MagiaSteam




Ruinshop! 朽ちた英雄、潰えた船!

●通商連に向かった経緯
パノプティコン国攻略に向けて、自由騎士達はインディオと繋ぎを取る作戦をとることにした。国内と国外から同時に仕掛け、パノプティコンを揺るがそうという作戦だ。
その為には交渉の『材料』として、インディオが通商連を通じて国外に逃がした彼らの家族と接触を取る必要がある。その為に自由騎士達は通商連に繋ぎを取った。その結果――
●通商連
「インディオですか。ええ、通商連に居ますよ」
『通商連議長』カシミロ・ルンベック(nCL3000024)は変わらぬ口調で言い放つ。船内を歩き、彼らがいるフロアまで案内してくれた。褐色の肌に奇妙な紋様の入った民族衣装。水鏡で見たインディオに酷似していた。
早速交渉に向かおうとする自由騎士達は、通商連の兵士に止められる。
「おや? 私達の『所有物』に勝手に触れないでいただきたいのですが」
あごを擦りながらいうカシミロ。
「私達はインディオの方々と正当な取引をもって『彼ら』を受け入れました。いわば通商連のモノです。
イ・ラプセルのモノではありませんよ」
人をモノ扱いする通商連。だが、それが世間ではまだ一般的な考えなのだ。
それを抜きにしても、カシミロの言葉には正当性がある。インディオ達は通商連を信じて託したのだ。イ・ラプセルではなく、中立である通商連を。その信頼を『イ・ラプセルの作戦のため』に利用しとうと言うのなら、それはインディオ達への裏切りに値する。インディオ達は家族の無事を条件に、大事なモノを売って託したのだ。
「……それは」
「ふぅむ。何やら事情がおありのようだ。わたくしも商売人。対価を払ってくれるのなら、何も聞かずにお通しするのもやぶさかではありません」
つまり、彼らと話をしたいのならまず通商連のいう事を聞け、という事である。何を要求されるのかと身構えたのだが、
「いえいえいえ。やってもらいたいのはイブリース退治です。自由騎士の方々ならお得意でしょう。
実は船が丸ごとイブリース化したようでして。そのイブリースによりヴィスマルクとの交易に差支えが出ているのです。イブリースが出る場所を回避して進むのは些か手間でしてね。しかし退治しても依頼人がいるわけでもない為、儲けがあるわけでもなく」
最後の一文は、いかにも通商連らしい言葉だった。要約すると、『イブリースは邪魔だけど、タダ働きはしたくない』という事だ。だがそこに交渉可能な自由騎士がやってきたのである。利用しない手はないだろう。
「交易先がヴィスマルクというのは些か不服だが……」
だが、それを理由に断ればインディオの家族との交渉ルートは途絶えるだろう。業腹だがやるしかない。だが――
「ええ。よろしくお願いします。これがそのイブリース船の情報でして」
カシミロから渡された情報を見て、自由騎士は呻きをあげる。この数と強さは確かに軽々に手を出したくはない。大規模戦レベルの戦力が必要になる。
――かくして『交渉する権利』を得るために自由騎士達は総出でイブリース船に向かうのであった。
●愚者、若しくは剣に生きた修羅
かつて、神に挑もうとした者がいた。
剣一本で戦いを重ねて強さを極め、国というしがらみを捨てて幻想種と手を組んだ。意志を持つ魔法の船を手に入れ、ヴィスマルクに挑んだ愚か者。
個人の強さでは他者を圧倒するも、度重なる波状攻撃と卑劣な策略により仲間は一人また一人と消えていく。そして最後には海上で消息を絶ったという。
生きていれば、御年200歳を超える剣士。その名は抹消され、誰の記憶にも残らない。ただヴィスマルクへの恨みを持ち、強さを求めて彷徨う狂戦士――
パノプティコン国攻略に向けて、自由騎士達はインディオと繋ぎを取る作戦をとることにした。国内と国外から同時に仕掛け、パノプティコンを揺るがそうという作戦だ。
その為には交渉の『材料』として、インディオが通商連を通じて国外に逃がした彼らの家族と接触を取る必要がある。その為に自由騎士達は通商連に繋ぎを取った。その結果――
●通商連
「インディオですか。ええ、通商連に居ますよ」
『通商連議長』カシミロ・ルンベック(nCL3000024)は変わらぬ口調で言い放つ。船内を歩き、彼らがいるフロアまで案内してくれた。褐色の肌に奇妙な紋様の入った民族衣装。水鏡で見たインディオに酷似していた。
早速交渉に向かおうとする自由騎士達は、通商連の兵士に止められる。
「おや? 私達の『所有物』に勝手に触れないでいただきたいのですが」
あごを擦りながらいうカシミロ。
「私達はインディオの方々と正当な取引をもって『彼ら』を受け入れました。いわば通商連のモノです。
イ・ラプセルのモノではありませんよ」
人をモノ扱いする通商連。だが、それが世間ではまだ一般的な考えなのだ。
それを抜きにしても、カシミロの言葉には正当性がある。インディオ達は通商連を信じて託したのだ。イ・ラプセルではなく、中立である通商連を。その信頼を『イ・ラプセルの作戦のため』に利用しとうと言うのなら、それはインディオ達への裏切りに値する。インディオ達は家族の無事を条件に、大事なモノを売って託したのだ。
「……それは」
「ふぅむ。何やら事情がおありのようだ。わたくしも商売人。対価を払ってくれるのなら、何も聞かずにお通しするのもやぶさかではありません」
つまり、彼らと話をしたいのならまず通商連のいう事を聞け、という事である。何を要求されるのかと身構えたのだが、
「いえいえいえ。やってもらいたいのはイブリース退治です。自由騎士の方々ならお得意でしょう。
実は船が丸ごとイブリース化したようでして。そのイブリースによりヴィスマルクとの交易に差支えが出ているのです。イブリースが出る場所を回避して進むのは些か手間でしてね。しかし退治しても依頼人がいるわけでもない為、儲けがあるわけでもなく」
最後の一文は、いかにも通商連らしい言葉だった。要約すると、『イブリースは邪魔だけど、タダ働きはしたくない』という事だ。だがそこに交渉可能な自由騎士がやってきたのである。利用しない手はないだろう。
「交易先がヴィスマルクというのは些か不服だが……」
だが、それを理由に断ればインディオの家族との交渉ルートは途絶えるだろう。業腹だがやるしかない。だが――
「ええ。よろしくお願いします。これがそのイブリース船の情報でして」
カシミロから渡された情報を見て、自由騎士は呻きをあげる。この数と強さは確かに軽々に手を出したくはない。大規模戦レベルの戦力が必要になる。
――かくして『交渉する権利』を得るために自由騎士達は総出でイブリース船に向かうのであった。
●愚者、若しくは剣に生きた修羅
かつて、神に挑もうとした者がいた。
剣一本で戦いを重ねて強さを極め、国というしがらみを捨てて幻想種と手を組んだ。意志を持つ魔法の船を手に入れ、ヴィスマルクに挑んだ愚か者。
個人の強さでは他者を圧倒するも、度重なる波状攻撃と卑劣な策略により仲間は一人また一人と消えていく。そして最後には海上で消息を絶ったという。
生きていれば、御年200歳を超える剣士。その名は抹消され、誰の記憶にも残らない。ただヴィスマルクへの恨みを持ち、強さを求めて彷徨う狂戦士――
†シナリオ詳細†
■成功条件
1.『銀の乙女像』『左舷』『右舷』『舵』の打破
唐突の、決戦!
何の前触れもなく決戦です。いえーい!
●敵情報
・イブリース船
かつてヴィスマルクに沈められた大型船です。その恨みを受けたのか、はたまたただの偶然か。ヴィスマルクに向かう船を襲撃するイブリースとなりました。浄化、もしくは破壊されれば元通りに朽ちていきます。
便宜上、戦闘部位を【船首】【左舷】【右舷】【甲板】に分けます。それぞれの部位に一定以上のダメージを与えることが出来れば、浄化もしくは破壊可能です。
★【船首】
銀の乙女像が取り付けられています。近寄る者に熱線を撃ち放ちます。乙女像を破壊すれば、この場での戦闘は終了です。
会話は可能ですが、説得はできません。浄化すれば、【術具】のバリエーションが増えるかもしれません。
船首を守るように(データ的には船首を後衛において、前衛に)戦闘開始時50体の浮遊霊がいます。
・銀の乙女像(×1)
攻撃方法
怖い人消えて 魔遠範 熱線を放ち、爆発を起こします。【バーン2】
近寄らないで 攻近範 空気の刃を生み出し、周囲を切り裂きます。【スクラッチ2】
呪ってあげる 魔遠全 心を乱す不協和音。【ダメージ0】【不安】
・浮遊霊(×50)
攻撃方法
ドレインタッチ 魔近単 凍える手で触ってきます。【Mアタック50】
★【左舷】
左舷からの砲門が自由騎士達を待ち受けています。砲は人がいないのに撃ち続けられます。左舷を破壊すれば、この場での戦闘は終結です。
左舷を守るように(データ的には左舷を後衛において、前衛に)シー・サーペント(還リビト)が邪魔をします。浄化すれば、【重装備】のバリエーションが増えるかもしれません。
・左舷
攻撃方法
一斉掃射 攻遠範 旧式の砲門ですが、威力は充分です。【三連】
・シーサーペント(×1)
攻撃方法
体当り 攻近範 長い胴で出体当りしてきます。
毒吐息 魔遠全 瘴気と呼ばれるブレス。【ポイズン1】【ヒュプノス1】
鉤爪 攻近単 鋭い爪で切り裂いてきます。【致命】【必殺】
超巨体 P かなりの大きさです。30名までブロックできます。
★【右舷】
右舷からの砲門が自由騎士達を待ち受けています。砲は人がいないのに撃ち続けられます。右舷を破壊すれば、この場での戦闘は終了です。
右舷を守るように(データ的には右舷を後衛において、前衛に)セイレーン(還リビト)が邪魔をします。浄化すれば【楽器】のバリエーションが増えるかもしれません。
・右舷
・右舷
攻撃方法
一斉掃射 攻遠範 旧式の砲門ですが、威力は充分です。【三連】
・セイレーン(×1)
攻撃方法
魔弾の射手 魔遠範 音が魔力となって、矢のように突き刺さる。
死と乙女 魔近範 少女の幻影が死に誘う。【移動不能】【グラビティ2】
魔王 魔遠全 背後から迫りくる死の宣告。【ヒュプノス2】【生命逆転】
海原を漂う妃と王子 P 音で波が荒れ、迂闊に奥に進めません。30名までブロックできます(ミズビト除く)。
★【甲板】
巨大な剣を持った老人(ノウブル)が立ちふさがっています(前衛)。喋れますが、敵対的です。破壊にしか興味がなく、自由騎士も『強さの糧』にしか見えません。
甲板奥(後衛)にある舵を破壊すれば、この場での戦闘は終了します。
・舵(×1)
攻撃方法
急速旋回 攻遠全 派手に揺れて、戦況を揺るがします。飛行&浮遊している相手には無効。一定の技能は防御にプラス判定があります。【スロウ2】【パラライズ2】【移動不能】
・老人(×1)
攻撃方法
薙ぎ払い 攻近範 こいつを喰らっていきなァ!【ブレイク2】
単騎突撃 攻遠全 ヒャッハァ! 全員斬り殺すゥ! 回避-20
骨砕き(EX) 攻近単 これでも喰らえェ! 【ウィーク3】【致命】
とどめ 攻近単 オラァ! オラァ! オラァ! 【必殺】【三連】
海の男 P 船に長く居過ぎたかぁ? 船の揺れによるペナルティをすべて無効化します。
剣圧 P オレを無視していくンじゃねェ――! 70名までブロックできます。
●場所情報
時刻は夜。船や船乗りなどは用意してあるものとし、移動などのペナルティは地上と同じとします。
便宜上戦場を【船首】【左舷】【右舷】【甲板】に分けます。プレイングの冒頭もしくはEXプレイングに行く場所を記載してください。書かれていない場合、ランダムに割り振ります(人の少ない所に行く、『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。
※兵隊活用
兵隊に敵をブロックさせたい場合は、必ずプレイング中で指示(どの敵を何人ブロックする等)してください。
同様に兵隊に何かをしてもらう時には、他のアイテムやスキル同様にプレイングでの言及が必要となります。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
何の前触れもなく決戦です。いえーい!
●敵情報
・イブリース船
かつてヴィスマルクに沈められた大型船です。その恨みを受けたのか、はたまたただの偶然か。ヴィスマルクに向かう船を襲撃するイブリースとなりました。浄化、もしくは破壊されれば元通りに朽ちていきます。
便宜上、戦闘部位を【船首】【左舷】【右舷】【甲板】に分けます。それぞれの部位に一定以上のダメージを与えることが出来れば、浄化もしくは破壊可能です。
★【船首】
銀の乙女像が取り付けられています。近寄る者に熱線を撃ち放ちます。乙女像を破壊すれば、この場での戦闘は終了です。
会話は可能ですが、説得はできません。浄化すれば、【術具】のバリエーションが増えるかもしれません。
船首を守るように(データ的には船首を後衛において、前衛に)戦闘開始時50体の浮遊霊がいます。
・銀の乙女像(×1)
攻撃方法
怖い人消えて 魔遠範 熱線を放ち、爆発を起こします。【バーン2】
近寄らないで 攻近範 空気の刃を生み出し、周囲を切り裂きます。【スクラッチ2】
呪ってあげる 魔遠全 心を乱す不協和音。【ダメージ0】【不安】
・浮遊霊(×50)
攻撃方法
ドレインタッチ 魔近単 凍える手で触ってきます。【Mアタック50】
★【左舷】
左舷からの砲門が自由騎士達を待ち受けています。砲は人がいないのに撃ち続けられます。左舷を破壊すれば、この場での戦闘は終結です。
左舷を守るように(データ的には左舷を後衛において、前衛に)シー・サーペント(還リビト)が邪魔をします。浄化すれば、【重装備】のバリエーションが増えるかもしれません。
・左舷
攻撃方法
一斉掃射 攻遠範 旧式の砲門ですが、威力は充分です。【三連】
・シーサーペント(×1)
攻撃方法
体当り 攻近範 長い胴で出体当りしてきます。
毒吐息 魔遠全 瘴気と呼ばれるブレス。【ポイズン1】【ヒュプノス1】
鉤爪 攻近単 鋭い爪で切り裂いてきます。【致命】【必殺】
超巨体 P かなりの大きさです。30名までブロックできます。
★【右舷】
右舷からの砲門が自由騎士達を待ち受けています。砲は人がいないのに撃ち続けられます。右舷を破壊すれば、この場での戦闘は終了です。
右舷を守るように(データ的には右舷を後衛において、前衛に)セイレーン(還リビト)が邪魔をします。浄化すれば【楽器】のバリエーションが増えるかもしれません。
・右舷
・右舷
攻撃方法
一斉掃射 攻遠範 旧式の砲門ですが、威力は充分です。【三連】
・セイレーン(×1)
攻撃方法
魔弾の射手 魔遠範 音が魔力となって、矢のように突き刺さる。
死と乙女 魔近範 少女の幻影が死に誘う。【移動不能】【グラビティ2】
魔王 魔遠全 背後から迫りくる死の宣告。【ヒュプノス2】【生命逆転】
海原を漂う妃と王子 P 音で波が荒れ、迂闊に奥に進めません。30名までブロックできます(ミズビト除く)。
★【甲板】
巨大な剣を持った老人(ノウブル)が立ちふさがっています(前衛)。喋れますが、敵対的です。破壊にしか興味がなく、自由騎士も『強さの糧』にしか見えません。
甲板奥(後衛)にある舵を破壊すれば、この場での戦闘は終了します。
・舵(×1)
攻撃方法
急速旋回 攻遠全 派手に揺れて、戦況を揺るがします。飛行&浮遊している相手には無効。一定の技能は防御にプラス判定があります。【スロウ2】【パラライズ2】【移動不能】
・老人(×1)
攻撃方法
薙ぎ払い 攻近範 こいつを喰らっていきなァ!【ブレイク2】
単騎突撃 攻遠全 ヒャッハァ! 全員斬り殺すゥ! 回避-20
骨砕き(EX) 攻近単 これでも喰らえェ! 【ウィーク3】【致命】
とどめ 攻近単 オラァ! オラァ! オラァ! 【必殺】【三連】
海の男 P 船に長く居過ぎたかぁ? 船の揺れによるペナルティをすべて無効化します。
剣圧 P オレを無視していくンじゃねェ――! 70名までブロックできます。
●場所情報
時刻は夜。船や船乗りなどは用意してあるものとし、移動などのペナルティは地上と同じとします。
便宜上戦場を【船首】【左舷】【右舷】【甲板】に分けます。プレイングの冒頭もしくはEXプレイングに行く場所を記載してください。書かれていない場合、ランダムに割り振ります(人の少ない所に行く、『特定のNPC』を殴る、など書かれてあってもです)。
他戦場への移動は時間的かつ距離的な問題で不可能です。
※兵隊活用
兵隊に敵をブロックさせたい場合は、必ずプレイング中で指示(どの敵を何人ブロックする等)してください。
同様に兵隊に何かをしてもらう時には、他のアイテムやスキル同様にプレイングでの言及が必要となります。
●決戦シナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼相当です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『アクアディーネ(nCL3000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
皆様からのプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬マテリア
3個
3個
5個
5個




参加費
50LP
50LP
相談日数
7日
7日
参加人数
52/∞
52/∞
公開日
2020年06月20日
2020年06月20日
†メイン参加者 52人†
●船首Ⅰ
「イブリース船と戦うんだぞ!」
元気よく拳を振り上げる『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)。実のところ、話の流れはあまりよく理解していない。だがしかし困った人がいる所に現れるのが勇者で、イブリースを倒すのは自由騎士の務めだ。うん、それだけ分かっていれば問題ない。
「みんな、頑張るんだぞ! サシャが癒すんだぞ!」
元気よく叫んで魔力を展開させるサシャ。海上を漂うマナを体内に取り入れて、自分の魔力と使って循環させる。そうして人体を癒す方向に返還された力を言葉と共に戦場中に広げていく。癒しの波動が自由騎士達の傷を塞いでいく。
「えいえいおー! なんだぞ!」
「しかしまあ『嫌じゃない厄介事』を押し付けるのが何とも言えないわね。上手いというかなんというか」
イブリース船の女神像を見ながら『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)は苦笑する。下手に金銭や悪事と言った『やりたくない事を強要』するのではなく、双方ともに心地良くなる案件を提案するのは、流石商売人と言った所か。
「ま、どうせやるなら気持ちよくやりましょう!」
気持ちを戦いに切り替えるきゐこ。『緑鬼魔杖』を手にして、魔力を伝達させる。発生した赤のマナは高温の炎となって戦場に広がっていく。アマノホカリのオニビトが住まう山からの滅びの颪。吹き荒れる熱波が霊達を焼いていく。
「んー。血が欲しいわね……。兵隊から吸ってもいいかしら?」
「気持ちはわかりますが、か弱い兵隊さんが可哀想ですよぉ~。これでも食べてください」
護衛兵から血を吸いたそうにするきゐこを制するように、『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は持っていた和菓子を差し出す。同じ魔術師として魔力枯渇の苦しさは理解できるが、それで兵隊が再起不能になれば元も子もない。
「それではわたしもいきますねぇ~。そ~れ」
どこか間延びしたような声を出すシェリル。だがそこに集う魔力と炎の温度はけして気を抜いていいものではない。魔導書を基点として展開される破滅の炎。紅く燃え盛る炎の蹂躙が戦場を走り、イブリース達を燃やしていく。
「さぁ銀の乙女さん。申し訳ありませんが、ご退場いただきますぅ」
『ひぃ……ヴィスマルク兵怖い……』
「うちらヴィスマルクちゃうけどな。……て、言うても分からんか」
言って頭を掻く『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)。この船は既に沈没した船のイブリース化。いわば意思のある船の還リビト。妄念に取り憑かれた相手に言葉は通じない。
「ま、イブリースなんやったら気楽やわ。とっとと浄化して貰うもん貰うで!」
言うなり駆け出すアリシア。この戦いは通商連との交渉。インディオと交渉する『権利』を買うための労働だ。機械の足で地面を蹴って海上を駆ける。近寄る霊達を足で薙ぎ払い、仲間達の道を切り開く。
「船首は任せたで! こいつらは引き受けたわ!」
「ふむ。この浮遊霊達、剣士と共に戦った仲間達かこの船の船乗りかの?」
霊達を見ながら『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)は推測する。当てずっぽうではあるが、大きく間違ってはいないはずだ。大国ヴィスマルクに挑み、そして夢かなわず散っていった。さぞ無念だろうよ、と頷いた。
「夢破れても山河あり。せめて安らかに眠るがよい。さて参るか」
たとえ夢が適わなくとも、世界が潰えるわけではない。現世に執着する亡者に安らかな休息を。天輝は数珠を手にして印を結ぶ。因果を律する何かに緩衝し、浄化の炎を解き放った。一切合切灰と化せ。
「しかし数が多いの。やれやれ中々に骨が折れる」
「はい、でも……皆、解放してあげたいです」
暴れる霊や怯える銀の乙女像を見ながら『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)はそう呟く。イブリースとなって海を漂い、暴れる幽霊船。その在り方にティルダは哀しみを感じていた。ヨウセイ種族は、一歩間違えればシャンバラで『ああ』なっていた可能性があるのだから――
(だからわたしは、『死』から目をそらさないようにこの魔術を)
『藍花晶の杖』を握りしめ、ティルダは唇をかみしめる。差別されたからこそ、差別から目をそらさない。死から目をそらさず、それを扱うように死霊術を身に着けた。幽霊たちの顔をしっかりとみて、死の魔力を解き放った。
「安らかに眠ってください」
攻め立てる自由騎士達。その勢いは強く、船首に漂う浮遊霊達は少しずつ数を減らしていく。
●左舷Ⅰ
イブリース船の左舷では、シーサーペントの咆哮が響き渡る。その方向を打ち消すように、自由騎士達も鬨の声をあげて戦っていた。
「全く、交渉だというからやってきたのに」
文句を言いながらスチムマータを操る『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)。通商連との交渉は一筋縄ではいかない、という事を聞いていたがまさか荒事をやらされるとは。
「些か想定外だが、毒食らわば皿だ。手早く片付けよう」
ライモンドは腹をくくったかのように戦場に目を向け、蒸気人形に射撃を命ずる。命令に従い魔力を込めたマータは号令と共に魔力の光を放つ。狙う先は左舷の砲台。シーサーペントなどどうでもいい。目的優先で動いていた。
「サッサと片付けるぞ。そしてカシミロ様から報酬を受け取らなくてはな」
「はい。ですがイブリースであるなら放置はできません」
頷き、そして戦場を見るセアラ・ラングフォード(CL3000634)。イブリースは人を襲い、世界を破壊する。目的に必要ないとはいえ、それを放置するのは騎士として貴族としてイブリースを放置するわけにはいかない。
(国というしがらみを捨ててヴィスマルクに挑んだ存在。……いいえ、今更ですね)
魔力を練り上げてセアラは自由騎士達を守る。魔力を癒しの力に転化し、解き放った。シーサーペントの猛威と、そして左舷からの止まぬ砲撃。それから仲間を癒すことがセアラの役割だ。気になることはあるが、今はそれを気に止める余裕はなかった。
「回復が不要な方は言ってください。行きますよ」
「はいはーい。ちょうだいちょうだーい」
手をあげて回復を求める『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)。常に最前線で行動しているリサは、敵の攻撃をまともに受ける場所に居る。傷つきながらも笑顔を絶やさずに戦っていた。
「砲門は任せたよ! とりゃー!」
拳を握って気合を入れ、リサはシーサーペントに挑む。巨体にひるむことなく突貫し、矢次に拳を叩き込んでいく。毒のブレスに耐えながら、ただ真っ直ぐに突き進む。その精神力こそがリサの最大の武器だ。
「後ろには通さないよ!」
「船を守らんとする忠義見事。その心意気に応えよう」
言って抜刀する『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)。イブリースになっても主の乗る船を守るために、船に随行する幻想種。生前どれほどの忠誠だったかがうかがえるようだ。その在り方にヨツカは感服していた。
「この一刀、その手向けと受け取るがいい」
言葉と同時にシーサーペントに向かって突撃し、刃を振るうヨツカ。鋼の一閃が戦場を走り、次の瞬間にシーサーペントの鮮血が広がった。そしてシーサーペントの身体に乗りながら、さらに一閃。振るわれる刃が、亜竜の鱗を裂いていく。
「汝らの意思は次に受け継ぐ。その道を抱き、滅されよ!」
「ぬめぬめしてやがんなぁ!」
『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はシーサーペントを斧で攻撃しながらそんな事を呟いていた。そのぬめりは濁流ともいえる海を渡るための潤滑剤で、海生生物の防具だ。だが風の精霊のマザリモノであるジーニーには気持が悪いだけであった。
(インディオかー。私も半分はインディオの血が流れてるんだよな)
ふとそんなことを想うジーニー。彼女を生んだ母親は、幼子のジーニーと共にパノプティコンの管理下に入る。故にインディオの事はほとんど知らないでいた。どんな生活をしているのか、見れるのなら見たいものだ。その為にも――
「お前らにはここで倒れてもらうぜ!」
「あんな船までイブリースになるのね……」
無人で砲撃を続ける船を見ながら『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は呆れたようにため息をついた。動植物のイブリース化は知っているし、乗り物がイブリースになった例も知っている。だがここまで巨大なものというのはそうそうなかった。もしかしたらもっと大きなものまで……。
「……いいえ、いまはそれを考えている時間はないわ」
頬を叩いて意識を戦いに向けるアンネリーザ。盾兵に陣を組ませてバリケードを作り、その隙間からライフルを出して攻撃していく。彼らは守るために訓練された兵士。その鍛錬を信じ、その献身に応える様に自らを奮起して引き金を引いた。
「集中して……撃つ!」
「あのウロコをスケイルアーマーにするのではなく盾に貼りつければ……いけませんいけません!」
首を振って我に返る『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。シーサーペントの鎧よりも扱いやすい盾の方がいいのでは? しかし両手武器を持つ騎士のことを考えると確かに鎧の方が効率的なのだ。
「セアラ様にマグノリア様、私の後ろに!」
回復を行う二人を守るように展開するデボラ。『輝剣ジャガンナータ』を構え、盾を構えるデボラ。回復を行う仲間を守り、自由騎士達を守る。それが世界を守ることに繋がると信じて、イブリースに立ちふさがった。
「私の役目は守る事。全てを守りきって見せます!」
シーサーペントの咆哮にも負けぬほどのデボラの思いの籠った声。そしてその思いはこの戦場に居るもの全て同じ想いだった。
●右舷Ⅰ
右舷に響くのは、セイレーンの奏でる音楽。聞く物を惑わして殺すと言われた海の幻想種。その魔曲が海上に広がっていた。
「これは……気を抜くとやられそうですね。油断せずに行きましょう」
魔力の籠った歌を聞きながら『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)は眉をひそめた。奏でる音律一つ一つが魔法のキーとなっている。人間では出せない音域である以上使用は諦めるしかないが、だからこそ生まれる効果に舌を巻く。
「対策がないわけでもありません。眠りと重力には耐性があります」
事前に用意してきた魔術結界により、一定の状態異常に体制を作ってきたマリア。相手の魔力を受け流しながら、魔力を行使していく。杖を手にして、魔力で生み出した氷の弾丸を解き放つ。
「セイレーンの攻撃はともかく、右舷からの弾丸が厳しいですね」
「あれが、イブリース」
サーナ・フィレネ(CL3000681)はセイレーンと巨大な船を見てそう言い放つ。自由騎士の他の人達から色々聞いてはいるが、直で見るとその恐ろしさが肌から伝わってくるようだ。エストックを握りしめ、呼吸を整える。
「行くよ」
短くいって、セイレーンに迫るサーナ。アゲハチョウの羽根を広げ。舞うようにセイレーンを攻め立てる。神経に魔力を伝達させて反応速度を上げ、イメージすると同時に体を動かし刃を振るっていく。
「あなたがイブリースになるほどの想いって何?」
「もっと歌いたかった、とかだろうな」
ハーブを手にしてセイレーンの音楽に合わせるように奏でながら、『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は笑みを浮かべる。還リビトではあるが、美人の女幻想種だ。オルパの美人センサーに引っかかったのか、優しく語りかけた。
「悲しい曲は君に似合わない。生まれ変わったら俺と共に恋の歌を歌ってくれ」
言いながらハーブをしまい、二本のダガーを構える。魔力を込めたダガーが複雑怪奇な奇跡を描き、イブリースを切り裂いていく。オルパの言葉が冗談なのか本気なのか。それはオルパ自身にしかわからない。だがセイレーンを浄化し船の呪縛から解き放とうとする気迫は、間違いないく本気だ。
「オレがエスコートしてやるよ」
「確かにイブリースは倒さないとな。美人かどうかはともかく」
オルパの言葉にそう返す『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)。タンパクともいえる態度だが、戦い方は氷雪を束ねた磨剣を扱う苛烈な魔剣士である。冷たい刃に宿る魔力のように、強い意志をもってルエは戦いに挑む。
「ブロックは任せた。オレは水から攻める」
兵隊にブロックを任せ、ルエは『アイス・ファルシオン』を構える。ミズビトの加護で自在に海中を泳ぎ渡り、セイレーンが生み出す渦を無視するように距離を詰めていく。浮上と同時に放たれた磨剣の一閃がセイレーンの体力を削っていく。
「流石はイブリース。簡単には倒れないか」
「ほんまに。しつこい女は嫌われるのになぁ」
ため息をつくように『艶師』蔡 狼華(CL3000451)が呟く。海上に響くセイレーンの歌声。綺麗ではあるが狼華の趣味には合わなかった。声質はともかく技量が足りない。魔力を込めるだけの歌声に興味はないと切り捨てる。
「ほな、いきますか。こういう拍子で歌えばええで」
二刀を構えて狼華が走る。セイレーンとの距離を一気に詰め、舞うように刃を振るう。足の動き、腕の動き、そして表情。艶やかにして優雅。異なる二つの『美』を融合させた狼華の斬撃。それがセイレーンを傷つけていく。
「体に刻んだるから、よう覚えぇや」
自由騎士の攻めに合わせるようにセイレーンの歌も高く悲しく響いていく。
●甲板Ⅰ
「おいおい。千客万来だなぁ!」
甲板に上がった自由騎士達を出迎えたのは、己の身の丈ほどある剣を持つ老人だった。
「これはなかなかヒャッハーなご老人ですね」
『冥王剣「タルタロス」』を手に『魔剣聖』クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)が声をあげる。こちらを見る瞳とその笑い方が、何とも言えずに凶悪だったのだ。だがそれに怯えず前に進む。
「ヒャッハァァァァァッ! 我こそはイ・ラプセル最強の魔剣士にして魔剣聖、クレヴァニール・シルヴァネールなりぃぃぃぃぃっ!」
言うなり魔力を展開し、自らを強化するクレヴァニール。天に輝く七つの星の並び。それを自らの身体に打ち込み、身体能力を強化する。みなぎる力を爆発させるように地を蹴って、老人に切りかかる。
「魔導と剣技の複合せし者ぉ! それが魔剣聖ぃぃぃぃぃぃ! とくと味わぇ!」
「爺さん、強いんだろう? やろうぜ」
強化を終えた『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)が指を曲げて挑発するように老人に語りかける。他の幻想種も、イブリース船も、そもそもインディオにも興味はない。強いヤツがそこに居る。ロンベルの興味はただそれだけだった。
「風情あるじゃねぇか。夜の幽霊船なんざ、殺し合うのに十分な場所だ!」
獰猛な笑みを浮かべて老人に挑むロンベル。一撃に渾身の力を込めて攻撃を重ねる。ただ強さを求め、戦い続ける。老人とロンベルは似た形の強者だ。相手の攻撃で傷つき、しかしその痛みさえも高揚剤。ただひたすらに戦い続ける。
「俺があんたの死神だ。その強さと命、俺の糧にさせて貰うぜ」
「あー、ヤダヤダ。あんなおじいちゃん相手にしてらんないって」
ホムンクルスを使って盾にしながら『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は呟く。錬金術で強化しながら、老人の動きを観察していた。どんな相手にも癖やパターンがある。それを見抜いて、仲間に伝達するのだ。
「まあ実際ワンパターンなのよね。でっかい剣なんで隙大きいし。……大きいはずなんだけどなぁ?」
隙あり、次はこう攻める。クイニィーにしてみれば、それは明白だ。そしておおよそその通りに動く。だが、指示した瞬間に『おおよそ』以外の動きを取る。当たり前だ。動きのパターンは決まっていても、実際にどう動くかは『対戦相手』の動きにも影響する。チョキを良く出す人でも、相手がグーを出すかもと分かれば手管を変えるだろう。
「んー。前もって仲間と打ち合わせしてればうまくいけたかな? まあいいや」
「やれやれ、随分元気なご老人だ」
自由騎士相手に丁々発止するのを見て『重縛公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はため息をついた。これでも自由騎士は二大国の騎士団を相手取った実力があるのだ。それなのに、後れを取る気配がない。
「さて、船を止めねばな。舵はあそこか」
「おおっと、邪魔すンじゃねぇよ」
舵に向かい魔力を飛ばすテオドールに遠距離から攻撃を仕掛ける老人。
「ご老人。貴卿の邪魔をする訳ではない。私は存分に、全力で、ここに集った猛者たちとやり合う環境を整えているだけ――」
「だったら黙ってみてなぁ。人の船壊そうとするのを正当化すンじゃねぇよ」
確かに老人からすれば『船に押し入って大事な船を壊そうとしている』相手だ。マナーや正当性などあったものではない。
「守ってくださいね、うさぎさん」
『か弱いうさぎさんですよぉ』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はウサギ型のホムンクルスを作り出し、身を守ってもらっていた。錬金術でダメージを癒しながら、時折氷の弾丸を放って舵を狙う。
「船が揺れて動きとまるのは怖いです」
ホムンクルスに抱えられる形で船の揺れに耐えているティラミス。時折斬りかかってくる老人の斬撃も合わさって、ホムンクルスはボロボロになっていた。ティラミスはそんなホムンクルスに優しく手をかざし、癒しの術を行使していく。
「もう少し頑張ってください。みんなを助けるために」
「私はイ・ラプセル自由騎士団所属、キース・オーティス」
老人の動きを見て『黒薔薇』キース・オーティス(CL3000664)は唸りをあげる。粗野で荒々しく型(スタイル)のない独自の動き。だがその動きは的確に急所を断つ剣の道の極み。それを見て、キースは名乗りを上げていた。
「見事な剣筋、名のあるお方とお見受けいたしました。お名前をお聞かせ願いたい!」
「名前は、これだぁ!」
返答とばかりに斬りかかってくる老人。その一撃こそが我が名、とばかりの返答だ。その重さを受け取り、キースも刃を返す。老人の剣に生きた道。キースの国への忠誠心。同じ人間の持つ、信念の重さを込めた一撃を。
「私の剣は国への忠義を込めている。軽くとも侮るなよ」
「皆さん、無理をなさらずに……」
激化する戦いを見ながら 『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)は祈るように手を合わせる。癒し手として傷つく仲間がいないか心配であると同時に、癒しのタイミングを誤れば戦況をひっくり返されない状況に焦りを感じていた。
「慌てずに、焦らずに……」
たまきは焦燥感を押さえるように呟き、癒しの魔力を解き放つ。無造作に癒し続ければ魔力が付き、かといって躊躇すればその遅れが致命的になりかねない。戦場全体を冷静に見ながら、たまきは仲間達を癒し続ける。仲間の信頼に応えるように。
「皆さんは私が護ります」
甲板での戦いは少しずつ加速していく――
●船首Ⅱ
船首での戦いは佳境に迫っていた。
「かつて大国に挑んだ勇士達。彼らは未だに戦い続けているのですね」
『常に全力浄化系シスター』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈るように手を合わせ、迫る浮遊霊に敬意を表した。彼らの抱く思いはヴィスマルクへの反骨心だ。その精神に敬意を表し、救うために戦い挑む。
「同じ時代を歩んでいたのなら、同士になりえたかもしれません。迷える魂よ、安らかに」
鎮魂の祈り。アンジェリカは心の底から彼らの勇気を褒めたたえ、そして惜しんだ。だが共に歩むのは叶わぬこと。せめて彼らの遺志を引き継ぎ、前に進もう。祈りが弾丸となって浮遊霊達に穿たれていく。
「勇気ある者達よ。正しい道に進み、浄化されんことを」
「もう少しで露払いは終わりそうだネ」」
『ペンスィエーリ・シグレーティ』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は状況を見ながら突撃の号令のタイミングを計っていた。浮遊霊と自由騎士達のバランスを計り、遜色ないと判断したら突撃する。そのタイミングを計るのが、軍師としての経験だ。
「相手はイブリース。ボクらが何度も浄化してきた相手だ。少し大きいけど、浄化できることには変わりないから、恐れないでネ」
鼓舞するようにアクアリスが叫ぶ。船という巨大な相手だが、浄化するポイントが分かっているのだから恐れる事はない。回復による支援を絶やすことなく、指示を繰り返すアクアリス。あとは突撃した者達の奮闘を祈るだけだ。
「退路の確保もしないといけないし、ここからが本番だ」
「殿はキリが努めます!」
アクアリスの言葉に胸を張る『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)。後衛で仲間を守りながら、さらに退却時の殿も務める。楽な立ち位置ではないが、それが自分の役目だと言わんがばかりに微笑んだ。あるいは一つの焦りがあったのかもしれない。
(早くインディオの人達に会いたいのに……! ううん、焦っちゃダメ)
自分の生まれ故郷。その手掛かりを知るかもしれないインディオ達。彼らに会えば何かわかるかもしれない。キリは焦燥に駆られながも、的確に攻撃をさばいていた。ローブを振るって攻撃を受け流し、サーベルで切り流しながらひたすら耐える。
「まだまだ倒れません! キリが皆を守ります!」
「道……開いた、行く……よ」
開いた戦端をまっすぐに進むノーヴェ・キャトル(CL3000638)。浮遊霊達を突っ切って、一気に銀の乙女像に迫る。意志を持つ銀の女神像。その表情は彫刻ゆえに読めないが、迫るノーヴェに怯える雰囲気は伝わってきた。
「戦うの……怖い? 『ザワザワ』したり、『つめたく』……なる?」
ノーヴェは感情を表すとき、心の動きと温度で表現する。動揺し、そして絶望している心の動き。それを彼女なりに言葉にしていた。もしそうなら、そんな想いはしてほしくない。イブリースになったことが原因でそうなったのなら、それは止めなくては。
「怖く、ない……から。すぐに、終わらせる、よ」
「戦争なんて痛いし怖いし苦しいものですからね。早く終わらせるに越したことはないんです」
『ベルなんとかオリジナル』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は言って乙女像の前で胸を張る。そのまま言葉を続けた。
「銀の乙女像さん、良いですわねカッコ良くて綺麗。お名前聞かせて下さいます?」
「……え? あの、その……」
「無いならわたくしがつけますわよー。シルバーレディとかどうかしら?」
「レディとかそんな……あ、レティシアです。Rで始まります」
エリシアの勢いに圧倒されて言葉を紡ぐ乙女像。
「あの、怖くないです? 像が喋ってるんですよ? っていうか敵ですよね、攻撃してますし。ヴィスマルクですよね?」
「敵でも人でなくても、折角会話が出来るんだから会話するのですわ! あとイ・ラプセルです」
「イ……? ああ、あの島国の」
「いい島だよ。できるなら一度立ち寄ってほしい」
乙女像に優しく語りかけるアダム。最前線で相手の攻撃を受け止めながら、乙女像を見ていた。悲しみに暮れる乙女。それをも救いたいとアダムは願っていた。戦う事に恐怖する船を、平和な祖国に導いてあげたい。
「嘆き哀しむ者がいれば誰だろうと救うとも。乙女よ、銀の乙女よ。貴女が哀しむのならば、僕は貴女を救うとも」
言葉は真っ直ぐに。たとえ相手がイブリースであったとしても、そこに悲しむ者がいるなら手を刺し伸ばすのがアダムという騎士だ。何度裏切られても何度傷ついても、それでも『すべて』を救うために戦い続ける。その信念こそがアダムを奮い立たせていた。
「乙女には笑顔が似合っている。その哀しみを消すまで、僕は倒れない」
「流石だね。一曲歌いたくなるぐらいの名シーンだよ」
会話を聞いた『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)はうんうんと頷いた。悲しむ乙女像を救おうとする騎士。劇の議題にはぴったりだ。ならば救おう。それが自分の偽善であったとしても、そうしなければ乙女像は悲しみ続けるのだから。
「怖いんだよね。ずっと攻め立てられて。カノン達も同じだから言い訳はしないよ。ただ、この一撃で安らかにしてあげる」
揺れる船の上でバランスをとりながら、重心を一点に収める。大事なのは全身のバランス。正しい姿勢で構え、正しい動作で拳を放つ。基本の型こそ武の奥義。長年続けてきたセンセーの教えのままにカノンは拳を振るう。
「我が魂の音を奏でろ! 神紅!」
「ア、アア、アアアアアアアア――!」
カノンの一撃が乙女像に叩き込まれ、同時にアクアディーネの権能がイブリースを浄化する。
乙女像の哀しみの気配は、海から消え去っていた。
●左舷Ⅱ
「ヴィスマルクに塩を送る形になるが、まあ仕方ない」
ウェルスの言葉に肩をすくめる『国家安寧』ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)。これは交渉に至る前段階。それを得るために一軍投入レベルの戦いになるとは。しかも敵国に利をもたらす結果となるのだ。ガブリエラでなくとも何か言いたくはなる。
「盾兵、前に。お前達の命、しかと預かった!」
兵士に命令して自らを守らせるガブリエラ。未来ある若者を前に立たせることに忸怩たる思いはあるが、これも役割分担。任務を遂行するために割り切って戦いに挑む。展開される魔力を癒しの力に変え、自由騎士達を癒していく。
「この後に待ち構える真の交渉が上手く運ぶように、ここで手を抜く訳には行かんな」
「セーフティ、アンロック! ロザベル、出ます!」
今が好機と判断したロザベル・エヴァンス(CL3000685)が突貫する。ヘルメリア戦役の後に自由騎士に参入した生粋のヘルメリア人。イ・ラプセルに助けられた恩を返すべく、蒸気騎士の鎧をまとって戦いに参加した。
「マーチラビット、射出! 左舷を狙い撃ちます!」
初陣の恐怖に怯えることなく戦うロザベル。まだ幼い少女だが、訓練の結果か恩義を返す気概か。その動きに戸惑いはなかった。歯車の回転する音と蒸気の熱を感じながら、まだまだやれると信じてシーサーペントに挑む。
「まだまだいけます!」
「すげぇすげぇ。こういう戦いを書き記したいもんだ」
巨大な海蛇に挑む騎士達。それを見ながら『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)は頷いた。戦う事よりも戦いを歌にするのが好きなリュエル。この戦いもいつか歌にする日が来る。そう信じて、目を離さずにいた。
「おおっと、見てばかりもいられないか。人手足りないもんな」
笑みを浮かべて戦場を飛び回るリュエル。船やシーサーペントの身体事態を足場にして縦横無尽に飛び回り、隙を見つけて飛びかかって刃を振るう。間近で見るサーペントの迫力に驚きながらも、これも詩に出来るのではと考えていた。
「陽光を受けて輝く銀蛇……ちがうな、銀に輝くウロコが日を受けて……」
「皆、頑張ってるね……。じゃあ、支援していこうか」
前衛で戦う者達を見ながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷く。イブリース化した幻想種と、それを引き連れるイブリース化した船。彼らがヴィスマルクとどう戦い、敗北したか。気にはなるが今はそれを調べる時間も余裕もない。
「余裕があれば嫌がらせぐらいはしたいけど……さすがに、無理か」
シーサーペントと左舷から飛び交う砲弾。その脅威から仲間を癒しながら、マグノリアはため息をついた。試験管内の紅色の液体に魔力を通し、空気中に散布する。霧となった液体が仲間達に纏わりつき、治癒力を高めていく。
「回復は厚めにしよう。ブレスの毒が、地味に厳しい」
「ヴィスマルクに挑んだ船と幻想種、か」
セーイ・キャトル(CL3000639)はイブリース化したシーサーペントを見て、静かに呟いた。可哀想、と思ったわけではない。依頼の件は無視してもイブリースは倒さなければならない。あれは既に死んだモノだ。それを浄化するのは、正しい。だけど――
「この船の船長は、仲間になった筈のお前達を道ずれに死にに向かっただけだ。ただ、自分の力を示す為と……死ぬなら派手に死にたいってだけで……」
如何に強くともヴィスマルクに挑むのは無謀だし、無理だと判断して引き返すこともできたはずだ。セーイはそれが許せない。無茶な突貫は自殺と同意だ。自分の自殺に意味をつけたいだけの、ただの愚者でしかない。
「それだけのヒトだったなら……英雄なんかじゃない!」
「若いな。悪くはないが冷静になれ。感情で戦うのは危険だぜ」
『パーペチュアル・チェッカー』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はシーサーペントを押さえながら言葉を放つ。メインの攻撃対象は左舷だが、幻想種を押さえておくことには意味がある。至近距離で銃を撃ち、ウロコの隙間を的確に射貫く。
「全く、いい商売しているぜ通商連は」
ウェルスは商人として通商連のやり方に苦笑していた。こちらが欲しい顔をしたら、途端に取引を仕掛けてくる。それが互いにとって利益あると判断できるものを用意し、一定の信頼関係を維持する。よくできたものだ。
「トドメは派手にやらせてもらうぜ!」
充分に疲弊したシーサーペントに、巨大な筒を向けるウェルス。蒸気式のロケットランチャーを構え、十分に狙う。安全装置を段階的に外していき、狙いを定めて引き金を引いた。蒸気噴射で飛ぶ火薬を詰め込んだ弾丸が、シーサーペントに着弾し――
「シギャアアアアアアアアアア!」
絶命の咆哮。ウェルスの一撃で完全に沈黙したシーサーペント。
まだ左舷は抵抗を続けるが、自由騎士達の戦力を前に沈黙するのは時間の問題だった。
●右舷Ⅱ
セイレーンの歌が響く海域で、自由騎士達は戦い続ける。
「水夫を遭難させるセイレーンの歌声……。私達はまだ、遭難するわけにはいきません」
『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)は宙に浮き、船の揺れから離れた足場を確保して戦っていた。美しい声と詩で魅了するセイレーン。しかし自由騎士達の任務にかける意志と心の強さがあれば迷う事はない。
「無茶された方を無理矢理起こすのは気が引けますが……」
レオンティーナは倒れている仲間を診て、意を決したように魔術を展開する。戦い傷ついて倒れた仲間を無理やり起こすのは気が引ける。だがここで負けるわけにはいかなかった。倒れた仲間の身体を癒し、同時に立ち上がる力を分け与える。
「大丈夫ですか? 無理はしてほしくはないのですが……」
「問題ない。むしろありがとう!」
『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は起き上がると同時に指を立て、盾を拾い上げる。ずっしりとした重さが、むしろ安心感を与えてくれた。手になじむ盾を構え、幽霊船に挑む者の盾となる。
「色々思う所はあるけど、幽霊船は許しちゃおけないよな!」
インディオと話をする為の戦い。そんな背景はナバルにとっては些末だ。イブリースが航路を邪魔して、それで困る人がいる。それだけで盾を構えるには十分だった。雄叫びをあげて前に立ち、盾を構えてセイレーンの魔力を受け止める。
「あんたらにも仲間意識はあるんだろうけど、それはこっちも同じなんだ!」
「すまないな。お陰で他の者を癒せそうだ」
ナバルに守られた『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は、水銀を手に魔力を展開する。セイレーンの魔曲から眠りに落ちた者や、意識を刈り取られそうになるものを重点的に癒し、戦線を維持する。
「海で生まれた物のイブリース化、か。……できれば、海に還してやりたいものだ」
ヴィスマルクに逆らって沈没した船と、それに付き添った幻想種。彼らが生前抱いた想いなど、リュリュには想像もできない。だから今自分に出来る事は、生まれ故郷の海に還すことだけだ。いたずらに彷徨わせることではない。
「とはいえ、いうほど容易ではないな」
「ま、じっくり行こうや。どの道そうするしかないんだしな」
頭を掻きながら『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)は頷いた。なんでこんなことになったのやら。当然、事の経緯は理解している。だが改めて思えばいいように利用されている感があるのは否めない。あのヒゲダルマめ、と心の中で悪態をつく。
「全く楽させてほしいよね。世の中なんでこんなに厳しいんだか」
肩をすくめながら魔力を展開するニコラス。戦争という状況下で楽をしようとするのなら、他者を蹴落として不幸を押し付けるしかない。それが出来ないからこうなっているのは理解しているが、それでもそういう道を選べなかった。
「ステラの為なら考えてもいいけど……でもそういう事するとあいつ怒りそうだよなぁ」
「お父さんも大変ね。娘の安全の為なら、許されると思うけど」
ニコラスに同情するように言う天哉熾 ハル(CL3000678)。モラルと言う概念は理解できるが、それでも娘が助かるのならそうすべきというのがハルの考えだ。とはいえ他人に理解されようなどとは思わない。
「それじゃ行きましょうか」
『倭刀・忠兵衛』を構えてハルはセイレーンに迫る。柄を握る手に魔力を集め、刃にらせん状に魔力を展開する。刃を突き出すと同時に魔力が解き放たれ、回転するように進む魔力が敵を貫いていく。魔力の突きは後衛の右舷砲台まで届き、傷跡を残した。
「あら、いい色の血。欲しくなっちゃった」
心臓を突き刺した刀。その刀身を伝うセイレーンの血。それを見てハルは笑みを浮かべていた。刀を抜くと同時に浄化され、倒れるセイレーン。ハルはそれに見向きもせず、刀に残った血を指ですくって、舐めとる。
「ふふ。悪くないわね」
できればもっと欲しい所だが、今はまだ戦いの途中だ。右舷を止めるまでは我慢しなくては。
だが守り手を失った右舷の抵抗も、自由騎士達の猛攻の前では砂上の楼閣だ。一気に攻められ、浄化されるだろう――
●甲板Ⅱ
「派手にやられたなァ。ここまでやられるとは大したもんだ」
イブリース船の損壊を見て、老人が肩をすくめる。
「爺ちゃんヴィスマルク嫌イ。オレ達、ヴィスマルクと戦ウすル。ヤリたい事とヤる事一緒」
戦いの手を止めず、『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)は老人に語りかける。老人もエイラもヴィスマルクに挑むものだ。
「でも、コノ戦イは最後までスる。戦ウは止め無い」
だが、戦う事はやめない。この戦い自体に戦局的な意味はなくとも、個人的な意味はある。それは強さを求める意味でもあり、戦いの果てに何かを得られるという意味でもある。それは戦った者にしかわからない領域だ。
「オレ達勝たラ、爺ちゃんモ一緒戦うスるヴィスマルクと! きっと楽シ。多分!」
「ヤなこった。だいたいオレに勝つゥ? ンな事あるわけねェだろうが!」
返信とばかりにエイラに叩き込まれる剣。にべもない返事だが、エイラにとって重要なのは気持ちのぶつけ合い。エイラの言葉に老人が答えた。その結果は一刀両断だが、そのやり取りが大事だった。
「何故だ」
そんな老人に『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が問いかける。どうしても納得いかないことがあるからだ。老人の気を引く意味もあるが、なによりもツボミが納得いかないことだ。
「クソ爺。何故貴様こんな所で足踏みしている? ヴィスマルクをマトに決めたんだろうが貴様! だったら何でヴィスマルクを殴り続けんのだ間抜け!」
目的を忘れ、この海域でうろついている老人に向けて叫ぶ。
「ああン? 決まってンだろうが。コイツラと行かねぇと意味がねぇンだよ」
老人は船を指差し、簡素に答える。自分一人でたどり着いても意味がない。共に戦った船や幻想種と一緒じゃないと意味がない、と。例え思い通りに進まない幽霊船でも、見捨てることはできない。
「馬鹿が。そこでそういう我を通すか。貴様一人ならヴィスマルクにたどり着けただろうに」
「カッカッカ! ンなもん当然だろうが。足手まとい全部背負ってこそのオレだ。文句あっか?」
「あるっちゃあるな。爺さんがヴィスマルクをひっかきまわしてくれりゃ、俺らが楽出来たんだしな」
銃を構えて『機神殺し』ザルク・ミステル(CL3000067)が口を開く。一つの国を相手にした復讐。その気持ちはザルクも理解できるし、老人の精神も納得はできる。だからと言ってああなりたいとは思わない。
「敗北者を相手するほど暇じゃなくてな! 悪いがサクッとやらせてもらうぜ!」
この戦いの目的はイブリース船の排除であって、老人ではない。ザルクは老人から目を離すことなく、舵に狙いをつけて弾丸を撃ち放つ。イブリース退治に特化した銀の弾丸。それを撃ち放ち、イブリース船にダメージを重ねていく。
「やべぇ爺さんは任せたぞ!」
「ええ。任されました」
頷く『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)。これまでは回復に徹していたが、機を見ると同時に一気に距離を詰めて殴りかかる。交差する金属と金属。老人の視線を受け止めながら、リンネは笑みを浮かべる。
「個の力なら誰にも負けないと思ってるんでしょう? その力正面から打ち破って見せましょう」
「はッ、正面から受けてカウンター狙いか。狼は悪知恵が働くぜ」
挑発するリンネにそう返す老人。正々堂々と戦うとは言ってはいないが、あからさまな誘いと露骨な戦術は老人にはあっさり看破される。言葉通り真正面から真っ直ぐに喧嘩を挑んでいれば、何かしらの奇跡は起きたかもしれないが。
「仕方ありませんね。ではこれで――」
「ええ。伝説の剣士が相手なら、不足がないわ」
呼吸を整えながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は拳を打ち鳴らして戦いに挑む。相手の剣の間合を測りながら、足を止めずに打ち込んでい――
「ほらよ」
「っ!?」
持っていた剣を投擲され、慌てて避けるエルシー。ダメージ目的ではなく不意を突く為のフェイントだ。そのまま素手で飛びかかってくる老人。至近距離ならエルシーの間合だ。数度打ち合い、打撃を放つ。エルシーの拳を受け止めるようにして老人は下がり、落ちていた剣を拾う。
「剣の間合だけ見過ぎだぜ、若ぇの」
「……まさかそんな戦い方をするなんて、予想外だわ」
「ですね。ですがこちらも負けれはいられません」
呼吸を整え『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は拳を構える。正に老獪ともいえる相手の動きだが、それでも動きの基本は理解できる。海の上でもぶれない体幹と、そして隙を逃さず攻め立てる躊躇のない攻め。そして何より――
「経験則……なのでしょうかね。こちらの狙いが分かっているみたいですね」
「思いっきり殴ってほしそうな顔してるからな。神の使徒ってのは荒行が好きなのかね」
タイミングを計って相手に打撃を返そうと狙うミルトス。だが相手もそれを分かっているのかミルトスに対しては小技を繰り返す。相手に大技を出させる何かがあれば、或いは誘導できたかもしれない。
(強さへの妄念しかないのだから、こちらも勇猛さとか無謀さを示せば乗ったかもしれませんね。……私の性格では無理なのですが)
「ははあ、おじいさんお見事ですね。リグも手を合わせ……させて? いただきます」
言ってなむなむと手を合わせる『Who are You?』リグ・ティッカ(CL3000556)。黒鉄の手甲と投擲用の針を手に、老人に迫る。闇に紛れる鉤爪を振るい、毒を仕込んだ針を投擲する。
「さすがです。夜でこのかぎ爪を見切られたのは初めてかもです」
「足運びでバレバレなンだよ。武器と自分のバランスを考慮しな」
「おお、歴戦ぽい台詞。感謝します」
ぱちぱちと手を叩くリグ。けっ、と舌打ちする老人の態度をリグは不快には思わなかった。この人にはこの人の人生がある。リグはそれがない。……あったのかもしれないが、思い出せない。
「リグはおじいさんに比べれば薄っぺらいですが、おじいさんの重たい年月のひとかけらでも背負わせて頂きたいものですね」
「背負うだァ?」
「おじいさんのお名前は何ですか? ヴィスマルクに乗り込む折にはあなた方の想いも背負って参りましょう、てことです」
「つまんねぇこと言ってンじゃねぇよ。オレの名前は、コイツだァ!」
容赦なく、リグに叩き込まれる老人の一撃。
「このオレにそんだけ偉いクチ叩いたんだ。この技ぐらい背負って行け」
的確に急所を突き、相手を弱らせる老人の技。リグはその一撃を真正面から受ける。それが覚えられたかどうかは、リグ次第だろう。そしてそれを背負っていけるかどうかも、だ。
「Kiiiiiiiiiiiiiiiiiillllllllllllllllll!」
仲間を傷つけられた怒りか、或いは相手を脅威と思ったか『黒き狂戦士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)が絶叫する。宙に浮いて船の揺れから逃れながら、老人に切りかかる。防御など考えない。ただ女神の敵を斬る事のみがナイトオウルの望みだった。
「LeeeeeeeeeeeeeaVeeeeeee!」
「いい感じにトチ狂ったのもいるじゃねぇか。命捨ててかかってくるなンざァ――」
女神の侵攻への狂気。強さを求める狂気。ナイトオウルと老人の剣が交差する。打ち鳴らされる金属音は互いの精神を示すかのように激しくそして耳に残る。雄叫びと横行、そしてけして交差することのない心の在り方のぶつかり合いがそこにあった。
「Godddddddddddesssssssss! Aquadine!!!!!」
「最後まで付きあってやるぜェ! オラァ!」
女神への信仰の為に。多くの信徒を救うために狂うナイトオウル。そこの防御の構えはない。肉を切らせて骨を断つ。己が命を失おうとも、老人を殺せるのならそれでいい。数多の刀傷を受け、同じだけの刀傷を相手に与え、血を流し、痛みが体中に走り、そして――
「もうこの船はもたねェな。だが――付き合ってくれるンだろう、お前は?」
自由騎士達の攻撃により、舵は砕けてもはや航海不可能となった。イブリース化が解け、崩壊していく船の中で老人はナイトオウルを誘うように指を動かす。付き合う理由はない。これ以上戦って、得るものはない。
「Deeeeeeeeeeeeeeeeathhhhhhhhhhhhhh!」
だがナイトオウルは神の敵を野放しにすることは許せなかった。女神の敵を討つ。それのみが己の意味。それのみが己の信仰。それのみが己の狂気。故に神の敵を見逃すことなど許されない。崩壊する船の中、狂える戦士達は戦い続ける――
●
「全員無事か?」
予備戦力として待機していた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は、船の崩壊を機に動き出す。戦闘を終えた自由騎士達を回収し、無事を確認する。
「ナイトオウルも無事を確認できた。船の残骸に引っかかっていたようだ」
「あの老人は見当たらないな。……まあ、生きてはいないだろう」
船の残骸が散らばった海域で見つかったのはナイトオウルのみだった。敵である老人を無理に探す理由もない。今は仲間の無事を確認し、帰路につく。幽霊船を倒すという目的は達したのだ。
通商連は自由騎士達の戦果を聞いて、流石ですと頷くと同時にインディオへの交渉権を約束する。
動き始めるパノプティコン戦略。その第一歩が刻まれた――
「イブリース船と戦うんだぞ!」
元気よく拳を振り上げる『教会の勇者!』サシャ・プニコフ(CL3000122)。実のところ、話の流れはあまりよく理解していない。だがしかし困った人がいる所に現れるのが勇者で、イブリースを倒すのは自由騎士の務めだ。うん、それだけ分かっていれば問題ない。
「みんな、頑張るんだぞ! サシャが癒すんだぞ!」
元気よく叫んで魔力を展開させるサシャ。海上を漂うマナを体内に取り入れて、自分の魔力と使って循環させる。そうして人体を癒す方向に返還された力を言葉と共に戦場中に広げていく。癒しの波動が自由騎士達の傷を塞いでいく。
「えいえいおー! なんだぞ!」
「しかしまあ『嫌じゃない厄介事』を押し付けるのが何とも言えないわね。上手いというかなんというか」
イブリース船の女神像を見ながら『日は陰り、されど人は歩ゆむ』猪市 きゐこ(CL3000048)は苦笑する。下手に金銭や悪事と言った『やりたくない事を強要』するのではなく、双方ともに心地良くなる案件を提案するのは、流石商売人と言った所か。
「ま、どうせやるなら気持ちよくやりましょう!」
気持ちを戦いに切り替えるきゐこ。『緑鬼魔杖』を手にして、魔力を伝達させる。発生した赤のマナは高温の炎となって戦場に広がっていく。アマノホカリのオニビトが住まう山からの滅びの颪。吹き荒れる熱波が霊達を焼いていく。
「んー。血が欲しいわね……。兵隊から吸ってもいいかしら?」
「気持ちはわかりますが、か弱い兵隊さんが可哀想ですよぉ~。これでも食べてください」
護衛兵から血を吸いたそうにするきゐこを制するように、『食のおもてなし』シェリル・八千代・ミツハシ(CL3000311)は持っていた和菓子を差し出す。同じ魔術師として魔力枯渇の苦しさは理解できるが、それで兵隊が再起不能になれば元も子もない。
「それではわたしもいきますねぇ~。そ~れ」
どこか間延びしたような声を出すシェリル。だがそこに集う魔力と炎の温度はけして気を抜いていいものではない。魔導書を基点として展開される破滅の炎。紅く燃え盛る炎の蹂躙が戦場を走り、イブリース達を燃やしていく。
「さぁ銀の乙女さん。申し訳ありませんが、ご退場いただきますぅ」
『ひぃ……ヴィスマルク兵怖い……』
「うちらヴィスマルクちゃうけどな。……て、言うても分からんか」
言って頭を掻く『カタクラフトダンサー』アリシア・フォン・フルシャンテ(CL3000227)。この船は既に沈没した船のイブリース化。いわば意思のある船の還リビト。妄念に取り憑かれた相手に言葉は通じない。
「ま、イブリースなんやったら気楽やわ。とっとと浄化して貰うもん貰うで!」
言うなり駆け出すアリシア。この戦いは通商連との交渉。インディオと交渉する『権利』を買うための労働だ。機械の足で地面を蹴って海上を駆ける。近寄る霊達を足で薙ぎ払い、仲間達の道を切り開く。
「船首は任せたで! こいつらは引き受けたわ!」
「ふむ。この浮遊霊達、剣士と共に戦った仲間達かこの船の船乗りかの?」
霊達を見ながら『酔鬼』氷面鏡 天輝(CL3000665)は推測する。当てずっぽうではあるが、大きく間違ってはいないはずだ。大国ヴィスマルクに挑み、そして夢かなわず散っていった。さぞ無念だろうよ、と頷いた。
「夢破れても山河あり。せめて安らかに眠るがよい。さて参るか」
たとえ夢が適わなくとも、世界が潰えるわけではない。現世に執着する亡者に安らかな休息を。天輝は数珠を手にして印を結ぶ。因果を律する何かに緩衝し、浄化の炎を解き放った。一切合切灰と化せ。
「しかし数が多いの。やれやれ中々に骨が折れる」
「はい、でも……皆、解放してあげたいです」
暴れる霊や怯える銀の乙女像を見ながら『その瞳は前を見つめて』ティルダ・クシュ・サルメンハーラ(CL3000580)はそう呟く。イブリースとなって海を漂い、暴れる幽霊船。その在り方にティルダは哀しみを感じていた。ヨウセイ種族は、一歩間違えればシャンバラで『ああ』なっていた可能性があるのだから――
(だからわたしは、『死』から目をそらさないようにこの魔術を)
『藍花晶の杖』を握りしめ、ティルダは唇をかみしめる。差別されたからこそ、差別から目をそらさない。死から目をそらさず、それを扱うように死霊術を身に着けた。幽霊たちの顔をしっかりとみて、死の魔力を解き放った。
「安らかに眠ってください」
攻め立てる自由騎士達。その勢いは強く、船首に漂う浮遊霊達は少しずつ数を減らしていく。
●左舷Ⅰ
イブリース船の左舷では、シーサーペントの咆哮が響き渡る。その方向を打ち消すように、自由騎士達も鬨の声をあげて戦っていた。
「全く、交渉だというからやってきたのに」
文句を言いながらスチムマータを操る『現実的論点』ライモンド・ウィンリーフ(CL3000534)。通商連との交渉は一筋縄ではいかない、という事を聞いていたがまさか荒事をやらされるとは。
「些か想定外だが、毒食らわば皿だ。手早く片付けよう」
ライモンドは腹をくくったかのように戦場に目を向け、蒸気人形に射撃を命ずる。命令に従い魔力を込めたマータは号令と共に魔力の光を放つ。狙う先は左舷の砲台。シーサーペントなどどうでもいい。目的優先で動いていた。
「サッサと片付けるぞ。そしてカシミロ様から報酬を受け取らなくてはな」
「はい。ですがイブリースであるなら放置はできません」
頷き、そして戦場を見るセアラ・ラングフォード(CL3000634)。イブリースは人を襲い、世界を破壊する。目的に必要ないとはいえ、それを放置するのは騎士として貴族としてイブリースを放置するわけにはいかない。
(国というしがらみを捨ててヴィスマルクに挑んだ存在。……いいえ、今更ですね)
魔力を練り上げてセアラは自由騎士達を守る。魔力を癒しの力に転化し、解き放った。シーサーペントの猛威と、そして左舷からの止まぬ砲撃。それから仲間を癒すことがセアラの役割だ。気になることはあるが、今はそれを気に止める余裕はなかった。
「回復が不要な方は言ってください。行きますよ」
「はいはーい。ちょうだいちょうだーい」
手をあげて回復を求める『黒砂糖はたからもの』リサ・スターリング(CL3000343)。常に最前線で行動しているリサは、敵の攻撃をまともに受ける場所に居る。傷つきながらも笑顔を絶やさずに戦っていた。
「砲門は任せたよ! とりゃー!」
拳を握って気合を入れ、リサはシーサーペントに挑む。巨体にひるむことなく突貫し、矢次に拳を叩き込んでいく。毒のブレスに耐えながら、ただ真っ直ぐに突き進む。その精神力こそがリサの最大の武器だ。
「後ろには通さないよ!」
「船を守らんとする忠義見事。その心意気に応えよう」
言って抜刀する『背水の鬼刀』月ノ輪・ヨツカ(CL3000575)。イブリースになっても主の乗る船を守るために、船に随行する幻想種。生前どれほどの忠誠だったかがうかがえるようだ。その在り方にヨツカは感服していた。
「この一刀、その手向けと受け取るがいい」
言葉と同時にシーサーペントに向かって突撃し、刃を振るうヨツカ。鋼の一閃が戦場を走り、次の瞬間にシーサーペントの鮮血が広がった。そしてシーサーペントの身体に乗りながら、さらに一閃。振るわれる刃が、亜竜の鱗を裂いていく。
「汝らの意思は次に受け継ぐ。その道を抱き、滅されよ!」
「ぬめぬめしてやがんなぁ!」
『砂塵の戦鬼』ジーニー・レイン(CL3000647)はシーサーペントを斧で攻撃しながらそんな事を呟いていた。そのぬめりは濁流ともいえる海を渡るための潤滑剤で、海生生物の防具だ。だが風の精霊のマザリモノであるジーニーには気持が悪いだけであった。
(インディオかー。私も半分はインディオの血が流れてるんだよな)
ふとそんなことを想うジーニー。彼女を生んだ母親は、幼子のジーニーと共にパノプティコンの管理下に入る。故にインディオの事はほとんど知らないでいた。どんな生活をしているのか、見れるのなら見たいものだ。その為にも――
「お前らにはここで倒れてもらうぜ!」
「あんな船までイブリースになるのね……」
無人で砲撃を続ける船を見ながら『ピースメーカー』アンネリーザ・バーリフェルト(CL3000017)は呆れたようにため息をついた。動植物のイブリース化は知っているし、乗り物がイブリースになった例も知っている。だがここまで巨大なものというのはそうそうなかった。もしかしたらもっと大きなものまで……。
「……いいえ、いまはそれを考えている時間はないわ」
頬を叩いて意識を戦いに向けるアンネリーザ。盾兵に陣を組ませてバリケードを作り、その隙間からライフルを出して攻撃していく。彼らは守るために訓練された兵士。その鍛錬を信じ、その献身に応える様に自らを奮起して引き金を引いた。
「集中して……撃つ!」
「あのウロコをスケイルアーマーにするのではなく盾に貼りつければ……いけませんいけません!」
首を振って我に返る『愛の盾』デボラ・ディートヘルム(CL3000511)。シーサーペントの鎧よりも扱いやすい盾の方がいいのでは? しかし両手武器を持つ騎士のことを考えると確かに鎧の方が効率的なのだ。
「セアラ様にマグノリア様、私の後ろに!」
回復を行う二人を守るように展開するデボラ。『輝剣ジャガンナータ』を構え、盾を構えるデボラ。回復を行う仲間を守り、自由騎士達を守る。それが世界を守ることに繋がると信じて、イブリースに立ちふさがった。
「私の役目は守る事。全てを守りきって見せます!」
シーサーペントの咆哮にも負けぬほどのデボラの思いの籠った声。そしてその思いはこの戦場に居るもの全て同じ想いだった。
●右舷Ⅰ
右舷に響くのは、セイレーンの奏でる音楽。聞く物を惑わして殺すと言われた海の幻想種。その魔曲が海上に広がっていた。
「これは……気を抜くとやられそうですね。油断せずに行きましょう」
魔力の籠った歌を聞きながら『みつまめの愛想ない方』マリア・カゲ山(CL3000337)は眉をひそめた。奏でる音律一つ一つが魔法のキーとなっている。人間では出せない音域である以上使用は諦めるしかないが、だからこそ生まれる効果に舌を巻く。
「対策がないわけでもありません。眠りと重力には耐性があります」
事前に用意してきた魔術結界により、一定の状態異常に体制を作ってきたマリア。相手の魔力を受け流しながら、魔力を行使していく。杖を手にして、魔力で生み出した氷の弾丸を解き放つ。
「セイレーンの攻撃はともかく、右舷からの弾丸が厳しいですね」
「あれが、イブリース」
サーナ・フィレネ(CL3000681)はセイレーンと巨大な船を見てそう言い放つ。自由騎士の他の人達から色々聞いてはいるが、直で見るとその恐ろしさが肌から伝わってくるようだ。エストックを握りしめ、呼吸を整える。
「行くよ」
短くいって、セイレーンに迫るサーナ。アゲハチョウの羽根を広げ。舞うようにセイレーンを攻め立てる。神経に魔力を伝達させて反応速度を上げ、イメージすると同時に体を動かし刃を振るっていく。
「あなたがイブリースになるほどの想いって何?」
「もっと歌いたかった、とかだろうな」
ハーブを手にしてセイレーンの音楽に合わせるように奏でながら、『黒衣の魔女』オルパ・エメラドル(CL3000515)は笑みを浮かべる。還リビトではあるが、美人の女幻想種だ。オルパの美人センサーに引っかかったのか、優しく語りかけた。
「悲しい曲は君に似合わない。生まれ変わったら俺と共に恋の歌を歌ってくれ」
言いながらハーブをしまい、二本のダガーを構える。魔力を込めたダガーが複雑怪奇な奇跡を描き、イブリースを切り裂いていく。オルパの言葉が冗談なのか本気なのか。それはオルパ自身にしかわからない。だがセイレーンを浄化し船の呪縛から解き放とうとする気迫は、間違いないく本気だ。
「オレがエスコートしてやるよ」
「確かにイブリースは倒さないとな。美人かどうかはともかく」
オルパの言葉にそう返す『水底に揺れる』ルエ・アイドクレース(CL3000673)。タンパクともいえる態度だが、戦い方は氷雪を束ねた磨剣を扱う苛烈な魔剣士である。冷たい刃に宿る魔力のように、強い意志をもってルエは戦いに挑む。
「ブロックは任せた。オレは水から攻める」
兵隊にブロックを任せ、ルエは『アイス・ファルシオン』を構える。ミズビトの加護で自在に海中を泳ぎ渡り、セイレーンが生み出す渦を無視するように距離を詰めていく。浮上と同時に放たれた磨剣の一閃がセイレーンの体力を削っていく。
「流石はイブリース。簡単には倒れないか」
「ほんまに。しつこい女は嫌われるのになぁ」
ため息をつくように『艶師』蔡 狼華(CL3000451)が呟く。海上に響くセイレーンの歌声。綺麗ではあるが狼華の趣味には合わなかった。声質はともかく技量が足りない。魔力を込めるだけの歌声に興味はないと切り捨てる。
「ほな、いきますか。こういう拍子で歌えばええで」
二刀を構えて狼華が走る。セイレーンとの距離を一気に詰め、舞うように刃を振るう。足の動き、腕の動き、そして表情。艶やかにして優雅。異なる二つの『美』を融合させた狼華の斬撃。それがセイレーンを傷つけていく。
「体に刻んだるから、よう覚えぇや」
自由騎士の攻めに合わせるようにセイレーンの歌も高く悲しく響いていく。
●甲板Ⅰ
「おいおい。千客万来だなぁ!」
甲板に上がった自由騎士達を出迎えたのは、己の身の丈ほどある剣を持つ老人だった。
「これはなかなかヒャッハーなご老人ですね」
『冥王剣「タルタロス」』を手に『魔剣聖』クレヴァニール・シルヴァネール(CL3000513)が声をあげる。こちらを見る瞳とその笑い方が、何とも言えずに凶悪だったのだ。だがそれに怯えず前に進む。
「ヒャッハァァァァァッ! 我こそはイ・ラプセル最強の魔剣士にして魔剣聖、クレヴァニール・シルヴァネールなりぃぃぃぃぃっ!」
言うなり魔力を展開し、自らを強化するクレヴァニール。天に輝く七つの星の並び。それを自らの身体に打ち込み、身体能力を強化する。みなぎる力を爆発させるように地を蹴って、老人に切りかかる。
「魔導と剣技の複合せし者ぉ! それが魔剣聖ぃぃぃぃぃぃ! とくと味わぇ!」
「爺さん、強いんだろう? やろうぜ」
強化を終えた『強者を求めて』ロンベル・バルバロイト(CL3000550)が指を曲げて挑発するように老人に語りかける。他の幻想種も、イブリース船も、そもそもインディオにも興味はない。強いヤツがそこに居る。ロンベルの興味はただそれだけだった。
「風情あるじゃねぇか。夜の幽霊船なんざ、殺し合うのに十分な場所だ!」
獰猛な笑みを浮かべて老人に挑むロンベル。一撃に渾身の力を込めて攻撃を重ねる。ただ強さを求め、戦い続ける。老人とロンベルは似た形の強者だ。相手の攻撃で傷つき、しかしその痛みさえも高揚剤。ただひたすらに戦い続ける。
「俺があんたの死神だ。その強さと命、俺の糧にさせて貰うぜ」
「あー、ヤダヤダ。あんなおじいちゃん相手にしてらんないって」
ホムンクルスを使って盾にしながら『トリックスター・キラー』クイニィー・アルジェント(CL3000178)は呟く。錬金術で強化しながら、老人の動きを観察していた。どんな相手にも癖やパターンがある。それを見抜いて、仲間に伝達するのだ。
「まあ実際ワンパターンなのよね。でっかい剣なんで隙大きいし。……大きいはずなんだけどなぁ?」
隙あり、次はこう攻める。クイニィーにしてみれば、それは明白だ。そしておおよそその通りに動く。だが、指示した瞬間に『おおよそ』以外の動きを取る。当たり前だ。動きのパターンは決まっていても、実際にどう動くかは『対戦相手』の動きにも影響する。チョキを良く出す人でも、相手がグーを出すかもと分かれば手管を変えるだろう。
「んー。前もって仲間と打ち合わせしてればうまくいけたかな? まあいいや」
「やれやれ、随分元気なご老人だ」
自由騎士相手に丁々発止するのを見て『重縛公』テオドール・ベルヴァルド(CL3000375)はため息をついた。これでも自由騎士は二大国の騎士団を相手取った実力があるのだ。それなのに、後れを取る気配がない。
「さて、船を止めねばな。舵はあそこか」
「おおっと、邪魔すンじゃねぇよ」
舵に向かい魔力を飛ばすテオドールに遠距離から攻撃を仕掛ける老人。
「ご老人。貴卿の邪魔をする訳ではない。私は存分に、全力で、ここに集った猛者たちとやり合う環境を整えているだけ――」
「だったら黙ってみてなぁ。人の船壊そうとするのを正当化すンじゃねぇよ」
確かに老人からすれば『船に押し入って大事な船を壊そうとしている』相手だ。マナーや正当性などあったものではない。
「守ってくださいね、うさぎさん」
『か弱いうさぎさんですよぉ』ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)はウサギ型のホムンクルスを作り出し、身を守ってもらっていた。錬金術でダメージを癒しながら、時折氷の弾丸を放って舵を狙う。
「船が揺れて動きとまるのは怖いです」
ホムンクルスに抱えられる形で船の揺れに耐えているティラミス。時折斬りかかってくる老人の斬撃も合わさって、ホムンクルスはボロボロになっていた。ティラミスはそんなホムンクルスに優しく手をかざし、癒しの術を行使していく。
「もう少し頑張ってください。みんなを助けるために」
「私はイ・ラプセル自由騎士団所属、キース・オーティス」
老人の動きを見て『黒薔薇』キース・オーティス(CL3000664)は唸りをあげる。粗野で荒々しく型(スタイル)のない独自の動き。だがその動きは的確に急所を断つ剣の道の極み。それを見て、キースは名乗りを上げていた。
「見事な剣筋、名のあるお方とお見受けいたしました。お名前をお聞かせ願いたい!」
「名前は、これだぁ!」
返答とばかりに斬りかかってくる老人。その一撃こそが我が名、とばかりの返答だ。その重さを受け取り、キースも刃を返す。老人の剣に生きた道。キースの国への忠誠心。同じ人間の持つ、信念の重さを込めた一撃を。
「私の剣は国への忠義を込めている。軽くとも侮るなよ」
「皆さん、無理をなさらずに……」
激化する戦いを見ながら 『命を繋ぐ巫女』たまき 聖流(CL3000283)は祈るように手を合わせる。癒し手として傷つく仲間がいないか心配であると同時に、癒しのタイミングを誤れば戦況をひっくり返されない状況に焦りを感じていた。
「慌てずに、焦らずに……」
たまきは焦燥感を押さえるように呟き、癒しの魔力を解き放つ。無造作に癒し続ければ魔力が付き、かといって躊躇すればその遅れが致命的になりかねない。戦場全体を冷静に見ながら、たまきは仲間達を癒し続ける。仲間の信頼に応えるように。
「皆さんは私が護ります」
甲板での戦いは少しずつ加速していく――
●船首Ⅱ
船首での戦いは佳境に迫っていた。
「かつて大国に挑んだ勇士達。彼らは未だに戦い続けているのですね」
『常に全力浄化系シスター』アンジェリカ・フォン・ヴァレンタイン(CL3000505)は祈るように手を合わせ、迫る浮遊霊に敬意を表した。彼らの抱く思いはヴィスマルクへの反骨心だ。その精神に敬意を表し、救うために戦い挑む。
「同じ時代を歩んでいたのなら、同士になりえたかもしれません。迷える魂よ、安らかに」
鎮魂の祈り。アンジェリカは心の底から彼らの勇気を褒めたたえ、そして惜しんだ。だが共に歩むのは叶わぬこと。せめて彼らの遺志を引き継ぎ、前に進もう。祈りが弾丸となって浮遊霊達に穿たれていく。
「勇気ある者達よ。正しい道に進み、浄化されんことを」
「もう少しで露払いは終わりそうだネ」」
『ペンスィエーリ・シグレーティ』アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)は状況を見ながら突撃の号令のタイミングを計っていた。浮遊霊と自由騎士達のバランスを計り、遜色ないと判断したら突撃する。そのタイミングを計るのが、軍師としての経験だ。
「相手はイブリース。ボクらが何度も浄化してきた相手だ。少し大きいけど、浄化できることには変わりないから、恐れないでネ」
鼓舞するようにアクアリスが叫ぶ。船という巨大な相手だが、浄化するポイントが分かっているのだから恐れる事はない。回復による支援を絶やすことなく、指示を繰り返すアクアリス。あとは突撃した者達の奮闘を祈るだけだ。
「退路の確保もしないといけないし、ここからが本番だ」
「殿はキリが努めます!」
アクアリスの言葉に胸を張る『戦塵を阻む』キリ・カーレント(CL3000547)。後衛で仲間を守りながら、さらに退却時の殿も務める。楽な立ち位置ではないが、それが自分の役目だと言わんがばかりに微笑んだ。あるいは一つの焦りがあったのかもしれない。
(早くインディオの人達に会いたいのに……! ううん、焦っちゃダメ)
自分の生まれ故郷。その手掛かりを知るかもしれないインディオ達。彼らに会えば何かわかるかもしれない。キリは焦燥に駆られながも、的確に攻撃をさばいていた。ローブを振るって攻撃を受け流し、サーベルで切り流しながらひたすら耐える。
「まだまだ倒れません! キリが皆を守ります!」
「道……開いた、行く……よ」
開いた戦端をまっすぐに進むノーヴェ・キャトル(CL3000638)。浮遊霊達を突っ切って、一気に銀の乙女像に迫る。意志を持つ銀の女神像。その表情は彫刻ゆえに読めないが、迫るノーヴェに怯える雰囲気は伝わってきた。
「戦うの……怖い? 『ザワザワ』したり、『つめたく』……なる?」
ノーヴェは感情を表すとき、心の動きと温度で表現する。動揺し、そして絶望している心の動き。それを彼女なりに言葉にしていた。もしそうなら、そんな想いはしてほしくない。イブリースになったことが原因でそうなったのなら、それは止めなくては。
「怖く、ない……から。すぐに、終わらせる、よ」
「戦争なんて痛いし怖いし苦しいものですからね。早く終わらせるに越したことはないんです」
『ベルなんとかオリジナル』エリシア・ブーランジェ(CL3000661)は言って乙女像の前で胸を張る。そのまま言葉を続けた。
「銀の乙女像さん、良いですわねカッコ良くて綺麗。お名前聞かせて下さいます?」
「……え? あの、その……」
「無いならわたくしがつけますわよー。シルバーレディとかどうかしら?」
「レディとかそんな……あ、レティシアです。Rで始まります」
エリシアの勢いに圧倒されて言葉を紡ぐ乙女像。
「あの、怖くないです? 像が喋ってるんですよ? っていうか敵ですよね、攻撃してますし。ヴィスマルクですよね?」
「敵でも人でなくても、折角会話が出来るんだから会話するのですわ! あとイ・ラプセルです」
「イ……? ああ、あの島国の」
「いい島だよ。できるなら一度立ち寄ってほしい」
乙女像に優しく語りかけるアダム。最前線で相手の攻撃を受け止めながら、乙女像を見ていた。悲しみに暮れる乙女。それをも救いたいとアダムは願っていた。戦う事に恐怖する船を、平和な祖国に導いてあげたい。
「嘆き哀しむ者がいれば誰だろうと救うとも。乙女よ、銀の乙女よ。貴女が哀しむのならば、僕は貴女を救うとも」
言葉は真っ直ぐに。たとえ相手がイブリースであったとしても、そこに悲しむ者がいるなら手を刺し伸ばすのがアダムという騎士だ。何度裏切られても何度傷ついても、それでも『すべて』を救うために戦い続ける。その信念こそがアダムを奮い立たせていた。
「乙女には笑顔が似合っている。その哀しみを消すまで、僕は倒れない」
「流石だね。一曲歌いたくなるぐらいの名シーンだよ」
会話を聞いた『戦場に咲く向日葵』カノン・イスルギ(CL3000025)はうんうんと頷いた。悲しむ乙女像を救おうとする騎士。劇の議題にはぴったりだ。ならば救おう。それが自分の偽善であったとしても、そうしなければ乙女像は悲しみ続けるのだから。
「怖いんだよね。ずっと攻め立てられて。カノン達も同じだから言い訳はしないよ。ただ、この一撃で安らかにしてあげる」
揺れる船の上でバランスをとりながら、重心を一点に収める。大事なのは全身のバランス。正しい姿勢で構え、正しい動作で拳を放つ。基本の型こそ武の奥義。長年続けてきたセンセーの教えのままにカノンは拳を振るう。
「我が魂の音を奏でろ! 神紅!」
「ア、アア、アアアアアアアア――!」
カノンの一撃が乙女像に叩き込まれ、同時にアクアディーネの権能がイブリースを浄化する。
乙女像の哀しみの気配は、海から消え去っていた。
●左舷Ⅱ
「ヴィスマルクに塩を送る形になるが、まあ仕方ない」
ウェルスの言葉に肩をすくめる『国家安寧』ガブリエラ・ジゼル・レストレンジ(CL3000533)。これは交渉に至る前段階。それを得るために一軍投入レベルの戦いになるとは。しかも敵国に利をもたらす結果となるのだ。ガブリエラでなくとも何か言いたくはなる。
「盾兵、前に。お前達の命、しかと預かった!」
兵士に命令して自らを守らせるガブリエラ。未来ある若者を前に立たせることに忸怩たる思いはあるが、これも役割分担。任務を遂行するために割り切って戦いに挑む。展開される魔力を癒しの力に変え、自由騎士達を癒していく。
「この後に待ち構える真の交渉が上手く運ぶように、ここで手を抜く訳には行かんな」
「セーフティ、アンロック! ロザベル、出ます!」
今が好機と判断したロザベル・エヴァンス(CL3000685)が突貫する。ヘルメリア戦役の後に自由騎士に参入した生粋のヘルメリア人。イ・ラプセルに助けられた恩を返すべく、蒸気騎士の鎧をまとって戦いに参加した。
「マーチラビット、射出! 左舷を狙い撃ちます!」
初陣の恐怖に怯えることなく戦うロザベル。まだ幼い少女だが、訓練の結果か恩義を返す気概か。その動きに戸惑いはなかった。歯車の回転する音と蒸気の熱を感じながら、まだまだやれると信じてシーサーペントに挑む。
「まだまだいけます!」
「すげぇすげぇ。こういう戦いを書き記したいもんだ」
巨大な海蛇に挑む騎士達。それを見ながら『ウインドウィーバー』リュエル・ステラ・ギャレイ(CL3000683)は頷いた。戦う事よりも戦いを歌にするのが好きなリュエル。この戦いもいつか歌にする日が来る。そう信じて、目を離さずにいた。
「おおっと、見てばかりもいられないか。人手足りないもんな」
笑みを浮かべて戦場を飛び回るリュエル。船やシーサーペントの身体事態を足場にして縦横無尽に飛び回り、隙を見つけて飛びかかって刃を振るう。間近で見るサーペントの迫力に驚きながらも、これも詩に出来るのではと考えていた。
「陽光を受けて輝く銀蛇……ちがうな、銀に輝くウロコが日を受けて……」
「皆、頑張ってるね……。じゃあ、支援していこうか」
前衛で戦う者達を見ながら『紅の傀儡師』マグノリア・ホワイト(CL3000242)は頷く。イブリース化した幻想種と、それを引き連れるイブリース化した船。彼らがヴィスマルクとどう戦い、敗北したか。気にはなるが今はそれを調べる時間も余裕もない。
「余裕があれば嫌がらせぐらいはしたいけど……さすがに、無理か」
シーサーペントと左舷から飛び交う砲弾。その脅威から仲間を癒しながら、マグノリアはため息をついた。試験管内の紅色の液体に魔力を通し、空気中に散布する。霧となった液体が仲間達に纏わりつき、治癒力を高めていく。
「回復は厚めにしよう。ブレスの毒が、地味に厳しい」
「ヴィスマルクに挑んだ船と幻想種、か」
セーイ・キャトル(CL3000639)はイブリース化したシーサーペントを見て、静かに呟いた。可哀想、と思ったわけではない。依頼の件は無視してもイブリースは倒さなければならない。あれは既に死んだモノだ。それを浄化するのは、正しい。だけど――
「この船の船長は、仲間になった筈のお前達を道ずれに死にに向かっただけだ。ただ、自分の力を示す為と……死ぬなら派手に死にたいってだけで……」
如何に強くともヴィスマルクに挑むのは無謀だし、無理だと判断して引き返すこともできたはずだ。セーイはそれが許せない。無茶な突貫は自殺と同意だ。自分の自殺に意味をつけたいだけの、ただの愚者でしかない。
「それだけのヒトだったなら……英雄なんかじゃない!」
「若いな。悪くはないが冷静になれ。感情で戦うのは危険だぜ」
『パーペチュアル・チェッカー』ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)はシーサーペントを押さえながら言葉を放つ。メインの攻撃対象は左舷だが、幻想種を押さえておくことには意味がある。至近距離で銃を撃ち、ウロコの隙間を的確に射貫く。
「全く、いい商売しているぜ通商連は」
ウェルスは商人として通商連のやり方に苦笑していた。こちらが欲しい顔をしたら、途端に取引を仕掛けてくる。それが互いにとって利益あると判断できるものを用意し、一定の信頼関係を維持する。よくできたものだ。
「トドメは派手にやらせてもらうぜ!」
充分に疲弊したシーサーペントに、巨大な筒を向けるウェルス。蒸気式のロケットランチャーを構え、十分に狙う。安全装置を段階的に外していき、狙いを定めて引き金を引いた。蒸気噴射で飛ぶ火薬を詰め込んだ弾丸が、シーサーペントに着弾し――
「シギャアアアアアアアアアア!」
絶命の咆哮。ウェルスの一撃で完全に沈黙したシーサーペント。
まだ左舷は抵抗を続けるが、自由騎士達の戦力を前に沈黙するのは時間の問題だった。
●右舷Ⅱ
セイレーンの歌が響く海域で、自由騎士達は戦い続ける。
「水夫を遭難させるセイレーンの歌声……。私達はまだ、遭難するわけにはいきません」
『てへぺろ』レオンティーナ・ロマーノ(CL3000583)は宙に浮き、船の揺れから離れた足場を確保して戦っていた。美しい声と詩で魅了するセイレーン。しかし自由騎士達の任務にかける意志と心の強さがあれば迷う事はない。
「無茶された方を無理矢理起こすのは気が引けますが……」
レオンティーナは倒れている仲間を診て、意を決したように魔術を展開する。戦い傷ついて倒れた仲間を無理やり起こすのは気が引ける。だがここで負けるわけにはいかなかった。倒れた仲間の身体を癒し、同時に立ち上がる力を分け与える。
「大丈夫ですか? 無理はしてほしくはないのですが……」
「問題ない。むしろありがとう!」
『たとえ神様ができなくとも』ナバル・ジーロン(CL3000441)は起き上がると同時に指を立て、盾を拾い上げる。ずっしりとした重さが、むしろ安心感を与えてくれた。手になじむ盾を構え、幽霊船に挑む者の盾となる。
「色々思う所はあるけど、幽霊船は許しちゃおけないよな!」
インディオと話をする為の戦い。そんな背景はナバルにとっては些末だ。イブリースが航路を邪魔して、それで困る人がいる。それだけで盾を構えるには十分だった。雄叫びをあげて前に立ち、盾を構えてセイレーンの魔力を受け止める。
「あんたらにも仲間意識はあるんだろうけど、それはこっちも同じなんだ!」
「すまないな。お陰で他の者を癒せそうだ」
ナバルに守られた『水銀を伝えし者』リュリュ・ロジェ(CL3000117)は、水銀を手に魔力を展開する。セイレーンの魔曲から眠りに落ちた者や、意識を刈り取られそうになるものを重点的に癒し、戦線を維持する。
「海で生まれた物のイブリース化、か。……できれば、海に還してやりたいものだ」
ヴィスマルクに逆らって沈没した船と、それに付き添った幻想種。彼らが生前抱いた想いなど、リュリュには想像もできない。だから今自分に出来る事は、生まれ故郷の海に還すことだけだ。いたずらに彷徨わせることではない。
「とはいえ、いうほど容易ではないな」
「ま、じっくり行こうや。どの道そうするしかないんだしな」
頭を掻きながら『キセキの果て』ニコラス・モラル(CL3000453)は頷いた。なんでこんなことになったのやら。当然、事の経緯は理解している。だが改めて思えばいいように利用されている感があるのは否めない。あのヒゲダルマめ、と心の中で悪態をつく。
「全く楽させてほしいよね。世の中なんでこんなに厳しいんだか」
肩をすくめながら魔力を展開するニコラス。戦争という状況下で楽をしようとするのなら、他者を蹴落として不幸を押し付けるしかない。それが出来ないからこうなっているのは理解しているが、それでもそういう道を選べなかった。
「ステラの為なら考えてもいいけど……でもそういう事するとあいつ怒りそうだよなぁ」
「お父さんも大変ね。娘の安全の為なら、許されると思うけど」
ニコラスに同情するように言う天哉熾 ハル(CL3000678)。モラルと言う概念は理解できるが、それでも娘が助かるのならそうすべきというのがハルの考えだ。とはいえ他人に理解されようなどとは思わない。
「それじゃ行きましょうか」
『倭刀・忠兵衛』を構えてハルはセイレーンに迫る。柄を握る手に魔力を集め、刃にらせん状に魔力を展開する。刃を突き出すと同時に魔力が解き放たれ、回転するように進む魔力が敵を貫いていく。魔力の突きは後衛の右舷砲台まで届き、傷跡を残した。
「あら、いい色の血。欲しくなっちゃった」
心臓を突き刺した刀。その刀身を伝うセイレーンの血。それを見てハルは笑みを浮かべていた。刀を抜くと同時に浄化され、倒れるセイレーン。ハルはそれに見向きもせず、刀に残った血を指ですくって、舐めとる。
「ふふ。悪くないわね」
できればもっと欲しい所だが、今はまだ戦いの途中だ。右舷を止めるまでは我慢しなくては。
だが守り手を失った右舷の抵抗も、自由騎士達の猛攻の前では砂上の楼閣だ。一気に攻められ、浄化されるだろう――
●甲板Ⅱ
「派手にやられたなァ。ここまでやられるとは大したもんだ」
イブリース船の損壊を見て、老人が肩をすくめる。
「爺ちゃんヴィスマルク嫌イ。オレ達、ヴィスマルクと戦ウすル。ヤリたい事とヤる事一緒」
戦いの手を止めず、『竜天の属』エイラ・フラナガン(CL3000406)は老人に語りかける。老人もエイラもヴィスマルクに挑むものだ。
「でも、コノ戦イは最後までスる。戦ウは止め無い」
だが、戦う事はやめない。この戦い自体に戦局的な意味はなくとも、個人的な意味はある。それは強さを求める意味でもあり、戦いの果てに何かを得られるという意味でもある。それは戦った者にしかわからない領域だ。
「オレ達勝たラ、爺ちゃんモ一緒戦うスるヴィスマルクと! きっと楽シ。多分!」
「ヤなこった。だいたいオレに勝つゥ? ンな事あるわけねェだろうが!」
返信とばかりにエイラに叩き込まれる剣。にべもない返事だが、エイラにとって重要なのは気持ちのぶつけ合い。エイラの言葉に老人が答えた。その結果は一刀両断だが、そのやり取りが大事だった。
「何故だ」
そんな老人に『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)が問いかける。どうしても納得いかないことがあるからだ。老人の気を引く意味もあるが、なによりもツボミが納得いかないことだ。
「クソ爺。何故貴様こんな所で足踏みしている? ヴィスマルクをマトに決めたんだろうが貴様! だったら何でヴィスマルクを殴り続けんのだ間抜け!」
目的を忘れ、この海域でうろついている老人に向けて叫ぶ。
「ああン? 決まってンだろうが。コイツラと行かねぇと意味がねぇンだよ」
老人は船を指差し、簡素に答える。自分一人でたどり着いても意味がない。共に戦った船や幻想種と一緒じゃないと意味がない、と。例え思い通りに進まない幽霊船でも、見捨てることはできない。
「馬鹿が。そこでそういう我を通すか。貴様一人ならヴィスマルクにたどり着けただろうに」
「カッカッカ! ンなもん当然だろうが。足手まとい全部背負ってこそのオレだ。文句あっか?」
「あるっちゃあるな。爺さんがヴィスマルクをひっかきまわしてくれりゃ、俺らが楽出来たんだしな」
銃を構えて『機神殺し』ザルク・ミステル(CL3000067)が口を開く。一つの国を相手にした復讐。その気持ちはザルクも理解できるし、老人の精神も納得はできる。だからと言ってああなりたいとは思わない。
「敗北者を相手するほど暇じゃなくてな! 悪いがサクッとやらせてもらうぜ!」
この戦いの目的はイブリース船の排除であって、老人ではない。ザルクは老人から目を離すことなく、舵に狙いをつけて弾丸を撃ち放つ。イブリース退治に特化した銀の弾丸。それを撃ち放ち、イブリース船にダメージを重ねていく。
「やべぇ爺さんは任せたぞ!」
「ええ。任されました」
頷く『我戦う、故に我あり』リンネ・スズカ(CL3000361)。これまでは回復に徹していたが、機を見ると同時に一気に距離を詰めて殴りかかる。交差する金属と金属。老人の視線を受け止めながら、リンネは笑みを浮かべる。
「個の力なら誰にも負けないと思ってるんでしょう? その力正面から打ち破って見せましょう」
「はッ、正面から受けてカウンター狙いか。狼は悪知恵が働くぜ」
挑発するリンネにそう返す老人。正々堂々と戦うとは言ってはいないが、あからさまな誘いと露骨な戦術は老人にはあっさり看破される。言葉通り真正面から真っ直ぐに喧嘩を挑んでいれば、何かしらの奇跡は起きたかもしれないが。
「仕方ありませんね。ではこれで――」
「ええ。伝説の剣士が相手なら、不足がないわ」
呼吸を整えながら『緋色の拳』エルシー・スカーレット(CL3000368)は拳を打ち鳴らして戦いに挑む。相手の剣の間合を測りながら、足を止めずに打ち込んでい――
「ほらよ」
「っ!?」
持っていた剣を投擲され、慌てて避けるエルシー。ダメージ目的ではなく不意を突く為のフェイントだ。そのまま素手で飛びかかってくる老人。至近距離ならエルシーの間合だ。数度打ち合い、打撃を放つ。エルシーの拳を受け止めるようにして老人は下がり、落ちていた剣を拾う。
「剣の間合だけ見過ぎだぜ、若ぇの」
「……まさかそんな戦い方をするなんて、予想外だわ」
「ですね。ですがこちらも負けれはいられません」
呼吸を整え『SALVATORIUS』ミルトス・ホワイトカラント(CL3000141)は拳を構える。正に老獪ともいえる相手の動きだが、それでも動きの基本は理解できる。海の上でもぶれない体幹と、そして隙を逃さず攻め立てる躊躇のない攻め。そして何より――
「経験則……なのでしょうかね。こちらの狙いが分かっているみたいですね」
「思いっきり殴ってほしそうな顔してるからな。神の使徒ってのは荒行が好きなのかね」
タイミングを計って相手に打撃を返そうと狙うミルトス。だが相手もそれを分かっているのかミルトスに対しては小技を繰り返す。相手に大技を出させる何かがあれば、或いは誘導できたかもしれない。
(強さへの妄念しかないのだから、こちらも勇猛さとか無謀さを示せば乗ったかもしれませんね。……私の性格では無理なのですが)
「ははあ、おじいさんお見事ですね。リグも手を合わせ……させて? いただきます」
言ってなむなむと手を合わせる『Who are You?』リグ・ティッカ(CL3000556)。黒鉄の手甲と投擲用の針を手に、老人に迫る。闇に紛れる鉤爪を振るい、毒を仕込んだ針を投擲する。
「さすがです。夜でこのかぎ爪を見切られたのは初めてかもです」
「足運びでバレバレなンだよ。武器と自分のバランスを考慮しな」
「おお、歴戦ぽい台詞。感謝します」
ぱちぱちと手を叩くリグ。けっ、と舌打ちする老人の態度をリグは不快には思わなかった。この人にはこの人の人生がある。リグはそれがない。……あったのかもしれないが、思い出せない。
「リグはおじいさんに比べれば薄っぺらいですが、おじいさんの重たい年月のひとかけらでも背負わせて頂きたいものですね」
「背負うだァ?」
「おじいさんのお名前は何ですか? ヴィスマルクに乗り込む折にはあなた方の想いも背負って参りましょう、てことです」
「つまんねぇこと言ってンじゃねぇよ。オレの名前は、コイツだァ!」
容赦なく、リグに叩き込まれる老人の一撃。
「このオレにそんだけ偉いクチ叩いたんだ。この技ぐらい背負って行け」
的確に急所を突き、相手を弱らせる老人の技。リグはその一撃を真正面から受ける。それが覚えられたかどうかは、リグ次第だろう。そしてそれを背負っていけるかどうかも、だ。
「Kiiiiiiiiiiiiiiiiiillllllllllllllllll!」
仲間を傷つけられた怒りか、或いは相手を脅威と思ったか『黒き狂戦士』ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)が絶叫する。宙に浮いて船の揺れから逃れながら、老人に切りかかる。防御など考えない。ただ女神の敵を斬る事のみがナイトオウルの望みだった。
「LeeeeeeeeeeeeeaVeeeeeee!」
「いい感じにトチ狂ったのもいるじゃねぇか。命捨ててかかってくるなンざァ――」
女神の侵攻への狂気。強さを求める狂気。ナイトオウルと老人の剣が交差する。打ち鳴らされる金属音は互いの精神を示すかのように激しくそして耳に残る。雄叫びと横行、そしてけして交差することのない心の在り方のぶつかり合いがそこにあった。
「Godddddddddddesssssssss! Aquadine!!!!!」
「最後まで付きあってやるぜェ! オラァ!」
女神への信仰の為に。多くの信徒を救うために狂うナイトオウル。そこの防御の構えはない。肉を切らせて骨を断つ。己が命を失おうとも、老人を殺せるのならそれでいい。数多の刀傷を受け、同じだけの刀傷を相手に与え、血を流し、痛みが体中に走り、そして――
「もうこの船はもたねェな。だが――付き合ってくれるンだろう、お前は?」
自由騎士達の攻撃により、舵は砕けてもはや航海不可能となった。イブリース化が解け、崩壊していく船の中で老人はナイトオウルを誘うように指を動かす。付き合う理由はない。これ以上戦って、得るものはない。
「Deeeeeeeeeeeeeeeeathhhhhhhhhhhhhh!」
だがナイトオウルは神の敵を野放しにすることは許せなかった。女神の敵を討つ。それのみが己の意味。それのみが己の信仰。それのみが己の狂気。故に神の敵を見逃すことなど許されない。崩壊する船の中、狂える戦士達は戦い続ける――
●
「全員無事か?」
予備戦力として待機していた『装攻機兵』アデル・ハビッツ(CL3000496)は、船の崩壊を機に動き出す。戦闘を終えた自由騎士達を回収し、無事を確認する。
「ナイトオウルも無事を確認できた。船の残骸に引っかかっていたようだ」
「あの老人は見当たらないな。……まあ、生きてはいないだろう」
船の残骸が散らばった海域で見つかったのはナイトオウルのみだった。敵である老人を無理に探す理由もない。今は仲間の無事を確認し、帰路につく。幽霊船を倒すという目的は達したのだ。
通商連は自由騎士達の戦果を聞いて、流石ですと頷くと同時にインディオへの交渉権を約束する。
動き始めるパノプティコン戦略。その第一歩が刻まれた――
†シナリオ結果†
成功
†詳細†
MVP
軽傷
称号付与
『海蛇を討ちし者』
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『銀乙女を救いし拳』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『魔曲を裂いた刃』
取得者: 天哉熾 ハル(CL3000678)
『狂気を断つ狂気』
取得者: ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)
『サクセサー・オブ・タフ・エッジ』
取得者: リグ・ティッカ(CL3000556)
取得者: ウェルス ライヒトゥーム(CL3000033)
『銀乙女を救いし拳』
取得者: カノン・イスルギ(CL3000025)
『魔曲を裂いた刃』
取得者: 天哉熾 ハル(CL3000678)
『狂気を断つ狂気』
取得者: ナイトオウル・アラウンド(CL3000395)
『サクセサー・オブ・タフ・エッジ』
取得者: リグ・ティッカ(CL3000556)
†あとがき†
どくどくです。
二面攻略パノプティコン編、その準備段階の準備……になるのか、これ。ともあれお疲れさまでした。
女神像、シーサーペント、セイレーンは無事浄化されました。しばらくすれば、ショップに武器が並ぶでしょう。
インディオとの交渉シナリオはすぐにお届けします。何を話し、何を伝えたいか。この作戦のキモとなりますので、ゆっくり考えてください。
それではまた、イ・ラプセルで。
===============
スキルラーニング!
取得スキル:骨砕き
取得者:リグ・ティッカ(CL3000556)
二面攻略パノプティコン編、その準備段階の準備……になるのか、これ。ともあれお疲れさまでした。
女神像、シーサーペント、セイレーンは無事浄化されました。しばらくすれば、ショップに武器が並ぶでしょう。
インディオとの交渉シナリオはすぐにお届けします。何を話し、何を伝えたいか。この作戦のキモとなりますので、ゆっくり考えてください。
それではまた、イ・ラプセルで。
===============
スキルラーニング!
取得スキル:骨砕き
取得者:リグ・ティッカ(CL3000556)
FL送付済