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≪Fp1819≫感謝を込めてミモザの花を

●
フルール・ド・プランタン。
それは春待ちのお祭り。
春を告げる花であるミモザはこの時期小さな蕾をふくらませる。イ・ラプセルではそんな小さな春告げの花を大切な人に送り、一緒に春を待つという慎ましやかなお祭りがあるのだ。
親子、兄弟、友人、恋人。
どんな関係性でも構わない。だれかとミモザが開花する春を待つのはきっと幸せ。
今ではずいぶんと形骸化して、ミモザの代わりに春のお花を贈ったり、お花を模したチョコレートを贈ったり、お菓子を贈ったりと大切な人への友誼の感謝を表すまつりに変化していっている。
変わり種ではミモザの語源の「mimos(人真似)」からパントマイムで気持ちを伝えたりすることもあるようだ。
伝わるかどうかはその人次第ではあるのだが。
「というわけでフルール・ド・プランタンだよ!」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が両手をぶんぶんふりながら貴方にミモザの蕾を配る。
「今は戦争中だけど、それでも、だからこそ大切な人にはちゃんと感謝を告げるのが大事かなって思うよ」
フルール・ド・プランタン。
それは春待ちのお祭り。
春を告げる花であるミモザはこの時期小さな蕾をふくらませる。イ・ラプセルではそんな小さな春告げの花を大切な人に送り、一緒に春を待つという慎ましやかなお祭りがあるのだ。
親子、兄弟、友人、恋人。
どんな関係性でも構わない。だれかとミモザが開花する春を待つのはきっと幸せ。
今ではずいぶんと形骸化して、ミモザの代わりに春のお花を贈ったり、お花を模したチョコレートを贈ったり、お菓子を贈ったりと大切な人への友誼の感謝を表すまつりに変化していっている。
変わり種ではミモザの語源の「mimos(人真似)」からパントマイムで気持ちを伝えたりすることもあるようだ。
伝わるかどうかはその人次第ではあるのだが。
「というわけでフルール・ド・プランタンだよ!」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)が両手をぶんぶんふりながら貴方にミモザの蕾を配る。
「今は戦争中だけど、それでも、だからこそ大切な人にはちゃんと感謝を告げるのが大事かなって思うよ」
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.フルール・ド・プランタンをたのしむ
ねこてんです。
ぷるぷらです。
フルール・ド・プランタンの始まりの日から終わりの日まで好きなタイミングでお楽しみください。
場所はお好みの場所でどうぞ。
おひとりさまでもペア参加でもグループ参加でもいつものNPCにかまってほしいでもOKです。
NPCからチョコレートやミモザをもらいたい人はEXでこっそり誰々のチョコ欲しい!と宣言してもらえばお土産として発行いたします。
いつもどおりランダムでNPCにかまってほしい! もOKです。
NPCの名前をだすのが恥ずかしければEXに書いてくださったらこちらから話しかけた体で遊びにいかせてもらいます。
登場NPCは
アクアディーネ
神殿にいます。
エドワード・イ・ラプセル
クラウス・フォン・プラテス
クラウディア・フォン・プラテス
ブランディーヌ・イ・ラプセル
前王妃です。エドワードのお母さんです。穏やかな方です。
クレマンティーヌ・イ・ラプセル
エドワードの妹さんです。15歳。恥ずかしがり屋の王女です。
このあたりは王城に遊びにいけば会うことができます。
アルブレヒト・キッシェ
穏健派筆頭。 わりと朗らかなひとがらのキッシェ・アカデミーの現学長です。
アカデミーに遊びにいけば居ます。
フレデリック・ミハイロフ
ヨアヒム・マイヤー
バーバラ・キュプカー
佐クラ・クラン・ヒラガ
ミズーリ・メイヴェン
アンセム・フィンディング
アレイスター・クローリー
ムサシマル・ハセ倉
アーウィン・エピ
このあたりはどこでも指定された場所に居ます。
メモリア
アルヴィダ・スカンディナ
13番
カシミロ・ルンベック
メモリアはスペリール湖
それ以外はアデレードに居ます。
その他ねこてんシナリオで出てきた味方NPC
(流石に敵は無理なのです)
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
ぷるぷらです。
フルール・ド・プランタンの始まりの日から終わりの日まで好きなタイミングでお楽しみください。
場所はお好みの場所でどうぞ。
おひとりさまでもペア参加でもグループ参加でもいつものNPCにかまってほしいでもOKです。
NPCからチョコレートやミモザをもらいたい人はEXでこっそり誰々のチョコ欲しい!と宣言してもらえばお土産として発行いたします。
いつもどおりランダムでNPCにかまってほしい! もOKです。
NPCの名前をだすのが恥ずかしければEXに書いてくださったらこちらから話しかけた体で遊びにいかせてもらいます。
登場NPCは
アクアディーネ
神殿にいます。
エドワード・イ・ラプセル
クラウス・フォン・プラテス
クラウディア・フォン・プラテス
ブランディーヌ・イ・ラプセル
前王妃です。エドワードのお母さんです。穏やかな方です。
クレマンティーヌ・イ・ラプセル
エドワードの妹さんです。15歳。恥ずかしがり屋の王女です。
このあたりは王城に遊びにいけば会うことができます。
アルブレヒト・キッシェ
穏健派筆頭。 わりと朗らかなひとがらのキッシェ・アカデミーの現学長です。
アカデミーに遊びにいけば居ます。
フレデリック・ミハイロフ
ヨアヒム・マイヤー
バーバラ・キュプカー
佐クラ・クラン・ヒラガ
ミズーリ・メイヴェン
アンセム・フィンディング
アレイスター・クローリー
ムサシマル・ハセ倉
アーウィン・エピ
このあたりはどこでも指定された場所に居ます。
メモリア
アルヴィダ・スカンディナ
13番
カシミロ・ルンベック
メモリアはスペリール湖
それ以外はアデレードに居ます。
その他ねこてんシナリオで出てきた味方NPC
(流石に敵は無理なのです)
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
完了
報酬マテリア
0個
0個
0個
1個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
31/50
31/50
公開日
2019年02月22日
2019年02月22日
†メイン参加者 31人†

●
モニカ・シンクレア(CL3000504)はつい先日このイ・ラプセルに移住したばかりのヨウセイだ。
最初は妖精郷での常識とイ・ラプセルの常識の違いに戸惑ってはいたが、運良くアカデミーの関係者に拾われ、楽しい学徒生活を送っている。
そして知るフルール・ド・プランタン。日は浅くても感謝の気持ちはまけちゃいない。
モニカの目当ては学長であるアルブレヒト・キッシュだ。緊張しながら執務室のドアをノックする。
ややあって入室が許可される。空気の入れ替えをしていたのか思ったより寒い。
「学長先生……モニカを受け入れてくれてありがとう! 授業は楽しくて集落にいたら学べない事もたくさん学べるし、様々な種族の人達ともふれあえる……。モニカ、今とっても充実してますっ!」
言って学長に両手に持ったチョコを渡す。
「女の子にチョコをもらえるとは。私もすてたものじゃないね」
「最初は学長先生にと思ったんです!」
これから他の教師に配りに行くという。
「そうかい、それは光栄だ。他の教師たちも喜ぶだろう」
突如窓から風が舞い込む。その瞬間立ち上がった学長は大きな本でスカートの裾をガードする。
「さてはてレディ。悪戯な風には気をつけたまえ」
「眠い。すっごいねむい」
ふらふらとした足取りで家路につくのはアンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)。
ほんっとーにギリギリで春待ちの祭りにあわせた新作の造花で飾った帽子を納品してきた帰りなのだ。自由騎士と帽子屋の仕事。両立できなくてなるものかと気張った結果だ。
太陽の光は徹夜に厳しい。
でも完成した私にはご褒美が必要。だからエールを酒屋に買いに行く。でもワインも捨てがたい。
ふとワインの横をみるとワインのゼリーをくるんだフルール・ド・プランタン限定のチョコレートが展示してあった。
疲れたときには甘い物。アンネリーザはそのチョコとは天啓の出会いと買い求める。
お酒入りのチョコがつまみにあうのはエールなのかしら? それとも赤ワイン?
「賑やかだとおもったら……」
そうだ、フルール・ド・プランタンの時期なのね。と父親の代理で王城に召喚されていたヴァイオラ・ダンヒル(CL3000386)は気づく。
彼女には婚約者がいるがシャンバラに出張中だ。こういった行事ごとには疎いようで、チョコはおろかミモザですら贈られてきていない。
別にその方が好都合ではあるが、乙女心というものは複雑なのだ。
ため息をついて角を曲がろうとしたら、どん、と誰かにぶつかり両手に持っていた書類がこぼれ落ちる。
「ああっ、ごめんね。ちょっと前をみてなかったわ。怪我はない?」
その書類を拾うのを手伝おうとするのはバーバラ・キュプカー。街の情報屋の一人だ。
「ああ、いえ、私も考え事をしてて」
「ふふ、春待ちのことかしら? えっと……婚約者がいるんだったわよね? あなた」
情報屋らしい耳聡さだ。ヴァイオラはため息をつく。
「あんなウォーモンガー様に差し上げるものはありません。だけれどもダンヒル家の格に相応しいっていうか貴方と結婚する気はないわけではないけれどあくまで家の為であって私個人の意思ではないので今後も距離を縮めようなど考えないで欲しいという意思が礼を失せず伝わる贈り物を」
一気にまくしたてるヴァイオラに、へえ、とバーバラは笑う。
「あの、よかったら相談にのってくれないかしら。アドバイスとか欲しくて」
「いいわよ。今からまた街に向かうから美味しいショコラティエを紹介するわ。ああ、私はバーバラ・キュプカーよ。よろしくね」
「ええ、私はヴァイオラ・ダンヒル……って知ってたみたいだけど」
「知っていても改めて自己紹介しあうのは大切なことよ。お友達ですものね」
「お友達?」
「ええ、今から一緒に色んな場所に遊びに、もといショッピングにいくのよ? そういうのをお友達っていうでしょう?」
「ふふ、そうね。じゃあ、よろしくね、バーバラ」
アーウィン・エピは居心地の悪い診察室でキョロキョロとしている。ボロけた椅子に座る非時香・ツボミ(CL3000086)に朝っぱらから呼び出しを食らったのだ。
「何のようだよ、バカ医者」
「……何の用だと?
分からんのか貴様。今日からフルール・ド・プランタンだぞ?」
「らしいな」
「なら検査だ!」
「はぁ?」
「なんだ木菟が豆鉄砲喰らった様な顔しおって」
この時代においてチョコレートというものは劇薬にも近い甘味である。カカオが媚薬として遣われていた時代もある。
食べ慣れていないと刺激が強すぎて鼻血が出たりすることもあるのだ。それに動物の中にはカカオの成分が毒性を示すこともある。
実際においては、あくまでもケモノビトは因子があるだけでヒトよりであるからそれほど心配する必要はないのだが、当時の医療レベルを鑑みるに、カカオの成分による諸症状が強く出るものを中毒症状として診断してしまうこともあるだろう。
「今まで平気でも過去の環境と立場からして大量に貰い得るのは今年が初だろう貴様。量が過ぎて始めて症状が出る場合もある。万一を考えれば検査は必要だ」
ツボミは舌を引っ張りだしてカカオの粉末を乗せる。白目をみたり肌をみたり喉をみたりと強引に検査をすすめる。
「ふむ、特に反応はないな」
あっちこっちを弄りたおして満足したツボミが検査を終わりを告げる。
「あんた心配性すぎるんだよ」
「心配をしすぎる程度で丁度なんだ、医者ってもんはな」
それにしてもこいつは自分がドウ思われているのか自覚しとらんのだろうな。
祭りも贈り物も命と健康あってのもの。十全に過ごせるなら結構結構。
「ほら、検査結果の書いた書類だ。帰ったら一度確認して置け」
言ってツボミはアーウィンを蹴り出す。
「まだ診察がのこっているのでな」
「患者は丁寧に扱え!」
ブツブツ言いながら、追い出されたアーウィンは書類を開こうとするが、やけに重みがある。書類以外のものもはいっているらしい。少し湿った布包のなかにはミモザの花が一輪。しおれぬようにと気遣われたそのミモザはみずみずしい山吹色。
「ったく、素直に渡せばいいだろうが……」
言って、アーウィンは花屋とそして、菓子屋に向かう。財布の中の貨幣があればそれなりのものは買えるだろう。
「ティーヌちゃん!」
シア・ウィルナーグ(CL3000028)が、長い行列を忍耐強くまって買ってきたおしゃれでかわいい宝石のようなチョコレートをもって、王女クレマンティーヌ・イ・ラプセルの元に向かう。
小さな箱に入ったお菓子の宝石を渡せば、王女は目を輝かせて喜ぶ。
「これ街で美味しいって評判なんだ」
では、と王女はメイドに命じて紅茶を用意させる。そんな王女らしい姿にどきりとする。やっぱり王女とボクは違う世界に生きてるのかなとすこしだけシアは思う。
それでも、同時にチョコを食べたとき全く同じ表情を王女がしたことでシアは安心する。だからシアは聞きたかったことを尋ねる。
「ねえ、ティーヌちゃんって好きな男の子のタイプはどんなの?」
それは年頃の女の子らしい話題。
すこしだけ考えて王女は答える。
「お兄様みたいな方でしょうか?」
その答えに少しだけシアはずっこける。どこかの国に婚約者がいて、でもそれは政治的なうんぬんですごく年上だから嫌だとか、実は使用人に好きな人がいてそういう身分を超えた恋、みたいなロマンスが聞けるかもなんて少しくらいは期待していたがそれ以前の問題だ。どうにもこの王女はブラコンらしい。
「じゃあ、私にもシアの好きなタイプを教えてください」
王女は目をキラキラさせて言う。だから、シアは答える。だって内緒を教えてくれたのだから。
「ボクのタイプ? それはね――」
ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は散歩道を歩きながら思う。
……自由騎士になってすぐにアニムスを燃やして聖母を討った。そして青騎士も。シャンバラとの戦争だけで、2回も燃やした。
じゃあ次はいつ? こんなことじゃすぐに死んじゃうかもしれないなと思う。
もしそうなったら……目の前に浮かぶのは青い髪の女神。――どうして? 私は神なんて嫌いだ。ライカは頭をふってその浮かんだ顔を振り払う。街は春待ちのお祭りでいっぱいだ。花屋の少女がバスケットにたくさんのミモザの花を入れて行商をしている。
ライカはなんとはなしにその花を買ってしまった。楽しめるときにはお祭りも楽しんだほうがいいもの。花が売れ残ってもあの女の子が可愛そうだし。
いつの間にかライカは神殿の女神の間に足を向けていた。
「こんにちは、ライカ」
微笑む女神。ライカはズカズカと歩いて女神の正面に立ちぶっきらぼうに黄色い花を差し出す。
「よくわかんないけど、この時期はこういうものを贈るんでしょう? 正直、異性だの恋だの云々はわからないし……まぁ神を殺す機会と権能を使わせてもらってる感謝の印ってことで受け取ってちょうだい」
すっごく早口だった。
女神は微笑むとライカから花をうけとり自らの髪に飾る。
似合ってるじゃない、なんて言えなかった。
「ねえ」
「はい?」
「アクアディーネはアタシが死んだら、泣く?」
「はい。もちろん悲しいです」
それはあなたの国民だから? なんて意地悪な疑問がわいてでてくる。けれど。
「そう、わかった」
ライカはただ、そう、返事した。
王女に買ったチョコレートをもってきたのはカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)もまた同じ。
こちらはフルーツをくるんだ庶民向けのチョコレートだ。チョコの甘さとフルーツの酸味が程よく絡み、とても美味しいとカーミラは思う。
だから王女にも食べてほしかったのだ。
「ありがとう、カーミラ。さっきまでシアもいたのだけれど……。あなたも紅茶を飲んでいきませんか?」
カーミラにとってフカフカの綺麗なソファはあまり居心地がいいとはいえない。だけれど大好きな友達がそこにいるのだから。
だされた紅茶の味は正直よくわからなかったけどすごく美味しかった。それは王女と一緒だからだとおもう。
カーミラは王女に近況をたくさん話す。教えてもらった踊りのこと、もう少しうまくなったら王女にも教えてあげたいとかいろいろ。
「あ、そうだ!」
カーミラは黄色い花冠を王女にかぶせた。いつもの冠も綺麗だけど、春をまつならこっちだとおもうから。
「にあうよ」
かわりにと王冠を差し出されるが流石にそれは辞退する。じゃあ、カーミラも綺麗になるといいと王女が自分の頭から花冠をかぶらせてくれた。
すごくくすぐったかったけど、自分も王女になったような気がしてすごくうれしかった。
もう一度王女は花冠をかぶり直すとカーミラにお礼の入った小さな箱を渡した。
「わあ!」
その小さな箱の中身はカーミラの大切なものになるのだろう。
篁・三十三(CL3000014)が久しぶりに王都に戻ってみたら見たこともないお祭りが開催されていた。
ミモザとチョコレートの甘い香りが周囲に漂っている。
フルール・ド・プランタンという祭りだと教えてもらった。
久々の王都は新鮮に映って三十三の目がキラキラと輝きはじめる。その目に映るのは久しぶりに会う友人。
「アーウィンさん! わぁい! ひさしぶり!」
「おう、元気だったか? 地元にでも帰っていたのか?」
「うん、そんなところ」
三十三はアーウィンの周りをぴょんぴょん跳ねながら飛び回る。
「落ち着けって!」
「これってどんなお祭り? なにするの? ねえチョコってなに? 甘い匂いする! アーウィンさんも持ってるの?」
めざとく紙袋のなかの甘味に目をむけ、上目遣いで餌を乞うわんこのように瞳を輝かせる三十三。
「俺だって初めての祭りだっつの。なんか感謝の気持ちを伝えるんだとよ」
言ってアーウィンは袋の中から包みを三十三にわたす。
「なになに? これ」
「チョコ欲しいっていっただろ? 大したもんじゃない安物だけどな」
「わーい! 食べていい?」
「すきにしろ」
言うが早いか三十三は包みを開いてチョコレートを口に放り込む。
「うっわーーーーあまい!!」
「食いすぎるなよ、鼻血でちまうらしいぜ」
「へー、もうないの?」
「こいつ聞いちゃいないってか、今まで何があったかとか聞かねえのか?」
「うん! 今はお祭りで、アーウィンさんに会えたから、今日はお祭り満喫するよ!」
ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は場末の探偵事務所で一人、愛銃のメンテナンスを続ける。
分解して、掃除して、またもとに戻すルーティーン。今となれば目を瞑っていてもできるほどだ。
静かな事務所に銃を分解し組み立てる小さな金属音だけが響く。いつしかその機械的な音の中に温かい音が不協和音として混ざってくる。
聞き慣れた足音と声。
フーリィンとリムリィ。ルークの二度目の家族だ。
バタンと遠慮なくドアが響く。そういえば今日はフルール・ド・プランタンだったか。
リムリィ・アルカナム(CL3000500)にとってこの街の喧騒は落ち着かない。とはいえそれは嫌なものではない。ワクワクとするようなたのしさがある。
そんな中姉であるフーリィン・アルカナム(CL3000403)があにであるルークに会いに行くといいはじめたのだ。どうせ事務所で一人でいるのだろう。街に引っ張り出すのは無理だとしてもこのお祭りの雰囲気を感じてもらいたかった。なにせあの無愛想な義弟は朴念仁にも祭りに気づいてないはずだ。べつにあにはきらいじゃないからとリムリィはフーリィンについていく。
案の定、想像通り。いつもどおりのルークにフーリィンはためいきをついた。
「私の大切な家族が幸せでありますように♪」
言って長姉は義弟に軽やかな蕾をふくらませるミモザを渡す。
義弟はこのわかりやすい姉に対して一瞥するとミモザを受け取った。それにしてもいつもにましてチビのほうが自分を睨んでくる。
嫌われてはいないはずだが、どうにも姉にくらべてわかりにくいのだ。耳がぴるぴると揺れているから、機嫌が悪いわけではなさそうだが。
ルークは帽子の鍔を組み立て直した銃口であげて義妹の様子を見る。
「ほら」
いくぶんかの逡巡の後、渡されるのは姉と同じ黄色の小さな花。
「リムちゃんなにかこそこそしているとおもったら、お花を買っていたんですね!」
そんな健気な妹の行動が愛おしくて、鼻の奥がツンとする。大きなフーリィンの瞳には涙が浮かぶ。なぜ泣いてしまうのかわからないけど嬉しくてしかたなくなってぎゅうと抱きしめた。
わかりにくくても、リムリィは間違いなく家族を愛している。それが嬉しかった。
「おねえちゃんくるしい」
窓から入り込んでくる日差しが朱くなってくる。きょうだいたちの語らいはずいぶん長くまで続いたようだ。
じゃあ帰りますねと姉が口にすればぶっきらぼうな弟は外まで見送る。
「ルーク、たっしゃでな」
「どこで覚えたんだ、そんな言葉」
言ってルークは生意気な妹の頭をガシガシと撫でた。
そのかえりみちのおはなし。
「ルークよろこんだかな?」
「ええ、もちろんですよ。リムちゃん」
二人の少女のカバンにからはいつの間にか黄色い太陽みたいなお花が顔をだしていた。
「本当にわかりにくいんですから」
そう言って笑う姉の笑顔がとてもとても綺麗だと、リムリィは思った。
「ほら、さっさとしいや!」
蔡 狼華(CL3000451) は同僚たちを蹴っ飛ばすほどの勢いで朝早くから叩き起こす。
今日はフルール・ド・プランタン。お店(サロン)を飾り付けてお客様をお迎えする。予約しておいたミモザのリースをお花屋に受け取りにいかなくてはならない。他にも受け取るものはある。
その間に同僚にはお店を綺麗に掃除をしてもらわないといけない。
今日の予定は貴族の奥様方のフルール・ド・プランタン特別茶会。絶対に失礼なんてあってはいけないのだ。
「ミモザの花飾りに花の形のチョコレート、紅茶にミルクにクッキーに……はぁ、贅沢尽くしやなぁ」
アチラコチラ街取り寄せたものを受け取りに奔走しているうちにふと狼華はウインドウの向こうの綺麗な花飾りが目につく。
マダムにもお花を贈ろうかな。どんなのがマダムには似合うだろうか? 華やかで気品があって、そいでもって。
誰かのための贈り物を選ぶというのはとても楽しいことだ。さあ、お仕事はよおわらせて、さっきの店みにいかな。
狼華は駆け足で街を巡る。
「いらっしゃいま~せぇ~! 八千代堂へようこそ~!」
フルール・ド・プランタンで忙しいのはシェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)もまた同じ。
たくさんの人々がお菓子を交換するこのお祭りは彼女にとっても重要な稼ぎ時である。
「今日からフルール・ド・プランタン限定メニューをはじめますよぉ?」
限定、という言葉にはどこの時代のご婦人方も弱い。わいわいと人垣が八千代堂にできる。
「オススメは生地にチョコレートを練り込んで餡子を挟み、真ん中にバターを入れたチョコあんバターどら焼きですぅ?0」
アマノホカリ風のそのお菓子は風変わりで、人気も高い。
「ちょっぴり大人な貴方にはミモザの花束を象った砂糖菓子~」
節にのせた独特のその売り込み文句は目だけではなく耳もひく。商売繁盛。お財布が重いのはいいことだ。
今日の神殿はずいぶんと騒がしいようだ。先程など真っ黒い人が衛兵に連行されていた。
「アクアディーネ様、こんにちは」
サラ・ケーヒル(CL3000348)は父親に教わったチョコレートを持参してきている。
「こんにちは、サラ」
水のような透き通った声の女神は淡い笑みを浮かべている。
「あの、感謝の気持ちです」
差し出されたのは不格好なチョコレート。いまさらながらに恥ずかしくなってくる。もうすこし綺麗なのにすればよかったかも。
「ありがとう」
いって受け取ったアクアディーネは包み紙を広げ笑みを深める。
「あの、まずかったら食べなくていいですよ」
「ふふ、サラの一生懸命がんばったのが伝わってきます」
「あの! アクアディーネ様がいるから、わたしたちは頑張れると……そう思っています」
嬉しそうにチョコを食む女神にサラはとつとつと話し始める。
「アクアディーネ様がいつか言っておられた、オラクルが争いに巻き込まれなくなる時代……誰もが平和に暮らせる戦乱のない時代……そういう日が来るように、微力ですけど頑張りたいと思います」
そんな日がいつ来るのかはわからない。神暦がはじまりずっと戦渦のなかの世界が平和だった頃などはない。それでもこの女神はそうしたいと言った。それがサラには嬉しくて、だからそのために頑張りたいと思った。
生意気なことを言ったかもしれない。うつむくサラの頬に温かい手が触れる。
「ありがとう。貴女のような人がそんな世界をつくるのだと思います」
そういって微笑んだ女神はまるで子供のように喜んでいるように視えた。
その数分前の話である。
女神に敬虔に祈りを捧げるのはナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。
万民は須らく崇めよ、女神を。
とはいえ、万人が一から十まで神意を理解せよと言うのも靴を隔てて痒きを掻くようなもの。
故に。故に故に故に故に故に故に故に故に故に故に彼は妙案を思いつく。
女神の偉大さを認知させるための劇を行うのだ。
当時、劇にプロバガンダをのせて演じるというのはメジャーな方法であった。庶民にもわかりやすく民衆の熱狂を信仰に変えるのだ。
とはいえ、ナイトオウルは劇作家ではない。大まかなプロットを用意し、神殿に参拝にきた劇作家にプレゼンテーションをする。
狡猾な悪魔が犇めくイ・ラプセルの外、海を舞台に聖戦を繰り広げる物語です
騎士は蒼き紋章(azur)を胸に抱き抜錨し、
聡明なる女神の知略を以て海に一筋の活路(Lane)を切り開いてゆくのです!
題名は――。
やべーやつが今度は違う方向性のやべーかんじで攻めてきた。
いつもどおり彼は衛兵に連行されていく。
『romaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaann!!!!!!!!!』
シルヴィア・ベルヴァルト。
その墓碑の銘はそう掘られていた。
テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の前妻である。数年前に分かたれた愛しい人。自分は一生彼女の影を追って生きるのだとおもっていた。しかし運命とは異なもの。彼はメイマール伯の息女との婚姻を決める。
「漸く決心がついた、新しく妻を迎える事にしたよ。
漸くかと呆れられそうだな」
彼はミモザの花を彼女に墓碑に供える。
「……カタリーナ・メイマール。メイマール伯爵は知っているだろう?彼のご息女、美しく聡明で柔和な女性だ。私には勿体無いくらいだ」
風にミモザが揺れる。ミモザの花言葉は感謝。
前妻への感謝がそこに込められている。
テオドールの冬はもうすぐ終わる。だから、君も一緒にこの花と春を待ってほしい。
思い込みかもしれない。それでも風で揺れるミモザがうなずいているように思えた。
「墓参りかね?」
前妻に礼をつげ立ち上がり墓地の門を出ようとした彼にクラウスが話しかけた。
「卿も墓参りですか?」
「ああ、亡き妻に報告だ」
「同じくです。前に進む決心がついた感謝を」
「では?」
「ええ、我が屋敷にカタリーナを迎える準備をいたします」
「卿、ずいぶん楽しそうだな」
「たのし、そう、ですか? ええ、ええそうです。それでいいんです。きっと」
言って一礼をして、彼は足を進める。彼女が待つ屋敷に。
「ヴィスマルクには似たような祭事はないのか?」
両手に荷物を持つアーウィンを街で見つけたグローリア・アンヘル(CL3000214)は出合い頭に問を投げかける。
春待ちの祭りはイ・ラプセル特有のものだ。他国はどうなのだろうと興味がでたのだ。
「どうだろうな。俺はヴィスマルクつってもすげえ北の田舎育ちだから都会の祭りには詳しくないからな……でも感謝を伝える云々ってのは何かしらあるとはおもうけどな」
「そうか」
会話が終了してしまった。自分はあまりこういったイベントごとに積極的ではない。騎士団の年下女性から贈り物をもらうことが多いが自分から渡すとなれば社交辞令。何を渡そうか選ぶことすら億劫に感じることもある。
だけど、『これ』を選んでいたときは決して億劫ではなかった。(別の不安が湧いてきたのは厄介だったが)
それは多分本当に自分の意思で渡したいと思ったのはこれが初めてなんだろうと思う。
「これ、いつものお礼だ」
不安がいっぱいでぶっきらぼうになってしまった。周囲の女子ならもっと可愛く渡すことができるのに。
「おお、ありがとうな。俺も」
アーウィンは器用に荷物を片手でもちかえ、中身を物色すると、ミモザとチョコレートを渡してくる。なんだこいつこんなにたくさん準備してるのか。そのうちの一つかと思うとなぜか怒りが湧いてくる。
またこれだ。彼と話していると何故か変なところで怒りが湧いてくる。決して嫌いなわけではない。この気持ちがなんであるのかは整理がつくことがあるのだろうか?
「ありがとう。次の春も、その次の春もできることならお前と一緒に迎えたい」
「あー……」
「いやなのか?」
すごく傷ついた気持ちになる。
「いや、違う違う。そりゃ俺はイ・ラプセル人になったけど、戦争が終わった後はまだわかんねえ。チビたちもいるしさ。来年はともかく再来年はどうなってるんだろうな?」
まったく不器用なのはこいつもだ。バカまじめに状況なんぞを加味して答えられないとは。こんなの社交辞令として頷いておけばいいような話ではないか。
今日はヨアヒムさんは忙しいかな? だってあの人たくさんの女の子の友達がいるから。こういう日ってあっちこっちで……。
でも少しだけ少しだけ時間をもらえないかな、と思ってレネット・フィオーレ(CL3000335) はアデレードの街を散策する。
ここで待ち合わせをしたわけでもないし、それにいるとは限らない。
「や、レネット、奇遇だね」
どきんと胸が弾む。振り向けはヨアヒム・マイヤー。両手にはやっぱり思ったとおりにお菓子を持っている。でもいいや。わたしだってフルール・ド・プランタンに便乗しちゃうんだから。
「ヨアヒムさん、ちょっとしゃがんでください?」
その迫力に素直にヨアヒムは近くのベンチに荷物を置いてしゃがむ。その帽子にレネットは黄色いミモザを飾る。
「悪戯? レネットかわいいとこあるじゃん」
「さあ、どうでしょう。……帽子見ちゃだめですよ! 恥ずかしいし」
飾られた黄色いミモザの意味は『内緒の恋心』。でも、ちゃんと言葉で伝えたいのだ。
「あの、わたし、ヨアヒムさんのこと、とってもとっても、好きですよ?」
「ふええええ?!」
ヨアヒムが焦ったような声をあげたことにすこしだけしてやったりと思う。
「じょうだ……」
「冗談じゃないです。意地悪だってしてません」
「あーーー、ちょっとまってて、荷物番してて」
言ってヨアヒムはどこかに走り去っていく。なにこれ? ふられたの? それにしてもこの荷物が憎らしい。捨てちゃってもいいかしらなんて意地悪な気持ちが湧き出す。もちろんそんなことしないけど
暫くの後、ヨアヒムが汗だくでミモザの花束をもってくる。
「レネット、なんていうか、うまいこといえないけどさ、まあ、嬉しいかな?」
それは曖昧な言葉。だけれども。器用そうなのに意外と不器用なことがわかった。それだけでも今はいいかなとレネットは思った。
港町アデレードのとある酒場にて。
\わたくしですわー!!/(ちゅどーん)
「おーーーーーーっほっほっほっほ」
「ここはお子様の遊び場じゃあなかったはずなんだけどね」
高笑いの前で苦虫を噛み潰したような顔で女海賊アルヴィダ・スカンディナが用向きを促す。
「ごきげんよう! アルヴィダ・スカンディナ!!
わたくし、貴女にお渡ししたいものがありますの」
基本的に話をあまりきかないジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は桃色の可愛らしい包み紙でラッピングされた小箱を手渡す。
同行するアダム・クランプトン(CL3000185)には聞こえないように急に小声になるとジュリエットは、
「ライバルである貴女に礼を尽くしたいと思いましたの」
とジャブを放つ。アルヴィダはそういうことなら受け取っておくよと、包みを開く。
「なあ? ジュリエット。これは……花の形の炭??」
アレほど美しい造形(?)のきのこタワーの設計ができたというのに神は2つ目の才能をジュリエットには授けなかったのだ。明らかに失敗作だとわかるあたり、某宰相の孫娘よりは質は悪くないとはいえ。
「く、くっきーですわ」
「へぇ、にがっ」
それでも酒のあてにとアルヴィダは炭、もとい焦げたクッキーをひょいと口に放り込んだ。
「練習したほうがいいんじゃないかい?」
「わかってますし、美味しくないなら食べなくていいんですわ!」
「なにいってんだい。これはあんたのアタシへの挑戦状だろう? 受け取るといった手前食べないわけにいかないさ?」
「貴女の料理の腕前はどうなんですの?」
「さあ?」
真っ赤になったジュリエットににやにやと意地悪な笑いのアルヴィダが答えた。
「僕もいるんだよ! アルヴィダさんにはセレクトあんぱんこれくしょん!」
袋いっぱいのあんぱんを机の上にどん! と置く。
「まずはアデレードのシャナン商店のあんパン。じつはパン屋じゃないんだけど趣味でおいてあるあんパンがこれまた絶品。あんが甘くなさすぎて大人むけの味なんだ。それから王都の老舗のパン屋さんのあんパン。アルヴィダさんは王都にはいけないから王都中心にあつめてきたんだけど、その中でもこれは老舗らしくオーソドックスな……」
「ちょっとまった、説明はわかった、いい、いい。っていうかこれ全部あんぱん……なのかい?」
「うんこの国のあんパンというあんパンを端から端まで食べ歩き厳選した品々さ
厳選したとはいったけどどれも美味しくてたまらないから全部セレクトしたんだけどね!」
「へえ、これを全部アタシのために歩いて探して持ってきてくれたんだ」
少しだけ頬を染めるアルヴィダに対してジュリエットが頬を膨らます。
「アダムッ!!」
「はい!」
「アダムにはこれを!」
水色のラッピングの小箱をジュリエットはアダムに手渡す。
「わ、嬉しいなあ。なんだろう?」
封を開ければそこには名状しがたいチョコレートの塊。
「わあ! もじゃらかほげんでだ! すごい! 再現性高いね!」
アダムはよくわからない名称を口走った。
「そ、そうですわ!」
よくわからないけどジュリエットは迎合した。
「じゃあ、ジュリエットさんには、このオレンジ色のミモザの花束を! エレガントって意味合いがあるんだ。ジュリエットさんにはぴったりかなって。
なんというか女性に渡すプレゼントって難しいね」
まあいろいろ思うことはある。けれど恥ずかしそうにはにかむアダムの笑顔をみていたらどうでもよくなってくる。二人はその笑顔につられて笑う。
よかった喜んでくれたとアダムはほっとする。
「二人にはお返しが必要だね。っていってもアタシは用意してないから、そうだね。今日は奢りだよ。すきなだけ好きなもんを食べて飲んでおくれ!」
ザルク・ミステル(CL3000067)とエル・エル(CL3000370)は隣り合って街を歩いていた。
言葉なく、てくてくと。
発端は数分前に遡る。
「ほら」
ザルクがミモザの花をエルに差し出す。
「ああ、今日は春待ちの日ね。よく知っていたわね。でもこれは友人や感謝すべき人に渡すものよ」
「エルエルが友人で感謝すべきヒトだから渡してるんだろ」
「? あなたと友人になった覚えはないわ? それとも、敬老の日とかそういうのと勘違いした?」
「エルエルおまえ、人の心を傷つけるのうまいっていわれないか? ああもう、いいから。俺はお前とシャンバラに行っていろいろ助けられた! その感謝だからうけとれ」
「え、あ、うん。えっと、お返し、しないとよね」
エルは事前にやたら目につく街のお菓子屋で自分用にいくつかチョコレートを買っていたのだ。その中でもたぶん一番おいしそうにみえたそれをザルクにわたす。渡されたザルクがやけに嬉しそうな子どもにみえたのは、言わないでおいてあげよう。
そして、今。
「……正直、お前からお返しが貰えるとは思ってもなかった……ってなんだよその顔は」
「いえ、他意はないのよ?」
これはただの社交辞令。お花をもらったからチョコをお返しに。ただそれだけのお話。
でも――春待ちのお祭りで誰かに何かをあげたのは初めてだ。
「俺さ」
「なに?」
「お前の事、鏡として見てた節があるんだよな。同じ復讐者として。効率悪い復讐の仕方してるな、とか」
彼の言葉を無言で促す。
「ジョセフ司教に論破されてるのを見て長い月日を復讐に捧げた見返りが魔女狩りの大幹部からの理解と酷いわ、とか」
眼の前の魔女は何も報われてはいない。そう感じた。その瞬間からこの魔女が気になって仕方なくなったのだ。
この魔女は自分の命など顧みていない。それが腹立たしくて、「勝手に消えていなくなるな」なんて恥ずかしいことを言ってしまった。
いやそれは本心だからいいんだけど。猫は死期を悟ると姿を消すという。そんなふうに消えてなくなってしまうようでそれが何故か少し怖いと思った。
「ザッくん、それは少し失礼じゃない?」
「いいから聞けよ、とにかくな、お前と関わって感じたのは『報われて欲しい』なんだ」
「……」
「俺も復讐は遂げるさ。当然だ。だけどそれだけで終わるつもりはないし報われたい」
「変な子、何がいいたいのかしら?」
このザルクという男はエルにとっては理解できない変なやつだとおもう。いなくなるなと言われても。私がいなくなったところで誰も困らない。この男にとってもそれは変わらない。ただ私に出会うまえの状態に戻るだけ。
「お前に幸せになってほしい! 報われてほしい!」
「なっ……!」
なにを言い出すのだ急に。それって……ちょっと見方を変えればその……求婚しているようにしかみえないことをこの子は気づいているのかしら?
「それが俺のお前にたいする答えだろうな、きっと」
「なななななな…ッ!」
頬が熱い。別にそんな言葉に簡単に絆されることはない程度には長生きしてるけど。でも。でも――。
――拝啓
元気でいますか? 私も変わりなくお務めに励んでいます。
そんな挨拶からはじまるシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)の家族へあてた手紙はとても温かいものだった。
ミモザの花の蕾をみると父親のまったくつたわらないパントマイムを思い出す。
一回も正解したことがないほどに下手くそなそれ。
シノピリカは先日の馬の訓練についての報告を書に連ねる。
一番彼女になついていた馬が彼女の長い三つ編みを食んでいるその蒸気写真を同封しようとして笑みを浮かべる。
後ろに映っている同僚が仏頂面で一層大きな馬にまたがっている。
彼が騎乗する姿は実に絵になると、家族にも伝えておこう。
「それ、めっちゃ僕自慢されたんだけどさあ」
突如声をかけられたシノピリカは驚いて振り向く。
「クロウリー殿ではないか。乙女の手紙を覗くとは……!」
「乙女? 誰が?」
「空気を読んでほしいのじゃが、で、自慢っていうのは?」
「聞きたい?」
「うむ」
クローリーは促され、その顛末をシノピリカに話し始める。
「自由騎士団にもついに馬がきたんだぞ! 馬だぞ! 馬だぞ!!!」
呼び出されたかと思えば、いきなりそれだ。
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)は傍らに控える月毛の軍馬をなでながら騒ぐ。
「シャンバラ生まれのニュー相棒のメアリというんだ。かわいいだろう」
「まじかよ、そんな理由で呼び出したのかよ、ナーナー。僕ぁ忙しいの知ってんだろう? っていうか馬くらい珍しくないじゃん」
「何をいうんだ。この毛並み、この瞳、この鬣。若草色の尻尾なんて美しい以外の何者でもないだろう?」
僕のネコチャンも青色で毛並み最高だよとか自慢をしかえしてやろうとおもったが多分聞く耳をもたないだろう。
やべえな、珍しく傲慢じゃん。
「メアリ、こいつはローリー。俺の胡散臭いマイフレンドだ!」
こういうのを馬バカというのだろうか?
「そうだ、ローリー、よかったらミモザをもらってくれ」
「ああ、君たちの国の祭りの? ほんと祭り好きだね。僕もすきだけどさ」
「よしうけとったな、隠してくれ」
言うが早いかメアリがぱくりとミモザの花を食べる。どうにもミモザをおやつと認識しているようだ。
「はは、メアリはおちゃめだな。こういうこともあろうかともう一本!」
その『親友』の姿に笑えてくる。彼は自分のことは何も知らない。友達面をしているのは今だけかもしれないのに。それは彼とてうすうす気づいているのだろう。
それでも彼は自分を友人として、友誼の証を送ってくるのだ。
「ありがとう、我が『友』よ。ではそちらのレディにミモザのプレゼントを」
言って出したミモザの花束がメアリの足元に落ちメアリはそれを食む。
「俺じゃないのか! まあいいけど、ナーナーもメアリがかわいくなったんだろう?」
「さてね?」
「――ってわけ」
「ボルカス殿らしいな。そうだ、クロウリー殿。この手紙をワシの親に配達してくれるかな?」
シノピリカはクローリーの話をそのまま家族への手紙にしたためてかしこ、としめたその手紙を渡す。
「僕ぁメッセンジャーじゃないよ」
言いつつも受け取ったクローリーはその場から消える。
ありがとうと呟いたシノピリカの手元でかさりと音がする。音を立てたそれを見ると――。
また、アポなしで来てしまった。
お祝いのパーティがあるわけでもないし、陛下はお忙しい身! お会いできるかどうかわからないけれど。
「ああ、エルシーさん、こんにちは」
王城の入り口で行ったりきたりしているエルシー・スカーレット(CL3000368)を見つけた衛兵が声を掛けた。
「こんにちは! お疲れ様です。えっとですね、こないだの例のあれ、どうなりました?」
もちろん届けたよ。と衛兵は苦笑する。そんなに気になるなら自分で届ければいいのにとは言わない。
「あ、エルシーさん。王様に会いに来たんでしょう? 自由騎士は王様直属だから謁見許可は難しくないよ?」
王城にある演算室に向かおうとしていたクラウディアがエルシーを見かけて声をかける。
「でも……」
「はいはい、いくよー」
――謁見室に通されたエルシーは柔らかいソファに座っている。どうしてこうなったんだ。
「またせたかい?」
「へへへ陛下、ご機嫌麗しゅうございます!自由騎士のエルシーでございます!」
扉が開きエドワードから声を掛けられ、エルシーは飛び上がる。
「今日は普段着なのかい? そういう格好もよく似合うね」
「あわわ、その、王室に……こんな格好で……」
「気にしないでいいよ。そうだ、この前のミモザありがとう。執務室に飾ってあるよ。はやく春が来てほしいね」
「ひゃい!」
エルシーの内心はもうめちゃくちゃだ。ソファやわらかいし、陛下は優しいし、急にきたの怒らないし、っていうか普段着似合うっていってくれた?
情報量に脳がおいつかない。
「さてお礼だ」
言ってミモザの花冠をエルシーに頭に飾る。
「春待ちの姫君に僭越ながら花冠を……っと失礼だったかな?」
「いえ!!」
「君のあかい髪にはやはりミモザがよく似合うね、エルシー姫」
「ありがとうございます。あわわ、え? 姫?」
焦る少女に国王は意地悪そうに笑うのだった。
「アリア食べたい!!!!!!!」
物騒な心の叫びをあげるのはヒルダ・アークライト(CL3000279)だ。
「んもう! 何をいってるのよ! ヒルダちゃん」
半眼でアリア・セレスティ(CL3000222) が突っ込む。
「じゃなかった! アリアのチョコ食べたい!!!」
「はいはい」
アリアは今からアカデミーで交流のある同級生、先輩後輩、講師陣に手作りのチョコを配るのだという。
ヒルダはそれにべったりとくっついて歩くのだ。もちろんアリアに変な虫が近づかないようにボディガードだ。
「アリアみたいな美少女にチョコレート貰っちゃった日には、そこらの男子がヘンな勘違いしまくっちゃうんじゃないかしら?
あ、でも本命は当然あたしだけよね!!!?
皆まで言わなくてもいいわ! あたしにはわかってるから!」
「なにいってるの? みんなお友達よ? お友達色のミモザも添えてあるんだからわかるわよ。ヒルダちゃんこそ。あの男子がヒルダちゃんのチョコほしそうな顔してたわよ」
「あたしは興味ないもん。アリアのチョコには興味あるけど」
「ヒルダちゃん綺麗なんだから、ヒルダちゃんからチョコもらったら男子は喜ぶとおもうわよ」
「いやーーー! どうでもいーーー!」
「んもう、次は王城ね。女神様に室長達に、アレイスター君も後で呼ばないと」
「あんな胡散臭いのにもあげるの?」
「お友達だもの」
「ふーん、ふーーーーん、ふーーーーーーん?」
あちこちを歩き回り、やがてバスケットいっぱいのチョコはすべて配り終えられる。
「はぁ~、全部配り切った!」
「なんで? あたしアリアからもらってないんだけど」
バスケットの中は空っぽだ。ヒルダは涙目になっている。アリアはちょっと意地悪しすぎたかなと少し思う。
「はい、これ。いつもありがとう」
隠し持っていた包み紙にくるまれた特製のチョコレートをアリアはヒルダにわたす。
「これ?」
包を開けばメモリアの形の大きなチョコレート。今まで配っていたものとは明らかに違うそれ。
一日中私の配るチョコを見てたんだから、言わなくても特別だって分かるでしょ? とアリアはウインクする。
「アリアー」
「なあに?」
「すきーーーー! 結婚して!」
泣きながら抱きつくヒルダのせなかをアリアはぽんぽんと叩く。
「ほんとにヒルダちゃんは仕方ない子なんだから」
同じようにバスケットにたくさんのミモザの花と手作りのチョコチップクッキーを詰め込んで配り歩くのはアリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)だ。
自由騎士団に所属するその前から所属していた国防騎士団の関係者たちに毎年配っているのだ。円滑な人間関係は戦場を共にする味方には必要なことだ。
女性騎士にはブーケ、男性騎士にはクッキー。逆を所望されればそのように。女性騎士からはやたらクッキーをせがまれるので今年は多めに焼いた。美味しく安全な菓子だ。どこかのお嬢さんとは違う。
大の男が花と菓子の詰まったバスケットを抱えてあるき回るのは格好がつかない、とおもっているのはアリスタルフ本人のみ。
何故か配るたびに男性騎士から紙幣を腰のベルトに挟まれる。最初は断って突き返していたのだがいつの間にか挟まれているのだ。解せぬ。
「ミハイロフ団長、お菓子をどうぞ」
見かけたフレデリックにアリスタルフは声をかける。
「おお、今年も君の手作りか。毎年腕をあげていくなあ」
「お嬢様とご一緒にどうぞ」
「ああ、娘も喜ぶはずだ。……ところで、今年もずいぶん突っ込まれたものだな」
フレデリックに腰元を指さされる。
「いつのまに!?」
多分アリスタルフの思惑とは別にそういうサービスだと思われたのかもしれない。
ローラがお花をあげるっていうと変な意味に聞こえるってよく言われるんだよね。まあスラムでお花売りをしていたこともあるけれど。
今日いつもどおりのどんちゃん騒ぎ。潮騒亭の名前の面目躍如の騒がしさだ。
「お菓子もお花も女の子もつまみ放題ってね~」
店長であるローラが声をかければ、男が従業員のケモノビトの少女の腰を掴んで、誘いをかける。少女は艶っぽく微笑むとミモザの花を男の胸に飾る。それは『OK』という合図。
ローラの薄い胸元に男からのミモザがいくつも飾られていく。これは客が女の子をキープしたという合図。
「店長もうお花いっぱいネ、すごい」
ミズヒトの少女が簡単の声をあげた。
「こういうのはサービス力がものをいうからねー、んもー、ローラひとりだけなんだから順番にね★」
「チョコ頂戴」
ニコラス・モラル(CL3000453)がアデレードを歩くミズーリ・メイヴェンに声をかけた。
「もう少し情緒ってものがほしいわ」
「チョコをーよこせー。じゃないと貰えそうな知り合いを見つける為だけに昼間っからプラプラしてた意味がねぇ」
「男性のプライドっていうのはないのかしら」
「プライドなんてそんなのない! さっき溝に捨てました! いまごろ流れ流れて海を大航海中です!」
「大後悔にならないといいのだけど」
「というわけでチョコちょうだい」
頑としてチョコをもらうことを諦めないニコラスに根負けしてミズーリは包みを手渡す。
「やったーーーーー!! チョコだーーーー!! ありがとうお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃんじゃないっていってるでしょう? どうしてそんなに欲しがるのよ」
「秘密」
「おじさんが可愛子ぶってもかわいくありません」
ぷいとそっぽをむいたミズーリにニコラスは近づいて髪にミモザの花を挿す。
「えっ?」
「ミズーリみたいな女が嫌いじゃないからだよ」
全力の低いセクシーボイスでひとこと耳元でニコラスは囁いた。さすがのミズーリもそれには頬を染めてしまう。
「んもう! からかわないで!」
「じゃあな! チョコありがと!」
そんなこんなで春待ちのお祭りは続く。
まだ風は冷たい。
それでも――春はもう、直ぐ側に。
モニカ・シンクレア(CL3000504)はつい先日このイ・ラプセルに移住したばかりのヨウセイだ。
最初は妖精郷での常識とイ・ラプセルの常識の違いに戸惑ってはいたが、運良くアカデミーの関係者に拾われ、楽しい学徒生活を送っている。
そして知るフルール・ド・プランタン。日は浅くても感謝の気持ちはまけちゃいない。
モニカの目当ては学長であるアルブレヒト・キッシュだ。緊張しながら執務室のドアをノックする。
ややあって入室が許可される。空気の入れ替えをしていたのか思ったより寒い。
「学長先生……モニカを受け入れてくれてありがとう! 授業は楽しくて集落にいたら学べない事もたくさん学べるし、様々な種族の人達ともふれあえる……。モニカ、今とっても充実してますっ!」
言って学長に両手に持ったチョコを渡す。
「女の子にチョコをもらえるとは。私もすてたものじゃないね」
「最初は学長先生にと思ったんです!」
これから他の教師に配りに行くという。
「そうかい、それは光栄だ。他の教師たちも喜ぶだろう」
突如窓から風が舞い込む。その瞬間立ち上がった学長は大きな本でスカートの裾をガードする。
「さてはてレディ。悪戯な風には気をつけたまえ」
「眠い。すっごいねむい」
ふらふらとした足取りで家路につくのはアンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)。
ほんっとーにギリギリで春待ちの祭りにあわせた新作の造花で飾った帽子を納品してきた帰りなのだ。自由騎士と帽子屋の仕事。両立できなくてなるものかと気張った結果だ。
太陽の光は徹夜に厳しい。
でも完成した私にはご褒美が必要。だからエールを酒屋に買いに行く。でもワインも捨てがたい。
ふとワインの横をみるとワインのゼリーをくるんだフルール・ド・プランタン限定のチョコレートが展示してあった。
疲れたときには甘い物。アンネリーザはそのチョコとは天啓の出会いと買い求める。
お酒入りのチョコがつまみにあうのはエールなのかしら? それとも赤ワイン?
「賑やかだとおもったら……」
そうだ、フルール・ド・プランタンの時期なのね。と父親の代理で王城に召喚されていたヴァイオラ・ダンヒル(CL3000386)は気づく。
彼女には婚約者がいるがシャンバラに出張中だ。こういった行事ごとには疎いようで、チョコはおろかミモザですら贈られてきていない。
別にその方が好都合ではあるが、乙女心というものは複雑なのだ。
ため息をついて角を曲がろうとしたら、どん、と誰かにぶつかり両手に持っていた書類がこぼれ落ちる。
「ああっ、ごめんね。ちょっと前をみてなかったわ。怪我はない?」
その書類を拾うのを手伝おうとするのはバーバラ・キュプカー。街の情報屋の一人だ。
「ああ、いえ、私も考え事をしてて」
「ふふ、春待ちのことかしら? えっと……婚約者がいるんだったわよね? あなた」
情報屋らしい耳聡さだ。ヴァイオラはため息をつく。
「あんなウォーモンガー様に差し上げるものはありません。だけれどもダンヒル家の格に相応しいっていうか貴方と結婚する気はないわけではないけれどあくまで家の為であって私個人の意思ではないので今後も距離を縮めようなど考えないで欲しいという意思が礼を失せず伝わる贈り物を」
一気にまくしたてるヴァイオラに、へえ、とバーバラは笑う。
「あの、よかったら相談にのってくれないかしら。アドバイスとか欲しくて」
「いいわよ。今からまた街に向かうから美味しいショコラティエを紹介するわ。ああ、私はバーバラ・キュプカーよ。よろしくね」
「ええ、私はヴァイオラ・ダンヒル……って知ってたみたいだけど」
「知っていても改めて自己紹介しあうのは大切なことよ。お友達ですものね」
「お友達?」
「ええ、今から一緒に色んな場所に遊びに、もといショッピングにいくのよ? そういうのをお友達っていうでしょう?」
「ふふ、そうね。じゃあ、よろしくね、バーバラ」
アーウィン・エピは居心地の悪い診察室でキョロキョロとしている。ボロけた椅子に座る非時香・ツボミ(CL3000086)に朝っぱらから呼び出しを食らったのだ。
「何のようだよ、バカ医者」
「……何の用だと?
分からんのか貴様。今日からフルール・ド・プランタンだぞ?」
「らしいな」
「なら検査だ!」
「はぁ?」
「なんだ木菟が豆鉄砲喰らった様な顔しおって」
この時代においてチョコレートというものは劇薬にも近い甘味である。カカオが媚薬として遣われていた時代もある。
食べ慣れていないと刺激が強すぎて鼻血が出たりすることもあるのだ。それに動物の中にはカカオの成分が毒性を示すこともある。
実際においては、あくまでもケモノビトは因子があるだけでヒトよりであるからそれほど心配する必要はないのだが、当時の医療レベルを鑑みるに、カカオの成分による諸症状が強く出るものを中毒症状として診断してしまうこともあるだろう。
「今まで平気でも過去の環境と立場からして大量に貰い得るのは今年が初だろう貴様。量が過ぎて始めて症状が出る場合もある。万一を考えれば検査は必要だ」
ツボミは舌を引っ張りだしてカカオの粉末を乗せる。白目をみたり肌をみたり喉をみたりと強引に検査をすすめる。
「ふむ、特に反応はないな」
あっちこっちを弄りたおして満足したツボミが検査を終わりを告げる。
「あんた心配性すぎるんだよ」
「心配をしすぎる程度で丁度なんだ、医者ってもんはな」
それにしてもこいつは自分がドウ思われているのか自覚しとらんのだろうな。
祭りも贈り物も命と健康あってのもの。十全に過ごせるなら結構結構。
「ほら、検査結果の書いた書類だ。帰ったら一度確認して置け」
言ってツボミはアーウィンを蹴り出す。
「まだ診察がのこっているのでな」
「患者は丁寧に扱え!」
ブツブツ言いながら、追い出されたアーウィンは書類を開こうとするが、やけに重みがある。書類以外のものもはいっているらしい。少し湿った布包のなかにはミモザの花が一輪。しおれぬようにと気遣われたそのミモザはみずみずしい山吹色。
「ったく、素直に渡せばいいだろうが……」
言って、アーウィンは花屋とそして、菓子屋に向かう。財布の中の貨幣があればそれなりのものは買えるだろう。
「ティーヌちゃん!」
シア・ウィルナーグ(CL3000028)が、長い行列を忍耐強くまって買ってきたおしゃれでかわいい宝石のようなチョコレートをもって、王女クレマンティーヌ・イ・ラプセルの元に向かう。
小さな箱に入ったお菓子の宝石を渡せば、王女は目を輝かせて喜ぶ。
「これ街で美味しいって評判なんだ」
では、と王女はメイドに命じて紅茶を用意させる。そんな王女らしい姿にどきりとする。やっぱり王女とボクは違う世界に生きてるのかなとすこしだけシアは思う。
それでも、同時にチョコを食べたとき全く同じ表情を王女がしたことでシアは安心する。だからシアは聞きたかったことを尋ねる。
「ねえ、ティーヌちゃんって好きな男の子のタイプはどんなの?」
それは年頃の女の子らしい話題。
すこしだけ考えて王女は答える。
「お兄様みたいな方でしょうか?」
その答えに少しだけシアはずっこける。どこかの国に婚約者がいて、でもそれは政治的なうんぬんですごく年上だから嫌だとか、実は使用人に好きな人がいてそういう身分を超えた恋、みたいなロマンスが聞けるかもなんて少しくらいは期待していたがそれ以前の問題だ。どうにもこの王女はブラコンらしい。
「じゃあ、私にもシアの好きなタイプを教えてください」
王女は目をキラキラさせて言う。だから、シアは答える。だって内緒を教えてくれたのだから。
「ボクのタイプ? それはね――」
ライカ・リンドヴルム(CL3000405)は散歩道を歩きながら思う。
……自由騎士になってすぐにアニムスを燃やして聖母を討った。そして青騎士も。シャンバラとの戦争だけで、2回も燃やした。
じゃあ次はいつ? こんなことじゃすぐに死んじゃうかもしれないなと思う。
もしそうなったら……目の前に浮かぶのは青い髪の女神。――どうして? 私は神なんて嫌いだ。ライカは頭をふってその浮かんだ顔を振り払う。街は春待ちのお祭りでいっぱいだ。花屋の少女がバスケットにたくさんのミモザの花を入れて行商をしている。
ライカはなんとはなしにその花を買ってしまった。楽しめるときにはお祭りも楽しんだほうがいいもの。花が売れ残ってもあの女の子が可愛そうだし。
いつの間にかライカは神殿の女神の間に足を向けていた。
「こんにちは、ライカ」
微笑む女神。ライカはズカズカと歩いて女神の正面に立ちぶっきらぼうに黄色い花を差し出す。
「よくわかんないけど、この時期はこういうものを贈るんでしょう? 正直、異性だの恋だの云々はわからないし……まぁ神を殺す機会と権能を使わせてもらってる感謝の印ってことで受け取ってちょうだい」
すっごく早口だった。
女神は微笑むとライカから花をうけとり自らの髪に飾る。
似合ってるじゃない、なんて言えなかった。
「ねえ」
「はい?」
「アクアディーネはアタシが死んだら、泣く?」
「はい。もちろん悲しいです」
それはあなたの国民だから? なんて意地悪な疑問がわいてでてくる。けれど。
「そう、わかった」
ライカはただ、そう、返事した。
王女に買ったチョコレートをもってきたのはカーミラ・ローゼンタール(CL3000069)もまた同じ。
こちらはフルーツをくるんだ庶民向けのチョコレートだ。チョコの甘さとフルーツの酸味が程よく絡み、とても美味しいとカーミラは思う。
だから王女にも食べてほしかったのだ。
「ありがとう、カーミラ。さっきまでシアもいたのだけれど……。あなたも紅茶を飲んでいきませんか?」
カーミラにとってフカフカの綺麗なソファはあまり居心地がいいとはいえない。だけれど大好きな友達がそこにいるのだから。
だされた紅茶の味は正直よくわからなかったけどすごく美味しかった。それは王女と一緒だからだとおもう。
カーミラは王女に近況をたくさん話す。教えてもらった踊りのこと、もう少しうまくなったら王女にも教えてあげたいとかいろいろ。
「あ、そうだ!」
カーミラは黄色い花冠を王女にかぶせた。いつもの冠も綺麗だけど、春をまつならこっちだとおもうから。
「にあうよ」
かわりにと王冠を差し出されるが流石にそれは辞退する。じゃあ、カーミラも綺麗になるといいと王女が自分の頭から花冠をかぶらせてくれた。
すごくくすぐったかったけど、自分も王女になったような気がしてすごくうれしかった。
もう一度王女は花冠をかぶり直すとカーミラにお礼の入った小さな箱を渡した。
「わあ!」
その小さな箱の中身はカーミラの大切なものになるのだろう。
篁・三十三(CL3000014)が久しぶりに王都に戻ってみたら見たこともないお祭りが開催されていた。
ミモザとチョコレートの甘い香りが周囲に漂っている。
フルール・ド・プランタンという祭りだと教えてもらった。
久々の王都は新鮮に映って三十三の目がキラキラと輝きはじめる。その目に映るのは久しぶりに会う友人。
「アーウィンさん! わぁい! ひさしぶり!」
「おう、元気だったか? 地元にでも帰っていたのか?」
「うん、そんなところ」
三十三はアーウィンの周りをぴょんぴょん跳ねながら飛び回る。
「落ち着けって!」
「これってどんなお祭り? なにするの? ねえチョコってなに? 甘い匂いする! アーウィンさんも持ってるの?」
めざとく紙袋のなかの甘味に目をむけ、上目遣いで餌を乞うわんこのように瞳を輝かせる三十三。
「俺だって初めての祭りだっつの。なんか感謝の気持ちを伝えるんだとよ」
言ってアーウィンは袋の中から包みを三十三にわたす。
「なになに? これ」
「チョコ欲しいっていっただろ? 大したもんじゃない安物だけどな」
「わーい! 食べていい?」
「すきにしろ」
言うが早いか三十三は包みを開いてチョコレートを口に放り込む。
「うっわーーーーあまい!!」
「食いすぎるなよ、鼻血でちまうらしいぜ」
「へー、もうないの?」
「こいつ聞いちゃいないってか、今まで何があったかとか聞かねえのか?」
「うん! 今はお祭りで、アーウィンさんに会えたから、今日はお祭り満喫するよ!」
ルーク・H・アルカナム(CL3000490)は場末の探偵事務所で一人、愛銃のメンテナンスを続ける。
分解して、掃除して、またもとに戻すルーティーン。今となれば目を瞑っていてもできるほどだ。
静かな事務所に銃を分解し組み立てる小さな金属音だけが響く。いつしかその機械的な音の中に温かい音が不協和音として混ざってくる。
聞き慣れた足音と声。
フーリィンとリムリィ。ルークの二度目の家族だ。
バタンと遠慮なくドアが響く。そういえば今日はフルール・ド・プランタンだったか。
リムリィ・アルカナム(CL3000500)にとってこの街の喧騒は落ち着かない。とはいえそれは嫌なものではない。ワクワクとするようなたのしさがある。
そんな中姉であるフーリィン・アルカナム(CL3000403)があにであるルークに会いに行くといいはじめたのだ。どうせ事務所で一人でいるのだろう。街に引っ張り出すのは無理だとしてもこのお祭りの雰囲気を感じてもらいたかった。なにせあの無愛想な義弟は朴念仁にも祭りに気づいてないはずだ。べつにあにはきらいじゃないからとリムリィはフーリィンについていく。
案の定、想像通り。いつもどおりのルークにフーリィンはためいきをついた。
「私の大切な家族が幸せでありますように♪」
言って長姉は義弟に軽やかな蕾をふくらませるミモザを渡す。
義弟はこのわかりやすい姉に対して一瞥するとミモザを受け取った。それにしてもいつもにましてチビのほうが自分を睨んでくる。
嫌われてはいないはずだが、どうにも姉にくらべてわかりにくいのだ。耳がぴるぴると揺れているから、機嫌が悪いわけではなさそうだが。
ルークは帽子の鍔を組み立て直した銃口であげて義妹の様子を見る。
「ほら」
いくぶんかの逡巡の後、渡されるのは姉と同じ黄色の小さな花。
「リムちゃんなにかこそこそしているとおもったら、お花を買っていたんですね!」
そんな健気な妹の行動が愛おしくて、鼻の奥がツンとする。大きなフーリィンの瞳には涙が浮かぶ。なぜ泣いてしまうのかわからないけど嬉しくてしかたなくなってぎゅうと抱きしめた。
わかりにくくても、リムリィは間違いなく家族を愛している。それが嬉しかった。
「おねえちゃんくるしい」
窓から入り込んでくる日差しが朱くなってくる。きょうだいたちの語らいはずいぶん長くまで続いたようだ。
じゃあ帰りますねと姉が口にすればぶっきらぼうな弟は外まで見送る。
「ルーク、たっしゃでな」
「どこで覚えたんだ、そんな言葉」
言ってルークは生意気な妹の頭をガシガシと撫でた。
そのかえりみちのおはなし。
「ルークよろこんだかな?」
「ええ、もちろんですよ。リムちゃん」
二人の少女のカバンにからはいつの間にか黄色い太陽みたいなお花が顔をだしていた。
「本当にわかりにくいんですから」
そう言って笑う姉の笑顔がとてもとても綺麗だと、リムリィは思った。
「ほら、さっさとしいや!」
蔡 狼華(CL3000451) は同僚たちを蹴っ飛ばすほどの勢いで朝早くから叩き起こす。
今日はフルール・ド・プランタン。お店(サロン)を飾り付けてお客様をお迎えする。予約しておいたミモザのリースをお花屋に受け取りにいかなくてはならない。他にも受け取るものはある。
その間に同僚にはお店を綺麗に掃除をしてもらわないといけない。
今日の予定は貴族の奥様方のフルール・ド・プランタン特別茶会。絶対に失礼なんてあってはいけないのだ。
「ミモザの花飾りに花の形のチョコレート、紅茶にミルクにクッキーに……はぁ、贅沢尽くしやなぁ」
アチラコチラ街取り寄せたものを受け取りに奔走しているうちにふと狼華はウインドウの向こうの綺麗な花飾りが目につく。
マダムにもお花を贈ろうかな。どんなのがマダムには似合うだろうか? 華やかで気品があって、そいでもって。
誰かのための贈り物を選ぶというのはとても楽しいことだ。さあ、お仕事はよおわらせて、さっきの店みにいかな。
狼華は駆け足で街を巡る。
「いらっしゃいま~せぇ~! 八千代堂へようこそ~!」
フルール・ド・プランタンで忙しいのはシェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)もまた同じ。
たくさんの人々がお菓子を交換するこのお祭りは彼女にとっても重要な稼ぎ時である。
「今日からフルール・ド・プランタン限定メニューをはじめますよぉ?」
限定、という言葉にはどこの時代のご婦人方も弱い。わいわいと人垣が八千代堂にできる。
「オススメは生地にチョコレートを練り込んで餡子を挟み、真ん中にバターを入れたチョコあんバターどら焼きですぅ?0」
アマノホカリ風のそのお菓子は風変わりで、人気も高い。
「ちょっぴり大人な貴方にはミモザの花束を象った砂糖菓子~」
節にのせた独特のその売り込み文句は目だけではなく耳もひく。商売繁盛。お財布が重いのはいいことだ。
今日の神殿はずいぶんと騒がしいようだ。先程など真っ黒い人が衛兵に連行されていた。
「アクアディーネ様、こんにちは」
サラ・ケーヒル(CL3000348)は父親に教わったチョコレートを持参してきている。
「こんにちは、サラ」
水のような透き通った声の女神は淡い笑みを浮かべている。
「あの、感謝の気持ちです」
差し出されたのは不格好なチョコレート。いまさらながらに恥ずかしくなってくる。もうすこし綺麗なのにすればよかったかも。
「ありがとう」
いって受け取ったアクアディーネは包み紙を広げ笑みを深める。
「あの、まずかったら食べなくていいですよ」
「ふふ、サラの一生懸命がんばったのが伝わってきます」
「あの! アクアディーネ様がいるから、わたしたちは頑張れると……そう思っています」
嬉しそうにチョコを食む女神にサラはとつとつと話し始める。
「アクアディーネ様がいつか言っておられた、オラクルが争いに巻き込まれなくなる時代……誰もが平和に暮らせる戦乱のない時代……そういう日が来るように、微力ですけど頑張りたいと思います」
そんな日がいつ来るのかはわからない。神暦がはじまりずっと戦渦のなかの世界が平和だった頃などはない。それでもこの女神はそうしたいと言った。それがサラには嬉しくて、だからそのために頑張りたいと思った。
生意気なことを言ったかもしれない。うつむくサラの頬に温かい手が触れる。
「ありがとう。貴女のような人がそんな世界をつくるのだと思います」
そういって微笑んだ女神はまるで子供のように喜んでいるように視えた。
その数分前の話である。
女神に敬虔に祈りを捧げるのはナイトオウル・アラウンド(CL3000395)。
万民は須らく崇めよ、女神を。
とはいえ、万人が一から十まで神意を理解せよと言うのも靴を隔てて痒きを掻くようなもの。
故に。故に故に故に故に故に故に故に故に故に故に彼は妙案を思いつく。
女神の偉大さを認知させるための劇を行うのだ。
当時、劇にプロバガンダをのせて演じるというのはメジャーな方法であった。庶民にもわかりやすく民衆の熱狂を信仰に変えるのだ。
とはいえ、ナイトオウルは劇作家ではない。大まかなプロットを用意し、神殿に参拝にきた劇作家にプレゼンテーションをする。
狡猾な悪魔が犇めくイ・ラプセルの外、海を舞台に聖戦を繰り広げる物語です
騎士は蒼き紋章(azur)を胸に抱き抜錨し、
聡明なる女神の知略を以て海に一筋の活路(Lane)を切り開いてゆくのです!
題名は――。
やべーやつが今度は違う方向性のやべーかんじで攻めてきた。
いつもどおり彼は衛兵に連行されていく。
『romaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaann!!!!!!!!!』
シルヴィア・ベルヴァルト。
その墓碑の銘はそう掘られていた。
テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)の前妻である。数年前に分かたれた愛しい人。自分は一生彼女の影を追って生きるのだとおもっていた。しかし運命とは異なもの。彼はメイマール伯の息女との婚姻を決める。
「漸く決心がついた、新しく妻を迎える事にしたよ。
漸くかと呆れられそうだな」
彼はミモザの花を彼女に墓碑に供える。
「……カタリーナ・メイマール。メイマール伯爵は知っているだろう?彼のご息女、美しく聡明で柔和な女性だ。私には勿体無いくらいだ」
風にミモザが揺れる。ミモザの花言葉は感謝。
前妻への感謝がそこに込められている。
テオドールの冬はもうすぐ終わる。だから、君も一緒にこの花と春を待ってほしい。
思い込みかもしれない。それでも風で揺れるミモザがうなずいているように思えた。
「墓参りかね?」
前妻に礼をつげ立ち上がり墓地の門を出ようとした彼にクラウスが話しかけた。
「卿も墓参りですか?」
「ああ、亡き妻に報告だ」
「同じくです。前に進む決心がついた感謝を」
「では?」
「ええ、我が屋敷にカタリーナを迎える準備をいたします」
「卿、ずいぶん楽しそうだな」
「たのし、そう、ですか? ええ、ええそうです。それでいいんです。きっと」
言って一礼をして、彼は足を進める。彼女が待つ屋敷に。
「ヴィスマルクには似たような祭事はないのか?」
両手に荷物を持つアーウィンを街で見つけたグローリア・アンヘル(CL3000214)は出合い頭に問を投げかける。
春待ちの祭りはイ・ラプセル特有のものだ。他国はどうなのだろうと興味がでたのだ。
「どうだろうな。俺はヴィスマルクつってもすげえ北の田舎育ちだから都会の祭りには詳しくないからな……でも感謝を伝える云々ってのは何かしらあるとはおもうけどな」
「そうか」
会話が終了してしまった。自分はあまりこういったイベントごとに積極的ではない。騎士団の年下女性から贈り物をもらうことが多いが自分から渡すとなれば社交辞令。何を渡そうか選ぶことすら億劫に感じることもある。
だけど、『これ』を選んでいたときは決して億劫ではなかった。(別の不安が湧いてきたのは厄介だったが)
それは多分本当に自分の意思で渡したいと思ったのはこれが初めてなんだろうと思う。
「これ、いつものお礼だ」
不安がいっぱいでぶっきらぼうになってしまった。周囲の女子ならもっと可愛く渡すことができるのに。
「おお、ありがとうな。俺も」
アーウィンは器用に荷物を片手でもちかえ、中身を物色すると、ミモザとチョコレートを渡してくる。なんだこいつこんなにたくさん準備してるのか。そのうちの一つかと思うとなぜか怒りが湧いてくる。
またこれだ。彼と話していると何故か変なところで怒りが湧いてくる。決して嫌いなわけではない。この気持ちがなんであるのかは整理がつくことがあるのだろうか?
「ありがとう。次の春も、その次の春もできることならお前と一緒に迎えたい」
「あー……」
「いやなのか?」
すごく傷ついた気持ちになる。
「いや、違う違う。そりゃ俺はイ・ラプセル人になったけど、戦争が終わった後はまだわかんねえ。チビたちもいるしさ。来年はともかく再来年はどうなってるんだろうな?」
まったく不器用なのはこいつもだ。バカまじめに状況なんぞを加味して答えられないとは。こんなの社交辞令として頷いておけばいいような話ではないか。
今日はヨアヒムさんは忙しいかな? だってあの人たくさんの女の子の友達がいるから。こういう日ってあっちこっちで……。
でも少しだけ少しだけ時間をもらえないかな、と思ってレネット・フィオーレ(CL3000335) はアデレードの街を散策する。
ここで待ち合わせをしたわけでもないし、それにいるとは限らない。
「や、レネット、奇遇だね」
どきんと胸が弾む。振り向けはヨアヒム・マイヤー。両手にはやっぱり思ったとおりにお菓子を持っている。でもいいや。わたしだってフルール・ド・プランタンに便乗しちゃうんだから。
「ヨアヒムさん、ちょっとしゃがんでください?」
その迫力に素直にヨアヒムは近くのベンチに荷物を置いてしゃがむ。その帽子にレネットは黄色いミモザを飾る。
「悪戯? レネットかわいいとこあるじゃん」
「さあ、どうでしょう。……帽子見ちゃだめですよ! 恥ずかしいし」
飾られた黄色いミモザの意味は『内緒の恋心』。でも、ちゃんと言葉で伝えたいのだ。
「あの、わたし、ヨアヒムさんのこと、とってもとっても、好きですよ?」
「ふええええ?!」
ヨアヒムが焦ったような声をあげたことにすこしだけしてやったりと思う。
「じょうだ……」
「冗談じゃないです。意地悪だってしてません」
「あーーー、ちょっとまってて、荷物番してて」
言ってヨアヒムはどこかに走り去っていく。なにこれ? ふられたの? それにしてもこの荷物が憎らしい。捨てちゃってもいいかしらなんて意地悪な気持ちが湧き出す。もちろんそんなことしないけど
暫くの後、ヨアヒムが汗だくでミモザの花束をもってくる。
「レネット、なんていうか、うまいこといえないけどさ、まあ、嬉しいかな?」
それは曖昧な言葉。だけれども。器用そうなのに意外と不器用なことがわかった。それだけでも今はいいかなとレネットは思った。
港町アデレードのとある酒場にて。
\わたくしですわー!!/(ちゅどーん)
「おーーーーーーっほっほっほっほ」
「ここはお子様の遊び場じゃあなかったはずなんだけどね」
高笑いの前で苦虫を噛み潰したような顔で女海賊アルヴィダ・スカンディナが用向きを促す。
「ごきげんよう! アルヴィダ・スカンディナ!!
わたくし、貴女にお渡ししたいものがありますの」
基本的に話をあまりきかないジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357)は桃色の可愛らしい包み紙でラッピングされた小箱を手渡す。
同行するアダム・クランプトン(CL3000185)には聞こえないように急に小声になるとジュリエットは、
「ライバルである貴女に礼を尽くしたいと思いましたの」
とジャブを放つ。アルヴィダはそういうことなら受け取っておくよと、包みを開く。
「なあ? ジュリエット。これは……花の形の炭??」
アレほど美しい造形(?)のきのこタワーの設計ができたというのに神は2つ目の才能をジュリエットには授けなかったのだ。明らかに失敗作だとわかるあたり、某宰相の孫娘よりは質は悪くないとはいえ。
「く、くっきーですわ」
「へぇ、にがっ」
それでも酒のあてにとアルヴィダは炭、もとい焦げたクッキーをひょいと口に放り込んだ。
「練習したほうがいいんじゃないかい?」
「わかってますし、美味しくないなら食べなくていいんですわ!」
「なにいってんだい。これはあんたのアタシへの挑戦状だろう? 受け取るといった手前食べないわけにいかないさ?」
「貴女の料理の腕前はどうなんですの?」
「さあ?」
真っ赤になったジュリエットににやにやと意地悪な笑いのアルヴィダが答えた。
「僕もいるんだよ! アルヴィダさんにはセレクトあんぱんこれくしょん!」
袋いっぱいのあんぱんを机の上にどん! と置く。
「まずはアデレードのシャナン商店のあんパン。じつはパン屋じゃないんだけど趣味でおいてあるあんパンがこれまた絶品。あんが甘くなさすぎて大人むけの味なんだ。それから王都の老舗のパン屋さんのあんパン。アルヴィダさんは王都にはいけないから王都中心にあつめてきたんだけど、その中でもこれは老舗らしくオーソドックスな……」
「ちょっとまった、説明はわかった、いい、いい。っていうかこれ全部あんぱん……なのかい?」
「うんこの国のあんパンというあんパンを端から端まで食べ歩き厳選した品々さ
厳選したとはいったけどどれも美味しくてたまらないから全部セレクトしたんだけどね!」
「へえ、これを全部アタシのために歩いて探して持ってきてくれたんだ」
少しだけ頬を染めるアルヴィダに対してジュリエットが頬を膨らます。
「アダムッ!!」
「はい!」
「アダムにはこれを!」
水色のラッピングの小箱をジュリエットはアダムに手渡す。
「わ、嬉しいなあ。なんだろう?」
封を開ければそこには名状しがたいチョコレートの塊。
「わあ! もじゃらかほげんでだ! すごい! 再現性高いね!」
アダムはよくわからない名称を口走った。
「そ、そうですわ!」
よくわからないけどジュリエットは迎合した。
「じゃあ、ジュリエットさんには、このオレンジ色のミモザの花束を! エレガントって意味合いがあるんだ。ジュリエットさんにはぴったりかなって。
なんというか女性に渡すプレゼントって難しいね」
まあいろいろ思うことはある。けれど恥ずかしそうにはにかむアダムの笑顔をみていたらどうでもよくなってくる。二人はその笑顔につられて笑う。
よかった喜んでくれたとアダムはほっとする。
「二人にはお返しが必要だね。っていってもアタシは用意してないから、そうだね。今日は奢りだよ。すきなだけ好きなもんを食べて飲んでおくれ!」
ザルク・ミステル(CL3000067)とエル・エル(CL3000370)は隣り合って街を歩いていた。
言葉なく、てくてくと。
発端は数分前に遡る。
「ほら」
ザルクがミモザの花をエルに差し出す。
「ああ、今日は春待ちの日ね。よく知っていたわね。でもこれは友人や感謝すべき人に渡すものよ」
「エルエルが友人で感謝すべきヒトだから渡してるんだろ」
「? あなたと友人になった覚えはないわ? それとも、敬老の日とかそういうのと勘違いした?」
「エルエルおまえ、人の心を傷つけるのうまいっていわれないか? ああもう、いいから。俺はお前とシャンバラに行っていろいろ助けられた! その感謝だからうけとれ」
「え、あ、うん。えっと、お返し、しないとよね」
エルは事前にやたら目につく街のお菓子屋で自分用にいくつかチョコレートを買っていたのだ。その中でもたぶん一番おいしそうにみえたそれをザルクにわたす。渡されたザルクがやけに嬉しそうな子どもにみえたのは、言わないでおいてあげよう。
そして、今。
「……正直、お前からお返しが貰えるとは思ってもなかった……ってなんだよその顔は」
「いえ、他意はないのよ?」
これはただの社交辞令。お花をもらったからチョコをお返しに。ただそれだけのお話。
でも――春待ちのお祭りで誰かに何かをあげたのは初めてだ。
「俺さ」
「なに?」
「お前の事、鏡として見てた節があるんだよな。同じ復讐者として。効率悪い復讐の仕方してるな、とか」
彼の言葉を無言で促す。
「ジョセフ司教に論破されてるのを見て長い月日を復讐に捧げた見返りが魔女狩りの大幹部からの理解と酷いわ、とか」
眼の前の魔女は何も報われてはいない。そう感じた。その瞬間からこの魔女が気になって仕方なくなったのだ。
この魔女は自分の命など顧みていない。それが腹立たしくて、「勝手に消えていなくなるな」なんて恥ずかしいことを言ってしまった。
いやそれは本心だからいいんだけど。猫は死期を悟ると姿を消すという。そんなふうに消えてなくなってしまうようでそれが何故か少し怖いと思った。
「ザッくん、それは少し失礼じゃない?」
「いいから聞けよ、とにかくな、お前と関わって感じたのは『報われて欲しい』なんだ」
「……」
「俺も復讐は遂げるさ。当然だ。だけどそれだけで終わるつもりはないし報われたい」
「変な子、何がいいたいのかしら?」
このザルクという男はエルにとっては理解できない変なやつだとおもう。いなくなるなと言われても。私がいなくなったところで誰も困らない。この男にとってもそれは変わらない。ただ私に出会うまえの状態に戻るだけ。
「お前に幸せになってほしい! 報われてほしい!」
「なっ……!」
なにを言い出すのだ急に。それって……ちょっと見方を変えればその……求婚しているようにしかみえないことをこの子は気づいているのかしら?
「それが俺のお前にたいする答えだろうな、きっと」
「なななななな…ッ!」
頬が熱い。別にそんな言葉に簡単に絆されることはない程度には長生きしてるけど。でも。でも――。
――拝啓
元気でいますか? 私も変わりなくお務めに励んでいます。
そんな挨拶からはじまるシノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)の家族へあてた手紙はとても温かいものだった。
ミモザの花の蕾をみると父親のまったくつたわらないパントマイムを思い出す。
一回も正解したことがないほどに下手くそなそれ。
シノピリカは先日の馬の訓練についての報告を書に連ねる。
一番彼女になついていた馬が彼女の長い三つ編みを食んでいるその蒸気写真を同封しようとして笑みを浮かべる。
後ろに映っている同僚が仏頂面で一層大きな馬にまたがっている。
彼が騎乗する姿は実に絵になると、家族にも伝えておこう。
「それ、めっちゃ僕自慢されたんだけどさあ」
突如声をかけられたシノピリカは驚いて振り向く。
「クロウリー殿ではないか。乙女の手紙を覗くとは……!」
「乙女? 誰が?」
「空気を読んでほしいのじゃが、で、自慢っていうのは?」
「聞きたい?」
「うむ」
クローリーは促され、その顛末をシノピリカに話し始める。
「自由騎士団にもついに馬がきたんだぞ! 馬だぞ! 馬だぞ!!!」
呼び出されたかと思えば、いきなりそれだ。
ボルカス・ギルトバーナー(CL3000092)は傍らに控える月毛の軍馬をなでながら騒ぐ。
「シャンバラ生まれのニュー相棒のメアリというんだ。かわいいだろう」
「まじかよ、そんな理由で呼び出したのかよ、ナーナー。僕ぁ忙しいの知ってんだろう? っていうか馬くらい珍しくないじゃん」
「何をいうんだ。この毛並み、この瞳、この鬣。若草色の尻尾なんて美しい以外の何者でもないだろう?」
僕のネコチャンも青色で毛並み最高だよとか自慢をしかえしてやろうとおもったが多分聞く耳をもたないだろう。
やべえな、珍しく傲慢じゃん。
「メアリ、こいつはローリー。俺の胡散臭いマイフレンドだ!」
こういうのを馬バカというのだろうか?
「そうだ、ローリー、よかったらミモザをもらってくれ」
「ああ、君たちの国の祭りの? ほんと祭り好きだね。僕もすきだけどさ」
「よしうけとったな、隠してくれ」
言うが早いかメアリがぱくりとミモザの花を食べる。どうにもミモザをおやつと認識しているようだ。
「はは、メアリはおちゃめだな。こういうこともあろうかともう一本!」
その『親友』の姿に笑えてくる。彼は自分のことは何も知らない。友達面をしているのは今だけかもしれないのに。それは彼とてうすうす気づいているのだろう。
それでも彼は自分を友人として、友誼の証を送ってくるのだ。
「ありがとう、我が『友』よ。ではそちらのレディにミモザのプレゼントを」
言って出したミモザの花束がメアリの足元に落ちメアリはそれを食む。
「俺じゃないのか! まあいいけど、ナーナーもメアリがかわいくなったんだろう?」
「さてね?」
「――ってわけ」
「ボルカス殿らしいな。そうだ、クロウリー殿。この手紙をワシの親に配達してくれるかな?」
シノピリカはクローリーの話をそのまま家族への手紙にしたためてかしこ、としめたその手紙を渡す。
「僕ぁメッセンジャーじゃないよ」
言いつつも受け取ったクローリーはその場から消える。
ありがとうと呟いたシノピリカの手元でかさりと音がする。音を立てたそれを見ると――。
また、アポなしで来てしまった。
お祝いのパーティがあるわけでもないし、陛下はお忙しい身! お会いできるかどうかわからないけれど。
「ああ、エルシーさん、こんにちは」
王城の入り口で行ったりきたりしているエルシー・スカーレット(CL3000368)を見つけた衛兵が声を掛けた。
「こんにちは! お疲れ様です。えっとですね、こないだの例のあれ、どうなりました?」
もちろん届けたよ。と衛兵は苦笑する。そんなに気になるなら自分で届ければいいのにとは言わない。
「あ、エルシーさん。王様に会いに来たんでしょう? 自由騎士は王様直属だから謁見許可は難しくないよ?」
王城にある演算室に向かおうとしていたクラウディアがエルシーを見かけて声をかける。
「でも……」
「はいはい、いくよー」
――謁見室に通されたエルシーは柔らかいソファに座っている。どうしてこうなったんだ。
「またせたかい?」
「へへへ陛下、ご機嫌麗しゅうございます!自由騎士のエルシーでございます!」
扉が開きエドワードから声を掛けられ、エルシーは飛び上がる。
「今日は普段着なのかい? そういう格好もよく似合うね」
「あわわ、その、王室に……こんな格好で……」
「気にしないでいいよ。そうだ、この前のミモザありがとう。執務室に飾ってあるよ。はやく春が来てほしいね」
「ひゃい!」
エルシーの内心はもうめちゃくちゃだ。ソファやわらかいし、陛下は優しいし、急にきたの怒らないし、っていうか普段着似合うっていってくれた?
情報量に脳がおいつかない。
「さてお礼だ」
言ってミモザの花冠をエルシーに頭に飾る。
「春待ちの姫君に僭越ながら花冠を……っと失礼だったかな?」
「いえ!!」
「君のあかい髪にはやはりミモザがよく似合うね、エルシー姫」
「ありがとうございます。あわわ、え? 姫?」
焦る少女に国王は意地悪そうに笑うのだった。
「アリア食べたい!!!!!!!」
物騒な心の叫びをあげるのはヒルダ・アークライト(CL3000279)だ。
「んもう! 何をいってるのよ! ヒルダちゃん」
半眼でアリア・セレスティ(CL3000222) が突っ込む。
「じゃなかった! アリアのチョコ食べたい!!!」
「はいはい」
アリアは今からアカデミーで交流のある同級生、先輩後輩、講師陣に手作りのチョコを配るのだという。
ヒルダはそれにべったりとくっついて歩くのだ。もちろんアリアに変な虫が近づかないようにボディガードだ。
「アリアみたいな美少女にチョコレート貰っちゃった日には、そこらの男子がヘンな勘違いしまくっちゃうんじゃないかしら?
あ、でも本命は当然あたしだけよね!!!?
皆まで言わなくてもいいわ! あたしにはわかってるから!」
「なにいってるの? みんなお友達よ? お友達色のミモザも添えてあるんだからわかるわよ。ヒルダちゃんこそ。あの男子がヒルダちゃんのチョコほしそうな顔してたわよ」
「あたしは興味ないもん。アリアのチョコには興味あるけど」
「ヒルダちゃん綺麗なんだから、ヒルダちゃんからチョコもらったら男子は喜ぶとおもうわよ」
「いやーーー! どうでもいーーー!」
「んもう、次は王城ね。女神様に室長達に、アレイスター君も後で呼ばないと」
「あんな胡散臭いのにもあげるの?」
「お友達だもの」
「ふーん、ふーーーーん、ふーーーーーーん?」
あちこちを歩き回り、やがてバスケットいっぱいのチョコはすべて配り終えられる。
「はぁ~、全部配り切った!」
「なんで? あたしアリアからもらってないんだけど」
バスケットの中は空っぽだ。ヒルダは涙目になっている。アリアはちょっと意地悪しすぎたかなと少し思う。
「はい、これ。いつもありがとう」
隠し持っていた包み紙にくるまれた特製のチョコレートをアリアはヒルダにわたす。
「これ?」

包を開けばメモリアの形の大きなチョコレート。今まで配っていたものとは明らかに違うそれ。
一日中私の配るチョコを見てたんだから、言わなくても特別だって分かるでしょ? とアリアはウインクする。
「アリアー」
「なあに?」
「すきーーーー! 結婚して!」
泣きながら抱きつくヒルダのせなかをアリアはぽんぽんと叩く。
「ほんとにヒルダちゃんは仕方ない子なんだから」
同じようにバスケットにたくさんのミモザの花と手作りのチョコチップクッキーを詰め込んで配り歩くのはアリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)だ。
自由騎士団に所属するその前から所属していた国防騎士団の関係者たちに毎年配っているのだ。円滑な人間関係は戦場を共にする味方には必要なことだ。
女性騎士にはブーケ、男性騎士にはクッキー。逆を所望されればそのように。女性騎士からはやたらクッキーをせがまれるので今年は多めに焼いた。美味しく安全な菓子だ。どこかのお嬢さんとは違う。
大の男が花と菓子の詰まったバスケットを抱えてあるき回るのは格好がつかない、とおもっているのはアリスタルフ本人のみ。
何故か配るたびに男性騎士から紙幣を腰のベルトに挟まれる。最初は断って突き返していたのだがいつの間にか挟まれているのだ。解せぬ。
「ミハイロフ団長、お菓子をどうぞ」
見かけたフレデリックにアリスタルフは声をかける。
「おお、今年も君の手作りか。毎年腕をあげていくなあ」
「お嬢様とご一緒にどうぞ」
「ああ、娘も喜ぶはずだ。……ところで、今年もずいぶん突っ込まれたものだな」
フレデリックに腰元を指さされる。
「いつのまに!?」
多分アリスタルフの思惑とは別にそういうサービスだと思われたのかもしれない。
ローラがお花をあげるっていうと変な意味に聞こえるってよく言われるんだよね。まあスラムでお花売りをしていたこともあるけれど。
今日いつもどおりのどんちゃん騒ぎ。潮騒亭の名前の面目躍如の騒がしさだ。
「お菓子もお花も女の子もつまみ放題ってね~」
店長であるローラが声をかければ、男が従業員のケモノビトの少女の腰を掴んで、誘いをかける。少女は艶っぽく微笑むとミモザの花を男の胸に飾る。それは『OK』という合図。
ローラの薄い胸元に男からのミモザがいくつも飾られていく。これは客が女の子をキープしたという合図。
「店長もうお花いっぱいネ、すごい」
ミズヒトの少女が簡単の声をあげた。
「こういうのはサービス力がものをいうからねー、んもー、ローラひとりだけなんだから順番にね★」
「チョコ頂戴」
ニコラス・モラル(CL3000453)がアデレードを歩くミズーリ・メイヴェンに声をかけた。
「もう少し情緒ってものがほしいわ」
「チョコをーよこせー。じゃないと貰えそうな知り合いを見つける為だけに昼間っからプラプラしてた意味がねぇ」
「男性のプライドっていうのはないのかしら」
「プライドなんてそんなのない! さっき溝に捨てました! いまごろ流れ流れて海を大航海中です!」
「大後悔にならないといいのだけど」
「というわけでチョコちょうだい」
頑としてチョコをもらうことを諦めないニコラスに根負けしてミズーリは包みを手渡す。
「やったーーーーー!! チョコだーーーー!! ありがとうお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃんじゃないっていってるでしょう? どうしてそんなに欲しがるのよ」
「秘密」
「おじさんが可愛子ぶってもかわいくありません」
ぷいとそっぽをむいたミズーリにニコラスは近づいて髪にミモザの花を挿す。
「えっ?」
「ミズーリみたいな女が嫌いじゃないからだよ」
全力の低いセクシーボイスでひとこと耳元でニコラスは囁いた。さすがのミズーリもそれには頬を染めてしまう。
「んもう! からかわないで!」
「じゃあな! チョコありがと!」
そんなこんなで春待ちのお祭りは続く。
まだ風は冷たい。
それでも――春はもう、直ぐ側に。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
特殊成果
『ミモザの花冠』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)
『ミモザとナッツチョコ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:グローリア・アンヘル(CL3000214)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エル・エル(CL3000370)
『アカシアの雫』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『不器用なショコラ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ザルク・ミステル(CL3000067)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『ご褒美ショコラ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
『アカシアのリング』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:シア・ウィルナーグ(CL3000028)
『ミモザとチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:非時香・ツボミ(CL3000086)
『アリアのチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ヒルダ・アークライト(CL3000279)
『おさつ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『ヒルダのチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)
『ミズーリのチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ニコラス・モラル(CL3000453)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:リムリィ・アルカナム(CL3000500)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ルーク・H・アルカナム(CL3000490)
『請求書』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:レネット・フィオーレ(CL3000335)
『アーウィンからのチョコ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:篁・三十三(CL3000014)
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エルシー・スカーレット(CL3000368)
『ミモザとナッツチョコ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:グローリア・アンヘル(CL3000214)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:エル・エル(CL3000370)
『アカシアの雫』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)
『不器用なショコラ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ザルク・ミステル(CL3000067)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:フーリィン・アルカナム(CL3000403)
『ご褒美ショコラ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)
『アカシアのリング』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:シア・ウィルナーグ(CL3000028)
『ミモザとチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:非時香・ツボミ(CL3000086)
『アリアのチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ヒルダ・アークライト(CL3000279)
『おさつ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリスタルフ・ヴィノクロフ(CL3000392)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)
『ヒルダのチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:アリア・セレスティ(CL3000222)
『ミズーリのチョコレート』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ニコラス・モラル(CL3000453)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:リムリィ・アルカナム(CL3000500)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:ルーク・H・アルカナム(CL3000490)
『請求書』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『ミモザ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:レネット・フィオーレ(CL3000335)
『アーウィンからのチョコ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:篁・三十三(CL3000014)
†あとがき†
春待ちのお祭り楽しんでいただけましたでしょうか?
素敵な春待ちができていれば幸いです。
素敵な春待ちができていれば幸いです。
FL送付済