MagiaSteam
漸近線に交わるX軸



●未来(いま)
「姐さん、ヴィスマルクの船だ!」
 マストの物見台で望遠鏡を覗く海賊の逼迫した声。
「シャンバラ海域だよ? ここは」
 見上げスカンディナ海賊団の頭目であるアルヴィダ・スカンディナが問い返した。
「だが、あの国旗は間違いねぇ。軍艦でさ!」
 アルヴィダは顎に指を当て、新年早々喜望峰――シェオール山脈だったかがなくなったというどうにもトンチキな噂を思い出す。
 実際海も大きく荒れて、難儀した。
「本格的にヴィスマルクがシャンバラに攻め込み始めるってところかい。そのためには確かにあの山は邪魔だしね。それにしても山脈をなくすなんてとんでもない兵器をもっているんだね、ヴィスマルク」
 アルヴィダが己の持つ情報から導きだした答えは決して間違えてはいないが、正しくもない。
「どうします? 姐さん」
「キャプテンと呼びな! 船影はいくつだい?」
「見える範囲では1つ。本隊はもっとシャンバラよりですかね。イ・ラプセルの動きへの対応部隊ってところですかね……ってうわっ! 撃ってきやがった!」
 直後、アルヴィダの船の近くに大きな水柱が上がる。彼我の距離はそれなりにある。こっちにはオラクルが数人いる。当たりはしないだろうが、船は揺れるし、運が悪ければ直撃する可能性は無いとはいえない。
「どうしますか?! 姉御!」
「売られた喧嘩に尻尾巻いてにげるなんざスカンディナ海賊団の名折れだ! イ・ラプセルからの距離は? 水鏡の範囲かい?」
「十分に範囲内かと!」
「おーーーーーい!! イ・ラプセル!! あんたらもこの喧嘩にまざりにくるかーい??」
「姐さん? イ・ラプセルがいるんですかい?」
「おまじないさ。水鏡が『未来(いま)』を予知できたなら、過去から『現在(いま)』につながるって寸法だ」
「こなかったら?」
「アタシがこっ恥ずかしいのと、ちょっと船の故障が多くなるってとこじゃないかい?」

●過去(いま)
「っていうわけで、水鏡にアルヴィダさんが呼んでいたのが視えたの」
 なんとも不思議そうな顔で『元気印』クラウディア・フォン・プラテス(nCL3000004)は水鏡で演算した未来をあなた達に告げる。
「正直、演算が拾ったのも偶然だと思うし、アルヴィダさんだってできるとは思っては居なかったとおもうんだ。だけど……彼女の目は確信的だった。それだけ私達のことを信じてくれてるのかなとも思うけど」
 クラウディアは説明をはじめる。
 地図を取り出し、イ・ラプセルとシャンバラを繋ぐ海洋のある一点を指差す。
「演算した場所はここ。アルヴィダさんはヴィスマルク軍艦と戦うつもりみたい。このヴィスマルクの軍艦は哨戒船みたいだね。シャンバラに向けての派兵だとおもうけど、この船はイ・ラプセル寄りにきているから、私達の動きも調査してるのかもしれない。領海侵犯もしてるから追い払わないといけないし。海軍の哨戒ラインの外のすごく微妙な場所でアルヴィダさんたちは偶然みつけちゃったんだとおもう」
 そこでクラウディアは言葉を選ぶように口ごもる。
「演算結果、勝利するのはアルヴィダさんたち。ヴィスマルク軍艦は撤退。アルヴィダさんたちの船もわりと被害をうけるかんじだね。海賊団のひとも命を落とすひとは何人かいるみたい。
 海軍に行ってもらうつもりだったんだけど、海軍も人手不足で断られちゃって、自由騎士にそのお鉢が回ってきたってわけ。シャンバラに向けての海軍派兵計画もあるから忙しいんだって。
 で、その軍艦の艦長はエッケハルト・エビングハウス大佐。そう、去年の春強襲艇で攻め込んできた人だよ。
 彼は多分、イ・ラプセルに強い恨みをもっているだろうから、ギリギリのラインで領海侵犯して私達を挑発してるともおもうんだ。それがわかってるから海軍も派兵を渋ってるとおもうんだけど。
 でも、海賊団の人の命が喪われるのは、やっぱりちょっと後味悪いから。皆に助けにいってほしいんだ。
 うん、結果としてはアルヴィダさんたちが撤退させるから、派兵しなくてもいいのかもだけど。でも見ちゃったから」
 クラウディアはうつむいてから、あなた達の目をみて、口をひらく。
「助けてあげて、ほしいかも」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
対人戦闘
■成功条件
1.ヴィスマルク軍艦の撤退
2.スカンディナ海賊団が死亡しない
 ねこてんです。
 
 この依頼はブレインストーミングの
 ・ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033) 2018年12月28日(金) 02:29:41
 ・カスカ・セイリュウジ(CL3000019) 2018年12月28日(金) 09:41:08
 の発言より作成されました。発言者が参加する義務はありません。発言者に参加優先もありません。
 
 
 領海侵犯するヴィスマルク軍艦(小型)とスカンディナ海賊団が戦闘するようです。
 みなさんはその戦闘に介入してあげてください。イ・ラプセルの軍艦でむかいます。軍艦には運転をするための非戦闘員や船員もいます。
 基本的にはシンプルな遭遇戦扱いになります。

 介入することで、スカンディナ海賊団で死ぬ団員は少なくなります。
 スカンディナ海賊団は一応とはいえ同盟相手ですので、人員が減るのはあまり望ましくはありません。
 ヴィスマルクの軍艦は本隊ではありません。任務の範囲において私怨混じりでちょっかいをかけている状態ですので増援はありません。
 一定の損害を敵兵に与えれば撤退します。
 捕虜についてはよっぽどクリティカルに対応しない限りは取ることは難しいでしょう。
 また得られる情報はだいたいにおいてしっている程度になります。
 アルヴィダたちもあなた達が来てくれたら助かるくらいの感じで、どのくらいの精度があるのかを試している節はあります。

 書かれていない敵が出てくることはありません。

 介入タイミングは、アルヴィダたちが哨戒の軍艦を見つける数刻前になります。
 情報交換をする時間と作戦を合わせる時間はあります。(OPの直前あなた達を呼ぶ前の時間軸です)
 アルヴィダたちと協力し合って、接舷し乗り込んで戦う形になります。

 また、そのまま介入することでヴィスマルクにスカンディナ海賊団とイ・ラプセルのつながりは発覚することになります。偽装するのであれば、通商連の船で行くことになります。その場合はスカンディナ海賊団とヴィスマルクが戦闘中の介入になりますので時間がずれます。
 偽装することで発覚は遅くなりますが、イ・ラプセル軍が介入しなかったことになり、調子にのったヴィスマルクの領海侵犯挑発は増えることになるでしょう。

 スカンディナ海賊団としては関係が発覚することに特に問題はありません。
 いずれは協力関係を続けるなら発覚することはあるだろうという考えです。

 どのように介入するかはおまかせします。


 エネミー
 小型軍艦(駆逐艦) 砲台はいくつかあります。
 砲台は壊す必要はありません。
 全長100m、幅16m程度
 船の上ですので吹き飛ばされて海におちたら、対応スキルが無い場合は戦場復帰には時間がかかります。
 吹き飛ばしについては積極的に狙われることでしょう。

 ボス
 ・エッケハルト・エビングハウス大佐
  キジン・バスター バスターランク2までのスキルを使うことができます。
 EX:ツォルンフランメ(範囲・グラヴィティ2・バーン2・二連)
 スキル:軍師、威風
 マギアスティームグランドオープニング 神殺しで登場しました。イ・ラプセルに強い恨みを抱いています。

 ヴィスマルク兵 30人
 バスター、ガンナー、ドクター、マギアス、フェンサーが6人ずつ
 各職6名の小隊として行動します。
 各々バトルスタイルのランク2スキルを使用します。バトルスタイル以外のスキルは使用しません。
 キジンとノウブルの正規兵です。連携はしっかりとしてきます。
 ほか非戦闘員も多数いますが、戦闘はしません。船室に入り動力をどうのこうのに関しては、妨害されて出来ないと思ってください。戦利品を奪う余裕はありません。大まかにおいて船もにたようなものですので新しい何かがわかるとかは特にありません。
 また逆に、ヴィスマルク兵がこちらの船になんらかのアクションを行うことはありません。
 半数の撃破、もしくはボスの撃破で退却します。敵戦艦の退却と同時にこちらも退きます。ヴィスマルクの船に残ることはできません。

 友軍
 ・アルヴィダ・スカンディナ
 ソラビト・フェンサー レベル2までのスキルをつかうことができます。
 基本的には自分の思うように行動します。自由騎士の作戦にに合わす程度はしますが、言うことは聞かないかもしれません。
 目的はあくまでもヴィスマルクへの嫌がらせになります。
 
 スカンディナ海賊団 25人
 海賊団の本隊の人員になります。
 スカンディナ海賊団は総勢150人程の組織ですが、その中でも武闘派が揃っています。
 ソラビト、ミズビト中心に亜人やノウブルの多種多様なバトルスタイルがいます。
 だいたいランク2のスキルを使います。アルヴィダの言うことはききますが自由騎士たちの言うことはあまりききません。大まかな作戦を合わせる程度はできます。
 

 以上ヴィスマルク兵との純戦闘をお楽しみくださいませ。
 なおこのシナリオは年明け後の時間軸ですので、時間軸指定はございません。
状態
完了
報酬マテリア
2個  6個  2個  2個
10モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2019年01月14日

†メイン参加者 8人†




「姐さん、船ですぜ!」
 マストの物見台で望遠鏡を覗く海賊が大声をあげた。
「ん? ここはシャンバラ海域に近い場所だよ?」
「イ・ラプセルのようだな」
「ん? なんでイ・ラプセルが? ここは哨戒ラインとは少しずれてないかい?」
「あー、手ぇふってら、自由騎士達っぽいな」
「ふぅん、水鏡がなにか見た、っていうところか。いいよ、接舷してやんな」
「あいさー」


「海賊のおねーさん、初めまして!」
 『太陽の笑顔』カノン・イスルギ(CL3000025)が大きく手をふりながら笑顔で挨拶をする。
「ああ、はじめまして。で、どうしたんだい?」
 アルヴィダ・スカンディナは探るような目で自由騎士たちを見る。気安いものもいることに試すような笑顔浮かべながら彼女は先を促した。
「まずは情報共有しよー! 今回は海兵ごっこだー」
 『元気爆発!』カーミラ・ローゼンタール(CL3000069)が切り出す。
「この暫く後にヴィスマルクの軍艦とあんたらは一悶着起こす」
 『クマの捜査官』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)が端的に伝えた。
「アタシらとヴィスマルクがやらかすのは日常茶飯事さ、なんであんたらが介入するんだい?」
「助けてくれって少女に頼まれたんだ」
 『挺身の』アダム・クランプトン(CL3000185)が苦笑しながら答えた。
「願いを聞き届けるのも騎士の努め。叶えるためにきた」
「わけがわからないんだけど?」
「アルヴィダちゃんたちの中で誰か死んじゃうかもしれないのだー!」
 『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)の言葉にアルヴィダは考えるような顔をして、なるほどとつぶやく。
「それで、アタシはあんたらに助けでも求めた、それを水鏡が察知したということか。情けないねえ、ヴィス公に遅れをとるなんて」
「ちがうのだわ、水鏡は」
 口を滑らしそうになった『真理を見通す瞳』猪市 きゐこ(CL3000048)の口をウェルスが塞ぐ。この女海賊は状況と水鏡の存在を計算し、未来に何がおこったのかを類推する程度には敏い。完全な正答とまではいかないが近いところまでは導き出すことが可能であるのだ。必要以上の情報は与える必要はないという判断だ。
「あなた達流にいうのであれば、軍艦の艦長は僕たちの獲物だ。だから奪われるのはちょっとね」
 アダムの言葉に乗るように『未知への探究心』クイニィー・アルジェント(CL3000178)が口をひらいた。
「さぁてキャプテン・アルヴィダ、君はこの戦況をどうする? 闇雲に突っ込むと死人が出るっぽいよ? まぁ、あたしとしてはそうしてくれた方が乗り込みやすくて良いんだけど!」
「アンタはアタシと競争がしたいのかい?」
 アルヴィダの目が剣呑なものになる。
「違う違う、御嬢ちゃん、共闘したいと言ってるんだ。御嬢ちゃんも死人を出すのは嫌だろう? もちろん私も嫌だ! なんてったって医者だからな! 命を無駄にするやつは全員ぶっ殺してやる。
 で、だ。作戦を提案してもそっちのメンツもあるし付け焼き刃じゃあ事故の元だ」
 『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が間に入り込んでとりなした。
「そのとおりだね。っていうかアンタみたいなちっこいのに御嬢ちゃんと呼ばれるのはちょっとアレなんだけど」
「まあ、気にするな。アダムが言ったように水鏡でこっちの獲物がうつったんだ。
 エッケハルト・リビングハウス大佐。ヴィスマルクの正規兵を可能なら捉えたいのだ。縊り殺すまえに情報も絞ったほうが得だろ? 後々のためにもな」
「なるほどね、で、アタシらになにをさせたいんだい?」
「私達がエッケハルトを担当するから、海賊団がヴィスマルク兵を担当するというかんじで!」
「ヴィスマルク兵ちゃん達の船を挟み撃ちするのだ!」
「兵が分散した所を突破してカノン達が必ず敵の大将をぶっ飛ばすよ!」
「と、いうわけだ。貴様らと私達が付け焼き刃で連携なんぞできんだろう。だったら担当を分けてしまうほうが明快だろう?」
 ツボミは手持ちのペン先をむけての作戦……というには個々の裁量に頼り切った提案を告げた。
「びっくりするね。あんたらアタシらに露払いしろってことかい?」
「そうなる」
「イイよ。あんたらには目的がある。アタシらはただヴィスマルクの邪魔ができたらいい。あんたらがアタシらの喧嘩に混ざりたいってんなら断る理由もないしね。そっちのヒーラーはどれだけだい?」
 その問にツボミはこちらの戦力と海賊の戦力、そしてヴィスマルク兵の情報のすり合わせを始めた。挟み撃ちをするとしても戦場はヴィスマルクの艦の上になるだろう。回復手の存在は要になる。
「アルヴィダ嬢的にはお宝なんかより嫌がらせのほうが重要なのかねえ」
 ウェルスはつぶやく。なぜかそれが悲しいことに思えたからだ。とはいえ今後は対ヴィスマルクの情報を渡してやれば彼女は動いてくれるだろう。
 ふとそれでウェルスは思い出す。
「ああ、アルヴィダ嬢、ヴィスマルクが戦線をあげてるのは知っているかい?」
「もちろん、ヴィス公がなんかすごい兵器開発して山をふっとばしたんだろ?」
「ちがうよー! あの山をバーン! ってしたのはヴィスマルクじゃなくてシャンバラだよ!
 ミトラースの像をまほーで飛ばして落っことしたの!」
「詰まりは、喜望峰をなくしたのはシャンバラの兵器というわけね。超重量の神像を高高度から落とすというかなり剣呑な術式なのだわ」
 カーミラの発言に疑問符を浮かべるアルヴィダにきゐこが補足する。
「なるほどね」
「あとは俺たちもシャンバラとの戦争が本格的になる。嬢たちにはヴィスマルクを牽制してほしい」
「それは気分次第だね」
 言って女は笑う。その真意はしれないが、嫌というわけではなさそうだ。
 とまれかくまれ、作戦会議は終わる。直後ヴィスマルクの船を発見し、砲撃を先制してやりイ・ラプセル海域までおびき寄せる。明確な領海侵犯への報復という大義名分というものは必要なのだ。
 きゐこがリュンケウスの瞳によって敵をエネミースキャンで分析するが流石に30人を分析しきるのは無理がある。多数を分析しようとすればそれだけ、ひとりひとりの精度は大幅にさがる。大まかな分布と6人小隊で対応するという程度の事がわかった。
 やがてヴィスマルクの駆逐艦に挟み撃ちする形で彼らは乗り込んでいく。事前準備はウェルスがしてある。オチたとしても復帰は難しくない。それに伏兵が一人いる。
「はーい! ヴィスマルクさん海域侵害でーす! 直ちに自国へお帰りくださ〜い!」
 クイニィーが叫ぶ。
 勧告というのは実は大事なプロセスである。大義を示すためのやり取りというものは戦争においては事後の裁判において重要な判定結果をもたらす。
 私達は文明的な国だから! とクイニィーは付け足した。
 十分に事前付与をしていた彼らは各々のスキルでもって戦闘を開始する。
「僕の名はアダム・クランプトン! 貴方達と肩を並べられる事嬉しく思う!
 ……いや、海賊の野郎ども!
 さぁヴィス公に吠え面かかせてやろう! パーティに洒落込もう海の荒くれ共!」
 アダムの威勢のいい声に海賊もおうよ! と答えた。

「海賊! それにイ・ラプセルの自由騎士たちだと! 汚らわしい海賊と徒党を組んだのか? イ・ラプセルは」
 その連合軍にエッケハルトは驚くが、もとは准将であった身だ。今は大佐に降格してはいるが指揮官としての手腕が乏しいわけではない。状況を即座に判断し、的確に対応していく。
 エッケハルトを守るために1小隊、海賊に向けて5小隊を分散させた。
 ナナンはバナナの皮を投げるが、届かない。あくまでも技能は技能だ。お互いがしっかりと戦線を組んだ状況で戦況に役立つほどの力にはなりづらい。
「ヴィスマルクの田舎軍人如きがカノン達を倒せるはずないもんね」
「応々なんだ大佐殿は後ろで縮こまって。まーた部下だけ死なせて自分はノウノウと生きて帰ろうって算段かあ! 賢いなあオイ!」
 ぷーくすくすとカノンとツボミが挑発する。
「やすい挑発だな。貴様らイ・ラプセルのほうが辺境であることを理解していないとみえる。それに部下より先に死に、指示を出せなくなる上官など無能に過ぎん!」
 ツボミは内心舌打ちをする。どうにもシャンバラの兵のようにはいかない。
 アダムがバーチカルブロウでエッケハルトの前の敵を吹き飛ばせば、その間隙を抜いて、カーミラが隣接し穆王八駿で蹴り技をエッケハルトに炸裂させる。硬い。伊達に司令官ではない。思った以上のダメージのなさに、カーミラは構えを変える。
 その流れに呼応するように解き放たれるはふたえに連なる蜘蛛糸の呪い。
 エッケハルトにはクリーンヒットしないものの、数人の部下には呪いが下る。
 追い打ちをするようにウェルスの灼熱の弾幕とクイニィーのスパルトイが放たれる。
 ガンナーの兵が全体攻撃で反撃をしかけ、ヒーラーたちが各々、連携し回復させていく。ウェルスが回復は必要かとツボミにアイコンタクトをするが、攻撃に徹してくれと伝え、自らは回復をもたらす。
 やっぱり回復手はめんどう! とクイニィーがインビシブルをまとわせたホムンクルスをヒーラーのところに向かわせる。不意打ちでティンクトラの雫でエッケハルトを守るヒーラーを攻撃させホムンクルスを自爆させるが、火力が足りずにすぐに回復されてしまう。
「んもー!」
 叫んで本人もヒーラーの死角にまわりこもうとするが、ホムンクルスを自爆させるという派手な行動は敵にここにアルケミーがいるのだとアピールすることに繋がり警戒させることになった。インビシブルはあくまでも目立ちにくくする技能だ。自らが目立ってしまえば無効化される。もとより、戦闘中に使える技能ではないのだ。戦闘中においては誰もが敵の様子には注意を払う。クイニィーの移動は敵兵にブロックされてしまった。
「せっかく強襲艦を守ったって体裁にしたのに駆逐艦のかんちょーに格下げされちゃった?」
「こんな小型の船に何故准将殿が? いや今は大佐殿、だったかな?」
 カーミラとアダムが至近距離で挑発する。階級に言及するその挑発によりエッケハルトの目が据わったものになった。
 エッケハルトは無言で構えを変える。
 きゐこが来るのだわ! と叫んでみなに警告する。
「ツォルンフランメ」
 それは怒りの炎。低い声とともにエッケハルトのカタフラクトが赤く発光し、蒸気を大きく吹き出す。
 前衛のアダムとナナンとカーミラを巻き込み放たれるその炎は重厚な質量でもって一度、二度と三人を苛む。
「くっ」
 アダムは持ち前の頑丈さでなんとか耐え、ダメージを負っていたカーミラをパリィングで防御する。直撃したナナンは一度膝を折り、英雄たらんと立ち上がった。即座にツボミはメセグリンでナナンを癒やす。アダムは……あと数発程度は耐えるだろう。ツボミは計算だてて、回復の順列をきめた。
 カノンが追い詰められ船外に吹き飛ばされるが女の形のオニに受け止められ、即座に戦線に復帰する。
 多人数での戦闘は長びけば長引くほどに乱戦へと発展していく。
 いまや前衛後衛の軛も薄くなっている。
 故に後衛にもダメージは蓄積していくのだ。ウェルスも回復に手をとられるターンが増える。
 戦況は多少人数がすくないとはいえ小隊で対応する彼らの連携はバカにならない。五分と五分程。
 ツボミは状況を俯瞰する。まだいける。医学知識でもって味方の怪我の状況を判断する。虎の子はまだとっておいてある。使わない状況があればそれにこしたことはない。
 海賊たちに死にそうなものはいない。予知では26人VS31人だったのが、34人VS31人になったのだ。数の有利はとっている。海賊たちにとっては余裕があるはずとはいえ油断は禁物だ。
 ゆっくりとこちら側に天秤は傾きつつあるが先程の大将のスキルが厄介だ。火力は一般兵のそれを軽く凌駕する。どうにも排熱に時間がかかるようで連発はできそうもないようだが、次のその攻撃でひっくり返されないとは言えない。戦闘は続く。

 きゐこのユピテルゲイヂがエッケハルトを守りにこようとしたフェンサーを捉え、沈黙させた。
「ふふふ♪ 実は遠慮なく魔導をばかすか撃ちたい気分だったので渡りに船だわ♪」
 どうにもきゐこはご機嫌(トリガーハッピー)のようだ。魔導力を攻撃魔導にどんどん変換して攻撃を重ねていく。
 再度アダムは周囲の前衛を吹き飛ばし、カーミラとカノン、ナナンへの射線を確保する。
「いっくよー!」
 ナナンのバッシュがクリーンヒットでエッケハルトを打ち付けた。
「そーいえば、わたしのてつざんこーが史上初めて神さまへ通った攻撃なんだよね!」
 それはカーミラにとっての誇り。その誇りを胸に、背後に控えるヒーラーごとエッケハルトを撃ち抜く。
「誰かが信じてくれるなら絶対カノン達は負けないよ!」
 カノンが全身の筋肉を震わせ一点集中した一撃をエッケハルトに炸裂させる。確かな手応え。
 あわせ、ウェルスがそのチャンスを逃すことなくウェッジショットで射抜いた。
 クイニィーはスパルトイで援護射撃する。
「くっ」
 エッケハルトに焦りがみえはじめた。周囲を見回しキルレシオを確認する。損耗率は高いものではないが無視をできるほどでもない。
「……ったいだ。撤退だ!!」
 彼の軍略眼がこれ以上の戦闘は無意味であると判断し撤退の判断を下す。
 どうする。自由騎士たちは顔を見合わす。追撃するか否か。エッケハルトの身柄を確保する確実な手立ては彼らの作戦にはない。
 それにエッケハルトのEXスキルは油断できるものではない。排熱は終わったようだ。その気になれば撃ってくることはできるだろう。こちらとて無駄な怪我人を増やす通りはない。
「こっちもひきどきだな」
 ツボミがつぶやく。ウェルスもそうだな、とその判断を肯定する。
 海賊たちにも声をかけて各々の船に戻れば、ヴィスマルクの船は撤退する。十分距離をとったところで砲撃をするが当然のごとく当たらない。
「やーい! やーい!」
 キッズ組の前衛少女たちが騒ぎたてハイタッチをしている。なぜだかきゐこも混ざっていたがまったくもって違和感がない。
「これで暫くはちょっかいかけてこないかなー?」
 クイニィーがにしし、と笑った。

 ヴィスマルクの船が見えなくなったところで、アルヴィダが飛行してイ・ラプセルの軍艦におりたつ。
「おつかれさま、まあ助かった、のかな? ありがとね」
「そっちこそ、協力感謝だ」
 ウェルスが礼をつげアルヴィダと拳をうちつけあった。
「キャプテン」
「なんだい、アダム」
「これからシャンバラとヴィスマルクと僕たちは三つ巴になるかもしれない。その時は力を貸してほしいんだ。見返りに美味しいアンパンの店をおしえるから」
 いって、アダムは笑う。先日のこともあって少し気恥ずかしいが彼女が助けてくれるなら嬉しい。見返りなんてその程度のことしかできないけど。でも、彼女とアンパンを食べるのはちょっとおもしろそうだとは思う。
「あんぱん? そういえば好きなんだってね?」
「うん、あんぱんはね。世界なんだ。まるくて、ふかくて……そして、まるい」
「ああ、この坊主のあんぱん談義はどうでもいい。そっちに死者はいないな?」
「おかげさまでね」
 ツボミがアダムのあんぱん談義を途中でとめて状況を確認した。
 そして、アルヴィダの袖をひき耳打ちをする。
「んで、だ、この前はスマンかったな。御嬢ちゃんがそっちに初いとは思わなくてな。そっかー。なあ、一回くらい『経験』しておいたほうがよくね? いい店紹介するぞ……あいてっ!」
 そういったツボミの側頭部をアルヴィダのわりと本気の拳が炸裂したのだった。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†


†あとがき†

皆様、参加ありがとうございました。

危うい部分はありましたが無事成功です。
皆さんの行動により、早期撤退を彼らは選びました。

MVPは冷静にパーティを支え、海賊へ利害も込みで説得したあなたへ。
FL送付済