MagiaSteam
Bat! ヘリダ村を襲った悲劇!



●ヘリダ村
 黒の翼を広げ、そのケモノは夜空を舞う。
 突如現れた災厄に対応する時間もなく、血の惨劇が始まった。
 イブリース。幽霊列車(ゲシュペント)の影響により生まれし存在。イブリース化したものは元々の生物とは異なる存在となる。身体能力を増して凶暴性を露にし、あたりの者に襲い掛かるのだ。
 宙を舞うイブリースに戸惑う農家の人達。鍬や鋤は届かない。石を投げても当たらない。山で狩りをしている猟師の銃なら何とか当たるが、イブリース化した存在にはかすり傷程度。戦いの専門家を呼びに行く間に被害は広がっていく。
 一夜にしてその村の半数が重傷を負い、家畜類はほぼ死滅したという。

●階差演算室
「というのが今回諸君らに解決してほしい事件である」
 集まった自由騎士の面々を見て、『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003) は厳かに告げる。羊皮紙にはこれから起きるであろう事件の詳細が書かれてあった。イ・ラプセルの首都『サンクディゼール』から馬で半日かかるヘリダという村で起こる事件のことを。
 そう。この事件はまだ起きていない事件。イ・ラプセルの神、アクアディーネの神造兵器『水鏡階差演算装置』によりこれから起きるであろう未来を予知したことなのだ。
「村の近くにある洞窟に住んでいるコウモリがイブリース化した。コウモリは村を襲い、村人や家畜の血を吸っていく。これによりヘリダは壊滅的な状況に陥るのである」
 ヘリダ村の生活は羊によって成り立っている。刈った毛や羊肉を売ったりというのが彼らの収入源だ。それがなくなれば、生活が出来なくなる。
「諸君らにはコウモリが洞窟から出る前に退治してもらいたい。洞窟内ならコウモリも自由に飛ぶことが出来ず、行動は制限される。外に出してしまえば追うのは難しいと思ってくれ」
 急げば夕方ぐらいにその洞窟にたどり着けるという。馬車の用意はしてあるので、洞窟までは何の心配もなくいける。村人もラプセル王が発足した自由騎士の存在は知っているため、歓迎してくれるだろう。
「アクアディーネ様の祝福を受けた諸君らはイブリースを『浄化』できる。イブリース化が解けたコウモリは、普通のコウモリだ。特に殺す必要はない」
『浄化』――アクアディーネの祝福を受けたオラクルは、悪徳に侵された者を戦闘不能にすることで、その悪徳を祓う力を持っている。イブリース化した生物を倒すことで、殺すことなく元の生物に戻せるのだ。
「諸君らの健闘を祈っている」
 クラウスの激励を受けながら、貴方達は演算室を出た。



†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
通常シナリオ
シナリオカテゴリー
魔物討伐
担当ST
どくどく
■成功条件
1.イブリースを洞窟内ですべて倒す
 どくどくです。
 チスイコウモリは地面を歩きます。

●敵情報
・コウモリ(×4)
 イブリース化したチスイコウモリです。大きさは1mほど。翼で空を飛ぶことはできますが、洞窟内の天井は低いため、飛行してオラクルを飛び越えることはできません。
 言葉は通じず獰猛です。

 攻撃方法
チスイ  攻近単 噛みついて血を吸います。【ウィーク1】
体当たり 攻近単 体当たりしてきます。

●場所情報
 ヘリダ村近くにある洞窟。洞窟内までは何の問題もなくいけます。光源(ランタン)は用意してくれます。広さや足場は戦闘に影響しません。ですが天井が低いため、『飛行』状態にはなれません。
 戦闘開始時、敵前衛に『コウモリ(×4)』がいます。上手く行動できれば、不意打ちができるかもしれません。
 急いでいるため、事前付与などは不可とします。

★戦闘の役割分担
 マギアスチームの戦闘において、PCや敵NPCは『前衛』『後衛』に分かれて行動します。それぞれに意味がありますので、ご相談の上で自分がどの場所にいるかをプレイングに記入してください。

・前衛
 敵の前に立つ役割です。直接的の攻撃を受けることが多いため、HPや防御力高めのキャラがおすすめです。また、後衛からは敵に近接攻撃が届かないため、近接攻撃しか攻撃手段がないキャラもこちらになります。
 前衛に立つキャラは敵の前衛を『ブロック』できます。敵の数が『ブロック』する数を上回っていた場合、敵は前衛を通過して後衛に接敵して近接攻撃を行うことが可能になります。その為、一定数(最低限敵の前衛数)は前衛を置くことをお勧めします。

・後衛
 前衛の後ろから攻撃、補助、回復をする役割です。後衛からは敵に近接攻撃が届かないため、攻撃を行うなら遠距離攻撃手段を持っておきましょう。

 フラグメントの使用
 プレイング送信時にフラグメント使用を宣言することで、HPが0になった時に『確定で』ドラマ復活(前バッドステータス回復。HPが30%状態、MPは現行の値にプラス30%)を行うことが出来ます。
 宣言してHPが0にならなかった場合はフラグメントは消費されないため、とりあえず宣言をしておくのも悪くありません。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬マテリア
6個  2個  2個  2個
25モル 
参加費
100LP [予約時+50LP]
相談日数
7日
参加人数
8/8
公開日
2018年06月10日

†メイン参加者 8人†




 ヘリダ村に向かう道中、自由騎士達は初の任務にそれぞれ緊張していた。
「ちゃんと浄化出来るかなぁ? 頑張るねぇ! ……キリッ!」
 嬉しそうな顔で『ちみっこマーチャント』ナナン・皐月(CL3000240)は拳を胸の前で握る。首都から離れて田舎に向かう風景に心を奪われそうになるが、今回の目的を思い出して顔を引き締める。
「こ、コウモリ以外には何も出ぬじゃろな! そのーなんじゃ、ゴースト……的なサムシング!? とか!?」
 何処か落ち着かない様子で『イ・ラプセル自由騎士団』シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)は周りに問いかける。水鏡にそのようなサムシングは見当たらなかったのでいないだろうが、もしかしたらいるかもしれない。そう思うと居てもたってもいられなかった。
「幽霊は治せんからなぁ」
 何せ触れれんし、と『咲かぬ橘』非時香・ツボミ(CL3000086)はため息を吐く。死んだ者は医者の領分ではないと切って捨てる。ツボミはある意味現実的な医者だった。今考えないといけないことは幽霊ではない。イブリースの事だ。
「コウモリは食べられないからなぁ……」
 コウモリの食べられそうな部分を想像しながらグリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)はため息を吐く。孤児院の子供達に美味しいものを食べさせてあげたい。そんな兄貴気質の心が表に出ていた。
「グリ、この報酬を孤児院に回せば、チーズ、買える」
 たどたどしく『春雷』イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)がグリッツの手を掴む。グリッツとイーイーは同じ孤児院の出身だ。血のつながらない兄弟。しかしその絆は血の繫がりよりも固いと二人は信じている。
「しかしコウモリか。ふわもこであれば愛でるというのに」
 ウィルフレッド・オーランド(CL3000062)の言葉に皆がぎょっとする。二メートルを超す筋肉質の巨躯。縦に傷が入った強面のウィルフレッドの口からそのような言葉が出るなんて。人は見かけによらないということか。自由騎士達は深く納得した。
(騎士なんて柄じゃねえがまあ、やるだけやるさ。これで食えるかぎりわな)
 無言で溜息をつく『エイビアリー』柊・オルステッド(CL3000152)。アウトローのオルステッドからすれば、国の言うことを聞いて戦う騎士という立場は好きではない。だが生きていくためには仕方ないと割り切っていた。
「皆様、見えてきましたわよ」
『皐月に舞うパステルの華』ピア・フェン・フォーレン(CL3000044)の指さす先に、煙突の煙があった。おそらくあそこがヘリダ村なのだろう。てきぱきと馬車の荷物を片付け始めるピア。いち早い整理整頓はメイドとしての職業精神なのだろう。
 ヘリダ村に着いた自由騎士達は、さっそく村人に水鏡の件を報告し、家から出ないように通達する。その後に洞窟に向かった。
 ランタンに火を灯し、自由騎士達はイブリースがいる洞窟に足を踏み入れる。


 洞窟に入ったオラクルは、先ず洞窟内部を確認する。ランタンの火をけして闇を見る目を持つイーイーが先行し、ピアがその後をついていく。
(ここ、横穴、ある)
 声を出さずに決められた合図でイーイーが指示をする。数名が身をひそめるには十分な空間だ。ピアは動物化してそこに身を潜め、イーイーはその事を伝えるために入り口で待機するオラクルたちと合流した。
「こちらに美味い肉があるぞー。めぇーめぇー!」
「~♪」
 待機していたオラクルはランタンをつけて洞窟内を進む。錬金術師達が作ったホムンクルスも明かりを掲げ、道を照らした。そしてわざと大声を出してコウモリの気を引くようにしながら進んでいく。
 オラクルたちの耳にコウモリの羽ばたき音が聞こえてくる。それに呼応するように自由騎士達もそれぞれのマキナ=ギアを構えた。武器と装備を取り出し、襲撃に備える。
「軽戦士の真の力、見せるときがきたようだな」
 オルステッドはレイピアを構え、戦闘に思考をシフトする。精神の移行と同時に肉体も戦闘に移行する。細胞レベルで体が活性化し、伝達速度が増していく。速く、速く、速く!
 活性化した肉体が叫ぶように熱が増していく。
 手にした武器を構え、真っ直ぐにイブリースに向かって突き進むオルステッド。攻撃に無駄な動きは必要ない。無駄のない動きを高速で突き立てる。ただそれだけだ。攻撃の間合にはいると同時にレイピアを突き刺し、コウモリの羽根に穴をあける。
「外には出さないぜ。ここで倒させてもらう」
「行きますよ! フォーレン家のメイドの力、みせてあげます!」
 隠れていた洞窟から迫るピア。動物化を解除して一気に迫り、背後からコウモリに襲いかかった。完全な不意打ちだったこともあり、回避の余地すらなくピアの刃はイブリース化したコウモリを貫いた。だが、まだ息がある。
 ピアは銃剣を引き抜き、回転させるようにして血を払う。不意打ちは疾風迅雷であるからこそ意味がある。その意味でピアはうってつけだった。加速した身体はコウモリに反撃の隙さえ与えない。横に払った一閃がコウモリを完全に地に伏す。
「お粗末さまでした」
「天井が低くて助かるよ。お陰で狙い撃てそうだ」
 腰を下ろして体を安定させるようにしながらグリッツが呟く。手にしたライフルの重さと、その反動に耐える構えだ。撃つ、という感覚にはいまだ慣れない。訓練とは違い実際に傷つけるという行為にいまだ慣れずにいた。
 それでも、と水鏡で見た未来を思い出しだすグリッツ。ここで撃たなければヘリダ村は惨劇に見舞われる。その未来を阻止するために、引き金を引いた。乾いた火薬音と共にコウモリが揺れる。耳朶に響くコウモリの悲鳴。
「アクアディーネ様の権能で不殺があるとはいえ、いい気分にはなれないなぁ……」
「グリ、無視しなくて、いい」
 親友を心配するようにイーイーが言葉を放つ。同じ孤児院で育った仲だ。この戦いで何を感じているかは解っている。前に立つのは自分の役割だ、とばかりに剣を構えてコウモリの前に立ちはだかる。
 細く栄養が足りていない風体のイーイーだが、内に秘めた力は大きい。オニヒトの身体能力を生かし、フランベルジュを振りかぶった。雄叫びと共に振るわれる一閃がイブリースを薙ぎ払う。確かな手ごたえが剣の柄を通じて伝わってきた。
「コウモリ、元に戻す。村のみんなが、無事にぐっすり眠れるように」
「ナナンもがんばるよぉ!」
 ニコニコしながらナナンが剣を振り上げる。失敗すれば悲劇が生まれることは知っているが、それよりもみんなと一緒に戦えることが嬉しかった。洞窟探検という非日常や一緒に戦う協力感。それがナナンを笑顔にしていた。
 顔こそ笑顔だが、決して気が抜けているわけではない。むしろ余計な緊張がなく、効率的にナナンはイブリースと戦っていた。インパクトの瞬間に力を込め、重い一撃でイブリースを打ち払う。剛力ともいえる一打が戦場で荒れ狂っていた。
「どんどん行くよぉ! それぇ!」
「突出するのはいいが、傷は自己申請せいよ貴様ら!」
 攻めるオラクルたちを嗜めるようにツボミが叫ぶ。回復役として立ち回るツボミからすれば、ダメージの情報はある方がいい。傷具合は見ればなんとなくわかるが、それでも申請してくれる方が助かるのは事実だ。
 イブリースの状態をスキャンするツボミ。敵の情報が事前に分かれば、それに合わせて動きを調整する。階差演算装置の情報も確かだが、現場の情報を怠っては意味がない。得た情報を頭の中で整理し、皆に告げる。
「攻撃方法は演算室で聞いたのとほぼ同じじゃな。傾向として血の気の多そうな奴を狙うようじゃ」
「ならばワシは狙われにくいということか。囮役としては残念無念」
 体の半分をキジン化したシノピリカがため息を吐く。血液が通わない金属の肉体。そうなってしまった経緯に後悔はないが、こういう時は残念に思う。誰かのために尽くすこと。それが騎士の務めなのだから。
 換装した義手を構え、腰を下ろすシノピリカ。機械の身体から発せられる熱が洞窟内に広がっていく。ギシ、と金属同士が擦れ合う音と同時に義手を突き出す。真っ直ぐに突き出される鉄の拳が、飛び交うコウモリに叩き込まれた。
「ならばこちらで貢献しよう。CRAYFISH、イグニション!」
「このまま攻めきれればよし、だな」
 戦況を見ながらウィルフレッドが呟く。不意打ちからの攻めは予想以上に早くイブリースにダメージを与えていた。だが油断はできない。イブリース化して力を増したコウモリの凶暴性は高い。油断すれば何名か倒れ、囲みを突破されかねない。
 そうならないように、と磨導医学の術を行使するウィルフレッド。『Magia・Formula』を手に、周囲の魔力を自らの手元に集めた。無色の魔力を癒しの力に変え、細かい粒子に変えて散布する。細かな魔力がオラクルたちを癒していく。
「万全の準備をしても戦況をひっくり返されることがある。それが戦場だ」
 そう言った世界で生きてきたウィルフレッドは油断することなく仲間に告げる。勿論、自由騎士達も油断するつもりはない。己の役割を果たし、イブリース殲滅に力を注ぐ。
 洞窟内の闘いは、少しずつ加速していく。


 初手の不意打ちもあり、自由騎士達の勢いはまさに破竹と言ってもいい。元々が動物だったこともあり、イブリースは戦局を立て直す余裕もなく攻勢に出ていた。破れかぶれの戦法だが、その身体能力は侮れない。
「まだ倒れるわけにはいきませんわ」
「いててて……! やりやがったな」
 コウモリに噛み付かれたピアとオルステッドがその痛みで意識を飛ばしそうになる。英雄の欠片を燃やし、なんとか意識を保っていた。
 他の仲間も傷ついているが、外に出してしまえばこちら側が不利になる。そうならないように自由騎士達はイブリースを封鎖し、攻撃を加えていた。
「ちょっと痛いけど、我慢してね? なのだ!」
 見た目のかわいらしさに似合わない一撃がナナンから放たれる。勢いよく振り下ろされたツヴァイハンダーがイブリースの意識を断つ。アクアディーネの権能で命を奪うことなくイブリース化を解除し、ナナンは笑顔を浮かべた。
「流石に凶暴だな。休む暇がない」
 忙しさに深く息を吐くウィルフレッド。戦闘開始から回復術を行使し続けているため、気力がつきそうになる。だが手を止めるわけにはいかない。回復を止めれば前衛が崩壊する。イブリースの数が減るまでは手を止めるわけにはいかない。
「逃げるつもりはないか。ならば全力で叩くのみ!」
 イブリースが意地でも外に出ようとするのを見て、シノピリカは鋼鉄の拳を握る。勿論逃がすつもりは毛頭ないが、外に出るというのならここで潰さなくては意味がない。村の惨劇を防ぐために、騎士はここにいるのだから。
「眠い……けど、頑張る」
 暗い所にいるせいか、それとも血を流し過ぎたか。イーイーは朦朧とする意識を何とか保ち、武器を振るう。村には自分と同じ年の子供もいる。それを孤児にさせるわけにはいかない。柄を握る力は強く、そして強い一撃をイブリースに放つ。
「狙い……撃つ!」
 ライフルを構えるグリッツ。筋肉で押さえ込むのではなく、義手の硬い部分で固定する。大事なのは相手の動きを予測すること。この一発一発が勝敗の天秤を左右する。それを意識しながらグリッツは引き金を引いた。
「初めての依頼だってのに、みんな手際良いな」
 アウトローのオルステッドは自由騎士の連携に半ば驚いていた。生まれも思想も違う連中がこうもまとまるとは。負けてられないとばかりにレイピアを振るい、イブリースに斬りかかる。自由騎士ここにあり、というのを見せつけるように速度を上げていく。
「生きてるな。よし生きてるなら傷具合を報告しろ! っていうか死んだら喋るな!」
 ツボミが仲間の傷具体を確認するように問いかける。癒し手は戦場では忙しく動く。ツボミもその例に変わらず目まぐるしく動いていた。二秒後の未来を予測しながら魔力を練り上げる。予測が外れても、無駄にならないように先の先まで読み上げて。
「逃がしません!」
 イブリースを背後から攻めるピア。銃剣を手に踊るようにイブリースを切り刻んでいた。動き度に頭の白兎の耳が揺れる。可憐に飛び回る姿は、正にウサギのよう。そしてその度にイブリースが傷ついていく。
 オラクルたちの攻撃を前に、少しずつその数を減らしていくイブリース。そうなれば自由騎士達が受ける傷も、少しずつ減ってくる。
「これで終わりだよっ!」
 最後のイブリースに迫るナナンの刃。轟、と唸る大剣がコウモリに叩きつけられる。
「いえーい、勝ったぁ!」
 ナナンの勝利宣言が洞窟内に大きく響いた。


 戦いがを終わって、傷具合を確認するオルステッドとツボミ。幸いにして大怪我を負った者はなく、痛みを我慢すれば自分で村に戻れる程度の怪我で済んだ。
 村に戻った自由騎士達は、村人達に迎え入れられる。イブリース退治に成功したことを告げると、歓声と感謝の言葉が自由騎士達に送られた。
「ありがとうございます!」
「イブリースに羊を食われれば、我々の生活はどうなっていたか!」
「ねえねえ騎士様、おキズいたくない? おばあちゃんのやくそう、あげるね」
 様々な形の感謝の言葉。村の平和を守った実感が自由騎士達の心を満たしていく。
「この程度、当然の事。自由騎士団は諸君の困り事の解決に尽力するのである!」
 胸を叩いて、活躍をアピールするオルステッド。その宣言に村人達は再度沸き立ち、自由騎士達を称える。様々な種族で構成されたオラクルの騎士団。最初は不安の声もあったが、それを払拭するかのような活躍が広がりつつあった。
「羊……もこもこ……犬や猫とは違う毛並み……」
 オルステッドは羊の毛並みを撫でながら、その感触にうっとりとしていた。犬や猫のようなサラサラの毛並みとは違い、弾力のあるもこもこした毛並み。戦い終わった今だからこそ、心おきなくその感触を味わっていた。
「あー、その別に全然お礼とか欲しくないんじゃけどー、ただそのなんじゃ、折角じゃからのう……な?
 ええい、お金は出す! 羊肉料理が食べたーい!」
 戦闘の疲労と食欲に負けたシノピリカが財布を広げて、羊肉を買おうとする。一瞬驚いた村人達だが、お礼とばかりに宴を用意してくれていた。採れたての羊肉料理もそこで披露するとのことだ。
「ではあたしも料理を手伝いますね。ハーブもよいものがあるみたいですし」
 家事と言えばメイド、と言いたげにピアが調理を買って出る。村人に調理方法を聞き、ふむふむと頷きながら調理を開始する。初めての調理場だが戸惑うことなく慣れた手つきで包丁を振るい、羊肉を調理していく。
 内臓で野菜などを包んで煮込んだ物や、小麦粉で生地を作って肉を包み油で揚げた物。骨を煮込んだスープや、小腸や大腸を串刺しにして炭火で焼いた物。単純に羊肉を焼いたり煮込んだりした物など、羊の全ての部分を利用した料理が出る宴となった。
「孤児院の子に、これ、食べさせたい」
「ああ、でしたらそちらに向かったときに羊肉をお届けさせていただきますね」
「やったー!」
 イーイーとグリッツは宴で出された羊肉料理を食べながら、孤児院のことを思っていた。この肉を皆に食べさせてあげたい。村の人はそれを聞いて孤児院に届けることを約束してくれた。その優しさに喜ぶ二人。料理の仕方も教えてもらったので、宴の再現も可能だろう。
「うん! 楽しい冒険だった!」
 ナナンは満面の笑みを浮かべ、羊料理を食べる。闇の中を進むドキドキの洞窟探検から始まり、協力してのイブリース退治。そして最後はお祭り騒ぎ。初めての依頼でどうなるかはわからなかったが、終わってしまえば楽しい事ばかりだった。
 お土産にと羊肉の燻製ももらい、自由騎士達は帰路につく。
 平和な村を守ったという事実。その笑顔。それこそが彼らの得た最大の報酬だった。

 ――それから数日後。
「解剖に一匹、経過観察に三匹か。十分な数だな」
 ツボミは持ち帰ったコウモリを使い、検証に勤しんでいた。イブリース化したことによる影響と、その研究だ。
「浄化によって悪魔化が可逆となるなら、或いは治療にすら使えるやも……。情報を集め、事例を揃え、確認を積み、試行を重ね……。
 問題ない。医学の発展に犠牲はつきものだ」
 ツボミの検証は続く――


†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『羊肉の燻製』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:全員

†あとがき†

どくどくです。
 マギアスティーム初の依頼は如何だったでしょうか?
 グランドオープニングは依頼っていうよりはイベントっぽいので、まあ。

 イブリースは無事退治し、ヘリダ村は無事救われました。
 STの予想以上に自由騎士側の被害も少なく、驚きです。不意打ち可能と書きましたが、隙のない動きでした。
 そんなわけでMVPは不意打ちの流れを指示した非時香様に。

 自由騎士団の活動はまだこれからです。この先、皆様がどういった活躍をするのか期待しながら、筆をおきます。

 それではまた、イ・ラプセルで。 
FL送付済