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Xya japonica!? 蝗害!蝗害!大蝗害!

●1818年秋、イ・ラプセルに蝗害発生――
金色の穂が黒の虫に食いつくされる。
虫は一匹だけではない。十匹どころではない。百匹なんてものじゃない。千匹単位の群れが空を埋め尽くす。
細かな虫は剣で捕えることが出来ず、銃で撃ち落とすこともかなわない。魔術の炎で焼くことはできても、焼き尽くすにはとても足りない。
黒の嵐。そう表現してもいい災害は収穫前の麦を喰らう。春からの努力の成果を、祭の主役を、来年の種を。
コオロギにも似た小さな虫。本来ならここまでの凶暴性と飛行能力を持つことのない虫。
しかしそのような虫であっても、イブリース化は避けられない。変異種となった虫はその能力を最大限生かし、種の保存のために新たなえさ場を求める。人間の都合など知ったことはない。
それが水鏡階差運命演算装置が導き出した未来――
●階差演算室
「このままだと麦がバッタに食いつくされちゃうよ!」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は集まった自由騎士達を前にそう叫んだ。
「ノミバッタって知ってる? それがイブリース化したんだ。そして飛蝗になってイ・ラプセルに迫ってるの!」
一つずつ説明していこう。
ノビバッタ。体長五ミリ程度の黒いバッタである。金属のような光沢をもち、かなりの跳躍力を持つというが、羽根を使って飛行することはない。本来は土でドームを作り草を食べる大人しくしている害のない虫だ。
そして飛蝗。変異種となって飛行能力を得たバッタが大量発生し、餌を求めて穀物などに襲い掛かる災害である。たかが虫と侮る事なかれ。一たび飛蝗の群れが発生すれば、穀物には水害以上のダメージが発生するのだ。万単位の小さな虫相手に、対抗する術は何もない。
封じる術はただ一つ。バッタが飛ぶ前に叩くのみ。
「飛蝗が飛び立つ場所は解ってるんでそこに向かって浄化してほしいんだ。イブリース化したバッタにつられるように、周りのノビバッタもイブリース化していくから」
まるで風邪か何かのようにイブリース化が伝染していく。奇妙だが、そんな能力なのだろう。
「そいつらを倒してしまえば、麦は守られるから。頼んだよっ!」
クラウディアの声に送り出され、自由騎士達は演算室を出た。
金色の穂が黒の虫に食いつくされる。
虫は一匹だけではない。十匹どころではない。百匹なんてものじゃない。千匹単位の群れが空を埋め尽くす。
細かな虫は剣で捕えることが出来ず、銃で撃ち落とすこともかなわない。魔術の炎で焼くことはできても、焼き尽くすにはとても足りない。
黒の嵐。そう表現してもいい災害は収穫前の麦を喰らう。春からの努力の成果を、祭の主役を、来年の種を。
コオロギにも似た小さな虫。本来ならここまでの凶暴性と飛行能力を持つことのない虫。
しかしそのような虫であっても、イブリース化は避けられない。変異種となった虫はその能力を最大限生かし、種の保存のために新たなえさ場を求める。人間の都合など知ったことはない。
それが水鏡階差運命演算装置が導き出した未来――
●階差演算室
「このままだと麦がバッタに食いつくされちゃうよ!」
『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は集まった自由騎士達を前にそう叫んだ。
「ノミバッタって知ってる? それがイブリース化したんだ。そして飛蝗になってイ・ラプセルに迫ってるの!」
一つずつ説明していこう。
ノビバッタ。体長五ミリ程度の黒いバッタである。金属のような光沢をもち、かなりの跳躍力を持つというが、羽根を使って飛行することはない。本来は土でドームを作り草を食べる大人しくしている害のない虫だ。
そして飛蝗。変異種となって飛行能力を得たバッタが大量発生し、餌を求めて穀物などに襲い掛かる災害である。たかが虫と侮る事なかれ。一たび飛蝗の群れが発生すれば、穀物には水害以上のダメージが発生するのだ。万単位の小さな虫相手に、対抗する術は何もない。
封じる術はただ一つ。バッタが飛ぶ前に叩くのみ。
「飛蝗が飛び立つ場所は解ってるんでそこに向かって浄化してほしいんだ。イブリース化したバッタにつられるように、周りのノビバッタもイブリース化していくから」
まるで風邪か何かのようにイブリース化が伝染していく。奇妙だが、そんな能力なのだろう。
「そいつらを倒してしまえば、麦は守られるから。頼んだよっ!」
クラウディアの声に送り出され、自由騎士達は演算室を出た。
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.23ターン終了までにイブリースを全滅させる
どくどくです。
読み方は『シャ ジャポニカ』……のはず(目逸らした)
●敵情報
・ノビバッタ(×6)
イブリース化したバッタです。学名『Xya Japonica』。大きさ1センチほどの黒いバッタ。やや流線形。
18ターン開始時に羽が生え、24ターン開始時に飛行能力を得て飛び立っていきます。そうなれば追うことはできず、依頼失敗です。
ターンを得ることにパワーアップしていくので、早期打倒が望まれます。
攻撃方法
体当たり 攻近単 跳躍し、ぶつかってきます。弾丸並みの速度と硬さです。
グラスホッパー 攻近範 縦横無尽に跳躍し、広範囲に傷を負わせます。6ターン目開始時から使用可能。
ソニックブーム 魔遠範 音速を超えた跳躍が生む衝撃波。12ターン目開始時から使用可能。
黒の羽根 P 羽が生え、変異種として覚醒します。物攻、反応速度、回避上昇。18ターン目開始時から使用可能。
黒き飛蝗 P 完全に飛行能力を得て、エネルギーを求める為に飛び立ちます。また、自身を中心とする半径100m圏内にいるノビバッタをイブリース化します。24ターン目開始時から使用可能。
●場所情報
イ・ラプセル南方の田舎。山のふもとにあるノミバッタの巣。
時刻は昼。広さや足場は戦いに影響しません。人が通りかかる可能性は皆無です。
戦闘開始時、敵前衛に『ノビバッタ(×6)』がいます。
時間が押しているため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
読み方は『シャ ジャポニカ』……のはず(目逸らした)
●敵情報
・ノビバッタ(×6)
イブリース化したバッタです。学名『Xya Japonica』。大きさ1センチほどの黒いバッタ。やや流線形。
18ターン開始時に羽が生え、24ターン開始時に飛行能力を得て飛び立っていきます。そうなれば追うことはできず、依頼失敗です。
ターンを得ることにパワーアップしていくので、早期打倒が望まれます。
攻撃方法
体当たり 攻近単 跳躍し、ぶつかってきます。弾丸並みの速度と硬さです。
グラスホッパー 攻近範 縦横無尽に跳躍し、広範囲に傷を負わせます。6ターン目開始時から使用可能。
ソニックブーム 魔遠範 音速を超えた跳躍が生む衝撃波。12ターン目開始時から使用可能。
黒の羽根 P 羽が生え、変異種として覚醒します。物攻、反応速度、回避上昇。18ターン目開始時から使用可能。
黒き飛蝗 P 完全に飛行能力を得て、エネルギーを求める為に飛び立ちます。また、自身を中心とする半径100m圏内にいるノビバッタをイブリース化します。24ターン目開始時から使用可能。
●場所情報
イ・ラプセル南方の田舎。山のふもとにあるノミバッタの巣。
時刻は昼。広さや足場は戦いに影響しません。人が通りかかる可能性は皆無です。
戦闘開始時、敵前衛に『ノビバッタ(×6)』がいます。
時間が押しているため、事前付与は不可とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
6個
2個
2個
2個




参加費
100LP [予約時+50LP]
100LP [予約時+50LP]
相談日数
6日
6日
参加人数
8/8
8/8
公開日
2018年11月04日
2018年11月04日
†メイン参加者 8人†
●
「こんな所でしょうか」
ククリ刀で周囲の草を切り取り、視界を確保するサポートのおかげで黒いバッタが良く見えるようになる。そんなイブリースを見ながら自由騎士は呼吸を整える。
「昔、飛蝗を研究して他国に放逐したら相当生産力に打撃を与えられそう……と考えた貴族がいたらしい。研究途中で自滅したようだが」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は通商連時代に聞いた話を思い出す。曰く、『自然を扱おうとした者の末路』ネタだ。総じてこの手のオチは悲惨な末路が待っている。
「蝗害って央華大陸で多く記録されてる災害みたいね」
『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は腕を組んでそんなことを言う。かの国では天災は君主の不徳から来るものと言われ、災害の記録は多いという。イ・ラプセルでも調べればいくつかの礼は見られる。
「穀倉地帯に打撃を受けるのは何としても避けなければいけない事態ね……」
ため息をつき、指を開いて閉じる『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。ウィート・バーリィ・ライ間近に穀物が食い荒らされれば、祭どころではない。規模によっては飢餓者が出るかもしれないのだ。
「ノビバッタ……図鑑で見た事はありましたが、イブリース化すると凶悪ですね……」
細長く流線形に変化したノビバッタを見ながら『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は震えだす。普通のノビバッタは巣穴で生活する小さなバッタだ。麦に興味のない無害な草食昆虫なのに。
「イナゴだったら佃煮に出来たのにねぇ。 バッタは苦味が強くてね」
などとイブリースを前にしても臆することのないトミコ・マール(CL3000192)。その肝っ玉たるやまさに貫禄ものだ。だが内心ではここで止めなくてはと決意に満ちていた。おいしい食事を作って食べてもらう事。その為にも倒さなくては。
「チンケな虫も大群になればヤバイことになっちまうってな」
レイピアを手に『闇の森の観察者』柊・オルステッド(CL3000152)が息を吐く。個としての力が弱くとも、群れを成せば災害となる。そんなことは裏社会では常識だ。相手を侮ることなく、宰相被害で食い止める。
「皆の麦を守るために、虫退治頑張るよ……!」
ウサギの耳を左右に揺らし『所信表明』トット・ワーフ(CL3000396)は決意を示す。ノビバッタが麦を襲うのは、生きる為なのかもしれない。だからと言ってイブリースは放置できないし、麦を食われるわけにもいかないのだ。
「私の可愛い弟妹達の為にも――蝗害なんて絶対に発生させません」
スラム街にある孤児院の子供達を思いながら『マシマシの誘惑』フーリィン・アルカナム(CL3000403)はイブリースを見る。飢えて苦しむ辛さを、あの子達に味あわせるわけにはいかない。おいしいパンと明るい笑顔。その為にフーリィンは歩を進める。
ジジ……ジジジ……!
威嚇する様な音がノビバッタから聞こえてくる。それが羽根をこすり合わせた音だと気付いた者はいただろうか。だが敵意は確実に伝わった。イブリース達は自由騎士達を複眼で捕え、力を籠めるように身をかがめる。
進化しきるまでに叩き潰し、麦を守る。蝗害を防ぐために、自由騎士達は戦いに挑んだ。
●
「んじゃまあ、行くぜ!」
一番最初に動いたのはオルステッドだ。レイピアとスティレットを手に一気に迫る。素早く動くバッタを目で追いながら、足を止めることなく一気に戦場を駆け抜けた。ここで倒さなければ取り返しがつかなくなる。
呼吸を整え、意識をクリアにする。大事なのは余分な思考を排除すること。無駄を省き、一つ一つの挙動を最速化するオルステッ。コンマ一秒の最速化に三〇の無駄を省く。早く、鋭く。単純にして軽戦士の極地。
「連携とっていこうぜ!」
「うん。素早く撃破をしよう」
頷いてククリを構えるトット。自信なさげな雰囲気を醸し出しているが、その目は真っ直ぐにイブリースを見ていた。田舎育ちで自由騎士に入って間もないが、それでもウィートバーリィライを守ろうという気概はそこにあった。
重心を下し、足に力を籠めるトット。。ウサギが跳躍の時に身をわずかにかがめるように、短い動作で全身の筋肉に力を籠める。弓が矢を放つように、限界まで力を込めて一気に解放した。跳躍と同時に繰り出される一閃がイブリースを打つ。
「ノビバッタには悪いけど、僕たちにも麦を守る理由があるからね……!」
「イブリース化してもバッタらしく『プチッ』と潰せるなら良かったんだけどなぁ……」
動き回るバッタを見ながらウェルスはため息を吐く。ここまで速いバッタを掴むのは難しいだろうし、金属を思わせる黒い光沢は相応の硬さを持っている。掴めたとしても潰すのは難しいだろう。諦めて銃を構える。
二丁の拳銃を構え、やたら弾丸を打ち放つウェルス。その多くはイブリースに回避されるが、跳躍の選択肢を大きく削る。逃げ道を狭め、動きを読みやすくする。そこに迫る本命の弾丸。入念に計画された一発がイブリースの体を穿つ。
「バッタか……せめて手軽に食えるなら売れるんだけど……」
「止めときな。バッタは苦みが強いからね!」
笑いながらトミコが答える。油で揚げれば食うことが出来るが、独特の苦みが抜けるわけではない。と言うか、そこまでするならイナゴの方がいいだろう。どちらにせよ、今やるべきは料理の準備ではない。イブリース退治だ。
特大フライパンを構え、ゆっくりとバッタに近づくトミコ。反応速度でバッタにはかなわない。だがイブリースに臆することない心と祭りを守ろつとする気概がそのハンデを埋める。振り下ろされたフライパンの一撃が地面に当たり、衝撃波を生む。
「さあ! アンタの敵はアタシだよ! かかってきな、バッタ共!」
「虫はちょっと苦手ですが……ボクも攻撃します!」
イブリース化して凶悪になったノビバッタを見てサブロウタが震えあがる。しかしここで引いてはいけないと勇気を出して武器を構えた。演算装置が導き出した未来を無くし、楽しい祭りを催すのだ。
サブロウタは肩に担いだアコーディオンのふいごを引き、鍵盤に手をかける。心をリラックスさせて魔力を込め、メロディを奏でた。魔力は音ととなり、音が複数重なりリズムを生んで曲となる。歌に込められた魔力がノビバッタを包み、その感覚を狂わせた。
「六十秒経過しました! 強化されますっ!」
「何処まで跳ね飛ぼうが、あたしの銃からは逃れられないわ!」
ラッパ銃を両手に構え、ヒルダがイブリースを見る。瞳に込められた魔力は決して敵を見逃すことはない。縦横無尽に飛び跳ねるバッタの軌跡を頭に浮かべながら、銃を一回転させた。
速くて小さな標的。ヒルダは唇を舌で濡らし、ブランダーパスの引き金を引いた。見もせずにはなった弾丸はノビバッタに命中し、地に落とす。それを確認する前にさらに一発。思考と技術、何よりも直感。銃に慣れ親しんだからこそできる思うがままの動き。
「羽根が生える前に終わらせるわよ!」
「ええ。防御よりも攻撃寄りでいきます」
呼気を吐いてミルトスが重心を下す。黒く小さなノビバッタ。その小ささ故に拳で捕えるのは難しいが、虫ゆえに無意識のリミッターが外れるという利点もあった。今は時間との勝負。不安要素は可能な限り排除できるに越したことはない。
ノビバッタの動きを見ながら、肩からぶつかるように踏み込むミルトス。インパクトの瞬間に背を向け、背中全体で叩くようにイブリースを打つ。拳による点ではなく、体全体による面での一打。広い打撃がノビバッタを捕らえる。
「例え無辜の命であろうと災害と化すイブリース。ここで止めないわけにはいきません」
「皆――お姉ちゃんは頑張ります」
孤児院の子供達を思いながらフーリィンはシルバーブレスレットに指を触れた。派手な装飾もないただの腕輪だが、孤児院の弟妹達から送られたそれは彼女の宝物。あの子達のために戦う。それが彼女の原点。
魔力で自分を癒して健康を保っていたフーリィン。今はその魔力を鋭角にして敵に飛ばそうとする。当然自分への治癒力は損なわれて呼吸が乱れるが、それを押さえ込んで魔力を放った。矢となった魔力がノビバッタを捕らえ、弾き飛ばす。
「まだまだ時間はあります。焦らずに行きましょう」
フーリィンの言葉に頷く自由騎士達。イブリースが飛び立つまでにはまだ時間がある。
だが時間経過ごとに進化していくノビバッタ。その脅威は少しずつ増していく。
●
戦闘開始より二分経過、自由騎士達は三体のイブリースを倒していた。ペースとしても折り返し。
だがここからイブリースの攻撃が苛烈になってくる。音速を超える動きで飛び交い、発生する衝撃波が自由騎士達に襲い掛かる。
「あいたたた……後はまかせたよっ!」
「ごめんなさい、ボクがもう少し強ければ……」
衝撃波に撃たれ、トミコとサブロウタが意識を失い倒れ伏す。
「皆さんの傷は私が癒します。攻撃に専念してください!」
フーリィンはそういって、今まで攻撃に使用していた魔力を回復のために使用する。攻撃の手を止めるわけにはいかないが、これ以上誰かが倒れれば勝利は危うくなる。自分の傷を押さえながら、癒しの魔力を解き放った。
「どんな事をしても飛び立たせはしないぜ!」
なりふり構ってられないとばかりにノビバッタに近づき刃を振るうオルステッド。蝗害も虫が生きる為にやる行為だ。無法地帯で生きたオルステッドも飢えの苦しさは理解できる。だからと言って麦を譲る気はない。
「流石に、落ちた麦には反応はしないか……」
戦闘開始時にばらまいた穀物を見ながらトットは小さく笑う。相手を誘導できればと思っての行動だが、イブリースはこちらの殺気に反応して防衛行動に移ってしまった。上手くいけば程度の作戦だったので大きな支障はないが、少しもったいないかなと思う。
「変異が完全に終了するまでは、麦に手を出さないんじゃない?」
どこかでそんな本を読んだ気がする、とヒルダは思い返す。貴族の嗜みとして多少の座学は身に着けている。バッタは基本雑草などを食べるが、蝗害を起こすバッタはそう言った草を食べずに穀物を食べるとか。
「狙う時間も惜しくなりましたね。もしかしたら覚悟を決めなくてはいけないかも……!」
残り時間を確認しながらミルトスは焦りを感じていた。バッタの軌跡を計算し、入念に狙えば命中率は高まる。だがその間はイブリースを攻めることはできない。時間経過で不利になるのはこちらなのだ。悩ましく思いながら体を動かす。
「俺も回復に回るか……いや、まだ早い!」
傷つく仲間を見ながら冷静に戦局を見るウェルス。目的遂行を最優先に置き、そこにたどり着くように思考を展開する。優先度が低い事項は後回し。商売も戦闘も戦略面から見れば同じこと。動かすのが金か体かの違いだ。
「ちっ、羽が生えやがったか……!」
「だけど残りは二体よ! 広範囲攻撃でダメージも蓄積しているからあとひと息!」
イブリースの変化にオルステッドが舌打ちし、ヒルダが荒く息を吐きながら活を入れる。ああ、とオルステッドは頷き、地を蹴った。
「流石に精神力が枯渇してきたよ」
「精神も癒すことが出来ればいいのですが……」
序盤から全力で刃を振るってきたトットが、ここにきて息切れをする。ヒーラーの魔術は身体を癒す術であって魔力の補充が出来ない。フーリィンは臍を噛むが、ないものは仕方ないと思考を切り替える。
「まだ終わってないわ。やれることはまだある!」
「ああ、コイツを倒したあとでウィートバーリィライを楽しませてもらうぜ」
持ち前の負けん気を振り絞り、傷の痛みに耐えるミルトス。ウェルスはアレイスターから教えてもらった魔術を使い、傷の痛みを消していた。
羽が生えたことで空中を叩くようにして加速するノビバッタ。しかし自由騎士達が与え続けたダメージがなくなったというわけではない。直撃する率こそ減ったが、自由騎士の攻撃を完全に避けれるほどでもなかった。
「大丈夫。これでお終いです」
フーリィンが英雄の欠片を削られるほどのダメージを受けて倒れそうになったが、もはや趨勢は決していた。残り一匹となったノビバッタにオルステッドが迫る。
「こいつで決めるぜ……! ヘルタースケルター!」
二本の剣を手にしてイブリースに迫り、回転するように刃を振るうオルステッド。刃の軌跡に巻き込まれたイブリースは斬られると同時に巻きあげられ、平衡感覚を乱される。
「悪ぃな。冥福は祈らせてもらうぜ」
さながら螺旋の滑り台を滑り落ちるかのごとく、イブリースは回転しながら地面にたたきつけられ、動かなくなった。
●
戦いが終わって一息つく自由騎士達。数十秒の若干の余裕を持たせて最終進化を止めることが出来、一安心だ。
「お行きなさい。ここに貴方のご飯はないわ」
浄化されたノビバッタを見ながらミルトスが口を開く。イブリースでないのなら麦を襲うことはない。アクアディーネの慈悲の権能は無辜の命を奪うことはない。短く祈りを捧げ、災害の悪夢が消え去ったことに感謝した。
「効くと言えば効くな。傷がなくなるわけじゃないから過信は禁物だが」
ウェルスは戦闘中に行使した痛み止めの魔術について考えていた。感覚異常などの戦闘に支障が出るわけではないが、過剰の信頼は思わぬ落とし穴を産みかねない。災害時のパニックを押さえるとかには使えそうだ。
「ふむふむ。こういう形なんですね……」
浄化されて元に戻ったノビバッタをスケッチするサブロウタ。書物では見たことはあるが、実物を見る機会は少ない。細長い緑のバッタとは違い、弾丸のような形状の黒いバッタ。イブリース化せずともいえの屋根まで飛び跳ねかねない跳躍力。どれも新鮮だった。
「バッタが何世代にわたって大量発生するようになると、蝗害を起こすバッタが出るのよ」
ヒルダはどこかの書物で得た知識を披露する。今回はイブリースによる変異だが、蝗害を起こすバッタは過密状態の環境下で生まれてくるとか。何故疑問経過と言うとこの時代だとまだ検証段階のはずで、相変異と言う言葉が使われ始めるのはあと百五十年ほど後の話である。遺伝子の概念すらない時代ですおし。
「まあ、博識なんですね」
その言葉に手を叩いて笑みを浮かべるフーリィン。孤児院育ちの彼女はそう言った本に触れる機会が少ない。自由騎士になっていろいろな立場の人と触れ合い、多くの知識と価値観に触れる機会が増えた。孤児院の弟妹達にもこの喜びを伝えなくては。
「これで麦は大丈夫……おいしいパンが食べれるよ。……想像すると、お腹すいてきたなぁ」
座り込んで大きく息を吐くトット。残存イブリースはなく、蝗害が発生する未来はない。これで無事に豊穣祭が行われる。麦で作られた飲み物やパンを想像し、疲れもたまっていたのかお腹がすいてきた。
「あっはっは。だったらこれをお食べ! 焼き立てってほどじゃないけどおいしいよ!」
そんなトットにカバンを開けてパンを差し出すトミコ。丁寧にこねて作られたパン生地と素朴な味付け。しかし経験豊富なトミコが作ればパンはここまでうまくなる、と言ういい実例だ。満面の笑顔で差し出されるパンは、心とお腹を満たすだろう。
「いいねぇ。オレも頂くぜ」
言いながらオルステッドがパンに手を伸ばす。四分近く全力で動き回っていたため、体はかなり疲労していた。酒でも一杯あおろうかと思ったが、おいしい食べ物があるならその方がいい。食べれる時に食べるのは、裏路地生活では常識だ。
パンの匂いに釣られるように、自由騎士達の空気は弛緩していく。戦いの空気は消えてなくなり、どこか春の陽気を感じさせる和やかさが場を支配していた。
それは彼らが守った平和そのもの。災害を未然に止めた自由騎士達に休息を。
そして1818年の≪豊穣祭ウィート・バーリィ・ライ≫は、何事もなかったかのように開催されるのであった。
「こんな所でしょうか」
ククリ刀で周囲の草を切り取り、視界を確保するサポートのおかげで黒いバッタが良く見えるようになる。そんなイブリースを見ながら自由騎士は呼吸を整える。
「昔、飛蝗を研究して他国に放逐したら相当生産力に打撃を与えられそう……と考えた貴族がいたらしい。研究途中で自滅したようだが」
『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)は通商連時代に聞いた話を思い出す。曰く、『自然を扱おうとした者の末路』ネタだ。総じてこの手のオチは悲惨な末路が待っている。
「蝗害って央華大陸で多く記録されてる災害みたいね」
『ヘヴィガンナー』ヒルダ・アークライト(CL3000279)は腕を組んでそんなことを言う。かの国では天災は君主の不徳から来るものと言われ、災害の記録は多いという。イ・ラプセルでも調べればいくつかの礼は見られる。
「穀倉地帯に打撃を受けるのは何としても避けなければいけない事態ね……」
ため息をつき、指を開いて閉じる『RE:LIGARE』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)。ウィート・バーリィ・ライ間近に穀物が食い荒らされれば、祭どころではない。規模によっては飢餓者が出るかもしれないのだ。
「ノビバッタ……図鑑で見た事はありましたが、イブリース化すると凶悪ですね……」
細長く流線形に変化したノビバッタを見ながら『書架のウテナ』サブロウタ リキュウイン(CL3000312)は震えだす。普通のノビバッタは巣穴で生活する小さなバッタだ。麦に興味のない無害な草食昆虫なのに。
「イナゴだったら佃煮に出来たのにねぇ。 バッタは苦味が強くてね」
などとイブリースを前にしても臆することのないトミコ・マール(CL3000192)。その肝っ玉たるやまさに貫禄ものだ。だが内心ではここで止めなくてはと決意に満ちていた。おいしい食事を作って食べてもらう事。その為にも倒さなくては。
「チンケな虫も大群になればヤバイことになっちまうってな」
レイピアを手に『闇の森の観察者』柊・オルステッド(CL3000152)が息を吐く。個としての力が弱くとも、群れを成せば災害となる。そんなことは裏社会では常識だ。相手を侮ることなく、宰相被害で食い止める。
「皆の麦を守るために、虫退治頑張るよ……!」
ウサギの耳を左右に揺らし『所信表明』トット・ワーフ(CL3000396)は決意を示す。ノビバッタが麦を襲うのは、生きる為なのかもしれない。だからと言ってイブリースは放置できないし、麦を食われるわけにもいかないのだ。
「私の可愛い弟妹達の為にも――蝗害なんて絶対に発生させません」
スラム街にある孤児院の子供達を思いながら『マシマシの誘惑』フーリィン・アルカナム(CL3000403)はイブリースを見る。飢えて苦しむ辛さを、あの子達に味あわせるわけにはいかない。おいしいパンと明るい笑顔。その為にフーリィンは歩を進める。
ジジ……ジジジ……!
威嚇する様な音がノビバッタから聞こえてくる。それが羽根をこすり合わせた音だと気付いた者はいただろうか。だが敵意は確実に伝わった。イブリース達は自由騎士達を複眼で捕え、力を籠めるように身をかがめる。
進化しきるまでに叩き潰し、麦を守る。蝗害を防ぐために、自由騎士達は戦いに挑んだ。
●
「んじゃまあ、行くぜ!」
一番最初に動いたのはオルステッドだ。レイピアとスティレットを手に一気に迫る。素早く動くバッタを目で追いながら、足を止めることなく一気に戦場を駆け抜けた。ここで倒さなければ取り返しがつかなくなる。
呼吸を整え、意識をクリアにする。大事なのは余分な思考を排除すること。無駄を省き、一つ一つの挙動を最速化するオルステッ。コンマ一秒の最速化に三〇の無駄を省く。早く、鋭く。単純にして軽戦士の極地。
「連携とっていこうぜ!」
「うん。素早く撃破をしよう」
頷いてククリを構えるトット。自信なさげな雰囲気を醸し出しているが、その目は真っ直ぐにイブリースを見ていた。田舎育ちで自由騎士に入って間もないが、それでもウィートバーリィライを守ろうという気概はそこにあった。
重心を下し、足に力を籠めるトット。。ウサギが跳躍の時に身をわずかにかがめるように、短い動作で全身の筋肉に力を籠める。弓が矢を放つように、限界まで力を込めて一気に解放した。跳躍と同時に繰り出される一閃がイブリースを打つ。
「ノビバッタには悪いけど、僕たちにも麦を守る理由があるからね……!」
「イブリース化してもバッタらしく『プチッ』と潰せるなら良かったんだけどなぁ……」
動き回るバッタを見ながらウェルスはため息を吐く。ここまで速いバッタを掴むのは難しいだろうし、金属を思わせる黒い光沢は相応の硬さを持っている。掴めたとしても潰すのは難しいだろう。諦めて銃を構える。
二丁の拳銃を構え、やたら弾丸を打ち放つウェルス。その多くはイブリースに回避されるが、跳躍の選択肢を大きく削る。逃げ道を狭め、動きを読みやすくする。そこに迫る本命の弾丸。入念に計画された一発がイブリースの体を穿つ。
「バッタか……せめて手軽に食えるなら売れるんだけど……」
「止めときな。バッタは苦みが強いからね!」
笑いながらトミコが答える。油で揚げれば食うことが出来るが、独特の苦みが抜けるわけではない。と言うか、そこまでするならイナゴの方がいいだろう。どちらにせよ、今やるべきは料理の準備ではない。イブリース退治だ。
特大フライパンを構え、ゆっくりとバッタに近づくトミコ。反応速度でバッタにはかなわない。だがイブリースに臆することない心と祭りを守ろつとする気概がそのハンデを埋める。振り下ろされたフライパンの一撃が地面に当たり、衝撃波を生む。
「さあ! アンタの敵はアタシだよ! かかってきな、バッタ共!」
「虫はちょっと苦手ですが……ボクも攻撃します!」
イブリース化して凶悪になったノビバッタを見てサブロウタが震えあがる。しかしここで引いてはいけないと勇気を出して武器を構えた。演算装置が導き出した未来を無くし、楽しい祭りを催すのだ。
サブロウタは肩に担いだアコーディオンのふいごを引き、鍵盤に手をかける。心をリラックスさせて魔力を込め、メロディを奏でた。魔力は音ととなり、音が複数重なりリズムを生んで曲となる。歌に込められた魔力がノビバッタを包み、その感覚を狂わせた。
「六十秒経過しました! 強化されますっ!」
「何処まで跳ね飛ぼうが、あたしの銃からは逃れられないわ!」
ラッパ銃を両手に構え、ヒルダがイブリースを見る。瞳に込められた魔力は決して敵を見逃すことはない。縦横無尽に飛び跳ねるバッタの軌跡を頭に浮かべながら、銃を一回転させた。
速くて小さな標的。ヒルダは唇を舌で濡らし、ブランダーパスの引き金を引いた。見もせずにはなった弾丸はノビバッタに命中し、地に落とす。それを確認する前にさらに一発。思考と技術、何よりも直感。銃に慣れ親しんだからこそできる思うがままの動き。
「羽根が生える前に終わらせるわよ!」
「ええ。防御よりも攻撃寄りでいきます」
呼気を吐いてミルトスが重心を下す。黒く小さなノビバッタ。その小ささ故に拳で捕えるのは難しいが、虫ゆえに無意識のリミッターが外れるという利点もあった。今は時間との勝負。不安要素は可能な限り排除できるに越したことはない。
ノビバッタの動きを見ながら、肩からぶつかるように踏み込むミルトス。インパクトの瞬間に背を向け、背中全体で叩くようにイブリースを打つ。拳による点ではなく、体全体による面での一打。広い打撃がノビバッタを捕らえる。
「例え無辜の命であろうと災害と化すイブリース。ここで止めないわけにはいきません」
「皆――お姉ちゃんは頑張ります」
孤児院の子供達を思いながらフーリィンはシルバーブレスレットに指を触れた。派手な装飾もないただの腕輪だが、孤児院の弟妹達から送られたそれは彼女の宝物。あの子達のために戦う。それが彼女の原点。
魔力で自分を癒して健康を保っていたフーリィン。今はその魔力を鋭角にして敵に飛ばそうとする。当然自分への治癒力は損なわれて呼吸が乱れるが、それを押さえ込んで魔力を放った。矢となった魔力がノビバッタを捕らえ、弾き飛ばす。
「まだまだ時間はあります。焦らずに行きましょう」
フーリィンの言葉に頷く自由騎士達。イブリースが飛び立つまでにはまだ時間がある。
だが時間経過ごとに進化していくノビバッタ。その脅威は少しずつ増していく。
●
戦闘開始より二分経過、自由騎士達は三体のイブリースを倒していた。ペースとしても折り返し。
だがここからイブリースの攻撃が苛烈になってくる。音速を超える動きで飛び交い、発生する衝撃波が自由騎士達に襲い掛かる。
「あいたたた……後はまかせたよっ!」
「ごめんなさい、ボクがもう少し強ければ……」
衝撃波に撃たれ、トミコとサブロウタが意識を失い倒れ伏す。
「皆さんの傷は私が癒します。攻撃に専念してください!」
フーリィンはそういって、今まで攻撃に使用していた魔力を回復のために使用する。攻撃の手を止めるわけにはいかないが、これ以上誰かが倒れれば勝利は危うくなる。自分の傷を押さえながら、癒しの魔力を解き放った。
「どんな事をしても飛び立たせはしないぜ!」
なりふり構ってられないとばかりにノビバッタに近づき刃を振るうオルステッド。蝗害も虫が生きる為にやる行為だ。無法地帯で生きたオルステッドも飢えの苦しさは理解できる。だからと言って麦を譲る気はない。
「流石に、落ちた麦には反応はしないか……」
戦闘開始時にばらまいた穀物を見ながらトットは小さく笑う。相手を誘導できればと思っての行動だが、イブリースはこちらの殺気に反応して防衛行動に移ってしまった。上手くいけば程度の作戦だったので大きな支障はないが、少しもったいないかなと思う。
「変異が完全に終了するまでは、麦に手を出さないんじゃない?」
どこかでそんな本を読んだ気がする、とヒルダは思い返す。貴族の嗜みとして多少の座学は身に着けている。バッタは基本雑草などを食べるが、蝗害を起こすバッタはそう言った草を食べずに穀物を食べるとか。
「狙う時間も惜しくなりましたね。もしかしたら覚悟を決めなくてはいけないかも……!」
残り時間を確認しながらミルトスは焦りを感じていた。バッタの軌跡を計算し、入念に狙えば命中率は高まる。だがその間はイブリースを攻めることはできない。時間経過で不利になるのはこちらなのだ。悩ましく思いながら体を動かす。
「俺も回復に回るか……いや、まだ早い!」
傷つく仲間を見ながら冷静に戦局を見るウェルス。目的遂行を最優先に置き、そこにたどり着くように思考を展開する。優先度が低い事項は後回し。商売も戦闘も戦略面から見れば同じこと。動かすのが金か体かの違いだ。
「ちっ、羽が生えやがったか……!」
「だけど残りは二体よ! 広範囲攻撃でダメージも蓄積しているからあとひと息!」
イブリースの変化にオルステッドが舌打ちし、ヒルダが荒く息を吐きながら活を入れる。ああ、とオルステッドは頷き、地を蹴った。
「流石に精神力が枯渇してきたよ」
「精神も癒すことが出来ればいいのですが……」
序盤から全力で刃を振るってきたトットが、ここにきて息切れをする。ヒーラーの魔術は身体を癒す術であって魔力の補充が出来ない。フーリィンは臍を噛むが、ないものは仕方ないと思考を切り替える。
「まだ終わってないわ。やれることはまだある!」
「ああ、コイツを倒したあとでウィートバーリィライを楽しませてもらうぜ」
持ち前の負けん気を振り絞り、傷の痛みに耐えるミルトス。ウェルスはアレイスターから教えてもらった魔術を使い、傷の痛みを消していた。
羽が生えたことで空中を叩くようにして加速するノビバッタ。しかし自由騎士達が与え続けたダメージがなくなったというわけではない。直撃する率こそ減ったが、自由騎士の攻撃を完全に避けれるほどでもなかった。
「大丈夫。これでお終いです」
フーリィンが英雄の欠片を削られるほどのダメージを受けて倒れそうになったが、もはや趨勢は決していた。残り一匹となったノビバッタにオルステッドが迫る。
「こいつで決めるぜ……! ヘルタースケルター!」
二本の剣を手にしてイブリースに迫り、回転するように刃を振るうオルステッド。刃の軌跡に巻き込まれたイブリースは斬られると同時に巻きあげられ、平衡感覚を乱される。
「悪ぃな。冥福は祈らせてもらうぜ」
さながら螺旋の滑り台を滑り落ちるかのごとく、イブリースは回転しながら地面にたたきつけられ、動かなくなった。
●
戦いが終わって一息つく自由騎士達。数十秒の若干の余裕を持たせて最終進化を止めることが出来、一安心だ。
「お行きなさい。ここに貴方のご飯はないわ」
浄化されたノビバッタを見ながらミルトスが口を開く。イブリースでないのなら麦を襲うことはない。アクアディーネの慈悲の権能は無辜の命を奪うことはない。短く祈りを捧げ、災害の悪夢が消え去ったことに感謝した。
「効くと言えば効くな。傷がなくなるわけじゃないから過信は禁物だが」
ウェルスは戦闘中に行使した痛み止めの魔術について考えていた。感覚異常などの戦闘に支障が出るわけではないが、過剰の信頼は思わぬ落とし穴を産みかねない。災害時のパニックを押さえるとかには使えそうだ。
「ふむふむ。こういう形なんですね……」
浄化されて元に戻ったノビバッタをスケッチするサブロウタ。書物では見たことはあるが、実物を見る機会は少ない。細長い緑のバッタとは違い、弾丸のような形状の黒いバッタ。イブリース化せずともいえの屋根まで飛び跳ねかねない跳躍力。どれも新鮮だった。
「バッタが何世代にわたって大量発生するようになると、蝗害を起こすバッタが出るのよ」
ヒルダはどこかの書物で得た知識を披露する。今回はイブリースによる変異だが、蝗害を起こすバッタは過密状態の環境下で生まれてくるとか。何故疑問経過と言うとこの時代だとまだ検証段階のはずで、相変異と言う言葉が使われ始めるのはあと百五十年ほど後の話である。遺伝子の概念すらない時代ですおし。
「まあ、博識なんですね」
その言葉に手を叩いて笑みを浮かべるフーリィン。孤児院育ちの彼女はそう言った本に触れる機会が少ない。自由騎士になっていろいろな立場の人と触れ合い、多くの知識と価値観に触れる機会が増えた。孤児院の弟妹達にもこの喜びを伝えなくては。
「これで麦は大丈夫……おいしいパンが食べれるよ。……想像すると、お腹すいてきたなぁ」
座り込んで大きく息を吐くトット。残存イブリースはなく、蝗害が発生する未来はない。これで無事に豊穣祭が行われる。麦で作られた飲み物やパンを想像し、疲れもたまっていたのかお腹がすいてきた。
「あっはっは。だったらこれをお食べ! 焼き立てってほどじゃないけどおいしいよ!」
そんなトットにカバンを開けてパンを差し出すトミコ。丁寧にこねて作られたパン生地と素朴な味付け。しかし経験豊富なトミコが作ればパンはここまでうまくなる、と言ういい実例だ。満面の笑顔で差し出されるパンは、心とお腹を満たすだろう。
「いいねぇ。オレも頂くぜ」
言いながらオルステッドがパンに手を伸ばす。四分近く全力で動き回っていたため、体はかなり疲労していた。酒でも一杯あおろうかと思ったが、おいしい食べ物があるならその方がいい。食べれる時に食べるのは、裏路地生活では常識だ。
パンの匂いに釣られるように、自由騎士達の空気は弛緩していく。戦いの空気は消えてなくなり、どこか春の陽気を感じさせる和やかさが場を支配していた。
それは彼らが守った平和そのもの。災害を未然に止めた自由騎士達に休息を。
そして1818年の≪豊穣祭ウィート・バーリィ・ライ≫は、何事もなかったかのように開催されるのであった。
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
†あとがき†
どくどくです。
時系列どうなっているのと、か聞いてはいけない。
時系列どうなっているのと、か聞いてはいけない。
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