MagiaSteam
Vandalism! ドナー基地への破壊工作!



●ブレインストーミングより
「『チャイルドギア』の核となる子供の『調律』が行われている施設の破壊、および子供達の救出だ。
 調律には約一ヶ月の時間が必要なことが判っている。調律を妨害し子供を一人救出すれば、ギア一台のロールアウトを一ヶ月遅延させられる」

 アデル・ハビッツ(CL3000496)の意見を受けて、調査を開始するイ・ラプセル軍。諜報部隊の活動により、その場所を特定する。
 なぜここまで早い発見になったかと言うと、その施設にはあからさまな防衛機構が見られたからである。その名前は――

●調査の結果――
「拠点の名前はドナー基地。工場と軍事拠点を二分した場所です。
 そしてそこには『プロメテウス/ファッケル』と呼ばれる軍事兵器が鎮座しています」
 調査に赴いたジョン・コーリナー(nCL3000046)は、そう報告する。
 プロメテウス――大きさ4mほどの人型兵器で、元はヘルメリアの兵器だった。その技術を持ったモノがヴィスマルクに亡命し、ヴィスマルクの鉄鉱石や軍事工房を利用して新たに作り出された兵器だ。
「主だって火炎放射を主武器とした施設破壊および対人用の兵器ですね。
 複数の『チャイルドギア』装着により複雑な動きを可能とし、それを駆るパイロットも名うての戦車乗りを再訓練したエリート。施設を守る軍人も厳選されており、隙が無い状態です」
 聞けば聞くほど隙が無い。ジョンもお手上げですね、と手をあげた。
「ドルヒ収容所のように、真正面から攻めてその隙をつくと言うのは……」
「無理ですね。一度使った策なので警戒されます」
「なら力づくでプロメテウスを廃すれば……」
「敵はプロメテウスだけではありません。駐留している戦車も多く、真正面から攻めれば大惨事でしょう。
 むしろあれだけの戦車をこちらに向けないのは、施設防衛を疎かにしないと言う作戦責任者の慎重さを感じます」
 いよいよもって隙が無い。
「……一度だけなら、子供が『調律』されている場所まで行くこと自体は可能です」
「本当か?」
「警備にわずかな隙があります。戦車の部品を運ぶコンテナに紛れる形で数名は内部に侵入できます。
 ですがそこまでです。子供を抱えて逃げようとすれば、発見されて逃げきれないでしょう。子供を抱えたまま戦闘をするのは無謀すぎます。捕まった子供と施設を破壊するのが関の山でしょう」
「……それは」
 言葉を失う自由騎士達。疲弊した子供を抱えながら敵の基地から脱出する。戦いになれば武器を構える隙さえ与えられずに攻撃されて終わりだろう。そんな『荷物』を背負うリスクを負うよりは、その場で処分した方が楽に決まっている。
「苦しまずに眠らせる為の薬は用意しておきます」
 ジョンは液体の入った小瓶と注射器が入った箱を机の上に置く。それが自分が出来るせめてもの優しさとばかりに。
 自由騎士の選択は――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
S級指令
担当ST
どくどく
■成功条件
1.捕らわれた子供達を探し出す
2.脱出する
 どくどくです。
 このシナリオは『ブレインストーミングスペース#1 アデル・ハビッツ(CL3000496)2020年11月07日(土) 17:54:58』の発言を元に作製されました。
 該当PCの参加優先権がある者でもなく、参加を強制するものでもありません。ご了承ください。

●説明ッ!
 暴力的に従えた幼い子供を使って作り出される『チャイルドギア』。その作製を止めるため、アデル・ハビッツのアイデアの元、敵工場ドナー基地に潜入を敢行します。戦車の部品のコンテナに紛れる形で、ドナー基地内部の工房までは潜入出来ます。
 そこで『捕らわれた子供達を探し出し』『脱出する』までが任務です。子供の生死は依頼の成否に関係しません。

●場所情報
 便宜上、ドナー基地を五区画に分けます。
 区画間の移動は自由ですが、移動中に発見される可能性はあります。発見されればその時点で警報が鳴り、逃亡戦に移行します。発見される確率は『運』がベースの判定(そのグループで最も運がいいキャラが基準。スキルやプレイング等でプラス修正あり)になりますが、時間が経てばたつほどマイナス修正が加算され、発見されやすくなります。
 破壊工作、施設制圧などでも時間がかかります。その際に『運』判定に失敗すれば、警報が鳴って逃亡戦に移行します。目安ですが、危険なことをしなければ『五回』移動するまでは見つかることなく行動できます。

【倉庫】
 スタート地点。戦車部品のコンテナに紛れてやってきた場所です。
 ここに戻ってくれば、ダストシュートから逃げだすことが可能です。

【教育部屋】
 子供達が閉じ込められ『調律』されている場所です。子供は合計で50名います。
 中に居る兵士と科学者を制圧するには『三回』移動するだけの手間がかかります。
 破壊工作を行うには『一回』移動するだけの手間がかかります。

【工房】
『チャイルドギア』を作り出している工房です。
 中に居る兵士と科学者を制圧するには『三回』移動するだけの手間がかかります。
 破壊工作を行うには『五回』移動するだけの手間がかかります。

【プロメテウス】
 ドナー基地防衛の要であるプロメテウス/ファッケルがある場所です。プロメテウスのパイロットと、メンテナンス兵がいます。
 戦闘に勝つことが出来れば、破壊工作が可能です。
 破壊工作を行うには『十回』移動するだけの手間がかかります。
 
【指揮官室】
 ドナー基地の責任者ジルヴェスター・エルトル・ウーリヒがいます。
 警備も強固です。よほどのプレイングでなければ、顔を見ることすら叶わないでしょう。
 警備を突破できれば、『一回』移動するだけの手間をかければ責任者を殺すことが出来ます。


NPC
・子供(×50)
 身長一二〇センチ以下の子供です。種族聖別は様々。食事制限などでやせ細り、暴力と薬物投与などでまともに喋ることも適いません。立って歩くことですら、不可能な状態です。
 一人抱えて行動する毎に、ファンブル値が5増えます。ドナー基地を脱出するまで、この修正はついて回ります。この修正は累積します。一人のPCが抱えられる子供の数は10名までとします。
 ジョンが渡した薬剤を使えば、苦しませずに死亡させる事は可能です。これは宣言だけで可能です。各PCが宣言した数だけ、子供は処分されます。

・パイロット
 プロメテウス/ファッケルのパイロットです。ワイヤーを使う女軍人である、ということしかわかりません。

・指揮官
 ジルヴェスター・エルトル・ウーリヒ。階級は少将。『チャイルドギア』の発案者にしてこのチャイルドギア戦車部隊の統率者でもあります。

・ヴィスマルク兵
『運』判定に失敗した時に現れます。出てくる数は、判定の失敗具合によります。基本は防御タンク2、ガンナー2、重戦士1の五人一組チーム。ファンブルすれば、不意打ち(最初のターンは行動不可)を喰らいます。不意打ちは一定のスキルかセフィラで緩和されます。

※注意!
 このシナリオは行動によっては大幅にフラグメンツを喪失する可能性があり、その結果死亡する可能性があります。
 その事を考慮したうえで、判断してください。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
報酬マテリア
6個  6個  6個  6個
2モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2020年11月27日

†メイン参加者 8人†




 ドナー基地、倉庫に納品された荷物の一つに穴が開き、倉庫にだれもいないことを確認した後に八名の自由騎士が這い出てきた。
「無事に潜入できたようだな。……腰が痛いねぇ」
 腰部分を押さえながら『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)は柔軟をする。戦車の部品を運ぶコンテナに紛れての潜入。同じ態勢で数時間沈黙を保っているのだ。潜入工作員で慣れているとはいえ、やはり腰に来るものではある。
「ここに子供達がいるんだね」
 セーイ・キャトル(CL3000639)は周囲を警戒しながらそう呟く。『チャイルドギア』の各部分として使用される子供達。彼らを救うために危険を侵してここまでやってきたのだ。そしてここからが本番なのだと気合を入れる。
「少し無茶をすればもう少し成果を上げられそうだが……まあいいさ」
 装備の確認をしながらウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は口を開く。ヴィスマルクの軍事基地。敵の指揮官やプロメテウスなど、上手く立ち回れば今後の戦局に影響しそうなモノがある。だが、子供優先だと割り切った。
「うん……。ある程度、他所を破壊して置きたかったけど……」
 小さくため息をつく『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)。工房に破壊工作を行えば『チャイルドギア』自体を破壊できたかもしれない。あるいは『チャイルドギア』そのものに関する機密を得られたかもしれない。それは惜しくはある。
(戦車兵を再訓練したエリート。プロメテウスのパイロット。……興味がないわけではありませんが)
『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は口には出さずにマキナ=ギアから武装を取り出す。相応に強い英雄なのだろうし、そう言う意味で興味はある。だが今そちらに向かうわけにはいかないと、自重した。
「子供達を救うのです。他国の子供だからと、見捨てるわけにはいきません」
 戦闘用の修道服に着替えた『未来を切り拓く祈り』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈るように宣言する。『チャイルドギア』に搭載される子供は、ヴィスマルク領内の子供だ。だから救わなくていいなどと、見捨てることなどできようか。
「ヘルメリアの負の遺産、か。反吐が出るぜ」
 唾棄するように『永遠の絆』ザルク・ミステル(CL3000067)は呟く。人道を無視した思想。それにより得られる大量生産兵器。それを生み出した技術も、それを良しとした国も、けして見過ごしてはいけない。
「最小のリスクで最大限の打撃を与える作戦だ。チャイルドギアの増産、必ず阻止するぞ」
 作戦発案者である『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は全員に聞こえる様に言葉を放つ。安楽死用の薬は、その覚悟を示すように敢えて受け取らなかった。子供を救って帰還する。その意思を込めた言葉だ。
 アデルの言葉に頷く自由騎士達。敵地であるため大声は出せないが、気持ちは皆一つだった。
 捕らわれた子供を殺さず解放し、無事に帰還する。
 容易ならざるミッションは、静かに幕を開けた。


 自由騎士達は真っ先に捕らわれた子供達を収容する【教育部屋】に向かう。
 アデルが部屋の中を索敵し、適切なタイミングで乱入する。ミルトスが戦闘音を外に漏らさないようにし、一気呵成に攻め立てる。
 不意を打てたこともあり、戦闘は大きなダメージを負うことなく終了した。襲撃が外にバレたという様子もなさそうだ。
 子供達を『調律』している部屋の扉を開けた自由騎士達は、その光景に眉を顰める。
 等間隔で並んでいる椅子。そこに革ベルトで縛られて座らされた子供達。最低限の衣服も繰り返された暴力でボロボロになっており、露出した肌は暴力と注射の跡で見るに堪えない。血色も正常とはいえず呼吸も浅く、素人目にも衰弱が激しいのは明白だった。
「これは……」
「早く助けよう」
 我に返った自由騎士達は急ぎ子供達を開放していく。革ベルトを外し、無事を確認していく。はっきり言って手間がかかり、安楽死の薬品を投与して放置の方が時間がかからないのは確かだろう。だが、
(ここで子供を手に掛けるようなら、俺達はヴィスマルクの連中と何も変わらない)
 アデルは強くその案は却下した。かつての上司のように、合理性だけで判断して行動するのならそうすべきだろう。それが一番安全で成功率が高いと分かっていても、その手段だけは選べない。それは他の自由騎士達も同じだった。
「大丈夫……。ここから出してあげるからね」
 マグノリアは子供達に手で触れて、言葉を投げかける。同時に手のひらから念を送り、その意思を伝えた。心神喪失している子供達の反応は、ない。それでもマグノリアは言葉を投げかける。少しでも、子供達が安堵するように。
「イ・ラプセルについたら、美味しいご飯が待っているよ」
 セーイもまた、子供に声をかけていた。拷問と薬物投与によりやせ細った体。身長を伸ばさないように制限されたのだろう食事事情。それを見て、居てもたってもいられなくなった。救わなければ、という思いを一層強くする。
「最初は温めのスープあたりですね。腕によりをかけましょう」
 調理の心得を持つアンジェリカがセーイの言葉に応える。弱った胃腸にパンやパスタを与えても、吐き出してしまうだろう。先ずは流動物で栄養を与えて、少しずつ慣らさなくてはいけない。いつかこの子供達に笑顔が戻ることことを信じたい。
「ったく、胸糞わるい施設だぜ。おい、書類のありかを喋ってもらおうか」
 ザルクは【教育部屋】の写真を撮りながら呟く。数多くの子供を効率的に拘束、暴力を振るいやすいように設定された部屋だ。それらを写真に収めながら、同時に生き残った施設員への尋問も行う。だが、長く時間はかけてられない。
「コッチに置いてある書類は、子供の尋問関係ばかりだな」
 しかめ面をしたニコラスが複数の書類を手に口を開いた。どの時間に子供達に『調律』を行い、反応を記録してグループ分けし、そのグループに適した次の『調律』を行う。一か月のスケジュール表と、それに使用する薬物や道具。それらがリスト化されていた。
「几帳面な正確のようだな。ヒトとして最低なのはともかく」
 ウェルスはその『工程表』を見てうんざりとした顔でそう呟いた。内容はともかく、これは商品の品質管理と同じ考え方だ。良い果物を生むために計画を立て、より良い品質のモノを出荷する。それが人間でなければ、納得もできたのだが。
「これで全員ですね」
 捕らわれていた子供の最後の一人を解放したミルトスが安堵のため息をつく。潜入後、すぐに子供の救出に向かったこともあり、ヴィスマルクにバレた気配はない。だが、子供を抱えて動くとなると発見されるリスクは一気に跳ね上がる。
 繰り返すが、ここで子供達を連れて帰る必要はない、『チャイルドギア』の完成を遅らせるのなら、別段ここで子供達を殺し手も構わないのだ。むしろリスクを冒して子供を連れて帰る意味はない。――作戦上は。
 だが、意味はある。
 その意味は、自由騎士の心の中に。戦う意味、武器を持つ意味、啓和を掲げる意味。それが敢えて苦難の道を選ぶ李通となり、そして意味を為すのだ。
 だがそれも、成功すればという前提だ。
「よし、戻るぞ」
 アデルの言葉に、他の自由騎士達は重々しく呟いた。
 その言葉の意味は重く、そして難しい事を皆が承知していた。 


 慎重に慎重を期し、自由騎士達は倉庫への道を進む。
 マグノリア、ニコラス、ミルトス、アンジェリカ、ウェルスの五名がそれぞれ子供50人を抱えた状態では潜入時ほどスムーズに事は運ばない。
「何者だ!?」
「侵入者だ!」
 倉庫まであと3ブロック、という所でヴィスマルク兵士に見つかってしまう。警報が鳴り響き、駐屯していた兵士達がやってきた。
「数は20名ぐらいか」
「強敵はいないようだな。とはいえ、このままここに留まっているわけにもいくまい」
 自由騎士達は迅速に行動を開始する。
「お前達の相手は俺だ。かかってこい!」
 アデルは挑発と同時に槍を振るい、ヴィスマルク兵の足止めを行う。手近な兵士に槍を振るい、武器を払うように回転させた。金属音が廊下に響き、兵士の気勢がこちらに向く。それを確認した後、さらに武器を叩き込んだ。
「貴様ほどの猛者を使い捨てるとはな。イ・ラプセルも手詰まりのようだ!」
「使い捨て? 違うな、俺は生きて帰る。子供を兵器にする下種な空気など耐えきれんからな」
「お前達が攻めてこなければ、ここまで酷いことはしなかったかもな!」
「つまらん責任転嫁だな。ヴィスマルク兵は武器よりも口を動かすのが仕事なのか?」
 挑発を重ねながらアデルはヴィスマルク兵士と切り結ぶ。
「お前らはこれ以上動くな!」
 ヴィスマルク兵に向けて、ザルクが魔導弾丸を撃ち放つ。かつてイ・ラプセルで活躍した英雄の技。弾丸は魔なる結界を展開し、敵を縛る鎖となる。全てを止めることはできないが、それでもその数は大きく減じる。
「聞いたぜ、ヘルメリアを終わらせた男。だがプロメテウスの技術者はまだ生きているぜ」
「らしいな。できればプロメテウスもどうにかしたかったが、戦場で真正面から粒してたるさ」
「そいつは無理だな。ここでお前は死ぬからだ!」
「お断りだね、帰りを待つ人がいるんでね!」
 弾丸と弾丸の応酬。銃声と硝煙が全てを支配していく。
「さすがにこれだけの数の『未来』を見るのは辛いけど……!」
 5秒後の未来を見ながら、現在の状況をコントロールするセーイ。乱戦ともいえる状況で、全ての状況に目を見張るのは難しい。ましてや5秒後の未来もとなれば、負担は二倍以上だ。それでもなお、セーイはそれを行い、仲間に伝える。
「ヴィスマルク兵が一斉掃射するよ! あと、数名が前に出る!」
「足止めは俺が行う。銃で撃ってくるだろうからそれは避けて!」
「一気に燃やし尽くすから、離れて!」
 情報を見ながら、同時に行動。大事なのは情報をきちんと取捨選択し、より良い道を選ぶことだ。それを心に刻み、時間を見る。
「奴等に見せてあげましょう。何かを成し遂げようとする意志の強さを」
 アンジェリカは武器を構え、ヴィスマルク兵に向き合う。自らの意思を示すかのように体内の獣の因子を開放し、体内に力を駆け巡らせる。裂帛と共に放たれた一撃が、ヴィスマルク兵を打ち砕いていく。
「子供を犠牲にして得られる勝利に何の意味があるでしょうか。次代を担う者を失い、そうして得られる未来を誇れるのですか!?」
「そいつらは戦災孤児。生きていても将来お荷物になるだけだ」
「それは貴方達が無能なだけにすぎません。彼らを正しい道へを導くことこそが、大人の務めなのだと知りなさい!」
 一歩も引かぬアンジェリカ。その鉄の意思は鉄血の軍にも劣らない。
「誰一人欠けることなく、帰らなくちゃね」
 マグノリアは錬金術を用いて、仲間をサポートする。誰も倒れることのないように、全力を込めて。神の力が宿ると言われる聖遺物に魔力を込め、仲間全員を守るために血かrを解き放つ。
「50人……今『チャイルドギア』に繋がれている子供は、救えない……」
「別の場所に行けば、別の『チャイルドギア』があって、その子供を救えたのかもしれないけど……」
「助ける命を、選ばなくてはいけない。悲しいけど。それが現実だ……」
 悔いながらも、自分の抱えた命の意味を噛みしめるマグノリア。
「本来はこういう子供を利用する輩ではなく、本物の英雄と戦いたいのですが」
 そんな不満を愚痴にするミルトス。体幹を意識しながらバランスを取り、子供達を落とさないように立ちまわる。正々堂々と戦う英雄。戦争にそれを求めるのは無粋なのかもしれないが、それでも自分を倒すのはそういった人間であってほしいと思っていた。
「ここで倒れるわけにはいきません。子供達は皆、解放させていただきます」
 言って重心を下すミルトス。子供を抱えている以上、前に出て戦うことはできないがそれでも不屈の精神を絶やすことなく立ち続ける。気迫を燃やし、戦意を燃やし、鉄血国家に負けぬと拳を握った。
「ウサギちゃんからもらった幸運の印でも、無事脱出とはいかなかったか」
『うさぎのあし』を指で弄び、戦場を見張るウェルス。今いるメンバーならこの数のヴィスマルク兵を蹴散らすことは難しくないが、大事なのは子供達だ。獣の力を開放し、子供達を抱えて倉庫のダストシュートに向かって走り出す。
「今日はお前達の相手をしている時間はないんでな。戦場でまた会おうぜ」
 言うなり身体強化した肉体で一気に駆けだすウェルス。子供達を抱えた状態で銃弾降り注ぐ戦場を一気に駆け抜ける。大丈夫、まだ囲まれていない。幸運はまだ自分に味方してくれていると信じ、一直線に走った。
「早くしろ、ウェルス。こっちだ」
 小声で、しかしウェルスに聞こえる様に言葉を放つニコラス。既に自分が抱えていた子供は脱出させていたのだろう。今は痛む腰を押さえながら遠視と透視の魔眼でヴィスマルク兵の様子を伺っていた。
「他の兵も動き出してるな。思ったよりも動きがいい」
 遠視と透視を維持しつつ、基地内を見回す。ふと、遠くの女性と目が合った。ワイヤーを持った女性兵士。鋭い目が、確かに倉庫に居る自分を見ている。相手も同じ魔眼でこちらを見ているのだろう。となれば、時間はない。
「あれが噂のプロメテウスのエースパイロットか? 急がないとヤバいぞ、これは」
 ニコラスは焦れる様に呟く。
 自由騎士の目的は、子供の救出だ。あの場で殺してもよかったが、全員助けると言う事で作戦方針を定めていた。そしてそうなれば、脱出が困難になり逃亡戦が発生する可能性があることも当然想定できた。
 だから子供を背負う運搬役と、戦闘をする役割を分けたのだ。五名で子供を運び、三名が足止めをする。子供を救うと言う目的を果たすなら、運搬役は戦闘を一切せずに逃げるべきだったのだ。――たとえ、足止め役を見捨ててでも。
 だが、マグノリアとアンジェリカは全員帰還を求めて立ち止まり、ミルトスも足止めに一躍買った。三人が留まらなければ、アデルとザルクとセーイは確実にヴィスマルクに捕らわれ、恐らくは死亡していただろう。
 戦闘に留まると言う事は危険を負うと言う事だ。そしてその危険は、得てして弱い者から奪われていく。彼らが背負う、子供から。
 たとえ子供を庇おうと努力しても基地の地の利はヴィスマルクにある。彼らの知らない死角から放たれた銃弾や、戦場全てを包み込む炎の渦から全ての子供を守る術はない。
 いや、それどころか自由騎士も少しずつ追い込まれていく。逃げるタイミングは最初の瞬間。殿の三人を見捨て、子供を抱えた者は皆逃げる。それが『子供』をより多く救う手段であった。そのタイミングを逸してしまえば、残っている者同士でじわじわと後退していくしかない。
 距離にして二〇〇m足らず、その撤退戦は長く、そしてその間も子供達を抱える自由騎士達はその攻撃を受け続けることとなる。その結果――
「……ごめん」
 短く呟くマグノリア。今、ここに居る最後の子供の命が消え去った。
「逃げるなら『チャイルドギア』に使う子供でも容赦なしか。ヴィスマルク」
「機密保持もあるでしょうが、それだけこちらを討ち取りたいと言うのもあるのでしょうね」
 自由騎士達も敵陣での攻防でかなり疲弊していた。皆が限界ギリギリまで耐え抜き、そしてなんとかダストシュートまでたどり着く。傷ついた者から順に脱出し、最後にアデルがダストシュートに潜り込む
「早くしろ。亜人交じりの子供を運ぶのは任せたぞ」
 サポートに来ていたノウブルが自由騎士達の無事を確認し、ダストシュートを破壊する。その後に、闇に紛れる形でドナー基地から離脱した。


 最終的に助けられた子供は十人だった。ニコラスが抱えた子供が七人と、ウェルスが抱えていた子供三人である。ニコラスは先手をヴィスマルク兵に取られて三人撃ち殺され、ウェルスは獣の力を湧き上がらせている隙に五人、闘争開始時に二人殺されている。
 他の自由騎士が抱えていた子供は、戦闘の余波で皆死亡していた。自由騎士も必死に守ろうとはしたが、敵陣での立ち振る舞いには限界があった。
 十人は救えた。十人しか救えなかった。
 その捕らえ方は様々だろう。だが、ドナー基地内にいた『チャイルドギア』に宛がう予定の子供はこれで供給が止まる事となる。大量生産に停止がかかったのだ。
 攻めるなら今しかない。ヴィスマルクの体制が整う前に、準備を整えて攻め入る隙は、確かに生まれていた。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

どくどくです。

難易度相応に判定させていただきました。
MVPは一番子供を助けることが出来たモラル様に。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済