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【デザイア!】Turkeyshot! 簡単な商売!



●ターキーショット 
 さあお祭りだ。スレイブマーケットだ。
 七面鳥のケモノビト、その子供のマザリモノ。黒い羽のソラビト。それらを集めよう。完全に心折れているのは面白くない。まだ抵抗力のある奴隷を見繕って集めよう。
 次は銃だ。素人でも撃てる片手銃から玄人好みのライフル。直接殴りたいという人の為にいくつかの刃物と棍棒を。
 私は奴隷の調教など出来ない。だから企画でこのスレイブマーケットを盛り上げるのだ。きちんと奴隷協会に許可までもらってるし、後ろめたい事は何一つない。
「さあ、ターキーショットだよ! 銃を撃ちたい人はどんどん参加してください!」
「ルールは簡単。その線から逃げるターキーを撃つだけ! 参加費は弾は五発で――」
 七面鳥『役』の亜人達は向けられた銃口に怯え、必死になって逃げまどう。天井まで覆われた限られた柵の中、飛び交う銃弾を避け続ける。否、避けようと努力する。何発かの弾丸は体をかすめ、数発は体に命中している。
「はは、もっと抵抗して見ろよ!」
「走れ走れ!」
 囃し立てる客。そして放たれる銃弾。子を庇うケモノビト。泣き叫ぶマザリモノ。空を飛ぼうとして撃ち落とされるソラビト。その光景が客を楽しませる。私の懐を潤わせる。本当に逃げられそうになったとしても、私からは逃げられない。
「全く、簡単な商売だ。まさに七面鳥を撃つが如く(ターキーショット)、ってな」

●フリーエンジン
「あの、そういう企画を潰してほしい、です」
『六つ穴』レティーナ・フォルゲン(nCL3000063)は集まった自由騎士を前に説明を開始する。ここはギルバークの宿屋。この宿屋から通りを一つ隔てたところで、その企画は行われているという。
「企画者は『シュヴァルツツィーゲ』ヨルダン・アイヒンガー……ヘルメリア人じゃなく、ヴィスマルクの人のようです。ヘルメリアで奴隷を買って、この商売をしている、みたいです」
 メモを見ながらレティーナは説明を続ける。余白一杯にまで書かれたメモは、自由騎士が集まる前まで彼女が頑張った証だ。
「戦い方なんですけど……その、魔法を使うみたいです。倒れた人が起き上がって……ごめんなさい。よく分からないですよね」
 必死に説明しようとして、言葉にならないまま諦めるレティーナ。だが自由騎士達はその術式に心当たりがあった。
「ネクロマンサー……ヴィスマルクに取り入れられたって話だったよな」
「完全後衛系だろうな。となると強力な盾役がいるということか」
「へ? へ? は、はい。同行するガーディアンがいます。『エルフソルダート』ハンナ・エルプセ……オールモストのキジンです。他にもヘルメリアで雇った傭兵が何人か」
 邪魔になりそうな人間はそのぐらいか。自由騎士達はそう認識する。
「ごめんなさい、私まだ、先生と一緒じゃないとノウブルに逆らうのは、無理みたいです。だからお手伝いはできそうにありません。
 陽動とかは、しますので。皆さん頑張ってください」
 奴隷としてノウブルへの反抗心を折られた元奴隷のレティーナは、『先生』の命令なしでノウブルと戦うのは無理だという。震える足と少し青ざめた顔が、彼女の心に刻まれた恐怖を示していた。
 気にしないで、と声をかけて自由騎士達は現場に向かうために部屋を出た。


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
他国調査
担当ST
どくどく
■成功条件
1.敵の全滅
 どくどくです。
 まさにターキーショットだぜ! 難易度はNormalですが。

●敵情報
・『シュヴァルツツィーゲ』ヨルダン・アイヒンガー
 ノウブル。呪術師スタイル。三十代男性。ヴィスマルク人。二つ名の意味は『黒ヤギ』。戦いになればヤギの頭蓋骨をかぶることから由来しているとか。
 購入した亜人を撃たせて楽しませる企画を行い、お金を稼いでいます。気を失った亜人をネクロマンシーで無理やり起こしたりもします。
『ネクロフィリア』『ケイオスゲイト Lv3』『リバースドレイン Lv2』『ペインリトゥス Lv3』等を活性化しています。

・『エルフソルダート』ハンナ・エルプセ
 キジン(オールモスト)。防御タンクスタイル。二十代女性。ヴィスマルク人。二つ名の意味は『11の兵士』。十一人の攻撃を受け流したとか。ソードブレイカー二刀流のガーディアンです。
『バーチカルブロウ Lv3』『パリィング Lv3』『バレッジファイヤ Lv2』『フルカウンター Lv2』等を活性化しています。

・傭兵(×四)
 ヨルダンに雇われた傭兵です。軽戦士のランク1スキルを活性化しています。

●場所情報
 スレイブマーケットが開催されているストリートの一角。時刻は昼。周囲の人間はレティーナが煙幕などで遠ざけます。足場や広さなどは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『傭兵(×4)』『ハンナ』が。敵後衛に『ヨルダン』がいます。助ける奴隷達は敵後衛のさらに後ろです。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
9モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
参加人数
8/8
公開日
2019年08月23日

†メイン参加者 8人†




『ノウブルに逆らえない』……それはヘルメリアの多くの亜人達が持つ心の傷だ。ノウブルを見るだけで手足が震え、声が出なくなる。ノウブルに何をされるのか。そればかりを考えてしまい、思考がまとまらなくなる。
 レティーナ・フォルゲンと言うのは自由騎士に一番近いヘルメリアの亜人だ。その怯えをもどかしいと思う人もいるだろうし、情けないと卑下する者もいるかもしれない。それはレティーナ自身も理解している。
「情報ありがとう、レティーナさん」
 そんな彼女に『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は優しく声をかける。ヘルメリアに捕まって再び奴隷に戻るかもしれない恐怖に抗っての情報収集だ。それに礼を言わなくては、とても神職を名乗れない。
「レティーナの努力……無駄にはしないよ」
『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)も頷いて礼を言う。マグノリア自身も亜人に対するノウブルの態度を知っている。事、ヘルメリアではそれが徹底化していた。レティーナが得た情報を生かし、奴隷達を開放するのだ。
「……今は難しくとも、いつか君を自由にしてみせる」
 ノウブルに怯えるレティーナを見て『革命の』アダム・クランプトン(CL3000185)は自らに誓うように告げる。アダムが目指す『優しい世界』。種族関係なく手を取り合える世界。その為にも、こんな呪縛は打ち砕かなくてはならない。
「需要と供給があるから商売は成立する、か」
 怒りを抑えるように『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は口を開く。求める者と与える者。その両者あっての商売だ。こんな商売が成立する国そのものに怒りを感じながら、冷静になれと自らを律する。
「ほんま、悪趣味やわぁ。河原の鴨撃ちの方がまだ優雅よ」
 手を振りながら『艶師』蔡 狼華(CL3000451)がため息をつく。ヨルダンの商売は『人のカタチをした者を撃てる』事で成り立っている。嗜虐心を刺激して金を出させるやり方だ。自分の手で刺激して金を出させるのが娼の道。それとは真逆のやり方に呆れていた。
「ったく……全然理解できねぇ! なんであんなことができるんだ……!」
『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は盛況ともいえるヨルダンの店を見ながら、拳を握る。銃をもって亜人を撃つ人たちの列は絶えない。亜人をモノ扱いするのが当然。文化の違いをまじまじと見せつけられているようだ。
「銃弾を取り出して、止血と縫合か。麻酔が足りるかどうかだな」
 奴隷達の数を数えながら、『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)は医療器具の確認をする。時間が無いため魔道での応急処置で時間を繋ぐが、弾丸は早めに取り除くに越したことはない。思考を医術にもっていくことで、目の前の所業への怒りを抑えていた。
(憤るのも分かるんだけどね。さてさてどうしたもんか)
 仲間の様子を見ながら『その過去は消えぬけど』ニコラス・モラル(CL3000453)は頭を掻いた。亜人の命は購入したノウブルのモノ。それが当たり前のヘルメリア。そんな感覚に慣れたニコラスだが、仲間が怒る気持ちも理解できる。
 派手な爆発音と同時に、煙幕が放たれる。それと同時に自由騎士達は一気にヨルダンの元に駆け出した。
「フリーエンジンだ! 巻き込まれて死にてえ奴は残れ! こっちゃ一向に構わんぞ!」
 ツボミの叫びと共に、蜘蛛の子を散らすように散っていく客。残されたのはヨルダンと彼が雇った者のみだ。
「話には聞いていたがまさか本当に来るとはな!」
「状況確認。戦闘に移行します」
 フリーエンジンの活動は聞いていたのか、慌てることなく武器を構えるヨルダン達。
 奴隷を撃つ商人と奴隷を救う自由騎士。その両者がぶつかり合う。


「こんなこと、許さないわ!」
 一番最初に動いたのはエルシーだ。紅の鱗を持つ籠手を嵌め、煙幕から敵の前に飛び出した。亜人を射的の的にするような非道な行為など、認められるはずがない。怒りの声を拳に乗せて、敵に向かって踊りかかる。
 傭兵達の懐にもぐりこみ、体中の筋肉を捻じるように力を籠めるエルシー。敵の位置を確認し、拳を繰り出す順番を脳内で算出する。捻じった力を開放すると同時に拳を次々と繰り出していく。
「土地が変われば文化も変わる。だけどこれは文化の違いを超えているわ!」
「盗人が偉そうなことを言うんじゃねぇ!」
「確かに盗人だよな。うん、それは違いない」
 うんうんと頷くツボミ。自分達の立場は奴隷を強奪する反社会的組織だ。法律をあてはめれば犯罪者と呼ばれるのは自分達の方である。だからと言って、はいそうですかと縛につくつもりはない。ツボミにもやらなくてはいけないことがあるのだ。
 目に見える情報、耳で聞こえる情報。全てをかき集め、頭の中の知識と照らし合わせる。ツボミが今まで培ってきた医学知識をベースに、仲間の傷を治す順番を組み立てていく。数十秒後に変わる状況を予測しながら、癒しの魔術を展開していく。
「わざわざ外国まで来てるんだ。倫理的にマズいってことは自分でも理解しているんだろう?」
「この国では合法だからな。しかもそれなりに金になるんだよ」
「金の為にご苦労様や。せやけど、その上前はねられるんやからなあ」
 口元に手を当てて狼華が微笑む。お金を奪ってはいけないという倫理感は狼華にはない。ましてや相手はヴィスマルクの人間だ。手を緩める理由は何一つない。小太刀と短刀を手に、相手への距離を一気に詰める。
 動作を短く、そして鋭く。大事なのはその意識。その精神から肉体は動き、そして動作へと繋がっていく。狼華の刃とハンナの刃が交差する。刃を受け流すハンナの動きを追うように狼華の刀が追従していく。
「お堅い女は好かんけど、楽しませてもらいますえ?」
「店仕舞いの時間だ、ヨルダン・アイヒンガー!」
 叫ぶと同時にアダムが攻撃を加える。その攻撃事態はヨルダンに届く前にハンナに止められたが、その気迫は十分に伝わっただろう。こんな店など許しておけない。その怒りが込められた一撃だった。
 ソードブレイカーを手にしたハンナに、衝撃を加えていくアダム。機械の身体で体当たりをするように叩きつけ、ハンナのバランスを崩そうとする。面の衝撃は受け流せないのか、その守りに綻びが称してくる。
「その防御、撃ち砕く!」
「女性の相手はイケメンに任せたぜ!」
 槍と盾を構え、ナバルが親指を立てる。言ってて色々悲しくなる部分はあるが、頭を振って気持ちを切り替えた。男は顔だけではない……ではなく、今は銃で撃たれた亜人達を助けるべく、戦いに身を投じなくては。
 盾を前に構え、槍を突き出す。防御を万全にしながら、槍での攻撃を可能とした構え。迫る傭兵達の攻撃を盾で受け、槍で弾きながら機会を待った。生じた隙を逃すことなく、大きく盾を払う。風圧と重量で傭兵達のバランスを一気に崩した。
「お前は! もっと色々大事にしろ!」
「言いたいことは解るけどね」
 ヨルダンに向けたナバルの言葉に苦笑するニコラス。亜人を大事にしろ、と言いたいのは充分に伝わってくる。奴隷の扱いは狩った人間によって変わってくるのがヘルメリアだ。運が良ければそれなりの待遇もあるのだが……ここの奴隷達はそうではなかったらしい。
 ヨルダンの動きを注視しながら、ニコラスは術を展開する。ネクロマンサーの術はこちらの回復を阻害する者もある。それを意識しながら術を解き放った。癒しの魔力が戦場に広がり、仲間の傷を癒していく。
「そんじゃ、ガンバッテイキマショー」
「そうだね。デザイアの為に」
 ニコラスの言葉に頷くマグノリア。相手は狡猾なネクロマンサーだ。倒れた者を盾にすることなど当然やってくるだろう。下手をすると、射的の的となった奴隷達まで利用しかねない。そんなことを思い浮かぶ前に叩いておかなくては。
 指と手の平の動きで印を切り、世界の因と果を律する。錬金術は法則だ。そして法則は裏切らない。マグノリアは慣れた動きで魔力を集わせ、律した法則に乗せる。法則に従い生まれた力が仲間の治癒力を高めていく。
「すぐに開放するよ。だからしばらく我慢してほしい」
「ああ。商売にはリスクがあるってことを教えてやるぜ」
 素顔を隠したままでウェルスが銃を構える。あらゆる商売にはリスクがある。危険のない商売など存在しないのだ。それが自然発生であれ人為的であれ、リスクを考慮できなければ商売は務まらない。例えば、奴隷を憎む組織の存在とかだ。
 生命力を喰らう術式を付与されたハンナ。その額に向けて銃口を向ける。怒りを受け止め、その上で激情を鎮める。相手に怒りを感じながら、冷静さを保って狙いを定めた。引き金が引かれると同時に、のけ反るハンナ。あの傷は容易には治らないだろう。
「ここで廃業してもらうぜ。苦い経験と一緒に国に帰るんだな」
「嫌なこった! かなり元出かかってるんだからな!」
 ウェルスの言葉に激昂するヨルダン。ヴィスマルクは軍人社会だ。軍役に属していないものが大儲けするには、こういった手段を取るしかないのだろう。
 もっとも、同情するつもりはない。その境遇を知っていたとしても亜人を的にしていい理由なんてない。それは自由騎士共通の意見だった。
 戦いは激化していく。


 自由騎士達はヨルダンを狙う。そして結果としてヨルダンを庇うハンナに火力が集中することになる。ネクロマンシーが倒れた人間を起こして戦わせることや厄介な状態異常を起こすことを知っているからだ。
 そして自由騎士の予測通り、意識を失ったハンナを呪術で無理やり起こすヨルダン。
「その辺りは折り込み済みだ! 峠を越したと思え。後は下り坂だ!」
 ツボミの言葉に頷く自由騎士達。起こしたハンナの体力は呪術者に依存する。また、ハンナの防御技術を再現できるわけでもない。事実上、相手側の防御力は激減したと言ってもいい。
「おいヨルダン。お前、商人には向いてねえよ。何かを守ったり、大切にすることを学べば、きっと世の中の見え方が違ってみえてくると思うぞ!」
 ヨルダンに槍が届くようになり、ナバルは攻撃をしかけながら口を開く。物を大事にしない輩に商売が出来るとは思えない。価値観は視点を変える事から始まるのだ。そうすれば、別の何かが見つかるかもしれない。
「相変わらずクソ厄介だな、ネクロマンシー!」
 ツボミはヨルダンの呪術に苛立ちを感じていた。医者として治療する術式を阻害する呪い。これを振りまかれては満足な回復が出来ない。最優先で解除するが、そうなれば傷を癒すのは一手遅れてしまう。ジレンマだが、致し方ない。
「あかんわ。おまはん、きっついなぁ」
 動く人形となったハンナの刃を受けて、狼華が崩れ落ちる。ヨルダンに操られたことで刃の軌跡が変わり、それを読み間違えた形だ。まあええわ、とため息をついて膝をつく。やるべき仕事は終わった。後は仲間に任せるのみ。
「こんな商売なんか、認めるわけにはいかない!」
 柵の向こうで怯える亜人達を見て、アダムは怒りの声をあげる。ヘルメリアは強国だ。それは蒸気文化とそれを回転させる経済あっての事だ。そしてその文化の中に、この奴隷制度がある。それを認める事はアダムにはできなかった。
「奴隷制度がこの社会を作るのか、それとも社会が奴隷制度を作るのか。どちらが先なのかなんて、興味はわかないけどな」
 ウェルスは隠した口の中でそう呟く。ノウブルの亜人に対する態度は知っている。イ・ラプセルがマシなだけでイ・ラプセルでも亜人差別はまだ存在する。悪いのは社会なのか、それともノウブルなのか。
「ヒトの心は秤で測れるものではないからね。完全な善人も、完全な悪人もいない。社会も同じだと思うよ」
 ウェルスのつぶやきが聞こえたのか、マグノリアが言葉を放つ。善と悪、その両方を持つのが人間だ。ヒトの心は定規やビーカーで測れるようなモノではない。奴隷制度の中に生きる者の中にも、善性を持つノウブルはいるかもしれない。
「……ま、ヘルメリアのノウブルは奴隷にああいうことをするのを『悪』と思ってないんだけどね」
 ヨルダンの店を見ながら、ニコラスが苦笑する。イ・ラプセルでは犯罪ともいえる店だが、ヘルメリアでは書類一つで開催できる。ヘルメリア人にとって、亜人は『ヒト』ではない。頭のいい道具なのだ。ニコラスはそれをよく見てきた。
「そうね。でもそれを気にしてやるつもりはないわ」
 ニコラスの言葉に同意しながら、エルシーは意に介さずとばかりに拳を突き出す。ヘルメリアがそういう国だという事は、ここに来てよくわかった。亜人達の態度と声がその苦しさを教えてくれた。それを受けて、足を止めるエルシーではない。
 再びハンナを伏し、そして返す刀でヨルダンに迫る自由騎士。純粋な後衛という事もあって、ヨルダンは大した抵抗もできずにその刃に倒れることになる。
 あとはヨルダンが雇った傭兵達――となったところで、自由騎士達は武器をいったんおろして口を開く。
「雇い主はこの通りおねんねで、別に私等も殺す気は無い。連れて帰るのなら追わないがどうする?」
「はん! お前達を捕まえれば憲兵隊から賞金が出るんだ! ヴィスマルク人守ってもらえる金より、そっちの方がずっといいぜ!」
 ツボミの言葉に傭兵達は鼻で笑うように拒絶する。雇い主は優先するが、それ以上にフリーエンジンにかけられた賞金が魅力的だったようだ。自由騎士達は交渉を諦め、武器を構えなおした。
 ――とはいえ、戦いの趨勢はほぼ決していた。ハンナの防御力とヨルダンの妨害を欠いた傭兵達が自由騎士に勝てる道理はない。一人、また一人と倒れていく。
「引き際を誤るようじゃ、傭兵失格よ」
 傭兵に拳を振るいながら、エルシーが口を開く。他の傭兵は既に倒れ、最後の一人となった傭兵は迎撃のために武器を振るう。その軌跡を読み切ったとばかりにエルシーは最小限の動きで武器を避け、そのまま踏み込んで拳を振るう。
「おやすみなさい。次はこうなる前に撤退することね」
 振るわれたエルシーの拳が傭兵の胸元に命中し、その振動で崩れ落ちるように傭兵は倒れ伏した。


 戦闘終了後、自由騎士達の動きは迅速だった。何せここは敵地だ。もたもたしていれば歯車騎士団が駆け付けて来るだろう。傷ついた亜人達と一緒では、すぐに追いつかれてしまう。
「とりあえず魔術で傷を塞ぐ。銃創は後で処理だ。力の余ってるものは背負って運べ!」
 柵の中の亜人達の治療等を行ったのは、ツボミだ。この場で悠長に治療する余裕がない以上、応急処置しての移動が最適だ。主に男性陣に声をかけ、背負って運ばせる。
「私も運ぶのを手伝うわ」
 エルシーが口笛を吹いて愛馬を呼び寄せ、そこに数名の亜人を乗せる。少し揺れるが今は時間が重要だ。馬の機動力はこの状況では千金の価値がある。
「なあアンタら…………。ああ、やっぱりそうか。いや、すまん」
 ニコラスがケモノビトとマザリモノの親子に近づいて、何かを問うように囁く。首を縦に振るケモノビトに謝罪するニコラス。踏み込み過ぎたか、と顔をしかめた。
「フリーエンジンの名のもとに、こいつは没収させてもらうぜ」
 ヨルダンの荷物から帳簿と運営資金を没収するウェルス。金銭が欲しい、というよりは商人として再起できないようにきっちり止めを刺しておく意味が強い。
「話し合えば、分かってもらえる。同じ人間だから、理解してもらえるかもしれない」
 自分に言い聞かせるようにナバルは呟く。ヘルメリアの栄華の裏側。亜人達の扱い。それが悪いと話し合えれば、或いはその扱いも変わるかもしれない。そう信じたかった。
「ああ、そう信じているよ」
 一辺の曇りなくアダムは人の善性を信じるように頷いた。そして同時に、そううまくいかない事も理解していた。この意見を通すためにも、戦いは必要なのだ。
「奴隷制度か……。一刻も早く、この国の亜人達に光を見せなくてはいけないね」
 銃創で苦しむ亜人達を見ながら、マグノリアは口を開く。ノウブルに傷つけられ、道具として扱われる亜人達。彼らもまた光を見る権利があるのだと伝えなくてはいけない。
「ほな行きましょ。こないな雅のない場所、好かんわ」
 言って背を向ける狼華。もうこんな所に用はない。趣味の悪い商人に硝煙の香。美しさの欠片もない場所だ。早く帰って香水でも撒かななあ、と狼華は肩をすくめて歩き出す。
 自由騎士達もそれを追うように場を去った――

 かくしてスレイブマーケットの一角で怒った騒動は終わりを告げる。
 歯車騎士団が訪れた時にはすでに事件は終わっており、フリーエンジンの神出鬼没さを印象付ける事となった。
 助けられた亜人達は治療の為にいったんティダルトに運ばれることとなる。それから彼らがどうなるかは、分からない。
 なぜなら、彼らはもう奴隷ではなく自由を得たのだから――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†


どくどくです。
国外に稼ぎに来て追いはぎにあるヨルダンさん可哀想。間が悪かったという事で。

以上のような結果になりました。もうネクロマンサー+壁の戦術も冷静に対処されるなぁ。
MVPは対ネクロマンサー対策バッチリだった非時香様へ。アフターフォローも含めての評価です。

それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済