を合わせて祈りの言葉を捧げる。『フライングパスタモンスター教』にまつわる『そうあれかし』という単語を呟き、武器を手にする。
「偶然にもパスタが此処に在りますので」
「具無しの塩スープがあれば完璧だな。ポテトの量は少し多いが」
ヘルメリア出身の『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)はイブリース化した料理を見てそう呟く。ヘルメリアにいた頃に食べていた料理だ。故郷を懐かしむ想いはあるが、今は戦いに赴かなくては。
「フィッシュアンドチップスも、焼いた部位によっちゃそのままいけるんだけどなぁ」
「炊き出しがイブリース化って……納得できる自分が嫌だわ」
ため息をつくように『灼熱からの帰還者』ザルク・ミステル(CL3000067)は呟いた。ザルクもまたヘルメリア出身者だが、こちらは故郷のことなど思い出したくもない人間だ。正確にはあの味気ないねちゃねちゃした拷問のような料理を、だが。
「イ・ラプセルの料理に慣れちまうと、もう戻れねぇな」
「どちらかというと、炊き出しを行っていた人間が気になるな」
イブリース化のショックで混乱している亜人達を見ながらウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が口を開く。今の生活補助とて長く続けていくわけにはいかない。いずれは自立してほしいのだが、それはまず今の危険を排してからだ。
「折角得られた自由の切符だ。有効活用させたいね」
「食事は……楽しみの場だからね……。出来るなら、けが人なしで、収めたいな」
暴れはじめるイブリースを見ながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は決意を言葉にする。奴隷から解放された亜人達の新たな生活。その生活に影を落とすようなことがあってはならない。
「終わった後に、皆で食べあわないかい……?」
暴れまわるイブリース。その攻撃圏内に足を踏み入れる自由騎士達。武器を構えて戦意を向ける。それに反応したのか、イブリースも自由騎士の方に向き直……ったんだろうと思われる動作をする。顔とかないからよくわからないけど。
「じゃあ、避難誘導しますね!」
レティーナが軽く手をあげて自由騎士に告げる。その声に頷き、そして自由騎士達も申し合わせたように動き出す。
ヘルメリアの亜人達が見守る中、自由騎士とイブリースとの戦いが幕を開ける。
●
「皆様落ち着いて、こちらの自由騎士に従って慌てず急がず避難して下さい!」
一番最初に動いたのはアンジェリカだった。お腹に力を込めて、声を大にして叫ぶ。声が大きいだけではない。空気を響かせ、よく『通る』声だ。その声にパニックから脱した人達は、我を取り戻して離れていく。
その姿を横目で見ながらアンジェリカは武器を振るう。巨大化したニンジンを前に巨大な十字架を掲げ、力を込める。足、腰、肩、腕と力を伝達させインパクトの瞬間に武器を強く握りしめて全ての力を収縮させる。強い衝撃がイブリースを穿った。
「下ごしらえは重要です。先ずは細かく刻んでいきましょう」
「まあ、本当にただのニンジンだからな」
ザルクはいろいろすまなそうな目をする。ヘルメリアの料理が『雑』なのはザルクのせいではないのだが、生まれ故郷故になんとなく申し訳なくなる。朝食代わりに生のニンジンをかじったりしていた光景を思い出し、いたたまれなくなる。
二挺拳銃を構え、イブリースに向ける。狙う相手はフィッシュ&チップス。ギトギトに脂ぎった揚げ物に向けて、炎の弾丸を討ち放った。炎の尾を引いて飛来する弾丸がイブリースの身体を燃やしていく。
「くっそ、ギトギトだな。おまけに油の質も悪いと来たか」
「そりゃ数日単位で同じ油使ってるだろうからな」
あーうん、と頷くニコラス。ヘルメリア人として、台所事情はなんとなく理解できる。この時代油は貴重で、料理に使うなら限界までと言うのが通説だ。蒸気で灯が作れるようになったヘルメリアでも、それは強く根付いているようだ。単に気にしてないだけかもだが。
それを責めている余裕はない。相手はイブリース。ふざけていれば大怪我をする。ニコラスは一歩下がった一で魔力を練り上げ、そして解き放つ。癒しの光が味方を包み込みイブリースによって受けたダメージを癒していく。
「やっぱりあれ、食うの? おじさん、食べる量は人並みだよ」
「浄化すれば……元の大きさに戻るよ?」
ニコラスの言葉に軽く頷くマグノリア。気にしているのは量のことではないのだろうが、ともあれ食べるつもりでいるのは確かなようだ。錬金術と料理は通じるものがあるという学者もいる。ならば正しい調理をすれば、ヘルメリア料理もおいしくなるのだろう。多分。
魔力の波を解き放ち、イブリースの足止めをするマグノリア。その隙に周りの人間が逃げていくのを見ながら、聖遺物を振るい魔力を解き放つ。錬金術の法則に従い赤き水がほとばしり、味方の体力を底上げしていく。
「僕がラボに籠って食べている物よりは……温かい分、ちゃんとした料理だと思うよ」
「マグノリアさんもきちんとした料理を食べないといけないと思います!」
マグノリアの言葉にびしっと指摘するナバル。他人の生活に口出しをしたくはないが、研究に籠ってまともに物を食べないのはやはりよくない。料理は一日のエネルギー源だ。それをきちんととるからこそ、健康的な生活が出来るのだから。
槍と盾を構え、イブリースの前に立つナバル。茹ですぎてグチョグチョになったマッシュポテトの前に立ち、防御の構えを取る。気を引き締めながらイブリースの攻撃を受け止め、まとわりつく感覚に耐えながら体を動かしていく。
「オレはポテトに強い。いや、麻痺に強い。この芋の抑えは任せてもらおう!」
「頼んだぜ。俺とレティーナも誘導を終わらせればすぐに向かう」
ナバルにそう言ってからウェルスは羽ばたき機械を使って逃げ遅れた亜人達に近づいていく。イブリースと亜人達の間に入って、盾になるような位置取りをしながら逃げるように声をかけ、レティーナに誘導を任せていく。
イブリースに攻撃の兆候が見える。背後を確認しながら腕を交差して防御の構えを取るウェルス。是が非でも後ろの亜人達に攻撃を通すわけにはいかないと足を踏ん張り、投擲されたポテトをその身で受ける。後ろに攻撃が行っていない事を確認し、笑みを浮かべた。
「覚えてな、そこのポテト。きっちり止めを刺してやるからな」
誘導に手を割きながら、イブリースを押さえる自由騎士達。適切な配分により、怪我人を出すことなく公園の人間の避難は完了した。後はイブリースを排するのみだ。
自由騎士達は武器を構え、イブリースに立ち向かう。
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守るべき人達が安全件に移動すれば、憂いなく自由騎士は戦いに集中できる。
「自爆しなーい、ぱーんち!」
レティーナの掛け声に何かしらの不安を感じつつ、自由騎士達はイブリースを処理していく。
「一気に処理していくぜ」
避難誘導を終えてレティーナと共に戦線に戻ったウェルスは、銃を構えて腰を下ろす。銃のアタッチメントを操作して、弾丸をばらまきながら銃口を左右に振る。鋼の弾幕がカーテンのようにイブリースに迫り、そのまま弾丸を射叩きつける。
「数が減ってくれば、攻撃する余裕もできるね」
イブリースの数が減るにつれて、こちらの被弾率が減ってくる。そうなればマグノリアも攻撃に参加する余裕が生まれてきた。燃えるような薬品を生成し、魔力で包み込んでイブリースに注ぎ込む。物理的かつ霊的に存在を削っていく。
「ああちくしょう! 不味いポテトを投げてくるな!」
マッシュポテトを避けながらザルクは叫ぶ。かつての自分はこういったヘルメリア料理を何の疑問もなく食べていたのだ。それしか知らなかったとはいえ、恐ろしい事である。もうあの頃には戻れないだろう。
「食感もクソもないな……芋の臭いしかしねえ……」
下地なく鍋で10時間ほど煮込まれたような――ような、ではなく概ねそんな感じのポテトを受け止めながらナバルは陰気な声を出す。言うなればポテトのポテト煮込み。あるのはただ満腹感のみ。これを食事と呼んじゃいけないとナバルは強く頷く。
「単体で食べるには確かに厳しい品々ですわね」
煮込み過ぎたポテト、ニンジン、脂ぎった白身魚のフライ。アンジェリカはそれらの味を想像しながら、これをどうしたものかと思案する。炊き出しであるため簡素な調理法になるのは致し方ない。攻めて後ひと工夫欲しい所である。
「いやいやいけますよ。フィッシュアンドチップスをメインにして、ポテトで口直し。合間にニンジン」
油分多めのフィッシュアンドチップスを浄化するようにポテトとニンジンで口直し。そんな『戦略』を口にしたニコラスだが、それでも辛いんだよなぁと苦笑した。やれと言われればやりたくないのが本音である。
愚痴をこぼしながらも連携を取って動く自由騎士達。ニコラスとマグノリアの回復を基点に、確実にイブリースにダメージを積み重ねていく。
「こいつでトドメだ!」
最後に残ったフィッシュアンドチップスに銃口を向けるザルク。構えた二挺の銃口から魔を滅する弾丸が放たれる。アクアディーネの浄化の権能を乗せた聖弾は狙いを外すことなくフィッシュアンドチップスに命中した。
「こういうのはこれっきりにしてほしいぜ。胸やけしそうだ」
フィッシュアンドチップスの味を思い出しながら、苦笑するザルク。両手の銃をホルスターにしまい、幻痛を消すようにタバコに火を点けた。
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「ありがとうございます!」
「お礼に御一つどうですか!?」
イブリースを退治した自由騎士達に礼を告げる炊き出しをしていた亜人達。好意で料理を差し出され、その笑顔に耐えきれず受け取って一口含めば、予想以上の衝撃が襲い掛かってきた。
先ずフィッシュアンドチップス。油だ。白身魚のフライと言う名目だが、油の味が口の中に広がる。まるで味覚すべてを蹂躙するように脂が広がり、そして白身魚の食感だけが噛んだ歯でわかる。その食感も、タラのどの部位を使ったかで異なるのだ。
そしてマッシュポテト。素晴らしきかな、飲み込めると錯覚してしまいそうなほどグチョグチョだ。だがそのまま飲み込めば喉に引っかかる。三度程口内で噛みしめ、ポテトの味100%の味わいを堪能し、嚥下する。
そしてニンジン。天然素材100%。皮すら向いていない素のニンジン。せめてもの情けとばかりに水洗いはされているが、それを喰らうには歯の力がいる。げっ歯類のような切歯がない人間の歯では、慣れないうちは難儀するだろう。
改めて、自由騎士達は思う。これはだめだ。
「とりあえず、飲み物かな。エールと……未成年の人にはジュースを」
マグノリアは用意してきたエールとジュースを持ってくる。物を食べれば喉が渇く。その喉を潤す為の水分は大事だ。そういった見地もあるが、美味しい飲み物があれば話も弾む。そんな場を和ます意味もあった。
「あ、やっぱり食うの? だよねー」
ニコラスは半ばあきらめたようにため息をついた。正直、このまま帰りたいが仲間達のやる気を無駄にするわけにもいかない。とりあえず塩で誤魔化せばどうにかなるだろう。後は水気を取り除いて焼くか。ヘルメリア生活が生きる瞬間であった。
「奇跡的にパスタがありますね。ええ、神の思し召しです」
『偶々持っていた』パスタをベースにアンジェリカが料理を始める。炊き出しに使っていた火を使い、各ヘルメリア料理を調理していく。脂分を紙で吸い取り軽減し、細かく刻んでガーリックと一緒に痛める。ひと手間加えて料理をより良くしていく。
「料理教室も支援活動の一つかね」
お料理教室に目を向けながらザルクはそんなことを思う。他国でも通じる料理を作ることが出来れば、生きる為の選択の幅が広がる。ヘルメリアと言う国から離れて、広い世界を見るきっかけになれば……というのもあるが、故郷の料理はもう少しよくしたいものだ。
「いただきます」
酢と塩で味付けされた料理を前にして手を合わせるナバル。どういう形であれ、料理されたものを捨てるのは許されない。出来る限り食べられるようにして、口に含む。オレの体の血肉となってくれ。そう祈って口を開く。
「そうだな。余裕が出来ればでいいんで他の仕事の訓練をしてみないか? 炊き出し以外にもいろいろやってみるのもいいだろうよ」
ウェルスは亜人達に様々な仕事の道を示していた。今まで奴隷として扱われてきた彼らに、『ヒト』としての可能性を切り拓く為だ。様々なスキルを得て様々な仕事に進んでいく。そうすることで世界は広がっていくのだから。
数分前までは阿鼻叫喚だった公園は、いつの間にか和気藹々とした食事会となっていた。
働いている亜人達は自由騎士達の働きにより、多少は料理に関心を持つ者が増えた。そして炊き出し以外のいろいろな職業にも目を向け、その勉学の準備を進めている者もいるようだ。
広い見地と広い視野を持つことで、奴隷時代ではありえなかった未来が見えてきた。彼らがこれからどのような道を進んでいくのか。それはまた別の話――
…………とまあ、ここで終わればそれなりにいい話なのだが。
「大変です! 今度はサンドイッチ(具なし)がイブリース化しました!」
硬くてパサパサした二枚組パンのイブリース。その報告を聞いて異文化交流は難しいなぁ、と自由騎士達は頭を抱えるのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『マッシュポテト』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員
†あとがき†
こんな国にだれがした。
FL送付済