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Yearning! 平和を求める棋士武将!



●暗愚な武将は譜面を見る
「イエハル様、先の妖怪の件は如何しましょう?」
「それはサムライ衆に任せておけ」
「イエハル様、年貢の件は――」
「それはオキツグに任せておけ」
「イエハル様、橋の修繕費は――」
「それは――」
 アマノホカリの宇羅幕府。その一角でイエハルと呼ばれた男は次々と仕事のことを受け……すべて他人に任せていた。
「今熟考中なのだ。最高の詰将棋が出来るやもしれん」
 そして当のイエハル本人は、ショーギと呼ばれるゲームに夢中であった。あまりの態度な態度に多くの武将はイエハルの事を暗愚と見下しているという。事実、イエハル自身が何かを為したと言う話は誰も聞いたことがない。
「イエハル様、よろしいのですか? 好き放題言わせて」
「良いのだトモコ。余が出張るよりもそれを得意とするモノに任せるのが良策だ。余は盤面を打つ程度で十分。千国の世も終わり、平和になったという事はそう言う事だ」
 トモコ、と呼ばれた女性の言葉に落ち着いた口調で答えるイエハル。パチン、と小気味いい音が部屋に響いた。
「とはいえ、この件は余が出ねばならぬ。アマノホカリを擁する天津朝廷についたイ・ラプセル軍。トクガワ義兄弟を倒された以上、その仇を討たねばな」
「危険です。彼らは外国でも有数の力を持つ者達。こちらの手を読み、先んじて動くとまで言われています」
「だろうな。そうでなければ面白みもない。単純な力と技巧ではなく、智と戦術をもって世を制する。宇羅様に対抗するのなら、そう言った相手でなければならぬよ。
 平和を求めるが故に戦ねばならぬ。実に厄介な物よ。互いに平和を求めているはずのに、守るべき者の為に妥協できぬと来た。まこと、譜面だけ打って過ごせる日々は遠いなあ」
 言ってイエハルは立ち上がる。アマノホカリを擁する朝廷に宣戦布告し、挙兵するために。
 自らが求める平和の為に。

●自由騎士
「昨晩、このような文が届いた」
 天津朝廷に届いた一通の文。その内容は、指定した時間に指定した場所を攻めると言うものだった。
「この内容を信じるのなら、明朝六時にトクガワ家のイエハルと呼ばれる武将とその軍勢が攻め入ってくる」
 あるいはこの手紙がフェイクで、指定した場所に罠を仕掛けているかもしれないし別場所を攻めてくるかもしれない。千国の時代を生きた武将なら、そう言っただまし討ちは普通にやってくるだろう。
「朝廷軍は念のために奇襲の可能性を考慮して近隣の村に兵を送ることにした。
 貴君らは指定場所に赴き、対応してほしい」
 もしイエハルなる人物が現れたのなら、防衛に当たってほしい。あるいは現れないと判断できるのなら、そのまま帰還しても構わない。
 貴方の判断は――


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
他国調査
担当ST
どくどく
■成功条件
1.敵の全滅
 どくどくです。
 まあ、現れるんですがね。

●敵情報
・イエハル(×1)
 ノウブル。20代男性。魔術師スタイル。この軍勢の指揮者です。
 自由騎士の実力を侮ることなく、動いてきます。言葉は通じますが、説得は難しいです。
『アステリズム Lv3』『ジウスドラの函 Lv3』『アニマ・ムンディ Lv4』等を活性化しています。

・トモコ(×1)
 ノウブル。20代女性。イエハルに付き添っています。なぎなたを持ち、戦線に参加します。サムライスキルを使用します。
 言葉は通じますが、説得は難しいです。

攻撃方法
天逆鉾 攻近貫  渾身の突きによって貫通効果を発生させます。低命中高威力です。敵にブレイクの効果をあたえることができます。
飛燕血風 攻遠単 斬撃を飛ばすことで遠距離攻撃します。低命中高威力。スクラッチつき。

・サムライ兵(×6)
 イエハルに仕えるサムライです。ケモノビト(種類さまざま)男性。

 攻撃方法
一刀両断 攻近単 持ってる武器でバッサリ行きます。【必殺】つき。
心眼   自付  心の眼を開くことで己の知覚能力を上昇させます。命中、回避、速度が上昇します。

・ニンジャ兵(×4)
 戦闘に特化したニンジャです。覆面をしています。

 攻撃方法
瞳術・不動金縛   遠距離範囲攻撃。念を込めた視線によって、範囲内の敵の動きを縛ります。ダメージなしで敵にパラライズ。またBS解除成功率を低下させます。
隠形・遁法煙玉   遠距離範囲攻撃。ただしダメージなし。広域に毒の煙を展開します。敵に複数のBSを与え、自身は1ターン限定で回避上昇+20m移動の効果を得ます。

●場所情報
 アマノホカリにある村。前もって知らされていたこともあり、住民の避難は完了済み。時刻は朝。明るさや広さ、足場などは戦場に支障なし。
 戦闘開始時、敵前衛に『トモコ』『サムライ兵(×6)』が。敵後衛に『イエハル』『ニンジャ兵(×4)』がいます。
 事前付与は一度だけ可能とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
2個  2個  2個  6個
4モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
6/8
公開日
2020年12月15日

†メイン参加者 6人†




 朝を告げる鳥の鳴き声が響き、山間から朝日が顔を出す。
 その頃には両陣営とも戦の準備は整っていた。
 宇羅幕府からはトクガワ家の義兄弟が一、イエハル。戦装束に身を包み、指揮用の杖を持ち立ち挑む。その傍らにはトモコを始めとしたアマノホカリの兵士達。サムライやニンジャと呼ばれる者達だ。
 それに対する天津朝廷――その代行ともいえる自由騎士達。
「手紙通り攻めてくるとは……潔いといいますか、正直といいますか」
 指定した時間と場所を外すことなく現れた宇羅幕府軍に対し、『救済の聖女』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は静かに答えた。正直者、というよりはこちらを打ち倒せる強い自信に満ちた態度。その鋭い強さを感じていた。
 どうあれやるべきことは変わらない。ここに至って、互いに妥協の道はない。アマノホカリの覇権はヴィスマルクとイ・ラプセルのパワーバランスに関わる。何よりも、戦を求める宇羅に力を与えれば、戦争はさらに加速するだろう。
「こちらを観察するつもりなのか、或いは犠牲を小さくしたいのでしょうか……?」
 セアラ・ラングフォード(CL3000634)はイエハルの意図について悩んでいた。相手がし大した場所であるならば、罠の可能性は考慮せねばならない。だがその様子はなく、地の利を得たと言う事もない。
 予告されていた事もあり、村人の避難は完了済みだ。畑からも遠く、戦いで村の今後に影響が残るようなことはない。それを望んだというのなら、このイエハルと言う人物は宇羅幕府内にあってあまり戦を望んでいないのでは? だとすれば――
「指定通りに現れるとは、なかなか礼儀正しい御仁のようですね。こちらもその礼節に倣いましょう」
 言ってイ・ラプセル風に敬礼する『戦姫』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。味方でも相容れない思想を持つ人間がいるように、敵であっても礼を尽くす相手もいる。だがそれはそれだ。敵であるのなら、相対する。そこは譲れない。
 礼を解き、武器を構える。相手が朝廷の地を侵略しに来たというのなら、こちらは朝廷との盟約に従いこの地を守るのみ。それはデボラがイ・ラプセルの騎士だと言う理由もあるが、侵略を良しとしない盾の騎士であることも含まれていた。
「本当に現れるとはな」
 ぼそりとカウンドダウン・ミッドナインド(CL3000699)が呟く。話を聞く限りは手紙通りに現れるとは思っていなかったが、以外と言う程度で驚くには値しない。戦う準備は整っている。臆することなく挑むのみだ。
 村の防衛。これまでとは違う大きな任務だが、カウントダウンに怯えの表情はなかった。冷静に敵の数を見やり、その練度を意識する。明確にこちらを打ち倒そうとする相手。その戦意を受け、それに返すように殺意を返す。
「あれがショーギの人ですね。後で話を聞かなくては……。いえいえ、仕事はしますよ」
『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)はイエハルを見ながらそんなことを口にした。アマノホカリ発祥のショーギ、朝廷の人に聞きはしたが、イ・ラプセルに伝わってきた以上のことは分からなかった。だが、彼ならあるいは――
 そぞらになりつつある気を押さえるように頬を叩き、戦いに意識を向けるマリア。相手は宇羅幕府の武将。この地の戦を経験したことのある存在だ。けして侮ってはいい相手ではないだろう。それを意識する。
「純粋なゲーム……というのは興味が沸くかな」
 マリアの言葉に『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)が頷いた。ショーギ。聞くところによるとアマノホカリ発祥のチェスに似た戦術ゲームだと言う。中々戦術性が高いらしく、興味は沸く。
 とはいえ、興味と戦いは別だ。相手はこちらを倒すつもりで来ている。マグノリアを始め自由騎士達は多くの戦いを経験してきたが、それでも手を抜けば痛い目を見るだろう。向こうも相応の石をもって戦いに挑んできていることが伝わってくる。
「天津朝廷に属する自由騎士の者達とお見受けする。
 拙の名はトクガワ家のイエハル。先に告げたとおり、この地を占領し宇羅幕府に捧げる為に挙兵した。
 戦の作法として問おう。汝らに降伏の意志あるか? 受け入れるなら汝らの身柄はイエハルの名において保証しよう」
 声高らかに告げられるイエハルの声。だが自由騎士達は誰も首を縦に振ることはない。答えとばかりに武器を構え、イエハルに向けた。
 朝を告げる鳥の声がもう一度空に響く。その鳴き声を合図に、両陣営が動き出す。


「では参りましょう。平和のために」
 一番最初に動いたのはアンジェリカだ。獣の力を開放し、体内に熱い血を流す。心臓を通して駆け巡る血液が指先まで体温を伝え、身体の隅々まで野生を活性化させていく。体全てを獣と化し、アンジェリカは戦場を疾駆した。
 サムライたちの道を塞ぐように前に立ち、強く『断罪と救済の十字架』を握りしめた。鍛え抜かれた肉体の力、戦にかけるアンジェリカの想い、数多の戦場を駆け抜けた経験と技量。その全てを込めて武器を振るう。発生した衝撃が敵陣を穿った。
「全力で挑みます。いざ、お覚悟を」
「見事な先制の一打。しかしアマノホカリの武士達は易々と倒れぬぞ」
「そのようだね……。でも、勝たせてもらうよ」
 イエハルの讃辞と意気込みに頷くマグノリア。敵がただの野党や犯罪者でない事は知っている。平和を求める心は簡単には折れないだろう。それを理解したうえで、それでもカツとマグノリアは言った。
 自分用に調整した聖遺物を手にして、魔力を展開するマグノリア。この世の法則を理解し、その流れを自らのものに転化するのが錬金術。時と共に劣化する流れを圧縮し、敵に向けて流す。発生した因果が敵を襲い、その動きを封じていく。
「動けなければ、どんな駒だろうと意味は無い。精々キングの盾になるくらいだ」
「それでも、十分です。我らは将を信じて戦うのみ!」
「呼び名が違えど、その心意気は敬意に表します。だからこそ!」
 サムライたちの言葉に頷くデボラ。主を信じ、忠義を尽くす。それはイ・ラプセルの騎士も同じだ。彼らはけして主に妄信しているのではない。主が為した功績を信じて武器を握っているのだ。彼らの瞳が、そして振るわれる武器ふがそれを伝えてくれる。
 その一撃を受けながら、デボラは盾を握りしめる。彼らが信じる者のために戦うように、デボラもまた信じる者のために戦っていた。敵の想いを受けろめるように盾を構え、仲間を守る立ち位置を計算し、それを崩さぬように動き回る。
「この守り、易々と崩せぬものとその身で知りなさい! これが私の信条です!」
「まさに金城鉄壁とはこの事か。しかし守りのみでは戦に勝てぬぞ」
「その分俺が攻めれば問題あるまい」
 二刀を手にしてカウントダウンが戦場を走る。十を超える数の中であっても混乱することなく立ち回りながら、素早い動きで刃を振るう。トモコの持つ長柄の武器を翻弄するように右に左に跳躍しながら、戦い続けていた。
 神経に魔力を通し、反応速度をあげるカウントダウン。迫る長刀の先を紙一重で回避し、同時に前に出て右手に持つショートソードの間合にまで近づく。校則で振るわれるショートソードと脇差。十字に交差する刃が敵に刻まれる。
「イ・ラプセルの平和の為に倒させてもらおう」
「ならばこちらはアマノホカリの平穏の為に挑みます」
「互いに平和のためなのに……。いいえ、今は嘆いている時ではありません」
 共に自国の民のために戦うイ・ラプセルとアマノホカリの兵士達。それを見てセアラは悲しげにつぶやく。思いは同じなのに、敵と言うだけで争わねばならない。心優しいセアラはそれが悲しかった。平和を求めるからこそ、戦うのだ。
 それでも、覚悟はしている。戦場に立つ以上、セアラも戦う覚悟はあった。軍服をひるがえして敵に向き直り、呪文と共に癒しの魔術を解き放つ。優しい心と共に解き放たれた魔術が、仲間達の傷を癒していく。
「負けるわけにはいきません。この戦いの後に、平和があると信じて」
「その覚悟、しかと受け止めました。我らも同じ想いにて!」
「隙を与えずに、一気に攻め立てましょう」
 マリアは言って呪文を唱える。大呪文を唱えるには一定のスキが生まれる。その感激の間に状況が一変している可能性がある。小さな術を連発し、小回りを利かせる。そうすることであらゆる状況に対応しておくのがマリアの戦術だ。
 精神を鎮め、魔力を体内で回転させる。大事なのは強いイメージ。自らの魔力を稲妻に転換し、敵を貫く強いイメージ。至高こそが、魔術師の武器なのだ。マリアの手のひらから放たれた雷光が、ニンジャを貫き荒れ狂う。
「先ずは数を減らす。相手への優位性を排除するのが、戦いの基本です」
「開戦は歩の突き捨てから。今は消耗戦だが、それが後に生きてくる。そちらの奉公、無駄にはせぬぞ」
 倒れ行くサムライやニンジャたちにそう告げるイエハル。何かの格言なのだろうか。とまれ、数が減りながらも宇羅幕府の戦意は衰えてはいなかった。
 もちろん、自由騎士達も負けてはいない。宇羅幕府の未知なジョブの攻撃に対し、後れを取ることなく突き進んでいく。
 戦いは少しずつ、加速していく。


 イエハルは数をもって自由騎士を攻める。 
 それは単純な力押しではない。適切な兵力を適切な形で割り振り、自由騎士にダメージを重ねていく戦術だ。具体的には守りの要であるデボラに攻撃を集中させ、ニンジャはアンジェリカやマリアと言った攻めの要の動きを封じるように動いていた。
「……見事、ですがまだ倒れるわけにはいきません!」
 カウントダウンとセアラを庇っていたデボラがフラグメンツを燃やすほどのダメージを受ける。何とか息を整え、武装を構えなおした、
「名声を得るほどの強さ。成程、これは難関だ」
 トモコと切り結びながら、カウントダウンは静かに呟く。刃を持つ以上、自分も刃で斬られる覚悟はある。その可能性を身に刻んだうえで、カウントダウンは更に前に進む。一歩、また一歩と前に進み自らの道を進んでいく。
「あの采配もショーギと呼ばれる戦術なのでしょうか……?」
 魔術を放ちながら指揮を執るイエハル。その動きを見ながらマリアは思案していた。相手との間合いを意識し、犠牲を覚悟の上で突き進む戦い方。何処か理論に偏ったように見える動き方。後で聞いてみたいものだ。
「さすがに数が多いですね……」
 宇羅幕府の構成を前にセアラは治療にひっきりなしになっていた。敵の数は此方よりも多く、その戦意も侮れない。余裕があれば攻撃に回るつもりだったが、どうやらそんな余裕はなさそうだ。魔力全てを癒しに回し、呪文を展開する。
「回復なしの構成がここまでとは、ね」
 錬金術で相手の動きを阻害しながら、マグノリアは頷いていた。回復能力を持たない敵陣を侮るつもりはないが、予想以上の攻勢に驚いていた。攻撃は最大の防御、を実践するかのようにこちらの体力を削ってくる。長引くなら、回復を視野に入れなければならないかもしれない。
「全員が攻めの姿勢。ならば私も全力で攻めるのみです」
 サムライたちの戦意を受けながら、アンジェリカが口を開く。数合打ち合えば、互いの想いは推し量れる。彼らが手にする刀に勝るとも劣らない戦意を受け、それに応じるようにアンジェリカも闘気を返す。裂帛と共に放たれた一撃が敵陣を穿つ。
「その通りです! 我々はイ・ラプセルの義を貫くのみ!」
 仲間を攻撃から守りながら、デボラは叫ぶ。アマノホカリに都合があるように、イ・ラプセルにも都合がある。ともに譲ることのできない大事なモノの為に武器を持ち、戦いに挑むのだ。
「敵ながら見事。元より油断などしておらぬが、気を引き締めねばな」
 無論、宇羅幕府の武将も負けてはいない。イエハルの指示の下、サムライとニンジャが武を振るう。アンジェリカとマリアがフラグメンツを燃やし、攻撃を引き受けていたデボラが膝をついた。
 だが猛攻もそこまで。カウントダウンの手によってトモコが倒れると、そこから雪崩れるように自由騎士の流れとなる。アンジェリカやマリアがニンジャやサムライの数を減らしてきたのも、大きかった。一人、また一人と宇羅幕府の陣営は倒れ伏す。
「これで終わりです。幕引きとしましょう」
 最後に残ったイエハルにアンジェリカが迫る。魔術師であるイエハルにこれを防ぐ術はなく、耐えられるものではない。そうと分かっていても最後まで目を逸らさなかった。
「ただひたすらに突き進む。それだけが、私達に出来る事なのです」
 振り下ろされたアンジェリカの一撃が、イエハルの意識を刈り取った。


 戦い終わり、傷を癒した自由騎士達は捕縛したイエハル達に迫る。
「生きているのか……。あれほど激しい戦いであったと言うのに」
「神の思し召しです」
 イエハルの言葉に、アンジェリカが祈るように手を合わせて言う。正確にはアクアディーネの権能なのだが。
「そう言う事だよ……。生きているなら、僕らの勝ちだ」
 優しく言い放つマグノリア。この場合の『僕ら』は自由騎士だけではなくイエハル達宇羅幕府の軍勢も含まれる。自由は制限されるが、生きているのならまだ何かが出来る可能性がある。それは負けではない。
「戦いは終わったな。後の処理は任せる」
 カウントダウンは天津朝廷の使者と話をしていた。戦って相手を倒すまでが仕事だ。それ以上のことは、カウントダウンの仕事ではない。やるべきことをこなし、報酬を受け取る。そこまでが仕事だと割り切っていた。
「お見事な采配でした。貴殿のような者と戦えたことを、誇りに思います」
 言ってイエハルに一礼するデボラ。勝ったからと言って相手を蔑ろにしない。むしろ相手に敬意を表することで、遺恨を消す。敗者にも慈愛をもって接することこそが、復讐の連鎖を打ち消す一歩となるのだと信じていた。
「ともに譲れない道だからこそ、刃を交える。その強い意志、確かに受け取りました」
 アンジェリカは武器を収め、戦ったサムライたちにそう言い放つ。彼らは憎むべき敵ではない。卑劣な存在ではない。ただ自国を護りたいだけの兵士なのだ。だからこそ全力で戦う。それが戦士の礼儀なのだと信じているから。
「これが詰将棋……。ここからキングを追い詰めていくのですね」
 マリアはイエハルにアマノホカリに伝わるボードゲーム『将棋』の事を聞いていた。イエハルが懐から出した『詰将棋』と呼ばれる将棋のクイズ(イエハル自作)を渡され、こういうモノもあるのかと感激する。チェスにはない遊び方だ。
(平和……この戦いの末に、平和があると信じて)
 怪我人の治療を終えたセアラが、空を見上げて静かに思う。激しい戦いで傷ついた仲間や敵。それを思うといつも疑問に思ってしまう。しかしいつか訪れるであろう平和の為に、今戦いを止めるわけにはいかないのだ。ここで手を止めれば、犠牲になるのはイ・ラプセルの民なのだから。

 かくして戦いは終わり、避難していた村人達は戻ってくる。
 大きな犠牲もなく戻ってきた日常。すこし慌しかったが、滞りなく始まる農作業。遊ぶ子供達の声と、それを見て微笑む大人たちの顔。
 その平和こそが、自由騎士が望んだ最大の報酬だった。


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『象棋考格』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:マリア・カゲ山(CL3000337)

†あとがき†

どくどくです。
史実の徳川家治は『将棋自体はアマ棋士程度、詰め将棋は名作揃い』と言った感じのようです。

以上のような結果になりました。
それではまた、イ・ラプセルで。
FL送付済