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《オラトリオ1819》オラトリオ・オデッセイ

●
オラトリオ・オデッセイ。
それは神がこの大地に降り立った軌跡を祝うまつりだ。
創造神はこの世界に自分の体を10に分けて実在なる神を与えた。
創造神は一週間かけて神を作った。神は一週間かけてこの世界を知った。
12月24日から年があけ、1月7日までの間。
人々は神の誕生を祝う。
それはイ・ラプセルだけではなく他の国でも同じ、大きな祭になる。
ヴィスマルクの女神などは、この戦争のさなかだというのに、オラトリオオデッセイのために休戦を発布したというほどだ。
イ・ラプセルにおいては、12月24日から豪華な料理をたべたりプレゼントの交換が盛んにおこなわれる。イベントだって盛り沢山だ。
最初の日に恋人とともに過ごし愛を確かめ合ったり、オデッセイを祝うデコレーションツリーを立ててたりと、街は華やかに彩られる。
王城ではダンスパーティや祝賀会だってひらかれる。
エドワード・イ・ラプセルが国王となって早1年と半年。
国境線は大きく変わり、戦乱の時代が訪れた。
しかして、去年に引き続きオラトリオ・オデッセイの間は停戦協定が結ばれた。
安心はできないとは言え、神の誕生を祝うという行事はどの国にとっても尊いものなのだ。
さて、この世界に10柱の神が降り立った――今では4柱にまで減ってしまったが―その日を祝うこの祝賀パーティは年末の12月31日の昼頃からあける新年1月1日の昼まで丸一日をかけて祝う形になる。
王城には去年に引き続き自由騎士たちも招待されることになった。
きみたちにおくられたその招待状に従っても従わなくてもそれは自由である。
オラトリオ・オデッセイ。
それは神がこの大地に降り立った軌跡を祝うまつりだ。
創造神はこの世界に自分の体を10に分けて実在なる神を与えた。
創造神は一週間かけて神を作った。神は一週間かけてこの世界を知った。
12月24日から年があけ、1月7日までの間。
人々は神の誕生を祝う。
それはイ・ラプセルだけではなく他の国でも同じ、大きな祭になる。
ヴィスマルクの女神などは、この戦争のさなかだというのに、オラトリオオデッセイのために休戦を発布したというほどだ。
イ・ラプセルにおいては、12月24日から豪華な料理をたべたりプレゼントの交換が盛んにおこなわれる。イベントだって盛り沢山だ。
最初の日に恋人とともに過ごし愛を確かめ合ったり、オデッセイを祝うデコレーションツリーを立ててたりと、街は華やかに彩られる。
王城ではダンスパーティや祝賀会だってひらかれる。
エドワード・イ・ラプセルが国王となって早1年と半年。
国境線は大きく変わり、戦乱の時代が訪れた。
しかして、去年に引き続きオラトリオ・オデッセイの間は停戦協定が結ばれた。
安心はできないとは言え、神の誕生を祝うという行事はどの国にとっても尊いものなのだ。
さて、この世界に10柱の神が降り立った――今では4柱にまで減ってしまったが―その日を祝うこの祝賀パーティは年末の12月31日の昼頃からあける新年1月1日の昼まで丸一日をかけて祝う形になる。
王城には去年に引き続き自由騎士たちも招待されることになった。
きみたちにおくられたその招待状に従っても従わなくてもそれは自由である。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.パーティを楽しむ。
ねこてんまです。
オラトリオオデッセイの年末から新年の時間軸のパーティです。
王城での豪華なパーティの招待状をどうぞ。
アクアディーネ様はお誕生日用のドレス姿です。
ダンスホール中央には綺羅びやかな大きなデコレーションツリーが飾られています。真っ白なツリーの頂上には星がかざられています。
その他いろいろなオーナメントもかざられています。欲しい方はもっていってもかまいません。
ダンスをしたり、貴族とお話したり、豪華なお食事をたべたりとおもいおもいの時間をすごしてください。
アクアディーネのお誕生日を祝うと女神様は喜ばれると思います。
(もちろんしなくても構いません。御用があれば御用を最優先してください)
●参加しているNPC
元老院の政治家のお歴々。
基本的にどの派閥の方々もいらっしゃいますが、エドワード・クラウス派と穏健派が多いです。
ノイマン派のみなさんも我が物顔でデコレーションツリー周辺にいらっしゃいます。
基本的に彼らは談笑しておりますのでお話してくださって構いません。
有力貴族のみなさま。
某お嬢様もいらっしゃいます。
お見合いパーティのときのようにクラウスさんにおねがいすれば、貴族を紹介してもらうことは可能です。
エドワード・イ・ラプセル
クラウス・フォン・プラテス
イ・ラプセルの王と宰相様です。どんな人物かは皆様の知るとおりで多少の無礼はなんとも思いません。
エドワードは下記ダンスに誘えばきてくれます(社交ダンスの腕はそれなりです)
談笑にも応じてくれますのでご自由にどうぞ。聞きたいことがあればご遠慮無く。
アクアディーネ
この日だけは神殿ではなく王城にきています。
ですが周辺警護はかなり厚くなっています。
ホール奥の玉座に据わっています。ダンスのお誘いはちょっと難しいです。
ブランディーヌ・イ・ラプセル
前王妃です。エドワードのお母さんです。穏やかな方です。
クレマンティーヌ・イ・ラプセル
エドワードの妹さんです。15歳。恥ずかしがり屋の王女です。
気を抜くとカーテンの後ろに隠れてしまいます。
アルブレヒト・キッシェ
穏健派筆頭。 わりと朗らかなひとがらのキッシェ・アカデミーの現学長です。
オスカー・フォン・ノイマン
奴隷制復活を求める派閥の筆頭です。貴族主義ですので、基本的にノウブルとしか話しませんが亜人でも自由騎士なら話すでしょう。
亜人の方は辛辣なことを言われる可能性があります。
----------------------------------------------------------------------------------------------
彼らと話す話さないは自由です。
その他参加NPC
フレデリック・ミハイロフ
アクアディーネの警護にあたっています。不埒者は逮捕されます。
ヨアヒム・マイヤー
バーバラ・キュプカー
クラウディア・フォン・プラテス
ダンスしたりご飯たべてます。おしゃべりも歓迎。
佐クラ・クラン・ヒラガ
ミズーリ・メイヴェン
カシミロさんたちと談笑しています。誘われればダンスにも参加します。
ミズーリさんはともかく佐クラは相当ダンスは下手くそです。
アンセム・フィンディング
めっちゃ端っこで早く帰りたい。
ムサシマル・ハセ倉
アーウィン・エピ
もりもり食ってます。
ムサシマルは食うことに忙しいです。ダンス? そこにいるどヘタレミミズクが踊るっていってるでござる。
アーウィンは誘えばダンスには応じますがめちゃくちゃ下手ですので足を踏まれると思います。
基本的に亜人組は政治家の近くには近づかないように配慮はしています。
・できること。
基本的にあっちもこっちもと行くよりは、一つに集中したほうがよいリプレイになると思います。
希望のタグを最初に記入してください。
タグでチェックをかけているのでご協力いただけると執筆しやすいです。
内容は去年と同じになります。
王城での服装は基本的には礼服でお願いします。礼服がない場合は貸出もあります。
どうしても礼服は着ないということも可能ですが、貴族の心象はあまりよくないです。
【食事】
豪華な食事が用意されています。お土産に持ち帰りは少しならかまいません。
【ダンス】
貴族のみなさんやNPCとダンスしたり、PCの皆様同士でダンスしたりしてお楽しみください。
【談笑】
貴族のみなさんやNPC、PCたちと楽しく会話をしてみてください。
何かを尋ねれば答えれることであれば答えてくれます。
貴族のみなさんは身分にとてもこだわりますので、ご注意を。(エドワード・クラウス派のみなさん(ご家族も含む)はそこまで気にはしませんが、貴族に話しかけるということはどういうことかをご注意ください)
【警備】
警備はいつだって必要なのです。
【他】
別に王城のダンスパーティで遊ばなくてもいいんですよ?
王城以外もアデレードあたりの町並みはとても賑やかにバザーが行われていたりしています。
アデレードの中央には王城とおなじようなツリーが立てられています。(待ち合わせ場所としてメジャーです)
アデレードにはアルヴィダ・スカンディナもいるかもしれません。
ちょっと遠出して、メモリアに会いに行ってもかまいません。
カシミロさんと13番はオラトリオの商売をされています。
クローリーは呼べば来るかもですがさすがに王城にはいかないと思います。それくらいの空気は読むようです。
このタグは王城以外で何かをしたいかたはどうぞご自由にお使いくださいませ。
また、おひとりさま参加だけど、NPCにかまってもらいたい。でもそういうのちょっとはずかしい……という方は、EXにかまってほしいと書いていただければ参加NPC(運営(担当がちょころっぷ)NPC+ねこてんNPC)はだいたいだせますのでこっそりお声がけください。
こちらが勝手に構いに行ったという体でかかせていただきます。呼ばれなければ大人しくしてます。
また、誰に話しかけられるかわからないけどそういう出会いもいいよね! という方はEXにランダム希望といれていただいたら、誰かは絶対にかまってくれます。
ですが、上記のパーティにいるNPC以外は【他】タグでおねがいします。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
オラトリオオデッセイの年末から新年の時間軸のパーティです。
王城での豪華なパーティの招待状をどうぞ。
アクアディーネ様はお誕生日用のドレス姿です。
ダンスホール中央には綺羅びやかな大きなデコレーションツリーが飾られています。真っ白なツリーの頂上には星がかざられています。
その他いろいろなオーナメントもかざられています。欲しい方はもっていってもかまいません。
ダンスをしたり、貴族とお話したり、豪華なお食事をたべたりとおもいおもいの時間をすごしてください。
アクアディーネのお誕生日を祝うと女神様は喜ばれると思います。
(もちろんしなくても構いません。御用があれば御用を最優先してください)
●参加しているNPC
元老院の政治家のお歴々。
基本的にどの派閥の方々もいらっしゃいますが、エドワード・クラウス派と穏健派が多いです。
ノイマン派のみなさんも我が物顔でデコレーションツリー周辺にいらっしゃいます。
基本的に彼らは談笑しておりますのでお話してくださって構いません。
有力貴族のみなさま。
某お嬢様もいらっしゃいます。
お見合いパーティのときのようにクラウスさんにおねがいすれば、貴族を紹介してもらうことは可能です。
エドワード・イ・ラプセル
クラウス・フォン・プラテス
イ・ラプセルの王と宰相様です。どんな人物かは皆様の知るとおりで多少の無礼はなんとも思いません。
エドワードは下記ダンスに誘えばきてくれます(社交ダンスの腕はそれなりです)
談笑にも応じてくれますのでご自由にどうぞ。聞きたいことがあればご遠慮無く。
アクアディーネ
この日だけは神殿ではなく王城にきています。
ですが周辺警護はかなり厚くなっています。
ホール奥の玉座に据わっています。ダンスのお誘いはちょっと難しいです。
ブランディーヌ・イ・ラプセル
前王妃です。エドワードのお母さんです。穏やかな方です。
クレマンティーヌ・イ・ラプセル
エドワードの妹さんです。15歳。恥ずかしがり屋の王女です。
気を抜くとカーテンの後ろに隠れてしまいます。
アルブレヒト・キッシェ
穏健派筆頭。 わりと朗らかなひとがらのキッシェ・アカデミーの現学長です。
オスカー・フォン・ノイマン
奴隷制復活を求める派閥の筆頭です。貴族主義ですので、基本的にノウブルとしか話しませんが亜人でも自由騎士なら話すでしょう。
亜人の方は辛辣なことを言われる可能性があります。
----------------------------------------------------------------------------------------------
彼らと話す話さないは自由です。
その他参加NPC
フレデリック・ミハイロフ
アクアディーネの警護にあたっています。不埒者は逮捕されます。
ヨアヒム・マイヤー
バーバラ・キュプカー
クラウディア・フォン・プラテス
ダンスしたりご飯たべてます。おしゃべりも歓迎。
佐クラ・クラン・ヒラガ
ミズーリ・メイヴェン
カシミロさんたちと談笑しています。誘われればダンスにも参加します。
ミズーリさんはともかく佐クラは相当ダンスは下手くそです。
アンセム・フィンディング
めっちゃ端っこで早く帰りたい。
ムサシマル・ハセ倉
アーウィン・エピ
もりもり食ってます。
ムサシマルは食うことに忙しいです。ダンス? そこにいるどヘタレミミズクが踊るっていってるでござる。
アーウィンは誘えばダンスには応じますがめちゃくちゃ下手ですので足を踏まれると思います。
基本的に亜人組は政治家の近くには近づかないように配慮はしています。
・できること。
基本的にあっちもこっちもと行くよりは、一つに集中したほうがよいリプレイになると思います。
希望のタグを最初に記入してください。
タグでチェックをかけているのでご協力いただけると執筆しやすいです。
内容は去年と同じになります。
王城での服装は基本的には礼服でお願いします。礼服がない場合は貸出もあります。
どうしても礼服は着ないということも可能ですが、貴族の心象はあまりよくないです。
【食事】
豪華な食事が用意されています。お土産に持ち帰りは少しならかまいません。
【ダンス】
貴族のみなさんやNPCとダンスしたり、PCの皆様同士でダンスしたりしてお楽しみください。
【談笑】
貴族のみなさんやNPC、PCたちと楽しく会話をしてみてください。
何かを尋ねれば答えれることであれば答えてくれます。
貴族のみなさんは身分にとてもこだわりますので、ご注意を。(エドワード・クラウス派のみなさん(ご家族も含む)はそこまで気にはしませんが、貴族に話しかけるということはどういうことかをご注意ください)
【警備】
警備はいつだって必要なのです。
【他】
別に王城のダンスパーティで遊ばなくてもいいんですよ?
王城以外もアデレードあたりの町並みはとても賑やかにバザーが行われていたりしています。
アデレードの中央には王城とおなじようなツリーが立てられています。(待ち合わせ場所としてメジャーです)
アデレードにはアルヴィダ・スカンディナもいるかもしれません。
ちょっと遠出して、メモリアに会いに行ってもかまいません。
カシミロさんと13番はオラトリオの商売をされています。
クローリーは呼べば来るかもですがさすがに王城にはいかないと思います。それくらいの空気は読むようです。
このタグは王城以外で何かをしたいかたはどうぞご自由にお使いくださいませ。
また、おひとりさま参加だけど、NPCにかまってもらいたい。でもそういうのちょっとはずかしい……という方は、EXにかまってほしいと書いていただければ参加NPC(運営(担当がちょころっぷ)NPC+ねこてんNPC)はだいたいだせますのでこっそりお声がけください。
こちらが勝手に構いに行ったという体でかかせていただきます。呼ばれなければ大人しくしてます。
また、誰に話しかけられるかわからないけどそういう出会いもいいよね! という方はEXにランダム希望といれていただいたら、誰かは絶対にかまってくれます。
ですが、上記のパーティにいるNPC以外は【他】タグでおねがいします。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
1個
0個




参加費
50LP
50LP
相談日数
10日
10日
参加人数
37/∞
37/∞
公開日
2020年01月16日
2020年01月16日
†メイン参加者 37人†

●
ほろり、ほろりと。
雪が降る。
静かに雪は積もっていく。イ・ラプセルにも、ヘルメリアにも、パノプティコンにも、ヴィスマルクにも。
空はひとつ。同じ空。
「神」は祝うのに「彼」の誕生は祝わないのってなんだか少し――不公平だな。
アマノホカリからとりよせた金平糖を頬張りながらマグノリア・ホワイト(CL3000242)は思う。
こんなときはあの皮肉げな笑みを浮かべるアレイスター・クローリーに会いたくなる。
彼にとっては座標など意味はない。何処にでもいて何処にもいない。
だから見つけたくなった。呼べば来るだろう。でもソレじゃ意味がないのだ。
タイムリミットは0時。
マグノリアは歩みをとめない。気まぐれな彼の道筋なんてわからない。けど諦めたりしない。
きっとそこにいると思って高台の階段を登っていく。
いつもとは違う素敵なドレス。
貸衣装屋でほんのりと入れてもらったチークは桃色。お化粧なんてとは思ったけれどでも、鏡に映る自分がまるでお姫様みたいで。たまき 聖流(CL3000283)の心はふんわりと弾む。
会場で口にした料理はとても美味しくて。でもその製造工程なんて思いもつかない。どうやって作るのだろうと考えながら歩いていくと今日も一人のアンセム・フィンディングの姿を見つけふふ、とたまきは笑う。
「あらあら……ふふ……!
アンセムさんは、今日もお一人ですか……?」
「いや違う、芸術家は、孤独で……ある、べき」
眠そうな目を細めてきりりとアンセムが言う。
「あの、孤独のなか、申し訳ないんですが……ご一緒に、ごはん、いかがですか?
その、私はまだその粋には達せなくて、さみしいので」
「……しかたない、ね」
頬を染めたアンセムがかわいらしくてたまきはお皿に料理とデザートを盛って、テーブルの一番はしっこにアンセムと座る。
(そういえばアンセムさんがお食事されているところを拝見したこと、ありませんでした)
「なに? みつめて……もしかして、これ君の?」
「い、いえ、意外としっかりとたべるのだなとおもいまして……」
「食べるときはしっかり食べる」
「はい、そうですね……! 芸術家さんも技術者も体力勝負ですから……!」
「そう、それ。君も食べて。特ににんじん。ぴーまんも」
ラングフォード家で用意した礼服は可憐な少女を飾りあげる。
白を基調にしたそのドレスは年頃の少女の無垢さを表したかのようだ。
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は上品なカーテシーでもってエドワード・イ・ラプセルにダンスを申し込む。
「レディ、お手を」
エドワードがセアラをエスコートする。
演奏が変わる。
数人の知り合いがいるとは言え、キリ・カーレント(CL3000547)の緊張はいや増す。王様がダンスをするのだ。下手な演奏なんてできない。
なんてこわばった顔で王様をながめたら「がんばって」なんて王様が口の動きをみせるものだから、余計に緊張してしまう。
「キリ、いつもどおり。あなたの演奏は優しくて人を元気にするんだから!」
神殿音楽隊のジズが肘でつついてくる。
「う、うん」
「はい、深呼吸」
深呼吸ひとつ。今からキリ・カーレントは自由騎士じゃない。一つの楽器だ。
愛用のギターを指先で爪弾く。キリは思い出す。今までの冒険、そして親友たちとの共演。
そのキラキラした想いを指に流し込む。
キリはその瞬間が好き。まるで自分自身が音楽に溶け込んでいくようなその感覚。
ジズがくすりと笑ってそれでいいよと言った。その後のことは正直覚えていない。
だけど、とてもとても気持ちよかったのを覚えている。
キリたちが演奏する音楽はすこしだけアップテンポ。
セアラはなんなくダンスを続ける。
ややあって、ずっとしておきたかった質問を王様になげかけた。
「神の蠱毒に勝利し、白紙の未来をどうにかすることで、イブリースの発生を無くせますか?」
エドワードは少しだけ目をぱちくりとさせた。
「……そうだね。そうなってほしいと思う。神の蠱毒の勝利はまずはその一歩目だ。
世界を壊そうとする創造神を倒してこそ、きっと未来があるんだ」
「創造神ののぞみってあるんでしょうか?」
「……あるよ。それこそがこの世界の消滅だ。それは絶対に止めなくてはならない」
「幽霊列車、浄化の権能……。どうして、何を浄化しているのでしょうか……?」
「ソレは私にもわからない。けれど、アクアディーネ様が浄化という権能を得たことにはきっと意味があるのだと、私は思っている」
「エドワード陛下とアクアディーネ様の望む未来はどんなものなのでしょうか……?」
「差別のない、自由な世界さ。国なんて軛だっていらない。
みんなが自由で、みんなが命を謳歌するそんな未来だ」
そういって微笑んだ王様の顔はなぜか少しだけ寂しそうで。
セアラにとってはわからないことばかりだ。
正しいこと、間違っていること。
音楽が終わる。ダンスも終わる。
「みんなが、命を謳歌する、そんな未来」
離れる指先を見つめながらセアラは王様の言葉を繰り返した。
「肉と野菜はバランスよく食わねばならんぞ!」
「応よ。拙者育ち盛りでござるからな!」
「わかってるよ、あんたカーチャンかよ」
ムサシマル・ハセ倉とアーウィン・エピのもとに来るのは非時香・ツボミ(CL3000086)。
両手にもった皿から彼らの皿に配膳していく。もちろん野菜ばかりだ。
ムサシマルが配膳した先からアーウィンの皿に野菜を移動する。
「偏った食生活は心身の健康も偏らせる故な!」
「センセーも肉しかくってねえだろ! っていうか俺の皿が野菜まみれじゃねえか! ふざけんな!」
「もぐていうかもぐ、しっかもぐ、り、くえもぐ」
「もぐ肉はもぐ、旨いもぐ、なあもぐ医者もぐとしてもぐヒトビトの健康はもぐ気づかわもぐもぐ」
「食うかしゃべるかどっちかにしろ! みっともない! お前ら嗜みとかないのか!! バーカ!」
「なあ、アーウィン」
騒がしい卓を囲んでいた彼らに声がかかる。
振り向けば赤いドレス姿のグローリア・アンヘル(CL3000214)が頬を染めて立っていた。普段の武人然とした雰囲気はない。
少し逡巡してからルージュをひいた口元が開く。
「あけましておめでとう、今年もよろしくな。なぁ、また私と踊ってくれるか?」
「おい、貴様きれいなお嬢さんに誘われているぞ、羨ましいな~、断るなんて無粋な真似しないだろう?」
ツボミはバンバンとアーウィンの背中を叩く。
「おい、いてえぞ! センセー」
「その、私とではだめ、かな?」
「いや、そんなことはないし。あ、でも俺あんまりダンスうまくないぞ?」
「知ってる。私がリードしよう」
「足踏んでも文句いうなよ」
「もちろんだ」
「おお、行ってらっしゃい、ああ、その、ええと、そうだ。
食べてすぐは脇腹が痛くなるかもしれんゆえ、無理はせんようにな」
「おう、っていうかほんとにカーチャンかよ」
アーウィンがグローリアと一緒にダンスホールに向かった。グローリアなどみてみろ。私に相談をしてきたころにあんな女の子らしい笑みを浮かべれるやつだったか?
アレはいわゆる恋する乙女ってやつだろう。うん、別になんてこともない。恋せよ乙女。花の命は短い。
「ツボミ殿、お前さてはバカでござるな?」
「なんのことだ?」
「なんでもないでござるよ。あのミミズク、ヘタレのくせになんともはやでござる」
心は動かない。体だって動かない。ムサシマルの言葉の意味が何故かわからないから言葉も返せない。
この感情はなんだろう。病名(なまえ)がないのだから何でもない感情のはずだ。
なのに。心が麻痺する。踊る二人が似合いだと思おうとしている。
この感情に病名(なまえ)をつけるならば――。
ツボミにはそんな勇気はない。
「珍しいな、グローリアが化粧なんて」
「ほう。化粧をしてる程度はわかるのか」
「まあ、それくらいは」
「ならば、言うことはないのか?」
「なあ、お前はしゃいでない?」
ワンツースリー、アンドウトロア、不器用なダンスは続く。
「そりゃあそうだ。お前といるからな。心だって踊っている。で、言うことは?」
「あー、もう。はいはい。きれいですよ、グローリア」
「なんだか言わせた感があるな」
「正真正銘言わせただろうが!」
「ふふっ」
「なんだよ」
「楽しいとおもったんだ。こんなやりとりが」
そうやって笑うグローリアの顔が年相応でかわいいなんて思ってしまってアーウィンは戸惑う。
「きめたんだ」
「何を?」
「私がどうしようと、お前はヴィスマルクをどうにかしないとそこに心がいったままだろうから、まずは「お前と」騎士としての勤めを果たす。その後はその後に考えるってな」
「どういうことだよ」
「そういうことだ」
「わけがわかんねえよ」
「さしあたって、踊ってる間だけでいい。私のことだけ考え……いたいぞ、アーウィン」
「お前がへんなこというからだろ!」
踏まれた足はいたいけれど、この朴念仁を焦らせたとグローリアはひとつ自分に金星をつけた。
政治家であり自由騎士でもあるテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は忙しい。
特にこんなパーティだとよけいにだ。同じ派閥の政治家との強いパイプの作成に対立派閥への牽制の挨拶。随分と時間がかかった。我が細君はしびれを切らして頬を膨らませてるに違いない。
「ブランディーヌ様、只今戻……申し訳ありません」
頬を膨らませているはずの妻は前女王陛下の肩をかり寝息を立てている。
「いいえ、起こさなくていいわ。疲れているのでしょう。ええと、三ヶ月目だったかしら?」
「そこまで……ご存知でしたか」
「ふふ、宮廷の噂話を馬鹿にしちゃだめよ。カタリーナを大事にしてあげなさいな」
「もちろんです。ありがとうございます。
しかし、不安がないと言えば嘘になります。まだ年若い妻を母親にしてしまうなどと……それに」
「それに?」
「自分が立派な父親になれるのか」
「あらあら、イ・ラプセルの政治の虎は意外と臆病なのね。そんなもの、なってみないとわからないでしょう?」
「こんなことなら先王陛下に父親とはいかなるものかとお伺いしておくべきでした」
「あのひとだって最初にエドワードを抱き上げたとき落としかけたのよ? それでも、あの人はエドワードのよき父親でした。だから肩肘なんてはらなくてもいいのよ。
いいですか? 生まれてくる子供を誰よりも愛してあげなさい。守ってあげなさい。子供と子供をとりまく環境を。それが父親としての責務なのです」
そんなテオドールの様子をみていたのはカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)とアリア・セレスティ(CL3000222)と海・西園寺(CL3000241)とクレマンティーヌ・イ・ラプセルの仲良し四人組。
ごほんとテオドールが咳払いをすれば揃って口を抑えてきいていませんでしたよそっぽを向いて、また顔を合わせて笑う。乙女たちの噂話はどこに着地するのだろうと思いながらテオドールは退席する。
いつもどおりにカーテンの後ろにいた王女を見つけた海が手を引いてブランディーヌのもとに連れてきたことに気づいたアリアとカーミラが合流して、少女4人と前王妃とで小さなお茶会を始めようとしていたところだった。
海は王女を守る騎士としてりっぱなエスコートができたと自負している。だから前王妃にもその誓いを立てた。
「まあまあ、ティーヌには立派な騎士様がついたのね。海、この子をよろしくね。泣き虫な子だけれども」
「お母様……っ! 海の前でっ!」
真っ赤になって王女は前王妃の言葉を遮る。そんなティーヌが可愛くて海は守りたいと強く思う。
「あの、ブランディーヌ様。もっと、ティーヌのこと、教えて下さい」
「あ、私も気になります。ぜひ!」
なんてアリアまで乗るものだから王女は泣きそうな顔になる。
「ヘルメリアでは葬送の騎士って呼ばれてるんですって」
「そうなんですか?」
話題は尽きない。冒険譚を語るアリアの話を興味深そうにきく王女に最近の話題をふる。
「不殺を貫いているのになんでこうなったのかしら?」
「アリアは有名な騎士だから……」
「まあまあ、蒼空の騎士が怖い名前をもらったものね」
前王妃の言葉に、アリアは本当に、どうしてなのでしょうか? とまた呟いた。
平和で、和やかな時間。だからこそ戦闘で刻みつけられた傷がじくじくと痛む。この先同じようなことは無いとは言えない。無意識に青いドレスを握る。
「アリア?」
「ううん、なんでもないよ。そうだ! 王妃様。他にもティーヌの小さい頃のエピソード聞いてよろしいでしょうか?」
「アリア、それはだめ、なの」
「海も聞きたいです」
心に堕ちた黒い影を振り払うようにアリアは努めて明るく次の話題をふる。
今の、この瞬間を楽しむために。
「会が終わるまで匿ってください! クラウス様っ!」
父親が持ちかける縁談に逃げ回っていたデボラ・ディートヘルム(CL3000511)がクラウスの後ろに隠れようとする。
「レディらしからぬ態度であるな」
「だってだって、お父様が紹介してくるのが同年代ばかりなんです。私はおじさまがいいんです!
クラウス様! 40代以上の方いらっしゃいませんか? 30代までなら妥協します!!」
「全く君は……その年令の貴族で未婚なのはある意味問題があるものが多いがそれでいいのかね?」
「うう……それはちょっと……」
「そうだな。レイモンド家のご令息はいかがかな?」
「ケインくん最近10歳になったばかりじゃないですかーーーー!!! 同年代ならまだしも年下すぎる子とかハードル高すぎます!」
「同年代はそんなに嫌か?」
「もう、同年代の殿方に弄ばれるのはたくさんです」
「トラウマか。しかして年上の男性に同じようなことを言われたらどうするのかね? いいかね、レディ。
相手の年若いからそうなるわけではない、男性を見る目を養うことであるぞ」
「クラウス様が意地悪をいってきます~~~!!」
「ごきげんよう、宰相閣下」
優雅な礼でレティ・アスクウィス(CL3000613)はクラウス・フォン・プラテスに声をかけた。父上と兄上も来られているのだ。多少他の貴族への挨拶は短く切り上げてきたがかまわないだろう。所詮ワタシは「次女」だ。宰相閣下への挨拶で「おしごと」は終わりだ。おわりだけれど少し重い気分になる。
「アスクウィスの令嬢か。随分と美しくなったな。母君より話は聞いている。どうした? 気が進まない顔をしているが」
「い、いえ、その、気が進まないというか嫌というわけではないんです」
アクウィス家、次女であるレティに課せられた立場は貴族との婚姻によるお家の繁栄。貴族同士の結びつきのための道具。わかっている。わかっているのだ。
「なんといいますか、自分がどなたかと婚姻している未来が浮かばないと申しますか。
うら若き乙女のささやかな我儘といいますか……抵抗といいますか」
「ふむ。紹介できる貴族はそれなりにはいるが……君は自由騎士になったのだったな」
「はい」
「ならば、世界をみてまわってはいかがかな? うら若き少女がなにも今すぐにと決めてしまうことはない。母君には言っておこう。
憂鬱な乙女は絵にはなるがね。しかして、それは自由な騎士である君を縛ることにほかならない。
それでも家に殉じるのであればまた吾輩に声をかけたまえ」
「なんだか、私と対応が違いません????」
デボラの半眼でのツッコミにクラウスはごほんと咳払いをした。
「ご機嫌麗しゅう存じます。随分とお疲れのようですね? 宰相閣下。お食事をおもちしましょうか?」
エドワード・クラウス派とアルブレヒト・キッシェ派の方々に挨拶をして回っていたレオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)がクラウスに尋ねる。
「ああ、軽いものをお願いするのである」
「ええよしなに」
レオンティーナはトレイに消化の良さそうなものを選んで載せてくる。
「すまないな、レディ」
「いえいえ、どうかされました?」
「最近のレディはなんとも積極的でな。新しい時代の女性とはこういうものかと考え直させられたところである」
「ふふ、宰相閣下を困らせるなんて」
「とはいえ、頼もしいとはおもうがな」
「ええ、頼もしい女性も素敵でしょう? 私――ロマーノ家にできることであれば何でもお申し付けくださって構いませんのよ」
「ここにも女傑がひとり、か」
纏う礼服は最高級のもの。クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)女神の生誕を祝い王族と挨拶を交わす。
堂々たるその様はなるほど、貴族の嫡男にふさわしい教育の賜物だろう。
クラウス派、キッシェ派はもとより、険悪な間柄であるノイマン派の貴族に臆することもなく挨拶をする胆力はなかなかのものだ。
「イ・ラプセルを思う気持ちは同じ……そして何より、オラトリオ・オデッセイの真っ最中。
今回はいがみ合うのはよしましょう!」
などと快活に言われてしまえば、ノイマン派とて苦虫を噛み潰すしかない。
クレヴァニールは貴族の子弟たちとも積極的に話しかける。未来、イ・ラプセルを担うもの同士仲良くすることに損はない。
美しいご令嬢との会話はこころが踊る。あわよくば婚姻の約束を交わして立場を盤石にし、有力貴族として――。
(そして!もふもふケモノビトの地位向上のために!!!!!!)
クレヴァニール・シルヴァネール。彼は少し変わった貴族なのである。
「オスカー様、新しい年もよろしくおねがいします」
不遜な輩に目を光らせなからライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)が、オスカー・ノイマンに新年の挨拶をする。
「自由騎士の犬か。どうだ? 亜人と手を取り合うのは楽しいか?」
「これは随分手厳しい。私が動くのは亜人と戯れるためではございません。全ては国益のため
ええ、亜人と言葉は交わせます。しかして種としては下劣。我らノウブルとはともに歩めぬ者たち。社会の仕組みは彼らを礎にしてこそうまく回るというもの」
「口が回るな、ウィンリーフ。クラウス派のものと懇意であることも知っているぞ」
「いえいえ、かの女傑はあくまでも好敵手ですよ。懇意などありえない」
「どうだかな」
「そこを疑われますか。では貴方の掲げる理想に忠実である証、どう捧げましょうか?」
「武勲をとれ。
ノイマン派自由騎士として、揺るがぬ立場を得ることに注力するがいい。せっかく敵の内側にはいったのだ。利用せずしてどうする」
「全くあなたは抜け目がないといいますか」
ライモンドは古狸のノイマンに嘆息した。
ドレスは奮発して最高級のものを借りてきた。男性受けのいいものとお願いしたら、真っ白なふわふわのかわいいドレスにされてしまった。自分には似合わないと言ったけどゴリ押しされた。
いつもとは違う自分にエルシー・スカーレット(CL3000368)は緊張する。
まずはご挨拶だ。とは言え陛下は国王。お忙しい方だ。今話しかけて大丈夫だろうかとウロウロしていたら別の貴族が話しかけにいった。
待っている間また、挨拶の練習をしてみた。端っこでブツブツ呟く姿は多分怪しいだろうけど失敗するよりは全然いい。
(いま話しかけても平気かしら? お忙しいんじゃ……)
なんてつい思って逡巡したら別の子が陛下とダンスしてるぐぎぎ。
これ以上戸惑っていてもらちがあかないとエルシーはぱちんと頬を叩いて、歩を進めた。
「へへへっ陛下!! ごごご機嫌麗しゅう存じます。自由騎士のエルシー・スカーレットですっ!
本年もこうしてオレトリオ・オデッセイのお慶びを陛下に申し上げる事がかない、ととととてもうれしく思いますっ」
一気にまくし立てた。もう完全にボロボロ。練習の意味は何処へ? せっかくの機会だというのに!
「うん、エルシーありがとう。今年もよろしくね。
今日はいつもと違うね。せっかくだから踊らないかい? レディ」
陛下はミスなんて気にしないで自分に向けて手を伸ばしてくれる。ダンス? 誘われたの? ほんとに?
「ひゃ、ひゃい」
真っ赤になったエルシーは夢見心地で手を伸ばした。
「がくちょーちゃーん」
両手にはたくさんの料理を手にし、ナナン・皐月(CL3000240)が飛び込んでくる。周りの人に教えてもらったから間違えてはないはずだ。
「おっと、少女。慌ててはいけないよ」
転びそうになるのをアルブレヒト・キッシェが抱きとめ、あわや大惨事は未然に防がれた。
「あのね!
ナナン、お家のお勉強ばっかりじゃなくね?
いっぱいの不思議な事があるんだー! って思ったからね?
がくちょーちゃんの所にもお勉強しに行きたいなぁ……って思ってるのだ!」
「ほう、入学希望かね? 君くらいの年から学ぶ子供はたくさんいるさ。よく学ぶといい」
「どうして神様はうまれたの? とか、お空の上と海の底には何があるのー? とか、どうして世界はキラキラとドロドロがあるの?? とか!!」
「随分と「どうして」が多いね」
「うん! ナナンのいっぱーいの「どうして?」を一緒に「かいけつ!」して欲しいのだ! 」
「私とかい?」
「うん!」
アルブレヒトはナナンの頭を軽く撫でる。
「それは私ではなく、同じくらいの年の子どもたちと学ぶといい。そうしてつながりを作るんだ。
誰かに教えてもらうではなく、同じように「どうして」の仲間と学ぶほうが「かいけつ」に早くつながるのさ」
グローリアとのダンスのあとのアーウィンに襲いかかる次の刺客は『羊屋』の面々。
どうにも揃って誘惑する作戦、らしい。
雪・鈴(CL3000447)は誘惑という概念は知ってはいるがそれを誰かに施行することにはなれていない。
わからないままに意を決して、勇気をだして話しかける。
「こんにちは、おはなしするの、はじめてですね? えと、雪といいます」
触覚をぴるぴると震わせながら話しかける。
「お、はじめましてだな。アーウィン・エピだ。なんかその触覚俺のと似てるな」
言ってアーウィンも同じように羽角を震わせた。
「わぁ」
アーウィンが目つきが鋭くて怖そうにみえるけどこわくない、いいひとだと鈴は知らされていた。
でもまさかそんなような「おなじ」を指摘してくれるなんて。なんだか少し嬉しくなる。
「あの、前からお話してみたいなっておもってて。えと、ぼく、マザリモノですし、虫ですけど、えと、仲良くしてくださるとうれしい、です」
それは鈴の精一杯の願い。
「あのなあ、マザリモノとか、虫とかそれは個性だろ? 卑下するようなものじゃないってのが、この国だぜ?
実際まあ、俺もやっとそれになれてきたところだけどな」
「えっと、あの、その」
「だから仲良くするなんて当たり前だろ?」
「は、はい!」
言って微笑んだ満面の笑顔につられてアーウィンも笑う。
だけど鈴くん、これって誘惑じゃなくて、ただの挨拶じゃないかな?
「うおっ?!」
そんな弛緩した雰囲気を「前衛」の瑠璃彦 水月(CL3000449)が壊すようにアーウィンの脇腹を擽る。
「てめえ!」
「いやいや今宵は無礼講、おもしろおかしくたのしみましょう」
「でっ! なんで、ふひゃ?! 擽るんだ!」
「笑顔は大事ですからな」
着慣れない礼服は動くにくいとはいえ、ターゲットもその条件は同じ。いつもより鈍いアーウィンは絶好の獲物だ。
「アーウィン殿も礼服を着ていれば、背が高いゆえ似合ってますなぁ」
「そ、そうか? まじでか」
「体躯に恵まれるのも才能の一つですゆえ、あっしも30Mは身長ほしかったですぞ」
「おい、そこまでいったらもう身長じゃなくて体高っていうんだぞ!!」
「はは、一本取られましたな!」
「もう、みんなで誘惑するんやろ? 鈴も彦も。全然あかんやん」
パンパンと手をたたきながら、顔見知りの「VIP」に目線で挨拶をしながら蔡 狼華(CL3000451)が仕切る。
「【サロン・シープ】の品格を見せつけなあかんのに。もう。
そうや、アーウィン。うちが女役しますからダンスせえへん?」
狼華の誘いに露骨に嫌な顔をするアーウィン。
「ちゃぁんと、手取り足取り教えるさかい」
「それが嫌なんだって」
「足踏むことなんて赦しませんえ?」
逃げることは不可能と悟ったアーウィンは白旗を上げれば瑠璃彦と鈴がやんややんやと拍手する。
サロンシープでダンス指導のメニューをいれるのええかもしれんねとダンスを終えた狼華は皮算用。
ぐったりとした見込み客(アーウィン)に次の魔の手が迫る。
「よー、アーウィン。楽しんでるかー?
んん、いかんぞ。貴族の痛い視線が気になろうが若者がこういう時に楽しまなくてどうすんのよ?」
一番面倒なのが来やがったとアーウィンは嘆息する。
「こらこら、そんな反応おじさんかなしいなあ~
で、アーウィンちゃんよ、あっちはどうよ」
いいながら小指を立てるニコラスにアーウィンの顔が赤くなる。初な反応いいねえ、とニコラスはほくそ笑む。
感情探査で困惑するアーウィンの思考におちょくりがいを感じ楽しくなる。
「国に家族がいるんだろ。分かる分かる。けどよ、それ気にしてばっかで男磨き疎かになってたらいかんよ。
ちょうどいい店知ってるから、どうよ。」
「なんなら、うちも手ほどきしますえ?」
狼華が艶かしく指先をアーウィンの首元に回す。
「お前男だろ! しってるんだからな! 何する気だよ!」
「ふふ、男ならではの――あ、逃げよった」
「逃げちゃったねぇ」
「ヘタレでござるねぇ」
「ヘタレ、ですか?」
おもちゃを逃した羊屋の面々は顔を見合わせて笑うのだった。
「はいはい、パスタですよぉ~!」
差し入れ係になっているのはアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。そらとぶパスタの使徒として、パスタ推しはやめられない。
そもそもこのパーティのパスタはデュラムセモリナ100%! 高級なパスタだ。
皆さんに食べてもらわなくては!! そんな使命感が彼女を突き動かす!
「わわっ! なにこれ?!」
アーウィンとムサシマルと一緒に食事中のリサ・スターリング(CL3000343)のもとにも使徒は現れる。
どっさりと載せられたトレーの上のパスタに、アーウィンはうんざりとした顔を浮かべる。
「お残しはゆるしません!」
なんとパスタの使徒は厳しいのだ。
「食べれるかなあ~」
リサとムサシマルは先程フードバトルを終えたところだ。ちなみに勝敗はアーウィンの惨敗。
「へいへい、リサ殿びびってる~~~~」
「びびってないよ! ムサシマル!!」
「食べれないのでござるかぁ~~~~」
「食べれるもん、なんならもう一度バトルする?」
「ガッテンでござる!」
いいながらムサシマルは自分に配膳されたパスタをアーウィンの皿に移し替えている。
「あ~~~ずるい!」
「勝負というものは盤外からはじまるでござる!」
「なんかいいこと言った風だけど反則だからね~」
なんだかんだでワイワイいいながら食べるごはんはいつもの何百倍もおいしいのだ。
「いつのまにかてんこもりのパスタなのだぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)の肉だらけだったはずのお皿にパスタまで鎮座している。きっと使徒の仕業だろう。
さっきまでサシャを警戒していたシェフは、笑って「バランスよく食べろと神の思し召しさ」なんていいつつも、去年よりぶあつめに切った肉をサーブしてくれた。
ぐぬぬパスタがなければもっとお肉が山盛りだったのに!
とはいえお残しなんて言語道断。
もぐもぐ。
「む、このパスタはお肉にあうんだぞ! ぴきーん! お肉とお肉の間にパスタを挟めば、お肉サンドになるのだぞ!」
豪快な食べ方は随分お気に召したようで、サシャは幸せそうにお肉サンドを頬張る。
「シェフ、お野菜は載せないでほしいんだぞ! え、たべないとお肉をもう載せない? それはこまるんだぞ!」
さり気なく食事のバランス指導までされてしまうサシャなのであった。
ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)は厳粛に今日もアクアディーネを見つめ祈りを捧げる。
いつもであれば関係者を巻き込んで騒ぐ彼がなんとも珍しいことだ。
周囲のやべーやつ担当の兵士もソワソワとはしているが今日は何事もなく過ごせるのかとホッとしている。
祭事の最初から最後まで祈りを捧げ続けると宣言した彼は宣言通りおとなしく祈りを捧げている。
そもそもにおいてだ。ナイトオウルは小心者だ。この厳粛な態度こそが自然体だとも思っている。事実迷惑をかけていたことは自覚だってしている。
この素晴らしき日に誰かの手を煩わせてしまうことには申し訳無さだって感じていたのだ。だから今日こそは厳粛に粛々と。
頭をたれ続けることを決めたのだ。
「あ、アクアディーネ様!」
子供が神の名を呼ぶ。微笑ましいことだ。そう思いふと目を上げてしまった。
ばちこーん。
子供の方向いたアクアディーネと目があってしまったなんということだおそれおおいちょっとまって女神いまこちらにてをふったファンサ最高ではありませんかまじでやばい。
「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!」
ナイトオウルくんは多分いつもよりは頑張ったとおもうよ。
というわけで、やべーやつ担当の兵士がいつもどおりにナイトオウルの両腕を掴んで撤収するのであった。
アクアディーネのもとに双子の兄妹が挨拶にくる。
この国のものとして洗礼を受けたときに遠目で見たことがある程度で神さまに近づき言葉を交わすのは初めてだ。
「アクアディーネ様、本日はお招き頂き、ありがとうございます。
ノーヴェとは双子になります。
セーイ・キャトルと申します。
……以後、お見知り置きを」
丁寧なセーイ・キャトル(CL3000639)の挨拶に女神は笑顔で小さいのに立派ねと微笑む。
「新しい……とし、は……アクアディーネの、うまれた日だって……聞いた、から……。
セーイといっしょ、にカミサマ、の?、アクアディーネに……あいさつ……」
それとは対照的に双子ノーヴェ・キャトル(CL3000638)の挨拶はともすれば不敬と断じられても文句の言えないものだった。
「こ、こら!
この者……ノーヴェは、言葉の発達が遅いもので……
無礼な発言をするやも知れませぬが、どうか「神のご慈悲」で御容赦頂きたく……」
ノーヴェの挨拶にわかってはいたもののぎょっとしたセーイは急いでフォローする。
平然とした顔のノーヴェと慌てるセーイに向かって女神は優しく笑う。
(ふーん? この人がこの国の神様……って言うものなんだ?)
セーイは思ってたイメージとは違う女神の纏う雰囲気を覚えようとまじまじと見つめる。
「うまれる、って……いう、のは……うれしい、?……ね……。」
「ええ、あなた達が生まれてくれて、出会えたことは幸福だと思います」
「…私……は……アクアディーネ、を……守る役目……」
「ふふ、ありがとう。ノーヴェ」
「でね、……私? ……は、アレが……ほしい……」
ノーヴェが大きなツリーのてっぺんを指す。
なんとか無事挨拶ができた? と思ったのもつかの間。またノーヴェがやらかしたことにセーイは肝を冷やしまたもフォローに徹する。
「……申し訳御座いません。不躾なノーヴェの願いですが……叶えては頂けないでしょうか……?」
それでも双子の兄妹は可愛いもの。願いを叶えてやりたいと女神に願う。
「あのお星さまきれいですもんね。えっと、終わってからでよければ届けるように手配しておきますね」
「やった……セーイ? もらった」
悪びれないノーヴェにセーイは大きなため息をついたのであった。
「アクアディーネ様、ご生誕の記念日に、心よりお祝いもうしあげます」
初めて纏うドレスにドキドキしながらナーサ・ライラム(CL3000594)は覚えたてのカーテシーでちょこんと挨拶する。
「上手にできてますね」
そんなふうに神様に褒めてもらえるなんて思ってもみなかった。
ヨウセイたちは神に迫害された種族だった。それが本当に過去のことになったのだとナーサは実感することができた。
「はっはい!」
答えた声が震える。でもそれは怖いからじゃない。嬉しいからだ。
神に見つめられナーサは恥ずかしくなって目線をそらす。その先には美しいツリー。
そのツリーにキラキラと輝くオーナメントはまるで、ヨウセイたちの未来のようで。
ナーサは幸せそうに微笑んだ。
その姿を遠くから見つめるのはなれない礼服に身を包んだジーニー・レイン(CL3000647)だ。
パノプティコン出身で公用語なんて覚えたばかり、実績すらうすい自分にまで届いた招待状はなんども偽物じゃないかと疑った。(だけど正真正銘本物だ)
あれがこの国の神。
洗礼したときに一度会ってはいるがまじまじと見るのは初めてだ。青い透き通るような髪はなるほど、まるでその名のとおり水のようだ。
次に目線が向かうのは招待状の主、国王エドワード・イ・ラプセル。
すれ違いそうになった貴族を大きく避けて様子を伺いにいく。
「アレが国王陛下か。話には聞いていたが、ずいぶん若いな」
ジーニーはその国王が自らの悲願を託すにふさわしいかを探る。
シャンバラを倒しヘルメリアに勢力を伸ばしたこの国。パノプティコンの唾棄すべき体制を破壊できるものは今やイ・ラプセルしかないと思う。
対抗馬にはヴィスマルクがいるが、マザリモノである自分があの国のもとにいく理由はない。
――だから。頑張っていただきたいものだ。
手渡された豪華な食事を嚥下しながら、ジーニーは小さく呟いた。
「お、お誕生日おめでとうございます、アクアディーネ様! わたしにまで招待状を下さって嬉しいです!」
ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は声が震える。
「ふふ、あなたは仲間でしょう? ティルダ」
「はわわ、なかま。えへへ
良い一年になるようにわたしもがんばります! アクアディーネ様が幸せでいられますように」
「ティルダ、私は、あなたも幸せであってほしいんですよ!」
そんなふうに言われてしまって、もう頭がパニックになって逃げ出すように退席しちゃったけれど大丈夫かなと、ティルダはテーブルについて思う。
きらきらかがやくような夢のようなパーティ。
シャンバラでもこんなふうに祝ってたのかな? なんて考えて頭を振る。そんなこと今思ってもなにもならない。
終わったことだ。ティルダの心にどんよりと黒いものが渦巻く。
終わっても心の傷はまだ癒えるわけではないのだ。
ティルダはぱちんと自分のほっぺを叩いてそんなどろどろを追い出す。
お祝いの席なのだから! あえてそれを口にだしてから、デザートのジャスミンゼリーを口にする。
口のなかに花の香りが広がり幸せな気分になっていく。
「あああ、だめや……駄目やった……」
隣りに座った女の子の絶望的な声にびっくりして、目を向ければ、バッチリ髪も結い上げ、可愛らしいドレスに身をつつんだ淑女――まあもちろんこの嘆きで淑女らしさはなくなってはいるのだが――アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)。
「あ、あの?」
ダンサースキルを駆使してダンスを踊る気まんまんであったアリシアは意気揚々ダンスホールにでたものの、そもそもにおいて、誘い方がわからないことに気づいたのだ。
見ず知らずの男性に声なんてかけることなんてできない。誘われやすい場所に待機するものの、お声はかからず――。
なんてことをティルダに切々と語るアリシア。
「えっと、ジャスミンゼリー食べます? 美味しいですよ」
慰め代わりにゼリーを差し出すと「食べるー」と、アリシアはもぐもぐする。
「めっちゃおいしいやん」
「でしょう?」
泣きべそ顔は何処へやら。あっという間に笑顔のアリシアをみてティルダはこんな可愛い子を誘わない男性は見る目がないと思う。
「えっと、踊りませんか? えっと――」
「アリシアいうんよ」
「アリシアさん、一緒に踊って男性たちを見返しましょう。こんなに可愛い子がいることを示します。わたしはティルダと申します」
「せやね! よろしゅうね、ティルダ」
「ええ」
その後、少女たちにダンスの申込みが殺到したのはまた別のお話。
「いややわ。ウェルスさん、なんか下心みえてるもん」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が佐クラ・クラン・ヒラガを誘えば開口一番ピシャリと断られる。
「ええっ、お嬢のために一張羅を仕立てて……!」
「んもう、そんな絶望的な顔せんといてよ。うそやよ。
ええよ、最近ウェルスさんダンサーもかじってるんやろ? お手並み拝見するわぁ」
なんともこのうさぎのお姫様は一筋縄ではいかないようだ。
「じゃあ、踊ってくれるかい? お姫様」
「はいはい、王子様……って感じではないよねぇ?」
「そのとおりだ。俺は愛の狩人ってところか」
「いややわ、うち狩られてまうのん?」
「お望みとあらば」
「あかんよ、だぁめ」
音楽がしっとりとしたチークダンスのものに変わる。触れ合う肌が熱い。
「どうだい?上達しただろう? 美女のためなら――」
その先をウェルスが言う前に佐クラの指先がウェルスの唇を塞ぐ。
「しっとるんよ? そういうの誰にでもいうって」
アデレードの大きなツリーの下では微笑ましいボーイミーツガールのものがたり。
招待状はきていたけれど、それより大事なものがある!
待ち合わせ時間までは後40分。ロイ・シュナイダー(CL3000432)はにやけている。
あと40分で愛しのハニーが到着するのだ。うん、ちょっと40分前は早かった気もするけどそれだけ待つ楽しみはあるのだ。
前日までにリサーチして予約したレストランはしっかりと予約はできていた。絶景スポットと穴場スポットはメモにかいてきた。
自然と鼻歌が溢れる。
タイガ・トウドラード(CL3000434)もまた待ち合わせの時間より早く向かうことにした。王城への招待を蹴ってしまうことに多少の後ろめたさはあるが今日一日だけは勘弁してほしい。
私が先にツリーの下にいただロイはどんな顔をするのだろうか? ツリーに近づくたびに心臓がロデオのように跳ねる。
あれ? 遠目からでもわかる。ロイが既に待っている。自然駆け足になる。
「タイガ!」
駆け足のタイガを目ざとく見つけたロイが大きな声で彼女を呼ぶ。
「ロイ! そのまたせちゃったか?」
「いや、俺がタイガに会えるのが楽しみすぎて早くきただけだから」
そう言って微笑む幼馴染の頬も耳も鼻もまっかっか。指先なんてさらに真っ赤だ!
タイガは自分のストールを外し、ロイの頭からゆるくまく。
「タイガ? さむいでしょ」
「馬鹿だな。お前のほうが寒かっただろう? こんなに手が冷たい」
タイガははじめて自分が大柄であることに感謝した。男性であるロイより大きな手。
この手があればロイを温めることができるから。
「うわわ、タイガあったかい!」
「うん、そうだろう」
そう言って微笑んだタイガの笑顔にロイの心は撃ち抜かれる。そりゃ素でもタイガは美人できれいで可愛いけど、笑顔になったらもう女神にだって負けない!
「その、レストラン予約してあるからいこうか」
ロイはポケットの中のペアリングを意識する。喜んでくれるだろうか。
「うむ」
タイガはかばんの中にしまったペアのカフスを意識する。喜んでくれるだろうか?
王城より北、そこは小さな忘れられた森の墓所。
そんな寂しい場所に二人の男女が訪れる。
木の枝で作られた30の墓標が雪にまみれて静かに佇む。
「ここか? エルエル」
背中のナップに30の石版を積んだザルク・ミステル(CL3000067)が先をゆく女に問いかける。
「ええ」
墓標の前にたつ魔女だった女――エル・エル(CL3000370)の表情は透明だ。
ここでかつて女は復讐を誓った。彼らのために。彼らに縛られることを望んだ。
たった一人いきのこったサバイバーズギルトはエルの心に楔として、呪いになった。
復讐が終われば散るだけだった。幸せになどなれる道理など自分にはないと思っていた。
「で、名前、覚えてる限りでいいからさ」
ザルクは素手で雪を払いながら丁寧に木の枝の墓標と石碑を置き換えていく」
「……リズ」
「リズ、な。そんで?」
エルは一人ずつを思い出しながら名前をザルクに伝えていく。ザルクはその名前を覚えながら掘っていく。エルという魔女の重荷(じんせい)を自分でも背負うかように。
30の名前が彫られた新しい墓所に二人は祈りを捧げた。
「あたしは……
生きたいわ。残りすくない命だけれど、彼の隣で。
それを赦してちょうだい」
とぎれとぎれの願いがエルの口から滑り落ちる。
「まったく」
ザルクはそんなエルが愛しくてしかたなかった。何度も彼女とは生きることにたいして対立した。
けれど、彼女は自分と過ごす日々を選ぶことができたのだ。それが何よりも嬉しかった。
「そんなところにしゃがみこんだら冷えるぞ」
ザルクはエルの肩を抱く。ヒトの体温が心地良い暖かさだと気づけたのはザルクのおかげだとエルは思う。
「にしても寂しいな」
「花が咲いたらましになるのかしら」
「なるほど。じゃあ種でもまくか、すぐには無理でも春にはきれいな花がさくだろうさ」
「ええ」
二人は墓標の周りに種を蒔く。春になったらまた訪れる約束をして。
きっと春にはましろのカーネイションが咲くだろう。
「ねぇザッくん」
「ん?」
「あたしを好きになってくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
血族を裏切るようなこの決断は赦されるものではないかもしれない。死んだ後セフィロトの海で恨み言を言われるのかもしれない恐怖にエルは震える。それでもこの決断は覆されることはない。愛するこの男――ザルクと一緒に生きたいと望んだ自分が誇らしいと思ったから。
きれいなお嬢さんとのダンスも捨てがたいけれど。
オルパ・エメラドル(CL3000515)は一人――否、かつての同胞たちと新年の祝杯を上げる。
きのこタワー近くの海岸からシャンバラの方角を見つめる。流石に大地までは見えはしないが構わない。
そうすることに意味があるのだから。
海の向こうのシャンバラの妖精郷ティルナノーグ。理想郷の名を関した故郷は理想郷とは程遠い生活をすごしてきた。
しかし時代は変わった。故郷がいつか本当に理想郷と呼ばれる日はくるのかもしれない。
「親友に、父さん、母さん、神の生まれた日、オラトリオ・オデッセイだそうだ。一緒にお祝いしようじゃないか」
自分が神を祝うなどと考えることなどあるわけがないと思ったのにこんな日が来るとは。
りんご酒が注がれた杯を高く掲げる。肴はきのこタワー。ヨウセイが変わることのできた最初の楔。
「それに、俺達がミトラースから解放されたお祝いもな。新しいシャンバラに、乾杯だ」
かつんと、杯が音をたてた。
そんな気がした。
「アレイスター」
「やあ、マグノリア・ホワイト」
正直なところ自分が見つけたというよりかは見つけさせられたというところだろう。
高い空から右往左往する自分をきっと笑いながらみていたのだろう。本当に意地悪だ。
「『彼』と出逢える可能性を作ってくれて、ありがとう。 心から、ね。 そして、アレイスター。 「君」が生まれて来てくれた事にも感謝するよ。 ……だから。 生まれて来てくれて、ありがとう……」
悔しい思いはおいておいてそれだけは伝える。そのためにここにきたのだから。幸い年が変わる前。タイムリミットには間に合った。
「死なせてくれたら僕も感謝してもよかったんだけどね」
皮肉なその返しはいつもどおり。想定通りだ。
そんな彼に金平糖を半分なげつける。
それからどうでもいいような話をした。寒かったけど。彼は弱暖房魔法なんていうチートを使っているらしい。ずるい。
「あ――」
それほど話していたのか。
いつの間にか遠い空が群青を過ぎて赤く染まる。
新しい一年の新しいおひさまを彼と見ることができて、マグノリアは少しだけ微笑んだ。
ほろり、ほろりと。
雪が降る。
静かに雪は積もっていく。イ・ラプセルにも、ヘルメリアにも、パノプティコンにも、ヴィスマルクにも。
空はひとつ。同じ空。
「神」は祝うのに「彼」の誕生は祝わないのってなんだか少し――不公平だな。
アマノホカリからとりよせた金平糖を頬張りながらマグノリア・ホワイト(CL3000242)は思う。
こんなときはあの皮肉げな笑みを浮かべるアレイスター・クローリーに会いたくなる。
彼にとっては座標など意味はない。何処にでもいて何処にもいない。
だから見つけたくなった。呼べば来るだろう。でもソレじゃ意味がないのだ。
タイムリミットは0時。
マグノリアは歩みをとめない。気まぐれな彼の道筋なんてわからない。けど諦めたりしない。
きっとそこにいると思って高台の階段を登っていく。
いつもとは違う素敵なドレス。
貸衣装屋でほんのりと入れてもらったチークは桃色。お化粧なんてとは思ったけれどでも、鏡に映る自分がまるでお姫様みたいで。たまき 聖流(CL3000283)の心はふんわりと弾む。
会場で口にした料理はとても美味しくて。でもその製造工程なんて思いもつかない。どうやって作るのだろうと考えながら歩いていくと今日も一人のアンセム・フィンディングの姿を見つけふふ、とたまきは笑う。
「あらあら……ふふ……!
アンセムさんは、今日もお一人ですか……?」
「いや違う、芸術家は、孤独で……ある、べき」
眠そうな目を細めてきりりとアンセムが言う。
「あの、孤独のなか、申し訳ないんですが……ご一緒に、ごはん、いかがですか?
その、私はまだその粋には達せなくて、さみしいので」
「……しかたない、ね」
頬を染めたアンセムがかわいらしくてたまきはお皿に料理とデザートを盛って、テーブルの一番はしっこにアンセムと座る。
(そういえばアンセムさんがお食事されているところを拝見したこと、ありませんでした)
「なに? みつめて……もしかして、これ君の?」
「い、いえ、意外としっかりとたべるのだなとおもいまして……」
「食べるときはしっかり食べる」
「はい、そうですね……! 芸術家さんも技術者も体力勝負ですから……!」
「そう、それ。君も食べて。特ににんじん。ぴーまんも」
ラングフォード家で用意した礼服は可憐な少女を飾りあげる。
白を基調にしたそのドレスは年頃の少女の無垢さを表したかのようだ。
セアラ・ラングフォード(CL3000634)は上品なカーテシーでもってエドワード・イ・ラプセルにダンスを申し込む。
「レディ、お手を」
エドワードがセアラをエスコートする。
演奏が変わる。
数人の知り合いがいるとは言え、キリ・カーレント(CL3000547)の緊張はいや増す。王様がダンスをするのだ。下手な演奏なんてできない。
なんてこわばった顔で王様をながめたら「がんばって」なんて王様が口の動きをみせるものだから、余計に緊張してしまう。
「キリ、いつもどおり。あなたの演奏は優しくて人を元気にするんだから!」
神殿音楽隊のジズが肘でつついてくる。
「う、うん」
「はい、深呼吸」
深呼吸ひとつ。今からキリ・カーレントは自由騎士じゃない。一つの楽器だ。
愛用のギターを指先で爪弾く。キリは思い出す。今までの冒険、そして親友たちとの共演。
そのキラキラした想いを指に流し込む。
キリはその瞬間が好き。まるで自分自身が音楽に溶け込んでいくようなその感覚。
ジズがくすりと笑ってそれでいいよと言った。その後のことは正直覚えていない。
だけど、とてもとても気持ちよかったのを覚えている。
キリたちが演奏する音楽はすこしだけアップテンポ。
セアラはなんなくダンスを続ける。
ややあって、ずっとしておきたかった質問を王様になげかけた。
「神の蠱毒に勝利し、白紙の未来をどうにかすることで、イブリースの発生を無くせますか?」
エドワードは少しだけ目をぱちくりとさせた。
「……そうだね。そうなってほしいと思う。神の蠱毒の勝利はまずはその一歩目だ。
世界を壊そうとする創造神を倒してこそ、きっと未来があるんだ」
「創造神ののぞみってあるんでしょうか?」
「……あるよ。それこそがこの世界の消滅だ。それは絶対に止めなくてはならない」
「幽霊列車、浄化の権能……。どうして、何を浄化しているのでしょうか……?」
「ソレは私にもわからない。けれど、アクアディーネ様が浄化という権能を得たことにはきっと意味があるのだと、私は思っている」
「エドワード陛下とアクアディーネ様の望む未来はどんなものなのでしょうか……?」
「差別のない、自由な世界さ。国なんて軛だっていらない。
みんなが自由で、みんなが命を謳歌するそんな未来だ」
そういって微笑んだ王様の顔はなぜか少しだけ寂しそうで。
セアラにとってはわからないことばかりだ。
正しいこと、間違っていること。
音楽が終わる。ダンスも終わる。
「みんなが、命を謳歌する、そんな未来」
離れる指先を見つめながらセアラは王様の言葉を繰り返した。
「肉と野菜はバランスよく食わねばならんぞ!」
「応よ。拙者育ち盛りでござるからな!」
「わかってるよ、あんたカーチャンかよ」
ムサシマル・ハセ倉とアーウィン・エピのもとに来るのは非時香・ツボミ(CL3000086)。
両手にもった皿から彼らの皿に配膳していく。もちろん野菜ばかりだ。
ムサシマルが配膳した先からアーウィンの皿に野菜を移動する。
「偏った食生活は心身の健康も偏らせる故な!」
「センセーも肉しかくってねえだろ! っていうか俺の皿が野菜まみれじゃねえか! ふざけんな!」
「もぐていうかもぐ、しっかもぐ、り、くえもぐ」
「もぐ肉はもぐ、旨いもぐ、なあもぐ医者もぐとしてもぐヒトビトの健康はもぐ気づかわもぐもぐ」
「食うかしゃべるかどっちかにしろ! みっともない! お前ら嗜みとかないのか!! バーカ!」
「なあ、アーウィン」
騒がしい卓を囲んでいた彼らに声がかかる。
振り向けば赤いドレス姿のグローリア・アンヘル(CL3000214)が頬を染めて立っていた。普段の武人然とした雰囲気はない。
少し逡巡してからルージュをひいた口元が開く。
「あけましておめでとう、今年もよろしくな。なぁ、また私と踊ってくれるか?」
「おい、貴様きれいなお嬢さんに誘われているぞ、羨ましいな~、断るなんて無粋な真似しないだろう?」
ツボミはバンバンとアーウィンの背中を叩く。
「おい、いてえぞ! センセー」
「その、私とではだめ、かな?」
「いや、そんなことはないし。あ、でも俺あんまりダンスうまくないぞ?」
「知ってる。私がリードしよう」
「足踏んでも文句いうなよ」
「もちろんだ」
「おお、行ってらっしゃい、ああ、その、ええと、そうだ。
食べてすぐは脇腹が痛くなるかもしれんゆえ、無理はせんようにな」
「おう、っていうかほんとにカーチャンかよ」
アーウィンがグローリアと一緒にダンスホールに向かった。グローリアなどみてみろ。私に相談をしてきたころにあんな女の子らしい笑みを浮かべれるやつだったか?
アレはいわゆる恋する乙女ってやつだろう。うん、別になんてこともない。恋せよ乙女。花の命は短い。
「ツボミ殿、お前さてはバカでござるな?」
「なんのことだ?」
「なんでもないでござるよ。あのミミズク、ヘタレのくせになんともはやでござる」
心は動かない。体だって動かない。ムサシマルの言葉の意味が何故かわからないから言葉も返せない。
この感情はなんだろう。病名(なまえ)がないのだから何でもない感情のはずだ。
なのに。心が麻痺する。踊る二人が似合いだと思おうとしている。
この感情に病名(なまえ)をつけるならば――。
ツボミにはそんな勇気はない。
「珍しいな、グローリアが化粧なんて」
「ほう。化粧をしてる程度はわかるのか」
「まあ、それくらいは」
「ならば、言うことはないのか?」
「なあ、お前はしゃいでない?」
ワンツースリー、アンドウトロア、不器用なダンスは続く。
「そりゃあそうだ。お前といるからな。心だって踊っている。で、言うことは?」
「あー、もう。はいはい。きれいですよ、グローリア」
「なんだか言わせた感があるな」
「正真正銘言わせただろうが!」
「ふふっ」
「なんだよ」
「楽しいとおもったんだ。こんなやりとりが」
そうやって笑うグローリアの顔が年相応でかわいいなんて思ってしまってアーウィンは戸惑う。
「きめたんだ」
「何を?」
「私がどうしようと、お前はヴィスマルクをどうにかしないとそこに心がいったままだろうから、まずは「お前と」騎士としての勤めを果たす。その後はその後に考えるってな」
「どういうことだよ」
「そういうことだ」
「わけがわかんねえよ」
「さしあたって、踊ってる間だけでいい。私のことだけ考え……いたいぞ、アーウィン」
「お前がへんなこというからだろ!」
踏まれた足はいたいけれど、この朴念仁を焦らせたとグローリアはひとつ自分に金星をつけた。
政治家であり自由騎士でもあるテオドール・ベルヴァルド(CL3000375)は忙しい。
特にこんなパーティだとよけいにだ。同じ派閥の政治家との強いパイプの作成に対立派閥への牽制の挨拶。随分と時間がかかった。我が細君はしびれを切らして頬を膨らませてるに違いない。
「ブランディーヌ様、只今戻……申し訳ありません」
頬を膨らませているはずの妻は前女王陛下の肩をかり寝息を立てている。
「いいえ、起こさなくていいわ。疲れているのでしょう。ええと、三ヶ月目だったかしら?」
「そこまで……ご存知でしたか」
「ふふ、宮廷の噂話を馬鹿にしちゃだめよ。カタリーナを大事にしてあげなさいな」
「もちろんです。ありがとうございます。
しかし、不安がないと言えば嘘になります。まだ年若い妻を母親にしてしまうなどと……それに」
「それに?」
「自分が立派な父親になれるのか」
「あらあら、イ・ラプセルの政治の虎は意外と臆病なのね。そんなもの、なってみないとわからないでしょう?」
「こんなことなら先王陛下に父親とはいかなるものかとお伺いしておくべきでした」
「あのひとだって最初にエドワードを抱き上げたとき落としかけたのよ? それでも、あの人はエドワードのよき父親でした。だから肩肘なんてはらなくてもいいのよ。
いいですか? 生まれてくる子供を誰よりも愛してあげなさい。守ってあげなさい。子供と子供をとりまく環境を。それが父親としての責務なのです」
そんなテオドールの様子をみていたのはカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)とアリア・セレスティ(CL3000222)と海・西園寺(CL3000241)とクレマンティーヌ・イ・ラプセルの仲良し四人組。
ごほんとテオドールが咳払いをすれば揃って口を抑えてきいていませんでしたよそっぽを向いて、また顔を合わせて笑う。乙女たちの噂話はどこに着地するのだろうと思いながらテオドールは退席する。
いつもどおりにカーテンの後ろにいた王女を見つけた海が手を引いてブランディーヌのもとに連れてきたことに気づいたアリアとカーミラが合流して、少女4人と前王妃とで小さなお茶会を始めようとしていたところだった。
海は王女を守る騎士としてりっぱなエスコートができたと自負している。だから前王妃にもその誓いを立てた。
「まあまあ、ティーヌには立派な騎士様がついたのね。海、この子をよろしくね。泣き虫な子だけれども」
「お母様……っ! 海の前でっ!」
真っ赤になって王女は前王妃の言葉を遮る。そんなティーヌが可愛くて海は守りたいと強く思う。
「あの、ブランディーヌ様。もっと、ティーヌのこと、教えて下さい」
「あ、私も気になります。ぜひ!」
なんてアリアまで乗るものだから王女は泣きそうな顔になる。
「ヘルメリアでは葬送の騎士って呼ばれてるんですって」
「そうなんですか?」
話題は尽きない。冒険譚を語るアリアの話を興味深そうにきく王女に最近の話題をふる。
「不殺を貫いているのになんでこうなったのかしら?」
「アリアは有名な騎士だから……」
「まあまあ、蒼空の騎士が怖い名前をもらったものね」
前王妃の言葉に、アリアは本当に、どうしてなのでしょうか? とまた呟いた。
平和で、和やかな時間。だからこそ戦闘で刻みつけられた傷がじくじくと痛む。この先同じようなことは無いとは言えない。無意識に青いドレスを握る。
「アリア?」
「ううん、なんでもないよ。そうだ! 王妃様。他にもティーヌの小さい頃のエピソード聞いてよろしいでしょうか?」
「アリア、それはだめ、なの」
「海も聞きたいです」
心に堕ちた黒い影を振り払うようにアリアは努めて明るく次の話題をふる。
今の、この瞬間を楽しむために。
「会が終わるまで匿ってください! クラウス様っ!」
父親が持ちかける縁談に逃げ回っていたデボラ・ディートヘルム(CL3000511)がクラウスの後ろに隠れようとする。
「レディらしからぬ態度であるな」
「だってだって、お父様が紹介してくるのが同年代ばかりなんです。私はおじさまがいいんです!
クラウス様! 40代以上の方いらっしゃいませんか? 30代までなら妥協します!!」
「全く君は……その年令の貴族で未婚なのはある意味問題があるものが多いがそれでいいのかね?」
「うう……それはちょっと……」
「そうだな。レイモンド家のご令息はいかがかな?」
「ケインくん最近10歳になったばかりじゃないですかーーーー!!! 同年代ならまだしも年下すぎる子とかハードル高すぎます!」
「同年代はそんなに嫌か?」
「もう、同年代の殿方に弄ばれるのはたくさんです」
「トラウマか。しかして年上の男性に同じようなことを言われたらどうするのかね? いいかね、レディ。
相手の年若いからそうなるわけではない、男性を見る目を養うことであるぞ」
「クラウス様が意地悪をいってきます~~~!!」
「ごきげんよう、宰相閣下」
優雅な礼でレティ・アスクウィス(CL3000613)はクラウス・フォン・プラテスに声をかけた。父上と兄上も来られているのだ。多少他の貴族への挨拶は短く切り上げてきたがかまわないだろう。所詮ワタシは「次女」だ。宰相閣下への挨拶で「おしごと」は終わりだ。おわりだけれど少し重い気分になる。
「アスクウィスの令嬢か。随分と美しくなったな。母君より話は聞いている。どうした? 気が進まない顔をしているが」
「い、いえ、その、気が進まないというか嫌というわけではないんです」
アクウィス家、次女であるレティに課せられた立場は貴族との婚姻によるお家の繁栄。貴族同士の結びつきのための道具。わかっている。わかっているのだ。
「なんといいますか、自分がどなたかと婚姻している未来が浮かばないと申しますか。
うら若き乙女のささやかな我儘といいますか……抵抗といいますか」
「ふむ。紹介できる貴族はそれなりにはいるが……君は自由騎士になったのだったな」
「はい」
「ならば、世界をみてまわってはいかがかな? うら若き少女がなにも今すぐにと決めてしまうことはない。母君には言っておこう。
憂鬱な乙女は絵にはなるがね。しかして、それは自由な騎士である君を縛ることにほかならない。
それでも家に殉じるのであればまた吾輩に声をかけたまえ」
「なんだか、私と対応が違いません????」
デボラの半眼でのツッコミにクラウスはごほんと咳払いをした。
「ご機嫌麗しゅう存じます。随分とお疲れのようですね? 宰相閣下。お食事をおもちしましょうか?」
エドワード・クラウス派とアルブレヒト・キッシェ派の方々に挨拶をして回っていたレオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)がクラウスに尋ねる。
「ああ、軽いものをお願いするのである」
「ええよしなに」
レオンティーナはトレイに消化の良さそうなものを選んで載せてくる。
「すまないな、レディ」
「いえいえ、どうかされました?」
「最近のレディはなんとも積極的でな。新しい時代の女性とはこういうものかと考え直させられたところである」
「ふふ、宰相閣下を困らせるなんて」
「とはいえ、頼もしいとはおもうがな」
「ええ、頼もしい女性も素敵でしょう? 私――ロマーノ家にできることであれば何でもお申し付けくださって構いませんのよ」
「ここにも女傑がひとり、か」
纏う礼服は最高級のもの。クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)女神の生誕を祝い王族と挨拶を交わす。
堂々たるその様はなるほど、貴族の嫡男にふさわしい教育の賜物だろう。
クラウス派、キッシェ派はもとより、険悪な間柄であるノイマン派の貴族に臆することもなく挨拶をする胆力はなかなかのものだ。
「イ・ラプセルを思う気持ちは同じ……そして何より、オラトリオ・オデッセイの真っ最中。
今回はいがみ合うのはよしましょう!」
などと快活に言われてしまえば、ノイマン派とて苦虫を噛み潰すしかない。
クレヴァニールは貴族の子弟たちとも積極的に話しかける。未来、イ・ラプセルを担うもの同士仲良くすることに損はない。
美しいご令嬢との会話はこころが踊る。あわよくば婚姻の約束を交わして立場を盤石にし、有力貴族として――。
(そして!もふもふケモノビトの地位向上のために!!!!!!)
クレヴァニール・シルヴァネール。彼は少し変わった貴族なのである。
「オスカー様、新しい年もよろしくおねがいします」
不遜な輩に目を光らせなからライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)が、オスカー・ノイマンに新年の挨拶をする。
「自由騎士の犬か。どうだ? 亜人と手を取り合うのは楽しいか?」
「これは随分手厳しい。私が動くのは亜人と戯れるためではございません。全ては国益のため
ええ、亜人と言葉は交わせます。しかして種としては下劣。我らノウブルとはともに歩めぬ者たち。社会の仕組みは彼らを礎にしてこそうまく回るというもの」
「口が回るな、ウィンリーフ。クラウス派のものと懇意であることも知っているぞ」
「いえいえ、かの女傑はあくまでも好敵手ですよ。懇意などありえない」
「どうだかな」
「そこを疑われますか。では貴方の掲げる理想に忠実である証、どう捧げましょうか?」
「武勲をとれ。
ノイマン派自由騎士として、揺るがぬ立場を得ることに注力するがいい。せっかく敵の内側にはいったのだ。利用せずしてどうする」
「全くあなたは抜け目がないといいますか」
ライモンドは古狸のノイマンに嘆息した。
ドレスは奮発して最高級のものを借りてきた。男性受けのいいものとお願いしたら、真っ白なふわふわのかわいいドレスにされてしまった。自分には似合わないと言ったけどゴリ押しされた。
いつもとは違う自分にエルシー・スカーレット(CL3000368)は緊張する。
まずはご挨拶だ。とは言え陛下は国王。お忙しい方だ。今話しかけて大丈夫だろうかとウロウロしていたら別の貴族が話しかけにいった。
待っている間また、挨拶の練習をしてみた。端っこでブツブツ呟く姿は多分怪しいだろうけど失敗するよりは全然いい。
(いま話しかけても平気かしら? お忙しいんじゃ……)
なんてつい思って逡巡したら別の子が陛下とダンスしてるぐぎぎ。
これ以上戸惑っていてもらちがあかないとエルシーはぱちんと頬を叩いて、歩を進めた。
「へへへっ陛下!! ごごご機嫌麗しゅう存じます。自由騎士のエルシー・スカーレットですっ!
本年もこうしてオレトリオ・オデッセイのお慶びを陛下に申し上げる事がかない、ととととてもうれしく思いますっ」
一気にまくし立てた。もう完全にボロボロ。練習の意味は何処へ? せっかくの機会だというのに!
「うん、エルシーありがとう。今年もよろしくね。
今日はいつもと違うね。せっかくだから踊らないかい? レディ」
陛下はミスなんて気にしないで自分に向けて手を伸ばしてくれる。ダンス? 誘われたの? ほんとに?
「ひゃ、ひゃい」
真っ赤になったエルシーは夢見心地で手を伸ばした。
「がくちょーちゃーん」
両手にはたくさんの料理を手にし、ナナン・皐月(CL3000240)が飛び込んでくる。周りの人に教えてもらったから間違えてはないはずだ。
「おっと、少女。慌ててはいけないよ」
転びそうになるのをアルブレヒト・キッシェが抱きとめ、あわや大惨事は未然に防がれた。
「あのね!
ナナン、お家のお勉強ばっかりじゃなくね?
いっぱいの不思議な事があるんだー! って思ったからね?
がくちょーちゃんの所にもお勉強しに行きたいなぁ……って思ってるのだ!」
「ほう、入学希望かね? 君くらいの年から学ぶ子供はたくさんいるさ。よく学ぶといい」
「どうして神様はうまれたの? とか、お空の上と海の底には何があるのー? とか、どうして世界はキラキラとドロドロがあるの?? とか!!」
「随分と「どうして」が多いね」
「うん! ナナンのいっぱーいの「どうして?」を一緒に「かいけつ!」して欲しいのだ! 」
「私とかい?」
「うん!」
アルブレヒトはナナンの頭を軽く撫でる。
「それは私ではなく、同じくらいの年の子どもたちと学ぶといい。そうしてつながりを作るんだ。
誰かに教えてもらうではなく、同じように「どうして」の仲間と学ぶほうが「かいけつ」に早くつながるのさ」
グローリアとのダンスのあとのアーウィンに襲いかかる次の刺客は『羊屋』の面々。
どうにも揃って誘惑する作戦、らしい。
雪・鈴(CL3000447)は誘惑という概念は知ってはいるがそれを誰かに施行することにはなれていない。
わからないままに意を決して、勇気をだして話しかける。
「こんにちは、おはなしするの、はじめてですね? えと、雪といいます」
触覚をぴるぴると震わせながら話しかける。
「お、はじめましてだな。アーウィン・エピだ。なんかその触覚俺のと似てるな」
言ってアーウィンも同じように羽角を震わせた。
「わぁ」
アーウィンが目つきが鋭くて怖そうにみえるけどこわくない、いいひとだと鈴は知らされていた。
でもまさかそんなような「おなじ」を指摘してくれるなんて。なんだか少し嬉しくなる。
「あの、前からお話してみたいなっておもってて。えと、ぼく、マザリモノですし、虫ですけど、えと、仲良くしてくださるとうれしい、です」
それは鈴の精一杯の願い。
「あのなあ、マザリモノとか、虫とかそれは個性だろ? 卑下するようなものじゃないってのが、この国だぜ?
実際まあ、俺もやっとそれになれてきたところだけどな」
「えっと、あの、その」
「だから仲良くするなんて当たり前だろ?」
「は、はい!」
言って微笑んだ満面の笑顔につられてアーウィンも笑う。
だけど鈴くん、これって誘惑じゃなくて、ただの挨拶じゃないかな?
「うおっ?!」
そんな弛緩した雰囲気を「前衛」の瑠璃彦 水月(CL3000449)が壊すようにアーウィンの脇腹を擽る。
「てめえ!」
「いやいや今宵は無礼講、おもしろおかしくたのしみましょう」
「でっ! なんで、ふひゃ?! 擽るんだ!」
「笑顔は大事ですからな」
着慣れない礼服は動くにくいとはいえ、ターゲットもその条件は同じ。いつもより鈍いアーウィンは絶好の獲物だ。
「アーウィン殿も礼服を着ていれば、背が高いゆえ似合ってますなぁ」
「そ、そうか? まじでか」
「体躯に恵まれるのも才能の一つですゆえ、あっしも30Mは身長ほしかったですぞ」
「おい、そこまでいったらもう身長じゃなくて体高っていうんだぞ!!」
「はは、一本取られましたな!」
「もう、みんなで誘惑するんやろ? 鈴も彦も。全然あかんやん」
パンパンと手をたたきながら、顔見知りの「VIP」に目線で挨拶をしながら蔡 狼華(CL3000451)が仕切る。
「【サロン・シープ】の品格を見せつけなあかんのに。もう。
そうや、アーウィン。うちが女役しますからダンスせえへん?」
狼華の誘いに露骨に嫌な顔をするアーウィン。
「ちゃぁんと、手取り足取り教えるさかい」
「それが嫌なんだって」
「足踏むことなんて赦しませんえ?」
逃げることは不可能と悟ったアーウィンは白旗を上げれば瑠璃彦と鈴がやんややんやと拍手する。
サロンシープでダンス指導のメニューをいれるのええかもしれんねとダンスを終えた狼華は皮算用。
ぐったりとした見込み客(アーウィン)に次の魔の手が迫る。
「よー、アーウィン。楽しんでるかー?
んん、いかんぞ。貴族の痛い視線が気になろうが若者がこういう時に楽しまなくてどうすんのよ?」
一番面倒なのが来やがったとアーウィンは嘆息する。
「こらこら、そんな反応おじさんかなしいなあ~
で、アーウィンちゃんよ、あっちはどうよ」
いいながら小指を立てるニコラスにアーウィンの顔が赤くなる。初な反応いいねえ、とニコラスはほくそ笑む。
感情探査で困惑するアーウィンの思考におちょくりがいを感じ楽しくなる。
「国に家族がいるんだろ。分かる分かる。けどよ、それ気にしてばっかで男磨き疎かになってたらいかんよ。
ちょうどいい店知ってるから、どうよ。」
「なんなら、うちも手ほどきしますえ?」
狼華が艶かしく指先をアーウィンの首元に回す。
「お前男だろ! しってるんだからな! 何する気だよ!」
「ふふ、男ならではの――あ、逃げよった」
「逃げちゃったねぇ」
「ヘタレでござるねぇ」
「ヘタレ、ですか?」
おもちゃを逃した羊屋の面々は顔を見合わせて笑うのだった。
「はいはい、パスタですよぉ~!」
差し入れ係になっているのはアンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)。そらとぶパスタの使徒として、パスタ推しはやめられない。
そもそもこのパーティのパスタはデュラムセモリナ100%! 高級なパスタだ。
皆さんに食べてもらわなくては!! そんな使命感が彼女を突き動かす!
「わわっ! なにこれ?!」
アーウィンとムサシマルと一緒に食事中のリサ・スターリング(CL3000343)のもとにも使徒は現れる。
どっさりと載せられたトレーの上のパスタに、アーウィンはうんざりとした顔を浮かべる。
「お残しはゆるしません!」
なんとパスタの使徒は厳しいのだ。
「食べれるかなあ~」
リサとムサシマルは先程フードバトルを終えたところだ。ちなみに勝敗はアーウィンの惨敗。
「へいへい、リサ殿びびってる~~~~」
「びびってないよ! ムサシマル!!」
「食べれないのでござるかぁ~~~~」
「食べれるもん、なんならもう一度バトルする?」
「ガッテンでござる!」
いいながらムサシマルは自分に配膳されたパスタをアーウィンの皿に移し替えている。
「あ~~~ずるい!」
「勝負というものは盤外からはじまるでござる!」
「なんかいいこと言った風だけど反則だからね~」
なんだかんだでワイワイいいながら食べるごはんはいつもの何百倍もおいしいのだ。
「いつのまにかてんこもりのパスタなのだぞ!」
サシャ・プニコフ(CL3000122)の肉だらけだったはずのお皿にパスタまで鎮座している。きっと使徒の仕業だろう。
さっきまでサシャを警戒していたシェフは、笑って「バランスよく食べろと神の思し召しさ」なんていいつつも、去年よりぶあつめに切った肉をサーブしてくれた。
ぐぬぬパスタがなければもっとお肉が山盛りだったのに!
とはいえお残しなんて言語道断。
もぐもぐ。
「む、このパスタはお肉にあうんだぞ! ぴきーん! お肉とお肉の間にパスタを挟めば、お肉サンドになるのだぞ!」
豪快な食べ方は随分お気に召したようで、サシャは幸せそうにお肉サンドを頬張る。
「シェフ、お野菜は載せないでほしいんだぞ! え、たべないとお肉をもう載せない? それはこまるんだぞ!」
さり気なく食事のバランス指導までされてしまうサシャなのであった。
ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)は厳粛に今日もアクアディーネを見つめ祈りを捧げる。
いつもであれば関係者を巻き込んで騒ぐ彼がなんとも珍しいことだ。
周囲のやべーやつ担当の兵士もソワソワとはしているが今日は何事もなく過ごせるのかとホッとしている。
祭事の最初から最後まで祈りを捧げ続けると宣言した彼は宣言通りおとなしく祈りを捧げている。
そもそもにおいてだ。ナイトオウルは小心者だ。この厳粛な態度こそが自然体だとも思っている。事実迷惑をかけていたことは自覚だってしている。
この素晴らしき日に誰かの手を煩わせてしまうことには申し訳無さだって感じていたのだ。だから今日こそは厳粛に粛々と。
頭をたれ続けることを決めたのだ。
「あ、アクアディーネ様!」
子供が神の名を呼ぶ。微笑ましいことだ。そう思いふと目を上げてしまった。
ばちこーん。
子供の方向いたアクアディーネと目があってしまったなんということだおそれおおいちょっとまって女神いまこちらにてをふったファンサ最高ではありませんかまじでやばい。
「UOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!」
ナイトオウルくんは多分いつもよりは頑張ったとおもうよ。
というわけで、やべーやつ担当の兵士がいつもどおりにナイトオウルの両腕を掴んで撤収するのであった。
アクアディーネのもとに双子の兄妹が挨拶にくる。
この国のものとして洗礼を受けたときに遠目で見たことがある程度で神さまに近づき言葉を交わすのは初めてだ。
「アクアディーネ様、本日はお招き頂き、ありがとうございます。
ノーヴェとは双子になります。
セーイ・キャトルと申します。
……以後、お見知り置きを」
丁寧なセーイ・キャトル(CL3000639)の挨拶に女神は笑顔で小さいのに立派ねと微笑む。
「新しい……とし、は……アクアディーネの、うまれた日だって……聞いた、から……。
セーイといっしょ、にカミサマ、の?、アクアディーネに……あいさつ……」
それとは対照的に双子ノーヴェ・キャトル(CL3000638)の挨拶はともすれば不敬と断じられても文句の言えないものだった。
「こ、こら!
この者……ノーヴェは、言葉の発達が遅いもので……
無礼な発言をするやも知れませぬが、どうか「神のご慈悲」で御容赦頂きたく……」
ノーヴェの挨拶にわかってはいたもののぎょっとしたセーイは急いでフォローする。
平然とした顔のノーヴェと慌てるセーイに向かって女神は優しく笑う。
(ふーん? この人がこの国の神様……って言うものなんだ?)
セーイは思ってたイメージとは違う女神の纏う雰囲気を覚えようとまじまじと見つめる。
「うまれる、って……いう、のは……うれしい、?……ね……。」
「ええ、あなた達が生まれてくれて、出会えたことは幸福だと思います」
「…私……は……アクアディーネ、を……守る役目……」
「ふふ、ありがとう。ノーヴェ」
「でね、……私? ……は、アレが……ほしい……」
ノーヴェが大きなツリーのてっぺんを指す。
なんとか無事挨拶ができた? と思ったのもつかの間。またノーヴェがやらかしたことにセーイは肝を冷やしまたもフォローに徹する。
「……申し訳御座いません。不躾なノーヴェの願いですが……叶えては頂けないでしょうか……?」
それでも双子の兄妹は可愛いもの。願いを叶えてやりたいと女神に願う。
「あのお星さまきれいですもんね。えっと、終わってからでよければ届けるように手配しておきますね」
「やった……セーイ? もらった」
悪びれないノーヴェにセーイは大きなため息をついたのであった。
「アクアディーネ様、ご生誕の記念日に、心よりお祝いもうしあげます」
初めて纏うドレスにドキドキしながらナーサ・ライラム(CL3000594)は覚えたてのカーテシーでちょこんと挨拶する。
「上手にできてますね」
そんなふうに神様に褒めてもらえるなんて思ってもみなかった。
ヨウセイたちは神に迫害された種族だった。それが本当に過去のことになったのだとナーサは実感することができた。
「はっはい!」
答えた声が震える。でもそれは怖いからじゃない。嬉しいからだ。
神に見つめられナーサは恥ずかしくなって目線をそらす。その先には美しいツリー。
そのツリーにキラキラと輝くオーナメントはまるで、ヨウセイたちの未来のようで。
ナーサは幸せそうに微笑んだ。
その姿を遠くから見つめるのはなれない礼服に身を包んだジーニー・レイン(CL3000647)だ。
パノプティコン出身で公用語なんて覚えたばかり、実績すらうすい自分にまで届いた招待状はなんども偽物じゃないかと疑った。(だけど正真正銘本物だ)
あれがこの国の神。
洗礼したときに一度会ってはいるがまじまじと見るのは初めてだ。青い透き通るような髪はなるほど、まるでその名のとおり水のようだ。
次に目線が向かうのは招待状の主、国王エドワード・イ・ラプセル。
すれ違いそうになった貴族を大きく避けて様子を伺いにいく。
「アレが国王陛下か。話には聞いていたが、ずいぶん若いな」
ジーニーはその国王が自らの悲願を託すにふさわしいかを探る。
シャンバラを倒しヘルメリアに勢力を伸ばしたこの国。パノプティコンの唾棄すべき体制を破壊できるものは今やイ・ラプセルしかないと思う。
対抗馬にはヴィスマルクがいるが、マザリモノである自分があの国のもとにいく理由はない。
――だから。頑張っていただきたいものだ。
手渡された豪華な食事を嚥下しながら、ジーニーは小さく呟いた。
「お、お誕生日おめでとうございます、アクアディーネ様! わたしにまで招待状を下さって嬉しいです!」
ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)は声が震える。
「ふふ、あなたは仲間でしょう? ティルダ」
「はわわ、なかま。えへへ
良い一年になるようにわたしもがんばります! アクアディーネ様が幸せでいられますように」
「ティルダ、私は、あなたも幸せであってほしいんですよ!」
そんなふうに言われてしまって、もう頭がパニックになって逃げ出すように退席しちゃったけれど大丈夫かなと、ティルダはテーブルについて思う。
きらきらかがやくような夢のようなパーティ。
シャンバラでもこんなふうに祝ってたのかな? なんて考えて頭を振る。そんなこと今思ってもなにもならない。
終わったことだ。ティルダの心にどんよりと黒いものが渦巻く。
終わっても心の傷はまだ癒えるわけではないのだ。
ティルダはぱちんと自分のほっぺを叩いてそんなどろどろを追い出す。
お祝いの席なのだから! あえてそれを口にだしてから、デザートのジャスミンゼリーを口にする。
口のなかに花の香りが広がり幸せな気分になっていく。
「あああ、だめや……駄目やった……」
隣りに座った女の子の絶望的な声にびっくりして、目を向ければ、バッチリ髪も結い上げ、可愛らしいドレスに身をつつんだ淑女――まあもちろんこの嘆きで淑女らしさはなくなってはいるのだが――アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)。
「あ、あの?」
ダンサースキルを駆使してダンスを踊る気まんまんであったアリシアは意気揚々ダンスホールにでたものの、そもそもにおいて、誘い方がわからないことに気づいたのだ。
見ず知らずの男性に声なんてかけることなんてできない。誘われやすい場所に待機するものの、お声はかからず――。
なんてことをティルダに切々と語るアリシア。
「えっと、ジャスミンゼリー食べます? 美味しいですよ」
慰め代わりにゼリーを差し出すと「食べるー」と、アリシアはもぐもぐする。
「めっちゃおいしいやん」
「でしょう?」
泣きべそ顔は何処へやら。あっという間に笑顔のアリシアをみてティルダはこんな可愛い子を誘わない男性は見る目がないと思う。
「えっと、踊りませんか? えっと――」
「アリシアいうんよ」
「アリシアさん、一緒に踊って男性たちを見返しましょう。こんなに可愛い子がいることを示します。わたしはティルダと申します」
「せやね! よろしゅうね、ティルダ」
「ええ」
その後、少女たちにダンスの申込みが殺到したのはまた別のお話。
「いややわ。ウェルスさん、なんか下心みえてるもん」
ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が佐クラ・クラン・ヒラガを誘えば開口一番ピシャリと断られる。
「ええっ、お嬢のために一張羅を仕立てて……!」
「んもう、そんな絶望的な顔せんといてよ。うそやよ。
ええよ、最近ウェルスさんダンサーもかじってるんやろ? お手並み拝見するわぁ」
なんともこのうさぎのお姫様は一筋縄ではいかないようだ。
「じゃあ、踊ってくれるかい? お姫様」
「はいはい、王子様……って感じではないよねぇ?」
「そのとおりだ。俺は愛の狩人ってところか」
「いややわ、うち狩られてまうのん?」
「お望みとあらば」
「あかんよ、だぁめ」
音楽がしっとりとしたチークダンスのものに変わる。触れ合う肌が熱い。
「どうだい?上達しただろう? 美女のためなら――」
その先をウェルスが言う前に佐クラの指先がウェルスの唇を塞ぐ。
「しっとるんよ? そういうの誰にでもいうって」
アデレードの大きなツリーの下では微笑ましいボーイミーツガールのものがたり。
招待状はきていたけれど、それより大事なものがある!
待ち合わせ時間までは後40分。ロイ・シュナイダー(CL3000432)はにやけている。
あと40分で愛しのハニーが到着するのだ。うん、ちょっと40分前は早かった気もするけどそれだけ待つ楽しみはあるのだ。
前日までにリサーチして予約したレストランはしっかりと予約はできていた。絶景スポットと穴場スポットはメモにかいてきた。
自然と鼻歌が溢れる。
タイガ・トウドラード(CL3000434)もまた待ち合わせの時間より早く向かうことにした。王城への招待を蹴ってしまうことに多少の後ろめたさはあるが今日一日だけは勘弁してほしい。
私が先にツリーの下にいただロイはどんな顔をするのだろうか? ツリーに近づくたびに心臓がロデオのように跳ねる。
あれ? 遠目からでもわかる。ロイが既に待っている。自然駆け足になる。
「タイガ!」
駆け足のタイガを目ざとく見つけたロイが大きな声で彼女を呼ぶ。
「ロイ! そのまたせちゃったか?」
「いや、俺がタイガに会えるのが楽しみすぎて早くきただけだから」
そう言って微笑む幼馴染の頬も耳も鼻もまっかっか。指先なんてさらに真っ赤だ!
タイガは自分のストールを外し、ロイの頭からゆるくまく。
「タイガ? さむいでしょ」
「馬鹿だな。お前のほうが寒かっただろう? こんなに手が冷たい」
タイガははじめて自分が大柄であることに感謝した。男性であるロイより大きな手。
この手があればロイを温めることができるから。
「うわわ、タイガあったかい!」
「うん、そうだろう」
そう言って微笑んだタイガの笑顔にロイの心は撃ち抜かれる。そりゃ素でもタイガは美人できれいで可愛いけど、笑顔になったらもう女神にだって負けない!
「その、レストラン予約してあるからいこうか」
ロイはポケットの中のペアリングを意識する。喜んでくれるだろうか。
「うむ」
タイガはかばんの中にしまったペアのカフスを意識する。喜んでくれるだろうか?
王城より北、そこは小さな忘れられた森の墓所。
そんな寂しい場所に二人の男女が訪れる。
木の枝で作られた30の墓標が雪にまみれて静かに佇む。
「ここか? エルエル」
背中のナップに30の石版を積んだザルク・ミステル(CL3000067)が先をゆく女に問いかける。
「ええ」
墓標の前にたつ魔女だった女――エル・エル(CL3000370)の表情は透明だ。
ここでかつて女は復讐を誓った。彼らのために。彼らに縛られることを望んだ。
たった一人いきのこったサバイバーズギルトはエルの心に楔として、呪いになった。
復讐が終われば散るだけだった。幸せになどなれる道理など自分にはないと思っていた。
「で、名前、覚えてる限りでいいからさ」
ザルクは素手で雪を払いながら丁寧に木の枝の墓標と石碑を置き換えていく」
「……リズ」
「リズ、な。そんで?」
エルは一人ずつを思い出しながら名前をザルクに伝えていく。ザルクはその名前を覚えながら掘っていく。エルという魔女の重荷(じんせい)を自分でも背負うかように。
30の名前が彫られた新しい墓所に二人は祈りを捧げた。
「あたしは……
生きたいわ。残りすくない命だけれど、彼の隣で。
それを赦してちょうだい」
とぎれとぎれの願いがエルの口から滑り落ちる。
「まったく」
ザルクはそんなエルが愛しくてしかたなかった。何度も彼女とは生きることにたいして対立した。
けれど、彼女は自分と過ごす日々を選ぶことができたのだ。それが何よりも嬉しかった。
「そんなところにしゃがみこんだら冷えるぞ」
ザルクはエルの肩を抱く。ヒトの体温が心地良い暖かさだと気づけたのはザルクのおかげだとエルは思う。
「にしても寂しいな」
「花が咲いたらましになるのかしら」
「なるほど。じゃあ種でもまくか、すぐには無理でも春にはきれいな花がさくだろうさ」
「ええ」
二人は墓標の周りに種を蒔く。春になったらまた訪れる約束をして。
きっと春にはましろのカーネイションが咲くだろう。
「ねぇザッくん」
「ん?」
「あたしを好きになってくれて、ありがとう」
「どういたしまして」
血族を裏切るようなこの決断は赦されるものではないかもしれない。死んだ後セフィロトの海で恨み言を言われるのかもしれない恐怖にエルは震える。それでもこの決断は覆されることはない。愛するこの男――ザルクと一緒に生きたいと望んだ自分が誇らしいと思ったから。
きれいなお嬢さんとのダンスも捨てがたいけれど。
オルパ・エメラドル(CL3000515)は一人――否、かつての同胞たちと新年の祝杯を上げる。
きのこタワー近くの海岸からシャンバラの方角を見つめる。流石に大地までは見えはしないが構わない。
そうすることに意味があるのだから。
海の向こうのシャンバラの妖精郷ティルナノーグ。理想郷の名を関した故郷は理想郷とは程遠い生活をすごしてきた。
しかし時代は変わった。故郷がいつか本当に理想郷と呼ばれる日はくるのかもしれない。
「親友に、父さん、母さん、神の生まれた日、オラトリオ・オデッセイだそうだ。一緒にお祝いしようじゃないか」
自分が神を祝うなどと考えることなどあるわけがないと思ったのにこんな日が来るとは。
りんご酒が注がれた杯を高く掲げる。肴はきのこタワー。ヨウセイが変わることのできた最初の楔。
「それに、俺達がミトラースから解放されたお祝いもな。新しいシャンバラに、乾杯だ」
かつんと、杯が音をたてた。
そんな気がした。
「アレイスター」
「やあ、マグノリア・ホワイト」
正直なところ自分が見つけたというよりかは見つけさせられたというところだろう。
高い空から右往左往する自分をきっと笑いながらみていたのだろう。本当に意地悪だ。
「『彼』と出逢える可能性を作ってくれて、ありがとう。 心から、ね。 そして、アレイスター。 「君」が生まれて来てくれた事にも感謝するよ。 ……だから。 生まれて来てくれて、ありがとう……」
悔しい思いはおいておいてそれだけは伝える。そのためにここにきたのだから。幸い年が変わる前。タイムリミットには間に合った。
「死なせてくれたら僕も感謝してもよかったんだけどね」
皮肉なその返しはいつもどおり。想定通りだ。
そんな彼に金平糖を半分なげつける。
それからどうでもいいような話をした。寒かったけど。彼は弱暖房魔法なんていうチートを使っているらしい。ずるい。
「あ――」
それほど話していたのか。
いつの間にか遠い空が群青を過ぎて赤く染まる。
新しい一年の新しいおひさまを彼と見ることができて、マグノリアは少しだけ微笑んだ。
†シナリオ結果†
大成功
†詳細†
特殊成果
『いちばんぼし』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ノーヴェ・キャトル(CL3000638)
『ガラスの星飴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ナーサ・ライラム(CL3000594)
『木彫りのオーナメント』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ノーヴェ・キャトル(CL3000638)
『ガラスの星飴』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ナーサ・ライラム(CL3000594)
『木彫りのオーナメント』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)
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